(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
C01B21/064 H
(21)【出願番号】P 2020057912
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
(72)【発明者】
【氏名】藤波 恭一
(72)【発明者】
【氏名】縄田 輝彦
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/005590(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子を含む有機化合物と、上記窒素原子に対するホウ素原子のモル比が0.26以上、0.67以下に調整されたホウ素源とを含み、且つ、リチウム原子が
45モル%~100モル%未満の範囲に調整されたアルカリ金属を、前記アルカリ金属原子に対するホウ素原子のモル比が、0.75以上、3.35以下となるように存在せしめた混合粉末を準備する工程、上記混合粉末を最高温度1200℃以上、1500℃以下で加熱する加熱工程を含む、ことを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属は、リチウムと、ナトリウムまたはカリウムである、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素の製造方法。
【請求項3】
前記最高温度が、1200℃以上1350℃以下である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は六方晶窒化ホウ素粉末の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素は高い熱伝導性を有しており、六方晶窒化ホウ素粉末を放熱フィラーとして樹脂に充填した樹脂組成物は、電子部品の放熱用途に使用される。六方晶窒化ホウ素の製造方法としては、融剤となる無機化合物に窒化ホウ素を溶解させこれを析出させるフラックス法、窒素源として含窒素有機化合物を使用してホウ素を窒化するメラミン法などが知られている。
【0003】
六方晶窒化ホウ素粒子は、結晶c軸方向の熱伝導率が結晶ab軸方向の熱伝導率と比較して著しく小さく、加えて、通常板状結晶であるため、六方晶窒化ホウ素粒子からなる六方晶窒化ホウ素粉末を充填した樹脂組成物は、その成形工程において六方晶窒化ホウ素粒子が配向してしまい、樹脂組成物の向きによって熱伝導率が大きく異なるという、熱伝導異方性の問題があった。
【0004】
この熱伝導異方性は、六方晶窒化ホウ素粒子の長径と厚みの比(長径/厚み)で表わされるアスペクト比を1に近づけることで改善することが可能である。アスペクト比が1に近い肉厚の六方晶窒化ホウ素粒子を得る方法としては、特許文献1では、フラックス法において、窒化ホウ素粉末と炭酸リチウムとを、炭酸リチウムが50モル%となるように混合して、これを加熱する方法が提案されている。この製造方法では、炭酸リチウムの分解蒸発を駆動力とした結晶成長により、c軸方向に成長した肉厚の六方晶窒化ホウ素粒子が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、フラックス法においてリチウムを使用することで肉厚な六方晶窒化ホウ素粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末を得ることは公知である。上記方法に対して、六方晶窒化ホウ素粉末を原料とすることなく、直接肉厚の六方晶窒化ホウ素粉末を製造する方法として、本発明者らは、メラミン法において、原料としてホウ素源と窒素源とリチウムを含む混合粉末を使用する方法を提案した。
【0007】
しかしながら、上記方法において、リチウム化合物の使用は、高価であること、電池用途などで需要が増加しており将来的な供給不安があることなどの問題がある。そのため、肉厚な六方晶窒化ホウ素粒子含む六方晶窒化ホウ素粉末を工業的に生産することを考えると、リチウムの使用量を減らして製造する方法を確立することが求められている。そこで本発明は、少ないリチウム量で肉厚な六方晶窒化ホウ素粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末を製造する製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った。その結果、リチウムの使用量を減らすとアスペクト比が高くなる傾向にあり、肉厚の六方晶窒化ホウ素を得ることはできないこと、また、リチウムと同族のアルカリ金属を使用しても肉厚の六方晶窒化ホウ素が得られないことを確認した。そして、さらに検討を進めたところ、驚くべきことに、前記メラミン法において、原料であるホウ素源と窒素源とリチウムを含む混合粉末の、リチウムの一部をリチウム以外のアルカリ金属に置き換え、リチウムの使用量を減らしても、リチウムを相当量使用したときと同等の低いアスペクト比を有する六方晶窒化ホウ素を製造できるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、窒素原子を含む有機化合物と、上記窒素原子に対するホウ素原子のモル比が0.26以上、0.67以下に調整されたホウ素源とを含み、且つ、リチウム原子が30モル%~100モル%未満の範囲に調整されたアルカリ金属を、前記アルカリ金属原子に対するホウ素原子のモル比が、0.75以上、3.35以下となるように存在せしめた混合粉末を準備する工程、上記混合粉末を最高温度1200℃以上、1500℃以下で加熱する加熱工程を含む、ことを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法である。
【0010】
前記アルカリ金属は、リチウムと、ナトリウムまたはカリウムであることが好ましい。また、本発明の一実施形態は、前記最高温度が、1200℃以上1350℃以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂組成物の熱伝導異方性を小さくすることができる肉厚の六方晶窒化ホウ素粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末を、従来よりも少ないリチウムの使用量で製造することが可能となる。これにより、安価で、原料の供給不安が少ない、肉厚な六方晶窒化ホウ素粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末の製造プロセスを提供することができ、工業的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1で製造した六方晶窒化ホウ素粉末の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【
図2】実施例2で製造した六方晶窒化ホウ素粉末の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【
図3】実施例3で製造した六方晶窒化ホウ素粉末の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【
図4】参考例1で製造した六方晶窒化ホウ素粉末の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【
図5】参考例6で製造した六方晶窒化ホウ素粉末の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【
図6】参考例7で製造した六方晶窒化ホウ素粉末の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(混合粉末を準備する工程)
本発明の混合粉末は、窒素原子を含む有機化合物と、上記窒素原子に対するホウ素原子のモル比が0.26以上、0.67以下に調整されたホウ素源とを含み、且つ、リチウム原子が30モル%~100モル%未満の範囲に調整されたアルカリ金属を、前記アルカリ金属原子に対するホウ素原子のモル比が、0.75以上、3.35以下となるように存在せしめた混合粉末である。
【0014】
本発明の混合粉末に含まれるホウ素源としては、三酸化二ホウ素(酸化ホウ素)、二酸化二ホウ素、三酸化四ホウ素、五酸化四ホウ素、硼砂、または無水硼砂等を例示できる。これらの中でも三酸化二ホウ素を用いることは、安価な原料を使用するので工業的に有益であるとの観点から好ましい。また、硼砂もしくは無水硼砂を用いることは、比較的安価な原料であると共に、反応が略均一に進みやすく製造された六方晶窒化ホウ素粒子の粒径等の変動が抑制されやすいとの観点から好ましい。なお、ホウ素源として、二種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明の混合粉末に含まれる窒素を含む有機化合物としては、メラミン、アンメリン、アンメリド、メラム、メロン、ジシアンジアミド、グアニジン、炭酸グアニジン、および尿素等を例示でき、なかでもメラミン及び尿素を用いることが好ましく、メラミンを用いることが特に好ましい。窒素を含む有機化合物としてメラミンを用いることにより、安価な原料を使用するので工業的に有益である。なお、窒素を含む有機化合物として、二種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明の混合粉末には、アルカリ金属が存在し、且つ前記アルカリ金属は、30モル%~100モル%未満の範囲のリチウムと、リチウム以外のアルカリ金属の双方を含む。アルカリ金属はアルカリ金属塩として混合粉末に添加することが一般的である。アルカリ金属塩は溶融することにより、六方晶窒化ホウ素粒子を成長させるための助剤として作用するフラックスとなる。
【0017】
前記のように混合粉末中のリチウムの配合量を減らすとアスペクト比が大きくなる傾向にあったが、リチウム以外のアルカリ金属を存在せしめることにより、リチウム量を減らしてもアスペクト比の増大を抑制することが可能である。なお、フラックスとしてリチウムを配合せずにリチウム以外のアルカリ金属のみを使用した場合、またはリチウムが少量のみの場合、肉厚な六方晶窒化ホウ素を得ることはできない。
【0018】
アルカリ金属塩は加熱時に溶融してフラックスとして作用すれば特に限定されない。リチウム塩としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、ホウ酸リチウム、およびモリブデン酸リチウム等を例示出来る。これらのなかでも炭酸リチウムを用いた場合、上述のような肉厚の六方晶窒化ホウ素粒子を得やすい傾向があり、好ましい。なお、リチウム塩として、二種以上を併用してもよい。
【0019】
アルカリ金属におけるリチウムの割合が少ない場合、肉厚な六方晶窒化ホウ素粒子が得られにくくなるため、アルカリ金属におけるリチウムの割合は、好ましくは45モル%以上、より好ましくは55モル%以上である。一方、リチウムの割合が多い場合、得られる六方晶窒化ホウ素粉末の物性としては特に問題は無いが、リチウムの使用量を減らすと言う効果が限定的なものとなってしまうため、アルカリ金属におけるリチウムの割合は、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。
【0020】
リチウム以外のアルカリ金属としては、安価で且つ入手が容易なことから、ナトリウムまたはカリウムであることが好ましく、加熱炉体の劣化の原因となるフラックスの過剰な揮発を防止することが容易であることから、ナトリウムであることがより好ましい。なお、リチウム以外のアルカリ金属として、二種以上を併用してもよい。
【0021】
リチウム以外のアルカリ金属塩としては、炭酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩、水酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物などを例示することができる。なお、アルカリ金属のホウ酸塩を添加することで、前記アルカリ金属のホウ酸塩はホウ素源とリチウム以外のアルカリ金属塩を兼ねることができる。
【0022】
本発明の混合粉末における窒素原子に対するホウ素原子のモル比(B/N)は、0.26以上、0.67以下であり、0.32以上、0.45以下であることが好ましい。B/Nが0.26以上であることにより、高い収率を確保することができる。また、B/Nが0.67以下であることにより、窒化に十分な窒素源を確保することができる。なお、加熱工程において加熱する混合粉末における窒素原子は、窒素を含む有機化合物由来であり、加熱工程において加熱する混合粉末におけるホウ素原子は、ホウ素源由来である。
【0023】
本発明の混合粉末におけるアルカリ金属原子に対するホウ素原子のモル比(B/AM)は、0.75以上、3.35以下であり、0.82以上、2.70以下であることが好ましい。B/AMが0.75以上であることにより、熱伝導異方性を改善するために十分肉厚な六方晶窒化ホウ素を得ることができる。また、B/AMが3.35以下であることにより、十分な量のフラックスを形成することができるため、肉厚な六方晶窒化ホウ素粒子を均一に得ることができる。
【0024】
なお、混合粉末には、本発明の効果を阻害しない範囲で、ホウ素源と、窒素を含む有機化合物と、アルカリ金属以外のものを含んでいても良い。
【0025】
混合粉末は、ホウ素源、窒素を含む有機化合物、アルカリ金属等を公知の方法で混合することにより、準備すれば良い。加熱工程前に混合することにより、反応が略均一に進むため、作製された六方晶窒化ホウ素粉末中の六方晶窒化ホウ素粒子の粒子径等の変動が抑制される。
【0026】
(加熱工程)
本発明の加熱工程では、混合粉末を最高温度1200℃以上、1500℃以下で加熱する。1200℃以上の温度で混合粉末を加熱することにより、得られる六方晶窒化ホウ素粒子のアスペクト比が大きくなることを抑制できる。最高温度は、1250℃以上であることがより好ましい。また、1500℃以下の温度で混合粉末を加熱することにより、アルカリ金属の過剰な揮発を防ぐことができるとともに、六方晶窒化ホウ素粒子のアスペクト比が大きくなることを抑制できる。最高温度は1450℃以下であることがより好ましい。
【0027】
また、最高温度を制御することによって、得られる六方晶窒化ホウ素粉末の粒径を制御することが可能である。そのため、例えば最高温度を1350℃以下とすることで、粒径が0.1μm~0.4μm程度の小粒径な六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができ、最高温度を1400℃~1500℃程度とすることで、粒径が0.5μm~2.0μm程度の六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。
【0028】
加熱工程は不活性ガス雰囲気下であって、常圧または減圧環境下において、混合粉末を加熱することが好ましい。上記環境において加熱することにより、加熱炉体の損傷を抑制できる。なお、本明細書において、不活性ガス雰囲気下とは、混合粉末を加熱する容器に不活性ガスを流入させ、当該容器内部の気体を不活性ガスで置換した状態である。不活性ガスの流入量は、特に限定されないが、不活性ガスの流入量が5L/min.以上であってよい。また、不活性ガスは、例えば窒素ガス、炭酸ガスまたはアルゴンガス等であってよい。
【0029】
加熱工程では、当該加熱工程中にガス交換が起こらない反応容器の内部に混合粉末を配置して行うことも、好ましい手法として例示できる。加熱工程において、混合粉末に含まれるホウ素源は六方晶窒化ホウ素の生成反応に使用されるが、一部は加熱により揮発するため六方晶窒化ホウ素の生成反応に使用されない。ここで、加熱工程中にガス交換が起こらない反応容器の内部に混合粉末を配置することにより、混合粉末からのホウ素源の揮発を抑制できる。これにより、六方晶窒化ホウ素の生成反応に使用されるホウ素源の量を増加させることができ、六方晶窒化ホウ素の収率を向上させることができる。
【0030】
なお、本明細書において「ガス交換が起こらない」とは、反応容器内部の気体と反応容器外部の気体とが交換されないことを意味する。なお、加熱工程では、六方晶窒化ホウ素の生成反応の進行、および混合粉末の揮発または分解により反応容器内部で気体が発生する。そのため、意図的に反応容器内部に外部から気体を取り入れなければよく、反応容器内部の気体を完全に反応容器外部に放出されないようにする必要はない。
【0031】
反応容器の構造、大きさ、形状、材質などは特に限定されず、加熱温度または原料などの製造条件を考慮して、十分な耐久性、耐熱性、耐圧性、耐腐食性などを有するように決定され得る。
【0032】
ガス交換が起こらないようにする機構としては、例えば反応容器として蓋付きの反応容器を使用することが挙げられる。蓋付きの反応容器であれば、蓋により外部と区切られているため、反応容器外部からの気体の流入を抑制することができ、ガス交換が起こらない。
【0033】
また、反応容器が完全に密閉されていると、六方晶窒化ホウ素の生成反応の進行、および混合粉末の揮発または分解による気体の発生、または加熱による反応容器内の気体の膨張などにより、容器内部の圧力が高くなる。このような場合、反応容器が破損する虞があったり、反応容器を耐圧構造とするために反応容器の材質および形状に制限が発生したりする。そのため、六方晶窒化ホウ素の収率に大きな影響を与えない範囲で、過剰な反応容器内部の気体を適宜放出させることが好ましい。
【0034】
過剰な反応容器内部の気体を放出する方法としては、例えば、反応容器に圧力調節弁を取り付ける方法、または反応容器に小さな穴を空けておく方法などが挙げられる。また、反応容器が蓋付き容器である場合は、蓋を反応容器上部に配置し、特に固定をせずに乗せ置くことで、内部圧力が低い時は蓋の自重により反応容器は密閉されるが、内部圧力が高くなれば蓋が持ち上げられて、反応容器内部の気体が外部に排出される。そのため、蓋付き容器とすることで簡便にガス交換が起こらないようにしつつ、過剰な反応容器内部の気体を放出することが可能であり、好ましい形態として挙げられる。この場合、単位面積当たりの蓋の重量は、5kg/m2~20kg/m2の範囲であることが好ましい。なお、単位面積当たりの蓋の重量は、蓋の重量を反応容器の内部空間に面する蓋の面積で除した値である。
【0035】
反応容器の形状は特に制限されず、円筒状または方形状など任意の形状を使用可能である。反応容器の形状は、加熱および冷却の繰り返しによる反応容器の破損を防止する観点からは円筒状であることが好ましく、加熱炉内に設置する際にスペースを有効活用して生産効率を向上させる観点からは方形状が好ましい。
【0036】
反応容器の材質は、加熱工程における加熱温度である1200℃以上1500℃以下に耐えられるものであれば特に制限されず、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、マグネシアおよびカルシア、並びにシリカおよびアルミナを主成分とするコージライト、ムライト等の各種セラミックス焼結体が挙げられる。また、反応生成物である六方晶窒化ホウ素の汚染防止の観点からは、反応容器の材質を窒化ホウ素とすることも好ましい態様であり、窒化ホウ素以外の材料で製造した反応容器の内面(混合粉末および生成した六方晶窒化ホウ素が接触する面)を窒化ホウ素で被覆することも好ましい様態として挙げることができる。
【0037】
反応容器の内部に配置する混合粉末の量は特に限定されないが、少なすぎると反応容器内の気相部が多いため、ホウ素源の揮発が十分に抑制されず、収率の向上効果が限定的になってしまう。一方、混合粉末の量が多すぎると、気相部が少ないため反応容器内の圧力が上がりやすくなる。そのため、反応容器内で混合粉末が占める容積は、反応容器の容積の50%~90%の範囲内であることが好ましく、60%~80%であることがさらに好ましい。なお、本明細書において混合粉末が占める容積とは、反応容器に入れた際に混合粉末の粒子間の空隙も含んだ混合粉末が占める部分の容積である。
【0038】
ガス交換が起こらない反応容器の内部に配置した混合粉末を加熱する方法は特に限定されないが、加熱炉中に当該反応容器を設置して所望の温度に加熱することが、簡便に実施できるため好ましい形態である。
【0039】
なお、加熱工程をガス交換が起こらない反応容器の内部に混合粉末を配置して行う場合には、反応容器外の気体を内部に取り入れないため、加熱炉内を不活性ガス雰囲気とする必要はない。そのため、シャトルキルンのような回分式の加熱炉や、トンネルキルンのような連続式の加熱炉も使用することができる。大量生産を考慮した場合には、トンネルキルンのような反応容器を炉内で移動させながら加熱を行うことができる連続式の加熱炉が、生産効率が高く特に好ましい形態である。加熱炉としてシャトルキルンやトンネルキルンを使用する場合には、加熱源は電気ヒーターでもよいが、ブタンガス、灯油等のような燃料を燃焼させて得られる熱風で加熱するのが簡便であり、より好ましい形態である。
【0040】
(その他の工程)
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法では、混合粉末を準備する工程、加熱工程以外の工程を含んでよい。このような工程を本明細書において「その他の工程」と称する。六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法に含まれるその他の工程としては、例えば、酸洗浄工程、水洗浄工程、乾燥工程、および分級工程が挙げられる。
【0041】
酸洗浄工程は、酸を用いて六方晶窒化ホウ素粉末を洗浄することにより、六方晶窒化ホウ素粉末に付着したホウ素源、アルカリ金属塩や、複合酸化物等の反応副生物を除去する工程である。酸洗浄工程では、塩酸等の希酸を用いることが好ましい。酸洗浄方法は特に限定されず、シャワリングによる酸洗浄であってもよく、漬け置きによる酸洗浄、または撹拌による酸洗浄であってもよい。
【0042】
水洗浄工程は、酸洗浄工程で六方晶窒化ホウ素粉末に付着した酸を除去するために、六方晶窒化ホウ素粉末を水洗浄する工程である。水洗浄方法は特に限定されず、六方晶窒化ホウ素粉末を濾別後、シャワリングによる水洗浄であってもよく、漬け置きによる水洗浄であってもよい。
【0043】
乾燥工程は、作製した六方晶窒化ホウ素粉末を乾燥させる工程である。乾燥方法は、高温乾燥、または減圧乾燥など、特に限定されない。
【0044】
分級工程は、六方晶窒化ホウ素粒子を粒子の大きさおよび/または粒子の形状等に応じて分ける工程である。分級操作は、篩分けであってもよく、湿式分級または気流分級であってよい。
【0045】
<六方晶窒化ホウ素粉末>
本発明の製造方法により得られる六方晶窒化ホウ素粉末は、アスペクト比が1.0以上、5.0以下である。アスペクト比がこの範囲にあることは肉厚な六方晶窒化ホウ素粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末であり、熱伝導異方性を小さくすることが可能であることを意味する。なお、本明細書において、六方晶窒化ホウ素粒子は、六方晶窒化ホウ素の単粒子を意味する。上述のように六方晶窒化ホウ素粒子は通常板状粒子であり、本明細書では、この板状粒子の板面において最大となる径を長径とし、この板面に垂直な長さを厚さと称する。そして、この長径を厚さで除した値をアスペクト比と称する。六方晶窒化ホウ素粉末のアスペクト比は、倍率5000倍の走査電子顕微鏡観察像から異なる六方晶窒化ホウ素粒子100個を無作為に選び、各一次粒子の長径の長さ、厚みを測定して得られた各粒子のアスペクト比の平均値である。
【0046】
六方晶窒化ホウ素粉末の粒径は用途に応じて適宜選択すれば良いが、0.1μm~2.0μmの範囲であることが好ましく、0.1μm~0.4μmの範囲であることがより好ましい。粒径が0.1μm以上であることにより、樹脂組成物中の熱伝導パスを十分に形成することができ、熱伝導率の高い樹脂組成物が得られやすい。また、樹脂に充填しやすく、樹脂組成物の取り扱い性が向上する。粒径が2.0μm以下であることにより、樹脂への六方晶窒化ホウ素粉末の充填性が高くなり、取り扱い性が良好で熱伝導率が高い樹脂組成物を得ることが容易となる。また、粒径を0.4μm以下と小粒径とすることにより、薄い樹脂シートに使用することが容易となり、特に好ましい。薄い樹脂シートは、薄く加工するための工程において六方晶窒化ホウ素粒子の配向が発生しやすいため、本発明の肉厚粒子を使用して熱伝導異方性を改善する利点が特に大きい。なお、本発明における六方晶窒化ホウ素粉末の粒径は、倍率5000倍の走査電子顕微鏡観察像から異なる六方晶窒化ホウ素粒子100個を無作為に選び、各粒子の長径の長さを測定して算出された平均値である。
【0047】
六方晶窒化ホウ素粉末は、比表面積が1.5m2/g以上、12.0m2/g以下であることが好ましく、1.8m2/g以上、11.0m2/g以下であることがより好ましく、2.0m2/g以上、10.0m2/g以下であることがさらに好ましい。また、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積が1.5m2/g以上であることは、小粒径な六方晶窒化ホウ素粒子が多いことを表す。その結果、樹脂への六方晶窒化ホウ素粉末の充填性を高めることが容易となるとともに、薄い樹脂シートに使用することが容易となる。また、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積が、12.0m2/g以下であることは、六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる微粉の含有量が少なく、肉厚の六方晶窒化ホウ素粒子が多いことを表す。微粉の含有量が少なければ六方晶窒化ホウ素粉末を樹脂に混練する際、樹脂組成物の粘度の上昇が抑制される。このため、六方晶窒化ホウ素粉末を樹脂へ充填しやすく、樹脂組成物の取り扱い性が向上する。なお、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、BET比表面積計で測定することができる。
【0048】
<樹脂組成物>
本発明の製造方法によって製造された六方晶窒化ホウ素粉末は、樹脂組成物に配合して放熱フィラーとして使用することができる。
【0049】
樹脂組成物に使用される樹脂は、特に制限されず、例えばシリコーン系樹脂またはエポキシ系樹脂であってよい。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型の水素添加エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ポリテトラメチレングリコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂、およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物型のエポキシ樹脂等が挙げられる。これらエポキシ樹脂の1種を単独で、あるいは、2種以上を混合して使用してもよい。また、硬化剤としてアミン系樹脂、酸無水物系樹脂、フェノール系樹脂、イミダゾール類等を用いてもよい。これら硬化剤も1種を単独で、あるいは、2種以上を混合して使用してもよい。これら、硬化剤のエポキシ樹脂に対する配合量は、エポキシ樹脂に対する当量比で、0.5~1.5当量比、好ましくは0.7~1.3当量比である。本明細書において、これらの硬化剤も樹脂に包含される。
【0050】
また、シリコーン系樹脂としては、付加反応型シリコーン樹脂とシリコーン系架橋剤との混合物である公知の硬化性シリコーン樹脂を制限なく使用することができる。付加反応型シリコーン樹脂としては、例えば、分子中にビニル基またはヘキセニル基等のアルケニル基を官能基としてもつポリジメチルシロキサン等のポリオルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系架橋剤としては、例えば、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキサン基末端封鎖ポリ(メチルハイドロジェンシロキサン)、ポリ(ハイドロジェンシルセスキオキサン)等のケイ素原子結合水素原子を有するポリオルガノシロキサン等が挙げられる。また、硬化触媒には、シリコーン樹脂の硬化に用いられる公知の白金系触媒等を制限なく使用することができる。例えば、微粒子状白金、炭素粉末に担持した微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウム、ロジウム触媒等が挙げられる。
【0051】
樹脂組成物における樹脂と六方晶窒化ホウ素粉末との配合比は、用途に応じて適宜決定すればよく、例えば、全樹脂組成物中に上述の六方晶窒化ホウ素粉末を好ましくは30~90体積%、より好ましくは40~80体積%、さらに好ましくは50~70体積%配合することができる。
【0052】
樹脂組成物は、六方晶窒化ホウ素および樹脂以外の成分を含んでいてもよい。例えば、樹脂組成物は前記六方晶窒化ホウ素粉末の一部を無機フィラーに置き換えてもよい。無機フィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭化ケイ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク等が挙げられる。さらに、樹脂組成物は、硬化促進剤、変色防止剤、界面活性剤、分散剤、カップリング剤、着色剤、可塑剤、粘度調整剤、抗菌剤などを適宜含んでいてもよい。
【0053】
樹脂組成物の用途は、例えば、接着フィルム、プリプレグ等のシート状積層材料(樹脂シート)、回路基板(積層板用途、多層プリント配線板用途)、ソルダーレジスト、アンダ-フィル材、熱接着剤、ダイボンディング材、半導体封止材、穴埋め樹脂、部品埋め込み樹脂、熱インターフェース材(シート、ゲル、グリース等)、パワーモジュール用基板、電子部品用放熱部材等を挙げることができる。
【0054】
本発明の製造方法で製造された六方晶窒化ホウ素粉末は、特に樹脂シートに配合されることが特に好ましい形態である。樹脂シートは、上述の樹脂組成物から形成されたシートであり、シート状に成形する際に六方晶窒化ホウ素が配向しやすく、熱伝導異方性が特に問題となりやすい形態であり、本発明の製造方法によって製造された、熱伝導異方性を改善可能である肉厚な六方晶窒化ホウ素を配合する利点が大きい。樹脂シートの厚さは用途に応じて適宜設定でき、例えば、10~200μmであってもよく、10~100μmであってもよく、10~50μmであってもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。各試験方法は以下のとおりである。
【0056】
<六方晶窒化ホウ素粉末の粒径・アスペクト比の測定>
六方晶窒化ホウ素粉末の粒径およびアスペクト比はFE-SEM(日立ハイテクノロジーズ株式会社製:S5500)を用いて測定した。倍率5000倍の走査電子顕微鏡観察像から異なる六方晶窒化ホウ素粒子100個を無作為に選び、六方晶窒化ホウ素粒子の長径の長さ、厚みを測定してそれぞれのアスペクト比(長径の長さ/厚みの長さ)を算出し、その平均値をアスペクト比とした。また、粒径は、測定された長径の値の平均値を算出して求めた。
【0057】
<六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積の測定>
六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、BET比表面積計(マウンテック社製:Macsorb HM model-1201)を使用して測定した。
【0058】
<実施例1>
ホウ素源として酸化ホウ素0.20モル、窒素を含む有機化合物としてメラミン0.20モル、リチウム塩として炭酸リチウム0.06モル、リチウム以外のアルカリ金属塩として炭酸ナトリウム0.06モルを混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは0.33、B/AMは1.67、アルカリ金属におけるリチウムの割合は50モル%であった。
【0059】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1400℃にて1時間加熱することにより六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。作製した六方晶窒化ホウ素粉末を5%塩酸水溶液で酸洗浄した後、濾別、水洗浄、および乾燥させた。
【0060】
得られた六方晶窒化ホウ素粉末の粒径、アスペクト比、比表面積を測定した。製造条件および評価結果を表1に示す。
図1には、走査型電子顕微鏡画像として、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図を示す。
【0061】
<実施例2>
ホウ素源兼リチウム以外のアルカリ金属塩として硼砂0.20モル、窒素を含む有機化合物としてメラミン0.40モル、リチウム塩として炭酸リチウム0.26モルを混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは0.33、B/AMは0.87、アルカリ金属におけるリチウムの割合は58モル%であった。
【0062】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1400℃にて1時間加熱することにより六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。作製した六方晶窒化ホウ素粉末を5%塩酸水溶液で酸洗浄した後、濾別、水洗浄、および乾燥させた。
【0063】
得られた六方晶窒化ホウ素粉末の粒径、アスペクト比、比表面積を測定した。製造条件および評価結果を表1に示す。
図2には、走査型電子顕微鏡画像として、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図を示す。
【0064】
<実施例3>
加熱工程における最高温度を1300℃とした以外は、実施例2と同様に六方晶窒化ホウ素粉末を製造し、粒径、アスペクト比、比表面積の測定を行った。製造条件および評価結果を表1に示す。
図3には、走査型電子顕微鏡画像として、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図を示す。
【0065】
<実施例4>
ホウ素源として酸化ホウ素0.20モル、ホウ素源兼リチウム以外のアルカリ金属塩として硼砂0.06モル、窒素を含む有機化合物としてメラミン0.20モル、リチウム塩として炭酸リチウム0.06モルを混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは0.53、B/AMは2.67、アルカリ金属におけるリチウムの割合は50モル%であった。
【0066】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1400℃にて1時間加熱することにより六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。作製した六方晶窒化ホウ素粉末を5%塩酸水溶液で酸洗浄した後、濾別、水洗浄、および乾燥させた。
【0067】
得られた六方晶窒化ホウ素粉末の粒径、アスペクト比、比表面積を測定した。製造条件および評価結果を表1に示す。
【0068】
<実施例5>
リチウム以外のアルカリ金属塩として炭酸カリウムを使用した以外は実施例1と同様に六方晶窒化ホウ素粉末を製造し、粒径、アスペクト比、比表面積の測定を行った。製造条件および評価結果を表1に示す。
【0069】
<実施例6>
ホウ素源としてホウ酸0.40モルを使用した以外は実施例1と同様に六方晶窒化ホウ素粉末を製造し、粒径、アスペクト比、比表面積の測定を行った。製造条件および評価結果を表1に示す。
【0070】
<参考例1>
ホウ素源として酸化ホウ素0.20モル、窒素を含む有機化合物としてメラミン0.20モル、リチウム塩として炭酸リチウム0.12モルを混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは0.33、B/AMは1.67、アルカリ金属におけるリチウムの割合は100モル%であった。これは、実施例1および5と、B/AMが同一で、且つリチウム以外のアルカリ金属を含まない例である。
【0071】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1400℃にて1時間加熱することにより六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。作製した六方晶窒化ホウ素粉末を5%塩酸水溶液で酸洗浄した後、濾別、水洗浄、および乾燥させた。
【0072】
得られた六方晶窒化ホウ素粉末の粒径、アスペクト比、比表面積を測定した。製造条件および評価結果を表1に示す。
図4には、走査型電子顕微鏡画像として、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図を示す。
【0073】
<参考例2>
ホウ素源として酸化ホウ素0.20モル、窒素を含む有機化合物としてメラミン0.20モル、リチウム塩として炭酸リチウム0.23モルを混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは0.33、B/AMは0.87、アルカリ金属におけるリチウムの割合は100モル%であった。これは、実施例2と、B/AMが同一で、且つリチウム以外のアルカリ金属を含まない例である。
【0074】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1400℃にて1時間加熱することにより六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。作製した六方晶窒化ホウ素粉末を5%塩酸水溶液で酸洗浄した後、濾別、水洗浄、および乾燥させた。
【0075】
得られた六方晶窒化ホウ素粉末の粒径、アスペクト比、比表面積を測定した。製造条件および評価結果を表1に示す。
【0076】
<参考例3>
加熱工程における最高温度を1300℃とした以外は、参考例2と同様に六方晶窒化ホウ素粉末を製造し、粒径、アスペクト比、比表面積の測定を行った。これは、実施例3と、B/AMが同一で、且つリチウム以外のアルカリ金属を含まない例である。製造条件および評価結果を表1に示す。
【0077】
<参考例4>
ホウ素源として酸化ホウ素0.19モル、窒素を含む有機化合物としてメラミン0.12モル、リチウム塩として炭酸リチウム0.07モルを混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは0.53、B/AMは2.71、アルカリ金属におけるリチウムの割合は100モル%であった。これは、実施例4と、B/AMがほぼ同一で、且つリチウム以外のアルカリ金属を含まない例である。
【0078】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1400℃にて1時間加熱することにより六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。作製した六方晶窒化ホウ素粉末を5%塩酸水溶液で酸洗浄した後、濾別、水洗浄、および乾燥させた。
【0079】
得られた六方晶窒化ホウ素粉末の粒径、アスペクト比、比表面積を測定した。製造条件および評価結果を表1に示す。
【0080】
<参考例5>
ホウ素源としてホウ酸0.40モルを使用した以外は参考例1と同様に六方晶窒化ホウ素粉末を製造し、粒径、アスペクト比、比表面積の測定を行った。これは、実施例6と、B/AMが同一で、且つリチウム以外のアルカリ金属を含まない例である。製造条件および評価結果を表1に示す。
【0081】
<参考例6>
ホウ素源として酸化ホウ素0.20モル、窒素を含む有機化合物としてメラミン0.20モル、リチウム塩として炭酸リチウム0.06モルを混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは0.33、B/AMは3.33、アルカリ金属におけるリチウムの割合は100モル%であった。これは、実施例1および5と、ホウ素に対するリチウム量が同一で、且つリチウム以外のアルカリ金属を含まない例であり、参考例1からリチウム使用量を単に減少させた製造方法に相当する。
【0082】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1400℃にて1時間加熱することにより六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。作製した六方晶窒化ホウ素粉末を5%塩酸水溶液で酸洗浄した後、濾別、水洗浄、および乾燥させた。
【0083】
得られた六方晶窒化ホウ素粉末の粒径、アスペクト比、比表面積を測定した。製造条件および評価結果を表1に示す。
図5には、走査型電子顕微鏡画像として、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図を示す。
【0084】
<参考例7>
ホウ素源として酸化ホウ素0.20モル、窒素を含む有機化合物としてメラミン0.20モル、リチウム以外のアルカリ金属塩として炭酸ナトリウム0.12モルを混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは、0.33、B/AMは1.67であった。これは、実施例1および5とB/AMが同一で、且つリチウムを含まない例である。
【0085】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1400℃にて1時間加熱することにより六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。作製した六方晶窒化ホウ素粉末を5%塩酸水溶液で酸洗浄した後、濾別、水洗浄、および乾燥させた。
【0086】
得られた六方晶窒化ホウ素粉末の粒径、アスペクト比、比表面積を測定した。製造条件および評価結果を表1に示す。
図6には、走査型電子顕微鏡画像として、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図を示す。
【0087】
【0088】
実施例1~6では、アスペクト比が1.0~5.0の範囲である肉厚な六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができた。アルカリ金属におけるリチウム原子が30モル%~100モル%未満の範囲に調整された混合粉末を使用した実施例1および5は、B/AMが同一でアルカリ金属におけるリチウムの割合が100%である参考例1と比較すると、リチウム塩の使用量を減らしつつ、同等のアスペクト比を有する六方晶窒化ホウ素粉末が得られた。実施例2と参考例2、実施例3と参考例3、実施例4と参考例4、実施例6と参考例5の比較からも、同様のことが言える。一方、混合粉末中のホウ素原子に対するリチウム量を実施例1および5と同量としつつリチウム以外のアルカリ金属が存在しない参考例6や、リチウムを使用せずにリチウム以外のアルカリ金属のみを使用した参考例7では、肉厚な六方晶窒化ホウ素を得ることはできなかった。このことから、原料となる混合粉末を、ホウ素源と、窒素を含む有機化合物とを含み、且つ、アルカリ金属原子を存在せしめ、前記アルカリ金属はリチウムが30モル%~100モル%未満の範囲でとすることにより、より少ないリチウム量でもリチウム量が多い場合と同様に肉厚な六方晶窒化ホウ素を製造することが示された。
【0089】
また、加熱時の最高温度が異なる実施例2と3を比較すると、加熱工程における最高温度が1200℃~1350℃の範囲にある実施例3で得られた六方晶窒化ホウ素は、加熱工程における最高温度が1350℃を超える実施例2で得られた六方晶窒化ホウ素と比較して粒径が小さく、小粒径の六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができた。