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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】投影システムモデリング方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20220104BHJP
   G02B 7/00 20210101ALI20220104BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
G02B7/00 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018560932
(86)(22)【出願日】2017-05-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2017061565
(87)【国際公開番号】W WO2017211538
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2019-01-16
(31)【優先権主張番号】16173658.2
(32)【優先日】2016-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504151804
【氏名又は名称】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】インポネント,ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】フリスコ,ピエールルイジ
【審査官】山本 一
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01251402(EP,A1)
【文献】特開2002-163005(JP,A)
【文献】特開2012-191018(JP,A)
【文献】特開平07-334561(JP,A)
【文献】特開2008-160111(JP,A)
【文献】特開平11-242690(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0115576(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
H01L 21/027
G06N 3/08
G06N 3/12
G02B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影システムモデルを用いて投影システムをモデリングするためのコンピュータで実行する方法であって、前記投影システムモデルが、
投影システムの光学収差を1組の投影システム特性に基づいて予測し、
パラメータと対応する重みのセットを含むメリット関数に基づいて1組の光学素子調整事項を決定して出力するように構成され、
前記方法が、
パラメータと重みの初期セットを含む初期メリット関数を受け取ること、
前記パラメータと重みの初期セットから始まる最適化アルゴリズムを実行して、パラメータと重みの第2のセットを含む第2のメリット関数を決定することであって、前記最適化アルゴリズムは、前記パラメータと重みのセットを有するメリット関数を使用して前記投影システムモデルの出力に従って調整された投影システムの投影システム特性に基づいてパラメータと重みの異なるセットをスコア化することと、及び
前記第2のメリット関数を使用して実行されるときに、前記投影システムモデルによって出力された前記光学素子調整事項に従って前記投影システムを調整すること、
を含み、
前記最適化アルゴリズムが、前記パラメータと重みの異なるセットのスコア化を行うように構成された適応度関数を有する進化アルゴリズムである、
方法。
【請求項2】
前記適応度関数が、前記第2のメリット関数を使用して実行されるときの前記投影システムモデルの出力に基づいて評価される及び/又は変更される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パラメータが、前記メリット関数に追加することができる項を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記重みの少なくとも一部が、ゼルニケ多項式及び/又はチホノフ変数及び/又はゲンビツキー変数に割り当てられる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記最適化アルゴリズムが、多数のメリット関数を含むパレートフロントを決定し、前記パレートフロントが前記パラメータと重みの第2のセットを含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、投影システムの個々の光学素子を調整するために用いられる、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
投影システムを備えるリソグラフィ装置を制御する方法であって、前記方法が、
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法を用いて1組の投影システム調整事項を決定すること、及び
前記投影システム調整事項に従ってリソグラフィ装置の投影システムを調整すること、
を含む方法。
【請求項8】
前記投影システムを調整した後に、前記リソグラフィ装置を使用して基板へのリソグラフィ露光を行うことをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
放射ビームを調節するように構成された照明システムと、
前記放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付与された放射ビームを形成することができるパターニングデバイスを支持するように構築されたサポートと、
基板を保持するように構築された基板テーブルと、
前記パターン付与された放射ビームを前記基板のターゲット部分に投影するように構成された投影システムと、
を備えるリソグラフィ装置であって、
前記リソグラフィ装置がさらに、請求項1から6のいずれかに記載の方法を実行するように構成された1つ以上のコントローラを備える、
リソグラフィ装置。
【請求項10】
処理デバイスに請求項1から6のいずれか一項に記載の方法を実行させるための機械可読命令を含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[001] この出願は、2016年6月9日に出願された欧州特許出願16173658.2の優先権を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[002] 本発明は投影システムモデリング方法に関する。投影システムはリソグラフィ装置の一部を形成し得る。
【背景技術】
【0003】
[003] リソグラフィ装置は所望のパターンを基板に適用するように構築された機械である。リソグラフィ装置は例えば集積回路(IC)の製造に使用可能である。リソグラフィ装置は例えば基板(例えばシリコンウェーハ)上に設けられた放射感応性材料(レジスト)の層にパターニングデバイス(例えばマスク)からのパターンを投影することができる。
【0004】
[004] リソグラフィ装置は投影システムを備える。投影システムは例えばレンズなどの光学素子を備える。光学素子の不完全さから光学収差が生じる場合がある。光学収差は例えばリソグラフィ露光中に起こる光学素子の加熱などの投影効果から生じる場合もある。投影システムの光学素子に対して行われ得る1つ以上の調整を決定するのに投影システムモデルが使用される。決定された調整は投影システム内の光学収差を減らす効果を有することができる。
【0005】
[005] 例えば、本明細書で特定されているか他のどこかで特定されているかに関わらず、1つ以上の従来技術の問題を回避又は緩和する投影システムモデリング方法を提供することが望ましい場合がある。
【発明の概要】
【0006】
[006] 別途明確に記述しない限り、例えば第1、第2などの用語はラベルとして用いられ、時間的制約を与えない。
【0007】
[007] 本発明の第1の態様によれば、投影システムモデルを用いて投影システムをモデリングするためのコンピュータで実行する方法が提供される。投影システムモデルは、投影システムの光学収差を1組の投影システム特性に基づいて予測し、メリット関数に基づいて1組の光学素子調整を決定して出力するように構成される。メリット関数はパラメータと対応する重みのセットを含む。方法は、パラメータと重みの初期セットを含む初期メリット関数を受け取ること、及びパラメータと重みの初期セットから始まる最適化アルゴリズムを実行してパラメータと重みの第2のセットを含む第2のメリット関数を決定することを含む。最適化アルゴリズムは、パラメータと重みのセットを有するメリット関数を使用して投影システムモデルの出力に従って調整された投影システムの投影システム特性に基づいてパラメータと重みの異なるセットをスコア化する。投影システムは、第2のメリット関数を使用して実行されるときに、投影システムモデルによって出力された光学素子調整を使用して調整することができる。
【0008】
[008] 最適化アルゴリズムは、第1のメリット関数と第2のメリット関数の間の他のメリット関数を生成することができる。方法は、投影システムモデルの性能を向上させる適切なパラメータ及び重みを求めるために、投影システムモデルの複雑な解空間をくまなく探索するのに用いることができる。パラメータのセットは投影システムモデル特性の少なくとも一部と対応してよい。パラメータのセットは、例えば特異値分解などの、例えば投影システムモデルで使用されるアルゴリズム又は数学的手法に関わる反復のカットオフ値などの投影システムモデル制約と対応してよい。投影システムモデルの出力は、投影システムに存在する残存光学収差を含んでよく、その場合、残存光学収差が低くなるパラメータ及び重みには最適化アルゴリズムによってより良いスコアを与えることができる。投影システム特性は光学収差である必要はなく、その代わりに又は追加的に、オーバーレイエラー、二乗平均平方根波面誤差、フォーカスエラー、光学素子調整制約、及び本明細書中の教示から当業者に明らかな他の特性であってよい。
【0009】
[009] 最適化アルゴリズムは、パラメータと重みの異なるセットのスコア化を行うように構成された適応度関数を有する進化アルゴリズムであってよい。
【0010】
[0010] 他の最適化手法が用いられてもよいが、進化アルゴリズムを使用して投影システムモデルのための改善されたメリット関数を求めることが特に有益な解決策をもたらすことが分かっている。
【0011】
[0011] 適応度関数は、第2のメリット関数を使用して実行されるときの投影システムモデルの出力に基づいて評価される及び/又は変更される場合がある。
【0012】
[0012] 投影システムモデルの出力に基づいて適応度関数を評価する及び/又は変更することは、進化アルゴリズムの性能を監視する簡単な方法を提供し、進化アルゴリズムの改善を可能にする。
【0013】
[0013] パラメータは、メリット関数に線形的に追加可能な項を含んでよい。
【0014】
[0014] メリット関数に項を追加する能力は、最適化アルゴリズムを使用して解決すべき問題の定義により大きな柔軟性をもたせる。
【0015】
[0015] 重みの少なくとも一部は、ゼルニケ多項式及び/又はチホノフ変数及び/又はゲンビツキー変数に割り当てられてよい。
【0016】
[0016] ゼルニケ多項式及び/又はチホノフ変数及び/又はゲンビツキー変数に割り当てられる重みの改善された値を求めることは、投影システムモデルが改善された投影システム特性をもたらすより優れた光学素子調整を出力することを可能にする。
【0017】
[0017] 最適化アルゴリズムは、多数のメリット関数を含むパレートフロントを決定することができ、パレートフロントはパラメータと重みの第2のセットを含む。
【0018】
[0018] パレートフロントを提供することは、有利には利用可能な最適解の選択肢を増やす。ユーザはパレートフロントからパラメータと重みの第2のセットを選択することができる。
【0019】
[0019] 方法は投影システムの個々の光学素子を調整するために適用可能である。
【0020】
[0020] 個々の光学素子を調整することは、光学素子をある設定から別の設定に変えることを含んでよい。
【0021】
[0021] 方法は、有利には単一の光学素子に用いられて、例えば同一でないレンズ製造プロセスに起因するレンズ間の差などの異なる光学素子間の差異を解決する固有の調整を提供することができる。
【0022】
[0022] 本明細書に記載の第2の態様によれば、投影システムを備えるリソグラフィ装置を制御する方法であって、方法が、第1の態様の方法を用いて1組の投影システム調整を生成すること、及び投影システム調整に従ってリソグラフィ装置の投影システムを調整することを含む方法が提供される。
【0023】
[0023] 投影システムを調整した後に、リソグラフィ装置を使用して基板にリソグラフィ露光を行うことができる。
【0024】
[0024] 本明細書に記載の方法を使用した後にリソグラフィ露光を行うことは、有利にはリソグラフィ露光の精度を高めることができる。例えばリソグラフィ露光は、投影システムに調整が行われる結果としてオーバーレイエラー及びフォーカスエラーを減らすことができる。投影システムになされる具体的な改善は、メリット関数を変化させることによって目標にすることができる。
【0025】
[0025] 方法は、基板に印刷される異なるフィーチャ及び/又は基板の異なる層に用いることができる。
【0026】
[0026] 異なるフィーチャは、より正確な印刷のために異なる投影システム特性を必要とする場合がある。本明細書に記載の方法を基板に印刷される異なるフィーチャ及び/又は基板の層に用いることで、有利にはリソグラフィ露光の精度を改善することができる。
【0027】
[0027] 本明細書に記載の第3の態様によれば、放射ビームを調節するように構成された照明システムと、放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付与された放射ビームを形成することができるパターニングデバイスを支持するように構築されたサポートと、基板を保持するように構築された基板テーブルと、パターン付与された放射ビームを基板のターゲット部分に投影するように構成された投影システムと、を備えるリソグラフィ装置であって、リソグラフィ装置がさらに、本発明の第1の態様の方法及びこれと関連するオプションのいずれかを実行するように構成された1つ以上のコントローラを備えるリソグラフィ装置が提供される。
【0028】
[0028] 本明細書に記載の第4の態様によれば、処理デバイスに本発明の第1の態様の方法及びこれと関連するオプションのいずれかを実行させるための機械可読命令を含むコンピュータプログラム製品が提供される。
【0029】
[0029] 1つの態様との関連において説明される特徴が他の態様とともに使用される場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
[0030] 対応する参照符号が対応する部分を示す添付の概略図を参照しながら以下に本発明の実施形態について説明するが、これは単に例示としてのものにすぎない。
【0031】
図1】本発明のある実施形態に係る方法を実行するように構成されたコンピュータを備えるリソグラフィ装置を概略的に示す。
図2A】説明される実施例に係る投影システムモデルの概略図である。
図2B】説明される実施例に係る投影システムモデルのフローチャートである。
図3】説明される実施例で使用可能な進化アルゴリズムのフローチャートである。
図4】説明される実施例に係る投影システムモデリング方法のフローチャートである。
図5】説明される実施例に係る投影システムモデリング方法を適用することによって変化する投影システム特性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[0031] 本文ではICの製造におけるリソグラフィ装置の使用に特に言及しているが、本明細書で説明するリソグラフィ装置には他の用途もあることを理解されたい。例えば、これは、集積光学システム、磁気ドメインメモリ用ガイダンス及び検出パターン、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッドなどの製造である。こうした代替的な用途に照らして、本明細書で「ウェーハ」又は「ダイ」という用語を使用している場合、それぞれ「基板」又は「ターゲット部分」という、より一般的な用語と同義と見なしてよいことが当業者には認識される。本明細書に述べている基板は、露光前又は露光後に、例えばトラック(通常はレジストの層を基板に塗布し、露光したレジストを現像するツール)、メトロロジーツール及び/又はインスペクションツールで処理することができる。適宜、本明細書の開示は、以上及びその他の基板プロセスツールに適用することができる。さらに基板は、例えば多層ICを生成するために、複数回処理することができ、したがって本明細書で使用する基板という用語は、既に複数の処理済み層を含む基板も指すことができる。
【0033】
[0032] 本明細書で使用する「放射」及び「ビーム」という用語は、イオンビーム又は電子ビームなどの粒子ビームのみならず、紫外線(UV)放射(例えば、365nm、355nm、248nm、193nm、157nmもしくは126nm、又はこれら辺りの波長を有する)及び極端紫外線(EUV)放射(例えば、5~20nmの範囲の波長を有する)を含むあらゆるタイプの電磁放射を網羅する。
【0034】
[0033] 本明細書で使用する「パターニングデバイス」という用語は、基板のターゲット部分にパターンを生成する等のため、放射ビームの断面にパターンを付与するために使用し得るデバイスを指すものとして広義に解釈されるものとする。ここで、放射ビームに付与されるパターンは、基板のターゲット部分における所望のパターンに正確には対応しない場合があることに留意するべきである。一般的に、放射ビームに付与されるパターンは、集積回路等のターゲット部分に生成されるデバイスの特定の機能層に相当する。
【0035】
[0034] パターニングデバイスは透過性又は反射性でよい。パターニングデバイスの例には、マスク、プログラマブルミラーアレイ、及びプログラマブルLCDパネルがある。マスクはリソグラフィにおいて周知のものであり、これには、バイナリマスク、レベンソン型(alternating)位相シフトマスク、ハーフトーン型(attenuated)位相シフトマスクのようなマスクタイプ、さらには様々なハイブリッドマスクタイプも含まれる。プログラマブルミラーアレイの一例は、小型ミラーのマトリクス構成を使用し、ミラーの各々は、入射する放射ビームを異なる方向に反射するように個別に傾けることができる。このようにして、反射ビームがパターニングされる。
【0036】
[0035] 支持構造はパターニングデバイスを保持する。支持構造は、パターニングデバイスの方向、リソグラフィ装置の設計等の条件、例えばパターニングデバイスが真空環境で保持されているか否かに応じた方法で、パターニングデバイスを保持する。サポートは、機械式クランプ、真空、又は他のクランプ技術、例えば真空条件下での静電クランプを使用することができる。支持構造は、例えばフレーム又はテーブルでよく、必要に応じて固定式又は可動式でよい。支持構造は、パターニングデバイスが例えば投影システムPLなどに対して確実に所望の位置にくるようにできる。本明細書において「マスク」という用語を使用した場合、その用語は、より一般的な用語である「パターニングデバイス」と同義と見なすことができる。
【0037】
[0036] 本明細書において使用する「投影システムPL」という用語は、例えば使用する露光放射、又は液浸液の使用や真空の使用などの他の要因に合わせて適宜、例えば屈折光学システム、反射光学システム、及び反射屈折光学システムを含む様々なタイプの投影システムPLを網羅するものとして広義に解釈されるべきである。本明細書において「投影レンズ」という用語を使用した場合、これはさらに一般的な「投影システムPL」という用語と同義と見なすことができる。
【0038】
[0037] 本明細書において使用する「照明システム」という用語は、放射ビームを誘導し、整形し、又は制御する屈折、反射、及び反射屈折光学コンポーネントを含む様々なタイプの光学コンポーネントを含んでよく、そのようなコンポーネントも以下においては集合的に又は単独で「レンズ」とも呼ばれることがある。
【0039】
[0038] リソグラフィ装置は、投影システムPLの最終要素と基板との間の空間を充填するように、基板が比較的高い屈折率を有する液体、例えば水などに液浸されるタイプであってもよい。液浸技術は、投影システムPLの開口数を増加させるために当技術分野で周知である。
【0040】
[0039] 図1は、本発明の特定の実施形態に係る投影システムPLマニピュレータを備えるリソグラフィ装置を概略的に示す。この装置は、
a.放射(例えば、DUV放射又はEUV放射)のビームPBを調節するための照明システムILと、
b.パターニングデバイス(例えば、マスク)MAを支持し、投影システムPLに対してパターニングデバイスを正確に位置決めするための第1の位置決めデバイスPMに接続された支持構造(マスクテーブルと呼ばれることもある)MTと、
c.基板(例えば、レジストコートウェーハ)W2を保持するための、投影システムPLに対して基板を正確に位置決めするための第2の位置決めデバイスPW2に接続された基板テーブル(ウェーハテーブルと呼ばれることもある)WT2と、
d.基板W1を保持するための、アライメントシステムASに対して基板を正確に位置決めするための第3の位置決めデバイスPW3に接続された別の基板テーブルWT1と、
e.パターニングデバイスMAによって放射ビームPBに付与されたパターンを基板W2のターゲット部分C(例えば、1つ以上のダイを備える)上に結像するように構成された投影システムPL(例えば、屈折投影レンズ)PLと、
を備える。
【0041】
[0040] 本明細書で示すように、本装置は透過タイプである(例えば透過マスクを使用する)。あるいは、装置は反射タイプでもよい(例えば上記で言及したようなタイプのプログラマブルミラーアレイを使用する)。
【0042】
[0041] イルミネータILは放射源SOから放射ビームを受ける。放射源とリソグラフィ装置とは、例えば放射源がエキシマレーザである場合に、別々の構成要素であってもよい。このような場合、放射源はリソグラフィ装置の一部を形成すると見なされず、放射ビームは、例えば適切な誘導ミラー及び/又はビームエクスパンダなどを備えるビームデリバリシステムBDの助けにより、放射源SOからイルミネータILへと渡される。放射源SO及びイルミネータILは、必要に応じてビームデリバリシステムBDとともに放射システムと呼ぶことができる。
【0043】
[0042] イルミネータILは、ビームの角度強度分布を調整する調整手段AMを備えていてもよい。通常、イルミネータの瞳面における強度分布の少なくとも外側及び/又は内側半径範囲を調整することができる。さらに、イルミネータILは、一般に、インテグレータIN及びコンデンサCOなどの他の様々なコンポーネントを備えていてもよい。イルミネータは、その断面にわたって所望の均一性と強度分布を有する調整された放射ビームPBを提供する。
【0044】
[0043] 放射ビームPBは、支持構造MT上に保持されるパターニングデバイス(例えば、マスク)MAに入射する。パターニングデバイスMAを横断したビームPBは、レンズPLを通過し、レンズPLは基板W2のターゲット部分Cにビームを合焦させる。第2の位置決めデバイスPW2及び位置センサIF(例えば、干渉計デバイス)の助けにより、例えば、異なるターゲット部分CをビームPBの経路に位置決めするように、基板テーブルWT2を正確に移動させることができる。同様に、第1の位置決めデバイスPM及び別の位置センサ(図1には明示的に示されていない)を用いて、例えば、マスクライブラリからの機械的な取り出し後又はスキャン中などに、ビームPBの経路に対してパターニングデバイスMAを正確に位置決めすることが可能である。一般に、オブジェクトテーブルMT及びWTの移動は、位置決めデバイスPM及びPWの一部を形成する、ロングストロークモジュール(粗動位置決め)及びショートストロークモジュール(微動位置決め)の助けによって実現される。しかしながら、ステッパの場合(スキャナとは対照的に)、支持構造MTはショートストロークアクチュエータのみに接続可能である、又は固定可能である。
【0045】
[0044] リソグラフィ装置は、例えば、パターニングデバイスからのパターンをターゲット部分Cに投影するとき、スキャン動作とともにパターニングデバイスMA及び基板W2を移動させることができる。デカルト座標が図1に示されている。従来通り、z方向は放射ビームPBの光軸と一致する。リソグラフィ装置がスキャンリソグラフィ装置である実施形態において、y方向はスキャン動作の方向と一致する。
【0046】
[0045] 図に示すように、リソグラフィ装置は、2つ(デュアルステージ)又はそれ以上の基板テーブルWT1、WT2を有するタイプであってよい。デュアルステージリソグラフィ装置では、1つの基板W2の露光(「基板の露光」とは、前述のように、パターン付与された放射の基板への投影を意味する)が行われている間に、別の基板W1の特性を測定できるようにするために、2つの基板テーブルWT1、WT2が設けられる。
【0047】
[0046] 図1に示すデュアルステージリソグラフィ装置では、アライメントシステムASが図の左側に提供されている。投影システムPLは、図の右側に提供されている。アライメントシステムASは、第1の基板テーブルWT1上に保持される基板W1上に設けられるアライメントマークの位置(ボックスP1、P2によって概略的に示される)を測定する。投影システムPLによって、第2の基板テーブルWT2上に保持される基板W2にパターンが同時に投影される。第1の基板テーブルWT1によって支持される基板W1の測定が完了し、第2の基板テーブルWT2によって支持される基板W2の露光が完了したとき、基板テーブルの位置は取り換えられる。その後、第1の基板テーブルWT1によって支持される基板W1は、投影システムPLによって投影されるパターン付与された放射を使用して露光される。第2の基板テーブルWT2によって支持される既に露光されたウェーハW2は、後続の処理のために基板テーブルから除去される。その後、投影システムPLによって投影されるパターン付与された放射を使用する露光に先立って、アライメントシステムASによる測定のために、別の基板が第2の基板テーブルWT2上に配置される。
【0048】
[0047] 干渉計(図示せず)及び/又は他の位置測定手段を使用して、アライメント測定の間、基板テーブルWT1の位置を監視することができる。プロセッサPRは、アライメントシステムASからデータを受信すること、さらにまた、基板テーブルWT1の位置情報を受信することができる。基板Wは基板テーブルWT1上に固定されているため、基板テーブルに関する位置情報は、基板に関する位置情報と見なすことができる。
【0049】
[0048] 投影システムPLは、例えばレンズなどの光学素子を備える。投影システムPLの光学素子の不完全さから光学収差が生じる場合がある。光学収差は、例えばリソグラフィ露光中に起こる光学素子の加熱などの投影効果から生じる場合もある。本明細書で用いられる「光学収差」という言葉は、光学素子の性能の近軸近似からの逸脱を示す通常の意味を持つ。光学収差は、例えばオーバーレイエラー及び/又はフォーカスエラーなどの投影エラーを引き起こす可能性がある。基板上の目標位置に像を位置合わせすることをオーバーレイと呼ぶことがある。基板W2上の目標位置に像を位置合わせする際の誤差がオーバーレイエラーといわれることがある。基板への像の投影は、像を基板に対する目標焦点として行われる。基板上の像の目標焦点からのずれがフォーカスエラーといわれることがある。投影システムPL内に存在する光学収差は、当業者によく知られている方法によって測定することができる。測定された光学収差の詳細は、ハードディスクドライブなどの適切な記憶媒体に記憶することができる。例えばコントローラ10は、投影システムPLの光学収差を測定する、又は光学収差の測定値を受信することができる。コントローラ10は、以下でより詳細に説明される別の処理において使用するために、投影システムPLの測定された光学収差を記憶するための適切な記憶媒体を備える又はこれに接続されてよい。
【0050】
[0049] 投影システムモデル11(図2Aに概略的に示す)を使用して、投影システムPLの1つ以上の光学素子に対して行われ得る1つ以上の調整(本明細書において光学素子調整と呼ばれる)を決定することができる。決定された調整は、投影システムPL内の光学収差を減らす効果を有し得る。決定された調整は、光学収差が非ゼロ光学収差の所定セットに近づく及び/又は達するように光学収差を変化させる効果を有し得る。投影システムモデル11は、コントローラ10などの1つ以上のコンピュータ上で動作可能な1つ以上のコンピュータプログラムを含んでよい。図2Bは、例示的な投影システムモデル11の使用中に実行可能な処理のフローチャートである。図2Bの処理は、例えばコントローラ10、又は別のコンピュータシステム(図示せず)により実行可能である。ステップS1において、投影システムモデル11は、投影システム特性12の形で入力を受け取る。投影システム特性12は、例えば(例えば検出器装置を使用した、もしくはレジスト中での露光を実行することによる適切な測定によって決定された可能性のある、又は特性がモデルを使用して予測されていたなど事前に知られている可能性のある)投影システムPL内の既存の光学収差に関連する情報などの特性を含んでよい。投影システム特性12は、例えば、光学素子調整制約(例えば投影システムPL内の1つ以上の光学素子に対して行われ得る機械的調整の種類及び/又は大きさに対する制約)、オーバーレイエラー、及びフォーカスエラーなどの他の特性を含んでもよい。本明細書中の教示から、当業者には他の投影システム特性も明らかであろう。投影システムモデルに与えられる投影システム特性12は、例えば数値ベクトル又は行列の形を取り得るが、投影システム特性はいずれの形も取り得ることが理解されるであろう。
【0051】
[0050] 投影システムPL内の既存の光学収差に関連する情報は、ゼルニケ多項式の形の波面データとして表すことができる。ゼルニケ多項式は単位円板上で連続的に直交する多項式群である。ゼルニケ多項式は、光学システムで発生する光学収差に対応する数学的形式を有するため、波面データを表すのに用いられる。異なるゼルニケ多項式は異なるタイプの光学収差を表す。例えば第1のゼルニケ多項式はピストン収差を表す場合があるのに対して、別のゼルニケ多項式は球面収差を表す場合がある。ゼルニケ多項式は奇数又は偶数に分類されることがよくある。ゼルニケ多項式の異なる種類が、異なる投影システム特性に対応する場合がある。例えば偶数ゼルニケ多項式がフォーカスエラーに対応する場合があるのに対して、奇数ゼルニケ多項式はオーバーレイエラーに対応する場合がある。一般に、ゼルニケ多項式はいずれか望ましい方法で分類することができる。考慮するゼルニケ多項式の数を増やすことによって、投影システムPLなどの光学システムに存在する光学収差に関する情報がより多く提供される。考慮するゼルニケ多項式の数を増やすことによって、投影システムPL内に存在する光学素子に対して行われる調整によって投影システムPL内にどのように異なる光学収差が引き起こされる可能性があるかに関する情報がより多く提供される。例えば最初の64個のゼルニケ多項式は、光学システムの完全な理解のために考慮される可能性がある。代替的に、32個又は18個のゼルニケ多項式が考慮されてもよい。一般に、任意の数のゼルニケ多項式が考慮されてよいことが理解されるであろう。投影システムPL内の既存の光学収差に関する情報は、例えば方位ゼルニケ多項式の形など、様々な方法で表すことができる。
【0052】
[0051] ステップS1において投影システム特性12を受け取った後、処理はステップS2に移り、投影システムモデル11の調整決定モジュール13が、投影システム特性を改善するために投影システムPLに適用され得る光学素子調整を決定する。ステップS2における光学素子調整の決定は、多数の技術の1つ以上によることができる。一般に、調整決定モジュール13は、調整が行われるとき、既存の光学収差を補正する役割を果たす別の光学収差を投影システムPL内に生じさせる1つ以上の光学素子調整を決定することによって、投影システムPLの既存の光学収差を補償しようと試みる。調整決定モジュール13によって実行される1つ以上の技術には、例えば特異値分解、チホノフ正則化、線形計画法、二次計画法、及び前述の内容から当業者に明らかとなる他の技術が含まれてよい。投影システムモデル11の出力16は、投影システムPLに適用された場合に別の光学収差を生じさせて既存の光学収差を減らす1つ以上の光学素子調整を含んでよい。投影システムモデル11の出力16は、決定された光学素子調整が行われた後に存在すると予想される残存投影システム特性を含んでよい。
【0053】
[0052] 投影システムPLは任意の数の光学素子を備えてよい。投影システムPLは、例えば4個から20個の光学素子を備えてよい。投影システムPLは15個の光学素子を備えてよい。投影システムPLは20個超の光学素子を備えてよい。異なる光学素子が異なる光学素子調整を受ける場合がある。異なる光学素子が異なる操作制約を有する場合がある。つまり、投影システム内の異なる光学素子は、例えばx、y及びz方向の移動、回転、圧縮など、利用可能な調整の種類及び程度に対する異なる制限を有する場合がある。したがって、投影システム内の異なる光学素子は、投影システムPL内に存在する光学収差を補正できる程度が異なる場合がある。一般に、光学素子の数、利用可能な光学素子調整の種類、及び/又は利用可能な光学素子調整の程度が増すと、投影システムモデル11に関連する自由度の数が増す場合がある。光学素子に存在する光学収差は互いに複雑に結合している場合がある。光学素子を調整して1つの光学収差を補正することで、その光学素子に存在する1つ以上の他の光学収差に望ましくない変化が生じる場合がある。
【0054】
[0053] 投影システムモデル11は、投影システムPLに所望の投影システム特性を規定する目標を有する。投影システムモデルは、光学素子調整を決定することによって目標を達成しようと試みる。投影システムモデルは、メリット関数14を使用して光学素子調整を決定する。メリット関数14は、異なるメリット関数をもたらすように調整可能な1組のパラメータ15を含む。例えばメリット関数14の支配的パラメータ15は、ゼルニケ多項式の加重和として表現される最小自乗項であってよい。1つの実施例では、投影システムモデル11のメリット関数14は、下記の形式を取ることができる。
(Am-Ac)2+(x)+(y)+(z)+...
【0055】
[0054] 式中、Amは測定された(又は既知の)光学収差であり、Acは調整決定モジュール13によって計算された光学素子調整によって生じた別の光学収差であり、x、y及びzは、メリット関数14の他のパラメータを表す。他のパラメータは、例えば光学素子調整制約、ゼルニケ多項式の他の関数、二乗平均平方根波面誤差、オーバーレイエラーなどの他の投影システム特性の関数を含んでよい。z項の後には、3個超の追加のパラメータ15がメリット関数14内に含まれ得ることを示す省略記号が続いている。他のパラメータには、例えば投影システムモデルによる光学素子調整出力16の範囲に関連し得るチホノフ変数が含まれてよい。他のパラメータには、例えばリソグラフィ装置の露光スリット又は「フィールド」にわたる様々なゼルニケ多項式の特性に関連し得るゲンビツキー変数が含まれてよい。つまり、放射ビームPBの異なる部分が露光スリットに沿った異なる点にある露光スリットから出て、その後、異なる光学収差を有し得る投影システムPLの異なる部分を通過する。例えばゲンビツキー変数は、ゼルニケ多項式のフィールド中の最大値に関連する場合がある。パラメータは、調整決定モデルで用いられる異なる技術に関連する場合があり、例えば1つのパラメータは、特異値分解中に行われる反復の回数を決定することができる。一般にパラメータ15は、いずれの投影システム特性の関数を含んでもよい。関数は、例えば線形関数、二次関数などいずれの形を取ってもよい。一部のパラメータ15は、メリット関数に線形的に追加可能な項を含んでよい。一部のパラメータ15は、メリット関数に非線形的に追加可能な項を含んでよい。
【0056】
[0055] ステップS2において1つ以上の光学素子調整を決定した後、処理はステップS3に移り、投影システムモデルによって決定された光学素子調整が用いられる。ステップS3において、光学素子調整は、決定された光学素子調整を実行するように構成された、投影システムPL内の1つ以上のアクチュエータ(図1に示さず)に提供され得る。図1のコントローラ10から投影システムPLへの矢印は、コントローラ10から投影システムPLの1つ以上のアクチュエータへの光学素子調整の流れを概略的に示す。ステップS3からステップS4に処理が移り、光学素子調整から生じた投影システム特性の測定が行われる。測定は、例えば検出器装置を使用して行うことができる。測定は、例えば投影システムPLによってリソグラフィ露光を行うこと、及び結果として生じるオーバーレイエラーやフォーカスエラーなどを解析することを含んでよい。図2Bが示すプロセスは、投影システム特性の測定の結果が望ましくない場合、例えば存在するオーバーレイエラーが所定限度より大きい場合に再度実行することができる。つまり、結果として生じる投影システム特性は、ステップS1において投影システムモデル11にフィードバックすることができ、プロセスを繰り返すことができる。
【0057】
[0056] メリット関数14のパラメータ15は、関連する数学的重み17を有してよい。重み17は、投影システムモデル11におけるパラメータ15の重要性を表すことができる。つまり、例えば特定のゼルニケ多項式に割り当てられる重み14が大きければ大きいほど、調整決定モジュール13がゼルニケ多項式ひいてはこれと関連する光学収差をより大きく減らそうと試みる。他のパラメータ15は、例えばリソグラフィ露光中に生じる動的(すなわち「フェージング」)効果を表す項に割り当て可能な数値的重み17を含んでよい(例えば露光スリットに沿った異なる位置から出る放射は、投影システムPLを通過するときに異なる効果を経験する可能性がある)。他のパラメータ15は、例えばゲンビツキー変数及び/又はチホノフ変数に割り当てられた重み17を含んでよい。一般に、いずれの投影システム特性も割り当てられた重み17を有してよい。
【0058】
[0057] 異なる投影システムモデルのメリット関数パラメータ15を、未知の予測できない方法で互いに結合してもよい。例えば光学素子を調整して1つのゼルニケ多項式を減らすことで1つ以上の他のゼルニケ多項式が増えることがある。つまり、投影システムPLに存在する1つの光学収差を、1つ以上の他の光学収差の望ましくない増加をももたらす1つ以上の光学素子調整によって減らすことができる。投影システムモデル11の他のパラメータ15はまた、1つ以上の特定のゼルニケ多項式の最小化によって予測できないほどの影響を受ける可能性がある。例えば、特定のゼルニケ多項式を最小化することで、投影システムPLに関連したフォーカスエラーが増すという予期せぬ結果となる可能性がある。
【0059】
[0058] (これに照らしてメリット関数14が調整決定モジュール13の出力を判断する)投影システムモデル11の目標は様々な制約を含む場合がある。例えば投影システムモデル11の目標は、最小光学収差を達成することであってよい。別の実施例では、投影システムモデル11の目標は、そのような光学収差を達成するのに必要となる光学素子調整の数を規定の閾値未満に抑制しながら、最小光学収差を達成することであってよい。さらに別の実施例では、投影システムモデルの目標は、ゼルニケ多項式の最小化の影響を受けるいずれのエラー(例えばフォーカスエラーなど)も最小化しながら、オーバーレイエラーを減らすために多数のゼルニケ多項式、例えば64個のゼルニケ多項式を最小化することであってよい。
【0060】
[0059] 投影システムモデル11の異なるパラメータ15及び異なる制約を結合する方法が未知で予測できないことを考えれば、投影システムモデル11の解空間が複雑である可能性がある。重み17を異なるパラメータ15に割り当てる方法は、投影システムモデル11がいかに上手く複雑な解空間を探索できるかに影響を及ぼす、ひいては投影システムモデル11がもたらす出力16の質に最終的に影響を及ぼす可能性がある。既知の投影システムモデルは、単純過ぎる方法でパラメータ15に重み17を割り当てる。例えば、各奇数ゼルニケには1の重み17を割り当てる場合があるのに対して、各偶数ゼルニケには0の重み17を割り当てる場合がある。別の実施例では、各奇数ゼルニケには2の重み17を割り当てる場合があり、各偶数ゼルニケには4の重み17を割り当てる場合があり、各高次ゼルニケには3の重み16を割り当てる場合がある。これらの重み16は、一般に簡単化及び便宜のために選択される。
【0061】
[0060] 本明細書に記載の実施形態では、投影システムモデル11の複雑な解空間を正確に表す投影システムモデルのメリット関数パラメータ15及びこれと関連する重み17を探索するために最適化アルゴリズムを使用することができる。最適化アルゴリズムは、例えば進化アルゴリズムであってよい。最適化アルゴリズムは、例えば焼き鈍し法又は二次計画法などの技術を含むアルゴリズムを含んでよい。
【0062】
[0061] 図3は、既知の一般的な進化アルゴリズムのフローチャートである。ステップS11において、進化アルゴリズムは個体の初期母集団を受け取る。各個体は、設定された問題に対する解として使用し得る1組の可能な値を表す。例えば設定された問題が、投影システムモデルメリット関数14においてゼルニケ多項式に割り当てるべき改善された1組の重み17を求めることである場合は、母集団の各個体は、パラメータ15のゼルニケ多項式に割り当て可能な1組の重み17を表すことができる。個体は他の値を含んでもよい。例えば個体は、例えばオーバーレイエラーや、パラメータ15に存在し得る光学素子調整制約などの他の投影システム特性に割り当てられる1組の数値的重み17を含んでよい。個体は投影システムモデルメリット関数14において他の目的で使用される1組の数値的重み17を含んでよい。個体は、例えば特定の問題に対する解を提供する(例えば特定のリソグラフィ露光に必要な固有の光学収差を提供する)ために投影システムモデルメリット関数14に追加可能な項を含んでよい。一般に個体は、投影システムモデル11のメリット関数14に関わるいずれのパラメータ及び/又は重みを含んでよい。
【0063】
[0062] 処理はステップS11からステップS12に移る。進化アルゴリズムは適応度関数を含む。適応度関数は、設定された問題の解決に個体がどれだけ適切である(すなわち「適合している」)かを決定する。設定された問題は、投影システムモデル11が改善された1組の光学素子調整を提供できるように複雑な解空間を探索する能力をいかにして向上させるかであり得る。ステップS12において、適応度関数は、適応度関数に従って設定された問題に対して各個体がどれだけ優れた解であるかを反映するスコアを初期母集団の各個体に与える。適応度関数が作用する具体的な方法は、進化アルゴリズムが解決しようとする問題の性質に依存することが理解されるであろう。1つの例示的な実施形態では、ステップ12は図2Bに示したプロセスと一致する場合がある。つまり、適応度関数は、投影システムモデル11の出力16から生じる投影システム特性を評価することによって、投影システムモデル11のメリット関数がどれだけ優れているかを決定することができる。
【0064】
[0063] ステップS13において、適応度関数によって初期母集団の最良個体に割り当てられたスコアを評価して、満足のいくものであるかどうかを確かめる。母集団の最良個体に割り当てられたスコアが満足のいくものである場合は、この最良個体は設定された問題に対する望ましい解として出力される。初期母集団の最良個体に割り当てられたスコアが満足のいくものでない場合は、この母集団を次世代母集団が生成されるまで進化させる。スコアが満足のいくものであるか否かは所定のスコアとの比較により判断することができる。代替的に、進化アルゴリズムは、所定時間後、又は所定数の世代が生成された後、又は所定数の進化プロセスが母集団に適用された後に母集団の最良個体を出力することができる。進化アルゴリズムは、所望の限界に達した後、及び/又は所望の結果が得られた後に母集団の最良個体を出力することができる。
【0065】
[0064] ステップS14において、進化アルゴリズムは、複製、突然変異、組み替え及び淘汰などの既知のプロセスを介して個体の母集団を「進化させる」。例えば最良スコアを有する個体は相互複製のために選択されて新しい個体を生成することができる。新しい個体は、ランダム変化、すなわち突然変異を経験している既存の個体を介して生成することができる。新しい個体は、2つ以上の親個体の間で行われる組み替えを介して生成することができる。進化アルゴリズムは、個体の次世代母集団が生成されるまでこれらのプロセスを繰り返す。プロセスは所定時間繰り返すことができる。プロセスは所定回数に達するまで繰り返すことができる。プロセスは所定数の母集団が生成されるまで繰り返すことができる。
【0066】
[0065] ステップS15において、適応度関数は次世代母集団の各個体にスコアを与える。例えば図2Bに示したプロセスは、進化アルゴリズムによって決定されたメリット関数を使用して実行することができ、出力は適応度関数を使用して評価することができる。ステップS16において、適応度関数によって母集団の最良個体に割り当てられたスコアを評価して、満足のいくものであるかどうかを確かめる。母集団の最良個体に割り当てられたスコアが満足のいくものでない場合は、処理はステップS14に戻り、「次世代」母集団が生成されるまで母集団を再び進化させる。母集団の最良個体に割り当てられたスコアが満足のいくものである場合は、処理はステップS17に移り、この最良個体は設定された問題に対する望ましい解として出力される。
【0067】
[0066] 図4は、投影システムモデル11のメリット関数14を得るために使用可能な方法のある実施例のフローチャートである。ステップS21において、個体の初期母集団が受け取られる。本実施例において各個体は、投影システムモデルメリット関数パラメータと関連する重みのセットである。進化アルゴリズムに与えられる初期母集団は、それぞれが「単純過ぎる」(すなわち最適化されていない、単純な、又は任意の)ゼルニケ重みセットを表す個体を含んでよい。例えば初期母集団は、投影システムPL内で現在使用されている又は以前に使用されていた個体を含んでよい。初期母集団の第1の個体は、例えば奇数ゼルニケ多項式のための1の重みと、偶数ゼルニケ多項式のための2の重みと、高次ゼルニケ多項式のための3の重みとを含んでよい。初期母集団の第2の個体は、例えば奇数ゼルニケ多項式のための5の重みと、偶数ゼルニケ多項式のための10の重みと、高次ゼルニケ多項式のための0の重みとを含んでよい。ゼルニケ多項式は様々な方法で分類することができ、各種類には異なる重みを割り当てることができる。
【0068】
[0067] 次に、受け取られた初期母集団に進化アルゴリズムが適用される。進化アルゴリズムによって適用されるプロセスは、ある実施例では図3を参照して以上で説明したものと同様であってよい。より詳細には、処理はステップS21からステップS22に移り、投影システムモデル11が初期母集団に対して実行される。ステップS23において、初期母集団は、進化アルゴリズムの適応度関数に基づいてスコア化される。進化アルゴリズムの適応度関数は投影システムモデル11の関数である。図示した実施例では、進化アルゴリズムの適応度関数は投影システムモデル11の出力に基づいている。つまり、進化アルゴリズムの適応度関数は、投影システムモデル11の出力16が目標にどれくらい近いかに基づいて、個体に基づくメリット関数14を使用して各母集団の個体をスコア化する。
【0069】
[0068] 処理はステップS23からステップS24に移り、図3を参照して以上で説明したように個体の新しい母集団を進化させる。
【0070】
[0069] ステップS25において、投影システムモデルは現世代の母集団に対して再び実行される。投影システムモデルによって適用されるプロセスは、例えば図2を参照して以上で説明したようなものでよい。
【0071】
[0070] ステップS26において、現世代の個体が満足のいくものであるかどうかが判断される。ステップS23において、適応度関数は、目標を参照して個体に基づくメリット関数14を使用する場合に、投影システムモデル11の出力16を解析することによって個体をスコア化することができる。例えば投影システムモデル11によって出力される残存収差を評価し、投影システム特性の改善の余地を評価して、投影システムが所望の特性を使用して所望のリソグラフィ露光を現在行うことができるか否かを判断することができる。ステップS26において、現世代の個体には満足のいく出力16を生成するものがないと判断された場合、処理はステップS24に戻り、新しい母集団を進化させることができる。一方、ステップS26において、投影システムモデル11の出力16が現世代の1つの個体に満足のいくものであると判断された場合は、進化アルゴリズムは終了することができる。
【0072】
[0071] 進化アルゴリズムの適応度関数は、投影システムモデル11の出力16を使用して評価することができる。つまり、投影システムモデル11の出力16が満足のいくものでない場合は、進化アルゴリズムの適応度関数を変更することができる。進化アルゴリズムは、パレートフロントの形の最適解のセットを出力することができる。つまり、進化アルゴリズムは、それぞれが異なる点で最適なメリット関数のパレートフロントを出力することができる。例えばパレートフロントの第1のメリット関数は、投影システムモデルが第1のゼルニケ多項式を最小化できるようにする場合があるのに対し、パレートフロントの第2のメリット関数は、投影システムモデルが第2のゼルニケ多項式を最小化できるようにする場合がある。
【0073】
[0072] 一部の実施形態では、図4のステップS27に示すように、進化アルゴリズムから選ばれた個体を含むメリット関数14を使用して得られた投影システムモデル出力16は投影システムPLに提供されて、投影システムPLの光学素子を決定された光学素子調整に従って操作することができる。ステップS27は、このステップが図4の例示的な処理の中で任意選択的であることを示すために破線の輪郭線で描かれている。
【0074】
[0073] また、投影システムの調整に続いて、ステップS28においてリソグラフィ露光を行うことができる。投影システム特性は、改善されたメリット関数14を使用して投影システムモデル11によって計算された光学素子調整に起因して改善されている場合がある。したがって、リソグラフィ露光の結果を、光学素子調整に先立って行われるリソグラフィ露光と比較して改善することができる。例えば、調整後の露光によって、幾つかある改善の中でも特に、オーバーレイエラーが小さくなり、光学素子調整が少なくなり、フォーカスエラーが減る可能性がある。
【0075】
[0074] 進化アルゴリズムの適応度関数の設計は優れた解をもたらすのに重要である。適応度関数の設計は、投影システムモデルの進化アルゴリズムに提供されるパラメータ及び/又は重みに依存する。適応度関数は、例えば光学収差及び投影システムモデルに与えられるゼルニケ重みを中心にして設計することができる。適応度関数は、例えばオーバーレイエラーや波面誤差の二乗平均平方根和などの、投影システムモデルの出力から決定可能な投影システム特性を中心にして設計することができる。適応度関数は、投影システムモデル11の目標の変更に従って変更することができる。例えば、第1の場合における投影システムモデルの目標は、特定のゼルニケ多項式を他のゼルニケ多項式よりも多く減らすことである場合があるのに対し、第2の場合における投影システムモデルの目標は、基板にわたる特定の方向のオーバーレイエラーを減らすことである場合がある。適応度関数は、これら2つの場合及び他の場合で異なり得る。
【0076】
[0075] 適応度関数は、異なる結果を得るために進化アルゴリズムの異なる反復間で変化可能である。例えば進化アルゴリズムは、第1のゼルニケ多項式を最小化することを目的とする第1の適応度関数を使用して実行可能である。投影システムモデルによって満足のいく結果が得られると、進化アルゴリズムは、第1のゼルニケ多項式に悪い影響を及ぼすことなく第2のゼルニケ多項式を最小化することを目的とする第2の適応度関数を使用して実行可能である。
【0077】
[0076] 図5は、本明細書に記載の投影システムモデリング方法を適用した結果である改善された投影システム特性を示すグラフである。このグラフは、行われた進化アルゴリズムの反復回数に対するシミュレートされた二乗平均平方根波面誤差を座標で示す。二乗平均平方根波面誤差は、波面全体にわたって平均化された、波面の理想的な球状波面からのずれを表す。波面のその理想形からのずれは、投影システム内の光学収差の存在に起因する場合がある。“Min”と表示された線は、母集団の最低スコアの個体を表す。“Max”と表示された線は、母集団の最高スコアの個体を表す。“Ref”と表示された線は、投影システムモデルにおいて現在用いられている単純過ぎる重み付け法を用いて得られた結果を表す。“Best”と表示された線は、進化アルゴリズムの最後の反復における最良個体を使用して得られた結果を表す。進化アルゴリズムの反復回数が増えるにつれて、“Min”及び“Max”線は収束することが分かる。これは連続する各母集団の個体が進化アルゴリズムによって改善する傾向があるためである。
【0078】
[0077] 本明細書に記載の投影システムモデリング方法により、1つの光学素子又は複数の光学素子の調整を決定することができる。例えば投影システムの構築中に、投影システムの一部を形成する前に個々の光学素子を較正することができる。本明細書に記載の投影システムモデリング方法を用いて、個々の光学素子の較正を改善することができる。本明細書に記載の投影システムモデリング方法は、リソグラフィ装置を使用して生成されるデバイスの異なる層及び/又は異なるフィーチャに、これらの特定の層及び/又はフィーチャのための投影システム特性を改善するために適用することができる。
【0079】
[0078] 本書では、本発明の実施形態に対してリソグラフィ装置との関連において特に言及しているが、本発明の実施形態は他の装置においても使用可能である。本発明の実施形態は、マスク検査装置、メトロロジ装置、又はウェーハ(又は他の基板)又はマスク(又は他のパターニングデバイス)などのオブジェクトを測定又は処理する任意の装置の一部を形成することができる。これらの装置は、一般にリソグラフィツールと呼ぶことができる。こうしたリソグラフィツールは、真空条件又は周囲(非真空)条件を使用することができる。
【0080】
[0079] 照明光学系、光学系及び検出光学系は、放射のビームを誘導、成形、又は制御するための、屈折性、反射性、及び反射屈折性の光学コンポーネントを含む、様々なタイプの光学コンポーネントを包含し得る。
【0081】
[0080] 「EUV放射」という用語は、4~20nmの範囲内、例えば13~14nmの範囲内の波長を有する電磁放射を包含するものと見なされ得る。EUV放射は、10nm未満、例えば、6.7nm又は6.8nmなどの4~10nmの範囲内の波長を有し得る。
【0082】
[0081] 本文ではICの製造におけるリソグラフィ装置の使用について特に言及しているが、本明細書で説明するリソグラフィ装置には他の用途もあることを理解されたい。可能な他の用途は、集積光学システムの、磁気ドメインメモリのガイダンス及び検出パターン、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッドなどの製造である。
【0083】
[0082] 本発明の実施形態はハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア又はその任意の組み合わせで実施することができる。本発明の実施形態は、1つ以上のプロセッサで読み取り、実行することができる機械読み取り式媒体に記憶した命令として実施することもできる。機械読み取り式媒体は、機械(例えば、計算デバイス)で読み取り可能な形態で情報を記憶するか、又は伝送する任意の機構を含むことができる。例えば、機械読み取り式媒体は読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、磁気ディスク記憶媒体、光記憶媒体、フラッシュメモリデバイス、電気、光、音響又は他の形態の伝搬信号(例えば、搬送波、赤外線信号、デジタル信号など)、及びその他を含むことができる。さらに、ファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令を、本明細書では特定の行為を実行するものとして記述することができる。しかし、このような記述は便宜的なものにすぎず、このような行為は実際には計算デバイス、プロセッサ、コントローラ、又はファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令などを実行する他のデバイスの結果であることを認識されたい。
【0084】
[0083] 以上、本発明の特定の実施形態を説明したが、本発明は、説明したものとは別の方法で実施することができることが理解されよう。上記の説明は例示的なものであり、限定するものではない。したがって、以下に示す特許請求の範囲から逸脱することなく、記載された本発明に対して変更がされ得ることは、当業者には明らかであろう。

図1
図2A
図2B
図3
図4
図5