(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】静電チャック、成膜装置、成膜方法、及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20220104BHJP
C23C 14/00 20060101ALI20220104BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20220104BHJP
C23C 14/50 20060101ALI20220104BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220104BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20220104BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
H01L21/68 R
C23C14/00 A
C23C14/24 J
C23C14/50 A
H05B33/14 A
H05B33/10
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2018200241
(22)【出願日】2018-10-24
【審査請求日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】10-2017-0181653
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-065959(JP,A)
【文献】特開2002-009140(JP,A)
【文献】特開平06-085045(JP,A)
【文献】特開2014-116540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C23C 14/00
C23C 14/24
C23C 14/50
H01L 51/50
H05B 33/10
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を吸着して保持するための静電チャックであって、
前記基板を吸着するための第1の吸着領域、及び
、前記第1の吸着領域が基板を吸着した後に前記基板を吸着する第2の吸着領域を含む吸着面を備える静電チャックプレート部と、
前記第1の吸着領域に配された第1の電極と、
前記第2の吸着領域に配された第2の電極と、
前記静電チャックプレート部に埋設され、前記静電チャックプレート部の吸着面への前記基板の吸着状態を検知するためのセンサー部と、
を備え、
前記センサー部は、それぞれ前記チャックプレート部に埋設された、前記第1の吸着領域の吸着状態を検知する第1センサーと、前記第2の吸着領域の吸着状態を検知する第2センサーとを含む
ことを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記センサー部は、前記基板の周縁部に対応する位置に配置され、前記基板の前記周縁部と前記静電チャックプレート部の吸着面との間の吸着状態を検知する周縁部センサーを備えることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
前記センサー部は、前記基板の中央部に対応する位置に配置され、前記基板の中央部と前記静電チャックプレート部の吸着面との間の吸着状態を検知する中央部センサーを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電チャック。
【請求項4】
前記センサー部は、前記静電チャックプレート部の吸着面と前記基板の表面との間の距離を検出する距離検知センサーを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の静電チャック。
【請求項5】
前記センサー部は、前記基板との距離に応じた静電容量の変化を検知することによって前記静電チャックプレート部の吸着面と前記基板との吸着状態を検知する静電容量センサーを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の静電チャック
。
【請求項6】
前記基板の周縁部を下方から支持する支持部をさらに備え、
前記センサー部は、前記基板の中央部に対応する位置において前記静電チャックプレート部に埋設され、前記基板の前記中央部と前記静電チャックプレート部の吸着面との間の吸着状態を検知する中央部センサーを備え、
前記基板の前記周縁部と前記静電チャックプレート部の吸着面との間の吸着状態を検知する支持部センサーが前記支持部に埋設されることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック。
【請求項7】
前記第1の電極、及び前記第2の電極に互いに独立に電圧を供給する電圧供給部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の静電チャック。
【請求項8】
前記電圧供給部は、前記第1の電極に前記基板を吸着するための吸着電圧を供給し、その後、前記第2の電極に前記吸着電圧を供給することを特徴とする請求項7に記載の静電チャック。
【請求項9】
前記電圧供給部は、前記第1の電極に前記基板を剥離するための剥離電圧を供給し、その後、前記第2の電極に前記剥離電圧を供給することを特徴とする請求項7に記載の静電チャック。
【請求項10】
前記第1の電極、及び前記第2の電極に同時に電圧を供給する電圧供給部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の静電チャック。
【請求項11】
前記基板の一端を下方から支持する第1支持部の基板支持面の高さが、前記基板を載せたときに、前記基板の他端を下方から支持する第2支持部の基板支持面の高さより高いことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の静電チャック。
【請求項12】
基板を上方から吸着して保持する請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の静電チャックと、
前記基板の下方に配置され、前記基板上の蒸着領域に対応した蒸着パターンが形成されたマスクを支持するマスク支持手段と、
前記マスクの下部に配置され、前記マスクの蒸着パターンを介し、前記基板上に成膜される蒸着材料を蒸発させる蒸発源と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項13】
マスクを介して基板に蒸着材料を成膜する成膜方法であって、
請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載の静電チャックに基板を吸着させる工程と、
前記静電チャックに吸着された前記基板を移動し、マスク上に載置する工程と、
前記マスクを介して前記基板に前記蒸着材料を成膜する工程と、
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項14】
電子デバイスを製造する方法であって、
請求項13に記載の成膜方法を用いて電子デバイスを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成膜装置に関するもので、特に、成膜装置において静電チャックへの基板の吸着状態又は剥離状態を検出するための吸着センサー又は剥離センサーを備える静電チャックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、フラットパネル表示装置として有機EL表示装置が脚光を浴びている。有機EL表示装置は自発光ディスプレイであり、応答速度、視野角、薄型化などの特性が液晶パネルディスプレイより優れており、モニタ、テレビ、スマートフォンに代表される各種携帯端末などで既存の液晶パネルディスプレイを早いスピードで代替している。また、自動車用ディスプレイなどにも、その応用分野を広げている。
【0003】
有機EL表示装置の素子は、2つの向かい合う電極(カソード電極、アノード電極)の間に発光を起こす有機物層が形成された基本構造を持つ。有機EL表示素子の有機物層及び電極層は、成膜装置の真空チャンバーの下部に設けられた蒸着源を加熱することで蒸発された蒸着材料を画素パターンが形成されたマスクを介して真空チャンバー上部に置かれた基板(の下面)に蒸着させることで形成される。
【0004】
このような上向蒸着方式の成膜装置の真空チャンバー内において、基板は基板ホルダによって保持されるが、基板(の下面)に形成された有機物層/電極層に損傷を与えないように、基板の下面の周縁を基板ホルダの支持部によって支持する。この場合、基板のサイズが大きくなるにつれて、基板ホルダの支持部によって支持されない基板の中央部が、基板の自重によって撓み、蒸着精度が低下する要因となっている。
【0005】
基板の自重による撓みを低減するための方法として、静電チャックを使う技術が検討されている。すなわち、基板ホルダの支持部の上部に静電チャックを設け、静電チャックを基板の上面に近接又は接触させた状態で静電チャックに吸着電圧を印加し、基板の表面に反対極性の電荷を誘導することで、基板の中央部が静電チャックの静電引力によって引っ張られるようにし、基板の撓みを低減することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、静電チャックに吸着電圧を印加する場合、電圧の印加と同時に基板がすぐ静電チャックに吸着されるわけではない。静電チャックに吸着電圧が印加された後、この吸着電圧によって基板側に反対極性の電荷が誘導されるまでに時間がかかるためである。同様に、吸着された基板を静電チャックから剥離させるため、離脱電圧を静電チャックに印加する場合にも、印加された離脱電圧により、基板側に誘導された電荷が除電されるまでに時間がかかり、よって離脱電圧の印加から基板が完全に剥離するまでに一定の時間がかかることになる。
【0007】
このような点を考慮し、静電チャックの実際の使用においては、静電チャックに吸着電圧や離脱電圧を印加してから多少の時間が経過するまで待機した後、次の工程へ進むため静電チャックを昇降又は移動させている。しかし、このような待機時間の設定が不正確な場合には、基板が静電チャックに完全に吸着し、又は静電チャックから完全に剥離していない状態で静電チャック又は基板ホルダの支持部が移動し、基板の破損につながる恐れがある。例えば、
図10に示したように、基板10を基板ホルダの支持部211、212に
載置し静電チャック23に近接させた後(
図10(a))、静電チャック23に吸着電圧を印加して基板10を静電チャック23に吸着させていき、吸着電圧の印加から一定の時間が経過すると、基板10の全面が静電チャック23に完全に吸着する(
図10(b))。その後、静電チャック23を基板ホルダの支持部211、212から上昇させて、次の工程に基板10を移動させる。ここで、例えば、基板10の一端で静電チャック23への吸着が完全にされていない状態で静電チャック33を基板ホルダの支持部211、212から上昇させると、吸着が十分でない基板10の一端で剥離が生じ、該基板10の一端が静電チャック23から落ちる可能性がある(
図10(c))。このように、基板10の吸着が不完全のまま静電チャック23が移動すると、移動の過程で基板10が破損する恐れがある。このような基板の一端での不完全な吸着又は剥離は、基板の一端から他端に向かって吸着又は剥離を行う場合に特に著しくなるが、これについては後述する。一方、上記のような不完全な吸着又は剥離に対する対策として、吸着電圧又は離脱電圧の印加後の待機時間を十分に長く設定することが考えられるが、これは工程全体の時間の増加を招くことになる。
【0008】
ここで、静電チャックの吸着面にセンサーを設け、基板の吸着又は剥離の状態をセンサーで確認する方法が検討されている。このようにセンサーを配置する構成では、静電チャックの吸着面に対する基板の吸着又は剥離の状態を正確に検出するために、多数のセンサーを吸着面の全面にわたって均等に配置する必要がある。しかし、これは、静電チャックにセンサーが設置される領域が増える分、静電チャックの本来の機能である静電引力を発生させるための電極部を配置する面積が減り、その結果、静電チャックの吸着力の低下を招くことになる。
【0009】
本発明は、静電チャックへの基板の吸着又は静電チャックからの基板の剥離の状態を正確に確認できるとともに、静電チャックの吸着力の低下を抑制できる、静電チャック、これを備える成膜装置、基板吸着方法、基板剥離方法、成膜方法及び電子デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様による静電チャックは、基板を吸着して保持するための静電チャックであって、前記基板を吸着するための第1の吸着領域、及び、前記第1の吸着領域が基板を吸着した後に前記基板を吸着する第2の吸着領域を含む吸着面を備える静電チャックプレート部と、前記第1の吸着領域に配された第1の電極と、前記第2の吸着領域に配された第2の電極と、前記静電チャックプレート部に埋設され、前記静電チャックプレート部の吸着面への前記基板の吸着状態を検知するためのセンサー部と、を備え、前記センサー部は、それぞれ前記チャックプレート部に埋設された、前記第1の吸着領域の吸着状態を検知する第1センサーと、前記第2の吸着領域の吸着状態を検知する第2センサーとを含む。
【0012】
本発明の第2態様による成膜装置は、基板を上方から吸着して保持する本発明の第1態様による静電チャックと、前記基板の下方に配置され、前記基板上の蒸着領域に対応した蒸着パターンが形成されたマスクを支持するマスク支持手段と、前記マスクの下部に配置され、前記マスクの蒸着パターンを介し、前記基板上に成膜される蒸着材料を蒸発させる蒸発源と、を備える。
【0015】
本発明の第3態様による成膜方法は、マスクを介して基板に蒸着材料を成膜する成膜方法であって、本発明の第1態様による静電チャックに基板を吸着させる工程と、前記静電チャックに吸着された前記基板を移動し、マスク上に載置する工程と、前記マスクを介し
て前記基板に前記蒸着材料を成膜する工程と、を有する。
【0016】
本発明の第4態様による電子デバイスの製造方法は、本発明の第3態様による成膜方法を用いて、電子デバイスを製造する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、静電チャックへの基板の吸着又は静電チャックからの基板の剥離の状態を正確に確認できるとともに、静電チャックの吸着力の低下を抑制することができる。
【0018】
特に、静電チャックへの基板の吸着又は静電チャックからの基板の剥離が、基板の一端から他端に向かって行われる場合において、不完全な吸着又は剥離が発生しやすい基板の端部に対応する位置に、吸着又は剥離の完了を検出できるセンサーを設置することで、静電チャックの吸着力の低下を最小限に抑えながらも、基板の吸着又は剥離を正確に検出することができる。さらに、該端部に対応する位置に配置されるセンサーを、静電チャックの内部ではなく、支持部に設けることで、静電チャックの吸着力の低下をより一層抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、有機EL表示装置の製造ラインの一部の模式図である。
【
図3】
図3は、実施例の静電チャックの構造を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施例の静電チャックへの基板の吸着方法を示す模式図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る、基板吸着/剥離検知センサー部の構成を示す模式図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る、基板吸着/剥離検知センサー部の構成を示す模式図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係る、基板吸着/剥離検知センサー部の構成を示す模式図である。
【
図8】
図8は、実施例の成膜方法を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、有機EL表示装置の構造を示す模式図である。
【
図10】
図10は、基板の静電チャックに対する不完全な吸着状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0021】
本発明は、基板の表面に真空蒸着によってパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好ましく適用することができる。基板の材料としては、硝子、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選択することができる。また、蒸着材料としては、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択することができる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機EL表示装置、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。その中でも、有機EL表示装置の製造装置においては、蒸着材料を蒸発させてマスクを介して基板に蒸着させることで有機EL表示素子を形成しているので、本発明の好ましい適用例の一つである。
【0022】
<電子デバイス製造ライン>
図1は、電子デバイスの製造ラインの構成の一部を模式的に示す上視図である。
図1の製造ラインは、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、約1800mm×約1500mmのサイズの基板に有機ELの成膜を行った後、該基板を切り出して複数の小さなサイズのパネルを作製する。
【0023】
電子デバイスの製造ラインは、一般に、
図1に示すように、複数の成膜室11、12と、搬送室13とを備える。搬送室13内には、基板10を保持し搬送する搬送ロボット14が設けられている。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板を保持するロボットハンドが取り付けられた構造を持つロボットであり、各成膜室への基板10の搬入及び搬出を行う。
【0024】
各成膜室11、12には、それぞれ成膜装置(蒸着装置とも呼ぶ)が設けられている。搬送ロボット14への基板10の受け渡し、基板10とマスクとの相対位置の調整(アライメント)、マスク上への基板10の固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置によって自動で行われる。
【0025】
<成膜装置>
以下、成膜室の成膜装置の構成を説明する。
図2は、成膜装置2の構成を概略的に示す断面図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を使う。成膜時に基板が水平面(XY平面)と平行に固定されると仮定し、基板の短辺に平行な方向をX方向、長辺に平行な方向をY方向とする。またZ軸周りの回転角をθで表わす。
【0026】
成膜装置2は、成膜工程が行われる空間を定める真空チャンバー20を具備する。真空チャンバー20の内部は、真空雰囲気、又は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気で維持される。
【0027】
成膜装置2の真空チャンバー20内の上部には、基板を支持する基板支持台21、マスクが置かれるマスク台22、基板を静電引力によって吸着する静電チャック23、金属製のマスクに磁力を印加するためのマグネット24などが設けられ、成膜装置の真空チャンバー20内の下部には、蒸着材料が収納される蒸着源25などが設けられる。
【0028】
基板支持台21には、搬送室13の搬送ロボット14によって真空チャンバー20内に搬入された基板10が載置される。基板支持台21は、真空チャンバー20に固定されるように設けられてもよく、鉛直方向に昇降可能に設けられてもよい。基板支持台21は基板の下面の周縁部を支持する支持部211、212を備える。
【0029】
基板支持台21の下には、フレーム状のマスク台22が設置され、マスク台22には、基板10上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを有するマスク221が置かれる。特に、スマートフォン用の有機EL素子を製造するのに使われるマスクは、微細な開口パターンが形成された金属製のマスクであり、FMM(Fine Metal Mask)とも呼ばれる。
【0030】
基板支持台21の支持部211、212の上方には、基板を静電引力によって吸着して保持するための静電チャック23が設けられる。静電チャック23は、例えば、誘電体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する。一対の金属電極にプラス(+)及びマイナス(-)の電圧がそれぞれ印加されると、誘電体マトリックスを通じて基板に反対極性の分極電荷が誘導され、これら間の静電引力によって基板が静電チャック23に吸着されて保持される。静電チャック23は、一つのプレートで形成されてもよく、複数のサブプレートを持つように形成されてもよい。一つのプレートで形成される場合、その内部に電気回路を複数備え、一つのプレート内で位置によって静電引力が独立に制御される。
【0031】
静電チャック23の上部には、金属製のマスク221に磁力を印加して、マスクの撓みを抑制し、マスク221と基板10とを密着させるためのマグネット24が設けられる。マグネット24は、永久磁石又は電磁石で構成でき、複数のモジュールに区画されることができる。
【0032】
図2には示していないが、静電チャック23とマグネット24との間には、基板を冷却するための冷却板が設けられる。冷却板は静電チャック23、又はマグネット24と一体に形成されてもよい。
【0033】
蒸着源25は、基板に成膜される蒸着材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、蒸着源からの蒸発レートが一定になるまで蒸着材料が基板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを備える。蒸着源25は、点(point)蒸着源、線形(linear)蒸着源など、用途によって多様な構成を持つことができる。
【0034】
図2には示していないが、成膜装置2は、基板に蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を備える。
【0035】
成膜装置2の真空チャンバー20の外部上面には、基板支持台21、静電チャック23、マグネット24などを鉛直方向(Z方向)に移動させるための駆動機構、及び基板とマスクとのアラインメントのために水平面に平行に(X方向、Y方向、θ方向に)静電チャック23及び/又は基板支持台21などを移動させるための駆動機構などが設けられる。また、マスクと基板とのアラインメントのために、真空チャンバー20の天井に設けられ
た窓を通じて、基板及びマスクに形成されたアラインメントマークを撮影するアラインメント用カメラ(不図示)も設けられる。
【0036】
成膜装置は、制御部26を有する。制御部26は、基板10の搬送及びアライメント、蒸着源の制御、成膜の制御などの機能を備える。制御部26は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを持つコンピューターによって構成可能である。この場合、制御部26の機能はメモリ、又はストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピューターとしては、汎用のパーソナルコンピューターを使用してもよく、組込み型のコンピューター、又はPLC(Programmable Logic Controller)を使用してもよい。又は、制御部26の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置毎に制御部26が設置されていてもよいし、一つの制御部26が複数の成膜装置を制御してもよい。
【0037】
<静電チャックの基本構造>
以下、
図3を参照して、本実施例の静電チャック23の基本構造について説明する。
図3(a)は、本実施例の静電チャック23の断面図であり、
図3(b)は、静電チャック23の平面図である。
図3(a)に示すように、本実施例の静電チャック23は、基板の成膜面(例えば、下面)の反対側の面(例えば、上面)を静電引力によって吸着するための電極部を持つ静電チャックプレート部31と、静電チャックプレート部31の電極部に電圧を供給するための給電線が連結される給電端子部32とを備える。静電チャックプレート部31は、複数の電極部を備えることができる。例えば、本実施例の静電チャックプレート部31は、
図3(b)に示すように、2つ以上の電極部311~319を備える。各電極部は、静電引力を発生させるためにプラス及びマイナスの電圧が印加される一対の電極3111、3112を備える。プラス電極3111及びマイナス電極3112は、一つの電極部内で交互に配置され、
図3(b)に矢印Pで示した基板の吸着進行方向(基板の吸着進行方向については、後述する。)と交差する方向に延在する。電極3111、3112の延在方向と基板の吸着進行方向とは、直角で交差してもよいし、他の角度で交差してもよい。
【0038】
また、静電チャック23は、成膜装置2の成膜プロセスの進行につれて、電極部311~319に加えられる電圧の大きさ、電圧の印加開始時点、電圧の維持時間、電圧の印加順序などを制御する電圧制御部(不図示)を備える。電圧制御部は、複数の電極部311~319への電圧印加を電極部毎に独立に制御することができる。特に、本実施例の電圧制御部は、複数の電極部に吸着電圧が印加される順序を制御することができる。電圧制御部は、成膜装置2の制御部26と別途に設けられてもよいし、成膜装置2の制御部26に統合されてもよい。
【0039】
静電チャックプレート部31は、複数の電極部に対応する複数の吸着領域を有する。例えば、
図3(b)では、静電チャックプレート部が9つの電極部311~319に対応する9つの吸着領域231~239を有するが、吸着領域の数はこれに限定されない。吸着領域231~239は、静電チャックプレート部31の長辺方向(Y軸方向)及び短辺方向(X軸方向)に分離されるように設けられてもよいし、長辺方向又は短辺方向だけに分離されてもよい。複数の吸着領域は、物理的に一つのプレートが複数の電極部を持つことで構成されてもよく、物理的に分離した複数のプレートのそれぞれが一つ又は複数の電極部を持つことで構成されてもよい。複数の吸着領域のそれぞれが複数の電極部のそれぞれに対応するように構成されてもよく、一つの吸着領域が複数の電極部を備えるように構成されてもよい。例えば、
図3で矢印Pで示した基板の吸着進行方向と交差する方向に配置された3つの電極部311、312、313が一つの吸着領域を成すようにすることができる。すなわち、3つの電極部311、312、313それぞれは、独立に電圧制御が可
能であるが、これら3つの電極部に同時に吸着電圧が印加されるように制御することで、これら3つの電極部が一つの吸着領域として機能するようにすることができる。
【0040】
<基板の吸着及び剥離の基本構成>
図4を参照して、静電チャック23への基板10の吸着及び静電チャック23からの基板10の剥離について説明する。本実施例においては、基板10の全面を静電チャック23の静電チャックプレート部31の下面に同時に吸着させるのではなく、基板10の一端から他端に向かって静電チャックプレート部31の下面に順次に吸着を行う。この時、吸着が行われる方向としての基板10の一端と他端は、それぞれ対向する基板10の長辺であるのが好ましいが、これに限定されず、短辺側で吸着を行うことも可能である。このようにするのは、吸着の際、基板10の中央部の撓みを基板10の端部側に伸ばし、基板10を静電チャック23にできるだけ平らに吸着させるためである。
【0041】
基板10の一端から他端に向かって順次吸着を行うための方法として、2つの方法が考えられる。第1の方法では、複数の電極部311~319に吸着電圧を印加する順番を制御する。第2の方法では、複数の電極部311~319全体に対し同時に吸着電圧を印加し、基板10の両端部を支持する基板支持台の支持部の構造や支持力を異ならせる。以下、各方法について説明する。
【0042】
図4(a)~
図4(d)は、複数の電極部311~319に印加される電圧を順次に制御する第1の方法を示す。ここでは、
図4(a)に示すように、基板10の長辺方向に沿ってそれぞれ配置される、静電チャックプレート31上の3つの電極部311、312、313が第1吸着領域2310、静電チャックプレート31の中央部の3つの電極部314,315、316が第2吸着領域2320、残り3つの電極部317、318、319が第3吸着領域2330を成すものとして説明する。
【0043】
図4(a)~
図4(d)に示すように、電圧制御部により、基板10の一端側に対応する第1吸着領域2310から、基板10の他端側に対応する第3吸着領域2330に向かって、順番に吸着電圧が印加されるように制御する。最初に、第1吸着領域2310に吸着電圧が印加されることによって、第1吸着領域2310に対応する位置の基板10上面に反対極性の分極電荷が誘導され、基板10の一端側が第1吸着領域2310に吸着され始める(
図4(b))。続いて、第2吸着領域2320に吸着電圧が印加されることによって、同様に第2吸着領域2320に対応する位置の基板10上面に反対極性の分極電荷が誘導され、これにより基板10の中央部が第2吸着領域2320に吸着され始める(
図4(c))。最後に、基板10の他端側に対応する第3吸着領域2330に吸着電圧が印加され、基板10の他端側の端部が最終的に第3吸着領域2330に吸着されていく(
図4(d))。このような過程を通じて、吸着が進行するにつれ、基板10の撓みが基板10の一端から他端に向かって次第に伸びながら、最終的に基板10は静電チャック23に平らに吸着される。
【0044】
図4(e)~
図4(f)は、基板支持台21の支持部の構造や支持力の構成によって、基板10を順次吸着させる第2の方法を示す。基板支持台21は、基板10の一端を支持する第1支持部211と、基板10の他端を支持する第2支持部212とを備える。第1支持部211及び第2支持部212は、それぞれ複数の部材からなることもでき、基板10の吸着進行方向と交差する方向に長く延在する一つの部材からなることもできる。基板支持台21は、基板10の長辺側の一端と他端をそれぞれ支持する第1支持部211及び第2支持部212の他に、基板10の短辺側の一端と他端をそれぞれ支持する第3支持部213と第4支持部214とをさらに備えてもよい(
図3(b)参照)。
【0045】
基板支持台21の支持部211、212に基板を載せたときに、第1支持部211の基
板支持面の高さが第2支持部212の基板支持面の高さより高くなるように構成する。基板支持台21の支持部211、212のそれぞれは、基板面に垂直方向に移動可能である。このために、各支持部は弾性体部を含む。
【0046】
このような基板支持台21の支持部211、212に基板10が載置された状態(
図4(e))で、静電チャック23を基板10に向かって下降させると、基板支持面の高さが高い第1支持部211によって支持される基板10の一端側が先に静電チャック23に接触する。この時、第2支持部212によって支持される基板10の他端側は静電チャック23に接触せず、静電チャック23との間に間隙が存在する。この状態で、静電チャック23に吸着電圧を印加すると、静電チャック23に接触している基板10の一端側が先に静電チャック23に吸着され始める(
図4(f))。静電チャック23を基板10に向かってさらに下降させると、第1支持部211は、静電チャック23からの加圧力によって下方に移動(例えば、弾性圧縮)し、これによって、基板10の一端から基板10の中央部に向かって基板10の吸着が進行する。さらに静電チャック23が下降し、第2支持部212によって支持される基板10の他端側に接近するにつれて、基板10の中央部から基板10の他端に向かって引き続き吸着が進み、最終的に第2支持部212で支持される基板10の他端が静電チャック23に吸着される。このように、第2の方法では、基板支持台21の支持部211、212に基板を載せたときに、基板支持台21の支持部の基板支持面の高さを異なるようにすることで、基板10の一端から他端に向かって順次に吸着させる。基板10の一端及び他端をそれぞれ支持する第1支持部211及び第2支持部212の基板支持面の高さを基板支持台21に基板を載せた状態で異ならせるための具体的な構成としては、例えば、基板支持台21に基板を載せる前の状態で第1支持部211の基板支持面が第2支持部212の基板支持面より高い位置になるような構成としてもよいし、各支持部の弾性部材の弾性係数を異ならせることにより、基板支持台21に基板を載せる前の状態における各支持部の基板支持面の位置によらず、基板支持台21に基板を載せた状態で第1支持部211の基板支持面が第2支持部212の基板支持面より高い位置になるような構成としてもよい。具体的には、基板10が載置され第1支持部211及び第2支持部212が等しい支持力で基板10を支持している状態において、第1支持部211の弾性部材の弾性圧縮量(基板面に垂直方向の移動量)が第2支持部212の弾性部材の弾性圧縮量より小さくなるように構成する。言い換えると、第1支持部211の弾性部材の弾性係数を第2支持部212の弾性部材の弾性係数より大きくすることにより、弾性圧縮量(基板面に垂直方向の移動量)が等しいとき、第1支持部211の基板支持力(基板10に作用させる弾性力)が第2支持部212の基板支持力より大きくなるように構成する。これにより、結果として基板10が載置された状態で第1支持部211の基板支持面の高さが第2支持部212の基板支持面の高さより高くなるため、基板支持台21に基板を載せる前の状態で第1支持部211の基板支持面が第2支持部212の基板支持面より高い位置になるように構成した場合と同様に基板10の一端から他端に向かって順次に静電チャック23に吸着させることができる。なお、基板10が載置されない状態で第1支持部211の基板支持面の高さが第2支持部212の基板支持面の高さより高くすることと、第1支持部211及び第2支持部212の弾性部材の弾性係数を異ならせることとを組み合わせても同様の効果が得られる。
【0047】
吸着された基板10を静電チャック23から剥離させる構成、つまり、基板10の一端から他端に向かって順次吸着された基板を反対方向(基板10の他端から一端に向かう方向)に順次剥離させる構成は、上述した基板吸着過程の逆順に同様に行われるので、詳細な説明は省略する。
【0048】
<基板吸着/剥離検知センサー部の構成>
図10を参照し上述したように、静電チャックを使用して基板を吸着又は剥離する場合、吸着電圧又は離脱電圧を静電チャックに印加しても、印加された電圧による分極電荷の
誘導、及び誘導された電荷の除電までに時間がかかるため、電圧印加と同時に基板がすぐ静電チャックに吸着又は静電チャックから剥離されるわけではない。そのため、静電チャックに電圧が印加されてから一定の時間を待機した後、基板が吸着された静電チャック又は静電チャックから剥離された基板を移動することになるが、待機時間が適切でない場合には、基板が静電チャックに完全に吸着されていない状態又は静電チャックから完全に剥離していない状態で基板が移動され、基板の破損につながる恐れがある。特に、上述したように、基板中央部での撓みを抑制しようとするなどの目的で基板の一端から他端に向かって吸着又は剥離を行う場合においては、吸着又は剥離が最終的に行われる基板の一方の端部側で不完全な吸着又は剥離が発生する可能性が高い。
【0049】
本実施例では、このような不完全な基板の吸着又は剥離による基板の破損を抑制するため、基板の吸着又は剥離の状態を検出できるセンサー部を静電チャックに設けることを特徴とする。また、静電チャックの吸着力をできるだけ低下させない位置にセンサーを設置することを特徴とする。以下、本実施例による基板吸着/剥離検知センサー部の構成について詳しく説明する。
【0050】
図5は、第1実施形態に係る、基板吸着/剥離検知センサー部の構成を示す。
図5(a)は、基板10の一端から他端に向かって基板10が静電チャック23に順次吸着していく途中の状態を示す。便宜上、静電チャックプレート31内部に配置された電極部及び給電端子部などの図示は省略している。基板10の下部における、基板10の一端と他端との間の中央部に対応する位置に、第1センサーS1が配置される。また、基板10の下部における、基板10の他端に対応する位置に、第2センサーS2が配置される。第1センサーS1と第2センサーS2は、静電チャックプレート部31の吸着面上の各吸着領域への基板10の吸着状態を検知するためのセンサーである。具体的には、第1センサーS1は、吸着工程が進むにつれ、基板10の中央部での静電チャックプレート部31の吸着面との吸着状態を検知し、第2センサーS2は、基板10の吸着が最終的に行われる基板10の他端側の位置における静電チャックプレート部31の吸着面との吸着状態を検知する。
【0051】
第1及び第2センサーS1、S2は、具体的には、各吸着領域における基板10と静電チャックプレート部31の吸着面との距離を検出できる距離検知センサーを用いて構成される。例えば、基板10の下部に距離検知センサーとしてのレーザー変位計を設けて、静電チャックプレート部31の下面(吸着面)と、これに対向する基板10上面に対して、それぞれレーザー光を照射し、これらから反射される反射光に基づいて静電チャックプレート部31の吸着面と基板10上面との間の間隙(距離)を測定する。この距離測定の結果から、第1及び第2センサーS1、S2が配置された各位置における基板10と静電チャックプレート部31の吸着面との吸着の状態を検知し確認することができる。第1及び第2センサーS1、S2はそれぞれ、基板10の吸着進行方向に垂直、かつ、静電チャックの吸着面に平行な方向(つまり、紙面に垂直方向)に複数のセンサーが所定の間隔を置いて並んで配置された構成でもよいし、それぞれ一つのセンサーが該当位置において上記方向に沿って前後に移動可能に配置されてもよい。
【0052】
図5(a)に示したように、基板10の一端から他端に向かって順に基板10の吸着が進むにつれて、まず、第1センサーS1によって基板10の中央部での吸着状態を検出することで、吸着の進行の程度を把握するとともに、基板10の中央部において撓みがなく、適切に中央部において吸着がされたかを確認することができる。続いて、基板10の吸着が引き続き進められ、基板10の他端側の位置に対応して設けられた第2センサーS2によって当該位置における吸着がされたことが検出されると、これをもって吸着の完了が確認され、次の工程へ進行する。
【0053】
このように、本実施例によると、静電チャックへの基板の吸着状態を少ない数のセンサーを配置することで確認することができる。また、第1センサーS1及び第2センサーS2は静電チャックの吸着面に設けられないため、静電チャックの吸着力の低下を抑制しながらも、基板の吸着を正確に確認することができる。
【0054】
図5(b)は、静電チャック23からの基板10の剥離過程を示す。具体的には、上記で説明した過程を経て基板10の一端から他端に向かって静電チャック23に順次吸着された基板10が、吸着とは反対方向に静電チャック23から剥離していく途中の状態を示している。上述した第1及び第2センサーS1、S2の他に、基板10の剥離を検出するためのセンサーとして、最後に剥離が行われる基板10の一端に対応する位置に、第3センサーS3が配置されている。第1センサーS1及び第2センサーS2と同様に、第3センサーS3は距離検知センサーを用いて構成することができる。
【0055】
基板10の他端から一端に向かって順に基板10の剥離が進むにつれ、吸着時と同様に、まず第1センサーS1によって基板10の中央部での吸着状態を検出することで、中央部における剥離の進行の程度を確認することができる。続いて、基板10の剥離が進み、基板10の一端側の位置に対応して設けられた第3センサーS3によって当該位置での剥離が検出されると、これをもって剥離の完了が最終的に確認され、次の工程へ進行する。従って、静電チャック23からの基板の剥離も、少ない数のセンサーを配置することで確認することができる。また、第3センサーS3は静電チャックの吸着面に設けられないため、静電チャックの吸着力の低下を抑制しつつ、基板の剥離を正確に確認することができる。
【0056】
図6は、第2実施形態に係る、基板吸着/剥離検知センサー部の構成を示したもので、
図6(a)は、基板10の一端から他端に向かって基板10が静電チャック23に順次吸着していく途中の状態を、
図6(b)は、静電チャック23に吸着された基板10が吸着とは反対方向に静電チャック23から剥離していく途中の状態を、それぞれ示している。第2実施形態は、基板吸着/剥離検知センサー部を静電容量センサーを用いて構成する点が、第1実施形態と異なる。つまり、第2実施形態では、基板吸着/剥離検知センサー部としての第1センサーS1~第3センサーS3を、吸着及び剥離の対象である基板との距離に応じて静電容量が変化する静電容量センサーで構成し、静電チャックプレート部31内に埋設している。
【0057】
具体的には、静電容量センサーは、吸着又は剥離の検出対象である基板10と対向してコンデンサの一方の電極を形成する電極部と、この電極部と基板との間の静電容量の変化を検知し出力する検知出力部とで構成され、電極部の方が基板に対向する形で静電チャックプレート部31の吸着面内に埋設される。静電チャックプレート部31の吸着面に対する基板10の吸着又は剥離が進むにつれて、基板10と静電チャックプレート部31の吸着面との間の距離が変化すると、静電容量センサーが検知する静電容量も変化し、この静電容量の変化から基板の吸着状態及び剥離状態を検知する構成である。
【0058】
静電容量センサーの配置位置は、上記第1実施形態と同様に、基板10の中央部に対応する位置の静電チャックプレート部31内に第1センサーS1を、最終的に吸着が行われる基板10の他端に対応する位置の静電チャックプレート部31内に第2センサーS2を、それぞれ配置し、剥離過程における剥離状態を検出するためのセンサーとして、剥離が最終的に行われる基板10の一端に対応する位置の静電チャックプレート部31内に第3センサーS3を配置している。これら第1センサーS1~第3センサーS3により、基板の吸着及び剥離の進行状態と吸着及び剥離の完了を検出し確認する具体的な方法は、上記第1実施形態と同様であるため、説明は省略する。
【0059】
第2実施形態によっても、静電チャック23への基板の吸着及び剥離の状態を少ない数のセンサーを配置することにより確認することができる。静電チャックの吸着面に設けられるセンサーの数を少なくすることができるため、静電チャックの吸着力の低下を抑制しながらも、基板の吸着及び剥離を正確に確認することができる。
【0060】
図7は、第3実施形態に係る、基板吸着/剥離検知センサー部の構成を示したもので、
図7(a)は、基板10の一端から他端に向かって基板10が静電チャック23に順次吸着していく途中の状態を、
図7(b)は、静電チャック23に吸着された基板10が、吸着とは反対方向に静電チャック23から剥離されていく途中の状態を、それぞれ示している。第3実施形態は、基板吸着/剥離検知センサー部が静電容量センサーを用いて構成される点は上記第2実施形態と同様であるが、静電容量センサーの一部を、静電チャックプレート部ではなく、基板支持台の支持部に埋設する点が上記第2実施形態と異なる。
【0061】
具体的には、第3実施形態では、基板吸着/剥離検知センサー部を構成する静電容量センサーのうち、静電チャック23に対する吸着又は静電チャック23からの剥離が最終的に行われる位置に配置され基板10の吸着完了及び基板10の剥離完了のそれぞれを検出する、第2センサーS2及び第3センサーS3を、基板10の一端と他端をそれぞれ支持する支持部212、212内に埋設したことを特徴とする。基板10の中央部での吸着状態を検知する第1センサーS1は、第2実施形態と同様に、静電チャックプレート部31内に埋設する。静電容量センサーにより構成される第1センサーS1~第3センサーS3の詳細構成及び第1センサーS1~第3センサーS3によって基板の吸着及び剥離の進行状態と吸着及び剥離の完了を検出し確認する方法は、上記第1,2実施形態と同様であるため、説明は省略する。
【0062】
第3実施形態のように、基板吸着/剥離検知センサー部の一部を、静電チャックプレート部31の内部ではなく、支持部211、212に埋設することによって、基板10の吸着及び剥離を正確に確認するとともに、静電チャックの吸着面に設けられるセンサーの数を少なくすることができるため、静電チャック23の吸着力の低下をより一層抑制することができる。
【0063】
以上、本発明による基板吸着/剥離検知センサー部を第1~3実施形態の構成を通じて説明したが、本発明の範疇を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、第1実施形態では、距離検知センサーを基板の下部に配置することを説明したが、静電チャックプレート部の上部に配置することにしてもよく、第1実施形態の距離検知センサーと、第2及び第3実施形態の静電容量センサーとを組み合わせて使用することも可能である。さらには、第1~第3センサーの各センサーの検知時間差を計測し、これを吸着/剥離完了の検出の基礎として活用することも可能である。
【0064】
<成膜プロセス>
以下、本実施例の基板吸着方法を採用した成膜方法について
図8を参照して説明する。
真空チャンバー20内のマスク台22にマスク221が置かれた状態で、搬送室13の搬送ロボット14によって成膜装置2の真空チャンバー20内に基板が搬入される(
図8(a))。真空チャンバー20内に進入した搬送ロボット14のハンドが降下し、基板10を基板支持台21の支持部211、212上に載置する(
図8(b))。続いで、静電チャック23が基板10に向かって降下し、基板10に十分に近接し、又は接触した後に、静電チャック23に吸着電圧を印加し、基板10を吸着して保持する(
図8(c))。本実施例によれば、静電チャック23への基板の吸着状態を吸着検知センサーによって正確に確認できるので、基板10が静電チャック23に完全に吸着されていない状態で基板10の移動が行われることが抑制され、基板10の破損を抑制することができる。
【0065】
静電チャック23に基板10が保持された状態で、基板のマスクに対する相対的な位置ずれを計測するために、基板10をマスク221に向かって下降させる(
図8(d))。基板10が計測位置まで下降すると、アライメント用カメラで基板10とマスク221に形成されたアライメントマークを撮影して、基板とマスクの相対的な位置ずれを計測する(
図8(e)参照)。計測の結果、基板のマスクに対する相対的位置ずれが閾値を超えると判定されれば、静電チャック23に保持された状態の基板10を水平方向(XYθ方向)に移動させて、基板をマスクに対して、位置調整(アライメント)する(
図8(f)参照)。このようなアラインメント工程後、静電チャック23に保持された基板10をマスク221上に載置し、マグネット24を降下させて、マグネット24のマスクに対する磁力によって基板とマスクとを密着させる(
図8(g))。続いて、蒸着源25のシャッタを開け、蒸着材料をマスクを介して基板10に蒸着させる(
図8(h))。基板上に所望の厚さの膜が成膜されると、蒸着源25のシャッタを閉じ、成膜工程を終了する。
【0066】
成膜工程が終了すると、マグネット24が上昇して、マスクと基板の密着が解除される(
図8(i))。続いて、静電チャック23と基板支持台21の上昇により、基板がマスクから分離されて上昇する(
図8(j))。続いて、搬送ロボットのハンドが成膜装置の真空チャンバー内に進入し、静電チャック23には離脱電圧が印加され、静電チャック23から基板が剥離し、基板が剥離した静電チャック23は上昇する(
図8(k))。本実施例によれば、この基板剥離の過程においても、基板吸着/剥離検知センサーによって基板の吸着状態を正確に確認できるため、基板10が静電チャック23から完全に剥離されていない状態で静電チャック23などが上昇することが抑制され、基板が破損することを抑制することができる。この後、蒸着が完了した基板を真空チャンバー20から搬出する。
【0067】
本実施例においては、基板の静電チャック23からの剥離工程が、基板とマスクの密着が解除されて基板がマスクから分離された後に行われる例を説明したが、実施の形態はこれに限定されず、例えば、位置調整された基板がマスク上に載置されてマグネット24が下降して基板とマスクが互いに密着した段階以降であり、成膜工程が開始される前に静電チャック23に離脱電圧である第2電圧を印加してもよい。これは基板がマスク上に載置された状態であり、マグネット24による磁力によって基板とマスクが密着した状態に維持されるからである。
【0068】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施例の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成を示し、有機EL表示装置の製造方法を例示する。
【0069】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図9(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図9(b)は1画素の断面構造を表している。
【0070】
図9(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例に係る有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組み合わせにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0071】
図9(b)は、
図9(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、複数の発光素子からなり、各発光素子は、基板63上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極64は、発光素子毎に分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bで共通に形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0072】
図9(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67は一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によっては、正孔ブロック層や電子ブロック層を備える複数の層で形成されてもよい。また、第1電極64と正孔輸送層65との間には第1電極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極68と電子輸送層67の間にも電子注入層が形成することもできる。
【0073】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極64が形成された基板63を準備する。
【0074】
第1電極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0075】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、基板支持台及び静電チャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0076】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、基板支持台及び静電チャックで保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0077】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0078】
電子輸送層67まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて第2電極68を成膜する。
【0079】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0080】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0081】
上記の実施例は本発明の一例を示したものであるが、本発明は上記の実施例の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適切に変形してもよい。
【符号の説明】
【0082】
21:基板支持台
22:マスク台
23:静電チャック
24:マグネット
31:静電チャックプレート部
32:給電端子部
211:第1支持部
212:第2支持部
231:第1吸着領域
232:第2吸着領域
233:第3吸着領域
311から319:電極部
321、322:給電端子
3111:プラス電極
3112:マイナス電極
S1:第1センサー
S2:第2センサー
S3:第3センサー