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特許6990290磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスク
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  • 特許-磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20220127BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20220127BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20220127BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20220127BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20220127BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20220127BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20220127BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220127BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20220127BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20220127BHJP
   C22F 1/043 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
G11B5/73
G11B5/738
G11B5/82
G11B5/84 C
C22C21/00 M
C22C21/06
C22C21/02
C22F1/00 604
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 661D
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684B
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
C22F1/04 F
C22F1/047
C22F1/043
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020215207
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2021-07-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】北脇 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 航
(72)【発明者】
【氏名】畠山 英之
(72)【発明者】
【氏名】山田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】東藤 慎平
(72)【発明者】
【氏名】中村 肇宏
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-029595(JP,A)
【文献】特開2019-160384(JP,A)
【文献】特開2013-151737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/73
G11B 5/738
G11B 5/82
G11B 5/84
C22C 21/00
C22C 21/06
C22C 21/02
C22F 1/00
C22F 1/04
C22F 1/047
C22F 1/043
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:0.005~1.800mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクであって、大気中にて磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクを50℃以下で336時間、保持した際の該磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの平坦度変化が2.0μm以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、Mn:1.80mass%以下、Ni:2.50mass%以下、Cu:1.00mass%以下、Zn:0.70mass%以下、Mg:4.50mass%以下、Cr:0.30mass%以下、Zr:0.15mass%以下、Si:14.00mass%以下、Be:0.0015mass%以下、Sr:0.10mass%以下、Na:0.10mass%以下及びP:0.10mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上の元素を更に含有する、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項3】
前記磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径が、18μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項4】
前記磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径が、15μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項5】
前記磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径が、12μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項6】
前記磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径が、11μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項7】
前記磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径が、10μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクからなるアルミニウム合金基板の表面に、Ni-Pめっき処理層と、該Ni-Pめっき処理層の上の磁性体層とを有することを特徴とする磁気ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(以下、「HDD」と省略する)は、コンピュータや映像記録装置等の電子機器における記憶装置として多用されている。HDDには、データを記録するための磁気ディスクが組み込まれている。磁気ディスクは、アルミニウム合金からなり円環状を呈するアルミニウム合金基板と、アルミニウム合金基板の表面を覆うNi-Pめっき処理層と、Ni-Pめっき処理層上に積層された磁性体層とを有している。
【0003】
近年、サーバやデータセンター等の業務用、及び、パーソナルコンピュータや映像記録装置等の家庭用のいずれの用途においても、HDDに記録する情報量が多くなってきている。かかる状況に対応してHDDの容量を大きくするため、HDDに組み込まれる磁気ディスクの記録密度を高めることが求められている。磁気ディスクの記録密度を高くするために、アルミニウム合金基板上に平滑なNi-Pめっき処理層を形成する。
【0004】
磁気ディスクは、通常、以下の方法により作製される。まず、アルミニウム合金の圧延板を円環状に打ち抜いてディスクブランクを作製する。次いで、ディスクブランクを厚み方向の両側から加圧しつつ加熱してディスクブランクの反りを小さくする。その後、ディスクブランクに切削加工及び研削加工を行い、所望の形状に成形することによりアルミニウム合金基板が得られる。このようにして得られたアルミニウム合金基板に、Ni-Pめっき処理層を形成するための前処理、無電解Ni-Pめっき処理及び磁性体層のスパッタリングを順次行うことにより、磁気ディスクを作製することができる。
【0005】
アルミニウム合金基板に用いられるアルミニウム合金としては、JIS A5086合金が多用されている。
【0006】
磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化及び高密度化が求められている。更なる大容量化のため、磁気ディスクの厚みを薄くして搭載枚数を増加させる方法が採用されている。この方法では、薄肉化に伴い剛性が低下し、ディスク・フラッタが発生し易くなる。これは、磁気ディスクを高速で回転させると不安定な気流がディスク間に発生し、その気流により磁気ディスクの振動(フラッタリング)が発生することに起因する。フラッタリングが起きると、読み取り部であるヘッドの位置決め誤差が増加する。そのためフラッタリング対策として、ハードディスク内にヘリウムを充填させ流体力を下げる方法が採用されている。これは、ヘリウムのガス粘度が空気と比べるとその約1/8と小さいためである。ハードディスクの回転に伴うガスの流れによって発生するフラッタリングを、ガスの流体力を小さくすることによって低減するものである。しかしながら、ヘリウムを封入する必要があるため、コストが増加する問題があった。一方、ハードディスク内が大気雰囲気の場合、更なる大容量化のため、読み書き時のヘッドの浮上量を低くする傾向があるが、磁気ディスクの表面に凸状欠陥が存在すると、磁気ヘッドと衝突し、記録エラーの原因となるため、凸状欠陥の低減が求められている。
【0007】
そこで、凸状欠陥の低減により平滑性をより向上させることを目的として、金属間化合物等の、アルミニウム合金基板内の異物を低減する技術が種々検討されている。例えば、特許文献1には、2.0~6.0wt%のMg、0.05~0.15wt%のCu、0.10~0.30wt%のZn、0.05~0.12wt%のZr、0.2wt%以下(0wt%を含む)のSnを含有し、前記Cu、Zn、Zr、Snの含有量が0.15wt%≦2Cu+6Zr-3Zn-0.1Sn≦0.32wt%、の関係式(式中Cu、Zr、Zn、Snは各々のwt%)を満足し、さらに0.01wt%を超え0.05wt%未満のMn、0.01wt%を超え0.05wt%未満のCrのうちの1種または2種を含有し、残部不可避的不純物元素とAlからなる磁気ディスク基板用アルミニウム合金板において、MgSi化合物やAl-Fe系化合物を低減する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-008177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の方法によれば、双ロール式連続鋳造により、溶湯が凝固する際の冷却速度を高め、金属間化合物を微細化することができる。しかしながら、特許文献1の方法では、金属間化合物以外の要因によるディスクブランクの凸状欠陥を低減することが困難であるという問題がある。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明者らは、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの平坦度変化を制御することによって、平滑性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、Fe:0.005~1.800mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクであって、大気中にて磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクを50℃以下で336時間、保持した際の該磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの平坦度変化が2.0μm以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、前記アルミニウム合金が、Mn:1.80mass%以下、Ni:2.50mass%以下、Cu:1.00mass%以下、Zn:0.70mass%以下、Mg:4.50mass%以下、Cr:0.30mass%以下、Zr:0.15mass%以下、Si:14.00mass%以下、Be:0.0015mass%以下、Sr:0.10mass%以下、Na:0.10mass%以下及びP:0.10mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上の元素を更に含有する、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、前記磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径が、18μm以下であることを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、前記磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径が、15μm以下であることを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、前記磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径が、12μm以下であることを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、前記磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径が、11μm以下であることを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、前記磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径が、10μm以下であることを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクからなるアルミニウム合金基板の表面に、Ni-Pめっき処理層と、該Ni-Pめっき処理層の上の磁性体層とを有することを特徴とする磁気ディスクである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクは、平坦度変化を制御して、平滑性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】アルミニウム合金ディスクブランクの平坦度の測定範囲を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク(以下、「アルミニウム合金ディスクブランク」と記す場合がある)について説明する。アルミニウム合金ディスクブランクは、所定の合金組成のアルミニウム合金を用いてアルミニウム合金板を作製し、これをディスク状に打ち抜くことで得られる。アルミニウム合金ディスクブランクは、Fe:0.005~1.800mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。大気中にてアルミニウム合金ディスクブランクを50℃以下で336時間、保持した際の該アルミニウム合金ディスクブランクの平坦度変化は2.0μm以下である。平坦度変化は、{(50℃以下で336時間、保持前のアルミニウム合金ディスクブランクの平坦度)-(50℃以下で336時間、保持後のアルミニウム合金ディスクブランクの平坦度)}の絶対値として算出される。この平坦度変化が2.0μm以下であることにより、アルミニウム合金ディスクブランクの表面切削や研削の際に残留応力が発生しにくくなり、加工後に行われる焼鈍において凸状欠陥が生成しにくくなる。この結果、アルミニウム合金ディスクブランクの平滑性を向上させて、磁気ディスク表面の凸状欠陥の発生を防ぐことができる。
【0015】
A-1.アルミニウム合金の合金組成
アルミニウム合金ディスクブランクに用いるアルミニウム合金の組成及びその限定理由について、以下に詳細に説明する。
【0016】
・Fe:0.005~1.800mass%
Feは、主として第二相粒子(Al-Fe系金属間化合物等)として存在すると共に、一部はマトリックスに固溶して存在する。第二相粒子生成とマトリックスへの固溶により、Feはアルミニウム合金ディスクブランクの強度と剛性を向上させる効果を発揮する。しかしながら、Feの含有量が0.005mass%未満では、アルミニウム合金ディスクブランクの強度が低すぎるため、加圧焼鈍後のディスクブランク剥離時にアルミニウム合金ディスクブランクが変形してしまう。一方、Feの含有量が1.800mass%を超えると、粗大な金属間化合物が生成して、アルミニウム合金ディスクブランクのエッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、表面の平滑性が低下する。また、Feの含有量が多いとアルミニウム合金ディスクブランクの強度が高くなるため、圧延時に割れが発生してしまう。従って、アルミニウム合金中のFeの含有量は0.005~1.800mass%とする。なお、Feの含有量は、アルミニウム合金ディスクブランクの強度と剛性と製造性との兼合いから、0.010~1.500mass%とするのが好ましい。
【0017】
一実施形態の前記アルミニウム合金ディスクブランクには、Feに加えて、更に、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Si(シリコン)、Be(ベリリウム)、Cr(クロム)、Zr(ジルコニウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)、Na(ナトリウム)、P(リン)のうち1種または2種以上の元素が任意成分として含まれていてもよい。この場合、Fe:0.005~1.800mass%を含有し、Mn:1.80mass%以下、Ni:2.50mass%以下、Cu:1.00mass%以下、Zn:0.70mass%以下、Mg:4.50mass%以下、Cr:0.30mass%以下、Zr:0.15mass%以下、Si:14.00mass%以下、Be:0.0015mass%以下、Sr:0.10mass%以下、Na:0.10mass%以下及びP:0.10mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上の元素を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクであって、大気中にて磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクを50℃以下で336時間、保持した際の該磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの平坦度変化が2.0μm以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクが得られる。
以下では、各任意成分について詳細に説明する。
【0018】
・Mn:1.80mass%以下
前記アルミニウム合金ディスクブランク中には、任意成分として、1.80mass%以下のMnが含まれていてもよい。Mnは、主として第二相粒子(Al-Mn系金属間化合物等)として存在すると共に、一部はマトリックスに固溶して存在する。第二相粒子生成とマトリックスへの固溶により、Mnはアルミニウム合金ディスクブランクの強度と剛性を向上させる効果を発揮する。しかしながら、Mnの含有量が多いと、粗大な金属間化合物が生成して、アルミニウム合金ディスクブランクのエッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、表面の平滑性が低下するおそれがある。また、Mnの含有量が多いとアルミニウム合金ディスクブランクの強度が高くなるため、圧延時に割れが発生してしまうおそれがある。従って、Mnの含有量は1.80mass%以下とすることが好ましい。なお、Mnの含有量は、アルミニウム合金ディスクブランクの強度と剛性と製造性との兼合いから、0.01~1.50mass%とするのが好ましい。
【0019】
・Ni:2.50mass%以下
前記アルミニウム合金中には、任意成分として、2.50mass%以下のNiが含まれていてもよい。Niは、主として第二相粒子(Al-Ni系金属間化合物等)として存在すると共に、一部はマトリックスに固溶して存在する。第二相粒子生成とマトリックスへの固溶により、Niはアルミニウム合金ディスクブランクの強度と剛性を向上させる効果を発揮する。しかしながら、Niの含有量が多いと、粗大な金属間化合物が生成して、アルミニウム合金ディスクブランクのエッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、表面の平滑性が低下するおそれがある。また、Niの含有量が多いとアルミニウム合金ディスクブランクの強度が高くなるため、圧延時に割れが発生してしまうおそれがある。従ってNiの含有量は2.50mass%以下とすることが好ましい。なお、Niの含有量は、アルミニウム合金ディスクブランクの強度と剛性と製造性との兼合いから、0.01~2.00mass%とするのが好ましい。
【0020】
・Cu:1.00mass%以下
前記アルミニウム合金中には、任意成分として、1.00mass%以下のCuが含まれていてもよい。Cuは、主として第二相粒子(Al-Cu系金属間化合物等)として存在し、アルミニウム合金ディスクブランクの強度とヤング率を向上させる効果を発揮する。また、アルミニウム合金ディスクブランクのジンケート処理時のAl溶解量を減少させる。更に、ジンケート処理時にジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のめっき工程での平滑性を向上させる効果を発揮する。
【0021】
しかし、Cuの含有量が多くなると、アルミニウム合金ディスクブランクの耐食性が低下して、局所的にAlが溶出しやすい領域が形成される。そのため、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金基板の表面においてAlの溶解量にむらが発生し、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなりやすい。その結果、Ni-Pめっき処理層とアルミニウム合金基板との密着性の低下やNi-Pめっき処理層の平滑性の低下を招くおそれがある。
【0022】
前記アルミニウム合金中のCuの含有量を好ましくは1.00mass%以下、より好ましくは0.50mass%以下とすることにより、アルミニウム合金ディスクブランクの剛性と強度を更に高め、めっきピットの形成を抑制し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Cuの含有量の下限は、好ましくは0.005mass%である。
【0023】
・Zn:0.70mass%以下
前記アルミニウム合金中には、任意成分として、0.70mass%以下のZnが含まれていてもよい。Znは、アルミニウム合金ディスクブランクのジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート処理時のジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のめっき工程での平滑性及び密着性を向上させる効果を発揮する。また、他の添加元素と第二相粒子を形成し、ヤング率と強度を向上させる効果を発揮する。
【0024】
しかし、Znの含有量が多くなると、アルミニウム合金ディスクブランクの耐食性が低下し、アルミニウム合金ディスクブランクに局所的にAlが溶出しやすい領域が形成される。そのため、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金基板の表面においてAlの溶解量にむらが発生し、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなりやすい。その結果、Ni-Pめっき処理層とアルミニウム合金基板との密着性の低下やNi-Pめっき処理層の平滑性の低下を招くおそれがある。
【0025】
前記アルミニウム合金中のZnの含有量を好ましくは0.70mass%以下、より好ましくは0.50mass%以下とすることにより、アルミニウム合金ディスクブランクの剛性と強度を更に高め、めっきピットの形成を抑制し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Znの含有量の下限は、好ましくは0.10mass%である。
【0026】
・Mg:4.50mass%以下
前記アルミニウム合金中には、任意成分として、4.50mass%以下のMgが含まれていてもよい。Mgは、主としてマトリックスに固溶して存在し、一部は第二相粒子(Mg-Si系金属間化合物等)として存在する。これにより、アルミニウム合金ディスクブランクの強度と剛性を向上させる効果を発揮する。
【0027】
しかし、Mgの含有量が多くなると、粗大なAl-Mg系金属間化合物が生成して、アルミニウム合金ディスクブランクのエッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、表面の平滑性が低下する。また、Mg量が多いと強度が高くなるため、圧延時に割れが発生してしまう。
【0028】
前記アルミニウム合金中のMgの含有量を好ましくは4.50mass%以下、より好ましくは3.50mass%以下、さらに好ましくは3.00mass%以下とすることにより、アルミニウム合金ディスクブランクの強度と剛性を更に高めることができる。なお、Mgの含有量の下限は、好ましくは1.00mass%である。
【0029】
・Cr:0.30mass%以下
前記アルミニウム合金中には、任意成分として、0.30mass%以下のCrが含まれていてもよい。Crの一部は、鋳造時に生じる微細な金属間化合物として前記アルミニウム合金内に分散し、アルミニウム合金ディスクブランクの剛性が向上する。アルミニウム合金の鋳造時に金属間化合物とならなかったCrはAlマトリクス中に固溶し、固溶強化によってアルミニウム合金ディスクブランクの強度を向上させる作用を有している。
【0030】
また、Crは、アルミニウム合金ディスクブランクの切削性及び研削性をより高めるとともに再結晶組織をより微細化することができる。その結果、アルミニウム合金基板とNi-Pめっき処理層との密着性をより高め、めっきピットの発生を抑制することができる。
【0031】
しかし、前記アルミニウム合金中のCrの含有量が過度に多くなると、アルミニウム合金ディスクブランク中に粗大なAl-Cr系金属間化合物が形成されやすくなる。このような粗大なAl-Cr系金属間化合物がアルミニウム合金ディスクブランクの表面から脱落した場合、後に行う無電解Ni-Pめっき処理においてめっきピットが形成されやすくなる。
【0032】
前記アルミニウム合金中のCrの含有量を0.30mass%以下とすることにより、アルミニウム合金ディスクブランクの剛性と強度をより向上させることができる。また、めっきピットの発生をより効果的に抑制し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Crの含有量の下限値は、0.030mass%が好ましい。
【0033】
・Zr:0.15mass%以下
前記アルミニウム合金中には、任意成分として、0.15mass%以下のZrが含まれていてもよい。Zrの一部は、アルミニウム合金の鋳造時に生じる微細な金属間化合物としてアルミニウム合金ディスクブランク内に分散し、剛性が向上する。アルミニウム合金の鋳造時に金属間化合物とならなかったZrはAlマトリクス中に固溶し、固溶強化によってアルミニウム合金ディスクブランクの強度を向上させる作用を有している。
【0034】
また、Zrは、アルミニウム合金ディスクブランクの切削性及び研削性をより高めるとともに再結晶組織をより微細化することができる。その結果、アルミニウム合金基板とNi-Pめっき処理層との密着性をより高め、めっきピットの発生を抑制することができる。
【0035】
しかし、前記アルミニウム合金中のZrの含有量が過度に多くなると、アルミニウム合金ディスクブランク中に粗大なAl-Zr系金属間化合物が形成されやすくなる。このような粗大なAl-Zr系金属間化合物がアルミニウム合金ディスクブランクの表面から脱落した場合、後に行う無電解Ni-Pめっき処理においてめっきピットが形成されやすくなる場合がある。
【0036】
前記アルミニウム合金中のZrの含有量を0.15mass%以下とすることにより、めっきピットの形成を抑制し、平滑なNi-Pめっき処理層を形成するとともにアルミニウム合金ディスクブランクの剛性と強度をより向上させることができる。なお、Zrの含有量の下限値は、0.050mass%が好ましい。
【0037】
・Si:14.00mass%以下
前記アルミニウム合金中には、任意成分として、14.00mass%以下のSiが含まれていてもよい。Siは、主に第二相粒子(Si粒子やAl-Fe-Si系金属間化合物等)として存在し、アルミニウム合金ディスクブランクの剛性と強度を向上させる効果を発揮する。
【0038】
しかし、前記アルミニウム合金中のSiの含有量が過度に多くなると、アルミニウム合金ディスクブランク中に粗大な粒子や金属間化合物が形成されやすくなる。このような粗大な粒子や金属間化合物がアルミニウム合金ディスクブランクの表面から脱落した場合、後に行う無電解Ni-Pめっき処理においてめっきピットが形成されやすくなる場合がある。
【0039】
前記アルミニウム合金中のSiの含有量を14.00mass%以下とすることにより、アルミニウム合金ディスクブランクの剛性と強度をより向上させることができる。なお、Siの含有量の下限値は、0.10mass%が好ましい。
【0040】
・Be:0.0015mass%以下
Beは、Mgを含むアルミニウム合金を鋳造する際に、Mgの酸化を抑制することを目的として溶湯内に添加される元素である。また、前記アルミニウム合金中のBeを0.0015mass%以下含有することにより、磁気ディスクの製造過程においてアルミニウム合金基板の表面に形成されるZn皮膜をよりち密にするとともに、厚みのバラつきをより小さくすることができる。その結果、アルミニウム合金基板上に形成されるNi-P処理層の平滑性をより高めることができる。
【0041】
しかし、前記アルミニウム合金中のBeの含有量が過度に多くなると、アルミニウム合金ディスクブランクの製造過程においてディスクブランクが加熱された際に、ディスクブランクの表面にBe系酸化物が形成されやすくなる。また、前記アルミニウム合金が更にMgを含む場合、アルミニウム合金ディスクブランクが加熱された際に、ディスクブランクの表面にAl-Mg-Be系酸化物が形成されやすくなる。この酸化物の量が多くなると、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなり、めっきピットの発生を招くおそれがある。
【0042】
前記アルミニウム合金中のBeの含有量を好ましくは0.0015mass%以下、より好ましくは0.0010mass%以下とすることにより、Al-Mg-Be系酸化物の量を低減し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。
【0043】
・Sr、Na及びP:0.10mass%以下
アルミニウム合金がSr、Na及びPを含有することにより、アルミニウム合金ディスクブランク中の第二相粒子(主にSi粒子)を微細化し、めっき性を改善する効果が得られる。また、アルミニウム合金ディスクブランク中の第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、アルミニウム合金ディスクブランク中の耐衝撃特性のバラつきを低減させる効果がある。そのため、アルミニウム合金中に、好ましくは0.10mass%以下のSr、好ましくは0.10mass%以下のNa、及び好ましくは0.10mass%以下のPからなる群から選択された1又は2以上の元素を選択的に添加されてもよい。ただし、Sr、Na及びPのそれぞれが0.10mass%を超過して含有してもその効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。また上記効果を得るためには、Sr、Na及びPのそれぞれが0.001mass%以上であることがより好ましい。
【0044】
・その他の元素
アルミニウム合金には、上述した必須成分及び任意成分以外の不可避的不純物となる元素が含まれていてもよい。これらの元素としては、Ti、B、Si、Gaなどが挙げられ、その含有量は、各元素について0.05mass%以下、合計で0.15mass%以下であれば本発明の作用効果を損なわない。上述のように本発明においては、Siを任意成分として積極的に添加することもできるが、積極的に添加せず不可避的不純物として含有する場合もある。Siは、一般的な純度の地金はもとより、Alの純度が99.9%以上である高純度の地金にも不可避的不純物として含まれ、このように不可避的不純物として含まれる場合も、0.100mass%以下であれば本発明の作用効果を損なわない。なお、Siを任意成分として積極的に添加する場合は、上記のようにアルミニウム合金ディスクブランクの剛性と強度をより向上させる観点から、アルミニウム合金中のSiの含有量が14.00mass%以下であることが好ましい。
【0045】
アルミニウム合金ディスクブランクの平坦度変化
本発明に係るアルミニウム合金ディスクブランクは、大気中にて50℃以下で336時間、保持した際の平坦度変化(保持前の平坦度と、保持後の平坦度の差の絶対値)を2.0μm以下とする。平坦度変化を2.0μm以下と小さくすることによって、凸状欠陥を低減させて表面の平滑性を向上させることができる。この平坦度変化が2.0μmを超えるアルミニウム合金ディスクブランクは、表面切削や研削の際に残留応力が発生しやすくなり、加工後に行われる焼鈍においても残留応力が完全に消滅せず、スパッタリングを実施した時に、残留応力が解放されて凸状欠陥が発生し、その平滑性が低下する。従って、本発明に係るアルミニウム合金ディスクブランクは、大気中にて50℃以下で336時間、保持した際の平坦度変化が2.0μm以下である。なお、アルミニウム合金ディスクブランクの平坦度変化は好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.9μm以下、さらに好ましくは0.8μm以下である。
【0046】
なお、本発明において平坦度とは、アルミニウム合金ディスクブランクの表面全体の最大山高さと最大谷深さの差で表わされる。ここで、最大山高さは測定範囲における輪郭曲線の平均線と測定範囲内で最も高い値との差であり、最大谷深さは当該平均線と測定範囲内で最も低い値との差である。ここで、図1はアルミニウム合金ディスクブランク2の平坦度の上記測定範囲を表す図である。図1に示すように、アルミニウム合金ディスクブランク2の中心1からアルミニウム合金ディスクブランク2の内径までの半径をRx(mm)とし、アルミニウム合金ディスクブランク2の中心1からアルミニウム合金ディスクブランク2の外径までの半径をRy(mm)としたとき、Rx+1(mm)の円と、Ry-1(mm)の円で囲まれた領域が測定範囲となる。平坦度の測定に用いるアルミニウム合金ディスクブランクは、加圧焼鈍後に各々のアルミニウム合金ディスクブランクを剥離させてから1時間以内で0~50℃に保管されたものを使用する。なお、予備試験により、加圧焼鈍後にディスクブランクを剥離してから1時間以内で0~50℃での保管であれば、同じアルミニウム合金ディスクブランクを50℃以下で336時間、保持した際の平坦度変化は、温度の影響を受けずに同一の値を示すことを確認している。
【0047】
結晶粒径
本発明に係るアルミニウム合金ディスクブランクの表面の結晶粒径は、18μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、12μm以下が更に好ましく、11μm以下が特に好ましく、10μm以下がより特に好ましい。このように結晶粒径を小さくすることによって、凸状欠陥を低減させることができる。より具体的には、上記のように結晶粒径が小さいアルミニウム合金ディスクブランクは、結晶粒界が増えることで変形抵抗が大きくなるため平坦度変化を抑制することができる。その結果、表面切削や研削の際に残留応力が発生しにくくなり、加工後に行われる焼鈍においても残留応力が効果的に消滅して、スパッタリングを実施した時に、凸状欠陥が発生しにくくなり、平滑性が向上する。従って、結晶粒径は18μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、12μm以下が更に好ましく、11μm以下が特に好ましく、10μm以下がより特に好ましい。
【0048】
A-2.アルミニウム合金板の製造方法
(1)鋳造工程
所定の合金組成のアルミニウム材の原料を溶解し、溶湯を溶製してからこれを鋳造して鋳塊を作製する。鋳造としては、半連続鋳造(DC鋳造)法や金型鋳造法、連続鋳造(CC鋳造)法が用いられる。DC鋳造法においては、スパウトを通して注がれた溶湯が、ボトムブロックと、水冷されたモールドの壁、ならびに、インゴット(鋳塊)の外周部に直接吐出される冷却水で熱を奪われ、凝固し、鋳塊として下方に引き出される。金型鋳造法においては、鋳鉄等で作られた中空の金型に注がれた溶湯が、金型の壁に熱を奪われ、凝固し、鋳塊が出来上がる。CC鋳造法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロールからの抜熱で薄板を直接鋳造する。
【0049】
このような鋳造工程において、溶湯中の溶存ガスを低減する脱ガス処理及び溶湯中の固形物を除去するろ過処理をインラインで行うことが好ましい。
【0050】
脱ガス処理としては、例えば、SNIF(Spinning Nozzle Inert Flotation)プロセスと呼ばれる処理方法やAlpurプロセスと呼ばれる処理方法等を採用することができる。これらのプロセスにおいては、羽根付き回転体により溶湯を高速で攪拌しながらアルゴンガスやアルゴンと塩素との混合ガス等のプロセスガスを吹き込み、溶湯中にプロセスガスの微細な気泡を形成する。これにより、溶湯中に溶存した水素ガスや介在物を短時間で除去することができる。脱ガス処理には、インライン式の脱ガス装置を使用することができる。
【0051】
ろ過処理としては、例えば、ケークろ過方式やろ材ろ過方式などを採用することができる。また、ろ過処理には、例えば、セラミックチューブフィルター、セラミックフォームフィルター、アルミナボールフィルタ-などのフィルターを使用することができる。
【0052】
(2)均質化処理工程
鋳塊を作製した後に熱間圧延を行うまでの間に、必要に応じて鋳塊の面削を行い、均質化処理を行ってもよい。均質化処理における保持温度は、例えば500~570℃の範囲から適宜設定することができる。また、均質化処理における保持時間は、例えば1~60時間の範囲から適宜設定することができる。
【0053】
(3)熱間圧延工程
次に、鋳塊に熱間圧延を行い、熱間圧延板を作製する。熱間圧延の圧延条件は特に限定されるものではないが、例えば、開始温度を400~550℃の範囲とし、終了温度を260~380℃の範囲として熱間圧延を行うことができる。
【0054】
(4)冷間圧延工程
熱間圧延を行った後、得られた熱間圧延板に1パス以上の冷間圧延を行うことにより、冷間圧延板を得ることができる。冷間圧延の総圧下率は、高いほど結晶粒径が小さくなるため、冷間圧延の総圧下率は、70%以上とすることが好ましく、より好ましくは80%以上である。冷間圧延の総圧下率に上限は特に設けないが、高すぎると冷延時間が長くなりコストが増加するため、95%程度とする。また、冷間圧延板の厚みは、例えば、0.2~1.9mmの範囲から適宜設定することができる。
【0055】
(5)焼鈍工程
上記態様の製造方法においては、冷間圧延における1パス目の前及びパス間のうち少なくとも一方において、必要に応じて焼鈍処理を行ってもよい。焼鈍処理は、バッチ式熱処理炉を用いて行ってもよいし、連続式熱処理炉を用いて行ってもよい。バッチ式熱処理炉を用いる場合、焼鈍時の保持温度を250~430℃、保持時間を0.1~10時間の範囲とすることが好ましい。また、連続式熱処理炉を用いる場合、炉内の滞在時間を60秒以内、炉内の温度を400~500℃とすることが好ましい。このような条件で焼鈍処理を行うことにより、冷間圧延時の加工性を回復させることができる。
以上の工程によって、アルミニウム合金板が作製される。
【0056】
A-3.アルミニウム合金基板の製造方法
上記のアルミニウム合金板に打ち抜き加工を行って円環状を呈するアルミニウム合金ディスクブランクを作製する。その後、アルミニウム合金ディスクブランクを厚み方向の両側から加圧しながら加熱して加圧焼鈍を行うことにより、アルミニウム合金ディスクブランクの歪みを低減させ、その平坦度を向上させる。加圧焼鈍における保持温度と圧力は、例えば、250~430℃で1.0~3.0MPaの範囲から適宜選択することができる。また、加圧焼鈍における保持時間は、例えば、30分以上とすることができる。
【0057】
加圧焼鈍を行った後、各々のアルミニウム合金ディスクブランクを剥離した後は、温度範囲-10℃以下で大気中にて保管しておくことが好ましい。切削加工及び研削加工の前に、-10℃以下で保管しておくことで、ディスクブランクの平坦度変化を抑制することができる。このように平坦度変化を小さくすることによって、アルミニウム合金ディスクブランクの凸状欠陥を低減させて表面の平滑性を向上させることができる。この平坦度変化が2.0μmよりも大きいアルミニウム合金ディスクブランクは、表面切削や研削の際に残留応力が発生しやすくなり、加工後に行われる焼鈍においても残留応力が完全に消滅せず、スパッタリングを実施した時に、残留応力が解放されて凸状欠陥が発生し、平滑性が低下する。従って、加圧焼鈍を行った後、アルミニウム合金ディスクブランクを剥離した後は、温度範囲-10℃以下で大気中にて保管しておくことが好ましく、-20℃以下で保管しておくことがより好ましく、-25℃以下で保管しておくことがさらに好ましい。保管温度の下限は特に設けないが、温度が低すぎるとコストが増加してしまうため、-40℃以上が好ましく、-38℃以上がより好ましく、-35℃以上がさらに好ましい。なお、上記の保管工程は、平坦度を測定する際に行う1時間以内、0~50℃でのアルミニウム合金ディスクブランクの保管とは異なる。
【0058】
次に、アルミニウム合金ディスクブランクに切削加工及び研削加工を順次行い、所望の形状を有するアルミニウム合金基板を作製する。これらの加工を行った後に、150~350℃で0.1~10.0時間の条件で、加工時の歪を除去する歪取り熱処理を行う。
以上の工程によって、アルミニウム合金基板が作製される。
【0059】
B.磁気ディスク
B-1.磁気ディスクの構成
上記アルミニウム合金基板を備えた磁気ディスクは、例えば、以下の構成を有する。即ち、磁気ディスクは、アルミニウム合金ディスクブランクからなるアルミニウム合金基板と、このアルミニウム合金基板の表面を覆うNi-Pめっき処理層と、このNi-Pめっき処理層上に積層された磁性体層とを有する。なお、Ni-Pめっき処理層は、無電解めっき処理により形成した無電解Ni-Pめっき処理層であることが好ましい。
【0060】
磁気ディスクは、更に、ダイヤモンドライクカーボンなどの炭素系材料からなり磁性体層上に積層された保護層と、潤滑油からなり、保護層上に塗布された潤滑層とを有していてもよい。
【0061】
B-2.磁気ディスクの製造方法
アルミニウム合金基板から磁気ディスクを製造するに当たっては、例えば、以下の方法を採用することができる。まず、アルミニウム合金基板に脱脂洗浄を行いアルミニウム合金基板の表面に付着した加工油等の油分を除去する。脱脂洗浄の後、必要に応じて、酸を用いてアルミニウム合金基板にエッチングを施してもよい。エッチングを行った場合には、エッチング後に、エッチングによって生じたスマットをアルミニウム合金基板から除去するデスマット処理を行なうことが好ましい。これらの処理における処理条件は、処理液の種類に応じて適宜設定することができる。
【0062】
これらのめっき前処理を行った後に、アルミニウム合金基板の表面にZn皮膜を形成するジンケート処理を行う。ジンケート処理においては、AlをZnに置換する亜鉛置換めっきを行うことにより、Zn皮膜を形成することができる。ジンケート処理としては、1回目の亜鉛置換めっきを行った後に、アルミニウム合金基板の表面に形成されたZn皮膜を一旦剥離し、再度亜鉛置換めっきを行ってZn皮膜を形成する、いわゆるダブルジンケート法を採用するのが好ましい。ダブルジンケート法によれば、1回目の亜鉛置換めっきのみによって形成されるZn皮膜に比べて、より緻密なZn皮膜をアルミニウム合金基板表面に形成することができる。その結果、後工程の無電解Ni-Pめっき処理においてNi-Pめっき処理層の欠陥を低減することができる。
【0063】
ジンケート処理によってアルミニウム合金基板の表面にZn皮膜を形成した後に、無電解Ni-Pめっき処理を行うことにより、Zn皮膜をNi-Pめっき処理層によって置換することができる。そして、無電解Ni-Pめっき処理においてこのようなZn皮膜をNi-Pめっき処理層によって置換することにより、めっきピットが少なく平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。
【0064】
Ni-Pめっき処理層の厚さを厚くすると、めっきピットが少なくなる傾向があり、平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。従って、Ni-Pめっき処理層の厚さは7μm以上が好ましく、より好ましくは18μm以上であり、更に好ましくは25μm以上である。なお、実用上、Ni-Pめっき処理層の厚さの上限値は40μm程度である。
【0065】
無電解Ni-Pめっき処理の後に、Ni-Pめっき処理層を研磨することにより、Ni-Pめっき処理層の表面の平滑性を更に高めることができる。
【0066】
無電解Ni-Pめっき処理の後に(研磨処理も含めて)、Ni-Pめっき処理層上に、スパッタリングによって磁性体を付着させて磁性体層を形成する。磁性体層は、単一の層から構成されていてもよく、又は、互いに異なる組成を有する複数の層から構成されていてもよい。スパッタリングを行った後に、必要に応じてCVDによって磁性体層上に炭素系材料からなる保護層を形成する。次いで、保護層上に潤滑油を塗布して潤滑層を形成する。以上により、磁気ディスクを得ることができる。
【実施例
【0067】
アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびにこのアルミニウム合金板から作製されたアルミニウム合金ディスクブランクの例を説明する。なお、本発明に係るアルミニウム合金板、その製造方法、アルミニウム合金ディスクブランク及びその製造方法の具体的な態様は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で実施例から適宜構成を変更することができる。
【0068】
(1)アルミニウム合金板の作製
以下の方法により、各例において評価に使用するアルミニウム合金板を作製した。まず、溶解炉において、表1に示す化学成分を有する溶湯を調製した。
【0069】
次に、溶解炉内の溶湯を移し、表2に示す鋳造方法で鋳塊を作製した。次いで、鋳塊の表面を面削し、鋳塊表面に存在する偏析層を除去した。面削を行った後に鋳塊を表2に示す条件で加熱処理をすることによって均質化処理を行なった。次いで、表2に示す条件で熱間圧延を実施して熱間圧延板を得た。更に、表2に示す条件で冷間圧延を実施し、アルミニウム合金板を得た。
【0070】
(2)アルミニウム合金ディスクブランクの作製
上記アルミニウム合金板に打ち抜き加工を施し、外径98mm、内径24mmの円環状を呈するアルミニウム合金ディスクブランクを得た。ここで、次いで、得られたアルミニウム合金ディスクブランクを厚み方向の両側から加圧しつつ表2に示す温度で3時間保持して加圧焼鈍を実施した。この後、表2に示す条件でアルミニウム合金ディスクブランクの保管を行った。以上により、各例のアルミニウム合金ディスクブランクの試験材を作製した。
【0071】
各試験材における評価方法を以下に説明する。なお、B3はFe量が少なく、強度が低すぎるため、加圧焼鈍後剥離時に変形しやすく、アルミニウム合金ディスクブランクとして使用できないため、評価は行っていない。また、B4はFe量が多く、強度が高すぎるため、圧延時に割れが発生し、アルミニウム合金ディスクブランクとして使用できないため、評価は行っていない。
【0072】
・結晶粒径の測定方法
まず、結晶粒径は、組織観察用のアルミニウム合金ディスクブランクの試験材の圧延面に対して、グロー放電発光分析装置(Glow Discharge Spectroscopy:GDS、JY5000RF、HORIBA社製)を用い、ガス圧力400Pa、出力30Wとし、60sスパッタリングを実施した。スパッタ面において、走査電子顕微鏡に付属の後方散乱電子回折測定装置(SEM-EBSD)で測定することによって集合組織の方位情報を取得した。試料の測定領域は1000μm×1000μmとし、測定ステップ間隔は結晶粒径が12μm以上の場合、ステップ間隔は3μmとし、結晶粒径が8μm以上12μm未満の場合、ステップ間隔は2μmとし、8μm未満は1/4程度とした。
【0073】
得られた方位データから、EBSD解析ソフト(TSL社製の「OIM Analysis」)を使用して結晶粒径を測定した。このときミスオリエンテーション5°以上の結晶境界線を結晶粒界とみなし、円相当として算出した直径を結晶粒径とした。
【0074】
・平坦度変化の調査
まず、上記の通り加圧焼鈍、及び場合により保管を行ったアルミニウム合金ディスクブランクについて剥離後1時間以内で平坦度を測定した。その後、アルミニウム合金ディスクブランクを定盤等の上に平置きし、表2に示す温度と時間放置し、再度平坦度を測定し、放置前後の平坦度の差である{(50℃以下で336時間、放置前の平坦度)-(50℃以下で336時間、放置後の平坦度)}の絶対値を平坦度変化として算出した。なお、平坦度の意義については上述のとおりである。また、平坦度の測定は、ZyGO社製平坦度測定機(MESA)にて行った。平坦度変化が2μm以下の場合、フラッタリング性の評価A(優)とし、2μmを超える場合、フラッタリング性の評価D(劣)とした。結果を表2に示す。なお、表2中で「-」の記載は、処理又は評価を行っていないことを表す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1及び表2に示すように、試験材A1~A12は、本発明の化学成分組成を有し、かつ、大気中にてディスクブランクを50℃以下で336時間、保持した際のディスクブランクの平坦度変化が2.0μm以下である。そのため、これらの試験材は、表面の平滑性を高めることができる。
【0078】
試験材B1とB2については、大気中にてディスクブランクを50℃以下で336時間、保持した際のディスクブランクの平坦度変化が2.0μmを超えていた。そのため、凸状欠陥が発生しやすく、平滑性が低下した。
【符号の説明】
【0079】
1 アルミニウム合金ディスクブランクの中心
2 アルミニウム合金ディスクブランク
【要約】
【課題】平坦度変化を制御して、平滑性を高くした磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクを提供する。
【解決手段】Fe:0.005~1.800mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクであって、大気中にて磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクを50℃以下で336時間、保持した際の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの平坦度変化が2.0μm以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【選択図】図1
図1