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特許6992546光架橋性重合体、絶縁膜、平坦化膜、親撥パターニング膜及びこれを含む有機電界効果トランジスタデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】光架橋性重合体、絶縁膜、平坦化膜、親撥パターニング膜及びこれを含む有機電界効果トランジスタデバイス
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/10 20060101AFI20220127BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20220127BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20220127BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20220127BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C08F8/10
H01L29/28 100A
H01L29/28 280
H01L29/78 617T
H05K3/28 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018011580
(22)【出願日】2018-01-26
(65)【公開番号】P2018154814
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017051670
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥 慎也
(72)【発明者】
【氏名】山川 浩
(72)【発明者】
【氏名】片桐 史章
(72)【発明者】
【氏名】李 延輝
(72)【発明者】
【氏名】弓野 翔平
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-052134(JP,A)
【文献】特開2018-018928(JP,A)
【文献】特開2018-070805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/30
H01L 51/05
H01L 29/786
H05K 3/28
C08F 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)及び式(2)で表される反復単位からなる樹脂又は式(1)及び式(2)で表される反復単位及びエチレン・プロピレンからなる樹脂であって、式(1)及び式(2)の反復単位の総数に対して式(2)の反復単位を20モル%以上含む樹脂。
【化1】
(式(1)中、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を、Sは-O-又は-C(O)-を、pは0又は1を、A、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基を、Yはハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を表す。また、kは0を表す
【化2】
{(式(2)中、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を、Sは-O-又は-C(O)-を、qは0又は1を、A、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基を、Yは式(1)で定義した置換基を、jは0を、mは1を表す。また、Zは式(A)~(D)から選ばれる少なくとも1つの有機基を表す。)
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
(式(A)~(D)中、R及びRはそれぞれ独立して水素、C1~C6のアルキル基、アリール基、またはカルボキシアルキル基を示し、R~R29はそれぞれ独立して水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を表す。)}
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂の架橋物を含有することを特徴とする絶縁膜。
【請求項3】
基板上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した有機半導体層とゲート電極とをゲート絶縁層を介して積層した有機電界効果トランジスタデバイスにおいて、該ゲート絶縁層が請求項2に記載の絶縁膜であることを特徴とする有機電界効果トランジスタデバイス。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂および/または請求項1に記載の樹脂の架橋物を含有することを特徴とする平坦化膜。
【請求項5】
請求項1に記載の樹脂および/または請求項1に記載の樹脂の架橋物を含有することを特徴とする親撥パターニング膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶液状態で塗工することにより平坦性に優れた膜を形成し、短時間の光照射により容易に架橋し、耐溶剤性(耐クラック性)を有しながらも溶剤に対する濡れ性(オーバーコート性)に優れ、高い絶縁破壊強度を有する樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機電界効果トランジスタデバイスに用いられる高分子誘電体層(絶縁膜層)を形成するための樹脂には高絶縁破壊強度、低漏洩電流、汎用有機溶剤への溶解性、耐溶剤性(耐クラック性)を発現させるための架橋性が求められ、更に架橋後の高分子誘電体層には有機溶剤に対する優れた濡れ性、高い平坦性が要求される。
【0003】
絶縁破壊強度はデバイスを構成する誘電体層を破壊させずに印加できる最大の電界値を指す。絶縁破壊強度が高いほどデバイスとしての安定性が高まる。漏洩電流は本来の導電経路以外の経路、例えばゲート電極から絶縁性の有る誘電体層内を通ってソース電極に流れる電流等の大きさを表す指標である。漏洩電流は金属/誘電体/金属の3層構造からなるMIMコンデンサを作製し、誘電体層内を流れる電流値を測定することで求められる。
【0004】
汎用溶剤への溶解性は印刷法により有機電界効果トランジスタデバイスを製造するのに必須の要件であるが、一方、有機電界効果トランジスタデバイスにおいては高分子誘電体層は有機半導体層等のオーバーレイ層と積層される。このため、高分子誘電体層上に溶剤を用いた印刷法によりオーバーレイ層を形成する際には、高分子誘電体は本溶剤(印刷法に用いる溶剤)に対して溶解しないことが必要である。従って、高分子誘電体層(絶縁膜層)に対しては、層を形成する際には汎用の有機溶剤に溶解し、かつ、層を形成した後には有機溶剤に対し不溶でなければならないという相反する性能が要求される。
【0005】
このような要求に対応する技術として溶液製膜した高分子誘電体層を架橋する技術が知られている。例えば、ベンゾシクロブテン樹脂、ポリビニルフェノール樹脂が知られているが、ベンゾシクロブテン樹脂は架橋温度が250℃と高くプラスチックを基材として用いた場合、基材が熱変形を起こすため、その使用が難しく、また硬化時間が長く経済性にも劣っていた。更に、ロールTOロールプロセスへの適用が極めて難しい上に、デバイス性能を左右する膜の平坦性も十分とは言えなかった。ポリビニルフェノールは架橋剤としてメラミン樹脂等を用い150℃前後の温度において長時間の硬化反応が必要でありロールTOロールプロセスへの適用が極めて難しい。また、ポリビニルフェノール樹脂の水酸基は完全に消失せず、残存する水酸基による親水性などが原因と推定される漏洩電流の高さが問題となっている。更に、膜の平坦性も十分とは言えなかった。
【0006】
また、高分子誘電体層(絶縁膜層)に用いられる架橋を必要としないタイプの樹脂としてフッ素系環状エーテル樹脂、ポリパラキシリレン樹脂等の利用が提案されている。フッ素系環状エーテル樹脂は製膜後、汎用の有機溶剤には溶解しないため架橋しない状態でも汎用溶剤に対し不溶であるという長所があるが、経済性に劣るものである。更に、本材料は表面張力が低いため基材に対する濡れ性が悪く、塗工または印刷できる基材にも大きな制約があった。また、濡れ性が悪いためピンホールを形成しやすく漏洩電流が高いという問題もあった。ポリパラキシリレン樹脂は真空蒸着法によりモノマーを基板上に蒸着させ、基板上で重合して製膜されるため汎用溶剤には溶解しない長所があるものの、印刷プロセス、及び、ロールTOロールプロセスに対応出来ないという致命的な欠陥を有している。
【0007】
低温で架橋可能であり、かつ架橋時間を短縮する手段として光架橋技術が知られている。例えば、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ビニルフェノール-メタクリル酸メチル共重合体、ポリメタクリル酸アセトキシエチル、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル等の水酸基を側鎖に有するポリマーに対し、シンナモイル基等の光架橋性を有する化合物を反応させた光架橋性ポリマーを高分子誘電体として用いる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、フェノール基を側鎖に有するビニルポリマーに光架橋性基としてクマリンを導入した光架橋性ポリマーが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献1、及び特許文献2で開示されている技術では何れも、水酸基含有ポリマー中に存在している水酸基を全て光架橋性化合物と反応させることは難しく、水酸基の残存は避けられない。その結果、これらのポリマーを絶縁膜として用いた場合には漏洩電流値、及び/又はヒステリシスの増大を招く。また、特許文献1では、未反応の水酸基を無水トリフルオロ酢酸と反応させてエステル化することで残存水酸基量を低減する技術についても開示している。しかし、水酸基を完全に消失させることは極めて難しい上、フッ素化合物の導入により有機溶剤に対する濡れ性が低下するという弊害がある。
【0008】
また、ポリ(桂皮酸ビニル)を有機電界効果トランジスタデバイスの高分子誘電体層として利用する技術が提案されているが(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)、溶液塗布された高分子誘電体層(絶縁膜層)の平坦性は0.7nm程度であり更なる平坦化が求められていた。
【0009】
これら以外にも感光性樹脂に関する技術が知られており、例えばポリスチレン、ポリ-α-メチルスチレン等の芳香族ビニル重合体に光反応性基を有する化合物をフリーデル・クラフツ・アシル化反応により導入した感光性樹脂に関する技術が1950年代に開示されている。しかし、本技術では感光時間を短縮するため光反応性基を多く導入しようとすると樹脂が製造工程中ゲル化するという問題を有していた。そのため、光反応性基の導入量はポリマーを構成する単量体の総モル数に対し17モル%未満とする必要があった(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。従って、光照射により反応(架橋)する該感光性樹脂を前述の高分子誘電体層として用いた場合、光反応性基の濃度が小さいため、光架橋した膜の架橋密度が低くなる。その結果、該膜上に有機半導体の有機溶剤溶液、又はポリマー溶液等を印刷した際、該架橋膜が溶剤を吸収して膨潤する。この膜を乾燥すると膜が再度収縮し、この収縮過程で膜にクラックが発生するという問題を有していた。更に、光反応性基の濃度が低い為、架橋時間が長く生産性が低いという問題も有していた。
【0010】
上記のように従来知られている高分子誘電体層(絶縁膜層)に用いられる樹脂は汎用溶剤への溶解性、架橋温度、架橋に要する時間、耐溶剤性(耐クラック性)、溶剤に対する濡れ性、漏洩電流、絶縁破壊強度、膜にした場合の平坦性に関し何らかの課題を有しており、これらの課題を全て解決できる樹脂及び該樹脂を含む高分子誘電体層(絶縁膜層)が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5148624号
【文献】特許第5960202号
【文献】米国特許2566302号
【文献】米国特許2708665号
【非特許文献】
【0012】
【文献】アプライド・フィジクス・レターズ誌、92巻、143306頁(2008年)
【文献】アプライド・フィジクス・レターズ誌、95巻、073302頁(2009年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、汎用溶剤への溶解性、架橋温度、架橋に要する時間、耐溶剤性(耐クラック性)、溶剤に対する濡れ性、漏洩電流、絶縁破壊強度の点で優れた性能を有する高分子誘電体層(絶縁膜層)を製造出来る樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の樹脂が絶縁膜に求められる汎用溶剤への溶解性、架橋温度、架橋に要する時間、耐溶剤性(耐クラック性)、溶剤に対する濡れ性、漏洩電流、絶縁破壊強度の何れにも優れていることを見出し本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は式(1)及び式(2)で表される反復単位を含む樹脂であって、式(1)及び式(2)の反復単位の総数に対して式(2)の反復単位を20モル%以上含む樹脂、該樹脂を用いた絶縁膜、及び該絶縁膜を用いてなる有機電界効果トランジスタデバイスに関するものである。
【0016】
【化1】
【0017】
(式(1)中、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を、S1は-O-又は-C(O)-を、pは0又は1を、AはC6~C19のアリール基を、Yはハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を表す。また、kは0~(s-1)の整数を表す。ここで、sはA1を構成する炭素数を表す。)
【0018】
【化2】
【0019】
{(式(2)中、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を、S2は-O-又は-C(O)-を、qは0又は1を、AはC6~C19のアリール基を、Yは式(1)で定義した置換基を、jは0~(r-2)の整数を、mは1~(r-j-1)の整数を表す。ここで、rはAを構成する炭素数を表す。また、Zは式(A)~(D)から選ばれる少なくとも1つの有機基を表す。)
【0020】
【化3】
【0021】
【化4】
【0022】
【化5】
【0023】
【化6】
【0024】
(式(A)~(D)中、R及びRはそれぞれ独立して水素、C1~C6のアルキル基、アリール基、またはカルボキシアルキル基を示し、R~R29はそれぞれ独立して水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を表す。)}
以下に本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明の樹脂は、上式(1)及び上式(2)の反復単位を含む。
【0026】
式(1)中、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を示す。
【0027】
式(1)中のRにおけるC1~C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
【0028】
式(1)中、Sは-O-または-C(O)-を示す。
【0029】
式(1)中、pは0または1を示す。
【0030】
式(1)中、AはC6~C19のアリール基を示す。
【0031】
式(1)中のAにおけるC6~C19のアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0032】
式(1)中、Yはハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を表す。
【0033】
式(1)中のYにおけるハロゲンとしては特に制限がなく、例えば、塩素、フッ素等が挙げられる。
【0034】
式(1)中のYにおけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0035】
式(1)中のYにおけるアルキルエーテル基としては特に制限がなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0036】
式(1)中のYにおけるC1~C18のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
【0037】
式(1)中のYにおけるフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、1,1,1-トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロブチル基等が挙げられる。
【0038】
式(1)中のYにおけるシクロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる
式(1)中、kは0~(s-1)の整数を表す。ここで、sはAを構成する炭素数を表す。
【0039】
式(2)中、Rは水素またはC1~C6のアルキル基を示す。
【0040】
式(2)中のRにおけるC1~C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
【0041】
式(2)中、Sは-O-または-C(O)-を示す。
【0042】
式(2)中、qは0または1を示す。
【0043】
式(2)中、AはC6~C19のアリール基を示す。
【0044】
式(2)中のAにおけるC6~C19のアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0045】
式(2)中、Yは式(1)で定義した置換基と同様の置換基を表す。
【0046】
式(2)中、mは1~(r-j-1)の整数を表す。ここで、rはA2を構成する炭素数を表し、jは0~(r-2)の整数を表す。
【0047】
式(2)中、Zは式(A)~(D)から選ばれる少なくとも1つの有機基を表す。
【0048】
式(A)~式(D)中、R及びRはそれぞれ独立して水素、C1~C6のアルキル基、アリール基、またはカルボキシアルキル基を示し、R~R28はそれぞれ独立して水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1~C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を表す。
【0049】
式(A)~式(D)中のR及びRにおけるC1~C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
【0050】
式(A)~式(D)中のR及びRにおけるアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0051】
式(A)~式(D)中のR及びRにおけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0052】
式(A)~式(D)中のR~R29におけるハロゲンとしては特に制限がなく、例えば、塩素、フッ素等が挙げられる。
【0053】
式(A)~式(D)中のR~R29におけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0054】
式(A)~式(D)中のR~R29におけるアルキルエーテル基としては特に制限がなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0055】
式(A)~式(D)中のR~R29におけるアリールエーテル基としては特に制限がなく、例えば、フェノキシ基、p-メチルフェノキシ基、p-エチルフェノキシ基、p-メトキシフェノキシ基等が挙げられる。
【0056】
式(A)~式(D)中のR~R29におけるC1~C18のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-デシル基、n-オクタデシル基等が挙げられる。
【0057】
式(A)~式(D)中のR~R29におけるフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、1,1,1-トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロブチル基等が挙げられる。
【0058】
式(A)~式(D))中のR~R29におけるシクロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0059】
具体的な式(A)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0060】
【化7】
【0061】
具体的な式(B)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0062】
【化8】
【0063】
具体的な式(C)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0064】
【化9】
【0065】
具体的な式(D)で表される有機基としては、例えば、以下のものを挙げることが出来る。
【0066】
【化10】
【0067】
本発明で用いられる具体的な式(1)及び式(2)の反復単位を含む重合体は芳香族基を含有し、かつ、酸クロライドと反応する水酸基、アミノ基、チオール基等を含有していなければ何ら制限なく用いることが出来る。
【0068】
本発明において、上式(1)及び上式(2)の反復単位を有する樹脂の分子量に対しては何らの制限もなく、例えば、200~10,000,000(g/モル)のものを用いることが出来る。得られる樹脂の溶液粘度、及び力学強度の観点から、好ましくは10,000~1,000,000(g/モル)である。
【0069】
本発明で用いる上式(1)及び上式(2)の反復単位を有する樹脂は光環化性化合物をフリーデルクラフツ・アシル化反応により芳香族基含有重合体に導入することで得られる。ここで、本発明において、該光環化性化合物が一定量以上導入されることで膜とした場合の平坦性が優れ、短時間で光架橋可能となるものであり、芳香族基含有共重合体のみでは平坦性に劣り、光架橋することは出来ない。
【0070】
本発明において、光環化性化合物は、下記式(3)で表される桂皮酸クロリド化合物、下記式(4)で表されるフェニルエテニル安息香酸クロリド化合物、下記式(5)で表されるピリジニルエテニル安息香酸クロリド、下記式(6)で表されるクマリン―6-カルボン酸クロリドを示す。この中で、製造が容易である桂皮酸クロリドを用いるのが好ましい。また、これらの化合物は必要に応じて2種以上を併用することも出来る。
【0071】
【化11】
【0072】
【化12】
【0073】
【化13】
【0074】
【化14】
【0075】
(式(3)~(6)中、R~R29は式(A)~(D)で定義したものと同様である。)
式(1)及び式(2)の反復単位を有する樹脂に対する前述の酸クロリドの仕込み量は、得られる樹脂の有機溶剤に対する溶解性、及び保存安定性を高めるため、該樹脂が含有する芳香族基1モルに対し0.2~2.0モルであることが好ましく、さらに好ましくは0.2~1.5モルである。反応で芳香族基に導入される光反応性基の量は、有機溶剤に対する溶解性、保存安定性、光架橋のし易さ、及び光架橋後の樹脂層の耐溶剤性(耐クラック性)の観点から、0.2~1.0モルであることが好ましく、更に好ましくは0.2~0.7モルである。
【0076】
フリーデルクラフツ・アシル化反応により光反応性基が導入される芳香族基含有重合体としては、後述の反応触媒に対し不活性である限り何らの制限もなく、例えば、ポリ-α-メチルスチレン、ポリ-p-メトキシスチレン、シンジオポリスチレン等のポリスチレン;ポリビニルナフタレン、ポリビニルビフェニル、ポリビニルアントラセン、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルフェニルケトン等のポリビニルアリールケトン;スチレンブタジエン共重合体;エチレン・スチレン共重合体;スチレン・アクリロニトリル共重合体;スチレン・アルキルアクリレート共重合体;スチレン・アルキルメタアクリレート共重合体;スチレン・α-フェニルアルキルアクリレート共重合体;スチレン・無水マレイン酸共重合体;スチレン・アクリル酸共重合体;スチレン・4-ビニルピリジン共重合体;スチレン・トランス-1,3-ペンタジエン共重合体;スチレン・2,4,6-トリメチルスチレン共重合体;スチレン・p-アセトキシスチレン共重合体;スチレン・ビニル-トリス(トリメトキシシロキシ)シラン共重合体;スチレン・ビニルベンゾエート共重合体;スチレン・ビニルブチルエーテル共重合体;ポリフェニルビニルケトン等のポリアリールビニルケトン類;石油樹脂等が例示されるが、誘電率を低くして漏洩電流を低減させるため、芳香族炭化水素及び脂肪族炭化水素のみから構成されている重合体を用いるのが好ましい。また、これらの共重合体は2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0077】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応は、反応触媒を用いて実施することができる。
【0078】
本発明では公知の超強酸を反応触媒として使用することができ、超強酸であれば何ら制限は無く、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸、フルオロアンチモン酸、カルボラン酸が例示される。該触媒の添加量は、該反応後の中和操作が煩雑になるのを回避し、かつ、反応率の低下を防ぐため上述の酸クロリドに対し0.1~1.5倍モルであることが好ましい。
【0079】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応は発熱反応であり、かつ、本反応系において光反応性基が加熱により架橋する副反応を生じさせる場合がある。従って、本発明では、該副反応を抑制するため、反応温度制御が容易な溶液反応により実施するのが好ましい。本発明において該溶液反応で用いられる反応溶剤はフリーデルクラフツ反応に対して安定であれば何ら制限なく使用でき、反応に対し不活性である十分に脱水された塩素系炭化水素溶剤、脂肪族炭化水素溶剤、含硫黄溶剤、ニトリル系溶剤等が好適に用いられる。塩素系炭化水素溶剤としては、塩化メチレン、四塩化炭素、1,1,2-トリクロロエタン、クロロホルム等が、脂肪族炭化水素溶剤としてはシクロヘキサン等が、含硫黄溶剤としては、二硫化炭素、スルホンジメチルスルホキシド、ジメチルスルフェート、ジメチルスルホン等が、ニトリル系溶剤としてはアセトニトリルが例示される。
【0080】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応において、反応温度に特に制限はないが、冷却及び加熱に係る経済性の観点から0℃から40℃が好ましい。また、必要に応じて用いる溶剤の還流温度で実施することも可能であるが、200℃未満の温度が好ましい。
【0081】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応において、反応時間は特に制限はなく、例えば、5時間から100時間が挙げられる。反応率及び経済性の観点から、好ましくは10時間から50時間である。
【0082】
また、式(1)及び式(2)の反復単位を有する樹脂は溶解性が損なわれない限り、重合体分子が光反応性基の環化に基づく構造を含有していても良い。
【0083】
該光反応性基の環化に基づく構造としては、下記式(7)~(10)で表される構造が挙げられる。
【0084】
【化15】
【0085】
【化16】
【0086】
(式(7)、式(8)中、R~Rは式(3)と同様である)
【0087】
【化17】
【0088】
【化18】
【0089】
(式(9)、式(10)中、R、R、R10~R18は式(4)と同様である)
【0090】
【化19】
【0091】
【化20】
【0092】
(式(11)、式(12)中、R、R、R19~R26は式(5)と同様である)
【0093】
【化21】
【0094】
【化22】
【0095】
(式(13)、式(14)中、R、R、R27~R29は式(6)と同様である)
また、式(1)及び式(2)の反復単位を有する樹脂は、例えば、下記に示すような光反応性基の2量化物を含んでいても良い。
【0096】
【化23】
【0097】
【化24】
【0098】
【化25】
【0099】
(式(15)、式(16)、及び式(17)において、R、R~R26は式(A)~式(C)で定義したものと同様である。a、b及びcは0~4の整数を表し、Rは式(A)で定義したR~Rから選ばれるa個の置換基、Rは式(B)で定義したR14~R18から選ばれるb個の置換基、Rは式(C)で定義したR23~R26から選ばれるc個の置換基を表す。)
上式(1)及び上式(2)の反復単位を有する樹脂を溶剤に溶解させた溶液を用いて種々の基材上に塗工又は印刷することが出来る。
【0100】
該溶剤としては、該樹脂を溶解する溶剤であれば何ら制限なく用いることができ、例えば、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、N-ヘキシルベンゼン、テトラリン、デカリン、イソプロピルベンゼン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素;塩化メチレン、1,1,2-トリクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の脂肪族環状エーテル化合物;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;エチルアセテート、ジメチルフタレート、サリチル酸メチル、アミルアセテート等のエステル化合物;n-ブタノール、エタノール、iso-ブタノール等のアルコール類;1-ニトロプロパン、2硫化炭素、リモネン等が例示され、これらの溶剤は必要に応じて混合して使用することが出来る。
【0101】
本発明に係る樹脂は、例えば、スピンコーティング、ドロップキャスト、ディップコーティング、ドクターブレードコーティング、パッド印刷、スキージコート、ロールコーティング、ロッドバーコーティング、エアナイフコーティング、ワイヤーバーコーティング、フローコーティング、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、凸版反転印刷等を用いて印刷することが出来る。なお、本発明の絶縁膜はこれらの方法を用いて形成されるものであるため、本発明の絶縁膜は汎用溶剤に対する溶解性に優れることが必要となる。
【0102】
本発明に係る樹脂を絶縁膜として用いる場合、該膜を形成した状態、または必要に応じて光架橋(光環化)した架橋物として用いることができる。なお、本発明において該膜を形成した後、光架橋せずに絶縁膜として用いる場合には、該膜を形成するのに用いる汎用溶剤には良好な溶解性を示し、更に、該膜の上部に該汎用溶剤とは異なる溶剤を用いて有機半導体層を形成可能なことが必要となる。この際、該膜が有機半導体溶液に対して耐溶剤性(耐クラック性)を持つとき、該膜を形成した状態のままで絶縁膜として用いることが出来る。なお、耐溶剤性(耐クラック性)に優れるものではない場合、印刷法による製膜ができず、印刷法に比べ経済性に劣る蒸着法等の方法により製膜する必要がある。
【0103】
本発明に係る樹脂を絶縁膜として用いる場合、光架橋(光環化)には放射線が用いられ、例えば、波長245~350nmの紫外線が例示される。照射量は樹脂の組成により適宜変更されるが、例えば、150~3000mJ/cmが挙げられ、架橋度の低下を防止し、かつ、プロセスの短時間化による経済性の向上のため、好ましくは50~1000mJ/cmである。紫外線の照射は通常大気中で行うが、必要に応じて不活性ガス中、または一定量の不活性ガス気流下で行うことも出来る。必要に応じて光増感剤を添加して光架橋反応を促進させることも出来る。用いる光増感剤には何ら制限はなく、例えば、ベンゾフェノン化合物、アントラセン化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物、ニトロフェニル化合物等が例示されるが、本発明で用いられる樹脂との相溶性が高いベンゾフェノン化合物が好ましい。また、該増感剤は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0104】
本発明の樹脂は紫外線により架橋出来るが、必要に応じて加熱しても良い。紫外線照射に加えて加熱する場合の温度は特に制限されないが、用いる樹脂の熱変形を避けるため120℃以下の温度が好ましい。
【0105】
また、本発明の樹脂は、短時間で効率良く架橋することができるものであり、架橋に要する時間を5分以内とすることができる。なお、架橋時間の制御に好適であることから、架橋に要する時間を1~2分以内とすることが好ましい。
【0106】
本発明の樹脂を製膜して有機電界効果トランジスタ(OFET)におけるゲート絶縁層(高分子誘電体層)として用いることができる。該有機電界効果トランジスタは、例えば、基板上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した有機半導体層とゲート電極とをゲート絶縁層(高分子誘電体層)を介して積層することにより得ることができる。
【0107】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜は、漏電の原因となる微細な穴(ピンホール)の形成が抑制されるため、低漏洩電流である。また、該絶縁膜は、高分子誘電体層として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、漏洩電流が0.01nA以下であることが好ましい。
【0108】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜は溶剤に対する濡れ性に優れるものであり、ゲート絶縁層(高分子誘電体層)として用いられる場合、ボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型及びトップゲート・トップコンタクト(TGTC)型の有機電界効果トランジスタデバイスにおいて該層上のS(ソース)電極及びD(ドレイン)電極を覆う適量の有機半導体溶液を塗布したとき、電極上をくまなく覆うことができるものである。
【0109】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜は優れた平坦性を有するものであり、ゲート絶縁層(高分子誘電体層)として用いられる場合、平坦性の観点から、表面粗さ(Ra)が0.5nm以下であることが好ましい。
【0110】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜を、ゲート絶縁層(高分子誘電体層)として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該FET素子の閾値電圧が0を超えて2.0V以下、または-2.0V以上で0Vより小さいことが好ましい。
【0111】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜を、ゲート絶縁層(高分子誘電体層)として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該FET素子の移動度が0.20cm/Vs以上であることが好ましい。
【0112】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜を、ゲート絶縁層(高分子誘電体層)として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該FET素子のオン電流/オフ電流比が10以上であることが好ましい。
【0113】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜を、ゲート絶縁層(高分子誘電体層)として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該FET素子のソース・ドレイン間電流のヒステリシスが無いことが好ましい。
【0114】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜を、ゲート絶縁層(高分子誘電体層)として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該FET素子の絶縁破壊強度が4MV/cm以上であることが好ましい。
【0115】
本発明において、該有機電界トランジスタ(OFET)はボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型、ボトムゲート・トップコンタクト(BGTC)型、トップゲート・ボトムコンタクト(TGBC)型、トップゲート・トップコンタクト(TGTC)型の何れでも良い。ここで、これらの各種構造の有機電界トランジスタの内、例えば、ボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型素子の構造は、図1で示される。
【0116】
本発明の樹脂は、本発明の樹脂および/または本発明の樹脂の架橋物を含有する平坦化膜として好適に用いられ、特に連続印刷可能な絶縁性の平坦化膜として好適に用いられる。ここで、平坦化膜は、基材上に塗工し、基材自体の表面粗さを低減させる目的で用いられる絶縁性樹脂からなる膜である。
【0117】
本発明の樹脂から得られる平坦化膜は前述の有機溶剤に溶解させて連続印刷が可能であり、絶縁性、及び平坦性に優れており、親撥パターニング膜として特に好適に用いることができる。ここで、親撥パターニングとは、真空紫外線(VUV)を用いてプラスチック表面上を親水化してパターニングする技術であり、該技術を用いてパターニングされた表面を有する膜を親撥パターニング膜というものである。本発明の新撥パターニング膜は、従来のパリレン膜を用いたものと異なり、水系金属ナノインクを塗布した際の欠陥発生が防止できる点でも好適である。
【0118】
本発明において、親撥パターニングには、波長が10nm~200nmの真空紫外線(VUV)を、クロムパターンを有するフォトマスクを介して親撥パターニング膜に照射することにより行うことが好ましい。光源と該膜の距離、及び、マスクと該膜の距離は用いる親撥パターニング膜の組成により適宜選択される。また、VUVを照射する際、大気~窒素にわたる種々の組成の気体下で行うことが出来る。VUVの照射時間は良好な親撥パターニングが行える限り何らの制限もないが、より膜の劣化防止に好適であり、かつ、より十分な親撥パターニングに好適であることから、100~1000秒の範囲であることが好ましい。
【0119】
親撥パターニングにより疎水性の該膜上に親水性のパターンが描画されるが、この際、疎水性領域と親水性領域の水に対する接触角はそれぞれ100°以上、20°以下であることが好ましく、これら接触角の差が80°以上であることが好ましい。また、疎水性領域と親水性領域の表面張力差が40mN/mであることが好ましい。この状態で乾燥、必要に応じて加熱焼成するとき、より好適にマイクロメートルサイズの微細な金属配線パターンを形成することが出来る。乾燥温度、及び加熱焼成温度は基材、親撥パターニング膜に影響が無い限り何ら制限されず、乾燥温度は10~50℃が好適に用いられ、加熱焼成温度は100~180℃が好適に用いられる。
【0120】
親撥パターニング膜における解像度は用途により適宜選択されるが、実用性の観点から10μm以下が好ましい。ここで、本発明において、「解像度」とは幅がAミクロンの直線状の電極配線(ライン)がAミクロンの間隔(スペース)で等間隔に並んでいるマスクを用いて光パターニングした後、金属ナノインクにより配線を形成した際に、マスク通りの形状の配線が形成出来る最小のAの値をいう。この場合、ライン・アンド・スペースがAミクロンの解像度となる。
【0121】
本発明の樹脂が親撥パターニング膜として用いられるとき、本発明で用いることが出来る金属ナノインク、及び該インクが含有する金属ナノ粒子濃度は、低抵抗の金属配線が形成出来る限り何らの制限もないが、例えば、金、銀、白金等の金属ナノ粒子を含むインクが挙げられ、固形分濃度は例えば5~50wt%のものを挙げることが出来る。また該金属ナノ粒子を分散させる媒体として水、または水・アルコール混合溶剤を用いたインクが例示される。アルコールの種類は水と相溶する限り何らの制限もなく、例えば、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0122】
本発明の樹脂から得られる平坦化膜を、親撥パターニング膜として用いて電極を形成する場合、該電極を含む有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該FET素子の閾値電圧が0を超えて2.0V以下、または-2.0V以上で0Vより小さいことが好ましい。
【0123】
本発明の樹脂から得られる平坦化膜を、親撥パターニング膜として用いて電極を形成する場合、該電極を含む有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該FET素子の移動度が0.20cm/Vs以上であることが好ましい。
【0124】
本発明の樹脂から得られる平坦化膜を、親撥パターニング膜として用いて電極を形成する場合、該電極を含む有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該FET素子のオン電流/オフ電流比が10以上であることが好ましい。
【0125】
本発明の樹脂から得られる平坦化膜を、親撥パターニング膜として用いて電極を形成する場合、該電極を含む有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該FET素子のソース・ドレイン間電流のヒステリシスが無いことが好ましい。
【0126】
該OFETにおいて、用いることが出来る基材は素子を作製できる十分な平坦性を確保できれば特に制限されず、例えば、ガラス、石英、酸化アルミニウム、ハイドープシリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;プラスチック;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属;セラミックス;コート紙;表面コート不織布等が挙げられ、これらの材料からなる複合材料又はこれらの材料を多層化した材料であっても良い。また、表面張力を調整するため、これらの材料表面をコーティングすることも出来る。
【0127】
基材として用いるプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン-1、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、フッ素化環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリ(ジイソプロピルマレエート)、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリアミドエラストマー、スチレンブロック共重合体等が例示される。また、上記のプラスチックを2種以上用いて積層して基材として用いることができる。
【0128】
本発明で用いることが出来る導電性のゲート電極、ソース電極、又はドレイン電極としては、金、銀、アルミニウム、銅、チタン、白金、クロム、ポリシリコン、シリサイド、インジウム・錫・オキサイド(ITO)、酸化錫等の導電性材料が例示される。また、これらの導電材料を複数、積層して用いることもできる。
【0129】
また、BGTC型素子では前記の基材上または有機半導体層の上に電極を形成する。この場合、電極の形成方法としては特に制限はなく、蒸着、高周波スパッタリング、電子ビームスパッタリング等が挙げられ、前記導電性材料のナノ粒子を水又は有機溶剤に溶解させたインクを用いて、溶液スピンコート、ドロップキャスト、ディップコート、ドクターブレード、ダイコート、パッド印刷、ロールコーティング、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、凸版反転印刷等の方法を採用することも出来る。また、必要に応じて電極上にフルオロアルキルチオール、フルオロアリルチオール等を吸着させる処理を行っても良い。
【0130】
本発明で用いることが出来る有機半導体には何ら制限はなく、N型及びP型の有機半導体の何れも使用することができ、N型とP型を組み合わせたバイポーラトランジスタとしても使用でき、例えば式(F-1)~(F-10)等が例示される。
【0131】
【化26】
【0132】
【化27】
【0133】
【化28】
【0134】
【化29】
【0135】
【化30】
【0136】
【化31】
【0137】
【化32】
【0138】
【化33】
【0139】
【化34】
【0140】
【化35】
【0141】
本発明において、低分子及び高分子の有機半導体の何れも用いることができ、これらを混合して使用することも出来る。
【0142】
本発明において、有機半導体層を形成する方法としては、有機半導体を真空蒸着する方法、または有機半導体を有機溶剤に溶解させて塗布、印刷する方法等が例示されるが、有機半導体層の薄膜を形成出来る方法であれば何らの制限もない。有機半導体層を有機溶剤に溶解させた溶液を用いて塗布、または印刷する場合の溶液濃度は有機半導体の構造及び用いる溶剤により異なるが、より均一な半導体層の形成及び層の厚みの低減の観点から、0.5%~5重量%であることが好ましい。この際の有機溶剤としては有機半導体が製膜可能な一定の濃度で溶解する限り何ら制限はなく、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、デカリン、インダン、1-メチルナフタレン、2-エチルナフタレン、1,4-ジメチルナフタレン、ジメチルナフタレン異性体混合物、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、メシチレン、イソプロピルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、テトラリン、オクチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、γ-ブチロラクトン、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、ベンジルアルコール、グリセリン、シクロヘキサノールアセテート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン、3-メトキシブチルアセテート、シクロヘキサノールアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、エチルアセテート、フェニルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-N-プロピルエーテル、テトラデカヒドロフェナントレン、1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロフェナントレン、デカヒドロ-2-ナフトール、1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフトール、α-テルピネオール、イソホロントリアセチンデカヒドロ-2-ナフトール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、2,6-ジメチルアニソール、1,2-ジメチルアニソール、2,3-ジメチルアニソール、3,4-ジメチルアニソール、1-ベンゾチオフェン、3-メチルベンゾチオフェン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセトフェノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、リモネン等が例示されるが、好ましい性状の結晶膜を得るためには有機半導体の溶解力が高く、沸点が100℃以上の溶剤が適しており、キシレン、イソプロピルベンゼン、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン、1,2-ジクロロベンゼン、3,4-ジメチルアニソール、ペンチルベンゼン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、デカヒドロ-2-ナフトールが好ましい。また、前述の溶剤2種以上を適切な割合で混合した混合溶剤も用いることが出来る。
【0143】
有機半導体層には必要に応じて各種有機・無機の高分子若しくはオリゴマー、又は有機・無機ナノ粒子を固体若しくは、ナノ粒子を水若しくは有機溶剤に分散させた分散液として添加でき、上記高分子誘電体層上に高分子溶液を塗布して保護膜を形成出来る。更に、必要に応じて本保護膜上に各種防湿コーティング、耐光性コーティング等を行うことが出来る。
【発明の効果】
【0144】
本発明により汎用溶剤への溶解性、架橋温度、架橋に要する時間、耐溶剤性(耐クラック性)、絶縁破壊強度、漏洩電流、溶剤に対する濡れ性、膜とした場合の平坦性の点で、優れた性能を有する高分子誘電体層に好適な樹脂を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
図1】;ボトムゲート-ボトムコンタクト(BGBC)型素子の断面形状を示す図である。
図2】;実施例1で製造した樹脂1のH-NMRチャートを示す図である。
図3】;実施例1で製造したOFET素子においてゲート電圧(VGS)を変化させた際に観測されるソース-ドレイン間電流(ISD)(実線)にヒステリシスが見られず、漏洩電流値(I)(破線)が0.01nA以下と極めて小さいことを示す図である。
図4】;トップゲート・ボトムコンタクト(TGBC)型素子の断面形状を示す図である。
図5】;実施例9において親撥パターニングにより形成したAg配線のテストパターンを示す図である。
【実施例
【0146】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例において用いた有機半導体(ジ-n-ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン)は、特開2015-224238号公報の製造方法に従って合成した。用いた光環化性化合物のうち、2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-6-カルボニルクロリド(下記式(G))はCN103183634号に従い、4-[2-(4-ピリジニル)エテニル]ベンゾイルクロリド(下記式(H))はジュルナール・フュア・プラクティッシェ・ヘミー、6巻、72頁(1958年)記載の方法に従って合成した。また、桂皮酸クロリド(下記式(I))は東京化成製の試薬を用いた。また、Agナノインク(銀ナノ粒子を含むインク)は三菱マテリアル株式会社製の銀ナノコロイドH-1を用いた。
【0147】
【化36】
【0148】
【化37】
【0149】
【化38】
【0150】
実施例において、NMR、スピンコート、膜厚測定、ディスペンサー印刷、UV照射、真空蒸着、架橋に必要なUV照射量、高分子誘電体層の溶剤に対する濡れ性、絶縁破壊強度、OFET素子の評価、耐溶剤性(耐クラック性)の評価については、以下に示す条件・装置で実施した。
<NMR>
JNM-ECZ400S FT-NMR(日本電子(株)製)を用いて測定した。なお、芳香族基中の光環化基のモル分率XはH-NMR測定により得られたピークの積分強度を用いて下記式により求めることが出来る。
【0151】
X=(P-1)×I/{(N+1)×I-M×I
(ここで、Iはδ0.8~δ2.04ppmに存在するピークの積分値を、Iはδ6.50~δ7.6ppmに存在するピークの積分値を表し、Pは光環化基に存在する水素の総数を、Nはメチレン、メチン、及びメチル基の総数を、Mは芳香族基の水素の総数を表す。)
<スピンコート>
ミカサ株式会社製MS―A100を用いた。
<膜厚測定>
ブルカー社製DektakXTスタイラスプロファイラーを用いて測定した。
<ディスペンサー印刷>
武蔵エンジニアリング(株)製IMAGE MASTER 350PC SMARTを用いた。
<UV照射>
(株)ジーエス・ユアサ コーポレーション製UV-System、CSN-40A-2を用い、UV強度4.0kWの条件で、搬送速度を変えてUV照射時間を調整した。
<真空蒸着>
アルバック機工社製 小型真空蒸着装置VTR-350M/ERHを用いた。
<架橋に必要なUV照射量>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(コーニング社製Eagle XG)上に樹脂の溶液を膜厚500nmとなるようにスピンコート製膜し、十分に乾燥させた。この時点の初期膜厚(A)を測定した上で、UV照射量を変えて得られた架橋膜をトルエンに1時間浸漬、乾燥後の膜厚(B)を測定した。これらの膜厚を用い、下記式
残膜率=膜厚(B)/初期膜厚(A)×100
で与えられる残膜率が95%以上となるUV照射量を架橋に必要な照射量とした。
<高分子誘電体層の溶剤に対する濡れ性>
樹脂の架橋膜上に表面張力が異なる5種の溶剤(トルエン、テトラリン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン)をそれぞれ1μl滴下した。S電極及びD電極を覆う適量の有機半導体溶液を塗布したとき、液滴を塗布した瞬間の形状を維持するか、又は濡れ広がれば、電極上をくまなく覆うことが出来るため、この場合を良好(1点)として評価した。一方、該液滴が収縮する場合、及び/又は移動する場合には電極上を覆うことが出来なくなるため、液が収縮及び/又は移動した場合を不良(0点)として評価した。全ての溶剤で良好な結果が得られた場合5点となる。
<絶縁破壊強度>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(コーニング社製Eagle XG)に銀を真空蒸着し、厚み30nmの電極を形成した。その後、電極を形成した基材上に誘電体(絶縁体)を製膜し、誘電体層上に金電極を真空蒸着してMIMコンデンサを作製して上記の銀-金電極間に電圧をかけて、絶縁破壊により電流が誘電体層内部を流れ始める電圧を測定し、誘電体層の厚みで割った値を絶縁破壊強度とした。
<FET素子の評価>
有機電界効果トランジスタの一形態であるボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型素子を作製し、ケースレイ社製半導体パラメータアナライザーSCS4200を用い、ソース・ドレイン間電圧をマイナス60ボルトとして、ゲート電圧を変化させることにより、移動度、漏洩電流、オン電流/オフ電流比、ソース・ドレイン間電流のヒステリシス、閾値電圧を評価した。
<耐溶剤性(耐クラック性)>
サイズ5cm×5cm、厚み100ミクロンのPETフィルム(帝人デュポンフィルム製)上に、スピンコータ―を用いて厚み600nmの絶縁膜を形成後、光環化(光架橋)を行った。このフィルムをトルエンに1時間浸漬後、取り出して常温でトルエンを揮発させ、フィルム表面を形状測定レーザーマイクロスコープ((株)キーエンス製VK-X100)によりフィルム表面上のミクロクラックの有無を確認した。
【0152】
以下に実施例を示すが、反応、精製、乾燥は全てイエローライト下、又は遮光下で行った。なお、実施例において、イエローライト下又は遮光下で行ったのは、光環化性化合物の光環化反応、及び光環化性化合物が導入された樹脂の光環化反応を防ぐためである。
<VUV照射>
ウシオ電機株式会社製SUS740を用いて照射時間を調整して照射した。
<ブレードコート>
オールグッド株式会社製自動フィルムアプリケーター100-5と膜厚調整機能付フィルムアプリケーター064-13とを用いてブレードコートした。
<ポリパラキシリレン(パリレン)膜の形成>
日本パリレン合同会社製PDS2010にパリレンダイマーを投入し、化学気相成長法により膜を形成した。
<親撥パターニング性能の評価>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(基材)(コーニング社製Eagle XG)に樹脂のキシレン溶液(3wt%)を500rpm×5秒、1500rpm×20秒の条件でスピンコートし、50℃で1分間乾燥した後、紫外線を照射して架橋した平坦化膜を形成した。その後、ライン・アンド・スペースが5ミクロンから50ミクロンのクロムパターンを有するフォトマスクを介して真空紫外線(VUV)を照射し平坦化膜の表面を親液部と撥液部にパターニングした。本基板を70℃に加熱した自動フィルムアプリケーター本体に設置し、Agナノインクを滴下後、140mm/sの速さで膜厚調整機能付フィルムアプリケーターを移動させて塗工し、120℃で30分焼成した。形成された全パターンを観察し、欠陥なく形成されたパターンの中で最も小さいライン・アンド・スペースの値を解像度とした。
(実施例1)
<樹脂の合成>
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に重量平均分子量28万のポリスチレン(以下、「原料ポリマーA」という)5.0g、脱水した塩化メチレン150mL、桂皮酸クロリド4.0gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。上部に3方コックを取り付け、下部を密閉した30mLの滴下ロートにトリフルオロメタンスルホン酸(以下、「TFMS」という)9.0gを仕込んだ。上記のシュレンク管と滴下ロートを窒素ボックスから取り出し、窒素シールした状態でシュレンク管と滴下ロートを連結させた。シュレンク管への窒素フローを停止し、滴下ロート上部の3方コックを塩化カルシウム管に連結後、窒素フローを停止した。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、滴下ロートからTFMSを10分かけて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で28時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム10.6gを溶解させた飽和水溶液を添加してTFMS及び系内の塩酸を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を3μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過後、1.5Lのメタノールで再沈殿させ、ポリマーを濾過により単離する操作を2回行った後、50℃で減圧乾燥して6.8gの樹脂1を得た。
【0153】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂1(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ59モル%、及び41モル%有していることを確認した。
【0154】
【化39】
【0155】
なお、樹脂1に係るH-NMRチャートを図2に示した。
【0156】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,-CH=CH-Ph),7.39~6.51(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.04(brs,-CH―CH-),1.78~1.40(bm,-CH-)
<FET素子の作成及び評価>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(基材)(コーニング社製Eagle XG)にアルミニウムを真空蒸着し、厚み50nmのゲート電極を形成した。電極が形成された基材の上に、得られた樹脂1のトルエン溶液(3wt%)を500rpm×5秒、1000rpm×20秒の条件でスピンコートし、50℃で5分間乾燥した後(絶縁膜の形成)、400mJ/cmの紫外線を照射して架橋した膜厚520nmの高分子誘電体層を形成した。ゲート電極及び高分子誘電体層が形成された基材上に金を真空蒸着して厚み50nm、チャンネル長100μm、電極幅500μmのソース電極、及びドレイン電極を形成した。その後、直ちにペンタフルオロベンゼンチオール30mmolのイソプロパノール溶液に浸漬し、5分間経過した時点で取り出し、イソプロパノールで洗浄後、ブロー乾燥した。その後、有機半導体(ジ-n-ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン)の0.8wt%トルエン溶液60nLをディスペンサにより印刷した。溶剤を揮発させ50℃で1時間乾燥した後、ボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型の有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に示す。
【0157】
【表1】
【0158】
ドレイン・ソース間電圧VDSを-60ボルトとして、ゲート・ソース間電圧を変化させて本素子を評価した結果、移動度は0.36cm/V・s、漏洩電流は0.01nA、ソース・ドレイン間の電流にヒステリシスは見られず、オン電流/オフ電流比は10以上、絶縁破壊強度は4MV/cm以上であり、漏洩電流、ヒステリシス、オン電流/オフ電流比、絶縁破壊強度に優れ、有機半導体層、及び絶縁膜にクラックは発生しなかった。該ヒステリシスが見られないことについては、図3に示した。
(実施例2)
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に原料ポリマーA110g、脱水した塩化メチレン260mL、桂皮酸クロリド19.2gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。上部に3方コックを取り付け、下部を密閉した100mLの滴下ロートにTFMS26gを仕込んだ。上記のシュレンク管と滴下ロートを窒素ボックスから取り出し、窒素シールした状態でシュレンク管と滴下ロートを連結させた。シュレンク管への窒素フローを停止し、滴下ロート上部の3方コックを塩化カルシウム管に連結後、窒素フローを停止した。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、滴下ロートからTFMSを10分かけて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で55時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム36gを溶解させた飽和水溶液を添加してTFMS及び系内の塩酸を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を3μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過した。引き続き、本濾液をシリカゲルカラムに通して不純物を除去、脱色した後、3Lのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを再沈殿により精製し、50℃で減圧乾燥して18.2gの樹脂2を得た。
【0159】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂2(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ30モル%、及び70モル%有していることを確認した。
【0160】
【化40】
【0161】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,-CH=CH-Ph),7.39~6.51(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.04(brs,-CH―CH-),1.78~1.40(bm,-CH-)
実施例2により製造した樹脂2を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0162】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(実施例3)
桂皮酸クロリドをクマリン-6-カルボン酸クロリドに変えた以外は、実施例1と同様の手法で、樹脂3を得た。
【0163】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂3(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ75モル%、及び25モル%有していることを確認した。
【0164】
【化41】
【0165】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.82(brs,-CH=CH-C(O)-),7.70~6.60(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂3を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0166】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(実施例4)
桂皮酸クロリドをクマリン-6-カルボン酸クロリドに変えた以外は、実施例1と同様の手法で、樹脂4を得た。
【0167】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂4(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ60モル%、及び40モル%有していることを確認した。
【0168】
【化42】
【0169】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.82(brs,-CH=CH-C(O)-),7.70~6.60(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂4を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0170】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(実施例5)
桂皮酸クロリドをピリジニルエテニル安息香酸クロリドに変えた以外は、実施例1と同様の手法で、樹脂5を得た。
【0171】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂5(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ72モル%、及び28モル%有していることを確認した。
【0172】
【化43】
【0173】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.80(brs,Py-CH=CH-),7.76~6.60(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂5を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0174】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(実施例6)
桂皮酸クロリドをピリジニルエテニル安息香酸クロリドに変えた以外は、実施例1と同様の手法で、樹脂6を得た。
【0175】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂6(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ58モル%、及び42モル%有していることを確認した。
【0176】
【化44】
【0177】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.80(brs,Py-CH=CH-),7.76~6.60(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂6を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0178】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(実施例7)
桂皮酸クロリドをフェニルエテニル安息香酸クロリドに変えた以外は、実施例1と同様の手法で、樹脂7を得た。
【0179】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂7(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ60モル%、及び40モル%有していることを確認した。
【0180】
【化45】
【0181】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.67(brs,-CH=CH-),7.10~6.32(m,芳香族,-CH=CH-),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂7を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0182】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(実施例8)
桂皮酸クロリドをフェニルエテニル安息香酸クロリドに変えた以外は、実施例1と同様の手法で、樹脂8を得た。
【0183】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂8(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ40モル%、及び60モル%有していることを確認した。
【0184】
【化46】
【0185】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.67(brs,-CH=CH-),7.10~6.32(m,芳香族,-CH=CH-),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂8を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0186】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(実施例9)
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に重量平均分子量15万、ポリスチレン含有量が65wt%のポリスチレン-b-ポリ(エチレン・プロピレン)-b-ポリスチレン(SEPS)(以下、「原料ポリマーB」という)4.01g、脱水した塩化メチレン150mL、桂皮酸クロリド4.5gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。次に、シュレンク管を0℃以下に冷却し、TFMS6.2gを注射器を用いて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で24時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム6.9gを溶解させた飽和水溶液を添加してTFMS及び系内の塩酸を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を3μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過した。引き続き、本濾液をシリカゲルカラムに通して不純物を除去、脱色した後、1.5Lのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを2回再沈殿により精製し、40℃で減圧乾燥して5.6gの樹脂9を得た。
【0187】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂9(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ29モル%、及び71モル%有していることを確認した。
【0188】
【化47】
【0189】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.59(brs,-CH=CH-Ph),7.36(brs,芳香族),6.99(brs,芳香族),6.45(brs,-CH=CH-Ph),1.90~1.00(bm,-CH-),0.84(bm,-CH
<親撥パターニング性能の評価>
5~50ミクロンのライン・アンド・スペースのパターン全てで良好な描画ができており、5ミクロンの解像度があることを確認した。また得られた膜の表面粗さは0.3nmであり平坦性にも優れていた。
<有機TFT素子の作成及び評価>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(基材)(コーニング社製Eagle XG)に得られた樹脂9のキシレン溶液(3wt%)を500rpm×5秒、1500rpm×20秒の条件でスピンコートし、50℃で1分間乾燥した後、100mJ/cmの紫外線を照射して架橋した膜厚100nmの下地膜を形成した。その後、フォトマスクを介してVUVを180秒照射し下地膜の表面を親液性と撥液性にパターニングした。本基板を70℃に加熱した自動フィルムアプリケーター本体に設置し、Agナノインクを滴下後、140mm/sの速さで膜厚調整機能付フィルムアプリケーターを移動させて塗工し、120℃30分焼成することで、厚さ500nm、チャネル長5μm、チャネル長500μm、電極幅100μmのソース電極、及びドレイン電極を形成した。その後、直ちにペンタフルオロベンゼンチオール30molのイソプロパノール溶液に浸漬し、5分間経過した時点で取り出し、イソプロパノールで洗浄後、ブロー乾燥した。その後、有機半導体(ジ-n-ヘキシルジチエノベンゾチオフェン)の0.8wt%キシレン/テトラリン混合溶液をスピンコートにより成膜した。溶剤を揮発させるため90℃で20分間乾燥した。その後、得られた基板とパリレンダイマー0.6gを真空蒸着器中に入れ、真空中で加熱してパリレンダイマーを気化させ、基板上で重合させて厚さ430nmのポリパラキシリレンからなるゲート絶縁層を成膜した。その後、フォトマスクを介してVUVを180秒照射しゲート絶縁膜の表面を親液性と撥液性にパターニングした。本基板を70℃に加熱した自動フィルムアプリケーター本体に設置し、Agナノインクを滴下後、140mm/sの速さで塗工し、90℃20分焼成することで、厚さ500nmのゲート電極を形成し、トップゲート・ボトムコンタクト(TGBC)型の有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタの構成を図4、評価結果を表1に合わせて示す。
【0190】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(実施例10)
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に原料ポリマーB4.01g、脱水した塩化メチレン150mL、桂皮酸クロリド5.99gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。次に、シュレンク管を0℃以下に冷却し、TFMS8.2gを注射器を用いて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で25時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム9.14gを溶解させた飽和水溶液を添加してTFMS及び系内の塩酸を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を3μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過した。引き続き、本濾液をシリカゲルカラムに通して不純物を除去、脱色した後、1.5Lのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを再沈殿により精製し、40℃で減圧乾燥して6.0gの樹脂10を得た。
【0191】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂10(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ32モル%、及び68モル%有していることを確認した。
【0192】
【化48】
【0193】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.59(brs,-CH=CH-Ph), 7.36(brs,芳香族),6.99(brs,芳香族),6.45(brs,-CH=CH-Ph),1.90~1.00(bm,-CH-),0.84(bm,-CH
<親撥パターニング性能の評価>
実施例9と同様の手法により評価し、5~50ミクロンのライン・アンド・スペースのパターン全てで良好な描画ができており、5ミクロンの解像度があることを確認した。得られた膜の表面粗さは0.3nmであり平坦性にも優れていた。
<有機TFT素子の作成及び評価>
実施例9と同様の手法によりトップゲート・ボトムコンタクト(TGBC)型の有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタの評価結果を表1に合わせて示す。
【0194】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(実施例11)
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に原料ポリマーB3.0g、脱水した塩化メチレン150mL、桂皮酸クロリド6.3gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。次に、シュレンク管を0℃以下に冷却し、TFMS8.44gを注射器を用いて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で29時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム9.45gを溶解させた飽和水溶液を添加してTFMS及び系内の塩酸を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を3μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過した。引き続き、本濾液をシリカゲルカラムに通して不純物を除去、脱色した後、1.5Lのメタノールで再沈殿させた。更に、ポリマーを再沈殿により精製し、40℃で減圧乾燥して4.9gの樹脂11を得た。
【0195】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂11(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ39モル%、及び61モル%有していることを確認した。
【0196】
【化49】
【0197】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.59(brs,-CH=CH-Ph), 7.36(brs,芳香族),6.99(brs,芳香族),6.45(brs,-CH=CH-Ph),1.90~1.00(bm,-CH-),0.84(bm,-CH
<親撥パターニング性能の評価>
実施例9と同様の手法により評価し、5~50ミクロンのライン・アンド・スペースのパターン全てで良好な描画ができており、5ミクロンの解像度があることを確認した。た得られた膜の表面粗さは0.3nmであり平坦性にも優れていた。
<有機TFT素子の作成及び評価>
実施例9と同様の手法によりトップゲート・ボトムコンタクト(TGBC)型の有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタの評価結果を表1に合わせて示す。
【0198】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(比較例1)
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に原料ポリマー5.0g、脱水した塩化メチレン150mL、無水塩化アルミニウム3.9gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。上部に3方コックを取り付け、下部を密閉した30mLの滴下ロートに桂皮酸クロリド4.0gの塩化メチレン溶液30mlを仕込んだ。上記のシュレンク管と滴下ロートを窒素ボックスから取り出し、窒素シールした状態でシュレンク管と滴下ロートを連結させた。シュレンク管への窒素フローを停止し、滴下ロート上部の3方コックを塩化カルシウム管に連結後、窒素フローを停止した。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、滴下ロートから桂皮酸クロリドを10分かけて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で28時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、35%塩酸水溶液20mlを滴下した。この状態で5時間撹拌後、反応溶液を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。この塩化メチレン層を4回繰り返し水洗した。水層は塩化メチレンで3回抽出し、分液した。得られた塩化メチレン層を合わせて3μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過後、1.5Lのメタノールで再沈殿させ、ポリマーを濾過により単離する操作を2回行った後、50℃で減圧乾燥して5.9gの樹脂12を得た。
【0199】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂12(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ86モル%、及び14モル%有していることを確認した。
【0200】
【化50】
【0201】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,-CH=CH-Ph),7.39~6.51(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.04(brs, -CH―CH-),1.78~1.40(bm,-CH-)
得られた樹脂を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0202】
実施例1~8と比較して架橋時間、耐溶剤性(耐クラック性)、及び絶縁破壊強度で劣っていることが確認された。
(比較例2)
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に原料ポリマー5.0g、脱水した塩化メチレン150mL、無水塩化アルミニウム1.2gを仕込んだ。上部に3方コックを取り付け、下部を密閉した30mLの滴下ロートに桂皮酸クロリド1.3gを塩化メチレン20mLに溶解させた溶液を仕込んだ。上記のシュレンク管と滴下ロートを窒素ボックスから取り出し、窒素シールした状態でシュレンク管と滴下ロートを連結させた。シュレンク管への窒素フローを停止し、滴下ロート上部の3方コックを塩化カルシウム管に連結後、窒素フローを停止した。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、滴下ロートから桂皮酸クロリドを10分かけて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で28時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム2.1gを溶解させた飽和水溶液を添加して系内の塩酸を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を3μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過後、1.5Lのメタノールで再沈殿させ、ポリマーを濾過により単離する操作を2回行った後、50℃で減圧乾燥して4.7gの樹脂13を得た。
【0203】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂13(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ92モル%、及び8モル%有していることを確認した。
【0204】
【化51】
【0205】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,-CH=CH-Ph),7.39~6.51(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.04(brs, -CH―CH-),1.78~1.40(bm,-CH-)
得られた樹脂を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0206】
実施例1~8と比較して架橋時間、耐溶剤性(耐クラック性)、及び絶縁破壊強度で劣っていることが確認された。
(比較例3)
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に原料ポリマー5g、脱水した塩化メチレン150mL、無水塩化アルミニウム2.2gを仕込んだ。上部に3方コックを取り付け、下部を密閉した20mLの滴下ロートに桂皮酸クロリド2.3gを塩化メチレン50mLに溶解させた溶液を仕込んだ。上記のシュレンク管と滴下ロートを窒素ボックスから取り出し、窒素シールした状態でシュレンク管と滴下ロートを連結させた。シュレンク管への窒素フローを停止し、滴下ロート上部の3方コックを塩化カルシウム管に連結後、窒素フローを停止した。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、滴下ロートから桂皮酸クロリドを9分かけて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で28時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム3.9gを溶解させた飽和水溶液を添加して系内の塩酸を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を3μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過後、1.5Lのメタノールで再沈殿させ、ポリマーを濾過により単離する操作を2回行った後、50℃で減圧乾燥して4.9gの樹脂14を得た。
【0207】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂14(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ87モル%、及び13モル%有していることを確認した。
【0208】
【化52】
【0209】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,-CH=CH-Ph),7.39~6.51(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.04(brs, -CH―CH-),1.78~1.40(bm,-CH-)
得られた樹脂を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0210】
実施例1~8と比較して架橋時間、耐溶剤性(耐クラック性)、及び絶縁破壊強度で劣っていることが確認された。
(比較例4)
桂皮酸クロリドをクマリン-6-カルボン酸クロリドに変えた以外は、比較例1と同様の手法で、樹脂15を得た。以下にH-NMR(400MHz,CDCl)による分析結果、及びポリマーの構造式を示す。
【0211】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂15(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ94モル%、及び6モル%有していることを確認した。
【0212】
【化53】
【0213】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.82(brs,-CH=CH-C(O)-),7.70~6.60(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0214】
実施例1~8と比較して架橋時間、耐溶剤性(耐クラック性)、及び絶縁破壊強度で劣っていることが確認された。
(比較例5)
桂皮酸クロリドをクマリン-6-カルボン酸クロリドに変えた以外は、比較例1と同様の手法で、樹脂16を得た。
【0215】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂16(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ88モル%、及び12モル%有していることを確認した。
【0216】
【化54】
【0217】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.82(brs,-CH=CH-C(O)-),7.70~6.60(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0218】
実施例1~8と比較して架橋時間、耐溶剤性(耐クラック性)、及び絶縁破壊強度で劣っていることが確認された。
(比較例6)
桂皮酸クロリドをピリジニルエテニル安息香酸クロリドに変えた以外は、比較例1と同様の手法で、樹脂17を得た。
【0219】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂17(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ94モル%、及び6モル%有していることを確認した。
【0220】
【化55】
【0221】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.80(brs,Py-CH=CH-),7.76~6.60(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0222】
実施例1~8と比較して架橋時間、耐溶剤性(耐クラック性)、及び絶縁破壊強度で劣っていることが確認された。
(比較例7)
桂皮酸クロリドをピリジニルエテニル安息香酸クロリドに変えた以外は、比較例1と同様の手法で、樹脂18を得た。
【0223】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂18(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ86モル%、及び14モル%有していることを確認した。
【0224】
【化56】
【0225】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.80(brs,Py-CH=CH-),7.76~6.60(m,芳香族,-CH=CH-Ph),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0226】
実施例1~8と比較して架橋時間、耐溶剤性(耐クラック性)、及び絶縁破壊強度で劣っていることが確認された。
(比較例8)
桂皮酸クロリドをフェニルエテニル安息香酸クロリドに変えた以外は、比較例1と同様の手法で、樹脂19を得た。
【0227】
H-NMRによる分析の結果、得られた樹脂19(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ95モル%、及び5モル%有していることを確認した。
【0228】
【化57】
【0229】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.67(brs,-CH=CH-),7.10~6.32(m,芳香族,-CH=CH-),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0230】
実施例1~8と比較して架橋時間、耐溶剤性(耐クラック性)、及び絶縁破壊強度で劣っていることが確認された。
(比較例9)
桂皮酸クロリドをフェニルエテニル安息香酸クロリドに変えた以外は、比較例1と同様の手法で、樹脂20を得た。
【0231】
H-NMRによる分析の結果、得られた、樹脂20(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ85モル%、及び15モル%有していることを確認した。
【0232】
【化58】
【0233】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.67(brs,-CH=CH-),7.10~6.32(m,芳香族,-CH=CH-),2.15(brs, -CH―CH-),1.90~1.48(bm,-CH-)
得られた樹脂を用いて実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0234】
実施例1~8と比較して架橋時間、耐溶剤性(耐クラック性)、及び絶縁破壊強度で劣っていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0235】
プリンテッドエレクトロニクス技術により製造出来る高品質の有機電界効果トランジスタデバイスに好適な樹脂を提供できる。
図1
図2
図3
図4
図5