(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】偽造防止印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20220104BHJP
B42D 25/337 20140101ALI20220104BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/337
(21)【出願番号】P 2018171050
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205950(JP,A)
【文献】特開2017-087632(JP,A)
【文献】特開2010-173161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0161939(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0119963(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B42D 25/337
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に、基材と異なる色彩の印刷画像を備え、
前記印刷画像は、少なくとも一つの有彩色を含む、色相の異なる2色以上の色彩により
形成された複数の異なる色彩から成る領域から成り、前記領域の間は境目を有し、前記境目を挟んで互いに隣接する前記領域のCIELabの色空間における色差ΔEが6.5以上で形成された第二の有意情報を表して成る潜像画像と、
明暗フリップフロップ又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれかの光学特性を有し、
最大面積率と最小面積率の差が10%以上50%以下の範囲で構成されて濃淡を現した光輝性画像が積層されて成り、
前記潜像画像と前記光輝性画像の間には、色彩共有性があり、
拡散反射光下において、前記光輝性画像の濃淡と前記潜像画像の色彩が合成された第一の有意情報が視認され、
正反射光下において、前記光輝性画像の濃淡が消失して前記潜像画像が現す第二の有意情報が視認されることを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項2】
前記境目が、白色又は互いに隣接する領域より淡い色彩による輪郭線により形成されたことを特徴とする請求項1に記載の偽造防止印刷物。
【請求項3】
前記光輝性画像における最大面積率が90%以下であることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の偽造防止印刷物。
【請求項4】
前記潜像画像の上に前記光輝性画像が形成されることを特徴とする
請求項1から3までのいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、観察できる画像が入射する光の角度に応じて異なる画像に変化する色彩表現に富んだ偽造防止印刷物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンター、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのような複製や偽造を防止する偽造防止技術の一つとして、印刷物に観察角度によって画像が変化するホログラムに代表される光学的なセキュリティ要素を貼付したものが多く存在するようになった。
【0003】
しかし、ホログラムはインキを用いた印刷によって形成する従来の偽造防止技術とは異なり、複雑な製造工程と特殊な材料を用いて形成されることから、従来の偽造防止用印刷物と比較すると製造に手間が掛かり、かつ、極めて高価である。このことから、金属インキ、干渉マイカ、酸化フレークマイカ、顔料コートアルミニウムフレーク、光学的変化フレーク等の特殊な光反射性粉体をインキや塗料に配合し、かつ、特殊な材料同士の重ね合わせや複雑な網点構成を用いることによって、ホログラムと同様な画像変化を実現した一般的な印刷方法で形成可能な偽造防止用印刷物が出現している。
【0004】
本出願人は、一般的、かつ、比較的安価な材料及び簡単な印刷手段を使用していながら、拡散反射光下の観察角度において、印刷物中の特定部位における人の目に認識される情報が、正反射光下の観察角度に変化させることによって、全く別の情報に変化する偽造防止用情報担持体に係る発明を既に出願している(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3398758号公報
【文献】特許第4604209号公報
【文献】特許第5358819号公報
【文献】特許第5245102号公報
【文献】特許第5360725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術に関しては、第一の印刷画像を構成する光輝性材料と第二の印刷画像を構成する色材料の色相が異なるため、出現する第二の画像に対して、光輝性材料の反射光による1つの色彩と、色材料によるもう1色の合計2色の色彩で表現できる特徴を有する。しかし、逆にいえば、2色以上の色彩を用いた表現は不可能であって、表現可能な色彩が限定されるという問題があった。また、色材料によって潜像を形成することから、いかに適切に設計した場合でも、本来、拡散反射光下で観察者に視認されてはならない第二の画像が視認されてしまい、観察者に違和感を抱かせる場合があるという問題があった。加えて、第一の印刷画像と第二の印刷画像の重ね合わせにおいて、所定の位置関係に精度よく合わせる必要があり、製造難易度が高かった。
【0007】
特許文献2から特許文献5までに記載の技術は、第二の画像を構成する色材料を透明化するか、又は第一の画像と第二の画像を等色のペアインキによって構成することによって、第二の画像の隠蔽性を高めるとともに、視認性を向上させた技術である。しかし、色相変化を伴う画像のチェンジ効果を実現した特許文献1の技術とは異なり、主として光輝性材料の明度の上昇を利用して画像のチェンジ効果を実現する技術であるため、チェンジする画像は単一の色相の濃淡のみで表現された単調なモノトーンの画像に制限されるという問題があった。また、特許文献3から特許文献5までの技術に関しては、特許文献1の技術同様に二つの画像の位置関係を精度よく合わせる必要があった。
【0008】
また、特許文献1から特許文献3までに記載の技術に共通の問題として、二つの画像の重ね合わせの位置関係は、光輝性材料で構成された第一の画像の上に、色材料又は透明な材料で構成された第二の画像を重ね合わせる必要があった。このため、第二の画像によって第一の画像へ入射する光が遮られることから、第一の画像における濃淡差を広く設計した場合には、第二の画像が重なった部分は第一の画像の濃淡が消失しきらず、第二の画像と第一の画像が重なった状態で出現する場合があり、チェンジ効果が不明瞭になる場合があるという問題があった。
【0009】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、拡散反射光下と正反射光下で画像がチェンジする効果を有する印刷物であって、拡散反射光下で視認できる画像と正反射光下で視認できる画像に対して、異なる色相を含む複数の異なる色彩によって豊かな色彩を付与することが可能であって、第一の画像と第二の画像が重なり合った領域においても、第一の画像が完全に消失する、高いチェンジ効果を有する。また、第一の画像と第二の画像の重ね合わせにおいて高い刷り合わせ精度を必要とせず、製造可能であることを特徴とした偽造防止印刷物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の偽造防止印刷物は、基材上の少なくとも一部に、基材と異なる色彩の印刷画像を備え、印刷画像は、少なくとも一つの有彩色を含む、色相の異なる2色以上の色彩から成り、異なる色彩がΔE6.5以上の色差を有して隣接する境目を備えて第二の有意情報を表して成る潜像画像と、明暗フリップフロップ又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれかの光学特性を有し、所定の面積率の範囲で構成されて濃淡を現した光輝性画像が積層されて成り、潜像画像と光輝性画像の間には、色彩共有性があり、拡散反射光下において、光輝性画像の濃淡と潜像画像の色彩が合成された第一の有意情報が視認され、正反射光下において、光輝性画像の濃淡が消失して潜像画像が現す第二の有意情報が視認されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の偽造防止印刷物は、潜像画像の異なる色彩で隣接する領域の境目に、白色又は隣接する領域の色彩よりも淡い色彩によって輪郭線を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の偽造防止印刷物は、光輝性画像における最大面積率と最小面積率の差異が10%以上50%以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の偽造防止印刷物は、光輝性画像の最大面積率が90%以下であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の偽造防止印刷物は、潜像画像の上に光輝性画像が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の偽造防止印刷物の正反射光下で出現する潜像画像(従来技術における第二の画像)に適用できる色彩は、特許文献1の技術と異なり、2色に限定されることがない。また、特許文献2から特許文献5までの技術と異なり、色彩表現がモノトーンに制限されることがない。そのため、本発明の偽造防止印刷物は、潜像画像を構成する色数に制限がなく、色彩豊かな表現が可能である。また、潜像画像同様に、拡散反射光下で視認できる画像を多色化することが可能となった。
【0016】
本発明の偽造防止印刷物は、特許文献1の技術と同様に、正反射光下で出現する潜像画像は、拡散反射光下でもその色彩が視認されるものの、特許文献1の技術とは異なり、光輝性画像の色彩を構成する画像の一部として認識されるため、観察者に違和感を抱かせることがない。
【0017】
本発明の偽造防止印刷物は、特許文献1、特許文献3及び特許文献4の技術と異なり、光輝性画像と潜像画像の重ね合わせにおいて、所定の位置関係に精度よく合わせる必要がなく、製造難度が低い。
【0018】
本発明の偽造防止印刷物は、特許文献1から特許文献3までの技術と異なり、光輝性画像と潜像画像の印刷順序に制約がなく、潜像画像の上に光輝性画像を重ねた場合でも所望の効果を発現する。
【0019】
以上の手法で形成した偽造防止印刷物は、生産性の高い印刷方式であるオフセット印刷で製造可能であることからコストパフォーマンスに優れるとともに、最新のデジタル機器を用いたとしてもスイッチ効果を実現することは不可能であることから、偽造防止効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】本発明における偽造防止印刷物の構成の概要を示す。
【
図3】本発明の潜像画像と光輝性画像における色彩共通性の説明図を示す。
【
図4】本発明における偽造防止印刷物の層構造を示す。
【
図5】本発明における偽造防止印刷物の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0022】
なお、本明細書中でいう「明度」とは、色の明るさを指し、高い場合には明るく、低い場合には暗い。また、「彩度」とは、色の鮮やかさの度合いを指す。加えて、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400nm~700nm)の特定の波長の高低の分布を示すものである。本明細書中では、特に、無彩色である白や黒も一つの色相と考え、白、灰色、黒は同じ色相であるとする。
【0023】
まず、本発明について図面を用いて説明する。
図1に、本発明における偽造防止印刷物(1)を示す。偽造防止印刷物(1)は、基材(2)の上に、基材(2)と異なる色彩の印刷画像(3)を有する。印刷画像(3)は、拡散反射光下では第一の有意情報を表して成る。印刷画像(3)の大きさや形状に制約はない。
【0024】
本発明の偽造防止印刷物(1)に用いる基材(2)は、紙、プラスティック、金属等のインキや塗料、色材等を受理できる特性を有することを条件として、材質は問わない。効果をより高めるためには、印刷する基材(2)表面は、平滑であることが望ましい。
【0025】
印刷画像(3)は、
図2に示す潜像画像(4)と光輝性画像(5)の二つの異なる画像の重ね合わせによって構成される。具体的な積層関係については後述する。
【0026】
印刷画像(3)を構成する二つの画像の一つである潜像画像(4)は、色相の異なる二つ以上の色彩から成り、正反射光下において印刷画像(3)の中に現れる第二の有意情報を構成する。本発明においては、正反射光下において印刷画像(3)が表す図柄全体を第二の有意情報とする。
【0027】
印刷画像(3)を構成するもう一つの画像である光輝性画像(5)は、明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性を有する。拡散反射光下において、この光輝性画像(5)の濃淡と、潜像画像(4)の色彩とが合成されることで、第一の有意情報を表す。潜像画像(4)のみで表現される第二の有意情報と異なり、第一の有意情報は、光輝性画像(5)と潜像画像(4)が合成された画像を指す。
【0028】
まず、潜像画像(4)について具体的に説明する。潜像画像(4)は、少なくとも一つの有彩色を含む二つ以上の異なる色相で構成され、色彩の違いによって第二の有意情報を表す。この色数に関する条件は、第二の画像(潜像画像)をモノトーンで表現する従来の技術との大きな差異であり、潜像画像(4)を多色化するために必須の条件である。2色以上で、有彩色を少なくとも一つ含む必要があるため、最低限の色彩の構成としては、「有彩色」と「無彩色」の構成を取りうる。当然、「有彩色」と「有彩色」でもよいし、3種類以上の有彩色で構成することが本発明を効果的に見せる上でより望ましい。
【0029】
本実施の形態における第二の有意情報とは、二つの桜の花びらとその背景を表す画像である。
図2に表す二つの桜のうち、左上にある桜の花びらはピンク色であり、右下にある桜の花びらは白色であり、二つの桜の花びらの中心の5角形は黄色である。また、桜の花びらの背景は青色である。本実施の形態における潜像画像(4)は、それぞれ異なる色相で構成された4つの色彩から成る。本実施の形態では前述の色彩の例で説明するが、潜像画像(4)に適用し得る色彩には一定の制約はあるものの、潜像画像(4)に適用できる色相や色数に関して制限はなく、その範囲内で適宜選択すればよい。潜像画像(4)の色彩の具体的な条件については後述する。
【0030】
潜像画像(4)は、色彩の違いによって画像を表現する。潜像画像(4)は、それ単独で第二の有意情報を表現する必要があるため、潜像画像(4)のみを見て観察者が、画像の意味を理解できる程度に明瞭な色彩の違いを有した構成とする必要がある。また、本発明は、第二の有意情報を複数の色相の異なる色彩によって多色化して表現することを目的の一つとしているため、ここでいう潜像画像(4)における色彩の違いの中には、色相が異なる色彩の違いも少なくとも一部に含む必要がある。以上のことから、潜像画像(4)は、少なくとも一部に色相の違いを含んだ色彩の違いによって、一見して判別可能な第二の有意情報を表す必要がある。その一方で、潜像画像(4)が表す色彩の違いは、拡散反射光下でも視認でき、第一の有意情報の色彩として反映されるため、その色彩や形状を明瞭にし過ぎると、拡散反射光下において、観察者に第一の有意情報の色彩として認識されるだけでなく、本来、正反射光下においてのみ視認されるべき第二の有意情報の存在について察知されるおそれが生じる。
【0031】
以上の問題について、本実施の形態で具体的に説明する。
図2に示すとおり、第一の有意情報は桜花流水の画像であり、第二の有意情報は桜の花びらの画像である。潜像画像(4)は、第二の有意情報である桜の花びらを単体で表し、かつ、第一の有意情報の桜花流水に色彩(ピンク色、白色、黄色、青色)を添える働きを成している。ここで重要なことは、潜像画像(4)は、拡散反射光下で第一の有意情報の桜花流水の色彩の一部として認識される必要があるが、拡散反射光下で第二の有意情報の桜の花びらとして認識されてはならないということである。これは、拡散反射光下では印刷画像(3)中に視認される第一の有意情報が、正反射光下では第二の有意情報へとチェンジすることを効果とする本発明には不可欠な事項である。仮に、拡散反射光下において、第一の有意情報である桜花流水の画像とともに、第二の有意情報である桜の花びらの存在が認識されてしまえば、正反射光下において、第二の有意情報である桜の花びらが出現した場合に観察者に与えるインパクトは極めて小さくなる。拡散反射光下で桜花流水を見ていた観察者が、桜の花びらの存在に気が付かなかったからこそ、正反射光下で桜の花びらに画像がチェンジする効果がより強調される。
【0032】
以上のように、第二の有意情報である桜の花びらを強い色彩とはっきりとした輪郭を有した形状で明瞭に表現する構成とした場合、拡散反射光下において視認される第一の有意情報の桜花流水の色彩として認識されるだけでなく、桜の花びら自体も認識されてしまい、第二の有意情報の存在を察知されてしまう。逆に、桜の花びらを弱い色彩とぼかした輪郭を有した形状で不明瞭に表現した構成とした場合、拡散反射光下において桜の花びら自体が認識されることはなくなるものの、正反射光下において、第二の有意情報が桜の花びらであると認識されない場合がある。このため、潜像画像(4)の色彩や色彩配置、その形状等はある程度明瞭である必要があるものの、明瞭過ぎてはならないという矛盾した条件の中で設計する必要がある。
【0033】
潜像画像(4)を構成するに当たって、前述した条件を満たす色彩の強弱や色彩配置についての具体的な構成について以下に記載する。潜像画像(4)を複数の異なる色彩の領域で形成した場合、異なる色彩の領域が隣接する境目が必ず生じる。この境目を挟んで隣接する領域の色彩間の色差が小さ過ぎれば、境目が表す形状を認識しづらくなる。すなわち、正反射光下において第二の有意情報を表しにくくなる。以上のことから、潜像画像(4)中において異なる色彩で隣接する領域間の色差ΔEが6.5以上である境目を少なくとも一部に備える必要がある。この色差ΔEで6.5とは、CIELabの色空間において「印象的に同じ色とは扱われない」色差ΔEの最小値であり、ΔEで6.5以上の色差を有する境目は、同じ色彩ではなく、異なる色彩であると認識されるため、色彩の違いによって第二の有意情報を表現できる。隣接する領域間の色差ΔEが6.5以上の境目が全く存在しない画像構成の場合、異なる色彩の領域の境目を容易に認識できず、第二の有意情報を把握することができないため避ける必要がある。なお、異なる色彩で隣接する全ての領域間の色差ΔEが6.5以上である必要はなく、デザインの自由度を高める上で、それ以下の色差で構成されて隣接する領域が存在していても問題ない。以上のことから、潜像画像(4)は、異なる色彩がΔE6.5以上の色差を有して隣接する境目を少なくとも含み、色彩の違いによって第二の有意情報を表して成る必要がある。
【0034】
一方、
図2の例のように、第一の有意情報と第二の有意情報が全く異なる画像の場合には、異なる色彩で隣接する領域間の色差ΔEが30を超えると、光輝性画像(5)がいかなる構成でカモフラージュしたとしても、拡散反射光下において、第二の有意情報を隠蔽することが困難な場合がある。そのため、異なる色彩で隣接する領域間の色差ΔEが30以下にとどめることが望ましい。ただし、これには例外がある。第一の有意情報の中に、第二の有意情報が完全に包含される図柄の関係の場合、例えば、第一の有意情報が「髭のある人物A」であって、第二の有意情報が「髭のない人物A」であって、「髭のある人物A」から髭がなくなるだけで「髭のない人物A」となる構成の場合、すなわち、第一の有意情報と第二の有意情報の違いが、濃淡情報の違いだけであって、それ以外の色彩と色彩が表す形状を完全に共有できる場合には、異なる色彩で隣接する領域間の色差ΔEが30を超えていても問題ない。加えて、第一の有意情報と第二の有意情報のそれぞれに同じ図柄が配置されている場合、すなわち画像のチェンジ効果が生じない領域にも色差ΔEが30以下の条件を適用する必要はない。例えば、潜像画像(4)と光輝性画像(5)の特定の領域に共通した図柄Aが配置されていて、その図柄Aが拡散反射光下でも正反射光下でも変わらず視認されるような構成を適用した場合、その図柄Aと周囲の色彩の色差ΔEが30を超えても何ら問題ない。
【0035】
以上のことから、潜像画像(4)は、色相の異なる2色以上の色彩から成り、異なる色彩がΔE6.5以上の色差を有して隣接する境目を少なくとも含んで第二の有意情報を表して成る必要がある。また、第一の有意情報と第二の有意情報が全く異なる画像の場合にはΔE6.5以上であることに加えて、異なる色彩が隣接する領域間の色差ΔEは30以下とすることが望ましい。
【0036】
また、潜像画像(4)を表す場合、異なる色彩で隣接する領域の境目を目立たせるために、異なる色彩で隣接する領域の境目を黒や濃い色で強調すること、すなわち、輪郭を濃い色で縁取った輪郭線を設けることは避けなければならない。仮に異なる色彩で隣接する領域の境目を輪郭として縁取った場合、輪郭線は目立ちやすいため、異なる色彩で隣接する領域の境目が強調されて第二の有意情報を把握しやすくなる。しかし、その一方、拡散反射光下で輪郭線を隠蔽することは困難であり、第二の有意情報を第一の有意情報によって隠蔽することが困難となる。輪郭線を形成する場合には、輪郭線はヌキの構成、すなわち、白色や、異なる色彩で隣接する領域の境目で接する色彩よりも淡い色彩で構成することが望ましい。
【0037】
また、異なる色彩で隣接する領域の色差ΔEを制限する他に、異なる色彩で隣接する領域の境目にぼかし処理を施すことも望ましい方法である。ぼかし処理は、一般的な画像処理ソフトの効果の一つとして搭載された機能を用いればよい。ぼかし処理を施すと、異なる色彩で隣接する領域の境目がぼやけ、拡散反射光下で認識されにくくなる。一方で、ぼかし処理を強く施し過ぎると、第二の有意情報を認識されにくくなるため、少なくとも観察者が潜像画像(4)を見て、第二の有意情報が何を表す画像であるのかを把握できる範囲内で止める必要がある。以上が、潜像画像(4)の色彩に関する説明である。
【0038】
なお、潜像画像(4)が満たすべき色彩の構成の最後の条件として、光輝性画像(5)との「色彩共有性」があるが、これについては光輝性画像(5)の説明の中で具体的に記載する。
【0039】
潜像画像(4)は、光輝性画像(5)のような特殊な機能性を必要としない。このため、仮に印刷によって潜像画像(4)を形成する場合、一般的な印刷用の着色インキを使用すればよい。インキの乾燥方式に特段の制約はなく、酸化重合で硬化する油性インキであっても、光重合で硬化するUVインキであってもよい。また、プロセスインキであっても、特色インキであってもよい。結果として、観察者が色彩を認識できる潜像画像(4)を形成できさえすれば、いかなるインキを用いてもよい。
【0040】
潜像画像(4)は、生産性の高いオフセット印刷、凸版印刷等で形成してもよい。また、製造者のシーズに応じてフレキソやグラビア、スクリーン、凹版印刷等を用いてもよい。また、インクジェットプリンターやレーザープリンター等のプリンターで形成することもできる。プリンターで形成する場合には、一枚一枚付与された潜像が異なる可変印刷が可能であり、住民票やパスポート等のような個人情報付与に最適である。以上が、潜像画像(4)の説明である。
【0041】
続いて、印刷画像(3)を構成するもう一つの画像である、光輝性画像(5)について具体的に説明する。光輝性画像(5)は、物体色を有し、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を備え、
図2に示すように所定の面積率の範囲で構成されて第一の有意情報の濃淡を表す。本実施の形態において、第一の有意情報は、青味がかった灰色の背景の中に、左上にあるピンク色の桜花流水模様と、右下にある白色の桜花流水模様とが存在する画像を指す。その中で光輝性画像(5)は、第一の有意情報の中の桜花流水模様の濃淡を表し、第一の有意情報の中のピンク色、白色、青色といった色相や彩度に関する色情報は、潜像画像(4)が表す。
【0042】
光輝性画像(5)は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性を備える必要がある。明暗フリップフロップ性とは、光を反射した場合に、物体(画像)の明度が上昇する特性であり、一方のカラーフリップフロップ性とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。
【0043】
光輝性画像(5)に明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を付与する方法としては、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を有するインキやトナー、色材、塗料等で光輝性画像(5)を形成するのが最も容易である。明暗フリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキや、グロスタイプの着色インキがある。一般的に艶があると感じられる物質は、明暗フリップフロップ性を備える。例えば、銀インキは、光を強く反射しない拡散反射光下では暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下では、より淡い灰色か又は白色に見える。このように、明暗フリップフロップ性を有するインキは、正反射光下で明度が変化する。正反射光下で明度が変化するのであれば、インキ中の顔料が光を強く反射する特性を有していてもよいし、インキの樹脂自体が光を強く反射する特性を有していてもよい。
【0044】
一方のカラーフリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、液晶インキ、OVI(Optical Variable Ink)、CSI(Color Shifting Ink)等が存在する。このようなカラーフリップフロップ性を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。
【0045】
濃淡を有する光輝性画像(5)を正反射光下で消失させるためには、光輝性画像(5)を所定の面積率の範囲で形成する必要がある。この面積率の範囲は、光輝性画像(5)の形成方法や、形成した材料等でそれぞれ異なる。例えば、一般的な印刷方法によって、印刷インキを用いて光輝性画像(5)を構成した場合、最大面積率と最小面積率の差を50%以下に制限して光輝性画像(5)を構成する必要がある。これによって、光輝性画像(5)が正反射した場合に、光輝性画像(5)が強く光を反射することで画像の明度が上昇し、画像中の濃淡が肉眼で捉えられなくなり、あたかも光輝性画像(5)が消失したかのような効果を得ることができる。また、最大面積率と最小面積率の差が小さ過ぎると、拡散反射光下で光輝性画像(5)の濃淡を捉えにくいため、最大面積率と最小面積率の差を少なくとも10%以上とする必要がある。以上のように、一般的な印刷インキを用いて光輝性画像(5)を構成する場合、最大面積率と最小面積率の差を10%以上50%以下とする必要がある。
【0046】
一般に画像の面積率は高い方が、光を強く反射する効果は高まるため、光輝性画像(5)は、ハイライト~中間調で光輝性画像(5)を構成するより、中間調~シャドーで画像を構成する方が、正反射光下における光輝性画像(5)の濃淡の消失効果は高まる。ただし、高い面積率の光輝性画像(5)と潜像画像(4)が重なると、光輝性画像(5)の濃淡によって潜像画像(4)の色彩の彩度が低下する。また、光を強く反射するインキや、フレキソ印刷やグラビア印刷、スクリーン印刷のように光沢を得やすい印刷方式の場合、面積率100%~90%程度の領域の反射光は、それ以下の網点面積率の領域の反射光よりも著しく強くなる傾向があり、明度が上がり過ぎて逆に白く目立ってしまう場合がある。このため、本発明においては、光輝性画像(5)の最大面積率を90%以下に抑えることが望ましい。
【0047】
続いて、光輝性画像(5)と潜像画像(4)の色彩配置に必要となる「色彩共有性」について説明する。これは、文字どおり、光輝性画像(5)と潜像画像(4)が同じ色彩を共有できる構成を有することを示す。具体的には、実施の形態で説明すると、潜像画像(4)に配置した桜の二つの花びらは、ピンク色と白色の花の色を有し、また両花びらの中心には淡い黄色を配し、また、その周囲の背景は青色で構成されている。
図3に示すように、この色彩配置をそのまま光輝性画像(5)と重ね合わせて合成した場合に、左上の桜花流水模様にはピンク色で彩られ、右下の桜花流水模様は白色で彩られ、その周囲の背景は青色の配された色彩配置となる。なお、それぞれの桜花流水模様の中央には花びらの黄色が配されることとなるが、黄色の大きさが小さく目立つ配色でないため、ほとんどの観察者は気が付かない。このように、潜像画像(4)の色彩配置をそのまま光輝性画像(5)の濃淡画像と重ね合わせて合成した場合でも、光輝性画像(5)の図柄の濃淡と潜像画像(4)の色彩の構成がおおむね一致する構成を「潜像画像(4)と光輝性画像(5)の間に色彩共有性がある」と定義する。これは、観察者が第一の有意情報を一瞥した場合にその色彩に違和感を抱かせないために必要となる構成である。
【0048】
また、第一の有意情報には、必ず潜像画像(4)の色彩が反映されるが、図柄のそれぞれの箇所において、色彩を強調して見せたいのか、逆に隠したいのかで光輝性画像(5)の構成を工夫することが望ましい。例えば、実施の形態の光輝性画像(5)では、桜花流水模様を面積率が低い(濃度が淡い)構成とし、背景を面積率が高い(濃度が濃い)、いわゆるネガの表現としている。光輝性画像(5)の面積率を低く形成した領域は、潜像画像(4)の色彩が相対的に強くなり、光輝性画像(5)の面積率を高く形成した領域は、潜像画像(4)の色彩が相対的に弱くなる。実施の形態では、背景の青色よりも桜花流水模様内部の色彩(ピンク色と白色)を強く色鮮やかに表現したい意図があったため、あえてネガの構成を用いて潜像画像(4)の色彩を強調している。その一方で、黄色は隠蔽したかったため、黄色の上に重なる光輝性画像(5)の構成を複雑で画像の濃淡が入り組んだ模様とすることで、拡散反射光下では黄色を容易に捉えられない構成とした。
【0049】
以上のように、光輝性画像(5)の構成は、潜像画像(4)の色彩を有効にいかし、又は隠蔽し、拡散反射光下で第一の有意情報を一べつした観察者がその色彩の配置に違和感を抱くことがないよう工夫を施すことが重要である。
【0050】
光輝性画像(5)を形成する場合、生産性の高いオフセット印刷で形成することが最も一般的であり、光輝性画像(5)に明暗フリップフロップ性を付与することができる。その他、凸版印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、凹版印刷等でも形成可能である。グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、凹版印刷等のインキ転移量の多い印刷方式で光輝性画像(5)を形成する場合、顔料粒子系が大きい特殊な機能性顔料を使用することができるため、この場合にはカラーフリップフロップ性を付与することも可能である。また、特にスクリーン印刷の場合には、インキの樹脂自体が高い光沢を有するため、赤や青等の一般的な着色顔料を微量添加することで光を強く反射する着色インキとすることができる。以上のように、光輝性画像(5)には、印刷方式に応じて様々な印刷方式で光輝性画像(5)を形成することができる。以上が、光輝性画像(5)の説明である。
【0051】
続いて、偽造防止印刷物(1)の層構成について説明する。本発明の偽造防止印刷物(1)の重ね合わせの形態は、
図4(a)に示すように潜像画像(4)の上に光輝性画像(5)が重なる場合と、
図4(b)に示すように光輝性画像(5)の上に潜像画像(4)が重なる場合とが存在する。特に、
図4(a)に示す、潜像画像(4)の上に光輝性画像(5)が重なる形態において、
図4(b)に示すように光輝性画像(5)の上に潜像画像(4)が重なる形態と同等以上のチェンジ効果が生じることは、本発明で新たに見出した効果である。
【0052】
光輝性画像(5)の上に、潜像画像(4)を重ね合わせる際に、画像のチェンジ効果を高めるためには光輝性画像(5)のインキ膜厚を厚く印刷することが望ましいが、厚みのあるインキで構成された光輝性画像(5)の上に潜像画像(4)を重ねた場合、光輝性画像(5)のインキが後刷りとなる潜像画像(4)を印刷する印刷ユニットのブランケットや版面に逆転移するという問題があった。また、これによって光輝性画像(5)のインキ膜厚が減少し、消失効果が低下するとともに、潜像画像(4)のトラッピング不良を引き起こし、潜像画像(4)の視認性が低下し、結果として画像のチェンジ効果が低下するという問題があった。これを抑制するためには、インキをUV硬化型のものに変更するとともに、光輝性画像(5)を印刷したあと、潜像画像(4)を印刷する直前にUV光を照射して光輝性画像(5)を乾燥させる胴間UV照射装置が必要であった。しかし、胴間UV照射装置を備えた印刷機は高価であるため、結局、一連の問題の発生を防ぐために、チェンジ効果が低下することを承知で光輝性画像(5)のインキ膜厚を薄く印刷し、一連の問題の発生を防ぐのが通例であった。
【0053】
本発明の実施の形態における潜像画像(4)の上に光輝性画像(5)が重なる形態であると、光輝性画像(5)を形成する光輝性インキを印刷機の最終ユニットに配置できるため、従来のような光輝性インキの逆転移や後刷りインキのトラッピング不良が生じる問題を解消でき、胴間UV照射装置のような特殊な設備が不要となることからより好ましい形態である。
【0054】
以上の構成で作製した偽造防止印刷物(1)の効果について
図5を用いて説明する。光源(6)と偽造防止印刷物(1)と観察者(7)を、
図5(a)に示すような位置関係とし、偽造防止印刷物(1)を拡散反射光が支配的な観察角度(印刷物に入射する光の入射角度と、観察者(7)と印刷物とを結ぶ反射角度が大きく異なる角度)で観察した場合には、印刷画像(3)の中に光輝性画像(5)の濃淡と潜像画像(4)の色彩が合成された第一の有意情報が視認される。また、拡散反射光下において、潜像画像(4)が表す第二の有意情報は、光輝性画像(5)の濃淡によって隠蔽されて観察者(7)には認識できない。
【0055】
また、偽造防止印刷物(1)を、
図5(b)に示すような、正反射光下が支配的な角度(印刷物に入射する光の角度と、観察者(7)と印刷物とを結ぶ反射角度が近い値である角度)の中で観察した場合には、第一の有意情報の濃淡が消失し、潜像画像(4)が表す第二の有意情報が視認される。以上のように、拡散反射光下と正反射光下で印刷画像(3)中に視認できる画像が第一の有意情報から第二の有意情報へとチェンジする。
【0056】
本発明の第一の有意情報は、光輝性画像(5)の濃淡と潜像画像(4)の色彩が合成された画像であるから、色相の異なる複数の色彩で表現された画像、いわゆるカラー画像であり、本発明の第二の有意情報も、潜像画像(4)が色相の異なる複数の色彩で表現された画像であるから、いわゆるカラー画像である。このように、本発明の偽造防止技術(1)は、カラー画像が別のカラー画像へとチェンジする効果を獲得した。以上が、本発明の効果の説明である。
【0057】
本発明の二つの画像がチェンジする基本的な原理は、以下のとおりである。
図5(a)に示す拡散反射光が支配的な観察角度において、光輝性画像(5)と潜像画像(4)はそれぞれ物体色を持つ画像であるから、観察者(7)には、光輝性画像(5)と潜像画像(4)が同時に視認される。このため、拡散反射光が支配的な観察角度において、観察者(7)には光輝性画像(5)と潜像画像(4)が合成された画像である、第一の有意情報が視認される。一方の正反射光下においては、光輝性画像(5)が光を反射することで光輝性画像(5)の明度が上昇し、光輝性画像(5)の濃淡が圧縮され、結果として観察者(7)は光輝性画像(5)を視認できなくなる。一方の潜像画像(4)は、通常の着色インキで構成されているため、正反射光下においても色彩の大きな変化は生じない。印刷画像(3)を形作る光輝性画像(5)と潜像画像(4)のうち、光輝性画像(5)が視認できなくなれば、相対的に潜像画像(4)を視認しやすくなる。拡散反射光下では、これまで画像の中の色彩しか認識できなかった潜像画像(4)が鮮明に認識できる状態となり、観察者(7)は印刷画像(3)の中に第二の有意情報を視認することが可能となる。以上が、本発明の効果発現の原理の説明である。
【0058】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した偽造防止印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例)
本発明の実施例について、実施の形態と同様に
図1から
図5までを用いて説明をする。まず、基材(2)として、印刷面の平滑性の高い白色のコート紙(エスプリコートFM:日本製紙製)を用いた。次に、レーザープリンター(IPSIO SP C820:RICOH製)で潜像画像(4)を印刷した。潜像画像(4)は、実施の形態と同様の色彩配置とし、ピンク色と白色の桜の花びらが青色の背景の中に配された構成とした。また、二つの桜の花びらの中心の五角形は黄色である。本実施例における異なる色彩で隣接する領域のうち、少なくとも一部の色差ΔEは6.5以上になるようにピンク色と白色の桜の花びらの色彩を調整した。背景の青色とピンクの花びらの色差ΔEは11.5であり、背景の青色と白色の花びらの色彩ΔEは7.2であった。また、黄色の五角形とピンクの花びらの色差ΔEは11.2であり、黄色の五角形と白色の花びらの色差ΔEは5.0であった。引き続き、その上に、
図2に示す光輝性画像(5)を銀インキ(ダイキュア R シルバー:DIC製)を用いてオフセットで印刷した。光輝性画像(5)の最大面積率は85%、最小面積率は40%とした。
【0060】
図5に本発明の偽造防止印刷物(1)の効果を記す。
図5(a)は、観察者(7)が拡散反射光下で偽造防止印刷物(1)を観察した場合に観察される画像であり、印刷画像(3)の中にはカラー画像の桜花流水模様が視認できた。桜花流水模様のうち左上の模様はピンク色で、右下の模様は白色で視認され、背景は青味がかった灰色と視認された。一方、
図5(b)に示すように、観察者(7)が正反射光下で偽造防止印刷物(1)を観察した場合、印刷画像(3)の中に二つの桜の花びらがカラーで視認できた。左上の桜の花びらはピンク色であり、右下の花びらは白色であり、それぞれの花びらの中央には黄色の花弁が配されていることが視認された。また、背景は青色で視認された。以上のように、拡散反射光下と正反射光下において、二つの異なるカラー画像がチェンジする効果が確認できた。
【符号の説明】
【0061】
1 偽造防止印刷物
2 基材
3 印刷画像
4 潜像画像
5 光輝性画像
6 光源
7 観察者