(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】変性抗体測定試薬の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 17/00 20060101AFI20220207BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220207BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220207BHJP
G01N 33/566 20060101ALI20220207BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
C07K17/00 ZNA
G01N33/53 N
G01N33/543 501J
G01N33/566
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2017048921
(22)【出願日】2017-03-14
【審査請求日】2019-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2016073096
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[次世代医療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業]「国際基準に適合した次世代抗体医薬等の製造技術」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木津 奈都子
(72)【発明者】
【氏名】田中 亨
(72)【発明者】
【氏名】大江 正剛
(72)【発明者】
【氏名】本田 真也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】宮房 孝光
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/115229(WO,A1)
【文献】特表2009-534392(JP,A)
【文献】特開2002-187852(JP,A)
【文献】特表2010-522208(JP,A)
【文献】特開昭63-209598(JP,A)
【文献】国際公開第2008/054030(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103203(WO,A1)
【文献】国際公開第96/038479(WO,A1)
【文献】伊豆津健一,凍結乾燥によるタンパク質の構造変化と添加剤による安定化,低温生物工学会誌,2003年,49, 1,47-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性した抗体を測定するための試薬を製造する方法であって、
変性した抗体を認識するオリゴペプチドを結合した担体に、安定化剤を含む溶液を添加した後、添加後の前記担体及び前記溶液を凍結乾燥する工程を含み、
前記オリゴペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列
のみからなるオリゴペプチドであり、かつ前記安定化剤が0.01~0.05%(v/v)オクチルフェノールエトキシレート及び/又は0.01~0.05%(w/v)のセチルトリメチルアンモニウムブロミドである、方法。
【請求項2】
0.01~0.05%(v/v)のオクチルフェノールエトキシレート及び0.01~0.05%(w/v)のセチルトリメチルアンモニウムブロミドからなる群から選択される少なくとも1つの界面活性剤を含む溶液が添加されているオリゴペプチド結合担体を凍結乾燥してなり、かつ、前記オリゴペプチド結合担体が、
変性した抗体を認識する配列番号:1に記載のアミノ酸配列のみからなるオリゴペプチドが結合している担体である、変性した抗体の量を測定するための試薬。
【請求項3】
以下の(1)及び(2)に示す工程を含む、変性した抗体の量を測定する方法
(1)被検抗体を含む試料と、請求項2に記載の試薬と、被検抗体を認識する抗体に標識物質が結合している標識抗体とを接触させることにより、オリゴペプチド結合担体と変性した抗体と標識抗体とを含む複合体を形成させる工程
(2)(1)で形成した複合体中の標識物質を検出することにより、前記試料中の変性した抗体の量を測定する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中に含まれる変性した抗体の量を測定するための試薬を製造する方法に関する。特に本発明は、凍結乾燥形態の前記試薬を製造する方法に関する。また、本発明は当該方法によって製造される試薬にも関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品用途で用いる抗体は、通常当該抗体を発現可能な細胞を培養後、得られた培養液を遠心分離、濾過、カラムクロマトグラフィー等の精製操作を行ない、製造する。その際、得られた抗体の中には、製造時のストレス等により変性を受けることで生じる、当該抗体の凝集体が含まれている可能性がある。抗体凝集体は免疫原性を有するおそれがある(非特許文献1)ため、特に医薬品用途で用いる場合、当該凝集体を精度よく検出する必要がある。
【0003】
抗体凝集体を検出する方法として、サイズ排除クロマトグラフィーやフィールドフローフラクショネーションを用いた方法が知られている。しかしながら、これらの方法はタンパク質のサイズに基づき抗体凝集体を検出する方法であり、構造・性状に基づいた方法ではない。また抗体の高次構造の精密な解析手法として、X線結晶構造解析やNMRを用いた方法が知られているが、これらの方法は非常に手間のかかる方法であり、製造時の純度管理等、迅速・簡便な測定が求められる用途には不向きである
近年、ストレス等により変性を受けた抗体を、その分子量を問わず、特異的に認識する分子が報告されている(特許文献1~3並びに非特許文献2)。しかしながら、これら文献に記載の前記分子を用いた変性抗体測定法は表面プラズモン共鳴を利用した方法であり、当該方法を実施するにはBiacore(GEヘルスケア製)等の高価な専用装置を必要とする。
【0004】
また測定試薬を製造/利用するにあたり、当該測定試薬の保存安定性は高いほうがよい。試薬を安定的に保存する方法としては、一般に、凍結保存法、冷却保存法、凍結乾燥法等が用いられている。凍結保存法は試薬を氷点下(好ましくは-20℃以下)の温度で凍結し保存することでタンパク質の変性等による失活を防ぎ、長期保存を可能とする方法である。しかしながら凍結融解を繰り返すことでタンパク質が変性する(失活する)おそれがある。冷却保存法はグリセリン等の添加剤を試薬に加えた後、凍結保存法と同様、氷点下(好ましくは-20℃以下)で冷却し保存する方法である。しかしながら前記添加剤が、試薬に含まれる酵素活性に影響を与える例が知られている。また凍結保存法や冷却保存法は、常に試薬を氷点下で凍結又は冷却する必要があり、試薬を搬送する際や消費地で保存する際、大きな負担となる。
【0005】
一方、凍結乾燥法は、凍結乾燥後、冷蔵(4から10℃程度)で保存することで、安定かつ長期間試薬を保存できる方法であり、試薬安定化方法として、現在広く用いられる方法である。しかしながら、凍結及び乾燥する条件によっては、試薬中に含まれるタンパク質(抗原、抗体、酵素等)並びに核酸(DNA、RNA等)等が変性する(失活するおそれがある。そのため、凍結乾燥法により試薬安定化を図る際は、試薬中に含まれる成分や凍結乾燥条件(温度/時間)等を最適化する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2014/103203号
【文献】国際公開2014/115229号
【文献】国際公開2008/054030号
【非特許文献】
【0007】
【文献】S.K.Singh,J.Pharm.Sci.,100,354-387,2011
【文献】H.Watanabe等,J.Biol.Chem.,289,3394-3404,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、溶液中に含まれる変性した抗体を測定するための試薬を製造する方法であって、前記試薬の性能を保持したまま、冷蔵での長期保存が可能な試薬を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、凍結乾燥させる際、試薬に含ませる安定化剤について鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明の第一の態様は、
変性した抗体を測定するための試薬を製造する方法であって、
変性した抗体を認識するオリゴペプチドを結合した担体に、安定化剤を含む溶液を添加した後、添加後の前記担体及び前記溶液を凍結乾燥する工程を含み、
前記オリゴペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むオリゴペプチドであり、かつ前記安定化剤が非イオン界面活性剤及び/又は陽イオン界面活性剤である方法である。
【0011】
また本発明の第二の態様は、安定化剤が0.00005~0.02%(v/v)のポリソルベート20、0.005~0.1%(v/v)のオクチルフェノールエトキシレート及び0.005~0.1%(w/v)のセチルトリメチルアンモニウムブロミドからなる群から選択される少なくとも1つの界面活性剤である、前記第一の態様に記載の方法である。
【0012】
さらに本発明の第三の態様は、0.00005~0.02%(v/v)のポリソルベート20、0.005~0.1%(v/v)のオクチルフェノールエトキシレート及び0.005~0.1%(w/v)のセチルトリメチルアンモニウムブロミドからなる群から選択される少なくとも1つの界面活性剤を含む溶液が添加されているオリゴペプチド結合担体を凍結乾燥してなる、かつ、前記オリゴペプチド結合担体が、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含み、変性した抗体の量を測定するための試薬である。
【0013】
さらに本発明の第四の態様は、以下の(1)及び(2)に示す工程を含む、変性した抗体の量を測定する方法である。
(1)被検抗体を含む試料と、前記第三の態様に記載の試薬と、被検抗体を認識する抗体に標識物質が結合している標識抗体とを接触させることにより、オリゴペプチド結合担体と変性した抗体と標識抗体とを含む複合体を形成させる工程
(2)(1)で形成した複合体中の標識物質を検出することにより、前記試料中の変性した抗体の量を測定する工程。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、変性した抗体を認識するオリゴペプチドを結合した担体に安定化剤を含む試薬を添加後、前記溶液を凍結乾燥することで、変性抗体測定試薬を製造する際、変性した抗体を認識するオリゴペプチドとして配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むオリゴペプチドを用い、かつ安定化剤が非イオン界面活性剤及び/又は陽イオン界面活性剤であることを特徴としている。本発明により、凍結乾燥前(液体試薬)における試薬性能は保持しつつ、冷蔵での長期保存が可能な試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】安定化剤を添加せず、凍結乾燥処理した場合の、実施例1の結果を示した図である。
【
図1B】安定化剤として0.005%(v/v)Tween 20を添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例1の結果を示した図である。
【
図1C】安定化剤として0.1mol/Lスクロースを添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例1の結果を示した図である。
【
図1D】安定化剤として0.01mol/Lスクロースを添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例1の結果を示した図である。
【
図1E】安定化剤として1%(w/v)コラーゲンペプチドを添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例1の結果を示した図である。
【
図1F】安定化剤として0.1%(w/v)コラーゲンペプチドを添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例1の結果を示した図である。
【
図1G】安定化剤として10mmol/Lヒスチジンを添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例1の結果を示した図である。
【
図1H】安定化剤として1mmol/Lヒスチジンを添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例1の結果を示した図である。
【
図1I】安定化剤を添加せず、凍結乾燥処理しなかった場合の、実施例1の結果を示した図である。
【
図2A】安定化剤として0.0001%(v/v)Tween 20を添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【
図2B】安定化剤として0.001%(v/v)Tween 20を添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【
図2C】安定化剤として0.01%(v/v)Tween 20を添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【
図2D】安定化剤として0.01%(v/v)Triton X-100を添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【
図2E】安定化剤として0.05%(v/v)Triton X-100を添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【
図2F】安定化剤として0.01%(w/v)セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【
図2G】安定化剤として0.05%(w/v)CTABを添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【
図2H】安定化剤として0.1%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【
図2I】安定化剤として0.5%(w/v)SDSを添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【
図2J】安定化剤として0.1%(w/v)CHAPS(3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonate)を添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【
図2K】安定化剤として0.5%(w/v)CHAPSを添加し、凍結乾燥処理した場合の、実施例2の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
<変性した抗体を測定するための試薬を製造する方法>
本発明の変性した抗体の量を測定するための試薬を製造する方法は、変性した抗体を認識するオリゴペプチドを結合した担体に、安定化剤を含む溶液を添加した後、添加後の前記担体及び前記溶液を凍結乾燥する工程を含み、前記オリゴペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むオリゴペプチドであり、かつ前記安定化剤が非イオン界面活性剤及び/又は陽イオン界面活性剤である、方法である。
【0018】
本発明において、変性した抗体とは、酸、アルカリ、加熱、凍結融解、撹拌等によるストレスで抗体の全構造又は一部構造が変化したものをいう。なお変性した抗体は、Fc領域を有する限り、その種類について特に限定はなく、例えば、免疫グロブリンのアイソタイプ(IgG、IgA、IgD、IgE、IgM等)及びそれらのアイソタイプのサブクラスが挙げられ、より具体的に、ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のクラスが挙げられる。また、変性した抗体の由来について特に限定はなく、例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ等に由来する抗体が挙げられ、特にヒトに由来する抗体が好ましい。さらに、変性した抗体は、このような単一の動物種に由来する抗体に限らず、異なる動物種に由来する抗体の断片が結合されてなる抗体であってもよい。かかる抗体としては、例えば、キメラ抗体(ヒト抗体のFc領域と、他の動物に由来する抗体(例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体)に由来する配列(可変領域、CDR等)を含むキメラ抗体等)、ヒト化抗体であってもよい。また、本発明にかかる抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。
【0019】
本発明において、変性した抗体を認識するオリゴペプチドは、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むオリゴペプチドである。かかるオリゴペプチドとして、配列番号:1に記載のアミノ酸配列のみからなるオリゴペプチドを用いてもよいし、前記オリゴペプチドのN末端側又はC末端側に後述の担体と結合させるためのリンカーペプチドといった数アミノ酸残基から数十アミノ残基からなるオリゴペプチドを付加したオリゴペプチドを用いてもよい。本発明にかかるオリゴペプチドの長さとしては、変性した抗体を認識する限り、特に制限はないが、通常50~25アミノ酸であり、好ましくは40~25アミノ酸であり、より好ましくは30~25アミノ酸であり、特に好ましくは25アミノ酸(配列番号;1に記載のアミノ酸配列のみ)である。また、オリゴペプチドは、通常天然アミノ酸がペプチド結合により連結されて構成されるものであるが、本発明において非天然型のアミノ酸を含むものであってもよく、また修飾が施されているものであってもよい。
【0020】
本発明において、前記オリゴペプチドを固定化させる担体に特に限定はなく、例えば、プレート(複数の凹部が形成されたプレート(ウェルプレート、マイクロプレート等)も含む)、ビーズ、ゲル等が挙げられる。また、担体の材料としては、プラスチック(例えば、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル等のビニル系重合体、ポリメチル(メタ)アクリレート等のアクリル系樹脂、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂)、金属(金、銀、アルミ、ステンレス等)、酸化物(ガラス、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、インジウムスズ酸化物(ITO)等)、寒天等が挙げられる。より具体的には、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法で用いられるウェルプレートや、ガラスビーズ、磁性ビーズ、金属粒子、シリカビーズ、ジルコニアビーズ、セルロースゲル、アガロースゲル、TOYOPEARL(登録商標、東ソー株式会社製)等のポリマーゲルが挙げられる。
【0021】
本発明で用いるオリゴペプチドを結合した担体(オリゴペプチド結合担体)は、前記オリゴペプチドを前述した担体に化学的又は物理的に固定化することで得られる。本発明にかかるオリゴペプチドの前記担体への固定化方法としては特に制限はなく、例えば、物理吸着、静電的相互作用、疎水的相互作用、架橋剤等を利用する方法が挙げられる。本発明にかかるオリゴペプチドの固定化時の濃度は、担体の材質、形状、固定化の方法等に合わせて適宜調整すればよく、例えば、5~50μg/mLの濃度が挙げられ、好ましくは10~40μg/mLである。また、その際、オリゴペプチド固定化後の担体に対しブロッキング剤によるブロッキング操作を行なうと、非特異吸着が抑えられ、測定時のバックグラウンドも抑えられるため、好ましい。ブロッキング剤は、ELISA法等、抗原抗体反応を利用した測定の分野で通常用いられる剤の中から適宜選択すればよく、好ましいブロッキング剤の一態様として、コラーゲンペプチドが挙げられる。
【0022】
本発明において、上述のオリゴペプチド結合担体に添加する溶液に含まれる安定化剤は、非イオン界面活性剤及び/又は陽イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤や陽イオン界面活性剤は、抗原抗体反応を利用した測定試薬において通常用いられる試薬の中から適宜選択すればよい。非イオン界面活性剤の一例としては、ポリソルベート20(商品名:Tween 20)、ポリソルベート80(商品名:Tween 80)、Triton X-100(商品名)やTriton X-114(商品名)等のオクチルフェノールエトキシレート、Brij 58(商品名)、Brij 35(商品名)、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、n-オクチル-β-D-チオグルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド、n-ドデシル-α-D-マルトピラノシド、n-ドデシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシド、スクロースモノドデカン酸、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド、n-トリデシル-β-D-マルトピラノシドが挙げられる。また陽イオン界面活性剤の一例としては、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、セチルジメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミドが挙げられる。界面活性剤の濃度も、臨界ミセル濃度及び抗原抗体反応を利用した測定試薬で通常用いられる濃度範囲を考慮し、適宜決定すればよい。一例として、安定化剤として非イオン界面活性剤であるポリソルベート20を用いる場合、0.00005%(w/v)から0.02%(w/v)までの間とすればよく、0.0001%(w/v)から0.01%(w/v)までの間とすると好ましく、0.0005%(w/v)から0.008%(w/v)までの間とするとより好ましい。また安定化剤として非イオン界面活性剤であるオクチルフェノールエトキシレートを用いる場合、0.005%(v/v)から0.1%(v/v)までの間とすると好ましく、0.01%(v/v)から0.05%(v/v)までの間とするとより好ましい。さらに安定化剤として陽イオン界面活性剤であるCTABを用いる場合、0.005%(w/v)から0.1%(w/v)までの間とすればよく、0.01%(w/v)から0.05%(w/v)までの間とすると好ましい。
【0023】
本発明で用いる安定化剤は、非イオン界面活性剤及び陽イオン界面活性剤のうち、少なくとも1つ含んでいればよく、非イオン界面活性剤のみを1つ又は複数含んでもよいし、陽イオン界面活性剤のみを1つ又は複数含んでもよいし、1つ又は複数の非イオン界面活性剤と1つ又は複数の非イオン界面活性剤とを組み合わせてもよい。
【0024】
また、本発明で用いる安定化剤を溶解させるための液体としては、特に制限はなく、緩衝液(例えば、pH6~8の緩衝液(リン酸緩衝食塩水(PBS))等)が挙げられる。
【0025】
そして、本発明においては、かかる安定化剤を含む溶液を、上述のオリゴヌクレオチド結合担体に添加した後、当該溶液を凍結乾燥することで、変性抗体測定試薬を製造することができる。
【0026】
安定化剤を含む溶液の添加は、用いる担体の種類、形態に応じ、適宜公知の手法を用いて行えばよい。また、凍結乾燥の条件としては、前記溶液の凍結、及びそれに続く乾燥に適した温度での水の昇華を行える条件であればよく、変性抗体測定試薬の組成、担体の種類及び大きさ等に応じて変化し得るが、通常、凍結の際の温度は、-10℃以下の温度(例えば-50℃~-10℃、好ましくは-40℃~-20℃)である。凍結時間は、通常30分以上(例えば0.5~48時間、好ましくは1~24時間、さらに好ましくは2~10時間)である。なお、凍結を多段階で行う場合、各段階において、凍結温度及び凍結時間は、それぞれ、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、その後の乾燥において、乾燥温度は、凍結温度と同じ温度であってもよく、凍結温度より高めの温度(例えば、-10℃~40℃、好ましくは-20℃~25℃)である。また、乾燥時間は、例えば、0.5~72時間(好ましくは1~72時間、より好ましくは2~48時間)が挙げられる。なお、凍結後の乾燥を多段階で行う場合、各段階において、乾燥温度及び乾燥時間は、それぞれ、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、凍結乾燥において、乾燥圧力は、通常300mmTorr以下であり、好ましくは200mmTorr以下、より好ましくは100mmTorr以下(例えば、50~100mmTorr)である。本発明における凍結乾燥の条件のより具体的な一例として、-40℃で30分以上放置することで凍結させた後、真空条件(100mmtorr以下)で-20℃で2時間放置することで1次乾燥し、25℃で2時間放置することで2次乾燥することが挙げられる。
【0027】
また、担体がウェルプレート等のプレートの場合は、該プレートに設けた保持部(ウェル等)に前記オリゴペプチドを結合させた後、当該保持部に安定化剤を含む溶液を添加し、前記溶液をプレートごと凍結乾燥(条件:一例として、-40℃で30分以上放置することで凍結させた後、真空条件(100mmtorr以下)で-20℃で2時間放置することで1次乾燥し、25℃で2時間放置することで2次乾燥する)することで、本発明の変性抗体測定試薬を製造することができる。また担体がビーズの場合は、該ビーズに前記オリゴペプチドを結合させた後、得られたオリゴペプチド結合ビーズと安定化剤を含む溶液とを一つの容器に収容し、前記溶液を容器ごと凍結乾燥(条件:一例として、-40℃で30分以上放置することで凍結させた後、真空条件(100mmtorr以下)で-20℃で2時間放置することで1次乾燥し、25℃で2時間放置することで2次乾燥する)することで、本発明の変性抗体測定試薬を製造することができる。
【0028】
<変性した抗体の量を測定する方法>
上述の通り、本発明の方法によれば、その性能を保持したまま、冷蔵での長期保存が可能な試薬を提供することが可能となる。そして、その試薬は、変性した抗体の量を測定することに好適に用いられる。したがって、本発明の変性した抗体の量を測定する方法は、以下の(1)及び(2)に示す工程を含む方法である。
(1)被検抗体を含む試料と、本発明の変性した抗体の量を測定するための試薬と、被検抗体を認識する抗体に標識物質が結合している標識抗体とを接触させることにより、オリゴペプチド結合担体と変性した抗体と標識抗体とを含む複合体を形成させる工程
(2)(1)で形成した複合体中の標識物質を検出することにより、前記試料中の変性した抗体の量を測定する工程。
【0029】
本発明において、試料とは、変性、未変性の如何を問わず、上述の抗体を含むものであれば特に制限はなく、通常、抗体を含む溶液であり、特にヒト抗体を含むものが好ましい。また、溶液としても、変性した抗体と上記オリゴペプチドとの結合を阻害しない限り、特に制限はない。
【0030】
本発明において、被検抗体を認識する抗体としては、上記変性した抗体を含む被検抗体を認識し得る抗体であればよく、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM、IgA、IgY等のいずれのアイソタイプであってもよい。また、抗体の形態についても特に制限はなく、被検抗体を認識する抗体は、その機能的断片であってもよい。しかしながら、被検抗体を認識する抗体が変性していたとしても、該変性した認識抗体は前記オリゴペプチド結合担体に結合し難く、かつ、披検抗体中の変性した抗体のみが前記オリゴペプチド結合担体に結合し易くなるという観点から、被検抗体を認識する抗体は、Fc領域を含まない抗体の機能的断片が好ましい。かかるFc領域を含まない抗体の機能的断片としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、ダイアボディーが挙げられる。また、被検抗体を認識する抗体と変性した抗体を含む被検抗体とは、異なる種由来であることが好ましく、例えば、変性した抗体を含む被検抗体がヒト由来の抗体である場合には、被検抗体を認識する抗体は、非ヒト動物由来の抗体(例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体)が挙げられる。
【0031】
本発明で用いる被検抗体を認識する抗体に結合する標識物質は、抗原抗体反応を利用した測定の分野で通常用いられる物質の中から適宜選択すればよく、一例として、フルオレセイン等の蛍光物質や、アルカリホスファターゼ等の酵素、放射性物質が挙げられる。
【0032】
また、被検抗体を認識する抗体と標識物質との結合は、後述の当該物質の検出における簡便さから、通常リンカー(例えば、NHSエステル、マレイミド)等を介した架橋反応により行われるが、標識物質を結合させた二次抗体を用いて行うこともできる。ここで、二次抗体とは、被検抗体を認識する抗体に特異的な結合性を示す抗体である。そして、この特異的な結合性を利用することにより、当該二次抗体を介し、被検抗体を認識する抗体に標識物質を間接的に結合させることができる。また、この標識物質が結合された二次抗体を用いる場合には、オリゴペプチド結合担体及び変性した抗体と複合体を形成した後に、当該二次抗体を介して抗体を認識する抗体に標識物質を結合させてもよい。
【0033】
本発明において、本発明の変性した抗体の量を測定するための試薬と被検抗体を含む試料と標識抗体とを接触させる際の条件としては、上述の前記試薬と当該試料中の変性した抗体とが結合できる条件であり、また被検抗体と標識抗体とが結合できる条件であればよく、通常、0~45℃の温度下での接触であり、好ましくは0~40℃の温度下での接触であり、より好ましくは4~37℃の温度下であり、さらに好ましくは25℃~37℃の温度下での接触である。また、接触させる時間としても特に制限はなく、前記試薬中のオリゴペプチド結合担体の種類、試料中の抗体及び標識抗体の濃度、標識物質の種類等により、適宜調整され得るが、通常5分~6時間であり、好ましくは10分~2時間、より好ましくは20分~1時間である。
【0034】
また、この接触後、前記試薬に結合できなかった抗体、被検抗体に結合できなかった標識抗体等を除去するため、本発明の方法においては洗浄工程を設けてもよい。その洗浄に用いられる洗浄液としては、前記試薬と変性した抗体との結合及び被検抗体と標識抗体との結合を阻害せず、担体等に非特異的に吸着した抗体を洗浄できるものであればよく、例えば、緩衝液(pH6~8)、より具体的には、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液が挙げられる。また、これらの緩衝液においては、塩類、界面活性化剤、タンパク質、糖、双性イオン化合物等を適宜含有していてもよい。また、市販の免疫反応用試薬キットに含まれる洗浄液(例えば、Eテスト「TOSOH」II洗浄液、東ソー株式会社製)も好適に用いられる。
【0035】
なお、本発明にかかる工程(1)に関し、上述のとおり、本発明の変性した抗体の量を測定するための試薬と被検抗体を含む試料と標識抗体とを一遍に接触させることにより、前記試薬と変性した抗体と標識抗体とを含む複合体を形成させる態様について説明したが、本発明にかかる工程(1)は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記試薬と被検抗体を含む試料とを先ず接触させることにより、前記試薬と変性した抗体とを含む複合体を形成し、次いで標識抗体を更に接触させることにより、前記試薬と変性した抗体と標識抗体とを含む複合体を形成してもよい。また、本発明にかかる工程(1)においては、被検抗体を含む試料と標識抗体とを先ず接触させることにより、変性した抗体と標識抗体とを含む複合体を形成し、次いで前記試薬を更に接触させることにより、前記試薬と変性した抗体と標識抗体とを含む複合体を形成してもよい。なお、前記各物質の接触条件は上述のとおりである。また、前記各物質の接触後においても、前記試薬に結合できなかった抗体、被検抗体に結合できなかった標識抗体等を除去するため、上述の洗浄工程を適宜設けてもよい。また、このような実施形態において、変性した抗体の検出感度がより向上し易いという観点から、本発明にかかる工程(1)は、前記試薬と被検抗体を含む試料とを先ず接触させ、次いで標識抗体と接触させる工程であることが好ましい。
【0036】
次に、本発明の方法の工程(2)においては、上述の工程(1)における接触を経て形成された複合体中の標識物質を検出することにより、試料中の変性した抗体の量を測定する。
【0037】
本発明において標識物質の検出とは、標識物質に由来した信号の検出を意味し、その検出は、当該技術分野の公知の方法にしたがって行うことができる。例えば、標識物質として蛍光物質を用いる場合には、それが発する蛍光をプレートリーダー等を用いて検出及び定量することができる。また、標識物質として酵素を用いる場合には、当該酵素の作用によって分解して発色、発光等する基質を添加することにより、その発色、発光等をプレートリーダー等を用いて検出及び定量することができる。また、標識物質として放射性物質を用いる場合には、当該物質の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により検出及び定量することができる。
【0038】
本発明においては、後述の実施例に示す通り、このようにして検出される標識物質に由来した信号の強度(吸光度、蛍光強度等)と、試料中の変性した抗体の量とは、高い相関性を示す。そのため、濃度既知の変性した抗体を含む標準試料を用いて本発明の方法を実施し、被検抗体を含む試料を用いて得られる測定値との間の相関データを取得し、当該相関データに基づき当該被検試料に存在する変性した抗体の量を測定(定量)することができる。なお相関データとは、例えば検量線である。
【0039】
<変性した抗体の量を測定するための試薬>
上述の通り、本発明において、変性した抗体を認識するオリゴペプチドとして配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むオリゴペプチドを用い、かつ安定化剤として非イオン界面活性剤及び/又は陽イオン界面活性剤を含む溶液を用いることにより、凍結乾燥前(液体試薬)における試薬性能は保持しつつ、冷蔵での長期保存が可能な凍結乾燥形態の試薬を得ることができる。
【0040】
したがって、本発明の変性した抗体の量を測定するための試薬は、
非イオン界面活性剤及び/又は陽イオン界面活性剤を含む溶液が添加されているオリゴペプチド結合担体を凍結乾燥してなり、かつ、前記オリゴペプチド結合担体が、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含み、変性した抗体を認識するオリゴペプチドが結合している担体である、変性した抗体の量を測定するための試薬である。
【0041】
また、その好適な態様として、
0.00005~0.02%(v/v)のポリソルベート20、0.005~0.1%(v/v)のオクチルフェノールエトキシレート及び0.005~0.1%(w/v)のセチルトリメチルアンモニウムブロミドからなる群から選択される少なくとも1つの界面活性剤を含む溶液が添加されているオリゴペプチド結合担体を凍結乾燥してなり、かつ、前記オリゴペプチド結合担体が、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含み、変性した抗体を認識するオリゴペプチドが結合している担体である、変性した抗体の量を測定するための試薬が、挙げられる。
【0042】
さらに、本発明においては、当該試薬と、上記抗体を認識する抗体に標識物質が結合している標識抗体とを含む、変性した抗体の量を測定するためのキットという態様もとり得る。本発明のキットは、これら以外に、上述の、被検抗体を溶解又は希釈させるための液、ブロッキング剤、洗浄液、酵素の作用によって分解して発色、発光等する基質、その発色等を停止するための停止液、濃度既知の変性した抗体を含む標準試料等を含むものであってもよい。さらに、本発明の試薬及びキットには、本発明の方法を実施する際の、前記オリゴペプチド結合担体等の使用説明書を含めることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0044】
(実施例1) 安定化剤の検討(その1)
変性抗体試薬の凍結乾燥体を製造する際、添加する、安定化剤の検討を以下の方法で行なった。
(1)本実施例においては、本発明にかかるヒト抗体として抗CD20抗体を用いた。そして、10mg/mLの抗CD20抗体溶液をリン酸緩衝液(pH7.4)で1mg/mLに希釈したものを100mmol/L グリシン緩衝液(pH2.0)で一晩透析することで、変性したヒト抗体溶液を調製した。
(2)下記に示す方法で、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含み、変性したヒト抗体を認識するオリゴペプチド(以下、「2A1」とも称する)の磁性ビーズ(フェライトを練り込んだエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)による粒子)への固定化を行った。
(2-1)4%(v/v)グルタルアルデヒドを磁性ビーズへ添加し、37℃で2時間撹拌後、2A1を添加し、37℃で2時間放置することで、磁性ビーズへ固定化した。
(2-2)1%(w/v)コラーゲンペプチド(魚鱗又は魚皮由来のコラーゲン又はゼラチンを加水分解して得られた、重量平均分子量:3000~5000のコラーゲンペプチド、製品名:イクオスHDL、新田ゼラチン株式会社製)を含む炭酸緩衝液(pH9.6)を300μl/wellで添加し、37℃で2時間撹拌することで、ブロッキング処理を行なった。
(3)全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-600II(東ソー株式会社製)用測定容器に、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチド(以下、2A1と表記)を結合した磁性ビーズ及び下記(A)から(H)に示すいずれかの溶液を添加後、当該測定容器を凍結乾燥機(VirTis Genesis 25XL、SP Scientific製)を用い、凍結乾燥させることで、凍結乾燥試薬を製造した。凍結乾燥の条件としては、-40℃で30分以上放置することで凍結した後、真空条件(100mmtorr以下)で-20℃で2時間放置することで1次乾燥し、25℃で2時間放置することで2次乾燥することで行った。
【0045】
なお比較対象として、AIA-600II用測定容器に2A1を結合した磁性ビーズのみを添加した試薬(凍結乾燥なし、試薬(I))も製造した。
(A)リン酸緩衝液(pH7.4)(添加剤なし)
(B)0.005%(v/v)Tween 20(商品名)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(C)0.1mol/Lスクロースを含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(D)0.01mol/Lスクロースを含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(E)1%(w/v)コラーゲンペプチドを含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(F)0.1%(w/v)コラーゲンペプチドを含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(G)10mmol/Lヒスチジンを含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(H)1mmol/Lヒスチジンを含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(4)(3)で作製した試薬に(1)で調製した変性ヒト抗体溶液を添加し、37℃で20分間撹拌した。
(5)Eテスト「TOSOH」II洗浄液(東ソー株式会社製)で洗浄することで遊離成分を除去後、アルカリ性ホスファターゼ標識ヤギ由来抗ヒトIgG F(ab’)2(ジャクソンイムノリサーチ製、カタログ番号:109-056-097)を含む溶液を添加し、37℃で20分間撹拌した。
(6)Eテスト「TOSOH」II洗浄液(東ソー株式会社製)で洗浄することで余剰の標識ヒト抗体を除去後、基質である4-メチルウンベリフェリルりん酸を添加し、酵素反応により生じる蛍光物質(4-メチルウンベリフェロン)の生成速度(レート値)を全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-600II(東ソー株式会社製)で測定することで、磁性ビーズに結合した変性ヒト抗体量を測定した。
【0046】
種々の濃度の変性ヒト抗体溶液を添加したときのレート値測定結果を
図1A~Hに示す。安定化剤としてTween 20を0.005%(v/v)添加したとき(
図1B)は、凍結乾燥処理しない試薬(
図1I)と同等の検出感度を有し、検量線の直線性も良好であった(R
2=0.997)。一方、安定化剤を含まない、または非イオン界面活性剤以外の安定化剤を含んだ溶液を添加し、凍結乾燥させると検出感度は低下した(
図1A及びC~H)。このことから、変性ヒト抗体試薬の凍結乾燥体を製造する際、非イオン界面活性剤を添加して凍結乾燥することで、凍結乾燥前(液体試薬)における試薬性能は保持しつつ、冷蔵での長期保存が可能な試薬を提供できることがわかる。
【0047】
(実施例2) 安定化剤の検討(その2)
実施例1(2)でAIA-600II用容器に添加する溶液を、下記(A)から(K)に示すいずれかの溶液とした他は、実施例1と同様な方法で、凍結乾燥体を製造する際、添加する、安定化剤の検討を行なった。
(A)0.0001%(v/v)Tween 20を含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(B)0.001%(v/v)Tween 20を含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(C)0.01%(v/v)Tween 20を含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(D)0.01%(v/v)Triton X-100(商品名)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(E)0.05%(v/v)Triton X-100を含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(F)0.01%(w/v)セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(G)0.05%(w/v)CTABを含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(H)0.1%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(I)0.5%(w/v)SDSを含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(J)0.1%(w/v)CHAPS(3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonate)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)
(K)0.5%(w/v)CHAPSを含むリン酸緩衝液(pH7.4)
種々の濃度の変性ヒト抗体溶液を添加したときのレート値測定結果を
図2A~Kに示す。安定化剤としてTween 20を0.0001%(v/v)から0.01%(v/v)添加したとき(
図2A~C)、Triton X-100を0.01%(v/v)から0.05%(v/v)添加したとき(
図2D及びE)、及びCTABを0.01%(w/v)から0.05%(w/v)添加したとき(
図2F及びG)は、凍結乾燥処理しない試薬(
図1I)と同等の検出感度を有した。一方、SDS等の陰イオン界面活性剤やCHAPS等の両性界面活性剤を含んだ溶液を添加し、凍結乾燥させると検出感度は低下した(
図2H~K)。このことから、変性抗体試薬の凍結乾燥体を製造する際、非イオン界面活性剤又は陽イオン界面活性剤を添加して凍結乾燥することで、凍結乾燥前(液体試薬)における試薬性能は保持しつつ、冷蔵での長期保存が可能な試薬を提供できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、変性した抗体を認識するオリゴペプチドを結合した担体に安定化剤を含む試薬を添加後、添加後の前記担体及び前記溶液を凍結乾燥することで、変性抗体測定試薬を製造する際、変性した抗体を認識するオリゴペプチドとして配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むオリゴペプチドを用い、かつ安定化剤が非イオン界面活性剤及び/又は陽イオン界面活性剤を用いることにより、凍結乾燥前(液体試薬)における試薬性能は保持しつつ、冷蔵での長期保存が可能な試薬を提供することが可能となる。
【0049】
そして、当該試薬を用いれば、ストレス(例えば、酸、アルカリ、加熱、凍結融解、撹拌)等により変性を受けた抗体の量を迅速・簡便に測定することできる。したがって、本発明は、抗体を含む医薬品の品質管理等において有用である。
【配列表】