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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】窒化珪素系セラミックス集合基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20220104BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20220104BHJP
   C04B 35/587 20060101ALI20220104BHJP
   C04B 41/91 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
H05K1/02 G
H05K3/00 X
C04B35/587
C04B41/91 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021134833
(22)【出願日】2021-08-20
(62)【分割の表示】P 2021124869の分割
【原出願日】2016-03-14
(65)【公開番号】P2021185611
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2015070993
(32)【優先日】2015-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 伸朗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 淳
(72)【発明者】
【氏名】手島 博幸
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-198905(JP,A)
【文献】特開2011-103404(JP,A)
【文献】特開平09-168877(JP,A)
【文献】特開昭09-011221(JP,A)
【文献】特開2011-025295(JP,A)
【文献】実開昭60-079764(JP,U)
【文献】国際公開第2009/154295(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 3/00
C04B 35/587
C04B 41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の回路形成部を有する窒化珪素系セラミックス基板部と縁部とを有するとともに、前記縁部の外周部の四隅に面取り部を有する矩形状の窒化珪素系セラミックス集合基板であって、
前記窒化珪素系セラミックス集合基板の厚さは0.2~1.0 mmであり、
前記面取り部の壁面がレーザ加工面で構成され、
前記面取り部を除いた基板側面が、基板表面から厚さ方向に順にレーザ加工面と破断面とで構成され、
前記基板側面の破断面が前記面取り部の壁面に直接接続し、
前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接続する稜角部分が先鋭形状を有していることを特徴とする窒化珪素系セラミックス集合基板。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化珪素系セラミックス集合基板であって、
一方の面に回路を形成する第一の銅板が複数個接合され、
他方の面の前記第一の銅板と整合する位置に、放熱板となる複数個の第二の銅板が接合されていることを特徴とする窒化珪素系セラミックス集合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路基板を多数個取りするための窒化珪素系セラミックス集合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体モジュール、パワーモジュール等に利用される回路基板には、熱伝導性、絶縁性、強度等の点でセラミックス基板が用いられ、このセラミックス基板にCuやAl等の金属回路板や金属放熱板が接合されて回路基板とされる。このような回路用のセラミックス基板としては、アルミナや窒化アルミニウムが広く使われてきたが、最近では、より厳しい環境でも使用できるように、高強度で熱伝導性も改善された窒化珪素が使用されるようになってきた。
【0003】
回路基板は、回路用セラミックス基板が多数切り出せる大きさの1枚のセラミックス集合基板に、活性金属ろう付け法や直接接合法等によりCu板等の金属板を接合し、エッチング加工等で金属回路板及び金属放熱板を形成した後、セラミックス集合基板を所定の大きさに分割する方法により、量産されている。
【0004】
セラミックス集合基板を個々の回路基板に分割する方法としては、Cu板等の接合前にレーザ加工によりセラミックス集合基板に凹部又は溝を形成し、接合後に回路基板付きのセラミックス集合基板を撓ませて、凹部又は溝で分割する方法が採用されている。
【0005】
WO 2009/154295(特許文献1)は、回路基板を多数個取りするために折り曲げると簡単かつ確実に分割できるが、ハンドリング時には不用意に分割されないように、セラミックス焼結基板の片面又は両面に連続溝がレーザ加工により設けられており、連続溝の長さ方向における最大深さ部と最小深さ部との差Δdが10~50μmの範囲内である矩形状のセラミックス集合基板を開示している。しかし、セラミックス基板の四辺の近くにレーザ加工により形成した連続溝に沿ってセラミックス基板を分割すると、得られる矩形状のセラミックス集合基板の角部に亀裂や欠けが発生し易いことが分かった。
【0006】
特開2008-198905号(特許文献2)は、図13に示すように、セラミックス基板301を多数個取りするための集合基板300であって、レーザスクライビング加工で形成された複数の未貫通孔からなる格子状の分割溝303と、分割溝303の交点にレーザ切断加工により形成された菱形状の面取り貫通孔304とを有する集合基板300を開示している。なお、302は捨て代となる余肉部である。しかし、集合基板300に菱形状の面取り貫通孔304を多数形成すると、菱形状の面取り貫通孔304近傍にレーザ切断加工による大きな熱応力が集中し、面取り部から割れが生じ易くなるだけでなく、肉抜きされる体積が大きいので、集合基板300全体に反りが生じ、集合基板300の位置合わせが不正確になるおそれがある。その上、菱形状の面取り貫通孔304をレーザ切断加工により形成するには時間がかかり、生産性が良くないという問題もある。また、特許文献2の技術はセラミックス集合基板から個々の回路基板を製造する技術であって、セラミックス焼結基板からセラミックス集合基板を製造する技術ではない。
【0007】
特開2011-233687号(特許文献3)は、図14に示すように、母基板401上に設けられた複数個の矩形状の配線基板領域403(配線導体404を設ける領域)と、各配線基板領域403の周囲に形成されたダミー領域402と、配線基板領域403とダミー領域402との境界に沿って形成された分割溝412と、配線基板領域403とダミー領域402とにまたがって形成された三角形状の貫通孔413と、貫通孔413から分割溝412(412x,412y)にかけて母基板401を貫通する切り込み414とを有する多数個取り配線基板を開示している。しかし、三角形状の貫通孔413及び切り込み414を形成するのに時間がかかりすぎ、生産性が良くない。その上、特許文献2と同様に、三角形状の貫通孔413をレーザ加工により形成すると、大きな熱応力が集中するだけでなく、肉抜きされる体積が大きいので、母基板401全体に反りが生じる。また、特許文献3の技術も集合基板から個々の配線基板を製造する技術であって、焼結基板から集合基板を製造する技術ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO 2009/154295号公報
【文献】特開2008-198905号公報
【文献】特開2011-233687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、窒化珪素系セラミックス焼結基板から角部における亀裂や欠けを抑制した窒化珪素系セラミックス集合基板を簡単かつ確実に製造する方法、及びかかる方法により得られた窒化珪素系セラミックス集合基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、発明者等は、窒化珪素系セラミックス焼結基板にスクライブ孔からなる連続溝状の辺ブレークラインとスリット状の角ブレークラインを形成し、窒化珪素系セラミックス焼結基板を辺ブレークラインに沿って分割すると、窒化珪素系セラミックス集合基板を亀裂や欠けなしに分離できることを発見し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明の窒化珪素系セラミックス集合基板は、多数の回路形成部を有する窒化珪素系セラミックス基板部と縁部とを有するとともに、四隅に面取り部を有する矩形状の窒化珪素系セラミックス集合基板であって、
前記窒化珪素系セラミックス集合基板の厚さは0.2~1.0 mmであり、
前記面取り部の壁面がレーザ加工面で構成され、
前記面取り部を除いた基板側面が、基板表面から厚さ方向に順にレーザ加工面と破断面とで構成され、
前記基板側面の破断面が前記面取り部の壁面に直接接続し、
前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接続する稜角部分が先鋭形状を有していることを特徴とする。
【0012】
前記面取り部の壁面が、0.1μm以上0.3μm未満の算術平均表面粗さRaを有し、前記面取り部の壁面の基板厚さ方向中央部での算術平均表面粗さRam、及び基板厚さ方向開口側での算術平均表面粗さRaoが、
Rao>Ram
を満たすのが好ましい。
【0013】
前記窒化珪素系セラミックス集合基板は、個々の前記回路形成部に分割するためのブレークラインが形成されているのが好ましい。
【0014】
本発明の窒化珪素系セラミックス集合基板は、
一方の面に回路を形成する第一の銅板が複数個接合され、
他方の面の前記第一の銅板と整合する位置に、放熱板となる複数個の第二の銅板が接合されているのが好ましい。
【0015】
本発明の窒化珪素系セラミックス集合基板は、
前記第一の銅板が接合された面(一方の面)に、個々の回路形成部に分割するための複数本の第二のブレークラインが形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、窒化珪素系セラミックス集合基板の角部に亀裂や欠けが発生するのが抑制され、もって製造歩留りを向上させた窒化珪素系セラミックス集合基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】窒化珪素系セラミックス集合基板を製造する本発明の方法の一例を示す平面図である。
図2】角ブレークラインを示す部分拡大平面図である。
図3】角ブレークラインを形成する様子を示す部分拡大平面図である。
図4(a)】図3のA-A断面図である。
図4(b)】窒化珪素系セラミックス集合基板の面取り面を示す部分拡大断面図である。
図5(a)】一方の面に回路板となる複数個の第一の銅板を接合した窒化珪素系セラミックス集合基板を示す平面図である。
図5(b)】他方の面に放熱板となる複数個の第二の銅板を接合した窒化珪素系セラミックス集合基板を示す底面図である。
図6】回路基板を示す平面図である。
図7】角ブレークラインの他の例を示す部分拡大平面図である。
図8】面取り面近傍の側面領域にバリを有する窒化珪素系セラミックス集合基板を示す部分拡大平面図である。
図9】比較例1の製造方法を示す平面図である。
図10】亀裂が形成された窒化珪素系セラミックス集合基板を示す平面図である。
図11】比較例2の製造方法を示す平面図である。
図12】割れが生じた窒化珪素系セラミックス集合基板を示す平面図である。
図13】特開2008-198905号に開示されたセラミック集合基板を示す平面図である 。
図14】特開2011-233687号に開示された配線基板を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を以下詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また、各実施形態に関する説明は、特に断りがなければ他の実施形態にも適用できる。
【0019】
[1] 窒化珪素系セラミックス集合基板の製造方法
窒化珪素系セラミックス集合基板を製造する本発明の方法を、図1及び図2を参照して説明する。
【0020】
(1) 辺ブレークラインの形成
図1に示すように、矩形状の窒化珪素系セラミックス焼結基板1の各外縁部10に辺ブレークライン13を形成する。窒化珪素系セラミックス焼結基板1の分割を容易にするために、各辺ブレークライン13は対向する辺11まで延在する(基板1の各辺の全長にわたって延在する)のが好ましい。矩形状の窒化珪素系セラミックス焼結基板1の四辺11に沿った隣接する辺ブレークライン13は交点15で交差する。各辺ブレークライン13と窒化珪素系セラミックス焼結基板1の各辺11との間の部分16は、各辺ブレークライン13に沿った分割により除去する部分であり、「辺マージン部」と呼ぶ。また、隣接する辺ブレークライン13と、それらの両方に交差する1つの角ブレークライン14(後述する)で囲われた三角形の領域17は、「角マージン部」と呼ぶ。4つの辺ブレークライン13と4つの角ブレークライン14で囲われた面取り部を有する矩形状の領域は、窒化珪素系セラミックス集合基板12に相当する。
【0021】
各辺ブレークライン13は、窒化珪素系セラミックス焼結基板1の各外縁部10の内側にファイバレーザのビームスポットを微小移動させながら連続的に照射することにより形成するのが好ましい。辺ブレークライン13は、ミクロ的にはファイバレーザのビームスポットにより形成された多数のスクライブ孔が重なり合った連続した溝となる。ファイバレーザは、CO2レーザ及びYAGレーザより小さなビームスポットに集光できるとともに、焦点深度が大きく、変換効率が高く、高出力である。ファイバレーザによる連続溝は、YAGレーザ及びCO2レーザによる断続孔より熱的影響が小さく、表面酸化領域や溝周辺の溶融及び飛散物を少なくできる。
【0022】
これに対して、YAGレーザ及びCO2レーザの照射では比較的深い断続孔が形成されるので、溝周辺は大きな熱的影響を受ける。そのため、窒化珪素系セラミックス焼結基板1の表面が広く酸化されたり、レーザの熱エネルギーによりSi、SiO2等の酸化物、焼結助剤等の溶融物が周囲に飛散したりすることが多い。その結果、基板表面にマイクロクラックが生じ、接合信頼性の低下やボイド形成による接合不良を引き起こすおそれがある。
【0023】
辺ブレークライン13の幅は好ましくは300μm以下であり、より好ましくは10~100μmであり、最も好ましくは20~80μmである。各辺ブレークライン13の幅は基板表面と同じ高さで測定する。また、辺ブレークライン13の深さは窒化珪素系セラミックス焼結基板1の厚さの半分以下であり、好ましくは1/8~1/2であり、より好ましくは1/4~1/2である。窒化珪素系セラミックス焼結基板1の厚さが例えば0.32 mmの場合、辺ブレークライン13の深さは40~160μmが好ましく、80~160μmがより好ましい。
【0024】
上記サイズの辺ブレークライン13は長いので、生産性を考慮して、ファイバレーザビームスポットの1回の走査で形成するのが好ましいが、勿論ファイバレーザビームスポットの走査を複数回繰り返しても良い。
【0025】
図示の例では辺ブレークライン13は対応する辺11と同じ長さである(基板1の対向する辺11,11まで延在している)が、隣接する縦横の辺ブレークライン13,13が交差する限り、対応する辺11より短くても良い。この場合、1つの辺マージン部16を折除しようとすると、交点15を越えた部分まで辺ブレークライン13が延びていないので、基板1の辺側の一部を辺ブレークライン13なしで折ることになる。しかし、その部分は角ブレークライン14から十分に離隔しているので、角ブレークライン14により形成される面取り面140の表面粗さに影響を与えない。辺ブレークライン13を対応する辺11より短くする場合、辺マージン部16の幅は基板の長さの約5%以下であるのが好ましい。
【0026】
(2) 角ブレークラインの形成
窒化珪素系セラミックス焼結基板1を窒化珪素系セラミックス集合基板12と辺マージン部16とに分割する際に、窒化珪素系セラミックス集合基板12の四隅に亀裂や欠けが生じるのを防止するために、隣接する辺ブレークライン13の各交点15の近傍に、辺ブレークライン13の両方と交差する各角ブレークライン14を形成する。各角ブレークライン14は窒化珪素系セラミックス焼結基板1を貫通するスリットである。スリット状の角ブレークライン14を基板に形成することより、窒化珪素系セラミックス集合基板12の四隅での応力集中が緩和される。
【0027】
窒化珪素系セラミックス焼結基板1の厚さが例えば0.32 mmの場合、角ブレークライン14の幅は10~200μmが好ましく、20~150μmがより好ましく、30~100μmが最も好ましい。
また、角ブレークライン14の長さは2.8~8.4 mmが好ましく、3.0~8.0 mmがより好ましく、3.5~7.5 mmが最も好ましい。角ブレークライン14の辺ブレークライン13に対する傾きである交差角は30~60°が好ましい。交差角が小さすぎると、分割するときに辺マージン部の端部が割れずに残り、バリとなることがある。また角ブレークライン14は、直交する2本の辺ブレークライン13と交差するので、余角の関係で、交差角の上限を60°とするのが好ましい。特に交差角を45°にすると、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を無駄なく使うことができる。
【0028】
角ブレークライン14の形成工程の後に辺ブレークライン13の形成工程を行ってもよいが、辺ブレークライン13の形成工程の後に角ブレークライン14の形成工程を行う方が好ましい。後者であれば、辺ブレークライン13の交点15を角ブレークライン14の形成の際の基準点に利用できるため、角ブレークライン14の加工精度が向上する。
【0029】
図2に示すように、角ブレークライン14は隣接する辺ブレークライン13からそれぞれ長さL1だけ辺マージン部16内に延在(進出)するのが好ましい。角ブレークライン14の進出長さL1は、角ブレークライン14の形成に用いたファイバレーザビームスポットの直径より大きく、且つ3.5 mm未満であるのが好ましい。進出長さL1がファイバレーザビームスポットの直径より大きいと、角ブレークライン14の近傍にバリが生成するのを抑制できるだけでなく、角マージン部17が面取り部22に残るのを防止できる(角マージン部を手作業で折る必要が無く、手直しがないため生産性の観点でより好ましい)。図8に示すように窒化珪素系セラミックス集合基板12の縁部21にバリ27があると、回路基板形成工程において、縁部21での位置合わせを正確に行うことができない。一方、進出長さL1を3.5 mm以上にすると、辺マージン部16が角ブレークライン14の間で複数の個片に分断されやすくなり、飛散した個片の除去作業の工数が増えるおそれがある。
【0030】
窒化珪素系セラミックス焼結基板1を貫通するスリット状の各角ブレークライン14は、ファイバレーザビームスポットの走査を複数回(例えば、10回)繰り返すことにより形成するのが好ましい。ファイバレーザビームスポットの走査を複数回繰り返すことにより、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を貫通するまで、スクライブ孔を少しずつ重ねながら形成する。このため、内面に熱衝撃による亀裂や粒子状突起の形成を抑制し、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を窒化珪素系セラミックス集合基板12と辺マージン部16及び角マージン部17とに分割する際に、亀裂の進展や欠けの発生を抑制できる。なお、粒子状突起は、ファイバレーザビームの照射により除去された窒化珪素系セラミックスが再付着したもので、ファイバレーザビームスポットの一回の走査での照射エネルギーが高いと生じやすい。粒子状突起は窒化珪素系セラミックス集合基板12から回路基板を形成する工程で脱落し、回路基板に不具合を生じさせるおそれがあるので、できるだけ粒子状突起の発生を抑えるのが好ましい。
【0031】
亀裂や粒子状突起が少ない角ブレークライン14の内面(面取り部の壁面)は、複数回の走査により角ブレークライン14を形成する場合、加工部への入射エネルギーが低いものから比較的高いものまでのファイバレーザビームスポットを使用でき、入射エネルギーが高い場合には走査速度を高くできるので、0.1μm以上0.3μm未満と小さい算術平均表面粗さRaになり、加工時間も短縮できる。一方、一回の走査で角ブレークライン14を形成する条件では、加工部への入射エネルギー密度を抑えたファイバレーザビームスポットの照射により、0.5μm以上1.0μm未満の算術平均表面粗さRaにすることができる。しかし、角ブレークラインは基板を貫通させなければならないためにビームスポットの走査速度を高くできないので、熱衝撃による亀裂や粒子状突起が多く形成され易くなる。なお、算術平均表面粗さRaはJIS B0601:2001で規定されている。
【0032】
図3に示すように、角ブレークライン14を形成するファイバレーザのビームスポット14aの直径は10~100μmとするのが好ましい。角ブレークライン14の内壁面を滑らかに仕上げるために、複数回の走査により角ブレークライン14を形成する際には、ビームスポット14aの移動速度(走査速度とも表現する)を150 mm/秒以上とするのが好ましく、150~550 mm/秒とするのがより好ましい。ビームスポット14aの照射ピッチは、例えば3μmとする。
【0033】
レーザの強度分布はガウス分布に近く(中央部が高強度)、強度の高い中央部から溝加工が進むので、図4(a) に示すように、スリット状の角ブレークライン14は開口側(ファイバレーザの照射エネルギーが小さい部分で加工されやすい)の方が中央部(ファイバレーザの照射エネルギーが大きい)より広幅になる。図4(b) に示すように、スリット状の角ブレークライン14により形成される面取り部の壁面(面取り面)140を基板1の厚さ方向に開口側壁面部140o(レーザの照射側)、中央壁面部140m、及び貫通側壁面部140e(開口側壁面部140oの反対側)に三等分すると、開口側壁面部140oの算術平均表面粗さRaoは中央壁面部140mの算術平均表面粗さRamに対してRao>Ramの関係を満たすのが好ましい。算術平均表面粗さRaoは、窒化珪素系セラミックス焼結基板1の表面から20~30μmの深さで角ブレークライン14の長手方向に沿って測定する。また、算術平均表面粗さRamは、窒化珪素系セラミックス焼結基板1の厚さ方向中心の位置で角ブレークライン14の長手方向に沿って測定する。
【0034】
スリット状の角ブレークライン14の加工の進展に伴ってセラミック溶融物が排出されるが、加工初期はレーザ入射面側である開口側からセラミック溶融物が排出され、角ブレークライン14が窒化珪素系セラミックス焼結基板1を貫通すると貫通側からもセラミック溶融物が排出される。セラミック溶融物の融点は高いので、完全に排出されるまでに凝固が始まり、開口側壁面部140o及び貫通側壁面部140eに再付着して表面を粗くする。また開口側壁面部140oでは角ブレークライン14の幅が広がるに連れてファイバレーザのビームのエネルギー密度が低い部分で加工されやすくなるが、ファイバレーザのビームスポットの走査を複数回繰り返した結果、中央壁面部140mではレーザビームのエネルギー密度が高い部分で加工される割合が多くなる。その結果、窒化珪素系セラミックス焼結基板1が溶融して平坦化する度合いが開口側壁面部140oより中央壁面部140mの方が大きくなり、Rao>Ramの関係が成り立つと推定される。
【0035】
ファイバレーザのビームスポットの走査を複数回繰り返してスリットを形成する場合は、ビームスポットの1回の走査でスリットを形成する場合より、窒化珪素系セラミックス焼結基板1内部への時間当たりの入熱が少ないので、中央壁面部140mでの熱衝撃による微細クラックの発生が少なく、表面粗さも小さくなる。そのため、角ブレークライン14の寸法精度及び信頼性が向上する。
【0036】
(3) 窒化珪素系セラミックス焼結基板の分割
辺ブレークライン13及び角ブレークライン14を形成した窒化珪素系セラミックス焼結基板1を各辺ブレークライン13に沿って折ると、窒化珪素系セラミックス焼結基板1は窒化珪素系セラミックス集合基板12と辺マージン部16及び角マージン部17とに分割される。隣接する辺ブレークライン13と角ブレークライン14により形成された角マージン部17は、各辺ブレークライン13を介して辺マージン部16と連結しているので、辺マージン部16とともに窒化珪素系セラミックス集合基板12から分離される。従って、角マージン部17を分離する工程を別に設ける必要はない。
【0037】
[2] 窒化珪素系セラミックス集合基板
本発明の窒化珪素系セラミックス集合基板12は、図5(a) に示すように、多数の回路形成部19を有する窒化珪素系セラミックス基板部20と縁部21とを有するとともに、四隅に面取り部22を有し、角ブレークライン14により得られた面取り部22の壁面(面取り面)も0.1μm以上0.3μm未満の算術平均表面粗さRaを有するのが好ましい。窒化珪素系セラミックス集合基板12の厚さは0.2~1.0 mmが好ましく、0.25~0.65 mmがより好ましい。窒化珪素系セラミックス集合基板12の破壊靱性値は5.0 MPa・m1/2以上が好ましく、5.0~7.5 MPa・m1/2がより好ましい。
【0038】
また、角ブレークライン14はスリット状であるので、特許文献2及び3に記載されたような菱形状又は三角状の貫通孔に比べて、窒化珪素系セラミックス焼結基板1の反り等の変形が抑制されており、窒化珪素系セラミックス焼結基板1の外縁又はマークによる位置合わせを正確に行うことができる。さらに、スクライブ孔からなる連続溝状の辺ブレークライン13とスリット状の角ブレークライン14を形成するだけで、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を辺ブレークライン13に沿って分割することにより正確に窒化珪素系セラミックス集合基板12を分離できるので、低コストであり、かつ生産性が高い。
【0039】
[3] 回路基板の形成方法
図5(a) 及び図5(b) に示すように、窒化珪素系セラミックス集合基板12の一方の面に回路を形成する第一の銅板23aを複数個接合し、他方の面の第一の銅板23aと整合する位置に、放熱板となる複数個の第二の銅板23bを接合する。第一の銅板23aを接合した窒化珪素系セラミックス集合基板12の面に、個々の回路形成部(回路板を設ける部分)19に分割するための複数本の第二のブレークライン24を形成する。第二のブレークライン24は、辺ブレークライン13と同様に、ファイバレーザのビームスポットを微小移動させながら連続的に照射することにより形成したスクライブ孔からなり、辺ブレークライン13と同じ幅及び深さを有していれば良い。
【0040】
第二のブレークライン24に沿って窒化珪素系セラミックス集合基板12を折ることにより、窒化珪素系セラミックス集合基板12を窒化珪素系セラミックス基板部20と縁部21とに分割する。縁部21はマージン部として除去され、図6に示す回路基板28が得られる。ただし、図6において、符号23a’は第一の銅板による回路板を示し、符号25’は回路板23a’に合わせてセラミックス基板部を分割することにより得られたセラミックス基板を示す。
【0041】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に必ずしも限定されない。
【0042】
実施例1
95質量%の窒化珪素粉末、2質量%のMgO粉末、及び3質量%のY2O3粉末からなるセラミック成分100質量部に対して、バインダ樹脂成分を質量部で20%含有するシート状成形体を最高温度1850℃で5時間焼結し、厚さ0.32 mmで、縦150 mm及び横200 mmの矩形状の窒化珪素系セラミックス焼結基板1を作製した。ファイバレーザ(波長:1.06μm、出力100W、発振周波数:50 kHz)を用いて、窒化珪素系セラミックス焼結基板1の外縁部10の内側に幅35μm及び深さ120μmの4本の辺ブレークライン13を形成した。辺マージン部16の幅は窒化珪素系セラミックス焼結基板の長手方向で5 mm、窒化珪素系セラミックス焼結基板の短手方向で6mmとした。さらに、同じファイバレーザを用いて以下の条件でスリット状の角ブレークライン14を形成した。
ファイバレーザビームスポットの直径:35μm
ビームスポットの走査速度:200 mm/s
ビームスポットの照射ピッチ:4μm
ビームスポットの走査回数:10回
角ブレークラインの幅:35μm
角ブレークラインの全長:4.2 mm
角ブレークラインの進出長さL1:0.7 mm
角ブレークラインの辺ブレークラインに対する交差角:45°
【0043】
窒化珪素系セラミックス焼結基板1を各辺ブレークライン13に沿って折り、面取り部22を有する窒化珪素系セラミックス集合基板12と辺マージン部16及び角マージン部17とに分割した。角マージン部17は辺マージン部16に付着した状態で分離され、別個の端材にならなかった。上記の分離作業の後、アルミナ砥粒を用いた湿式ブラスト処理により、窒化珪素系セラミックス集合基板12の表面および裏面のクリーニングと表面粗さ調整を行った。
【0044】
5枚の窒化珪素系セラミックス焼結基板1を分割して得た窒化珪素系セラミックス集合基板12の面取り面140をレーザ顕微鏡で観察した。その結果、面取り面140及びそれに隣接する側面(レーザ加工面及び破断面)に亀裂、粒子状突起、バリ及び割れが全くないことが確認された。面取り面140において、開口側壁面部の算術平均表面粗さRaoは0.2μmであり、中央壁面部の算術平均表面粗さRamは0.16μmであった。面取り部22に隣接する領域22aで、辺ブレークライン13を折って形成された基板側面(レーザ加工面と破断面とで構成される)における算術平均表面粗さRaはレーザ加工面において0.4μmであり、破断面においてRaは0.7μmであった。
【0045】
窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面にろう材ペーストをスクリーン印刷法で塗布した。ろう材は、70質量%のAg、3質量%のIn、及び27質量%のCuからなる合金粉末(合計100質量部)に対して、0.3質量部のTiH2を添加し、さらに有機溶剤とバインダー成分を添加したペーストであった。ろう材を乾燥した後、窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面に厚さ0.3 mmの第一及び第二の銅板を配置し、真空中で加圧しながら800℃で20分間加熱し、窒化珪素系セラミックス集合基板12に第一及び第二の銅板を接合した。接合後のろう材層の厚さは約30μmであった。
【0046】
得られた接合体の第一及び第二の銅板に、紫外線硬化性のアルカリ剥離型のエッチングレジストインクを塗布した後、紫外線を照射してエッチングレジストインクを回路板及び放熱板用のパターンに硬化させた。30℃に保持した塩化銅ベースエッチング液(塩化銅、塩酸及び過酸化水素を含む混合液)でエッチングを行い、回路板及び放熱板のパターン以外の不要な銅板部分(すなわち、レジストで被覆されていない銅板部分)を除去した。
【0047】
銅板からはみ出した不要なろう材部分を除去するため、第一のろう材エッチング処理(カルボン酸及び/又はカルボン酸塩、並びに過酸化水素を含む酸性溶液によるエッチング処理)、及び第二のろう材エッチング処理(フッ化水素アンモニウム及び過酸化水素を含む溶液によるエッチング処理)を順に行った。
【0048】
接合体を3質量%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して残留するレジストを除去した後、硫酸ベースの一般市販液を用いる光沢処理(化学研磨)を行った。イオン交換水で洗浄した後、第一の銅板23a及び第二の銅板23b(回路板及び放熱板)の表面にNiメッキを施した。このようにして、両面にNiメッキした回路板23a’及び放熱板を有する回路基板の集合体を得た。
【0049】
図5(a) 及び図5(b) に示すように、回路基板の集合体に第二のブレークライン24を形成し、第二のブレークライン24に沿って分割することにより、マージン部に相当する縁部21を分離して、図6に示すようにセラミックス基板25’の両面に回路板23a’及び放熱板(図示せず)を有する複数個の回路基板28を得た。
【0050】
実施例2
ファイバレーザのビームスポットの走査速度を33 mm/sとし、かつ照射エネルギー密度を実施例1より高くして、1回の走査で表裏貫通する角ブレークライン14を形成した以外実施例1と同様にして、辺ブレークライン13及び角ブレークライン14を有する窒化珪素系セラミックス焼結基板1を得た。
【0051】
辺ブレークライン13に沿って窒化珪素系セラミックス焼結基板1を折って、面取り部22を有する窒化珪素系セラミックス集合基板12と辺マージン部16及び角マージン部17とに分割した。窒化珪素系セラミックス集合基板12の面取り部22(面取り面140)及び側面(レーザ加工面及び破断面)に亀裂、バリ及び割れは形成されなかった。ただし、面取り面140に微小な粒子状突起が形成された。粒子状突起は回路基板の形成工程で異物(塵)として脱落するおそれがあるため、洗浄により除去した。算術平均表面粗さRaは、それぞれ、面取り面140でRao=0.8μm、Ram=0.5μmであり、辺ブレークライン13のレーザ加工面でRa2=0.5μmであり、破断面でRa3=0.7μmであった。窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面に回路板及び放熱板用の第一及び第二の銅板23a,23bをろう材により接合した後、第二のブレークライン24を形成した。窒化珪素系セラミックス集合基板12を第二のブレークライン24に沿って分割することにより、実施例1と同様の回路基板を得た。
【0052】
実施例3
実施例1の角ブレークライン14を図7に示すスリット状の角ブレークライン34(L1=0 mm)に変更した。角ブレークライン34は辺ブレークライン13との交差点で終端していた。辺ブレークライン13及び角ブレークライン34を有する窒化珪素系セラミックス焼結基板1を辺ブレークライン13に沿って折り、窒化珪素系セラミックス集合基板12と辺マージン部16及び角マージン部17とに分割した。窒化珪素系セラミックス集合基板12の面取り面140及びそれに隣接する側面(レーザ加工面及び破断面)に亀裂及び割れの発生はなかった。図8に示すように窒化珪素系セラミックス集合基板12の面取り面140近傍の側面領域に公差を超えるバリ27が形成されたが、公差を超えるバリ27の割合は1%であった。バリ27が形成されなかった窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面に回路板及び放熱板用の第一及び第二の銅板をろう材により接合し、エッチング処理後に分割して、実施例1と同様の回路基板を得た。実施例3ではバリ27が形成される割合が1%(歩留り99%)であったが、問題とならない範囲である。
【0053】
比較例1
図9に示すように、窒化珪素系セラミックス焼結基板101に形成する辺ブレークライン113及び角ブレークライン114をいずれも、幅35μm及び深さ120μmの連続溝とした(基板を貫通していない)。角ブレークライン114は、辺111に沿って形成した辺ブレークライン113に対して45°傾斜させた。それ以外の条件については、実施例1と同じであった。本比較例では、上記実施例と比較して角マージン部117を分離する工程が増えた。
【0054】
窒化珪素系セラミックス焼結基板101を辺ブレークライン113に沿って折って、窒化珪素系セラミックス集合基板112と辺マージン部116とに分割した後、角ブレークライン114に沿って折ることにより三角形状の角マージン部117を分離した。窒化珪素系セラミックス集合基板112の面取り面及びそれに隣接する側面(レーザ加工面及び破断面)でバリ及び割れは発生しなかったが、図10に示すように亀裂134が形成された割合は6%であった(歩留り94%)。これは目標歩留り(95%以上)より低くかった。
【0055】
比較例2
図11に示すように、辺211に沿って形成した辺ブレークライン213のみ形成した窒化珪素系セラミックス焼結基板201を、辺ブレークライン213に沿って折って、窒化珪素系セラミックス集合基板212と辺マージン部216とに分割した。窒化珪素系セラミックス集合基板212の側面(レーザ加工面及び破断面)にバリの発生はなかったが、亀裂が生じる割合は6%で、窒化珪素系セラミックス集合基板212に図12に示すような割れ(割れた角部217が分離)が生じる割合は2%であった。従って、比較例2の歩留りは目標歩留りより低かった。
【符号の説明】
【0056】
1,101,201:窒化珪素系セラミックス焼結基板
10:窒化珪素系セラミックス焼結基板の外縁部
11,111,211:辺
12,112,212:窒化珪素系セラミックス集合基板
13,113,213:辺ブレークライン
14,34,114:角ブレークライン
14a:ビームスポット
140:面取り部の壁面(面取り面)
140o:開口側壁面部
140m:中央壁面部
140e:貫通側壁面部
15,115:辺ブレークラインの交点
16,116:辺マージン部
17:角マージン部
19:回路形成部
20:窒化珪素系セラミックス基板部
21:縁部
22:面取り部
22a:面取り部に隣接する領域
23a:第一の銅板
23a’: 回路板
23b:第二の銅板
24:第二のブレークライン
25:各セラミックス基板部
25’:セラミックス基板
27:バリ
28:回路基板
117:角マージン部
134:亀裂
216:辺マージン部
217:割れた角部
L1:角ブレークラインの進出長さ
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14