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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】サルコペニアの予防剤及び治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4184 20060101AFI20220104BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20220104BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220104BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A61K31/4184
A61K31/454
A61K31/4545
A61K31/496
A61K31/5377
A61P21/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020514431
(86)(22)【出願日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2019016579
(87)【国際公開番号】W WO2019203296
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2018080834
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018131371
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 全規
(72)【発明者】
【氏名】梶原 大輔
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/090062(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150228(WO,A1)
【文献】裏出良博他,造血器型プロスタグランジンD合成酵素阻害薬によるDuchenne型筋ジストロフィーに対する進行軽減療法,医薬のあゆみ,2016年,Vol.259, No.1,p.37-42,要約、図3
【文献】KAJIWARA D et al.,Role of hematopoietic prostaglandin D synthase in biphasic nasal obstruction in guinea pig model of,European Journal of Pharmacology,2011年,Vol.667,p.389-395,390ページFig.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/5377
A61K 31/454
A61K 31/4184
A61K 31/4545
A61K 31/496
A61P 43/00
A61P 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタグランジンD2産生抑制剤を有効成分とする、サルコペニアの予防剤及び/又は治療剤であり、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド、N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド、4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン、N-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミド又は4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である、サルコペニアの予防剤及び/又は治療剤。
【請求項2】
プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項3】
プロスタグランジンD2産生抑制剤を含み、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド、N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド、4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン、N-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミド又は4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である、サルコペニアを予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【請求項4】
プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
サルコペニアの予防及び/又は治療に使用するための、プロスタグランジンD2産生抑制剤であり、プロスタグランジンD2産生抑制剤が、4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド、N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド、4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン、N-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミド又は4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である、プロスタグランジンD2産生抑制剤。
【請求項6】
プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である、請求項5に記載のプロスタグランジンD2産生抑制剤
【請求項7】
サルコペニアの予防剤及び/又は治療剤の製造に用いるための、プロスタグランジンD2産生抑制剤の使用であり、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド、N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド、4-(ジフェニルメトキシ)-1-(3-2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン、N-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミド又は4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である、使用。
【請求項8】
プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド)又はその薬学的に許容される塩である、請求項7に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサルコペニアの予防剤及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
サルコペニアは、進行性および全身性の骨格筋量および筋力の低下を特徴とする疾患であり、60歳超の米国人男女の約30%、および80歳超の50%に発症する(非特許文献1)。サルコペニアは、高齢者の2~5%に移動能力障害をもたらすと考えられている(非特許文献2)。高齢者における筋肉量および筋力の減少は、身体機能的能力の低下としてしばしば現れ、より低い生活の質、および有害な健康事象(例えば、転倒および転倒後の骨折)のリスク増加をもたらす。
【0003】
サルコペニアには、加齢以外に明らかな原因がない一次性(加齢性)サルコペニア及び加齢以外の1つ以上の原因が明らかな二次性サルコペニアが含まれる。入院などによって長期間筋肉を使わない状態が続いた場合に生じる廃用性筋萎縮は、二次性サルコペニアに含まれる。
【0004】
サルコペニア治療の承認薬は現時点で一つもない。高齢化社会においてその患者数は増加の一途を辿っていることから、治療薬の創製が求められている。
【0005】
プロスタグランジンD2産生抑制剤として、4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド、N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド、及び4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン等が報告されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO2010/104024号公報
【文献】国際公開WO2007/007778号公報
【文献】国際公開WO95/01350号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Baumgartner et al. Am J Epidemiol. 1998;147:755-63.
【文献】Dam et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2014;69:584-90.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規なサルコペニアの予防剤及び/又は治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、サルコペニアの予防方法及び治療方法について研究を重ねた結果、プロスタグランジンD2産生抑制剤を投与することで、サルコペニアの予防及び治療ができることを見出した。本発明は、斯かる知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する:
項1、プロスタグランジンD2産生抑制剤を有効成分とする、サルコペニアの予防剤及び/又は治療剤。
【0011】
項2、プロスタグランジンD2産生抑制剤がH-PGDS阻害剤である、項1に記載の予防剤及び/又は治療剤。
【0012】
項3、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド、N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド、4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン、N-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミド又は4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミドである、項1又は2に記載の予防剤及び/又は治療剤。
【0013】
項4、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミドである、項3に記載の予防剤及び/又は治療剤。
【0014】
項5、プロスタグランジンD2産生抑制剤を含む、サルコペニアを予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【0015】
項6、プロスタグランジンD2産生抑制剤がH-PGDS阻害剤である、項5に記載の医薬組成物。
【0016】
項7、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド、N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド、4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン、N-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミド又は4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミドである、項5又は6に記載の医薬組成物。
【0017】
項8、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミドである、項7に記載の医薬組成物。
【0018】
項9、プロスタグランジンD2産生抑制剤の有効量を投与する工程を含む、サルコペニアの予防方法及び/又は治療方法。
【0019】
項10、プロスタグランジンD2産生抑制剤がH-PGDS阻害剤である、項9に記載の予防方法及び/又は治療方法。
【0020】
項11、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド、N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド、4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン、N-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミド又は4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミドである、項9又は10に記載の予防方法及び/又は治療方法。
【0021】
項12、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミドである、項11に記載の予防方法及び/又は治療方法。
【0022】
項13、サルコペニアの予防及び/又は治療に使用するための、プロスタグランジンD2産生抑制剤。
【0023】
項14、プロスタグランジンD2産生抑制剤がH-PGDS阻害剤である、項13に記載のプロスタグランジンD2産生抑制剤。
【0024】
項15、4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド、N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド、4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン、N-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミド又は4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミドである、項13又は14に記載のプロスタグランジンD2産生抑制剤。
【0025】
項16、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミドである、項15に記載のプロスタグランジンD2産生抑制剤。
【0026】
項17、サルコペニアの予防剤及び/又は治療剤の製造に用いるための、プロスタグランジンD2産生抑制剤の使用。
【0027】
項18、プロスタグランジンD2産生抑制剤がH-PGDS阻害剤である、項17に記載の使用。
【0028】
項19、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド、N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド、4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン、N-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミド又は4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミドである、項17又は18に記載の使用。
【0029】
項20、プロスタグランジンD2産生抑制剤が4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミドである、項19に記載の使用。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、サルコペニアを副作用がほとんどなく、かつ効果的に予防及び治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】尾部懸垂処置マウスの下腿三頭筋μCT画像を示す。
図2】尾部懸垂処置マウスにおける筋体積の測定の結果を示す。
図3】尾部懸垂処置マウスにおける筋質量の測定の結果を示す。
図4】尾部懸垂処置マウスにおけるプロスタグランジンD2含有量を示す。
図5】尾部懸垂処置マウスの下腿三頭筋μCT画像を示す。
図6】尾部懸垂処置マウスにおける筋体積の測定の結果を示す。
図7】尾部懸垂処置マウスにおける筋体積の増加率を示す。
図8】尾部懸垂処置マウスにおける筋質量の測定の結果を示す。
図9】尾部懸垂処置マウスにおける筋質量の増加率を示す。
図10】尾部懸垂処置3週間後のマウスの下腿三頭筋μCT画像を示す。
図11】尾部懸垂処置マウスにおける筋体積変化の測定の結果を示す。
図12】尾部懸垂処置3週間後のマウスにおける筋質量の測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、プロスタグランジンD2産生抑制剤を有効成分とする、サルコペニアの予防剤及び/又は治療剤に関する。
【0033】
(i)プロスタグランジンD2産生抑制剤
本発明における「プロスタグランジンD2産生抑制剤」は、プロスタグランジンD2(本明細書においてはPGD2と記載する場合もある)の合成を阻害する薬剤であれば特に制限されない。
【0034】
PGD2は、抗原と免疫グロブリンEの複合体が結合して活性化された肥満細胞において、最も多量に産生・放出される炎症性メディエーターである。PGD2は、アレルギー疾患をはじめとする様々な疾患の発症や増悪因子としての機能と、生体内調節機構に関与している。
【0035】
PGD2を生成する合成酵素はプロスタグランジンD合成酵素と呼ばれ、造血器型酵素とリポカリン型酵素の2種類の存在が知られている。ヒトにおける造血器型プロスタグランジンD合成酵素(Hematopoietic Prostaglandin D Synthase、H-PGDS)は、主に胎盤、肺、胎生期肝臓、リンパ節、脳、心臓、胸腺、骨髄及び脾臓に分布している。また、細胞レベルでは、脳内のマイクログリア細胞、骨髄巨核球、皮膚のランゲルハンス細胞;肝臓のクッパー細胞;マクロファージ;樹状細胞などの多くの抗原提示細胞、肥満細胞及びTh2細胞に発現していることが報告されている。
【0036】
本発明のPGD2産生抑制剤は、造血器型酵素及びリポカリン型酵素のいずれの合成活性を阻害するものであってもよい。筋肉に症状を有するサルコペニアを予防及び/又は治療するとの観点から、造血器型プロスタグランジンD合成酵素(H-PGDS)によるPGD2の合成を阻害する薬剤(H-PGDS阻害剤)であることが好ましい。
【0037】
本発明のPGD2産生抑制剤は、プロスタグランジンD合成酵素を標的とする低分子化合物、プロスタグランジンD合成酵素に対する特異的な抗体(例えば、プロスタグランジンD合成酵素の合成酵素活性を阻害できる抗体)、プロスタグランジンD合成酵素に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー等のいずれであってもよい。
【0038】
下記化学式で表される4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミド(本明細書においては「化合物(1)」と記載する場合もある)、
【0039】
【化1】
【0040】
下記化学式で表される4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジン(本明細書においては「化合物(2)」と記載する場合もある)、
【0041】
【化2】
【0042】
PGD2産生抑制剤としては、下記化学式で表されるN-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド(本明細書においては「化合物(3)」と記載する場合もある)、
【0043】
【化3】
【0044】
下記化学式で表されるN-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミド(本明細書においては「化合物(4)」と記載する場合もある)、
【0045】
【化4】
【0046】
下記化学式で表される4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド(本明細書においては「化合物(5)」と記載する場合もある)
【0047】
【化5】
【0048】
など、又はその薬学的に許容される塩が挙げられ、好ましくは4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミドである。
【0049】
「薬学的に許容される塩」とは、化合物の望ましい薬理活性を有する塩であって、無機又は有機塩基及び無機又は有機酸を含む、薬学的に許容される非毒性の塩基又は酸から調製される塩を意味する。
【0050】
そのような塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との酸付加塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、グルタミン酸などの有機酸との酸付加塩;ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどの無機塩基との塩;メチルアミン、エチルアミン、メグルミン、エタノールアミンなどの有機塩基との塩;又はリジン、アルギニン、オルニチンなどの塩基性アミノ酸との塩;及びアンモニウム塩が挙げられる。
【0051】
本発明のPGD2産生抑制剤は、公知の有機合成法により製造することができる。例えば、4-{(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)カルボニル}-N-[4-{4-(4-モルホリニルカルボニル)-1-ピペリジニル}フェニル]-1-ピペラジンカルボキサミドは、国際公開WO2010/104024号公報の記載方法に準じて製造することができる。N-メトキシ-N-メチル-4-(5-ベンゾイルベンズイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミドは国際公開WO2007/007778号公報の記載方法に準じて製造することができる。4-(ジフェニルメトキシ)-1-[3-(2H-テトラゾール-5-イル)プロピル]ピペリジンは国際公開WO95/01350号公報の記載方法に準じて製造することができる。N-(4-(3-(2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)エチル)ピロリジン-1-イル)フェニル)-4-(ピリジン-2-イルメチレン)ピペリジン-1-カルボキサミドは、国際公開WO2012/033069号公報の記載方法に準じて製造することができる。4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミドは、国際公開WO2011/090062号公報の記載方法に準じて製造することができる。
【0052】
(ii)サルコペニア
サルコペニアとは、進行性および全身性の骨格筋量および筋力の低下を特徴とする疾患である。European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)が提唱する分類において、筋肉量の低下の所見のみ見られる場合を「プレ・サルコペニア」、筋肉量の低下の所見、並びに、筋力の低下又は身体能力の低下のいずれか1つの計2つの所見が見られる場合を「サルコペニア」、筋肉量の低下の所見、筋力の低下の所見及び身体能力の低下の所見の3つの所見が見られる場合を「重症サルコペニア」とそれぞれ称する。本明細書においていう「サルコペニア」には、「プレ・サルコペニア」、「サルコペニア」、「重症サルコペニア」のいずれもが含まれる。
【0053】
サルコペニアには、加齢以外に明らかな原因がない一次性(加齢性)サルコペニア及び加齢以外の1つ以上の原因が明らかな二次性サルコペニアが含まれる。二次性サルコペニアには、活動量の低下に起因するもの、疾患によるもの(例えば、重症臓器不全、炎症性疾患、悪性腫瘍、内分泌疾患等に付随するもの)、栄養素の摂取不足によるものが含まれ、主にこの3つに分類される。入院などによって、長期間筋肉を使わない状態が続いた場合に生じる廃用性筋萎縮は、二次性サルコペニアに含まれる。
【0054】
サルコペニアは、筋肉に症状を有する獲得性ミオパチー、遺伝性ミオパチー等の各種ミオパチーとは、発症のメカニズムが異なり区別される。なお、獲得性ミオパチーの具体例としては、筋炎が例示される。遺伝性ミオパチーの具体例としては、筋ジストロフィーが例示される。ミオパチーは、筋肉が萎縮することによって筋力が低下していく進行性の難病であり、代表的な疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーのように若年から発症する場合が多い。一方、サルコペニアは筋肉の合成と分解とのバランスが負に傾き、筋肉量が減少することにより発症する疾患である。また、デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおけるジストロフィン遺伝子変異のような、サルコペニアにおける直接的な遺伝的原因はないと考えられる。また、筋炎などの炎症性ミオパチーは、筋肉そのもの自体に特異的に炎症が起こる疾患である。一方、サルコペニアは、筋肉以外の組織における炎症性疾患(例えば、関節リウマチ、肺結核、炎症性腸疾患など)に付随して発症する場合がある。
【0055】
(iii)予防剤及び治療剤
本明細書において、「治療」とは、通常、サルコペニアに伴う症状の治癒又は改善、或いは症状の抑制を意味する。「予防」とは、サルコペニアに伴う症状の発現を未然に防ぐことを意味する。
【0056】
本発明の予防剤及び治療剤は、有効成分のPGD2産生抑制剤単独で提供することができる。また、予防剤及び治療剤は、有効成分のPGD2産生抑制剤以外に、必要に応じて薬学的担体等を配合することもできる。このように、本発明の予防剤及び治療剤は、1成分からなる又は2以上の成分を含む医薬組成物として調製されることができる。
【0057】
本発明の予防剤及び治療剤は、必要に応じて薬学的に許容される担体を用いて、公知の方法により各種投与製剤として製造することができる。投与形態は、経口又は非経口の何れであってもよい。かかる製剤形態としては特に制限はなく、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤、注射剤、坐剤、吸入剤等の非経口剤などが例示できる。
【0058】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、コーンスターチ、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤などを使用できる。さらに、錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。
【0059】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤などを使用できる。カプセル剤は常法に従い、上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0060】
経口用液体製剤とする場合は、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤等を用い、常法により、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合、矯味・矯臭剤としては、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が、緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0061】
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を使用できる。
【0062】
注射剤とする場合、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、かつ血液と等張であるのが好ましい。また、これらの形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば水、乳酸水溶液、エチルアルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレン化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用できる。
【0063】
なお、この場合、等張性の溶液を調製するに充分な量の食塩、ブドウ糖又はグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。
【0064】
吸引剤とする場合、エアゾール剤、粉末状吸入剤、液状吸入剤などの各種形態が挙げられる。
【0065】
さらに上記各製剤には必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や、他の医薬品を配合してもよい。
【0066】
1日投与量とは、1日に投与する有効成分の量を示す。本発明の予防剤及び治療剤において、PGD2産生抑制剤の投与日における1日投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できない。サルコペニアの予防及び/又は治療効果の観点から、通常成人(体重50kg)において50~4000mg/dayが好ましく、さらに100~4000mg/dayが好ましく、より好ましくは400~1600mg/dayである。また、PGD2産生抑制剤が、投与された患者の血中濃度が1000~800000ng・hr/mL、より好ましくは1500~40000ng・hr/mLとなるように投与されることが好ましい。
【0067】
また、上記の各投与単位形態中に配合されるべきプロスタグランジンD2産生抑制剤の量は、これを適用すべき患者の症状により、或いはその剤形等により一定ではない。一般に投与単位形態あたり、経口剤では0.05~1000mg、注射剤では0.01~500mg、坐剤では1~1000mgとするのが望ましい。
【0068】
本発明の予防剤及び治療剤は、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、患者の症状の程度等に応じて適宜決定される。例えば錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤及び乳剤は経口投与される。注射剤は単独で又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて単独で動脈内、筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。
【0069】
本発明の予防剤及び治療剤の投与対象としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ等の哺乳類が例示される。
【0070】
本発明の予防剤及び治療剤の投与対象の年齢は、特に限定されない。ヒトの一次性(加齢性)サルコペニアを治療する場合、加齢に伴い一次性(加齢性)サルコペニアが発症する傾向が高くなる60歳以上、より好ましくは70歳以上、さらに好ましくは80歳以上とすることができる。一方、廃用性筋萎縮等が含まれる二次性サルコペニアは、高齢者以外でも発症する場合があり、投与対象の年齢は問わない。
【0071】
本発明は、以下の態様を包含する。
プロスタグランジンD2産生抑制剤を有効成分とする、サルコペニアの予防剤及び/又は治療剤。
プロスタグランジンD2産生抑制剤を含有する、サルコペニアを予防及び/又は治療するための医薬組成物。
プロスタグランジンD2産生抑制剤の有効量を必要とする対象に投与することを含む、サルコペニアの予防方法及び/又は治療方法。
サルコペニアの予防及び/又は治療に使用するための、プロスタグランジンD2産生抑制剤。
サルコペニアの予防剤及び/又は治療剤を製造するため、プロスタグランジンD2産生抑制剤の使用。
【実施例
【0072】
以下、試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
試験例1 尾部懸垂処置マウスにおける筋萎縮抑制作用の評価(その1)
8週齢のC57/BL6J雄性マウス(日本エスエルシー株式会社、静岡、日本)に尾部懸垂処置を施し、下肢の廃用性筋萎縮モデルとした。
【0074】
尾部懸垂処置は、Skelet Muscle.2015;5:34.の記載に準じて行った。具体的には、マウスの後肢が地につかないようにマウスの尻尾を固定し、その状態を2週間程度維持させた。尾部懸垂処置により、後肢の骨格筋量および筋力の低下が引き起こされ、サルコペニアの1つの態様である廃用性筋萎縮の実験モデルが作製できることが知られている。
【0075】
尾部懸垂処置を施す期間中、0.01、0.1及び0.3質量%の化合物(1)を含む飼料を2週間摂食させた(化合物(1)投与群)。対照として、尾部懸垂処置を施さない通常飼育群及び化合物を含まない飼料により摂食を行った対照尾部懸垂処置群を用意した。試験数は各群n=8で実施した。
【0076】
実験開始(尾部懸垂処置開始及び化合物を含む飼料による摂食開始)から二週間後にマウス後肢のμCT(micro-computed tomography)撮影を行った。三次元容量解析ソフトを用いて、頸骨周縁部(下腿三頭筋)の筋体積を測定した。μCT撮影はマイクロフォーカスX線CTシステム(μCT: SMX-90T、株式会社島津製作所製)を用いて行った。図1にμCT画像の一例を示す。
【0077】
μCT画像より作成した三次元画像を用い、マウス下肢の腓骨中点を求め、中点を起点とした測定領域における全筋量の体積を計測した。下腿には、腓腹筋、ヒラメ筋、前頸骨筋、長趾伸筋を含む。下腿三頭筋は腓腹筋とヒラメ筋のことを示す。結果を図2に示す。
【0078】
さらに、尾部懸垂処置をした後のマウス後肢より、腓腹筋、ヒラメ筋、前頸骨筋及び長趾伸筋を採取し、それぞれについて湿重量(筋質量)を測定した。結果を図3に示す。
【0079】
図2に示された結果から、対照尾部懸垂処置群において尾部懸垂によって顕著な筋減少が見られたが、化合物投与群において化合物(1)の混合飼料の摂食によって筋減少が有意に抑制されたことが判明した。
【0080】
図3に示された結果から、対照尾部懸垂処置群では後肢の何れの筋においても筋質量が減少し、化合物投与群では後肢の何れの筋においても筋肉量の低下の改善傾向が認められた。
【0081】
さらに、尾部懸垂処置をした後のマウス下肢から採取した腓腹筋を、急速凍結した後にPBSを加え、ホモジナイザーを用いて破砕した。破砕液に対して遠心分離(4℃、15,000rpm)を10分間行い、上清を回収した。ELISA法(Prostaglandin D2 ELISA、Cayman Chemical社製)により、上清に含まれるPGD2の濃度を測定した。上清の総タンパク質濃度によりELISA法の測定結果を補正し、筋肉中のタンパク質1mgあたりのPGD2の含有量(ng/mg of protein)を決定した。結果を図4に示す。尾部懸垂処置により骨格筋におけるPGD2産生は亢進することが明らかとなった。
【0082】
なお、有意差検定にはスチューデントt検定を用いた。図中、*、**及び***は、尾部懸垂処置を施さない通常飼育群(尾部懸垂処置(-))に対してそれぞれP<0.05、P<0.01及びP<0.001であることを示す。#、##及び###は、化合物を含まない飼料により摂食を行った対照尾部懸垂処置群(尾部懸垂処置(+))に対してそれぞれP<0.05、P<0.01及びP<0.001であることを示す。
【0083】
尾部懸垂処理と同時に化合物(1)混合飼料の摂食を開始することによって、本発明化合物の予防効果及び治療効果を検証することができる。上記図1から図3に示す結果より、本発明化合物(1)の筋減少及び筋肉量の低下に対する予防効果及び治療効果が明らかになった。
【0084】
試験例2 マウスにおける化合物の血中動態の評価
0.01、0.1及び0.3質量%の化合物(1)を含む混合飼料を7週齢のC57BL/6マウス(雄性、日本チャールスリバー株式会社、体重20.7-23.7g)に13日間混合飼料を摂食させた。
【0085】
12日目の10、13、17、21時及び13日目の10時に、アニマルランセットを用いて顔面採血した。
【0086】
血液は、ヘパリンコート済ヘマトクリット管を用いて約75μLを回収した。遠心分離後の血漿中の化合物濃度を、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いて測定した。測定した結果を表1に示す。化合物(1)を含む混合飼料の摂食により、0.01質量%から0.3質量%の範囲で用量に依存した血中化合物濃度の上昇が確認された。
【0087】
体重が約20gのマウスの1日あたりの摂餌量は4g程度(食べこぼしなしと仮定)であるため、化合物の1日摂取量は0.4mg(0.01質量%混合飼料)、4mg(0.1質量%混合飼料)、12mg(0.3質量%混合飼料)と推定される。体重換算値は、20mg/kg(0.01質量%混合飼料)、200mg/kg(0.1質量%混合飼料)及び600mg/kg(0.3質量%混合飼料)である。
【0088】
【表1】
【0089】
試験例3 尾部懸垂処置マウスにおける筋萎縮抑制作用の評価(その2)
8週齢のC57/BL6J雄性マウス(日本エスエルシー株式会社、静岡、日本)に尾部懸垂処置を施し、下肢の廃用性筋萎縮モデルとした。
【0090】
尾部懸垂処置を施す期間中、0.01質量%の化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)及び化合物(5)を含む飼料を2週間摂食させた(化合物(1)投与群、化合物(2)投与群、化合物(3)投与群、化合物(4)投与群及び化合物(5)投与群)。対照として、尾部懸垂処置を施さない通常飼育群及び化合物を含まない飼料により摂食を行った対照尾部懸垂処置群を用意した。試験数は各群n=8で実施した。
【0091】
実験開始(尾部懸垂処置開始及び化合物を含む飼料による摂食開始)から二週間後にマウス後肢のμCT撮影を行った。三次元容量解析ソフトを用いて、頸骨周縁部(下腿三頭筋)の筋体積を測定した。μCT撮影はマイクロフォーカスX線CTシステム(μCT: SMX-90T、株式会社島津製作所製)を用いて行った。図5にμCT画像の一例を示す。
【0092】
μCT画像より作成した三次元画像を用い、マウス下肢の腓骨中点を求め、中点を起点とした測定領域における全筋量の体積を計測した。結果を図6に示す。また、対照尾部懸垂処置群を基準とした筋体積の増加率を図7に示す。増加率は(化合物投与群-対照尾部懸垂処置群)/(通常飼育群-対照尾部懸垂処置群)×100により算出した。
【0093】
さらに、尾部懸垂処置をした後のマウス後肢より、腓腹筋を採取し、湿重量(筋質量)を測定した。結果を図8に示す。また、対照尾部懸垂処置群を基準とした筋質量の増加率を図9に示す。増加率は(化合物投与群-対照尾部懸垂処置群)/(通常飼育群-対照尾部懸垂処置群)×100により算出した。
【0094】
図6図7に示された結果から、対照尾部懸垂処置群において尾部懸垂によって顕著な筋減少が見られたが、化合物投与群において化合物(1)、化合物(3)、化合物(4)及び化合物(5)の混合飼料の摂食によって筋減少が有意に抑制されたことが判明した。一方、化合物(2)の混合飼料の摂食は筋減少の抑制傾向はみられたが、筋減少の有意な抑制をもたらさなかった。
【0095】
図8図9に示された結果から、対照尾部懸垂処置群では腓腹筋の質量が減少し、化合物投与群において化合物(1)、化合物(3)、化合物(4)及び化合物(5)の混合飼料の摂食によって筋肉量の低下の有意な改善が認められた。一方、化合物(2)の混合飼料の摂食は筋肉量の低下の改善傾向を示したが、有意差は認められなかった。
【0096】
なお、有意差検定にはスチューデントt検定を用いた。図中、*は、尾部懸垂処置を施さない通常飼育群(尾部懸垂処置(-))に対してP<0.001であることを示す。#及び##は、化合物を含まない飼料により摂食を行った対照尾部懸垂処置群(尾部懸垂処置(+))に対してそれぞれP<0.05及びP<0.01であることを示す。
【0097】
尾部懸垂処理と同時に化合物混合飼料の摂食を開始することによって、本発明化合物の予防効果及び治療効果を検証することができる。上記図5から図9に示す結果より、化合物(1)、化合物(3)、化合物(4)、化合物(5)は有意な改善が認められ、化合物(2)においても改善傾向が認められた。よって、本発明化合物の筋減少及び筋肉量の低下に対する予防効果及び治療効果が明らかになった。
【0098】
試験例4 尾部懸垂処置マウスにおける筋萎縮抑制作用(その3)
8週齢のC57/BL6J雄性マウス(日本エスエルシー株式会社、静岡、日本)に尾部懸垂処置を施し、下肢の廃用性筋萎縮モデルとした。
【0099】
尾部懸垂処置を施した1週後、0.3質量%の化合物(1)を含む飼料を2週間摂食させた(化合物(1)投与群)。対照として、尾部懸垂処置を施さない通常飼育群及び化合物を含まない飼料により3週間摂食を行った対照尾部懸垂処置群を用意した。試験数は各群n=8で実施した。
【0100】
尾部懸垂前、懸垂1週後、懸垂2週後及び懸垂3週後にマウス後肢のμCT撮影を行った。三次元容量解析ソフトを用いて、頸骨周縁部(下腿三頭筋)の筋体積を測定した。μCT撮影はマイクロフォーカスX線CTシステム(μCT: SMX-90T、株式会社島津製作所製)を用いて行った。図10に懸垂3週後でのμCT画像の一例を示す。
【0101】
μCT画像より作成した三次元画像を用い、マウス下肢の腓骨中点を求め、中点を起点とした測定領域における全筋量の体積を計測した。体積変化の結果を図11に示す。
【0102】
さらに、尾部懸垂処置をした三週後のマウス後肢より、腓腹筋を採取し、湿重量(筋質量)を測定した。結果を図12に示す。
【0103】
図11に示された結果から、対照尾部懸垂処置群において尾部懸垂によって1週後から顕著な筋減少が見られ、2週後に筋減少はさらに促進し、3週後までその程度は持続した。これに対し、尾部懸垂処置1週後から化合物(1)の混合飼料の摂食によってさらなる筋減少は認められず、筋肉量はむしろ増加する傾向を示した。2週後及び3週後における筋肉量は対照尾部懸垂処置群に比べ有意に高値であり、化合物(1)の治療効果が認められた。
【0104】
図12に示された結果から、対照尾部懸垂処置群では腓腹筋の質量が減少し、化合物投与群において化合物(1)の混合飼料の摂食によって筋肉量の有意な治療効果が認められた。
【0105】
なお、有意差検定にはスチューデントt検定を用いた。図中、*は、尾部懸垂処置を施さない通常飼育群(尾部懸垂処置(-))に対してP<0.001であることを示す。#及び##は、化合物を含まない飼料により摂食を行った対照尾部懸垂処置群(尾部懸垂処置(+))に対してそれぞれP<0.05及びP<0.01であることを示す。
【0106】
尾部懸垂処理開始から1週間後には顕著な筋減少が見られている。尾部懸垂開始1週間後に化合物(1)混合飼料の摂食を開始することによって、本発明化合物の治療効果を検証することができる。上記図10から図12の結果により、本発明化合物(1)の筋減少及び筋肉量の低下に対する治療効果が明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12