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特許6990771ポリエチレン樹脂の物性予測方法およびポリエチレン樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ポリエチレン樹脂の物性予測方法およびポリエチレン樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/44 20060101AFI20220104BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20220104BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G01N33/44
C08F8/00
C08J3/24 Z CES
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020531733
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 KR2019010791
(87)【国際公開番号】W WO2020096182
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2020-06-10
(31)【優先権主張番号】10-2018-0134670
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、スン-ウォン
(72)【発明者】
【氏名】チュ、ウン-チョン
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-101462(JP,A)
【文献】特表2016-503101(JP,A)
【文献】特表2003-502457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0289378(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106986956(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/44,
C08F 8/00,
C08J 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1反応器でエチレンを重合して低密度ポリエチレン樹脂を形成、過酸化物系架橋剤の存在下で、第2反応器で前記低密度ポリエチレン樹脂を架橋反応させて低密度架橋ポリエチレン樹脂を製造する製造工程における低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率を予測する方法であって、
前記第1反応器の重合ピーク温度Tと、前記第2反応器に対する過酸化物系架橋剤の投入比率Y1(重量%)により、前記低密度ポリエチレン樹脂が前記架橋剤を吸収する比率Y2(重量%)を測定する段階;
前記測定および収集されたデータを基盤として、下記数式1により線形回帰してAおよびBの定数を決定する段階;および
前記AおよびBの定数が決定された数式1の線形回帰式により、低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程で前記低密度ポリエチレン樹脂が前記架橋剤を吸収する比率Y2(重量%)を予測する段階を含む低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率を予測する方法:
【数1】
前記数式1で、Y1(重量%)は(第2反応器に投入された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂)の投入比率(重量%)であり、Y2(重量%)は(第2反応器で低密度ポリエチレン樹脂に吸収された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂)の架橋剤吸収比率(重量%)であり、Tは第1反応器の重合ピーク温度(℃)であり、A、Bは線形回帰分析を通じて決定される定数である。
【請求項2】
前記エチレンの重合は、炭素数3以上のオレフィン系分子量調節剤の存在下で進行される、請求項1に記載の低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率を予測する方法。
【請求項3】
前記分子量調節剤は、プロピレンを含む、請求項2に記載の低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率を予測する方法。
【請求項4】
前記第1反応器に供給されるオレフィン系分子量調節剤の投入比率Rm(ただし、Rm=「第1反応器に投入された分子量調節剤/第1反応器に投入されたエチレン」の投入重量比率を示す。)により、複数の区間に区分し、複数の区間により、前記数式1の線形回帰式を別々に決定する、請求項2または3に記載の低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率を予測する方法。
【請求項5】
前記Rmが0.0148未満である第1区間、前記Rmが0.0148以上0.0150未満である第2区間、前記Rmが0.0150以上である第3区間に区分され、
各区間別に前記数式1の線形回帰式が(Y1-Y2)=A+0.0056T(ただし、各区間別にAの値は互いに異なる。)で決定される、請求項4に記載の低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率を予測する方法。
【請求項6】
前記過酸化物系架橋剤は、ジクミルペルオキシド(dicumyl peroxide)を含む、請求項1~5のいずれかに記載の低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率予測する方法。
【請求項7】
前記エチレンの重合は、150乃至320℃の温度および2200bar以上の圧力下で進行される、請求項1~6のいずれかに記載の低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率を予測する方法。
【請求項8】
前記第1反応器の重合ピーク温度Tは、290乃至320℃である、請求項1~7のいずれかに記載の低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率を予測する方法。
【請求項9】
前記架橋反応段階は、110乃至210℃の温度下で進行され、前記Y1(重量%)は1.5乃至2.0重量%である、請求項1~8のいずれかに記載の低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率を予測する方法。
【請求項10】
第1反応器でエチレンを重合して低密度ポリエチレン樹脂を形成し、過酸化物系架橋剤の存在下で、第2反応器で前記低密度ポリエチレン樹脂を架橋反応させて低密度架橋ポリエチレン樹脂を製造する低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造方法であって、
最終製造される低密度架橋ポリエチレン樹脂の前記架橋剤の目標吸収比率を決定する段階;および
前記架橋剤の目標吸収比率を基盤として、請求項1~9のいずれかに記載低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤の吸収比率を予測する方法を通じて、低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程条件を決定して、低密度架橋ポリエチレン樹脂を製造する段階を含み、
前記低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程条件は、前記第1反応器の重合ピーク温度、および第2反応器に投入された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂で表される架橋剤比率を含む、低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造方法。
【請求項11】
記低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程条件は、さらに分子量調節剤の投入比率を含む、請求項10に記載の低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造方法。
【請求項12】
電線製造用低密度架橋ポリエチレン樹脂を製造するために適用される、請求項10または11に記載の低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は、2018年11月5日付韓国特許出願第10-2018-0134670号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み含まれる。
【0002】
本発明は、低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造過程で、適切な架橋剤投入比率およびこれから達成される前記ポリエチレン樹脂の物性を信頼性のあるように予測できるポリエチレン樹脂の物性予測方法およびこれを適用したポリエチレン樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電線製造用などで使用される低密度架橋ポリエチレン樹脂は、一般にエチレン単量体を150℃以上の温度および2200bar以上の圧力下で、高圧重圧して低密度ポリエチレン樹脂を得た後、ジクミルペルオキシドなどの過酸化物系架橋剤の存在下で前記低密度ポリエチレン樹脂を架橋することによって製造され得る。
【0004】
このような低密度架橋ポリエチレン樹脂は、基本的な架橋前の低密度ポリエチレン樹脂の物性だけでなく、これに対する架橋程度によりその物性が左右され、これによって、前記架橋剤の投入量や、低密度ポリエチレン樹脂がこのような架橋剤を吸収する比率が最終低密度架橋ポリエチレン樹脂の物性に大きい影響を与え得る。これによって、以前から前記低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程においては架橋剤の投入量およびその吸収程度が重要な工程因子の一つとして認識されている。
【0005】
そこで、従前は最終低密度架橋ポリエチレン樹脂またはこれから製造される電線被覆などの目標物性により、架橋剤の投入量を調節して添加し、最終樹脂の製造後、その物性を確認する方法を適用した。
【0006】
しかし、以前はこのような方法により架橋剤の投入量を調節しても、架橋前のポリエチレン樹脂自体の物性や、他の工程因子の変更および/または調節により前記低密度ポリエチレン樹脂の架橋剤吸収比率が大きい偏差を示す場合が多かった。その結果、架橋剤の投入量を調節しても、最終低密度架橋ポリエチレン樹脂の目標物性と偏差を示す場合が多く、架橋剤の投入量による最終樹脂の目標物性達成可否を正確に予測し難い場合が多かった。そのために、架橋剤の投入量により架橋剤の吸収比率などを正確に予測して最終低密度架橋ポリエチレン樹脂の物性を信頼性のあるように予測できる物性予測方法が継続して要請されてきており、これを適用して架橋剤の投入量を目標物性により制御できる方法の開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造過程で、架橋剤投入比率から架橋剤吸収比率およびこれから達成される前記ポリエチレン樹脂の物性を信頼性のあるように予測できるポリエチレン樹脂の物性予測方法を提供することにある。
【0008】
本発明はまた、前記物性予測方法を適用することによって、架橋剤の投入比率および工程条件を制御して低密度架橋ポリエチレン樹脂の目標物性を容易に達成できるポリエチレン樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1反応器でエチレンを重合して低密度ポリエチレン樹脂を形成する段階と、過酸化物系架橋剤の存在下で、第2反応器で前記低密度ポリエチレン樹脂を架橋反応させる段階とを含む低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造方法において、
前記第1反応器のピーク温度Tと、前記第2反応器に対する過酸化物系架橋剤の投入比率Y1(重量%)により、前記低密度ポリエチレン樹脂が前記架橋剤を吸収する比率Y2(重量%)を測定する段階;
前記測定および収集されたデータを基盤として、下記数式1により線形回帰してAおよびBの定数を決定する段階;および
前記AおよびBの定数が決定された数式1の線形回帰式により、低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程で前記低密度ポリエチレン樹脂が前記架橋剤を吸収する比率Y2(重量%)を予測する段階を含むポリエチレン樹脂の物性予測方法を提供する。
【0010】
【数1】
【0011】
前記数式1で、Y1(重量%)は(第2反応器に投入された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂)の投入比率(重量%)であり、Y2(重量%)は(第2反応器で低密度ポリエチレン樹脂に吸収された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂)の架橋剤吸収比率(重量%)であり、Tは第1反応器の重合ピーク温度(℃)であり、A、Bは線形回帰分析を通じて決定される定数である。
【0012】
本発明はまた、最終製造される低密度架橋ポリエチレン樹脂の目標物性を決定する段階;
前記目標物性を得るために、前記低密度ポリエチレン樹脂の前記架橋剤の目標吸収比率を決定する段階;および
前記架橋剤の目標吸収比率を基盤として、前記物性予測方法を通じて、低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程条件を決定して、低密度架橋ポリエチレン樹脂を製造する段階を含むポリエチレン樹脂の製造方法を提供する。
【0013】
以下、発明の実施形態によるポリエチレン樹脂の物性予測方法および製造方法について具体的に説明する。
【0014】
発明の一実施形態によれば、第1反応器でエチレンを重合して低密度ポリエチレン樹脂を形成する段階と、過酸化物系架橋剤の存在下で、第2反応器で前記低密度ポリエチレン樹脂を架橋反応させる段階とを含む低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造方法において、
前記第1反応器のピーク温度Tと、前記第2反応器に対する過酸化物系架橋剤の投入比率Y1(重量%)により、前記低密度ポリエチレン樹脂が前記架橋剤を吸収する比率Y2(重量%)を測定する段階;
前記測定および収集されたデータを基盤として、下記数式1により線形回帰してAおよびBの定数を決定する段階;および
前記AおよびBの定数が決定された数式1の線形回帰式により、低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程で前記低密度ポリエチレン樹脂が前記架橋剤を吸収する比率Y2(重量%)を予測する段階を含むポリエチレン樹脂の物性予測方法が提供される。
【0015】
【数2】
【0016】
前記数式1で、Y1(重量%)は(第2反応器に投入された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂)の投入比率(重量%)であり、Y2(重量%)は(第2反応器で低密度ポリエチレン樹脂に吸収された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂)の架橋剤吸収比率(重量%)であり、Tは第1反応器の重合ピーク温度(℃)であり、A、Bは線形回帰分析を通じて決定される定数である。
【0017】
電線製造用などで適用される低密度架橋ポリエチレン樹脂は、一般に第1反応器でエチレンを重合して低密度ポリエチレン樹脂を形成し、前記第1反応器と連結された第2反応器で、過酸化物系架橋剤の存在下で、前記低密度ポリエチレン樹脂を架橋させることによって製造され得る。
【0018】
本発明者らは、このような低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程を多年間にわたり行いながら、多様な工程因子を制御して、前記第2反応器に対する架橋剤投入比率により低密度ポリエチレン樹脂が前記架橋剤を如何なる比率で吸収するのかに対して、数多くの工程データを蓄積して研究を継続してきた。
【0019】
このような継続的な研究結果、前記架橋剤の投入比率Y1(重量%)と、前記架橋剤の吸収比率Y2(重量%)との偏差は、重合段階が進行される第1反応器のピーク温度Tとほぼ線形比例関係にあることを見出して発明を完成した。その技術的原理は次のとおりに予測され得る。
【0020】
一般に、重合段階での重合温度が高くなれば、これによる熱エネルギーにより高分子主鎖の切断が増加することがある。これによって、前記第1反応器のピーク温度Tが高くなる場合、重合段階で形成される低密度ポリエチレン樹脂は、より短い長さの高分子鎖を相対的に多く含み、このような短鎖高分子は架橋剤の吸収および架橋程度が高くないとみられる。したがって、前記ピーク温度Tが高くなる場合、前記架橋剤の投入比率Y1(重量%)が高くても、その吸収比率(重量%)が低くなって前記(Y1-Y2)の偏差が大きくなることがある。その結果、このような偏差は第1反応器のピーク温度Tとほぼ比例関係を示すことができるようになる。
【0021】
このような研究結果に基づき、一実施形態の方法では、まず、前記TおよびY1を含む反応条件を変化させながら、前記第1および第2反応器での低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程データを収集することができる。特に、このような各工程条件下で、低密度ポリエチレン樹脂が架橋剤を吸収する比率Y2を測定して、一実施形態の方法で物性予測の基礎になるロー(raw)データを収集することができる。このような架橋剤の吸収比率Y2は、例えば、MDR(moving die rheometer、MDR200E)を利用して測定することができる。より具体的に、このようなMDRを利用して、測定サンプルで架橋が進行されることによるトルク(torque)の変化を測定し、既に架橋剤の吸収比率を知っている基準サンプルのトルク(torque)変化との差を比較して、前記測定サンプルの架橋剤吸収比率を換算/測定することができる。
【0022】
このようなロー(raw)データから、他の工程条件が同一である場合、第1反応器のピーク温度Tおよび架橋剤の投入比率Y1により、架橋剤の吸収比率Y2が如何に変化するのかに対するデータを収集することができ、このようなデータを当業者によく知られたデータ回帰分析(regression model)方法を通じて前記数式1の1次関数の形態に線形回帰することができる。このような線形回帰結果から前記A、Bの定数を決定して、最終製造される低密度架橋ポリエチレン樹脂の物性予測などのための数式1の物性予測式を決定することができる。
【0023】
このような物性予測式が決定された後は、これを基盤として以降の低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程条件を決定することができる。つまり、実際適用される工程上の前記ピーク温度Tなどを考慮して、前記物性予測式に代入すると、最終達成しなければならない架橋剤吸収比率Y2を得るための架橋剤投入比率Y1を決定することができる。これによって、実際の工程で、目標とする架橋剤吸収比率Y2をより容易に予測および達成することができ、結果的に低密度架橋ポリエチレン樹脂の目標物性をより信頼性のあるように予測し、実際の工程で容易に達成することができる。
【0024】
実際に、後述する実施例でも立証されるように、前記数式1の物性予測式により予測された(Y1-Y2)の偏差値と、実際の工程データから測定された(Y1-Y2)の偏差値とはほとんど差がないことを確認し、これによって一実施形態の方法で工程上製造されるポリエチレン樹脂の架橋剤吸収比率および物性が非常に信頼性のあるように予測され得ることが確認された。
【0025】
一方、前記一実施形態の方法により物性が予測される低密度架橋ポリエチレン樹脂は、よく知られた電線製造用ポリエチレン樹脂の製造方法により製造され得る。
【0026】
まず、前記第1反応器での重合段階は、ラジカル重合により進行されてもよく、請求項1において、前記重合段階は、150乃至320℃、あるいは200乃至300℃の温度および2200bar以上、あるいは2200乃至3000barの圧力下で高圧ラジカル重合工程で進行されてもよい。この時、前記第1反応器のピーク温度Tは、290乃至320℃、あるいは295乃至310℃の範囲内で調節されてもよい。
【0027】
また、このような重合反応は、酸素および有機過酸化物を含む反応開始剤の存在下で進行されてもよい。そして、前記重合段階は、炭素数3以上、あるいは炭素数3乃至5のオレフィン系分子量系調節剤、例えば、プロピレンの存在下で進行されてもよい。
【0028】
前述した重合反応を通じて、低密度ポリエチレン樹脂が形成されてもよく、このような低密度ポリエチレン樹脂は、例えば、0.900乃至0.945g/cm3、あるいは0.915乃至0.935g/cm3の密度を有することができる。
【0029】
一方、前記第1反応器での重合反応を進行した後は、前記第1反応器と連結された第2反応器で、重合で形成された低密度ポリエチレン樹脂を過酸化物系架橋剤と架橋反応させて最終低密度架橋ポリエチレン樹脂を得ることができる。
【0030】
このような架橋反応段階で、前記過酸化物系架橋剤は、ジクミルペルオキシド(dicumyl peroxide)など、以前から架橋ポリエチレン樹脂を製造することに適用されていた過酸化物を特別な制限なしに用いることができる。
【0031】
そして、前記架橋反応段階は、110乃至210℃、あるいは140乃至190℃の温度下で進行されてもよく、前記架橋剤の投入比率Y1(重量%)は、1.5乃至2.0重量%、あるいは1.7乃至1.8重量%の範囲内で調節されてもよい。
【0032】
つまり、前述した条件下で進行される低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程において、一実施形態の方法で数式1の物性予測式を得た後、これを適用して架橋工程での架橋剤吸収比率Y2を信頼性のあるように予測することができ、これから架橋剤投入比率Y1を決定して工程を進行することができる。したがって、所望する架橋剤吸収比率Y2およびこれから達成される低密度架橋ポリエチレン樹脂の目標物性をより容易かつ効果的に達成することができるようになる。
【0033】
一方、前述した一実施形態の方法では、前記第1反応器に供給されるオレフィン系分子量調節剤の投入比率Rm(ただし、Rm=「第1反応器に投入された分子量調節剤/第1反応器に投入されたエチレン」の投入重量比率を示す。)により、複数の区間に区分し、このように区分された複数の区間別に、前記数式1の線形回帰式を別々に決定することができる。
【0034】
これは本発明者らの研究結果により、前述した第1反応器のピーク温度Tだけでなく、前記オレフィン系分子量調節剤の投入比率Rmにより、前記架橋剤の投入比率Y1(重量%)と、前記架橋剤の吸収比率Y2(重量%)との偏差が相当な部分変わることが確認されたためである。その技術的原理は次のとおりに予測され得る。
【0035】
一般に架橋剤は、高分子から水素を引き抜いてラジカルを生成することで架橋反応を開始し、前記オレフィン系分子量調節剤の投入比率が増加すれば低密度ポリエチレン樹脂がより多い短鎖分枝(short chain branching)を有する傾向がある。しかし、このような短鎖分枝でラジカルが生成される傾向がより高いため、オレフィン系分子量調節剤の投入比率が増加すれば、架橋剤の反応程度、つまり、低密度ポリエチレン樹脂の吸収比率がより高くなる。
【0036】
その結果、前記オレフィン系分子量調節剤の投入比率が増加すれば、前記架橋剤の投入比率Y1(重量%)が相対的に低くても、その吸収比率(重量%)が高くなって前記(Y1-Y2)の偏差が小さくなることがある。したがって、このような偏差は、前記オレフィン系分子量調節剤の投入比率により比較的大きい影響を受けることができる。
【0037】
したがって、このような投入比率区間別に前記数式1の物性予測式を個々に設定すれば、当該条件下で架橋剤の投入比率や、第1反応器のピーク温度などの工程条件による架橋剤の吸収比率および最終低密度架橋ポリエチレン樹脂の物性をより信頼性のあるように予測することができる。
【0038】
より具体的な一実施例において、前記オレフィン系分子量調節剤の投入比率Rmが0.0148未満である第1区間、前記Rmが0.0148以上0.0150未満である第2区間、前記Rmが0.0150以上である第3区間に区分して数式1を別々に設定することによって、前記架橋剤の吸収比率および最終低密度架橋ポリエチレン樹脂の物性をより信頼性のあるように予測できることが確認された。
【0039】
また、このような3つの区間では、前記数式1の線形回帰式が(Y1-Y2)=A+0.0056T(ただし、各区間別にAの値は互いに異なる。)で決定され得ることが確認された。
【0040】
前述のように、一実施形態の物性予測方法によれば、電線製造用などで適用される低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程において、架橋剤の投入比率や、第1反応器のピーク温度などの工程条件による架橋剤の吸収比率および最終低密度架橋ポリエチレン樹脂の物性が非常に信頼性のあるように予測され得る。
【0041】
そこで、発明の他の実施形態によれば、前記物性予測方法が適用されたポリエチレン樹脂の製造方法が提供される。このような他の実施形態のポリエチレン樹脂の製造方法は、最終製造される低密度架橋ポリエチレン樹脂の目標物性を決定する段階;
前記目標物性を得るために、前記低密度ポリエチレン樹脂の前記架橋剤の目標吸収比率を決定する段階;および
前記架橋剤の目標吸収比率を基盤として、前記一実施形態の物性予測方法を通じて、低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造工程条件を決定して、低密度架橋ポリエチレン樹脂を製造する段階を含むことができる。
【0042】
このような製造方法では、低密度架橋ポリエチレン樹脂の目標物性およびこれを達成するための適切な架橋剤の目標吸収比率を考慮して、前記一実施形態の物性予測方法で決定された数式1に代入することによって、適切な工程条件、例えば、第1反応器の重合ピーク温度、分子量調節剤の投入比率および架橋剤の投入比率などを決定することができる。
【0043】
これによって、所望する目標物性を有する低密度架橋ポリエチレン樹脂をより容易かつ効果的に得ることができ、これを電線被覆製造用などで好適に適用することができる。
【0044】
前述した他の実施形態の製造方法において、前記一実施形態の物性予測方法で工程条件を決定すること以外は、一般的な電線製造用低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造方法に従うことができるため、これについての追加的な説明は省略する。
【発明の効果】
【0045】
本発明は、低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造過程で、架橋剤投入比率から架橋剤吸収比率およびこれから達成される前記ポリエチレン樹脂の物性を信頼性のあるように予測できるポリエチレン樹脂の物性予測方法を提供することができる。
本発明はまた、前記物性予測方法を適用することによって、架橋剤の投入比率および工程条件を制御して低密度架橋ポリエチレン樹脂の目標物性を容易に達成できるポリエチレン樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の理解のために好適な実施例が提示される。しかし、下記の実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明をこれらだけに限定するものではない。
【0047】
(製造例:数式1の決定のための低密度架橋ポリエチレン樹脂の製造)
1年間にわたって、次の条件および方法下で次の条件および方法で低密度架橋ポリエチレン樹脂を製造して、そのデータを収集した。
【0048】
まず、このような製造過程は、第1および第2反応器が連結された連続反応器で進行した。まず、第1反応器に酸素および有機過酸化物(成分名:tert-ブチルペルオキシドピバレート;TBPP)の反応開始剤と、プロピレンのオレフィン系分子量調節剤を供給し、これと共にエチレン気体を供給しながら、重合反応を進行した。このような重合反応は、250乃至320℃の温度および2200乃至2500barの圧力範囲内で、反応条件を調節しながら多様に進行した。このような重合温度の調節により、第1反応器のピーク温度Tは295乃至320℃の範囲内で調節された。また、前記分子量調節剤の投入比率Rm(ただし、Rm=「第1反応器に投入された分子量調節剤/第1反応器に投入されたエチレン」の投入重量比率を示す。)は、0超過0.02以下の範囲内で調節しながら進行した。
【0049】
このような重合反応によって、低密度ポリエチレン樹脂を得た後、これを第2反応器に移送して、架橋反応を進行した。このような架橋反応の進行をためにジクミルペルオキシドの過酸化物系架橋剤を用いており、前記架橋反応段階は、140乃至190℃の温度範囲内で調節しながら多様に進行した。また、前記架橋剤の投入比率Y1(重量%)(第2反応器に投入された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂)は、1.5乃至2.0重量%の範囲内で調節しながら多様に進行した。
【0050】
このような条件および方法下で、それぞれの工程で低密度架橋ポリエチレン樹脂を製造した後は、第1反応器で製造された低密度ポリエチレン樹脂が前記架橋剤を吸収する比率Y2(重量%)(第2反応器で低密度ポリエチレン樹脂に吸収された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂)を測定して確認した。
【0051】
このような架橋剤吸収比率Y2(重量%)は、MDR(moving die rheometer、MDR200E)を利用して測定した。より具体的に、このようなMDRを利用して、測定サンプル(最終製造された低密度架橋ポリエチレン樹脂)で架橋が進行されることによるトルク(torque)の変化を測定し、既に架橋剤の吸収比率を知っている基準サンプルのトルク(torque)変化との差を比較して、前記測定サンプルの架橋剤吸収比率を換算/測定した。
【0052】
前記のように得られた工程条件データおよびY2の測定データを基盤として、前記第1反応器のピーク温度Tと、前記第2反応器に対する過酸化物系架橋剤の投入比率Y1(重量%)と、前記低密度ポリエチレン樹脂が前記架橋剤を吸収する比率Y2(重量%)の関係式を下記数式1の形態に線形回帰して決定し、これによってA、Bの定数を決定した。
【0053】
【数3】
【0054】
前記数式1で、Y1(重量%)は(第2反応器に投入された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂)の投入比率(重量%)であり、Y2(重量%)は(第2反応器で低密度ポリエチレン樹脂に吸収された過酸化物系架橋剤/第2反応器に投入された低密度ポリエチレン樹脂)の架橋剤吸収比率(重量%)であり、Tは第1反応器の重合ピーク温度(℃)であり、A、Bは線形回帰分析を通じて決定される定数である。
【0055】
前記線形回帰分析および数式1の決定においては、前記Rmが0.0148未満である第1区間、前記Rmが0.0148以上0.0150未満である第2区間、前記Rmが0.0150以上である第3区間に区分して、各区間別に前記数式1の線形回帰式を別々に設定した。
【0056】
このような分析結果、第1乃至第3区間に対して、下記表1に整理された数式1の物性予測式が導出された。
【0057】
【表1】
【0058】
(実施例1乃至5:架橋剤吸収比率予測結果の信頼性評価)
製造例と同一の条件および方法で低密度架橋ポリエチレン樹脂を製造するが、分子量調節剤の投入比率Rm、第1反応器の温度、架橋剤の投入比率Y1およびピーク温度Tを下記表2のとおりにし、当該条件下で低密度架橋ポリエチレン樹脂を製造した。このような製造過程で得られた低密度架橋ポリエチレン樹脂に対して、架橋剤の吸収比率Y2を製造例と同様な方法で測定して下記表2に示した。このような実際の製造工程および測定データを基盤としてY1-Y2の実際測定データを算出して下記表2に示した。
【0059】
このような実際測定データとの比較のために、前記Y1およびTを前記製造例で設定された区間別物性予測式に代入して前記Y1-Y2の予測値を算出し、これを下記表2に共に示した。
【0060】
【表2】
【0061】
前記表2から確認されるように、製造例で導出された物性予測式から算出された予測値と、実際工程進行による実際値とは実質的に同一であることが確認された。これから一実施形態の物性予測方法を適用して、架橋剤の吸収比率を信頼性のあるように予測できることが確認された。