(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】生物付着防止塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 127/12 20060101AFI20220105BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20220105BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20220105BHJP
C09D 133/26 20060101ALI20220105BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220105BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20220105BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20220105BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D5/16
C09D133/04
C09D133/26
C09D5/02
C09D5/14
C09D7/40
(21)【出願番号】P 2018538422
(86)(22)【出願日】2017-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2017031973
(87)【国際公開番号】W WO2018047826
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2016173989
(32)【優先日】2016-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】豊田 瑞菜
(72)【発明者】
【氏名】内田 幸治
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-502581(JP,A)
【文献】特開2009-256471(JP,A)
【文献】特開2015-124349(JP,A)
【文献】国際公開第2010/041688(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/116912(WO,A1)
【文献】特開2003-119419(JP,A)
【文献】特開平09-302328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物付着を防止するために物品の表面に塗布される生物付着防止塗料であって、
フルオロオレフィンに基づく単位を含む含フッ素重合体である重合体Fと、
親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を含む重合体である重合体Gと、
を含む、生物付着防止塗料
であって、
前記重合体Fが、親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する単量体に基づく単位を含み、
前記フルオロオレフィンに基づく単位の含有量が、前記重合体Fが含む全単位に対して、20~70モル%であり、
前記親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する単量体に基づく単位の含有量が、前記重合体Fが含む全単位に対して、0.4~15モル%であり、
前記重合体Gが、ポリフルオロアルキル基を有する、(メタ)アクリレートまたはα-ハロアクリレートに基づく単位を含み、
前記親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレートに基づく単位の含有量が、前記重合体Gが含む全単位に対して、0.5~50モル%であり、
前記ポリフルオロアルキル基を有する、(メタ)アクリレートまたはα-ハロアクリレートに基づく単位の含有量が、前記重合体Gが含む全単位に対して、20~75モル%である、生物付着防止塗料。
【請求項2】
前記重合体Gが、さらに、式-NR
1R
2または式-N(O)R
3R
4で表される基(ただし、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、ベンジル基、炭素数1~8のアルキル基、または炭素数2~3のヒドロキシアルキル基を表す。)を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、または(メタ)アクリルアミドに基づく単位を含む、請求項
1に記載の生物付着防止塗料。
【請求項3】
前記重合体Gが、さらに、炭素数1~12のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を含む、請求項1
または2に記載の生物付着防止塗料。
【請求項4】
さらに、水を含み、前記重合体Fおよび前記重合体Gがそれぞれ、粒子状に分散してなる、請求項1~
3のいずれか1項に記載の生物付着防止塗料。
【請求項5】
前記重合体Fと前記重合体Gとの総質量に対して、前記重合体Fの含有量が50~99質量%である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の生物付着防止塗料。
【請求項6】
海洋生物が付着するのを防止するために、船舶、海上構造物または海中構造物の表面に塗布される海洋生物付着防止塗料である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の生物付着防止塗料。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の生物付着防止塗料を用いて形成された塗膜を表面に有する、船舶、水上構造物または水中構造物。
【請求項8】
船舶、水上構造物または水中構造物の表面に、請求項1~
6のいずれか1項に記載の生物付着防止塗料の塗膜を形成して、船舶、水上構造物または水中構造物に生物が付着するのを防止する方法。
【請求項9】
カビまたは藻が付着するのを防止するために、湿潤環境下または接水環境下で使用される物品の表面に塗布される塗料である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の生物付着防止塗料。
【請求項10】
さらに、防カビ剤または防藻剤を含む、請求項
9に記載の生物付着防止塗料。
【請求項11】
請求項
9または
10に記載の生物付着防止塗料を用いて形成された塗膜を表面に有する、湿潤環境下または接水環境下で使用される物品。
【請求項12】
湿潤環境下または接水環境下で使用される物品の表面に、請求項1~
5のいずれか1項に記載の生物付着防止塗料の塗膜を形成して、物品にカビまたは藻が付着するのを防止する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物付着防止塗料、好ましくは、船舶、海上構造物または海中構造物の表面に塗布される海洋生物付着防止塗料と、物品の表面に塗布される防カビ・防藻性塗料と、に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の基材に撥水性を付与するために、含フッ素重合体を含む組成物が用いられている。このような含フッ素重合体としては、例えば、ポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位と、アミノ基含有炭化水素基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位と、を含む含フッ素重合体が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、塗料塗膜への生物付着による塗膜汚れや塗膜劣化を抑制するために、生物付着を防止あるいは抑制できる塗料(以下、「生物付着防止塗料」ともいう。)の開発が進められている。生物付着防止塗料としては、具体的には、例えば、海上または海中の海洋構造物や船舶の船底部に貝類等の固着性生物が付着するのを防止または抑制するための海洋生物付着防止塗料や、高温多湿地域の屋外建築物や水回りで使用される部材にカビや藻が付着するのを防止または抑制するための防カビ・防藻性塗料が挙げられる。
本発明者らが、生物付着防止塗料として、上記特許文献1に記載の含フッ素重合体を含む塗料を用いて基材上に塗膜を作製した結果、生物付着を十分に抑制できないばかりか、基材に対する塗膜の密着性も不十分であることを知見した。
【0005】
そこで、本発明は、生物付着防止性および密着性に優れた塗膜を形成できる生物付着防止塗料の提供を課題とする。また、本発明は、上記生物付着防止塗料を用いて形成された塗膜を表面に有する、船舶、水上構造物もしくは水中構造物、および、湿潤または接水環境下で使用される物品の提供も課題とする。また、本発明は、上記生物付着防止塗料を用いて、船舶、水上構造物もしくは水中構造物に固着性の生物が付着することを防止する方法、および、湿潤環境下または接水環境下で使用される物品の表面にカビまたは藻が付着するのを防止する方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、フルオロオレフィンに基づく単位を含む含フッ素重合体と、親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を含む重合体と、を併用することで、所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者は、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
[1]生物付着を防止するために物品の表面に塗布される生物付着防止塗料であって、
フルオロオレフィンに基づく単位を含む含フッ素重合体である重合体Fと、
親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を含む重合体である重合体Gと、
を含む、生物付着防止塗料。
[2]前記重合体Fが、さらに、親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する単量体に基づく単位を含む、[1]の生物付着防止塗料。
[3]前記重合体Gが、さらに、ポリフルオロアルキル基を有する、(メタ)アクリレートまたはα-ハロアクリレートに基づく単位を含む、[1]または[2]の生物付着防止塗料。
[4]前記重合体Gが、さらに、式-NR1R2または式-N(O)R3R4で表される基(ただし、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、ベンジル基、炭素数1~8のアルキル基、または炭素数2~3のヒドロキシアルキル基を表す。)を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、または(メタ)アクリルアミドに基づく単位を含む、[1]~[3]のいずれかの生物付着防止塗料。
[5]前記重合体Gが、さらに、炭素数1~12のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を含む、[1]~[4]のいずれかの生物付着防止塗料。
[6]さらに、水を含み、前記重合体Fおよび前記重合体Gがそれぞれ、粒子状に分散してなる、[1]~[5]のいずれかの生物付着防止塗料。
[7]前記重合体Fと前記重合体Gとの総質量に対して、前記重合体Fの含有量が50~99質量%である、[1]~[6]のいずれかの生物付着防止塗料。
[8]海洋生物が付着するのを防止するために、船舶、海上構造物または海中構造物の表面に塗布される海洋生物付着防止塗料である、[1]~[7]のいずれかの生物付着防止塗料。
【0008】
[9]前記[1]~[8]のいずれかの生物付着防止塗料を用いて形成された塗膜を表面に有する、船舶、水上構造物または水中構造物。
[10]船舶、水上構造物または水中構造物の表面に、[1]~[8]のいずれかの生物付着防止塗料の塗膜を形成して、船舶、水上構造物または水中構造物に生物が付着するのを防止する方法。
[11]カビまたは藻が付着するのを防止するために、湿潤環境下または接水環境下で使用される物品の表面に塗布される塗料である、[1]~[7]のいずれかの生物付着防止塗料。
[12]さらに、防カビ剤または防藻剤を含む、[11]の生物付着防止塗料。
[13]前記[11]または[12]の生物付着防止塗料を用いて形成された塗膜を表面に有する、湿潤環境下または接水環境下で使用される物品。
[14]湿潤環境下または接水環境下で使用される物品の表面に、[1]~[7]のいずれかの生物付着防止塗料の塗膜を形成して、物品にカビまたは藻が付着するのを防止する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生物付着防止性および密着性に優れた塗膜を形成できる生物付着防止塗料を提供できる。特に、本発明によれば、4か月間の海中浸漬に際する、上記塗膜に対する固着性生物の付着率が塗膜表面の20%以下であり、カビや藻の付着率が塗膜表面の10%以下である生物付着防止塗料を提供できる。
また、本発明によれば、上記生物付着防止塗料を用いて形成された塗膜を表面に有する、船舶、水上構造物もしくは水中構造物、および、湿潤または接水環境下で使用される物品を提供できる。また、本発明によれば、上記生物付着防止塗料を用いて、船舶、水上構造物もしくは水中構造物に固着性生物が付着することを防止する方法、および、湿潤環境下または接水環境下で使用される物品の表面にカビまたは藻が付着するのを防止する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「単位」とは、単量体の重合により直接形成された、該単量体1分子に由来する原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(モル%)は、重合体を核磁気共鳴スペクトル法により分析して求められる。
「数平均分子量」および「重量平均分子量」は、ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値である。数平均分子量は、「Mn」ともいい、重量平均分子量は、「Mw」ともいう。
「平均粒子径」は、ELS-8000(大塚電子株式会社製)を用いて動的光散乱法により求められるD50の値である。D50は、動的光散乱法により測定した粒子の粒度分布において、小さな粒子側から起算した体積累計50体積%の粒子直径を表す。
「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および「メタクリレート」の総称であり、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および「メタクリル」の総称であり、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」および「メタクリロイル」の総称である。なお、(メタ)アクリル酸誘導体における(メタ)アクリロイル基は式CH2=CR-C(=O)-で、(メタ)アクリロイルオキシ基は、式CH2=CR-C(=O)O-で表す。ただし、Rは水素原子またはメチル基である。なお、α-ハロアクリロイルオキシ基は、該Rがハロゲン原子で置換された上記の基である。
【0011】
本発明の生物付着防止塗料(以下、「本発明の塗料」ともいう。)は、フルオロオレフィンに基づく単位を含む含フッ素重合体である重合体Fと、親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を含む重合体である重合体Gと、を含むことを特徴とする。
本発明者らは、側鎖に親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する重合体Gが、タンパク質等の生体高分子や細胞が吸着または接着しにくい効果、さらには、生物が固着しにくい効果を有すること見出した。そして、上記効果が、本発明における重合体Fとの相互作用によって、顕著に発現することを見出した。
その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0012】
水中や接水環境下で固体表面に固着する固着性生物は、付着対象物を固体とみなし、好適な棲息環境であると判断した場合に、付着対象物に付着して固着するとされている。本発明の塗料から形成される塗膜(以下、「本塗膜」ともいう。)において、疎水性の高い重合体Fに対して、重合体Gは一定の距離を保持しながら安定に存在すると推測される。したがって、重合体Gが有する親水性のポリオキシアルキレン鎖は塗膜表面に配向しており、親水性のポリオキシアルキレン鎖と水との相互作用により、塗膜表面の少なくとも一部は水和または膨潤していると考えられる。そのため、固着性生物は、本塗膜を固体ではなく水であるとみなし、本塗膜に付着しないと考えられる。つまり、本塗膜は、固着性生物に対する忌避剤や、塗料の主たる構成成分(重合体)とは別の、生物付着防止成分によらない生物付着防止機構(以下、第1作用機構ともいう。)を発現している。そのため、本塗膜は、長期間にわたって優れた第1作用機構を有する。
このように、本発明の塗料は、水中や接水環境下における固着性生物の付着を防止するために、船舶、水上構造物または水中構造物の表面に塗布される生物付着防止塗料として好適に使用される。なお、水中や接水環境下における固着性生物としては、例えば、フジツボ等の蔓脚類、ムラサキイガイ、カキ等の貝類、ホヤ、コケムシ等が挙げられる。
【0013】
また、一般に、含フッ素重合体を含む塗料を用いて形成された塗膜の表面は、水をはじき易く、耐候性等の物性に優れる反面、塗膜に一旦吸収された水は塗膜に溜まり易い傾向がある。また、該塗膜の表面の水は、同じ道筋を通って流れる傾向がある。つまり、該塗膜の表面は、部分的に見れば、水や湿気が溜まり易い雰囲気を形成する場合があり、カビまたは藻類の繁殖する環境を形成する場合がある。
このような問題に対して、本発明者らは、本発明の塗料から形成される塗膜自体が、カビまたは藻の繁殖に不適な環境を形成しており、本発明の塗料が、防カビ剤(防腐剤)または防藻剤による殺菌作用によらない防カビ・防藻機構(以下、「第2作用機構」ともいう。)を有することを知見した。そのため、本発明の塗料から形成される塗膜は、環境負荷が低く、長期間にわたって第2作用機構を発現できる。
この理由としては、本塗膜は、タンパク質等の生体高分子や細胞が吸着または接着しにくい効果を有する重合体Gが、上述したように重合体Fとの相互作用によって塗膜表面に配向し、カビまたは藻の繁殖栄養源が付着しにくい環境を形成するためと考えられる。さらに、重合体Fと重合体Gを含む本塗膜は、高耐水性(低水蒸気透過性)と空気遮蔽性(低酸素透過率性)を有しており、カビまたは藻の繁殖に適さない環境を形成するためとも考えられる。したがって、本塗膜は、湿潤環境下または接水環境下のような、カビや藻が発生および繁殖しやすい環境下においても、長期間にわたって第2作用機構を発現する。
このように、本発明の塗料は、カビまたは藻が付着するのを防止するために、湿潤環境下または接水環境下で使用される物品の表面に塗布される塗料として好適に使用される。
なお、本明細書において、第1作用機構および第2作用機構を総称して、単に「本発明の作用機構」ともいう。
【0014】
さらに、本発明の塗料は、重合体Fを含むことにより、塗料の塗布対象物である物品に対する密着性にも優れる。そのため、本塗膜は、環境変化(大気曝露、温度変化等。)にも耐える優れた耐水性(特に、耐塩水性。)および耐候性を有する。
このように、本発明の塗料に含まれる重合体Fおよび重合体Gの相乗作用により、本発明の作用機構が顕著に発現される。
【0015】
以下、本発明における重合体Fについて詳述する。
なお、フルオロオレフィンとは、水素原子の1以上がフッ素原子で置換されたオレフィンを意味する。フルオロオレフィンは、フッ素原子で置換されていない水素原子の1個以上が塩素原子で置換されていてもよい。
【0016】
重合体Fは、フルオロオレフィンに基づく単位(以下、「単位F1」ともいう。)を含む。重合体Fは、2種以上の単位F1を含有していてもよい。
フルオロオレフィンとしては、CF2=CF2、CF2=CFCl、CF2=CHFおよびCF2=CH2が好ましく、他の単量体との交互共重合性の観点から、CF2=CF2およびCF2=CFClがより好ましく、CF2=CFClが特に好ましい。
単位Fの含有量は、重合体Fが含む全単位に対して、20~70モル%が好ましく、30~70モル%がより好ましく、40~60モル%が特に好ましい。単位F1の含有量が20モル%以上であれば、塗膜の耐水性(特に、耐塩水性)および耐候性がより優れる。
【0017】
重合体Fは、さらに、親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する単量体に基づく単位(以下、「単位F2」ともいう。)を含むことが好ましい。単位F2のポリオキシアルキレン鎖と、重合体Gとの相乗作用によって、本発明の作用機構がより効果的に発現する。また、本発明の塗料中における、重合体Fと重合体Gとの相溶性が向上して、塗膜の密着性がより向上する。
【0018】
単位F2は、式(1)で表される単量体(以下、「単量体F2」ともいう。)に基づく単位が好ましい。
式(1) X-Y-(OCmH2m)n-Z
ただし、Xは重合性基、Yは2価の連結基、(OCmH2m)nはポリオキシアルキレン鎖、Zは1価の末端基、mは2~4の整数、nは6以上の整数を表す。
上記親水性のポリオキシアルキレン鎖とは、式-(OCmH2m)n-で表されるポリオキシアルキレン鎖において、オキシアルキレン基のうち少なくとも一部がオキシエチレン基であるポリオキシアルキレン鎖をいう。
nは、本発明の作用機構がより優れる観点から、12以上が好ましく、15以上がより好ましい。上限は、40が好ましく、20がより好ましい。
-(OCmH2m)-で表されるオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基とオキシプロピレン基が好ましい。
-(OCmH2m)n-がmの異なる複数種のオキシアルキレン基を有する場合、それらの結合順は特に制限されず、ランダム型でもブロック型でもよい。
ポリオキシアルキレン鎖におけるオキシアルキレン基は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの開環付加重合により形成される。通常、モノオールやジオール等のヒドロキシ基含有化合物を開始剤とし、この開始剤に環状エーテルを開環付加重合させてポリオキシアルキレン鎖を有するモノオールやジオールが製造される。上記単量体F2はこのモノオールやジオールに重合性基を導入して製造される。また、重合性基を有するモノオールに環状エーテルを開環重合させて単量体F2を製造することもできる。
親水性のポリオキシアルキレン鎖としては、オキシエチレン基のみからなるポリオキシエチレン鎖であるか、オキシエチレン基と炭素数3または4のオキシアルキレン基を有しかつ両者の合計に対するオキシエチレン基の割合が50モル%以上であるポリオキシアルキレン鎖が好ましい。後者の場合、オキシエチレン基とオキシプロピレン基を有しかつ両者の合計に対するオキシエチレン基の割合が70モル%以上であるポリオキシアルキレン鎖が好ましい。特に好ましい親水性のポリオキシアルキレン鎖は、オキシエチレン基のみからなるポリオキシエチレン鎖である。
【0019】
Xとしては、重合体Fの主鎖を形成する重合性不飽和基が好ましい。Xとしては、CH2=CH-、CH2=CHCH2-、CH3CH=CH-、CH2=C(CH3)-、CH2=CHC(O)O-、CH2=C(CH3)C(O)O-、CH2=CHO-、およびCH2=CHCH2O-が好ましく、フルオロオレフィンとの交互共重合性の観点から、CH2=CHO-およびCH2=CHCH2O-がより好ましい。
Yとしては、炭素数1~20の2価の炭化水素基が好ましく、炭素数1~20の2価の飽和炭化水素基がより好ましい。2価の連結基は、直鎖状の基、分岐状の基または環状構造を含む基であってもよく、塗膜においてポリオキシアルキレン鎖を表面に配向させて、本発明の作用機構を特に効果的に発現させる観点から、環状構造を含む基が好ましい。
Zとしては、ヒドロキシ基、炭素数1~20のアルコキシ基およびフェノキシ基が好ましく、ヒドロキシ基、メトキシ基、およびエトキシ基がより好ましく、本発明の作用機構に優れる観点から、ヒドロキシ基が特に好ましい。
【0020】
単量体F2の具体例としては、下式で表される化合物が挙げられる。
CH2=CHO-CaH2a-(OCmH2m)n-Z
CH2=CHCH2O-CbH2b-(OCmH2m)n-Z
CH2=CHOCH2-cycloC6H10-CH2-(OCmH2m)n-Z
CH2=CHCH2OCH2-cycloC6H10-CH2-(OCmH2m)n-Z
それぞれの式中、aは1~10の整数であり、bは1~10の整数である。m、nおよびZの定義は、上述の通りである。なお、-cycloC6H10-は、シクロへキシレン基を示し、(-cycloC6H10-)の結合部位は、1,4-、1,3-、1,2-があり、通常は1,4-である。
なお、単量体F2は、2種以上を併用してもよい。
【0021】
単位F2の含有量は、重合体Fが含む全単位に対して、0.4モル%以上が好ましく、本発明の作用機構に優れる観点から、1.5モル%以上がより好ましく、2.0モル%以上が特に好ましい。上限は、15モル%が好ましく、10モル%がより好ましい。
本発明者らの検討によれば、親水性のポリオキシアルキレン鎖の末端がヒドロキシ基である単位(例えば、Zがヒドロキシ基である単量体F2に基づく単位)を含む重合体Fは、親水性のポリオキシアルキレン鎖およびヒドロキシ基と水との相互作用により、その含有量が少量であっても、本発明の作用機構に優れていた。また、その含有量が少量であれば、上述したフルオロオレフィンに基づく単位の含有量を多くすることが可能であり、耐水性(特に、耐塩水性)および耐候性により優れた塗膜を形成する重合体Fが調製可能にもなる。
【0022】
重合体Fは、単位F1および単位F2以外の単位を含んでいてもよい。該単位としては、環状炭化水素基を有する単量体(以下、「単量体F3」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位F3」ともいう。)、架橋性基を有する単量体(以下、「単量体F4」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位F4」ともいう。)が挙げられる。
なお、親水性のポリオキシアルキレン鎖とヒドロキシ基を有する単位は、上述した単位F2に該当し、「架橋性基を有する単量体に基づく単位」には該当しない。該単位F2は架橋剤等の反応性基と反応して架橋構造を形成してもよい。また、環状炭化水素基と親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する単位は単位F2に、環状炭化水素基と架橋性基を有する単位は単位F4に該当するものとする。
【0023】
単量体F3の環状炭化水素基としては、環状構造を少なくとも1つ有する炭化水素基が挙げられる。環状炭化水素基の炭素数は、重合反応性の観点から、4~20が好ましく、5~10がより好ましい。
環状炭化水素基の具体例としては、シクロブチル基、シクロヘプチル基、シクロヘキシル基等の単環式飽和炭化水素基、4-シクロヘキシルシクロヘキシル基等の複環式飽和炭化水素基、1-デカヒドロナフチル基、2-デカヒドロナフチル基等の多環式飽和炭化水素基、1-ノルボルニル基、1-アダマンチル基等の架橋環式飽和炭化水素基、スピロ[3.4]オクチル基等のスピロ炭化水素基が挙げられる。
【0024】
単量体F3の具体例としては、ビニルエーテル、アリルエーテル、アルキルビニルエステル、アルキルアリルエステルまたは(メタ)アクリレートであって、環状炭化水素基を有する単量体が挙げられ、より具体的には、シクロアルキルビニルエーテル(例えば、シクロヘキシルビニルエーテル)が挙げられる。
なお、単量体F3は、2種以上を併用してもよい。
【0025】
重合体Fが単位F3を含む場合、塗膜の耐水性が向上する。
重合体Fが単位F3を含む場合、単位F3の含有量は、本発明の作用機構がより優れる観点から、重合体Fが含む全単位に対して、0.1~45モル%が好ましく、1~40モル%がより好ましく、3~35モル%がさらに好ましく、5~30モル%が特に好ましい。
【0026】
単量体F4の架橋性基は、活性水素を有する官能基(ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基等)または加水分解性シリル基(アルコキシシリル基等)が好ましい。重合体Fが架橋性基を有する場合、対応する架橋剤を本発明の塗料に含ませることで、本塗膜の硬化が可能になり、塗膜物性(生物付着防止性、耐候性、耐水性(特に、耐塩水性。)、密着性等)の調整がさらに容易になる。
【0027】
単量体F4の具体例としては、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、ヒドロキシシクロアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエステル、ヒドロキシシクロアルキルビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル、ヒドロキシアルキルアリルエステル、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられ、より具体的には、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシメチルシクロヘキシルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、ヒドロキシエチルアリルエーテル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルが挙げられる。
なお、単量体F4は、2種以上を併用してもよい。
【0028】
単位F4の含有量は、本塗膜が前述の塗膜物性に優れる観点から、重合体Fが含む全単位に対して、0~20モル%が好ましく、0~18モル%がより好ましく、0~15モル%が特に好ましい。
【0029】
重合体Fは、単位F1、単位F2、単位F3、および単位F4以外の単位を、さらに含んでいてよい。該単位としては、親水性のポリオキシアルキレン鎖、フッ素原子、環状炭化水素基、および架橋性基を有さない単量体(以下、「単量体F5」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位F5」ともいう。)が挙げられる。
単量体F5の具体例としては、ビニルエーテル、アリルエーテル、アルキルビニルエステル、アルキルアリルエステル、オレフィン、(メタ)アクリレートであって、親水性のポリオキシアルキレン鎖、フッ素原子、環状炭化水素基、および架橋性基を有さない単量体が挙げられる。より具体的には、アルキルビニルエーテル(ノニルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル等)、アルキルアリルエーテル(エチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等)、カルボン酸(酢酸、酪酸、ピバリン酸、安息香酸、プロピオン酸等)のビニルエステル、カルボン酸(酢酸、酪酸、ピバリン酸、安息香酸、プロピオン酸等)のアリルエステル、エチレン、プロピレン、イソブチレン等が挙げられる。また、単量体F5は、親水性のポリオキシアルキレン鎖以外のポリオキシアルキレン鎖(例えば、オキシアルキレン基としてオキシエチレン基を含まないポリオキシアルキレン鎖)を有していてもよい。
単量体F5は、2種以上を併用してもよい。
【0030】
単位F5の含有量は、重合体Fが含む全単位に対して、0~50モル%が好ましく、5~45モル%がより好ましく、15~40モル%が特に好ましい。
【0031】
重合体Fは、重合体Fが含む全単位に対する、単位F1、単位F2、単位F3、単位F4、および単位F5の含有量が、それぞれこの順に、20~70モル%、0.4~15モル%、0~45モル%、0~20モル%、0~50モル%であるのが好ましい。
【0032】
重合体Fのフッ素含有量は、10~70質量%が好ましく、20~50質量%が特に好ましい。
重合体FのMnは、30000~200000が好ましく、50000~180000がより好ましい。
【0033】
本発明の塗料において、重合体Fは、粉体(固体)の状態であってもよく、有機溶媒に溶解した溶液の状態であってもよく、水に粒子状に分散した分散液(水性分散液)の状態であってもよく、以下の塗膜物性の観点から、水性分散液の状態が好ましい。
この場合、水性分散液中の重合体Fの粒子の平均粒子径は、100nm以下が好ましい。この場合、本発明の塗料から形成される塗膜の耐水性がより優れることを、本発明者らは知見している。その理由は必ずしも明確ではないが、塗膜において、重合体Fの粒子同士が密にパッキングし、塗膜中でのピンホールの発生が抑制され、結果として塗膜の耐水性が向上するためと考えられる。
【0034】
重合体Fの粒子の平均粒子径は、塗膜の耐水性の観点から、90nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、70nm以下が特に好ましい。下限は、通常50nmである。
【0035】
次に、本発明の塗料に含まれる重合体Gについて詳述する。
【0036】
重合体Gは、親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート(以下、「単量体G1」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位G1」ともいう。)を含む。なお、重合体Gは、フルオロオレフィンに基づく単位(すなわち、前記単位F1)は含まない。
【0037】
単量体G1は、式CH2=CR-C(=O)O-(CpH2pO)q-R5で表される化合物が好ましい。
式中、R5は水素原子、炭素数1~8のアルキル基、(メタ)アクリロイル基、またはグリシジル基を表し、pは2~4の整数を表し、qは2~30の整数を表す。
Rとしては、メチル基が好ましい。
R5としては、水素原子、メチル基、エチル基、および(メタ)アクリロイル基が好ましく、水素原子および(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
上記親水性のポリオキシアルキレン鎖とは、式-(CpH2pO)q-で表されるポリオキシアルキレン鎖において、オキシアルキレン基のうち少なくとも一部がオキシエチレン基であるポリオキシアルキレン鎖をいう。
qは、2~20が好ましい。qが上記範囲にある場合、重合体Fと重合体Gとの相溶性が良好となり、塗膜の密着性が優れる。
-(CpH2pO)-で表されるオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基とオキシプロピレン基が好ましい。
-(CpH2pO)q-がqの異なる複数種のオキシアルキレン基を有する場合、それらの結合順は特に制限されず、ランダム型でもブロック型でもよい。
ポリオキシアルキレン鎖におけるオキシアルキレン基は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの開環付加重合により形成される。通常、モノオールやジオール等のヒドロキシ基含有化合物を開始剤とし、この開始剤に環状エーテルを開環付加重合させてポリオキシアルキレン鎖を有するモノオールやジオールが製造される。上記単量体G1はこのモノオールやジオールに重合性基を導入して製造される。また、重合性基を有するモノオールに環状エーテルを開環重合させて単量体G1を製造することもできる。
親水性のポリオキシアルキレン鎖としては、オキシエチレン基のみからなるポリオキシエチレン鎖であるか、オキシエチレン基と炭素数3または4のオキシアルキレン基を有しかつ両者の合計に対するオキシエチレン基の割合が50モル%以上であるポリオキシアルキレン鎖が好ましい。後者の場合、オキシエチレン基とオキシプロピレン基を有しかつ両者の合計に対するオキシエチレン基の割合が70モル%以上であるポリオキシアルキレン鎖が好ましい。特に好ましい親水性のポリオキシアルキレン鎖は、オキシエチレン基のみからなるポリオキシエチレン鎖である。
【0038】
R5が水素原子やグリシジル基である場合、単位G1はヒドロキシ基やグリシジルオキシ基を有し、重合体Gはこれらの反応性基を有する。また、R5が(メタ)アクリロイル基の場合、単量体G1は2官能の単量体となり、通常、得られる重合体Gは架橋した重合体となる。
単量体G1としては、2種以上を併用してもよい。つまり、単量体G1として、-(CpH2pO)q-のpやqの値が異なる2種以上を併用してもよい。例えば、オキシエチレン単位の割合が異なるポリオキシアルキレン鎖を有する2種以上の単量体G1を併用してもよい。さらに、R5が異なる2種以上併用してもよい。例えば、モノ(メタ)アクリレートである単量体G1とジ(メタ)アクリレートである単量体G1とを併用してもよい。
【0039】
単量体G1は、ポリエチレングリコールの2個のヒドロキシ基の少なくとも一方を(メタ)アクリレート化する方法、アルカノール開始剤にエチレンオキシドを開環付加して得られるアルカノール/エチレンオキシド付加物を(メタ)アクリレート化する方法、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを開始剤としてエチレンオキシドを開環付加する方法、アルカンジオール開始剤にエチレンオキシドを開環付加して得られるアルカンジオール/エチレンオキシド付加物の2個のヒドロキシ基の少なくとも一方を(メタ)アクリレート化する方法、等で製造することができる。また、上記開環付加の際に、エチレンオキシドと他のエポキシドの混合物を開環付加させる方法やエチレンオキシドと他のエポキシドとを別々に順次開環付加させる方法により、オキシエチレン基と他のオキシアルキレン基とを有するポリオキシアルキレン鎖を有する単量体G1を製造することができる。
また、R5がグリシジル基を有する単量体G1は、例えば、(メタ)アクリレート化した後の残りのヒドロキシ基をグリシジル基に変換して製造することができる。
【0040】
単量体G1としては、下記の化合物が挙げられる。下記化合物のうちオキシエチレン基と他のオキシアルキレン基とを有するポリオキシアルキレン鎖を有する化合物において、ポリオキシアルキレン鎖の全オキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の割合は50モル%以上である。
ポリエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート
ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの(メタ)アクリレート
ポリエチレングリコールモノエチルエーテルの(メタ)アクリレート
エタノール/エチレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート
メタノール/(エチレンオキシド-プロピレンオキシド混合物)付加物の(メタ)アクリレート
エタノール/(エチレンオキシド-プロピレンオキシド混合物)付加物の(メタ)アクリレート
エチレングリコール/(エチレンオキシド-プロピレンオキシド混合物)付加物のモノ(メタ)アクリレート
エチレングリコール/(エチレンオキシド-プロピレンオキシド混合物)付加物のジ(メタ)アクリレート
エタノール/(エチレンオキシド-プロピレンオキシド順次付加物)の(メタ)アクリレート
【0041】
なお、後述の単量体G6として、非親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する単量体が挙げられる。この単量体G6としては、前記-(CpH2pO)q-のpやqが異なる以外は前記式で表されるモノ(メタ)アクリレートやジ(メタ)アクリレートが挙げられる。非親水性のポリオキシアルキレン鎖としては、例えば、ポリオキシプロピレン鎖、ポリ(オキシ-1,2-ブチレン)鎖、ポリオキシテトラメチレン鎖が挙げられる。また、オキシエチレン基の含有割合が低い(オキシアルキレン基のうちオキシエチレン基の含有割合が50モル%未満である)ポリ(オキシプロピレン-オキシエチレン)鎖もまた非親水性のポリオキシアルキレン鎖である。
非親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する単量体としては、下記の化合物が挙げられる。
ポリプロピレングリコールのモノ(メタ)アクリレート
ポリプロピレングリコールのジ(メタ)アクリレート
ポリプロピレングリコールモノエチルエーテルの(メタ)アクリレート
ポリオキシテトラメチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート
エタノール/(プロピレンオキシド-1,2-ブチレンオキシド混合物)付加物の(メタ)アクリレート
【0042】
重合体G中の単位G1の含有量は、本発明の作用機構がより優れる観点から、重合体Gが含む全単位に対して、0.5~50モル%が好ましく、5~50モル%がより好ましく、10~40モル%が特に好ましい。
【0043】
重合体Gは、重合体Fとの相溶性と塗膜防汚性との観点から、ポリフルオロアルキル基を有する、(メタ)アクリレートまたはα-ハロアクリレート(以下、総称して単量体G2とも記す。)に基づく単位(以下、単位G2とも記す。)を含むことが好ましい。つまり、重合体(G)は、単位G2を含む含フッ素重合体であるのが好ましい。
【0044】
単量体G2としては、式CH2=CR-C(O)O-Y-(CF2)sFで表される化合物、および、該化合物のRがハロゲン原子に置換された化合物が好ましい。式中、sは1~6の整数を表し、Yは炭素数1~10のアルキレン基を表す。
-(CF2)sFとしては、-(CF2)4Fおよび-(CF2)6Fがより好ましい。
Yとしては、-CH2-、-CH2CH2-、-(CH2)11-および-CH2CH2CH(CH3)-が好ましく、-CH2CH2-がより好ましい。
α位のハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。
【0045】
単量体G2としては、CH2=CHC(O)OC2H4(CF2)4F、CH2=CHC(O)OC2H4(CF2)6F、CH2=C(CH3)C(O)OC2H4(CF2)4F、CH2=C(CH3)C(O)OC2H4(CF2)6F、CH2=CClC(O)OC2H4(CF2)4F、およびCH2=CClC(O)OC2H4(CF2)6Fが好ましい。単量体G2は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
重合体G中の単位G2の含有量は、本発明の作用機構がより優れる観点から、重合体Gが含む全単位に対して、20~75モル%が好ましく、30~65モル%が特に好ましい。
【0047】
重合体Gは、式-NR1R2または式-N(O)R3R4で表される基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位または(メタ)アクリルアミドに基づく単位(以下、両単位を総称して「単位G3」ともいう。)を含むことが好ましい。また、上記(メタ)アクリレートと(メタ)アクリルアミドを、以下、総称して「単量体G3」ともいう。
式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、ベンジル基、炭素数1~8のアルキル基、または、炭素数2~3のヒドロキシアルキル基を表す。
【0048】
単量体G3は、式CH2=CR-C(=O)-M-Q-NR1R2または式CH2=CR-C(=O)-M-Q-N(O)R3R4で表される化合物が好ましい。
式中、Mは、-O-または-NH-を表す。
Qは、単結合、炭素数2~4のアルキレン基、水素原子の一部がヒドロキシ基で置換された炭素数2~3のアルキレン基を示す。
【0049】
単量体G3としては、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびN,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
単量体G3は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
重合体Gにおける単位G3の含有量は、本発明の作用機構がより優れる観点から、重合体が含む全単位に対して、1~30モル%が好ましく、5~25モル%がより好ましい。
【0051】
重合体Gは、ヒドロキシ基またはカルボキシ基と反応しうる架橋性官能基を有し、ポリフルオロアルキル基を有しない単量体(以下、「単量体G4」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位G4」ともいう。)を含んでいてもよい。
単量体G4は、単量体G1、単量体G2、単量体G3と共重合可能な単量体である。なお、単量体G1に含まれるものは、単量体G4には含まれないものとする。
該架橋性官能基としては、イソシアネート基、ブロック化されたイソシアネート基、ウレタン結合、アルコキシシリル基、エポキシ基、N-メチロール基、およびN-アルコキシメチル基が挙げられる。
単量体G4は、(メタ)アクリレートの誘導体またはビニル化合物の誘導体が好ましい。
【0052】
単量体G4としては、以下の化合物G4-1~G4-5が好ましく挙げられる。
【0053】
<化合物G4-1(イソシアネート基を有する化合物)>
2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレート
3-イソシアネートプロピル(メタ)アクリレート
4-イソシアネートブチル(メタ)アクリレート
【0054】
<化合物G4-2(ブロック化されたイソシアネート基を有する化合物)>
2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体
2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体
2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体
2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体
2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体
3-イソシアネートプロピル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体
3-イソシアネートプロピル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体
3-イソシアネートプロピル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体
3-イソシアネートプロピル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体
3-イソシアネートプロピル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体
4-イソシアネートブチル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体
4-イソシアネートブチル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体
4-イソシアネートブチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体
4-イソシアネートブチル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体
4-イソシアネートブチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体
【0055】
<化合物G4-3(アルコキシシリル基を有する化合物)>
CH2=CR6-D-E-SiR7R8R9(ただし、Dは-OCO-、-COO-または単結合、Eは炭素数1~4のアルキレン基、R7、R8、R9は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルコキシ基(ただし、R7、R8、R9の少なくとも1つは、該アルコキシ基である。)、R6は水素原子またはメチル基を示す。)で表される化合物。
具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
3-メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン
3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン
3-メタクリロイルオキシプロピルジエトキシエチルシラン
ビニルトリメトキシシラン
【0056】
<化合物G4-4(エポキシ基を有する化合物)>
グリシジル(メタ)アクリレート
【0057】
<化合物G4-5(N-メチロール基またはN-アルコキシメチル基を有する化合物)>
N-メチロール(メタ)アクリルアミド
N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド
N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド
N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド
【0058】
単量体G4としては、上記化合物G4-2が好ましく、2-イソシアネートエチルメタクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体がより好ましい。
単量体G4は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
重合体G中の単位G4の含有量は、本発明の作用機構がより優れる観点から、重合体Gが含む全単位に対して、0~25モル%が好ましく、1~10モル%がより好ましい。
【0059】
重合体Gは、式CH2=CR-C(=O)O-R10-OHで表されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(以下、「単量体G5」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位G5」ともいう。)を含むのが好ましい。式中、R10は炭素数1~12のアルキル基を表す。なお、R10は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。
単量体G5は、単量体G1、単量体G2、単量体G3、単量体G4と共重合可能な単量体である。単量体G5の具体例としては、2-ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
重合体Gが単位G5を含む場合、重合体Gは、さらに、単位G3を含むのが好ましい。重合体Gが、単位G3および単位G5を含むことで、重合体Gの親水性が好適に調整されるとともに、重合体Gを含む塗膜の表層に単位G3が有する基および単位G5が有する基が配置され、生物付着防止性に優れる。
重合体Gが単位G3および単位G5を含む場合、重合体Gが含む単位G3の含有量に対する、重合体Gが含む単位G5の含有量に対する比は、0.20~4.0が好ましく、0.50~2.0がより好ましい。
重合体Gにおける単位G5の含有量は、本発明の作用機構がより優れる観点から、重合体Gが含む全単位に対して、1~35モル%が好ましく、10~30モル%がより好ましい。
【0061】
重合体Gは、単位G1、単位G2、単位G3、単位G4、および単位G5以外の単位(以下、「単位G6」ともいう。)を含んでいてもよい。単位G6は、単量体G1、単量体G2、単量体G3、単量体G4および単量体G5と共重合可能であり、これらのいずれにも含まれない単量体(以下、「単量体G6」ともいう。)に基づく単位である。
単量体G6としては、上記非親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する単量体が挙げられる。また、それ以外の単量体G6としては、下記単量体が挙げられる。
エチレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソブタン酸ビニル、イソデカノン酸ビニル、ステアリル酸ビニル、セチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2-クロロエチルビニルエーテル、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール化ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルアルキルケトン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリシロキサン鎖を有する(メタ)アクリレート、酢酸アリル、N-ビニルカルバゾール、マレイミド、N-メチルマレイミド、(メタ)アクリル酸、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε-カプロラクトンとの付加物、プロピレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、グリセリンジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート等が好ましく挙げられる。
これらのうちで、塗膜の造膜性や耐久性の観点から、塩化ビニリデン、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、グリセリンジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0062】
重合体G中の単位G6の含有量は、本発明の作用機構がより優れる観点から、重合体Gが含む全単位に対して、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0063】
本発明における重合体Gは、主鎖末端にアニオン性基を有していてもよい。本発明において、重合体Gの主鎖とは、単量体のエチレン性二重結合または重合性不飽和基の二重結合が付加重合して形成される原子連鎖を意味する。該主鎖は、好ましくは炭素原子鎖(エーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい)である。
【0064】
本発明におけるアニオン性基とは、水中で電離してアニオンとなり得る基であり、具体的にはカルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、塩素酸基、硝酸基、および、マンガン酸基からなる群から選ばれる1種以上の酸基が好ましく、これらの中でもカルボキシ基がより好ましい。これらの酸基は、塩またはエステルを形成していてもよい。1分子の重合体G中に2種以上のアニオン性基が存在していてもよい。
【0065】
重合体Gのフッ素含有量は、0~60質量%が好ましく、10~50質量%が特に好ましい。
重合体Gの重量平均分子量(Mw)は、5000~150000が好ましく、10000~100000が特に好ましい。Mwが5000以上であると耐久性に優れ、150000以下であると造膜性や液安定性に優れる。重合体GのMwは、ポリメチルメタクリレートを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定して求められる。
【0066】
本発明の塗料において、重合体Gは、粉体(固体)の状態であってもよく、有機溶媒に溶解した溶液の状態であってもよく、水に粒子状に分散した分散液(水性分散液)の状態であってもよく、水性分散液の状態であるのが好ましい。重合体Gを水に粒子状に分散させる方法は、特に限定されず、公知の分散方法によって分散させればよい。
重合体Gの粒子の平均粒子径は、本塗膜の耐水性の観点から、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下が特に好ましく、70nm以下がさらに好ましい。下限は、通常50nmである。
【0067】
本発明の塗料中、重合体Fと重合体Gとの総質量に対して、重合体Fの含有量は、50~99質量%であり、75~95質量%であるのが好ましい。これにより、本発明の作用機構がより発現する。
本発明の塗料中、重合体Fと重合体Gとの総質量に対するフッ素含有量は、10~50質量%がより好ましい。フッ素含有量が上記範囲内にあると、本発明の作用機構がより発現する。
本発明の塗料の製造方法は、特に限定されず、重合体Fと重合体Gを混合して製造でき、例えば、重合体Fを含む水性分散液と、重合体Gを含む水性分散液とを混合して製造できる。
【0068】
本発明の塗料の形態は、上述した通り、重合体Fの粒子と重合体Gの粒子とが、それぞれ、水に分散した分散液の状態であるのが好ましい。つまり、本発明の塗料は、さらに、水を含み、重合体Fおよび重合体Gがそれぞれ、粒子状に分散してなるのが好ましい。以後、かかる状態における本発明の塗料を、「本発明の水性塗料」とも記す。
本発明の水性塗料における水の含有量は、本発明の水性塗料の全質量に対して、30~85質量%が好ましく、35~75質量%がより好ましい。
【0069】
上述したように、重合体Fはヒドロキシ基等の架橋性基を有する重合体であることが好ましく、重合体Gもまたヒドロキシ基を有する重合体が好ましいことより、重合体Fと重合体Gの少なくとも一方はヒドロキシ基を有することが好ましい。特に、本発明の塗料中の重合体Fと重合体Gはいずれもヒドロキシ基を有するものであることが特に好ましい。
本発明の塗料中の重合体Fと重合体Gの少なくとも一方がヒドロキシ基を有するものである場合、本発明の塗料はヒドロキシ基と反応する反応性基を2以上有する架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤としては、イソシアネート基、ブロック化されたイソシアネート基、エポキシ基等を2以上有する化合物が好ましい。また、重合体Gが単位G4を含む重合体である場合も、架橋反応させるための反応温度が異なる反応性基を有する架橋剤を使用することができる。特に、本発明の塗料が水性塗料である場合は、架橋剤として水分散型イソシアネート硬化剤(ブロック化イソシアネート基を2以上有するブロック化ポリイソシアネートであってかつ水に分散しうる架橋剤)を含むことが好ましい。
本発明の塗料が架橋剤を含む場合、塗料中の架橋剤の含有量は、塗料中の重合体Fおよび重合体Gの総質量に対して、0.1~30質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、5~15質量%が特に好ましい。
【0070】
本発明の塗料は、必要に応じて、他の添加剤(例えば、防カビ剤、防藻剤、造膜助剤、増粘剤、消泡剤、光安定剤、意匠剤、表面調整剤等。)を含んでいてもよい。
本発明の塗料は、上述した通り、重合体G自体による防カビ・防藻機構を発現するが、さらに効果を高める観点から、防カビ剤または防藻剤を含有してもよい。
防カビ剤または防藻剤としては、公知の防カビ剤または防藻剤を用いることができ、重合体Fおよび重合体Gとの相溶性の観点から、ハロゲン原子を含む化合物を有効成分とする剤を採用してもよい。また、塩素原子を含む重合体F(例えば、フルオロオレフィンがCF2=CFClである重合体F。)を使用する場合には、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を有する化合物を有効成分とする剤を採用してもよい。
塗料中の防カビ剤または防藻剤の含有量は、それぞれ、塗料中の重合体Fおよび重合体Gの総質量に対して、0.01~5質量部が好ましい。
【0071】
本発明によれば、本発明の塗料を用いて形成された塗膜を表面に有する、船舶、水上構造物または水中構造物が提供される。本発明の塗料は、特に、海上を航行する船舶、海上構造物または海中構造物における、海水に接するまたは海水に接するおそれのある環境下の表面に塗布するための、生物付着防止塗料として適している。
塗布対象物である船舶、水上構造物または水中構造物としては、海洋、湖、河川、およびそれらの近傍等において使用される物であれば、特に制限されず、橋梁、漁網、波消ブロック、防波堤、海底ケーブル、タンク、パイプライン、海底掘削設備、フロート、発電所の取水・放水口、発電所の配水管(冷却水配管)、船舶の船体(特に船底部や喫水部。)、船舶のスクリュー、船舶の錨等が挙げられる。また、上記対象物の材質も、特に限定されず、金属、樹脂、ゴム、石材、ガラス、および、コンクリートのいずれであってもよい。
また、対象物の形状や状態(水との接触状態)も、特に限定されない。
例えば、配管形状に屈曲形状があり、配管中の海水の流速や温度が大きく変化しうる対象物である、臨海発電所の海水配管(冷却水配管)でも、本発明の塗料を用いて形成された塗膜を配管の内部表面に有することにより、海洋生物付着防止機能と防食性とが長期間にわたって発現される。
形成される塗膜の膜厚は、10~100μmが好ましい。塗膜の膜厚が10μm以上であれば、塗膜の耐塩水性がより優れ、100μm以下であれば、塗膜の耐候性がより優れる。
【0072】
本塗膜は、対象物の水性雰囲気に曝される最表面に形成されていればよい。つまり、本発明の塗料は、対象物の表面に直接塗布されてもよく、下塗り層等を介して最表面に塗布されていてもよい。
また、対象物への塗料の塗工方法としては、刷毛、ローラー、ディッピング、スプレー、ロールコーター、ダイコーター、アプリケーター、スピンコーター等の塗工装置を用いて行う方法等が挙げられる。
本発明の船舶、水上構造物または水中構造物は、本発明の塗料を用いて形成された、重合体Fを主たる構成成分とする塗膜を表面に有する。そのため、長期的にわたり固着性生物が付着しにくいだけでなく、防食性に優れるため長期間にわたって使用可能である。なお、塗膜中には、重合体F同士が架橋した架橋構造、重合体Fと重合体Gとが架橋した架橋構造、重合体G同士が架橋した架橋構造から選択される構造が含まれていてもよく、該構造が複数種類含まれていてもよい。
【0073】
以上のように、本発明においては、船舶、水上構造物または水中構造物の表面に、重合体Fと重合体Gとを含む塗料の塗膜を形成して、船舶、水上構造物または水中構造物に固着性生物が付着するのを防止する方法も提供できる。
【0074】
本発明によれば、本塗膜を表面に有する、湿潤環境下または接水環境下で使用される物品が提供される。なお、本明細書において、湿潤環境とは湿度が40%以上の環境を意味し、接水環境とは水と常時接触するか、水と時々に接触する環境を意味する。
湿潤環境下または接水環境下で使用される物品の具体例としては、浴槽、天井パネル、壁パネル、床パン、ドア、水栓、排水ユニット、換気扇、鏡、シンク、便器、ロータンク、手洗器等の屋内水回り物品、上水管、下水管等の地下構造物、貯水槽、建築物等の屋外構造物が挙げられる。上記物品の材質の具体例としては、金属、樹脂、ゴム、石材、ガラス、コンクリートが挙げられる。
物品が有する塗膜の膜厚は、10~100μmが好ましい。塗膜の膜厚が10μm以上であれば、塗膜の耐水性がより優れ、100μm以下であれば、塗膜の耐候性がより優れる。
【0075】
本塗膜は、湿潤環境下または接水環境下に曝される物品の最表面に形成されていればよい。つまり、本発明の塗料は、物品の表面に直接塗布されてもよく、下塗り層等を介して最表面に塗布されていてもよい。
また、対象物への塗料の塗工方法としては、刷毛、ローラー、ディッピング、スプレー、ロールコーター、ダイコーター、アプリケーター、スピンコーター等の塗工装置を用いて行う方法等が挙げられる。
なお、塗膜が配置される物品が、陽当りの悪い北面、西面の建築物の外壁や、貯水槽の内面、上水管、下水管等の遮光環境下にある物品であっても、本発明の塗料の作用機構により、塗膜を表面に有する物品は、長期にわたる防カビ・防藻性に優れており、その環境負荷も低い特徴を有している。なお、塗膜中には、重合体F同士が架橋した架橋構造、重合体Fと重合体Gとが架橋した架橋構造、重合体G同士が架橋した架橋構造から選択される構造が含まれていてもよく、該構造が複数種類含まれていてもよい。
【0076】
以上のように、本発明においては、物品の表面に、重合体Fと重合体Gとを含む塗料の塗膜を形成して、物品にカビまたは藻が付着するのを防止する方法も提供できる。
【実施例】
【0077】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0078】
<重合体Fの製造>
CTFE:CF2=CFCl
CM-EOVE:CH2=CHOCH2-cycloC6H10-CH2-(OCH2CH2)15OH(平均分子量830。ただし、-cycloC6H10-は1,4-シクロヘキシレン基である。)
CHVE:シクロヘキシルビニルエーテル
CHMVE:4-ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル
EVE:エチルビニルエーテル
ノニオン性界面活性剤:日本乳化剤社製、Newcol-2320(商品名)
アニオン性界面活性剤:日光ケミカルズ社製、ラウリル硫酸ナトリウム。
【0079】
[調製例1] 重合体F1の製造方法
真空脱気したオートクレーブ内に、CTFE(434g)、CHVE(259g)、EVE(107g)、CM-EOVE(124g)、イオン交換水(1031g)、炭酸カリウム(2.1g)、過硫酸アンモニウム(1.0g)、アニオン性界面活性剤(2.1g)を仕込み、撹拌下、60℃で24時間、重合反応を行った。重合反応後、反応液を60℃から20℃まで冷却し、重合体Fを含む水性分散液(含フッ素重合体濃度49.7質量%)を得た。得られた重合体を以下、「重合体F1」という。
重合体F1における、CTFEに基づく単位、CM-EOVEに基づく単位、CHVEに基づく単位、EVEに基づく単位の含有量は、この順に、50モル%、2.0モル%、28モル%、20モル%であった。なお、水性分散液において、重合体F1は粒子状に分散してなり、水中における平均粒子径が80nmであった。
【0080】
[調製例2] 重合体F2の製造方法
真空脱気したオートクレーブ内に、CTFE(664g)イオン交換水(1280g)、EVE(185g)、CHVE(244g)、CM-EOVE(47g)、CHMVE(194g)、炭酸カリウム(2.0g)、過硫酸アンモニウム(1.3g)、ノニオン性界面活性剤(33g)、アニオン性界面活性剤(1.4g)を仕込み、撹拌下、50℃で24時間、重合反応を行った。重合反応後、反応液を50℃から20℃まで冷却し、重合体Fを含む水性分散液(含フッ素重合体濃度50質量%)を得た。得られた重合体を以下、「重合体F2」という。
重合体F2における、CTFEに基づく単位、CM-EOVEに基づく単位、CHVEに基づく単位、CHMVEに基づく単位、EVEに基づく単位の含有量は、50モル%、0.5モル%、17モル%、10モル%、22.5モル%であった。なお、分散液において、重合体F2は粒子状に分散してなり、水中における平均粒子径が140nmであった。
【0081】
重合体F1およびF2の組成を表1に示す。
【0082】
【0083】
<重合体Gの製造>
重合体Gの製造では、以下の原料を用いた。
C6FMA:CH2=C(CH3)C(O)OC2H4C6F13
VCM:塩化ビニル
STA:ステアリルアクリレート
PE350:ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油社製、商品名:ブレンマーPE350、オキシエチレン基の数=8、)
PME400:ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油社製、商品名:ブレンマーPME400、オキシエチレン基の数=9)
70PET-350B:ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)ジオールモノメタクリレート(日油社製、商品名:ブレンマー70PET-350B、オキシエチレン基の数=5、オキシプロピレン基の数=2)
PDE-150:トリエチレングリコールジメタクリレート(日油社製、商品名:ブレンマーPDE-150)
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
D-BI:2-イソシアネートエチルメタクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体(下式(5)で表される化合物。)
DMAEMA:N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート
PEO-30(界面活性剤):ポリオキシエチレンオレイルエーテル(オキシエチレン基の数=約26)の10質量%水溶液
EPO-40(界面活性剤):ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)ジオール(オキシエチレン基含有量=約40質量%)の10質量%水溶液
ATMAC(界面活性剤):モノステアリルトリメチルアンモニウムクロリドの10質量%水溶液
VA-061A(重合開始剤):2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](和光純薬社製、VA-061)の酢酸塩の10質量%水溶液
DAIB(重合開始剤):ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート(和光純薬社製)
DoSH(分子量調整剤):n-ドデシルメルカプタン
DPG(溶剤):ジプロピレングリコール
水:イオン交換水
【0084】
【0085】
[調製例3] 重合体G1~G4の製造方法
1Lのガラス製容器に、C6FMA(純度99.6%)(68.4g)、PE350(41.3g)、DMAEMA(4.6g)、D-BI(4.8g)、アセトン(356.4g)、および、DAIB(0.95g)を仕込み、撹拌回転数350rpmにて65℃で20時間重合を行い、重合体溶液(淡黄色、重合体濃度25.1質量%、重合体のMw60000)を得た。得られた重合体を以下、「重合体G1」という。
次に、得られた重合体G1の溶液(50g)に、水(45g)、および、酢酸(1.1g)を添加し、15分撹拌した。減圧条件下において、65℃でアセトンを除去し、イオン交換水にて濃度を調整して、重合体G1が粒子状に分散してなる水性分散液(透明な淡黄色、重合体濃度20質量%)を得た。
また、後述する表2に示す成分を用いた以外は、調製例3と同様にして、重合体G2~G4を得た。
【0086】
[調製例4] 重合体H1、H2の製造方法
1Lのガラス製容器に、C6FMA(89.3g)、HEMA(15.7g)、D-BI(4.8g)、PEO-30(30.2g)、EPO-40(6.0g)、ATMAC(6.0g)、水(144.4g)、DPG(36.2g)、DoSH(1.2g)を入れ、60℃で30分間加温した後、ホモミキサーを用いて混合して混合液を得た。
得られた混合液を、60℃に保ちながら高圧乳化機を用いて、40MPaで処理して乳化液を得た。得られた乳化液の300gをステンレス製反応容器に入れ、40℃以下となるまで冷却した。VA-061A(5.2g)を加えて、気相を窒素置換した後、VCM(9.3g)を導入し、撹拌しながら60℃で15時間重合反応を行い、さらに、イオン交換水にて濃度を調整して、重合体が粒子状に分散してなる水性分散液(固形分濃度が20質量%)を得た。得られた重合体を以下、「重合体H1」という。
また、後述する表2に示す成分を用いた以外は、調製例4と同様にして、重合体H2を得た。
【0087】
重合体G1~G4および重合体H1、H2の組成を下記表2に示す。
【0088】
【0089】
<生物付着防止塗料の製造>
[製造例1]
重合体F1を含む水性分散液(固形分濃度49.7質量%)(100.0g)に、造膜助剤である2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタジオールモノ(2-メチルプロパネート)(7.5g)、増粘剤であるレオレート288(商品名)(エレメンティスジャパン社製)(0.1g)、架橋剤である水分散型イソシアネート硬化剤(住化バイエル社製、バイヒジュール3100(商品名))(5.4g)、重合体G1を含む水性分散液(固形分濃度20.0質量%)(24.0g)を加え、よく混合して、生物付着防止塗料1を得た。
また、後述する表3に示す成分を用いた以外は、製造例1と同様にして、生物付着防止塗料2~9を得た。なお、後述する表3中、「FMA-12」は、フッ化ビニリデン系重合体と(メタ)アクリル系重合体とを含む水分散液(Arkema社製、製品名「Kynar Aquatec FMA-12」)である。
【0090】
<生物付着防止性評価1>
以下の手順で、試験板を作製した。
アルミ基材の両面に、エポキシ樹脂系塗料(中国塗料社製。製品名「SEAJET 013 主剤」と製品名「SEAJET 013 硬化剤」を、質量比4:1で混合した塗料。)を、乾燥塗膜の膜厚が約60μmになるように刷毛塗りし、常温で1週間硬化させた。つぎに、アルミ基材の片面に、生物付着防止塗料1を、乾燥塗膜の膜厚が約30μmになるようにアプリケーターで塗装し、常温で2週間乾燥することで、表面に重合体F1と、重合体G1とを構成成分とする塗膜を有する試験板1を作製した。生物付着防止塗料2~9に関しても同様にして、試験板2~9を作製した。
得られた試験板1~9のそれぞれを、海中浸漬(水深1m)して、4か月後のフジツボや貝類の付着状態を目視観察した。なお、海中浸漬場所は瀬戸内海であり、海中浸漬に際して、試験板は塗膜側が南を向くように設置した。
評価基準は以下の通りであり、生物付着防止性評価1(海中浸漬試験)の結果を表3に示す。
SS:塗膜表面へのフジツボや貝類の付着はなかった。
S:塗膜表面の0%超10%以下の面積に、フジツボや貝類の付着が認められた。
A:塗膜表面の10%超20%以下の面積に、フジツボや貝類の付着が認められた。
B:塗膜表面の20%超50%以下の面積に、フジツボや貝類の付着が認められた。
C:塗膜表面の50%超の面積にフジツボや貝類の付着が認められた。
【0091】
<生物付着防止性評価2>
生物付着防止性評価1で、作製した試験板1~9について、JIS Z 2911に準拠した寒天培地法により、塗膜表面への藻の発生を確認した。使用した藻の種類は、クロレラ属とオシラトリア(Oscillatoria)属を使用した。評価基準は以下の通りであり、生物付着防止性評価2(藻の発生試験)の結果を表3に示す。
【0092】
S:塗膜表面への藻の付着はなかった。
A:塗膜表面の0%超10%以下の面積に、藻の付着が認められた。
B:塗膜表面の10%超30%以下の面積に、藻の付着が認められた。
C:塗膜表面の30%超の面積に藻の付着が認められた。
【0093】
<密着性>
生物付着防止性評価1で作製した試験板1~9について、JIS K 5600-7-1(1999)の塩水噴霧試験を1000時間実施した後に、JIS K 5600-5-6(1999)に従い、塗膜の密着性を評価した。評価基準は以下の通りであり、結果を表3に示す。なお、「Aおよび/またはB」とは、「AおよびB」と「AまたはB」とのいずれであってもよいことを表す。
分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
分類1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
分類2:塗膜がカットの縁に沿って、および/または交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
分類3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大はがれを生じており、および/または目のいろいろな部分が、部分的または全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
分類4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大はがれを生じており、および/または数か所の目が部分的または全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に35%を上回ることはない。
分類5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0094】
以上の評価試験の結果を下記表3に示す。なお、例1~5は実施例であり、例6~9は比較例である。
【0095】
【0096】
表3の評価結果に示すように、重合体Fと重合体Gとを含有する塗料を使用することで、生物付着防止性および密着性に優れた塗膜を形成できることが示された。
これに対して、例6および7の塗料に含まれる重合体H1、H2は、単位G1を有さないため、得られる塗膜の生物付着防止性が劣ることが示された。
また、例8の塗料には、重合体Gが含まれていないため、得られる塗膜の生物付着防止性が劣ることが示された。
例9の塗料には、重合体Fが含まれていないため、得られる塗膜の密着性が劣ることが示された。また、例9の塗料によって得られる塗膜は、生物付着防止性の評価試験の際にアルミ基材から剥がれてしまったため、例9における生物付着防止性の評価は実施できなかった。
なお、2016年09月06日に出願された日本特許出願2016-173989号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。