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特許6993176液晶ポリエステル樹脂組成物および射出成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂組成物および射出成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20220105BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220105BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/04
C08K7/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017210132
(22)【出願日】2017-10-31
(65)【公開番号】P2019081854
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】小松 晋太郎
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-169374(JP,A)
【文献】特表2009-535530(JP,A)
【文献】特表2013-509503(JP,A)
【文献】特開2008-230911(JP,A)
【文献】特開2008-230912(JP,A)
【文献】特開2011-001230(JP,A)
【文献】特開2011-026541(JP,A)
【文献】国際公開第2015/016370(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02457871(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00- 67/08
C08K 3/00- 3/40
C08K 7/00- 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル樹脂と、
前記液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して15質量部以上100質量部以下の炭素繊維と、
前記炭素繊維100質量部に対して0.001質量部以上0.02質量部以下のフラーレンと、を含み、
前記炭素繊維の数平均繊維径は、1μm以上10μm以下であり、
前記フラーレンは、C 60 と、C 70 と、骨格部分の炭素数が70を超える高次フラーレンとの混合物であり、
前記フラーレンの総質量に対する前記C 60 の含有率が、50質量%以上90質量%以下であり、
前記フラーレンは、前記炭素繊維に吸着している液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記フラーレンは、無置換のフラーレンを含む請求項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭素繊維を芯構造とし、前記炭素繊維の周囲を前記液晶ポリエステル樹脂が被覆する芯鞘構造を有する請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
ペレット状を呈し、
前記炭素繊維の断面が露出している請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記炭素繊維がペレットの軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ前記炭素繊維の長さが前記ペレットの長さと実質的に同じ長さである請求項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料とする射出成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物および射出成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル樹脂は、溶融流動性に極めて優れ、構造によっては300℃以上の耐熱変形性を有する。液晶ポリエステル樹脂は、このような特性を生かして、電子部品をはじめ、OA、AV部品、耐熱食器等の用途で成形体に用いられている。
【0003】
成形体を得るための成形方法としては、射出成形法が一般的である。射出成形法においては、通常、液晶ポリエステル樹脂に必要に応じて他の成分を配合した液晶ポリエステル樹脂組成物を用いる。例えば、特許文献1には、機械的特性、耐熱性、薄肉成形性、寸法精度に優れた材料を得ることを目的として、液晶ポリエステル樹脂100重量部に、炭素繊維1~200重量部を配合した樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-172619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような炭素繊維を含有した液晶ポリエステル樹脂組成物は、成形体としたときの機械的強度のさらなる向上が求められていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、成形体としたときの機械的強度に優れる液晶ポリエステル樹脂組成物および射出成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、液晶ポリエステル樹脂と、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して15質量部以上100質量部以下の炭素繊維と、炭素繊維100質量部に対して0.001質量部以上0.02質量部以下のフラーレンと、を含む液晶ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【0008】
本発明の一態様においては、フラーレンは、C60と、C70と、骨格部分の炭素数が70を超える高次フラーレンとの混合物である構成としてもよい。
【0009】
本発明の一態様においては、フラーレンの総質量に対するC60の含有率が、50質量%以上90質量%以下である構成としてもよい。
【0010】
本発明の一態様においては、フラーレンは、無置換のフラーレンを含む構成としてもよい。
【0011】
本発明の一態様においては、フラーレンは、前記炭素繊維に吸着している構成としてもよい。
【0012】
本発明の一態様は、上記の液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料とする射出成形体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、成形体としたときの機械的強度に優れる液晶ポリエステル樹脂組成物および射出成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法に好適に用いられる装置の模式断面図。
図2】工程(i)で得られた複合繊維の好ましい形態を示す模式斜視図。
図3】本実施形態で製造されるペレット17の形態を示す概略斜視図。
図4図3の複合繊維19周辺を示す拡大図。
図5】別の方法で製造されるペレットの形態を示す概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<液晶ポリエステル樹脂組成物>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る液晶ポリエステル樹脂組成物について説明する。なお、図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0016】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂、炭素繊維およびフラーレンを含む混合物である。
【0017】
[液晶ポリエステル樹脂]
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶ポリエステル樹脂は、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステル樹脂であり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステル樹脂は、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステル樹脂は、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0018】
液晶ポリエステル樹脂の典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0019】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0020】
液晶ポリエステル樹脂は、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0021】
(1)-O-Ar1-CO-
(2)-CO-Ar2-CO-
(3)-X-Ar3-Y-
【0022】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(-NH-)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0023】
(4)-Ar4-Z-Ar5
【0024】
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0025】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基及びn-デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1~10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基及び2-ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6~20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0026】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n-ブチリデン基及び2-エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1~10である。
【0027】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1がp-フェニレン基であるもの(p-ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr1が2,6-ナフチレン基であるもの(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0028】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2がp-フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2がm-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2が2,6-ナフチレン基であるもの(2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びAr2がジフェニルエ-テル-4,4’-ジイル基であるもの(ジフェニルエ-テル-4,4’-ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0029】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3がp-フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p-アミノフェノール又はp-フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びAr3が4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル又は4,4’-ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0030】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステル樹脂を構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30~80モル%、より好ましくは40~70モル%、さらに好ましくは45~65モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10~35モル%、より好ましくは15~30モル%、さらに好ましくは17.5~27.5モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10~35モル%、より好ましくは15~30モル%、さらに好ましくは17.5~27.5モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0031】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1~1/0.9、好ましくは0.95/1~1/0.95、より好ましくは0.98/1~1/0.98である。
【0032】
なお、液晶ポリエステル樹脂は、繰返し単位(1)~(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステル樹脂は、繰返し単位(1)~(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0033】
液晶ポリエステル樹脂は、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが、溶融粘度が低くなり易いので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することが、より好ましい。
【0034】
液晶ポリエステル樹脂は、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(以下、「プレポリマー」ということがある。)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステル樹脂を操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1-メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0035】
液晶ポリエステル樹脂は、その流動開始温度が、通常270℃以上、好ましくは270~400℃、より好ましくは280~380℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、その成形に必要な温度が高くなり易い。
【0036】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステル樹脂を溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステル樹脂の分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー-合成・成形・応用-」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0037】
[炭素繊維]
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる炭素繊維は、プリカーサーと呼ばれる前駆体を焼成して得られる一般的な炭素繊維である。より具体的には、まずプリカーサーを酸化雰囲気中で耐炎化処理した後、得られた耐炎化繊維を不活性ガス雰囲気中、800~2000℃程度で焼成する。さらに必要に応じて、これをより高温の不活性ガス中で焼成する。炭素繊維は、通常、その表面にサイジング剤が付与されたものが知られている。
【0038】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる炭素繊維の種類は、特に限定されないが、例えばポリアクリロニトリル系(以下、「PAN系」と言うことがある。)、石油・石炭ピッチ系(以下、「ピッチ系」と言うことがある。)、レーヨン系、リグニン系などが挙げられる。
【0039】
PAN系炭素繊維としては、例えば、東レ株式会社製「トレカ(登録商標)」、三菱レイヨン株式会社製「パイロフィル(登録商標)」、および東邦テナックス株式会社製「テナックス(登録商標)」などが挙げられる。ピッチ系炭素繊維としては、例えば、三菱化学産資株式会社製「ダイアリード(登録商標)」、大阪ガスケミカル株式会社製「ドナカーボ(登録商標)」、および呉羽化学株式会社製「クレカ(登録商標)」などが挙げられる。
【0040】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる炭素繊維は、特に制限されないが、複数の単繊維が収束した炭素繊維束またはチョップド炭素繊維が好ましく、生産性の観点から炭素繊維束がより好ましい。
【0041】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる炭素繊維の数平均繊維径は、特に限定されないが、1μm以上10μm以下であり、5μm以上8μm以下であることが好ましい。炭素繊維の数平均繊維径は、炭素繊維を走査型電子顕微鏡(1000倍)にて観察し、50本の炭素繊維について繊維径を計測した値の数平均値を採用した。
【0042】
上記炭素繊維の平均径が1μm以上であると、液晶ポリエステル樹脂中で炭素繊維が分散されやすい。また、液晶ポリエステル樹脂組成物の製造時に炭素繊維を取り扱いやすい。また、炭素繊維の平均径が10μm以下であると、炭素繊維による液晶ポリエステル樹脂の強化が効率よく行われる。そのため、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を成形した成形体に、優れた機械的強度を付与できる。
【0043】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる炭素繊維束の繊維集束本数は、特に限定されないが、3000本以上が好ましく、12000本以上がより好ましい。炭素繊維束の繊維集束本数が3000本以上であると、成形体としたときの機械的強度に優れる点において、液晶ポリエステル樹脂組成物中の炭素繊維の含有量が十分となる。また、炭素繊維束の繊維集束本数は、60000本以下が好ましく、18000本以下がより好ましい。炭素繊維束の繊維集束本数が60000本以下であると、液晶ポリエステル樹脂中で炭素繊維が分散されやすい。また、液晶ポリエステル樹脂組成物の製造時に炭素繊維を取り扱いやすい。
【0044】
[フラーレン]
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれるフラーレンは、フラーレン構造を有していれば炭素数に制限はないが、例えば炭素数60~84のフラーレンである。本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれるフラーレンは、C60と、C70と、骨格部分の炭素数が70を超える高次フラーレンとの混合物であることが好ましい。本明細書において、「C60」というときには、骨格部分の炭素数が60であることを意味し、置換基の有無については問わないこととする。また、C70等、他のフラーレンについても同様である。C60と、C70と、高次フラーレンとの混合物は、ミックスフラーレンと呼ばれる。また、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物において、フラーレンの総質量に対するC60の含有率が、50質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0045】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれるフラーレンの置換基の種類は、特に制限されないが、フラーレンが無置換のフラーレンを含むことが好ましい。
【0046】
このようなフラーレンは、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂中で分散されていることが好ましい。また、フラーレンは、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物中で上記炭素繊維に吸着し、炭素繊維と一体となって液晶ポリエステル樹脂中で分散されていることがより好ましい。
【0047】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれるフラーレンは、市販品を入手することが可能である。本実施形態に用いるフラーレンとしては、例えばフロンティアカーボン株式会社製の「nanom(登録商標) MIX ST」などを挙げることができる。
【0048】
また、炭化水素原料と酸素含有ガスとを反応炉に供給し、該反応炉内でこれらを不完全燃焼又は熱分解させることによって製造したフラーレンを用いてもよい。
【0049】
炭化水素原料としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6~15の芳香族炭化水素、クレオソート油、カルボン酸油などの石炭系炭化水素、アセチレン系不飽和炭化水素、エチレン系炭化水素、ペンタンやヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素等が使用できる。これらを単独又は任意の割合で混合して使用することもできる。
【0050】
炭化水素原料としては、特に芳香族系炭化水素が好ましく、中でも精製した芳香族系炭化水素を用いることが好ましい。炭素含有燃料ガスの純度は高い方が好ましいが、燃焼温度や炭素含有燃料ガスの燃焼反応中での濃度を制御するためにアルゴンガス等の不活性ガスで炭素含有燃料ガスを希釈してもよい。
【0051】
酸素含有ガスとしては、濃度99%以上の酸素ガス、濃度99%以上の酸素ガスを窒素やアルゴンガス等の不活性ガスで希釈したもの、空気等が用いられる。
【0052】
60、C70、および高次フラーレンの混合比率は、上記の炭化水素原料と酸素含有ガスとの当量比を変えて制御することができる。
【0053】
炭化水素原料と酸素含有ガスとの当量比とは、反応炉内の炭化水素原料と酸素含有ガスとの混合比、即ち炭化水素原料と酸素含有ガス中の酸素とのモル比を用いて、下式で定義される。
当量比=A/A
ここで、Aは炭化水素原料と酸素との実際のモル比(炭化水素原料)/(酸素)を示す。Aは炭化水素原料と酸素との完全燃焼時(化学量論)のモル比(炭化水素原料)/(酸素)を示す。
【0054】
詳しくは、炭化水素原料と酸素含有ガスとの当量比を増加させることで、フラーレン中のC60の割合を減少させることができ、フラーレン中の高次フラーレンの割合を増加させることができる。なお、フラーレン中のC70は、当量比の増加に伴って減少した後、増加する。
【0055】
また、C60、C70、および高次フラーレンの混合比率は、反応炉内の圧力を変えて制御することもできる。
【0056】
詳しくは、反応炉内の圧力を真空側に近づけることで、フラーレン中のC60、C70の割合を増加させることができ、フラーレン中の高次フラーレンの割合を減少させることができる。
【0057】
[他の成分]
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、原料として、本実施形態の炭素繊維およびフラーレン以外の充填材、添加剤、液晶ポリエステル樹脂以外の樹脂等の他の成分を1種以上含んでもよい。
【0058】
充填材は、繊維状充填材であってもよいし、板状充填材であってもよいし、繊維状及び板状以外で、球状その他の粒状充填材であってもよい。また、充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
【0059】
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;及びステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
【0060】
繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
【0061】
板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。
【0062】
粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウムが挙げられる。
【0063】
添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤及び着色剤が挙げられる。
【0064】
液晶ポリエステル樹脂以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル樹脂以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0065】
[液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂、炭素繊維、フラーレンおよび必要に応じて用いられる他の成分を混合することにより得ることができる。
【0066】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法は、下記工程(i)~(iv)を有することが好ましい。
(i)炭素繊維に、フラーレンを含む溶液を含浸する工程
(ii)上記溶液を含浸させた複合繊維を、乾燥させる工程
(iii)乾燥させた複合繊維と、溶融した液晶ポリエステル樹脂との複合体を得る工程
(iv)複合体を切断する工程
【0067】
図1は、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法に好適に用いられる装置の模式断面図である。図2は、工程(i)で得られた複合繊維の好ましい形態を示す模式斜視図である。
【0068】
以下では、本実施形態で製造される液晶ポリエステル樹脂組成物の好適な形態の一例として、液晶ポリエステル樹脂組成物からなるペレットを挙げて説明する。また、炭素繊維として、複数の単繊維1(図2参照)が収束した炭素繊維ロービング11を用いる場合を説明する。
【0069】
図1に示すように、製造装置200は、含浸槽23と、乾燥装置25と、押出機27と、切断装置29と、を備える。また、製造装置200は、繰出ロール21および搬送ロール101~107を備える。
【0070】
図1では、炭素繊維ロービング11が繰出ロール21に巻かれた状態で一方の側から供給される様子を示している。本実施形態では、炭素繊維ロービング11を搬送ロール101~107によって長手方向に搬送しながら、液晶ポリエステル樹脂組成物からなるペレットを作製する。
【0071】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物の製造に用いられる炭素繊維ロービング11の繊度は、特に限定されないが、200g/1000m以上が好ましく、800g/1000m以上がより好ましい。炭素繊維ロービング11の繊度が200g/1000m以上であると、液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法において、炭素繊維ロービング11を取り扱いやすい。また、炭素繊維の繊度は、3750g/1000m以下が好ましく、3200g/1000m以下がより好ましい。炭素繊維の繊度が3750g/1000m以下であると、液晶ポリエステル樹脂中で炭素繊維が分散されやすい。また、液晶ポリエステル樹脂組成物の製造時に炭素繊維を取り扱いやすい。
【0072】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造する際には、予め炭素繊維のサイジング剤を低減させてから用いてもよい。
【0073】
炭素繊維に付着したサイジング剤は、公知の方法によって低減することができる。サイジング剤の低減方法としては、例えば、炭素繊維ロービング11をアセトン等の有機溶媒で満たした槽に連続的に浸漬することによって、サイジング剤を溶解させる方法が挙げられる。また、炭素繊維ロービング11を水槽に浸漬することによって、サイジング剤を低減する方法が挙げられる。別の方法としては、炭素繊維ロービング11に過熱水蒸気を曝すことによって、炭素繊維ロービング11の炭素繊維とサイジング剤との界面に水蒸気が浸透し、サイジング剤を低減する方法が挙げられる。さらには、炭素繊維ロービング11をサイジング剤の分解温度以上かつ炭素繊維の分解温度未満に加熱する方法が挙げられる。
【0074】
含浸槽23は、フラーレンを含む溶液を溜めておくものである。フラーレンを含む溶液とは、上述したフラーレンを溶媒に分散または溶解させたものである。含浸槽23では、炭素繊維ロービング11にフラーレンを含む溶液を含浸し、フラーレンを含む溶液が含浸した複合繊維ロービング13を得る。ここで、複合繊維ロービング13は上記工程(ii)および工程(iii)における「複合繊維」に該当する。
【0075】
フラーレンを分散または溶解させる溶媒としては、特に限定されないが、常温で液体であり、沸点が50~300℃の有機溶媒である。50~300℃の有機溶媒としては、例えば、メタノール、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート、1-メトキシ-2-プロパノール、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチシレン、1-メトキシベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,3,5-テトラメチルベンゼン、テトラリン、1-メチルナフタレン、等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0076】
上述した溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
上記工程(i)で用いるフラーレンを含む溶液は、溶液の全量に対して、上述したフラーレンを0.0001質量%以上1質量%以下含有することが好ましい。
【0078】
上記溶液中のフラーレンの濃度が0.0001質量%以上であると、成形体としたときに十分な機械的強度が得られるために必要な量のフラーレンを炭素繊維ロービング11と混合することができる。また、フラーレンの使用量が1質量%以下であると、炭素繊維ロービング11と混合されないフラーレンの量を少なくすることができ、低コスト化できる。
【0079】
本実施形態では、上記溶液中のフラーレンの濃度を高くすることによって、炭素繊維ロービング11と混合されるフラーレンの量を増やすことができる。また、含浸槽23での炭素繊維ロービング11の滞留時間を長くすることによっても、炭素繊維ロービング11と混合されるフラーレンの量を増やすことができる。
【0080】
乾燥装置25は、複合繊維ロービング13を乾燥し、複合繊維ロービング13の含液率を低下させるものである。乾燥装置25は、加熱または送風が可能な装置である。乾燥装置25では、加熱または送風などにより複合繊維ロービング13を乾燥させる。また、乾燥装置25では、加熱と送風とを組み合わせて複合繊維ロービング13を乾燥させてもよい。
【0081】
乾燥装置25における乾燥温度は、フラーレンを分散または溶解させる溶媒の沸点により決定することが好ましい。溶媒の沸点が低い場合は、室温であってもよい。また溶媒の沸点が高い場合は、室温より高い温度であってもよい。
【0082】
例えば、溶媒として塩化メチレン(沸点:39.6℃)を用いる場合、室温で送風により複合繊維ロービング13を乾燥させることが好ましい。
【0083】
乾燥時間は、特に限定されないが、24時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましい。また、炭素繊維ロービングを用いる場合、乾燥時間は10分以下がさらに好ましく、1分以下が特に好ましい。
【0084】
押出機27は、上述した液晶ポリエステル樹脂5を溶融させるものである。押出機27のシリンダー温度を、用いる液晶ポリエステル樹脂5の流動開始温度より10~80℃高い温度に設定することが好ましい。押出機27によって溶融状態となった液晶ポリエステル樹脂5および必要に応じて添加される他の成分を複合繊維ロービング13に被覆し、液晶ポリエステル樹脂5と複合繊維ロービング13との複合体15を得る。
【0085】
切断装置29は、複合体15を所望の長さに切断し、ペレット17を作製するものである。切断装置29は、例えば回転刃などを備える。
【0086】
上述した製造装置を用いて、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造する方法について説明する。
【0087】
まず、工程(i)では、繰出ロール21から巻き出した炭素繊維ロービング11を含浸槽23に含浸し、複合繊維ロービング13を得る。複合繊維ロービング13は、炭素繊維ロービング11とフラーレン3との混合物である。図2に示すように、複合繊維ロービング13においては、炭素繊維ロービング11の複数の単繊維1の表面にフラーレン3が吸着していることが好ましい。
【0088】
次に、工程(ii)では、得られた複合繊維ロービング13を、乾燥装置25を用いて乾燥させる。
【0089】
次に、工程(iii)では、押出機27により液晶ポリエステル樹脂5を溶融させる。この溶融状態の液晶ポリエステル樹脂5および必要に応じて添加される他の成分を複合繊維ロービング13に被覆し、ストランド状に引き取って、複合体15を得る。
【0090】
次に、工程(iv)では、ストランド状の複合体15を所望の長さに切断し、ペレット17を作製する。ここで、ペレット17の所望の長さとは、ペレット17を成形した成形体の要求性能に応じて設定されるペレット17の長さのことである。このようにして、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物からなるペレット17が製造される。
【0091】
発明者らは、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物が、液晶ポリエステル樹脂に炭素繊維のみを配合した樹脂組成物と比べて、成形体としたときの機械的強度に優れることを見出し、本発明を完成させた。なお、本実施形態における機械的強度は、曲げ強度およびIzod衝撃強度を測定することにより評価される。
【0092】
本実施形態における曲げ強度は、以下のようにして測定される。まず、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を用い、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片を作製する。この試験片の曲げ強度を、ASTM D790に基づいて測定する。
【0093】
本実施形態におけるIzod衝撃強度は、以下のようにして測定される。まず、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を用い、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片を作製する。この試験片のIzod衝撃強度を、ASTM D256に基づいて測定する。
【0094】
図3は、本実施形態で製造されるペレット17の形態を示す概略斜視図である。図4は、図3の複合繊維ロービング13が切断された複合繊維19周辺を示す拡大図である。図3の矢印は、ペレット17の軸心方向を示す。
【0095】
図3に示すように、本実施形態のペレット17は、複合繊維19がペレット17の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ複合繊維19の長さはペレット17の長さと実質的に同じ長さである。また、図3に示すペレット17では、複合繊維19の断面が露出している。
【0096】
ここで、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット17の内部で複合繊維19が切断されていたり、ペレット17の全長よりも有意に短い複合繊維19が実質的に含まれたりしないことである。
【0097】
ペレット17の全長とは、ペレット17中の複合繊維19の配向方向の長さである。ペレット17の全長の上限値は、好ましくは1mm以上、より好ましくは4mm以上、さらに好ましくは8mm以上である。また、ペレット17の全長の下限値は、好ましくは20mm以下、より好ましくは18mm以下、さらに好ましくは15mm以下である。ペレット17の全長の上限値および下限値は任意に組み合わせ可能である。ペレット17の全長は、例えば12mmである。
【0098】
ペレット17に含まれる複合繊維19は、射出成形時に溶融混練されて短くなる。ペレット17の全長が1mm以上であると、溶融混練後の複合繊維19の長さが十分に長くなる。その結果、得られる射出成形体の機械的強度が高くなる傾向がある。また、ペレット17の全長が20mm以下であると、溶融混練後の複合繊維19の長さが長くなりすぎない。その結果、液晶ポリエステル樹脂組成物の流動性が良好となりやすく、生産性を十分維持できる。
【0099】
ペレット17の断面形態は、複合繊維19に、液晶ポリエステル樹脂5が接していれば図に示されたものに限定されない。好ましくは、図3に示されるように、複合繊維19を芯構造として、その周囲を液晶ポリエステル樹脂5が被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。
【0100】
工程(i)において、フラーレン3を分散または溶解させた溶液に炭素繊維ロービング11を含浸させることにより、フラーレン3と炭素繊維ロービング11との混合物を得ることができる。工程(i)終了後には、図2に示すように炭素繊維ロービング11の複数の単繊維1にフラーレン3が吸着していることが好ましい。
【0101】
また、工程(iii)において、複合繊維ロービング13を液晶ポリエステル樹脂5で被覆することにより、複合繊維ロービング13と液晶ポリエステル樹脂5とが界面で接触していることが好ましい。そして、図4に示すように、フラーレン3が、炭素繊維ロービング11が切断された炭素繊維束10と液晶ポリエステル樹脂5との界面付近に存在していることが好ましい。
【0102】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂に炭素繊維のみを配合した樹脂組成物と比べて、成形体としたときの機械的強度に優れる。フラーレン3が液晶ポリエステル樹脂および炭素繊維束と界面で相互作用することにより、成形体としたときの機械的強度により優れると考えられる。
【0103】
ペレット17中のフラーレン3は、ペレット17を透過型電子顕微鏡により観察することで確認できる。なお、フラーレン3の一部が、液晶ポリエステル樹脂組成物を構成する液晶ポリエステル樹脂中に分散していてもよい。
【0104】
本実施形態では、工程(iv)を省略することもできる。本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物からなるペレットは、その軸心方向に連続であってもよい。
【0105】
本実施形態では、工程(ii)において複合繊維ロービング13を乾燥装置25を用いて乾燥させる例を示したが、これに限定されない。例えば、乾燥装置25を用いずに複合繊維ロービング13を自然乾燥させてもよい。
【0106】
また、本実施形態では、図1に示す装置を用いて液晶ポリエステル樹脂組成物を製造する方法を示したが、これに限定されない。例えば、小規模で液晶ポリエステル樹脂組成物を製造する場合、以下のような方法で行ってもよい。
【0107】
まず、フラーレンを含む溶液に炭素繊維束を投入し、撹拌することで、炭素繊維束とフラーレンとを混合し、複合繊維を得る。次に、二軸押出機(例えば、池貝鉄工株式会社製の「PCM-30」)に液晶ポリエステル樹脂および複合繊維を供給し、溶融混練した後、液晶ポリエステル樹脂組成物からなるペレットを作製する。
【0108】
このようにして得られたペレットは、図3および図4に示すペレットと炭素繊維束の形態が異なる。図5は、別の方法で製造されるペレット17Aの形態を示す概略斜視図である。図5に示すように、複合繊維19Aがランダムに配列され、かつ複合繊維19Aの長さは用いる炭素繊維束の長さよりも短くなっている。
【0109】
また、図3に示すペレット17では、複合繊維19の断面が露出していたが、図5に示すペレット17Aでは、複合繊維19Aの断面の露出が少なくなっている。これは、液晶ポリエステル樹脂組成物を作製する過程で溶融混練を行うことで、複合繊維19Aを構成する炭素繊維束が折れるためである。
【0110】
なお、上述した液晶ポリエステル樹脂組成物の小規模な製造において、炭素繊維束を含む溶液にフラーレンを投入すると、フラーレンの分散がうまく行われない。その結果、目的の複合繊維を得ることが難しくなる。
【0111】
また、上述した押出機に液晶ポリエステル樹脂、炭素繊維束およびフラーレンを一度に供給し、溶融混練する方法によっても、目的の液晶ポリエステル樹脂組成物を得ることが難しくなる。こうして製造された液晶ポリエステル樹脂組成物においては、フラーレンが組成物全体に分散されていると推測される。その結果、フラーレンが、液晶ポリエステル樹脂および炭素繊維束と相互作用しにくくなり、フラーレンによる機械的強度の向上の効果が得られないと考えられる。
【0112】
[液晶ポリエステル樹脂組成物]
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂と、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して15質量部以上100質量部以下の炭素繊維と、炭素繊維100質量部に対して0.001質量部以上0.02質量部以下のフラーレンと、を含む。
【0113】
炭素繊維の含有量は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対し、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がさらに好ましい。
【0114】
液晶ポリエステル樹脂組成物中の炭素繊維が、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して15質量部以上であると、成形体としたときに十分な機械的強度が得られる。また、液晶ポリエステル樹脂組成物中の炭素繊維が、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して100質量部以下であると、溶融混練時に液晶ポリエステル樹脂組成物の粘度を十分低くできる。
【0115】
液晶ポリエステル樹脂組成物中のフラーレンが、炭素繊維100質量部に対して0.001質量部以上であると、成形体としたときに十分な機械的強度が得られる。また、液晶ポリエステル樹脂組成物中のフラーレンが、炭素繊維100質量部に対して0.02質量部以下であると、成形体としたときに効率的に機械的強度が得られ、低コスト化できる。これに対し、炭素繊維100質量部に対して0.02質量部を超えると、フラーレンによる機械的強度の向上の効果が頭打ちになる。
【0116】
以上のことから、本実施形態によれば、成形体としたときの機械的強度に優れる液晶ポリエステル樹脂組成物が提供される。
【0117】
<射出成形体>
本実施形態の射出成形体は、上述した液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料とし、射出成形法により成形したものである。詳しくは、公知の射出成形機を用いて、液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融させ、溶融した液晶ポリエステル樹脂組成物を、金型内に射出することにより成形する。公知の射出成形機としては、例えば、日精樹脂工業社製の油圧式横型成形機PS40E5ASE型などが挙げられる。
【0118】
射出成形機のシリンダー温度は、用いる液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度より10~50℃高い温度に設定することが好ましい。
【0119】
金型の温度は、液晶ポリエステル樹脂組成物の冷却速度と生産性の点から、室温(例えば、23℃)~180℃の範囲に設定することが好ましい。
【0120】
以上のことから、本実施形態によれば、機械的強度に優れる射出成形体が提供される。
【0121】
本発明の射出成形体は、一般に液晶ポリエステル樹脂が適用し得るあらゆる用途に適用可能である。例えば、自動車分野においては、Aピラー、Bピラーおよびシャシー等の構造部材、内装材、および外板などの用途が挙げられる。その他の用途としては、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、その他半導体部品、その他液晶ディスプレイ部品、その他コンピューター関連部品、その他電子レンジ部品、その他音響・音声機器部品、その他照明部品、その他エアコン部品、その他オフィスコンピューター関連部品、その他電話・FAX関連部品、およびその他複写機関連部品などが挙げられる。
【0122】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例
【0123】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度は以下のようにして測定した。
【0124】
<液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度の測定>
フローテスター(株式会社島津製作所の「CFT-500型」)を用いて、液晶ポリエステ約2gを、内径1mmおよび長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0125】
以下の実施例においては、下記の市販品を用いた。
液晶ポリエステル樹脂:RB100(住友化学(株)製、流動開始温度333℃)。
炭素繊維束:PAN系チョップド炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製、数平均繊維長6mm、数平均繊維径6μm)。
フラーレン:nanom(登録商標) MIX ST(フロンティアカーボン株式会社製)。C60/C70/高次フラーレンが質量比で60/20/20であった。
【0126】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造>
[実施例1]
表1に示す割合で、液晶ポリエステル樹脂、炭素繊維束およびフラーレンを用い、これらが混合した液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。まず、フラーレンの濃度が10ppmになるように調製した塩化メチレン溶液に、炭素繊維束を投入し、24時間浸漬した(含浸する工程)。撹拌後、フィルター(孔径1μm)を用いて濾過し、濾残を24時間自然乾燥させた(乾燥させる工程)。このようにして、炭素繊維束にフラーレンが混合された複合繊維を得た。なお、表1中の数値は質量部を表す。
【0127】
次に、二軸押出機(池貝鉄工株式会社製の「PCM-30」、シリンダー温度:280℃)に液晶ポリエステル樹脂および複合繊維を供給し、溶融混練した後、液晶ポリエステル樹脂組成物からなるペレットを作製した。
【0128】
実施例1のペレットにおいて、炭素繊維100質量部に対するフラーレンの含有量を以下のようにして測定した。まず、下記条件下で高速液体クロマトグラフィーにより測定されるクロマトグラフのピーク面積とフラーレンの濃度との関係を示した検量線を予め作成しておいた。次に、同じ条件下で高速液体クロマトグラフィーにより炭素繊維束の含浸前後における塩化メチレン溶液を測定し、フラーレンの濃度を求めた。
【0129】
[条件]
装置:Agilent Technology製、高速液体クロマトグラフ1200 Series
カラム:YMC製カラムYMC-pack ODS-AM
展開溶媒(体積比):トルエン/メタノール=51/49
流速:1.2mL/分
検出方法:308nm紫外光吸収
【0130】
求めたフラーレンの濃度を用い、炭素繊維100質量部に対するフラーレンの含有量を下式により算出した。
【0131】
フラーレンの含有量={(C-C)×(M/M)}/10
ただし、式中、Cは、含浸前の塩化メチレン溶液におけるフラーレンの濃度[質量ppm]を表す。Cは、含浸後の塩化メチレン溶液におけるフラーレンの濃度[質量ppm]を表す。Mは、塩化メチレン溶液の質量[g]を表す。Mは、炭素繊維の質量[mg]を表す。
【0132】
このようにして算出した実施例1のペレットにおけるフラーレンの含有量は、炭素繊維100質量部に対して0.0013質量部であった。
【0133】
[比較例1]
フラーレンを用いなかったこと以外は実施例1と同様にして行い、液晶ポリエステル樹脂組成物からなるペレットを作製した。
【0134】
[比較例2]
表1に示す割合で、二軸押出機(池貝鉄工株式会社製の「PCM-30」、シリンダー温度:280℃)に液晶ポリエステル樹脂、炭素繊維束およびフラーレンを供給し、溶融混練した後、液晶ポリエステル樹脂組成物からなるペレットを作製した。
【0135】
【表1】
【0136】
得られたペレットを130℃で4時間、熱風乾燥した後、以下の方法により評価した。
【0137】
<曲げ強度および曲げ弾性率>
射出成形機日精樹脂工業(株)社製「PNX40-5A」を用いて、12.7mm×6.4mm×6.4mmtの試験片を射出成形した。成形条件は、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度75mm/秒とした。
【0138】
得られた試験片の曲げ弾性率および曲げ強度を、ASTM D790に基づいて測定した。
【0139】
<Izod衝撃強度>
上述した<曲げ強度および曲げ弾性率>で得られた試験片(ノッチなし)のIzod衝撃強度をASTM D256に準拠して測定した。
【0140】
<荷重たわみ温度>
上述した<曲げ強度および曲げ弾性率>で得られた試験片の荷重たわみ温度を、ASTM D648に準拠し、1.82MPaの荷重、昇温速度2℃/分で測定した。
【0141】
評価結果を表2に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
表2に示すように、本発明を適用した実施例1では、比較例1と比べて成形体(試験片)の曲げ強度、曲げ弾性率およびIzod衝撃強度が高かった。つまり、実施例1では、比較例1と比べて成形体の機械的強度に優れていた。
【0144】
また、実施例1では、比較例1と比べて成形体(試験片)の荷重たわみ温度が高かった。つまり、実施例1では、比較例1と比べて成形体の耐熱性にも優れていた。
【0145】
また、実施例1では、比較例2と同じ割合で原料を用いた。しかし、実施例1では、比較例2と比べて成形体の機械的強度に優れていた。これは、実施例1の液晶ポリエステル樹脂組成物において、フラーレンが炭素繊維束と液晶ポリエステル樹脂との界面付近に存在していると推測される。その結果、フラーレンが、液晶ポリエステル樹脂および炭素繊維束とそれぞれ相互作用することにより、優れた機械的強度を示したと考えられる。
【0146】
一方、比較例2では、単に液晶ポリエステル樹脂、炭素繊維束およびフラーレンを混合して液晶ポリエステル樹脂組成物を製造した。こうして製造された液晶ポリエステル樹脂組成物においては、フラーレンが組成物全体に分散されていると推測される。その結果、フラーレンが、液晶ポリエステル樹脂および炭素繊維束と相互作用しにくくなり、フラーレンによる機械的強度の向上の効果が得られなかったと考えられる。
【0147】
以上の結果から、本発明が有用であることが示された。
【符号の説明】
【0148】
1…単繊維、3…フラーレン、5…液晶ポリエステル樹脂、10…炭素繊維束、11…炭素繊維ロービング、13…複合繊維ロービング、15…複合体、17,17A…ペレット、19,19A…複合繊維
図1
図2
図3
図4
図5