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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】潜像印刷物
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20220127BHJP
   B42D 25/337 20140101ALI20220127BHJP
   G07D 7/12 20160101ALN20220127BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/337
G07D7/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018146418
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020019255
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】田原 健児
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-056577(JP,A)
【文献】特開2016-203459(JP,A)
【文献】特開2014-083721(JP,A)
【文献】特開2010-179581(JP,A)
【文献】特開2011-126028(JP,A)
【文献】特開2015-054471(JP,A)
【文献】特開2007-106116(JP,A)
【文献】特表2017-538604(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0225362(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B42D 25/337
G07D 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、明暗フリップフロップ性及びカラーフリップフロップ性のうち、少なくとも一方の光学特性を備えた蒲鉾状画線が第一の方向に第1のピッチで万線状に配置された蒲鉾状画線群と、前記蒲鉾状画線群の上に、正反射光下で前記蒲鉾状画線群とは異なる色彩を有する第1の潜像画像と第2の潜像画像から成る潜像画像が積層され、正反射光下で観察角度を変化させると、前記潜像画像による潜像が変化して視認される潜像印刷物であって、
前記第1の潜像画像は、基画像の位置及び/又は形状が徐々に異なる第1-1の基画像、第1-2の基画像、・・・、第1-iの基画像(iは、3以上の整数)を、所定の幅で分割した複数の潜像画線が、前記第1-1の基画像における所定の位置を起点として、前記第一の方向に前記第1のピッチで規則的に配置されて成る、第1-1の潜像画像、第1-2の潜像画像、・・・、第1-iの潜像画像から成り、
前記第2の潜像画像は、前記基画像の位置及び/又は形状が徐々に異なる第2-jの基画像(jは、iより小さい2以上の整数)、・・・、第2-2の基画像、第2-1の基画像を、前記所定の幅で分割した複数の潜像画線が、前記第1-1の基画像、前記第1-2の基画像、・・・、前記第1-iの基画像を所定の幅で分割した複数の潜像画線と重ならない位置を第2-jの基画像の起点として、前記第一の方向とは逆の方向に前記第1のピッチにより規則的に配置されて成る第2-1の潜像画像、第2-2の潜像画像、・・・、第2-jの潜像画像から成り、
前記蒲鉾状画線の上に、前記第1-1の潜像画像から前記第1-iの潜像画像を構成する潜像画線と、前記第2-1の潜像画像から前記第2-jの潜像画像を構成する潜像画線が、順に配置されたことを特徴とする潜像印刷物。
【請求項2】
前記第1の潜像画像を構成する前記第1-1の潜像画像から前記第1-iの潜像画像の数と、前記第2の潜像画像を構成する前記第2-1の潜像画像から前記第2-jの潜像画像の数の和に対して、前記第1の潜像画像を構成する前記第1-1の潜像画像から前記第1-iの潜像画像の数の比が60%以上90%以下であることを特徴とする請求項1記載の潜像印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、諸証券等、高度な偽造防止が要求される印刷物の分野において、観察角度を連続的に変化させることで、視認される画像が異なる画像に変化又は動的効果を奏する潜像印刷物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、有価証券等のセキュリティ印刷物には、その価値を保証及び維持するために、偽造防止のための様々な技術が形成されている。これらの偽造防止技術の一つとして、本出願人は、観察角度を連続的に変化させることで潜像画像が立体的かつ動的に視認できる潜像印刷物を出願している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の印刷物は、高い光沢及び盛り上がりを有する蒲鉾状の画線の上に、基画像を分割して圧縮した潜像要素を重ねて形成した構成であり、光が入射した場合に、盛り上がりを有する蒲鉾状の画線のうち、入射する光と法線を成す面のみが強く光を反射する現象を利用し、観察角度の変化により、蒲鉾状の画線の上に形成した潜像要素のサンプリングされる位置も変化することで、出現する潜像画像が動いて見える効果を備えたものである。なお、特許文献1の印刷物は、同様の効果のあるレンチキュラーやパララックスバリアを用いる技術を薄型化することや、印刷技術のみで簡易に製造することを課題として提案したものである。
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、動画効果に優れた技術であり、出現した潜像画像は連続的にスムーズに動くことを特徴とするが、その一方で蒲鉾状の画線と潜像要素の重ね合わせの位置が適正な位置からずれて形成された場合には、正反射光下におけるわずかな観察角度の変化によって、出現する潜像画像がある特定の位置から全く異なる位置へと突然位相を変化させる「ジャンプ」と呼ばれる現象が生じ、観察者に違和感を生じさせてしまうという問題があった。
【0005】
この問題に対して、本出願人は、蒲鉾状の画線と潜像要素の重ね合わせの位置が適正な位置からずれた場合であっても、ジャンプ現象が生じることなく、潜像画像が連続的にスムーズに変化する潜像印刷物を提案している(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2の印刷物は、基画像を分割して圧縮した潜像要素(以下「IP要素」という。)と、当該潜像要素をミラー反転した潜像要素(以下「IP反転要素」という。)をセットとして、蒲鉾状の画線の上に交互に形成した構成である。そして、観察角度を変化させると、IP要素によって視認できる潜像画像が移動して端点に達すると、IP反転要素によって視認できる潜像画像が、IP要素による潜像画像が移動する方向とは逆の方向に移動する、いわゆる往復移動する効果が得られる。すなわち、蒲鉾状の画線において、IP要素とIP反転要素をセットとして形成することにより、蒲鉾状の画線に対して、IP要素とIP反転要素の位置がずれたとしても、移動方向が切り替わる観察角度が変わるだけで、スムーズに移動する効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5200284号公報
【文献】特開2016-203459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の印刷物は、IP要素とIP反転要素をセットとして、蒲鉾状の画線の上に形成することで、ジャンプ現象が生じることなく、潜像画像が連続的に往復移動する効果が得られるが、蒲鉾状の画線の上に、潜像画像を構成する2種類の要素を形成する必要があることから、往復移動する潜像画像の視認性が低下するという問題があった。この問題を分かりやすく説明するため、図面を用いて説明する。
【0009】
図25は、特許文献1の印刷物(100)を異なる角度から観察する状態と、観察角度によって視認できる潜像を模式的に示す図であり、ここでは、印刷物(100)に対して、七つの異なる角度の視点(L)から観察した際に、潜像(R)が左端から右端へ七つの異なる位置に直線上に移動して視認される状態を示している。また、図26は、特許文献2の印刷物(101)を異なる角度から観察する状態と、観察角度によって視認できる潜像を模式的に示す図であり、ここでは、印刷物(101)に対して、七つの異なる角度の視点(L)から観察した際に、潜像(S)が左端から右端へ異なる位置に移動し、更に潜像(S)が右端から左端に移動して視認される状態を示している。
【0010】
図25に示すように、引用文献1の印刷物は、視点(L1)を基準に六つの観察角度が変化することで、潜像(R)が左端から右端へ移動すればよいが、引用文献2の印刷物は、往復移動する分、視点(L1)を基準に三つの観察角度が変化することで、潜像(S)が左端から右端へ移動する必要がある。このように、引用文献2の印刷物は、IP要素とIP反転要素をセットとして設けるため、視点(L)の変化による潜像(S)の移動量が大きい構成となっている。特許文献1及び特許文献2の印刷物において、単一の光源から印刷物に光が照射される理想的な観察条件であれば、光源からの入射光と観察者の視線が直行する蒲鉾状画線の上に形成された潜像要素のみが抽出されて潜像が視認できるが、潜像印刷物に複数の方向から光が入射する環境の影響や、蒲鉾状画線の形状(曲率)の影響により、潜像要素のサンプリングされる範囲が広くなり、複数の視点に応じた潜像が合わさって見えることがあり、潜像が不鮮明になるという問題が生じていた。
【0011】
一方で、特許文献1の印刷物と同じような潜像の視認性を確保しようとすると、潜像の移動量が小さくなってしまうという問題があった。
【0012】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、正反射光下で傾けて観察した際に潜像のジャンプ現象を回避し、潜像が連続的に移動、変化して視認される潜像印刷物において、所定の観察角度において、潜像の視認性を向上させた潜像印刷物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の潜像印刷物は、基材の少なくとも一部に、明暗フリップフロップ性及びカラーフリップフロップ性のうち、少なくとも一方の光学特性を備えた蒲鉾状画線が第1のピッチで万線状に配置された蒲鉾状画線群と、蒲鉾状画線群の上に、正反射光下で蒲鉾状画線群とは異なる色彩を有する第1の潜像画像と第2の潜像画像から成る潜像画像が積層され、正反射光下で観察角度を変化させると、潜像画像による潜像が変化して視認される潜像印刷物であって、第1の潜像画像は、基画像の位置及び/又は形状が徐々に異なる第1-1の基画像、第1-2の基画像、・・・、第1-iの基画像(iは、3以上の整数)を、所定の幅で分割した複数の潜像画線が第1のピッチで配置されて成る第1-1の潜像画像、第1-2の潜像画像、・・・、第1-iの潜像画像から成り、第2の潜像画像は、第1-1の基画像から第1-iの基画像へ位置及び/又は形状が異なる規則とは逆の規則で、位置及び/又は形状が徐々に異なる第2-1の基画像、第2-2の基画像、・・・、第2-jの基画像(jは、iより小さい2以上の整数)を、所定の幅で分割した複数の潜像画線が第1のピッチで配置されて成る第2-1の潜像画像、第2-2の潜像画像、・・・、第2-jの潜像画像から成り、蒲鉾状画線の上に、第1-1の潜像画像から第1-iの潜像画像を構成する潜像画線と、第2-1の潜像画像から第2-jの潜像画像を構成する潜像画線が順に配置されたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の潜像印刷物は、第1の潜像画像を構成する第1-1の潜像画像から第1-iの潜像画像の数と、第2の潜像画像を構成する第2-1の潜像画像から第2-jの潜像画像の数の和に対して、第1の潜像画像を構成する第1-1の潜像画像から第1-iの潜像画像の数の比が60%以上90%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の潜像印刷物は、正反射光下で傾けて観察した際に潜像のジャンプ現象を回避し、潜像が連続的に移動、変化して視認される潜像印刷物において、所定の観察角度において、鮮明な潜像を視認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の潜像印刷物の概要を示す図である。
図2】本発明の潜像印刷物の効果を示す図である。
図3】蒲鉾状画線群の構成を示す図である。
図4】潜像画像の構成を示す図である。
図5】第1の潜像画像と第2の潜像画像の構成を示す図である。
図6】第1-1の潜像画像に対応した基画像を示す図である。
図7】蒲鉾状画線の上に形成された第1-1の潜像画線を示す図である。
図8】第1-2の潜像画像に対応した基画像を示す図である。
図9】蒲鉾状画線の上に形成された第1-2の潜像画線を示す図である。
図10】各潜像画像が一定の間隔で直線上を移動する規則について説明する図である。
図11】各潜像画像が異なる間隔で直線上を移動する規則について説明する図である。
図12】各潜像画像が直線上を移動する逆の規則について説明する図である。
図13】蒲鉾状画線の上に形成された潜像画線を示す図である。
図14】蒲鉾状画線の上に形成された潜像画線の他の例を示す図である。
図15】潜像印刷物を、正反射光下の異なる観察角度から観察した際の効果について説明する図である。
図16】潜像の移動の例を示す図である。
図17】潜像が回転して視認できる例を示す図である。
図18】各潜像画像が一定の回転方向に回転する規則について説明する図である。
図19】各潜像画像が一定の回転方向に回転する逆の規則について説明する図である。
図20】潜像が回転して視認できる別の例を示す図である。
図21】潜像が拡大と縮小して視認できる例を示す図である。
図22】各潜像画像が拡大と縮小される規則について説明する図である。
図23】潜像の形状が変化して視認できる例を示す図である。
図24】潜像の形状が変化する規則について説明する図である。
図25】特許文献1の印刷物の効果の一例を示す図である。
図26】特許文献2の印刷物の効果の一例を示す図である。
図27】実施例1の潜像画像の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0018】
図1は、本発明の潜像印刷物(1)の概要を示す図である。図1(a)は、潜像印刷物(1)の平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA-A’線における断面図である。図1(a)に示すように、潜像印刷物(1)は、基材(2)の上に蒲鉾状画線群(10)と潜像画像(20)を備え、潜像画像(20)は、図1(b)に示すように、蒲鉾状画線群(10)の上に積層される。
【0019】
図2は、観察者の視点(L)に対して、本発明の潜像印刷物(1)の角度(正反射)を変えて観察した場合に視認できる潜像(T)を模式的に示す図であり、図26で説明した従来の印刷物との効果の差を分かりやすく説明するため、本実施の形態においても、七つの異なる角度から観察して、七つの潜像が移動して視認できる潜像印刷物(1)の例を示している。なお、本発明において、潜像(T)の図柄は特に限定されるものではないが、ここでは「花びら」を潜像(T)の図柄とした例で説明する。
【0020】
図2(a)から図2(g)までの観察状態へ、徐々に潜像印刷物(1)を傾けて観察すると、特開2016-203459号公報と同様に、潜像(T)が直線上に移動して端点に達すると、続いて、逆の方向に移動する効果がある。ただし、本発明においては、図2(a)の観察状態を基準に、図2(e)の観察状態へ4段階の角度を変えて観察した場合に、潜像(T)が左端から右端に移動し、図2(e)から図2(g)までの観察状態へ、2段階の角度を変えて観察した場合に、潜像(T)が右端から左端に移動する。すなわち、潜像(T)が左端から右端に移動するまでの視点の数(観察角度の変化)及びそれに応じて視認できる潜像(T)の数と、潜像(T)が右端から左端に移動するまでの視点の数(観察角度の変化)及びそれに応じて視認できる潜像(T)の数が異なる。以下、本発明の潜像印刷物(1)の詳細な構成と、図2に示すような潜像(T)が移動する原理について説明する。
【0021】
基材(2)は、蒲鉾状画線群(10)と潜像画像(20)が形成可能な平面を備えていればよく、上質紙、コート紙、プラスティック、金属等、材質は特に限定されない。その他、基材(2)の色彩や大きさについても特に制限はない。また、蒲鉾状画線群(10)と潜像画像(20)は、正反射光下の観察時に色差(明暗差又は色相差)が発現する組合せであれば、拡散反射光下の色彩に限定はなく、透明であっても着色されていてもよい。
【0022】
(蒲鉾状画線群)
図3は、図1に示す蒲鉾状画線群(10)の詳細な構成を示す図である。図3(a)は、蒲鉾状画線群(10)の平面図であり、図3(b)は、図3(a)のB-B’線における断面図である。蒲鉾状画線群(10)は、図3(a)の拡大図に示すように、第1の画線幅(W1)の蒲鉾状画線(11)が、第1のピッチ(P1)で、第一の方向(図中S1方向)に万線状に配置されて成り、蒲鉾状画線(11)は、図3(b)に示すように、盛り上がりのある画線で構成される。なお、本発明における蒲鉾状画線(11)は、断面が曲線で構成された部分を備えていれば、図3(b)に示す断面形状に限定されるものではなく、半円形状又は半楕円形状等の画線であってもよい。
【0023】
出現する潜像に一定の視認性を確保するために、図3(b)に示す蒲鉾状画線(11)の盛り上がりの高さ(H)は、3μm以上が必要であることから、スクリーン印刷、凹版印刷及びUV-IJPで形成することが望ましいが、グラビア印刷やフレキソ印刷、凸版印刷等であっても、この程度の画線の盛り上がりの高さを形成することは可能である。また、盛り上がりの高さの上限に関しては、特に制限はないが、潜像印刷物(1)を大量に積載した場合の安定性や耐摩耗性及び流通適性等を考慮すると、1mm以下である。また、蒲鉾状画線(11)の第1の画線幅(W1)は、50μm以上1000μm以下であり、より好ましくは、100μm以上600μm以下である。50μm未満では、蒲鉾状画線(11)の盛り上がりの高さ(H)を3μm以上とすることが難しく、1000μmを超えると、画線が蒲鉾状ではなく台形に近づくためである。
【0024】
また、本発明において、蒲鉾状画線(11)は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を備える必要があり、明暗フリップフロップ性とは、正反射した場合に明度が上昇する特性を指し、カラーフリップフロップ性とは、色相が変化する特性を指す。すなわち、蒲鉾状画線(11)は、光が入射した場合に、明度や色相が変化することで、色彩が大きく変化する特性を有する必要がある。色彩の変化の大きさが大きければ大きいほど、出現する潜像の視認性は高くなる。
【0025】
盛り上がりを有する蒲鉾状画線(11)に明暗フリップフロップ性を付与する方法の一例としては、高光沢なインキ樹脂を用いたり、インキ中に金属顔料を混合したインキを用いたりして印刷することで容易に実現することができる。
【0026】
また、カラーフリップフロップ性を付与する方法の一例としては、パールインキや液晶インキ、OVI、CSI(Color Shifting Ink)等のインキを用いて印刷することで容易に実現することができる。多くのインキは物体色を有するが、虹彩色パールインキは無色透明である。例えば、赤色の虹彩色パールインキは、拡散反射光下では無色透明だが、正反射光下では赤色の干渉色を発する。このようにカラーフリップフロップ性を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。
【0027】
(潜像画像)
図4は、図1に示す潜像画像(20)の詳細な構成を示す図であり、図4に示すように、潜像画像(20)は、第1の潜像画像(30)と第2の潜像画像(40)から成る。本実施の形態において、第1の潜像画像(30)による潜像は、図2に示す左端から右端に向かって徐々に移動する潜像(T)に対応したものであり、第2の潜像画像(40)は、図2に示す右端から左端に向かって徐々に移動する潜像(T)に対応したものである。以下、第1の潜像画像(30)及び第2の潜像画像(40)の詳細について説明する。
【0028】
本実施の形態では、図2(a)から図2(e)へ観察角度を変化させた場合に、五つの異なる位置で、潜像(T)が移動して視認されることから、第1の潜像画像(30)もまた、図5(a)に示す五つの画像(以下「第1-1の潜像画像(30A)」、「第1-2の潜像画像(30B)」、「第1-3の潜像画像(30C)」、「第1-4の潜像画像(30D)」、「第1-5の潜像画像(30E)」という。)から構成される。また、図2(e)から図2(g)へ観察角度を変化させた場合に、更に二つの異なる位置で、潜像(T)が移動して視認されることから、第2の潜像画像(40)もまた、図5(b)に示す二つの画像(以下「第2-1の潜像画像(40A)」、「第2-2の潜像画像(40B)」という。)から構成される。
【0029】
第1-1の潜像画像(30A)は、図5(c)に示すように、第2の画線幅(W2)の第1-1の潜像画線(31A)が、蒲鉾状画線(11)のピッチと同じ第1のピッチ(P1)で、蒲鉾状画線(11)と同じ第一の方向(図中S1方向)に万線状に配置されて成る。ここで、第1-1の潜像画線(31A)の構成について説明する。
【0030】
図6は、第1-1の潜像画像(30A)を形成するための基画像を示す図であり、潜像(T1)に対応して「花びら」が左端に位置する基画像(30a)を示す図である。
【0031】
第1-1の潜像画像(30A)は、図6に示すように、基画像(30a)を、蒲鉾状画線(11)の画線幅(W1)のn分の1以下の画線幅で分割した複数の画線(30a-1、30a-2、・・・、30a-m)を基に形成される。ここでいう、「n」とは、潜像の個数に相当し、本実施の形態では、七つの潜像(T1からT7まで)が視認されることから、複数の画線(30a-1、30a-2、・・・、30a-m)の幅(W2)は、蒲鉾状画線(11)の画線幅(W1)の7分の1以下の画線となる。このように分割された複数の画線を、蒲鉾状画線(11)の上に形成したものが第1-1の潜像画線(31A)であり、前述のように、第1-1の潜像画線(31A)が配置される方向は、蒲鉾状画線(11)が配置される方向と同じ方向であり、同じピッチ(P1)で配置されることから、図7に示すように、第1-1の潜像画線(31A)は、蒲鉾状画線(11)の上に重なって形成される。また、第1-1の潜像画線(31A)の画線幅(W2)は、蒲鉾状画線(11)の画線幅(W1)より小さいことから、図7の拡大図に示すように、第1-1の潜像画線(31A)は、蒲鉾状画線(11)の一部に重なって形成される。なお、詳細には、図6に示す基画像(30a)を分割した複数の画線(30a-1、30a-2、・・・、30a-m)のうち、「花びら」に対応した画線のみが蒲鉾状画線(11)の上に第1-1の潜像画線(31A)として形成される(「花びら」の図柄がない部分は、蒲鉾状画線(11)の上には形成されない)。
【0032】
図8は、第1-2の潜像画像(30B)を形成するための基画像を示す図であり、潜像(T2)に対応して、図6に示す基画像(30a)の「花びら」の位置よりも右側に位置する基画像(30b)を示す図である。
【0033】
第1-2の潜像画像(30B)は、図8に示すように、基画像(30b)を、蒲鉾状画線(11)の画線幅(W1)のn分の1以下の画線幅で分割した複数の画線(30b-1、30b-2、・・・、30b-m)を基に形成される。このように分割された複数の画線を、蒲鉾状画線(11)の上に形成したものが第1-2の潜像画線(31B)である。なお、第1-2の潜像画線(31B)は、第1-1の潜像画線(31A)と同じ第2の画線幅(W2)で形成される。
【0034】
第1-2の潜像画線(31B)もまた、第1のピッチ(P1)で、第1-1の潜像画線(31A)が配置される第一の方向と同じ方向に万線状に配置され、かつ、第1-1の潜像画線(31)と重なることなく配置される。その結果、図9に示すように、第1-2の潜像画線(31B)は、蒲鉾状画線(11)の上の一部に重なって形成される。また、第1-2の潜像画線(31B)の画線幅(W2)は、蒲鉾状画線(11)の画線幅(W1)より小さいことから、図9の拡大図に示すように、第1-2の潜像画線(31B)は、蒲鉾状画線(11)の一部に重なって形成される。なお、詳細には、図8に示す基画像(30b)を分割した複数の画線(30b-1、30b-2、・・・、30b-m)のうち、「花びら」に対応した画線のみが蒲鉾状画線(11)の上に第1-2の潜像画線(31B)として形成される(「花びら」の図柄がない部分は、蒲鉾状画線(11)の上には形成されない)。
【0035】
第1-3の潜像画像(30C)から第1-5の潜像画像(30E)までも同様にして、「花びら」の位置が徐々に異なって右端まで移動する基画像(図示せず)を分割した画線を基に、蒲鉾状画線(11)の上に形成する。
【0036】
第2の潜像画像(40)を構成する第2-1の潜像画像(40A)と第2-2の潜像画像(40B)は、左端に位置する第1-1の潜像画像(30A)から右端に位置する第1-5の潜像画像(30E)へ移動する規則とは、逆の規則で、「花びら」の位置が右端から左端へ徐々に移動する基画像(図示せず)を分割した画線を基に、蒲鉾状画線(11)の上に形成する。
【0037】
潜像(T)が直線上に移動する本実施の形態において、第1-1の潜像画像(30A)から第1-5の潜像画像(30E)へ移動する規則とは、図10に示すように、第1-1の潜像画像(30A)から第1-5の潜像画像(30E)の図柄である「花びら」が移動する直線の仮想線(L)上に、潜像(T)の図柄である「花びら」における所定の位置、例えば、中心の位置(P)が配置され、一定の方向へ移動することである。なお、図10において、「花びら」が左端から右端に移動するまでの中間の位置を符号(K2、K3、K4)で示しており、それぞれの位置は、第1-2の潜像画像(30B)から第1-4の潜像画像(30D)までの位置に対応したものである。図10において、各潜像画像の位置(K1からK5まで)は、等間隔に離れた例であるが、図11に示すように、一定の方向に移動する構成であれば、各潜像画像の間隔が異なっていてもよい。
【0038】
潜像(T)が直線上に移動する本実施の形態において、第2-1の潜像画像(40A)と第2-2の潜像画像(40B)が移動する逆の規則とは、第1-1の潜像画像(30A)から第1-5の潜像画像(30E)の図柄である「花びら」が移動する直線の仮想線(L)上に、第2-1の潜像画像(40A)と第2-2の潜像画像(40B)である「花びら」における所定の位置、例えば、中心の位置(P)が配置され、かつ、逆の方向へ移動することであり、図12(a)は、第2-1の潜像画像(40A)が、左端の位置(K1)と右端の位置(K5)から等間隔の中間の位置(第1-3の潜像画像(30C)の位置(K3)と同じ位置)に配置され、第2-2の潜像画像(40B)が、左端の位置(K1)の位置に配置された状態を示しており、それぞれの位置を符号(k1、k2)として図示している。図12(a)において、各潜像画像の位置(k1、k2)は、等間隔で離れた例であるが、図12(b)に示すように、一定の方向に移動する構成であれば、各潜像画像の間隔が異なっていてもよい。
【0039】
以上の規則性がある第2-1の潜像画像(40A)と第2-2の潜像画像(40B)に対応して、「花びら」の位置が右端から左端に移動する基画像(図示せず)を分割した画線を、図13に示すように、蒲鉾状画線群(10)の上に形成する。なお、図13において符号(41A)で示すのは、第2-1の潜像画像(40A)を構成する第2-1の潜像画線(41A)であり、符号(41B)で示すのは、第2-2の潜像画像(40B)を構成する第2-2の潜像画線(41B)である。蒲鉾状画線(11)に配置される各潜像画線(31A~31E、41A、41B)が配置される順は、図13の拡大図に示すように、観察角度の変化によって視認できる潜像(T)を構成する潜像画線の順であり、徐々に位置が異なる基画像の順に対応して、分割して得られた画線の順である。
【0040】
本発明において、蒲鉾状画線(11)と潜像画線(31A~31E、41A、41B)の配置は、図13の拡大図に示す配置に限定されるものではなく、例えば、図14(a)に示すように、蒲鉾状画線(11)の左端に第1-3の潜像画線(31C)が形成され、蒲鉾状画線(11)の右端に第1-2の潜像画線(31B)が形成される配置でもよい。また、図14(b)に示すように、蒲鉾状要素(11)の左端に第2-1の潜像画線(41A)が形成され、蒲鉾状画線(11)の右端に第1-5の潜像画線(31E)が形成される配置でもよい。いずれの場合においても、潜像(T)が往復移動して視認できる効果は得られる。
【0041】
潜像画像(20)を構成する各潜像画線(31A~31E、41A、41B)に、盛り上がりの高さは必須でなく、このため、いかなる印刷方式で形成してもよい。生産性を考えれば、オフセット印刷で形成することが最も好ましい。正反射光下で潜像画像(20)を可視化するために、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)は、正反射時に蒲鉾状画線(11)との間に色差を生じる必要があり、少なくとも正反射時の色彩が、前述の蒲鉾状画線(11)の正反射時の色彩と異なっている必要があり、具体的には、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)は、蒲鉾状画線(11)の正反射時の色相、明度及び彩度のうち、少なくとも一つが異なっていればよい。
【0042】
また、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)は、蒲鉾状画線(11)の上に重ねて形成されるために、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)の下の蒲鉾状画線(11)に入射する光を遮断し、正反射光下で生じる蒲鉾状画線(11)の色彩変化を抑制する働きを成す。このため、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)が重なっているか否かによって、蒲鉾状画線(11)の正反射時の色彩に、より大きな違いが生じるため、潜像(T)の視認性をより高めるためには、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)は、高い光遮断性を備えていることが望ましい。
【0043】
そのため、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)を印刷で形成する場合には、低光沢なマットインキを用いることが望ましい。また、これらのインキにチタンのような光遮断性の高い機能性材料を配合すると、より高い効果を得ることができる。また、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)は、拡散反射光下では不可視であることが望ましいことから、無色透明か、半透明程度の色彩であることが望ましい。ただし、品質管理を容易にするために、わずかに着色顔料を配合してインキを着色したり、透明インキに蛍光顔料を配合したりして、UVランプを用いて脱刷や印刷不良等の異常を管理することもできる。
【0044】
また、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)は、インキによって形成するだけでなく、蒲鉾状画線(11)を切削することにより形成することもできる。このような切削は、レーザー加工機を用いることで容易に実施することができる。レーザーが照射された蒲鉾状画線(11)は、表面の平滑性が失われ、入射する光が表面で散乱されることから、レーザー加工によって形成された各潜像画線(31A~31E、41A、41B)は、反射光が大きく低下する。そのため、レーザー加工を用いることでも、本発明の各潜像画線(31A~31E、41A、41B)に必要とする特性を付与することができる。
【0045】
(効果)
続いて、以上の構成で成る潜像印刷物(1)を、正反射光下の異なる観察角度から観察した際の効果について説明する。
【0046】
図15は、図2(a)に示す観察条件に対応して、蒲鉾状画線(11)の上に各潜像画線(31A~31E、41A、41B)が形成された潜像印刷物(1)に、特定の光源(9)から光が入射した場合の光の挙動を模式的に示す図である。
【0047】
正反射光下においては、蒲鉾状画線(11)の有する光学特性である明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性によって、色彩が大きく変化するために、潜像画線(31A~31E、41A、41B)のいずれかとの間に大きな色差が生じ、潜像画像(30A~30E、40A、40B)のいずれかが可視化される。ただし、蒲鉾状画線(11)は盛り上がりを有しているため、蒲鉾状画線(11)の表面全体が一斉に光を反射することはなく、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)全体が一度に可視化されることはない。正反射光下においては、蒲鉾状画線(11)の画線表面のうち、入射した光と直交する画線表面だけが強く光を反射し、その領域だけ蒲鉾状画線(11)と潜像画線(31A~31E、41A、41B)の間に大きな色差が生じる。結果として入射した光と直交した蒲鉾状画線(11)の画線表面の上に重ねられた潜像画線(31A~31E、41A、41B)の画像情報のみがサンプリングされ、可視化されることとなる。
【0048】
以上のことから、図15の拡大図に示す正反射光下の観察条件のとき、蒲鉾状画線(11)が単体で形成された部分は、光を強く正反射する(又は色が変化する)中、第1-1の潜像画線(31A)が形成された部分は、異なる色彩となり、基画像(30a)が分割されて複数の蒲鉾状画線(11)の上に形成された第1-1の潜像画線(31A)がサンプリングされて、潜像(T1)が可視化される。なお、各潜像画線(31A~31E、41A、41B)が光を遮断する場合には、蒲鉾状画線(11)との明暗差も生じる。
【0049】
以上の潜像(T)が視認できる原理によって、図2(a)及び図15に示す観察条件から図2(e)の観察状態へ、徐々に潜像印刷物(1)を傾けて観察すると、「花びら」の潜像(T)もまた、図2に示す潜像(T2)から潜像(T4)を経由して右端まで移動する。また、図2(e)の観察状態から、更に図2(g)の観察状態へ徐々に潜像印刷物(1)を傾けて観察すると、「花びら」の潜像(T)は、右端から左端まで移動し元の位置に戻る。なお、左端から右端に移動する潜像(T)に対応した第1の潜像画像(30)は、五つの潜像画像(30A、30B、30C、30D、30E)から構成され、右端から左端に移動する潜像(T)に対応した第2の潜像画像(40)は、二つの潜像画像(40A、40B)から構成されることから、図2に示すように、視認される潜像(T)は、左端から右端の移動にかけて五つの潜像が視認され、右端から左端の移動にかけて二つの潜像が視認される。
【0050】
図26において説明した引用文献2の印刷物は、潜像(S)が左端から右端へ移動するまでに、四つの潜像(S1からS4まで)によって徐々に移動することに対して、本発明の潜像印刷物(1)は、潜像(T)が左端から右端へ移動するまでに、五つの潜像(T1からT5まで)によって徐々に移動する、すなわち、隣同士の潜像の移動量が小さいことから、仮に、潜像要素のサンプリングされる範囲が広くなったとしても、従来の印刷物よりも潜像(T)が不鮮明になり難いという効果がある。
【0051】
引用文献2の印刷物は、前述のように、蒲鉾状画線の上に形成された隣同士の潜像画線が干渉することで、潜像画像の解像度が低下する問題があった。銀行券、有価証券等のセキュリティ印刷物において、真偽判別や偽造防止技術の用途として施される特許文献1及び特許文献2の技術は、まず、正反射光下で観察した際に鮮明な潜像が出現されることが重要であり、潜像を認識した後、更に傾けることで潜像の変化を視認することとなるが、はじめから潜像が認識し難いと、その後に、傾けて認証する動作が行われなくなってしまう。そこで、本発明は、正反射光下の観察で、はじめに潜像(T)を視認する特定の観察条件(本実施の形態では、図2(a)から図2(e)までの観察状態のいずれか)において、視認性が向上した潜像(T)が視認できることで、観察者の注意を引き、更に、傾けて観察することで、往復移動する効果が生じ、かつ、蒲鉾状画線群(10)と潜像画像(20)の刷り合わせのずれにも対応することが可能な潜像印刷物(1)としたものである。
【0052】
本実施の形態では、潜像(T)が七つの異なる位置で変化して視認できる潜像印刷物(1)の例について説明したが、本発明において、潜像(T)の数はこれに限定されるものではなく、更に第1の潜像画像(30)及び第2の潜像画像(40)を構成する潜像画像の数を増やすことで、よりスムーズに潜像(T)が移動する構成とすることができる。ただし、これまで説明したように、潜像(T)の移動量は同じであるが、移動の折り返しまでの潜像(T)の数と、折り返し後の潜像(T)の数を異ならせた潜像画像(20)の構成とする必要がある。なお、図2に示す効果の潜像印刷物(1)の例に対して、更に多くの潜像(T)が視認できる構成の一例については、実施例1で説明する。
【0053】
(移動の例)
以上に説明した潜像印刷物(1)においては、観察角度の変化によって、潜像(T)が左端から右端に直線上に移動する例について説明したが、本発明において、潜像(T)の移動の仕方は、これに限定されるものではない。例えば、上下方向に反復移動してもよいし、斜め方向に反復移動してもよい(図示せず)。また、直線上の移動に限定されものではなく、図16(a)に示す曲線上の移動でもよいし、図16(b)に示すように、部分的に方向が異なる直線上の移動でもよい。また、これまでに説明した移動の例を組み合わせた移動でもよい。いずれにしても、潜像(T)が一端から他端に移動した後、一端から他端に移動する仮想線(L)上を、他端から一端へ移動する潜像(T)に対応した潜像画像(20)の構成とし、かつ、潜像(T)の折り返しの前後で、潜像(T)の数を異ならせた潜像画像(20)の構成とする。
【0054】
(潜像の変形の例)
本発明の潜像印刷物(1)は、潜像(T)が移動して視認される効果に限定されず、潜像(T)が回転してもよい。図17は、回転して視認できる潜像(T)の一例を示す図であり、図17(a)から図17(e)までにかけて「顔画像」の潜像(T)が、反時計回りに回転し、図17(e)から図17(g)までにかけて時計回りに回転して、元の潜像(T)に戻るように変化する例である。この場合、図17(a)に示す潜像(T1)に対応した第1-1の潜像画像(30A)から、図17(e)に示す潜像(T5)に対応した第1-5の潜像画像(30E)まで回転する規則に対して、図17(f)に示す潜像(T6)に対応した第2-1の潜像画像(40A)と図17(g)に示す潜像(T7)に対応した第2-2の潜像画像(40B)は、逆の規則で回転した構成とする。
【0055】
この場合、図18(a)に示すように、第1-1の潜像画像(30A)の図柄である「顔画像」の中心の位置(O)を軸として、「顔画像」が一定の回転方向に回転し、「顔画像」の所定の位置、例えば、頂点(P)の位置は、中心の位置(O)までの距離を半径とする仮想の円(L)の上を一定の回転方向(図18(a)では反時計周り)に移動する。なお、図18(a)に示す符号(K1からK5まで)は、潜像(T1からT5まで)に対応した、「顔画像」の頂点(P)の位置を示したものである。図18(a)において、各潜像画像の頂点(P)の位置(K1からK5まで)は、等間隔に離れた例であるが、図18(b)に示すように、一定の回転方向に移動する構成であれば、各潜像画像の間隔が異なっていてもよい。
【0056】
これに対して、第2-1の潜像画像(40A)と第2-2の潜像画像(40B)が回転する逆の規則とは、図19(a)に示すように、同じ「顔画像」の中心の位置(O)を軸として逆の回転方向(図19(a)では時計周り)に回転することである。これによって、「顔画像」の所定の位置である頂点(P)の位置は、同じ仮想の円(L)の上を逆の回転方向に移動する。図19(a)において、各潜像画像の頂点(P)の位置(k1、k2)は、等間隔に離れた例であり、第2-1の潜像画像(40A)の頂点(P)の位置(k1)は、図18(a)に示す第1-3の潜像画像(30C)の頂点(P)の位置(K3)と同じ位置であるが、図19(b)に示すように、一定の回転方向に移動する構成であれば、各潜像画像の間隔が異なっていてもよい。
【0057】
以上の規則性がある各潜像画像に対応して、「顔画像」が反時計周りと、時計周りに回転する基画像(図示せず)を用意して、前述した方法と同様にして、潜像画像(20)を形成すればよい。
【0058】
図17から図19までに示す潜像画像は、「顔画像」の中心の位置(O)を軸として、回転する例であるが、回転の軸の位置を異ならせることで、図20(a)から図20(g)までに示すように、潜像(T)が回転する効果を得ることもできる。
【0059】
また、観察角度の変化によって、潜像(T)の形状が徐々に異なる構成としてもよく、図21は、拡大と縮小の効果が視認できる潜像(T)の一例を示す図であり、図21(a)から図21(e)までにかけて潜像(T)が拡大し、図21(e)から図21(g)までにかけて潜像(T)が縮小して、元の潜像(T)に戻るように変化する例である。この場合、図21(a)に示す潜像(T1)に対応した第1-1の潜像画像(30A)から、図21(e)に示す潜像(T5)に対応した第1-5の潜像画像(30E)まで拡大する規則に対して、図21(f)に示す潜像(T6)に対応した第2-1の潜像画像(40A)と、図21(g)に示す潜像(T7)に対応した第2-2の潜像画像(40B)は、逆の規則で縮小した構成とする。
【0060】
図22(a)は、図21(a)に示す潜像(T1)に対応した第1-1の潜像画像(30A)から、図21(e)までに示す潜像(T5)に対応した第1-5の潜像画像(30E)まで拡大する規則について説明する図であり、この場合、「顔画像」の所定の位置、例えば、頂点(P)の位置は、拡大する方向の仮想線(L)上にずれて配置される。図22(a)において、各潜像画像の頂点(P)の位置は、等間隔に離れて拡大された例であるが、一定の方向に拡大される構成であれば、各潜像画像の間隔が異なっていてもよい(図示せず)。
【0061】
これに対して、第2-1の潜像画像(40A)と第2-2の潜像画像(40B)が縮小する逆の規則とは、図22(b)に示すように、同じ「顔画像」の頂点(P)の位置が、拡大する方向の仮想線(L)上を逆の方向にずれて配置されることである。図22(b)において、各潜像画像の頂点(P)の位置は、等間隔に離れて縮小された例であり、第2-1の潜像画像(40A)の頂点(P)の位置は、図22(a)に示す第1-3の潜像画像(30C)の頂点(P)の位置と同じ位置であるが、一定の方向に縮小される構成であれば、各潜像画像の間隔が異なっていてもよい(図示せず)。
【0062】
以上の規則性がある各潜像画像に対応して、「顔画像」が拡大と縮小する基画像(図示せず)を用意して、前述した方法と同様にして、潜像画像(20)を形成すればよい。
【0063】
また、潜像(T)の形状が徐々に異なる構成の別の例として、図23に示すように、潜像(T)の図柄の一部が徐々に変化する構成としてもよい。図23は、図柄の一部が徐々に変化する潜像(T)の一例を示す図であり、「三角形」の図形の潜像(T)において、図23(a)から図23(e)までにかけて、底辺は一定で変化することなく、高さが大きくなって形状が変化し、図23(e)から図23(g)までにかけて「三角形」の図形が元の形状に戻るように変化する例である。
【0064】
図23(a)から図23(g)までに示すような潜像(T)が変化する場合においても、図23(a)に示す潜像(T1)に対応した第1-1の潜像画像(30A)から図23(e)までに示す潜像(T5)に対応した第1-5の潜像画像(30E)に変化する規則に対して、図23(f)に示す潜像(T6)対応した第2-1の潜像画像(40A)と図23(g)に示す潜像(T7)に対応した第2-2の潜像画像(40B)は、逆の規則で変化する構成とする。
【0065】
図24(a)は、図23(a)に示す潜像(T1)に対応した第1-1の潜像画像(30A)から、図23(e)までに示す潜像(T5)に対応した第1-5の潜像画像(30E)まで変化する規則について説明する図であり、「三角形」の所定の位置、例えば、頂点(P)の位置は、潜像(T)の図柄である「三角形」の高さが大きくなる方向の仮想線(L)上にずれて配置される。これに対して、第2-1の潜像画像(40A)と第2-2の潜像画像(40B)は、図24(b)に示すように、逆の規則で仮想線(L)を逆の方向にずれて配置される。図24(b)において、各潜像画像の頂点(P)の位置は、等間隔にずれて配置された例であるが、一定の方向にずれて配置される構成であれば、各潜像画像の間隔が異なっていてもよい(図示せず)。なお、実際には、「三角形」の図形を構成する各位置において、第1-1の潜像画像(30A)から第1-5の潜像画像(30E)まで変化する仮想線があるが、説明を簡易にするため、図24では、「三角形」の所定の位置(P)のみを説明している。
【0066】
以上の規則性がある各潜像画像に対応して、「三角形」の図形が変化する基画像(図示せず)を用意して、前述した方法と同様にして、潜像画像(20)を形成すればよい。
【0067】
本実施の形態では、蒲鉾状画線群(10)の上に潜像画像(20)が積層された潜像印刷物(1)について説明したが、本発明の潜像印刷物(1)は、特開2016-203458号公報に記載の光反射層を蒲鉾状画線群(10)の下に備えてもよい。また、本発明の蒲鉾状画線群は、特開2016-221888号公報に記載の蒲鉾状画線群の上に反射層が積層された反射性蒲鉾状画線群の構成であってもよく、その上に、本発明の潜像画像(10)を積層してもよい。
【0068】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
実施例1は、潜像(T)の図柄を「A」の文字とし、傾けて観察する角度の変化によって、潜像(T)が往復移動して視認できる潜像印刷物(1)である。実施例1の潜像印刷物(1)の詳細について説明する。
【0070】
基材(2)は、表面光沢度が、光沢度計(BYK製_マイクロトリグロス)にて85°光沢度が8.2であり、Beck式平滑性が、145秒である上質紙を用いた。
【0071】
基材(2)の上に形成する蒲鉾状画線(11)を形成するインキは、30℃において粘度が1.0Pa・sの紫外線硬化樹脂に、インキ全量中にアルミベースの金属反射顔料(Cosmicolor Celeste Frost Silver 東洋アルミニウム製)を6重量%配合したインキを用い、スクリーン印刷により印刷した。スクリーン印刷した後、UV照射(メタルハライドランプ)で硬化させて蒲鉾状画線群(10)を作製した。なお、蒲鉾状画線(11)の第1の画線幅(W1)を400μmとし、第1のピッチ(P1)を525μmとして、複数の蒲鉾状画線(11)を形成した。得られた蒲鉾状画線(11)の盛り上がりの高さ(H)は20μmであった。
【0072】
潜像像画像(20)の構成について、図27を用いて説明する。図27(a)は、実施例1の潜像画像(20)を構成する第1の潜像画像(30)の構成を示す図であり、図27(b)は、第2の潜像画像(40)の構成を示す図である。図27(a)に示すように、第1の潜像画像(30)は、第1-1の潜像画像(30-1)から第1-18の潜像画像(30-18)までによって構成され、18個の潜像画像によって、「A」の文字が左端から右端へ8mm移動する構成とした。また、図27(b)に示すように、第2の潜像画像(40)は、第2-1の潜像画像(40-1)から第2-12の潜像画像(40-12)までによって構成され、12個の潜像画像によって、「A」の文字が右端から左端へ8mm移動する構成とした。
【0073】
第1の潜像画像(30)及び第2の潜像画像(40)に対応した基画像は、イラストレータ(Illustrater CS6 Adobe社製)を用いて作成し、作成した基画像をマスク処理により所定の形状で分割して、各潜像画像に対応した複数の画線を得た。なお、第1の画線幅(W1)が400μmである蒲鉾状画線(11)に、最大で30個の潜像画線を形成する必要があることから、基画像を分割した画線の幅(W2)は、12μmとした。
【0074】
得られた複数の画線のデータを出力してオフセット版面を作製し、オフセット印刷方式により蒲鉾状画線(11)の上に印刷することで、実施例1の潜像印刷物(1)を作製した。なお、潜像画像(20)を形成するインキは、紫外線硬化型インキ(UVカートンL白_T&K製)を用いた。
【0075】
以上の構成で成る実施例1の潜像印刷物(1)を正反射光下で徐々に傾けて観察すると、図27(a)に示す第1-1の潜像画像(30-1)から第1-18の潜像画像(30-18)までによる「A」の文字の潜像(T)が鮮明に視認でき、第2-1の潜像画像(40-1)から第2-12の潜像画像(40-12)までによる潜像(T)によって、「A」の文字である潜像(T)が往復移動して視認された。
【0076】
(実施例2、実施例3、実施例4)
実施例2から実施例4は、実施例1の潜像印刷物(1)に対して、第1の潜像画像(30)と第2の潜像画像(40)の割合が異なる例であり、「A」の文字が移動する距離は同じであるが、左端から右端に移動する潜像画像と、右端から左端に移動する潜像画像の割合が、表1のとおり異なる。なお、その他の構成については、実施例1と同じであるため説明を省略する。実施例2から実施例4までの潜像印刷物(1)においても、「A」の文字が往復移動して視認される効果が得られる中で、第1の潜像画像(30)による潜像「T」が、鮮明に視認できる効果が得られた。
【0077】
実施例2から4までの潜像印刷物(1)は、第1の潜像画像(30)を構成する潜像画像の数が、実施例1よりも多い構成であり、第1の潜像画像(30)による左端から右端に移動する潜像(T)は、実施例1よりも、更に、鮮明であり、実施例4が最も鮮明に視認できた。その一方で、実施例4の潜像印刷物(1)は、第2の潜像画像(40)を構成する潜像画像の数が小さくなることで、左右に反復移動する潜像(T)の折り返しの付近の観察角度で、潜像(T)の鮮明度がわずかに低下する現象が見られた。
【0078】
【表1】
【符号の説明】
【0079】
1 潜像印刷物
2 基材
10 蒲鉾状画線群
11 蒲鉾状画線
20 潜像画像
30 第1の潜像画像
31 第1の潜像画線
40 第2の潜像画像
41 第2の潜像画線
T 潜像
R 潜像(特許文献1)
S 潜像(特許文献2)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図27