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特許6989913レーザー焼灼術用光ファイバーとそれを用いた医療機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】レーザー焼灼術用光ファイバーとそれを用いた医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/22 20060101AFI20220104BHJP
   A61B 8/14 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A61B18/22
A61B8/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017203987
(22)【出願日】2017-10-20
(65)【公開番号】P2019076247
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-07-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医工連携事業化推進事業「低侵襲かつ安全性を高めた改良型国産下肢静脈瘤治療用レーザ装置の開発・事業化」委託研究開発、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】592042543
【氏名又は名称】株式会社ユニタック
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一哲
(72)【発明者】
【氏名】末田 泰二郎
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信也
【審査官】家辺 信太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-152644(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0179486(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/22
A61B 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、
この芯材の外周囲に配設され前記芯材よりも屈折率の低い第1の被覆材と、
この第1の被覆材の外周囲に配設される第2の被覆材と、
この第2の被覆材の先端部に前記芯材の先端部及び前記第1の被覆材の先端部を覆うように設けられた第3の被覆材と、を有し、人体内部でレーザー焼灼を施術するために用いられる光ファイバーであって、
前記芯材の先端部は、レーザー光を出射可能に前記第1の被覆材先端部から突出し、
前記レーザー焼灼の施術の際に前記レーザー光が出射される前記芯材の先端部の位置を確認するために用いられる超音波を反射する前記第1の被覆材の外表面は、前記芯材の先端部の位置よりも基端側に近い軸方向位置にが形成されていることを特徴とするレーザー焼灼術用光ファイバー。
【請求項2】
前記は、前記第1の被覆材の外表面に代えて又は加えて、前記第1の被覆材の内表面に形成されていることを特徴とする請求項1記載のレーザー焼灼術用光ファイバー。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載のレーザー焼灼術用光ファイバーと、このレーザー焼灼術用光ファイバーの基端に接続され、レーザー発振器と、レーザー出力調整器とを備えるレーザー発生装置と、を有することを特徴とするレーザー焼灼医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静脈瘤が発生した静脈にレーザー光を照射して焼灼することで静脈を塞ぐ治療を行うための光ファイバーとそれを用いた医療機器に係り、特に、施術時に光ファイバーの位置探査に用いられる超音波診断装置に対して視認性の高い光ファイバーとそれを用いた医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下肢静脈などの静脈には弁不全によって血液が逆流し血管が膨れてコブのように見える静脈瘤が発生することがあり、見た目が悪くむくみやだるさの原因にもなることから、例えばこの静脈瘤を静脈ごと引き抜くことで治療するストリッピング法や静脈の中に硬化剤を注入して静脈を閉塞させてしまう硬化療法等の治療法が採用されてきた。しかしながら、ストリッピング法では、手術を通じて患者の身体への負担が大きく、手術後の痛みや出血なども見られ、硬化療法では手術が不要で短時間で治療が終了するので患者の身体への負担は軽いものの、再発率が高い等の欠点があることから、近年ではレーザー光を用いた焼灼術が実施されるようになってきた。
【0003】
具体的に図5を参照しながらレーザー光を用いた焼灼術に係る従来技術について説明する。
図5の(a)は従来のレーザー焼灼術用光ファイバーの外形に関する概念図、(b)はその内部構造に関する概念図である。
図5(a)及び(b)において、レーザー焼灼術用光ファイバー31は芯材としてのコア34の周囲を第1の被覆材としてクラッド35で被覆されており、クラッド35の外周をさらにジャケット33で被覆されて構成されている。レーザー光はコア34を光路として伝播するが、その際クラッド35がコア34よりも屈折率が低いため、コア34からクラッド35へレーザー光が到達すると臨界角よりも大きな角度であれば全反射され、コア34からクラッド35へ漏洩することなく伝播することになる。
また、レーザー焼灼術用光ファイバー31の先端は第2の被覆材としてのキャップ32で覆われており、そのキャップ32の内部でコア34が露出し、コア先端部34aを形成し、そのコア先端部34aからレーザー焼灼術用光ファイバー31の軸方向及び周方向にそれぞれレーザー光36a及びレーザー光36bが出射されている。日本国内ではレーザー光36a,36bとして980nmあるいは1470nmの波長のものが用いられている。
【0004】
下肢静脈瘤の焼灼術では、このようなレーザー焼灼術用光ファイバー31をキャップ32側から静脈の下流側に挿入し、患部に到達後、コア先端部34aからレーザー光を照射して、発生する熱によって静脈の内壁を焼灼して閉じていく。これを静脈の下流側に後戻りしながら続けて静脈を閉じていくのである。
このような技術については既に特許出願もされており、たとえば、特許文献1には、「腔内レーザー切除装置および静脈治療方法」という名称で、静脈不全の安全で効率的な低パワー密度での腔内治療のための方法及び装置に関する発明が開示されている。
このように構成された腔内レーザー切除装置によれば、患者に対して低侵襲で相対的に速く、安全で効果的かつ確実な治療を提供することができる。
【0005】
一方、病気の診断や病変の拡大の程度を調査するために実施される臨床検査として、生体組織診断が知られている。この生体組織診断では、病変部位の組織を採取し、それを顕微鏡で観察するものであるが、生体組織の採取には一般的にバイオプシー針という尖鋭な針を内臓に指して実施される。
このようなバイオプシー針を用いた生体組織の採取の際には、超音波による画像を得ながら、経皮的に挿入されたバイオプシー針の先端の針カニューレが周囲の組織に損傷を与えることなく適正な箇所の組織検体が採取されるように実施されるのが一般的である。
したがって、医師や医療技師は、超音波画像における針カニューレの位置を観察しながら慎重にバイオプシー針を操作する必要があるため、バイオプシー針の先端の針カニューレが超音波画像で鮮明に表示される必要もある。
そこで、特許文献2には、「超音波画像診断用医療器具」という名称で、針カニューレに沿った軸方向の離間した位置に一又は複数の超音波反射器を備えることを特徴とする発明が開示されている。
このように構成された超音波画像診断用医療器具によれば、針カニューレの軸方向に沿って超音波の反射率を効果的に増大し、超音波の反射不足を解消し、観察者の視認性を向上させることができる。
【0006】
また、特許文献3には、「超音波ガイド穿刺針及び留置針」という名称で、外周面に超音波を反射させる溝部を設けた発明が開示されている。
この超音波ガイド穿刺針によれば、溝部によって超音波を効果的に反射し、穿刺針の体内における位置を確実かつ高精度に確認することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2011-512965号公報
【文献】特開平6-327671号公報
【文献】特開2011-125632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、レーザー焼灼術中にレーザーが射出される表面の位置に関する視認性が不足する可能性があり、特に身体の深部におけるレーザー焼灼術中では施術の精度が劣化してしまう可能性があるという課題があった。
また、特許文献2及び特許文献3に開示された発明では、いずれも金属製の穿刺針であり、細い光ファイバーを用いたレーザー焼灼術とは用途も原理も全く異なるもので用いることができないという課題があった。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、焼灼施術中に光ファイバーの位置探査に用いられる超音波診断装置に対して視認性の高いレーザー焼灼術用光ファイバーとそれを用いた医療機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、第1の発明に係るレーザー焼灼術用光ファイバーは、芯材と、この芯材の外周囲に配設され前記芯材よりも屈折率の低い第1の被覆材と、この第1の被覆材の外周囲に配設される第2の被覆材と、この第2の被覆材の先端部に前記芯材及び前記第1の被覆材の先端部を覆うように設けられた第3の被覆材と、を有し、人体内部でレーザー焼灼を施術するために用いられる光ファイバーであって、前記芯材は、レーザー光を出射可能に前記第1の被覆材から先端部を露出し、前記レーザー焼灼の施術の際に前記レーザー光が出射される前記芯材の先端部の位置を確認するために用いられる超音波を反射する前記第1の被覆材の外表面又は第3の被覆材の外表面は、前記芯材の先端部の位置よりも基端側に近い軸方向位置に凹部が形成されていることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第1の被覆材の外表面又は第3の被覆材の外表面で芯材の先端部の位置よりも基端側に近い軸方向位置に形成された凹部が超音波を反射するように作用する。また、この凹部は芯材の先端部よりも基端側に近い軸方向に存在しているため、芯材の先端部からのレーザー光の出射を妨げることがなくレーザー焼灼術の施術に悪影響を与えることがない。
【0011】
さらに、第2の発明に係るレーザー焼灼術用光ファイバーは、第1の発明において、前記凹部は、前記第1の被覆材の外表面又は第3の被覆材の外表面に代えて又は加えて、前記第1の被覆材の内表面に形成されていることを特徴とする。
このような構成の発明においても、第1の発明と同様の作用を有する。
【0012】
そして、第3の発明の発明に係るレーザー焼灼術用光ファイバーは、第1又は第2の発明において、前記凹部は、溝であることを特徴とする。
このような構成の発明においては、凹部が溝として連続するので凹部が形成される表面における単位面積当たりの超音波の反射効率を高める作用を有する。
【0013】
そして、第4の発明に係るレーザー焼灼術医療機器は、第1乃至第3のいずれかの発明に係るレーザー焼灼用光ファイバーと、このレーザー焼灼術用光ファイバーの基端に接続され、レーザー発振器と、レーザー出力調整器とを備えるレーザー発生装置と、を有することを特徴とする。
このような構成の発明においては、レーザー焼灼術用光ファイバーが第1乃至第4のいずれかの発明と同様に作用し、レーザー発振器がレーザー光を出射し、レーザー出力調整器がレーザー光の出力を制御するように作用する。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明に係るレーザー焼灼術用光ファイバーによれば、レーザー焼灼術の施術中に、凹部が芯材の先端部からのレーザー光の出射を妨げることなく、超音波診断装置から発せられる超音波を効率的に反射し、レーザー焼灼術用光ファイバーの位置に対する視認性を向上させることが可能である。
【0015】
第2の発明に係るレーザー焼灼術用光ファイバーによれば、第1の発明の効果と同様の効果を発揮することができる。
【0016】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、凹部が形成される表面における単位面積当たりの超音波の反射効率を高めるので、より高い視認性を発揮することができる。
【0017】
第4の発明によれば、第1乃至第3のいずれかの発明の効果に加えて、レーザー焼灼術用光ファイバーの視認性がより高い環境下でのレーザー焼灼術を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るレーザー焼灼術用光ファイバーの先端部に係る断面図である。
図2】(a)乃至(h)は、それぞれ本発明の実施の形態に係るレーザー焼灼術用光ファイバーにおいて形成される凹部の模様に関する概念図である。
図3】本発明の第2の実施の形態に係るレーザー焼灼術医療機器の概念図である。
図4】本発明の実施例に係るレーザー焼灼術用光ファイバーを用いて視認性の確認を行うための超音波診断画像であり、(a)はレーザー焼灼術用光ファイバーに溝加工を施していないものを用いた場合の超音波診断画像であり、(b)はレーザー焼灼術用光ファイバーのキャップに溝加工を施した場合の超音波診断画像である。
図5】(a)及び(b)は、それぞれ従来技術に係るレーザー焼灼術用光ファイバーに関する概念図であり、(a)は外形に関する概念図、(b)は内部構造に関する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の実施の形態に係るレーザー焼灼術用光ファイバーについて、図1及び図2を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザー焼灼術用光ファイバーの先端部に係る断面図である。
図1において、レーザー焼灼術用光ファイバー1は、光路となる芯材としてのコア2の周囲に、コア2よりも屈折率の低い第1の被覆材としてのクラッド3が被覆されており、そのクラッド3の周囲には第2の被覆材としてのジャケット4が中空部5を介して被覆されている。
レーザー焼灼術用光ファイバー1の先端部には第3の被覆材としてキャップ6が接着剤7を介して被覆され、コア2を露出して形成されるコア先端部2aからレーザー光が出射される。
なお、キャップ6内はクラッド3との間に中空部8が形成されている。
【0020】
さらに、レーザー焼灼術用光ファイバー1では、キャップ6の外表面上において、コア先端部2aよりも軸方向で基端側に凹部Aが周方向に形成されており、クラッド3の外表面上においても同様にコア先端部2aよりも軸方向で基端側に凹部Bが周方向に形成されている。
凹部A,Bは共にキャップ6あるいはクラッド3を貫通することなくそれぞれの強度を維持することができるような深さに形成されている。凹部A,Bはいずれか一方を設けてもよいし、両方設けるようにしてもよい。
ただし、レーザー焼灼術用光ファイバー1は前述のとおり、静脈中に挿入される場合もあることから、その先端のキャップ6の外表面に設けられた凹部Aが血管の内壁に対して摩擦を生じることで施術の質に影響を与える可能性もあることから、キャップ6の外表面に形成される凹部Aよりもその内部のクラッド3の外表面に形成される凹部Bの方がより低侵襲である考えられる。
【0021】
このように構成されるレーザー焼灼術用光ファイバー1では、レーザー焼灼術の施術中に実施される超音波診断装置を用いたレーザー焼灼術用光ファイバー1の先端部の位置確認をする際に、凹部A及び凹部Bによってより効率的に超音波を反射させることが可能であるので、より鮮明にレーザー焼灼術用光ファイバー1の先端位置が超音波診断装置の画面上に表示され、医師や医療技師が施術中にその位置を容易かつ正確に把握することができる。
超音波診断装置は、超音波が反射によって戻ってきた超音波エネルギーの相対量を表すことで体内の状態をモニタするものであり、超音波は音響インピーダンスの差が大きいほど反射率が大きくなり、全反射に近くなる。
レーザー焼灼術用光ファイバー1としては大きく分けてガラス光ファイバーとプラスチック光ファイバーに分類されるが、コア2の材料としてはガラス光ファイバーでは石英あるいは多成分ガラスが用いられ、プラスチック光ファイバーではポリメチルメタクリレート等が用いられる。また、クラッド3の材料としてはガラス光ファイバーでは石英、シリコン、フッ素含有ポリマーあるいは多成分ガラスが用いられ、プラスチック光ファイバーではフッ素含有ポリマーが用いられる。
ジャケット4の材料としては、ポリアミド等が使用され、キャップ6には石英等が使用される。
ここで、表1に各種の材料に対する音響インピーダンスの一覧を示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1から石英の音響インピーダンスは血液中の水分や体組織の音響インピーダンスと比較するとかなり大きく、一般的には、石英製のキャップ6の場合は超音波の反射が十分とも考えられるが、超音波診断装置で表示されるモニタ画面のエコー輝度が低い場合が多々生じている。
その理由としては、軸方向に円筒状となるレーザー焼灼術用光ファイバーでは、超音波診断装置から発信される超音波が円筒の中心から側面に反れると超音波の入射に対して角度を生じ、その結果超音波の反射を受信するセンサーに戻る超音波エネルギーが少なくなってしまうためと考えられる。
そこで、本実施の形態においては、超音波の反射を効率的に促すため、キャップ6の外表面又はクラッド3の外表面にそれぞれ凹部A又は凹部Bを形成させたのである。
凹部が形成されることで、その凹部の内面を形成する角度が単一ではないため、様々な入射方向で入射する超音波を、超音波診断装置のセンサーの表面に反射させることが可能であり、センサーで受信される反射率を高めることが可能であり、よってレーザー焼灼術用光ファイバー1の視認性を向上させることができる。
【0024】
図1においては、凹部Aと凹部Bが記載されているが、前述のとおり患者の身体的な負担を考慮すると凹部Bの方が望ましいものの、キャップ6よりもクラッド3の径の方が小さいので凹部Aの方が超音波の反射効率は高いものと考えられる。
また、キャップ6とクラッド3のいずれも石英の場合には、凹部Aの周囲が水分又は体組織であるのに対し、凹部Bの周囲は図1では接着剤によって凹部Bが埋まっており、この場合には表1には明示がないが、凹部Bの方が超音波の反射効率は高いものと考えられる。
しかも、図1では接着剤7が凹部Bの全体を覆うように記載されているが、元々この部分は中空部8であり、キャップ6を接着するために用いられる接着剤7の量を調整することで凹部Bの表面を覆わないようにすることも可能である。その場合には、中空部8に存在しているのは空気であるため音響インピーダンスは極端に小さくなり、超音波の反射効率を著しく向上させることが可能である。
したがって、クラッド3の表面に形成される凹部Bの方がレーザー焼灼術用光ファイバー1の位置に関する視認性を向上させるためには望ましいと言える。
【0025】
本実施の形態においては、凹部Aと凹部Bのいずれも接着剤7の先端側の端面よりもレーザー焼灼術用光ファイバー1の軸方向において基端側のキャップ6の外表面あるいはクラッド3の外表面に形成されているが、このような凹部A,Bは、よりレーザー焼灼術用光ファイバー1の先端部の位置を正確に把握するために、接着剤7の先端側の端面の位置を超えてコア先端部2a側のキャップ6の外表面あるいはクラッド3の外表面に形成してもよい。
ただし、コア先端部2aからのレーザー光の出射を妨げないようにコア先端部2aよりも基端側のキャップ6の外表面又は基端側のクラッド3の外表面、あるいはその両方に凹部を設けるとよい。
なお、前述のとおり凹部Bは接着剤7が塗布されていない箇所に設けることで、接着剤7に代えて空気との境界が形成されるため音響インピーダンスの差を大きく取れて超音波の反射効率を高めることが可能であるのでより望ましい。
【0026】
また、本実施の形態においては、キャップ6の外表面に凹部Aを設けたが、コア先端部2aよりも基端側のキャップ6の内表面に凹部を形成させてもよい。この場合、キャップ6の外表面ではないので、患者に身体的な負担をかけることもなく、しかも、クラッド3の径よりも大きな径であることから凹部の単位軸長さあたりの表面積はクラッド3の外表面よりも大きく取ることができ、さらに、キャップ6の内側は接着剤7の層か中空部8に接するためキャップ6やクラッド3を構成する石英との音響インピーダンスの差が大きいこともあって、超音波の反射効率を高くすることが可能である。
ただし、キャップ6の内側へ凹部を形成させるのは細い管内への加工となるため難易度が高く時間もかかるという短所がある。キャップ6を縦割りとして内面に凹部を加工するなどしても問題がない場合には短所が解消されると考えられる。
さらに、本実施の形態においては、クラッド3の外表面に凹部Bを設けたが、コア先端部2aよりも基端側のクラッド3の内表面に凹部を形成させてもよい。ただし、クラッド3の内表面はコア2に接触する部分であるのでレーザー光との干渉の可能性があること、また、外表面に比較して面積が小さく、またクラッド3の内部に形成される内表面に凹部を加工すること自体難易度が高く時間もかかると考えられること、さらにクラッド3とコア2がいずれも石英の場合には音響インピーダンスの差がなくなり、反射率が小さくなると考えられるため、外表面に比較すると望ましいとは言えない。
しかしながら、クラッド3内面に形成された溝10の深さや溝10の本数密度を高めることで溝10の内部に空気層を多く存在させることも可能と考えられるので音響インピーダンスの改善に伴う超音波の反射率の改善は期待できる。
【0027】
次に、図2を参照しながら本実施の形態に係るレーザー焼灼術用光ファイバー1に形成される凹部の模様について説明を加える。
図2の(a)乃至(h)は、それぞれ本発明の実施の形態に係るレーザー焼灼術用光ファイバーにおいて形成される凹部の模様に関する概念図である。これらの模様は、キャップ6の外表面、内表面あるいはクラッド3の外表面、内表面の円周状の面に形成される模様である。(a)乃至(f)は線状に形成される溝10を示しており、細い2本の線の間が溝10となっている。また、(g)及び(h)は点状に形成される窪み11を示している。
(a)はキャップ6やクラッド3の周面に対して螺旋状に形成される溝10であり、(b)はレーザー焼灼術用光ファイバー1の軸方向に対して平行に形成される溝10であり、(c)はレーザー焼灼術用光ファイバー1の軸方向に対して垂直に形成される溝10である。
また、(d)はキャップ6やクラッド3の周面に対して弧状に形成される溝10であり、(e)はレーザー焼灼術用光ファイバー1の軸方向に対して斜めの溝10が格子状に形成されたものであり、(f)はレーザー焼灼術用光ファイバー1の軸方向に対して平行・垂直な溝10が格子状に形成されたものである。
(g)はキャップ6やクラッド3の周面に対して窪み11が正方格子状に形成されたものであり、(h)は窪み11が正三角格子状に形成されたものである。
これらは一例であり、他の模様を排除するものではない。例えば、(g)の正方格子は矩形格子でもよいし、(h)の正三角格子は斜方格子や歪斜格子でもよい。
なお、これらの溝10や窪み11はそれぞれキャップ6やクラッド3の厚みよりも薄く形成されるものである。
【0028】
次に、図3を参照しながら本発明の第2の実施の形態に係るレーザー焼灼術医療機器について説明する。
図3は本発明の第2の実施の形態に係るレーザー焼灼術医療機器の概念図である。
図3において、第1の実施の形態に係るレーザー焼灼術用光ファイバー1が、患者の大腿部19の深部静脈20から分岐する表在静脈21内に挿入されている。レーザー焼灼術用光ファイバー1の先端部であるキャップ6は、表在静脈21内に発生した静脈瘤の箇所まで挿入され、その後レーザー光を出射して焼灼する。
図3の符号22は焼灼によって閉じられた焼灼後表在静脈であり、レーザー焼灼術用光ファイバー1は静脈を焼灼しつつ、図中符号Cで示される方向に引き抜かれていく。
【0029】
このように表在静脈21を焼灼するための装置がレーザー焼灼術医療機器15である。
レーザー焼灼術医療機器15は、レーザー焼灼術用光ファイバー1をレーザー発生装置16に接続したものであり、レーザー発生装置16はレーザーを発振させてレーザー光を出射するレーザー発振器17と、レーザー発振器17から出射されるレーザー光の出力を制御するためのレーザー出力調整器18が備えられている。
レーザー焼灼術医療機器15による焼灼では、まず、レーザー焼灼術用光ファイバー1の先端部であるキャップ6を患者の大腿部19の下方から挿入する。その際には、超音波診断装置を用いてキャップ6の位置を把握しながらレーザー焼灼術用光ファイバー1を挿入操作する。
表在静脈21に発生した静脈瘤の位置までキャップ6が届いたら、レーザー発生装置16のレーザー出力調整器18でレーザー出力の調整を行いながら、レーザー発振器17からレーザー光を出射する。
キャップ6からレーザー光が出射され、静脈の内壁を焼灼して静脈を閉じていき、徐々にレーザー焼灼術用光ファイバー1を図中のCで示される方向に引き抜きながら表在静脈21全体を焼灼する。
施術後はレーザー焼灼術用光ファイバー1を引き抜き手術が終了する。
【実施例
【0030】
最後に、図4(a)及び(b)を参照しながら、発明者がレーザー焼灼術用光ファイバー1を用いて行った実施例について説明する。
本実施例では、レーザー焼灼術用光ファイバー1のキャップ6及びクラッド3のいずれにも溝加工を施していなものと、キャップ6の外表面に、図2(e)に示すようなレーザー焼灼術用光ファイバー1の軸方向に対して斜めに形成される格子状の溝10を形成したものの両方を、予め指定された病原菌を持っていない、いわゆるSPF(Specific Pathogen Free)豚の静脈に挿入して超音波診断装置で画像を取得し視認性を比較した。なお、キャップ6、クラッド3及びコア2の材質はいずれも石英である。
実施日は2017年1月25日であり、超音波診断装置の周波数は8MHzである。
図4(a)は溝加工を施していないレーザー焼灼術用光ファイバー1を静脈に挿入して超音波画像を取得した場合であるが、血管内にレーザー焼灼術用光ファイバー1が存在することは視認されるが、その先端位置を把握することが難しい。
一方、図4(b)に示される溝加工を施したレーザー焼灼術用光ファイバー1を用いた場合には、いわゆるアコースティックシャドーが出ており、このアコースティックシャドーから先端位置を把握することができるので、溝加工を施したレーザー焼灼術用光ファイバー1の方が、視認性が高いということができる。
なお、本実施例ではキャップ6の外表面に図2(e)に示すような格子状の溝10を形成したが、超音波診断装置が反射によって戻ってきた超音波のエネルギーの相対量を表すことで体内の状態をモニタするという原理を考慮すれば、図2に示される凹状の他の模様を付してもアコースティックシャドーは発生すると考えられ、また、他の箇所、すなわちキャップ6の内表面やクラッド3の外表面や内表面に凹状の模様を形成してもアコースティックシャドーは発生すると考えられる。
また、本実施例ではクラッド3及びキャップ6は石英製のものを用いて、段落0021で述べたような他の材料のものでは実施していないが、段落0023で述べたとおり、血液中の水分や体組織の音響インピーダンスとの差が十分に大きい石英でさえエコー輝度が低い場合が多々生じているという状況であり、その理由が軸方向に円筒状となるレーザー焼灼術用光ファイバーでは超音波診断装置から発信される超音波が円筒の中心から側面に反れることで、超音波の入射に対して角度を生じ、超音波の反射を受信するセンサーに戻る超音波エネルギーが少なくなってしまうためと考えられるため、同様に他の材料でも凹状の模様を形成することで石英製のものを用いた場合と同様な結果が得られるものと考えられる。
【0031】
本実施の形態に係るレーザー焼灼術医療機器15では、レーザー焼灼術用光ファイバー1のキャップ6の外表面や内表面あるいはクラッド3の外表面には溝10や窪み11等の凹部が形成されているので超音波診断装置から発生される超音波をより効率的に反射することができ、キャップ6の位置、さらにはコア先端部2aの位置までも把握することが可能である。したがって、より精度の高いレーザー光の照射が可能となり、焼灼が必要な部位を正確に焼灼することが可能である。
このことから、医師や医療技師は迅速かつ集中して手術を実行することができ、肉体的、精神的な負担を軽減することが可能である。患者も手術時間が短縮され精度の高い手術を受けることができるので同様に肉体的、精神的な負担を軽減することが可能である。さらに、手術が短時間で医師等の負担を少なくして終了させることができるので、1日当りの手術数を増やすことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、病院などの医療機関において下肢静脈瘤等の静脈瘤にレーザー光を照射して治療するレーザー焼灼術用光ファイバー及びレーザー焼灼術医療機器として利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1…レーザー焼灼術用光ファイバー 2…コア 2a…コア先端部 3…クラッド 4…ジャケット 5…中空部 6…キャップ 7…接着剤 8…中空部 10…溝 11…窪み 15…レーザー焼灼医療機器 16…レーザー発生装置 17…レーザー発振器 18…レーザー出力調整器 19…大腿部 20…深部静脈 21…表在静脈 22…焼灼後表在静脈 31…レーザー焼灼術用光ファイバー 32…キャップ 33…ジャケット 34…コア 34a…コア先端部 35…クラッド 36a,36b…レーザー光 A,B…凹部 C…方向
図1
図2
図3
図4
図5