(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】窒化物結晶基板
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20220127BHJP
【FI】
C30B29/38 D
(21)【出願番号】P 2017164405
(22)【出願日】2017-08-29
(62)【分割の表示】P 2017531644の分割
【原出願日】2017-03-01
【審査請求日】2019-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2016044829
(32)【優先日】2016-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 丈洋
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真佐知
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-001432(JP,A)
【文献】特開2012-036012(JP,A)
【文献】特開2009-280482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が100mm以上の窒化物結晶からなる窒化物結晶基板であって、
主面に、連続する高転位密度領域と、前記高転位密度領域によって区分けされる複数の低転位密度領域と、を有するとともに、
前記主面は極性反転区を含まず、
前記高転位密度領域の存在を目視できず、かつ、前記高転位密度領域の不純物濃度が前記低転位密度領域の不純物濃度よりも高くな
くそれぞれの間で差が生じない構成を有する
窒化物結晶基板。
【請求項2】
前記窒化物結晶は、気相成長によりエピタキシャル成長されたものであり、
前記複数の低転位密度領域は、それぞれが100mm
2以上の面積を有する
請求項1に記載の窒化物結晶基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物結晶基板に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子や高速トランジスタ等の半導体デバイスを作製する際、例えば窒化ガリウム等の窒化物結晶からなる基板(以下、窒化物結晶基板)が用いられる。窒化物結晶基板は、サファイア基板やそれを用いて作製した結晶成長用基板上に、窒化物結晶を成長させる工程を経ることで製造することができる。近年、直径が例えば2インチを超えるような大径の窒化物結晶基板を得るため、結晶成長用基板を大径化させるニーズが高まっている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、結晶成長用基板を大径化させ、これを用いて製造される良質な窒化物結晶基板に関する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
直径が100mm以上の窒化物結晶からなる窒化物結晶基板であって、
主面に、連続する高転位密度領域と、前記高転位密度領域によって区分けされる複数の低転位密度領域と、を有するとともに、
前記主面は極性反転区を含まない
窒化物結晶基板が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、大径化のニーズに対応しつつ、良質な窒化物結晶基板を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(a)は種結晶基板10を作製する際に用いられる小径種基板5の平面図であり、(b)は小径種基板5の裏面に凹溝を形成する様子を示す断面図であり、(c)は凹溝に沿って小径種基板5を劈開させてその周縁部を除去する様子を示す模式図であり、(d)は小径種基板5の周縁部を除去することで得られた種結晶基板10の平面図であり、(e)は種結晶基板10の側面図である。
【
図2】(a)は複数の種結晶基板10が保持板12上に接着されてなる組み立て基板13の一例を示す平面図であり、(b)は
図2(a)に示す組み立て基板13のB-B’断面図である。
【
図3】(a)は複数の種結晶基板10が保持板12上に接着されてなる組み立て基板13の変形例を示す平面図であり、(b)は
図3(a)に示す組み立て基板13のB-B’断面図である。
【
図4】(a)は複数の種結晶基板10が保持板12上に接着されてなる組み立て基板13の変形例を示す平面図であり、(b)は
図4(a)に示す組み立て基板13のB-B’断面図である。
【
図5】結晶膜14,21を成長させる際に用いられる気相成長装置200の概略図である。
【
図6】(a)は種結晶基板10上に結晶膜14を成長させた様子を示す模式図であり、(b)は種結晶基板10が接合されてなる結晶成長用基板20を自立させる様子を示す模式図であり、(c)は裏面洗浄後の結晶成長用基板20の模式図である。
【
図7】(a)は結晶成長用基板20上に結晶膜21を厚く成長させた様子を示す模式図であり、(b)は厚く成長させた結晶膜21をスライスすることで複数枚の窒化物結晶基板30を取得する様子を示す模式図である。
【
図8】(a)は種結晶基板10上に結晶膜14を厚く成長させた様子を示す断面構成図であり、(b)は厚く成長させた結晶膜14をスライスすることで複数枚の結晶成長用基板30を取得する様子を示す模式図である。
【
図9】結晶成長用基板20およびこれを用いて作製した窒化物結晶基板30の平面構成を例示する模式図である。
【
図10】複数の種結晶基板が接合されてなる結晶成長用基板の一構成例を示す写真である。
【
図11】(a)は結晶成長方法の比較例を示す模式図であり、(b)は結晶成長方法の他の比較例を示す模式図であり、(c)は結晶成長方法のさらに他の比較例を示す模式図である。
【
図12】(a)(b)はそれぞれ、結晶成長用基板の比較例を示す模式図である。
【
図13】窒化物結晶基板30の高転位密度領域31についてのCL法による転位密度測定の一例を示す説明図である。
【
図14】窒化物結晶基板30の低転位密度領域32についてのCL法による転位密度測定の一例を示す説明図である。
【
図15】高転位密度領域31および低転位密度領域32のそれぞれについて基板上の位置と転位密度との関係の一例を示す説明図である。
【
図16】基板上の位置と転位密度との関係の比較例を示す説明図である。
【
図17】高転位密度領域31および低転位密度領域32のそれぞれについてラマン分光法を利用した歪み状態の検出を行う場合の評価点の一例を示す説明図である。
【
図18】高転位密度領域31および低転位密度領域32における各評価点で得られたラマンスペクトルを重ね書きした結果の一例を示す説明図である。
【
図19】高転位密度領域31および低転位密度領域32における各評価点で得られたE
2モードのシフトピークを平面的にマッピングした結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0009】
(1)窒化物結晶基板の製造方法
本実施形態では、以下に示すステップ1~5を実施することで、窒化物結晶基板として、窒化ガリウム(GaN)の結晶からなる結晶基板(以下、GaN基板ともいう)を製造する例について説明する。
【0010】
(ステップ1:種結晶基板の用意)
本実施形態では、GaN基板を製造する際、
図2(a)に平面視を例示するような円板状の外形を有する結晶成長用基板20(以下、基板20とも称する)を用いる。そこで本ステップでは、まず、基板20を構成する種結晶基板10(以下、基板10とも称する)を作製する際に用いられるベース材料として、
図1(a)に実線で外形を示すようなGaN結晶からなる小径種基板(結晶基板、材料基板)5(以下、基板5とも称する)を複数枚用意する。基板5は、作製しようとする基板10よりも大きな外径を有する円形の基板であって、例えば、サファイア基板等の下地基板上にGaN結晶をエピタキシャル成長させ、成長させた結晶を下地基板から切り出してその表面を研磨すること等により作製することができる。GaN結晶は、気相成長法や液相成長法を問わず、公知の手法を用いて成長させることができる。現在の技術水準では、直径2インチ程度のものであれば、その主面(結晶成長の下地面)内におけるオフ角のばらつき、すなわち、オフ角の最大値と最小値との差が、例えば0.3°以内と比較的小さく、また、欠陥密度や不純物濃度の少ない良質な基板を、比較的安価に得ることができる。ここでオフ角とは、基板5の主面の法線方向と、基板5を構成するGaN結晶の主軸方向(主面に最も近い低指数面の法線方向)と、のなす角をいう。
【0011】
本実施形態では、一例として、直径が2インチ程度であって、厚さが0.2~1.0mmである基板を、基板5として用いる場合について説明する。また、本実施形態では、基板5の主面すなわち結晶成長面が、GaN結晶のc面に対して平行であるか、或いは、この面に対して±5°以内、好ましくは±1°以内の傾斜を有するような基板を、基板5として用いる場合について説明する。また、本実施形態では、複数の基板5を用意する際、それぞれの基板5の主面内におけるオフ角のばらつき(オフ角の最大値と最小値との差)が0.3°以内、好ましくは0.15°以内であり、かつ、複数の基板5間におけるオフ角のばらつき(オフ角の最大値と最小値との差)が0.3°以内、好ましくは0.15°以内であるような基板群を、複数の基板5として用いる例について説明する。
【0012】
なお、本明細書で用いる「c面」という用語は、GaN結晶の+c面、すなわち、(0001)面に対して完全に平行な面だけでなく、上述のように、この面に対してある程度の傾斜を有する面を含み得る。この点は、本明細書において「a面」、「M面」という用語を用いる場合も同様である。すなわち、本明細書で用いる「a面」という用語は、GaN結晶のa面、すなわち、(11-20)面に対して完全に平行な面だけでなく、この面に対して上記と同様の傾斜を有する面を含み得る。また、本明細書で用いる「M面」という用語は、GaN結晶のM面、すなわち、(10-10)面に対して完全に平行な面だけでなく、この面に対して上記と同様の傾斜を有する面を含み得る。
【0013】
基板5を用意したら、
図1(b)に示すように、結晶成長面(+c面)の反対側の面である裏面(-c面)に凹溝、すなわちスクライブ溝を形成する。凹溝は、例えば、レーザ加工法や機械加工法のような公知の手法を用いて形成することが可能である。凹溝を形成した後、
図1(c)に示すように、凹溝に沿って基板5を劈開させてその周縁部を除去することで、基板10が得られる。
図1(d)に、基板10の平面構成を示す。
【0014】
基板10の平面形状は、基板10を同一平面上に複数並べた場合に、これらを平面充填させること、すなわち、隙間なく敷き詰めることが可能な形状とするのが好ましい。また、本実施形態のように基板10の主面(結晶成長面)を+c面とする場合、後述する理由から、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と当接する全ての面、すなわち、他の基板10の側面と対向する(向かい合う)全ての面をM面又はa面とし、かつ、互いに同一方位の面(等価な面)とするのが好ましい。例えば、本実施形態のように基板10の主面(結晶成長面)をc面とする場合、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する全ての面をa面とすることが考えられる。
【0015】
GaN結晶は六方晶系の結晶構造を有することから、上述の要求を満たすようにするには、少なくとも基板20の周縁部(円弧部)以外の部分を構成する基板10の平面形状を、正三角形、平行四辺形(内角60°および120°)、台形(内角60°および120°)、正六角形、および、平行六辺形のうちいずれかの形状とするのが好ましい。基板10の平面形状を正方形や長方形とすると、基板10の側面のうちいずれかの面をa面とした場合に、その面に直交する側面が必然的にM面となってしまい、それぞれが同一方位の面とはならない。また、基板10の平面形状を円形や楕円形とすると、平面充填させることができず、また、基板10の側面をM面又はa面で、かつ、互いに同一方位の面とすることは不可能となる。
【0016】
なお、上述した数種類の形状のうち、少なくとも基板20の周縁部以外の部分を構成する基板10の平面形状は、
図1(d)に示すように正六角形とするのが特に好ましい。この場合、平面形状が円形である基板5から、基板10を、最大限の大きさで効率よく取得、すなわち、材料取りすることが可能となる。また、後述するステップ2において基板10を同一平面上に平面充填させる際、その配列はハニカムパターンを構成することになり、複数の基板10は、平面視において相互に噛み合わさるように配列することになる。これにより、配列させた複数の基板10に対して面内方向に沿って外力が加わったとき、その方向によらず、基板10の配列ずれを抑制することが可能となる。これに対し、基板10の平面形状を、正三角形、平行四辺形、台形、正方形、長方形等とした場合には、基板10の平面形状を正六角形とする場合に比べ、特定の方向からの外力の影響を受けやすくなり、基板10の配列ずれが生じやすくなる。本実施形態では、基板10の平面形状を正六角形とする場合について説明している。なお、基板20の周縁部を構成する基板10の平面形状は、
図2(a)に示すように、正六角形の一部を、円板状の基板20の外周に沿うように円弧状に切り出した形状となる。基板20の周縁部を構成する基板10、すなわち、小面積の基板10については、1枚の基板5から、1枚以上、好ましくは2枚以上を一緒に取得することが好ましい。1枚の基板5から複数枚の基板10を取得する場合、基板5の無駄を少なくすることができ、また、基板10の品質を揃えやすくなる点で、好ましい。
【0017】
基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する全ての面をM面又はa面とすれば、「M面又はa面」以外の面である場合に比べて、以下の点で好ましいものとなる。
例えば、全ての面をM面とすれば、基板10の加工精度を高めることができる。これは、GaN結晶の取り得る面方位のうち、M面については、単位面積あたりの結合手密度が小さい(原子間の結合が弱い)等の理由により、劈開させることが容易となるからである。
また、例えば、全ての面をa面とすれば、他の側面と対向する接合部分の再破壊が生じ難くなり、基板10の精度を高く維持し得るようになる。これは、GaN結晶の取り得る面方位のうち、a面については、単位面積あたりの結合手密度がM面における結合手密度よりも大きい(原子間の結合が強い)等の理由による。ただし、このことは、劈開させることが比較的困難となる要因にもなり得る。この点に関して、本実施形態では、上述したように基板5の裏面に凹溝(スクライブ溝)を形成してから劈開作業を行うこととしている。これにより、基板5を、M面以外の劈開性の弱い面(劈開しにくい面)方位で正確に劈開させることが可能となる。
図1(e)に、上述の手法で得られた基板10の側面構成図を示す。
図1(e)に示すように、基板10の側面には、基板5の裏面に凹溝を形成することで生じた融解面(レーザ加工面)或いは切削面(機械加工面)と、凹溝に沿って基板5を劈開させることで生じた劈開面と、が形成される。ここでいう融解面とは、例えば、結晶が一度融けた後に急激に固化することで形成されたアモルファス面等を含む面のことである。また、ここでいう切削面とは、例えば、裂開面等を含む面粗さ(粗さ)の比較的大きな面、すなわち粗い面(非鏡面)のことである。
【0018】
なお、凹溝は、あくまで、基板5を劈開させる際の制御性を高めるために設けるものである。そのため、凹溝を形成する際は、基板5を完全に切断(フルカット)してしまうことがないよう、その深さを調整する必要がある。凹溝の深さは、基板5の厚さTに対して60%以上90%以下の範囲内の深さとするのが好ましい。凹溝の深さが基板5の厚さTに対して60%未満の深さとなると、劈開性の高いM面に沿って基板5が割れてしまうなど、所望の劈開面を得ることが困難となる場合がある。凹溝の深さを、基板5の厚さTに対して60%以上の深さとすることで、M面以外の面方位、例えばa面に沿って劈開を成功させる等、所望の劈開面を得ることが可能となる。また、凹溝の深さを、基板5の厚さTに対して90%を超える深さとすると、劈開面の面積が過小となることで基板10間の接合強度が不足し、基板20を自立させることが困難となる場合がある。凹溝の深さを、基板5の厚さTに対して90%以下の深さとすることで、劈開面の面積を充分に確保でき、基板10間の接合強度を高めることが可能となる。
【0019】
なお、発明者等の鋭意研究によれば、凹溝を用いた基板5の劈開は、直線部だけでなく、円弧部においても実施可能であることが分かっている。そのため、複数の基板10のうち、基板20の周縁部(円弧部)を構成する基板10を取得する際、それらの全ての側面(直線状および円弧状の側面)を、凹溝を利用した劈開作業により形成するのが好ましい。このようにした場合、基板20上に成長させる結晶膜の品質を、その面内全域にわたり、すなわち、周縁部においても向上させることが可能となる。
【0020】
劈開位置を正確に制御するため、凹溝の断面形状は、
図1(b)に示すようなV字状(開口部が広いテーパー状)の断面形状とするのが好ましい。なお、凹溝の開口幅については特に制限はないが、例えば0.2~1.8mmが例示される。このように溝の寸法や形状を制御することで、基板5を劈開させる際の制御性を高めつつ、基板5を劈開させた際に形成される劈開面の幅(厚さ方向における幅)を充分に確保することが可能となる。これにより、後述するステップ3において隣接する基板10の接合強度を高めたり、基板10の接合部周辺に成長する結晶膜の品質を向上させたりすることが可能となる。
【0021】
上述の加工を施すと、基板5の切粉が大量に発生して基板10に付着し、そのままでは後述の結晶成長に悪影響を及ぼす場合がある。そこで、切粉を除去する洗浄処理を行う。その手法としては、例えば、塩化水素(HCl)と過酸化水素水(H2O2)とを1対1で混合して得た薬液を用いたバブリング洗浄が挙げられる。
【0022】
(ステップ2:種結晶基板の配置)
基板10を複数枚取得したら、ステップ2を行う。本ステップでは、GaN結晶からなる複数の基板10を、それらの主面が互いに平行となり、それらの側面が互いに対向(当接)するように、すなわち、隣接する基板10の側面同士が対向(当接)するように、平面状に、また円形状に配置(平面充填)する。
【0023】
図2(a)は、基板10の配列パターンの一例を示す平面図である。本実施形態のように、平面形状が正六角形である基板10を用いる場合、基板10が平面充填されることでハニカムパターン(蜂の巣パターン)が構成される。複数の基板10のうち、少なくとも基板20の周縁部以外の部分を構成する基板は、平面形状が正六角形である主面を有することとなる。本図に示すように、基板10の主面を組み合わせたハニカムパターンは、基板20の主面の中心を通りこの主面に直交する軸を中心軸として基板20を一回転させたとき、2回以上、本例では6回の回転対称性を有するように配置される。
【0024】
なお、この図に示すように、配列させた複数の基板10の中から任意に選択された基板10は、少なくとも2つ以上の他の基板10と対向するように構成されていることが分かる。また、基板10の側面は、互いに直交しないように構成されていることも分かる。これらの事象は、基板10の平面形状として例えば正六角形、正三角形、平行四辺形、台形を選択し、複数の基板10を、この図に示すように略円形に(一方向だけでなく多方向に)平面充填させた場合に得られる固有のものであるといえる。また、この図に示すように、複数の基板10は、平面視において相互に噛み合って(組み合って)おり、ステップ3やその後の工程において、基板10の配列ずれが生じにくくなるように配置されていることも分かる。この事象は、基板10の平面形状を正六角形とし、複数の基板10を、この図に示すように略円形に平面充填させた場合に得られる固有のものであるといえる。
【0025】
なお、ここでいう「複数の基板10をそれらの主面が互いに平行となるように配置する」とは、隣接する基板10の主面同士が、完全に同一平面上に配置される場合だけでなく、これらの面の高さに僅かな差がある場合や、これらの面が互いに僅かな傾きを持って配置される場合を含むものとする。すなわち、複数の基板10を、これらの主面がなるべく同じ高さとなり、また、なるべく平行となるように配置することを意味する。但し、隣接する基板10の主面の高さに差がある場合であっても、その大きさは、最も大きい場合で例えば100μm以下、好ましくは50μm以下とするのが望ましい。また、隣接する基板10の主面間に傾きが生じた場合であっても、その大きさは、最も大きい面で例えば1°以下、好ましくは0.5°以下とするのが望ましい。また、複数の基板10を配置する際は、これらを配列させることで得られる基板群の主面内におけるオフ角のばらつき(全主面内におけるオフ角の最大値と最小値との差)を、例えば0.3°以内、好ましくは0.15°以内とするのが望ましい。これらが大きすぎると、後述するステップ3,5(結晶成長工程)で成長させる結晶の品質が低下する場合があるためである。
【0026】
また、ここでいう「複数の基板10をそれらの側面が互いに対向するように配置する」とは、複数の基板10を、これらの側面間になるべく隙間が生じないように近接して対向させて配置することを意味する。すなわち、隣接する基板10の側面同士が、完全に、すなわち、隙間なく接触する場合だけでなく、これらの間に僅かな隙間が存在する場合も含むものとする。但し、隣接する基板10の側面間に隙間が生じた場合であっても、室温条件におけるその大きさは、最も大きい場所で例えば100μm以下、好ましくは50μm以下とするのが望ましい。隙間が大きすぎると、後述するステップ3(結晶成長工程)を実施した際に、隣接する基板10間が接合しなかったり、接合したとしてもその強度が不足したりする場合があるためである。また、ステップ3を実施した後における隣接する基板10間の接合強度を高めるため、隣接する基板10を、それらの側面のうち少なくとも劈開面が当接するように配置することが好ましい。
【0027】
なお、ステップ3における取り扱いを容易とするため、複数の基板10は、例えば、平板として構成された保持板(支持板)12上に固定するのが好ましい。
図2(b)に、複数枚の基板10が接着剤11を介して保持板12上に接着されてなる組み立て基板13の断面構成を示す。本図に示すように、基板10は、その主面(結晶成長面)が上面となるように保持板12上に、接着剤11からなる層を介して設置される。言い換えると、基板10と保持板12との間には、接着剤11からなる層が設けられている。
【0028】
保持板12の材料としては、後述するステップ3(結晶成長工程)での成膜温度、成膜雰囲気に耐えられる耐熱性、耐蝕性を有し、また、基板10やステップ3で形成するGaN結晶膜14を構成する結晶と、同等或いはそれより小さい線膨張係数を有する材料を用いることが好ましい。保持板12の材料としてこのような材料を用いることで、ステップ3において基板10間に隙間が形成されたり、基板10間に形成された隙間が広がったりしてしまうことを抑制できるようになる。ここでいう線膨張係数とは、基板10の主面(c面)に平行な方向、すなわち、基板10を構成するGaN結晶のa軸方向における線膨張係数をいう。GaN結晶のa軸方向における線膨張係数は5.59×10-6/Kである。線膨張係数がこれらに比べて同等もしくは小さく、安価で入手が容易であり、ある程度の剛性を示す材料としては、例えば、等方性黒鉛、異方性黒鉛(パイロリティックグラファイト(以下、PGとも略す)等)、シリコン(Si)、石英、炭化珪素(SiC)などが挙げられる。また、後述する理由から、これらの中でも、表層が剥離しやすいPGを特に好ましく用いることができる。また、等方性黒鉛、Si、石英、SiCなどの平板基材の表面を、PG等の剥離しやすく耐蝕性に優れた材料により被覆(コーティング)してなる複合材料を、好適に用いることもできる。
【0029】
接着剤11の材料としては、ステップ3での成膜温度よりも遙かに低い温度条件下にて所定時間保持されることで固化するような材料、例えば、常温~300℃の範囲内の温度条件下で数分~数十時間乾燥させることで固化するような材料を好適に用いることができる。接着剤11の材料としてこのような材料を用いることで、接着剤11を固化させるまでの間、保持板12上に配置された基板10の位置、高さ、傾き等をそれぞれ微調整することが可能となる。例えば、基板10の主面に高さの差がある場合や、基板10の主面間に傾きがある場合には、平坦であることが予め確認されたガラス板等を、保持板12上に配置された複数の基板10の主面群に対して押し当てるようにすることで、複数の基板10の高さや傾きを、それらの主面が互いに平行となるように微調整することが可能となる。また、ステップ3を開始する前の比較的低温条件下にて接着剤11の固化(基板10の固定)を完了させることができ、これにより、基板10の位置ずれが抑制された状態でステップ3を開始することが可能となる。これらの結果、ステップ3で成長させるGaN結晶膜14の品質を向上させ、基板10間の接合強度を高めることが可能となる。また、基板10の接着作業を例えば手作業でも実施することが可能となり、接着作業の簡便性を著しく向上させ、接着作業に要する設備を簡便にすることが可能となる。
【0030】
また、接着剤11の材料としては、後述するステップ3(結晶成長工程)での成膜温度、成膜雰囲気に耐えられる耐熱性、耐蝕性を有する材料を用いることが好ましい。接着剤11の材料としてこのような材料を用いることで、ステップ3における昇温中に接着剤11が熱分解等し、基板10の固定が解除されることを回避できるようになる。また、基板10の固定が不充分のままGaN膜14が成長することで最終的に得られる基板20に反りが生じることを回避できるようになる。また、接着剤11の熱分解による成長雰囲気の汚染を回避することができ、これにより、GaN膜14の品質低下や基板10間の接合強度の低下を防ぐことが可能となる。
【0031】
また、接着剤11の材料としては、基板10やステップ3で成長させるGaN膜14を構成する結晶と近い線膨張係数を有する材料を用いることが好ましい。なお、「線膨張係数が近い」とは、接着剤11の線膨張係数と、GaN結晶膜14を構成する結晶の線膨張係数と、が実質的に同等であること、例えば、これらの差が10%以内であることを意味する。接着剤11の材料としてこのような材料を用いることで、後述するステップ3を行う際、接着剤の線膨張係数差に起因して基板10の面内方向に加わる応力を緩和させることができ、基板10に反りやクラック等が生じることを回避することが可能となる。
【0032】
これらの要件を満たす接着剤11の材料としては、例えば、耐熱性(耐火性)セラミックスと無機ポリマとを主成分とする耐熱性無機接着剤を用いることができ、特に、ジルコニアやシリカ等を主成分とする材料を好ましく用いることができる。このような接着剤としては、例えば、市販のアロンセラミックC剤やE剤(アロンセラミックは東亞合成株式会社の登録商標)が挙げられる。これらの接着剤は、例えば常温~300℃の範囲内の温度で乾燥させて固化させることにより、1100~1200℃の高温に耐える硬化物を形成し、ステップ3での成膜雰囲気に対して高い耐蝕性を有するとともに、基板10の位置ずれなどを生じさせない高い接着強度を示すことを確認済みである。また、基板10上に成長させる結晶に影響を及ぼさないことも確認済みである。また、固化する前の段階で、常温下において例えば40000~80000mPa・s程度の適正な粘性を示すことから、保持板12上への基板10の仮留めや位置合わせ等を行う際に、非常に好適であることも確認済みである。
【0033】
基板10を保持板12上に接着する際は、接着剤11が基板10の主面側に回り込んではみ出ることのないよう、基板10の少なくとも周縁部を除く領域、例えば周縁部から所定幅離れた領域であって、好ましくは中央付近にのみ接着剤11を塗布するのが好ましい。接着剤11が主面側に回り込むと、その回り込んだ箇所及びその周辺において、GaN結晶膜14の品質が著しく劣化したり、GaN結晶膜14の成長が妨げられたりする場合がある。なお、接着剤11の回り込みを防ぐような構造を、保持板12の表面に設けるようにしてもよい。例えば、基板10の周縁部の下方に位置する保持板12の表面に凹溝を形成し、基板10を接着する際に余分となった接着剤11をこの凹溝内へ逃がすことにより、基板10の主面側への接着剤11の回り込みを抑制することが可能となる。
【0034】
なお、保持板12の線膨張係数と基板10の線膨張係数との間に差がある場合、特に、これらの差が大きい場合、基板10の裏面側に塗布する接着剤11の量を「極少量」に制限するのが好ましい。というのも、ステップ3を実施することで、保持板12上に配置された隣接する基板10は互いに接合された状態となる。複数の基板10を一体化(合体)させて基板20を得た後は、基板20および保持板12を、成膜温度から、例えば常温付近にまで降温させることになる。保持板12および基板10の線膨張係数に上述の差がある場合、これらの部材の熱収縮量の差に起因して、基板20の面内方向に、引張応力或いは圧縮応力が加わることになる。線膨張係数の差によっては、基板20の面内方向に大きな応力が加わり、基板20を構成する基板10や接合部にクラック等を生じさせる場合がある。このような課題に対し、発明者は、接着剤11の量を適正に制限することが非常に有効であるとの知見を得ている。接着剤11の量を適正に制限することで、基板20の面内方向に上述の応力が加わったとき、固化した接着剤11を適正なタイミングで破断させたり、固着させた接着剤11を基板10或いは保持板12から剥離させたりすることができ、これにより、基板10の破損等を回避することが可能となるのである。従って、ここで用いる「極少量」という文言は、少なくともステップ3を進行させるにあたり保持板12上への基板10の固定および位置ずれをそれぞれ防止することが可能な量であって、かつ、上述の線膨張係数差に起因して降温時の基板20に対して応力が加わったとき、固化した状態の接着剤11が破断或いは剥離することで基板10等の破損を回避することが可能となるような、所定の幅を持ちうる量を意味している。
【0035】
また、保持板12の線膨張係数と基板10の線膨張係数との間に差がない場合であっても、或いは、これらの差が非常に小さい場合であっても、接着剤11の線膨張係数と基板10の線膨張係数との間に差がある場合、特に、これらの差が大きい場合には、接着剤11の量を上述の「極少量」とするのが好ましい。これにより、接着剤11と基板10との線膨張係数差に起因して基板10の面内方向に加わる応力を緩和させることができ、基板10に反りやクラック等が生じることを回避することが可能となる。
【0036】
なお、接着剤11の量を極小量に制限する場合、接着剤11は、基板10の中心部に塗布するのが好ましい。接着剤11を基板10の中心部に塗布する方が、基板10の中心部以外の領域に塗布するよりも、基板10の姿勢を調整したり、それを維持したりすることが容易となる。また、接着剤11の主面側への回り込みもより確実に防止できるようになる。また、保持板12上に接着された各基板10は、後述するステップ3等で昇降温される際、接着剤11により接着された箇所を基点として周囲方向に膨張或いは収縮することになる。この場合、接着剤11を基板10の中心部に接着することにより、隣接する基板10間の隙間を基板20面内で均等なものとすることが可能となる。また、隣接する基板10間に隙間が存在しない場合においては、隣接する基板10の側面(当接面)に加わる応力の分布を、基板20面内で均等なものとすることが可能となる。但し、ここで用いる「基板10の中心部」という文言は、必ずしも基板10の幾何学的な中心に限らず、基板10の幾何学的な中心を含む領域、或いは、幾何学的中心を含まないがその近傍の領域を意味している。
【0037】
接着剤11を介して保持板12上に基板10を配置し、接着剤11を固化させることで、組立基板13の作製が完了する。なお、接着剤11の固化が、複数の基板10の主面が互いに平行となり、また、隣接する基板10の側面が当接した状態で完了するように、接着剤11が固化するまでの間、必要に応じて、基板10の位置、傾き、高さをそれぞれ調整するのが好ましい。なお、接着剤11の固化は、ステップ3の開始前に完了させておくのが好ましい。このようにすることで、後述するHVPE装置200への組立基板13の投入および結晶成長のそれぞれを、複数の基板10の位置ずれが抑制された状態で行うことが可能となる。
【0038】
なお、この組立基板13を、すなわち、後述するGaN膜14を成長させる前の状態の組立基板13を、本実施形態における基板20の一態様として考えることもできる。すなわち、ここで得られた組立基板13の主面(結晶成長面)上に、ハイドライド気相成長(HVPE)法等を用いて後述するGaN結晶膜21(以下、GaN膜21とも称する)を厚く成長させ、この厚く成長させたGaN膜21をスライスすることにより、複数のGaN基板30を得るようにしてもよい。但し、後述するステップ3を実施し、複数の基板10間がGaN膜14によって接合されてなる自立可能な接合基板を作製し、これを基板20として用いる方が、基板10の位置ずれ等を確実に防止でき、その取り扱いが容易となる点から、好ましい。
【0039】
(ステップ3:結晶成長による接合)
接着剤11が固化し、組み立て基板13の作製が完了したら、
図5に示すハイドライド気相成長装置(HVPE装置)200を用い、平面状に配置させた複数の基板10の表面上に、第1結晶膜(接合用薄膜)としてのGaN結晶膜14を成長させる。
【0040】
HVPE装置200は、石英等の耐熱性材料からなり、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、組み立て基板13や基板20を保持するサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、回転自在に構成されている。気密容器203の一端には、成膜室201内へHClガス、窒化剤としてのアンモニア(NH3)ガス、窒素(N2)ガスを供給するガス供給管232a~232cが接続されている。ガス供給管232cには水素(H2)ガスを供給するガス供給管232dが接続されている。ガス供給管232a~232dには、上流側から順に、流量制御器241a~241d、バルブ243a~243dがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成された塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に保持された組み立て基板13等に向けて供給するノズル249aが接続されている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に保持された組み立て基板13等に向けて供給するノズル249b,249cがそれぞれ接続されている。気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230にはポンプ231が設けられている。気密容器203の外周にはガス生成器233a内やサセプタ208上に保持された組み立て基板13等を所望の温度に加熱するゾーンヒータ207が、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ209が、それぞれ設けられている。HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0041】
ステップ3は、上述のHVPE装置200を用い、例えば以下の処理手順で実施することができる。まず、ガス生成器233a内に原料としてGa多結晶を収容し、また、組み立て基板13を、気密容器203内へ投入(搬入)し、サセプタ208上に保持する。そして、成膜室201内の加熱および排気を実施しながら、成膜室201内へH
2ガス(あるいはH
2ガスとN
2ガスとの混合ガス)を供給する。そして、成膜室201内が所望の温度となり組み立て基板13が所望の成膜温度に到達するとともに、成膜室201内が所望の成膜圧力に到達したら、成膜室201内の雰囲気が所望の雰囲気に維持した状態で、ガス供給管232a,232bからガス供給を行い、組み立て基板13(基板10)の主面(表面)に対し、成膜ガスとしてGaClガスとNH
3ガスとを供給する。これにより、
図6(a)に断面図を示すように、基板10の表面上に、GaN結晶がエピタキシャル成長し、GaN結晶膜14が形成される。GaN結晶膜14が形成されることで、隣接する基板10は、GaN結晶膜14によって互いに接合され、一体化した状態となる。その結果、隣接する基板10が接合されてなる基板20が得られる。なお、成膜処理の過程での基板10を構成する結晶の分解を防止するため、NH
3ガスを、HClガスよりも先行して、例えば成膜室201内の加熱前から供給するのが好ましい。また、GaN結晶膜14の面内膜厚均一性を高め、隣接する基板10の接合強度を面内でむらなく向上させるため、ステップ3は、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
【0042】
ステップ3を実施する際の処理条件としては、以下が例示される。
成膜温度(組み立て基板13の温度):980~1100℃、好ましくは、1050~1100℃
成膜圧力(成膜室201内の圧力):90~105kPa、好ましくは、90~95kPa
GaClガスの分圧:1.5~15kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:2~6
N2ガスの分圧/H2ガスの分圧:1~20
【0043】
GaN結晶膜14の膜厚は、目的に応じ、所定の幅を有する膜厚帯から適宜選択することができ、例えば、基板20の外径をDcmとした場合に、3Dμm、好ましくは10Dμm以上の厚さとすることができる。GaN結晶膜14の膜厚が3Dμm未満であると、隣接する基板10の接合力が不足し、基板20の自立状態が維持できなくなり、その後のステップを進行させることが不可能となる。
【0044】
なお、GaN結晶膜14の膜厚について特に上限はないが、ここで行う結晶成長は、あくまでも複数の基板10を接合させて自立可能な状態とする目的に止めておくようにしてもよい。言い換えれば、GaN結晶膜14の膜厚は、後述するステップ4(保持板剥がし、洗浄)において、互いに接合された基板10からなる基板20を保持板12から取り外して洗浄等を行った状態であっても、隣接する基板10の接合状態、すなわち、基板20の自立状態が維持されるのに必要かつ最小の厚さに止めておくようにしてもよい。本実施形態のように、本格的な結晶成長工程としてステップ5を別途行うのであれば、ステップ3で成長させるGaN結晶膜14の膜厚を厚くしすぎると、成膜に用いる各種ガスの浪費や、GaN基板のトータルでの生産性低下を招いてしまう場合があるためである。このような観点から、GaN結晶膜14の膜厚は、例えば、基板20の外径をDcmとした場合に、100Dμm以下の厚さとしてもよい。
【0045】
これらのことから、本実施形態では、基板10の外径が2インチ、基板20の外径が6~8インチである場合、GaN結晶膜14の膜厚は、例えば450μm以上2mm以下、好ましくは150μm以上2mm以下の範囲内の厚さとすることができる。
【0046】
なお、GaN結晶膜14によって基板10を接合させる際、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する全ての面をM面又はa面とし、かつ、互いに同一方位の面とすることで、それらの接合強度を高めることが可能となる。GaN結晶膜14の膜厚を同一膜厚とする場合、隣接する基板10を「M面又はa面」以外の面同士で接合させた場合よりも、隣接する基板10をM面同士又はa面同士で接合させた場合、特にa面同士で接合させた場合の方が、基板10の接合強度を高めることが可能となる。
【0047】
(ステップ4:保持板剥がし、洗浄)
GaN結晶膜14の成長が完了し、隣接する基板10が互いに接合された状態となったら、成膜室201内へNH3ガス、N2ガスを供給し、成膜室201内を排気した状態で、ガス生成器233a内へのHClガスの供給、成膜室201内へのH2ガスの供給、ヒータ207による加熱をそれぞれ停止する。そして、成膜室201内の温度が500℃以下となったらNH3ガスの供給を停止し、その後、成膜室201内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させるとともに、成膜室201内を搬出可能な温度にまで低下させた後、成膜室201内から組み立て基板13を搬出する。
【0048】
その後、隣接する基板10が接合されてなる基板20を保持板12から引き剥がし、これらを分離させる(基板20を自立させる)。
【0049】
保持板12の材料として、例えばPGのような材料(基板10よりも表層が剥離しやすい材料)を用いた場合、
図6(b)に示すように、保持板12の表層が犠牲層(剥離層)12aとなって薄く剥がれることで、保持板12からの基板20の自立が容易に行われるようになる。また、保持板12の材料として、等方性黒鉛等からなる平板基材の表面をPG等によりコーティングしてなる複合材料を用いた場合にも、同様の効果が得られるようになる。なお、PGと比べて高価ではあるが、保持板12の材料として、パイロリティックボロンナイトライド(PBN)を用いた場合においても、同様の効果が得られる。また、保持板12の材料として、例えば等方性黒鉛、Si、石英、SiC等の材料、すなわち、表層を犠牲層として作用させることができない材料を用いた場合であっても、接着剤11の量を上述のように極少量とすれば、基板20の面内方向に上述の応力が加わったとき、固化した接着剤11を適正なタイミングで破断或いは剥離させることができる。これにより、保持板12からの基板20の自立が容易に行われるようになる。
【0050】
自立させた基板20の裏面(基板10の裏面)に付着している接着剤11および犠牲層12aは、フッ化水素(HF)水溶液等の洗浄剤を用いて除去する。これにより、
図6(c)に示すような自立状態の基板20が得られる。基板20は、その主面(GaN結晶膜14の表面)が結晶成長用の下地面として用いられ、100mm、さらには150mm(6インチ)を超える大径基板として、としてこの状態で市場に流通する場合がある。なお、基板20の裏面の研磨を実施するまでは、その洗浄を実施した後であっても、接着剤11や犠牲層12aの残留成分が付着した痕跡が、基板10の裏面に残る場合がある。
【0051】
(ステップ5:結晶成長、スライス)
本ステップでは、
図5に示すHVPE装置200を用い、ステップ3と同様の処理手順により、自立した状態の基板20の主面上に、第2結晶膜(本格成長膜)としてのGaN結晶膜21を成長させる。
図7(a)に、基板20の主面、すなわち、GaN結晶膜14の表面上に、気相成長法によりGaN結晶膜21が厚く形成された様子を示す。
【0052】
なお、本ステップの処理手順はステップ3とほぼ同様であるが、
図7(a)に示すように、本ステップは、自立可能に構成された基板20をサセプタ208上に直接載置した状態で行われる。すなわち、本ステップは、基板20とサセプタ208との間に、保持板12や接着剤11が存在しない状態で行われる。このため、サセプタ208と基板20との間の熱伝達が効率的に行われ、基板20の昇降温に要する時間を短縮させることが可能となる。また、基板20の裏面全体がサセプタ208に接触することから、基板20が、その面内全域にわたり均等に加熱されるようになる。結果として、基板20の主面、すなわち、結晶成長面における温度条件を、その面内全域にわたり均等なものとすることが可能となる。また、隣接する基板10が一体に接合した状態で加熱処理が行われることから、隣接する基板10間での直接的な熱伝達(熱交換)、すなわち、基板20内における熱伝導が速やかに行われることになる。結果として、結晶成長面における温度条件を、その面内全域にわたってより均等なものとすることが可能となる。すなわち、本ステップでは、自立可能に構成された基板20を用いて結晶成長を行うことから、結晶成長の生産性を高め、また、基板20上に成長させる結晶の面内均一性等を向上させることが可能となる。
【0053】
これに対し、
図11(a)に例示するように、保持板上に接着剤を介して複数の種結晶基板を並べて接着し後、その状態のまま、これら複数の種結晶基板上に結晶をそれぞれ成長させ、結晶成長を継続することで複数の結晶を一体化させるという代替手法も考えられる。すなわち、本願発明のような自立状態とするステップを経由せずに本格成長ステップを実施する手法も考えられる。しかしながら、この代替手法では、上述した種々の効果のうち、一部の効果が得られにくくなる場合がある。というのも、この手法では、サセプタから種結晶基板への熱伝達が、これらの間に介在する保持板や接着剤によって阻害されることがあり、本格成長ステップ等において、基板の加熱効率や冷却効率が低下しやすくなるという課題がある。また、この手法では、サセプタから基板へ向かう熱伝達の効率は、接着剤の塗布量や塗布位置などによって大きく影響を受けることから、この代替手法では、基板間における加熱効率や冷却効率が不揃いとなる(加熱効率や冷却効率の均一性が低下しやすくなる)といった課題もある。また、複数の種結晶基板を、隣接する種結晶基板間が離間した状態となるよう配置した場合(隣接する種結晶基板が一体に接合していない場合)、これら種結晶基板間での直接的な熱伝達(熱交換)が行われにくくなり、結果として、結晶成長面における温度条件が種結晶基板間で不揃いとなり、基板の面内温度均一性が低下しやすくなるといった課題もある。これらの結果、この代替手法では、本実施形態の手法に比べ、結晶成長の生産性が低下したり、最終的に得られる結晶の面内均一性が低下したりする場合がある。
【0054】
このように、自立可能に構成された基板20を用いる本実施形態の結晶成長の手法は、
図11(a)に例示されるような代替手法に比べ、生産性や品質の向上に非常に大きな利益をもたらすものといえる。なお、本実施形態では、自立可能に構成された基板20の加熱を、サセプタ208上に載置された基板支持部材等の冶具上に載置した状態で行ってもよい。この冶具の基板載置面は平坦に構成されていることが好ましい。この場合であっても、基板20とサセプタ208との間に接着剤11が存在しない状態で基板20の加熱が行われることから、
図11(a)に例示されるような代替手法に比べ、結晶成長の生産性や、最終的に得られる結晶の面内均一性を向上させることができる。
【0055】
また、接着剤の塗布量や塗布位置のばらつきを避けるため、
図11(b)に例示するように、保持板上に、接着層を一様な厚さで設け、その上に種結晶基板を平面配置するというさらなる代替手法も考えられる。しかしながら、この手法では、本格成長ステップで成長させる結晶への接着層による悪影響、例えば、接着層に含まれる成分の結晶中への拡散等を避けるため、接合部に彫り込み部を設けて接着層を除去したり、
図11(c)に例示するように接合部にマスクを設けて接着剤(接着層)の影響を遮断したりする必要が生じ、製造プロセスの複雑化やコスト増加を招いてしまう恐れがある。また、彫り込み部を設ける上述の手法では、熱伝導率の低い空隙が種結晶基板間に形成されることから、種結晶基板間での熱交換が行われにくくなり、種結晶基板間の温度均一性が低下しやすくなる。結果として、本格成長ステップで成長させる結晶への悪影響、例えば、結晶性や成長レート等の面内均一性低下を招く恐れもある。
【0056】
このように、自立可能に構成された基板20を用いる本実施形態の結晶成長の手法は、
図11(a)~(c)に例示されるような代替手法に比べ、生産性や品質の向上に非常に大きな利益をもたらすものといえる。
【0057】
なお、ステップ5における処理条件は、上述したステップ3における処理条件と同様の条件とすることもできるが、これと異ならせることもできる。というのも、ステップ3における成膜処理は、基板10の接合を主な目的として行うものである。そのため、ステップ3では、主面方向(c軸方向)に向けた成長よりも、主面(c面)に沿った方向(沿面方向)への成長を重視した条件下で結晶を成長させるのが好ましい。これに対し、ステップ5における成膜処理は、基板20上にGaN結晶膜21を高速かつ厚く成長させることを主な目的として行うものである。そのため、ステップ5では、沿面方向に向けた成長よりも、主面方向に向けた成長を重視した条件下で結晶を成長させるのが好ましい。
【0058】
上述の目的を達成する手法として、例えば、成膜室201内における雰囲気を、ステップ3とステップ5とで異ならせる手法がある。例えば、ステップ5での成膜室201内におけるH2ガスの分圧のN2ガスの分圧に対する比率(N2/H2)が、ステップ3での成膜室201内におけるH2ガスの分圧のN2ガスの分圧に対する比率(N2/H2)よりも小さくなるように設定する。これにより、ステップ3では沿面方向に向けた結晶成長が比較的活発となり、また、ステップ5では主面方向に向けた結晶成長が比較的活発となる。
【0059】
また、上述の目的を達成する他の手法として、例えば、成膜温度をステップ3とステップ5とで異ならせる手法がある。例えば、ステップ5における成膜温度が、ステップ3における成膜温度よりも低くなるように設定する。これにより、ステップ3では沿面方向に向けた結晶成長が比較的活発となり、また、ステップ5では主面方向に向けた結晶成長が比較的活発となる。
【0060】
また、上述の目的を達成するさらに他の手法として、例えば、NH3ガスの供給流量のGaClガスの供給流量に対する比率(NH3/GaCl)をステップ3とステップ5とで異ならせる手法がある。例えば、ステップ5におけるNH3/GaCl比率が、ステップ3におけるNH3/GaCl比率よりも大きくなるように設定する。これにより、ステップ3では沿面方向に向けた結晶成長が比較的活発となり、また、ステップ5では主面方向に向けた結晶成長が比較的活発となる。
【0061】
ステップ5を実施する際の処理条件としては、以下が例示される。
成膜温度(基板20の温度):980~1100℃
成膜圧力(成膜室201内の圧力):90~105kPa、好ましくは、90~95kPa
GaClガスの分圧:1.5~15kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:4~20
N2ガスの分圧/H2ガスの分圧:0~1
【0062】
所望の膜厚のGaN結晶膜21を成長させた後、ステップ3終了時と同様の処理手順により成膜処理を停止し、GaN結晶膜21が形成された基板20を成膜室201内から搬出する。その後、GaN結晶膜21をその成長面と平行にスライスすることにより、
図7(b)に示すように、円形状の外形を有するGaN基板30を1枚以上得ることができる。GaN基板30も、100mm以上、さらには150mm(6インチ)を超える大径の円形基板となる。なお、基板20とGaN結晶膜21との積層構造全体をGaN基板30と考えることもできる。また、GaN結晶膜21から基板20を切り出す場合には、切り出した基板20を用いてステップ5を再実施すること、すなわち、切り出した基板20を再利用することもできる。
【0063】
(2)窒化物結晶基板の構成
本実施形態では、上述したステップ1~5を実施することで、以下に説明する構成のGaN基板30を1枚以上得ることができる。
【0064】
(高転位密度領域・低転位密度領域)
GaN基板30は、基板10の接合部の影響を間接的に受けることで、転位密度が相対的に大きくなっている高転位密度領域、すなわち、強度や品質が相対的に低下している領域を有する場合がある。高転位密度領域は、GaN結晶膜21、すなわちGaN基板30における平均的な転位密度よりも大きな転位密度を有する領域、より具体的には平均的な転位密度の値よりも1桁程度大きな転位密度の値を有する領域のことである。このような高転位密度領域に対して、平均的な転位密度を有する領域については、以下、低転位密度領域という。なお、各領域の転位密度の値については、詳細を後述する。
高転位密度領域の存在は、表面に溝や段差が形成されることで目視できる場合もあるし、目視できない場合もある。目視できない場合であっても、後述するように例えば高転位密度領域の不純物濃度(特に酸素濃度)が高くなっていれば、紫外線照射を行う蛍光顕微鏡を用いて観察することで、その存在を確認することが可能である。また、目視できず、かつ、不純物濃度が高くなっていない場合であっても、例えば電子線を利用したカソードルミネッセンス(CL)法による検出を行うことで、その存在を確認することが可能である。
本実施形態のように基板10の主面を正六角形とした場合、GaN基板30が有する高転位密度領域は、
図9に網掛けで示すように、平面形状が正六角形である輪郭形状を組み合わせたハニカムパターンを構成する。
図9に示すように、高欠陥領域は、GaN基板30の主面上に連続するように形成されることで、GaN基板30の主面上に存在する低欠陥領域を区分けしているともいえる。また、このハニカムパターンは、GaN基板30の主面の中心を通りこの主面に直交する軸を中心軸として基板20を一回転させたとき、2回以上、本実施形態では6回の回転対称性を有しているともいえる。このハニカムパターンは、GaN結晶膜21の厚さや成膜条件等に応じ、その形状がぼやけたり(輪郭が滲んだり)、変形したりする場合がある。特に、GaN結晶膜21をスライスしてGaN基板30を複数枚取得する場合、GaN結晶膜21の表面側から取得したGaN基板30において、その傾向が強くなる。
【0065】
つまり、本実施形態のGaN基板30は、
図9に示すように、その主面(すなわち表面または裏面)に、連続する高転位密度領域31と、高転位密度領域31によって区分けされる複数の低転位密度領域32と、を有している。そして、高転位密度領域31は、平面形状が正六角形である輪郭形状を組み合わせたハニカムパターンを構成することとなる。
なお、
図9中には、高転位密度領域31の部分拡大図を示している(図中の吹き出し部分参照)。この部分拡大図においては、GaN基板30の主面に現れる転位の状態の一例を、実線および黒点によって模式的に示している。この部分拡大図から明らかなように、GaN基板30の主面には、低転位密度領域32における平均転位密度の値(例えば、5×10
6個/cm
2以下)よりも1桁程度大きな平均転位密度の値(例えば、1×10
7個/cm
2以上)を有する領域が、高転位密度領域31として、基板10の接合部に沿うように、ある程度の幅を持って存在しているのである。なお、ここでいう幅の大きさについては、特に限定されるものではなく、GaN基板30の主面における転位密度の分布状態に応じて適宜特定されることになる。高転位密度領域31における転位密度の分布状態については、詳細を後述する。
【0066】
このような構成のGaN基板30は、基板10を複数組み合わせて得られたものなので、大径化のニーズに容易かつ適切に対応し得るものとなる。具体的には、例えば直径が少なくとも100mm以上、より詳しくは例えば外径4~6インチ程度の大径化に、容易かつ適切に対応し得るものとなる。
【0067】
また、GaN基板30は、主面に高転位密度領域31を有しており、その高転位密度領域31の存在を、目視可能であれば目視により、また目視できない場合であっても高転位密度領域31の不純物濃度(特に酸素濃度)が高くなっていれば蛍光顕微鏡を用いた観察により、容易に確認することが可能である。このように、高転位密度領域31の存在を容易に確認可能であれば、高転位密度領域31と低転位密度領域32とが混在している場合であっても、高転位密度領域31をアンユーザブルエリア(非使用領域)とし、半導体デバイスを作製するためのユーザブルエリア(使用領域)として低転位密度領域32を選択的に使用する、といったことが実現可能であることを意味する。つまり、強度や品質が相対的に良好である領域を専ら使用して半導体デバイスを作製し得るようになる。
【0068】
しかも、高転位密度領域31の存在を容易に確認することが可能であれば、その高転位密度領域31の配置の規則性を利用することで、これによりGaN基板30の方向性についても判別することが可能となる。そのため、例えば、高転位密度領域31を利用することで、オリエンテーションフラットやノッチ等に因らずにGaN基板30の向きを判断し得るようになり、オリエンテーションフラットやノッチ等(すなわち切断・廃棄する部分)を不要にすることが実現可能となる。さらには、主面の全域にわたって高転位密度領域31が存在していることで、方向性の判別のみならず、より正確な位置合わせに利用することも可能となる。具体的には、例えば、アンユーザブルエリアである高転位密度領域31を利用して半導体デバイス作製のためのマスクアライメントを精度良く行う、といったことが考えられる。
【0069】
また、高転位密度領域31は、不純物濃度(特に酸素濃度)が高くなっていれば、蛍光顕微鏡を用いた観察により確認できる。その場合において、GaN基板30は、既に説明したように、基板20上に形成されたGaN結晶膜21をスライスすることにより得られるものであるが(例えば
図7(b)参照)、その際に放電加工を用いた場合、すなわちGaN基板30を放電加工によって切り出した場合には、酸素等の不純物が異常放電を誘発させ得るため、主面に高転位密度領域31が存在するという構成を顕在化させることができる。
【0070】
なお、高転位密度領域31の存在を目視できず、さらに不純物濃度に依拠した蛍光顕微鏡による観察でも確認できない場合であっても、例えばCL法による検出を行えば、その存在を確認可能であることは、既に説明した通りである。
【0071】
高転位密度領域31によって区分けされる各低転位密度領域32は、上述したように半導体デバイスを作製するための領域として使用され得ることから、それぞれが少なくとも1mm2以上の面積を有しているものとし、好適には4mm2以上、より好適には100mm2以上(例えば、10×10mm2以上)の面積を有していることが好ましい。4mm2以上の面積を有していれば、例えば作製しようとする半導体デバイスがパワーデバイス(電力用半導体素子)であっても、その一般的なチップサイズ(例えば2~3mm角程度)に対応し得るからであり、100mm2以上(例えば、10×10mm2以上)の面積を有していれば、最大と考えられるパワーデバイスのチップサイズ(例えば10mm角程度)にも十分に対応し得るからである。
【0072】
また、各低転位密度領域32については、半導体デバイスを作製するための領域として使用され得ることから、それぞれの表面における平均転位密度が5×106個/cm2以下、より好適には1×106個/cm2以下であることが好ましい。さらに、各低転位密度領域32については、それぞれにおける平均キャリア濃度が1×1018cm-3以上、より好適には2×1018cm-3~4×1018cm-3程度であることが好ましい。このような条件を満たすものであれば、各低転位密度領域32は、半導体デバイスを作製するための領域として、非常に高品質なものとなるからである。なお、平均キャリア濃度が4×1018cm-3を超えてしまうと結晶性の悪化を招き得るようになるので、この点でも平均キャリア濃度は上記範囲内であることが好ましい。
【0073】
ところで、GaN基板30は、複数の基板10を接合した後、その上にGaN結晶膜21を成長させることで得られたものであり、基板10の接合部の影響を間接的に受けることで品質等が相対的に低下している高転位密度領域31を有している。したがって、高転位密度領域31では、転位密度のみならず、不純物濃度についても、接合部の影響を間接的に受けていることがあり得る。具体的には、接合部の影響により、高転位密度領域31は、不純物濃度、特に酸素濃度が高くなっていることが考えられる。このことは、接合部の状態によっては、高転位密度領域31の不純物濃度、特に酸素濃度を、低転位密度領域32に比べて高くすることが可能になることを意味する。つまり、高転位密度領域31と低転位密度領域32とは、それぞれにおける平均不純物濃度(特に平均酸素濃度)に差があるものとすることができる。平均不純物濃度(特に平均酸素濃度)に差があれば、既に説明したように蛍光顕微鏡を用いて観察することで、高転位密度領域31の存在を容易に確認することが可能となる。ただし、高転位密度領域31と低転位密度領域32とは、必ずしも平均不純物濃度(特に平均酸素濃度)に差が生じている必要はなく、それぞれの間で差が生じないように構成されたものであってもよい。
【0074】
また、高転位密度領域31では、転位密度のみならず、GaN基板30を構成するGaN結晶の結晶方位の傾き(すなわちオフ角)についても、接合部の影響を間接的に受けていることが考えられる。具体的には、以下に述べるような影響が考えられる。
高転位密度領域31によって区切られる各低転位密度領域32は、それぞれの領域内に結晶方位分布を有している。結晶方位分布は、低転位密度領域32における結晶方位の傾き(オフ角)の分布のことをいうが、その分布の具体的態様については特に限定されるものではなく、領域内でオフ角の値が揃うようなものであってもよいし、オフ角の値が徐々に変動するようなものであってもよい。なお、ここでいうオフ角とは、GaN基板30の主面の法線方向と、GaN基板30を構成するGaN結晶の主軸方向(主面に最も近い低指数面の法線方向)と、のなす角をいう。
これに対して、高転位密度領域31は、低転位密度領域32よりも大きな転位密度を有している。つまり、高転位密度領域31には、低転位密度領域32よりも多くの転位が存在している。したがって、高転位密度領域31を挟んで隣り合う各低転位密度領域32同士については、これらの間に高転位密度領域31が介在することの影響により、結晶方位の分布(すなわちオフ角の値)の連続性が失われて不連続なものとなっていることが考えられる。
その一方で、高転位密度領域31を挟んで隣り合う各低転位密度領域32同士については、それぞれの結晶方位分布が不連続な場合であっても、結晶方位の傾き(オフ角)の差が例えば0.5°以内であるものとする。各低転位密度領域32におけるオフ角は、配列された複数の基板10の主面内におけるオフ角の影響を受けるが、各基板10のオフ角のばらつき(全主面内におけるオフ角の最大値と最小値との差)が、既に説明したように、例えば0.3°以内、好ましくは0.15°以内に抑えられているからである。また、隣り合う各低転位密度領域32のオフ角の差が0.5°を超えていると、高転位密度領域31が介在していても、これらの各領域が結合して1枚のGaN基板30を構成することが困難になり得るからである。
【0075】
なお、高転位密度領域31および低転位密度領域32は、それぞれの領域区分によらず、連続した平滑な表面を有しているものとする。つまり、転位密度等に相違があっても、それぞれの表面は、連続した平滑面となっている。GaN基板30は、既に説明したように、基板20上に形成されたGaN結晶膜21をスライスすることにより得られるものだからである。
【0076】
(極性反転区)
本実施形態のGaN基板30において、その主面は、高転位密度領域31と低転位密度領域32の別を問わず、極性反転区としてのインバージョンドメインを含まないものとなっている。インバージョンドメインとは、周囲の結晶とは極性が反転した領域を指す。
【0077】
ここで、GaNの極性について簡単に説明する。GaNの結晶構造は、c面に関して反転対称性を有さない。したがって、c軸方向について極性を有し、+c軸方向と-c軸方向とが区別され、+c軸方向の面がGa極性面またはGa面、-c軸方向の面がN極性面またはN面と呼ばれる。このような結晶構造が配列された場合には、一方の面がGa極性面となり、その反対側の面がN極性面となるが、例えばGa極性面中にN極性面が混在していると、そのN極性面が存在する領域がインバージョンドメインとなる。
【0078】
GaN結晶の成長において、例えば種結晶層としてのGaN薄膜上にSiO2等からなるマスクを形成した場合を考えると、マスクは極性を有さないので、そのマスク上にGaN結晶の核が発生したときに、この核の上に形成されるGaN結晶の極性を一定の方向に揃えるように制御することは困難である。したがって、かかる場合には、GaN結晶によって構成される基板の表面から裏面に至るようにインバージョンドメインが必然的に発生してしまうことになる。
【0079】
これに対して、本実施形態のGaN基板30においては、オフ角のばらつきを抑えた複数の基板10を配列してその上に基板20を形成し、さらに基板20上にGaN結晶膜21を形成し、そのGaN結晶膜21をスライスすることによりGaN基板30を得ている。つまり、GaN基板30を構成するGaN結晶については、その極性が一定の方向に揃うように制御されたものとなる。
【0080】
したがって、本実施形態のGaN基板30は、その主面にインバージョンドメインを含まないもの、すなわち当該GaN基板30を構成するGaN結晶の極性が一定の方向に揃ったものとなるのである。
【0081】
主面にインバージョンドメインを含まなければ、その主面は、半導体デバイスを作製するための領域として、非常に高品質なものとなる。例えば、インバージョンドメインが含まれていると、そのインバージョンドメインが存在する領域の上において異常成長が発生し得るが、インバージョンドメインを含まなければ、異常成長が発生するおそれを排除できるからである。
【0082】
このようなインバージョンドメインの有無は、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いた収束電子線回折(Convergent Beam Electron Diffraction:CBED)法を用いてGaN結晶表面の極性を判定することにより判断できる。
【0083】
(高転位密度領域の転位密度分布状態)
本実施形態のGaN基板30は、有限の領域である高転位密度領域31を有している。高転位密度領域31は、既に説明したように、低転位密度領域32よりも大きな平均転位密度の値を有する領域であり、例えばCL法による検出を行うことで存在を確認することが可能な領域である。
【0084】
ここで、高転位密度領域31における転位密度の分布状態について、CL法による検出結果の具体例を挙げつつ詳しく説明する。なお、CL法による検出は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)と組み合わされてなる公知のCL強度の空間マッピング描画装置を用いて行うことができる。
【0085】
高転位密度領域31についてのCL法による検出は、例えば、
図13に示すように行った。具体的には、高転位密度領域31を含むGaN基板30の面上につき、その高転位密度領域31を中心(位置:0μm)として低転位密度領域32にまで及ぶ範囲(位置:±60μm)を、単位面積S=5×10
-6cm
2の複数領域に区分けした。そして、それぞれの領域について、存在する転位の個数(単位:個)を計数し、その計数結果から各領域における転位密度(単位:×10
6cm
-2)を算出した。なお、各領域別の転位の個数および転位密度は図中に示している。
【0086】
また、参考のために、低転位密度領域32についても、CL法による検出を、例えば、
図14に示すように行った。具体的には、高転位密度領域31を含まないGaN基板30の面上につき、上述した低転位密度領域32の場合と同様に、複数領域に区分けした上で、それぞれの領域について、存在する転位の個数(単位:個)を計数し、その計数結果から各領域における転位密度(単位:×10
6cm
-2)を算出した。なお、各領域別の転位の個数および転位密度は図中に示している。
【0087】
図13および
図14に示した検出結果をまとめると、
図15に示すような転位密度の分布状態が得られる。
図15は、横軸を基板上位置(μm)とし、縦軸を転位密度(cm
-2)とする座標空間上に、
図13および
図14に示したCL法による検出結果をプロットしたものである。
【0088】
図15におけるプロット結果をフィッティングすると、低転位密度領域32については基板上位置によらず転位密度の値が略一定(フラット)な分布状態を示す一方で、高転位密度領域31については、その高転位密度領域31の中心位置付近で転位密度の値が極大(ピーク)となるカーブを描くような分布状態を示すことがわかる。さらに詳しくは、高転位密度領域31については、低転位密度領域32から高転位密度領域31に向けて転位密度の値が単調増加し、高転位密度領域31の中心位置付近で転位密度の値のピークを超えると、高転位密度領域31から低転位密度領域32に向けて転位密度の値が単調減少する、という分布状態を示す。
【0089】
つまり、本実施形態のGaN基板30は、主面に、高転位密度領域31と、その高転位密度領域31によって区分けされる複数の低転位密度領域32と、を有するとともに、その高転位密度領域31において、一方の低転位密度領域32の側から転位密度の値がピークに向けて単調増加し、高転位密度領域31の中心位置付近で転位密度の値のピークを超えると、他方の低転位密度領域32の側に向けて転位密度の値がピークから単調減少する、という転位密度の分布状態を有している。
【0090】
高転位密度領域31は有限の領域であるが、その外縁(すなわち、低転位密度領域32との境界)については、転位密度の値が単調増加または単調減少する分布状態に基づいて特定するようにしてもよい。
例えば、低転位密度領域32は、既に説明したように、半導体デバイスを作製するための領域として使用され得ることから、平均転位密度が5×106個/cm2以下、より好適には1×106個/cm2以下であることが好ましい。これに基づき、低転位密度領域32となり得る転位密度の閾値を設定した上で、転位密度の分布状態において閾値を超える部分を高転位密度領域31とすれば、有限の領域である高転位密度領域31の外縁を容易かつ的確に特定することができる。
このような外縁を有する低転位密度領域32は、ある程度の幅を持ってGaN基板30の主面上に存在することになるが、その領域幅が例えば50μm程度となる。
なお、転位密度の閾値設定は、上述の手法に限定されることはなく、例えば分布状態におけるピーク値の半値幅を用いるといったように、他の手法を用いて行っても構わない。
【0091】
これに対して、本実施形態のGaN基板30とは異なり、複数の種結晶基板をある程度のギャップ(隙間)を設けて配置した上に結晶膜を成長させて各種結晶基板を接合せしめることで得られる基板や、各種結晶基板同士の接合箇所にマスクを形成して接合せしめることで得られる基板等では、転位密度の分布状態がピークに向けた単調増加またはピークからの単調減少とはならず、
図16に示すように転位密度の値のピーク前後に転位が確認されない凹状の落ち込みが存在する分布状態となる。これは、種結晶基板同士の接合箇所にギャップやマスク等が存在していると、結晶成長時にエピタキシャル・ラテラル・オーバーグロース(ELO)やペンデオエピタキシー等の影響が生じるためと考えられる。
【0092】
ピーク前後に転位が確認されない凹状の落ち込みを有する分布状態の基板のように、急激に欠陥密度が変化する場合には、結晶面内に大きな歪み分布を伴う。このような歪み分布は、半導体デバイスを作製する際の機械加工等において破断を招いてしまうおそれがあり、著しく歩留りを低下させるという問題が生じ得る。
【0093】
この点、本実施形態のGaN基板30によれば、転位密度の値が単調増加または単調減少する分布状態であるため、欠陥密度が段階的になだらかに変化することとなり、結晶面内に大きな歪み分布を伴うことなく、高転位密度領域31と各低転位密度領域32とを接合できていると考えられる。実際に、後述するように、高転位密度領域31と低転位密度領域32との接合部付近において、ラマン分光法を利用してGaN結晶のE2モードのラマンシフトのマッピングを取得してみると、シフト量の変化が全く見られず、各領域31,32のいずれも歪んでいないことが確認できた。
【0094】
(高転位密度領域および低転位密度領域の歪み状態)
本実施形態のGaN基板30は、上述したように高転位密度領域31と低転位密度領域32で転位密度の分布状態が互いに異なる一方で、各領域31,32における歪み状態が実質的に同一である。ここでいう歪み状態とは、主として、GaN基板30を構成するGaN結晶の結晶格子の歪みの状態のことである。結晶格子の歪みの状態が実質的に同一であれば、その結晶格子によって構成される基板表面についても歪みの状態が実質的に同一となる。なお、結晶格子の歪みの状態は、例えば、ラマン分光法を利用することで検出が可能である。
【0095】
ここで、高転位密度領域31および低転位密度領域32の歪み状態について、ラマン分光法を利用した検出結果の具体例を挙げつつ詳しく説明する。なお、ラマン分光法を利用した歪み状態の検出は、GaN基板30に所定波長の光を照射して得られるラマン散乱光についてスペクトル解析をすることで行えばよい。このような検出は、公知の顕微ラマン分光装置を用いて行うことができる。
【0096】
高転位密度領域31および低転位密度領域32の歪み状態の検出は、例えば、
図17に示すように行った。具体的には、高転位密度領域31および低転位密度領域32のそれぞれに対して、規則的に配列された複数の評価点(図中の白色点、例えば50×50点)を設定した。このとき、各評価点を含むマッピング測定範囲(図中の白枠内)には、顕微ラマン分光装置の光学顕微鏡像のピント合わせのために、異物33の付着箇所を含めるようにした。そして、各評価点のそれぞれにおいて、励起光源として所定波長(例えば、532nm)の単色レーザー光を照射し、これにより得られるラマン散乱光を検出し、その検出結果についてスペクトル解析をすることで、歪み状態の検出を行った。このスペクトル解析にて、いわゆるラマンスペクトルが得られる。
【0097】
図18は、567cm
-1付近のピークE
2(high)モードのシフトピークを有するラマンスペクトルについて、全評価点で得られたものを重ね書きした結果の一例を示している。ここで示す重ね書き結果によれば、重ね書きされた各ラマンスペクトルの中には、シフトピークが弱かったり、若干のシフトが見られたりするラマンスペクトルが存在するが、これらは異物33の影響によるものと考えられ、異物33による影響以外にE
2モードのシフト量の変化が見られない。つまり、異物33の付着箇所を除けば、高転位密度領域31および低転位密度領域32のいずれにおいても、同様のラマンスペクトルが得られている。
【0098】
図19は、各評価点で得られたE
2モードのシフトピークを平面的にマッピングしたの一例を示している。なお、シフトピークの違いは、各評価点における表示明度の違いによって表している。ここで示すマッピング結果によれば、異物33の付着箇所で若干のシフトが見られるが、それ以外の箇所は略同様の表示明度となっている。つまり、異物33の付着箇所を除けば、高転位密度領域31および低転位密度領域32のいずれにおいても、同様のシフトピークが得られている。
【0099】
これらのことから、本実施形態のGaN基板30は、高転位密度領域31のラマンスペクトルにシフト変化がなく、その高転位密度領域31におけるGaN結晶の結晶格子に歪みがないことがわかる。また、本実施形態のGaN基板30は、高転位密度領域31と同様に、低転位密度領域32におけるGaN結晶の結晶格子にも歪みがないことがわかる。
【0100】
つまり、本実施形態のGaN基板30は、高転位密度領域31と低転位密度領域32とで転位密度の分布状態が異なるが、GaN結晶の結晶格子の歪み状態については、各領域31,32とも結晶格子に歪みがなく、各領域31,32で実質的に同一となっている。ここで、実質的に同一とは、各領域31,32で歪み状態が完全に一致する場合の他に、例えば異物33の付着や測定誤差等を考慮すれば技術常識の範囲内で同一視して取り扱っても支障が生じない程度の差が生じている場合を含む。
【0101】
このように、高転位密度領域31と低転位密度領域32とでGaN結晶の結晶格子の歪み状態が実質的に同一であり、かつ、各領域31,32のいずれも結晶格子に歪みがない状態であれば、その結晶格子によって構成されるGaN基板30の基板表面についても各領域31,32に歪みがない状態となる。したがって、GaN基板30は、複数の低転位密度領域32を区分けする高転位密度領域31が各低転位密度領域32を歪みなく接合したものとなる。
【0102】
これに対して、本実施形態のGaN基板30とは異なり、複数の種結晶基板をある程度のギャップ(隙間)を設けて配置した上に結晶膜を成長させて各種結晶基板を接合せしめることで得られる基板や、各種結晶基板同士の接合箇所にマスクを形成して接合せしめることで得られる基板等では、種結晶基板同士の接合箇所においてGaN結晶の結晶格子の歪みが発生してしまうおそれがある。これは、種結晶基板同士の接合箇所にギャップやマスク等が存在していると、結晶成長時にELOやペンデオエピタキシー等の影響が生じるためと考えられる。このような部分的な結晶格子の歪みは、基板表面の歪みを招き得る。
【0103】
この点、本実施形態のGaN基板30によれば、高転位密度領域31が低転位密度領域32を区分けする構成であっても、各領域31,32のいずれも歪みがない状態となるので、基板全体で歪みがない状態となり、特に直径が100mm以上となる基板大径化に対応する上で非常に好適なものとなり、その結果として半導体デバイス作製の効率化が図れるようになる。
【0104】
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0105】
(a)GaN基板30の主面に高転位密度領域31と低転位密度領域32を有するとともに、その主面が極性反転区としてのインバージョンドメインを含まないものであれば、大径化のニーズに対応しつつ、良質なGaN基板30を得ることが可能となる。
より詳しくは、高転位密度領域31と低転位密度領域32を有するということは、基板10を複数組み合わせて得られた結果物であること、すなわち大径化のニーズに容易かつ適切に対応し得ることの表れであると言える。
また、高転位密度領域31と低転位密度領域32を有していれば、高転位密度領域31をアンユーザブルエリア(非使用領域)とし、半導体デバイスを作製するためのユーザブルエリア(使用領域)として低転位密度領域32を選択的に使用する、といったことが実現可能となる。しかも、インバージョンドメインを含まなければ、異常成長が発生するおそれを排除できる。したがって、かかる構成の主面は、半導体デバイスを作製するための領域として非常に高品質なものである。
【0106】
(b)低転位密度領域32を区切る高転位密度領域31が存在しており、しかもその高転位密度領域31の存在を容易に確認し得る場合であれば、その配置の規則性を利用することで、GaN基板30の方向性について判別することが可能となる。そのため、例えば、オリエンテーションフラットやノッチ等に因らずにGaN基板30の向きを判断し得るようになり、オリエンテーションフラットやノッチ等(すなわち切断・廃棄する部分)を不要にすることが実現可能となる。さらには、主面の全域にわたって高転位密度領域31が存在していることで、方向性の判別のみならず、より正確な位置合わせに利用することも可能となる。具体的には、例えば、アンユーザブルエリアである高転位密度領域31を利用して半導体デバイス作製のためのマスクアライメントを精度良く行う、といったことが考えられる。
【0107】
(c)高転位密度領域31が転位密度のみならず不純物濃度(特に酸素濃度)についても高い領域である場合には、GaN基板30を放電加工によって切り出せば、主面に高転位密度領域31が存在するという構成を顕在化させることができる。したがって、高転位密度領域31が存在することによって奏する効果を、確実なものとすることができる。
【0108】
(d)各低転位密度領域32が少なくとも1mm2以上の面積を有していれば、半導体デバイスを作製するための領域として好ましいものとなる。さらに、好適には4mm2以上、より好適には100mm2以上(例えば、10×10mm2以上)の面積を有していれば、例えば作製しようとする半導体デバイスがパワーデバイス(電力用半導体素子)であっても、そのチップサイズ(例えば2~3mm角程度、最大で10mm角程度)に十分に対応することができる。したがって、かかる構成の主面を有するGaN基板30は、半導体デバイスを作製するためのものとして、非常に高品質なものとなる。
【0109】
(e)GaN基板30の製造にあたり、比較的小径の基板10を複数組み合わせることで、基板20の外径や形状を任意に変更することが可能となる。この場合、基板20を大径化させたとしても、その主面内におけるオフ角のばらつきの増加を抑制することが可能となる。例えば、基板20全体での主面内におけるオフ角のばらつきを、それぞれの基板10の主面内におけるオフ角のばらつきと同等以下とすることが可能となる。このように、オフ角のばらつきの少ない大径の基板20を用いることで、高品質なGaN基板30を製造することが可能となる。
図10は、正六角形の種結晶基板を複数組み合わせることで得られた結晶成長用基板の一構成例を示す写真である。ここに示す結晶成長用基板の直径は約16cmであるが、結晶成長用基板全体での主面内におけるオフ角のばらつきは、この基板を構成する各種結晶基板の主面内におけるオフ角のばらつきと同等以下であることを確認済みである。このように、オフ角のばらつきの小さい大径の結晶成長用基板は、本実施形態に例示した知見がなくては製造困難な基板であるといえる。
【0110】
(f)基板10の平面形状を正六角形とすることで、基板10を組み合わせたハニカムパターンは、2回以上、本実施形態では6回の回転対称性を有することとなる。これにより、基板20に含まれる欠陥や歪み、すなわち、隣接する基板10の接合部の影響を受けることで生じた欠陥や歪みを、その面内にわたり均等に(6回の回転対称性を有するように)分散させることが可能となる。その結果、これを用いて作製されたGaN基板30についても同様の効果が得られ、この基板を、反りの分布が面内にわたって均等であり、割れにくい良質な基板とすることが可能となる。
【0111】
(g)基板10の平面形状を正六角形とすることで、複数の基板10は、平面視において相互に噛み合わせるように配置することとなる。これにより、ステップ3やその後の工程における基板10の配列ずれを抑制できるようになる。結果として、基板10間の接合強度を高めたり、これらの上に成長させるGaN結晶膜14,21の品質を向上させたりすることが可能となる。
【0112】
(h)基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する面の全てをM面又はa面であって、かつ、互いに同一方位の面とすることで、ステップ3(結晶成長工程)で隣接する基板10を接合させる際、その接合強度を高めることが可能となる。例えば、基板10をM面同士又はa面同士で接合させること、特にa面同士で接合させることで、これらを「M面又はa面」以外の面同士で接合させる場合よりも、その接合強度を高めることが可能となる。
【0113】
(i)基板5から基板10を取得する際、基板5の裏面に予め凹溝を形成することで、基板5を制御性よく劈開させることが可能となる。これにより、基板10の側面を、例えばa面同士で接合させる場合であっても、当該a面(すなわち劈開しにくい面)で劈開させることが可能となる。
【0114】
(j)複数の基板10を保持板12上に接着させた状態(接着剤11を固化させた状態)でGaN結晶膜14の結晶成長を行うことから、その過程での基板10の配列ずれを抑制でき、基板10間の接合強度を高めたり、これらの上に成長させる結晶の品質を向上させたりすることが可能となる。また、接着剤11を用いずに、基板10を外周から治具で固定することで保持板12上に固定する場合に比べ、基板10間の接合強度を高めたり、これらの上に成長させる結晶の品質を向上させたりすることが可能となる。というのも、治具を用いる場合、少なくとも室温において、並べられた基板10にはその配列方向に沿って圧力が加わることとなる。すると、成膜温度では熱膨張の影響によりその圧力が増大し、基板10の配列が崩れたり、主面が同一平面上に存在し得なくなったり、基板10にチッピングやクラックが発生したりし、さらに、その際に発生したパーティクルが主面上に乗ったりする場合がある。接着剤11を用いて基板10を接着することで、これらの課題を回避することが可能となる。
【0115】
(k)複数の基板10を保持板12上に接着させた状態(接着剤11を固化させた状態)で結晶成長を行うことから、各基板10上に成長する結晶が相互作用することで基板10に応力が加わったとしても、基板10の位置ずれ等を回避できるようになる。結晶成長を進行させると、各基板10上に成長する結晶の成長面が連続した面となるように、すなわち、基板10を傾けたり持ち上げたりするように相互作用が働くことになるが、本実施形態のように接着剤11を固化させた状態で結晶成長を行うことで、その過程で基板10が傾いたり持ち上がったりすることを回避できるようになる。結果として、最終的に得られる基板20の反りを抑制することができ、基板20の主面全体におけるオフ角のばらつきの増加を回避することができるようになる。
【0116】
(l)保持板12の材料として、例えば等方性黒鉛やパイロリティックグラファイトのような材料を用いることで、保持板12からの基板20の自立を容易に行うことが可能となる。特に、パイロリティックグラファイトや上述した複合材料を保持板12の材料として用いることで、保持板12の表層を犠牲層12aとして作用させることができ、基板20の自立をさらに容易に行うことが可能となる。
【0117】
(m)基板20を円板状とすることで、基板20上に成長させる結晶の面内均一性を向上させることが可能となる。これは、本実施形態のようにHVPE装置200内で基板20を回転させて気相成長を行う際、基板20を円板状とすることで、基板20の面内における原料ガスなどの供給条件を均等なものとすることが可能となるためである。これに対し、
図12(a)に示すような短冊状の種結晶基板を接合させてなる矩形状の結晶成長用基板を用いる場合や、
図12(b)に示すような、同一寸法、同一形状の六角形の種結晶基板を接合させてなるハニカム形状の結晶成長用基板を用いる場合、それらの内周側(ゾーンA)と外周側(ゾーンB)とで、原料ガス等の供給量や消費量、温度等の諸条件に差異が生じやすくなる。そのため、これらの場合には、本実施形態のように結晶の面内均一性を高めることは困難となる。
【0118】
(n)高転位密度領域31における転位密度の分布状態がピークに向けた単調増加またはピークからの単調減少であれば、高転位密度領域31の外縁を容易かつ的確に特定することができる。また、複数の種結晶基板をある程度のギャップ(隙間)を設けて配置した上に結晶膜を成長させて各種結晶基板を接合せしめることで得られる基板や、各種結晶基板同士の接合箇所にマスクを形成して接合せしめることで得られる基板等とは異なり、結晶成長時にELOやペンデオエピタキシー等の影響が生じることがなく、結晶面内に大きな歪み分布を伴うことがないので、半導体デバイスを作製する際の歩留まり向上が図れるようになる。
【0119】
(o)高転位密度領域31が低転位密度領域32を区分けする構成のGaN基板30において、各領域31,32で転位密度の分布状態が互いに相違するにもかかわらず、各領域31,32における歪み状態が実質的に同一であり、各領域31,32のいずれも歪みがない状態となっていれば、基板全体で歪みがない状態となるので、特に直径が100mm以上となる基板大径化に対応する上で非常に好適なものとなり、その結果として半導体デバイス作製の効率化が図れる。
【0120】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0121】
(a)上述の実施形態では、基板10を組み合わせたハニカムパターンが、基板20の主面の中心を通りその主面に直交する軸を中心軸として基板20を一回転させたとき、6回の対称性を有する場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。
【0122】
例えば、
図3(a)に示すように、基板10を組み合わせたハニカムパターンが3回の回転対称性を有する場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。但し、
図2(a)に示す配列の方が、
図3(a)に示す配列よりも、基板20に含まれる欠陥や歪みをその面内にわたりより均等に分散させることが可能となる点で好ましい。またその結果、最終的に得られるGaN基板30についても同様の効果が得られ、この基板を、反りの分布が面内にわたってより均等であり、より割れにくい良質な基板とすることが可能となる点で、好ましい。
【0123】
また例えば、
図4(a)に示すように、基板10を組み合わせたハニカムパターンが2回の回転対称性(すなわち線対称性)を有する場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。但し、
図2(a)や
図3(a)に示す配列の方が、
図4(a)に示す配列よりも、基板20に含まれる欠陥や歪みをその面内にわたりより均等に分散させることが可能となる点で好ましい。またその結果、最終的に得られるGaN基板30についても同様の効果が得られ、この基板を、反りの分布が面内にわたってより均等であり、より割れにくい良質な基板とすることが可能となる点で、好ましい。
【0124】
(b)上述の実施形態では、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する全ての面をa面とする場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されず、a面以外の面で接合させるようにしてもよい。
【0125】
(c)基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する全ての面をM面としてもよい。M面は劈開させやすい面であることから、基板5から基板10を、低コストで効率よく作製することが可能となる。
【0126】
この場合、複数の基板5を用意する際に、それぞれの基板5の主面内におけるオフ角のばらつき(オフ角の最大値と最小値との差)が0.1°未満であり、かつ、複数の基板5間におけるオフ角のばらつき(オフ角の最大値と最小値との差)が0.1°未満とするのが好ましい。これにより、隣接する基板10の接合強度を充分に高めることが可能となる。
【0127】
また、この場合、隣接する基板10の厚さを異ならせ、これらの主面の高さにギャップを設けることでも、隣接する基板10の接合強度を高めることが可能となる。これは、主面の高さにギャップを設けることで、隣接する基板10の接合部周辺におけるガス流を乱す(接合部周辺にガスの滞留を生じさせる)ことができ、これにより、接合部周辺での結晶成長を局所的に促進させることが可能となるためである。また、主面の高さにギャップを設けることで、接合部周辺を流れるガス流の向き等を適正に制御することができ、これにより、沿面方向に向けた結晶成長を促進させることができるためである。
【0128】
(d)上述の実施形態では、保持板12と基板10とを異なる材料により構成し、これらを接着剤11を用いて接合する場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、GaN多結晶からなる基板(GaN多結晶基板)を保持板12として用い、保持板12と基板10とを接着剤11を介さずに直接接合するようにしてもよい。例えば、GaN多結晶からなる保持板12の表面をプラズマ処理することでその主面をOH基で終端させ、その後、保持板12の主面上に基板10を直接載置することで、これらを一体に接合させることができる。そして、保持板12と基板10とが接合されてなる積層体をアニール処理することで、保持板12と基板10との間に残留する水分等を除去することができ、この積層体を、上述の組み立て基板13、或いは、基板20として好適に用いることが可能となる。
【0129】
(e)上述の実施形態では、ステップ3,5において結晶成長法としてハイドライド気相成長法(HVPE法)を用いる場合について説明したが、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、ステップ3,5のうちいずれか、或いは、両方において、有機金属気相成長法(MOCVD法)等のHVPE法以外の結晶成長法を用いるようにしてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0130】
(f)上述の実施形態では、保持板12から引き剥がすことで自立させた基板20を用意し、これを用いてGaN結晶膜21を成長させてGaN基板30を製造する場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。すなわち、組み立て基板13を用意した後、
図8(a)に示すように基板10上にGaN結晶膜14を厚く成長させ、その後、
図8(b)に示すようにGaN結晶膜14をスライスすることで1枚以上のGaN基板30を取得するようにしてもよい。すなわち、基板20を自立させる工程を経ることなく、組み立て基板13の用意からGaN基板30の製造までを一貫して行うようにしてもよい。この場合、上述の実施形態とは異なり、基板10の加熱が保持板12や接着剤11を介して行われることから、加熱効率が低下する。しかしながら、他の点では、上述の実施形態とほぼ同様の効果が得られる。この場合、ステップ3の気相成長工程を省略してもよい。また、ステップ3,5の成長条件を上述のように異ならせ、これらのステップをそれぞれ省略せずに行うようにしてもよい。
【0131】
(g)上述の実施形態では、隣接する基板10を接合させて基板20として用いる場合、すなわち、基板20が基板10を含む場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。すなわち、上述のように厚く成長させたGaN結晶膜14をスライスすることで得られた1枚以上の基板のそれぞれを、基板20として用いるようにしてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0132】
なお、このようにして得られた基板20は、上述の実施形態とは異なり基板10をその構成に含まないが、GaN基板30と同様、基板10の接合部の影響を間接的に受けることで、転位密度が相対的に大きくなっている高転位密度領域、すなわち強度や品質が相対的に低下している領域を有する場合がある。基板10の主面を正六角形とした場合、
図9に網掛けで示すように、高欠陥領域がハニカムパターンを構成し、6回の回転対称性を有する点は、上述した通りである。
【0133】
(h)本発明は、GaNに限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等の窒化物結晶、すなわち、AlxInyGa1-x-yN(0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物結晶からなる基板を製造する際にも、好適に適用可能である。
【0134】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0135】
(付記1)
直径が100mm以上の窒化物結晶からなる窒化物結晶基板であって、
主面に、連続する高転位密度領域と、前記高転位密度領域によって区分けされる複数の低転位密度領域と、を有するとともに、
前記主面は極性反転区を含まない
窒化物結晶基板。
【0136】
(付記2)
前記複数の低転位密度領域は、それぞれが少なくとも1mm2以上の面積を有する
付記1に記載の窒化物結晶基板。
【0137】
(付記3)
前記複数の低転位密度領域は、それぞれが100mm2以上の面積を有する
付記2に記載の窒化物結晶基板。
【0138】
(付記4)
前記高転位密度領域は、平面形状が正六角形である輪郭形状を組み合わせたハニカムパターンを構成する
付記1から3のいずれかに記載の窒化物結晶基板。
【0139】
(付記5)
前記複数の低転位密度領域は、それぞれにおける平均転位密度が5×106個/cm2以下である
付記1から4のいずれかに記載の窒化物結晶基板。
【0140】
(付記6)
前記複数の低転位密度領域は、それぞれにおける平均キャリア濃度が1×1018cm-3以上である
付記1から5のいずれかに記載の窒化物結晶基板。
【0141】
(付記7)
前記複数の低転位密度領域は、それぞれの領域内に結晶方位分布を有しており、
前記高転位密度領域を挟んで隣り合う前記低転位密度領域同士は、前記結晶方位分布が不連続である
付記1から6のいずれかに記載の窒化物結晶基板。
【0142】
(付記8)
前記低転位密度領域同士は、結晶方位の傾きの差が0.5°以内である
付記7に記載の窒化物結晶基板。
【0143】
(付記9)
前記高転位密度領域および前記低転位密度領域は、それぞれの領域区分によらず連続した平滑な表面を有する
付記1から8のいずれかに記載の窒化物結晶基板。
【0144】
(付記10)
前記高転位密度領域と前記低転位密度領域とは、それぞれにおける平均不純物濃度に差がある
付記1から9のいずれかに記載の窒化物結晶基板。
【0145】
(付記11)
前記高転位密度領域は、転位密度の値がピークに向けた単調増加またはピークからの単調減少となる転位密度の分布状態を有する
付記1から10のいずれかに記載の窒化物結晶基板。
【0146】
(付記12)
前記高転位密度領域および前記低転位密度領域における歪み状態が実質的に同一である
付記11に記載の窒化物結晶基板。
【0147】
(付記13)
前記歪み状態は、ラマン分光法を利用した検出結果から特定される状態である
付記12に記載の窒化物結晶基板。
【0148】
(付記14)
窒化物結晶を成長させる下地面を有する結晶成長用基板であって、
主面が互いに平行となり、側面が互いに対向するように平面状に配置された、窒化物結晶からなる複数の種結晶基板を有し、
複数の前記種結晶基板のうち、少なくとも前記結晶成長用基板の周縁部以外の部分を構成する基板は、平面形状が正六角形である主面を有し、
前記種結晶基板を組み合わせたハニカムパターンは、前記結晶成長用基板の主面の中心を通り前記主面に直交する軸を中心軸として前記結晶成長用基板を一回転させたとき、3回以上の対称性を有する結晶成長用基板。
【0149】
(付記15)
前記ハニカムパターンは、前記軸を中心軸として前記結晶成長用基板を一回転させたとき、6回の対称性を有する付記14に記載の結晶成長用基板。
【0150】
(付記16)
前記種結晶基板の側面のうち、他の種結晶基板の側面と対向する全ての面がM面であり、かつ、互いに同一方位の面(等価な面)である付記14又は15に記載の結晶成長用基板。
【0151】
(付記17)
前記種結晶基板の側面のうち、他の種結晶基板の側面と対向する全ての面がa面であり、かつ、互いに同一方位の面(等価な面)である付記14又は15に記載の結晶成長用基板。
【0152】
(付記18)
前記種結晶基板は、前記種結晶基板よりも大きな外径を有する結晶基板が加工(結晶基板からその周縁部が除去)されてなり、
前記種結晶基板の側面は、前記結晶基板の裏面に凹溝を形成することで生じた融解面(レーザ加工面)或いは切削面(機械加工面)と、前記凹溝に沿って前記結晶基板を劈開させることで生じた劈開面と、を有し、
複数の前記種結晶基板は、それらの側面のうち少なくとも前記劈開面が互いに対向するように配置されている付記14から17のいずれかに記載の結晶成長用基板。
【0153】
(付記19)
種結晶基板上に成長させた結晶膜を有する結晶成長用基板であって、
前記結晶膜は、前記結晶膜における平均的な転位密度(或いは欠陥密度)よりも大きな転位密度(或いは欠陥密度)を有する高転位密度領域(高欠陥領域)を有し、
前記高転位密度領域は、平面形状が正六角形である輪郭形状を組み合わせたハニカムパターンを構成しており、
前記ハニカムパターンは、前記結晶成長用基板の主面の中心を通り前記主面に直交する軸を中心軸として前記結晶成長用基板を一回転させたとき、3回以上の対称性を有する結晶成長用基板。
【0154】
好ましくは、
窒化物結晶を成長させる下地面を有する結晶成長用基板であって、
主面が互いに平行となり、側面が互いに対向するように平面状に配置された窒化物結晶からなる複数の種結晶基板上に成長させた結晶膜を有し、
前記結晶膜は、前記種結晶基板の接合部の影響を受けることで、前記結晶膜における平均的な転位密度(或いは欠陥密度)よりも大きな転位密度(或いは欠陥密度)を有する高転位密度領域(高欠陥領域)を有し、
前記高転位密度領域は、複数の前記種結晶基板のうち、少なくとも周縁部以外の部分を構成する基板の主面が正六角形の平面形状を有することでハニカムパターンを構成しており、
前記ハニカムパターンは、前記結晶成長用基板の主面の中心を通り前記主面に直交する軸を中心軸として前記結晶成長用基板を一回転させたとき、3回以上の対称性を有する結晶成長用基板。
【0155】
(付記20)
結晶成長用基板上に成長させた結晶膜を有する窒化物結晶基板であって、
前記結晶膜は、前記結晶膜における平均的な転位密度(或いは欠陥密度)よりも大きな転位密度(或いは欠陥密度)を有する高転位密度領域(高欠陥領域)を有し、
前記高転位密度領域は、平面形状が正六角形である輪郭形状を組み合わせたハニカムパターンを構成しており、
前記ハニカムパターンは、前記窒化物結晶基板の主面の中心を通り前記主面に直交する軸を中心軸として前記窒化物結晶基板を一回転させたとき、3回以上の対称性を有する窒化物結晶基板。
【0156】
好ましくは、
付記14から19のいずれかに記載の結晶成長用基板上に成長させた結晶膜を有する窒化物結晶基板であって、
前記結晶膜は、前記種結晶基板の接合部の影響を受けることで、前記結晶膜における平均的な転位密度(或いは欠陥密度)よりも大きな転位密度(或いは欠陥密度)を有する高転位密度領域(高欠陥領域)を有し、
前記高転位密度領域は、複数の前記種結晶基板のうち少なくとも周縁部以外の部分を構成する基板の主面が正六角形の平面形状を有することでハニカムパターンを構成しており、
前記ハニカムパターンは、前記窒化物結晶基板の主面の中心を通り前記主面に直交する軸を中心軸として前記窒化物結晶基板を一回転させたとき、3回以上の対称性を有する窒化物結晶基板。
【0157】
(付記21)
窒化物結晶からなる複数の種結晶基板を、それらの主面が互いに平行となり、それらの側面が互いに対向するように平面状に配置させる工程を経ることで、結晶成長用の下地面を有する結晶成長用基板を作製する工程と、
前記結晶成長用基板上に結晶膜を成長させる工程と、
前記結晶成長用基板上に成長した前記結晶膜をスライスして窒化物結晶基板を得る工程と、を有し、
前記結晶成長用基板を作製する工程では、
複数の前記種結晶基板のうち少なくとも(前記結晶成長用基板の)周縁部以外の部分を構成する基板として、主面の平面形状が正六角形であり、かつ、少なくとも1mm2以上の面積を有する基板を用い、
前記種結晶基板を組み合わせたハニカムパターンを、前記結晶成長用基板の主面の中心を通り前記主面に直交する軸を中心軸として前記結晶成長用基板を一回転させたとき、3回以上の対称性を有する形状とし、
前記窒化物結晶基板を得る工程では、主面に、連続する高転位密度領域と、前記高転位密度領域によって区分けされる複数の低転位密度領域と、を有するとともに、前記主面が極性反転区を含まないように構成された前記窒化物結晶基板を得る
窒化物結晶基板の製造方法。
【0158】
好ましくは、
窒化物結晶からなる複数の種結晶基板を、それらの主面が互いに平行となり、それらの側面が互いに対向するように平面状に配置させる工程を経て結晶成長用基板を製造する際、
複数の前記種結晶基板のうち少なくとも前記結晶成長用基板の周縁部以外の部分を構成する基板として、主面の平面形状が正六角形である基板を用い、
前記種結晶基板の接合部からなるハニカムパターンを、前記結晶成長用基板の主面の中心を通り前記主面に直交する軸を中心軸として前記結晶成長用基板を一回転させたとき、3回以上の対称性を有する形状とする
結晶成長用基板の製造方法。
【0159】
(付記22)
複数の前記種結晶基板が接着剤を介して保持板上に接着されてなる組み立て基板を用意する工程と、
前記組み立て基板を加熱して前記種結晶基板上に結晶膜を成長させる工程と、
隣接する種結晶基板が前記結晶膜により接合されてなる前記結晶成長用基板を自立させる工程と、を有し、
前記結晶成長用基板を自立させる工程では、前記保持板のうちその表層(のみを)を剥離することで、前記結晶成長用基板と前記保持板とを分離させる
結晶成長用基板の製造方法。
【0160】
(付記23)
前記保持板の材料として、前記種結晶基板を構成する結晶と同等或いはそれより小さい線膨張係数を有する材料を用いる
付記22に記載の結晶成長用基板の製造方法。
【0161】
(付記24)
前記保持板の材料として、前記結晶膜を構成する結晶と同等或いはそれより小さい線膨張係数を有する材料を用いる
付記22又は23に記載の結晶成長用基板の製造方法。
【0162】
(付記25)
前記接着剤の材料として、前記種結晶基板を構成する結晶と近い線膨張係数を有する材料を用いる
付記22から24のいずれかに記載の結晶成長用基板の製造方法。
【0163】
(付記26)
前記接着剤の材料として、前記結晶膜を構成する結晶と近い線膨張係数を有する材料を用いる
付記22から25のいずれかに記載の結晶成長用基板の製造方法。
【0164】
(付記27)
前記保持板の材料として、等方性黒鉛、異方性黒鉛、および、等方性黒鉛からなる平板基材の表面を異方性黒鉛により被覆してなる複合材料のうちいずれかを用い、
前記接着剤の材料として、ジルコニア又はシリカを主成分とする材料を用いる
付記22から26のいずれに記載の結晶成長用基板の製造方法。
【0165】
(付記28)
前記接着剤を、前記種結晶基板の裏面のうち周縁部の除く領域(好ましくは中央部)にのみ塗布する(ことで、前記種結晶基板の主面側への前記接着剤の回り込みを抑制する)
付記22から27のいずれかに記載の結晶成長用基板の製造方法。
【0166】
(付記29)
前記保持板として、前記種結晶基板を前記保持板の主面上に接着する際、余剰な前記接着剤を逃がす(ことで、前記種結晶基板の主面側への前記接着剤の回り込みを抑制する)凹溝が、隣接する前記種結晶基板の接合部に沿うように設けられている部材を用いる
付記22から28のいずれかに記載の結晶成長用基板の製造方法。
【符号の説明】
【0167】
10 種結晶基板
20 結晶成長用基板
30 GaN基板(窒化物結晶基板)
31 高転位密度領域
32 低転位密度領域