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特許6991471高電圧電池用の電解質成分としてのピリジン三酸化硫黄錯体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】高電圧電池用の電解質成分としてのピリジン三酸化硫黄錯体
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20220127BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220127BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220127BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019556738
(86)(22)【出願日】2018-01-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2018050067
(87)【国際公開番号】W WO2018127492
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-28
(31)【優先権主張番号】17150187.7
(32)【優先日】2017-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(73)【特許権者】
【識別番号】519099151
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ロード アイランド ボード オブ トラスティーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】セスノー,フレデリク フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ガルズーフ,アルント
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ルフト,ブレット
(72)【発明者】
【氏名】ドモー,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】トン、インナン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ポー
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-525597(JP,A)
【文献】特開昭62-043070(JP,A)
【文献】国際公開第2013/149073(WO,A1)
【文献】特開2000-082329(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053474(WO,A1)
【文献】Nicholas Bourne et al.,J. Am. Chem. Soc.,1985年,Vol.107,pp.4327-4331
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒;
(ii)少なくとも1種の導電性塩;
(iii)少なくとも式(I)のピリジン-SO錯体
【化1】
(式中、
Rは、F、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、及びC~C10アルキニルからそれぞれ存在ごとに独立して選択され、ここで、アルキル、アルケニル及びアルキニルは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい;
nは1、2、3、4、及び5から選択される整数である);及び
(vi)任意に、1種以上の添加剤
を含有することを特徴とする電解質組成物。
【請求項2】
電解質組成物が、電解質組成物の全質量に基づいて、0.01~5質量%の式(I)のピリジン-SO 錯体を含有する請求項1に記載の電解質組成物。

【請求項3】
少なくとも1つのRがFである、請求項1又は2に記載の電解質組成物。
【請求項4】
nが1又は2である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項5】
少なくとも1つのRが、F及びCNから選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよいC~C10アルケニルから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項6】
少なくとも1つのRが、F及びCNから選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよいC~C10アルキニルから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項7】
少なくとも1つのRが、F及びCNから選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよいC~C10アルキルから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項8】
式(I)のピリジン-SO錯体が、2-ビニルピリジン三酸化硫黄、3-ビニルピリジン三酸化硫黄、4-ビニルピリジン三酸化硫黄、2-トリフルオロメチルピリジン三酸化硫黄、3-トリフルオロメチルピリジン三酸化硫黄、4-トリフルオロメチルピリジン三酸化硫黄、2-フルオロピリジン三酸化硫黄、3-フルオロピリジン三酸化硫黄、4-フルオロピリジン三酸化硫黄、2-プロパルギルピリジン三酸化硫黄、3-プロパルギルピリジン三酸化硫黄、及び4-プロパルギルピリジン三酸化硫黄である、請求項1~7のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項9】
非プロトン性有機溶媒(i)が、任意にフッ素化された、環状及び非環状有機カーボネート、任意にフッ素化された、非環状エーテル及びポリエーテル、任意にフッ素化された、環状エーテル、任意にフッ素化された、環状及び非環状アセタール及びケタール、任意にフッ素化されたオルトカルボン酸エステル、任意にフッ素化された、環状及び非環状、カルボン酸のエステル及びジエステル、任意にフッ素化された、環状及び非環状スルホン、任意にフッ素化された、環状及び非環状ニトリル及びジニトリル、及び任意にフッ素化された、環状及び非環状ホスフェート、及びこれらの混合物から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項10】
非プロトン性有機溶媒(i)が、任意にフッ素化されたC~C10-アルキルエ-テル、任意にフッ素化された、環状及び非環状有機カーボネート、及びこれらの混合物から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項11】
少なくとも1種の導電性塩(ii)がリチウム塩から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項12】
電解質組成物が、フィルム形成添加剤、難燃剤、過充電添加剤、湿潤剤、HF及び/又はHO捕捉剤、LiPF塩の安定剤、イオン性溶媒和促進剤、腐食防止剤、及びゲル化剤から選択される少なくとも1つの添加剤(iv)を含有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項13】
電気化学セル用電解質組成物に、式(I)のピリジン-SO錯体を使用する方法:
【化2】
(式中、
Rは、F、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、及びC~C10アルキニルからそれぞれ存在ごとに独立して選択され、ここで、アルキル、アルケニル、及びアルキニルは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい;及び
nは1、2、3、4、及び5から選択される整数である)。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の電解質組成物を含むことを特徴とする電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、電解質組成物における、式(I)のピリジン三酸化硫黄錯体の使用に、
【化1】
(式中、R及びnは下記で定義する)
また、電気化学セル(電池:cell)用の式(I)の少なくとも1種のピリジン三酸化硫黄錯体を含有する電解質組成物に、及びかかる電解質組成物を含む電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーの貯蔵は、依然として関心が高い主題である。電気エネルギーの効率的な貯蔵は、電気エネルギーを有利なとき発生させ、かつ、必要なとき使用することを可能にする。この目的に、二次電気化学セルは非常に適している。化学エネルギーの電気エネルギーへの可逆的変換及びその逆(再充電性)も可能だからである。二次リチウム電池(蓄電池:batteries)は、リチウムイオンの原子量が小さいことに起因して高いエネルギー密度及び比エネルギーを実現し、また、他の電池システムと比較して高いセル電圧(典型的には3~5V)を得ることができることから、エネルギー貯蔵の点で特に興味深い。このような理由から、これらのシステムは、携帯電話、ラップトップコンピュータ、ミニ(小型)カメラなどの多くの携帯用電子機器の電源として広く使用されるようになった。
【0003】
リチウムイオン電池のような二次リチウム電池では、有機カーボネート、エーテル、エステル及びイオン液体が、導電性塩を溶媒和するための十分に極性の溶媒として使用されている。大抵の最先端リチウムイオン電池は、一般に単一の溶媒ではなく、種々の有機非プロトン性溶媒の溶媒混合物を含んでいる。
【0004】
電解質組成物は、通常、溶媒及び導電性塩に加えて、更なる添加剤を含有する。これは、電解質組成物の、及び該電解質組成物を含む電気化学セルの特定の特性を改善するためである。一般的な添加剤としては、例えば、難燃剤、過充電保護添加剤、及びフィルム形成添加剤であって、最初の充電/放電サイクル中に電極表面上で反応し、それによって電極上にフィルムを形成するものである。そのフィルムが、電極が電解質組成物と直接接触するのを保護する。
【0005】
リチウム電池のような電気化学セルは、用途が多目的であるため、直射日光に曝される車内で生じる高温下でもよく使用される。高温下では、電気化学セル内での分解反応がより早く起こり、セルの電気化学的特性がより急速に劣化する。これは、例えば、容量低下が加速し、セルの内部抵抗が増加することによって示される。
【0006】
WO2013/149073A1には、カソード活物質としてリン酸鉄リチウムのようなアルカリ遷移金属オキソアニオン材料と、三酸化硫黄アミン錯体添加剤を含有する電解質とを含むリチウムイオン電池が記載されている。電解質添加剤は電解質の熱分解を遅らせるために添加されている。
【0007】
WO99/28987A1には、電池電解質用の難燃添加剤としてある種の錯化合物を使用することが開示されており、その錯化合物は電解質の分解時に難燃性ガスを発生することができる。そのような難燃添加剤の一例が三酸化硫黄ピリジン錯体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2013/149073A1
【文献】WO99/28987A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特に高温及び高作動電圧で、長いサイクル寿命、貯蔵安定性、良好なレート性能のような良好な電気化学的性質を有する電解質組成物であって、例えば少なくとも4.5Vまでサイクルされるリチウムイオン電池用の電解質組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、下記電解質組成物、すなわち、
(i)少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒;
(ii)少なくとも1種の導電性塩;
(iii)少なくとも1種の、式(I)のピリジン-SO錯体
【化2】
(式中、
Rは、F、OSi(OR、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、及びC~C10アルキニルからそれぞれ存在ごとに独立して選択され、ここで、アルキル、アルケニル、及びアルキニルは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい;
は、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、及びC~C10アルキニルからそれぞれ存在ごとに独立して選択され、ここで、アルキル、アルケニル、及びアルキニルは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい;及び
nは1、2、3、4、及び5から選択される整数である);及び
(vi)任意に、1種以上の添加剤
を含有する電解質組成物によって達成される。
【0011】
さらに、この課題は、少なくとも1種の、式(I)のピリジン-SO錯体を電解質組成物中に使用することによって、また、そのような電解質組成物を含む電気化学セルによって解決される。
【0012】
少なくとも1種の、式(I)のピリジン-SO錯体を含有する電解質組成物を含む電気化学セルは、4.8Vのカットオフ電圧までサイクルしても、高温で良好な特性、例えば、良好なサイクル性能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1a】0.5質量%の2-VP SOを有さず、かつ、0.5質量%のPyr-SOを添加していない(四角)、又は、0.5質量%の2-VP SOを有する(丸)、及び0.5質量%のPyr-SOを添加した(三角)基本電解質を用いた、LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセル(C/5、25℃及び45℃のカットオフ電位:4.80V~4.25V vs.LiC/C)のサイクル維持率(cycling retention)を示す。
図1b】0.5質量%の2-VP SOを有さず、かつ、0.5質量%のPyr-SOを添加していない(四角)、又は、0.5質量%の2-VP SOを有する(丸)、及び0.5質量%のPyr-SOを添加した(三角)基本電解質を用いた、LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセル(C/5、25℃及び45℃のカットオフ電位:4.80V~4.25V vs.LiC/C)のク-ロン効率を示す。
図2a】0.1質量%の2-VP SOを有しない(四角)、又はこれを有する(丸)基本電解質を用いた、LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセル(C/5、25℃及び45℃のカットオフ電位:4.80V~4.25V vs.LiC/C)のサイクル維持率を示す。
図2b】0.1質量%の2-VP SOを有しない(四角)、又はこれを有する(丸)基本電解質を用いた、LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセル(C/5、25℃及び45℃のカットオフ電位:4.80V~4.25V vs.LiC/C)のク-ロン効率を示す。
図3a】0.1質量%の3-FP SOを有しない(四角)、又はこれを有する(丸)基本電解質を用いた、LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセル(C/5、25℃及び45℃のカットオフ電位:4.80V~4.25V vs.LiC/C)のサイクル維持率を示す。
図3b】0.1質量%の3-FP SOを有しない(四角)、又はこれを有する(丸)基本電解質を用いた、LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセル(C/5、25℃及び45℃のカットオフ電位:4.80V~4.25V vs.LiC/C)のク-ロン効率を示す。
図4a】0.1質量%の2-TFP SOを有しない(四角)、又はこれを有する(丸)基本電解質を用いた、LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセル(C/5、25℃及び45℃のカットオフ電位:4.80V~4.25V vs.LiC/C)のサイクル維持率を示す。
図4b】0.1質量%の2-TFP SOを有しない(四角)、又はこれを有する(丸)基本電解質を用いた、LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセル(C/5、25℃及び45℃のカットオフ電位:4.80V~4.25V vs.LiC/C)のク-ロン効率を示す。
図5a】0.1質量%の4-VP SOを有しない(四角)、又はこれを有する(丸)基本電解質を用いた、LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセル(C/5、25℃及び45℃のカットオフ電位:4.80V~4.25V vs.LiC/C)のサイクル維持率を示す。
図5b】0.1質量%の4-VP SOを有しない(四角)、又はこれを有する(丸)基本電解質を用いた、LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセル(C/5、25℃及び45℃のカットオフ電位:4.80V~4.25V vs.LiC/C)のク-ロン効率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明につき詳細に説明する。
【0015】
本発明に係る電解質組成物は、
(i)少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒;
(ii)少なくとも1種の導電性塩;
(iii)少なくとも1種の、式(I)のピリジン-SO錯体
【化3】
(式中、
Rは、F、OSi(OR、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、及びC~C10アルキニルからそれぞれ存在ごとに独立して選択され、ここで、アルキル、アルケニル、及びアルキニルは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい;
は、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、及びC~C10アルキニルからそれぞれ存在ごとに独立して選択され、ここで、アルキル、アルケニル、及びアルキニルは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい;及び
nは1、2、3、4、及び5から選択される整数である);及び
(vi)任意に、1種以上の添加剤
を含有する。
【0016】
化学的に見て、電解質組成物は、自由イオンを含み、その結果、導電性を示すあらゆる組成物である。電解質組成物は、電気化学セルで起こる電気化学反応に関与するイオンを移動させる媒体として機能する。リチウム電池の場合、電気化学反応に関与するイオンは通常リチウムイオンである。最も一般的な電解質組成物はイオン性溶液であるが、溶融電解質組成物及び固体電解質組成物も同様に使用可能である。したがって、本発明の電解質組成物は、主に、溶解及び/又は溶融状態で存在する少なくとも1つの物質の存在、すなわちイオン種の移動によって支持される導電性のために、導電性媒体である。液体又はゲル電解質組成物では、導電性塩が、通常、1種以上の非プロトン性有機溶媒中で溶媒和される。
【0017】
電解質組成物は少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒(i)を含有する。非プロトン性有機溶媒(複数を含む)(i)は、任意にフッ素化された非プロトン性有機溶媒、すなわちフッ素化及び非フッ素化非プロトン性有機溶媒から選択することができる。電解質組成物は、フッ素化及び非フッ素化非プロトン性有機溶媒の混合物を含有することもできる。
【0018】
非プロトン性有機溶媒は、任意にフッ素化された、環状及び非環状有機カーボネート、任意にフッ素化された、非環状エーテル及びポリエーテル、任意にフッ素化された、環状エーテル、任意にフッ素化された、環状及び非環状アセタール及びケタール、任意にフッ素化されたオルトカルボン酸エステル、任意にフッ素化された、カルボン酸の環状及び非環状エステル及びジエステル、任意にフッ素化された、環状及び非環状スルホン、任意にフッ素化された、環状及び非環状ニトリル及びジニトリル、及び任意にフッ素化された、環状及び非環状ホスフェート、及び これらの混合物から選択される。
【0019】
任意にフッ素化された環状カーボネートの具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)及びブチレンカーボネート(BC)があり、ここで1つ以上のHがF及び/又はC~Cアルキル基で置換されていてもよく、例えば、4-メチルエチレンカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)、及びシス-及びトランス-ジフルオロエチレンカーボネートであってもよい。好適な、任意にフッ素化された環状カーボネートは、エチレンカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネート、特にエチレンカーボネートである。
【0020】
任意にフッ素化された非環状カーボネートの具体例としては、ジ-C~C10アルキルカーボネートがあり、ここで各アルキル基が互いに独立して選択され、1つ以上のHがFで置換されていてもよい。任意にフッ素化されたジ-C~Cアルキルカーボネートが好適である。具体例としては、例えばジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、トリフルオロメチルメチルカーボネート(TFMMC)、及びメチルプロピルカーボネートがある。好適な非環状カーボネートは、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジメチルカーボネート(DMC)である。
【0021】
本発明の一実施形態では、電解質組成物は、1:10~10:1、好ましくは3:1~1:1の質量比で、任意にフッ素化された非環状有機カーボネートと環状有機カーボネートとの混合物を含有する。
【0022】
任意にフッ素化された非環状エーテル及びポリエーテルの具体例としては、任意にフッ素化されたジ-C~C10-アルキルエーテル、任意にフッ素化されたジ-C~CアルキルC~Cアルキレンエーテル、任意にフッ素化されたポリエーテル、及び式R′-(O-CF2-p-R″のフッ素化エーテルがある。この式中、R′はC~C10アルキル基又はC~C10シクロアルキル基であり、ここで、アルキル及び/又はシクロアルキル基の1つ以上のHはFで置換されている;R″はH、F、C~C10アルキル基、又はC~C10シクロアルキル基であり、ここで、アルキル及び/又はシクロアルキル基の1つ以上のHはFで置換されている;pは1又は2である;及びqは1、2又は3である。
【0023】
本発明によれば、任意でフッ素化されたジ-C~C10アルキルエーテルの各アルキル基は、他から独立して選択され、ここで、アルキル基の1つ以上のHはFで置換されていてもよいものである。任意にフッ素化されたジ-C~C10アルキルエーテルの具体例は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(CFHCFCHOCFCFH)、及び1H,1H,5H-ペルフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(CFH(CFCHOCFCFH)である。
【0024】
任意にフッ素化されたジ-C~CアルキルC~C-アルキレンエーテルの具体例は、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジグリム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグリム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグリム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、及びジエチレングリコールジエチルエーテルである。
【0025】
適切な、任意にフッ素化されたポリエーテルの具体例は、アルキル又はアルキレン基の1つ以上のHがFで置換されていてもよいポリアルキレングリコールであり、好ましくはポリ-C~Cアルキレングリコール、特にポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールは、共重合形態で20モル%以下の1つ以上のC~Cアルキレングリコールを含むものであってもよい。ポリアルキレングリコールとしては、ジメチル-又はジエチル-エンドキャップされた(末端保護)ポリアルキレングリコールであることが好ましい。適切なポリアルキレングリコール、特に適切なポリエチレングリコールの分子量Mは少なくとも400g/molであることができる。適切なポリアルキレングリコール、特に適切なポリエチレングリコールの分子量Mは、最大5,000,000g/mol、好ましくは最大2,000,000g/molであることができる。
【0026】
式R′-(O-CF2-p-R″のフッ素化エーテルの具体例は、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(CFHCFCHOCFCFH)、及び1H,1H,5H-ペルフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(CFH(CFCHOCFCFH)である。
【0027】
任意にフッ素化された環状エーテルの具体例としては、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、及びこれらの誘導体、例えば、2-メチルテトラヒドロフランであり、ここで、アルキル基の1つ以上のHがFで置換されていてもよい。
【0028】
任意にフッ素化された非環状アセタールの具体例としては、1,1-ジメトキシメタン及び1,1-ジエトキシメタンがある。環状アセタールの具体例としては、1,3-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、及びこれらの誘導体、例えば、メチルジオキソランがあり、ここで、1以上のHがFで置換されていてもよい。
【0029】
任意にフッ素化された非環状オルトカルボン酸エステルの具体例としては、トリ-C~Cアルコキシメタン、特にトリメトキシメタン及びトリエトキシメタンがある。適切な環状オルトカルボン酸エステルの具体例としては、1,4-ジメチル-3,5,8-トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタン及び4-エチル-1-メチル-3,5,8-トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタンがある。ここで、1つ以上のHがFで置換されていてもよい。
【0030】
任意にフッ素化された、カルボン酸の非環状エステルの具体例としては、エチル及びメチルホルメート、エチル及びメチルアセテート、エチル及びメチルプロピオネート、及びエチル及びメチルブタノエート、及び、1,3-ジメチルプロパンジオエートのようなジカルボン酸エステルがあり、ここで、1つ以上のHがFで置換されていてもよい。カルボン酸の環状エステル(ラクトン)の具体例としてはγ-ブチロラクトンがある。
【0031】
任意にフッ素化された環状及び非環状スルホンの具体例としては、エチルメチルスルホン、ジメチルスルホン、及びテトラヒドロチオフェン-S、S-ジオキシド(スルホラン)がある。
【0032】
任意にフッ素化された環状及び非環状ニトリル及びジニトリルの具体例としては、アジポジニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリル、及びブチロニトリルであり、ここで、1つ以上のHがFで置換されていてもよい。
【0033】
任意にフッ素化された環状及び非環状ホスフェートの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、及びトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスフェートのような、アルキル基の1つ以上のHがFで置換されてもよいトリアルキルホスフェートがある。
【0034】
より好適な非プロトン性有機溶媒(i)は、任意にフッ素化されたエーテル及びポリエーテル、任意にフッ素化された環状及び非環状有機カーボネート、任意にフッ素化された、カルボン酸の環状及び非環状エステル及びジエステル、及びこれらの混合物から選択される。さらにより好適な非プロトン性有機溶媒(i)は、任意にフッ素化されたエーテル及びポリエーテル、及び任意にフッ素化された環状及び非環状有機カーボネート、及びこれらの混合物から選択される。
【0035】
本発明の電解質組成物は少なくとも1種の導電性塩(ii)を含有する。電解質組成物は、電気化学セル内で起こる電気化学反応に関与するイオンを移動させる媒体として機能する。電解質中に存在する導電性塩(ii)は、通常、非プロトン性有機溶媒(i)中で溶媒和されている。導電性塩(ii)はリチウム塩から選択することが好ましい。
【0036】
導電性塩は、
・Li[F6-xP(C2y+1](式中、xは0~6の範囲の整数であり、yは1~20の範囲の整数である);
・Li[B(R]、Li[B(R(ORIIO)]、及びLi[B(ORIIO)](式中、各Rは、互いに独立して、F、Cl、Br、I、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、OC~Cアルキル、OC~Cアルケニル、及びOC~Cアルキニルから選択される。ここで、アルキル、アルケニル、及びアルキニルは1つ以上のORIIIで置換されていてもよい。ここで、RIIIはC~Cアルキル、C~Cアルケニル、及びC~Cアルキニルから選択される。また、
(ORIIO)は1,2-又は1,3-ジオール、1,2-又は1,3-ジカルボン酸又は1,2-又は1,3-ヒドロキシカルボン酸から誘導される2価基である。ここで、2価基は、中央のB原子と共に両方の酸素原子を介して5又は6員環を形成する);
・LiClO;LiAsF;LiCFSO;LiSiF;LiSbF;LiAlCl、Li(N(SOF))、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート;シュウ酸リチウム;及び
・一般式Li[Z(C2n+1SO]の塩(式中、m及びnは以下のように定義される:
Zが酸素及び硫黄から選択される場合、m=1であり、
Zが窒素及びリンから選択される場合、m=2であり、
Zが炭素及びケイ素から選択される場合、m=3であり、そして
nは1~20の範囲の整数である)
からなる群から選択することができる。
【0037】
2価基(ORIIO)が誘導される適切な1,2-及び1,3-ジオールは、脂肪族又は芳香族であってもよく、また、例えば1,2-ジヒドロキシベンゼン、プロパン-1,2-ジオール、ブタン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,3-ジオール、シクロヘキシル-トランス-1,2-ジオール及びナフタレン-2,3-ジオール(これらは、場合により、1つ以上のFで、及び/又は、少なくとも1つの直鎖状又は分枝鎖状の、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された又は完全にフッ素化されたC~Cアルキル基で置換されている)から選択することができる。当該1,2-又は1,3-ジオールの具体例は、1,1,2,2-テトラ(トリフルオロメチル)-1,2-エタンジオールである。
【0038】
「完全にフッ素化されたC~Cアルキル基」は、アルキル基の全てのH原子がFで置換されていることを意味する。
【0039】
2価基(ORIIO)が誘導される適切な1,2-又は1,3-ジカルボン酸は、脂肪族又は芳香族であってもよく、例えばシュウ酸、マロン酸(プロパン-1,3-ジカルボン酸)、フタル酸又はイソフタル酸であってもよく、好ましくはシュウ酸である。1,2-又は1,3-ジカルボン酸は、場合により、1つ以上のFで、及び/又は、少なくとも1つの直鎖状又は分枝鎖状の、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された又は完全にフッ素化されたC~Cアルキル基で置換されている。
【0040】
2価基(ORIIO)が誘導される適切な1,2-及び1,3-ヒドロキシカルボン酸は、脂肪族又は芳香族であってもよく、例えばサリチル酸、テトラヒドロサリチル酸、リンゴ酸、及び2-ヒドロキシ酢酸であってもよく、これらは、場合により、1つ以上のFで、及び/又は、少なくとも1つの直鎖状又は分枝鎖状の、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された又は完全にフッ素化されたC~Cアルキル基で置換されている。当該1,2-又は1,3-ヒドロキシカルボン酸の具体例は、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-2-ヒドロキシ-酢酸である。
【0041】
Li[B(R]、Li[B(R(ORIIO)]及びLi[B(ORIIO)]の具体例は、LiBF、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジオキサラトボレートである。
【0042】
好ましくは、少なくとも1種の導電性塩(ii)は、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiBF、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、LiClO、LiN(SO、LiN(SOCF、LiN(SOF)、及びLiPF(CFCFから選択され、より好ましくはLiPF、LiBF、及びLiPF(CFCFであり、さらに好ましくは、導電性塩はLiPF及びLiBFから選択され、最も好ましい導電性塩はLiPFである。
【0043】
少なくとも1種の導電性塩は、通常、全電解質組成物を基準にして、少なくとも0.1mol/lの最低濃度で存在し、少なくとも1種の導電性塩の濃度は0.5~2mol/lであることが好ましい。
【0044】
本発明の電解質組成物は、成分(iii)として少なくとも1種の式(I)のピリジン-SO錯体を含有する。
【0045】
【化4】
【0046】
式中、
Rは、F、OSi(OR、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、及びC~C10アルキニルからそれぞれ存在ごとに独立して選択され、ここで、アルキル、アルケニル、及びアルキニルは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい;
は、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、及びC~C10アルキニルからそれぞれ存在ごとに独立して選択され、ここで、アルキル、アルケニル、及びアルキニルは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい;
nは1、2、3、4、及び5から選択される整数である。
【0047】
本明細書で使用する用語「C~C10アルキル」は、1つの自由原子価を有する、炭素原子1~10個の直鎖又は分枝鎖の飽和炭化水素基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソ-ペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシルなどを意味する。好適なのはC~Cアルキルであり、より好適なのはメチル、エチル、n-プロピル及びイソ-プロピル、及びn-ブチルのようなC~Cアルキルであり、最も好適なのはメチルである。
【0048】
本明細書で使用する用語「C~C10アルケニル」は、1つの自由原子価を有する、炭素原子2~10個の不飽和直鎖又は分枝鎖の炭化水素基を意味する。不飽和とは、アルケニル基が少なくとも1つのC-C二重結合を含むことを意味する。C~C10アルケニルとしては、例えば、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニルなどが挙げられる。好適なのはC~Cアルケニル基、より好適なのはC~Cアルケニル基、最も好適なのはエテニル及びプロペニル、特に1-プロペン-3-イルであり、これはアリルとも呼ばれる。
【0049】
本明細書で使用する用語「C~C10アルキニル」は、1つの自由原子価を有する、炭素原子2~10個の不飽和直鎖又は分枝鎖の炭化水素基であって、当該炭化水素基が少なくとも1つのC-C三重結合を含有するものを指す。C~C10アルキニルとしては、例えばエチニル、プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、イソブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニルなどが挙げられる。好適なのはC~Cアルキニルであり、より好適なのはC~Cアルキニル基、例えばエチニル、1-プロピン-3-イル(CCCH、プロパルギルとも呼ばれる)、及びブチ-2-イン-1-イル(CHCCCH)である。
【0050】
一実施形態によれば、少なくとも1つのRは、C~C10アルキル、好ましくはC~Cアルキル、より好ましくはC~Cアルキルから選択され、ここで、当該アルキルはF及びCNから選択される1つ以上の更なる置換基で置換されていてもよく、好ましくは、当該アルキルがFで置換されていることである。具体例は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、2-メチルプロピル、及びt-ブチルから挙げられ、これらは、F及びCNから選択される1以上の更なる置換基で置換されてもよく、例えば、トリフルオロメチル、CFCH、及びCFCFが挙げられる。
【0051】
別の実施形態によれば、Rは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC~C10アルケニルから選択される。好ましくは、Rは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC~Cアルケニルから選択される。より好ましくは、Rは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC~Cアルケニルから選択される。例えば、Rは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい、エテニル、プロペニル及びブテニルから選択される。
【0052】
更なる実施形態によれば、Rは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC~C10アルキニルから選択される。好ましくは、Rは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC~Cアルキニルから選択される。より好ましくは、Rは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC~Cアルキニルから選択される。例えば、Rは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい、メチル、エチル、プロピル及びブチルから選択される。
【0053】
別の実施形態によれば、少なくとも1つのRはFである。
【0054】
別の実施形態によれば、少なくとも1つのRはOSi(ORである。Rは、出現ごとに独立して、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、及びC~C10アルキニルから選択され、ここで、アルキル、アルケニル、及びアルキニルは、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。好ましくは、Rは、出現ごとに独立して、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC~C10アルキルから選択される。より好適には、Rは、出現ごとに独立して、F及びCNから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC~Cアルキルから選択される。例えば、Rは、出現ごとに独立して、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、i-ペンチル、及びn-ヘキシルから選択される。OSi(ORから選択されるRの具体例としてはトリメチルシリル及びトリエチルシリルがある。
【0055】
nは、1、2、3、4、及び5から選択される整数であり、好ましくは、nは1又は2であり、より好ましくは、nは1である。
【0056】
式(I)のピリジン-SO錯体の具体例としては、2-ビニルピリジン三酸化硫黄、3-ビニルピリジン三酸化硫黄、4-ビニルピリジン三酸化硫黄、2-トリフルオロメチルピリジン三酸化硫黄、3-トリフルオロメチルピリジン三酸化硫黄、4-トリフルオロメチルピリジン三酸化硫黄、2-フルオロピリジン三酸化硫黄、3-フルオロピリジン三酸化硫黄、4-フルオロピリジン三酸化硫黄、2-プロパルギルピリジン三酸化硫黄、3-プロパルギルピリジン三酸化硫黄、4-プロパルギルピリジン三酸化硫黄、2-トリメチルシリルピリジン三酸化硫黄、3-トリメチルシリルピリジン三酸化硫黄、及び4-トリメチルシリルピリジン三酸化硫黄がある。
【0057】
式(I)のピリジン-SO錯体の製造は当業者に知られている。式(I)のピリジン-SO錯体は、例えば、各ピリジン化合物とSOとの反応によって製造することができる。
【0058】
本発明に係る電解質組成物中の式(I)のピリジン-SO錯体の濃度は、電解質組成物の全質量を基準にして通常少なくとも0.01質量%である。電解質組成物中の式(I)のピリジン-SO錯体の濃度の上限は通常5質量%である。好ましくは、その濃度は、電解質組成物の全質量に基づいて、0.01~5質量%の範囲、より好ましくは0.01~2質量%の範囲、最も好ましくは0.05~1質量%の範囲である。
【0059】
本発明の更なる目的は、例えば添加剤としての、電解質組成物における式(I)のピリジン-SO錯体の使用である。式(I)のピリジン-SO錯体は電解質組成物中のフィルム形成添加剤として使用することが好ましい。当該錯体は、アノードフィルム形成添加剤としても、カソードフィルム形成添加剤としても使用することができる。かかる錯体の使用によって、サイクル電圧が高いときであっても、高温で良好なサイクル特性がもたらされる。
【0060】
式(I)のピリジン-SO錯体は通常、所望量のピリジン-SO錯体を電解質組成物に添加することによって使用する。式(I)のピリジン-SO錯体は、通常、電解質組成物中に上記の、好適なものと記載されている濃度で使用する。
【0061】
本発明に係る電解質組成物は、少なくとも1つの更なる添加剤(iv)を任意で含有する。その添加剤(iv)としては、SEI形成添加剤、難燃剤、過充電保護添加剤、湿潤剤、HF及び/又はHO捕捉剤(スカベンジャ)、LiPF塩用安定剤、イオン性溶媒和促進剤、腐食防止剤、ゲル化剤などから選択される。1種以上の添加剤(iv)は式(I)のピリジン-SO錯体とは異なる。
【0062】
難燃剤の具体例としては、シクロホスファゼン、有機ホスホラミド、有機ホスファイト、有機ホスフェート、有機ホスホネート、有機ホスフィン、及び有機ホスフィネートのような有機リン化合物、及びそれらのフッ素化誘導体がある。
【0063】
シクロホスファゼンの具体例は、日本化学工業から商標Phoslyte(登録商標)Eで入手可能なエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、ヘキサメチルシクロトリホスファゼン、及びヘキサメトキシシクロトリホスファゼンがあり、好ましいのはエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンである。有機ホスホラミドの具体例はヘキサメチルホスホラミドである。有機ホスファイトの具体例はトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファイトである。有機ホスフェ-トの具体例は、トリメチルホスフェ-ト、トリメチルホスフェ-ト、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスフェ-ト、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチルホスフェ-ト、及びトリフェニルホスフェ-トである。有機ホスホネートの具体例はジメチルホスホネート、エチルメチルホスホネート、メチルn-プロピルホスホネート、n-ブチルメチルホスホネート、ジエチルホスホネート、エチルn-プロピルホスホネート、エチルn-ブチルホスホネート、ジ-n-プロピルホスホネート、n-ブチルn-プロピルホスホネート、ジ-n-ブチルホスホネート、及びビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチルホスホネートである。有機ホスフィンの具体例はトリフェニルホスフィンである。有機ホスフィネートの具体例はジメチルホスホネート、ジエチルホスフィネート、ジ-n-pプロピルホスフィネート、トリメチルホスフィネート、トリメチルホスフィネート、及びトリ-n-プロピルホスフィネートである。
【0064】
HF及び/又はHO捕捉剤の具体例は、任意でハロゲン化された、環状及び非環状シリルアミンである。
【0065】
本発明によるSEI形成添加剤は、電極上で分解して当該電極上に不動態化層(不活性化層:passivation layer)を形成し、電解質及び/又は電極の劣化を防止する化合物である。このようにして、電池の寿命は著しく延長される。「SEI」の用語は、「固体電解質界面」を意味する。SEI形成添加剤は、また、フィルム形成添加剤とも呼ばれ、この2つの用語は本明細書中で交換可能に使用する。SEI形成添加剤はアノード上に不動態化層を形成することが好ましい。本発明との関連では、アノードは電池の負極として理解される。好ましくは、アノードは、リチウムインターカレート(挿入:intercalating)グラファイトアノードのようなリチウムに対して1ボルト以下の還元電位を有する。ある化合物がアノードフィルム形成添加剤として適格であるかどうかを決定するためには、グラファイト電極及びリチウムイオン含有カソード、例えば、リチウムコバルト酸化物、並びに、少量の当該化合物を含有する(典型的には、電解質組成物の0.1~10質量%、好ましくは電解質組成物の0.2~5質量%の当該化合物を含有する)電解質を含む電気化学セルを製造することができる。アノードとカソードとの間に電圧を印加すると、電気化学セルの微分容量が、リチウム金属基準に対して0.5Vから2Vの間に記録される。最初のサイクル中には著しい微分容量、例えば1Vで-150mAh/Vが観察されるが、それ以後のサイクルではどのサイクルの間にも、当該電圧範囲内でそのような状況が観察されないか又は本質的に観察されない場合、当該化合物はSEI形成添加剤であるとみなすことができる。SEI形成添加剤自体は当業者に既知のことである。
【0066】
SEI形成添加剤の具体例としては、ビニレンカ-ボネ-トなどの、少なくとも1つの二重結合を含有する環状カ-ボネ-ト及びその誘導体;モノフルオロエチレンカ-ボネ-ト、シス-及びトランス-ジフルオロカ-ボネ-トなどの、フッ素化エチレンカ-ボネ-ト及びその誘導体;プロパンスルトン及びその誘導体、並びにエチレンサルファイト及びその誘導体などの、硫黄含有酸の環状エステル;オキサレ-ト含有化合物、例えばシュウ酸リチウム、シュウ酸ジメチルを含むオキサラトボレ-ト、リチウムビス(オキサレ-ト)ボレ-ト、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレ-ト、及びアンモニウムビス(オキサラト)ボレ-ト、及びリチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェ-トを含むオキサラトホスフェ-ト;及び、特にWO2013/026854A1に詳細に記載されている硫黄含有添加剤、特に第12頁第22行~第15頁第10行に示されている硫黄含有添加剤がある。
【0067】
少なくとも1つの二重結合を含有する環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネートのように、二重結合が環の一部である環状カーボネート及びその誘導体、例えばメチルビニレンカーボネート及び4,5-ジメチルビニレンカーボネート;及び二重結合が環の一部ではない環状カーボネート、例えばメチレンエチレンカーボネート、4,5-ジメチレンエチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、及び4,5-ジビニルエチレンカーボネートが挙げられる。少なくとも1つの二重結合を含有する好適な環状カーボネートは、ビニレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、4,5-ジメチレンエチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、及び4,5-ジビニルエチレンカーボネートであり、最も好適なのはビニレンカーボネートである。
【0068】
硫黄含有酸の環状エステルの具体例としては、スルホン酸の環状エステル、例えばプロパンスルトン及びその誘導体、メチレンメタンジスルホネート及びその誘導体、及びプロペンスルトン及びその誘導体;並びに亜硫酸から誘導される環状エステル、例えばエチレンサルファイト及びその誘導体が挙げられる。硫黄含有酸の環状エステルの好適なものは、プロパンスルトン、プロペンスルトン、メチレンメタンジスルホネート、及びエチレンサルファイトである。
【0069】
好適なSEI形成添加剤は、オキサラトボレート、フッ素化エチレンカーボネート及びその誘導体、少なくとも1つの二重結合を含有する環状カーボネート、及び硫黄含有酸の環状エステルである。より好適には、電解質組成物が、少なくとも1つの二重結合を含有する環状カーボネート、及び硫黄含有酸の環状エステルから選択される少なくとも1つの添加剤を含有することである。電解質組成物は、少なくとも1つの二重結合を含有する環状カーボネート及び硫黄含有酸の環状エステルから選択される少なくとも1つの添加剤、又は少なくとも1つの二重結合を含有する環状カーボネートから選択される少なくとも1つの添加剤、及び硫黄含有酸の環状エステルから選択される少なくとも1つの添加剤を含有することができる。電解質組成物がSEI形成添加剤(iv)を含有する場合、その添加剤は、通常、電解質組成物の0.1~10質量%、好ましくは0.2~5質量%の濃度で存在する。
【0070】
過充電保護添加剤の具体例としては、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、o-テルフェニル及びp-テルフェニルがある。
【0071】
ゲル化剤の具体例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ナフィオン(Nafion)、ポリエチレンオキシド、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアニリン、ポリピロール及び/又はポリチオフェンのようなポリマーがある。これらのポリマーは、液体電解質を準固体又は固体電解質に変換し、したがって特にエージング中の溶媒残留を改善するために電解質に添加される。
【0072】
添加剤(iv)として添加される化合物は、電解質組成物及び電解質組成物を具備するデバイスにおいて二つ以上の効果を有することができる。例えば、SEI形成を促進する添加剤として、リチウムオキサラトボレートを添加することができるが、それは、また、導電性塩としても添加することができるものである。
【0073】
本発明の一実施形態によれば、電解質組成物は少なくとも1つの添加剤(iv)を含有する。電解質組成物はフィルム形成添加剤、難燃剤、過充電添加剤、湿潤剤、HF及び/又はHO捕捉剤、LiPF塩の安定剤、イオン性溶媒和促進剤、腐食防止剤、及びゲル化剤から選択される少なくとも1つの添加剤(iv)を含有することが好ましい。
【0074】
好適な電解質組成物は、電解質組成物の総質量に基づいて、
(i)少なくとも74.99質量%の少なくとも1種の有機非プロトン性溶媒;
(ii)0.1~25質量%の少なくとも1種の導電性塩;
(iii)0.01~5質量%の式(I)のピリジン-SO錯体;及び
(iv)0~25質量%の少なくとも1種の添加剤
を含有する。
【0075】
電解質組成物は非水性である。本発明の電解質組成物の含水量は、電解質組成物の質量を基準として、好ましくは100ppm未満、より好ましくは50ppm未満、最も好ましくは30ppm未満である。含水量は、例えばDIN51777又はISO760:1978に詳細に記載されている、Karl Fischerによる滴定法によって測定することができる。
【0076】
本発明の電解質組成物のHF含有量は、電解質組成物の質量を基準として、好ましくは100ppm未満、より好ましくは50ppm未満、最も好ましくは30ppm未満である。HF含有量は、電位差滴定法又はポテンシオグラフ(potentiographic)滴定法による滴定によって測定することができる。
【0077】
電解質組成物は、稼働条件下で液体であることが好ましい。より好適には、電解質組成物は、1バール及び25℃で液体であり、さらにより好適には、1バール及び-15℃で液体であり、特に電解質組成物は1バール及び-30℃で液体であり、さらにより好適には、電解質組成物は1バール及び-50℃で液体である。そのような液体電解質組成物は、屋外用途、例えば自動車のバッテリーに使用するのに特に適している。
【0078】
本発明の電解質組成物の調製は、電解質製造分野の当業者に知られている方法によって、一般的には、導電性塩(複数含む)(ii)を、相応する溶媒(複数含む)(i)に溶解し、1種以上の式(I)のピリジン-SO錯体(iii)、及び任意で、上記した1種以上の添加剤(iv)を添加することによって行う。
【0079】
電解質組成物は、電気化学セルに使用することができ、好適にはリチウム電池、電気二重層キャパシタ、又はリチウムイオンキャパシタに使用され、より好適にはリチウム電池に使用され、さらにより好適には二次リチウムセルに使用され、最も好適には二次リチウムイオン電池に使用される。
【0080】
本発明は、さらに、上記した又は好適なものとして記載した電解質組成物を含む電気化学セルを提供する。
【0081】
電気化学セルは、リチウム電池、電気二重層キャパシタ、又はリチウムイオンキャパシタであり得る。
【0082】
このような電気化学セルの一般的な構成は、電池について、例えば、LindenのHandbook of Batteries(ISBN978-0-07-162421-3)において、既知であり、当業者にはよく知られている。
【0083】
電気化学セルはリチウム電池であることが好ましい。本明細書で使用する「リチウム電池」という用語は、セルの充電/放電の間のある時点で、アノードがリチウム金属又はリチウムイオンを含む、電気化学セルを意味する。アノードは、リチウム金属若しくはリチウム金属合金、リチウムイオンを吸蔵及び放出する材料、又は他のリチウム含有化合物を含むことができ;例えば、リチウム電池は、リチウムイオン電池、リチウム/硫黄電池、又はリチウム/セレン硫黄電池であり得る。
【0084】
特に好適には、電気化学デバイスは、リチウムイオン電池、すなわち、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるカソード活物質を含むカソードと、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるアノード活物質を含むアノードとを含む二次リチウムイオン電気化学セルである。用語「二次リチウムイオン電気化学セル」及び「(二次)リチウムイオン電池」は、本発明の範囲内で交換可能に使用する。
【0085】
少なくとも1つのカソード活物質は、リチウム化遷移金属リン酸塩及びリチウムイオンインターカレート金属酸化物から選択される、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料を含むことが好ましい。
【0086】
リチウム化遷移金属リン酸塩の具体例はLiFePO、LiMnPO、LiNiPO及びLiCoPOであり、リチウムイオンインターカレート金属酸化物の具体例はLiCoO、LiNiO、LiMnO、Mnと少なくとも1種の第2遷移金属とを含有する混合リチウム遷移金属酸化物;及びNi、Al及び少なくとも1種の第2遷移金属混合酸化物を含有するリチウムインターカレート混合酸化物である。
【0087】
Mnと少なくとも1種の第2遷移金属とを含有する混合リチウム遷移金属酸化物の具体例としては、一般式Li1+e(NiCoMn1-e
(式中、
aは0.05~0.9の範囲、好ましくは0.1~0.8の範囲であり、
bは0~0.35の範囲であり、
cは0.1~0.9の範囲、好ましくは0.2~0.8の範囲であり、
dは0~0.2の範囲内であり、
eは0~0.3の範囲、好ましくは>0~0.3の範囲、より好ましくは0.05~0.3の範囲であり、
a+b+c+d=1であり、
MはNa、K、Al、Mg、Ca、Cr、V、Mo、Ti、Fe、W、Nb、Zr、及びZnから選択される1種以上の金属である)
を有する、層構造の混合リチウム遷移金属酸化物;及びマンガン含有スピネル、例えばLiMnO、及び一般式Li1+t2-t4-d(式中、dは0~0.4であり、tは0~0.4であり、MはMnと、Co及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の更なる金属である)のスピネルがある。
【0088】
層状構造を持つ混合リチウム遷移金属酸化物の具体例としては、LiNi0.33Mn0.67、LiNi0.25Mn0.75、LiNi0.35Co0.15Mn0.5、LiNi0.21Co0.08Mn0.71、LiNi0.22Co0.12Mn0.66、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、及びLiNi0.5Co0.2Mn0.3がある。
【0089】
Mnと少なくとも1種の第2遷移金属とを含有する混合リチウム遷移金属酸化物の更なる具体例としては、式Li1+t2-t4-s(式中、
sは0~0.4であり、
tは0~0.4であり、
MはMn、並びにCo及びNiから選択される少なくとも1つの更なる金属であり、好ましくは、MはMn及びNi及び任意でCoであり、すなわちMの一部はMnで別の一部はNiであり、任意でMの更なる一部はCoから選択される)
のマンガン含有スピネルがある。
【0090】
Ni、Al、及び少なくとも1種の第2遷移金属混合酸化物を含有するリチウムインターカレート混合酸化物の具体例としては、式Li[NiCoAl]O
(式中、
hは0.7~0.9、好ましくは0.8~0.87、さらに好ましくは0.8~0.85である;
iは0.15~0.20である;そして
jは0.02~10、好ましくは0.02~1、より好ましくは0.02~0.1、最も好ましくは0.02~0.03である)
の化合物がある。
【0091】
カソードは、導電性カーボンのような導電性材料、及びバインダーのような通常の成分をさらに含むことができる。導電性材料及びバインダーとして適切な化合物は当業者に知られている。例えば、カソードは、例えばグラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、又はこれら前述の物質のうちの少なくとも2種の混合物から選択される、導電性多形(polymorph)のカーボン(炭素)を含むことができる。さらに、カソードは1種以上のバインダー、例えば1種以上の有機ポリマーを含むことができる。有機ポリマーには、例えば、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリイソプレン、及びエチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択される少なくとも2種のコモノマーのコポリマー、特にスチレン-ブタジエンコポリマー、及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えば ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー、テトラフルオロエチレンとフッ化ビニリデンとのコポリマー、及びポリアクリロニトリルがある。
【0092】
本発明のリチウム電池内に含まれるアノードは、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるか、又はリチウムと合金を形成することができるアノード活物質を含む。例えば、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができる炭素質材料をアノード活物質として使用することができる。適切な炭素質材料は、結晶性炭素材料、例えば、天然グラファイトのようなグラファイト材料、グラファイト化コークス、グラファイト化MCMB、及びグラファイト化MPCF;非晶質炭素、例えば、コークス、1500℃未満で焼成されたメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、及びメソフェーズピッチ系カーボンファイバー(MPCF);硬質炭素及び炭素系アノード活物質(熱分解炭素、コークス、グラファイト)、例えば、炭素複合材、燃焼有機ポリマー、カーボンファイバーである。プロピレンカーボネートが電解質組成物中に存在する場合、アノード活物質として使用可能な炭素質材料の中には、プロピレンカーボネートによって劣化する傾向を示すものもある。この劣化は、通常、セルの電気化学的サイクル中にプロピレンカーボネート分子が炭素質材料にインターカーレション(挿入:intercalation)されることによって引き起こされる。プロピレン分子のインターカレーションは炭素質材料の層剥離をもたらす。例えば、グラファイト材料はプロピレンカーボネートのインターカレーションによる剥離によって非常に容易に破壊される。通常、少なくとも部分的にグラファイト層を含む炭素質材料は、サイクル中に電解質組成物中に存在するプロピレンカーボネートによって引き起こされる劣化を起こしやすい。炭素質材料がプロピレンカーボネートによって劣化する傾向があるかどうかを判定するには、以下に記載する手順に従うことができる。
【0093】
炭素質材料がプロピレンカーボネートによって引き起こされる劣化に敏感であるかどうかを決定するために、コインボタン型電池を以下の実験の部で記載する手順と同様に作製することができる。手順に記載したグラファイト電極の代わりに、炭素質材料ベースの電極を負極として使用する。電解質として、PC:DMC(質量比で1:1)中の1MのLiPFの溶液を使用することが必要である。プロピレンカーボネートによる劣化に影響を受ける炭素質材料は、強い容量減退を示し、20サイクル後には、容量維持率がセル理論容量の25%未満になるものである。
【0094】
メチルホスホノイルオキシ(methylphosphonoyloxy)メタンを添加すると、プロピレンカーボネートによる炭素質アノード活物質の劣化を効果的に防止することができる。本発明の一実施形態によれば、アノード活物質は、プロピレンカーボネートによって劣化しやすい炭素質材料から選択される。アノード活物質は少なくとも部分的にグラファイト層を含む炭素質材料から選択されることが好ましく、アノード活物質はグラファイト材料から選択されることがより好適である。
【0095】
更なるアノード活物質は、リチウム金属であるか、又はリチウムと合金を形成することができる元素を含む材料である。リチウムと合金を形成することができる元素を含む材料の非限定的な例としては、金属、半金属、又はそれらの合金が挙げられる。本明細書で使用される「合金」という用語は、2種以上の金属の合金、及び、1種以上の半金属と共に1種以上の金属からなる合金の両方を指すことと理解されたい。合金が全体として金属的性質を有する場合には、当該合金は非金属元素を含むことができる。合金の組織中には、固溶体、共晶物(共晶混合物)、金属間化合物又はこれらの2種以上が共存している。このような金属又は半金属元素の具体例には、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、砒素(As)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びケイ素(Si)が含まれるが、これらに限定されない。元素の長周期型周期表における第4族又は第14族の金属及び半金属元素が好ましく、特に好ましくはチタン、ケイ素及びスズであり、特にケイ素である。スズ合金の具体例としては、スズ以外の第2構成元素として、ケイ素、マグネシウム(Mg)、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン(Ti)、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン及びクロム(Cr)からなる群から選ばれる1種以上の元素を有するものが挙げられる。ケイ素合金の具体例としては、ケイ素以外の第2構成元素として、スズ、マグネシウム、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン及びクロムからなる群から選択される1種以上の元素を有するものが挙げられる。
【0096】
更なる可能性のあるアノード活物質はケイ素系材料である。ケイ素系材料としては、ケイ素それ自体、例えば非晶質及び結晶質ケイ素、ケイ素含有化合物、例えばSiO(0<x<1.5)及びSi合金、ならびにケイ素及び/又はケイ素含有化合物を含有する組成物、例えばケイ素/グラファイト複合材料及び炭素被覆ケイ素含有材料が挙げられる。ケイ素自体は、例えばナノワイヤ(nanowires)、ナノチューブ、ナノ粒子、フィルム、ナノポーラスシリコン、又はシリコンナノチューブの形態など、様々な形態で使用することができる。ケイ素は集電体上に堆積させることができる。集電体は、被覆金属ワイヤ、被覆金属グリッド、被覆金属ウェブ、被覆金属シート、被覆金属箔又は被覆金属板から選択することができる。好ましくは、集電体は被覆金属箔、例えば被覆銅箔である。ケイ素の薄膜は、当業者に知られている任意の技術、例えばスパッタリング技術によって金属箔上に堆積させることができる。シリコン薄膜電極を製造する1つの方法が、R.Elazariら;Electrochem.Comm.2012、14、21~24に記載されている。
【0097】
他の可能なアノード活物質は、リチウムイオンインターカレートTi酸化物である。
【0098】
アノード活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができる炭素質材料から選択することが好ましく、特に好適なのは、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができる炭素質材料は、プロピレンカーボネートによって劣化しやすい炭素質材料から選択することであり、特にグラファイト材料が好適である。別の好適な実施形態では、アノード活物質はリチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるケイ素系材料から選択される。また、アノードはケイ素薄膜又はケイ素/炭素複合体薄膜を含むことが好ましい。更なる好適な実施形態では、アノード活物質はリチウムイオンインターカレートTi酸化物から選択される。
【0099】
アノード及びカソードは、電極活物質、バインダー、任意に導電性材料及び増粘剤を、必要に応じて、溶媒中に分散させることにより電極スラリー組成物を調製し、そのスラリー組成物を集電体上にコーティングすることによって作製することができる。集電体は、金属ワイヤ、金属グリッド、金属ウェブ、金属シート、金属箔又は金属板であることができる。集電体は金属箔、例えば銅箔又はアルミニウム箔であることが好適である。
【0100】
本発明のリチウム電池は、それ自体慣用の更なる成分、例えばセパレータ、筐体、ケーブル接続部などを含み得る。筐体は、任意の形状であってもよく、例えば、立方体状又は円筒形状、角柱形状であることができ、又は使用する筐体はパウチとして加工した金属-プラスチック複合フィルムである。適切なセパレータは、例えば、ガラス繊維セパレータ、及びポリオレフィンセパレータのようなポリマーベースのセパレータである。
【0101】
幾つかの本発明のリチウム電池は、例えば、直列接続又は並列接続で、互いに組み合わせることができる。直列接続が好適である。本発明は、さらに、デバイス類、特にモバイルデバイスにおける上記の本発明リチウムイオン電池の使用を提供する。モバイルデバイスの具体例には、自動車、自転車、航空機などの乗り物、又はボート若しくは船などの水上乗り物がある。モバイルデバイスの他の具体例は、携帯可能なもの、例えばコンピュータ、特にラップトップコンピュータ、電話、又は例えば建設分野の電動工具、特にドリル、電池駆動スクリュードライバー又は電池駆動のステープラーである。しかし、本発明のリチウムイオン電池は定置型エネルギー貯蔵装置にも使用することができる。
【0102】
更なる記載がなくても、当業者は上記説明を最も広い範囲で利用することができると考えられる。したがって、好適な実施形態及び実施例は、単に説明的なものと解釈されるべきであり、決して限定的な効果を有するものではない。
【実施例
【0103】
本発明について以下の実施例によって説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0104】
1.ピリジン-SO錯体の合成
フラスコに過剰量のジクロロエタン(100mL、無水、ACROS)を取り、4gの三酸化硫黄をそれに加えることによって、2-ビニルピリジン-SO錯体(2-VP SO)を調製した。次に、5mLの2-ビニルピリジン(>99.0%、Sigma-Aldrich)を溶液に添加した。その混合物を1時間撹拌したところ、乳白色になった。白色固体が得られ、これを真空マニホールドによって溶媒から分離した。その生成物についてH核磁気共鳴(NMR)分光法により特性解析を行った。
【0105】
ピリジン-SO錯体(Pyr-SO)、3-フルオロピリジン-SO錯体(3-FP SO)、2-トリフルオロエチルピリジン-SO錯体(2-TFP SO)、及び4-ビニルピリジン-SO錯体(4-VP SO)を同様にして調製した。
【0106】
2.電気化学セル
基本電解質組成物は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の混合物(3/7v/v)中の1.2M LiPFであった。0.5質量%又は0.1質量%の種々のピリジン-SO錯体をこの基本電解質組成物に添加した。「質量%」は電解質組成物の全質量に基づく。
【0107】
92質量%のLiNi0.5Mn1.5、4質量%の導電性カーボン及び4質量%のポリフッ化ビニリデンの複合体を含むElexcelカソード(d=14.7mm)と、Elexcelグラファイトアノード(d=15.0mm)、3層ポリプロピレン/ポリエチレン(PP/PE/PP)セパレータ(d=19mm、Celgard)、及び1層のガラス繊維セパレータ(d=16mm、厚さ=0.67mm、Whatman)、及び各セル中100マイクロLの電解質を有する2032型セルを、含水量が0.1ppm未満のアルゴン充填グローブボックス内で作製した。各セルについてサイクルをArbinサイクラー(cycler)で実施し、温度をFisher Scientific Isotempインキュベーターにより制御した。
【0108】
3.サイクリング性能
LiNi0.5Mn1.5/グラファイトセルを25℃でサイクルにかけた。最初は以下のサイクリング手順を用いた。すなわち、第1回サイクルではC/20;第2回及び第3回サイクルではC/10;25℃での残りのサイクルではC/5であった。25℃でのサイクリングの後、セルを45℃に移して50サイクルについてC/5でのサイクリングを実施した。セルを4.25~4.8VまでCC-CVモード、定電流充電し、続いて電流が印加充電電流の10%まで減少するまで、定電圧充電工程4.8Vvs.LiC/Cを実施した。次に、同じ定電流(CCモード)でセルをLiC/Cに対して3.30Vまで放電した。
【0109】
基本電解質(比較例)、0.5質量%のピリジン-SO錯体を含有する基本電解質(比較例)、及び0.5質量%の2-ビニルピリジン-SO錯体を含有する基本電解質(本発明)を用いたサイクル試験の結果を図1a)及び1b)に示す。
【0110】
効率は、次の式で計算する:効率=(nサイクル目の放電容量/nサイクル目の充電容量)*100%
基礎電解質へ2-ビニルピリジン-SO錯体を添加する場合は、高温での高電圧サイクル中の比放電容量(specific discharge capacity)及び効率の増加をもたらすのに対して、非置換ピリジン-SO錯体を添加する場合は、図1a)及び図1b)に示すように比放電容量と効率の双方に有害な影響を与える。
【0111】
基本電解質(比較例)及び0.1質量%の様々な置換ピリジン-SO錯体を含有する基本電解質(本発明)を用いたサイクル試験の結果を図2図5に示す。式(I)のピリジン-SO錯体を含有する電解質組成物は、全て、基本電解質と比較して増加した比放電容量及び効率を示す。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b