(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】電気的エネルギの蓄積のための装置および該装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/39 20060101AFI20220104BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20220104BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20220104BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20220104BHJP
【FI】
H01M10/39 Z
H01M10/613
H01M10/615
H01M10/658
(21)【出願番号】P 2018547326
(86)(22)【出願日】2017-03-03
(86)【国際出願番号】 EP2017055067
(87)【国際公開番号】W WO2017153292
(87)【国際公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-02-28
(32)【優先日】2016-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ハイデブレヒト
(72)【発明者】
【氏名】ドムニク バイアー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ヤブツィンスキ
(72)【発明者】
【氏名】イェズス エンリケ ゼルパ ウンダ
(72)【発明者】
【氏名】アンナ カタリーナ デュル
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-523068(JP,A)
【文献】特開2002-184456(JP,A)
【文献】特開2001-118598(JP,A)
【文献】特開昭59-154776(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0311845(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0022687(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/39
H01M 10/613
H01M 10/615
H01M 10/658
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質(3)により離隔されているアノード室(5)およびカソード室(11)を有する少なくとも1つの電気化学セル(1)と、
前記アノード室(5)に接続されているアノード材料用の第1の貯蔵部(7)および前記カソード室(11)に接続されているカソード材料用の第2の貯蔵部(23)と、
を備えた電気的エネルギの蓄積のための装置であって、
前記アノード材料、前記カソード材料および前記カソード室中に生成する反応生成物は、作動温度で液体であり、前記カソード材料と前記反応生成物とは、異なる密度の非混和性の2つの相を形成し、前記カソード室(11)は、さらに、第3の貯蔵部(25)に接続されており、前記第2の貯蔵部(23)および前記第3の貯蔵部(25)は、1つのガス導管(33)を介して互いに接続されており、前記ガス導管(33)は、それぞれ前記第2の貯蔵部(23)および前記第3の貯蔵部(25)の上方領域に通じており、搬送方向を反転可能なガス用搬送装置(35)は、前記ガス導管(33)中に収容されており、さらに
(i)前記第2の貯蔵部(23)は、前記第2の貯蔵部(23)の下方領域に、前記カソード室(11)の上方領域に通じている導管(17)に接続されている取り出し部(27)を有し、前記第3の貯蔵部(25)は、前記第3の貯蔵部(25)中に収容される液体の表面(31)上に、前記カソード室(11)の下方領域に通じている導管(19)に接続されている取り出し部(29)を有する、または、
(ii)前記第2の貯蔵部(23)および前記第3の貯蔵部(25)は、前記貯蔵部の下方領域に、前記カソード室(11)の下方領域に通じている導管(19)に接続されている取り出し部(41)をそれぞれ有し、前記貯蔵部(23、25)中に収容される液体の表面(31)上に、前記カソード室(11)の上方領域に通じている導管(17)に接続されている取り出し部(43)をそれぞれ有する、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記第2の貯蔵部(23)は、前記電気化学セル(1)の上方に配置されており、
前記第3の貯蔵部(25)は、前記電気化学セル(1)の下方に配置されていることを特徴とする、
請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記搬送方向を反転可能なガス用搬送装置(35)は、流動方向を反転可能な圧縮機ユニットであることを特徴とする、
請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記第2の貯蔵部(23)と前記ガス用搬送装置(35)との間に、かつ/または、前記第3の貯蔵部(25)と前記ガス用搬送装置(35)との間に、凝縮物分離装置が配置されていることを特徴とする、
請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記第2の貯蔵部(23)および前記第3の貯蔵部(25)は、前記貯蔵部(23、25)の下方領域に、前記カソード室(11)の下方領域に通じている導管(19)に接続されている取り出し部(41)をそれぞれ有し、前記貯蔵部(23、25)中に収容される液体の表面(31)上に、前記カソード室(11)の上方領域に通じている導管(17)に接続されている取り出し部(43)をそれぞれ有し、
前記第2の貯蔵部(23)および前記第3の貯蔵部(25)は、液体が前記第2の貯蔵部(23)から第3の貯蔵部(25)中に直接送られ得るように互いに接続されていることを特徴とする、
請求項1、3または4のいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
前記第2の貯蔵部(23)もしくは前記第3の貯蔵部(25)は、温度調節のための装置を備えている、または、
前記第2の貯蔵部(23)および前記第3の貯蔵部(25)は、それぞれ温度調節のための装置を備えていることを特徴とする、
請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
請求項1から4までのいずれか1項記載の電気的エネルギの蓄積のための装置(1)の作動のための方法であって、アノード材料として溶融アルカリ金属が使用され、カソード材料として硫黄が使用され、前記方法は、
(a)電気的エネルギの蓄積のための装置(1)の充電のために前記カソード室(11)中に多硫化アルカリ金属を貫流させる工程、または、電気的エネルギの蓄積のための装置(1)の放電のために前記カソード室(11)中に硫黄を貫流させる工程であって、前記多硫化アルカリ金属は、前記第3の貯蔵部(25)の下方から前記カソード室(11)中に導入され、前記カソード室(11)を下方から上方へと貫流し、その際、前記多硫化アルカリ金属の一部は、硫黄に変換され、前記多硫化アルカリ金属および前記硫黄は、上方で前記カソード室(11)から取り出されて、前記第2の貯蔵部(23)中に導入される、または、前記硫黄は、前記第2の貯蔵部(23)の上方から前記カソード室(11)中に導入され、前記カソード室(11)を上方から下方へと貫流し、その際、前記硫黄の一部は、多硫化アルカリ金属に変換され、前記硫黄および前記多硫化アルカリ金属は、前記カソード室(11)の下方領域で取り出されて、前記第3の貯蔵部(25)中に導入される工程、
(b)流動方向を反転させ、充電過程において多硫化アルカリ金属を前記第2の貯蔵部(23)から前記第3の貯蔵部(25)中に返送し、放電過程において硫黄を前記第3の貯蔵部(25)から前記第2の貯蔵部(23)中に返送する工程、
(c)工程(a)および(b)を繰り返す工程、
を含む方法。
【請求項8】
それぞれ工程(a)の実施の前に、前記装置の充電時には硫黄は、前記第3の貯蔵部(25)から前記カソード室(11)を通じて前記第2の貯蔵部(23)中へと、そして前記装置の放電時には多硫化アルカリ金属は、前記第2の貯蔵部(23)から前記カソード室(11)を通じて前記第3の貯蔵部(25)中へと、それぞれ多硫化アルカリ金属が充電の間にカソード室(11)を通じて送られる速度および硫黄が放電の間にカソード室(11)を通じて送られる速度よりも高い速度で送られることを特徴とする、
請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項5記載の電気的エネルギの蓄積のための装置の作動のための方法であって、アノード材料として溶融アルカリ金属が使用され、カソード材料として硫黄が使用され、前記方法は、
(1.i)前記電気的エネルギの蓄積のための装置の充電のために前記カソード室(11)中に多硫化アルカリ金属を貫流させる工程であって、前記多硫化アルカリ金属は、前記第2の貯蔵部(23)から前記取り出し部(41)および前記導管(19)を介して、前記カソード室(11)と前記導管(17)と前記取り出し部(43)を通じて前記第3の貯蔵部(25)中へと流れ、充電時に前記カソード室(11)を通じて貫流する間に、前記多硫化アルカリ金属の一部は、硫黄に変換され、こうして前記カソード室(11)の貫流後に前記第3の貯蔵部(25)において、上部の液相(37)は、硫黄から構成されており、下部の液相(39)は、多硫化アルカリ金属から構成されている工程、
(1.ii)前記多硫化アルカリ金属の少なくとも一部が前記第2の貯蔵部(23)から取り出された後に、前記(1.i)の工程の流動方向を反転させる工程、
(1.iii)前記電気的エネルギの蓄積のための装置の充電のために前記カソード室(11)中に多硫化アルカリ金属を貫流させる工程であって、前記多硫化アルカリ金属は、前記第3の貯蔵部(25)から前記取り出し部(41)および前記導管(19)を介して、前記カソード室(11)と前記導管(17)と前記取り出し部(43)を通じて前記第2の貯蔵部(23)中へと流れ、充電時に前記カソード室(11)を通じて貫流する間に、前記多硫化アルカリ金属の一部は、硫黄に変換され、こうして前記カソード室(11)の貫流後に前記第2の貯蔵部(23)において、上部の液相(37)は、硫黄から構成されており、下部の液相(39)は、多硫化アルカリ金属から構成されている工程、または、前記第3の貯蔵部(25)の内容物を前記第2の貯蔵部(23)中に直接的に返送する工程、
(1.iv)前記多硫化アルカリ金属の少なくとも一部が前記第3の貯蔵部(25)から取り出された後に、前記(1.iii)の工程の流動方向を反転させる工程、
(1.v)前記(1.i)の工程~前記(1.iv)の工程を繰り返す工程
を含み、その際、前記多硫化アルカリ金属は、充電時に、前記多硫化アルカリ金属が下方から上方へと前記カソード室(11)を通じて流れるように供給されること、
または、
(2.i)電気的エネルギの蓄積のための装置の放電のために前記カソード室(11)中に硫黄を貫流させる工程であって、前記硫黄は、前記第2の貯蔵部(23)から前記取り出し部(43)および前記導管(17)を介して、前記カソード室(11)と前記導管(19)と前記取り出し部(41)を通じて前記第3の貯蔵部(25)中へと流れ、放電時に前記カソード室(11)を通じて貫流する間に、前記硫黄の一部は、多硫化アルカリ金属に変換され、こうして前記カソード室(11)の貫流後に前記第3の貯蔵部(25)において、上部の液相(37)は、硫黄から構成されており、下部の液相(39)は、多硫化アルカリ金属から構成されている工程、
(2.ii)前記硫黄の少なくとも一部が前記第2の貯蔵部(23)から取り出された後に、前記(2.i)の工程の流動方向を反転させる工程、
(2.iii)前記電気的エネルギの蓄積のための装置の放電のために前記カソード室(11)中に硫黄を貫流させる工程であって、前記硫黄は、前記第3の貯蔵部(25)から前記取り出し部(43)および前記導管(17)を介して、前記カソード室(11)と前記導管(19)と前記取り出し部(41)を通じて前記第2の貯蔵部(23)中へと流れ、放電時に前記カソード室(11)を通じて貫流する間に、前記硫黄の一部は、多硫化アルカリ金属に変換され、こうして前記カソード室(11)の貫流後に前記第2の貯蔵部(23)において、上部の液相(37)は、硫黄から構成されており、下部の液相(39)は、多硫化アルカリ金属から構成されている工程、または、前記第3の貯蔵部(25)の内容物を前記第2の貯蔵部(23)中に直接的に返送する工程、
(2.iv)前記硫黄の少なくとも一部が前記第3の貯蔵部(25)から取り出された後に、前記(2.iii)の工程の流動方向を反転させる工程、
(2.v)前記(2.i)の工程~前記(2.iv)の工程を繰り返す工程
を含み、その際、前記硫黄は、放電時に、前記硫黄が上方から下方へと前記カソード室(11)を通じて流れるように供給されること、
または、
(3.i)前記電気的エネルギの蓄積のための装置の充電のために前記カソード室(11)中に多硫化アルカリ金属を貫流させる工程であって、前記多硫化アルカリ金属は、前記第2の貯蔵部(23)から前記取り出し部(41)および前記導管(19)を介して、前記カソード室(11)と前記導管(17)と前記取り出し部(43)を通じて前記第3の貯蔵部(25)中へと流れ、充電時に前記カソード室(11)を通じて貫流する間に、前記多硫化アルカリ金属の一部は、硫黄に変換され、こうして前記カソード室(11)の貫流後に前記第3の貯蔵部(25)において、上部の液相(37)は、硫黄から構成されており、下部の液相(39)は、多硫化アルカリ金属から構成されている工程、
(3.ii)前記硫黄の少なくとも一部または前記多硫化アルカリ金属の少なくとも一部が前記第2の貯蔵部(23)から取り出された後に、前記(3.i)の工程の流動方向を反転させる工程、
(3.iii)前記電気的エネルギの蓄積のための装置の放電のために前記カソード室(11)中に硫黄を貫流させる工程であって、前記硫黄は、前記第3の貯蔵部(25)から前記取り出し部(43)および前記導管(17)を介して、前記カソード室(11)と前記導管(19)と前記取り出し部(41)を通じて前記第2の貯蔵部(23)中へと流れ、
放電時に前記カソード室(11)を通じて貫流する間に、前記硫黄の一部は、多硫化アルカリ金属に変換され、こうして前記カソード室(11)の貫流後に前記第2の貯蔵部(23)において、上部の液相(37)は、硫黄から構成されており、下部の液相(39)は、多硫化アルカリ金属から構成されている工程、または、前記第3の貯蔵部(25)の内容物を前記第2の貯蔵部(23)中に直接的に返送する工程、
(3.iv)前記硫黄の少なくとも一部または前記多硫化アルカリ金属の少なくとも一部が前記第3の貯蔵部(25)から取り出された後に、前記(3.iii)の工程の流動方向を反転させる工程、
(3.v)前記(3.i)の工程~前記(3.iv)の工程を繰り返す工程
を含み、その際、前記多硫化アルカリ金属は、充電時に、前記多硫化アルカリ金属が下方から上方へと前記カソード室(11)を通じて流れるように供給され、前記硫黄は、放電時に、前記硫黄が上方から下方へと前記カソード室(11)を通じて流れるように供給されること、
または、
(4.i)前記電気的エネルギの蓄積のための装置の放電のために前記カソード室(11)中に硫黄を貫流させる工程であって、前記硫黄は、前記第2の貯蔵部(23)から前記取り出し部(43)および前記導管(17)を介して、前記カソード室(11)と前記導管(19)と前記取り出し部(41)を通じて前記第3の貯蔵部(25)中へと流れ、放電時に前記カソード室(11)を通じて貫流する間に、前記硫黄の一部は、多硫化アルカリ金属に変換され、こうして前記カソード室(11)の貫流後に前記第3の貯蔵部(25)において、上部の液相(37)は、硫黄から構成されており、下部の液相(39)は、多硫化アルカリ金属から構成されている工程、
(4.ii)前記硫黄の少なくとも一部または前記多硫化アルカリ金属の少なくとも一部が前記第2の貯蔵部(23)から取り出された後に、前記(4.i)の工程の流動方向を反転させる工程、
(4.iii)電気的エネルギの蓄積のための装置の充電のために前記カソード室(11)中に多硫化アルカリ金属を貫流させる工程であって、前記多硫化アルカリ金属は、前記第3の貯蔵部(25)から前記取り出し部(41)および前記導管(19)を介して、前記カソード室(11)と前記導管(17)と前記取り出し部(43)を通じて前記第2の貯蔵部(23)中へと流れ、充電時に前記カソード室(11)を通じて貫流する間に、前記多硫化アルカリ金属の一部は、硫黄に変換され、こうして前記カソード室(11)の貫流後に前記第2の貯蔵部(23)において、上部の液相(37)は、硫黄から構成されており、下部の液相(39)は、多硫化アルカリ金属から構成されている工程、または、前記第3の貯蔵部(25)の内容物を前記第2の貯蔵部(23)中に直接的に返送する工程、
(4.iv)前記硫黄の少なくとも一部または前記多硫化アルカリ金属の一部が前記第3の貯蔵部(25)から取り出された後に、前記(4.iii)の工程の流動方向を反転させる工程、
(4.v)工程(4.i)~(4.iv)を繰り返す工程
を含み、その際、前記多硫化アルカリ金属は、充電時に、前記多硫化アルカリ金属が下方から上方へと前記カソード室(11)を通じて流れるように供給され、前記硫黄は、放電時に、前記硫黄が上方から下方へと前記カソード室(11)を通じて流れるように供給されること、を含む、
方法。
【請求項10】
前記硫黄または前記多硫化アルカリ金属の搬送を、充填される貯蔵部(23、25)から空にされる貯蔵部(25、23)へのガスの搬送により行うことを特徴とする、
請求項7から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記電気化学セル(1)の通常作動時のカソード室(11)の貫流に際してアルカリ金属または硫黄の温度変化の絶対値が40℃未満であるように、前記多硫化アルカリ金属または前記硫黄の流動速度を調整することを特徴とする、
請求項7から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記アルカリ金属は、ナトリウムであることを特徴とする、
請求項7から11までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質により離隔されているアノード室およびカソード室を有する少なくとも1つの電気化学セルと、前記アノード室に接続されているアノード材料用の第1の貯蔵部および前記カソード室に接続されているカソード材料用の第2の貯蔵部と、を備えた電気的エネルギの蓄積のための装置に基づくものである。本発明はさらに、電気的エネルギの蓄積のための装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的エネルギの蓄積のために使用される電気化学セルは、一般的にバッテリまたは蓄電池と呼ばれる。その他の電気化学的装置は、例えば電解セルである。電解セルは、例えば適切なアルカリ金属含有塩からアルカリ金属を製造するために使用することができる。
【0003】
周囲温度で作動するバッテリの他に、周囲温度を上回る作動温度を必要とするバッテリも存在する。このバッテリは概して、溶融液状の電解質により作動する電気化学セルであって、少なくとも1種の電解質の溶融温度が周囲温度を上回る電気化学セルである。相応のバッテリは、例えばアルカリ金属および硫黄を基礎とし、硫黄もアルカリ金属も溶融された状態で使用されるバッテリである。
【0004】
アノードとしての溶融アルカリ金属およびカソード側の反応相手、一般に硫黄を基礎として動作する相応のバッテリは、例えば独国特許出願公開第2635900号明細書(DE-A2635900)または独国特許出願公開第2610222号明細書(DE-A2610222)において知られている。この場合に、前記溶融アルカリ金属およびカソード側の反応相手は、カチオン透過性の固体電解質により離隔されている。カソード上でアルカリ金属とカソード側の反応相手との反応が行われる。その反応は、例えばアルカリ金属としてナトリウムが使用され、かつカソード側の反応相手として硫黄が使用される場合には、ナトリウムおよび硫黄の多硫化ナトリウムへの反応である。該バッテリの充電のためには、多硫化ナトリウムは、電極上で電気的エネルギをかけることにより再びナトリウムと硫黄とに分離される。
【0005】
溶融アルカリ金属およびカソード側の反応相手を基礎とするバッテリの蓄積能力を拡大するためには、使用される反応物の量が追加の貯留槽により増大されるバッテリが使用される。放電のために液体ナトリウムが固体電解質に供給される。その液体ナトリウムは同時にアノードとしても作用し、カチオンを形成し、該カチオンはカチオン伝導性固体電解質を通じてカソードへと輸送される。カソード上で、そのカソード付近を流れている硫黄が還元されて多硫化物となる、つまりはナトリウムイオンと反応して多硫化ナトリウムとなる。
【0006】
相応の多硫化ナトリウムは、さらなる容器内に収集され得る。あるいは多硫化ナトリウムを硫黄と一緒にカソード室の周りにある容器内に収集することも可能である。密度差に基づき、硫黄は浮上し、そして多硫化ナトリウムは下降する。この密度差は、カソードに沿った流動を引き起こすためにも用いることができる。相応するバッテリ設計は、例えば国際公開第2011/161072号パンフレット(WO2011/161072)に記載されている。
【0007】
独国特許出願公開第102011110843号明細書(DE-A102011110843)から、溶融ナトリウムおよび溶融硫黄を基礎とするバッテリであって、ナトリウム用と硫黄用と多硫化ナトリウム用の個別の貯蔵部が設けられており、作動時にそれぞれ必要とされる物質が該バッテリのセル中を流れるバッテリが知られている。ナトリウム用導管および多硫化物用導管には、電流ドレインのために電極が配置されている。
【0008】
国際公開第2010/135283号パンフレット(WO-A2010/135283)においては、作動範囲を拡大するためにナトリウム用および硫黄用の個別の容器が使用されるさらなるナトリウム硫黄電池が記載されている。この場合に、ナトリウムおよび硫黄は、それぞれポンプにより電気化学セルのそれぞれの電解質室を通じて送られる。これにより連続流動が生じるので、硫黄側で形成される多硫化ナトリウムは前記電解質室から連続的に排出される。
【0009】
すべての電気化学反応物が溶融液状で存在し、そしてより高い温度で初めてイオン伝導性セラミック膜の最適な伝導性範囲に到達するので、そのようなバッテリの作動温度は、通常は300℃~370℃の範囲である。その場合の最高温度は、一般的に固体電解質として使用されるセラミックの分解から導き出される。
【0010】
それらのセルの調温のためには、例えば特開2010-212099号公報(JP-A2010-212099)および独国特許出願公開第4029901号明細書(DE-A4029901)から、電気化学セルの周りを流れる調温媒体を使用することが知られている。
【0011】
しかしながら、これらのすべてのシステムの欠点は、複数のセルを接続して1つのバッテリとする場合に、内側に存在する電気化学セルからは熱が外側に向かって放出され得ず、それにより内側に存在するセルが外側に存在するセルよりも明らかに高温となるということである。それは、しばしば運転停止または連続的な作動における出力の抑制を必要とすることがあり、これはバッテリの経済性を損ねる。さらに、そのようなバッテリの、例えば停止または再稼働のための加熱および冷却は、非常に控えめな経時的な温度勾配で、それにより大きな時間の浪費をもって可能となるにすぎない。
【0012】
従来技術から公知のバッテリのさらなる欠点は、硫黄およびアルカリ金属の搬送のために液体硫黄または液体アルカリ金属と直接的に接触する搬送装置、一般にポンプを使用せねばならないことである。そのことは、高い腐食度を引き起こし、それにより整備および点検作業を必要とするため頻繁なバッテリの停止をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の課題は、従来技術から知られる欠点を有さない、少なくとも1つの電気化学セルを備えた電気的エネルギの蓄積のための装置およびそのような装置の作動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題は、固体電解質により離隔されているアノード室およびカソード室を有する少なくとも1つの電気化学セルと、前記アノード室に接続されているアノード材料用の第1の貯蔵部および前記カソード室に接続されているカソード材料用の第2の貯蔵部と、を備えた電気的エネルギの蓄積のための装置であって、前記カソード室はさらに、第3の貯蔵部に接続されており、前記第2の貯蔵部および前記第3の貯蔵部は1つのガス導管を介して互いに接続されており、前記ガス導管は、第2の貯蔵部および第3の貯蔵部のそれぞれの上方領域に通じており、搬送方向を反転可能なガス用搬送装置が前記ガス導管中に収容されており、さらに
(i)前記第2の貯蔵部は、該貯蔵部の下方領域に、前記カソード室の上方領域に通じている導管に接続されている取り出し部を有し、かつ前記第3の貯蔵部は、該第3の貯蔵部中に収容される液体の表面上に、前記カソード室の下方領域に通じている導管に接続されている取り出し部を有すること、または
(ii)前記第2の貯蔵部および前記第3の貯蔵部は、該貯蔵部の下方領域に、前記カソード室の下方領域に通じている導管に接続されている取り出し部をそれぞれ有し、かつ前記貯蔵部中に収容される液体の表面上に、前記カソード室の上方領域に通じている導管に接続されている取り出し部をそれぞれ有する、装置によって解決される。
【0015】
前記ガス導管に接続されている第2の貯蔵部および第3の貯蔵部の使用によって、カソード材料または反応生成物と接触するポンプを追加的に使用することなく、放電時にカソード室中のカソード材料および該カソード室中で生ずる反応生成物を該カソード室からそれぞれの貯蔵部へと輸送することが可能となり、またはバッテリの充電時に該反応生成物をカソード室中に輸送し、そして該カソード室中で生ずるカソード材料をそれぞれの貯蔵部へと輸送することが可能となる。これにより、カソード材料または生ずる反応生成物との接触に基づくポンプの腐食により必要とされる整備作業による作動の中断を回避することができる。カソード材料および反応生成物のカソード室を通じた輸送は、重力の支援と、一方の貯蔵部からもう一方の貯蔵部へのガスの搬送により発生する圧力差とによるだけで行われる。
【0016】
特に有利な実施形態においては、カソード材料として硫黄が使用され、かつアノード材料としてアルカリ金属、特にナトリウムが使用される。生成される反応生成物は、多硫化アルカリ金属であり、以下では多硫化物とも呼ばれる。
【0017】
硫黄およびアルカリ金属の使用の他にも、アノード材料、カソード材料および反応生成物が作動温度で液状であり、そしてさらにカソード材料および反応生成物が、異なる密度の混和し得ない2つの相を形成するのであれば、本発明による装置および本発明による方法を別のカソード材料およびアノード材料のためにも使用することができる。分かりやすくするために、前記装置も前記方法も、以下ではカソード材料としての硫黄およびアノード材料としてのアルカリ金属の例で記載する。
【0018】
硫黄または多硫化アルカリ金属のカソード室を通じた輸送の重力による支援は、例えば、第2の貯蔵部が電気化学セルの上方に配置されており、かつ第3の貯蔵部が電気化学セルの下方に配置されている場合に実現することができる。この場合に、硫黄は重力によってのみ駆動されて、第2の貯蔵部から電気化学セルを通じて第3の貯蔵部中に流れることができる。前記多硫化アルカリ金属は硫黄よりも高い密度を有するので、多硫化アルカリ金属は、カソード室中で形成した場合に下方に向かって下降し、こうして同様に重力によってのみ取り出し、そして第3の貯蔵部中に導入することができる。
【0019】
上方の第2の貯蔵部からカソード室を通じて下方の第3の貯蔵部中への硫黄および多硫化アルカリ金属の流動速度が高められるべき場合には、ここでは該第2の貯蔵部中にガスを導入し、それに関連した第2の貯蔵部中の圧力上昇によって硫黄の輸送を支援することもできる。
【0020】
第2の貯蔵部を電気化学セルの上方に配置するとともに、第3の貯蔵部を電気化学セルの下方に配置することのさらなる利点は、連続的な脱気が可能であることである。カソード室または導管中に生じ得る気泡は、第2の貯蔵部において上方に昇るため、管中での硫黄の輸送を妨げることもなく、または電極の一部を遮断することもない。
【0021】
さらに、圧力上昇によって、すなわち上方の第2の貯蔵部中へのガスの導入によって、全液体、すなわち硫黄および多硫化アルカリ金属を、第2の貯蔵部からも電気化学セルのカソード室からも第3の貯蔵部中に押し出すことが可能であるので、こうして該電気化学セルは十分に空にされる。これにより、例えば検査目的の硫黄または多硫化アルカリ金属の固化温度を下回る温度へのバッテリの冷却に際して、固体電解質の破壊の危険性は明白に低減される。また再始動時の安全な加熱も可能である。それというのも、硫黄および多硫化物の加熱は下方の貯蔵部で行われ、空のセルを加熱する必要があるにすぎないからである。
【0022】
バッテリの充電のためにはその流動方向を反転させねばならず、かつ多硫化アルカリ金属をカソード室中に導入せねばならないので、この作動状態のために、ガスを第3の貯蔵部中に導入する必要があり、こうして高められた圧力に基づき前記多硫化アルカリ金属はカソード室中に導入され、硫黄は上方でカソード室から取り出され得る。このために、搬送方向を反転可能なガス用搬送装置が必要である。
【0023】
搬送方向を反転可能なガス用搬送装置としては、例えば流動方向を反転可能な圧縮機ユニットを使用することができる。相応の圧縮機ユニットを使用することによって、相応の遮断装置、特に弁またはコックと連係して、ガスを第2の貯蔵部から第3の貯蔵部中へと、または逆方向において第3の貯蔵部から第2の貯蔵部中へと搬送することができる。これにより、ガスが搬送された貯蔵部中の圧力は高まり、ガスが取り出された別の貯蔵部中の圧力は低下する。しかしながら、流動方向を反転可能な圧縮機ユニットに代えて、反転可能な搬送方向を、当業者に公知のあらゆる任意の別の方式でも実現することができる。したがって例えば、1つ目の搬送装置がその一方の方向に搬送し、2つ目の搬送装置がその逆方向に搬送するそれぞれ1つの搬送装置を備える2つの平行な導管を設け、そして弁を用いてそれぞれ所望の方向に応じて前記2つの導管の1つを通じてガスを搬送することが可能である。その場合に、搬送装置としては、ガス輸送を実現することができるあらゆる任意の装置を使用することができる。通常の搬送装置は圧縮機である。
【0024】
ガス搬送のために使用される圧縮機中で硫黄が凝縮することを回避するために、有利な実施形態においては、第2の貯蔵部とガス用搬送装置との間に、かつ/または第3の貯蔵部とガス用搬送装置との間に、凝縮物分離装置が配置されている。前記凝縮物分離装置は、好ましくは、ガス中に含まれる硫黄が凝縮生成し、それを分離することができる温度で作動する。ガス中に含まれる硫黄の分離は、ガス用搬送装置が硫黄の凝縮温度を下回る温度で作動する場合に特に必要である。この場合に、ガス中に含まれる硫黄は搬送装置中で凝縮生成して、特に腐食による損傷をもたらすことがある。硫黄が搬送装置中に到達しないように、前記凝縮物分離装置は、好ましくはガスの流動方向において搬送装置の手前に配置されている。
【0025】
硫黄の分離のために望まれるより低い温度は、一方では凝縮物分離装置の冷却によって達成することができるが、その一方で、その温度がバッテリの作動温度よりも低い場所に該凝縮物分離器を配置することも可能である。そのような場所は、例えばバッテリの作動のために必要な断熱の外側である。
【0026】
凝縮物分離装置の代わりにまたはそれに加えて、第2の貯蔵部とガス用搬送装置との間に、かつ第3の貯蔵部とガス用搬送装置との間に蛇腹を設けることも可能である。該蛇腹を使用することによって、搬送装置により輸送されたガスは、それぞれ第2の貯蔵部および第3の貯蔵部中に含まれるガス雰囲気から完全に切り離すことが可能である。
【0027】
少なくともガス輸送のために使用される導管の一部の中に硫黄または多硫化物が含まれていることを避けることはできず、かつ硫黄も多硫化物も腐食作用があるので、該導管に適切な防食性をもたせることが有利である。このために、例えば前記導管をクロメート処理することが可能である。
【0028】
本発明の実施形態においては、前記第2の貯蔵部および前記第3の貯蔵部は、該貯蔵部の下方領域に、前記カソード室の下方領域に通じている導管に接続されている取り出し部をそれぞれ有し、かつ前記貯蔵部中に収容される液体の表面上に、前記カソード室の上方領域に通じている導管に接続されている取り出し部をそれぞれ有し、かつ前記第2の貯蔵部および前記第3の貯蔵部は、液体が該第2の貯蔵部から第3の貯蔵部中に直接送られ得るように互いに接続されている。前記第2の貯蔵部および前記第3の貯蔵部のこの接続は、バッテリの充電に際しては未反応の多硫化物が、またはバッテリの放電に際しては未反応の硫黄が直接的に再びその貯蔵部中に返送され、その貯蔵部からその多硫化物または硫黄がカソード室へと導入されることを可能にし、こうして全硫黄または全多硫化物が変換され、または予定した変換率または予定した作動時間が達成されるまで該バッテリの連続的な作動が可能となる。硫黄または多硫化物を直接的に第2の貯蔵部から第3の貯蔵部へと、または第3の貯蔵部から第2の貯蔵部へと搬送し得る相応の導管が設けられていない場合には、前記第2の貯蔵部または前記第3の貯蔵部が空になった後に、未反応の多硫化物または未反応の硫黄を、カソード室を通じて返送する必要がある。充電作業または放電作業の中断はそれにより必要とされない。それというのも、さらに多硫化物は充電の間に利用可能であり、かつ硫黄は放電の間にカソード室において利用可能であるからである。
【0029】
電気的エネルギを蓄積するための装置の本発明による構造は、前記電気化学セルを、硫黄または多硫化物のカソード室を通じた十分に高い流動速度によって調温することを可能にする。この場合に適切な調温操作のためには、第2の貯蔵部および第3の貯蔵部がそれぞれ温度調節のための装置を備えることが有利である。温度調節のための装置により、前記第2の貯蔵部および第3の貯蔵部における温度は設定値に調節することができる。これにより、例えば硫黄または多硫化物がカソード室を流過したときに吸収または放出された熱は、前記温度調節のための装置を用いて、引き続き貯蔵部中で放出または供給することが可能であるので、該硫黄および/または多硫化物は前記第2の貯蔵部または第3の貯蔵部において、好ましくは第2の貯蔵部および第3の貯蔵部において所定の設定温度に保持することができる。前記温度調節のための装置としては、当業者に公知のあらゆる任意の装置が適している。こうして例えば、温度の把握のための温度センサと、適切な加熱ユニットおよび適切な冷却ユニット、あるいは加熱ユニットと冷却ユニットの組合せ物とを設けることが可能である。加熱または冷却のためには、例えば調温媒体が貫流する導管が貯蔵部中に設けられていてよく、あるいは調温媒体が貫流する貯蔵部の二重ジャケットが設けられていてもよい。その代わりに、特に加熱のためには、電気的加熱エレメントも使用され得る。電気的エネルギの蓄積のための装置は高められた温度で作動するので、冷却は、周囲への放熱によっても実現することができると考えられる。
【0030】
それぞれ第2の貯蔵部および第3の貯蔵部に接続されている電気化学セルの数は、任意の大きさで選択することができる。このように任意に1つだけ電気化学セルが設けられていてよいが、数千個までの電気化学セルを設けることも可能である。この場合に、電気化学セルの数は、電気的エネルギの蓄積のための装置の所望の電力に依存する。その場合に個々のセルは、電気的に直列にまたは並列に接続されていてよい。またそれぞれ複数の電気化学セルを直列に接続して、これらの複数の列を並列にまたは複数の電気化学セルを並列に接続してモジュールとし、それぞれ並列に接続されたモジュールを直列に接続することも可能である。
【0031】
アノード材料として溶融アルカリ金属が使用され、かつカソード材料として硫黄が使用される電気的エネルギの蓄積のための装置の個々の電気化学セルの温度を調整し得るためには、前記装置は、好ましくは以下の工程:
(a)電気的エネルギの蓄積のための装置の充電のために前記カソード室中に多硫化アルカリ金属を貫流させる工程、または電気的エネルギの蓄積のための装置の放電のために前記カソード室中に硫黄を貫流させる工程であって、前記多硫化アルカリ金属は、前記第3の貯蔵部から下方より該カソード室中に導入され、カソード室を下方から上方へと貫流し、その際、その多硫化アルカリ金属の一部は硫黄に変換され、かつ該多硫化アルカリ金属および該硫黄は前記カソード室の上方から取り出されて、前記第2の貯蔵部中に導入される、または前記硫黄は、前記第2の貯蔵部から上方より該カソード室中に導入され、カソード室を上方から下方へと貫流し、その際、その硫黄の一部は多硫化アルカリ金属に変換され、かつ該硫黄および該多硫化アルカリ金属は前記カソード室の下方領域で取り出されて、前記第3の貯蔵部中に導入される工程、
(b)流動方向を反転させ、充電過程においては多硫化アルカリ金属を第2の貯蔵部から第3の貯蔵部中に返送し、そして放電過程においては硫黄を第3の貯蔵部から第2の貯蔵部中に返送する工程、
(c)工程(a)および(b)を繰り返す工程
を有する方法に従って作動する。
【0032】
硫化アルカリ金属を下方からカソード室中に導入し、カソード室の導通の際に形成された硫黄だけでなく未反応の多硫化アルカリ金属をカソード室の上方から取り出すことによって、または硫黄を上方でカソード室中に導入し、カソード室中で形成された多硫化アルカリ金属だけでなく未反応の硫黄を下方でカソード室から取り出すことによって、硫黄と多硫化アルカリ金属との間の密度差が支援的に利用される。多硫化アルカリ金属は、硫黄より大きな密度を有するため下方に向かって下降し、装置の充電に際して生成する硫黄はより小さな密度を有するため上昇する。放電時の取り出しは下方で行われ、充電時にはそれは上方で行われるので、放電過程では特に多硫化アルカリ金属もカソード室から取り出され、こうしてその多硫化アルカリ金属は電極上でのさらなる反応を遮断しない。本方法は、放電時に常に新たな硫黄が供給され、電極上を流れることを可能にする。相応して、充電時に該装置は、特に生成する硫黄もカソード室から取り出されるため、後に供給される多硫化アルカリ金属が電極と接触して、アルカリ金属および硫黄へと変換され、そのアルカリ金属は、固体電解質中を導通する。この流動操作は、従来技術から公知のアルカリ金属および硫黄を基礎とするバッテリとは異なり、単純な平坦な電極の使用を可能にする。それというのも、この電極が蓄積機能を有する必要がないからである。さらに、電極の周りの空間も、液滴が付着したままにならないような大きさでありさえすればよい。またここでは、追加の蓄積容量は必要とされない。カソード室は蓄積機能を有さず、さらに電極が平坦でかつ蓄積機能なしに構成され得るので、同じ容積の電気的エネルギの蓄積のための装置において、従来技術から公知のセル構成の場合よりも多数のセルを収容することが可能である。
【0033】
第2の貯蔵部および第3の貯蔵部が、液体を直接的に第2の貯蔵部から第3の貯蔵部中に送ることができ、またはその反対に液体を第3の貯蔵部から直接的に第2の貯蔵部中に送ることができるように互いに接続されている場合に、前記工程(b)の実施の前に、流動方向の反転に際して、多硫化アルカリ金属または硫黄が直接的な接続を介してもう一方の貯蔵部中に送られるように、相応の接続を開放することが可能である。しかしながら、相応の導管が設けられていない場合には、流動方向の反転の後に、多硫化アルカリ金属または硫黄を、カソード室を通じてそれぞれもう一方の貯蔵部中に返送することも可能であり、この場合には、電気的エネルギの蓄積のための装置の作動、すなわち充電または放電は、カソード室中に存在する多硫化物が充電の間に電極上で変換されるまでの間、またはカソード室中に存在する硫黄が放電の間に電極上で変換されるまでの間、続行することができる。
【0034】
工程(b)においてアルカリ金属または硫黄が返送される場合に、充電作業または放電作業の中断を避けるために、それぞれ工程(a)の実施の前に、装置の充電時に硫黄は、多硫化アルカリ金属が充電の間にカソード室を通じて送られる速度よりも高い速度で第3の貯蔵部からカソード室を通じて第2の貯蔵部中へと、そして装置の放電時に多硫化アルカリ金属は、硫黄が放電の間にカソード室を通じて送られる速度よりも高い速度で、第2の貯蔵部からカソード室を通じて第3の貯蔵部中へとそれぞれ送られることが有利である。
【0035】
放電時に硫黄が第2の貯蔵部の元に搬送される上記の方法、または充電時にアルカリ金属が第3の貯蔵部の元に搬送される上記の方法は、第2の貯蔵部が電気化学セルの上方に配置されており、かつ第3の貯蔵部が電気化学セルの下方に配置されている電気的エネルギの蓄積のための装置の構造において特に適している。この構造は、前記電気化学セルを、エネルギ欠如の場合にも単に重力に基づいて完全に空にすることができるため、材料が固体電解質の周りで固化せず固体電解質または電極の損傷に導くことがないという追加的な利点を有する。
【0036】
第2の貯蔵部および第3の貯蔵部として、硫黄用の取り出し部だけでなく、多硫化物用の取り出し部も備えている貯蔵部がそれぞれ使用され、その際、硫黄用の取り出し部が、例えば液体表面上に載っているフロートにより実現することができ、かつ多硫化物用の取り出し部が、貯蔵部の下方側にある場合に、充電のためだけでなく放電のためにも、多硫化物あるいは硫黄を、まずは第2の貯蔵部から第3の貯蔵部中へと送り、予定した状態に至ったら、第3の貯蔵部から第2の貯蔵部中へと反転した方向に送ることが可能である。相応の方法は、その際に以下の工程:
(i)電気的エネルギの蓄積のための装置の充電のために前記カソード室中に多硫化アルカリ金属を貫流させる工程、または電気的エネルギの蓄積のための装置の放電のために前記カソード室中に硫黄を貫流させる工程であって、前記多硫化アルカリ金属または前記硫黄は、第2の貯蔵部から第3の貯蔵部中へと流れ、放電時にカソード室を通じて貫流する場合に、その硫黄の一部は多硫化アルカリ金属に変換され、そして充電時にその多硫化アルカリ金属の一部は硫黄に変換され、こうして前記カソード室の貫流後に前記第3の貯蔵部において、上部の液相は硫黄から構成されており、かつ下部の液相は多硫化アルカリ金属から構成されている工程、
(ii)前記硫黄の少なくとも一部または前記多硫化アルカリ金属の少なくとも一部が第2の貯蔵部から取り出された後に、前記流動方向を反転させる工程、
(iii)電気的エネルギの蓄積のための装置の充電のために前記カソード室中に多硫化アルカリ金属を貫流させる工程、または電気的エネルギの蓄積のための装置の放電のために前記カソード室中に硫黄を貫流させる工程であって、前記多硫化アルカリ金属または前記硫黄は、第3の貯蔵部から第2の貯蔵部中へと流れ、放電時にカソード室を通じて貫流する場合に、その硫黄の一部は多硫化アルカリ金属に変換され、そして充電時にその多硫化アルカリ金属の一部は硫黄に変換され、こうして前記カソード室の貫流後に前記第2の貯蔵部において、上部の液相は硫黄から構成されており、かつ下部の液相は多硫化アルカリ金属から構成されている工程、または第3の貯蔵部の内容物を第2の貯蔵部中に直接的に返送する工程、
(iv)少なくとも前記硫黄の一部または前記多硫化アルカリ金属の一部が第3の貯蔵部から取り出された後に、前記流動方向を反転させる工程、
(v)工程(i)~(iv)を繰り返す工程を含み、その際、
前記多硫化アルカリ金属は充電時に、その多硫化アルカリ金属が下方から上方へとカソード室を通じて流れるように供給され、かつ前記硫黄は放電時に、その硫黄が上方から下方へとカソード室を通じて流れるように供給される。
【0037】
達したら搬送方向を反転することが予定された状態は、例えば予定した量または予定した時間であり、その際、その量または時間は任意に選択することができる。しかしながら、遅くとも全体の硫黄または全体の多硫化物が一方の貯蔵部から取り出されたときには、搬送方向を反転させねばならない。
【0038】
カソード室の貫流後に流動方向を反転させ、一方の貯蔵部の内容物が再びもう一方の貯蔵部中へと返送され、その返送がより高い速度でカソード室を通じて、あるいは別個の導管を介して行われる変法の場合にも、交互に第2の貯蔵部から第3の貯蔵部中へと、そして第3の貯蔵部から第2の貯蔵部中へとカソード室を貫流する変法の場合にも、別個の貯蔵部の使用によって、非常に大幅により多量のアルカリ金属および硫黄を使用することが可能であり、こうしてバッテリの作動範囲を高めることが可能である。
【0039】
可能な実施形態においては、前記第3の貯蔵部は中間貯蔵部として構成されており、第2の貯蔵部よりも小さい容量を有することができる。特にこの場合には、上記の方法は工程(iii)において、流動方向の反転後に、第3の貯蔵部の内容物が直接的に第2の貯蔵部中へと返送されるように行われる。
【0040】
工程(a)~(c)を有する上記の方法も、工程(i)~(v)を有する方法もそれぞれ、電気的エネルギの蓄積のための装置の充電または放電に際してのカソード室を通じた流動速度が、供給された硫黄または供給された多硫化物の一部のみが変換されるような大きさであるように作動される。すなわち、充電時には多硫化物が過剰にカソード室中に送られ、放電時には硫黄が過剰にカソード室中に送られる。好ましくは、充電時の多硫化物の過剰および放電時の硫黄の過剰は、化学量論的に必要とされる量の少なくとも1.5倍である。多硫化物または硫黄の最大の過剰は、好ましくは10barの圧力差で第2の貯蔵部と第3の貯蔵部との間で搬送され得る量である。輸送される最大量は、その場合にカソード室の構成から導き出される。電気化学セルの作動のために必要な量が、カソード室中で変換され、さらに該カソード室、特にその中に収容される電極および固体電解質が、前記流動により損傷されないことが必要である。
【0041】
搬送装置が硫黄または多硫化物と接触することを回避するために、その硫黄または多硫化アルカリ金属の搬送を、充填される貯蔵部から空にされる貯蔵部へのガスの搬送により行うことが有利である。前記貯蔵部は一定の容積を有するので、これらの貯蔵部は常に硫黄および/または多硫化物の他にガスも収容している。貯蔵部中に収容されるガスは、その場合に好ましくは、使用される材料に対して不活性である。ガスとして適しているのは、例えば窒素、ヘリウム、アルゴンまたはそれ以外の硫黄および多硫化物に対して不活性なガスである。
【0042】
その場合に、多硫化物または硫黄の輸送は、空にされるべき貯蔵部中に、ガスをその中の圧力が高まるように導入することにより行われる。その場合に該ガスは、充填されるべき貯蔵部から取り出される。それにより、硫黄または多硫化物の輸送は、硫黄および/または多硫化物が貫流する導管中に搬送装置を設ける必要なく圧力制御で行われる。一方の貯蔵部からもう一方の貯蔵部へとガスを搬送する圧縮機が存在するだけである。
【0043】
装置の充電時には熱が吸収され、放電時には熱が放出されるので、前記セルを調温する必要がある。その場合に、本発明による方法は、該セルをカソード室中の硫黄または多硫化物の貫流により調温することを可能にする。このために、好ましくは多硫化アルカリ金属または硫黄の流動速度を、前記セルの通常作動時のカソード室中の貫流に際してアルカリ金属または硫黄の温度変化の絶対値が40℃未満であるように調整する。硫黄または多硫化物により吸収または放出される熱は、その後に相応して第2の貯蔵部または第3の貯蔵部において、該第2の貯蔵部および該第3の貯蔵部を温度調節し、温度上昇に際して相応して冷却し、温度降下に際して加熱することによって排出または吸収され得る。
【0044】
以下に、本発明を、図面に示される実施例に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図2】第1の実施形態における電気的エネルギの蓄積のための装置を示す。
【
図3】第2の実施形態における電気的エネルギの蓄積のための装置を示す。
【
図4】第3の実施形態における電気的エネルギの蓄積のための装置を示す。
【
図5】第4の実施形態における電気的エネルギの蓄積のための装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
【0047】
電気化学セル1は、アノード室5を取り囲む固体電解質3を備える。アノード室5は、電気化学セル1の作動時にアノード材料で満たされている。固体電解質3により取り囲まれたアノード室5は、電気化学セル1の容量の拡大のためにアノード材料用の第1の貯蔵部7に接続されている。
【0048】
固体電解質3は、ハウジング9内に収容されており、ここでカソード室11は固体電解質3を取り囲むとともに、ハウジング9により囲われている。固体電解質3を取り囲んでいるカソード室11中を、電気化学セルの作動時にカソード材料またはカソード材料とアノード材料とからの反応生成物のいずれかが貫流する。固体電解質3を取り囲んでいるカソード室11の大きさは、その場合に、電気化学セル1の所望の容量が達成されるように選択される。
【0049】
電気化学セル1の機能を保証するために、固体電解質3は多孔質電極13により取り囲まれている。電気化学セル1は、特に電気的エネルギのための蓄積装置として用いられる。電気的エネルギを得るために、アノード材料とカソード材料とが反応する。この反応は、多孔質電極13において行われる。該反応が起こり得るためには、その場合に、前記固体電解質は、アノード材料のイオン、有利にはアルカリ金属イオン、特にナトリウムイオンに対して透過である必要がある。アノード材料として使用されるアルカリ金属は、好ましくはカソード材料として使用される硫黄と反応して、多硫化アルカリ金属(本発明の範囲においては、多硫化物とも呼ばれる)を形成する。
【0050】
その場合に、電気化学セル1の電気的接続は、当業者に公知のように、ここでは表されていない集電体を介して行われ、その際、1つの集電体は通常は多孔質電極13に接続されており、2つ目の集電体は電導性アノード材料に接続されている。
【0051】
有利な実施形態においては、固体電解質3により取り囲まれているアノード室5中に、ディスプレーサ15が収容されている。ディスプレーサ15によって、アノード室5の容量は減少される。その結果として、電気化学セル1の作動安全性が改善される。それというのも、固体電解質の破壊時に制御不能に反応し得るアノード材料の割合が大きく低減されるからである。
【0052】
ディスプレーサ15は、中実なエレメントとして、または中空体として構成されていてよい。ディスプレーサ15が中空体として構成されている場合に、電気化学セルの追加の調温を得るために、該ディスプレーサ中に調温媒体を貫流させることも可能である。
【0053】
電気化学セル1を作動させ得るために、第1の導管17および第2の導管19が備えられており、その際、第1の導管17はカソード室11の上方に通じており、第2の導管19はカソード室11の下方に通じている。放電時に、硫黄は第1の導管17を介して供給され、そして生成する多硫化アルカリ金属および未反応の硫黄は、第2の導管19を介して取り出される。充電のためにその流動方向は反転されるので、この場合には多硫化アルカリ金属は第2の導管19を介して供給され、カソード室11中で生成される硫黄および未反応の多硫化アルカリ金属は第1の導管17を介して取り出される。
【0054】
図2には、第1の実施形態における電気的エネルギの蓄積のための装置が示されている。
【0055】
電気的エネルギの蓄積のための装置21は、一般に複数の電気化学セル1を備える。ここでは、例として2つの電気化学セル1が表されている。通常は、該電気化学セルの数は、1個から何十万個までの範囲であり得る。
【0056】
電気的エネルギの蓄積のための装置のできるだけ大きな作動時間を得るために、第2の貯蔵部23および第3の貯蔵部25が備えられている。第2の貯蔵部23は、下方領域に取り出し部27を有し、その際、該取り出し部27は、カソード室11の上方領域に通じている第1の導管17に接続されている。第3の貯蔵部25は、第3の貯蔵部25中に収容される液体の表面31上に、取り出し部29を有する。該取り出し部29は、カソード室11の下方領域に通じている第2の導管19に接続されている。第3の貯蔵部25中の液体の表面31上の取り出し部29は、例えばその液体上に浮いているフロートにより実現され得る。
【0057】
第2の貯蔵部23および第3の貯蔵部25は、さらにガス導管33を介して互いに接続されている。その場合に、ガス導管33は、それぞれ第2の貯蔵部23および第3の貯蔵部25の上方領域に通じている。このようにして、第2の貯蔵部23および第3の貯蔵部25のそれぞれ液体の上方に存在するガスを含む領域が互いに接続される。その場合に、該ガス導管は、特に有利には、ここで示されるように第2の貯蔵部23および第3の貯蔵部25の蓋に通じている。
【0058】
ガス導管33中に、搬送方向を反転可能な搬送装置35が収容されており、その搬送装置35により、ガスを第2の貯蔵部23から第3の貯蔵部25中へと送ることができ、またはその逆に第3の貯蔵部25から第2の貯蔵部23中へと送ることができる。その場合に、搬送方向を反転可能な搬送装置としては、反転可能な搬送方向を可能にする当業者に公知のあらゆる任意の搬送装置を使用することができる。こうして例えば、搬送方向を反転可能である圧縮機を使用することが可能である。その一方でまた、2つの導管を設けることも可能であり、その際、それぞれの導管中に圧縮機が収容されており、かつ1つの導管を通じて第2の貯蔵部23から第3の貯蔵部25中へと搬送され、そして2つ目の導管を通じて第3の貯蔵部25から第2の貯蔵部23中へと搬送される。このためには、その都度、搬送されるべき方向に対応する導管が開放される。このために、例えば相応の弁を使用することができる。
【0059】
電気的エネルギの蓄積のための装置21の充電のために、搬送装置35を用いて、ガスは第2の貯蔵部23からガス導管33を介して第3の貯蔵部25へと送られる。これによって、第3の貯蔵部25中に正圧が生ずる。その正圧に基づいて、まず上部の液相37を形成する硫黄が、第3の貯蔵部内の取り出し部29中に押し込まれ、電気化学セル1のカソード室11を通じて第2の貯蔵部23中に送られる。硫黄が第3の貯蔵部25から取り出されたら、取り出し部29は、該第3の貯蔵部中に下部の液相39として収容される多硫化アルカリ金属上に載っているので、この多硫化アルカリ金属は該取り出し部29を介して取り出され、電気化学セル1のカソード室11を通じて送られる。電気化学セルには電位がかけられているので、電極13と接触している多硫化アルカリ金属の一部は反応して、アルカリ金属および硫黄となる。該アルカリ金属は、固体電解質3を介してアノード室5中に排出され、そこから第1の貯蔵部7中に排出され、生成された硫黄は、未反応の多硫化アルカリ金属と一緒にカソード室11から第1の導管17を介して第2の貯蔵部23中に押し込まれる。したがって、第2の貯蔵部においては、硫黄からなる上部の液相と、多硫化アルカリ金属からなる下部の液相とが形成される。
【0060】
ある程度の量の多硫化物が第3の貯蔵部25から外へと搬送されると、搬送方向を反転可能な搬送装置35の搬送方向は反転される。ガスは目下、第3の貯蔵部25から第2の貯蔵部23中へと搬送されるので、第2の貯蔵部23中の圧力は上昇し、第2の貯蔵部23中に収容される多硫化物は、取り出し部27を介して第2の貯蔵部23の下方で取り出され、カソード室11を通じて第2の貯蔵部23中に返送される。第2の貯蔵部23から第3の貯蔵部25中への搬送は、すべての多硫化物が第2の貯蔵部23から取り出されたら停止される。この時点は、適切な測定装置によって確認され、例えば熱伝導性または導電性の測定によって、第2の貯蔵部23の底部または導管17中に存在する液体の密度または粘度の測定によって確認される。引き続き、ガスの搬送方向の反転が再び行われる。
【0061】
第2の貯蔵部23から第3の貯蔵部25中へのガスの導入によって、その後に多硫化物が再びカソード室11を通じて導かれ、その際、多硫化物の一部が、アルカリ金属および硫黄へと変換される。
【0062】
第2の貯蔵部23から第3の貯蔵部25中への多硫化物の搬送に際して、同様に、多硫化物の一部が、硫黄およびアルカリ金属へと変換され得る。こうして生成された硫黄は、まずはカソード室11中に留まる。多硫化物を再び第3の貯蔵部25から導管19を通じてカソード室11中に送る搬送装置を再び反転させたときに、この硫黄は再び第2の貯蔵部23中に送られる。
【0063】
前述の工程は、最高でも、すべての多硫化物が硫黄へと変換されるまでの期間にわたり繰り返される。すべての多硫化物が変換されたら、該バッテリは充電され、蓄積された電気的エネルギを利用することができる。このために、第1の工程において、多硫化物の残分、そして硫黄は、ガスを第3の貯蔵部25から第2の貯蔵部23中に送ることにより第2の貯蔵部23からカソード室11を通じて第3の貯蔵部25中へと送られる。なおも第2の貯蔵部23中に収容されている多硫化物がカソード室11を通じて送られた後に、その硫黄はカソード室11中に到達し、その硫黄の一部はアノード室5からのアルカリ金属と共に電極13において変換されて多硫化アルカリ金属となる。生成された多硫化物および未反応の硫黄は、第2の導管19を介して第3の貯蔵部25中に送られる。ある程度の時間後であるが、遅くとも第2の貯蔵部23が空にされたときには、搬送装置35の搬送方向の反転が行われ、こうして前記ガスは第2の貯蔵部23から第3の貯蔵部25中へと送られる。こうして引き起こされるのは、硫黄が第3の貯蔵部25から第2の貯蔵部23中へと送られることである。その硫黄が第3の貯蔵部25から取り出され、ここで僅かに多硫化物が収容されていないと、ガスの搬送方向は再び反転され、その過程は改めて開始される。この時点は、適切な測定装置によって確認され、例えば熱伝導性または導電性の測定によって、第3の貯蔵部25の取り出し装置29または導管19中に存在する液体の密度または粘度の測定によって確認される。そのことは、すべての硫黄が変換され、それにより該装置が放電されるまでの期間にわたり繰り返される。
【0064】
ここでも、硫黄の返送に際して硫黄はカソード室11中で多硫化アルカリ金属へと変換され得る。この場合に、その形成された多硫化物はカソード室11中に残留する。硫黄を第2の貯蔵部23からカソード室11中に送る搬送装置を再び反転させることで、まずはカソード室11中に収容される多硫化物は、第3の貯蔵部25中に流れる。
【0065】
図2に示される装置と同様に作動する電気的エネルギの蓄積のための装置のための代替的な構造は、
図3に示されている。
【0066】
図3中に示される実施形態は、
図2に示される実施形態と、第2の貯蔵部23および第3の貯蔵部25の位置の点で相違している。
【0067】
図3に示される実施形態では、第2の貯蔵部23は電気化学セル1の上方に配置されており、かつ第3の貯蔵部25は電気化学セル1の下方に配置されている。それは、エネルギ欠如の場合にも電気化学セルを十分に空にすることが可能であるという利点を有する。電気化学セル1の内容物は、重力だけに基づいて第3の貯蔵部25中に流れ落ちることができる。このようにして、該電気化学セル中の硫黄または多硫化物がその停止後に固化し、電極13または特に固体電解質3を損傷し得ることを回避することができる。
【0068】
しかしながら、
図3に示される実施形態においては、第2の貯蔵部23の位置に基づき、第3の貯蔵部25の内容物を第2の貯蔵部23の元に導くために、
図2に示される実施形態におけるよりも高いガス圧が必要とされる。
【0069】
図4は、第3の実施形態における電気的エネルギの蓄積のための装置を示す。
【0070】
図4に示される実施形態は、
図2に示される実施形態と、第2の貯蔵部23および第3の貯蔵部25の取り出し部の配置、ならびにそれぞれの取り出し部に接続された、第2の貯蔵部23および第3の貯蔵部25をカソード室11に接続する導管17、19の点で相違している。
【0071】
図4に示される実施形態においては、第2の貯蔵部23も第3の貯蔵部25も、取り出し部41を下方領域に有し、その際、該取り出し部41は、それぞれカソード室11の下方領域を終端とする第2の導管19に接続されている。さらに、第2の貯蔵部23および第3の貯蔵部25は、それぞれの貯蔵部23、25中の液体の表面上に配置されているそれぞれ1つの取り出し部43を有する。それぞれの貯蔵部23、25中の液体の表面上に配置されている取り出し部43は、それぞれカソード室11の上方領域を終端とする第1の導管17に接続されている。
【0072】
貯蔵部23、25の下方領域に配置されている取り出し部41も、貯蔵部23、25中の液体の表面上に配置されている取り出し部43も、適切な閉鎖エレメント45で閉じることができる。この場合に、閉鎖エレメント45としては、例えば仕切り弁、回転ボールバルブ、またはそれ以外の当業者に公知の装置が使用され得る。
【0073】
図4に示されるような装置の放電後または始動時に、多硫化アルカリ金属は第2の貯蔵部23中に存在し、第3の貯蔵部25は空である。しかしながら、両方の貯蔵部23、25においてそれぞれ多硫化物が存在することも可能である。充電のために、該多硫化アルカリ金属は、取り出し導管41を介して第2の貯蔵部23から取り出され、そして第2の導管19を介してカソード室11中に送られる。カソード室11において、多硫化アルカリ金属の一部は、電極13で硫黄およびアルカリ金属へと変換され、そのアルカリ金属は、固体電解質3を介してアノード室5中に輸送される。常にさらなるアルカリ金属がアノード室5中に到達するので、ここで圧力が上昇し、これにより該アルカリ金属は貯蔵部7中に輸送される。
【0074】
前記硫黄および未反応の多硫化物は、第1の導管17を介して上方でカソード室11から取り出され、第3の貯蔵部25中に導入される。このために、多硫化物が取り出される第2の貯蔵部23において、該貯蔵部の下方の取り出し部41の閉鎖エレメントが開放され、そして液体の表面上に配置されている取り出し部43の閉鎖エレメントは閉じられる。相応して、硫黄および未反応の多硫化物が導入される第3の貯蔵部25において、該貯蔵部の下方に配置されている取り出し部41の閉鎖エレメント45が閉じられ、そして液体の表面上に配置されている取り出し部の閉鎖エレメント45は開放される。該多硫化物を第2の貯蔵部23から取り出すために、ここに示される実施形態においても、ガスは第3の貯蔵部25からガス導管33を介して第2の貯蔵部23中へと導入され、こうして第2の貯蔵部23中の圧力は上昇し、そして前記多硫化物はその貯蔵部から取り出し部41を介して外へ押し出される。
【0075】
予定した量に達した場合に、またはすべての多硫化物が取り出されたときに、すなわち多硫化物と硫黄との間の相境界に取り出し部41が到達したときに、第2の貯蔵部23の取り出し導管41および第3の貯蔵部25の取り出し導管43の閉鎖エレメントは閉じられ、それぞれもう一方の閉鎖エレメント45は開放され、こうしてここで事前に硫黄および未反応の多硫化物が導入された第3の貯蔵部25から、その多硫化物を取り出すことができ、カソード室11の貫流後に、生成された硫黄および未反応の多硫化物を第2の貯蔵部23中に導入することができる。相応の輸送のために、同時に搬送方向を反転可能な搬送エレメント35の搬送方向が反転され、こうして圧力駆動式の液体輸送を実現するために、ガスが第2の貯蔵部23から第3の貯蔵部25中に導入される。予定した量に達した後に、前記搬送方向は再び反転され、開放されていたそれぞれの閉鎖エレメントは閉鎖され、閉鎖されていた閉鎖エレメントは開放される。この過程は、最高でも、すべての多硫化物が硫黄へと変換されるまでの期間にわたり繰り返される。
【0076】
電気的エネルギの利用のための装置の放電は、充電過程と同様に行われるが、硫黄を取り出すために液体の表面上に配置されている取り出し部43の閉鎖エレメント45が開放され、そして多硫化物および未反応の硫黄を貯蔵部中に導入するために、該貯蔵部の下方の取り出し部41の閉鎖エレメント45が開放され、そして液体の表面上の取り出し部43の閉鎖エレメント45が閉鎖されている点で相違している。予定した時間もしくは予定した硫黄の取り出し量に達した後に、またはすべての硫黄が取り出されたときに、搬送方向の反転が行われる。
【0077】
図5に、電気的エネルギの蓄積のための装置のためのさらなる実施形態が示されている。
【0078】
図4に示される実施形態とは異なり、ここでは第2の貯蔵部23は、大きな貯蔵部であり、そして第3の貯蔵部25は小さな中間貯蔵部である。該第3の貯蔵部25は、直接的な導管47を介して該第2の貯蔵部23に接続されている。
図4に示される実施形態の作動との相違点において、ここでは搬送方向が反転される量に達した後に、全体の内容物が、第3の貯蔵部25から直接的な導管47を介して第2の貯蔵部23中に返送される。液体が第3の貯蔵部25から第2の貯蔵部23中に直接的な導管を介して返送される方法の相応の実施は、
図4に示される同じ大きさの貯蔵部を有する実施形態によっても可能である。
【0079】
すべての実施形態においては、カソード室の下方領域を終端とする第2の導管19は、例えばカソード室11中に突き出している浸漬管として構成されている。その一方で当然のように、第2の導管19が下方から適切な接続部を介してカソード室に接続されていてもよい。しかしながら、該第2の導管は、ここで示されるように浸漬管であることが有利である。
【0080】
すべての実施形態においては、液体、すなわち硫黄および多硫化物の輸送は、ガスを該液体が導入される貯蔵部から取り出し、そして該液体が取り出される貯蔵部中にガス導管33を介して導入することにより行われる。これにより、搬送装置、例えばポンプが硫黄または多硫化物と接触することなく、硫黄および多硫化物の輸送を実現することが可能である。
【0081】
前記ガス中に含まれている硫黄蒸気が、搬送方向を反転可能な搬送装置35を損傷することを回避するために、ここでは示されていない凝縮物分離器を設けることが有利である。凝縮物分離器中でそのガスは冷却され、それにより硫黄が凝縮生成する。凝縮生成した硫黄はその後にそのガスから除去することができるので、前記搬送装置35は硫黄とは接触しない。
【0082】
電気化学セル1を調温するためには、多硫化物または硫黄を、カソード室11を通じて送る流動速度は、硫黄の一部のみが放電時に変換され、または多硫化物の一部のみが充電時に変換される大きさである。その場合に、前記流動速度は、好ましくは、多硫化物または硫黄のカソード室11中への導入時の温度が、硫黄および未反応の多硫化物または多硫化物および未反応の硫黄がカソード室11から取り出されるときに有する温度と40℃未満、有利には10℃未満相違する大きさで選択される。この場合にカソード室11を通じて何回か通過したときにも電気化学セル1中の温度を一定に保持するために、第2の貯蔵部23および第3の貯蔵部25は、好ましくは調温される。
【0083】
さらに、ガス用搬送装置35以外のすべての構成部品は、本願では図面に示されていない断熱により取り囲まれていることが有利である。この場合に、前記構成部品は、それぞれ個別に断熱を備えてもよく、またはすべての構成部品のための共通の断熱も利用される。この場合にさらに、電気的エネルギの蓄積のための装置全体は、外部容器中に収容され、その外部容器が断熱を備えることが可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 電気化学セル
3 固体電解質
5 アノード室
7 第1の貯蔵部
9 ハウジング
11 カソード室
13 多孔質電極
15 ディスプレーサ
17 第1の導管
19 第2の導管
21 電気的エネルギの蓄積のための装置
23 第2の貯蔵部
25 第3の貯蔵部
27 第2の貯蔵部23の下方の取り出し部
29 第3の貯蔵部25中の取り出し部
31 第3の貯蔵部25中の液体の表面
33 ガス導管
35 搬送方向を反転可能な搬送装置
37 上部の液相
39 下部の液相
41 貯蔵部の下方の取り出し部
43 液体の表面上にある取り出し部
45 閉鎖エレメント
47 直接的な導管