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特許6992545光架橋性重合体、絶縁膜、親撥パターニング膜およびこれを含む有機トランジスタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】光架橋性重合体、絶縁膜、親撥パターニング膜およびこれを含む有機トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/10 20060101AFI20220127BHJP
   C08F 212/00 20060101ALI20220127BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20220127BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20220127BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C08F8/10
C08F212/00
H01L29/28 280
H01L29/78 617T
H05K3/28 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018011579
(22)【出願日】2018-01-26
(65)【公開番号】P2019127563
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】片桐 史章
(72)【発明者】
【氏名】奥 慎也
(72)【発明者】
【氏名】李 延輝
(72)【発明者】
【氏名】山川 浩
(72)【発明者】
【氏名】弓野 翔平
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-052134(JP,A)
【文献】特開2018-018928(JP,A)
【文献】特開2018-070805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/10
C08F 212/00
H01L 51/30
H01L 29/786
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、一般式(2)、および一般式(3)で表される反復単位からなる樹脂又は下記一般式(1)、一般式(2)、および一般式(3)で表される反復単位及びエチレン・プロピレンからなる樹脂
【化1】
((式(1)中、A、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基を、Yは水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基またはシクロアルキル基を、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を、kは0を表す。)
【化2】
(式(2)中、A、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基を、Yは式(1)で定義した置換基を、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を、RはC1~C18のフルオロアルキル基を、jは0を、mは1を表す。)
【化3】
(式(3)中、A、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基を、Yは式(1)で定義した置換基を、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を、Zは式(A)の有機基を表しlは0を、nは1を表す。)
【化4】
(式(A)中、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはC1~C6のアルキル基を示し、 ~R 10 はそれぞれ独立してハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂の架橋物を含有する絶縁膜。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂の架橋物を含有する親撥パターニング膜。
【請求項4】
請求項2に記載の絶縁膜、および/または請求項3に記載の親撥パターニング膜を有することを特徴とする有機トランジスタ。
【請求項5】
請求項4に記載の有機トランジスタを有することを特徴とする電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汎用溶剤への溶解性、平坦性、絶縁破壊強度に優れ、短時間の光照射により容易に架橋し、耐溶剤性(耐クラック性)を有しながらも溶剤に対する濡れ性(オーバーコート性)に優れ、高い絶縁破壊強度を有する樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機電界効果トランジスタデバイスに用いられる高分子誘電体層(絶縁膜層)を形成するための樹脂には高絶縁破壊強度、低漏洩電流、汎用有機溶剤への溶解性、耐溶剤性(耐クラック性)を発現させるための架橋性が求められ、更に架橋後の高分子誘電体層には有機溶剤に対する優れた濡れ性、高い平坦性が要求される。
【0003】
絶縁破壊強度はデバイスを構成する誘電体層を破壊させずに印加できる最大の電界値を指す。絶縁破壊強度が高いほどデバイスとしての安定性が高まる。漏洩電流は本来の導電経路以外の経路、例えばゲート電極から絶縁性の有る誘電体層内を通ってソース電極に流れる電流等の大きさを表す指標である。漏洩電流は金属/誘電体/金属の3層構造からなるMIMコンデンサを作製し、誘電体層内を流れる電流値を測定することで求められる。
【0004】
汎用溶剤への溶解性は印刷法により有機電界効果トランジスタデバイスを製造するのに必須の要件であるが、一方、有機電界効果トランジスタデバイスにおいては高分子誘電体層は有機半導体層等のオーバーレイ層と積層される。このため、高分子誘電体層上に溶剤を用いた印刷法によりオーバーレイ層を形成する際には、高分子誘電体は本溶剤(印刷法に用いる溶剤)に対して溶解しないことが必要である。従って、高分子誘電体層(絶縁膜層)に対しては、層を形成する際には汎用の有機溶剤に溶解し、かつ、層を形成した後には有機溶剤に対し不溶でなければならないという相反する性能が要求される。
【0005】
このような要求に対応する技術として溶液製膜した高分子誘電体層を架橋する技術が知られている。例えば、ベンゾシクロブテン樹脂、ポリビニルフェノール樹脂が知られているが、ベンゾシクロブテン樹脂は架橋温度が250℃と高くプラスチックを基材として用いた場合、基材が熱変形を起こすため、その使用が難しく、また硬化時間が長く経済性にも劣っていた。更に、ロールTOロールプロセスへの適用が極めて難しい上に、デバイス性能を左右する膜の平坦性も十分とは言えなかった。ポリビニルフェノールは架橋剤としてメラミン樹脂等を用い150℃前後の温度において長時間の硬化反応が必要でありロールTOロールプロセスへの適用が極めて難しい。また、ポリビニルフェノール樹脂の水酸基は完全に消失せず、残存する水酸基による親水性などが原因と推定される漏洩電流の高さが問題となっている。更に、膜の平坦性も十分とは言えなかった。
【0006】
また、高分子誘電体層(絶縁膜層)に用いられる架橋を必要としないタイプの樹脂としてフッ素系環状エーテル樹脂、ポリパラキシリレン樹脂等の利用が提案されている。フッ素系環状エーテル樹脂は製膜後、汎用の有機溶剤には溶解しないため架橋しない状態でも汎用溶剤に対し不溶であるという長所があるが、経済性に劣るものである。更に、本材料は表面張力が低いため基材に対する濡れ性が悪く、塗工または印刷できる基材にも大きな制約があった。また、濡れ性が悪いためピンホールを形成しやすく漏洩電流が高いという問題もあった。ポリパラキシリレン樹脂は真空蒸着法によりモノマーを基板上に蒸着させ、基板上で重合して製膜されるため汎用溶剤には溶解しない長所があるものの、印刷プロセス、及び、ロールTOロールプロセスに対応出来ないという致命的な欠陥を有している。
【0007】
低温で架橋可能であり、かつ架橋時間を短縮する手段として光架橋技術が知られている。例えば、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ビニルフェノール-メタクリル酸メチル共重合体、ポリメタクリル酸アセトキシエチル、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル等の水酸基を側鎖に有するポリマーに対し、シンナモイル基等の光架橋性を有する化合物を反応させた光架橋性ポリマーを高分子誘電体として用いる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、フェノール基を側鎖に有するビニルポリマーに光架橋性基としてクマリンを導入した光架橋性ポリマーが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献1、及び特許文献2で開示されている技術では何れも、水酸基含有ポリマー中に存在している水酸基を全て光架橋性化合物と反応させることは難しく、水酸基の残存は避けられない。その結果、これらのポリマーを絶縁膜として用いた場合には漏洩電流値、及び/又はヒステリシスの増大を招く。また、特許文献1では、未反応の水酸基を無水トリフルオロ酢酸と反応させてエステル化することで残存水酸基量を低減する技術についても開示している。しかし、水酸基を完全に消失させることは極めて難しい上、フッ素化合物の導入により有機溶剤に対する濡れ性が低下するという弊害がある。
【0008】
また、ポリ(桂皮酸ビニル)を有機電界効果トランジスタデバイスの高分子誘電体層として利用する技術が提案されているが(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)、溶液塗布された高分子誘電体層(絶縁膜層)の平坦性は0.7nm程度であり更なる平坦化が求められていた。
【0009】
上記のように従来知られている高分子誘電体層(絶縁膜層)に用いられる樹脂は汎用溶剤への溶解性、架橋温度、架橋に要する時間、耐溶剤性(耐クラック性)、溶剤に対する濡れ性、漏洩電流、絶縁破壊強度、膜にした場合の平坦性に関し何らかの課題を有しており、これらの課題を全て解決できる樹脂及び該樹脂を含む高分子誘電体層(絶縁膜層)が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5148624号
【文献】特許第5960202号
【非特許文献】
【0011】
【文献】アプライド・フィジクス・レターズ誌、92巻、143306頁(2008年)
【文献】アプライド・フィジクス・レターズ誌、95巻、073302頁(2009年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、汎用溶剤への溶解性、平坦性、絶縁破壊強度に優れ、短時間の光照射により容易に架橋する樹脂、及び該樹脂を用いた絶縁膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の樹脂が汎用溶剤への溶解性、平坦性、絶縁破壊強度に優れ、短時間の光照射により容易に架橋することを見出し本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は下記式(1)、式(2)、および式(3)で表される反復単位を含む樹脂、該樹脂を用いた親撥パターニング可能な絶縁膜、および該絶縁膜を用いてなる有機トランジスタデバイスに関するものである。
【0015】
【化1】
【0016】
((式(1)中、AはC6~C19のアリール基を、Yは水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基またはシクロアルキル基を、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を、kは0~(s-1)の整数を表す。ここで、sはAを構成する炭素数を表す。)
【0017】
【化2】
【0018】
(式(2)中、AはC6~C19のアリール基を、Yは式(1)で定義した置換基を、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を、RはC1~C18のフルオロアルキル基を、jは0~(r-2)の整数を、mは1~(r-j-1)の整数を表す。ここで、rはAを構成する炭素数を表す。)
【0019】
【化3】
【0020】
(式(3)中、AはC6~C19のアリール基を、Yは式(1)で定義した置換基を、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を、Zは式(A)~(D)から選ばれる少なくとも1つの有機基を表し、lは0~(q-2)の整数を、nは1~(q-l-1)の整数を表す。ここで、qはAを構成する炭素数を表す。)
【0021】
【化4】
【0022】
【化5】
【0023】
【化6】
【0024】
【化7】
【0025】
(式(A)~(D)中、R4およびRはそれぞれ独立して水素またはC1~C6のアルキル基を示し、R~R30はそれぞれ独立してハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)
以下に本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明の樹脂は、式(1)、式(2)および式(3)の反復単位を含む。
【0027】
式(1)中、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を示す。
【0028】
式(1)中のRにおけるC1~C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
【0029】
式(1)中、AはC6~C19のアリール基を示す。
【0030】
式(1)中のAにおけるC6~C19のアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0031】
式(1)中、Yは水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基を表す。
【0032】
式(1)中のYにおけるハロゲンとしては特に制限がなく、例えば、塩素、フッ素等が挙げられる。
【0033】
式(1)中のYにおけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0034】
式(1)中のYにおけるアルキルエーテル基としては特に制限がなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基等が挙げられる。
【0035】
式(1)中のYにおけるアリールエーテル基としては特に制限がなく、例えば、フェノキシ基、4‐メチルフェノキシ基、4-tert-ブチルフェノキシ基、1-ナフトキシ基、2-ナフトキシ基等が挙げられる。
【0036】
式(1)中のYにおけるC1~C18のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-オクタデシル基等が挙げられる。
【0037】
式(1)中のYにおけるフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、1,1,1-トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロブチル基等が挙げられる。
【0038】
式(1)中のYにおけるシクロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる
式(1)中、kは0~(s-1)の整数を表す。ここで、sはAを構成する炭素数を表す。
【0039】
式(2)中、AはC6~C19のアリール基を表す。
【0040】
式(2)中のAにおけるC6~C19のアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0041】
式(2)中、Yは式(1)で定義した有機基と同様の有機基を表す。
【0042】
式(2)中、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を表す。
【0043】
式(2)中のRにおけるC1~C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
【0044】
式(2)中、RはC1~C18のフルオロアルキル基を表す。
【0045】
式(2)中のRにおけるC1~C18のフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロオクタデシル基等の直鎖状パーフルオロアルキル基;パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ-sec-ブチル基、パーフルオロ-tert-ブチル基、パーフルオロネオペンチル基等の分岐状パーフルオロアルキル基;パーフルオロシクロプロピル基、パーフルオロシクロブチル基、パーフルオロシクロペンチル基、パーフルオロシクロヘキシル基等の環状パーフルオロアルキル基;1,1,1-パーフルオロエチル基、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロブチル基、2-(パーフルオロヘキシル)エチル基、2-(パーフルオロオクチル)エチル基等の一部がフッ素化したセミフルオロアルキル基等が挙げられる。
【0046】
式(2)中、jは0~(r-2)の整数を、mは1~(r-j-1)の整数を表す。ここで、rはAを構成する炭素数を表す。
【0047】
式(3)中、AはC6~C19のアリール基を表す。
【0048】
式(3)中のAにおけるC6~C19のアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0049】
式(3)中、Yは式(1)で定義した有機基と同様の有機基を表す。
【0050】
式(3)中、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を表す。
【0051】
式(3)中のRにおけるC1~C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
【0052】
式(3)中、lは0~(q-2)の整数を、nは1~(q-l-1)を表す。ここで、qはAを構成する炭素数を表す。
【0053】
式(3)中、Zは式(A)~(D)から選ばれる少なくとも1つの有機基を表す。
【0054】
式(A)~(D)中、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはC1~C6のアルキル基を示し、R~R30はそれぞれ独立してハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基またはシクロアルキル基を表す。
【0055】
式(A)~(D)中のR、RにおけるC1~C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
【0056】
式(A)~(D)中のR~R30におけるハロゲンとしては特に制限がなく、例えば、塩素、フッ素等が挙げられる。
【0057】
式(A)~(D)中のR~R30におけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0058】
式(A)~(D)中のR~R30におけるアルキルエーテル基としては特に制限がなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0059】
式(A)~(D)中のR~R30におけるアリールエーテル基としては特に制限がなく、例えば、フェノキシ基、4‐メチルフェノキシ基、4-tert-ブチルフェノキシ基、1-ナフトキシ基、2-ナフトキシ基等が挙げられる。
【0060】
式(A)~(D)中のR~R30におけるC1~C18のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-オクタデシル基等が挙げられる。
【0061】
式(A)~(D)中のR~R30におけるフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、1,1,1-トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロブチル基等が挙げられる。
【0062】
式(A)~(D)中のR~R30におけるシクロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0063】
具体的な式(A)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0064】
【化8】
【0065】
具体的な式(B)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0066】
【化9】
【0067】
具体的な式(C)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0068】
【化10】
【0069】
具体的な式(D)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0070】
【化11】
【0071】
本発明で用いられる具体的な式(1)、式(2)および式(3)の反復単位を含む重合体は芳香族基を含有し、かつ、酸クロリドと反応する水酸基、アミノ基、チオール基等を含有していなければ何ら制限なく用いることが出来る。
【0072】
本発明で用いられる具体的な式(1)、式(2)および式(3)の反復単位を含む重合体は、有機溶剤に対する溶解性、保存安定性、および光架橋のし易さの観点から、式(1)の反復単位1~98モル%、式(2)の反復単位1~98モル%、および式(3)の反復単位1~98モル%であることが好ましく、式(1)の反復単位1~79モル%、式(2)の反復単位1~79モル%、および式(3)の反復単位20~70モル%を含む重合体であることが更に好ましい。
【0073】
本発明において、式(1)、式(2)および式(3)の反復単位を有する樹脂の分子量に対しては何ら制限はなく、例えば、2000~10,000,000(g/モル)のものを用いることが出来る。得られる樹脂の溶液粘度、および力学強度の観点から、好ましくは10,000~1,000,000(g/モル)である。
【0074】
本発明で用いる式(1)、式(2)および式(3)の反復単位を有する樹脂は対応するフルオロアルキル基を有する化合物、および光環化性化合物をフリーデルクラフツ・アシル化反応により芳香族基含有重合体に導入することで得られる。ここで、本発明において、該光環化性化合物および該フルオロアルキル基を有する化合物が一定量以上導入されることで膜とした場合の平坦性が優れ、短時間で光架橋可能となるものであり、芳香族基含有重合体のみでは平坦性に劣り、光架橋することは出来ない。なお、本発明では、該フルオロアルキル基を有する化合物が導入されていることで、親撥パターニング膜とした場合の撥液性が向上し、微細電極を形成した際の解像度に優れるものでもある。
【0075】
本発明において、該フルオロアルキル基を有する化合物としては、該フルオロアルキル基をフリーデルクラフツ・アシル化反応で導入する際の反応性の観点から、対応するフルオロアルキル基を有する酸クロリドが好ましい。
【0076】
具体的なフルオロアルキル基を有する化合物としては、式(2)中のRと同様のフルオロアルキル基を有するカルボン酸の酸クロリドを挙げることが出来、例えば、トリフルオロ酢酸クロリド、ペンタフルオロプロピオニルクロリド、ヘプタフルオロブチリルクロリド、ノナフルオロペンタノイルクロリド、トリデカフルオロヘプタノイルクロリド、ペンタデカフルオロオクタノイルクロリド、ヘプタデカフルオロノナニルクロリド、3-(パーフルオロヘキシル)プロピオニルクロリド、3-(パーフルオロオクチル)プロピオニルクロリド等が挙げられる。また、必要に応じて2種以上を併用することも出来る。
【0077】
式(1)、式(2)および式(3)の反復単位を有する樹脂に対するフルオロアルキル基を有する化合物の仕込み量は、得られる樹脂の有機溶剤に対する溶解性を高めるため、該樹脂が含有する芳香族基1モルに対し0.02~2.0モルであることが好ましく、さらに好ましくは0.1~1.6モルである。反応で芳香族基に導入されるフルオロアルキル基の量は、有機溶剤に対する溶解性の観点から、該樹脂が含有する芳香族基1モルに対し0.01~0.98モルであることが好ましく、更に好ましくは0.05~0.79モルである。
【0078】
本発明において、該光環化性化合物は、下記式(4)で表される桂皮酸クロリド化合物、下記式(5)で表されるフェニルエテニル安息香酸の酸クロリド化合物、下記式(6)で表されるピリジニルエテニルベンゾイルクロリド、下記式(7)で表されるクマリンカルボン酸クロリドを示す。この中で、製造が容易である桂皮酸クロリドを用いるのが好ましい。また、これらの化合物は必要に応じて2種以上を併用することも出来る。
【0079】
【化12】
【0080】
【化13】
【0081】
【化14】
【0082】
【化15】
【0083】
(式(4)~(7)中、R~R30は式(A)~(D)で定義したものと同様である。)
式(1)、式(2)および式(3)の反復単位を有する樹脂に対する前述の光環化性化合物の仕込み量は、得られる樹脂の有機溶剤に対する溶解性、および保存安定性を高めるため、該樹脂が含有する芳香族基1モルに対し0.005~2.0モルであることが好ましく、さらに好ましくは0.05~1.5モルである。反応で芳香族基に導入される光反応性基の量は、有機溶剤に対する溶解性、保存安定性、および光架橋のし易さの観点から、該樹脂が含有する芳香族基1モルに対し0.01~0.98モルであることが好ましく、更に好ましくは0.2~0.7モルである。
【0084】
フリーデルクラフツ・アシル化反応により光反応性基が導入される芳香族基含有重合体としては、後述の反応触媒に対し不活性である限り何ら制限はなく、例えば、ポリ-α-メチルスチレン、ポリ-p-メトキシスチレン、シンジオポリスチレン等のポリスチレン;ポリビニルナフタレン;ポリビニルビフェニル;ポリビニルアントラセン;ポリビニルカルバゾール;ポリ(スチレン・ブタジエン)共重合体;ポリ(エチレン・スチレン)共重合体;ポリ(スチレン・エチレン・ブチレン)共重合体;ポリ(スチレン・エチレン・プロピレン)共重合体;ポリ(スチレン・エチレン・プロピレン・ブチレン)共重合体;ポリ(エチレン・スチレン)共重合体;ポリ(プロピレン・スチレン)共重合体;ポリ(スチレン・アクリロニトリル)共重合体;ポリ(スチレン・アルキルアクリレート)共重合体;ポリ(スチレン・アルキルメタクリレート)共重合体;ポリ(スチレン・α-フェニルアルキルアクリレート)共重合体;ポリ(スチレン・無水マレイン酸)共重合体;ポリ(スチレン・アクリル酸)共重合体;ポリ(スチレン・4-ビニルピリジン)共重合体;ポリ(スチレン・トランス-1,3-ペンタジエン)共重合体;ポリ(スチレン・2,4,6-トリメチルスチレン)共重合体;ポリ(スチレン・p-アセトキシスチレン)共重合体;ポリ(スチレン・ビニル-トリス(トリメトキシシロキシ)シラン)共重合体;ポリ(スチレン・ビニルベンゾエート)共重合体;ポリ(スチレン・ビニルブチルエーテル)共重合体;ポリスチレン-b-ポリ(エチレン・プロピレン)-b-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-b-ポリ(エチレン・ブチレン)-b-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-b-ポリ(エチレン・プロピレン・ブチレン)-b-ポリスチレン共重合体等のブロック共重合体;石油樹脂等が例示される。この中でも、誘電率を低くして漏洩電流を低減させるため、芳香族炭化水素および脂肪族炭化水素のみから構成されている重合体を用いるのが好ましい。また、これらの共重合体は2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0085】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応は、反応触媒を用いて実施することができる。
【0086】
本発明では公知の超強酸を反応触媒として使用することができ、超強酸であれば何ら制限は無く、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸、フルオロアンチモン酸、カルボラン酸が例示される。該触媒の添加量は、該反応後の中和操作が煩雑になるのを回避し、かつ、反応率の低下を防ぐため上述の酸クロリドに対し0.1~2.5倍モルであることが好ましく、0.1~1.5倍モルが更に好ましい。
【0087】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応は発熱反応であり、かつ、本反応系において光反応性基が加熱により架橋する副反応を生じさせる場合がある。従って、本発明では、該副反応を抑制させるため、反応温度制御が容易な溶液反応により実施するのが好ましい。本発明において該溶液反応で用いられる反応溶剤はフリーデルクラフツ反応に対して安定であれば何ら制限なく使用でき、反応に対し不活性である十分に脱水された塩素系炭化水素溶剤、脂肪族炭化水素溶剤、含硫黄溶剤、ニトリル系溶剤等が好適に用いられる。塩素系炭化水素溶剤としては、塩化メチレン、四塩化炭素、1,1,2-トリクロロエタン、クロロホルム等が、脂肪族炭化水素溶剤としてはシクロヘキサン等が、含硫黄溶剤としては、二硫化炭素、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルフェート、ジメチルスルホン等が、ニトリル系溶剤としてはアセトニトリルが例示される。
【0088】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応において、反応温度に特に制限はないが、冷却および加熱に係る経済性の観点から0℃から40℃が好ましい。また、必要に応じて用いる溶剤の還流温度で実施することも可能であるが、200℃未満の温度が好ましい。
【0089】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応において、反応時間は特に制限はなく、例えば、5時間から100時間が挙げられる。反応率および経済性の観点から、好ましくは10時間から50時間である。
【0090】
また、式(1)、式(2)および式(3)の反復単位を有する樹脂は溶解性が損なわれない限り、重合体分子が光反応性基の環化に基づく構造を含有していても良い。
【0091】
該光反応性基の環化に基づく構造としては、下記式(8)~(15)で表される構造が挙げられる。
【0092】
【化16】
【0093】
【化17】
【0094】
(式(8)、式(9)中、R~R10は式(4)と同様である)
【0095】
【化18】
【0096】
【化19】
【0097】
(式(10)、式(11)中、R、R、R11~R19は式(5)と同様である)
【0098】
【化20】
【0099】
【化21】
【0100】
(式(12)、式(13)中、R、R、R20~R27は式(6)と同様である)
【0101】
【化22】
【0102】
【化23】
【0103】
(式(14)、式(15)中、R、R、R28~R30は式(7)と同様である)
また、式(1)、式(2)および式(3)の反復単位を有する樹脂は、例えば、下記に示すような光反応性基のニ量化物を含んでいても良い。
【0104】
【化24】
【0105】
【化25】
【0106】
【化26】
【0107】
(式(16)、式(17)、および式(18)において、R~R27は式(A)~式(C)で定義したものと同様である。a、bおよびcは0~4の整数を表し、Rは式(A)で定義したR~R10から選ばれるa個の置換基、Rは式(B)で定義したR15~R19から選ばれるb個の置換基、Rは式(C)で定義したR24~R27から選ばれるc個の置換基を表す。)
式(1)、式(2)および式(3)の反復単位を有する樹脂を溶剤に溶解させた溶液を用いて種々の基材上に塗工又は印刷することが出来る。
【0108】
該溶剤としては、該樹脂を溶解する溶剤であれば何ら制限なく用いることができ、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;塩化メチレン、1,1,2-トリクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素類;エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の脂肪族環状エーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール類;1-ニトロプロパン;ニ硫化炭素;リモネン等が例示され、これらの溶剤は必要に応じて混合して使用することが出来る。
【0109】
本発明に係る樹脂は、例えば、スピンコーティング、ドロップキャスト、ディップコーティング、ドクターブレードコーティング、パッド印刷、スキージコート、ロールコーティング、ロッドバーコーティング、エアナイフコーティング、ワイヤーバーコーティング、フローコーティング、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、凸版反転印刷等を用いて印刷することが出来る。
【0110】
なお、本発明の絶縁膜はこれらの方法を用いて形成されるものであるため、本発明の絶縁膜は汎用溶剤に対する溶解性に優れることが必要となる。
【0111】
本発明に係る樹脂を絶縁膜として用いる場合、該膜を形成した状態、または必要に応じて光架橋(光環化)した架橋物として用いることができる。なお、本発明において該膜を形成した後、光架橋せずに絶縁膜として用いる場合には、該膜を形成するのに用いる汎用溶剤には良好な溶解性を示し、更に、該膜の上部に該汎用溶剤とは異なる溶剤を用いて有機半導体層を形成可能なことが必要となる。この際、該膜が有機半導体溶液に対して耐溶剤性を持つとき、該膜を形成した状態のままで絶縁膜として用いることが出来る。
【0112】
本発明に係る樹脂を絶縁膜として用いる場合、光架橋(光環化)には放射線が用いられ、例えば、波長245~350nmの紫外線が例示される。照射量は樹脂の組成により適宜変更されるが、例えば、150~3000mJ/cmが挙げられ、架橋度の低下を防止し、かつ、プロセスの短時間化による経済性の向上のため、好ましくは100~1000mJ/cmである。紫外線の照射は通常大気中で行うが、必要に応じて不活性ガス中、または一定量の不活性ガス気流下で行うことも出来る。必要に応じて光増感剤を添加して光架橋反応を促進させることも出来る。用いる光増感剤には何ら制限はなく、例えば、ベンゾフェノン化合物、アントラセン化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物、ニトロフェニル化合物等が例示されるが、本発明で用いられる樹脂との相溶性が高いベンゾフェノン化合物が好ましい。また、該増感剤は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0113】
本発明の樹脂は紫外線により架橋出来るが、必要に応じて加熱しても良い。紫外線照射に加えて加熱する場合の温度は特に制限されないが、用いる樹脂の熱変形を避けるため120℃以下の温度が好ましい。
【0114】
また、本発明の樹脂は、短時間で効率良く架橋することができるものであり、架橋に要する時間を5分以内とすることができる。なお、架橋時間の制御に好適であることから、架橋に要する時間を1~2分以内とすることが好ましい。
【0115】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜は優れた平坦性を有するものであり、有機トランジスタのゲート絶縁膜として好適に用いることができる。ここで、該ゲート絶縁膜は、平坦性の観点から、表面粗さ(Ra)が0.3nm以下であることが好ましい。
【0116】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜は、ゲート絶縁膜の実用性の観点から、絶縁破壊強度が4.0MV/cm以上であることが好ましい。
【0117】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜は、絶縁性、平坦性、および撥水性に優れるものであり、親撥パターニング膜としても好適に用いることができる。ここで、親撥パターニングとは、真空紫外線(VUV)を用いてプラスチック表面上を親水化してパターニングする技術であり、該技術を用いてパターニングされた表面を有する膜を親撥パターニング膜というものである。本発明の新撥パターニング膜は、従来のパリレン膜を用いたものと異なり、水系金属ナノインクを塗布した際の欠陥発生が防止できる点でも好適である。
【0118】
本発明において、親撥パターニングには、波長が10nm~200nmの真空紫外線(VUV)を、クロムパターンを有するフォトマスクを介して親撥パターニング膜に照射することにより行う。光源と該膜の距離、および、マスクと該膜の距離は用いる親撥パターニング膜の組成により適宜選択される。また、VUVを照射する際、大気~窒素にわたる種々の組成の気体下で行うことが出来る。VUVの照射時間は、親撥パターニング膜の構造、および光源と親撥パターニング膜表面間の距離により異なるが、例えば、60~1000秒が挙げられ、親撥パターニング膜の十分な親水化およびプロセスの短時間化による経済性の向上の観点から、好ましくは60~300秒である。
【0119】
本発明において、親撥パターニングにより撥水性の親撥パターニング膜上に親水性のパターンが描画されるが、この際、撥水性領域と親水性領域の水に対する接触角はそれぞれ100°以上、20°以下であることが好ましく。これら接触角の差が80°以上であることが好ましい。また、表面張力差が40mN/m以上であることが好ましい。
【0120】
本発明において、電極の形成(回路パターンの形成)は、親撥パターニング膜表面にVUVを照射し、親水性領域を形成した後、該親水性領域に水系金属ナノインクを印刷し、乾燥、必要に応じて加熱焼成することにより行う。乾燥温度、および加熱焼成温度は基材、親撥パターニング膜に影響が無い限り何ら制限されず、例えば、乾燥温度は室温~50℃、加熱焼成温度は100~180℃が挙げられる。
【0121】
本発明で用いることが出来る金属ナノインク、および該インクが含有する金属ナノ粒子濃度は、低抵抗の金属配線が形成出来る限り何ら制限はないが、例えば、金、銀、白金等の金属ナノ粒子を含むインクが挙げられ、固形分濃度は、例えば、5~50wt%が挙げられる。また該金属ナノ粒子を分散させる媒体として水、或いは水・アルコール混合溶剤を用いたインクが例示される。アルコールの種類としては、水と相溶する限り何ら制限はなく、例えば、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0122】
本発明において、有機トランジスタは、基板上にゲート絶縁膜を有し、更にこのゲート絶縁膜の上に有機半導体層を成膜し、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極を付設することにより得られる。
【0123】
本発明の有機トランジスタは図1に示すボトムゲート-トップコンタクト型(A)、ボトムゲート-ボトムコンタクト型(B)、トップゲート-トップコンタクト型(C)、トップゲート-ボトムコンタクト型(D)のいずれの素子構造でもよい。ここで、1は有機半導体層、2は基板、3はゲート電極、4はゲート絶縁膜、5はソース電極、6はドレイン電極を示す。
【0124】
該有機トランジスタにおいて、用いることが出来る基材は素子を作製できる十分な平坦性を確保できれば特に制限されず、例えば、ガラス、石英、酸化アルミニウム、ハイドープシリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;プラスチック;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属;セラミックス;コート紙;表面コート不織布等が挙げられ、これらの材料からなる複合材料又はこれらの材料を多層化した材料であっても良い。また、表面張力を調整するため、これらの材料表面をコーティングすることも出来る。
【0125】
基材として用いるプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン-1、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、フッ素化環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリ(ジイソプロピルマレエート)、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリアミドエラストマー、スチレンブロック共重合体等が例示される。また、上記のプラスチックを2種以上用いて積層して基材として用いることができる。
【0126】
本発明で用いることが出来る有機半導体には何ら制限はなく、N型およびP型の有機半導体の何れも使用することができ、N型とP型を組み合わせたバイポーラトランジスタとしても使用できる。また、低分子および高分子の有機半導体の何れも用いることができ、これらを混合して使用することも出来る。具体的な化合物としては、例えば式(E-1)~(E-11)等が例示される。
【0127】
【化27】
【0128】
【化28】
【0129】
【化29】
【0130】
【化30】
【0131】
【化31】
【0132】
【化32】
【0133】
【化33】
【0134】
【化34】
【0135】
【化35】
【0136】
【化36】
【0137】
【化37】
【0138】
本発明において、有機半導体層を形成する方法としては、有機半導体を真空蒸着する方法、または有機半導体を有機溶剤に溶解させて塗布、印刷する方法等が例示されるが、有機半導体層の薄膜を形成出来る方法であれば何らの制限もない。有機半導体層を有機溶剤に溶解させた溶液を用いて塗布、または印刷する場合の溶液濃度は有機半導体の構造および用いる溶剤により異なるが、より均一な半導体層の形成および層の厚みの低減の観点から、0.5%~5重量%であることが好ましい。この際の有機溶剤としては有機半導体が製膜可能な一定の濃度で溶解する限り何ら制限はなく、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、デカリン、インダン、1-メチルナフタレン、2-エチルナフタレン、1,4-ジメチルナフタレン、ジメチルナフタレン異性体混合物、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、メシチレン、イソプロピルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、テトラリン、オクチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、γ-ブチロラクトン、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、ベンジルアルコール、グリセリン、シクロヘキサノールアセテート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン、3-メトキシブチルアセテート、シクロヘキサノールアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、エチルアセテート、フェニルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-N-プロピルエーテル、テトラデカヒドロフェナントレン、1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロフェナントレン、デカヒドロ-2-ナフトール、1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフトール、α-テルピネオール、イソホロントリアセチンデカヒドロ-2-ナフトール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、2,6-ジメチルアニソール、1,2-ジメチルアニソール、2,3-ジメチルアニソール、3,4-ジメチルアニソール、1-ベンゾチオフェン、3-メチルベンゾチオフェン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセトフェノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、リモネン等が例示されるが、好ましい性状の結晶膜を得るためには有機半導体の溶解力が高く、沸点が100℃以上の溶剤が適しており、キシレン、イソプロピルベンゼン、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン、1,2-ジクロロベンゼン、3,4-ジメチルアニソール、ペンチルベンゼン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、デカヒドロ-2-ナフトールが好ましい。また、前述の溶剤2種以上を適切な割合で混合した混合溶剤も用いることが出来る。
【0139】
有機半導体層には必要に応じて各種有機・無機の高分子若しくはオリゴマー、又は有機・無機ナノ粒子を固体若しくは、ナノ粒子を水若しくは有機溶剤に分散させた分散液として添加でき、上記絶縁膜上に高分子溶液を塗布して保護膜を形成出来る。更に、必要に応じて本保護膜上に各種防湿コーティング、耐光性コーティング等を行うことが出来る。
【0140】
本発明で用いることが出来るゲート電極、ソース電極、又はドレイン電極としては、アルミニウム、金、銀、銅、ハイドープシリコン、ポリシリコン、シリサイド、スズ酸化物、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、クロム、白金、チタン、タンタル、グラフェン、カーボンナノチューブ等の無機電極、又はドープされた導電性高分子(例えば、PEDOT-PSS)等の有機電極等の導電性材料が例示され、これらの導電性材料を複数、積層して用いることもできる。また、キャリアの注入効率を上げるために、これらの電極に表面処理剤を用いて表面処理を実施することもできる。このような表面処理剤としては、例えば、ベンゼンチオール、ペンタフルオロベンゼンチオール等を挙げることができる。
【0141】
また、前記の基材、絶縁膜または有機半導体層の上に電極を形成する方法に特に制限はなく、蒸着、高周波スパッタリング、電子ビームスパッタリング等が挙げられ、前記導電性材料のナノ粒子を水又は有機溶剤に溶解させたインクを用いて、溶液スピンコート、ドロップキャスト、ディップコート、ドクターブレード、ダイコート、パッド印刷、ロールコーティング、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、凸版反転印刷等の方法を採用することも出来る。
【0142】
本発明の有機トランジスタは、有機トランジスタ素子の実用性の観点から、移動度が0.20cm/Vs以上であることが好ましい。
【0143】
本発明の有機トランジスタは、有機トランジスタ素子の実用性の観点から、閾値電圧が0を超えて2.0V以下、または-2.0V以上で0Vより小さいことが好ましい。
【0144】
本発明の有機トランジスタは、有機トランジスタ素子の実用性の観点から、オン電流/オフ電流比が10以上であることが好ましい。
【0145】
本発明の有機トランジスタは、有機トランジスタ素子の実用性の観点から、ソース・ドレイン間電流のヒステリシスが無いことが好ましい。
【0146】
本発明の有機トランジスタは、有機トランジスタ素子の実用性の観点から、漏洩電流密度が0.01nA以下であることが好ましい。
【0147】
本発明の有機トランジスタは、電子デバイスとして好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0148】
本発明により汎用溶剤への溶解性、平坦性、絶縁破壊強度に優れ、短時間の光照射により容易に架橋する樹脂を提供することができ、該樹脂を用いた優れた性能を有する絶縁膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
図1】;有機トランジスタの断面形状を示す図である。
図2】;実施例1で製造した樹脂1-bのH-NMRチャートを示す図である。
図3】;実施例1で製造したOFET素子においてゲート電圧(VGS)を変化させた際に観測されるソース-ドレイン間電流(IDS)(実線)にヒステリシスが見られず、漏洩電流値(I)(破線)が0.01nA以下と極めて小さいことを示す図である。
図4】;実施例1において親撥パターニングにより形成したAg配線のテストパターンを示す図である。
図5】;比較例1において親撥パターニングにより形成したAg配線のテストパターンを示す図である。
【実施例
【0150】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例において用いた有機半導体(ジ-n-ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン)は、特開2015-224238号公報の製造方法に従って合成した。フルオロアルキル基を有する化合物(下記式(F))はジャーナル・オブ・フルオリンケミストリー誌、131巻、621頁(2010年)記載の方法に従って合成した。桂皮酸クロリド(下記式(G))はシグマアルドリッチ製の試薬を用いた。Agナノインク(銀ナノ粒子を含むインク)は三菱マテリアル株式会社製の銀ナノコロイドH-1を用いた。また樹脂の合成は、光環化性化合物の光環化反応、および光環化性化合物が導入された樹脂の光環化反応を防ぐため、反応、精製、乾燥全てイエローライト下、又は遮光下で行った
【0151】
【化38】
【0152】
【化39】
【0153】
なお、実施例に示す諸物性の評価は、以下の方法・装置により測定した。
<樹脂の組成>
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM-GX270)を用い、樹脂の重水素化クロロホルム溶剤中でのプロトン核磁気共鳴分光(H-NMR)、およびフッ素核磁気共鳴分光(19F-NMR)スペクトル分析より求めた。
<スピンコート>
スピンコーター(ミカサ株式会社製、商品名オプティコートMS―A100)を用いて、回転数・時間を変えて膜厚を調整した。
<UV照射>
(株)ジーエス・ユアサ コーポレーション製UV-System、CSN-40A-2を用い、UV強度、搬送速度を変えてUV照射量を調整した。
<VUV照射>
ウシオ電機株式会社製SUS740を用いて照射時間を調整した。
<パターン形成>
オールグッド株式会社製自動フィルムアプリケーター100-5と膜厚調整機能付フィルムアプリケーター064-13を用いて塗工した。
<ディスペンサー印刷>
武蔵エンジニアリング(株)製IMAGE MASTER 350PC SMARTを用いた。
<光架橋性>
絶縁膜を成膜した基板を溶剤に浸漬させ、溶剤浸漬後の絶縁膜の厚みを浸漬前の厚みで割った残膜率によって評価し、残膜率95%以上を判断基準として、光架橋性を判定した。膜厚は接触式表面プロファイラー(ブルカー社製、商品名Dektak XT-E)を用いて測定した。また、試験はトルエンに1時間浸漬することで行った。
<平坦性>
光架橋性の評価方法と同様にして成膜した絶縁膜の表面を、原子間力顕微鏡(日立ハイテクサイエンス社製、商品名AFM5100N)を用いて20×20μm視野で走査し、得られた形状像の平均面粗さを表面粗さRとした。
<絶縁性>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(コーニング社製Eagle XG)に銀を真空蒸着し、厚み30nmの電極を形成した。その後、電極を形成した基材上に絶縁膜を成膜し、絶縁膜上に金電極を真空蒸着装置(アルバック機工社製、商品名VTR-350M/ERH)を用いて真空蒸着し、金属/絶縁膜/金属の3層構造からなるMIMコンデンサを作製した。
【0154】
作製したMIMコンデンサの銀-金電極間に電圧をかけて、絶縁破壊により電流が絶縁膜内部を流れ始める電圧を測定し、絶縁膜の厚みで割った値を絶縁破壊強度とした。
<表面エネルギー>
洗浄、乾燥したガラス上に絶縁膜を成膜し、接触角計(協和界面化学社製、商品名DM-300)を使用して、θ/2法により水、ジヨードメタンに対する接触角を測定し、Owens-Wendtの方法を用いて算出した。
<有機トランジスタ素子性能の評価>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(コーニング社製Eagle XG)にアルミニウムを真空蒸着し、厚み50nmのゲート電極を形成した。電極を形成した基材上に樹脂溶液をスピンコートし、50℃で1分間乾燥した後、紫外線を照射して架橋し、絶縁膜を形成した。ゲート電極および絶縁膜が形成された基材上に金を真空蒸着して厚み50nm、チャンネル長100μm、電極幅500μmのソース電極、およびドレイン電極を形成した。その後、直ちにペンタフルオロベンゼンチオール30mmol/Lの2-プロパノール溶液に浸漬し、5分間経過した時点で取り出し、2-プロパノールで洗浄後、ブロー乾燥した。その後、有機半導体(ジ-n-ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン)の0.8wt%トルエン溶液60nLをディスペンサにより塗工した。溶剤を揮発させ50℃で1時間乾燥し、有機トランジスタの一形態であるボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型の素子を作製した。
【0155】
半導体パラメータアナライザー(ケースレー社製、商品名4200-SCS)を用い、ドレイン電圧(V=-60V)、ゲート電圧(V)を+10~-60Vまで1V刻みで走査し、伝達特性(I-V)を取得し、移動度、閾値電圧、オン電流/オフ電流比、ソース・ドレイン間電流のヒステリシス、漏洩電流の評価を行った。
<親撥パターニング性の評価>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(基材)(コーニング社製Eagle XG)に絶縁膜を成膜し、50℃で1分間乾燥した後、紫外線を照射して架橋し、親撥パターニング膜を形成した。その後、ライン・アンド・スペースが5μmから50μmのパターンを有するフォトマスクを介してVUVを照射し、親撥パターニング膜の表面を親水性領域と撥水性領域にパターニングした。本基板を70℃に加熱した自動フィルムアプリケーター本体に設置し、Agナノインクを滴下後、140mm/sの速さで膜厚調整機能付フィルムアプリケーターを移動させて塗工し、120℃で30分焼成した。形成された全パターンを観察し、欠陥なく形成されたパターンの中で最も小さいライン・アンド・スペースの値を解像度とした。
【0156】
実施例1
<樹脂の合成>
窒素ボックス内で100mLのシュレンク管に重量平均分子量28万のポリスチレン1.1g、脱水した塩化メチレン35mL、3-(パーフルオロヘキシル)プロピオニルクロリド0.97gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、窒素フロー下でトリフルオロメタンスルホン酸(以下、「TFMS」という)0.77gを注射器を用いて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で48時間反応させた。反応液を再度、氷水で冷却した後、炭酸水素ナトリウム0.75gを溶解させた水溶液を滴下してTFMSおよび系内の塩酸を中和した。反応液を分液ろうとに移し、水相を分離した。更に塩化メチレン相を水で3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を350mLのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを2回再沈殿により精製し、40℃で減圧乾燥して1.7gの樹脂1-a(下記式)を得た。
【0157】
【化40】
【0158】
さらに、窒素ボックス内で100mLのシュレンク管に得られた樹脂1-a0.8g、脱水した塩化メチレン30mL、桂皮酸クロリド0.17gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、窒素フロー下でTFMS0.37gを注射器を用いて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で42時間反応させた。反応液を再度、氷水で冷却した後、炭酸水素ナトリウム0.35gを溶解させた水溶液を滴下してTFMSおよび系内の塩酸を中和した。反応液を分液ろうとに移し、水相を分離した。更に塩化メチレン相を水で3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を300mLのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを2回再沈殿により精製し、40℃で減圧乾燥して0.78gの樹脂1-bを得た。
【0159】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂1-b(下記式)は式(1)、式(2)、および式(3)で表される構造単位をそれぞれ79モル%、16モル%、および5モル%有していることを確認した。
【0160】
【化41】
【0161】
なお、樹脂1-bに係るH-NMRチャートを図2に示した。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,芳香族,-CH=CH-Ph),7.39~6.51(m,芳香族,-CH=CH-Ph),3.18(brs,-CH―C(=O)―),2.59(brs,-CF-CH―),2.04(brs,-CH―CH-),1.78~1.40(bm,-CH-)
<絶縁膜および有機トランジスタ素子の作製および評価>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(コーニング社製Eagle XG)にアルミニウムを真空蒸着し、厚み50nmのゲート電極を形成した。電極を形成した基材上に得られた樹脂1-bのm-キシレン溶液(7wt%)を500rpm×5秒、1000rpm×20秒の条件でスピンコートし、50℃で1分間乾燥した後、500mJ/cmの紫外線を照射して架橋し、絶縁膜を形成した。ゲート電極および絶縁膜が形成された基材上に金を真空蒸着して厚み50nm、チャンネル長100μm、電極幅500μmのソース電極、およびドレイン電極を形成した。その後、直ちにペンタフルオロベンゼンチオール30mmol/Lの2-プロパノール溶液に浸漬し、5分間経過した時点で取り出し、2-プロパノールで洗浄後、ブロー乾燥した。その後、有機半導体(ジ-n-ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン)の0.8wt%トルエン溶液60nLをディスペンサにより塗工した。溶剤を揮発させ50℃で1時間乾燥し、有機トランジスタの一形態であるボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型の素子を作製した。そして、有機トランジスタ素子性能を評価した。
【0162】
作製した絶縁膜の物性、絶縁性、有機トランジスタ素子性能の評価結果を表1に示す。
【0163】
【表1】
【0164】
紫外線照射後の残膜率は95%を超えており、500mJ/cmで光架橋性を発現し、平坦性は0.3nm以下、絶縁破壊強度は4.0MV/cm以上で、ゲート絶縁膜として優れた性能を発現できることが確認された。また、有機トランジスタ素子性能を評価した結果、移動度は0.28cm/V・s、オン電流/オフ電流比は10以上、ソース・ドレイン間の電流にヒステリシスは見られず、漏洩電流は0.01nAでありオン電流/オフ電流比、ヒステリシス、漏洩電流に優れ、有機トランジスタ素子として優れた性能を有することが確認された。なお、該ヒステリシスが見られないことについては、図3に示した。
<親撥パターニング膜の作製および評価>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(コーニング社製Eagle XG)に得られた樹脂1-bのm-キシレン溶液(3wt%)を500rpm×5秒、1000rpm×20秒の条件でスピンコートし、50℃で1分間乾燥した後、500mJ/cmの紫外線を照射して架橋し、親撥パターニング膜を形成した。親撥パターニング膜が形成された基材にVUVを照射し親撥パターニング膜の表面を親水性領域と撥水性領域にパターニングした後、自動フィルムアプリケーターを用いてAgナノインクを塗工し、120℃で30分焼成してパターンを作製した。そして、親撥パターニング性を評価した。
【0165】
作製した親撥パターニング膜およびパターンの評価結果を表1に合わせて示す。
表面エネルギー差は40mN/m以上、パターンの解像度は5μmであり、親撥パターニング膜として優れた性能を有することが確認された。なお、解像度5μmのパターンが形成できたことについては、図4に示した。
【0166】
実施例2
<樹脂の合成>
重量平均分子量15万、ポリスチレン含有量が65wt%のポリスチレン-b-ポリ(エチレン・プロピレン)-b-ポリスチレン(SEPS)4.0g、脱水した塩化メチレン120mL、桂皮酸クロリド4.5gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、窒素フロー下でTFMS6.2gを注射器を用いて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で24時間反応させた。反応液を再度、氷水で冷却した後、炭酸水素ナトリウム6.9gを溶解させた水溶液を滴下してTFMSおよび系内の塩酸を中和した。反応液を分液ろうとに移し、水相を分離した。更に塩化メチレン相を水で3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を1500mLのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを2回再沈殿により精製し、40℃で減圧乾燥して5.6gの樹脂2-a(下記式)を得た。
【0167】
【化42】
【0168】
さらに、窒素ボックス内で100mLのシュレンク管に得られた樹脂2-a1.0g、脱水した塩化メチレン35mL、3-(パーフルオロヘキシル)プロピオニルクロリド1.5gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、窒素フロー下でトリフルオロメタンスルホン酸(以下、「TFMS」という)1.4gを注射器を用いて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で48時間反応させた。反応液を再度、氷水で冷却した後、炭酸水素ナトリウム1.3gを溶解させた水溶液を滴下してTFMSおよび系内の塩酸を中和した。反応液を分液ろうとに移し、水相を分離した。更に塩化メチレン相を水で3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を350mLのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを2回再沈殿により精製し、40℃で減圧乾燥して1.9gの樹脂2-bを得た。
【0169】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂2-b(下記式)は式(1)、式(2)、および式(3)で表される構造単位をそれぞれ20モル%、7モル%、および29モル%有していることを確認した。
【0170】
【化43】
【0171】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,芳香族,-CH=CH-Ph),7.39~6.51(m,芳香族,-CH=CH-Ph),3.12(brs,-CH―C(=O)―),2.52(brs,-CF-CH―), 1.90~1.00(bm,-CH-),0.84(bm,-CH
<絶縁膜および有機トランジスタ素子の作製および評価>
樹脂2-bを用いた以外は実施例1と同様にして、絶縁膜を形成後、有機トランジスタ素子を作製した。そして、絶縁膜および有機トランジスタ素子性能の評価をした。
【0172】
作製した絶縁膜の物性、絶縁性、有機トランジスタ素子性能の評価結果を表1に合わせて示す。実施例1と同様にゲート絶縁膜、有機トランジスタ素子として優れた性能を有することが確認された。
<親撥パターニング膜の作製および評価>
樹脂2-bを用いた以外は実施例1と同様にして、親撥パターニング膜を形成後、パターンを作製した。そして、親撥パターニング膜およびパターンを評価した。
【0173】
作製した親撥パターニング膜およびパターンの評価結果を表1に合わせて示す。実施例1と同様に親撥パターニング膜として優れた性能を有することが確認された。
【0174】
実施例3
<樹脂の合成>
重量平均分子量15万、ポリスチレン含有量が65wt%のポリスチレン-b-ポリ(エチレン・プロピレン)-b-ポリスチレン(SEPS)1.1g、脱水した塩化メチレン30mL、3-(パーフルオロヘキシル)プロピオニルクロリド1.3gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、窒素フロー下でトリフルオロメタンスルホン酸(以下、「TFMS」という)1.2gを注射器を用いて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で48時間反応させた。反応液を再度、氷水で冷却した後、炭酸水素ナトリウム1.2gを溶解させた水溶液を滴下してTFMSおよび系内の塩酸を中和した。反応液を分液ろうとに移し、水相を分離した。更に塩化メチレン相を水で3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を300mLのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを2回再沈殿により精製し、40℃で減圧乾燥して1.7gの樹脂3-a(下記式)を得た。
【0175】
【化44】
【0176】
さらに、窒素ボックス内で100mLのシュレンク管に得られた樹脂3-a1.0g、脱水した塩化メチレン40mL、桂皮酸クロリド0.59gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、窒素フロー下でTFMS1.3gを注射器を用いて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で48時間反応させた。反応液を再度、氷水で冷却した後、炭酸水素ナトリウム1.2gを溶解させた水溶液を滴下してTFMSおよび系内の塩酸を中和した。反応液を分液ろうとに移し、水相を分離した。更に塩化メチレン相を水で3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を350mLのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを2回再沈殿により精製し、40℃で減圧乾燥して1.1gの樹脂3-bを得た。
【0177】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂3-b(下記式)は式(1)、式(2)、および式(3)で表される構造単位をそれぞれ3モル%、24モル%、および29モル%有していることを確認した。
【0178】
【化45】
【0179】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,芳香族,-CH=CH-Ph),7.39~6.51(m,芳香族,-CH=CH-Ph),3.12(brs,-CH―C(=O)―),2.52(brs,-CF-CH―), 1.90~1.00(bm,-CH-),0.84(bm,-CH
<絶縁膜および有機トランジスタ素子の作製および評価>
樹脂3-bを用いた以外は実施例1と同様にして、絶縁膜を形成後、有機トランジスタ素子を作製した。そして、絶縁膜および有機トランジスタ素子性能の評価をした。
【0180】
作製した絶縁膜の物性、絶縁性、有機トランジスタ素子性能の評価結果を表1に合わせて示す。実施例1と同様にゲート絶縁膜、有機トランジスタ素子として優れた性能を有することが確認された。
<親撥パターニング膜の作製および評価>
樹脂3-bを用いた以外は実施例1と同様にして、親撥パターニング膜を形成後、パターンを作製した。そして、親撥パターニング膜およびパターンを評価した。
【0181】
作製した親撥パターニング膜およびパターンの評価結果を表1に合わせて示す。実施例1と同様に親撥パターニング膜として優れた性能を有することが確認された。
【0182】
比較例1
<絶縁膜および有機トランジスタ素子の作製および評価>
樹脂1-aを用いた以外は実施例1と同様にして、絶縁膜を形成後、有機トランジスタ素子を作製した。そして、絶縁膜および有機トランジスタ素子性能の評価をした。
【0183】
該樹脂は光環化性化合物を含まないため絶縁膜が架橋されず、絶縁性に乏しく、また有機半導体の成膜時に絶縁膜が溶解し、有機トランジスタ素子が動作しなかった。
<親撥パターニング膜の作製および評価>
樹脂1-aを用いた以外は実施例1と同様にして、親撥パターニング膜を形成後、パターンを作製した。そして、親撥パターニング膜およびパターンを評価した。
【0184】
作製した親撥パターニング膜は光環化性化合物を含まないため表面粗さに劣り、5~50μmのライン・アンド・スペース全てでパターンが形成できなかった。なお、5~50μmのパターン全てが形成できなかったことについては、図5に示した。
【産業上の利用可能性】
【0185】
汎用溶剤への溶解性、平坦性、絶縁破壊強度に優れ、短時間の光照射により容易に架橋する樹脂、及び該樹脂を用いた絶縁膜を提供できる。
【符号の説明】
【0186】
(A):ボトムゲート-トップコンタクト型有機トランジスタ
(B):ボトムゲート-ボトムコンタクト型有機トランジスタ
(C):トップゲート-トップコンタクト型有機トランジスタ
(D):トップゲート-ボトムコンタクト型有機トランジスタ
1:有機半導体層
2:基板
3:ゲート電極
4:ゲート絶縁膜
5:ソース電極
6:ドレイン電極
図1
図2
図3
図4
図5