(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質の前駆体およびこれを用いて製造された正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220104BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220104BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220104BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2018527168
(86)(22)【出願日】2017-03-03
(86)【国際出願番号】 KR2017002340
(87)【国際公開番号】W WO2017150945
(87)【国際公開日】2017-09-08
【審査請求日】2018-05-25
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-01
(31)【優先権主張番号】10-2016-0026225
(32)【優先日】2016-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ミュン・ギ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】サン・ウォン・ウ
(72)【発明者】
【氏名】スン・ボム・チョ
(72)【発明者】
【氏名】サン・スン・チェ
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
【審判官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/061579(WO,A1)
【文献】特開2014-49410(JP,A)
【文献】特開2002-304992(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021791(WO,A1)
【文献】特開2012-254889(JP,A)
【文献】国際公開第2015/008863(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133063(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/049779(WO,A1)
【文献】特開2013-147416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の中心から表面の方向に放射状に配向された柱状の一次粒子が凝集した単層構造の二次粒子を含み、
前記二次粒子は、
シェルの形状を有しており、
前記一次粒子は、下記化学式1のNi-Co-Mnの複合金属水酸化物を含む、二次電池用正極活物質の前駆体:
[化学式1]
Ni
1-(x+y+z)Co
xM
yMn
z(OH)
2
前記化学式1中、
Mは、Al、Zr、Mg、Zn、Y、FeおよびTiからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素を含み、
x、y、zは、それぞれ、0<x<1、0≦y<1、0<z<1および0<x+y+z<1である。
【請求項2】
前記化学式1において、0<x+y+z<0.5である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質の前駆体。
【請求項3】
前記一次粒子は、粒子の中心を通過する長軸の長さを一次粒子の長さとしたときに、二次粒子の半径に対して0.3~1の長さ比を有する、請求項1に記載の二次電池用正極活物質の前駆体。
【請求項4】
前記一次粒子は、粒子の中心を通過する短軸の長さと前記短軸に垂直な長軸の長さとの比をアスペクト比としたときに、5~30の平均アスペクト比を有する、請求項1に記載の二次電池用正極活物質の前駆体。
【請求項5】
平均粒径(D
50)が7μm~20μmであり、BET比表面積が5.0m
2/g~30.0m
2/gである、請求項1に記載の二次電池用正極活物質の前駆体。
【請求項6】
粒子の中心から表面の方向に放射状に配向された柱状の一次粒子が凝集した単層構造の二次粒子を含み、
前記二次粒子は、
シェルの形状を有しており、
前記一次粒子は、下記化学式2のNi-Co-Mnのリチウム複合金属酸化物を含
む、
二次電池用正極活物質であって、
モノモーダル型粒度分布を示し、7μm~12μmの平均粒径および0.1m
2/g~0.3m
2/gのBET比表面積を
有する、二次電池用正極活物質:
[化学式2]
Li
α[Ni
1-(x+y+z)Co
xM
yMn
z]O
2
前記化学式2中、
Mは、Al、Zr、Mg、Zn、Y、FeおよびTiからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素を含み、
x、y、zは、それぞれ、0<x<1、0≦y<1、0<z<1および0<x+y+z<1であり、
αは1.0≦α≦1.5である。
【請求項7】
1.7g/cc~3.0g/ccのタップ密度を有する、請求項
6に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項
6から
7のいずれか1項に記載の正極活物質を含む、二次電池用正極。
【請求項9】
請求項
8に記載の正極を含む、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年3月4日付けの韓国特許出願第2016‐0026225号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、活物質の製造時に活物質内のリチウムイオンの移動性および活物質の構造安定性が増加し、電池に適用する際に初期容量特性、出力特性および長期寿命特性を向上させることができる二次電池用正極活物質の前駆体およびこれを用いて製造した正極活物質に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に関する技術の開発と需要の増加に伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。かかる二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が常用化し、広く使用されている。
【0004】
しかし、リチウム二次電池は、充放電を繰り返えすにつれて寿命が急速に減少する問題がある。特に、高温では、かかる問題がより深刻である。かかる理由は、電池内部の水分やその他の影響によって電解質が分解されたり活物質が劣化し、また電池の内部抵抗が増加することで生じる現象のためである。
【0005】
そのため、現在、活発に研究開発されて使用されているリチウム二次電池用正極活物質は、層状構造のLiCoO2である。LiCoO2は、寿命特性および充放電効率に優れており、最も多く使用されているが、構造的な安定性が低くて電池の高容量化技術に適用されるには限界がある。
【0006】
その代わりに使用するための正極活物質として、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFePO4、Li(NixCoyMnz)O2などの様々なリチウム遷移金属酸化物が開発された。このうち、LiNiO2の場合、高い放電容量の電池特性を示すという利点があるが、簡単な固相反応では合成が難しく、熱安定性およびサイクル特性が低いという問題がある。また、LiMnO2、またはLiMn2O4などのリチウムマンガン系酸化物は、熱安定性に優れ、安価であるという利点があるが、容量が小さく、高温特性が低いという問題がある。特に、LiMn2O4の場合、安価製品として一部が商品化しているが、Mn3+による構造変形(Jahn‐Teller distortion)のため、寿命特性が良好でない。また、LiFePO4は、安価で安全性に優れることから、現在、ハイブリッド自動車(hybrid electric vehicle、HEV)用として様々な研究が行われているが、低い伝導度のため他の分野への適用は難しい。
【0007】
かかる事情により、LiCoO2の代替正極活物質として最近最も脚光を浴びている物質は、過量のリチウムが含まれているリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、すなわち、Lia(NixCoyMnz)2-aO2(この際、前記a、x、y、zは、それぞれ独立した酸化物組成元素の原子分率であり、1<a≦1.5、0<x≦1、0<y≦1、0<z≦1、0<x+y+z≦1である)である。この材料は、LiCoO2よりも安価であり、高容量および高電圧に使用可能であるという利点があるが、レート特性(rate capability)および高温での寿命特性が良好でないという欠点がある。
【0008】
したがって、リチウム遷移金属酸化物内の組成の変化または結晶構造の制御によりリチウム二次電池の性能を向上させることができる正極活物質の製造方法が切実に求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする第1の技術的課題は、活物質の製造時に活物質内のリチウムイオンの移動性および活物質の構造安定性が増加し、電池に適用する際に初期容量特性、出力特性および長期寿命特性を向上させることができる二次電池用正極活物質の前駆体およびその製造方法を提供することである。
【0010】
本発明が解決しようとする第2の技術的課題は、前記前駆体を用いて製造され、リチウムの挿入および脱離が容易であり、表面抵抗および充放電中のクラックの発生が最小化し、電池に適用する際に抵抗を減少させ、出力および寿命特性を向上させることができる二次電池用正極活物質を提供することである。
【0011】
また、本発明が解決しようとする第3の技術的課題は、前記正極活物質を含む二次電池用正極、リチウム二次電池、電池モジュールおよび電池パックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明の一実施形態によると、粒子の中心から表面の方向に放射状に配向された柱(pillar)状の一次粒子が凝集した単層構造の二次粒子を含み、前記二次粒子はシェル(shell)の形状を有しており、前記一次粒子は、下記化学式1のNi‐Co‐Mnの複合金属水酸化物を含む二次電池用正極活物質の前駆体が提供される。
[化学式1]
Ni1-(x+y+z)CoxMyMnz(OH)2
前記化学式1中、Mは、Al、Zr、Mg、Zn、Y、FeおよびTiからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素を含み、x、y、zは、それぞれ、0<x<1、0≦y<1、0<z<1および0<x+y+z<1である。
【0013】
本発明の他の実施形態によると、ニッケル原料物質、コバルト原料物質およびマンガン原料物質を混合し、金属含有溶液を準備するステップと、前記金属含有溶液にアンモニウムカチオン含有錯体形成剤および塩基性化合物を投入し、pH10.50~12.00および温度50℃~70℃で共沈反応させるステップとを含み、前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤は、前記金属含有溶液の投入速度に対して0.5~1.5倍の速度で投入される、上述の二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
【0014】
本発明のさらに他の実施形態によると、粒子の中心から表面の方向に放射状に配向された柱状の一次粒子が凝集した単層構造の二次粒子を含み、前記二次粒子は、シェルの形状を有しており、前記一次粒子は、下記化学式2のニッケル(Ni)‐コバルト(Co)‐マンガン(Mn)のリチウム複合金属酸化物を含み、モノモーダル型粒度分布を示す二次電池用正極活物質が提供される。
[化学式2]
Liα[Ni1-(x+y+z)CoxMyMnz]O2
前記化学式2中、Mは、Al、Zr、Mg、Zn、Y、FeおよびTiからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素を含み、x、y、zは、それぞれ、0<x<1、0≦y<1、0<z<1および0<x+y+z<1であり、αは1.0≦α≦1.5である。
【0015】
さらに、本発明のさらに他の実施形態によると、上述の正極活物質を含む二次電池用正極、リチウム二次電池、電池モジュールおよび電池パックが提供される。
【0016】
その他、本発明における実施形態の具体的な事項は、以下の詳細な説明に含まれている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る二次電池用正極活物質の前駆体は、正極活物質の製造時にリチウムイオンの移動性および活物質の構造安定性が増加し、電池の初期容量特性、出力特性および長期寿命特性を向上させることができる。
【0018】
また、前記前駆体を用いて製造された二次電池用正極活物質は、リチウムの挿入および脱離が容易であり、表面抵抗および充放電中のクラックの発生が最小化し、電池に適用する際に抵抗を減少させることができ、出力および寿命特性を向上させることができる。
【0019】
本明細書に添付されている以下の図面は、本発明の好ましい実施形態を例示するものであり、上述の発明の内容とともに本発明の技術思想をより容易に理解させる役割をするものであって、本発明は、かかる図面に記載の事項にのみ限定して解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1で製造した正極活物質の前駆体に対する走査電子顕微鏡観察写真である。
【
図2a】実施例1で製造した正極活物質を様々な位置で観察した走査電子顕微鏡観察写真である。
【
図2b】実施例1で製造した正極活物質を様々な位置で観察した走査電子顕微鏡観察写真である。
【
図3】比較例1で製造した正極活物質の走査電子顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、本発明をより詳細に説明する。
【0022】
本明細書および請求の範囲に使用されている用語や単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0023】
従来、ニッケル‐コバルト‐マンガン系前駆体は、生産性を高めるための連続撹拌タンク反応器(Continuous Stirred Tank Reactor、CSTR)方式で、キレート剤であるアンモニアを少量使用しながら連続反応により生産する方法が主に用いられてきた。しかし、かかる方式では、モノモーダル(mono‐modal)型の粒度分布を有する活物質を得ることが難しく、また、製造される正極活物質は、岩(rock)構造の一次粒子が無秩序に配列されていることがほとんどである。かかる構造を有する正極活物質は、初期容量は高いものの、サイクルが続くほど抵抗が増加し、出力および寿命安定性が低下するという問題がある。
【0024】
これに対して、本発明では、既存の無秩序な配列の岩(rock)構造から離れて、優れた構造安定性を示す高強度および高密度のシェル(shell)構造を有するようにし、また、前記シェルをなす一次粒子が所定の方向性を有するようにし、且つ表面積を最小化することで、リチウムイオンの移動性を向上させることができ、また、かかる移動性を維持し続けることが可能である。
【0025】
すなわち、本発明の一実施形態による二次電池用正極活物質の前駆体は、
粒子の中心から表面の方向に放射状に配向された柱(pillar)状の一次粒子が凝集した単層構造の二次粒子を含み、
前記二次粒子は、シェル(shell)の形状を有しており、
前記一次粒子は、下記化学式1のニッケル(Ni)‐コバルト(Co)‐マンガン(Mn)の複合金属水酸化物を含む。
【0026】
[化学式1]
Ni1-(x+y+z)CoxMyMnz(OH)2
【0027】
前記化学式中、
Mは、Al、Zr、Mg、Zn、Y、FeおよびTiからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素を含み、
x、y、zは、それぞれ0<x<1、0≦y<1、0<z<1および0<x+y+z<1であり、より具体的には、0<x+y+z<0.5である。
【0028】
この際、前記化学式1の複合金属水酸化物の組成は、前駆体粒子全体の平均組成である。
【0029】
具体的には、本発明の一実施形態による前記前駆体は、一次粒子が凝集してなる二次粒子であり、前記一次粒子は、柱の形状を有しており、二次粒子の中心から表面の方向に放射状に配向されている。このように、柱状の一次粒子が所定の方向に配列されることで、リチウムの挿入と離脱、また粒子内の移動が容易になり得る。
【0030】
具体的には、前記一次粒子は、粒子の中心を通過する長軸の長さを一次粒子の長さとしたときに、二次粒子の半径に対して0.3~1の長さ比を有してもよく、より具体的には、2μm~8μmの平均長さを有してもよい。
【0031】
また、前記一次粒子は、粒子の中心を通過する短軸の長さと、前記短軸に垂直な長軸の長さとの比をアスペクト比(=長軸の長さ/短軸の長さ)としたときに、5~30の平均アスペクト比を有してもよく、より具体的には、10~12の平均アスペクト比を有してもよい。
【0032】
また、前記一次粒子は、上述の化学式1のNi‐Co‐Mnの複合金属水酸化物を含んでもよく、より具体的には、Ni、CoおよびMnを含む遷移金属の総含有量に対してニッケルを50原子%以上の過量で含むニッケルリッチ型複合金属水酸化物であってもよい。このようにニッケルを過量で含むことで、容量増加の効果が得られる。
【0033】
また、前記複合金属水酸化物において、Ni、CoおよびMnのうち少なくともいずれか一つの元素は、Al、Zr、Mg、Zn、Y、FeおよびTiからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素(M)で一部置換またはドープされてもよい。このように置換またはドープされた場合、正極活物質の製造時に構造安定性が向上し、より優れた寿命特性を示すことができる。前記元素(M)は、より具体的には、Al、Mg、Zr、Y、FeおよびTiからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素を含んでもよく、正極活物質の特性を低下させない範囲内で、yに相当する量、すなわち0≦y<1、より具体的には、0≦y≦0.05の含有量で含まれてもよい。
【0034】
一方、本発明の一実施形態による前駆体は、前記のような一次粒子が凝集した二次粒子であり、シェル状の単層構造体である。
【0035】
上述のような柱状の一次粒子が所定の配向性を有して単層構造のシェルを形成することで、従来の正極活物質に比べ一次粒子の個数が小さくてリチウムイオンの移動が容易であり、また、比表面積が小さくて抵抗が最小化し、サイクルが進むことに伴う劣化および割れ現象を改善することができる。
【0036】
また、前記二次粒子上の前駆体は、その製造時に製造条件の制御によりモノモーダル型の粒度分布を示すことができる。このように均一な粒子サイズを有することで、サイクルが続いても抵抗増加の恐れがなく、結果、改善した出力特性および寿命安定性を示すことができる。
【0037】
また前記前駆体は、平均粒径(D50)が7μm~20μmであり、BET比表面積が5.0m2/g~30.0m2/gであってもよい。
【0038】
前駆体の平均粒径(D50)が7μm未満の場合には、最終粒子である二次粒子のサイズに対するシェルをなす一次粒子のサイズが0.3~1.0の比になることが難しく、また、BET比表面積が30.0m2/gを超える場合には、柱構造の一次粒子が密集した構造を生成することが難しく、結果、正極材の特性改善効果があまりない可能性がある。また、平均粒径が20μmを超えるかまたはBET比表面積が5.0m2/g未満の場合には、前駆体自体の分散性低下および容量低下の恐れがある。本発明の一実施形態による前記前駆体は、その特異的な構造とともに平均粒径およびBET比表面積の条件を同時に満たすことで、より優れた容量および充放電特性を示すことができる。より具体的には、前記前駆体は、5μm~17μmの平均粒径(D50)および7.0m2/g~20.0m2/gのBET比表面積を有することができる。
【0039】
本発明において、前記前駆体の平均粒径(D50)は、粒径分布の50%基準での粒径として定義することができる。また、本発明において、前駆体の平均粒径(D50)は、走査電子顕微鏡(scanning electron microscopy、SEM)または電界放射型走査電子顕微鏡(field emission scanning electron microscopy、FE‐SEM)などを用いた電子顕微鏡観察、またはレーザ回折法(laser diffraction method)により測定することができる。例えば、レーザ回折法により測定する場合、前駆体粒子を分散媒の中に分散させた後、市販のレーザ回折粒度測定装置(例えば、Microtrac MT 3000)に導入し、約28kHzの超音波を出力60Wで照射した後、測定装置における粒径分布の50%基準での平均粒径(D50)を算出することができる。
【0040】
また、本発明において、前駆体の比表面積は、BET法により測定したものであり、具体的には、BEL Japan社製のBELSORP‐mini IIを用いて、液体窒素温度下(77K)での窒素ガス吸着量から算出することができる。
【0041】
前記のような組成および物性的特徴を有する前駆体は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質およびマンガン原料物質を混合し、金属含有溶液を準備するステップ(ステップ1)と、前記金属含有溶液に、アンモニウムカチオン含有錯体形成剤および塩基性化合物を投入し、pH10.50~12.00および温度50℃~70℃で共沈反応させるステップ(ステップ2)とを含む製造方法により製造され得る。この際、前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤は、前記金属含有溶液の投入速度に対して0.5~1.5倍の速度で投入され得る。
【0042】
以下、各ステップ別に詳細に説明すると、前記正極活物質の製造のための製造方法において、ステップ1は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質およびマンガン原料物質を用いて前駆体を準備するステップである。この際、前記前駆体が金属元素M(この際、Mは、Al、Zr、Mg、Zn、Y、Fe、およびTiからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素)をさらに含む場合、前記ステップ1での各金属元素の原料物質の混合時にM原料物質が添加されてもよい。
【0043】
具体的には、前記前駆体は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、マンガン原料物質、および選択的にM原料物質を混合して製造した金属含有溶液に、アンモニウムカチオン含有錯体形成剤および塩基性化合物を添加して共沈反応させることで製造され得る。この際、各原料物質の混合比は、最終製造される正極活物質での各金属元素の含有量条件を満たすようにする範囲内で適宜決定され得る。
【0044】
前記金属含有溶液は、それぞれ、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、マンガン原料物質、また、選択的にM含有原料物質を、溶媒、具体的には、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的には、アルコールなど)と水の混合物に添加して製造してもよく、またはそれぞれの金属含有原料物質を含む溶液、具体的には、水溶液を製造した後、これを混合して使用してもよい。
【0045】
上述のニッケル、コバルト、マンガンまたはM含有原料物質としては、これらの金属を含む酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などが使用されてもよく、水に溶解され得る限り特に限定されない。
【0046】
一例として、前記コバルト原料物質としては、Co(OH)2、CoOOH、Co(OCOCH3)2・4H2O、Co(NO3)2・6H2OまたはCo(SO4)2・7H2Oなどが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されてもよい。
【0047】
また、ニッケル原料物質としては、Ni(OH)2、NiO、NiOOH、NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O、NiC2O2・2H2O、Ni(NO3)2・6H2O、NiSO4、NiSO4・6H2O、脂肪酸ニケル塩またはニッケルハロゲン化物などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されてもよい。
【0048】
また、マンガン原料物質としては、Mn2O3、MnO2、およびMn3O4などのマンガン酸化物;MnCO3、Mn(NO3)2、MnSO4、酢酸マンガン、ジカルボン酸マンガン塩、クエン酸マンガンおよび脂肪酸マンガン塩といったマンガン塩;オキシ水酸化物、および塩化マンガンなどが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されてもよい。
【0049】
また、前記M原料物質としては、M元素を含む酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などが使用されてもよい。一例として、MがAlの場合、AlSO4、AlCl、AlNO3またはこれらのうち二つ以上の混合物が使用されてもよく、また、MがWの場合、酸化タングステンなどが使用されてもよい。前記M原料物質は、最終製造される正極活物質でのM元素の含有量条件を満たす範囲で使用されてもよい。
【0050】
次に、反応器内に前記で製造した金属含有溶液、アンモニウムカチオン含有錯体形成剤および塩基性化合物を投入し、共沈反応させる。
【0051】
この際、前記金属含有溶液は、前駆体粒子が0.1~0.5μm/hrの速度で成長するように250L反応器基準100~300ml/minの速度で7~20時間投入され、前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤は、前記金属含有溶液の投入速度に対して0.5~1.5倍の速度で投入され得る。上述の投入速度でそれぞれの物質を投入する場合、前駆体粒子の形成および成長速度が制御され、柱状の一次粒子の形成およびその凝集による単層構造のシェル状の二次粒子が形成され得る。
【0052】
前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤は、具体的には、NH4OH、(NH4)2SO4、NH4NO3、NH4Cl、CH3COONH4、またはNH4CO3などであってもよく、これらの1種単独または2種以上の混合物が使用されてもよい。また、前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤は、水溶液の形態で使用されてもよく、この際、溶媒としては、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的には、アルコールなど)と水の混合物が使用されてもよい。
【0053】
また、前記塩基性化合物は、NaOH、KOHまたはCa(OH)2などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物またはこれらの水和物であってもよく、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されてもよい。前記塩基性化合物も水溶液の形態で使用されてもよく、この際、溶媒としては、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的には、アルコールなど)と水の混合物が使用されてもよい。
【0054】
また、前記共沈反応は、原料物質の投入直後から反応開始30分までには、pH10.50~12.00、より具体的にはpH10.50~11.50の範囲で、以降、原料物質の連続投入による共沈反応中には、pH11.00~11.50、より具体的にはpH11.00~11.30を維持することができる。このように、共沈反応の間のpHが制御されることで、柱状の一次粒子およびその凝集による単層構造を有するシェル状の二次粒子の形成が可能となる。仮に、上述のpH条件から逸脱する場合には、前駆体の形態の変化および粒子割れが生じることがあり、また、前駆体の表面に金属イオンが溶出し、副反応によって各種の酸化物を形成する恐れがある。この際、前記pH値は、液体の温度25℃でのpH値を意味する。また、共沈反応の間に金属含有溶液の投入速度に応じて、粒子の球形度および粒子を形成する柱状のシェル構造が変化し得る。これは、前駆体状態でのシェル断面構造では区別が難しいが、焼成後、正極材のシェル断面構造では区別が可能である。したがって、より正確には、前駆体のシェル断面構造よりも正極材のシェル断面構造を有したときに、柱構造に近い正極材の特性が向上することができる。
【0055】
これにより、共沈反応時に上述のpH条件を満たすように、アンモニウムカチオン含有錯体形成剤と塩基性化合物が適宜投入され得、具体的には、前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤と塩基性化合物は、1:10~1:2のモル比で投入され得る。
【0056】
より具体的には、前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤は、前記金属含有溶液1モルに対して0.5~1のモル比になるようにする量で添加され得る。一般的に、キレート剤は、金属とは1:1のモル比以上で反応して錯体を形成するが、形成された錯体のうち塩基性水溶液と反応していない未反応の錯体が中間生成物に変化し、キレート剤として回収され再使用され得ることから、本発明では、通常に比べてキレート剤の使用量を低減することができる。結果、正極活物質の結晶性を高め、安定化することができる。
【0057】
また、前記共沈反応は、窒素などの不活性雰囲気下で、50℃~70℃の温度、より具体的には、60℃~70℃で行われ得る。また、前記反応時に反応速度を増加させるために、撹拌工程が選択的に行われてもよい。
【0058】
前記のような工程により、前駆体として、上述の構造を有する複合金属水酸化物の粒子が生成され、反応溶液の中に析出される。具体的には、前記前駆体は、前記化学式1の化合物を含んでもよく、柱の形状を有してもよい。このように、前駆体の形態を柱状に誘導することは、反応中に原料物質の濃度、温度、pHおよびアンモニウムカチオン含有錯体形成剤の投入速度の同時制御により可能となり、複合金属酸化物の粒子成長を誘導することができるpH領域帯の選択と投入速度調節により、柱のサイズおよび方向性を制御することができる。さらに具体的には、前記共沈反応は、pH11.00~12.00および温度60℃~70℃で、アンモニウムカチオン含有錯体形成剤を、金属含有溶液の投入速度に対して0.5~1.5倍、より具体的には、1.0~1.5倍の速度で投入する条件で行われ得る。
【0059】
また、沈殿された前駆体に対しては、通常の方法により分離した後、乾燥工程が選択的に行われてもよい。
【0060】
前記乾燥工程は、通常の乾燥方法により実施されてもよく、具体的には、100℃~200℃の温度範囲での加熱処理、熱風注入などの方法により15~30時間行われてもよい。
【0061】
一方、本発明のさらに他の実施形態によると、前記前駆体を用いて製造した正極活物質が提供される。
【0062】
前記正極活物質は、具体的には、前記前駆体をリチウム原料物質と混合した後、熱処理することで製造されるものであり、熱処理により前駆体の粒子サイズが減少する以外は、前駆体と類似した物性的特徴を有する。この際、前記正極活物質がM元素をさらに含む場合、前記リチウム原料物質との混合時に、M含有原料物質が選択的にさらに添加され得、M含有原料物質は、上述のとおりである。
【0063】
また、前記リチウム原料物質としては、リチウム含有炭酸塩(例えば、炭酸リチウムなど)、水和物(例えば、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)など)、水酸化物(例えば、水酸化リチウムなど)、硝酸塩(例えば、硝酸リチウム(LiNO3)など)、塩化物(例えば、塩化リチウム(LiCl)など)などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されてもよい。また、前記リチウム含有原料物質の使用量は、最終製造されるリチウム複合金属酸化物でのリチウムと、リチウム以外の金属元素(Me)の含有量に応じて決定され得、具体的には、リチウム原料物質内に含まれるリチウムと複合金属水酸化物内に含まれる金属元素(Me)とのモル比(リチウム/金属元素(Me)のモル比)が1.0以上、より具体的には1.0~1.5になるようにする量で使用され得る。
【0064】
また、前記熱処理工程は、700℃~950℃、あるいは750℃~900℃、あるいは750℃~870℃で行われ得る。
【0065】
熱処理工程時に温度を調節することで、一次粒子の形状とサイズ、アスペクト比および配向性を制御することができるが、上述の温度範囲で行われることで、上述の構造を有する正極活物質の製造が可能となる。また、前記熱処理工程は、2~3ステップの複数ステップで行われてもよい。
【0066】
また、前記熱処理工程は、空気雰囲気または酸素雰囲気(例えば、O2など)で可能であり、より具体的には、酸素分圧20体積%以上の酸素雰囲気下で行われ得る。また、前記熱処理工程は、上述の条件で5時間~48時間、あるいは10時間~20時間実施され得る。
【0067】
また、前記熱処理工程時に、低温で結晶を容易に成長させることができ、また、乾式混合時に、不均一反応を最小化することができるように、焼結補助剤が選択的にさらに添加されてもよい。
【0068】
前記焼結補助剤は、具体的には、ホウ酸、四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素およびホウ酸アンモニウムなどのホウ素化合物であってもよく、前駆体の全重量に対して0.2重量部~2重量部、より具体的には0.4重量部~1.4重量部の量で使用されてもよい。
【0069】
上述のように、本発明に係る前駆体を用いて製造された前記正極活物質は、粒子の中心から表面の方向に放射状に配向された柱状の一次粒子が凝集した単層構造の二次粒子を含み、
前記二次粒子は、シェルの形状を有しており、
前記一次粒子は、下記化学式2のニッケル(Ni)‐コバルト(Co)‐マンガン(Mn)のリチウム複合金属酸化物を含み、モノモーダル型粒度分布を示す。
【0070】
[化学式2]
Liα[Ni1-(x+y+z)CoxMyMnz]O2
【0071】
前記化学式2中、M、x、y、zは、前記で定義したとおりであり、αは、1.0≦α≦1.5である。
【0072】
この際、前記化学式2のリチウム複合金属酸化物の組成は、活物質粒子全体の平均組成である。
【0073】
また、前記化学式2のリチウム複合金属酸化物において、Liは、αに相当する含有量、すなわち1.0≦α≦1.5で含まれ得る。αが1.0未満の場合には、容量が低下する恐れがあり、1.5を超える場合には、焼成工程で粒子が焼結してしまい、活物質の製造が難しくなり得る。Li含有量の制御による正極活物質の容量特性の改善効果の顕著さおよび活物質の製造時の焼結性のバランスを考慮すると、前記Liは、より具体的には、1.0≦α≦1.15の含有量で含まれ得る。
【0074】
また、前記正極活物質において、前記一次粒子の長さは、二次粒子の半径の0.3~1であってもよい。より具体的には、前記正極活物質において、前記一次粒子の平均長さは、2~8μmであってもよい。この際、前記一次粒子の平均長さは、一次粒子の中心を通過する長軸の平均長さを意味する。
【0075】
また、前記正極活物質において、前記一次粒子は、粒子の中心を通過する短軸の長さと、前記短軸に垂直な長軸の長さとの比をアスペクト比としたときに、5~30の平均アスペクト比を有してもよく、より具体的には10~12の平均アスペクト比を有してもよい。
【0076】
また、本発明の一実施形態による前記正極活物質は、7μm~15μmの平均粒径(D50)および0.1m2/g~1.0m2/gのBET比表面積を有してもよい。
【0077】
正極活物質の平均粒径が7μm未満であるか、BET比表面積が1.0m2/gを超える場合には、電極内の抵抗が増加する恐れがあり、また、平均粒径が15μmを超えるか、BET比表面積が0.1m2/g未満の場合、正極活物質自体の分散性低下および容量低下の恐れがある。本発明の一実施形態による前記正極活物質は、その特異的な構造とともに平均粒径およびBET比表面積条件を同時に満たすことで、より優れた容量および充放電特性を示すことができる。より具体的には、前記正極活物質は、7μm~12μmの平均粒径(D50)および0.1m2/g~0.3m2/gのBET比表面積を有してもよい。
【0078】
また、本発明の一実施形態による前記正極活物質は、1.7g/cc以上、あるいは1.7g/cc~3.0g/ccのタップ密度を有してもよく、より具体的には、2.5g/cc~3.0g/ccのタップ密度を有してもよい。上述の範囲の高いタップ密度を有することで、高容量特性を示すことができる。
【0079】
本発明において、正極活物質のタップ密度は、通常のタップ密度測定装置を用いて測定することができ、具体的には、Logan社製のTap‐2Sを用いて測定することができる。
【0080】
本発明の一実施形態による正極活物質は、シェルをなす一次粒子が、所定の方向性を有し、且つ表面積が最小化することにより、リチウムイオンの移動性および活物質の構造安定性が増加し、電池に適用する際に初期容量特性、出力特性および長期寿命特性を向上させることができる。
【0081】
これにより、本発明のさらに他の実施形態によると、上述の正極活物質を含む正極およびリチウム二次電池を提供する。
【0082】
具体的には、前記正極は、正極集電体および前記正極集電体上に形成され、上述の正極活物質を含む正極活物質層を含む。
【0083】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが使用されてもよい。また、前記正極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有してもよく、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して、正極活物質の接着力を高めてもよい。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体または不織布体など、様々な形態で使用され得る。
【0084】
また、前記正極活物質層は、上述の正極活物質とともに、導電材およびバインダーを含んでもよい。
【0085】
この際、前記導電材は、電極に導電性を与えるために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されてもよい。前記導電材は、通常、正極活物質層の全重量に対して1~30重量%含まれ得る。
【0086】
また、前記バインダーは、正極活物質粒子同士の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化‐EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの様々な共重合体などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されてもよい。前記バインダーは、正極活物質層の全重量に対して1~30重量%で含まれ得る。
【0087】
前記正極は、上述の正極活物質を用いる以外は、通常の正極の製造方法により製造されてもよい。具体的には、上述の正極活物質および選択的に、バインダーおよび導電材を含む正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造されてもよい。この際、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類および含有量は、上述のとおりである。
【0088】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であってもよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されてもよい。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して、前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以降、正極製造のための塗布時に、優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0089】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0090】
本発明のさらに他の実施形態によると、前記正極を含む電気化学素子が提供される。前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的には、リチウム二次電池であってもよい。
【0091】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータと、電解質とを含み、前記正極は、上述のとおりである。また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器をシールするシール部材を選択的にさらに含んでもよい。
【0092】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含む。
【0093】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが使用されてもよい。また、前記負極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有してもよく、正極集電体と同様、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して、負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など、様々な形態で使用され得る。
【0094】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに選択的にバインダーおよび導電材を含む。前記負極活物質層は、一例として、負極集電体上に負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を含む負極形成用組成物を塗布して乾燥するか、または前記負極形成用組成物を別の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0095】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用されてもよい。具体例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金など、リチウムとの合金化が可能な金属質化合物;SiOx(0<x<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープおよび脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されてもよい。また、前記負極活物質としては、金属リチウム薄膜が使用されてもよい。また、炭素材料としては、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがいずれも使用可能である。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソカーボンマイクロビーズ(meso‐carbon microbeads)、メソフェーズピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0096】
また、前記バインダーおよび導電材は、前記正極において説明したものと同様のものであり得る。
【0097】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗で、電解液含湿能に優れたものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレンホモポリマー、プロピレンホモポリマー、エチレン/ブテンコポリマー、エチレン/ヘキセンコポリマーおよびエチレン/メタクリレートコポリマーなどのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用されてもよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが使用されてもよく、選択的には、単層または多層構造で使用されてもよい。
【0098】
また、本発明において使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0099】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含んでもよい。
【0100】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関わるイオンを移動可能にする媒質の役割を果たすものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは、C2~C20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含んでもよい)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されてもよい。この中でもカーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、底粘度の鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用したときに、電解液が優れた性能を示すことができる。
【0101】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2・LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2などが使用されてもよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有することから、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0102】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池の容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、亜リン酸トリエチル、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノールまたは塩化アルミニウム(III)などの添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。この際、前記添加剤は、電解質の全重量に対して0.1~5重量%含まれてもよい。
【0103】
前記のように、本発明に係る正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および容量維持率を安定して示すことから、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などにおいて有用である。
【0104】
これにより、本発明の他の一実施形態によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびこれを含む電池パックが提供される。
【0105】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイス電源として用いられ得る。
【0106】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施することができるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は、様々な相違する形態に実現されてもよく、ここで説明する実施例に限定されない。
【0107】
実施例1
250L共沈反応器に、反応器体積に対して30体積%の超純水を投入し、反応中に窒素雰囲気を維持するために窒素を注入した。この際、原料物質の投入中には50~55℃の温度を維持し、原料投入が終了した後、約60~70℃の温度に上昇させて共沈反応を行った。また、反応器内の温度が所定の反応温度に逹すると、初期アンモニアを超純水に対して約5%投入し、これにNaOH溶液を投入して初期pHを約12.00に組成した。また、原料物質として金属溶液は、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が60:20:20になるように溶解させたものを使用しており、金属溶液の投入速度は約250ml/minにし、キレート剤であるアンモニアは、金属溶液の投入速度に対して約1.1倍投入した。反応pHは、初期反応から反応開始30分まで約pH10.50~11.00を維持し、以降、原料を投入し続ける間に、反応pHは11.00~11.30を維持した。原料の投入は、約8時間にわたり行っており、反応器内の撹拌速度は300rpmを維持した。また、金属溶液の投入速度の調節により、
図1において前駆体破断面のA区間が形成される反応時間後、二次粒子のシェル部分であるB区間で粒子成長速度は、時間当り0.4μmに制御した。取得される前駆体の粒径は約11.5~12μmであり、平均粒径(D
50)は11.8μmであった。
【0108】
取得した前駆体をフィルタプレス(filter press)で苛性ソーダを用いて洗浄し、約130℃の温度のオーブンで一日間乾燥した後、リチウムカーボネート(Li2CO3)と1:1.03のモル比で混合し、空気雰囲気下で870℃で8時間熱処理して正極活物質を製造した。前記熱処理後、活物質の粒径は約11~11.5μmであり、平均粒径(D50)は11.2μmであった。
【0109】
比較例1
前記実施例1で反応温度を50~55℃に、反応pHを10.80~11.00に、また、投入されるアンモニアの速度を金属溶液の投入速度に対して約0.3倍にする以外は、前記実施例1と同じ方法により前駆体およびリチウム金属酸化物正極活物質を製造した。
【0110】
製造例1:リチウム二次電池の製造
前記実施例1で製造した正極活物質をそれぞれ用いて、リチウム二次電池を製造した。
【0111】
詳細には、前記実施例1で製造したそれぞれの正極活物質、カーボンブラック導電材およびPVdFバインダーを、N‐メチルピロリドン溶媒の中で重量比92.5:3.5:4の割合で混合して正極形成用組成物(粘度:5000mPa・s)を製造し、これをアルミニウム集電体に塗布した後、130℃で乾燥してから圧延し、正極を製造した。
【0112】
また、負極活物質として天然黒鉛、カーボンブラック導電材およびPVdFバインダーをN‐メチルピロリドン溶媒の中で重量比85:10:5の割合で混合して負極形成用組成物を製造し、これを銅集電体に塗布して負極を製造した。
【0113】
前記のように製造された正極と負極との間に多孔性ポリエチレンのセパレータを介在して電極組立体を製造し、前記電極組立体をケースの内部に位置付けた後、ケースの内部に電解液を注入してリチウム二次電池を製造した。この際、電解液は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート(EC/DMC/EMCの混合体積比=3/4/3)からなる有機溶媒に1.0M濃度のリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)を溶解させて製造した。
【0114】
実験例1:前駆体および正極活物質の観察
前記実施例1および比較例1で製造した正極活物質を走査電子顕微鏡でそれぞれ観察した。その結果を
図1~3に示した。
【0115】
図1は実施例1で製造した正極活物質の前駆体を走査電子顕微鏡で観察した写真であり、
図2aおよび
図2bは実施例1で製造した正極活物質を様々な位置で観察した走査電子顕微鏡観察写真である。また、
図3は比較例1で製造した正極活物質の走査電子顕微鏡観察写真である。
【0116】
観察結果、比較例1の場合、岩(rock)構造の一次粒子が無秩序に配列されている一方、実施例1が場合、柱状の、均一な単相を有する一次粒子が、粒子の中心から表面の方向に放射状に成長し、単層構造のシェルの形状を有する二次粒子を形成したことを確認することができる。
【0117】
実験例2:前駆体および正極活物質の分析
前記実施例1で製造した前駆体および正極活物質に対して、平均粒径、粒度分布、比表面積およびタップ密度を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0118】
(1)平均粒径(D50)および粒度分布:レーザ回折粒度測定装置(例えば、Microtrac MT 3000)に導入し、約28kHzの超音波を出力60Wで照射した後、粒度分布および測定装置における粒径分布の50%基準での平均粒径(D50)を算出した。
【0119】
(2)BET比表面積(m2/g):BEL Japan社製のBELSORP‐mino IIを用いて、液体窒素温度下(77K)での窒素ガス吸着量から算出した。
【0120】
(3)タップ密度(g/cc):タップ密度試験器(Logan社製のTap‐2S)を用いて測定した。
【0121】
【0122】
実験例3:正極活物質の評価
前記実施例1で製造した正極活物質を用いて製造したコインセル(Li金属の負極使用)を25℃で0.1Cの定電流(CC)4.25Vになるまで充電し、次に、4.25Vの定電圧(CV)で充電し、充電電流が0.05mAhになるまで1回目の充電を行った。次に、20分間放置した後、0.1Cの定電流で3.0Vになるまで放電し、1サイクル目の放電容量を測定した。次に、2Cと放電条件を異ならせて、充/放電容量、充放電効率およびレート特性をそれぞれ評価した。その結果を下記表2に示した。
【0123】
【0124】
実験結果、実施例1の正極活物質を含む電池が、比較例1の正極活物質を含む電池に比べてより優れた容量特性と充放電効率を示し、且つレート特性の面でも改善した効果を示すことを確認することができる。