(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】レチクル、レチクルユニット、光学機器
(51)【国際特許分類】
F41G 1/01 20060101AFI20220104BHJP
F41G 1/027 20060101ALI20220104BHJP
F41G 1/14 20060101ALI20220104BHJP
G02B 23/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
F41G1/01
F41G1/027
F41G1/14
G02B23/00
(21)【出願番号】P 2017110350
(22)【出願日】2017-06-02
【審査請求日】2020-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(73)【特許権者】
【識別番号】501439264
【氏名又は名称】株式会社ニコンビジョン
(74)【代理人】
【識別番号】100156281
【氏名又は名称】岩崎 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100140800
【氏名又は名称】保坂 丈世
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晃一
(72)【発明者】
【氏名】川上 潤
(72)【発明者】
【氏名】富田 賢典
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖彰
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0007486(US,A1)
【文献】米国特許第01302353(US,A)
【文献】米国特許第08541713(US,B1)
【文献】特開2011-017884(JP,A)
【文献】国際公開第2012/057010(WO,A1)
【文献】特開平05-259020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41G 1/01
F41G 1/027
F41G 1/14
G02B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察者が観察対象を視認する際に指標となるパターンが形成されたレチクルにおいて、
前記パターンは、板状の光学部材の少なくとも一方の面に設けられた
凸部を備え、
前記凸部は、前記パターンを構成する線の幅方向に並列して長さ方向に延びる複数の凸条により構成され、
前記レチクルを通して前記観察対象を見たときに、前記観察対象側から前記レチクルに入射した光が、
前記凸部により偏向されることにより前記パターンの像が前記観察者に視認されるように構成したことを特徴とするレチクル。
【請求項2】
前記凸部は、前記レチクルの前側に設けられた光学系を経て
前記凸部に入射した光の少なくとも一部が、前記レチクルの後側に設けられた光学系を出射し得る角度よりも大きな角度で、
前記凸部にて偏向されるように構成したことを特徴とする請求項1に記載のレチクル。
【請求項3】
前記パターンは、幅が異なる線を有し、
前記幅が異なる線は、線幅に応じた複数の
前記凸条により形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のレチクル。
【請求項4】
前記凸条は、前記レチクルの前側に設けられた光学系の光軸に対して傾斜した傾斜面を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のレチクル。
【請求項5】
前記傾斜面の前記光軸に対する傾斜角は、前記レチクルの前側に設けられた光学系を経て前記傾斜面に入射して偏向された光の少なくとも一部が、前記レチクルの後側に設けられた光学系に直接入射し得る第1の所定角度以下であることを特徴とする請求項4に記載のレチクル。
【請求項6】
前記傾斜面の前記光軸に対する傾斜角は、前記レチクルの前側に設けられた光学系を経て前記傾斜面に入射して偏向された光の少なくとも一部が、前記傾斜面と対向する他の傾斜面に入射し得る第2の所定角度以上であることを特徴とする請求項5に記載のレチクル。
【請求項7】
前記傾斜面の前記光軸に対する傾斜角は、21°以上70°以下であることを特徴とする請求項4~6のいずれか一項に記載のレチクル。
【請求項8】
前記凸条を構成する一対の前記傾斜面の間、及び/または隣接する前記凸条の二つの前記傾斜面の間に、前記観察対象側から入射した光を前記観察者が視認し得るように透過する透過面を設けたことを特徴とする請求項4~7のいずれか一項に記載のレチクル。
【請求項9】
前記凸部における前記透過面の構成比率は1%~99%であることを特徴とする
請求項8に記載のレチクル。
【請求項10】
前記透過面は、曲率半径が2μm以上の面であることを特徴とする
請求項8または9に記載のレチクル。
【請求項11】
隣接する前記透過面の間隔及び隣接する前記傾斜面の間隔は、前記観察者が目視したときの間隔が0.1mm以下となるように設定されることを特徴とする
請求項8~10のいずれか一項に記載のレチクル。
【請求項12】
前記凸部における前記透過面の構成比率は、前記パターンを構成する線の幅方向の位置によって異なることを特徴とする
請求項8~11のいずれか一項に記載のレチクル。
【請求項13】
前記透過面の構成比率は、前記パターンを構成する線の幅方向中央部の構成比率が高く、幅方向外側の構成比率が低いことを特徴とする
請求項12に記載のレチクル。
【請求項14】
前記凸部における前記透過面の構成比率は、前記パターンを構成する線の長さ方向の位置によって異なることを特徴とする
請求項8~13のいずれか一項に記載のレチクル。
【請求項15】
前記透過面の構成比率は、前記パターンの中心に位置する部分の構成比率が高く、外側に位置する部分の構成比率が低いことを特徴とする
請求項14に記載のレチクル。
【請求項16】
前記レチクルは、型を用いた成形加工に好適な材料で構成されることを特徴とする
請求項1~15のいずれか一項に記載のレチクル。
【請求項17】
前記レチクルは、樹脂材料により構成されることを特徴とする
請求項16に記載のレチクル。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載のレチクルに、さらに前記光学部材のいずれか一方の面に少なくとも構成面の一部を反射面とする反射部が形成されたレチクルと、
前記反射部の側方に配置されて光を放射する光源と、
前記光源と前記反射部との間に配設されて前記光源から放射された光を集光して前記反射面に導く集光部とを備え、
前記光源から放射され前記集光部により集光されて前記反射面で反射された光を前記光学部材の他方の面から出射させて、前記パターンの像とともに視認されるように構成したことを特徴とするレチクルユニット。
【請求項19】
前記パターンは少なくとも延長線が交差する2本の前記線を有し、
前記反射部は前記延長線を含む前記2本の線の交点に設けられ、
前記集光部は、前記光源から放射された光を前記2本の線に挟まれた角度位置から前記反射面に導くことを特徴とする
請求項18に記載のレチクルユニット。
【請求項20】
前記パターンは少なくとも延長線が前記光学部材の中心部で直角に交差する2本の前記線を有し、
前記反射部は前記光学部材の中心部に設けられ、
前記集光部は、前記光源から放射された光を前記2本の線に対して略45°の角度位置から前記反射面に導くことを特徴とする
請求項18に記載のレチクルユニット。
【請求項21】
対物レンズと、
前記対物レンズにより形成される前記観察対象の像若しくは前記観察対象の像と略共役な位置に、
前記凸部が設けられた面が配置された
請求項1~17のいずれか一項に記載のレチクルまたは
請求項18~20のいずれか一項に記載のレチクルユニットと、
前記観察対象の像及び
前記凸部により形成される前記パターンの像を重ね合わせて観察する接眼レンズと
を有することを特徴とする光学機器。
【請求項22】
観察者が観察対象を視認する際に指標となるパターンが形成されたレチクルにおいて、
前記パターンは、板状の光学部材の少なくとも一方の面に設けられた凹部を備え、
前記凹部は、前記パターンを構成する線の幅方向に並列して長さ方向に延びる複数の溝により構成され、
前記パターンは幅が異なる線を有し、前記幅が異なる線は線幅に応じた複数の前記溝により形成され、
前記レチクルを通して前記観察対象を見たときに、前記観察対象側から前記レチクルに入射した光が、前記凹部により偏向されることにより前記パターンの像が前記観察者に視認されるように構成したことを特徴とするレチクル。
【請求項23】
前記溝は、前記レチクルの前側に設けられた光学系の光軸に対して傾斜した傾斜面を有することを特徴とする請求項22に記載のレチクル。
【請求項24】
前記溝を構成する一対の前記傾斜面の間、及び/または隣接する前記溝の二つの前記傾斜面の間に、前記観察対象側から入射した光を前記観察者が視認しうるように透過する透過面を設けたことを特徴とする
請求項23に記載のレチクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察者が観察対象を視認する際に指標となるパターンが形成されたレチクル、レチクルユニット、及び該レチクルまたはレチクルユニットを備えた光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなレチクルを備えた光学機器として、ライフルスコープ、フィールドスコープ、測量機器、望遠鏡、顕微鏡などが例示される。例えば、ライフルスコープに代表される射撃照準用スコープ(以下、「ライフルスコープ」と呼ぶ)では、目標を狙うための十字線や弾丸降下補正線、ドット、若しくはこれらが複合されたパターンが形成されたレチクルが用いられている。このようなレチクルは、一般的に薄い光学ガラスを基板とし、ガラス基板上に2本のワイヤーを十字状に張り渡して接着したり、ガラス基板に溝を掘ってインクを固着したり、電鋳で十字線を形成したりする等により、入射光を遮光してパターンの像が視認されるように構成されていた(例えば、特許文献1~3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-285598号公報
【文献】特開2009-174845号公報
【文献】米国特許第1302353号明細書
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記のような従来のレチクルにはそれぞれ課題があった。例えば、2本のワイヤーを十字状に張り渡すような構成のレチクルでは、十字線の線幅を途中で大きく変化させることが困難であった。また、電鋳では外周の円環に繋がる十字線については線幅を含めて比較的自由に形成できるが、弾丸降下補正線やドット、記号のように線の端部または図形全体が宙に浮いたようなパターンを形成することは困難であった。
【0005】
上記課題を解決する第1の態様は、観察者が観察対象を視認する際に指標となるパターン(例えば、実施形態におけるレチクルパターン32)が形成されたレチクルである。このレチクルでは、パターンは板状の光学部材の少なくとも一方の面に設けられた凸部を備え、凸部は、パターンを構成する線(例えば、実施形態におけるパターン線32a,32b)の幅方向に並列して長さ方向に延びる複数の凸条により構成され、レチクルを通して観察対象を見たときに、観察対象側からレチクルに入射した光が凸部により偏向されることによってパターンの像が視認されるように構成される。
【0006】
なお、前記の凸部は、前記レチクルの前側に設けられた光学系を経て凸部に入射した光の少なくとも一部が、レチクルの後側(観察者側)に設けられた光学系(例えば、実施形態における接眼レンズ4)を出射し得る角度よりも大きな角度で、凸部にて偏向されるように構成することができる。
【0007】
また、前記のパターンは幅が異なる線(例えば、実施形態におけるパターン線32a,32b)を有し、この幅が異なる線は線幅に応じた複数の前記凸条により形成することができる。
【0008】
また、前記の凸条は、前記レチクルの前側(観察対象側)に設けられた光学系(例えば、実施形態における正立レンズ2)の光軸に対して傾斜した傾斜面を有して構成することができる。ここで、傾斜面の光軸に対する傾斜角は、レチクルの前側に設けられた光学系を経て傾斜面に入射して偏向された光の少なくとも一部が、レチクルの後側に設けられた光学系に直接入射し得る第1の所定角度(例えば、実施形態における第1所定角度α1/2)以下とすることができる。また、傾斜面の光軸に対する傾斜角は、レチクルの前側に設けられた光学系を経て傾斜面に入射して偏向された光の少なくとも一部が、傾斜面と対向する他の傾斜面に入射し得る第2の所定角度(例えば、実施形態における第2所定角度α2/2)以上とすることができる。例えば、傾斜面の光軸に対する傾斜角は21°以上70°以下とすることができる。
【0009】
なお、前記凸条を構成する一対の傾斜面の間、及び/または隣接する前記凸条の二つの傾斜面の間に、観察対象側から入射した光を観察者が視認し得るように透過する透過面を設けることができる。
【0010】
前記凸部における透過面の構成比率は1%~99%とすることができる。透過面は曲率半径が2μm以上の面とすることができ、隣接する透過面の間隔及び隣接する傾斜面の間隔は観察者が目視したときの間隔が0.1mm以下となるように設定することができる。前記透過面の構成比率は、パターンを構成する線の幅方向の位置によって異なるように設定することができ、例えば、パターンを構成する線の幅方向中央部の構成比率を高く、幅方向外側の構成比率を低く設定することができる。また、前記透過面の構成比率は、パターンを構成する線の長さ方向の位置によって異なるように設定することができる。例えば、パターンの中心に位置する部分の構成比率を高く、外側に位置する部分の構成比率を低く設定することができる。
【0011】
以上のレチクルは、型を用いた成形加工に好適な材料で構成することができ、樹脂材料により一体に構成することは好ましい態様の一つである。
【0012】
本発明を例示する第2の態様はレチクルユニットである。このレチクルユニットは、以上に記載したいずれかのレチクルに、さらに光学部材のいずれか一方の面に少なくとも構成面の一部を反射面とする反射部が形成されたレチクルと、反射部の側方に配置されて光を放射する光源と、光源と反射部との間に配設されて光源から放射された光を集光して反射面に導く集光部とを備え、光源から放射され集光部により集光されて反射面で反射された光を光学部材の他方の面から出射させて、パターンの像とともに視認されるように構成される。ここで、本明細書において「集光する」とは、光源から出射した発散光を集めて略平行光若しくは収斂光にすることをいう。
【0013】
なお、前記のパターンは少なくとも延長線が交差する2本の前記線を有し、反射部はこの延長線を含む2本の線の交点に設けられ、集光部は光源から放射された光を2本の線に挟まれた角度位置から反射面に導くように構成することができる。
【0014】
また、前記のパターンは少なくとも延長線が光学部材の中心部で直角に交差する2本の線を有し、反射部は光学部材の中心部に設けられ、集光部は光源から放射された光を2本の線に対して略45°の角度位置から反射面に導くように構成することができる。
【0015】
本発明を例示する第3の態様は光学機器である。この光学機器は、対物レンズと、対物レンズにより形成される観察対象の像若しくはこの像と略共役な位置に、前記の凸部及び/または凹部が設けられた面が配置された上記いずれかのレチクルまたはレチクルユニットと、観察対象の像及び凸部及び/または凹部により形成されるパターンの像を重ね合わせて観察する接眼レンズとを有して構成される。
【0016】
本発明を例示する他の態様は、観察者が観察対象を視認する際に指標となるパターン(例えば、実施形態におけるレチクルパターン32)が形成されたレチクルであって、パターンは板状の光学部材の少なくとも一方の面に設けられた凹部を備え、凹部はパターンを構成する線の幅方向に並列して長さ方向に延びる複数の溝により構成され、パターンは幅が異なる線(例えば、実施形態におけるパターン線32a,32b)を有し、幅が異なる線は線幅に応じた複数の溝により形成され、レチクルを通して観察対象を見たときに、観察対象側からレチクルに入射した光が、凹部により偏向されることによってパターンの像が観察者に視認されるように構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所望のパターンが形成可能な新たな構成のレチクル、レチクルユニット、及びこのようなレチクルまたはレチクルユニットを備えた新たな光学機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】光学機器の一例であるライフルスコープの構成を示す説明図である。
【
図2】レチクルパターンを説明するための説明図であって、(a)はレチクルの斜視図、(b)はレチクルパターン形成面側から見た図である。
【
図3】第1実施形態における第1構成形態のレチクルを説明するための説明図であり、(a)(b)はパターン線に垂直な面でレチクルを切断した模式的な断面図である。
【
図4】パターン線の部分を拡大した顕微鏡写真である。
【
図5】観察対象側からレチクルの凸部に入射した光の出射状況を説明するための説明図である。
【
図6】第1実施形態における第2構成形態のレチクルを説明するための説明図であり、(a)(b)はパターン線に垂直な面でレチクルを切断した模式的な断面図である。
【
図7】第1実施形態における第3構成形態のレチクルを説明するための説明図であり、パターン線に垂直な面でレチクルを切断した模式的な断面図である。
【
図8】傾斜面の傾斜角度について説明するための説明図である。
【
図9】第2実施形態における第1構成形態のレチクルを説明するための説明図であり、パターン線に垂直な面でレチクルを切断した模式的な断面図である。
【
図10】パターン線と観察対象Tとが重なった状況で、これらの像が観察者にどのように認識されるかを説明するための説明図であり、(a)は第1実施形態のレチクル30Aの場合、(b)は第2実施形態のレチクル30Bの場合である。
【
図11】第2実施形態における第2構成形態のレチクルを説明するための説明図であり、パターン線に垂直な面でレチクルを切断した模式的な断面図である。
【
図12】第2実施形態における第3構成形態のレチクルを説明するための説明図であり、パターン線に垂直な面でレチクルを切断した模式的な断面図である。
【
図13】透過面の構成比率を変化させたときの、観察対象とパターン線の見え方を模式的に示した説明図である。
【
図14】透過面の構成比率をパターン線の幅方向の位置によって異なる比率とした構成を例示する説明図である。
【
図15】透過面の構成比率をパターン線の長さ向の位置によって異なる比率とした構成を例示する説明図である。
【
図16】透過面に曲率を設けた場合の構成を例示する説明図である。
【
図17】レチクルユニットの構成を説明するための説明図であり、照明光の光路を示す説明図である。
【
図18】第3実施形態として示すレチクルユニットの構成を説明するための説明図であり、レチクルのパターン形成面に形成される反射部の斜視図である。
【
図19】上記レチクルユニットの構成を説明するための説明図であり、レチクルパターンに対する照明光の投射状態を示すレチクルユニットの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係るレチクルが用いられる光学機器の一例として、
図1にライフルスコープRSの概要構成を示すとともに、
図2にライフルスコープに用いられるレチクルの構成例を示しており、まずこれらの図面を参照して、ライフルスコープRSの概要から説明する。ライフルスコープRSは、観察対象側から順に、対物レンズ1と、正立レンズ2と、レチクルユニット3と、接眼レンズ4とを有して構成される。対物レンズ1、正立レンズ2、接眼レンズ4は、それぞれ単一のレンズまたは複数のレンズ(レンズ群)により構成することができる。本明細書においては、
図1及び
図2の図中に座標軸を示すように、ライフルスコープRSの光軸方向をz軸とする。そしてz軸に垂直に交わる面内で直交する2方向をx軸及びy軸とし、
図1における紙面に垂直な方向をx軸、紙面に沿った方向をy軸とする。
【0020】
対物レンズ1は、観察対象側からの光を集光して観察対象の倒立像(一次像)IM1を形成し、また、正立レンズ2は、対物レンズ1により形成された倒立像である一次像IM1を正立像である二次像IM2に変換する。そして、対物レンズ1の一次像IM1と共役な位置に二次像IM2と略一致するように、レチクルユニット3のレチクル30が配置されている。なお、レチクルユニット3のレチクル30は、一次像IM1と略一致するように配置されていてもよい。
【0021】
レチクル30は、可視領域を含む所望波長の光を透過する円板状の光学部材31を主体とし、この光学部材31の一方の面31aに、標的に狙いを合わせる際に指標となるレチクルパターン32が形成されている。レチクルパターンには様々な形態があるが、本実施形態では、光学部材31の中心部から周縁部に向かってx軸方向及びy軸方向に延びる十字線状のレチクルパターン32を形成した構成を示す。また、x軸方向に延びるパターン線及びy軸方向における中心から下方に延びるパターン線は、中心近傍のパターン線を細く(線幅を狭く)外側のパターン線を太く(線幅を広く)し、y軸方向における中心から上方に延びるパターン線を細くした構成を例示する。細いパターン線をパターン線32a、太いパターン線をパターン線32bと表記する。パターン線32a,32bの具体的な線幅はレチクルの用途や機能、観察者の好みなどにより様々であるが、ライフルスコープ用のレチクルの場合には、細いパターン線32aの線幅は5~50μm程度、太いパターン線32bの線幅は50~250μm程度の範囲で設定される。
【0022】
レチクル30は、x軸方向及びy軸方向に延びるパターン線の交点がライフルスコープRSの光軸Zに略一致するように配置される。また、レチクル30は、レチクルパターン32が形成された面(以下、「パターン形成面」という)31aが、正立レンズ2により形成される二次像IM2(または対物レンズ1により形成される一次像IM1)と略一致するように配置され、パターン形成面31aは接眼レンズ4の物体側焦点面と略一致している。そのため、観察者が接眼レンズ4側からレチクル30を通して観察対象を見たときに、観察対象の二次像IM2(または一次像IM1)とレチクルパターン32の像とが重畳して視認される。これにより、標的である観察対象(ターゲット)に対してライフルスコープRSの光軸Zを正確に合わせ、ターゲットに照準を合わせることができるようになっている。
【0023】
レチクル30において、レチクルパターン32は、レチクル30の基材ないし基板である光学部材31の少なくともパターン形成面31aに設けられた凸部及び/または凹部により構成される。凸部は、レチクルパターン32を構成する線の幅方向に並列して長さ方向に延びる複数の凸条により構成され、凹部は、レチクルパターン32を構成する線の幅方向に並列して長さ方向に延びる複数の溝により構成される。そして、レチクル30を通して観察対象を見たときに、観察対象側からレチクル30に入射した光が、凸部及び/または凹部により偏向されて、レチクルパターン32の像が視認されるように構成される。以下、このような特徴を有するレチクル30の実施形態について説明する。
【0024】
[第1実施形態]
第1実施形態のレチクル30Aについて、本実施形態に含まれる第1構成形態のレチクル30A
1を例示する
図3~
図5を参照して説明する。ここで、
図3(a),(b)は、パターン線32a,32bに垂直に交わる面でレチクル30A
1を切断した模式的な断面図、
図4はパターン線32a,32bの部分を拡大した顕微鏡写真、
図5は観察対象側からレチクル30A
1の凸部に入射した光の出射状況を説明するための説明図である。
【0025】
第1構成形態のレチクル30A1は、レチクルパターン32のパターン線32a,32bが、光学部材31のパターン形成面31aに設けられた凸部33a,33bにより構成される。凸部33aは線幅が狭いパターン線32aに対応し、凸部33bは線幅が広いパターン線32bに対応する。凸部33a及び凸部33bは、ともに、パターン線の幅方向に並列しパターン線の長さ方向に延びる複数の微細な凸条(ridge)133,133,133…により構成される。換言すれば、凸部33a,33bは、パターン線の線幅よりも幅が狭い複数の凸条133により構成される。各凸条133は、パターン線に直交方向の断面形状がパターン形成面31aから観察対象側に突出する三角プリズム状で、パターン線の長さ方向に延びて形成される。
【0026】
凸条133を構成する二つの傾斜面140,140の光軸Zに対する傾斜角度は、各傾斜面に入射して屈折により偏向し、パターン形成面31aに対向する光学部材の他方の面(以下、「対向面」という)31bから出射する光の少なくとも一部が、レチクル30A1の後側に設けられる接眼レンズ4を透過する角度よりも大きくなるように設定される。端的には、凸条133,133,133…により偏向されてレチクル30A1から出射する光が、接眼レンズ4を透過して観察者の眼に入射しないように設定される。
【0027】
凸部33a,33bは、パターン線の線幅に応じた本数の凸条133で構成することができる。すなわち、線幅が狭いパターン線32aを形成する凸部33aは、少ない本数の凸条133で構成し、線幅が広いパターン線32bを形成する凸部33bは、多い本数の凸条133で構成することができる。
図4に示すパターン線の構成例では、線幅がwの狭いパターン線32aの凸部33aを5本の凸条133で構成し、線幅が5wの広いパターン線32bの凸部33bは25本の凸条133で構成している。本構成例における個々の凸条133の幅は約10μmである。
【0028】
このような構成のレチクル30A
1を備えたライフルスコープRSでは、観察対象側(
図3における左側)からパターン形成面31aに入射した光が、凸条133,133,133…の傾斜面140で屈折し、ライフルスコープRSの光軸Zから離間する方向に偏向されて、光学部材の対向面31bから出射する。このとき、光学部材の対向面31bから出射する光の出射角度は、接眼レンズ4を透過し得る出射角度よりも大きいため接眼レンズ4から観察者の眼に入射しない。傾斜面140で屈折し対向面31bから出射した光(便宜的に、「偏向光」という)は、例えば
図5に示すように、レチクル30A
1や接眼レンズ4等を保持する鏡筒の内周面に吸収される。そのため、接眼レンズ4側から標的となる観察対象を目視する観察者には、凸部33a,33bが設けられた部分からの光が見えず、パターン線32a,32bが暗黒の線として視認されてレチクルパターン32の像が明瞭に観察される。
【0029】
本実施形態のレチクル30A1においては、1本のパターン線が、線幅に応じた複数の凸条133により構成される。そのため、凸部33a,33bを単一の凸条で構成した場合と比較して、パターン形成面31aから突出する凸部の高さを大幅に抑制することができる。これにより、レチクルの厚さを薄く構成できるとともに、凸部33a,33bの損傷を抑制して保管時や組み付け時等の取り扱いが容易なレチクルを提供することができる。さらに、パターン線32a,32bを線幅に比例した本数の凸条133で構成すれば(単位線幅当たりの凸条の形成密度を同一とすれば)、線幅によらずコントラストが均一なレチクルパターンを得ることができる。
【0030】
本実施形態に含まれる第2構成形態のレチクル30A
2について説明する、レチクル30A
2は、第1構成形態のレチクル30A
1における凸条をV溝(V字状の溝)とした構成形態である。
図6(a),(b)は、
図3(a),(b)に対応し、パターン線32a,32bに垂直に交わる面でレチクル30A
1を切断した模式的な断面図である。
【0031】
レチクル30A2では、レチクルパターン32のパターン線32a,32bが、光学部材のパターン形成面31aに形成された凹部34a,34bにより構成される。凹部34aは線幅が狭いパターン線32aに対応し、凹部34bは線幅が広いパターン線32bに対応する。凹部34a及び凹部34bは、ともに、パターン線の幅方向に並列しパターン線の長さ方向に延びる複数の微細なV溝134,134,134…により構成される。すなわち、凹部34a,34bは、パターンの線幅よりも幅が狭い複数のV溝134により構成される。各V溝134は、パターン線に直交する方向の断面形状がパターン形成面31aに向けて開くV字状で、パターン線の長さ方向に延びて形成される。
【0032】
V溝134を構成する二つの傾斜面140,140の光軸Zに対する傾斜角度は、各傾斜面に入射して屈折により偏向し、対向面31bから出射する偏向光の少なくとも一部が、レチクルの後側に設けられる接眼レンズ4を透過する角度よりも大きくなるように設定される。端的には、V溝134,134,134…により偏向されてレチクル30A1から出射する光が、接眼レンズ4を透過して観察者の眼に入射しないように設定される。
【0033】
凹部34a,34bは、パターン線の線幅に応じた本数のV溝134で構成することができる。すなわち、線幅が狭いパターン線32aを形成する凹部34aは、少ない本数のV溝134構成し、線幅が広いパターン線32bを形成する凹部34bは、多い本数のV溝134で構成することができる。例えば、線幅がwの狭いパターン線32aの凹部34aを3本のV溝134で構成し、線幅が4wの広いパターン線32bの凹部34bを12本のV溝134で構成する。
【0034】
このような構成のレチクル30A2を備えたライフルスコープRSにおいても、観察対象側からパターン形成面31aに入射した光が、V溝134,134,134…の傾斜面140で屈折し、ライフルスコープの光軸Zから離間する方向に偏向されて、光学部材の対向面31bから出射する。このとき、光学部材の対向面31bから出射する偏向光の出射角度は、接眼レンズ4を透過し得る出射角度よりも大きいため接眼レンズ4から観察者の眼に入射しない。そのため、接眼レンズ4側から標的となる観察対象を目視する観察者には、凹部34a,34bが設けられた部分からの光が見えず、パターン線32a,32bが暗黒の線として視認されてレチクルパターン32の像が明瞭に観察される。
【0035】
レチクル30A2においては、1本のパターン線が、線幅に応じた複数のV溝134により構成される。このため、凹部を単一のV溝で構成した場合と比較して、凹部の深さを大幅に抑制することができ、これにより、レチクルの厚さを薄くできるとともに、発射時の衝撃や外力に対する抗力を向上させたレチクルを提供することができる。さらに、パターン線32a,32bを線幅に比例した本数のV溝134で構成すれば(単位線幅当たりのV溝の形成密度を同一とすれば)、線幅によらずコントラストが均一なレチクルパターンを得ることができる。
【0036】
本実施形態に含まれる第3構成形態のレチクル30A
3では、パターン線32a,32bは、光学部材のパターン形成面31aに設けられた凹凸部35a,35b(凹凸部35bは不図示)により構成される。
図3(a)及び
図6(a)に対応するパターン線32aの模式的な断面図を
図7に示す。凹凸部35aは、パターン形成面31aから観察対象側に突出する凸条133と、パターン形成面31aに開くV溝134とが交互に連結された複合構成になっている。すなわち、凹凸部35a(及び35b)は、パターンの線幅よりも幅が狭い凸条133とV溝134が線幅方向に交互に設けられて構成される。このようなレチクル30A
3においては、1本のパターン線が、線幅に応じた複数の凸条133とV溝134の連結構造により構成される。
【0037】
このため、凹凸部を単一の凸条またはV溝からなる構成、または一組の凸条及びV溝からなる構成とした場合と比較して、パターン形成面31aから突出する凸条部の高さを大幅に抑制でき、かつパターン形成面31aから陥没するV溝部の深さを大幅に抑制することができる。これにより、レチクルの厚さを薄く構成できる。また、凸条の損傷を抑制して保管時や組み付け時等の取り扱いを容易とし、発射時の衝撃や外力に対する抗力が高いレチクルを提供することができる。さらに、パターン線32a,32bを線幅に比例した本数の凸条133とV溝134で構成すれば、線幅によらずコントラストが均一なレチクルパターンを得ることができる。
【0038】
ライフルスコープRSの光軸Zに対する凸条133の傾斜面140の傾斜角度と、光軸Zに対するV溝134の傾斜面140の傾斜角度は、既述した構成形態と同様に設定され、レチクル30A3から出射する偏向光が、接眼レンズ4を透過して観察者の眼に入射しないように設定される。凹凸部35a,35bを構成する凸条133及びV溝134の本数は、パターン線の線幅に応じて設定することができ、線幅が狭いパターン線32aを形成する凹凸部35aの凸条133及びV溝134の本数は少なく、線幅が広いパターン線32bを形成する凹凸部35bの凸条133及びV溝134の本数は多く設定される。
【0039】
このように構成さるレチクル30A
3では、観察対象側(
図7における左側)からパターン形成面31aに入射した光が、凸条133の傾斜面140及びV溝134の傾斜面140で屈折し、いずれもライフルスコープの光軸Zから離間する方向に偏向されてレチクル30A
3から出射する。レチクル30A
3から出射する偏向光の出射角度は、接眼レンズ4を透過し得る出射角度よりも大きいため接眼レンズ4から観察者の眼に入射せず、レチクル30A
3や接眼レンズ4等を保持する鏡筒の内周面などに吸収される。そのため、観察者には凹凸部35a,35bが設けられた部分からの光が見えず、パターン線32a,32bが暗黒の線として視認されるレチクルパターン32の像が明瞭に観察される。
【0040】
以上説明したレチクル30A(30A1,30A2,30A3)においては、レチクルパターン32が、光学部材のパターン形成面31aに設けられた凸部及び/または凹部により構成される。凸部33a,33bはレチクルパターン32を構成する線の幅方向に並列して長さ方向に延びる複数の凸条133により構成され、凹部34a,34bはレチクルパターン32を構成する線の幅方向に並列して長さ方向に延びる複数のV溝134により構成される。凹凸部35a,35bは、レチクルパターン32を構成する線の幅方向に並列して長さ方向に延びる複数の凸条133及びV溝134の複合体により構成される。
【0041】
このため、凸部を複数の凸条で構成したレチクル30A1においては、パターン形成面31aから突出する凸部の高さを大幅に抑制することができる。これにより、レチクルの厚さを薄くできるとともに、凸部の損傷を抑制して取り扱いが容易なレチクルを提供することができる。凹部を複数のV溝で構成したレチクル30A2においては、凹部の深さを大幅に抑制することができ、これにより、レチクルの厚さを薄くできるとともに、発射時の衝撃や外力に対する抗力を向上させたレチクルを提供することができる。凹凸部を凸条とV溝の複合構造としたレチクル30A3においては、パターン形成面31aから突出する凸条部の高さを大幅に抑制でき、パターン形成面31aから陥没するV溝部の深さを大幅に抑制することができる。これにより、レチクルの厚さを薄くできるとともに、凸条の損傷を抑制して保管時や組み付け時等の取り扱いを容易とし、発射時の衝撃や外力に対する抗力が高いレチクルを提供することができる。
【0042】
さらに、本実施の形態に係るレチクル30Aでは、パターン線を構成する凸条やV溝等の本数を適宜変更することにより、所望線幅のパターン線を容易に形成できる。そのため、レチクルパターンの基本構成は同一であるが、レチクルパターンを構成する各パターン線の線幅や組み合わせが異なる複数種類のレチクルを、光学部材31の板厚等を変更することなく容易に構成することができる。さらに、凸部や凹部等を単一の凸条やV溝等で構成した場合と比較して、パターンの明暗ムラを抑制してコントラストが均一なレチクルパターンを得ることができる。なお、傾斜面140を平坦な面とした構成を例示したが、傾斜面は曲面や放物面等であっても良い。
【0043】
次に、以上のようなレチクル30Aにおいて、傾斜面140で偏向された偏向光が観察者の眼に入射しないように設定される傾斜面140の傾斜角度について、レチクル30A1を例として説明する。
【0044】
図8に示すように、レチクル30A
1における凸条133の頂角をα、光軸Zに対する傾斜面140の傾斜角をα/2とする。このとき傾斜面140に入射した光は、傾斜角α/2が大きいほど光軸に近く、傾斜角α/2が小さいほど光軸Zから離れる方向に屈折する。そのため、傾斜面140に入射して屈折した光が接眼レンズ4に入射しないようにするためには、基本的には、傾斜面140の傾斜角α/2は所定角度以下とすることが好ましい。この所定角度(便宜的に「第1所定角度」という。)α
1/2は、主として、対物レンズ1の集光角θとレチクル30A
1の基材(光学部材31)の屈折率nと接眼レンズ4の開口(光束取り込み角)Vとに基づいて求めることができる。
【0045】
ライフルスコープの場合、対物レンズ1の集光角θは10°~30°程度、射出成形に適したレチクルの基材の屈折率nは1.46~1.53程度、接眼レンズ4の光束取り込み角Vは18°~26°程度である。そのため、上記第1所定角度α1/2は、接眼レンズ4の光束取り込み角Vに応じてほぼ定まる。接眼レンズ4の光束取り込み角Vが18°の光学系を用いた場合に第1所定角度α1/2は54°~58°、光束取り込み角Vが26°の光学系を用いた場合に第1所定角度α1/2は42°~47°となる。この角度は凸条133をV溝134とした場合についても同様である。
【0046】
さらに、レチクル基材の材料としてガラスモールド加工や、注型成形などに適した材料においてはレチクル基材の屈折率nは1.43~1.8程度である。このような基材を用いた場合、上記第1所定角度α1/2は、接眼レンズ4の光束取り込み角Vが18°の光学系で52°~70°、光束取り込み角Vが26°の光学系で39°~62°となる。この角度は凸条133をV溝134とした場合についても同様である。
【0047】
一方、傾斜面140の傾斜角α/2が小さくなると、傾斜面140に入射して屈折した光の光軸Zに対する傾斜角が大きくなり、一方の傾斜面(傾斜角がα/2の傾斜面)140に入射して屈折した光が、他方の傾斜面(傾斜角が-α/2の傾斜面)140に入射するようになる。このような光は他方の傾斜面への入射角が大きいために他方の傾斜面で全反射され、いわゆる迷光となって接眼レンズ4に入射し得る。そのため、このような迷光の発生を抑制するためには、傾斜面140の傾斜角α/2は所定角度以上とすることが好ましい。この所定角度(便宜的に「第2所定角度」という。)α2/2は、主として、対物レンズ1の集光角θとレチクル30A1の基材の屈折率nと接眼レンズ4の光束取り込み角Vとに基づいて求めることができる。
【0048】
射出成型に適した基材においては、対物レンズ1として集光角θ=10°の光学系を用いた場合、接眼レンズ4の光束取り込み角Vが18°で、第2所定角度α2/2は21°~22°、光束取り込み角Vが26°では、第2所定角度α2/2は23°~24°となる。また、対物レンズ1として集光角θが30°の光学系を用いた場合、接眼レンズ4の光束取り込み角Vが18°で、第2所定角度α2/2は23°~24°、光束取り込み角Vが26°では、第2所定角度α2/2は25°~26°となる。この角度は凸条133をV溝134とした場合についても同様である。
【0049】
さらに、ガラスモールド加工や、注型成形などに適した基材においては、対物レンズ1として集光角θ=10°の光学系を用いた場合、接眼レンズ4の光束取り込み角Vが18°で、第2所定角度α2/2は21°~24°、光束取り込み角Vが26°では、第2所定角度はα2/223°~25°となる。また、対物レンズ1として集光角θが30°の光学系を用いた場合、接眼レンズ4の光束取り込み角Vが18°で、第2所定角度α2/2は23°~25°、光束取り込み角Vが26°では、第2所定角度α2/2は25°~27°となる。この角度は凸条133をV溝134とした場合についても同様である。
【0050】
以上から、凸条133(V溝134)の傾斜面140の傾斜角度α/2は、第1所定角度α1/2以下であることが好ましく、さらに第2所定角度α2/2以上である角度範囲内(α2/2≦α/2≦α1/2)で設定することが好ましい。具体的には、傾斜面140の傾斜角度α/2を21°≦α/2≦70°に設定することで、ガラスモールド加工や注型成形に好適な比較的高屈折率基材のレチクルを用いたライフルスコープでパターン線32a,32bを明瞭に視認することが可能になる。また、傾斜面140の傾斜角度α/2を21°≦α/2≦58°に設定することで、射出成形に好適な基材のレチクルを用いたライフルスコープでパターン線32a,32bを明瞭に視認することが可能になる。
【0051】
また、傾斜面140の傾斜角度α/2を26°≦α/2≦42°に設定すれば、射出成形に好適な基材のレチクル及び、ガラスモールド加工や注型成形に好適なほとんどの基材のレチクルを用いたライフルスコープでコントラストが高いパターン線32a,32bを明瞭に視認することができる。さらに、傾斜面140の傾斜角度α/2を27°≦α/2≦39°に設定すれば、ガラスモールド加工や、樹脂材料を用いた射出成形、注型成形を含め、型を用いて成形加工により形成されるレチクルを用いたライフルスコープのほぼ全てについてコントラストが高いパターン線32a,32bを明瞭に視認することができる。
【0052】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態のレチクル30Bについて説明する。第2実施形態のレチクル30Bは、パターン線32a,32bが暗黒ではなく、観察対象側からの光を一部透過して観察者が観察対象を視認可能に構成される。第2実施形態のレチクル30Bは、凸部33a,33bにおける凸条133、凹部34a,34bにおけるV溝134、凹凸部35a,35bにおける凸条133及びV溝134の、断面形状の一部のみが異なり、他は既に説明した第1実施形態のレチクル30Aと同様である。そこで、以下では相違する部分を中心に説明する。
【0053】
図9に、レチクル30B
1をパターン線32aに垂直な面で切断した模式的な断面図を示しており、この図を参照して第1構成形態のレチクル30B
1について説明する。レチクル30B
1は、凸条133を構成する一対の傾斜面140,140の間に、観察対象側から入射した光を観察者が視認し得るように透過する透過面145を設けて構成される。透過面145は、凸条133の頂部を平坦に削り落としたような態様であり、左右の傾斜面140、140の間を結んで透過面145がパターン形成面31aと略平行に形成される。
【0054】
このような構成のレチクル30B1では、観察対象側からレチクル30B1に入射した光のうち傾斜面140に入射した光は、傾斜面140で屈折して光軸Zから離間する方向に偏向され光学部材の対向面31bから出射する。このように偏向された光は光路外に導出されるため観察者の目には見えず暗黒の線像として入射する。一方、観察対象側からレチクル30B1に入射した光のうち透過面145に入射した光は、透過面145でほとんど屈折されることなく光軸Zに沿って対向面31bから出射する。対向面31bから出射した光は接眼レンズ4を通り、観察者の目に観察対象の部分的な像が入射する。
【0055】
隣接する他の凸条133も同様であり、観察対象側から傾斜面140,140,140…に入射した光は光路外に偏向される。そのため観察者の目には複数の暗黒の線像が入射し、観察者にはこれらの複数の線像が一体になってパターン線32a,32bの像として認識される。また、観察対象側から透過面145,145,145…に入射した光は光軸Zに沿って透過する。そのため観察者の目には複数の観察対象の部分的な像が入射し、観察者にはこれらの部分的な像が一体になって観察対象の像として認識される。
【0056】
図10は、パターン線32bと観察対象Tとが重なった状況で、これらの像が観察者にどのように認識されるかを説明するための説明図であり、(a)は第1実施形態のレチクル30Aの場合、(b)は第2実施形態のレチクル30Bの場合である。
図10(a)に示すように、第1実施形態のレチクル30Aでは、パターン線32bが暗黒の線になり、観察者にはこのパターン線32bと重なった部分の観察対象Tの像は見えない。一方、
図10(b)に示すように、第2実施形態のレチクル30Bでは、パターン線32bの部分は複数の暗黒の線像と観察対象Tの部分的な透過像とが合成された状態になる。そのため、観察者にはパターン線32bの像と観察対象Tの像の両方が視認され、薄暗いパターン線32bを通して観察対象Tが見えるように認識される。これは、透明なガラス板に、光を透過しない遮蔽部と光を透過するスリット部とを交互に密接して形成したスリット板を通して観察対象を見たときに似た状況といえる。
【0057】
図9には、凸条133を構成する一対の傾斜面140,140の間(凸条の頂部)に透過面145を設けた構成を例示したが、隣接する凸条133,133の対向する二つの傾斜面140,140の間(隣接する凸条間の底部)に透過面145を設けてもよく、凸条の頂部と凸条間の底部の両方に設けてもよい。
【0058】
図11に、第2構成形態のレチクル30B
2をパターン線32aに垂直な面で切断した断面図を示す。レチクル30B
2は、V溝134を構成する一対の傾斜面140,140の間(V溝の底部)に、観察対象側から入射した光を観察者が視認し得るように透過する透過面145を設けて構成される。透過面145は、V溝134の底部を平坦に埋めたような態様であり、左右の傾斜面140,140の間を結んで透過面145がパターン形成面31aと略平行に形成される。
【0059】
このような構成のレチクル30B2においても、観察対象側から入射した光の挙動は第1構成形態のレチクル30B1と同様である。すなわち、観察対象側からレチクル30B2に入射した光のうち傾斜面140に入射した光は、傾斜面140で屈折して光軸Zから離間する方向に偏向され光路外に出射するため、観察者の目には暗黒の線像として入射する。また、観察対象側からレチクル30B2に入射した光のうち透過面145に入射した光は、透過面145でほとんど屈折されることなく光軸Zに沿って進み観察者の目に観察対象の部分的な像が入射する。
【0060】
隣接する他のV溝134も同様であり、観察対象側から傾斜面140,140,140…に入射した光は光路外に偏向され、観察者の目には複数の暗黒の線像が入射する。観察者にはこれらの複数の線像が一体になってパターン線32a,32bの像として認識される。観察対象側から透過面145,145,145…に入射した光は光軸に沿って透過し、観察者の目には複数の観察対象の部分的な像が入射する。観察者にはこれらの部分的な像が一体になって観察対象の像として認識される。
【0061】
そのため、例えばパターン線32bの部分は複数の暗黒の線像と観察対象Tの部分的な透過像とが合成された状態になり、
図10(b)に示したように、観察者には薄暗いパターン線32bを通して観察対象Tが見えるように認識される。
【0062】
なお、
図11には、V溝134を構成する一対の傾斜面140,140の間(V溝の底部)に透過面145を設けた構成を例示したが、隣接するV溝134,134の背中合わせの二つの傾斜面140,140の間(隣接するV溝間の頂部)に透過面145を設けてもよく、V溝の底部とV溝間の頂部の両方に設けてもよい。
【0063】
第3構成形態のレチクル30B
3は、複数の凸条133及びV溝134からなるが凹凸部35における、凸条133の頂部及び/またはV溝134の底部に平坦な透過面145を設けて構成される。
図12には、凸条133の頂部とV溝134の底部の両方に透過面145を形成した構成の凹凸部35aの断面図を例示する。これは、上述した第1構成形態のレチクル30B
1と第2構成形態のレチクル30B
2とを一体化させた構造であり、観察対象側から入射した光の挙動は、既述した第1,第2構成形態のレチクル30B
1,30B
2と同様である。
【0064】
すなわち、観察対象側からレチクル30B
3に入射した光のうち傾斜面140に入射した光は、光軸Zから離間する方向に偏向されて光路外に出射し観察者の目には暗黒の線像として入射する。観察者にはこれらの複数の線像が一体になってパターン線32a,32bの像として認識される。観察対象側からレチクル30B
3に入射した光のうち透過面145に入射した光は、光軸Zに沿って進み観察者の目に観察対象の部分的な像が入射する。観察者にはこれらの部分的な像が一体になって観察対象の像として認識される。そのため、パターン線32bの部分は複数の暗黒の線像と観察対象Tの部分的な透過像とが合成された状態になり、
図10(b)に示したように、観察者には薄暗いパターン線32bを通して観察対象Tが見えるように認識される。
【0065】
なお、
図12には、凸条133を構成する一対の傾斜面140,140の間(凸条の頂部)、及びV溝134を構成する一対の傾斜面140,140の間(V溝の底部)の両方に透過面145を設けた構成を例示したが、透過面145をいずれか一方(例えば凸条の頂部)にのみ設ける構成としても良い。
【0066】
以上説明した第2実施形態のレチクル30B(30B
1,30B
2,30B
3)において、凸部33(33a,33b),凹部34(34a,34b)、凹凸部35(35a,35b)における透過面145の構成比率ζは1%~99%とすることができる。
図9,
図11,
図12の各図中に示すように、光軸方向に見た傾斜面140の幅をs
1,s
2とし、透過面145の幅をt
1,t
2とする。このとき、凸部33における透過面145の構成比率ζはζ=t
1/(2s
1+t
1)、凹部34における透過面145の構成比率はζ=t
2/(2s
2+t
2)、凹凸部35にける透過面145の構成比率はζ=(t
1+t
2)/(2s
1+t
1+2s
2+t
2)で求められる。
【0067】
透過面145の構成比率ζを変化させたときの、観察対象Tとパターン線32bの見え方を模式的に示した説明図を
図13(a),(b),(c)に示す。各図における透過面145の構成比率ζは、(a),(b),(c)の順にζ
1<ζ
2<ζ
3である。図示するように、透過面145の構成比率ζが小さいほどパターン線32bが明瞭に視認され、透過面145の構成比率ζが大きくなるほど観察対象Tが明瞭に視認される。透過面145がパターン形成面31aと平行な平面である場合、透過面145の構成比率は光軸に沿った光の透過率とほぼ同義になる。
【0068】
ここで、人間の目のコントラスト識別能力は1~2%程度である(ウェーバー・フェヒナーの法則)。すなわち、人間の目は1%程度の輝度差がある2つの物体を識別することができる。そのため、明るい背景の中に1%程度暗いパターン線を識別することができ、暗いパターン線の中に1%程度明るい観察対象を認識することができる。従って、凸部33,凹部34、凹凸部35における透過面145の構成比率ζを1%~99%とすることにより、観察対象Tとパターン線32a,32bの両方を視認することができる。なお、透過面145の構成比率ζは10%~40%とすることが好ましい。ζ<10%では観察対象Tの細かい動きを視認しにくくなり、ζ>40ではパターン線32a,32bが薄くなってターゲットに照準を合わせづらくなるからである。また、構成比率ζを25%~30%とすることがより好ましい。この範囲内で構成比率ζを設定すれば、快晴の昼光下のような明るい状況でも夕方や月光下のような薄暗い状況でも、観察対象T及びパターン線32a,32bを視認でき、容易にターゲットに照準を合わせられるからである。
【0069】
また、人間の目は0.1mm程度の分解能を持つといわれる。例えば、暗黒の中に2本の明線が並んで形成された構造を裸眼で見たときに、明線の間隔が0.1mmよりも大きいと人間は2本の線として認識し、間隔が0.1mmよりも小さいと人間は1本の線として認識する。同様に、明るい背景の中に2本の暗線が並んで形成された構造を裸眼で見たときに、暗線の間隔が0.1mmよりも大きいと、人間は2本の線として認識し、暗線の間隔が0.1mmよりも小さいと、人間は1本の線として認識する。そのため、明線と暗線が繰り返されるレチクル30Bにおいては、観察者がレチクルパターン32を目視したときの隣接する透過面145の間隔及び隣接する傾斜面140の間隔が各々0.1mm以下となるように設定することが好ましい。
【0070】
ライフルスコープRSにおいては、レチクル30Bの像は接眼レンズ4で拡大され観察者の目に入射する。いま、接眼レンズ4の倍率を5倍と仮定すれば、透過面145の間隔及び傾斜面140の間隔は0.1/5=0.02mm=20μm以下に設定することが好ましい。また、レチクル30Bを第1焦点面に配設し最高倍率32倍のズーム光学系を組んだ場合には、透過面145の間隔及び傾斜面140の間隔を0.1/(32/5)=0.0156mm=15.6μm以下に設定することが好ましい。このように、透過面145の間隔及び傾斜面140の間隔、より端的には凸条133やV溝134の形成ピッチは、レチクル30を用いる光学系の構成に応じて設定することができる。
【0071】
前述した透過面145の構成比率ζは、パターン線の幅方向の位置、あるいはパターン線の長さ方向の位置によって異なる比率に設定することができる。例えば、
図14に示すように、パターン線32bについて、線幅方向の外側に位置する凸条133は透過面145の構成比率ζを低く(観察対象からの光の透過率を低く)、内側に位置する凸条133は透過面145の構成比率ζを高く(観察対象からの光の透過率を高く)設定する。具体的には、線幅方向の外縁に位置する1列~数列の凸条133は外光強度・倍率が変化しても線を黒く保てる構成比率とし、その内側に位置する凸条133は外光強度・倍率が変化してもターゲットを視認できる構成比率に設定する。このような構成によれば、パターン線32bの輪郭が暗線で明確に視認されるためターゲットに容易に照準を合わせることができ、パターン線32bの内側でも観察対象が視認できるため、視野内に捕捉したターゲットが小さい場合でもターゲットを見失うことなく照準を合わせることができる。
【0072】
また、
図15に示すように、パターン線32bについて、凸条133の透過面145の構成比率ζは、レチクルパターン32の外周側で低く、中心寄りで高く設定する。このような構成によれば、外周側でパターン線32bが明確に視認されるため容易にターゲットに照準を合わせることができ、中心寄りではパターン線32bの内側でもターゲットが視認できるため、視野内に捕捉したターゲットが小さい場合でもターゲットを見失うことなく照準を合わせることができる。以上は線幅が広いパターン線32bに適用した構成を例示したが、線幅が狭いパターン線32aに適用することもできる。
【0073】
なお、透過面145をパターン形成面31aと略平行な平面とした構成を説明したが、透過面145は曲率半径が所定以上の面であれば、曲面や放物面等であっても良い。具体的な構成例を
図16に示す。
図16における(a)は凸条133の頂部に曲率半径rの凸状の透過面145を形成した構成例、(b)は凸条133の頂部に曲率半径-rの凹状の透過面145を形成した構成例、(c)はV溝134の底部に曲率半径-rの凹状の透過面145を形成した構成例である。
【0074】
透過面145が曲面の場合、透過面145に入射した光は透過面の曲率に応じた広がり角で発散するが、入射光の一部は接眼レンズ4を通って観察者の目に入射する。観察者の目に入射する光は透過面145の曲率半径が小さいほど少なくなり、観察対象の部分像も歪んだ形になる。しかし、透過面145の曲率半径が所定以上であれば、観察対象の部分像は大きく歪むことなく観察者が視認できる。上記所定値はライフルスコープの構成や観察対象の明るさ等により相違するが、概ね2μm以上であれば観察対象の像を視認することができる。
【0075】
次に、第3の実施形態として、レチクルパターン32の中心にポインターを有するレチクルユニット3について
図17~
図19を参照して説明する。これらの図面は、レチクルユニット3の構成を説明するための説明図であり、
図17は照明光の光路を示す説明図、
図18はレチクルのパターン形成面31aに形成される反射部の斜視図、
図19はレチクルパターン32に対する照明光の投射状態を示すレチクルユニットの正面図である。
【0076】
レチクルユニット3は、レチクル30Cと、照明光を放射する光源38と、光源38から放射された光を集光する集光部(例えば、コンデンサレンズ)39と、を有して構成される。レチクル30Cは、第1実施形態として説明したレチクル30A1~30A3、及び第2の実施形態として説明したレチクル30B1~30B3のいずれかを基礎とし、さらに光学部材のパターン形成面31aに、反射面を有する反射部37が設けられて構成される。
【0077】
反射部37は、光学部材31のパターン形成面31aの略中央部に開口する凹部37aとして形成され、この凹部37aを構成する面の一部が反射面37cを構成する。反射部37は、概観的には、円柱を斜めに切断したような形状で、反射面37cをパターン形成面31aに射影したときの形状は円形である。反射部37は、十字線状のレチクルパターン32においてx軸方向に延びるパターン線とy軸方向に延びるパターン線の交点、すなわち円板状のレチクル30Cの中心に位置し、光学部材31のパターン形成面31a側(観察対象側)に形成される。
【0078】
光源38から放射された照明光は集光部39で集光され、その像が反射部37の反射面37c上に形成される。光源38の像は反射面37cでライフルスコープRSの光軸方向(z軸方向)に反射され、学部材の対向面31bから出射する。既述したように、接眼レンズ4は二次像IM2と重ね合わせてレチクルパターン32の像を視認可能に構成される。反射面37cは接眼レンズ4の焦点深度内に設けられており、反射面37cで反射された光源38の像も合わせて観察することができる。そのため、観察者はレチクルパターン32の中心、すなわち、ライフルスコープRSの光軸上に、光源38の像をドット像として視認することができる。
【0079】
ここで、集光部39は、光源38から放射された照明光を、少なくとも延長線が交差する2本のパターン線に挟まれた角度位置から反射部37(反射面37c)に導くように構成される。レチクルパターンが十字線の場合には、
図19に示すように、集光部39は、光源38から放射された光が、x軸方向に延びるパターン線及びy軸方向に延びるパターン線に対して略45°傾いた角度位置から光学部材31に入射し、反射面37cに入射するように構成される。換言すれば、集光部39から反射部37に向かう照明光の光軸が、x軸及びy軸に対して略45°となるように設定される。そのため、照明光がパターン線を構成する凸部や凹部等に入射して相互作用を生じるようなことがほとんど無く、これにより明るいドット像(輝点)を表示でき、かつコントラストが高いレチクルパターン像を表示するレチクルユニットを得ることができる。
【0080】
また、
図17に示すように、集光部39は、光源38から放射された照明光を、パターン形成面31aと対向面31bとの間に位置する光学部材31の側面から入射して、反射部37に導くように構成される。図示する構成例では、照明光の光軸は反射面37c上でライフルスコープRSの光軸Zと交わるが、この照明光の光軸とライフルスコープの光軸Zとの交差角を直角ではなく、照明光の光軸を延長した延長線がパターン形成面31aと交差するような角度にしてレチクルユニットを構成している。このような構成によれば、照明光が凸部や凹部等に入射することを抑止することができ、これにより、ドット像の輝度を向上させるとともに、レチクルパターン像のコントラストを更に高めたレチクルユニットを得ることができる。
【0081】
第1実施形態のレチクル30A、第2実施形態のレチクル30B、第3実施形態のレチクル30Cは、型を用いた成形加工により形成することができる。型を用いた成形加工として、ガラスモールド加工や、樹脂材料を用いた射出成形、注型成形などが例示される。樹脂材料としては、アクリル樹脂とも称されるメタクリル樹脂(PMMA)やポリカーボネート(PC)、環状オレフィンポリマー(COP)などが例示される。型を用いて成形加工を行うことにより、高精度のレチクルを容易に製作することができ、さらに樹脂材料を用いた成形加工によれば、高い生産性で安価にレチクルを製作することができる。
【0082】
さらに、レチクル30Cにおいては、レチクルパターン32に加えて照明光を反射する反射部37が成形加工により一体に形生成される。そのため、従来においては、レチクルパターンが形成されたガラス製のレチクル部と、反射部が形成された樹脂製の光学部材との複合構造であり、両者の製造及び組み立てが必要であった焦点板を、本構成のレチクル30Cでは一回の成形加工で一体に形成することができる。これにより、従来では比較的高価であったポインター機能を備えたレチクルを低廉な価格で提供することができる。
【0083】
なお、凸部33や凹部34等をパターン形成面31a側にのみ設けた構成を例示したが、凸部及び/または凹部をパターン形成面31a側及び対向面31b側に形成しても良い。また、凸条133やV溝134等の傾斜面140の傾斜角度は、凸条133を構成する二つの傾斜面140,140の傾斜角度が同一の構成を例示したが、ライフルスコープの光軸Zに対するパターン線の形成位置等に応じて、二つの傾斜面140,140の傾斜角度が異なるように構成しても良い。さらに、凸条133やV溝134等を構成する面の一方を傾斜面とし他方を光軸Zに平行な面としても良い。
【0084】
また、凸条133やV溝134等に入射した光が屈折して偏向する形態を例示したが、凸条133やV溝134等に入射した光が反射して偏向するように構成しても良く、反射と屈折とを組み合わせて偏向するように構成しても良い。また、凸部の例としてパターン線の長さ方向に稜線が延びる凸条133を示したが、凸部33は多数の四角錐状(ピラミッド状)の突起がパターン線の延びる方向(及び幅方向)に並ぶような構成であっても良い。凹部34についても同様である。
【0085】
また、実施形態では、レチクル30を備えた光学機器としてライフルスコープRSについて説明したが、ライフルスコープは、実施形態に係るレチクルを利用する光学機器の一例であり、フィールドスコープや双眼鏡等の望遠鏡、測距計やトランシット等の測量器、眼球検査装置やファイバースコープ等の医療用スコープ、各種顕微鏡など、様々な光学機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
RS ライフルスコープ(光学機器)
Z ライフルスコープの光軸
1 対物レンズ
3 レチクルユニット
4 接眼レンズ
30 レチクル
30A 第1実施形態のレチクル(30A1,30A2,30A3)
30B 第2実施形態のレチクル(30B1,30B2,30B3)
30C 第3実施形態のレチクルユニットのレチクル
31 光学部材
31a 光学部材の一方の面(パターン形成面)
31b 光学部材の他方の面(対向面)
32 レチクルパターン(パターン)
32a 線幅が狭いパターン線(パターンを構成する線)
32b 線幅が広いパターン線(パターンを構成する線)
33a,33b 凸部
34a,34b 凹部
35a,35b 凹凸部
37 反射部
37c 反射面
38 光源
39 集光部
133 凸条
134 V溝(溝)
140 傾斜面
145 透過面