(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】水素濃縮方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/50 20060101AFI20220105BHJP
F25J 1/00 20060101ALI20220105BHJP
F25J 3/06 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C01B3/50
F25J1/00 D
F25J3/06
(21)【出願番号】P 2018024084
(22)【出願日】2018-02-14
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】高柳 智
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-328172(JP,A)
【文献】米国特許第06560989(US,B1)
【文献】特開平07-054772(JP,A)
【文献】特開2004-233021(JP,A)
【文献】特開平11-029301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00- 6/34
F25J 1/00- 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と支燃性ガスとを含む混合ガス中の水素を濃縮する方法であって、前記混合ガスに窒素を添加する窒素添加工程と、窒素を添加した窒素添加混合ガスを低温冷媒で冷却して前記支燃性ガスを液化することにより水素から分離する冷却分離工程と、該冷却分離工程で液化しない水素を採取する水素採取工程とを含むことを特徴とする水素濃縮方法。
【請求項2】
前記低温冷媒は、液体窒素であることを特徴とする請求項1記載の水素濃縮方法。
【請求項3】
前記低温冷媒は、フロン冷媒であることを特徴とする請求項1記載の水素濃縮方法。
【請求項4】
前記支燃性ガスは、酸素であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の水素濃縮方法。
【請求項5】
前記窒素添加混合ガス中の水素濃度を測定し、測定結果に基づいて添加する窒素量を増減して窒素添加混合ガス中の水素濃度を水素の爆発下限界未満に調節することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の水素濃縮方法。
【請求項6】
前記窒素添加工程と前記冷却分離工程の間に、冷却分離工程で固化する不純物成分を窒素添加混合ガス中から除去する不純物成分除去工程を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の水素濃縮方法。
【請求項7】
水素と支燃性ガスとを含む混合ガス中の水素を濃縮する装置であって、前記混合ガスに窒素を添加する窒素添加槽と、該窒素添加槽から導出した窒素添加混合ガスを低温冷媒で冷却することにより前記支燃性ガスを液化して水素から分離する冷却分離器と、該冷却分離器で液化しなかった水素を採取する採取経路とを備えていることを特徴とする水素濃縮装置。
【請求項8】
前記窒素添加槽は、該窒素添加槽内に窒素を導入する窒素導入経路と、前記窒素添加槽内の窒素添加混合ガスに含まれる水素の濃度を測定する水素分析計とを備えるとともに、該水素分析計での水素濃度測定値に基づいて、窒素添加混合ガス中の水素濃度が水素の爆発下限界未満になるように窒素導入量を調節する窒素添加量調節器を前記窒素導入経路に設けたことを特徴とする請求項7記載の水素濃縮装置。
【請求項9】
前記窒素添加槽と前記冷却分離器との間に、冷却分離器での冷却によって固化する不純物成分を窒素添加混合ガス中から除去する不純物成分除去手段を備えていることを特徴とする請求項7又は8記載の水素濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素濃縮方法及び装置に関し、詳しくは、水素製造工程において、水素と支燃性ガスとの混合ガスから支燃性ガスを除去して水素を濃縮するための水素濃縮方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素の製造方法として、水の電気分解にて水素酸素混合ガスを発生させ、低温冷媒によって水素酸素混合ガスを冷却し、酸素を液化して水素から分離することで水素を濃縮し、濃縮した水素を水素吸蔵合金に貯蔵する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素は、空気中での爆発濃度範囲が4~75%と広く、水の電気分解や光触媒反応などで発生したガスは、水素以外に支燃性ガスである酸素も共存した水素酸素混合ガスとなっているため、そのままでは、水素と酸素とが反応して爆発する危険性を有している。したがって、従来の水素濃縮工程では、酸素の共存下で水素の爆発範囲内で行うため、爆発の危険性を伴うという課題があった。
【0005】
そこで本発明は、水素と支燃性ガスとの混合ガスから水素を安全に濃縮することができる水素濃縮方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の水素濃縮方法は、水素と支燃性ガスとを含む混合ガス中の水素を濃縮する方法であって、前記混合ガスに窒素を添加する窒素添加工程と、窒素を添加した窒素添加混合ガスを低温冷媒で冷却して前記支燃性ガスを液化することにより水素から分離する冷却分離工程と、該冷却分離工程で液化しない水素を採取する水素採取工程とを含むことを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の水素濃縮方法は、前記低温冷媒が液体窒素あるいはフロン冷媒であり、前記支燃性ガスが酸素であることを特徴としている。また、前記窒素添加混合ガス中の水素濃度を測定し、測定結果に基づいて添加する窒素量を増減して窒素添加混合ガス中の水素濃度を水素の爆発下限界未満に調節することを特徴とし、さらに、前記窒素添加工程と前記冷却分離工程の間に、冷却分離工程で固化する不純物成分を窒素添加混合ガス中から除去する不純物成分除去工程を含むことを特徴としている。
【0008】
また、本発明の水素濃縮装置は、水素と支燃性ガスとを含む混合ガス中の水素を濃縮する装置であって、前記混合ガスに窒素を添加する窒素添加槽と、該窒素添加槽から導出した窒素添加混合ガスを低温冷媒で冷却することにより前記支燃性ガスを液化して水素から分離する冷却分離器と、該冷却分離器で液化しなかった水素を採取する採取経路とを備えていることを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の水素濃縮装置は、前記窒素添加槽が、該窒素添加槽内に窒素を導入する窒素導入経路と、前記窒素添加槽内の窒素添加混合ガスに含まれる水素の濃度を測定する水素分析計とを備えるとともに、該水素分析計での水素濃度測定値に基づいて、窒素添加混合ガス中の水素濃度が水素の爆発下限界未満になるように窒素導入量を調節する窒素添加量調節器を前記窒素導入経路に設けたことを特徴としている。また、前記窒素添加槽と前記冷却分離器との間に、冷却分離器での冷却によって固化する不純物成分を窒素添加混合ガス中から除去する不純物成分除去手段を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水素と支燃性ガスとを含む混合ガスに窒素を添加することによって水素濃度を爆発下限界未満に下げることができるので、爆発の危険性を回避して水素を安全に濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の水素濃縮方法を適用した水素濃縮装置の一形態例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の水素濃縮装置の一形態例を示している。本形態例に示す水素濃縮装置は、水素と支燃性ガスである酸素とを含む混合ガスの発生を水の電気分解で行い、水素と酸素とを分離するための低温冷媒として液体窒素を用いた例を示している。
【0013】
この水素濃縮装置は、電気分解槽を兼ねる窒素添加槽11と、ガス中の不純物成分を吸着除去する吸着器12と、ガスの圧力や流量を安定化させるためのバッファ槽13と、ガスを昇圧する昇圧機14と、ガスの流量を調節する流量調節器15と、ガスの圧力を調節する圧力調節器16と、ガスを冷却して液化成分と非液化成分とを分離する冷却分離器17と、該冷却分離器17で液化しなかった水素を製品として採取する採取経路18とを備えている。
【0014】
窒素添加槽11は、槽下部に貯留した水W内に配置した正負の電極(図示せず)に通電して水を電気分解することにより、水素と支燃性ガスである酸素との混合ガスを発生させるとともに、槽上部の気相内に窒素を添加するものである。窒素添加槽11の上部ガス相には、背圧調節器19を介して槽内から抜き出したガス中の水素濃度及び酸素濃度を測定するガス分析計20と、ガス分析計20で測定した水素濃度に基づいて窒素添加槽11に窒素導入経路21から導入する窒素の流量を調節する窒素添加量調節器である窒素流量調節器22と、前記混合ガスに窒素を添加した窒素添加混合ガスを窒素添加槽11から導出する窒素添加混合ガス導出経路23とが設けられている。
【0015】
窒素導入経路21から窒素添加槽11内に導入される窒素量は、水素及び酸素の混合ガスに窒素を添加した窒素添加混合ガスを前記ガス分析計20で分析し、測定した窒素添加混合ガス中の水素濃度が水素の爆発下限界未満である4%未満になるように設定される。これにより、窒素添加槽11から窒素添加混合ガス導出経路23に導出される窒素添加混合ガス中の水素濃度を爆発下限界未満である4%未満にすることができ、窒素添加槽11から下流側での爆発の危険性を回避することができる。
【0016】
吸着器12は、後段の冷却分離器17で窒素添加混合ガスを冷却したときに固化する成分、例えば、水分や二酸化炭素、炭化水素などの不純物成分を吸着剤、例えばMS-3Aや活性アルミナ、シリカゲルなどによって吸着除去するものであって、通常のPSA装置やTSA装置を使用することができ、再生ガス経路12a、12bや再生用機器を設けて吸着工程と再生工程とを繰り返すことにより、連続的に不純物の除去を行うことができる。
【0017】
バッファ槽13は、吸着器12で不純物を除去した窒素添加混合ガスを一時的に貯留し、昇圧機14に吸入される窒素添加混合ガスの圧力変動や流量変動を抑えるためのもので、窒素添加槽11で発生する水素・酸素の混合ガス量、窒素の添加量、これらのガスの圧力、冷却分離器17の能力などの条件に応じた容積のものを用いることができる。
【0018】
昇圧機14は、窒素添加混合ガスの圧力を上昇させて冷却分離器17における酸素の沸点(液化温度)を高くし、冷却分離器17で使用する冷媒、例えば液体窒素の温度で液化しない水素と、液化する酸素との分離を容易にするためのもので、昇圧機14で昇圧された窒素添加混合ガスは、流量調節器15及び圧力調節器16で一定流量、一定圧力で冷却分離器17に導入される。
【0019】
冷却分離器17は、液溜槽17aと、該液溜槽17aの上部に連設した蒸留管17bとからなるもので、冷媒貯槽24内に収納され、冷媒貯槽24内に貯留された液体窒素LN内に浸漬された状態になっており、蒸留管17bの終端には、蒸留管17b内で液化しなかった非液化成分を取り出す前記採取経路18が接続されており、採取経路18には、非液化成分である水素と窒素とからなる採取ガス中の水素濃度を測定するための水素分析計25が設けられている。採取経路18に採取された採取ガスは、吸着分離や膜分離、冷却分離などの周知の水素濃縮操作を行うことにより、水素の高純度化を図ることができる。
【0020】
また、蒸留管17b内で液化した液化成分である液体酸素及び一部が液化した液体窒素が流下する液溜槽17aの底部には、液溜槽17aから液体酸素及び液体窒素からなる混合液を抜き出すための液抜出管26が設けられており、液溜槽17a内の液面高さを一定に保つようにして混合液を抜き出すようにしている。液抜出管26に抜き出した低温の混合液は、冷却分離器17の入口部に設けた予冷部26aで窒素添加混合ガスを予冷するための冷却源として用いることができる。
【0021】
一方、冷媒貯槽24の上部には、冷媒貯槽24内に低温冷媒である液体窒素を導入する低温冷媒導入管27と、冷媒貯槽24内から冷媒蒸気(窒素ガス)を抜き出す冷媒蒸気導出管28とが設けられている。冷媒蒸気導出管28には、抜き出した窒素ガス内に含まれる液分を気化させる蒸発器29と、窒素ガスを吸引排気して冷媒貯槽24内の圧力を低くするための吸引ポンプ30とが設けられている。この吸引ポンプ30で冷媒貯槽24内のガスを吸引して圧力を低くすることにより、液体窒素の沸点(気化温度)を低くし、酸素の液化温度と液体窒素の気化温度との差を大きくして酸素の液化を促進できるようにしている。
【0022】
なお、電気分解槽と窒素添加槽とを個別に形成することもできる。さらに、水素の発生は、水の電気分解に限らず、光触媒反応などの任意の方式を採用することが可能であり、吸着器は、水素の発生方式の違いによってそれぞれ発生する各種不純物を吸着分離可能な吸着剤を用いればよい。また、冷却分離器で使用する低温冷媒は、窒素添加混合ガス中の支燃性ガスを冷却液化して水素と分離できるものならば、任意の低温流体を使用することができ、例えばフロン冷媒を使用することもできる。
【0023】
次に、前記水素濃縮装置を使用して本発明の水素濃縮方法を実施した一例を説明する。まず、窒素添加槽11において、水を電気分解することにより、水素66.7%、酸素33.2%を含んだ混合ガスを毎分30ccで発生させるとともに、窒素導入経路21から毎分470ccを目標流量として窒素を連続的に導入して混合ガスに添加した。このとき、ガス分析計20で窒素添加混合ガス中の水素濃度を測定し、窒素添加混合ガス中の水素濃度が4%未満になるように窒素の導入量を調節した。
【0024】
次いで、MS-3Aを充填した吸着器12で窒素添加混合ガス中に含まれる水分、二酸化炭素を吸着除去した後、バッファ槽13を介して昇圧機14にて昇圧し、流量調節器15で流量を毎分500ccに、圧力調節器16で圧力を150kPaAに、それぞれ調節してから冷却分離器17に導入した。
【0025】
冷却分離器17は、高さ1.67m、径4.6mmの蒸留管17bを有しており、冷媒貯槽24に貯留した-197~-200℃の液体窒素中に浸漬された状態となっている。蒸留管17bで液化し、液溜槽17aに流下した酸素(液体酸素)及び一部の窒素(液体窒素)は、液溜槽17a内の液面が一定になるように調節しながら液抜出管26から抜き出し、予冷部26aにて冷却分離器17に導入される窒素添加混合ガスを予冷するために使用した後に排気した。
【0026】
冷却分離器17から採取経路18には、水素20%、窒素80%の混合ガスを毎分100ccで採取することができた。この水素及び窒素の混合ガスは、更なる水素濃縮工程などによって爆発の危険性無く安全に水素を高純度化することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
11…窒素添加槽、12…吸着器、12a、12b…再生ガス経路、13…バッファ槽、14…昇圧機、15…流量調節器、16…圧力調節器、17…冷却分離器、17a…液溜槽、17b…蒸留管、18…採取経路、19…背圧調節器、20…ガス分析計、21…窒素導入経路、22…窒素流量調節器、23…窒素添加混合ガス導出経路、24…冷媒貯槽、25…水素分析計、26…液抜出管、26a…予冷部、27…低温冷媒導入管、28…冷媒蒸気導出管、29…蒸発器、30…吸引ポンプ