(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ケージド化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 311/18 20060101AFI20220127BHJP
【FI】
C07D311/18 CSP
(21)【出願番号】P 2018019637
(22)【出願日】2018-02-06
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017045407
(32)【優先日】2017-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安倍 学
(72)【発明者】
【氏名】千歳 洋平
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-088455(JP,A)
【文献】Chemistry Letters,2016年,Vol.45, No.10,pp.1186-1188
【文献】Journal of the American Chemical Society,2013年,Vol.135, No.42,pp.15948-15954
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2014年,Vol.24, No.24,pp.5660-5662
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(
1)で表されることを特徴とす
るケージド化合物。
【化1】
【請求項2】
下記式(
2)で表されることを特徴とす
るケージド化合物。
【化2】
【請求項3】
下記式(
3)で表されることを特徴とす
るケージド化合物。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光応答性のケージド化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物活性に重要な官能基を光解除性保護基で保護(修飾)して不活性化しておき、光を照射することにより、光解除性保護基による保護が解除されて、活性を示す(即ち、生理活性物質を発生する)ケージド化合物(Caged compounds)が知られている。
【0003】
より具体的には、例えば、ジイソプロピルエチルアミンの存在下で、カルボン酸とアセトキシメチルブロミドとのエステル化反応を行うことにより製造されるケージド化合物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のケージド化合物は、短波長で励起するベンゾフラン骨格を有するため、照射する光が紫外光(波長:330~370nm)となり、結果として、生体損傷を引き起こすという問題があった。
【0006】
また、上記従来のケージド化合物においては、ベンゾフラン骨格が分解してしまうため、量子収率が低いという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、生体損傷を抑制することができるとともに、量子収率に優れ、アミノ酸等の生理活性物質の時空間制御を効率よく行うことができる光応答性のケージド化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のケージド化合物は、下記式(1)で表されることを特徴とする。
【0009】
【0010】
(式中、R1はメトキシ基またはジエチルアミノ基を示し、R2は水素原子またはメトキシ基を示し、R3はニトロ基またはジメチルアミノ基を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明のケージド化合物によれば、生体損傷を抑制することができるとともに、量子収率に優れ、アミノ酸等の生理活性物質の時空間制御を効率よく行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1に係るケージド化合物における
1HNMRスペクトルデータである。
【
図2】本発明の実施例2に係るケージド化合物における
1HNMRスペクトルデータである。
【
図3】本発明の実施例3に係るケージド化合物における
1HNMRスペクトルデータである。
【
図4】本発明の実施例4に係るケージド化合物における
1HNMRスペクトルデータである。
【
図5】本発明の実施例5に係るケージド化合物における
1HNMRスペクトルデータである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のケージド化合物は、光刺激により、自在かつ容易にグルタミン酸等のアミノ酸を放出する機能を有し、アルコール誘導体とカルボン酸のエステル化反応により得られ、例えば、下記式(2)で表される光応答性のケージド化合物が挙げられる。
【0014】
【0015】
このケージド化合物は、アミノ酸を有するクマリン誘導体であり、その両端に、電子供与性の置換基が導入された誘導体化合物である。
【0016】
本発明のケージド化合物は、生物活性に重要な官能基、例えば、グルタミン酸等のアミノ酸を光解除性保護基で保護(修飾)して不活性化しておき、光を照射することにより、光解除性保護基による保護が解除されて、活性を示すものである。なお、上述のグルタミン酸は神経伝達物質であり、生命活動には欠かせない必須元素である。
【0017】
そして、本発明のケージド化合物においては、その両端に導入された電子供与性の置換基において、近赤外光(波長:680~1050nm)の照射による2光子励起(2つの光子が同時に分子に吸収されて励起を起こす現象)が生じる。
【0018】
従って、量子収率が飛躍的に向上し、アミノ酸等の生理活性物質の時空間制御を効率よく行うことが可能になる。また、生体透過性を有する近赤外光を使用できるため、紫外光を使用する場合に比し、生体損傷を抑制することが可能になる。
【0019】
このケージド化合物としては、例えば、下記式(3)~(6)で示される化合物が挙げられる。
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
式(3)で表されるケージド化合物は、その両端にメトキシ基とニトロ基が導入された誘導体化合物であり、式(4)で表されるケージド化合物は、その両端に2つのメトキシ基と、ニトロ基が導入された誘導体化合物である。また、式(5)で表されるケージド化合物は、その両端にジエチルアミノ基とニトロ基が導入された誘導体化合物であり、式(6)で表されるケージド化合物は、その両端にジエチルアミノ基とジメチルアミノ基が導入された誘導体化合物である。
【0025】
次に、上記式(3)で表されるケージド化合物の製造方法の概略を以下の反応スキ-ム1に示す。
<反応スキ-ム1>
【化7】
【0026】
式(3)で表されるケージド化合物を得るには、まず、式(7)の2’-ヒドロキシ-4’-メトキシアセトフェノンと、式(8)の4-ニトロフェニル酢酸の無水酢酸混合液にトリエチルアミンを滴下し、加熱還流を行うことにより、式(9)に示す7-メトキシ-4-メチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリンを得る。
【0027】
次に、式(9)に示す7-メトキシ-4-メチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリンとN-ブロモスクシンイミド(NBS)の四塩化炭素懸濁液に、過酸化ベンゾイル(bpo)を加えて加熱還流を行うことにより、式(10)に示す7-メトキシ-4-ブロモメチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリンを得る。
【0028】
そして、式(10)に示す7-メトキシ-4-ブロモメチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリンを乾燥DMFに溶解し、その溶液にヨウ化カリウムと炭酸カリウムと安息香酸を加えた反応混合物を加熱して攪拌した後、溶媒を除去し、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(GPC)を使用して精製することにより、上記(3)で表されるケージド化合物を得ることができる。
【0029】
なお、粒子充填型カラムを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにおいて、ジクロロメタンと酢酸エチルの混合溶媒(極性溶媒)を移動相として使用することにより精製(単離)することができる。
【0030】
また、ジクロロメタンと酢酸エチルの混合比率は、特に限定されないが、移動相の極性を高めて、ケージド化合物の単離を容易にするとの観点から、ジクロロメタン/酢酸エチルの混合比率(体積比率)をジクロロメタン:酢酸エチル=5:1に設定することが好ましい。
【0031】
次に、上記式(4)で表されるケージド化合物の製造方法の概略を以下の反応スキ-ム2に示す。
<反応スキ-ム2>
【化8】
【0032】
式(4)で表されるケージド化合物を得るには、まず、式(11)の2’-ヒドロキシ-4’,5’-ジメトキシアセトフェノンと、式(8)の4-ニトロフェニル酢酸の無水酢酸混合液にトリエチルアミンを滴下し、加熱還流を行うことにより、式(12)に示す6,7-ジメトキシ-4-メチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリンを得る。
【0033】
次に、式(12)に示す6,7-ジメトキシ-4-メチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリンとN-ブロモスクシンイミド(NBS)の四塩化炭素懸濁液に、過酸化ベンゾイル(bpo)を加えて加熱還流を行い、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:酢酸エチル=4:1)を使用して精製することにより、上記(13)で表される6,7-ジメトキシ-4-ブロモメチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリンを得る。
【0034】
そして、式(13)に示す6,7-ジメトキシ-4-ブロモメチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリンを乾燥DMFに溶解し、その溶液にヨウ化カリウムと炭酸カリウムと安息香酸を加えた反応混合物を加熱して攪拌した後、溶媒を除去し、得られた反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:酢酸エチル(体積比)=5:1)を使用して精製することにより、上記(4)で表されるケージド化合物を得ることができる。
【0035】
次に、上記式(5)で表されるケージド化合物の製造方法の概略を以下の反応スキ-ム3に示す。
<反応スキ-ム3>
【化9】
【0036】
式(5)で表されるケージド化合物を得るには、まず、式(14)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-メチルクマリンのキシレン溶液に二酸化セレンを加え、この溶液を加熱還流する。次に、エタノールとホウ素化水素ナトリウムを加えて室温で攪拌して、溶液を塩酸水溶液により中和して溶媒を除去し、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:酢酸エチル(体積比)=4:1)を使用して精製することにより、上記式(15)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)クマリンを得る。
【0037】
次に、式(15)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)クマリンのジクロロメタン混合液に、tert-ブチルジメチルクロロシランと4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を加えた後、トリエチルアミン(TEA)を更に加えて攪拌する。そして、溶媒を除去した後、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:酢酸エチル(体積比)=4:1)を使用して精製することにより、式(16)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]クマリンを得る。
【0038】
次に、式(16)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]クマリンのアセトニトリル溶液に、N-ブロモスクシンイミド(NBS)と酢酸アンモニウムを加えて攪拌する。そして、溶媒を除去した後、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、式(17)で表される7-(ジエチルアミノ)―4―[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリンを得る。
【0039】
次に、式(17)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリンと、4-ニトロフェニルボロン酸ピナコールエステルのDMF-H2O溶液に、炭酸ナトリウムとジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)を加えて、窒素雰囲気下で加熱攪拌する。そして、溶媒を除去した後、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=(体積比)4:1)を使用して精製することにより、式(18)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリンを得る。
【0040】
次に、式(18)で示される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリンのTHF溶液にテトラブチルアンモニウムフルオリドを加え、攪拌する。そして、溶媒を除去した後、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:酢酸エチル(体積比)=4:1)を使用して精製することにより、式(19)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ニトロフェニル)クマリンを得る。
【0041】
次に、式(19)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ニトロフェニル)クマリンと安息香酸の乾燥塩化メチレン溶液に、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を加え、その後、更にN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を加えて攪拌する。そして、溶媒を除去し、得られた反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=4:1)を使用して精製することにより、上記(5)で表されるケージド化合物を得ることができる。
【0042】
次に、上記式(6)で表されるケージド化合物の製造方法の概略を以下の反応スキ-ム4に示す。
<反応スキーム4>
【化10】
【0043】
式(17)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリンと4-(N,N’ジメチルアミノ)フェニルボロン酸ピナコールエステルのDMF-H2O溶液に、炭酸ナトリウムとジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)を加えて窒素雰囲気下で加熱攪拌する。そして、溶媒を除去した後、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、式(20)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ジメチルアミノフェニル)クマリンを得る。
【0044】
次に、式(20)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ジメチルアミノフェニル)クマリンのTHF溶液にテトラブチルアンモニウムフルオリドを加え、攪拌する。そして、溶媒を除去した後、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、式(21)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ジメチルアミノフェニル)クマリンを得る。
【0045】
そして、式(21)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ジメチルアミノフェニル)クマリンと安息香酸の乾燥塩化メチレン溶液に4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を加え、その後、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を加えて攪拌する。そして、溶媒を除去し、得られた反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、上記(6)で表されるケージド化合物を得ることができる。
【0046】
さらに、本発明のケージド化合物としては、下記式(22)で示される化合物が挙げられる。
【0047】
【0048】
式(22)で表されるケージド化合物は、式(6)で表されるケージド化合物のクマリン部位とジメチルアミノフェニル基の間に2重結合が導入された誘導体化合物である。
【0049】
次に、上記式(22)で表されるケージド化合物の製造方法の概略を以下の反応スキ-ム5に示す。
<反応スキ-ム5>
【化12】
【0050】
式(22)で表されるケージド化合物を得るには、まず、式(23)に示す4-ブロモ-N,N-ジメチルベンゼンアミンと4,5,5,5-テトラメチル-2-ビニル-1,3,2-ジオキサボロランとトリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラートの乾燥トルエン溶液に、N,N-ジイソプロピルエチルアミンを加えて窒素雰囲気下で加熱攪拌する。そして、溶媒を除去した後、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=5:1)を使用して精製することにより、式(24)で表されるN,N-ジメチル-4-[(1E)-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)エテニル]ベンゼンアミンを得る。
【0051】
次に、式(17)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリンとN,N-ジメチル-4-[(1E)-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)エテニル]ベンゼンアミンのDMF-H2O溶液に、炭酸ナトリウムとジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)を加えて窒素雰囲気下で加熱攪拌する。そして、溶媒を除去した後、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、式(25)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-(N-[(1E)-2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル])クマリンを得る。
【0052】
次に、式(25)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-(N-[(1E)-2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル])クマリンのTHF溶液にテトラブチルアンモニウムフルオリドを加え、攪拌する。そして、溶媒を除去した後、得られる反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、式(26)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(N-[(1E)-2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル])クマリンを得る。
【0053】
そして、式(26)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(N-[(1E)-2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル])クマリンと安息香酸の乾燥塩化メチレン溶液に4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を加え、その後、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を加えて攪拌する。そして、溶媒を除去し、得られた反応混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、上記(22)で表されるケージド化合物を得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0055】
(実施例1)
(ケージド化合物の合成)
上記式(3)で示されるケージド化合物を合成した。より具体的には、まず、式(7)の2’-ヒドロキシ-4’-メトキシアセトフェノン(東京化成工業(株)製)500mg(3.0mol)と、式(8)の4-ニトロフェニル酢酸(東京化成工業(株)製)589mg(3.3mol)を無水酢酸(和光純薬工業(株)製)2mlに溶解した混合液にトリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)1mlを滴下した。次に、反応混合物を90℃で24時間、加熱還流し、室温まで冷却後、10mlのエーテルを加えて2時間攪拌した。そして、析出した固体を、ろ過、乾燥させることにより、式(9)に示す7-メトキシ-4-メチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリン(475mg、収率:51%)を得た。
【0056】
次に、式(9)に示す7-メトキシ-4-メチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリン(100mg、0.32mmol)とN-ブロモスクシンイミド(東京化成工業(株)製)62.9mg(0.35mol)の四塩化炭素(2ml)懸濁液に、触媒量の過酸化ベンゾイル(bpo)11mgを加えて、90℃で15時間加熱還流した。そして、溶媒を留去して、スクシンイミドを取り除くために、固体を10mlの温水中で攪拌してろ過した。その後、クロロホルム中で再結晶させることにより、式(10)に示す7-メトキシ-4-ブロモメチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリンを得た(50mg、収率40%)。
【0057】
そして、式(10)に示す7-メトキシ-4-ブロモメチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリン(129mg、0.33mmol)を乾燥DMF5mlに溶解し、その溶液にヨウ化カリウム(109mg、0.66mmol)と炭酸カリウム(和光純薬工業(株)製、91mg、0.66mmol)と安息香酸(40mg、0.33mmol)を加えた反応混合物を50℃で6時間、加熱攪拌した。その後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で有機層を洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させて溶媒を留去後、粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して精製することにより、上記(3)で表されるケージド化合物を得た。
【0058】
より具体的には、高純度シリカゲルが充填されたカラム(和光純薬工業(株)製、商品名:C300)を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィーにより精製した。
【0059】
なお、移動相として、ジクロロメタン(和光純薬工業(株)製)と酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)の混合溶媒を使用した。また、ジクロロメタン/酢酸エチルの混合比率(体積比率)をジクロロメタン:酢酸エチル=5:1に設定した。また、精製条件を流速10ml/min、25℃とし、カラム保持時間は30分間とした。
【0060】
得られたケージド化合物の収量は28mg(0.53mmol)、収率は20%であった。
【0061】
(光照射)
次に、合成したケージド化合物(1150μg)を10mlのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に加えて、波長が360nmの光に対する吸光度が5になるように調製した。
【0062】
次に、この溶液3mlを、スターラーと共にセルに入れ、キセノンランプ(分光計器(株)製、商品名:BPS-500B)を使用して、光照射(波長:360±10nm、照射時間:1分)を行った。
【0063】
(脱ゲージ評価)
次に、上述の光照射による近赤外光の2光子吸収により、合成したケージド化合物から安息香酸(アミノ酸の上位概念であるカルボン酸の1種)が発生し、脱ゲ-ジ化反応が生じていることを、
1HNMRスペクトルデータ(
図1参照)により確認した。
【0064】
より具体的には、本実施例における1HNMRスペクトルの測定は、核磁気共鳴測定装置(BRUKER製、商品名:AscendTM 400)を用い、内部基準としてDMSO-d6を使用するとともに、周波数を400MHzに設定して行った。また、測定温度は297.3Kに設定し、光照射から8時間後、16時間後、及び24時間後に測定を行った。
【0065】
そして、
図1に示すように、安息香酸由来のシグナルが、7.95、7.62、7.50ppm付近に観測されたが、原料由来のシグナル(8.30、7.95、7.70、7.49、7.10ppm付近)が、時間の経過と共に観測されなくなった。このことは、ケージド化合物から安息香酸が発生し、脱ゲ-ジ化反応が生じていることを示していると言える。
【0066】
(量子収率の算出)
次に、合成したゲージド化合物の粒子収率を算出した。より具体的には、まず、上述の光照射前の溶液(以下、「原料溶液」という。)10μlと、光照射後の溶液(「以下、「反応溶液」という。」)10μlを使用し、高速液体クロマトグラフィー(日本分光工業(株)製、商品名:880-PU)を使用して、原料溶液10μlを注入した場合の積分値と、反応溶液10μlを注入した場合の積分値を算出し、以下の数式(1)を用いて、反応率を算出した。その結果、反応率は3.5%であった。
【0067】
(数1)
反応率(%)=(原料溶液10μlを注入した場合の積分値-反応溶液を10μl注入した場合の積分値)÷原料溶液を10μl注入したときの積分値×100 (1)
【0068】
なお、カラムには、Inertsil ODS-3を使用し、溶媒(アセトニトリル:水(体積比)=8:2)を移動相として使用した。
【0069】
次に、光照射の際に使用した光源であるキセノンランプの光量I(3.31×10-7mol/min)を用いて、以下の数式(2)から量子収率を算出した。なお、1分照射により反応した式(3)で表されるケージド化合物の分子数(mol)は、高速液体クロマトグラフィーにより測定し、1分照射により式(3)で表されるケージド化合物が吸収した光量(mol)は、高速液体クロマトグラフィーにより測定した。その結果、1分照射により反応した式(3)で表されるケージド化合物の分子数(mol)は0.282×10-7(mol)であり、1分照射により式(3)で表されるケージド化合物が吸収した光量(mol)は3.31×10-7(mol)であり、量子収率は、0.09であった。
【0070】
(数2)
量子収率=1分照射により反応した式(3)で表されるケージド化合物の分子数(mol)÷1分照射により式(3)で表されるケージド化合物が吸収した光量(mol) (2)
【0071】
(実施例2)
(ケージド化合物の合成)
上記式(4)で示されるケージド化合物を合成した。より具体的には、式(4)で表されるケージド化合物を得るには、まず、式(11)の2’-ヒドロキシ-4’,5’-ジメトキシアセトフェノン(東京化成工業(株)製)1.0g(5.1mol)と、式(8)の4-ニトロフェニル酢酸(東京化成工業(株)製)996mg(5.5mol)とを無水酢酸(和光純薬工業(株)製)3mlに溶解させた混合液に、トリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)1mlを滴下した。次に、反応混合物を、一晩、90℃で加熱還流し、室温まで冷やした後、10mlのエーテルを加えて2時間攪拌し、析出した固体をろ過、乾燥させることにより、式(12)に示す6,7-ジメトキシ-4-メチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリン(823mg、収率:47%)を得た。
【0072】
次に、式(12)に示す6,7-ジメトキシ-4-メチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリン(398mg、1.16mmol)とN-ブロモスクシンイミド(東京化成工業(株)製)374mg(2.10mmol)の四塩化炭素(4ml)懸濁液に、触媒量の過酸化ベンゾイル(60mg)を加えて、90℃で24時間、加熱還流を行った。その後、溶媒を留去して、スクシンイミドを取り除くために、固体を10mlの温水中で攪拌してろ過した。そして、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:酢酸エチル(体積比)=4:1)を使用して精製することにより、上記(13)で表される6,7-ジメトキシ-4-ブロモメチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリン(287mg、収率:59%)を得た。
【0073】
そして、式(13)に示す6,7-ジメトキシ-4-ブロモメチル-3-(4-ニトロフェニル)クマリン(50mg、0.12mmol)を2mlの乾燥DMFに溶解し、その溶液にヨウ化カリウム(40mg、0.24mmol)と炭酸カリウム(和光純薬工業(株)製、33mg、0.24mmol)と安息香酸(15mg、0.12mmol)を加えた反応混合物を、50℃で3時間、加熱して攪拌した。その後、酢酸エチルで抽出して、飽和食塩水で有機層を洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ, 溶媒を留去した。そして、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーを使用して精製することにより、上記(4)で表されるケージド化合物を得た。
【0074】
より具体的には、高純度シリカゲルが充填されたカラム(和光純薬工業(株)製、商品名:C300)を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィーにより精製した。
【0075】
なお、移動相として、ジクロロメタン(和光純薬工業(株)製)と酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)の混合溶媒を使用した。また、ジクロロメタン/酢酸エチルの混合比率(体積比率)をジクロロメタン:酢酸エチル=5:1に設定した。また、精製条件を流速10ml/min、25℃とし、カラム保持時間は30分間とした。
【0076】
得られたケージド化合物の収量は23mg(0.049mmol)、収率は42%であった。
【0077】
そして、上述の実施例1と同様にして、光照射を行うと共に、脱ゲージ評価を行ったところ、上述の光照射による近赤外光の2光子吸収により、合成したケージド化合物から安息香酸(アミノ酸の上位概念であるカルボン酸の1種)が発生し、脱ゲ-ジ化反応が生じていることを、
1HNMRスペクトルデータ(
図2参照)により確認した。
【0078】
より具体的には、
図2に示すように、安息香酸由来のシグナルが7.95、7.62、7.50ppm付近に観測されたが、原料由来のシグナル(8.30、7.88、7.70、7.45、7.22)ppm付近)が、時間の経過と共に観測されなくなった。このことは、ケージド化合物から安息香酸が発生し、脱ゲ-ジ化反応が生じていることを示していると言える。
【0079】
そして、上述の実施例1と同様にして、量子収率を算出したところ、量子収率は、0.03であった。
【0080】
(実施例3)
(ケージド化合物の合成)
上記式(5)で示されるケージド化合物を合成した。より具体的には、式(5)で表されるケージド化合物を得るには、まず、式(14)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-メチルクマリン(東京化成工業(株)製)570mg(2.46mmol)のキシレン溶液(70ml)に、二酸化セレン(和光純薬工業(株)製)414mg(2.46mol)を加え、この溶液を、24時間、加熱還流した。次に、室温まで冷却後、セライトろ過を行い、得られた溶液をエバポレーターによって溶媒留去した。次に、エタノール(100ml)とホウ素化水素ナトリウム(東京化成工業(株)製)46mg(1.21mmol)を加えて室温で、4時間、攪拌し、その後、溶液を1Mの塩酸水溶液により中和して、塩化メチレンにより3回抽出し、硫酸マグネシウムによって有機層を乾燥させ、溶媒を留去した。そして、茶色の残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:酢酸エチル(体積比)=4:1)を使用して精製することにより、上記式(15)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)クマリン(300mg、収率:49%)を得た。
【0081】
次に、式(15)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)クマリン(307mg、1.24mmol)のジクロロメタン混合液に、tert-ブチルジメチルクロロシラン(東京化成工業(株)製)225mg(1.49mmol)と4-ジメチルアミノピリジン(45mg、0.37mmol)を加えた後、トリエチルアミン(0.26ml、1.86mmol)を更に加えて、室温で3時間、攪拌した。次に、飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチして、塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を留去した。そして、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=4:1)を使用して精製することにより、式(16)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]クマリン(253mg、収率:56%)を得た。
【0082】
次に、式(16)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]クマリン(195mg、0.538mmol)のアセトニトリル溶液に、N-ブロモスクシンイミド(東京化成工業(株)製)105mg(0.592mmol)と酢酸アンモニウム(5mg、0.0538mmol)を加えて、室温で1時間、攪拌した。次に、水に反応混合物を加えて酢酸エチルで抽出、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗成生物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)を使用して精製することにより、式(17)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリン(115mg、収率:49%)を得た。
【0083】
次に、式(17)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリン(100mg、0.227mmol)と4-ニトロフェニルボロン酸ピナコールエステル(アルドリッチ製)57mg(0.227mmol)のDMF-H2O(4ml:2ml)溶液に、炭酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製、63mg、0.59mmol)とジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(東京化成工業(株)製、3mg、0.00454mmol)を加えて、窒素雰囲気下、90℃で24時間、加熱攪拌した。その後、室温まで冷却し、水に加えて塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=4:1)を使用して精製することにより、式(18)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリン(28mg、収率:26%)を得た。
【0084】
次に、式(18)で示される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリン(12.5mg、0.026mmol)のTHF溶液に、テトラブチルアンモニウムフルオリド(東京化成工業(株)製、1mol/Lのテトラヒドロフラン溶液0.052ml、0.052mmol)を0℃にて加えた。その後、室温に戻して、30分攪拌し、飽和塩化アンモニウムでクエンチして、酢酸エチルで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:酢酸エチル(体積比)=4:1)を使用して精製することにより、式(19)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ニトロフェニル)クマリン(7.6mg、収率:80%)を得た。
【0085】
次に、式(19)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ニトロフェニル)クマリン(7.6mg、0.021mmol)と安息香酸(2.5mg、0.021mmol)の乾燥塩化メチレン溶液1mlに、4-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業(株)製、0.025mg、0.0021mmol)を加え、10分間、攪拌した。その後、更にN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(4.3mg、0.021mmol)を加えて、室温で、17時間、攪拌した。次に、反応溶液に、水を加えて塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィーを使用して精製することにより、上記(5)で表されるケージド化合物を得た。
【0086】
より具体的には、高純度シリカゲルが充填されたカラム(和光純薬工業(株)製、商品名:C300)を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィーにより精製した。
【0087】
なお、移動相として、ヘキサン(和光純薬工業(株)製)と酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)の混合溶媒を使用した。また、ヘキサン/酢酸エチルの混合比率(体積比率)をヘキサン:酢酸エチル=4:1に設定した。また、精製条件を流速10ml/min、25℃とし、カラム保持時間は30分間とした。
【0088】
得られたケージド化合物の収量は8.8mg(0.019mmol)、収率は88%であった。
【0089】
(光照射)
次に、合成したケージド化合物(2590μg)を5mlのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に加えて、波長が360nmの光に対する吸光度が5になるように調製した。
【0090】
次に、この溶液3mlを、スターラーと共にセルに入れ、キセノンランプ(分光計器(株)製、商品名:BPS-X500B)を使用して、光照射(波長:400±10nm、照射時間:1分)を行った。
【0091】
そして、上述の実施例1と同様にして、脱ゲージ評価を行ったところ、上述の光照射による近赤外光の2光子吸収により、合成したケージド化合物から安息香酸(アミノ酸の上位概念であるカルボン酸の1種)が発生し、脱ゲ-ジ化反応が生じていることを、
1HNMRスペクトルデータ(
図3参照)により確認した。
【0092】
より具体的には、
図3に示すように、安息香酸由来のシグナルが7.95、7.62、7.50ppm付近に観測されたが、原料由来のシグナル(8.25、7.83、7.72、7.63、7.50、6.80、6.62ppm付近)が、時間の経過と共に観測されなくなった。このことは、ケージド化合物から安息香酸が発生し、脱ゲ-ジ化反応が生じていることを示していると言える。
【0093】
そして、上述の実施例1と同様にして、量子収率を算出したところ、量子収率は、0.01であった。
【0094】
(実施例4)
(ケージド化合物の合成)
上記式(6)で示されるケージド化合物を合成した。より具体的には、式(17)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル] -3-ブロモクマリン(206mg、0.468mmmol)と4-(N,N’ジメチルアミノ)フェニルボロン酸ピナコールエステル(アルドリッチ製、116mg、0.468mmol)のDMF-H2O(4ml:2ml)溶液に、炭酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製、99mg、0.935mmol)とジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(東京化成工業(株)製、7mg、0.00935mmol)を加えて窒素雰囲気下において、90℃で24時間、加熱攪拌した。その後、室温まで冷やし、水を加えて塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、式(20)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ジメチルアミノフェニル)クマリン(206mg、収率:92%)を得た。
【0095】
次に、式(20)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ジメチルアミノフェニル)クマリン(130mg、0.27mmol)のTHF溶液にテトラブチルアンモニウムフルオリド(東京化成工業(株)製、1mol/Lのテトラヒドロフラン溶液0.054ml、0.054mmol)を0℃で加え、その後、室温に戻して、30分間、攪拌した。そして、飽和塩化アンモニウムでクエンチして、酢酸エチルで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、式(21)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ジメチルアミノフェニル)クマリン(40mg、収率:40%)を得た。
【0096】
次に、式(21)に示す7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(4-ジメチルアミノフェニル)クマリン(30mg、0.082mmol)と安息香酸(10mg、0.082mmol)の乾燥塩化メチレン溶液4mlに4-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業(株)製、1.0mg、0.0082mmol)を加え、10分間、攪拌した。その後、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(17mg、0.082mmol)を加えて、室温で17時間、攪拌した。次に、反応溶液に水を加えて塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィーを使用して精製することにより、上記(6)で表されるケージド化合物を得た。
【0097】
より具体的には、高純度シリカゲルが充填されたカラム(和光純薬工業(株)製、商品名:C300)を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィーにより精製した。
【0098】
なお、移動相として、ヘキサン(和光純薬工業(株)製)と酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)の混合溶媒を使用した。また、ヘキサン/酢酸エチルの混合比率(体積比率)をヘキサン:酢酸エチル=2:1に設定した。また、精製条件を流速10ml/min、25℃とし、カラム保持時間は30分間とした。
【0099】
得られたケージド化合物の収量は33mg(0.070mmol)、収率は86%であった。
【0100】
そして、上述の実施例3と同様にして、光照射を行うと共に、脱ゲージ評価を行ったところ、上述の光照射による近赤外光の2光子吸収により、合成したケージド化合物から安息香酸(アミノ酸の上位概念であるカルボン酸の1種)が発生し、脱ゲ-ジ化反応が生じていることを、
1HNMRスペクトルデータ(
図4参照)により確認した。
【0101】
より具体的には、
図4に示すように、安息香酸由来のシグナルが7.95、7.62、7.50ppm付近に観測されたが、原料由来のシグナル(7.90、7.67、7.60、7.57、7.18、6.78、6.58ppm付近)が、時間の経過と共に観測されなくなった。このことは、ケージド化合物から安息香酸が発生し、脱ゲ-ジ化反応が生じていることを示していると言える。
【0102】
そして、上述の実施例1と同様にして、量子収率を算出したところ、量子収率は、0.15であった。
【0103】
(実施例5)
(ケージド化合物の合成)
上記式(22)で示されるケージド化合物を合成した。より具体的には、まず、式(23)に示す4-ブロモ-N,N-ジメチルベンゼンアミン(東京化成工業(株)製、200mg、0.995mmol)とトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(アルドリッチ製、45mg、0.050mmol)とトリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート(和光純薬工業(株)製、29mg、0.10mmol)の乾燥トルエン溶液に、4,5,5,5-テトラメチル-2-ビニル-1,3,2-ジオキサボロラン(東京化成工業(株)製、0.19ml、1.1mmol)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(東京化成工業(株)製、0.33ml、2.0mmol)を加えて窒素雰囲気下、95℃で3時間、加熱攪拌した。その後、室温まで冷却し、水に加えて酢酸エチルで抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=5:1)を使用して精製することにより、式(24)で表されるN,N-ジメチル-4-[(1E)-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)エテニル]ベンゼンアミン(160mg、収率:65%)を得た。
【0104】
次に、式(17)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-ブロモクマリン(200mg、0.454mmol)とN,N-ジメチル-4-[(1E)-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)エテニル]ベンゼンアミン(125mg、0.454mmol)のDMF-H2O(16ml:4ml)溶液に、炭酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製、96mg、0.908mmol)とジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(東京化成工業(株)製、8mg、0.00908mmol)を加えて、窒素雰囲気下、90℃で7時間、加熱攪拌した。その後、室温まで冷却し、水に加えて塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、式(25)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-(N-[(1E)-2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル])クマリン(155mg、収率:67%)を得た。
【0105】
次に、式(25)で示される7-(ジエチルアミノ)-4-[[[(1,1-ジメチルエチル)ジメチルシリル]オキシ]メチル]-3-(N-[(1E)-2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル])クマリン(39mg、0.077mmol)のTHF溶液に、テトラブチルアンモニウムフルオリド(東京化成工業(株)製、1mol/Lのテトラヒドロフラン溶液0.15ml、0.15mmol)を0℃にて加えた。その後、室温に戻して、30分攪拌し、飽和塩化アンモニウムでクエンチして、酢酸エチルで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:酢酸エチル(体積比)=2:1)を使用して精製することにより、式(26)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(N-[(1E)-2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル])クマリン(24mg、収率:79%)を得た。
【0106】
次に、式(26)で表される7-(ジエチルアミノ)-4-(ヒドロキシメチル)-3-(N-[(1E)-2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル])クマリン(27mg、0.069mmol)と安息香酸(8.3mg、0.069mmol)の乾燥塩化メチレン溶液4mlに、4-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業(株)製、0.83mg、0.0069mmol)を加え、10分間、攪拌した。その後、更にN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(15mg、0.069mmol)を加えて、室温で、12時間、攪拌した。次に、反応溶液に、水を加えて塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過、溶媒留去した。そして、粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィーを使用して精製することにより、上記(22)で表されるケージド化合物を得た。
【0107】
より具体的には、高純度シリカゲルが充填されたカラム(和光純薬工業(株)製、商品名:C300)を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィーにより精製した。
【0108】
なお、移動相として、ヘキサン(和光純薬工業(株)製)と酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)の混合溶媒を使用した。また、ヘキサン/酢酸エチルの混合比率(体積比率)をヘキサン:酢酸エチル=2:1に設定した。また、精製条件を流速10ml/min、25℃とし、カラム保持時間は30分間とした。
【0109】
得られたケージド化合物の収量は30mg(0.060mmol)、収率は88%であった。
【0110】
(光照射)
次に、合成したケージド化合物(980μg)を5mlのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に加えて、波長が458nmの光に対する吸光度が5になるように調製した。
【0111】
次に、この溶液3mlを、スターラーと共にセルに入れ、キセノンランプ(分光計器(株)製、商品名:BPS-X500B)を使用して、光照射(波長:458±10nm、照射時間:1分)を行った。
【0112】
(脱ゲージ評価)
次に、上述の光照射による近赤外光の2光子吸収により、合成したケージド化合物から安息香酸(アミノ酸の上位概念であるカルボン酸の1種)が発生し、脱ゲ-ジ化反応が生じていることを、
1HNMRスペクトルデータ(
図5参照)により確認した。なお、2光子吸収の特性として、700nmでの2光子吸収断面積は850GMであった。
【0113】
より具体的には、本実施例における1HNMRスペクトルの測定は、核磁気共鳴測定装置(BRUKER製、商品名:AscendTM 400)を用い、内部基準としてDMSO-d6を使用するとともに、周波数を400MHzに設定して行った。また、測定温度は297.3Kに設定し、光照射から20分後、35分後、及び45分後に測定を行った。
【0114】
そして、
図5に示すように、安息香酸由来のシグナルが7.95、7.62、7.50ppm付近に観測されたが、原料由来のシグナル(7.95、7.71、7.66、7.51、7.48、7.38、7.11、6.77、6.71、6.58、5.70ppm付近)が、時間の経過と共に観測されなくなった。このことは、ケージド化合物から安息香酸が発生し、脱ゲ-ジ化反応が生じていることを示していると言える。
【0115】
(量子収率の算出)
次に、合成したゲージド化合物の粒子収率を算出した。より具体的には、まず、原料溶液10μlと、反応溶液10μlを使用し、高速液体クロマトグラフィー(日本分光工業(株)製、商品名:880-PU)を使用して、原料溶液10μlを注入した場合の積分値と、反応溶液10μlを注入した場合の積分値を算出し、上述の数式(1)を用いて、反応率を算出した。その結果、反応率は7.9%であった。
【0116】
なお、カラムには、Inertsil ODS-3を使用し、アセトニトリル溶媒を移動相として使用した。
【0117】
次に、光照射の際に使用した光源であるキセノンランプの光量I(3.34×10-6mol/min)を用いて、以下の数式(3)から量子収率を算出した。なお、15秒照射により反応した式(22)で表されるケージド化合物の分子数(mol)は、高速液体クロマトグラフィー測定方法により測定し、15秒照射により式(22)で表されるケージド化合物が吸収した光量(mol)は、高速液体クロマトグラフィー測定方法により測定した。その結果、15秒照射により反応した式(22)で表されるケージド化合物の分子数(mol)は0.938×10-7(mol)であり、15秒照射により式(22)で表されるケージド化合物が吸収した光量(mol)は0.835×10-6(mol)であり、量子収率は、0.112であった。
【0118】
(数3)
量子収率=15秒照射により反応した式(22)で表されるケージド化合物の分子数(mol)÷15秒照射により式(22)で表されるケージド化合物が吸収した光量(mol) (3)
【0119】
以上より、実施例1~5のケージド化合物によれば、量子収率が飛躍的に向上し、アミノ酸等の生理活性物質の時空間制御を効率よく行うことが可能になることが分かる。また、生体透過性を有する近赤外光を使用できるため、紫外光を使用する場合に比し、生体損傷を抑制することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の活用例としては、光応答性のケージド化合物及びその製造方法が挙げられる。