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  • 特許-固体化粧品用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】固体化粧品用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20220105BHJP
   A61Q 1/12 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61K8/19
A61Q1/12
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018036926
(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公開番号】P2019151575
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】藤波 恭一
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
【審査官】山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216271(JP,A)
【文献】特開2014-094878(JP,A)
【文献】特開2012-176910(JP,A)
【文献】特開2007-015988(JP,A)
【文献】特開2013-209346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C01B21/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比が2.5~10の六方晶窒化ホウ素粒子を90%以上含み、前記アスペクト比が2.5~10の六方晶窒化ホウ素粒子100個中に双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子が1個以上存在し、平均粒径が1~30μmの六方晶窒化ホウ素粉末を、1~30質量%含むことを特徴とする、固体化粧品用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な固体化粧品用組成物に関する。詳しくは、特定の性状を有する六方晶窒化ホウ素粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末を配合した固体化粧品組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
パウダーファンデーションに代表される固体化粧品は、顔全体に塗布することによって、シミ、そばかす、小皺、毛穴を覆い隠し、肌の表面を均等に整える役目を有する。そのため、上記化粧品には、「のび(皮膚表面で滑らかに塗れる性質)」や「もち(皮膚に塗った状態を持続する性質)」といった特性が求められる。
【0003】
前記固体化粧品を構成する粉末成分は、従来、その大半がマイカ、セリサイト、タルクなどの天然鉱物からなっていたが、これらは触媒活性を有しているため、化粧品の他の成分に対して劣化を引き起こすとされており、最近では、化学的に安定な窒化ホウ素粉末の使用が増大している。そして、このとき使用される窒化ホウ素粒子の形状は、通常、アスペクト比(長径/厚さ)が50~1000の厚みの薄い扁平な形状であり、窒化ホウ素粒子がこのような形状を有することから、該窒化ホウ素を含む化粧品を皮膚に塗布したとき、該窒化ホウ素の扁平面が皮膚表面に対し平行に向きやすく、ゆえに該窒化ホウ素を含む化粧品は「のび」や「もち」に優れるとされている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の窒化ホウ素粒子を含む化粧品は、「のび」や「もち」には優れるものの、該窒化ホウ素粒子が外部からの光をその扁平面で正反射しやすく、そのため上記化粧品を塗布した皮膚表面にテカリが生じてしまう場合があることを本発明者等は確認した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-186205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、「のび」や「もち」に優れながら、皮膚表面のテカリの発生を、従来のものに比べて効果的に抑制することが可能な固体化粧品用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のアスペクト比を有する六方晶窒化ホウ素粒子を含み、特定の粒径を有する六方晶窒化ホウ素粉末を、化粧品用組成物に特定量使用することにより、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、アスペクト比が2.5~10の六方晶窒化ホウ素粒子を含み、平均粒径が1~30μmである六方晶窒化ホウ素粉末を、1~30質量%含むことを特徴とする、固体化粧品用組成物である。
【0009】
また、本発明によれば、前記六方晶窒化ホウ素粒子が、板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子を含む固体化粧品用組成物が提供される。
【0010】
さらに、本発明によれば、前記六方晶窒化ホウ素粉末について、前記アスペクト比が2.5~10の六方晶窒化ホウ素粒子100個中に、前記双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子が1個以上存在する固体化粧品用組成物が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固体化粧品用組成物は、特定のアスペクト比の六方晶窒化ホウ素粒子を含み、特定の粒径を有する六方晶窒化ホウ素粉末を、上記化粧品用組成物に特定量使用することにより、「のび」や「もち」に優れながら、皮膚表面のテカリの発生を従来のものに比べて効果的に抑制することができる。
【0012】
本発明の固体化粧品用組成物が上記テカリ発生抑制効果を発現する機構に関して、本発明の組成物に含まれる窒化ホウ素粒子の形状が、従来のものと比べてアスペクト比の小さい形状、即ち厚い形状であり、これを含む化粧品用組成物を皮膚に塗布すると、上記厚い形状の窒化ホウ素粒子に存在する扁平面が皮膚表面に対し様々な方向を向きやすく、ゆえに正反射した光が特定方向に揃わずテカリの発生が減少し得ると考えている。また、上記窒化ホウ素粒子の扁平面が皮膚表面に対し様々な方向を向くことで、乱反射を引き起こす窒化ホウ素粒子の端面における反射の割合が従来よりも大きくなることも、テカリの発生を抑制し得る要因となると考えている。
【0013】
また、固体化粧品用組成物を、圧縮成形し、スポンジ等で肌に塗って使用するケーキ状化粧品として使用する際、上記化粧品用組成物には、通常、圧縮成形後における成形体に耐衝撃性が求められる。この点においても、本発明の組成物は優れている。その理由として、本発明者等は次のように推定している。即ち、一般的に、窒化ホウ素粒子はその扁平面に平行な面に沿って剥がれやすい、つまり劈開性が高いため、従来の窒化ホウ素粒子を使用したケーキ状化粧品は脆い傾向にある。しかしながら、本発明に使用する窒化ホウ素粉末は、従来の窒化ホウ素粒子と比べて厚い形状を有する窒化ホウ素粒子を含むため、薄い形状のものと比べて単位体積あたりの扁平面の割合が小さく、そのため、本発明に使用する窒化ホウ素粒子は上記化粧品中において扁平面における剥がれが起こりにくく、ゆえに本発明の固体化粧品用組成物からなる成形体は耐衝撃性に優れると推定している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の固体化粧品用組成物に含まれる六方晶窒化ホウ素粉末である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の固体化粧品用組成物は、アスペクト比が2.5~10の六方晶窒化ホウ素粒子を含み、平均粒径が1~30μmである六方晶窒化ホウ素粉末を、1~30質量%含むことを特徴とする。
【0016】
<六方晶窒化ホウ素粒子>
本発明の固体化粧品用組成物に使用する六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素粒子としては、アスペクト比が2.5~10の範囲にあることが好ましく、4~8の範囲がより好ましい。かかるアスペクト比を有するものは、化粧品用組成物に充填した際、皮膚表面のテカリを効果的に抑制することができる。
【0017】
なお、前記六方晶窒化ホウ素粒子は、2つ以上の粒子が凝集した形態でもよいが、良好な「のび」を得るために、できるだけ独立粒子の形態で存在することが好ましい。いずれの形態にしても、化粧品用組成物に充填した際、その特徴的な形状により、皮膚表面のテカリを効果的に抑制することができる。
【0018】
また、前記六方晶窒化ホウ素粒子は、その一部の粒子として、板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子を含むことが、テカリ防止の点においてにより好ましい。そして、前記双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子は、アスペクト比が3~10、屈曲部の角度が139±2度、長軸の長さに対する短軸の長さが0.3~1.5であるのが一般的である。
【0019】
さらに、前記六方晶窒化ホウ素粉末について、前記アスペクト比が2.5~10の六方晶窒化ホウ素粒子100個中に、前記双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子が1個以上存在することが好ましい。
【0020】
なお、特開2014-094878号公報に、アスペクト比が従来のものよりも小さい窒化ホウ素粒子を化粧品に使用することが開示されているが、該公開公報の実施例に開示されている窒化ホウ素粒子のアスペクト比は、12と比較的大きく、本発明の斯様に小さいアスペクト比を有する窒化ホウ素粒子を化粧品に使用し、そして、該窒化ホウ素粒子がテカリの抑制に対して効果的に作用する固体化粧品用組成物は、本発明において初めて提供されたものである。
【0021】
<六方晶窒化ホウ素粉末>
前記特徴的な形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子は、公知の方法により製造することができるが、後述の製造方法によって製造した場合、前記六方晶窒化ホウ素粒子以外に、その他の形状を有する窒化ホウ素粒子、例えば、従来から化粧品に使用されている50~1000の厚みの小さい扁平な形状を有する窒化ホウ素粒子も一部生成するため、一般には、前記特徴的な形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末として得られる。
【0022】
本発明の固体化粧品用組成物に使用される六方晶窒化ホウ素粉末は、平均粒径が1~30μm、好ましくは3~20μmの粒径を有するものが好ましい。平均粒径が1μm未満であると、皮膚表面のテカリ抑制効果を得ることができず、また、平均粒径が30μmを超えると、化粧品用組成物からなる成形体の耐衝撃性を低下させる等の問題が起こり易い。
【0023】
本発明の固体化粧品用組成物に使用される六方晶窒化ホウ素粉末において、前記特徴的な形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子は、50%以上、好ましくは、70%以上、更に好ましくは90%以上の範囲で存在することが、上記化粧品用組成物を皮膚に塗布したとき、従来のものと比べ皮膚表面のテカリを効果的に抑制することができるため好ましい。
【0024】
勿論、公知の分級方法、例えば篩を使用した分級方法等により、上記窒化ホウ素粉末から前記特徴的な形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子以外の窒化ホウ素粒子を除去して、占有率を上げることが可能である。
【0025】
<固体化粧品用組成物>
本発明において、固体化粧品用組成物とは、化粧品の基本成分に前記六方晶窒化ホウ素粉末を含むものであって、以下の用途に用いるものである。
【0026】
本発明の固体化粧品用組成物は、前記六方晶窒化ホウ素粉末を1~30質量%、好ましくは10~25質量%含むことが好ましい。前記六方晶窒化ホウ素粉末の配合割合が前記範囲であれば、前記六方晶窒化ホウ素粒子がその特徴的な形状による優れた効果を発揮する。また、耐衝撃性の点においても優れた効果を享受することができる。
【0027】
また、本発明の固体化粧品用組成物において、化粧品の基本成分については、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。例えば、タルク、マイカ、雲母、セリサイト、無水ケイ酸、シリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ジルコニウム等の無機粉体;ナイロン12、(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー、(ジフェニルジメチコン/ビニルジフェニルジメチコン/シルセスキオキサン)クロスポリマー、アクリレーツクロスポリマー、ポリメチルメタクリレートポリマー等の高分子;パーフルオロオクチルトリエトキシシラン等のシラン化合物;メトキシケイヒ酸エチルヘキシル等の紫外線吸収剤;シリコーン処理ベンガラ(赤酸化鉄)、シリコーン処理黄酸化鉄、シリコーン処理黒酸化鉄、シリコーン処理酸化チタン等の顔料;高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、エステル油、パラフィン油、ワックス等の油分;エチルアルコール、プロピレングリコール、ソルビトール、グルコース等のアルコール類;ムコ多糖類、コラーゲン類、乳酸塩等の保湿剤;各種界面活性剤、増粘剤、酸化防止剤、pH緩衝剤、防腐剤、香料等の通常化粧品に用いられる原料が適宜選択され配合される。
【0028】
そして、本発明の固体化粧品用組成物は、化粧品用途として以下に述べるような種々の用途に使用することができる。即ち、ファンデーション、口紅、アイシャドー、マスカラ等のメークアップ化粧品だけでなく、乳液、クリーム等のフェイシャル化粧品に好適に用いることができる。
【0029】
<六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法>
前記六方晶窒化ホウ素粉末の好適な製造方法としては、例えば、ホウ素化合物、カーボン源および含酸素カルシウム化合物を、ホウ素化合物とカーボン源との割合がB/C(元素比)換算で0.5~1.2、ホウ素化合物とカーボン源との合計量(HBO、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCaO換算で3~30質量部となる割合で含有する混合物を、窒素雰囲気下に加熱し、1550℃の温度に至るまでに、反応物中のカーボン濃度が5質量%以下となるように反応させた後、1700℃以上の温度に加熱する方法が挙げられる。得られた六方晶窒化ホウ素粉末は、さらに酸洗浄を行い、高純度な白色の六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。
【0030】
前記製造方法において、前記ホウ素化合物としては、ホウ素原子を含有する化合物であれば制限なく使用される。例えば、ホウ酸、無水ホウ酸、酸化ホウ素、メタホウ酸、過ホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムなどが使用できるが、一般的には入手が容易なホウ酸、酸化ホウ素が好適に用いられる。また、カーボン源としては公知の炭素材料が特に制限無く使用される。例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー等の非晶質炭素の他、ダイヤモンド、グラファイト、ナノカーボン等の結晶性炭素、モノマーやポリマーを熱分解して得られる熱分解炭素等が特に制限無く使用される。
【0031】
また、前記製造方法において、ホウ素化合物とカーボン源との割合は、B/C(元素比
)換算で0.5~1.2とすることが好ましい。特に、上記B/Cを1~1.2とすることにより、前記六方晶窒化ホウ素粒子とともに、板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子が一部生成する傾向にある。
【0032】
前記製造方法において、結晶化触媒として使用される含酸素カルシウム化合物は、酸素とカルシウムが含まれる化合物を特に制限なく使用できる。例えば炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等を使用することが出来るし、これら2種類以上を混合して使用することも可能である。上記含酸素カルシウム化合物の添加量としては、ホウ素化合物とカーボン源との合計量(HBO、C換算値)100質量部に対して、CaO換算で3~30質量部とすることが好ましく、5~25質量部とすることがより好ましく、10~20質量部とすることが更に好ましい。特に、上記含酸素カルシウム化合物の添加量を15~20質量部とすることにより、前記六方晶窒化ホウ素粒子とともに、板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子が一部生成する傾向にある。
【0033】
前記製造方法において、上記の各原料を含む混合物の形態は特に制限されず、粉末状のままでもよいが、多孔質バルク体を形成してもよい。尚、かかる多孔質バルク体は、例えば、前記ホウ素化合物、カーボン源、炭酸カルシウムを含む混合粉末を加熱し、ホウ酸からメタホウ酸の生成、メタホウ酸の溶融によりバルク体を形成すると共に、メタホウ酸が溶融している状態で、炭酸カルシウムの分解により二酸化炭素ガスを生成せしめて発泡させる方法が挙げられる。
【0034】
前記製造方法において、還元窒化は、前記ホウ素化合物、カーボン源および含酸素カルシウム化合物を含む混合物(以下、原料混合物ともいう)を、窒素ガスを含む雰囲気下で加熱することで実施可能であるが、加熱温度、反応生成物中のカーボン量を制御することが重要である。即ち、該原料混合物を、窒素雰囲気下で、1550℃の温度に至るまでに反応物中のカーボン濃度が5質量%以下となるように反応させた後、1700℃以上の温度で六方晶窒化ホウ素粉末を生成せしめることが好ましい。なお、かかる反応物中のカーボン濃度は、蛍光X線分析装置を使用して管理することができる。
【0035】
前記製造方法において、1550℃に至るまでに前記還元窒化反応を進行させるための反応温度は特に制限されないが、一般に、カーボン源によるホウ素化合物の還元反応は、1200℃以上で開始し、非晶質六方晶窒化ホウ素が生成し始めるため、1200℃以上、好ましくは、1300℃以上の温度に調整することが好ましい。
【0036】
前記製造方法において、1550℃の温度に至るまでに反応物中のカーボン濃度が前記範囲を満足しているかどうかの確認する方法は、特に制限されない。例えば、1550℃の温度における反応物中のカーボン濃度を測定するのが直接的であるが、1550℃以下の任意の温度において、反応物中のカーボン濃度が前記範囲を満足していることを確認してもよい。また、製造の度毎に、カーボン濃度を測定して本発明を実施してもよいが、予め実験を行い、前記温度プロファイルを含む運転条件において反応物中のカーボン濃度が5質量%以下となる時間を特定し、上記運転条件での処理時間により管理することが工業的であり、好ましい。上記処理時間は、運転時要件により異なり一概には決定できないが、一般に、1200℃以上の温度において、2~10時間、特に、3~8時間の範囲である場合が多い。
【0037】
前記製造方法において、上記工程後、結晶性の高い六方晶窒化ホウ素粒子を得るために通常1700℃以上、好ましくは、1700~2200℃、更に好ましくは1800~2000℃で熱処理を行うことが好ましい。
【0038】
また、前記製造方法において、窒素雰囲気は、公知の手段によって形成することが出来る。使用するガスとしては、上記窒化処理条件でホウ素に窒素を与えることが可能なガスであれば特に制限されず、窒素ガス、アンモニアガスを使用することも可能であり、窒素ガス、アンモニアガスに、水素、アルゴン、ヘリウム等の非酸化性ガスを混合したガスも使用可能である。
【0039】
前記製造方法は、反応雰囲気制御の可能な公知の装置を使用して行うことができる。例えば、高周波誘導加熱やヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉が挙げられ、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉、縦型反応炉等の連続炉も使用可能である。
【0040】
前記製造方法において、上述の窒化処理を施した直後は六方晶窒化ホウ素粒子を主成分とするが、ホウ酸カルシウム等の化合物も含まれているため、必要に応じて酸を用いて洗浄することで、高純度かつ高結晶性の六方晶窒化ホウ素粉末を得ることが可能である。
【0041】
<固体化粧品用組成物の製造方法>
本発明の固体化粧品用組成物について、その製造方法は特に限定されず、例えば、前記六方晶窒化ホウ素粉末及び前記化粧品基本成分を混合し、均一分散し、これを金属製や樹脂製の皿状容器に充填成形する方法等が挙げられる。皿状容器に充填成形する方法としては、圧縮成形する方法、溶剤を用いてスラリー充填する方法が挙げられる。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
以下の実施例および比較例において、各値は以下の方法によって測定したものである。
【0044】
(1)六方晶窒化ホウ素粒子の特定方法
エポキシ樹脂100質量部中に六方晶窒化ホウ素粉末10質量部を分散し、得られた樹脂組成物を減圧脱泡し、硬化させ、縦5mm×横5mm×高さ5mmの硬化体を作製した。
次いで、該硬化体の高さ方向に垂直な面のうち一方の面について、その中央を倍率1000倍の条件でSEMにより画像を撮影した。そして、上記高さ方向に0.1μm研磨し、該研磨した面について、上記画像と同じ領域を倍率1000倍の条件でSEMにより撮影した。その後、上記研磨およびSEM観察の操作を繰り返すことによって、上記高さ方向の断面について、高さ1mm分のSEM画像を得た。これらのSEM画像を研磨した順に組み合わせることにより、上記六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素粒子の形状を立体的に確認し、該六方晶窒化ホウ素粒子のアスペクト比(L/t)、双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子の存在割合を求めた。
【0045】
(2)六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径(D50)
窒化ホウ素粉末0.3gを50ccのエタノールと共に、容積100cc、直径4cmのスクリュー管瓶に投入し、0.2cmの直径を有するプローブを水中に1cm挿入した状態で、室温下、上記プローブより50Wの出力で5分間超音波を作用せしめた後の窒化ホウ素懸濁液についてレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製LA-950V2)を用いて、粒度分布を測定し、平均粒径(D50)を求めた。
【0046】
(3)固体化粧品用組成物について、のび、もち、マット感、及びテカリ
20名のパネラーにより「のび」「もち」「マット感」「テカリ」について官能評価を行った。結果は、良好と感じたパネラーが30%未満である場合を×、30%以上60%未満である場合を△、60%以上80%未満である場合を○、80%以上である場合を◎とした。
【0047】
また、実施例で使用した六方晶窒化ホウ素粉末AおよびB、並びに比較例で使用した六方晶窒化ホウ素粉末CおよびDの物性は、以下の通りである。
【0048】
・六方晶窒化ホウ素粉末A
六方晶窒化ホウ素粉末Aは、以下の製造方法により調製した。
【0049】
酸化ホウ酸100g、カーボンブラック43g、及び炭酸カルシウム28gをボールミルにて混合し、該混合物を、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下で15℃/分で1400℃まで昇温し、1400℃で4時間保持した後、15℃/分で1800℃まで昇温し、1800℃、2時間窒化処理し、さらに塩酸洗浄を行い、高純度な白色の六方晶窒化ホウ素粉末を得た。該六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径は11μmであった。また、該六方晶窒化ホウ素粉末について、アスペクト比2.5~10の特徴的な形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子とそうでないものを前記特定方法に準じて選別した結果、上記六方晶窒化ホウ素粉末中に前記特徴的な形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子が92%含まれていた。また、該六方晶窒化ホウ素粉末について、六方晶窒化ホウ素粒子100個中に、前記双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子が1個存在することを確認した。
【0050】
・六方晶窒化ホウ素粉末B
六方晶窒化ホウ素粉末Bは、以下の製造方法により調製した。
【0051】
硼酸62g、カーボンブラック42g、及び酸化カルシウム14gをボールミルを使用して混合した。該混合物50gを、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、15℃/分で1800℃まで昇温し、1800℃で2時間保持することで窒化処理し、副生成物含有窒化ホウ素を得た。
【0052】
次いで、上記副生成物含有窒化ホウ素を解砕して容器に投入し、該副生成物含有窒化ホウ素の5倍量の塩酸(7重量%HCl)を加え、回転数800rpmで24時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸をろ過し、使用した酸と同量の純水に、ろ過して得られた窒化ホウ素を分散させ、再度ろ過した。この操作を5回繰り返した後、150℃で6時間乾燥させた。
【0053】
乾燥後に得られた粉末を目開き90μmの篩にかけて、白色の六方晶窒化ホウ素粉末を得た。該六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径は11μmであった。また、該六方晶窒化ホウ素粉末について、アスペクト比2.5~10の特徴的な形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子とそうでないものを前記特定方法に準じて選別した結果、上記六方晶窒化ホウ素粉末中に前記特徴的な形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子が92%含まれていた。また、該六方晶窒化ホウ素粉末について、六方晶窒化ホウ素粒子100個中に、前記双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子が32個存在することを確認した。
【0054】
・六方晶窒化ホウ素粉末C
六方晶窒化ホウ素粉末Cは、水島合金鉄社製SHP-3である(平均粒径:9μm)。なお、六方晶窒化ホウ素粉末Cについて、六方晶窒化ホウ素粒子のアスペクト比は40~80の範囲に含まれ、上記六方晶窒化ホウ素粉末中に前記特徴的な形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子は確認できなかった。
・六方晶窒化ホウ素粉末D
六方晶窒化ホウ素粉末Dは、水島合金鉄社製SHP-9である(平均粒径:14μm)。なお、六方晶窒化ホウ素粉末Dについて、六方晶窒化ホウ素粒子のアスペクト比は120~200の範囲に含まれ、上記六方晶窒化ホウ素粉末中に前記特徴的な形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子は確認できなかった。
【0055】
実施例1
六方晶窒化ホウ素粉末Aを用い、以下の配合割合で六方晶窒化ホウ素粉末を含有する固体化粧品組成物を作製し、パネラーによる評価に供した。結果を表1に示した。
【0056】
六方晶窒化ホウ素粉末A 20.0質量%
マイカ 15.0質量%
合成金雲母 12.0質量%
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 8.0質量%
(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー 8.0質量%
(ジフェニルジメチコン/ビニルジフェニルジメチコン/シルセスキオキサン)クロスポリマー 8.0質量%
ナイロン12 3.0質量%
シリカ 3.0質量%
タルク 3.0質量%
アクリレーツクロスポリマー 3.0質量%
パーフルオロオクチルトリエトキシシラン 3.0質量%
酸化亜鉛 3.0質量%
ポリメチルメタクリレートポリマー 3.0質量%
シリコーン処理ベンガラ(赤酸化鉄) 1.0質量%
シリコーン処理黄酸化鉄 0.6質量%
シリコーン処理黒酸化鉄 0.4質量%
シリコーン処理酸化チタン 6.0質量%
【0057】
実施例2
用いる六方晶窒化ホウ素粉末を六方晶窒化ホウ素粉末Bとした以外、実施例1と同様に固体化粧品組成物を作製し、パネラーによる評価に供した。結果を表1に示した。
【0058】
比較例1
用いる六方晶窒化ホウ素粉末を六方晶窒化ホウ素粉末Cとした以外、実施例1と同様に固体化粧品組成物を作製し、パネラーによる評価に供した。結果を表1に示した。
【0059】
比較例2
用いる六方晶窒化ホウ素粉末を六方晶窒化ホウ素粉末Dとした以外、実施例1と同様に固体化粧品組成物を作製し、パネラーによる評価に供した。結果を表1に示した。
【0060】
【表1】
図1