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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】すき入れ紙及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/40 20060101AFI20220104BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20220104BHJP
   D21H 21/50 20060101ALI20220104BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220104BHJP
   B42D 25/333 20140101ALI20220104BHJP
【FI】
D21H21/40
D21H11/18
D21H21/50 B
B41J2/01 501
B42D25/333
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018155422
(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2020029632
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】奥田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 靖
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087256(JP,A)
【文献】特開2018-087386(JP,A)
【文献】特開2015-209609(JP,A)
【文献】特開2016-056465(JP,A)
【文献】特開2005-171429(JP,A)
【文献】特開2012-021235(JP,A)
【文献】特開2016-216851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
B41J2/01-2/215
B42D15/02-25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基材の少なくとも一部に、セルロース微小繊維が複数結合した中に、前記セルロース微小繊維よりも光透過性の低い材料を含有し、かつ、前記基材と等色の粒子状セルロース複合体により形成された第1のすき入れ模様であって、
前記第1のすき入れ模様は、光透過性が異なる少なくとも二つの前記粒子状セルロース複合体から成り、
前記粒子状セルロース複合体の積層厚み(H)が100μm以下であり、部分的に光透過性が異なる階調を有して成ることを特徴とするすき入れ紙。
【請求項2】
セルロース微小繊維が複数結合した中に、前記セルロース微小繊維よりも光透過性の低い材料を含有し、かつ、基材と等色の粒子状セルロース複合体と、水を少なくとも混合した分散液を、光透過性を有する前記基材に付与して第1のすき入れ模様を備えたすき入れ紙を作製する方法であって、
前記光透過性が異なる少なくとも二つの前記粒子状セルロース複合体を用いた、少なくとも二種類の分散液を構成する材料の選定及び配合の設計と、
前記少なくとも二種類の分散液を前記基材に付与して前記第1のすき入れ模様を形成するための条件を設定する分散液付与条件設定工程と、
前記分散液付与条件設定工程により設定された条件を基に、前記光透過性が異なる少なくとも二つの前記粒子状セルロース複合体と、水を少なくとも混合して前記少なくとも二種類の分散液を作製する分散液作製工程と、
前記分散液付与条件設定工程により設定された条件を基に、前記少なくとも二種類の分散液を前記基材に所定の手段により、前記粒子状セルロース複合体の積層厚み(H)が100μm以下となるように付与して、部分的に光透過性が異なる階調を有する前記第1のすき入れ模様を形成する分散液付与工程を有して成ることを特徴とするすき入れ紙の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野、さらには、意匠性を有する各種美術品等を含め、すき入れ模様を施したすき入れ紙及びその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンター、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのため、前述したような複製及び偽造を防止するため、プリンター及びコピー機では再現不可能な様々な偽造防止技術が必要とされている。
【0003】
この偽造防止技術の一つとして、用紙の粗密及び薄厚によって模様を形成して透過光下で視認させる、いわゆるすき入れ技術が存在する。このすき入れ技術は、一定量以上の光さえ存在すれば、あらゆる環境下で真偽判別が可能な技術であり、また、知名度も抜群に高いことから、古くから存在する古典的な技術であるにもかかわらず、今なお世界中の銀行券で用いられている。
【0004】
このような環境下において、古くから知名度の高い前述のようなすき入れ技術に加え、本出願人は、近年注目されているセルロース微小繊維を用い、懸濁液化したセルロース微小繊維を湿紙、乾紙を問わず用紙に印刷することで形成した透かしを有する用紙を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
なお、本明細書中では、用紙に抄紙機を用いて施すことを「すき入れ」と言い、それ以外の印刷又は加工により施すことを「透かし」と言う。また、「すき入れ」及び「透かし」が施された紙を総称して「すき入れ紙」と言い、本発明により形成された模様を「すき入れ模様」、さらには、本発明の効果を「すき入れ効果」と言う。
【0006】
特許文献1の用紙は、従来の透かしインキによって透かしを形成した場合に、インキに含まれるワニスによる光沢が反射光下でも見えてしまうことを課題としたもので、従来の透かし技術によって形成した第1の透かし部の一部に、第1の透かし部と等色のセルロース微小繊維によって形成された第2の透かし部を積層して成る構成である。第2の透かし部は、セルロース微小繊維が積層された分、透過する光を遮蔽することで、第1の透かし部より暗く視認される「黒透かし」の効果があり、他方の第1の透かし部は、明るく視認される「白透かし」の効果が得られる。
【0007】
一方、本出願人は、特許文献1の技術のように、懸濁液化したセルロース微小繊維を用紙に付与するだけでなく、セルロース微小繊維が繊維質の物品、例えば、紙、不織布等と親和性が高いことを利用して、物品に消臭、芳香、着色等を目的とした様々な機能性材料を、接着剤を用いることなく付与する技術を提案している(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2の技術は、複数のセルロース微小繊維が粒子状に結合した複合体と、当該複合体を含有した用紙であって、複合体に所望とする機能性材料を含有させることで、様々な機能性のある用紙が得られるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6216971号公報
【文献】特開2018-87256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の透かしを有する用紙は、セルロース微小繊維自体の光透過性が高く、第1の透かし部に対してコントラストのある「黒透かし」を形成するためには、付与するセルロース微小繊維の膜厚を厚くする必要があるが、セルロース微小繊維の膜厚を厚くすると、凹凸差によって反射光下でも第2の透かし部が視認されてしまうという問題が生じる。また、特に前述した貴重印刷物においては、流通過程での耐久性や取扱性も必要であり、膜厚が厚くなるほど、それらが低下するという問題があった。このため、セルロース微小繊維によって形成された透かしの膜厚が薄くても、コントラストのある透かしを形成できる技術が望まれていた。
【0010】
また、特許文献2の複合体を用いた用紙は、所望とする機能性材料を複合体に含有させることで、様々な機能性のある用紙が得られるものであるが、透かしを形成することの具体的な記載はされていない。
【0011】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、基材に付与するセルロース微小繊維の膜厚が薄くても、コントラストのある透かしを形成することができるすき入れ紙及びその作製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、光透過性を有する基材の少なくとも一部に、セルロース微小繊維が複数結合した中に、セルロース微小繊維よりも光透過性の低い材料を含有し、かつ、基材と等色の粒子状セルロース複合体により、第1のすき入れ模様が形成されたことを特徴とするすき入れ紙である。
【0013】
また、本発明のすき入れ紙は、第1のすき入れ模様が、A)粒子状セルロース複合体の積層厚みが部分的に異なる構成、又は、B)粒子状セルロース複合体の所定の範囲内における面積率が部分的に異なる構成、又は、C)光透過性が異なる少なくとも二つの粒子状セルロース複合体から成る構成、のうち、少なくとも一つの構成を有することで、部分的に光透過性が異なる階調を有して成ることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のすき入れ紙は、基材に、基材より光透過性の高い第2のすき入れ模様が、第1のすき入れ模様と重なる又は隣接する位置に形成されたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明のすき入れ紙は、基材が、水素結合を形成できる官能基を有する紙、合成繊維又は不織布であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のすき入れ紙は、第1のすき入れ模様の少なくとも一部が、機械読取可能な材料を含有した粒子状セルロース複合体によって形成されたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明のすき入れ紙の作製方法は、セルロース微小繊維が複数結合した中に、セルロース微小繊維よりも光透過性の低い材料を含有し、かつ、基材と等色の粒子状セルロース複合体と、水を少なくとも混合した分散液を、光透過性を有する基材に付与して第1のすき入れ模様を備えたすき入れ紙を作製する方法であって、粒子状セルロース複合体の分散液を構成する材料の選定及び配合の設計と、粒子状セルロース複合体の分散液を基材に付与して第1のすき入れ模様を形成するための条件を設定する分散液付与条件設定工程と、分散液付与条件設定工程により設定された条件を基に、粒子状セルロース複合体と、水を少なくとも混合して粒子状セルロース複合体の分散液を作製する分散液作製工程と、分散液付与条件設定工程により設定された条件を基に、粒子状セルロース複合体の分散液を基材に付与する分散液付与工程を有して成ることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のすき入れ紙の作製方法は、分散液付与条件設定工程により、分散液作製工程で用いる光透過性が異なる少なくとも二つの粒子状セルロース複合体の選定及び光透過性が異なる少なくとも二つの粒子状セルロース複合体の分散液を構成する材料の選定及び配合の設計と、光透過性が異なる少なくとも二つの粒子状セルロース複合体の分散液を基材に付与して第1のすき入れ模様を形成するための条件を設定し、分散液作製工程により、分散液付与条件設定工程により設定された条件を基に、光透過性が異なる少なくとも二つの粒子状セルロース複合体の分散液を作製し、分散液付与工程により、分散液付与条件設定工程により設定された条件を基に、光透過性が異なる少なくとも二つの粒子状セルロース複合体の分散液を基材に付与して第1のすき入れ模様を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のすき入れ紙は、セルロース微小繊維よりも光透過性の低い機能性材料を含む粒子状セルロース複合体により第1のすき入れ模様が形成されることから、第1のすき入れ模様の膜厚が薄くてもコントラストの高いすき入れ模様となる。
【0020】
また、本発明のすき入れ紙の作製方法によれば、セルロース微小繊維よりも光透過性の低い機能性材料を含む粒子状セルロース複合体により第1のすき入れ模様を形成することで、第1のすき入れ模様の膜厚が薄くてもコントラストの高い透かしを形成することができる。
【0021】
また、光透過性が異なる粒子状セルロース複合体を用いたすき入れ紙の作製方法と、当該方法によって作製されたすき入れ紙は、階調表現が豊かな第1のすき入れ模様を形成できるとともに、薄型化による流通適性の向上が図れる。また、1種類の粒子状セルロース複合体を用いるすき入れ紙の作製方法よりも作製時間の短縮が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のすき入れ紙の概要を示す図である。
図2】粒子状セルロース複合体の構成を示す図である。
図3】階調のある第1のすき入れ模様の構成を示す図である。
図4】階調のある第1のすき入れ模様の別の構成を示す図である。
図5】白すかしの効果がある第2のすき入れ模様の構成を示す図である。
図6】第1のすき入れ模様と第2のすき入れ模様が形成されたすき入れ紙の構成を示す図である。
図7】第1のすき入れ模様と第2のすき入れ模様が形成されたすき入れ紙の別の構成を示す図である。
図8】本発明のすき入れ紙の作製方法を説明する図である。
図9】第2の作製方法によって形成された第1のすき入れ模様の構成を示す図である。
図10】第2の作製方法によって形成された第1のすき入れ模様の別の構成を示す図である。
図11】実施例3の第1のすき入れ模様の構成を示す図である。
図12】実施例3のすき入れ紙を作製するためのインクジェット印刷機を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0024】
(すき入れ紙)
図1(a)は、本発明のすき入れ紙(1)の構成を示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA-A’線における断面図である。図1(a)に示すように、すき入れ紙(1)は、基材(2)の少なくとも一部に、透過光下において視認可能な第1のすき入れ模様(10)を有し、第1のすき入れ模様(10)は、図1(b)に示すように、基材(2)の上に粒子状セルロース複合体(11)が積層されることで形成される。図1において、第1のすき入れ模様(10)は、「花」の模様の例であるが、本発明において第1のすき入れ模様(10)は、これに限定されるものではなく、人物、建造物、風景、イラスト、文字、図形等の模様であってもよい。はじめに、基材(2)の上に粒子状セルロース複合体(11)が一定の積層厚み(H)で付与されて、一様な明るさのすき入れ模様が視認できる例について説明する。
【0025】
(基材)
本発明において基材(2)は、光を透過する特性、いわゆる光透過性を有する必要がある。基材(2)は、光透過性を有するシート状のものであれば、紙、合成繊維紙や不織布、フィルム等、特に限定はなく、光透過性のあるプラスチックでも同様の効果が得られる。なお、基材(2)の色彩については、特に制約はない。
【0026】
基材(2)の具体例としては、針葉樹、広葉樹等の木材繊維、ケナフ、バガス、麻、アバカ、木綿、みつまた、こうぞ、わら、竹等の非木材繊維から成る紙、レーヨン等の再生繊維、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリスチレン、PET、ポリオレフィン系等の合成繊維から成る合成繊維紙又は不織布等がある。
【0027】
特に、木材や非木材繊維から成る紙、水素結合を形成できる官能基を持つ合成繊維からなる合成繊維紙又は不織布が好ましい。これは、水素結合を形成できる官能基を持つ基材(2)に、粒子状セルロース複合体(11)を水に分散させた分散液を付与すると、基材(2)を構成する繊維によって粒子状セルロース複合体(11)が保持されるだけでなく、水素結合により粒子状セルロース複合体(11)が、基材(2)上に強固に定着するためである。
【0028】
なお、水素結合を形成できる官能基を持たない合成繊維から成る合成繊維紙や不織布、フィルム等のシート状の基材(2)や、水素結合をしないプラスチック繊維やガラス繊維が入った基材(2)であっても、粒子状セルロース複合体(11)の分散液に少量のバインダー成分を配合して、粒子状セルロース複合体(11)を基材(2)上に定着することができれば、使用することができる。ただし、この際、乾燥後固化したバインダーの光沢が、反射光下で視認できない程度の量とする。
【0029】
(粒子状セルロース複合体)
粒子状セルロース複合体(11)は、前述した引用文献2に記載の構成であって、図2に示すように、複数のセルロース微小繊維(12)が粒子状に塊となった中に、機能性材料(13)が含有された構成である。なお、粒子状セルロース複合体(11)の詳細な構成及び粒子状セルロース複合体(11)の作製方法は、特開2018-87256号公報に記載されており、セルロース微小繊維、水及び1種類以上の機能性材料を混合した懸濁液をスプレードライ装置による噴霧乾燥法により加工されたものである。
【0030】
本発明において、粒子状セルロース複合体(11)に含有される機能性材料(13)は、第1のすき入れ模様(10)を形成するため、セルロース微小繊維(12)より光透過性が低い材料、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム等の製紙用のてん料を用いる。前述した粒子状セルロース複合体(11)の作製方法により、粒子状セルロース複合体(11)の粒子直径は、てん料やセルロース微小繊維(12)の大きさにもよるが、0.1μm~30μmまでの範囲で作製可能である。ただし、粒子状セルロース複合体(11)中のてん料の配合が増えるとセルロース微小繊維(12)の結合が弱くなり、水等に分散させたとき、セルロース微小繊維(12)とてん料が分離する可能性がある。そのため、粒子状セルロース複合体(11)を水分散液として付与するには、てん料の配合は30wt%以下が好ましい。なお、セルロース微小繊維(12)より光透過性が低い材料として、着色顔料や、金属顔料を用いてもよく、粒子状セルロース複合体(11)中に、30wt%以下の配合で用いることが好ましい。
【0031】
本発明において、セルロース微小繊維(12)は、主としてセルロースから成る繊維であり、天然繊維を繊維幅が2nm~10μm、好ましくは2nm~1μmまでの範囲に解繊したものである。天然繊維は、各種木材を原料とするLBKP、NBKP、SP、LUKP、NUKP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプ等、更に稲わら、麦わら、アバカ、木綿、ケナフ、みつまた、竹、バガス、麻等の非木材繊維を蒸解処理、必要に応じて漂白処理、精選処理等により作製した非木材パルプのことであり、これらの繊維を単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。天然繊維の繊維長、繊維幅等の繊維形態は、特に限定するものではない。
【0032】
本発明において、第1のすき入れ模様(10)が反射光下で視認されないために、第1のすき入れ模様(10)を構成する粒子状セルロース複合体(11)は、基材(2)と等色のものを用いる。基材(2)と等色の粒子状セルロース複合体(11)の具体的な構成として、粒子状セルロース複合体(11)は、内部の機能性材料(13)を覆うセルロース微小繊維(12)が、表面に位置していることから、セルロース微小繊維(12)の色が基材(2)の色と等色であればよい。セルロース微小繊維(12)自体の色は、白色や黄白色のような原材料のパルプの色であり、粒子状セルロース複合体(11)に用いるセルロース微小繊維(12)が、基材(2)と同じ色の場合は、そのまま複合体化すればよい。また、セルロース微小繊維(12)が基材(2)と異なる色の場合は、基材(2)と同じ色に着色したセルロース微小繊維(12)を用いてもよいし、機能性材料(13)とは別に、着色顔料や着色染料を加えて、基材(2)と等色に複合体化された粒子状セルロース複合体(11)を用いればよい。
【0033】
(粒子状セルロース複合体の分散液)
以上の構成で成る粒子状セルロース複合体(11)は、前述のように、水に分散させて基材(2)に付与する。なお、粒子状セルロース複合体(11)と水の分散液に、分散剤や水溶性高分子、有機溶媒、あるいは粉末や微粒子等を加えることも可能である。分散液中の粒子状セルロース複合体(11)は、後述する分散液を塗布する装置において、安定した分散状態が確保できればよく、仮に、インクジェット印刷機又はエアブラシ装置を用いる場合は、固形分濃度0.5%~3%程度の使用が好ましく、フレキソ印刷装置を用いる場合は、固形分濃度0.5%~30%程度の使用が好ましい。ただし、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を攪拌する装置により、粒子状セルロース複合体(11)が沈殿する問題が回避できれば、この範囲に限定されるものではない。また、固形分濃度が0.5%未満の低濃度になると、十分なすき入れ効果が得られなくなるため好ましくない。
【0034】
粒子状セルロース複合体(11)の分散液を基材(2)に付与する方法としては、フレキソ印刷装置、インクジェット印刷機、エアブラシ装置等があり、所定の装置によって基材(2)に付与することで、第1のすき入れ模様(10)を形成する。前述のように、水素結合を形成できる官能基を持つ基材(2)の場合、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与することで、基材(2)を構成する繊維と、粒子状セルロース複合体(11)を構成するセルロース微小繊維(12)の水素結合により、粒子状セルロース複合体(11)が基材(2)上に強固に定着することから好ましい。
【0035】
なお、粒子状セルロース複合体(11)と基材(2)が水素結合するためには水が必要であり、基材(2)に含まれる水分が多いほど水素結合が強くなる(水素結合の起こる割合が多い。)。このため、紙や不織布を製造する抄紙機の乾燥工程の前(本発明では「湿紙」という。)に、例えば、水分が20%~90%の状態の基材(2)に、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与することが好ましい。基材(2)の水分の調整は、抄紙機のワイヤー上での脱水や、抄紙機上でプレスロールや吸引装置により脱水する条件を調整することで可能である。一方、水分が20%未満の基材(2)や、乾燥工程後(本発明では「乾紙」という。)の10%未満の基材(2)の場合、水素結合の起こる割合が少なくなり好ましくないが、このような基材(2)であっても、水を含浸させたり吹き付けたりすることで、所望の水分を付与することが可能である。
【0036】
また、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与する基材(2)は、水素結合を形成できる官能基を持たない合成繊維から成る合成繊維紙や不織布、フィルム等の基材(2)又は水素結合を形成できる官能基を持ち、水分が20%未満の基材(2)であっても、粒子状セルロース複合体(11)の分散液に少量のバインダー成分を配合することで、付与することができる。
【0037】
粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)は、用いる粒子状セルロース複合体(11)の粒子の大きさによるが、図1(b)に示すように、少なくとも1層の粒子状セルロース複合体(11)を付与することで、第1のすき入れ模様(10)を形成することができる。なお、粒子状セルロース複合体(11)の粒子の大きさは、直径0.1μm~30μmまでの範囲で作製することができる。
【0038】
仮に、図1(b)に示す1層の粒子状セルロース複合体(11)が付与される場合において、粒子状セルロース複合体(11)が基材(2)を隙間なく埋めると最もコントラストが得られる一方で、基材(2)を埋める面積が小さくなるほど、基材(2)とのコントラストが低くなることから、所望とする第1のすき入れ模様(11)のコントラストに応じて、単位面積当たりに付与する粒子状セルロース複合体(11)の量を調整すればよい。
【0039】
また、図1(b)に示す構成とは異なり、粒子状セルロース複合体(11)を重ねて付与することもでき、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)が厚いほど、基材(2)とのコントラストの高い第1のすき入れ模様(10)を形成することができる。なお、第1のすき入れ模様(10)が反射光下で視認できない範囲であれば、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)は、特に限定はないが、耐摩耗性や流通適性を考慮すると、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)は、100μm以下とすることが好ましい。
【0040】
いずれにしても、本発明の第1のすき入れ模様(10)は、セルロース微小繊維(12)より光透過性の低い機能性材料(13)を含んでいることから、特許文献1の技術と同じ付与量(積層厚み)のすき入れ模様を形成したとしても、本発明の第1のすき入れ模様(11)の方がコントラストが高いとともに、同じコントラストがあるすき入れ模様であっても、より薄い構成で実現でき、耐久性や流通適性が向上するという効果がある。
【0041】
前述した、機能性材料(13)として用いるてん料や顔料は、従来、ワニス、接着剤等を用いなければ基材(2)に付与することができなかったが、粒子状セルロース複合体(11)は、ほとんどがセルロース微小繊維(12)により形成されていることから、天然繊維を用いた用紙や、化学繊維を用いた製品等への親和性が強固であり、接着剤を特に用いなくても機能性材料(13)を付与することが可能となる。
【0042】
(効果)
以上の構成で成るすき入れ紙(1)の第1のすき入れ模様(10)を反射光下で観察すると、基材(2)と等色の粒子状セルロース複合体(12)によって形成された第1のすき入れ模様(10)は視認されないが、透過光下で観察すると、粒子状セルロース複合体(11)が付与されることで、基材(2)よりも透過する光が少ないことから、暗く視認され「黒透かし」の効果が得られる。
【0043】
(第1のすき入れ模様が階調画像の構成)
図1に示す、第1のすき入れ模様(10)は、明るさが一様な模様が形成された例であるが、第1のすき入れ模様(10)において、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)や、所定の範囲内での面積率を部分的に異ならせることで、階調のある模様を形成することもできる。例えば、図3(a)に示す第1のすき入れ模様(10)において、明るさが異なる三つの領域(10A、10B、10C)を形成する場合、図3(a)の断面図である、図3(b)に示すように、粒子状セルロース複合体(11)によって形成する第1のすき入れ模様(10)の積層厚み(H)を異ならせて付与すればよい。なお、図3(a)に示す第1のすき入れ模様(10)は、領域(10A)、領域(10B)、領域(10C)の順に、暗く視認される例であり、それに対応して、領域(10A)の粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)、領域(10B)の粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)、領域(10C)の粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)は、領域(10A)、領域(10B)、領域(10C)の順に、厚い構成となる。
【0044】
また、所定の範囲内で面積率を部分的に異ならせる構成は、印刷網点によって濃淡を表現する方法と同様である。本発明において所定の範囲内での面積率とは、定めた単位面積当たりにおける粒子状セルロース複合体(11)が占める割合のことをいい、粒子状セルロース複合体(11)そのものの大きさではない。図4に示す第1のすき入れ模様(10)において、明るさが異なる三つの領域を形成する場合、それぞれの領域に応じた拡大図に示すように、単位面積当たりの基材(2)を覆う粒子状セルロース複合体(11)の面積を異ならせればよい。なお、図4に示す第1のすき入れ模様(10)もまた、領域(10A)、領域(10B)、領域(10C)の順に、暗く視認される例であり、それに対応して、単位面積当たりの基材(2)を覆う粒子状セルロース複合体(11)の面積率も、領域(10A)、領域(10B)、領域(10C)の順に、高い構成となる。
【0045】
また、光透過性の異なる2種類以上の粒子状セルロース複合体(11)を用いて、第1のすき入れ模様(10)を形成してもよい。光透過性の異なる粒子状セルロース複合体(11)は、例えば、スプレードライ装置による加工の際に、同じセルロース微小繊維(12)の投入量に対して、機能性材料(13)の投入量が異なる条件で作製した粒子状セルロース複合体(11)や、光透過性の異なる機能性材料(13)を投入して作製した粒子状セルロース複合体(11)のことである。
【0046】
例えば、図3(a)に示す第1のすき入れ模様(10)において、明るさが異なる三つの領域を形成する場合、最も暗い領域(10C)には、てん料の割合が最も多い複合体(具体例としては、複合体1個当たり、20wt%含有)により形成し、次に暗い領域(10B)には、てん料の割合が中間の複合体(具体例としては、複合体1個当たり、10wt%含有)により形成し、次に暗い領域(10A)には、てん料の割合が少ない複合体(具体例としては、複合体1個当たり、5wt%含有)により形成する。この際、第1のすき入れ模様(10)を構成する領域(10A、10B、10C)において、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)を同じ厚さで形成すると、粒子状セルロース複合体(11)に含まれるてん料の割合が多い領域の順に、暗く視認できる第1のすき入れ模様(10)を形成することができる。なお、以上に説明した構成を組み合わせて階調のある第1のすき入れ模様(10)を形成してもよい。
【0047】
(第2のすき入れ模様を備えるすき入れ紙)
以上に説明したすき入れ紙(1)は、粒子状セルロース複合体(11)のみで形成されたものであるが、さらに、すき入れ模様のコントラストが得られる構成とするために、基材(2)より光透過性の高い第2のすき入れ模様(20)と組み合わせた構成としてもよく、第2のすき入れ模様(20)を備えたすき入れ紙(1)の構成について以下に説明する。
【0048】
(第2のすき入れ模様)
第2のすき入れ模様(20)は、基材(2)より光透過性が高い「白透かし」の効果がある模様であり、光透過性を有する基材(2)の一部を、公知のすき入れ加工技術とされている、円網、ダンディロール、プレスロールによって形成することができる。この場合、あらかじめ、基材(2)を作製する製紙工程で加工して、第2のすき入れ模様(20)を形成した後、第1のすき入れ模様(10)を形成すればよい。また、レーザ加工により、基材(2)の一部を除去して厚みを異ならせることでも第2のすき入れ模様(20)を形成することができる。この場合、第1のすき入れ模様(10)との加工の順番の限定はない。また、基材(2)に紙を用いる場合、樹脂や油成分を含んで成り、透過光下で明るく見える透かしインキを印刷することでも第2のすき入れ模様(20)を形成することができる。
【0049】
図5(a)は、あらかじめ、製紙工程で加工した第2のすき入れ模様(20)の構成を示す平面図であり、図5(b)は、図5(a)のY-Y’線における断面図である。図5(a)に示すように、第2のすき入れ模様(20)は、基材(2)よりも明るい領域であり、図5(b)に示すように、すき入れ加工により部分的に基材(2)を構成する繊維の量又は繊維間の空隙が少ないことで、光透過性が高い領域として形成する。なお、図5に示す第2のすき入れ模様(20)は、模様全体が一定の明るさで視認できる構成であるが、部分的に厚みを異ならせることで、明暗を表現することもできる。
【0050】
図6(a)は、あらかじめ、第2のすき入れ模様(20)が形成された基材(2)に、粒子状セルロース複合体(11)によって、第1のすき入れ模様(10)が形成された本発明のすき入れ紙(1)の平面図であり、図6(b)は、図6(a)のY-Y’線における断面図である。第1のすき入れ模様(10)が形成された領域は、粒子状セルロース複合体(11)によって構成されることで光透過性が低く、第2のすき入れ模様(20)の上に、第1のすき入れ模様(10)が形成されていない領域との明暗差が生じてコントラストのあるすき入れ模様として視認することができる。なお、図6に示す第1のすき入れ模様(10)は、模様全体が一定の明るさで視認できる構成であるが、前述のように、粒子状セルロース複合体(11)による厚みを部分的に異ならせることで、明暗を表現することもできる。
【0051】
図6に示す構成は、第2のすき入れ模様(20)の上に、第1のすき入れ模様(10)が重なって形成された例であるが、図7に示すように、第2のすき入れ模様(20)に隣接して第1のすき入れ模様(10)を形成してもよい。この場合、第1のすき入れ模様(10)と第2のすき入れ模様(20)の位置合せを要するが、図6に示す第1のすき入れ模様(20)と比べて、より暗く視認できる、すなわち、高いコントラストが得られる構成である。なお、「黒透かし」の効果がある第1のすき入れ模様(10)と「白透かし」の効果がある第2のすき入れ模様(20)によって、一つの模様を表現する構成でもよい。
【0052】
図6及び図7では、「白透かし」の効果がある第2のすき入れ模様(20)と第1のすき入れ模様(10)を形成する例について説明したが、本発明の第1のすき入れ模様(10)は、公知の方法によって形成された「黒透かし」の効果があるすき入れ模様の上に形成してもよい(図示せず)。また、本発明の第1のすき入れ模様(10)は、公知の方法によって形成された「白透かし」及び「黒透かし」の効果があるすき入れ模様の一部の上に形成してもよい(図示せず)。
【0053】
(すき入れ紙の第1の作製方法)
次に、本発明のすき入れ紙(1)の第1の作製方法について説明する。図8は、本発明のすき入れ紙(1)の第1の作製方法のフロー図である。なお、図8に示すStep0は、粒子状セルロース複合体(11)の作製工程であり、本発明のすき入れ紙の作製方法は、セルロース微小繊維(12)と機能性材料(13)を、あらかじめ、スプレードライ装置により噴霧及び加熱乾燥して作製した粒子状セルロース複合体(11)を用いて、以下に説明する工程により、すき入れ紙(1)を作製する。なお、すき入れ紙(1)の第1の作製方法は、Step0により作製した1種類の粒子状セルロース複合体(11)を用いて第1のすき入れ模様(10)を形成する方法である。
【0054】
(分散液付与条件設定工程)
図8に示す分散液付与条件設定工程(Step1)は、分散液付与工程(Step3)で粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与する条件の設定を行う。具体的には、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与する基材(2)の選定として、水素結合を形成できる官能基を有するシートを基材(2)とするか又は水素結合を形成できる官能基を有さないシートを基材(2)とするかの選定と、前者の場合に、分散液を付与する際の基材(2)の水分が40%~90%の条件か、水分が20%未満の条件で付与するかの設定を行う。
【0055】
また、分散液付与条件設定工程(Step1)は、分散液作製工程(Step2)で作製する粒子状セルロース複合体(11)の分散液の条件を設定する。具体的には、分散液作製工程(Step2)で用いる粒子状セルロース複合体(11)の選定を以下のように行う。粒子状セルロース複合体作製工程(Step0)によって、あらかじめ作製される粒子状セルロース複合体は、特許文献2により公知であることから、第1のすき入れ模様(10)を基材(2)と等色に形成でき、かつ、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)を考慮して、所望とする第1のすき入れ模様(10)を形成するために必要な粒子状セルロース複合体(10)を選択する。同じ暗さの第1のすき入れ模様(10)を形成する場合であっても、用いる粒子状セルロース複合体(11)の光透過性が低いほど、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)が薄くなることから、所望とする第1のすき入れ模様(10)の暗さと、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)に応じて、粒子状セルロース複合体(11)を選定すればよい。
【0056】
また、分散液付与条件設定工程(Step1)は、選定された粒子状セルロース複合体(11)と水を混合することを必須の条件とし、必要に応じて、分散剤や水溶性高分子、有機溶媒、あるいは粉末や微粒子等の配合を設計する。また、分散液付与工程(Step3)で用いる基材(2)が、水素結合を形成できる官能基を有さないシート又は水素結合を形成できる官能基を有し、水分が20%未満のシートの場合には、少量のバインダー成分の配合を適宜設計する。また、粒子状セルロース複合体(11)の分散液の条件として、粒子状セルロース複合体(11)の固形分濃度の設計を行う。前述のように、分散液を塗布する装置において、粒子状セルロース複合体(11)の安定した分散状態が確保できればよく、仮に、インクジェット印刷機又はエアブラシ装置を用いる場合は、固形分濃度0.5%~3%程度の使用が好ましく、フレキソ印刷装置を用いる場合は、固形分濃度0.5%~30%程度の使用が好ましい。
【0057】
ただし、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を攪拌する装置により、粒子状セルロース複合体(11)が沈殿する問題が回避できれば、この範囲に限定されるものではない。また、固形分濃度が0.5%未満の低濃度になると、十分なすき入れ効果が得られなくなるため好ましくない。
【0058】
さらに分散液付与条件設定工程(Step1)は、分散液付与工程(Step3)で粒子状セルロース複合体(11)の分散液を塗布する装置の選定を行うとともに、装置に応じた設定を行う。仮に、分散液を付与する手段にフレキソ印刷機を用いる場合には、第1のすき入れ模様(10)の図柄に対応したフレキソ版面を印刷機に設ける。また、前述したインクジェット印刷機を用いる場合は、第1のすき入れ模様(10)の図柄に対応した画像データを作成し、出力用の画像データとして設定する。また、前述したエアブラシを用いる場合は、分散液の塗布する時間の設定と、第1のすき入れ模様(10)の図柄に応じたマスクを装置に設ける。これらの分散液を付与する手段のうち、インクジェット印刷機を用いることで、基材(2)ごとに第1のすき入れ模様(10)の図柄を可変情報として、容易に形成できることから好ましい。なお、第1のすき入れ模様(10)の図柄に対応した版面、マスク又は画像データの設定は、基材(2)に第1のすき入れ模様(10)を付与する位置に対応して設定する。
【0059】
また、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)を部分的に異ならせる場合、複数回に分けて前述の付与装置により分散液を付与するための設定を行えばよい。例えば、フレキソ印刷により分散液を付与する場合、積層厚み(H)を厚くする図柄に対応した別の版面を印刷機に設ける。印刷機がフレキソ印刷ユニットを複数備える場合には、積層厚み(H)が段階的に厚くなるように、それぞれのフレキソ印刷ユニットに版面を取り付ける設定を行う。また、フレキソ印刷ユニットを一つ備える印刷機の場合、積層厚み(H)が段階的に厚くなるように、版面を交換する設定を行う。エアブラシを用いる場合においても、これと同様にして、積層厚み(H)を段階的に厚くするためのマスクを作製して印刷条件として設定すればよい。インクジェット印刷機を用いる場合においても、これと同様にして、積層厚み(H)を段階的に厚くするための加工データを作成し、印刷条件として設定すればよい。
【0060】
また、インクジェット印刷機において、第1のすき入れ模様(10)の位置ごとに、吐出ノズルからの吐出量を制御することにより、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)を部分的に異ならせることもできる。具体的には、吐出ノズルを基材(2)が固定されたXYステージ上に設け、第1のすき入れ模様(10)の所定の部位を形成する際に、所望とする積層厚み(H)となるまで、分散液を吐出すように吐出ノズルの制御を行い、基材(2)をXY移動させながら、第1のすき入れ模様(10)の各部位を形成することもできる。なお、吐出ノズルがXY軸方向に移動する機構を用いて、吐出ノズルの制御を行ってもよい。
【0061】
(分散液作製工程)
図8に示すStep2は、分散液作製工程であって、分散液付与条件設定工程(Step1)で設計された粒子状セルロース複合体(11)の分散液の配合条件を基に、あらかじめ作製した粒子状セルロース複合体(11)と水を少なくとも混合して、粒子状セルロース複合体(11)を水に分散させた分散液を作製する工程である。前述のように、粒子状セルロース複合体(11)と水の分散液に、分散剤や水溶性高分子、有機溶媒、あるいは粉末、微粒子等を加えてもよいし、必要に応じて少量のバインダー成分を配合してもよい。
【0062】
(分散液付与工程)
図8に示すStep3は、分散液付与工程であり、分散液付与条件設定工程(Step1)で設定された条件を基に、分散液作製工程(Step2)で作製した粒子状セルロース複合体(11)の分散液を所定の装置により基材(2)に付与して、第1のすき入れ模様(10)を形成する工程である。粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与する対象が、水素結合を形成できる官能基を持ち、水分が40%~90%のシートの場合は、抄紙機のワイヤー上での脱水や、抄紙機上でプレスロールや吸引装置により脱水することで、水分を調整した基材(2)を作製し、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与する。また、乾燥した状態の基材(2)に、水を含浸させたり吹き付けたりすることで、水分を調整したシートを作製し、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与する。
【0063】
分散液付与工程(Step3)により、基材(2)に付与した粒子状セルロース複合体(11)の分散液は、分散液に含まれる水分が蒸発又は基材(2)に浸透することで乾燥し、基材(2)の表面に粒子状セルロース複合体(11)が積層されて第1のすき入れ模様(10)が形成される。なお、分散液に含まれる水分を乾燥させるために、乾燥装置を用いてもよい。
【0064】
(すき入れ紙の第2の作製方法)
次に、光透過性が異なる2種類以上の粒子状セルロース複合体(11)を用いてすき入れ紙(1)を作製する方法について説明する。ここでは、粒子状セルロース複合体(11)に含まれるてん料の配合割合を異ならせて複合体化した2種類以上の粒子状セルロース複合体(11)を用いて、図9に示す第1のすき入れ模様(10)が形成されたすき入れ紙(1)を作製する方法について説明する。なお、第1の作製方法と異なる内容について説明する。
【0065】
(分散液付与条件設定工程)
すき入れ紙(1)の第2の作製方法において、分散液付与条件設定工程(STEP1)は、分散液作製工程(Step2)で用いる粒子状セルロース複合体(11)の選定を行う。仮に、図9に示すように、第1のすき入れ模様(10)が、明るさの異なる三つの領域(10A、10B、10C)から成る場合、粒子状セルロース複合体(11)もまた、光透過性が異なる三つの粒子状セルロース複合体(11)の選定を行う。ここでは、説明を分かりやすくするため、複合体1個当たり、てん料が5wt%含有された粒子状セルロース複合体(11A)と、複合体1個当たり、てん料が10wt%含有された粒子状セルロース複合体(11B)と、複合体1個当たり、てん料が20wt%含有された粒子状セルロース複合体(11C)を選定した例を説明する。なお、セルロース微小繊維(12)とてん料は、粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)において、同じ材料により複合体化されたものとする。
【0066】
また、すき入れ紙(1)の第2の作製方法において、分散液付与条件設定工程(STEP1)では、光透過性が異なる2種類以上の粒子状セルロース複合体(11)の分散液を用いて、第1のすき入れ模様(10)を形成する条件の設定を行う。ここでは、てん料の配合割合が異なる粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)の分散液を用いて、図9(a)に示す明るさが異なる三つの領域(10A、10B、10C)から成る第1のすき入れ模様(10)を形成するための条件設定の例を説明する。
【0067】
図9(a)に示す第1のすき入れ模様(10)は、領域(10A)、領域(10B)、領域(10C)の順に暗く視認されることから、複合体1個当たり、てん料が5wt%含有された粒子状セルロース複合体(11A)の分散液により領域(10A)を形成し、複合体1個当たり、てん料が10wt%含有された粒子状セルロース複合体(11B)の分散液により領域(10B)を形成し、複合体1個当たり、てん料が20wt%含有された粒子状セルロース複合体(11C)の分散液により領域(10C)を形成するための設定を行う。
【0068】
仮に、フレキソ印刷により、第1のすき入れ模様(10)を形成する場合は、領域(10A)に対応したフレキソ版面を印刷機に設けるとともに、複合体1個当たり、てん料が5wt%含有された粒子状セルロース複合体(11A)の分散液を当該版面に供給するための設定を行う。また、領域(10B)に対応したフレキソ版面を印刷機に設けるとともに、複合体1個当たり、てん料が10wt%含有された粒子状セルロース複合体(11B)の分散液を当該版面に供給するための設定を行う。また、領域(10C)に対応したフレキソ版面を印刷機に設けるとともに、複合体1個当たり、てん料が20wt%含有された粒子状セルロース複合体(11C)の分散液を当該版面に供給するための設定を行う。
【0069】
また、仮に、インクジェット印刷機により、図9(a)に示す第1のすき入れ模様(10)を形成する場合は、粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)の分散液を貯留するタンクを印刷機に設けて、各タンクに分散液を吐出するノズルを取り付けるとともに、各領域(10A、10B、10C)に対応した出力用の画像データを作成して、複合体1個あたり、てん料が5wt%含有された粒子状セルロース複合体(11A)の分散液を吐出するノズルから、領域(10A)に吐出する制御を行い、てん料が10wt%含有された粒子状セルロース複合体(11B)の分散液を吐出するノズルから、領域(10B)に吐出する制御を行い、てん料が20wt%含有された粒子状セルロース複合体(11C)の分散液を吐出するノズルから、領域(10C)に吐出する制御を行う。
【0070】
また、仮に、エアブラシ装置により、図9(a)に示す第1のすき入れ模様(10)を形成する場合は、粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)の分散液を貯留する各タンクにエアブラシ装置を取り付けるとともに、各領域(10A、10B、10C)に対応したマスクを作製する。また、各エアブラシ装置から分散液を塗布する時間の設定を行う。
【0071】
以上が、図9(a)に示す第1のすき入れ模様(10)を形成するための分散液付与条件設定工程(Step1)の設定内容の一例であるが、各領域(10A、10B、10C)の少なくとも一つに、複数の分散液を付与する設定を行ってもよい。これは、てん料の配合が少ない粒子状セルロース複合体(11)を用いると、すき入れ模様の暗さの微調整ができるためであり、例えば、てん料が20wt%含有された粒子状セルロース複合体(11C)の分散液によって形成した領域に対して、わずかに暗くしたい場合には、てん料が5wt%含有された粒子状セルロース複合体(11A)の分散液を重ねて付与すればよい。
【0072】
また、すき入れ紙(1)の第2の作製方法においても、前述のように、吐出ノズルからの分散液の吐出量の制御や印刷ユニットの増減により、基材(2)に付与する粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)を異ならせるための設定をしてもよい。
【0073】
(分散液作製工程)
すき入れ紙(1)の第2の作製方法において、分散液作製工程(STEP2)は、分散液付与条件設定工程(Step1)で設計された粒子状セルロース複合体(11)の分散液の配合条件を基に、あらかじめ作製した粒子状セルロース複合体(11)と水を少なくとも混合して、粒子状セルロース複合体(11)を水に分散させた分散液を作製する工程である。ここでは、複合体1個当たり、てん料が5wt%、10wt%、20wt%含有された粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)の分散液を作製する。なお、粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)に含まれるてん料の割合が異なること以外の分散液の構成は、前述の第1の作製方法どおりである。
【0074】
すき入れ紙(1)の第2の作製方法の分散液付与工程(Step3)は、分散液付与条件設定工程(Step1)で設定された条件を基に、所定の装置により粒子状セルロース複合体(11)の分散液を基材(2)に付与することで、第1のすき入れ模様(10)を形成する工程であり、光透過性が異なる2種類以上の粒子状セルロース複合体(11)の分散液を基材(2)に付与して、第1のすき入れ模様(10)を形成する。この例では、てん料が5wt%、10wt%、20wt%含有された粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)の分散液によって第1のすき入れ模様(10)を形成する。
【0075】
図9は、第2の作製方法によって形成した、図9(a)に示す第1のすき入れ模様(10)の構成の一例を示す図であり、前述した作製方法により、図9(b)に示すように、領域(10A)にてん料が5wt%含有された粒子状セルロース複合体(11A)が付与され、領域(10B)にてん料が10wt%含有された粒子状セルロース複合体(11B)が付与され、領域(10C)にてん料が20wt%含有された粒子状セルロース複合体(11C)が付与されて第1のすき入れ模様(10)が形成される。なお、図9(b)に示す領域(10A、10B、10C)には、1層の粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)が積層され、かつ、同じ積層厚み(H、H、H)で形成された例である。
【0076】
図9(b)に示すように、領域(10A、10B、10C)の粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)の積層厚み(H、H、H)が同じであっても、粒子状セルロース複合体(11)に含まれるてん料の割合が多くなるほど、暗く視認されるすき入れ模様となり、粒子状セルロース複合体(11A)が付与された領域(10A)、粒子状セルロース複合体(11B)が付与された領域(10B)、粒子状セルロース複合体(11C)が付与された領域(10C)の順に暗く視認できる第1のすき入れ模様(10)が形成される。
【0077】
図9(a)に示す効果のある第1のすき入れ模様(10)を、第2の作製方法によって形成する場合(図9(b))、第1の作製方法によって形成する場合(図3(b))と比べて、各領域(10A、10B、10C)の凹凸差が小さく、反射光下での第1のすき入れ模様(10)の隠蔽効果が高いとともに、耐久性が向上することから、好ましい。また、図3(b)に示すように、積層厚み(H)を異ならせる場合には、分散液を付与する回数や時間が掛かるが、第2の作製方法によって、図9(b)に示す構成の第1のすき入れ模様(10)を形成する場合、1度の付与により第1のすき入れ模様(10)を形成できることから、作製時間の短縮もできる。
【0078】
第2の作製方法によって形成した、図9(a)に示す第1のすき入れ模様(10)の別の例を図10(a)に示す。図10(a)は、領域(10C)の粒子状セルロース複合体(11C)の積層厚み(H)を他の領域(10A、10B)よりも厚くした構成であり、粒子状セルロース複合体(11C)の分散液の付与条件を設定して、積層厚み(H)を調整することで、領域(10C)のすき入れ模様の暗さを調整することができる。なお、領域(10A、10B)においても、所望とするすき入れ模様の暗さに応じて、積層厚み(H、H)を調整してもよい。
【0079】
また、領域(10C)の所望とするすき入れ模様の暗さに応じて、図10(b)に示すように、てん料が20wt%含有された粒子状セルロース複合体(11C)の上に、てん料が10wt%含有された粒子状セルロース複合体(11B)を積層した構成としてもよいし、てん料が5wt%含有された粒子状セルロース複合体(11A)を積層した構成としてもよい(図示せず)。
【0080】
第2の作製方法について、てん料の配合割合が異なる三つの粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)を用いる例について説明したが、更に多くの粒子状セルロース複合体(11)を用いてもよい。てん料の配合割合が異なる粒子状セルロース複合体(11)の数が多いほど、第1のすき入れ模様(10)の薄型化や、暗さの調整を行うことができることから好ましい。
【0081】
第2の作製方法について、光透過性が異なる2種類以上の粒子状セルロース複合体(11)の構成の一例として、てん料の配合割合が異なる三つの粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)を用いる例について説明したが、着色顔料、金属顔料の配合割合が異なる粒子状セルロース複合体(11)を用いてもよい。また、粒子状セルロース複合体作製工程(Step0)において、セルロース微小繊維(12)と混合する機能性材料(13)が異なる条件で作製した光透過性の異なる粒子状セルロース複合体(11)を、第2の作製方法で用いてもよい。具体的には、光透過性が互いに異なるてん料、着色顔料、金属顔料をそれぞれ機能性材料として用いて作製した粒子状セルロース複合体(11)を用いてもよい。
【0082】
以上に説明した本発明のすき入れ紙(1)は、透過光下で観察した際に第1のすき入れ模様(10)が視認できる効果があるが、第1のすき入れ模様(10)を形成する粒子状セルロース複合体(11)が、機械読取可能な材料を含有する場合には、すき入れ紙(1)の偽造防止が図れるとともに真偽判別手段として用いることができることから好ましい。なお、機械読取りとは、目視のみでは確認することができないが、機械読取可能な材料の検出に対応した所定の装置、例えば、紫外線や赤外線等の電磁波を照射する装置と撮像装置を用いて読み取ることや、磁気センサ、光学センサ、マイクロ波センサ等によって検出して読み取ることである。具体的には、セルロース微小繊維(12)より光透過性が低い材料として、酸化チタンを含む粒子状セルロース複合体(11)を用いて第1のすき入れ模様(10)を形成したすき入れ紙(1)に紫外光を照射すると、酸化チタンが紫外線を吸収するので、紫外線カメラにより撮像すると第1のすき入れ模様(10)が暗く視認でき、これを機械読取りと真偽判別手段として用いることもできる。
【0083】
また、粒子状セルロース複合体(11)に、更に無色蛍光顔料を含有させて第1のすき入れ模様を形成すると、紫外光を照射することで、第1のすき入れ模様(10)が蛍光発光して確認することができ、これを機械読取りと真偽判別手段として用いることができる。また、赤外吸収材料を含有させて第1のすき入れ模様(10)を形成し、赤外光を照射して赤外カメラで撮像すると、第1のすき入れ模様(10)が暗く撮像されて図柄を視認でき、これを機械読取りと真偽判別手段として用いることができる。なお、特許文献2に記載の他の機能性材料を用いることでも、それらの機能性を機械読取りと真偽判別手段として用いることができる。
【0084】
また、前述したすき入れ紙の第2の作製方法によって、図9に示す第1のすき入れ模様(10)を形成する場合において、例えば、領域(10A)を構成する粒子状セルロース複合体(11A)のみに、更に無色蛍光顔料を含有させると、紫外光を照射した際には、領域(10A)のみが発光することから、透過光下で視認できる図柄と、紫外光を照射した際の図柄を変化させることができ、これを機械読取りと真偽判別手段として用いることができる。また、領域(10A)を構成する粒子状セルロース複合体(11A)に含有させる無色蛍光顔料とは異なる配合で、領域(10B)を構成する粒子状セルロース複合体(11B)にも、無色蛍光顔料を含有させて第1のすき入れ模様(10)を形成すると、紫外光を照射した際には、領域(10A)と領域(10B)が異なる発光の仕方をすることから、これを機械読取りと真偽判別手段として用いることができる。なお、特許文献2に記載の他の機能性材料を用いてもよいし、異なる機能性材料を用いて、複合体化した粒子状セルロース複合体(11)を異なる領域に付与してもよい。
【0085】
また、図1に示すように、「花」の模様が、一様な明るさのすき入れ模様として視認できる構成においても、同様にして、「花」の模様の一部のみに、蛍光顔料や赤外吸収材料等の機能性材料を含有させた粒子状セルロース複合体(11)を用いて、第1のすき入れ模様(10)を形成してもよい。
【0086】
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製したすき入れ紙の実施例について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0087】
本実施例1は、一つの粒子状セルロース複合体(11)の分散液を用いて第1の作製方法により、第1のすき入れ模様(10)を形成したすき入れ紙(1)である。実施例1のすき入れ紙(1)の詳細について、以下に説明する。
【0088】
第1の作製方法のStep0として、機能性材料(13)として酸化チタンを用い、セルロース微小繊維(12)として木材繊維を用いて粒子状セルロース複合体(11)を作製した。詳細には、セルロース微小繊維(12)の濃度を1.0%、酸化チタンの濃度を0.1%とした水懸濁液を、スプレードライ装置による噴霧乾燥法により粒子状セルロース複合体(11)を作製した。
【0089】
分散液付与条件設定工程(Step1)として、分散液付与工程(Step3)で粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与する条件の設定を行った。具体的には、基材(2)に、水素結合を形成できる官能基を有する木材繊維から成る紙を用い、水素結合できる条件で粒子状セルロース複合体の分散液を付与することとした。このため、分散液作製工程(Step2)では、粒子状セルロース複合体(11)と水のみを混合した分散液を作製することとした。
【0090】
また、分散液付与条件設定工程(Step1)として、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与する装置としてインクジェット印刷機を用いることとし、インクジェット印刷機で形成する第1のすき入れ模様(10)の図柄に対応した画像データを作成した。なお、第1のすき入れ模様(10)の図柄は、図1(a)に示す「花」の図柄とした。
【0091】
分散液作製工程(Step2)として、粒子状セルロース複合体(11)の固形分濃度2wt%となるように水と粒子状セルロース複合体(11)を混合し、分散液を作製した。
【0092】
分散液付与工程(Step3)として、基材(2)に、木材繊維から作製した水分60%の絶乾坪量60g/mの紙を用い、インクジェット印刷機(株式会社マイクロジェット製、型式:IJHD-1000)に、分散液作製工程(Step2)で作製した分散液を吐出液タンクに補充し、約1,000pL/滴の吐出条件で分散液を付与して第1のすき入れ模様(10)を形成した。分散液を付与した基材(2)は、表面温度110℃の円筒型乾燥機(熊谷理機工業株式会社製)で約3分間の乾燥を行った。
【0093】
実施例1のすき入れ紙(1)において、第1のすき入れ模様(10)は、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)が、約7μmであり、拡散反射光下では不可視であるが、透過光下で観察すると、基材(2)よりも暗い「花」の図柄を視認することができた。なお、実施例1のすき入れ模様(10)は、1m当たり0.18gの粒子状セルロース複合体(11)が付与された結果であった。
【0094】
(比較例1)
比較例1として、実施例1の粒子状セルロース複合体(11)に用いたセルロース微小繊維(12)のみを、実施例1の粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)と同じ厚さになるように重ねて付与して基材(2)に積層した場合のすき入れ模様を形成した。
【0095】
比較の結果、実施例1のすき入れ紙(1)は、比較例1のすき入れ模様よりも暗く視認でき、基材(2)とのコントラストが高い結果であった。
【0096】
(比較例2)
比較例2として、セルロース微小繊維(12)のみを、比較例1よりも更に厚く積層して、実施例1の第1のすき入れ模様(10)と同じ暗さとなるすき入れ模様を形成した。その結果、セルロース微小繊維(12)の厚さは、約100μmまで厚くなる結果であった。以上のことから、本発明のすき入れ紙(1)は、機能性材料(13)を含む粒子状セルロース複合体(11)を用いることで、積層厚み(H)が薄くても基材(2)とのコントラストのあるすき入れ模様が得られる結果となった。
【実施例2】
【0097】
本実施例2は、図6に示すように、第2のすき入れ模様(20)と、第1のすき入れ模様(10)が形成されたすき入れ紙(1)である。以下、実施例2のすき入れ紙(1)について説明するが、第1のすき入れ模様(10)の構成及び作製方法は、実施例1と同じであるため、説明を省略する。
【0098】
実施例2のすき入れ紙(1)において、基材(2)には、木綿パルプを原料とし、手すきシート作製機(熊谷理機工業株式会社製)を用いて、坪量90g/m、厚さ100μm、白色の紙基材を作製した。その際、第2のすき入れ模様(20)を形成するために、手すきシート作製機の金網に凸部を設けることで、図5に示す基材(2)を作製した。また、手すきシート作製機により作製した紙基材が乾燥する前に、実施例1と同様に、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与して、第1のすき入れ模様(10)を形成した。分散液を付与した基材(2)は、表面温度110℃の円筒型乾燥機(熊谷理機工業株式会社製)で約3分間の乾燥を行った。
【0099】
以上の方法により作製した実施例2のすき入れ紙(1)において、第1のすき入れ模様(10)と第2のすき入れ模様(20)は、反射光下では不可視であるが、透過光下では、第2のすき入れ模様(20)は、基材(2)より明るく視認される中、第1のすき入れ模様(10)は、暗く視認され、実施例1のすき入れ紙(1)よりも、コントラストのある「花」の図柄を視認することができた。
【実施例3】
【0100】
実施例3は、複数の粒子状セルロース複合体(11)の分散液を用いて第2の作製方法により、第1のすき入れ模様(10)を形成したすき入れ紙(1)である。実施例3の第1のすき入れ模様(10)は、図11に示すように、「1」、「2」、「3」の数字であり、「1」、「2」、「3」の順に暗く視認される第1のすき入れ模様(10)を形成した例である。実施例3のすき入れ紙(1)の詳細について、以下に説明する。
【0101】
第2の作製方法のStep0として、機能性材料(13)として酸化チタンを用い、セルロース微小繊維(12)として、木材繊維を用いて粒子状セルロース複合体(11)を作製した。詳細には、セルロース微小繊維(12)の濃度を1.0%、酸化チタンの濃度を、0.05%、0.1%及び0.15%混合した3種類の水懸濁液を、スプレードライ装置による噴霧乾燥法により、複合体1個当たり、5wt%含有した粒子状セルロース複合体(11A)、複合体1個当たり、10wt%含有した粒子状セルロース複合体(11B)、複合体1個当たり、15wt%含有した粒子状セルロース複合体(11C)を個別に作製した。
【0102】
分散液付与条件設定工程(Step1)として、分散液付与工程(Step3)で粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与する条件の設定を行った。なお、粒子状セルロース複合体(11)を付与する基材の条件は、実施例1と同じ条件とし、分散液作製工程(Step2)もまた、各粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)と水のみを混合した分散液を作製することとした。
【0103】
また、分散液付与条件設定工程(Step1)として、粒子状セルロース複合体(11)の分散液を付与する装置には、実施例1と同じインクジェット印刷機を用いることとし、インクジェット印刷機で形成する第1のすき入れ模様(10)の図柄に対応した画像データを作成した。なお、第1のすき入れ模様(10)の図柄は、図11に示す「1」、「2」、「3」の数字とした。図12は、実施例3のすき入れ紙(1)を作製するためのインクジェット印刷機(30)と、すき入れ紙(1)の関係を模式的に示す図であり、吐出液タンク(31A)に対応したノズル(32A)から、「1」の数字に対して分散液を付与する設定と、吐出液タンク(31B)に対応したノズル(32B)から、「2」の数字に対して分散液を付与する設定と、吐出液タンク(31C)に対応したノズル(32C)から、「3」の数字に対して分散液を付与する設定を行った。
【0104】
分散液作製工程(Step2)として、各粒子状セルロース複合体(11A、11B、11C)が、固形分濃度2wt%となるように水と粒子状セルロース複合体(11)を混合し、3種類の分散液を作製した。
【0105】
分散液付与工程(Step3)として、基材(2)に、木材繊維から作製した水分60%の紙を用い、インクジェット印刷機(30)により分散液を付与して、第1のすき入れ模様(10)を形成した。なお、分散液作製工程(Step2)で作製した粒子状セルロース複合体(11A)の分散液を図12に示す吐出液タンク(31A)に補充し、粒子状セルロース複合体(11B)の分散液を吐出液タンク(31B)に補充し、粒子状セルロース複合体(11C)の分散液を吐出液タンク(31C)に補充し、各吐出液タンク(31A、31B、31C)に対応したノズル(32A、32B、32C)を順番に単独で可動させて、「1」、「2」、「3」の数字の第1のすき入れ模様(10)を順に形成した。
【0106】
以上の方法により形成した第1のすき入れ模様(10)は、「1」、「2」、「3」の数字のいずれにおいても、粒子状セルロース複合体(11)の積層厚み(H)は、約7μmであり、拡散反射光下では不可視であった。また、透過光下で観察すると、「1」、「2」、「3」の数字が視認できるとともに、数字を形成している領域に付与された酸化チタンの配合が多いほど、暗く視認できる効果が得られた。
【符号の説明】
【0107】
1 すき入れ紙
2 基材
10 第1のすき入れ模様
11 粒子状セルロース複合体
12 セルロース微小繊維
13 機能性材料
20 第2のすき入れ模様
30 インクジェット印刷機
31 吐出液タンク
32 ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12