(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】線膨張係数測定方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 25/16 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
G01N25/16 B
(21)【出願番号】P 2016249859
(22)【出願日】2016-12-22
【審査請求日】2019-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩野 健
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄一郎
【審査官】萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-226369(JP,A)
【文献】特開2005-083920(JP,A)
【文献】特開2015-010857(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0003494(US,A1)
【文献】特開2002-107318(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102012219417(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00 - 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の第1表面から第2表面までの線膨張係数を測定する線膨張係数測定方法であって、
前記測定対象物を収容可能、かつ内部温度を調整可能な恒温槽と、
前記第1表面から前記第2表面までの長さを測定可能な距離測定装置と、
前記恒温槽の内部に設置されて、前記測定対象物を加熱または冷却可能な測定対象物温度変更素子と、
前記測定対象物に装着されて、前記測定対象物の温度を測定可能な測定対象物温度計と、
前記第1表面および前記第2表面に対応する第1基準表面および第2基準表面を有し、かつ前記第1基準表面から前記第2基準表面までの長さが既知である基準ゲージと、
前記恒温槽の内部に設置されて、前記基準ゲージを加熱または冷却可能な基準ゲージ温度変更素子と、
前記基準ゲージに装着されて、前記基準ゲージの温度を測定可能な基準ゲージ温度計と、を準備し、
前記恒温槽の内部に前記測定対象物とともに前記基準ゲージを設置し、
前記恒温槽、前記測定対象物温度変更素子および前記基準ゲージ温度変更素子の設定温度を第1温度に設定して、前記測定対象物および前記基準ゲージを前記恒温槽、前記測定対象物温度変更素子および前記基準ゲージ温度変更素子により加熱または冷却し、
前記測定対象物温度計および前記基準ゲージ温度計の測定温度が前記第1温度で安定したことを確認後、前記第1表面から前記第2表面までの長さを、前記第1基準表面から前記第2基準表面までの長さを基準として比較測定し、
前記恒温槽、前記測定対象物温度変更素子および前記基準ゲージ温度変更素子の設定温度を第2温度に変更して、前記測定対象物および前記基準ゲージを前記恒温槽、前記測定対象物温度変更素子および前記基準ゲージ温度変更素子により加熱または冷却し、
前記測定対象物温度計および前記基準ゲージ温度計の測定温度が前記第2温度で安定したことを確認後、前記第1表面から前記第2表面までの長さを、前記第1基準表面から前記第2基準表面までの長さを基準として比較測定し、
前記第1温度での前記第1表面から前記第2表面までの長さと前記第2温度での前記第1表面から前記第2表面までの長さとから前記測定対象物の線膨張係数を算出することを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項2】
請求項
1に記載された線膨張係数測定方法において、
前記測定対象物温度変更素子は前記測定対象物よりも熱容量が小さいことを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項3】
請求項
1または請求項
2に記載された線膨張係数測定方法において、
前記基準ゲージは、前記第1温度と前記第2温度との間の温度変化では精度上膨張を無視しうる極低膨張係数ないしゼロ膨張係数の材質から製造されたもの、または、膨張係数が既知である材質から製造されたもの、のいずれかであることを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載された線膨張係数測定方法において、
前記測定対象物温度変更素子は、前記測定対象物の少なくとも一対の面の、前記測定対象物の中心軸線に対して対称となる位置に取り付けられていることを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載された線膨張係数測定方法において、
前記測定対象物温度変更素子は、前記測定対象物温度計の測定温度と前記測定対象物温度変更素子に設定された設定温度との差に応じて出力が調整されることを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載された線膨張係数測定方法において、
前記測定対象物温度変更素子は、前記測定対象物温度計の測定温度と設定温度との差が所望の閾値未満になった時点で運転を停止することを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項7】
測定対象物の第1表面から第2表面までの線膨張係数を測定する線膨張係数測定装置であって、
前記測定対象物を収容可能、かつ内部温度を調整可能な恒温槽と、
前記第1表面から前記第2表面までの長さを測定可能な距離測定装置と、
前記恒温槽の内部に設置されて、前記測定対象物の温度を変更可能な測定対象物温度変更素子と、
前記測定対象物に装着されて、前記測定対象物の温度を測定可能な測定対象物温度計と、
前記第1表面および前記第2表面に対応する第1基準表面および第2基準表面を有し、かつ前記第1基準表面から前記第2基準表面までの長さが既知である基準ゲージと、
前記恒温槽の内部に設置されて、前記基準ゲージを加熱または冷却可能な基準ゲージ温度変更素子と、
前記基準ゲージに装着されて、前記基準ゲージの温度を測定可能な基準ゲージ温度計と、を有することを特徴とする線膨張係数測定装置。
【請求項8】
請求項
7に記載された線膨張係数測定装置において、
前記距離測定装置は三次元測定機であり、
前記恒温槽には、測定用表面に前記三次元測定機の測定プローブを恒温槽内部へ導入可能な測定用開口を有することを特徴とする線膨張係数測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線膨張係数測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元測定機などの測定装置においては、検査のために寸法基準器が用いられる。
寸法基準器としては、端面寸法が高精度に校正された各種ブロックゲージが用いられるとともに、複数の長さに対応したステップゲージが用いられている。
ステップゲージは、凸部と凹部とが交互に配置される櫛歯状とされ、凸部の端面間に複数の基準寸法が得られる。このようなステップゲージは、凸部となる測定ブロックと凹部となる間隔ブロックとを交互に配列してホルダに固定することで製造されるほか、単一の部材から櫛歯状に削り出すことで製造される。
【0003】
ステップゲージの端面間の距離の校正値は、特定の温度における長さとして提供され、多くの場合は工業標準温度の20℃における長さである。
三次元測定機の検査において、測定された長さは校正時の温度に換算して用いる必要がある。これを一般に、長さの温度補正と呼んでいる。この時、ステップゲージの線膨張係数を正確に知る必要がある。
【0004】
ステップゲージを含め多くの寸法基準器は、校正証明書あるいは検査成績書に、温度補正に用いる線膨張係数が記載されている。このような線膨張係数は、それぞれ公差を伴って表示される。
三次元測定機の検査にステップゲージを用いる場合には、検査の不確かさを検討する上で、この公差を不確かさの要因として扱う。従って、検査における不確かさを低減する目的で、ステップゲージの線膨張係数を高精度に評価することが要求される。
【0005】
寸法基準器を含めて、物体の線膨張係数は、物体の温度を変化させ、その温度変化による物体の長さの変化量を測定することにより、求められる。
具体的に、線膨張係数αは、基準温度Toにおける物体の長さをLo、現在の温度Tにおける物体の長さをL、温度変化量ΔT=T-To、長さの変化量(熱膨張量)ΔL=L-Loとして、α=(ΔL/L)・(1/ΔT)によって与えられる。
【0006】
ステップゲージなど、寸法基準器では、物体の長さLの大きさは長さの変化量ΔLに対して10の5乗より大きい。このため、一般に、長さLの数値の正確性は、線膨張係数αの数値に対して影響が小さい。
従って、線膨張係数αを高精度に求めるためには、温度変化量ΔTおよび長さの変化量ΔLを高精度に測定することが必要である。
【0007】
このような物体の線膨張係数αの測定を行うために、光波干渉計を用いた測定方法が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1では、同じ測定軸線で対向する2組の光波干渉計を用い、ブロックゲージなどの被測定物の両端面間の長さを高精度に測定できるようにする。そして、被測定物に均熱プレートを当接させ、被測定物を直接的に加熱することにより温度を変化し、異なる温度で長さを測定することで、変温による熱膨張量を取得して、線膨張係数を計算する。
【0008】
しかし、このような線膨張係数の測定では、均熱プレートにより被測定物を加熱しているため、均熱プレートに当接した面だけが局所的に加熱され、被測定物の温度が均一とならず温度分布が生じる。そうすると、被測定物内での熱膨張量が一様とならず、線膨張係数の測定に誤差が生じるという問題がある。
【0009】
このような問題に対し、ステップゲージの温度制御に恒温槽を用いる方法(特許文献2参照)が提案されている。
【0010】
特許文献2の方法では、被測定物であるステップゲージを恒温槽内に配置し、外部の三次元測定機のプローブを恒温槽の開口部から導入し、このプローブによってステップゲージの長さを測定する。そして、恒温槽内の温度設定を変更し異なる温度で長さを測定することで、変温による熱膨張量を取得して、線膨張係数を計算する。
このような測定では、恒温槽内部の気体温度を一定の値に調整し、この恒温槽内部の気体によってステップゲージの温度を間接的に変更させるため、ステップゲージ内の温度を均一にできて、高精度な線膨張係数の測定が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第3897655号公報
【文献】特開2004-226369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献2の方法のように気体を介して間接的にステップゲージの温度を変更する方法では、ステップゲージの温度変化が緩やかであるため、ステップゲージが設定した温度で安定するまでに長い時間を要し、測定の効率化が難しいという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、線膨張係数の測定を、高精度かつ短時間で行える線膨張係数測定方法および測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の線膨張係数測定方法は、測定対象物の第1表面から第2表面までの線膨張係数を測定する線膨張係数測定方法であって、前記測定対象物を収容可能、かつ内部温度を調整可能な恒温槽と、前記第1表面から前記第2表面までの長さを測定可能な距離測定装置と、前記恒温槽の内部に設置されて、前記測定対象物を加熱または冷却可能な測定対象物温度変更素子と、前記測定対象物に装着されて、前記測定対象物の温度を測定可能な測定対象物温度計と、を準備し、前記恒温槽の内部に前記測定対象物を設置し、前記恒温槽および前記測定対象物温度変更素子の設定温度を第1温度に設定して、前記測定対象物を前記恒温槽および前記測定対象物温度変更素子により加熱または冷却し、前記測定対象物温度計の測定温度が前記第1温度で安定したことを確認後、前記第1表面から前記第2表面までの長さを測定し、前記恒温槽および前記測定対象物温度変更素子の設定温度を第2温度に変更して、前記測定対象物を前記恒温槽および前記測定対象物温度変更素子により加熱または冷却し、前記測定対象物温度計の測定温度が前記第2温度で安定したことを確認後、前記第1表面から前記第2表面までの長さを測定し、前記第1温度での前記第1表面から前記第2表面までの長さと前記第2温度での前記第1表面から前記第2表面までの長さとから前記測定対象物の線膨張係数を算出することを特徴とする。
【0015】
このような本発明では、測定対象物の温度を測定対象物温度変更素子により直接的に変更するとともに、恒温槽によって間接的に変更するため、測定対象物の温度が設定温度で均一に安定化するまでの時間を短縮でき、測定対象物の線膨張係数を短時間で高精度に測定することができる。
【0016】
本発明の線膨張係数測定方法において、前記測定対象物温度変更素子は、前記測定対象物の少なくとも一対の面の、前記測定対象物の中心軸線に対して対称となる位置に取り付けられていることが望ましい。
このような本発明では、測定対象物の中心軸線に対して対称となる位置から測定対象物の温度を変更することができる。これにより、測定対象物の温度を均一に変更することができるため、測定対象物全体が設定された温度で均一に安定化するまでの時間を短縮でき、測定対象物の線膨張係数を短時間で測定することができる。
【0017】
本発明の線膨張係数測定方法において、前記測定対象物温度変更素子は、前記測定対象物温度計の測定温度と前記測定対象物温度変更素子に設定された設定温度との差に応じて出力が調整されることが望ましい。
このような本発明では、測定対象物の測定温度と設定温度との差が大きい場合は測定対象物温度変更素子の出力を高くされ、差が小さくなるにつれて出力を低下される。これにより、測定対象物の温度を速やかに変更できるとともに、過剰に変更することを防止できるため、測定対象物の温度が設定温度で安定化するまでの時間を短縮でき、測定対象物の線膨張係数を短時間で測定することができる。
【0018】
本発明の線膨張係数測定方法において、前記測定対象物温度変更素子は、前記測定対象物温度計の測定温度と設定温度との差が所望の閾値未満になった時点で運転を停止することが望ましい。
このような本発明では、測定対象物の温度を過剰に変更することを防止できるため、測定対象物の温度が設定温度で安定化するまでの時間を短縮でき、測定対象物の線膨張係数を短時間で測定することができる。
【0019】
本発明の線膨張係数測定方法において、前記測定対象物温度変更素子は前記測定対象物よりも熱容量が小さいことが望ましい。
このような本発明では、測定対象物温度変更素子の運転停止後において、測定対象物温度変更素子が測定対象物の温度に与える影響を小さくできるため、測定対象物の温度が設定温度で安定化するまでの時間を短縮でき、測定対象物の線膨張係数を短時間で測定することができる。
【0020】
本発明の線膨張係数測定方法において、前記第1表面および前記第2表面に対応する第1基準表面および第2基準表面を有し、かつ前記第1基準表面から前記第2基準表面までの長さが既知である基準ゲージを準備し、前記恒温槽の内部に前記測定対象物とともに前記基準ゲージを設置し、前記第1表面から前記第2表面までの長さを、前記第1基準表面から前記第2基準表面までの長さを基準として比較測定することが望ましい。
このような本発明では、測定対象物の長さの測定において、長さの基準として基準ゲージを用い、この基準ゲージに対する長さの比較測定を行うため、測定結果が距離測定装置のスケール精度に依存せず、専ら基準ゲージの精度に依存することになり、測定対象物の長さ測定を高精度に行うことができる。
【0021】
本発明の線膨張係数測定方法において、前記基準ゲージは、前記第1温度と前記第2温度との間の温度変化では精度上膨張を無視しうる極低膨張係数ないしゼロ膨張係数の材質から製造されたもの、または、膨張係数が既知である材質から製造されたもの、のいずれかであることが望ましい。
このような本発明では、基準ゲージが、極低膨張係数ないしゼロ膨張係数の材質から製造されている場合、第1温度と第2温度との間での基準ゲージの長さの温度補正を省略することができる。一方、基準ゲージが、膨張係数が既知である材質から製造されている場合、第1温度および第2温度において、温度補正により各温度における高精度な基準ゲージの長さを計算することができる。いずれの場合も、各温度における基準ゲージ長さを正確にできるので、第1温度での比較測定と第2温度での比較測定とを高精度に行うことができる。
【0022】
本発明の線膨張係数測定方法において、前記恒温槽の内部に設置されて、前記基準ゲージを加熱または冷却可能な基準ゲージ温度変更素子と、前記基準ゲージに装着されて、前記基準ゲージの温度を測定可能な基準ゲージ温度計と、を準備し、前記恒温槽、前記測定対象物温度変更素子および前記基準ゲージ温度変更素子の設定温度を第1温度に設定して、前記測定対象物および前記基準ゲージを前記恒温槽、前記測定対象物温度変更素子および前記基準ゲージ温度変更素子により加熱または冷却し、前記測定対象物温度計および前記基準ゲージ温度計の測定温度が前記第1温度で安定したことを確認後、前記第1表面から前記第2表面までの長さを比較測定し、前記恒温槽、前記測定対象物温度変更素子および前記基準ゲージ温度変更素子の設定温度を第2温度に変更して、前記測定対象物および前記基準ゲージを前記恒温槽、前記測定対象物温度変更素子および前記基準ゲージ温度変更素子により加熱または冷却し、前記測定対象物温度計および前記基準ゲージ温度計の測定温度が前記第2温度で安定したことを確認後、前記第1表面から前記第2表面までの長さを比較測定し、前記第1温度での前記第1表面から前記第2表面までの長さと前記第2温度での前記第1表面から前記第2表面までの長さとから前記測定対象物の線膨張係数を算出することが望ましい。
【0023】
このような本発明では、基準ゲージの温度を基準ゲージ温度変更素子により直接的に変更するとともに、恒温槽によって間接的に変更して、基準ゲージの温度が設定温度で均一に安定化するまでの時間を、測定対象物が設定温度で均一に安定化するまでの時間と同程度にできるため、基準ゲージの熱膨張を踏まえて測定対象物の長さを比較測定することができ、測定対象物の線膨張係数をより高精度に測定することができる。
なお、基準ゲージ温度変更素子は、測定対象物温度変更素子と同様の位置に取り付けられており、また、測定対象物温度変更素子と同様の機能・特徴を有する。
【0024】
本発明の線膨張係数測定装置は、測定対象物の第1表面から第2表面までの線膨張係数を測定する線膨張係数測定装置であって、前記測定対象物を収容可能、かつ内部温度を調整可能な恒温槽と、前記第1表面から前記第2表面までの長さを測定可能な距離測定装置と、前記恒温槽の内部に設置されて、前記測定対象物の温度を変更可能な測定対象物温度変更素子と、前記測定対象物に装着されて、前記測定対象物の温度を測定可能な測定対象物温度計と、を有することを特徴とする。
このような本発明では、前述した本発明の線膨張係数測定方法で説明した通りの手順により、同様な作用効果を得ることができる。
【0025】
本発明の線膨張係数測定装置において、前記距離測定装置は三次元測定機であり、前記恒温槽には、測定用表面に前記三次元測定機の測定プローブを恒温槽内部へ導入可能な測定用開口を有することが望ましい。
このような本発明では、三次元測定装機を用いて測定対象物の長さ測定を行うので、高価な光波干渉計を用いることなく、測定対象物の線膨張係数を高精度に測定することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、測定対象物の線膨張係数を短時間で高精度に測定することができる線膨張係数測定方法および測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態の測定装置を示す斜視図。
【
図2】前記第1実施形態の測定対象物であるステップゲージを示す斜視図。
【
図3】前記第1実施形態の測定対象物であるステップゲージを示す平面図。
【
図4】前記第1実施形態の基準ゲージである基準ブロックゲージを示す斜視図。
【
図5】前記第1実施形態の恒温槽、ステップゲージおよび基準ブロックゲージの配置を示す斜視図。
【
図6】前記第1実施形態の測定手順を示すフローチャート。
【
図9】本発明の第2実施形態の基準ゲージである基準ブロックゲージを示す斜視図。
【
図10】前記第2実施形態の基準ゲージである基準ブロックゲージを示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1から
図5までの各図には、本発明の第1実施形態が示されている。
図1において、本実施形態の線膨張係数測定装置1は、寸法基準器であるステップゲージ10を測定対象物とし、その線膨張係数αを高精度に測定するものである。
このために、線膨張係数測定装置1は、ステップゲージ10を収容して所定温度に維持する恒温槽30と、同じく恒温槽30に収容される基準ゲージとしての基準ブロックゲージ20と、基準ブロックゲージ20を基準としてステップゲージ10の長さを比較測定する距離測定装置としての三次元測定機40と、を備えている。
【0029】
図1に示すように、三次元測定機40は、定盤41を有し、その上面にはコラム42およびクロスバー43によりヘッド44が支持されている。ヘッド44には下方へ延びるラム45が設置され、その先端にはプローブ46が支持されている。
三次元測定機40は、コラム42が定盤41に対してY軸方向に移動自在とされ、ヘッド44がクロスバー43に対してX軸方向に移動自在とされ、ラム45がヘッド44に対してZ軸方向に移動自在とされている。これらの3軸移動により、プローブ46を定盤41に対して三次元移動させることができる。
【0030】
恒温槽30は、箱状の筐体内部の温度を所望の温度に維持可能な装置であり、定盤41の上面に載置され、その長手方向がY軸方向に沿うように固定されている。
恒温槽30は、上面側を開閉することで、内部にステップゲージ10および基準ブロックゲージ20を収容可能である。
恒温槽30の上面には、開閉式の蓋体を有する測定用開口31が複数形成されている。
【0031】
恒温槽30の内部において、ステップゲージ10は、その延伸方向LtがY軸方向に沿うように支持されている。また、基準ブロックゲージ20は、ステップゲージ10の上面側(ステップゲージ10の測定用開口31に対向する側)に配置され、その延伸方向LrがY軸方向に沿って、ステップゲージ10と互いに平行に支持されている。
【0032】
図2に示すように、測定対象物であるステップゲージ10は、延伸方向Ltに延びる角柱状の本体を有し、その上面、底面および各側面は延伸方向Ltに交差する2方向である高さ方向Htおよび幅方向Wtのいずれかに平行とされている。
ステップゲージ10の上面には、ブロックゲージ状の凸部13が複数、延伸方向Ltに配列されている。各凸部13の延伸方向Ltの長さはDp、各凸部13の間の凹部の延伸方向Ltの間隔はDcとされている。
本実施形態では、ステップゲージ10の一方の端部にある凸部13の表面を第1表面11とし、他方の端部にある凸部13の表面を第2表面12とし、これらの第1表面11と第2表面12との距離をステップゲージ10の長さDxとして測定する。
【0033】
図3に示すように、ステップゲージ10の延伸方向Ltの一方の側面には、第1表面11近傍と第2表面12近傍とに測定対象物温度変更素子50が取り付けられている。さらに、他方の側面にも、第1表面11近傍と第2表面12近傍とに測定対象物温度変更素子50が取り付けられている。つまり、測定対象物温度変更素子50は、ステップゲージ10の一対の側面の、ステップゲージ10の延伸方向Ltの中心軸線に対して対称な位置に取り付けられている。
【0034】
また、一対の側面の中間付近には、ステップゲージ10の温度を測定する測定対象物温度計60が取り付けられている。
測定対象物温度変更素子50は、ステップゲージ10の温度を変更可能なものであり、本実施形態では熱容量の小さいシートヒータを採用し、シートヒータの加熱によりステップゲージ10の温度を上昇させる。
測定対象物温度計60は、ステップゲージ10の表面温度を測定するものであり、それぞれの測定対象物温度計60における測定結果の平均値を測定温度ts1として検出する。
【0035】
本実施形態では、測定対象物温度変更素子50および測定対象物温度計60には、温度調整機構70が接続されている。
温度調整機構70は出力調整機能を有しており、測定対象物温度変更素子50の出力を調節することができる。
また、温度調整機構70は過剰加熱防止機能を有しており、事前に閾値温度Δtを設定し、ステップゲージ10の測定温度ts1と、測定対象物温度変更素子50に設定された設定温度との差が閾値温度Δt未満になった時点で測定対象物温度変更素子50の運転を停止できる。これにより、ステップゲージ10が過剰に加熱されることを防止できる。
【0036】
図4に示すように、基準ゲージである基準ブロックゲージ20は、延伸方向Lrに延びるブロックゲージであり、その上面、底面および各側面は延伸方向Lrに交差する2方向である高さ方向Hrおよび幅方向Wrのいずれかに平行とされている。
基準ブロックゲージ20は、延伸方向Lrの両端にあたる一対の端面が第1基準表面21および第2基準表面22とされている。
【0037】
基準ブロックゲージ20は、第1基準表面21と第2基準表面22との距離つまり長さがDrxである。基準ブロックゲージ20は、測定対象物であるステップゲージ10における測定対象の長さDx(公称寸法、呼び寸法)に基づいて、長さDrxが長さDxよりも所定寸法(例えば凸部13の長さDp分)短い寸法となるものが選択されている。
基準ブロックゲージ20は、長さDrxが既知であるだけでなく、後述する第1温度t1と第2温度t2との間の温度変化では精度上膨張を無視しうる極低膨張係数ないしゼロ膨張係数の材質から製造されたものであり、第1温度t1での比較測定および第2温度t2での比較測定の際には、各温度t1,t2における長さDrxを高精度に計算することができる。
【0038】
図5において、これらのステップゲージ10および基準ブロックゲージ20は、恒温槽30内に平行に設置される。
これらのステップゲージ10および基準ブロックゲージ20を支持するために、恒温槽30内には剛性の高い底板32が設置され、その上面には測定対象物支持台80および基準ゲージ支持台90が設置されている。
【0039】
測定対象物支持台80は、第1表面11側の測定対象物第1支持台81と、第2表面12側の測定対象物第2支持台82とで構成されている。
基準ゲージ支持台90は、第1基準表面21側の基準ゲージ第1支持台91と、第2基準表面22側の基準ゲージ第2支持台92とで構成されている。
【0040】
〔線膨張係数の測定動作〕
図6に、線膨張係数測定装置1を用いてステップゲージ10の線膨張係数αを測定する手順が示されている。
測定開始にあたっては、先ず、線膨張係数測定装置1として三次元測定機40に恒温槽30を固定し、恒温槽30の内部にステップゲージ10および基準ブロックゲージ20を設置する(処理S1)。
【0041】
恒温槽30の内部にステップゲージ10および基準ブロックゲージ20を設置する際には、先ず、測定対象物第1支持台81および測定対象物第2支持台82を設置し、これらによりステップゲージ10を支持する。次に、ステップゲージ10を跨ぐように、基準ゲージ第1支持台91および基準ゲージ第2支持台92を設置し、これらにより基準ブロックゲージ20を支持する。
【0042】
図7に示すように、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20を設置する際には、各々の延伸方向Lt,Lrの位置を調整し、各々の第2表面12と第2基準表面22とが同一平面となるようにしておく。
ここで、基準ブロックゲージ20の長さDrxは、ステップゲージ10の長さDxよりも凸部13の長さ
Dp分短く設定されているので、第2基準表面22と第2表面12とを揃えた際には、第1基準表面21は凸部13の長さDx分だけ第1表面11に届かず、第1表面11に最寄りの凸部13は上面側を基準ブロックゲージ20で覆われない状態とされる。
【0043】
図6に戻って、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の設置(処理S1)ができたら、三次元測定機40に測定長さ(ステップゲージ10の長さDx)を入力する(処理S2)。
次に、線膨張係数αの測定に用いる所定の異なる温度で、それぞれステップゲージ10の長さの比較測定動作を実行する(処理S3~S12)。
先ず、測定用開口31を全て閉じた状態で、恒温槽30の設定温度を第1温度t1に変更する(処理S3)。そうすると、恒温槽
30内の空気の温度は徐々に加熱され、この空気によってステップゲージ10は間接的に加熱される。
次に、ステップゲージ10の温度を第1温度t1まで速やかに上昇させるために、測定対象物温度変更素子50による加熱を行う。
【0044】
測定対象物温度変更素子50による加熱では、先ず、測定対象物温度変更素子50の設定温度を第1温度t1に、閾値温度をΔtに設定する(処理S4)。
次に、ステップゲージ10の測定温度ts1と、第1温度t1との差が閾値温度Δt以上、すなわちt1-ts1≧Δtとなっているかを判定する(処理S5)。
判定の結果、閾値温度Δt以上と判定された場合、測定対象物温度変更素子50の運転を開始して、ステップゲージ10を直接的に加熱する(処理S6)。また、閾値温度Δt未満と判定された場合は、後述する処理S9に移行する。
【0045】
ここで、測定対象物温度変更素子50の出力は、温度調整機構70の出力調整機能により、ステップゲージ10の測定温度ts1と第1温度t1との差に応じて調整される。つまり、測定温度ts1と第1温度t1との差が大きい場合は出力が高くされ、差が小さくなるにつれて出力が低下される。そして、ステップゲージ10の測定温度ts1と第1温度t1との差が閾値温度Δt未満、すなわちt1-ts1<Δtとなっているかを判定し(処理S7)、閾値温度Δt未満と判定された場合、温度調整機構70の過剰加熱防止機能により、測定対象物温度変更素子50の運転を停止する(処理S8)。つまり、測定温度ts1と第1温度t1との差が閾値温度Δt未満となるまで出力を調整しながら測定対象物温度変更素子50の運転を継続する。これにより、ステップゲージ10の温度を速やかに第1温度t1まで上昇させることができる。
【0046】
測定対象物温度変更素子50の運転停止後も、恒温槽30内の空気による加熱は継続される。これにより、ステップゲージ10は、測定温度ts1が第1温度t1になるまで間接的に加熱される(処理S9)。
次に、測定温度ts1が第1温度t1となったら、ステップゲージ10の内部温度を安定させるため、事前に設定された待機時間Tmだけ待機する(処理S10)。経験的に、このTmには30分程度の時間が設定される。
【0047】
処理S10により、ステップゲージ10の内部温度が安定化したら、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の座標系決定を行う(処理S11)。
具体的には、
図1および
図5に示すように、第1表面11側の測定用開口31を開き、三次元測定機40のプローブ46を導入する。そして、
図8に示すように、ステップゲージ10の第1表面11を3点以上接触して位置および傾きを検出する。さらに、第1表面11が設定された凸部13の上面および一方の側面のいずれかにおいて、2点以上接触して軸の向き、および残りの面上の1点以上接触して位置および傾きを検出する。これにより、第1表面11の中心位置の三次元座標と、ステップゲージ10の延伸方向Ltの向きが取得される。なお、三次元座標および向きが決定されれば、座標系決定の方法はどのような方法を用いても良い。
【0048】
同様に、プローブ46により基準ブロックゲージ20の第1基準表面21と、隣接する上面および側面の接触検出を行い、第1基準表面21の中心位置の三次元座標と、基準ブロックゲージ20の延伸方向Lrの向きを取得する。
さらに、第2表面12側の測定用開口31を通してプローブ46を導入し、ステップゲージ10の第2表面12および基準ブロックゲージ20の第2基準表面22の測定を行い、第2表面12および第2基準表面22の中心位置の三次元座標を取得しておく。
【0049】
図6に戻って、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の座標系決定ができたら、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の寸法の比較測定を行う(処理S12)。
具体的には、処理S11による座標系のもとで、第1表面11の中心位置と第1基準表面21の中心位置との距離、第2表面12の中心位置と第2基準表面22の中心位置との距離に基づいて、第1基準表面21と第2基準表面22との距離(基準ブロックゲージ20の長さDrx)から計算を行うことで、第1表面11と第2表面12との距離(長さDxの正確な値)を比較測定することができる。
【0050】
以上により、第1温度t1での第1表面11と第2表面12との距離の比較測定ができたら、第2温度t2での比較測定動作の有無を判定し(処理S13)、第2温度t2で前述した比較測定動作(処理S3~S12)を繰り返す。
これらにより、第1温度t1での長さDx1と、第2温度t2での長さDx2とが得られるので、ステップゲージ10の長さをDとして、ステップゲージ10の第1表面11と第2表面12との間の区間の線膨張係数α=[(Dx1-Dx2)/D]/(t1-t2)として計算することができる(処理S14)。なお、長さDは、一般には工業標準温度20℃における公称長さを用いるが、測定した長さDx1、長さDx2のいずれか、または平均値としてもよく、いずれの場合も熱変形ΔD=(Dx1-Dx2)に対して十分大きいので線膨張係数αの計算には影響するものではない。
【0051】
〔第1実施形態の効果〕
このような本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
本実施形態では、ステップゲージ10を測定対象物温度変更素子50により直接的に加熱するとともに、恒温槽30によって間接的に加熱するため、ステップゲージ10の温度が設定された温度で均一に安定化するまでの時間を短縮でき、ステップゲージ10の線膨張係数αを短時間で高精度に測定することができる。
【0052】
本実施形態では、測定対象物温度変更素子50が、ステップゲージ10の一対の側面の、ステップゲージ10の延伸方向Lrの中心軸線に対して対称な位置に取り付けられているため、ステップゲージ10全体を均一に加熱することができる。このため、ステップゲージ10の温度が設定された温度で均一に安定化するまでの時間を短縮でき、ステップゲージ10の線膨張係数αを短時間で高精度に測定することができる。
【0053】
本実施形態では、温度調整機構70の出力調整機能により、ステップゲージ10の測定温度ts1と設定温度との差に応じて測定対象物温度変更素子50の出力が調整されるため、ステップゲージ10の温度が設定された温度に変更するまでの時間を短縮でき、ステップゲージ10の線膨張係数αを短時間で高精度に測定することができる。
また、本実施形態では、温度調整機構70の過剰加熱防止機能により、測定対象物温度変更素子50は、ステップゲージ10の測定温度ts1と設定温度との差が閾値温度Δt未満になった時点で運転を停止する。これにより、ステップゲージ10が過剰に加熱されることを防止でき、設定された温度に安定化するまでの時間を短縮できる。
さらに、本実施形態では、測定対象物温度変更素子50として熱容量の小さいシートヒータを採用することにより、運転停止後においてステップゲージ10の温度に与える影響を小さくでき、ステップゲージ10の温度が設定された温度に安定化するまでの時間を短縮できる。
【0054】
本実施形態では、三次元測定機40を用いてステップゲージ10の長さを測定する際に、長さの基準として基準ブロックゲージ20を用い、この基準ブロックゲージ20に対する長さの比較測定を行う。このため、長さ測定の結果は、三次元測定機40のスケールの精度に依存せず、専ら基準ブロックゲージ20の精度に依存することになり、ステップゲージ10の長さ測定を高精度に行うことができる。
【0055】
〔第2実施形態〕
図9および
図10には、本発明の第2実施形態の基準ブロックゲージ20Aが示されている。
本実施形態において、基準ブロックゲージ20Aに係る構成以外の構成は、線膨張係数測定装置1をはじめとして、前述した第1実施形態と共通である。従って、以下には相違する部分についてのみ説明する。
【0056】
図9および
図10に示すように、基準ブロックゲージ20Aには、ステップゲージ10と同様の位置に、基準ゲージ温度変更素子51および基準ゲージ温度計61が取り付けられている。つまり、基準ブロックゲージ20Aの一対の側面の、第1基準表面21A近傍と第2基準表面22A近傍とに基準ゲージ温度変更素子51が取り付けられ、中間付近に基準ゲージ温度計61が取り付けられている。
【0057】
基準ゲージ温度変更素子51は、測定対象物温度変更素子50と同様に、熱容量の小さいシートヒータであり、シートヒータの加熱により基準ブロックゲージ20Aの温度を上昇させる。
基準ゲージ温度計61は、基準ブロックゲージ20Aの表面温度を測定するものであり、それぞれの基準ゲージ温度計61における測定結果の平均値を測定温度ts2として検出する。
本実施形態では、基準ゲージ温度変更素子51および基準ゲージ温度計61には、温度調整機構70が接続されており、温度調整機構70は基準ゲージ温度変更素子51の出力調整機能および過剰加熱防止機能を有している。
【0058】
このような本実施形態において、前述した第1実施形態と同様の手順により、ステップゲージ10と同程度の時間で、基準ブロックゲージ20Aの温度を設定温度に上昇させることができる。これにより、第1温度t1と第2温度t2における基準ブロックゲージ20Aの熱膨張を踏まえて、ステップゲージ10の線膨張係数αを測定できるため、より高精度な測定を確保できる。
【0059】
〔変形例〕
本発明は、前述した各実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれるものである。
例えば、前述した各実施形態では、測定対象物温度変更素子50および基準ゲージ温度変更素子51としてシートヒータを採用していたが、これに限らず、テープ状ヒータやマントルヒータを採用することができる。また、上記のような加熱手段に限らず、水冷循環式冷却器のような冷却手段を採用することもできる。さらに、ペルチェ素子のような加熱冷却手段を採用しても良い。
【0060】
前述した各実施形態では、測定対象物温度変更素子50を、ステップゲージ10の一対の側面の、ステップゲージ10の延伸方向Ltの中心軸線に対して対称な位置に取り付けていたが、これに限らず、例えば、ステップゲージ10の中心点に対して反対側となる位置に取り付けてもよく、ステップゲージ10を均一に加熱できる位置に取り付けられていれば良い。
【0061】
前述した各実施形態では、温度調整機構70の出力調整機能により、測定対象物温度変更素子50の出力を、ステップゲージ10の測定温度ts1と第1温度t1との差に応じて調整していたが、これに限らず、例えば、測定対象物温度変更素子50に設定された設定温度に応じて調整しても良い。さらに、測定対象物温度変更素子50の出力を調整せず、一定にすることもできる。この場合、温度調整機構70の出力調整機能は不要となる。
【0062】
前述した各実施形態では、ステップゲージ10の測定温度ts1と第1温度t1との差が事前に設定された閾値温度Δt未満と判定された場合、温度調整機構70の過剰加熱防止機能により、測定対象物温度変更素子50の運転を停止していたが、これに限らず、例えば、ステップゲージ10の測定温度ts1が第1温度t1となった場合に、測定対象物温度変更素子50の運転を停止するようにしても良い。この場合、温度調整機構70の過剰加熱防止機能は不要となる。
【0063】
前述した各実施形態では、測定対象物温度変更素子50および測定対象物温度計60は、出力調整機能および過剰加熱防止機能を有する温度調整機構70に接続していたが、これに限らず、例えば、三次元測定機40の制御部にこれらの機能を持たせ、この制御部と接続することにより、測定対象物温度変更素子50の出力調整や、過剰加熱の防止を可能としても良い。この場合、温度調整機構70を別途設ける必要はない。
【0064】
前述した各実施形態では、ステップゲージ10の表面の測定温度ts1が設定温度で安定するのを確認した後、ステップゲージ10の内部温度を安定させるために、事前に設定された時間Tmだけ待機していたが、これに限らず、例えば、測定対象物温度計60としてステップゲージ10の内部温度を測定可能な温度計を採用することにより、内部温度を安定化させるための待機時間Tmを省略できる。つまり、測定対象物温度計60によりステップゲージ10の内部温度を測定し、内部の測定温度ts1が設定温度で安定化するのを確認した後、待機時間Tmを経ることなく座標系決定を行うことができる。
【0065】
前述した各実施形態では、第1温度t1および第2温度t2の2種類の温度でステップゲージ10の長さを測定して線膨張係数αを計算していたが、これに限らず、例えば、3種類以上の温度でステップゲージ10の長さを測定して線膨張係数αを計算しても良い。この場合、それぞれの温度におけるステップゲージ10の長さの測定結果を用いて回帰直線を求め、その傾きから線膨張係数αを算出しても良い。
また、線膨張係数αは温度特性を有するため、3種類以上の温度におけるステップゲージ10の長さの測定結果に対して多項式を与えたものから線膨張係数α、もしくは線膨張係数αを算出する関数式を導き出しても良い。
【0066】
前述した各実施形態では、ステップゲージ10を測定対象物としていたが、測定対象物としてはブロックゲージあるいは他の寸法基準器であってもよい。
また、基準ゲージとしては、基準ブロックゲージ20に限らず、専用の基準ゲージあるいは測定対象物と同様なステップゲージ10であって高精度に校正されたマスターゲージを用いてもよい。
この際、基準ゲージとしては、第1温度t1と第2温度t2との間の温度変化では精度上膨張を無視しうる極低膨張係数ないしゼロ膨張係数の材質から製造されたもの、または、膨張係数が既知である材質から製造されたもの、のいずれかであることが望ましい。
【0067】
前述した各実施形態では、基準ゲージである基準ブロックゲージ20の第2基準表面22と測定対象物であるステップゲージ10の第2表面12とを同一平面に揃えたが、第1基準表面21と第1表面11とを揃えてもよく、あるいは基準ゲージおよび測定対象物の両端を揃えない配置としてもよい。
ただし、いずれかの端部を揃えることにより、同一平面とした側とは反対側の端部で、基準ゲージと測定対象物との長さの差が最大となり、三次元測定機のプローブによる表面検出を行う際の余裕を最大にすることができる。
【0068】
前述した各実施形態では、ステップゲージ10の長さを基準ブロックゲージ20の寸法に基づいて比較測定していたが、これに限らず、三次元測定機40のスケール測定機能により測定しても良い。ただし、この場合、測定結果に三次元測定機40のスケール精度に起因する誤差を生じるため、好ましくは基準ゲージ等に基づく比較測定を行うのが良い。
【0069】
前述した実施形態では、三次元測定機40によりステップゲージ10の長さを測定していたが、これに限らず、例えば光波干渉計や歪みゲージを用いても良い。この場合、三次元測定機40のプローブ46を恒温槽30内に導入するための測定用開口31は不要となる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、寸法基準器の線膨張係数測定方法および測定装置に利用できる。
【符号の説明】
【0071】
1…線膨張係数測定装置、10…測定対象物であるステップゲージ、11…第1表面、12…第2表面、13…凸部、20,20A…基準ゲージである基準ブロックゲージ、21,21A…第1基準表面、22,22A…第2基準表面、30…恒温槽、31…測定用開口、32…底板、40…三次元測定機、41…定盤、42…コラム、43…クロスバー、44…ヘッド、45…ラム、46…プローブ、50…測定対象物温度変更素子、51…基準ゲージ温度変更素子、60…測定対象物温度計、61…基準ゲージ温度計、70…温度調整機構、80…測定対象物支持台、81…測定対象物第1支持台、82…測定対象物第2支持台、90…基準ゲージ支持台、91…基準ゲージ第1支持台、92…基準ゲージ第2支持台、Dx…測定対象物の長さ、Drx…基準ゲージの長さ、Hr…基準ゲージの高さ方向、Ht…測定対象物の高さ方向、Lr…基準ゲージの延伸方向、Lt…測定対象物の延伸方向、T…温度、Tm…待機時間、t1…第1温度、t2…第2温度、ts1…測定対象物温度計の測定温度、ts2…基準ゲージ温度計の測定温度、Wr…基準ゲージの幅方向、Wt…測定対象物の幅方向、α…線膨張係数、ΔL…長さの変化量、ΔT…温度変化量、Δt…閾値温度。