(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】多孔質絶縁層形成用組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220128BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220128BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220128BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20220128BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20220128BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20220128BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20220128BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20220128BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20220128BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20220128BHJP
C08L 23/00 20060101ALN20220128BHJP
C08J 9/28 20060101ALN20220128BHJP
C08F 226/02 20060101ALN20220128BHJP
C08L 39/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M50/417
H01M50/403 D
H01M50/42
H01M50/423
H01M50/434
H01M50/443 C
H01M50/443 D
H01M50/443 M
H01M50/446
C08L23/00
C08J9/28 102
C08F226/02
C08L39/00
C08J9/28 CES
(21)【出願番号】P 2017215926
(22)【出願日】2017-11-08
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】深谷 倫行
(72)【発明者】
【氏名】干場 弘治
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/096528(WO,A1)
【文献】特開2010-225545(JP,A)
【文献】特開2008-226566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M50/40-50/497
H01M10/00-10/39
H01M 6/00- 6/22
H01G11/00-11/86
C08L 23/00
C08L 39/00
C08F 226/02
C08J 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の主面に配置され、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質を含む活物質層上に多孔質絶縁層を形成するための多孔質絶縁層形成用組成物であって、
ポリオレフィン系ポリマー粒子と、結着剤と、絶縁性無機粒子と、水および有機溶媒を含む溶媒と、を含み、
前記結着剤は、高分子を含み、
前記高分子は、下記式(1):
【化1】
式中、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、
で表される単量体単位(A)の少なくとも1種と、下記式(2):
【化2】
式中、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、
Xは、少なくとも1個の窒素原子を環構成成分として有し、1以上の水素原子が炭素数1~3のアルキル基によって置換してもよい、複素環式基である、
で表される単量体単位(B)の少なくとも1種とを含み、
前記高分子において前記単量体単位(A)と前記単量体単位(B)との質量比(A)/(B)が、40/60~80/20であり、
前記高分子におけるイオン性単量体単位の含有量が10質量%未満である、多孔質絶縁層形成用組成物。
【請求項2】
Xが、窒素原子および酸素原子を含む複素環式基である、請求項1に記載の多孔質絶縁層形成用組成物。
【請求項3】
前記活物質層は、活物質層用結着剤を含み、
前記活物質層用結着剤のハンセン溶解度パラメータと前記有機溶媒のハンセン溶解度パラメータとの距離が8.0以上である、請求項1または2に記載の多孔質絶縁層形成用組成物。
【請求項4】
1atmにおける前記有機溶媒の沸点が160℃以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔質絶縁層形成用組成物。
【請求項5】
前記有機溶媒は、グリコールアルキルエーテル系化合物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の多孔質絶縁層形成用組成物。
【請求項6】
集電体と、
前記集電体の主面に配置され、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質を含む活物質層と、
請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔質絶縁層形成用組成物によって前記活物質層上に形成された多孔質絶縁層と、を有する非水電解質二次電池用電極。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解質二次電池用電極を含む、非水電解質二次電池。
【請求項8】
集電体の主面に配置され、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質を含む活物質層上に、多孔質絶縁層形成用組成物を用いて多孔質絶縁層を形成する工程を有し、
前記多孔質絶縁層形成用組成物は、ポリオレフィン系ポリマー粒子と、結着剤と、絶縁性無機粒子と、水および有機溶媒を含む溶媒と、を含み、
前記結着剤は、高分子を含み、
前記高分子は、下記式(1):
【化3】
式中、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、
で表される単量体単位(A)の少なくとも1種と、下記式(2):
【化4】
式中、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、
Xは、少なくとも1個の窒素原子を環構成成分として有し、1以上の水素原子が炭素数1~3のアルキル基によって置換してもよい、複素環式基である、
で表される単量体単位(B)の少なくとも1種とを含み、
前記高分子において前記単量体単位(A)と前記単量体単位(B)との質量比(A)/(B)が、40/60~80/20であり、
前記高分子におけるイオン性単量体単位の含有量が10質量%未満である、非水電解質二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質絶縁層形成用組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、比較的高いエネルギー密度を有する一方で、安全性を確保することも求められる。この為に例えば、電池の内部短絡等に起因する異常加熱時にセパレータの孔を溶融によって閉塞させることにより、電池内部の内部抵抗を増加させるシャットダウン機能が、利用されている。また、セパレータによる上記シャットダウン機能とは別に、電極表面上に多孔質絶縁層(耐熱セラミックス層)を直接形成して、内部短絡を防止する方法も検討されている(例えば特許文献1)。
【0003】
このような多孔質絶縁層を有する電極は、例えば、以下のようにして作成される。まず、集電体上に水系スラリーとしての活物質含有ペーストを塗布、乾燥し、その後加圧して活物質層を形成する。次いで、多孔質絶縁層を構成する材料スラリーを活物質層上に塗布、乾燥して多孔性の多孔質絶縁層を形成する。
【0004】
さらに、特許文献2においては、このような多孔質絶縁層にポリオレフィン等の高分子粒子を含ませることにより、多孔質絶縁層自体にもシャットダウン機能を付与することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-226566号公報
【文献】特開2015-037077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような多孔質絶縁層の厚みは、多くは10μm以下である。したがって、ポリオレフィン系ポリマー等の高分子粒子の平均粒径についても、多孔質絶縁層の厚みよりも小さいことが好ましい。例えば上記のような平均粒径のポリオレフィン系ポリマーが分散した分散体としては、水を分散媒としたものが市販されている。
【0007】
ここで、上述したように、活物質層の形成時、特に負極活物質層の形成時には、通常、水系スラリーとしての活物質含有ペーストが用いられる。この場合において、形成された活物質層上に多孔質絶縁層の材料スラリーを塗布すると、材料スラリー中の水分に起因して、活物質層が膨潤することにより、この密度が低下することを本発明者らは見出した。すなわち、活物質層は圧延後も空隙を有していることから、材料スラリーを塗工すると、スラリー中の水分が活物質層中に一部浸透する。結果、活物質層の層厚は増大する。したがって、ポリオレフィン系ポリマーを多孔質絶縁層に含ませようとすると、従来用いられてきた水系の材料スラリーでは、活物質層の層厚の過度の増大を招いてきた。
【0008】
一方で、材料スラリー中の溶媒における水の比率を低減させて有機溶媒の比率を高めると、ポリオレフィン系ポリマー粒子の安定性が低下して不可逆的な凝集物を発生させることがある。凝集状態がひどい場合には材料スラリーがゲル化することがある。また軽微な凝集であっても薄膜多孔質絶縁層の形成が困難になる恐れがある。
【0009】
そこで、本発明においては、塗工時における活物質層の層厚の増加を抑制可能であり、ポリオレフィン系ポリマー粒子の分散性に優れ、かつ、塗工性に優れた多孔質絶縁層形成用組成物を提供することを目的とする。また、本発明においては、上記多孔質絶縁層形成用組成物を用いた非水電解質二次電池用電極の製造方法を提供することも目的とする。さらに、本発明においては、これにより製造された非水電解質二次電池用電極および非水電解質二次電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、集電体の主面に配置され、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質を含む活物質層上に多孔質絶縁層を形成するための多孔質絶縁層形成用組成物であって、
ポリオレフィン系ポリマー粒子と、結着剤と、絶縁性無機粒子と、水および有機溶媒を含む溶媒と、を含み、
前記結着剤は、高分子を含み、
前記高分子は、下記式(1):
【化1】
式中、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、
で表される単量体単位(A)の少なくとも1種と、下記式(2):
【化2】
式中、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、
Xは、少なくとも1個の窒素原子を環構成成分として有し、1以上の水素原子が炭素数1~3のアルキル基によって置換してもよい、複素環式基である、
で表される単量体単位(B)の少なくとも1種とを含み、
前記高分子において、前記単量体単位(A)と前記単量体単位(B)との質量比(A)/(B)が、40/60~80/20であり、
前記高分子におけるイオン性単量体単位の含有量が10質量%未満である、多孔質絶縁層形成用組成物が提供される。
【0011】
本観点によれば、塗工時における活物質層の層厚の増加を抑制可能であり、ポリオレフィン系ポリマー粒子の分散性に優れ、かつ、塗工性に優れた多孔質絶縁層形成用組成物を提供することができる。
【0012】
また、Xが、窒素原子および酸素原子を含む複素環式基であってもよい。
【0013】
本観点によれば、多孔質絶縁層形成用組成物の塗工性をより一層優れたものとすることができる。
【0014】
また、前記活物質層は、活物質層用結着剤を含み、
前記活物質層用結着剤のハンセン溶解度パラメータと前記有機溶媒のハンセン溶解度パラメータとの距離が8.0以上であってもよい。
【0015】
本観点によれば、多孔質絶縁層の形成に伴う活物質層の厚みの増大をより一層抑制することができる。
【0016】
また、1atmにおける前記有機溶媒の沸点が160℃以上であってもよい。
【0017】
本観点によれば、多孔質絶縁層形成用組成物の物性の変化を抑制することができる。
【0018】
また、前記有機溶媒は、グリコールアルキルエーテル系化合物を含んでいてもよい。
【0019】
本観点によれば、グリコールアルキルエーテル系化合物は、絶縁性無機粒子、ポリオレフィン系ポリマー粒子の分散性や結着剤の溶解性の観点から、好適に用いられる。
【0020】
本発明の他の観点によれば、集電体と、
前記集電体の主面に配置され、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質を含む活物質層と、
上記多孔質絶縁層形成用組成物によって前記活物質層上に形成された多孔質絶縁層と、を有する非水電解質二次電池用電極が提供される。
【0021】
本観点によれば、非水電解質二次電池の安全性が向上する。
【0022】
本発明の他の観点によれば、上記非水電解質二次電池用電極を含む、非水電解質二次電池が提供される。
【0023】
本観点によれば、非水電解質二次電池の安全性が向上する。
【0024】
本発明の他の観点によれば、集電体の主面に配置され、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質を含む活物質層上に、多孔質絶縁層形成用組成物を用いて多孔質絶縁層を形成する工程を有し、
前記多孔質絶縁層形成用組成物は、ポリオレフィン系ポリマー粒子と、結着剤と、絶縁性無機粒子と、水および有機溶媒を含む溶媒と、を含み、
前記結着剤は、高分子を含み、
前記高分子は、下記式(1):
【化3】
式中、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、
で表される単量体単位(A)の少なくとも1種と、下記式(2):
【化4】
式中、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、
Xは、少なくとも1個の窒素原子を環構成成分として有し、少なくとも1以上の水素原子が炭素数1~3のアルキル基によって置換してもよい、複素環式基である、
で表される単量体単位(B)の少なくとも1種とを含み、
前記高分子において、前記単量体単位(A)と前記単量体単位(B)との質量比(A)/(B)が、40/60~80/20であり、
前記高分子におけるイオン性単量体単位の含有量が10質量%未満である、非水電解質二次電池用電極の製造方法が提供される。
【0025】
本観点によれば非水電解質二次電池の安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明によれば、塗工時における活物質層の層厚の増加を抑制可能であり、ポリオレフィン系ポリマー粒子の分散性に優れ、かつ、塗工性に優れた多孔質絶縁層形成用組成物を提供することができる。この結果、ポリオレフィン系ポリマー粒子を含む均一な多孔質絶縁層を形成することができ、非水電解質二次電池の安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0029】
<1.多孔質絶縁層形成用組成物>
まず、本発明の一実施形態に係る多孔質絶縁層形成用組成物について説明する。本実施形態に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、非水電解質二次電池用電極の活物質層上に多孔質絶縁層(耐熱セラミックス層)を形成するために用いられる。本実施形態に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、ポリオレフィン系ポリマー粒子と、結着剤と、絶縁性無機粒子と、水および有機溶媒を含む溶媒と、を含む。
【0030】
(1.1 絶縁性無機粒子)
多孔質絶縁層形成用組成物は、絶縁性無機粒子を含む。絶縁性無機粒子は、多孔質絶縁層形成用組成物の固形分における主成分である。絶縁性無機粒子は、セパレータと活物質層との間の絶縁性を担保し、不本意な内部短絡を防止する。
【0031】
このような絶縁性無機粒子としては、特に限定されず、例えば、酸化鉄、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、TiO2、BaTiO2、ZrO等の酸化物粒子、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物粒子、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶粒子、シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子、モンモリロナイト等の粘土粒子、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン等の鉱物資源由来物質またはこれらの人造物が挙げられる。また、金属粒子、SnO2、スズ-インジウム酸化物(ITO)等の酸化物粒子、カーボンブラック、グラファイト等の炭素質粒子等の導電性粒子の表面を、電気絶縁性を有する材料で表面処理することで、電気絶縁性を持たせた微粒子であってもよい。
【0032】
また、絶縁性無機粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上5μm以下、好ましくは0.1μm以上1μm以下である。
また、多孔質絶縁層形成用組成物中の絶縁性無機粒子の含有量は、多孔質絶縁層形成用組成物中の固形分に対し、例えば20質量%以上80質量%以下、好ましくは、30質量%以上70質量%以下である。
【0033】
(1.2 ポリオレフィン系ポリマー粒子)
本実施形態に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、ポリオレフィン系ポリマー粒子を含む。ポリオレフィン系ポリマー粒子は、比較的低い融点を有することから、非水電解質二次電池が異常加熱した際に溶融してリチウムイオンの移動を遮断する。これにより、非水電解質二次電池の安全性能がより一層向上する。
【0034】
ここで、ポリオレフィン系ポリマー粒子は、水を分散媒とした場合には均一に分散する。しかしながら、ポリオレフィン系ポリマー粒子は、分散媒中の水の含有割合が低下すると、これに伴い分散性が低下する。また、一般には、多孔質絶縁層形成用の材料スラリー塗布後に、溶媒を除去する際にポリオレフィン系ポリマー粒子が凝集し得る。しかしながら、本実施形態においては、後述する所定の結着剤を採用することにより、分散媒中の水の割合に関わらず、多孔質絶縁層形成用組成物中および多孔質絶縁層においてポリオレフィン系ポリマー粒子が均一に分散する。この結果、多孔質絶縁層形成用組成物の塗工性が向上する。
【0035】
ポリオレフィン系ポリマー粒子としては、例えば、ポリエチレン系ポリマー粒子、ポリプロピレン系ポリマー粒子が挙げられる。このような粒子状のポリオレフィン系ポリマーは、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等として入手可能である。
【0036】
また、ポリオレフィン系ポリマー粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.5μm以上4μm以下、好ましくは0.7μm以上2μm以下である。一般に多孔質絶縁層は、比較的薄い(例えば4μm以下)薄膜として形成される。したがって、ポリオレフィン系ポリマー粒子の平均粒径も比較的小さくすることが要求される。ポリオレフィン系ポリマー粒子は、粒径が小さい場合には分散安定性が低下する傾向があるが、後述するする単量体単位(A)および(B)を含む高分子を結着剤として用いることにより、安定性を阻害せず、多孔質絶縁層中に均一に分散することができる。なお、本明細書において、平均粒径は、体積基準頻度累積D50粒径を示し、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により測定することができる。
【0037】
また、多孔質絶縁層形成用組成物中のポリオレフィン系ポリマー粒子の含有量は、多孔質絶縁層形成用組成物中の固形分に対し、例えば20質量%以上80質量%以下、である。
【0038】
(1.3 結着剤)
多孔質絶縁層形成用組成物は、結着剤を含む。結着剤は、一義的には多孔質絶縁層において各材料、例えばポリオレフィン系ポリマー粒子や後述する絶縁性無機粒子等を結着させるために存在する。しかしながら、本実施形態においては、結着剤は、以下に詳述する特定の高分子を含むことにより、ポリオレフィン系ポリマー粒子の多孔質絶縁層形成用組成物中の分散安定性を向上させる。さらに、下記高分子は、後述する溶媒にも好適に溶解可能である。
【0039】
具体的には、結着剤は、下記高分子を含み、当該高分子は、下記式(1):
【化5】
【0040】
式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、
で表される単量体単位(A)の少なくとも1種と、下記式(2):
【0041】
【0042】
式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、
Xは、窒素原子を少なくとも1個環構成成分として有し、1以上の水素原子が炭素数1~3のアルキル基によって置換してもよい、複素環式基である、
で表される単量体単位(B)の少なくとも1種とを含む。また、当該高分子において、単量体単位(A)と前記単量体単位(B)との質量比(A)/(B)は、40/60~80/20である。さらに、当該高分子におけるイオン性単量体単位の含有量は、10質量%以下である。
【0043】
多孔質絶縁層形成用組成物は、上述した高分子を結着剤として含むことにより、絶縁性無機粒子とともにポリオレフィン系ポリマー粒子の分散安定性を向上させることができる。また、上記高分子は、後述する有機溶媒を含む溶媒にも好適に溶解可能である。この結果、多孔質絶縁層形成用組成物の経時的な粘性変化が防止されるとともに、多孔質絶縁層形成用組成物のゲル化が防止される。したがって、多孔質絶縁層形成用組成物の塗工性が優れたものとなる。さらに、上記高分子は、有機溶媒に対する溶解性が優れることにより、多孔質絶縁層形成用組成物中における水の含有量を低減させることができる。この結果、塗工時における活物質層の層厚の増加を抑制可能である。
【0044】
式(1)および(2)中のR1~R5において、炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。R1~R5は、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0045】
式(2)中のXを構成する環としては、例えば、ピラゾリル基、ピラゾリジニル基等の窒素原子を含む複素環式基、モルホリニル基等の窒素原子および酸素原子を含む複素環式等が挙げられる。これらの中でも、Xを構成する環は、好ましくは、窒素原子および酸素原子を含む複素環式基であり、より好ましくはモルホリニル基である。
【0046】
なお、Xを構成する環の環員数は、特に限定されず、例えば4~10、好ましくは4~7である。
また、Xを構成する環に存在する1個以上の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、より具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等によって置換されてもよい。一方で、Xを構成する環に存在する水素原子のいずれもが置換されなくてもよい。
【0047】
また、単量体単位(A)と前記単量体単位(B)との質量比(A)/(B)は、40/60~80/20、好ましくは50/50~75/25である。上記質量比(A)/(B)が40/60未満である場合、高分子が多孔質絶縁層形成用組成物中において溶解しにくくなり、多孔質絶縁層形成用組成物がゲル化しやすくなる。一方で、上記質量比(A)/(B)が80/20超である場合、絶縁性無機粒子の分散性が低下する結果、多孔質絶縁層形成用組成物において沈殿物が生じやすくなる。いずれの場合においても、多孔質絶縁層形成用組成物による塗工が困難となる。
【0048】
また、高分子は、イオン性単量体単位を含んでもよい。しかしながら、イオン性単量体単位の含有量は、10質量%未満、好ましくは5質量%未満である。このようなイオン性単量体単位は、無機絶縁性粒子の分散性を向上させる。一方で、イオン性単量体単位は、高分子のポリオレフィン系ポリマー粒子との親和性を低下させる。高分子においてイオン性単量体単位の含有量が10質量%以上であると、高分子のポリオレフィン系ポリマー粒子との親和性の低下が無視できなくなり、ポリオレフィン系ポリマー粒子の分散性が低下する。この結果、多孔質絶縁層形成用組成物がゲル化しやすくなり、多孔質絶縁層形成用組成物による塗工が困難となる。
【0049】
なお、高分子がイオン性単量体単位を含む場合、無絶縁性無機粒子の分散性を十分に向上させる観点から、高分子におけるイオン性単量体単位の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。
また、イオン性単量体単位とは、例えば溶媒中において電離等により、正または負の電荷を生じうる官能基を有する単量体単位を言う。このようなイオン性単量体単位としては、例えばカルボキシル基、リン酸基やスルホン酸基を有する単量体単位が挙げられる。
【0050】
また、イオン性単量体単位としては、特に限定されないが、例えば、下記式(3)で表される単量体単位(C)が挙げられる。
【0051】
【0052】
式中、R8~R9は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、
Z+は、一価のカチオン基であり、
式中のZ+とO-とは、イオン結合により結合していてもよい。
【0053】
式(3)中のR8およびR9において、炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。R8およびR9は、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0054】
また、Z+としては、例えば、水素イオン、アンモニウムイオン、有機カチオン、金属イオン等の無機カチオン、および金属錯体等の金属錯化物が挙げられる。
有機カチオンとしては、アミン類のカチオン化物が挙げられる。このようなアミン類としては、第1級、第2級、第3級のいずれであってもよく、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、メチルエミン、ジメチルエミン、トリエチルエミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族アミン、アニリン等の芳香族アミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール等の非芳香族複素環式アミンが挙げられる。
【0055】
なお、上記高分子は、上記以外の単量体単位を含んでもよい。例えば、上記高分子は、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル等の単量体由来の単量体単位を含んでもよい。
【0056】
また、上述した高分子は、単量体単位(A)および(B)の合計の含有量が、質量割合で高分子全体に対し、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
【0057】
結着剤に含まれる上記高分子の結合様式は特に限定されず、該高分子は、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体であってもよい。
結着剤に含まれる上記高分子の重量平均分子量も、特に限定されず、例えば50,000以上2,000,000以下、好ましくは100,000以上1,000,000以下である。なお、重量平均分子量は、ポリエチレンオキシド(PEO)を標準物質として換算する、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
なお、結着剤は、1種の上記高分子によって構成されてもよいし、複数種の上記高分子によって構成されてもよい。また、結着剤は、上記高分子以外の既知の結着剤を含んでいてもよい。
【0058】
また、多孔質絶縁層形成用組成物中の結着剤の含有量は、多孔質絶縁層形成用組成物中の固形分に対し、例えば2質量%以上10質量%以下、好ましくは3質量%以上7質量%以下である。
【0059】
(1.4 溶媒)
本実施形態に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、水および有機溶媒を含む溶媒を含む。上述したように、多孔質絶縁層形成用組成物は特定の結着剤を用いることにより、ポリオレフィン系ポリマー粒子の分散性が向上している。したがって、本実施形態に係る多孔質絶縁層形成用組成物においては、溶媒に対し、活物質層の膨潤の防止を目的として有機溶媒を含ませることが可能である。
【0060】
このような有機溶媒としては、水と混合可能であり、かつ上述した結着剤を溶解可能であれば特に限定されず、例えばグリコールアルキルエーテル系化合物、アルコール系化合物等の既知の各種有機溶媒を1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。中でも、グリコールアルキルエーテル系化合物は、絶縁性無機粒子、ポリオレフィン系ポリマー粒子の分散性や上述した結着剤の溶解性の観点から、好適に用いられる。
【0061】
グリコールアルキルエーテル系化合物としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル(ethylene glycol monomethyl ether)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ethylene glycol monoethyl ether)等のモノアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(diethylene glycol monomethyl ether)ジエチレングリコールモノエチルエーテル(diethylene glycol monoethyl ether)等のジアルキレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(triethylene glycol monomethyl ether)トリエチレングリコールモノエチルエーテル(triethylene glycol monoethyl ether)等のトリアルキレングリコールモノアルキルエーテルや、その他重合度が3以上のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。グリコールアルキルエーテル系化合物中のアルコキシ基の炭素数は、特に限定されないが、例えば1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1または2である。
【0062】
また、グリコールアルキルエーテル系化合物は、エチレングリコール骨格を有することが好ましい。特に好ましいグリコールアルキルエーテル系化合物は、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、およびエチレングリコールモノエチルエーテルである。
【0063】
また、有機溶媒の沸点は、好ましくは130℃以上、より好ましくは160℃以上300℃以下である。これにより多孔質絶縁層形成時における溶媒の揮発およびこれに伴う粘性の変化を防止し、均一な厚さの多孔質絶縁層を形成することができる。
【0064】
有機溶媒としては、例えば、活物質層中のバインダのハンセン溶解度パラメータ(以下、「HSP」ともいう)と上記有機溶媒のHSP距離が8.0以上であるものを使用することが好ましい。このように、多孔質絶縁層形成用組成物に含まれる有機溶媒のHSPと活物質層中のバインダのHSPとの距離が上述した関係を満足することにより、活物質層上に多孔質絶縁層形成用組成物を塗布した場合においても、活物質層の膨潤が防止される。これにより、電極の活物質層の厚みが増大することがより一層防止される。
【0065】
HSPは、正則溶液理論から導かれ材料の蒸発潜熱と密度から求められるヒルデブラントのSP値を、極性項δP、水素結合項δH、分散項δD、の3成分に分割した拡張概念である。これは三次元空間上の1点として表現される。したがって、活物質層中のバインダと溶媒のHSPの比較は、下記式に示す、三次元空間上の2点間距離(HSP距離)として議論される。
【0066】
【0067】
式中、δD(binder)は活物質層中のバインダの分散項を、δD(solvent)は有機溶媒の分散項を、δP(binder)は活物質層中のバインダの極性項を、δP(solvent)は有機溶媒の極性項を、δH(binder)は活物質層中のバインダの水素結合項を、δH(solvent)は有機溶媒の水素結合項を、それぞれ示す。
【0068】
上記のHSP距離の上限は特に限定されないが、一般的な溶媒においては30以下の数値に収まる。
【0069】
複数の有機溶媒が混合している場合は、それぞれの有機溶媒のHSP、および体積混合比率から、混合溶媒のHSPを計算し、そのHSPと活物質層中のバインダのHSPとの距離(HSP距離)を8.0以上とすることができる。混合溶媒のHSPはHSPの3次元空間上に配置されるそれぞれの溶媒の1点にそれぞれの体積混合比率の重みをつけた上で、重心を計算することにより求められる。
【0070】
さらに、活物質層中に複数種のバインダが含まれる場合、活物質層中のすべてのバインダについて上記のHSP距離の関係を満足することが好ましい。これにより、より確実に活物質層の膨潤を防止することができる。また、有機溶媒は、活物質層の質量に対し、例えば、活物質層中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上100質量%以下、より好ましくは全ての活物質層中のバインダと、上記のHSP距離を満足する。
【0071】
各種溶媒のHSP値については、例えばHansen Solubility Parameter in Practice 4th Edition などのソフトウェア上のデータベースとして使用可能である。
【0072】
活物質層中のバインダのHSPは、以下のようにして求められる。バインダ(乾燥させた固形状態)をHSPが既知の溶媒に浸漬し、それぞれの溶媒に対する重量膨潤度を計測する。ここで使用される溶媒としては、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、1-ブタノール、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、N-メチル-2-ピロリドン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルイソブチルケトン、酢酸n-ブチル、クロロホルム、酢酸メチル、ピリジン、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジエチレングリコール、γ-ブチロラクトン、2-アミノエタノール、シクロヘキサノン、1,1,2,2-テトラブロモエタン、1-ブロモナフタレン、アニリンなど、親水性溶媒および疎水性溶媒を幅広く複数選択する。それぞれの溶媒に対して、膨潤度が重量で3.0以上の溶媒を「膨潤溶媒」、3.0未満の溶媒を「非膨潤溶媒」と分類わけする。HSP三次元空間上に配置される試験に使用した溶媒の各点に対し、「膨潤溶媒」に分類された溶媒の点を内包し、かつ「非膨潤溶媒」に分類された溶媒の点は含まない球を計算する。この球の半径を最大化したときの球の中心座標をバインダのHSPとする。
【0073】
また、溶媒は、水を含む。水は、活物質層中の結着剤の溶解性が高い一方で、多孔質絶縁層形成用組成物のポリオレフィン系ポリマー粒子や絶縁性無機粒子の分散に適している。溶媒中における水の含有量は、溶媒に対し、例えば20質量%以上70質量%以下、好ましくは30質量%以上50質量%以下である。なお、水は、市販で入手可能なポリオレフィン系ポリマー粒子の分散液において、通常含まれており、この水も上記溶媒中の水の少なくとも一部を構成する。
【0074】
多孔質絶縁層形成用組成物中における溶媒の含有量は、特に限定されず、適宜塗工条件に応じて選択可能であるが、例えば15質量%以上60質量%以下、好ましくは、20質量%以上45質量%以下である。
【0075】
以上説明した本実施形態に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、ポリオレフィン系ポリマー粒子とともに、所定の単量体単位(A)および(B)を含む高分子を結着剤として含む。このため、有機溶媒を含むにも関わらず、多孔質絶縁層形成用組成物は、ポリオレフィン系ポリマー粒子の分散安定性に優れている。この結果、溶媒中における水の含有量を低減でき、塗工時における活物質層の層厚の増加を抑制可能である。さらに、多孔質絶縁層形成用組成物を活物質層上に塗工した場合、多孔質絶縁層中にポリオレフィン系ポリマー粒子が均一に分散して存在することが可能である。また、多孔質絶縁層形成用組成物は、結着剤等の溶解性や絶縁性無機粒子の分散性にも優れ、塗工性にも優れている。このような多孔質絶縁層形成用組成物によって形成される多孔質絶縁層を有する非水電解質二次電池は、ポリオレフィン系ポリマー粒子によるシャットダウン機能と、多孔質絶縁層が均一性とに起因し、安全性能に優れている。また、多孔質絶縁層に接する活物質層の不本意な層厚の増加が抑制されている。
【0076】
<2.非水電解質二次電池の構成>
以下では、
図1を参照して、上述した本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池10の具体的な構成について説明を行う。
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の構成を説明する説明図である。また、非水電解質二次電池10は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池用電極としての負極30を有している。
【0077】
図1に示す非水電解質二次電池10は、本実施形態に係る二次電池の一例である。
図1に示すように、非水電解質二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ(separator)層40とを備える。なお、非水電解質二次電池10の形態は、特に限定されないが、例えば、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、またはボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0078】
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを備える。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼(stainless steel)、およびニッケルメッキ鋼(nickel‐plated steel)等であってもよい。
【0079】
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質および導電剤を含み、バインダ(正極活物質層用結着剤)をさらに含んでもよい。なお、正極活物質、導電剤、およびバインダの含有量は、特に制限されず、従来の非水電解質二次電池において適用される含有量であれば、いずれであってもよい。
【0080】
正極活物質は、例えば、リチウムを含む遷移金属酸化物または固溶体酸化物であり、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であれば特に制限されない。リチウムを含む遷移金属酸化物としては、LiCoO2等のLi・Co系複合酸化物、LiNixCoyMnzO2等のLi・Ni・Co・Mn系複合酸化物、LiNiO2等のLi・Ni系複合酸化物、またはLiMn2O4等のLi・Mn系複合酸化物等を例示することができる。固溶体酸化物としては、LiaMnxCoyNizO2(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnxCoyNizO2(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、LiMn1.5Ni0.5O4等を例示することができる。なお、正極活物質の含有量(含有比)は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極活物質層に適用可能な含有量であればよい。また、これらの化合物を単独または複数種、混合して用いてもよい。
【0081】
導電剤は、例えば、ケッチェンブラック(ketjen black)やアセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック(carbon black)、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ(carbon nanotubes)、グラフェン(graphene)、カーボンナノファイバ(carbon nanofibers)等の繊維状炭素、または、これら繊維状炭素とカーボンブラック(carbon black)との複合体等である。ただし、導電剤は、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されずに使用することができる。導電剤の含有量は特に制限されず、非水電解質二次電池の正極活物質層に適用可能な含有量であればよい。
【0082】
バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)等のフッ素含有樹脂、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber)等のスチレン含有樹脂、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(ethylene-propylene-diene terpolymer)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluoroelastomer)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose)もしくはこれらの誘導体(カルボキシメチルセルロース類(例えばカルボキシメチルセルロースの塩))またはニトロセルロース(nitrocellulose)等である。ただし、バインダは、正極活物質および導電剤を集電体21上に結着させることができ、かつ正極の高電位に耐える耐酸化性および電解液安定性を有するものであれば、特に制限されない。また、バインダの含有量も特に制限されず、非水電解質二次電池の正極活物質層に適用可能な含有量であればよい。
【0083】
正極活物質層22は、例えば、正極活物質、導電剤、およびバインダを適当な有機溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone)など)に分散させて正極スラリー(slurry)を形成し、該正極スラリーを集電体21上に塗工し、乾燥、圧延することで形成することができる。なお、圧延後の正極活物質層22の密度は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極活物質層に適用可能な密度であればよい。
【0084】
負極30は、本実施形態に係る二次電池用負極の一例である。負極30は、箔状の集電体31と、集電体31に接して配置された負極活物質層32と、負極活物質層32上に配置される多孔質絶縁層33とを有する。
【0085】
集電体31は、特に限定されず、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、ステンレス鋼またはこれらの合金もしくはこれらのメッキ鋼、例えばニッケルメッキ鋼で構成されることができる。集電体31は、特に、銅もしくはニッケルまたはこれらの合金で構成されることが好ましい。
【0086】
負極活物質層32は、集電体31に接して、より具体的には一方の主面が集電体31上に接着されるようにして配置されている。負極活物質層32は、少なくとも負極活物質を含む。本実施形態においては、負極活物質層32は、負極活物質と、バインダ(負極活物質層用結着剤)とを含む。
【0087】
負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であれば特に限定されないが、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、Si系活物質またはSn系活物質(例えばケイ素(Si)もしくはスズ(Sn)もしくはそれらの酸化物の微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金)、金属リチウム及びLi4Ti5O12等の酸化チタン系化合物等が挙げられる。負極活物質としては、以上のうち1種以上を用いることができる。ケイ素の酸化物は、SiOx(0≦x≦2)で表される。
【0088】
負極活物質層32中における負極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、60.0~100質量%、好ましくは、80~99.5質量%、より好ましくは90~99質量%であることができる。
【0089】
負極活物質層32を構成するバインダは、正極活物質層22を構成するバインダと同様のものが使用可能である。上述した中でも、スチレン含有樹脂、フッ素含有樹脂、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース類から選択される1種以上のバインダを含むことが好ましい。なお、スチレン含有樹脂としては、スチレンブタジエンゴムが好ましく、フッ素含有樹脂としては、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。カルボキシメチルセルロース類としては、カルボキシメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロース塩等のカルボキシメチルセルロース誘導体が挙げられる。カルボキシメチルセルロース塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースとアルカリ金属イオンとの塩、より具体的にはカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースリチウムが挙げられる。
【0090】
また、負極活物質層32中におけるバインダの含有量は、特に限定されないが、例えば、0~40質量%、好ましくは、0.5~20質量%、より好ましくは1~10質量%であることができる。
【0091】
負極活物質層32は、例えば、上述した負極活物質およびバインダを適当な溶媒(例えば、水など)に分散させて負極スラリーを形成し、該負極スラリーを集電体31上に塗工し、乾燥、圧延することで形成することができる。なお、圧延後の負極活物質層32の厚さは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池の負極活物質層に適用可能な厚さであればよい。また、負極活物質層32は、黒鉛活物質を選択的に含んで形成されてもよい。
【0092】
なお、負極活物質層32は、上述した方法に限定されず、加熱蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法や、化学蒸着法(CVD)により形成することもできる。
【0093】
多孔質絶縁層33は、負極30とセパレータ層40との間に配置されるように、負極活物質層32上に形成されている。多孔質絶縁層33は、非水電解質二次電池10における不本意な内部短絡を防止する。本実施形態において、多孔質絶縁層33は、上述した多孔質絶縁層形成用組成物を塗工し、乾燥させることにより形成されている。したがって、多孔質絶縁層は、ポリオレフィン系ポリマー粒子と結着剤とを含み、さらに例えば絶縁性無機微粒子を含む。絶縁性無機粒子、結着剤、ポリオレフィン系ポリマー粒子に関する構成については、上述した通りである。
【0094】
多孔質絶縁層33は、上述した塗工性に優れた多孔質絶縁層形成用組成物により形成されていることから、多孔質絶縁層33は、その層構成や層厚が比較的均一となる。例えば、多孔質絶縁層33において、絶縁性無機粒子やポリオレフィン系ポリマー粒子が均一に分散している。したがって、多孔質絶縁層33において基本的な機能である絶縁性無機粒子による絶縁機能や、ポリオレフィン系ポリマー粒子によるシャットダウン機能が好適に作用し得る。
【0095】
また、多孔質絶縁層形成用組成物の溶媒が有機溶媒を含むため、多孔質絶縁層33の形成による負極活物質層32の厚みの増大が比較的抑制されている。
【0096】
セパレータ層40は、通常セパレータと、電解液とを含む。セパレータは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、特に制限されず、どのようなものも使用可能である。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を単独あるいは併用して使用することが好ましい。また、セパレータは、Al2O3、Mg(OH)2、SiO2等の無機物によってコーティング(coating)されていてもよく、上述した無機物をフィラー(filler)として含んでいてもよい。
【0097】
このようなセパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybuthylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体(vinylidene difluoride-perfluorovinylether copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-fluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoroacetone copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体(vinylidene difluoride-propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene-hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene-tetrafluoroethylene copolymer)等を使用することができる。なお、セパレータの気孔率は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池のセパレータが有する気孔率を任意に適用することが可能である。
【0098】
電解液は、電解質塩と、溶媒とを含む。
【0099】
電解質塩は、リチウム塩等の電解質である。電解質塩は、例えば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、NaClO4、NaI、NaSCN、NaBr、KClO4、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、(CH3)4NBF4、(CH3)4NBr、(C2H5)4NClO4、(C2H5)4NI、(C3H7)4NBr、(n-C4H9)4NClO4、(n-C4H9)4NI、(C2H5)4N-maleate、(C2H5)4N-benzoate、(C2H5)4N-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(lithium stearylsulfate)、オクチルスルホン酸リチウム(lithium octylsulfate)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(lithium dodecylbenzenesulphonate)等の有機イオン塩等を使用することができる。なお、これらの電解質塩は、単独、あるいは2種類以上混合して使用されてもよい。また、電解質塩の濃度は、特に制限はないが、例えば、0.5~2.0mol/L程度の濃度を使用することができる。
【0100】
溶媒は、電解質塩を溶解する非水溶媒である。溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(buthylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル類、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、γ-バレロラクトン(γ-valerolactone)等の環状エステル類、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethylmethyl carbonate)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)、酪酸メチル(methyl butyrate)等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)またはその誘導体、1,3-ジオキサン(1,3-dioxane)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(1,4-dibutoxyethane)、またはメチルジグライム(methyldiglyme)等のエーテル類、アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル類、ジオキソラン(dioxolane)またはその誘導体、エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等を、単独で、またはそれら2種以上を混合して使用することができる。なお、溶媒を2種以上混合して使用する場合、各溶媒の混合比は、従来のリチウムイオン二次電池で用いられる混合比が適用可能である。
【0101】
なお、電解液は、負極SEI(Solid Electrolyte Interface)形成剤、界面活性剤等の各種添加剤が添加されてもよい。
【0102】
このような添加剤としては、例えば、コハク酸無水物(succinic anhydride)、リチウムビスオキサラートボレート(lithium bis(oxalate)borate)、テトラフルオロホウ酸リチウム(lithium tetrafluoroborate)、ジニトリル(dinitrile)化合物、プロパンスルトン(propane sultone)、ブタンスルトン(butane sultone)、プロペンスルトン(propene sultone)、3-スルフォレン(3-sulfolene)、フッ素化アリルエーテル(fluorinated arylether)、フッ素化アクリレート(fluorinated methacrylate)等を使用することができる。また、このような添加剤の含有濃度としては、一般的なリチウムイオン二次電池における添加剤の含有濃度が使用可能である。
【0103】
以上説明した本実施形態に係る非水電解質二次電池10は、負極30の製造時において、多孔質絶縁層33の形成に本実施形態に係る多孔質絶縁層形成用組成物を用いている。したがって、多孔質絶縁層33は比較的に均一に形成されており、絶縁機能や、ポリオレフィン系ポリマー粒子によるシャットダウン機能を有する。結果、非水電解質二次電池10の安全性能は向上している。また、多孔質絶縁層33に隣接する負極活物質層32は、不本意な膜厚の防止が抑制されている。
【0104】
なお、上述した説明においては、負極30が多孔質絶縁層33を備えるものとして説明したが、本発明は図示の態様に限定されない。例えば、正極20は、多孔質絶縁層を備えていてもよい。またこの場合、負極30は、多孔質絶縁層を備えていなくてもよい。
【0105】
<2.非水電解質二次電池の製造方法>
続いて、非水電解質二次電池10の製造方法について説明する。本実施形態に係る非水電解質二次電池10の製造方法は、集電体の主面上に配置された活物質層上に、多孔質絶縁層形成用組成物を用いて多孔質絶縁層を形成する工程を有する。ただし、非水電解質二次電池10の製造方法は、以下の方法に制限されず、任意の製造方法を適用することが可能である。
【0106】
正極20は、以下のように製造される。まず、正極活物質、導電剤、およびバインダを所望の割合で混合したものを、有機溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン)に分散させて正極スラリーを形成する。次に、正極スラリーを集電体21上に形成(例えば、塗工)し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。
【0107】
なお、塗工の方法は、特に限定されないが、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法等を用いてもよい。以下の各塗工工程も同様の方法により行われる。
【0108】
さらに、圧縮機により正極活物質層22を所望の厚みとなるように圧縮する。これにより、正極20が製造される。ここで、正極活物質層22の厚みは特に制限されず、従来の非水電解質二次電池の正極活物質層が有する厚みであればよい。
【0109】
負極30も、正極20と同様の方法に製造される。まず、負極活物質、およびバインダを所望の割合で混合したものを、溶媒(例えば、水)に分散させることで負極スラリーを形成する。なお、負極スラリーには、選択的に黒鉛活物質が混合されてもよい。
【0110】
次に、負極スラリーを集電体31上に形成(例えば、塗工)し、乾燥させて、負極活物質層32を形成する。さらに、圧縮機により負極活物質層32を所望の厚みとなるように圧縮する。ここで、負極活物質層32の厚みは特に制限されず、従来の非水電解質二次電池の負極活物質層が有する厚みであればよい。
【0111】
その後、多孔質絶縁層形成用組成物によって多孔質絶縁層33を形成する。具体的には、負極活物質層32上に、多孔質絶縁層形成用組成物を塗工し、乾燥させることにより、多孔質絶縁層33を形成する。これにより、負極30が製造される。
【0112】
なお、多孔質絶縁層33が本実施形態に係る多孔質絶縁層形成用組成物を用いて形成されることにより、多孔質絶縁層形成用組成物の塗工時において、多孔質絶縁層33が均一な層厚で形成されやすくなる。この結果、多孔質絶縁層33中のポリオレフィン系ポリマー粒子によるシャットダウン機能や、絶縁性無機粒子による絶縁機能がより確実に機能している。したがって、製造される非水電解質二次電池10の安全性能が向上する。さらに、多孔質絶縁層形成用組成物の塗工時において、負極活物質層32の不本意な膜厚の防止が抑制される。
【0113】
続いて、セパレータ40を正極20および負極30にて挟み込むことで、電極構造体を製造する。次に、製造した電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、該形態の容器に挿入する。さらに、該容器内に所望の電解液を注入することで、セパレータ40内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、非水電解質二次電池10が製造される。
【0114】
なお、上記の説明においては、負極活物質層32上に多孔質絶縁層33を形成したが、本発明は、上述した実施態様に限定されない。例えば、正極活物質層22上に多孔質絶縁層形成用組成物によって多孔質絶縁層を形成してもよい。この場合、負極活物質層32上に多孔質絶縁層を形成しなくてもよい。
【実施例】
【0115】
以下、本発明を具体的な実施例に基づきより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は、あくまでも本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
(多孔質絶縁層用結着剤の合成)
<結着剤1の合成>
撹拌子、温度計を装着した500mlのフラスコ内に、アゾイソブチロニトリル70.6mg、N-ビニルホルムアミド10.0g、アクロイルモルフォリン9.5g、アクリル酸0.5gを仕込んで撹拌した後、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点249℃)180.0gとエタノールアミン0.424gを順に加えた。系内を窒素置換し、600rpmにて撹拌しながら、系内温度を65℃に昇温して12時間反応させた。反応後の溶液の不揮発分を測定したところ、9.7質量%(転化率96%)であった。その後、加熱減圧蒸留によって反応後の溶液から開始剤残渣および未反応単量体を除去した。この溶液を室温まで冷却した後、エタノールアミンを添加してpH8に調整することで、共重合体溶液を得た。固形分は10%であった。
【0117】
<結着剤2の合成>
結着剤1の合成において、N-ビニルホルムアミドの添加量を11.0g、アクロイルモルフォリンの添加量を9.0gとし、アクリル酸およびエタノールアミンを添加しなかったこと以外は結着剤1と同様にして、固形分を10%に調整した共重合体溶液を得た。
【0118】
<結着剤3の合成>
結着剤2の合成において、N-ビニルホルムアミドの添加量を15.0g、アクロイルモルフォリンの添加量を5.0gとしたこと以外は結着剤2と同様にして、固形分を10%に調整した共重合体溶液を得た。
【0119】
<結着剤4の合成>
結着剤2の合成において、N-ビニルホルムアミドの添加量を18.0g、アクロイルモルフォリンの添加量を2.0gとしたこと以外は結着剤2と同様にして、固形分を10%に調整した共重合体溶液を得た。
【0120】
<結着剤5の合成>
結着剤2の合成において、N-ビニルホルムアミドの添加量を6.0g、アクロイルモルフォリンの添加量を14.0gとしたこと以外は結着剤2と同様にして、固形分を10%に調整した共重合体溶液を得た。
【0121】
<結着剤6の合成>
結着剤1の合成において、N-ビニルホルムアミドの添加量を10.0g、アクロイルモルフォリンの添加量を8.0g、アクリル酸の添加量を2.0g、エタノールアミンの添加量を1.70gとしたこと以外は結着剤1と同様にして、固形分を10%に調整した共重合体溶液を得た。
【0122】
(電極作製)
黒鉛、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、スチレンブタジエン系水分散体を固形分の質量比97.5:1.0:1.5で水溶媒中に溶解分散させることで、負極合剤スラリーを作製した。ついで、この負極合剤スラリーを厚さ10μmの銅箔集電体の両面塗布、乾燥したのちロールプレスにより圧延を行い負極電極を作製した。電極塗工量は、26mg/cm2(両面換算)、電極密度は、1.65g/cm3であった。
【0123】
(多孔質絶縁層形成用組成物の作製)
(実施例1)
結着剤1に対し、前記結着剤1に含まれるトリエチレングリコールモノメチルエーテルと同量のイオン交換水を加え、トリエチレングリコールモノメチルエーテルとイオン交換水との質量比1:1の混合溶媒溶液に調製した(固形分5.3%)。この混合溶媒溶液と平均粒径(D50)が0.9μmであるベーマイト粒子を固形分質量比で5:45となるように混合し、ビーズミルにて分散させて分散液を得た(固形分35.7%)。また、ポリエチレンワックスの水分散体(平均粒子径1μm、固形分40%)に対し、当該水分散体に含まれる水と同量のトリエチレングリコールモノメチルエーテルを撹拌しながら徐々添加することで、ポリエチレンワックスの混合溶媒分散体を調製した(固形分25.0%)。この分散液とポリエチレンワックスの混合溶媒分散体を重量比で28:36の割合で混合し、自転公転ミキサーで撹拌することにより、多孔質絶縁層形成用組成物を作製した(最終固形分30%)。
【0124】
この多孔質絶縁層形成用組成物を1日静置後した。静置後、多孔質絶縁層形成用組成物は、液状であった。自転公転ミキサーにて多孔質絶縁層形成用組成物を30秒撹拌して50μmのグラインドゲージにて粒度を確認したところ、明瞭な凝集物(「ブツ」)は確認されなかった。多孔質絶縁層形成用組成物の液温を25℃に調製後、アントンパール社製歪み制御型レオメーターMCR302を用いて粘度を測定した。せん断速度は、1s-1から測定開始して、100s-1まで60秒で直線的に加速させた。プレートは直径50mm、角度1°のコーンプレートを用いた。「せん断速度10s-1での粘度値」を「せん断速度100s-1での粘度値」で除することで得られた値を、チキソトロピックインデックス値(TI値)として算出した。
【0125】
この多孔質絶縁層形成用組成物を負極電極に乾燥後の厚さが片面あたり3μmになるように両面にワイヤーバーを用いて塗工した。乾燥はオーブンにて60℃、15分とした。得られた多孔質絶縁層形成負極の負極電極層(活物質層)の厚みを計測して、多孔質絶縁層形成前の膜厚と比較し、片面あたりの膜厚の増大量を算出した。電極層、および多孔質絶縁層の厚み計測は、クライオクロスクセクションポリッシャーにより電極の断面出し加工後、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、10視野における厚み計測の平均値として算出した。
【0126】
また、トリエチレングリコールモノメチルエーテルと電極結着剤(負極活物質用結着剤)のSP値の差、トリエチレングリコールモノメチルエーテルの沸点、電極層(活物質層)厚み変化量を表1に示す。なお、トリエチレングリコールモノメチルエーテルのHSPは、Hansen Solubility Parameter in Practice 4th Edition から引用した。また、負極活物質層のバインダのHSPは、HSPが既知の溶媒を用い、上述し方法により実験的に求めた。他の実施例および比較例の溶媒および負極活物質層のバインダについても同様である。
【0127】
(実施例2)
実施例1において結着剤を結着剤1に代えて結着剤2に変更した以外は実施例1と同様にして多孔質絶縁層形成用組成物を作製した。次いで、得られた多孔質絶縁層形成用組成物についてTI値を算出した。さらに、同多孔質絶縁層形成用組成物を用いて、負極電極層上に塗工した。結果を表1に示す。
【0128】
(実施例3)
実施例1において結着剤を結着剤1に代えて結着剤3に変更した以外は実施例1と同様にして多孔質絶縁層形成用組成物を作製した。次いで、得られた多孔質絶縁層形成用組成物についてTI値を算出した。さらに、同多孔質絶縁層形成用組成物を用いて、負極電極層上に塗工した。結果を表1に示す。
【0129】
(比較例1)
実施例1において結着剤を結着剤1に代えて結着剤4に変更した以外は実施例1と同様にして多孔質絶縁層形成用組成物を作製した。この多孔質絶縁層形成用組成物を1日静置後した。静置後、多孔質絶縁層形成用組成物の性状を確認すると、粘着性の沈殿物が確認され、さらに多孔質絶縁層形成用組成物は一部ゲル状であった。同多孔質絶縁層形成用組成物を用いて負極電極層上に塗工することはできなかった。結果を表1に示す。
【0130】
(比較例2)
実施例1において結着剤を結着剤1に代えて結着剤5に変更した以外は実施例1と同様にして多孔質絶縁層形成用組成物を作製した。この多孔質絶縁層形成用組成物を1日静置後した。静置後、多孔質絶縁層形成用組成物は、液状であった。しかしながら、自転公転ミキサーにて多孔質絶縁層形成用組成物を30秒撹拌して50μmのグラインドゲージにて粒度を確認したところ、30μmの凝集物が確認された。次いで、得られた多孔質絶縁層形成用組成物についてTI値を算出した。さらに、同多孔質絶縁層形成用組成物を用いて、負極電極層上に塗工した。但し、正常には塗工できず、負極活物質層の厚みの変化を測定することはできなかった。結果を表1に示す。
【0131】
(比較例3)
実施例1において結着剤を結着剤1に代えて結着剤6に変更した以外は実施例1と同様にして多孔質絶縁層形成用組成物を作製した。この多孔質絶縁層形成用組成物を1日静置後した。静置後、多孔質絶縁層形成用組成物の性状を確認すると、粘着性の沈殿物が確認され、さらに多孔質絶縁層形成用組成物は一部ゲル状であった。同多孔質絶縁層形成用組成物を用いて負極電極層上に塗工することはできなかった。結果を表1に示す。
【0132】
(比較例4)
カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩の水溶液と実施例1で使用したベーマイト粒子を固形分質量比1:45となるように混合し、ビーズミルにて分散させた(固形分30%)。その後、ポリエチレンワックスの水分散体(平均粒子径1μm、固形分40%)、アクリル系ゴムの水分散体(固形分40%)を分散液に対して固形分比46:50:4(ポリエチレンワックスの水分散体:アクリル系ゴムの水分散体:分散液)となるように混合した。その後得られた混合液に対し、脱イオン水を追加することで、固形分30%の多孔質絶縁層形成用組成物(水溶媒)を作製した。この場合において、多孔質絶縁層形成用組成物の結着剤(結着剤7)は、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩とアクリル系ゴムとの混合物である。また、多孔質絶縁層形成用組成物の性状の評価および負極電極への塗工は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0133】
(比較例5)
酸変性ポリフッ化ビニリデンのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液と実施例1で使用したベーマイト粒子を固形分質量比5:45となるように混合し、ビーズミルにて分散させた(固形分30%)。その後、ポリエチレンワックスの水分散体(平均粒子径1μm、固形分40%)を固形分比50:50となるように混合して多孔質絶縁層形成用組成物を得た。しかしながら、上記混合時において、酸変性ポリフッ化ビニリデンが析出し、またポリエチレンワックス分散体が即座に凝集して流動性の無いゲル状物となった。したがって、孔質絶縁層形成用組成物の負極電極への塗工は実施例1と同様にして行うことはできなかった。なお、この場合において、多孔質絶縁層形成用組成物の結着剤(結着剤8)は、酸変性ポリフッ化ビニリデンである。
【0134】
なお、表中、「TEmMe」は、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを、「NMP」はN-メチル-2-ピロリドンを、「SBR」は、スチレンブタジエンゴムを、「CMC」は、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩をそれぞれ示す。
【0135】
【0136】
表1に示すように、実施例1~3に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、一日静置した後であっても、液状を維持するとともに、凝集物が確認されなかった。また、TI値も2以下であることから、実施例1~3に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、ニュートン流体に比較的近い。このことから、実施例1~3に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、絶縁性無機粒子、ポリオレフィン系ポリマー粒子の分散性に優れるとともに、塗工用組成物としても安定していること、また塗工時のせん断力による粘度変化が小さいことから塗工液のレベリング性に優れ、薄膜塗工に好適であることが確認された。また、実施例1~3に係る多孔質絶縁層形成用組成物を用いた場合、活物質層に対し、好適に塗工を行うことが可能であった。塗工後の活物質層の厚みの増加も5μm未満と比較的小さかった。
【0137】
これに対し、比較例1、3に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、一日静置した後に一部がゲル化し、塗工することができなかった。また、比較例2に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、粗大な凝集物が生じ、適切な塗工を行うことが困難であった。また、比較例4に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、水系の組成物であり、活物質層の厚みの増加を抑制できなかった。さらに、比較例5に係る多孔質絶縁層形成用組成物は、製造直後にゲル化し、そもそも塗工ができなかった。
【0138】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0139】
10 非水電解質二次電池
20 正極
21 正極集電体
22 正極活物質層
30 負極
31 負極集電体
32 負極活物質層
33 多孔質絶縁層
40 セパレータ層