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特許6991083液晶性ポリエステル液状組成物、液晶ポリエステルフィルムの製造方法及び液晶性ポリエステルフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】液晶性ポリエステル液状組成物、液晶ポリエステルフィルムの製造方法及び液晶性ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20220104BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20220104BHJP
   C08L 67/03 20060101ALI20220104BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C08L67/00
C08G63/60
C08L67/03
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018053413
(22)【出願日】2018-03-20
(65)【公開番号】P2019163431
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】莇 昌平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 豊誠
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-129420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08G 63/00-63/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性溶媒に可溶な液晶ポリエステル(A)と、非プロトン性溶媒に不溶な液晶ポリエステル(B)と、非プロトン性溶媒(S)と、を含有する液晶性ポリエステル液状組成物であって、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)がヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位をメソゲン基とし、前記液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)は、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸に由来する構造単位を含有する液晶ポリエステルであることを特徴とする、液晶性ポリエステル液状組成物。
【請求項2】
液晶ポリエステル(A)が、下記式(A1)で示される構造単位、下記式(A2)で示される構造単位、および下記式(A3)で示される構造単位を含み、
全構造単位に対して、式(A1)で示される構造単位の含有量が30モル%以上80モル%以下であり、式(A2)で示される構造単位の含有量が10モル%以上35モル%以下であり、式(A3)で示される構造単位の含有量が10モル%以上35モル%以下である、請求項1に記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
(A1) -O-Ar1-CO-
(A2) -CO-Ar2-CO-
(A3) -X-Ar3-Y-
(式中、Ar1は、1,4-フェニレン基、2,6-ナフチレン基、又は4,4’-ビフェニレン基を表わし、Ar2は、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は2,6-ナフチレン基を表わし、Ar3は、1,4-フェニレン基又は1,3-フェニレン基を表わし、Xは-NH-を表わし、Yは、-O-又はNH-を表わす。)
【請求項3】
前記液晶ポリエステル(B)が、下記式(B1)で表される構造単位、下記式(B2)で表される構造単位、及び下記式(B3)で表される構造単位を有し、2,6-ナフタレンジイル基の含有量が、下記Ar4、Ar5及びAr6の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルである、請求項1又は2に記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
(B1)-O-Ar4-CO-
(B2)-CO-Ar5-CO-
(B3)-O-Ar6-O-
(Ar4は、2,6-ナフタレンジイル基、1,4-フェニレン基又は4,4’-ビフェニリレン基を表す。Ar5は、2,6-ナフタレンジイル基、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基又は4,4’-ビフェニリレン基を表す。は、Ar6は、2,6-ナフタレンジイル基、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基又は4,4’-ビフェニリレン基を表す。Ar4、Ar5又はAr6で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項4】
前記Ar1が2,6-ナフチレン基であり、前記Ar2が1,3-フェニレンであり、前記Ar3が1,4-フェニレンであり、前記Yが-O-である、請求項2又は3に記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
【請求項5】
前記液晶ポリエステル(B)の含有量は、前記液晶性ポリエステル液状組成物に含まれる前記液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)の総和に対して5質量%以上70質量%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
【請求項6】
前記非プロトン性溶媒(S)100質量部に対して、前記液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)の総和が、0.01質量部以上100質量部以下含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
【請求項7】
前記非プロトン性溶媒(S)が、N-メチルピロリドンである、請求項1~のいずれか1項に記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
【請求項8】
前記液晶ポリエステル(B)は、体積平均粒径が0.1μm以上30μm以下の粉末である、請求項1~のいずれか1項に記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の液晶性ポリエステル液状組成物を金属箔上に流延する工程と、前記液晶性ポリエステル液状組成物から溶媒を除去して前記金属箔と液晶ポリエステルフィルム前駆体とを有する積層体を得る工程する工程と、前記積層体を熱処理して、前記金属箔と液晶ポリエステルフィルムとを有する積層体を得る工程と、を含む、液晶ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
非プロトン性溶媒に可溶な液晶ポリエステル(A)と、非プロトン性溶媒に不溶な液晶ポリエステル(B)とを含み、前記液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)は、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸に由来する構造単位を含有し、前記液晶ポリエステル(A)に前記液晶ポリエステル(B)が分散している、液晶性ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性ポリエステル液状組成物、液晶ポリエステルフィルムの製造方法及び液晶性ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品が実装されるプリント回路基板は、回路パターンの高密度化が進んでいる。例えばフレキシブル銅張積層板用絶縁材料には、誘電特性や誘電正接等の物性改善がより望まれるようになっている。
【0003】
例えば特許文献1には、誘電損失の低減を目的とし、シリル基を含むエポキシ樹脂と、硬化剤と、フィラーとを含む絶縁樹脂組成物が記載されている。特許文献1では、フィラーとしてシリカなどの無機フィラーを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-66360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法のように、樹脂組成物に無機フィラーを添加すると、金属箔との密着強度や絶縁基材の機械強度が低下するという問題があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、金属箔との密着強度と、機械強度を損なうことなく、低い誘電正接を有する液晶性ポリエステル液状組成物、液晶ポリエステルフィルムの製造方法及び液晶性ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は下記[1]~[12]の発明を包含する。
[1]非プロトン性溶媒に可溶な液晶ポリエステル(A)と、非プロトン性溶媒に不溶な液晶ポリエステル(B)と、非プロトン性溶媒(S)と、を含有する液晶性ポリエステル液状組成物であって、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)がヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位をメソゲン基とする液晶ポリエステルであることを特徴とする、液晶性ポリエステル液状組成物。
[2]前記液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)は、2-ヒドロキシ安息香酸又は2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸に由来する構造単位を含有する、[1]に記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
[3]液晶ポリエステル(A)が、下記式(A1)で示される構造単位、下記式(A2)で示される構造単位、および下記式(A3)で示される構造単位を含み、全構造単位に対して、式(A1)で示される構造単位の含有量が30モル%以上80モル%以下であり、式(A2)で示される構造単位の含有量が10モル%以上35モル%以下であり、式(A3)で示される構造単位の含有量が10モル%以上35モル%以下である、[1]又は[2]に記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
(A1) -O-Ar1-CO-
(A2) -CO-Ar2-CO-
(A3) -X-Ar3-Y-
(式中、Ar1は、1,4-フェニレン基、2,6-ナフタレン基、又は4,4’-ビフェニレン基を表わし、Ar2は、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は2,6-ナフタレン基を表わし、Ar3は、1,4-フェニレン基又は1,3-フェニレン基を表わし、Xは-NH-を表わし、Yは、-O-又はNH-を表わす。)
[4]前記液晶ポリエステル(B)が、構造単位にナフタレン構造を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
[5]前記液晶ポリエステル(B)が、下記式(B1)で表される構造単位、下記式(B2)で表される構造単位、及び下記式(B3)で表される構造単位を有し、2,6-ナフタレンジイル基の含有量が、下記Ar4、Ar5及びAr6の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
(B1)-O-Ar4-CO-
(B2)-CO-Ar5-CO-
(B3)-O-Ar6-O-
(Ar4は、2,6-ナフタレンジイル基、1,4-フェニレン基又は4,4’-ビフェニリレン基を表す。Ar5は、2,6-ナフタレンジイル基、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基又は4,4’-ビフェニリレン基を表す。は、Ar6は、2,6-ナフタレンジイル基、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基又は4,4’-ビフェニリレン基を表す。Ar4、Ar5又はAr6で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。)
[6]前記Ar1が2,6-ナフタレンであり、前記Ar2が1,3-フェニレンであり、前記Ar3が1,4-フェニレンであり、前記Yが-O-である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
[7]前記液晶ポリエステル(B)の含有量は、前記液晶性ポリエステル液状組成物に含まれる前記液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)の総和に対して5質量%以上70質量%以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
[8]前記非プロトン性溶媒(S)100質量部に対して、前記液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)の総和が、0.01質量部以上100質量部以下含有する、[1]~[7]のいずれか1つに記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
[9]前記非プロトン性溶媒(S)が、N-メチルピロリドンである、[1]~[8]のいずれか1つに記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
[10]前記液晶性ポリエステル(B)は、体積平均粒径が0.1μm以上30μm以下の粉末である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の液晶性ポリエステル液状組成物。
[11][1]~[10]のいずれか1つに記載の液晶性ポリエステル液状組成物を金属箔上に流延する工程と、前記液晶性ポリエステル液状組成物から溶媒を除去して前記金属箔と液晶ポリエステルフィルム前駆体とを有する積層体を得る工程する工程と、前記積層体を熱処理して、前記金属箔と液晶ポリエステルフィルムとを有する積層体を得る工程と、 を含む、液晶ポリエステルフィルムの製造方法。
[12]
非プロトン性溶媒に可溶な液晶性ポリエステル(A)と、非プロトン性溶媒に不溶な液晶ポリエステル(B)とを含み、前記液晶性ポリエステル(A)に前記液晶性ポリエステル(B)が分散している、液晶性ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属箔との密着強度と、機械強度を損なうことなく、低い誘電正接を有するフィルムを製造できる液晶性ポリエステル液状組成物、液晶ポリエステルフィルムの製造方法及び液晶性ポリエステルフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(B)成分等の添加量と、ピール強度との関係を示すグラフである。
図2】(B)成分等の添加量と、最大点応力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<液晶性ポリエステル液状組成物>
本実施形態の液晶性ポリエステル液状組成物は、非プロトン性溶媒に可溶な液晶ポリエステル(A)(以下、「(A)成分」と記載する。)と、非プロトン性溶媒に不溶な液晶ポリエステル(B)(以下、「(B)成分」と記載する。)と、非プロトン性溶媒(S)(以下、「(S)成分」と記載する。)と、を含有する。
【0010】
本実施形態において、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)はヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位をメソゲン基とする液晶ポリエステルである。ここでいうメソゲン基とは、複数のベンゼン環のような環構造が直線的に結ばれた剛直な構造単位のことである(小出直之、坂本国輔:液晶ポリマー、共立出版、1988)。本実施形態において液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)は、2-ヒドロキシ安息香酸又は2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸に由来する構造単位を含有することが好ましい。
【0011】
≪(A)成分≫
(A)成分は、非プロトン性溶媒に可溶な液晶ポリエステルである。ここで、非プロトン性溶媒に可溶であるとは、下記の試験を行うことにより確認できる。
【0012】
・試験方法
液晶ポリエステルを非プロトン性溶媒中で120℃から180℃の温度で、1時間から6時間撹拌した後、室温まで冷却する。次いで、5μmのメンブレンフィルターおよび加圧式のろ過機を用いてろ過をした後、メンブレンフィルター上の残留物を確認する。この時、固形物が確認されない場合を非プロトン性溶媒に可溶と判断する。
【0013】
液晶性ポリエステル(A)は、構造単位として以下の式(A1)、(A2)、(A3)で示される構造単位を含むことが好ましい。以下、液晶性ポリエステル(A)を「(A)成分」と記載する。下記の構造単位において、式(A1)はヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位である。
【0014】
(A)成分は、液晶式(A1)で示される構造単位の含有量が(A)成分の全量中に30~80モル%、式(A2)で示される構造単位の含有量が(A)成分の全量中に35~10モル%、式(A3)で示される構造単位の含有量が(A)成分の全量中に35~10モル%である。
(A1) -O-Ar1-CO-
(A2) -CO-Ar2-CO-
(A3) ―X-Ar3-Y-
(ここで、Ar1は、1,4-フェニレン基、2,6-ナフチレン基、又は4,4’-ビフェニレン基を表わす。Ar2は、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は2,6-ナフチレン基を表わす。Ar3は、1,4-フェニレン基又は1,3-フェニレン基を表わす。Xは-NH-であり、Yは、-O-又はNH-を表わす。)
【0015】
構造単位(A1)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位、構造単位(A2)は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位、構造単位(A3)は、芳香族ジアミン、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位である。(A)成分は、上述した構成単位の代わりに、上述した構成単位のエステルもしくはアミド形成性誘導体を用いてもよい。
本明細書において、「由来」とは重合するために化学構造が変化することを意味する。
【0016】
本実施形態においては、前記Ar1が2,6-ナフタレン基であり、前記Ar2が1,3-フェニレン基であり、前記Ar3が1,4-フェニレン基であり、前記Yが-O-であることが好ましい。
【0017】
カルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、カルボキシ基が、ポリエステルを生成する反応を促進するような、酸塩化物、酸無水物などの反応活性が高い誘導体となっているもの、カルボキシ基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するようなアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているものなどが挙げられる。
フェノール性水酸基のエステル形成性誘導体としては、例えば、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
アミノ基のアミド形成性誘導体としては、例えばアミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているものなどが挙げられる。
【0018】
本実施形態に使用される(A)成分の繰り返し構造単位としては、下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
式(A1)で示される構造単位としては、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸、4-ヒドロキシ-4’-ビフェニルカルボン酸由来の構造単位などが挙げられ、2種以上の前記構造単位が、全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位の中で、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸由来の構造単位を含む(A)成分を使用することが好ましい。
全構造単位に対して、構造単位(A1)は30モル%以上80モル%以下であり、40モル%以上70モル%以下であることが好ましく、45モル%以上65モル%以下であることがより好ましい。
構造単位(A1)が多いと溶媒への溶解性が著しく低下する傾向があり、少なすぎると液晶性を示さなくなる傾向がある。
【0020】
式(A2)で示される構造単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位などが挙げられ、2種以上の前記構造単位が、全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位の中で、溶媒への溶解性の観点から、イソフタル酸由来の構造単位を含む液晶性ポリエステルを使用することが好ましい。
全構造単位に対して、構造単位(A2)は、10モル%以上35モル%以下が好ましく、15モル%以上30モル%以下がより好ましく、17.5モル%以上27.5モル%以下が特に好ましい。構造単位(A2)が多すぎると、液晶性が低下する傾向があり、少ないと溶媒への溶解性が低下する傾向がある。
【0021】
式(A3)で示される構造単位としては、例えば、3-アミノフェノール、4-アミノフェノール、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、4-アミノ安息香酸由来の構造単位などが挙げられ、2種以上の前記構造単位が、全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位の中で、反応性の観点から4-アミノフェノール由来の構造単位を含む液晶性ポリエステルを使用することが好ましい。
【0022】
全構造単位に対して、構造単位(A3)は、10モル%以上35モル%以下が好ましく、15モル%以上30モル%以下がより好ましく、17.5モル%以上27.5モル%以下が特に好ましい。構造単位(3)が多すぎると、液晶性が低下する傾向があり、少ないと溶媒への溶解性が低下する傾向がある。
【0023】
構造単位(A3)は構造単位(A2)と実質的に等量用いられることが好ましいが、構造単位(A3)を構造単位(A2)に対して、-10モル%~+10モル%とすることにより、液晶性ポリエステルの重合度を制御することもできる。
【0024】
本実施形態で使用される(A)成分の製造方法は、特に限定されないが、例えば、構造単位(A1)に対応する芳香族ヒドロキシ酸、構成単位(A3)に対応するフェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンのフェノール性水酸基やアミノ基を過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得、得られたアシル化物と、構造単位(A2)に対応する芳香族ジカルボン酸とをエステル・アミド交換(重縮合)して溶融重合する方法などが挙げられる(特開2002-220444号公報、特開2002-146003号公報参照)。
【0025】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量は、フェノール性水酸基とアミノ基の合計に対して、1.0~1.2倍当量であることが好ましく、より好ましくは1.05~1.1倍当量である。脂肪酸無水物の添加量が少なすぎると、エステル交換・アミド交換(重縮合)時にアシル化物や原料モノマーなどが昇華し、反応系が閉塞し易い傾向があり、また、多すぎると、得られる液晶性ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0026】
アシル化反応は、130~180℃で5分間~10時間反応させることが好ましく、140~160℃で10分間~3時間反応させることがより好ましい。
【0027】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は,特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β-ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。本実施形態においては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、又は無水イソ酪酸が好ましく、より好ましくは、無水酢酸である。
【0028】
エステル交換・アミド交換(重縮合)においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8~1.2倍当量であることが好ましい。
【0029】
エステル交換・アミド交換(重縮合)は、400℃まで0.1~50℃/分の割合で昇温しながら行なうことが好ましく、350℃まで0.3~5℃/分の割合で昇温しながら行なうことがより好ましい。
【0030】
アシル化物とカルボン酸とをエステル交換・アミド交換(重縮合)させる際、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0031】
なお、アシル化反応、エステル交換・アミド交換(重縮合)は、触媒の存在下に行なってもよい。該触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。
これらの触媒の中で、N,N-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾールなどの窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002-146003号公報参照)。
該触媒は、通常、モノマー類の投入時に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、該触媒を除去しない場合にはそのままエステル交換を行なうことができる。
【0032】
エステル交換・アミド交換による重縮合は、通常、溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、その後、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことが好ましい。具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、20~350℃で、1~30時間固相状態で熱処理する方法などが挙げられる。固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお適当な攪拌機構を備えることにより溶融重合槽と固相重合槽とを同一の反応槽とすることもできる。固相重合後、得られた液晶性ポリエステルは、公知の方法によりペレット化し、成形してもよい。 液晶性ポリエステルの製造は、例えば、回分装置、連続装置等を用いて行うことができる。
【0033】
≪(B)成分≫
非プロトン性溶媒に不溶な液晶ポリエステル(B)は、構造単位にナフタレン構造を含む液晶ポリエステル(B)であることが好ましい。
以下、液晶ポリエステル(B)を「(B)成分」と記載する。
ここで、「非プロトン性溶媒に不溶」であるか否かは、前記試験方法と同様の方法により確認できる。
ナフタレン構造としては、2,6-ナフタレンジイル基が挙げられる。
【0034】
また本実施形態において(B)成分は、下記式(B1)で表される構造単位、下記式(B2)で表される構造単位、及び下記式(B3)で表される構造単位を有することが好ましい。
以下、下記式(B1)で表される構造単位を構造単位(B1)ということがある。下記式(B2)で表される構造単位を構造単位(B2)ということがある。下記式(B3)で表される構造単位を構造単位(B3)ということがある。構造単位(B1)は、ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位である。
下記2,6-ナフタレンジイル基の含有量が、下記Ar4、Ar5及びAr6の合計量に対して、40モル%以上であることが好ましく、流動開始温度が280℃以上であることが好ましい。
【0035】
-O-Ar4-CO- (B1)
-CO-Ar5-CO- (B2)
-O-Ar6-O- (B3)
【0036】
(Ar4は、2,6-ナフタレンジイル基、1,4-フェニレン基又は4,4’-ビフェニリレン基を表す。Ar5及びAr6は、それぞれ独立に、2,6-ナフタレンジイル基、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基又は4,4’-ビフェニリレン基を表す。Ar4、Ar5又はAr6で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0037】
ここで、前記ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。また、前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基が挙げられ、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいし、環状であってもよい。また、前記アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0038】
(B)成分中の2,6-ナフタレンジイル基の含有量を、Ar4、Ar5及びAr6の合計量に対して、40モル%以上とすることにより、(B)成分を含む液晶性ポリエステル液状組成物の誘電損失を低くすることができる。
この2,6-ナフタレンジイル基の含有量は、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。
【0039】
また、(B)成分の流動開始温度を280℃以上とすることにより、(B)成分を含む液晶性ポリエステル液状組成物の耐熱性を高めることができる。この流動開始温度は、290℃以上が好ましく、295℃以上がより好ましい。あまり高いと、溶融させるために成形温度を高くする必要があり、熱劣化し易くなるので、通常380℃以下であり、350℃以下が好ましい。
【0040】
ここで、流動開始温度は、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPaの荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・sを示す温度である(例えば、小出直之編「液晶ポリマー-合成・成形・応用-」第95~105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0041】
(B)成分中、構造単位(B1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位であり、その含有量は、全構造単位の合計量に対して、30モル%以上80モル%以下が好ましく、40モル%以上70モル%以下がより好ましく、45モル%以上65モル%以下がさらに好ましい。
また、構造単位(B2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位である。
その含有量は、全構造単位の合計量に対して、10モル%以上35モル%以下が好ましく、15モル%以上30モル%以下がより好ましく、17.5モル%以上27.5モル%以下がさらに好ましい。
また、構造単位(B3)は、所定の芳香族ジオールに由来する構造単位であり、その含有量は、全構造単位の合計量に対して、10モル%以上35モル%以下が好ましく、15モル%以上30モル%以下がより好ましく、17.5モル%以上27.5モル%以下がさらに好ましい。また、構造単位(B2)の含有量と構造単位(B3)の含有量とは、実質的に等しいことが好ましい。
【0042】
耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルの典型的な例では、構造単位(B1)として、Ar4が2,6-ナフタレンジイル基であるもの、すなわち2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸に由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、40モル%以上74.8モル%以下が好ましく、40モル%以上64.5モル%以下がより好ましく、50モル%以上58モル%以下がさらに好ましい。
【0043】
構造単位(B2)として、Ar5が2,6-ナフタレンジイル基であるもの、すなわち2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、10.0モル%以上35モル%以下が好ましく、12.5モル%以上30モル%以下がより好ましく、15モル%以上25モル%以下がさらに好ましい。
【0044】
また構造単位(B2)として、Ar4が1,4-フェニレン基であるもの、すなわちテレフタル酸に由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、0.2モル%以上15モル%以下が好ましく、0.5モル%以上12モル%以下がより好ましく、2モル%以上10モル%以下がさらに好ましい。
【0045】
構造単位(B3)として、Ar6が1,4-フェニレン基であるもの、すなわちハイドロキノンに由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、12.5モル%以上30モル%以下が好ましく、17.5モル%以上30モル%以下がより好ましく、20モル%以上25モル%以下がさらに好ましく、かつ、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の含有量が、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位及びテレフタル酸に由来する構造単位の合計量に対して、0.5モル倍以上が好ましく、0.6モル倍以上がより好ましい。
【0046】
(B)成分は、構造単位(B1)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、構造単位(B2)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジカルボン酸と、構造単位(B3)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジオールとを、2,6-ナフタレンジイル基を有するモノマーが、全モノマーの合計量に対して、40モル%以上になるようにして、溶融重縮合させることにより、製造することができる。
その際、前記各モノマーとしては、溶融重縮合を速やかに進行させるため、そのエステル形成性誘導体を用いることが好ましい。
【0047】
ここで、エステル形成性誘導体の例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物であれば、カルボキシル基がハロホルミル基に変換されたもの、カルボキシル基がアシルオキシカルボニル基に変換されたもの、カルボキシル基がアルコキシカルボニル基やアリールオキシカルボニル基に変換されたものが挙げられる。
【0048】
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオールのようなヒドロキシル基を有する化合物であれば、ヒドロキシル基がアシルオキシ基に変換されたものが挙げられる。中でも、ヒドロキシル基がアシルオキシ基に変換されたものは好ましく用いられ、すなわち、芳香族ヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、そのヒドロキシル基がアシル化されてなる芳香族アシルオキシカルボン酸が好ましく用いられ、また、芳香族ジオールのエステル形成性誘導体としては、そのヒドロキシル基がアシル化されてなる芳香族ジアシルオキシ化合物が好ましく用いられる。アシル化は、無水酢酸によるアセチル化であることが好ましく、このアセチル化によるエステル形成性誘導体は、脱酢酸重縮合させることができる。
【0049】
本実施形態の液晶性ポリエステル液状組成物は、前記(A)成分を後述する(S)成分に溶解させた樹脂溶液に、粉末状の(B)成分が分散していることが好ましい。
本実施形態において(B)成分の粒径は、液晶ポリエステル液状組成物の増粘を防ぐ観点から、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上が特に好ましい。また、液晶性ポリエステル液状組成物を用いて製造したフィルムの銅箔ピール強度と機械特性を高める観点から、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下が特に好ましい。
【0050】
前記範囲の粒径に制御する方法としては、例えばインパクトミルを使用する場合は、粉砕刃の回転数変更や、使用するスクリーンの変更が考えられる。また、ジェットミルを使用する場合は、分級ローターの回転速度を変更することで可能である。
【0051】
前記液晶ポリエステル(B)の含有量は、前記液晶性ポリエステル液状組成物に含まれる前記液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)の総和に対して5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。また、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態においては、液晶性ポリエステル液状組成物を用いて製造したフィルムの銅箔ピール強度と機械特性を高める観点から、中でも10質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0052】
≪(S)成分≫
本実施形態において、非プロトン性溶媒とは、非プロトン性化合物を含む溶媒である。本実施形態においては、該非プロトン性溶媒としては、例えば、1-クロロブタン、クロロベンゼン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、γ-ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル系溶媒、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルフィド系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn-ブチルリン酸などのリン酸系溶媒などが挙げられる。
【0053】
これらの中で、ハロゲン原子を含まない溶媒が環境への影響面から好ましく使用され、双極子モーメントが3以上5以下の溶媒が溶解性の観点から好ましく使用される。具体的には、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、又はγ-ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒がより好ましく使用され、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、又はN-メチルピロリドンがさらに好ましく使用される。
【0054】
本実施形態においては、非プロトン性溶媒(S)100質量部に対して、前記液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)の総和が、0.01質量部以上100質量部以下含有することが好ましく、1質量部以上70質量部以下がより好ましく、5質量部以上40質量部以下がさらに好ましい。
【0055】
本実施形態において、(S)成分100質量部に対する前記液晶ポリエステル(A)及び前記液晶ポリエステル(B)の総和が上記範囲であると、金属箔への塗工が可能である。このため、所望のフィルム厚さによって、濃度は上記の範囲内で適宜調整すればよい。
【0056】
本実施形態の液晶性ポリエステル液状組成物は、金属箔との密着強度と、機械強度を損なうことなく、低い誘電正接を有するフィルムを製造できる。
前記(A)成分は、フィルムにした場合に金属箔との密着強度を高め、機械強度を高めることに寄与する成分である。
前記(B)成分は、誘電特性に優れる成分である。
本実施形態においては、(B)成分が(S)成分に溶解することなく、液晶性ポリエステル液状組成物中に分散しているため、各成分が上記の特性を発揮し、金属箔との密着強度の維持と、機械強度の維持と、誘電特性を両立できると考えられる。
(A)成分と(B)成分がともに液晶ポリエステル樹脂であることにより、互いに非相溶でありつつ、(B)成分と(A)成分との界面においては互いになじみやすくなると考えられる。このため、(A)成分と(B)成分の界面での応力の集中が少なくなるため、金属箔との密着強度の維持と、機械強度の維持と、誘電特性を両立できると考えられる。
【0057】
<液晶性ポリエステルフィルム及び液晶ポリエステルフィルムの製造方法>
本実施形態は、非プロトン性溶媒に可溶な液晶性ポリエステル(A)と、非プロトン性溶媒に不溶な液晶ポリエステル(B)とを含み、液晶性ポリエステル液状組成物に前記液晶性ポリエステル(B)が分散している、液晶性ポリエステルフィルムである。本実施形態の液晶性ポリエステルフィルムは以下の方法により製造できる。
【0058】
液晶ポリエステルフィルムは、前記本発明の液晶性ポリエステル液状組成物を金属箔のような支持基板上に流延する工程と、前記液晶性ポリエステル液状組成物から溶媒を除去して前記支持基板と液晶ポリエステルフィルム前駆体とを有する積層体を得る工程する工程と、前記積層体を熱処理して、前記支持基板と液晶ポリエステルフィルムとを有する積層体を得る工程と、を製造方法により製造できる。
前記液晶性ポリエステル液状組成物をフィルム状に流延する方法としては、支持体上にローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピンコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法等の各種手段により流延する方法が挙げられる。
【0059】
また、溶媒を除去する方法は特に限定されないが、溶媒の蒸発により行うことが好ましい。溶媒を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられるが、中でも生産効率を高め、取り扱いが容易となる観点から加熱して蒸発せしめることが好ましく、通風しつつ加熱して蒸発することがより好ましい。この時の加熱条件としては、60℃以上200℃以下で10分化間から2時間予備乾燥を行う工程と、200℃以上400℃以下で30分間から5時間熱処理を行う工程とを含むことが好ましい。
【実施例
【0060】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT-500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000P)の粘度を示す温度を測定した。
【0061】
〔液晶ポリエステル微粒子の体積平均粒径の測定〕
散乱式粒子径分布測定装置((株)HORIBAの「LA-950V2」)を用いて、液晶ポリエステル微粒子の体積平均粒径を測定した。
【0062】
〔液晶ポリエステル溶液の粘度測定〕
B型粘度計(東機産業(株)の「TV-22」)を用いて、粘度測定を行った。
【0063】
〔液晶ポリエステルフィルムの引張強度測定〕
液晶ポリエステルフィルム片面銅張板の銅箔を、第二塩化鉄溶液を使用してエッチング除去し、単層の液晶ポリエステルフィルムを得た。液晶ポリエステルフィルムの最大点応力、破断点伸度及び弾性率は、フィルムをJIS K6251に基づき、平行部幅5mm、長さ20mmの引張試験3号ダンベルに切り出し、JIS K7161に準拠して、引張試験機(島津製作所社製、オートグラフAG-IS)を用い5mm/分の引張速度にて引張試験を行って求めた。
【0064】
〔液晶ポリエステルフィルム片面銅張板のピール強度測定〕
液晶ポリエステルフィルム片面銅張板を幅10mmの短冊状に切り出して3個の試験片を作成し、それぞれの試験片について、液晶ポリエステルフィルムを固定した状態で、オートグラフ((株)島津製作所の「AG-1KNIS」)を用い、液晶ポリエステルフィルムに対して90°の方向に銅箔を50mm/分の剥離速度で引き剥がすことにより、液晶ポリエステルフィルム片面銅張板のピール強度(90°ピール強度)を測定した後、3個の試験片の平均値を算出した。
【0065】
〔液晶ポリエステルフィルムの誘電率、誘電正接測定〕
液晶ポリエステルフィルム片面銅張板の銅箔を、第二塩化鉄溶液を使用してエッチング除去した。得られた単層の液晶ポリエステルフィルムについて、インピーダンスアナライザー(Agilent社製 型式:E4991A)を用い、JIS C 2138に準拠して、1GHzにおける誘電率、誘電正接を測定した。
【0066】
〔液晶ポリエステル(A)の製造例〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸940.9g(5.0モル)、4-ヒドロキシアセトアミノフェン377.9g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)及び無水酢酸867.8g(8.4モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、撹拌しながら、室温から140℃まで60分かけて昇温し、140℃で3時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで5時間かけて昇温し、300℃で30分保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状の液晶ポリエステル(A1)を得た。この液晶ポリエステル(A1)の流動開始温度は、193.3℃であった。
【0067】
液晶ポリエステル(A1)を、窒素雰囲気下、室温から160℃まで2時間20分かけて昇温し、次いで160℃から180℃まで3時間20分かけて昇温し、180℃で5時間保持することにより、固相重合させた後、冷却し、次いで、粉砕機で粉砕して、粉末状の液晶ポリエステル(A2)を得た。この液晶ポリエステル(A2)の流動開始温度は、220℃であった。
【0068】
液晶ポリエステル(A2)を窒素雰囲気下、室温から180℃まで1時間25分かけて昇温し、次いで180℃から255℃まで6時間40分かけて昇温し、255℃で5時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(A)を得た。液晶ポリエステル(A)の流動開始温度は、302℃であった。
【0069】
〔液晶ポリエステル溶液(A)の調製〕
液晶ポリエステル(A)8質量部を、N-メチルピロリドン(沸点(1気圧)204℃)92質量部に加え、窒素雰囲気下、140℃で4時間攪拌して、液晶ポリエステル溶液(A)を調製した。この液晶ポリエステル溶液の粘度は、955mPa・sであった。
【0070】
〔液晶ポリエステル(B1)の製造例〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、2,6-ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル、2,6-ナフタレンジカルボン酸及びテレフタル酸の合計モル量に対して0.225モル過剰)、無水酢酸1226.87g(12モル)、及び触媒として1-メチルイミダゾール0.17gを入れた。反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から145℃まで15分かけて昇温し、145℃で1時間還流させた。
【0071】
次いで、副生した酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温し、310℃で3時間保持した後、固形状の液晶ポリエステル(B1)を取り出し、この液晶ポリエステル(B1)を室温まで冷却した。このポリエステル(B1)の流動開始温度は、265℃であった。
【0072】
〔液晶ポリエステル微粒子(B)の製造〕
ジェットミル(栗本鐡工の「KJ-200」)を用いて、液晶ポリエステル(B1)を粉砕し、液晶ポリエステル微粒子(B)を得た。この液晶ポリエステル微粒子の平均粒径は9μmであった。
【0073】
〔分散液の調製〕
(実施例1~5)
上記で得られた液晶ポリエステル溶液に、表1に示す配合量で液晶ポリエステル微粒子(B)を添加し、撹拌脱泡装置((株)キーエンスのHM-500)を用いて分散液を調製した。
【0074】
【表1】
【0075】
(比較例2~8)
上記で得られた液晶ポリエステル溶液に、表2に示す配合量でシリカ微粒子((株)アドマテックス製 SO-C2、平均粒子径0.5μm)を添加し、撹拌脱泡装置((株)キーエンスのHM-500)を用いて分散液を調製した。
【0076】
【表2】
【0077】
(比較例9~13)
上記で得られた液晶ポリエステル溶液に、表3に示す配合量でテフロン微粒子((株)セントラル硝子製 セフラルルーブIP、平均粒子径10μm)を添加し、撹拌脱泡装置((株)キーエンスのHM-500)を用いて分散液を調製した。
【0078】
【表3】
【0079】
〔液晶ポリエステルフィルムの製造〕
実施例1~5、比較例2~13および、比較例1として微粒子を添加していない液晶ポリエステル溶液(A)を、銅箔(三井金属鉱業製 3EC-VLP 18μm)の粗化面に流延膜の厚さがそれぞれ表4~6の厚さになるように、マイクロメーター付フィルムアプリケーター(SHEEN社の「SA204」)と自動塗工装置(テスター産業(株)の「I型」)とを用いて流延した。その後、40℃、常圧(1気圧)にて、4時間乾燥することにより、流延膜から溶媒を部分的に除去した。
【0080】
尚、2回流延する場合は、1回目流延し上記乾燥条件で乾燥した後にさらに2回目の流延および乾燥を実施した。実施例1~5、比較例1~13で作製した乾燥後の銅箔付きフィルムをさらに窒素雰囲気下熱風オーブン中で室温から310℃まで4時間で昇温し、その温度で2時間保持する熱処理を行った。その結果、熱処理された銅箔付きフィルムが得られた。この銅箔付きフィルムについて、引張強度、ピール強度、誘電率、誘電正接の測定を行い、表7~9に示した。
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
【表8】
【0086】
【表9】
【0087】
上記結果に示したとおり、本発明を適用した実施例1~5は、比較例1~13と比べて、金属箔との密着強度と機械強度を損なうことなく、低い誘電正接を有していた。
図1
図2