(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】含窒素多環式化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 213/53 20060101AFI20220105BHJP
C01B 32/182 20170101ALI20220105BHJP
B01J 31/02 20060101ALI20220105BHJP
B01J 31/06 20060101ALI20220105BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20220105BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220105BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20220105BHJP
C07D 471/22 20060101ALI20220105BHJP
C08G 61/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C07D213/53 CSP
C01B32/182
B01J31/02 102M
B01J31/06 M
B01J27/24 M
B01J37/08
C01B32/194
C07D471/22
C08G61/00
(21)【出願番号】P 2017178162
(22)【出願日】2017-09-15
【審査請求日】2020-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 高史
(72)【発明者】
【氏名】小野田 晃
(72)【発明者】
【氏名】松元 香樹
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
(72)【発明者】
【氏名】北野 友之
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0046975(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第104326971(CN,A)
【文献】特開2017-127863(JP,A)
【文献】特開2014-188397(JP,A)
【文献】特表2015-525186(JP,A)
【文献】特開2019-052117(JP,A)
【文献】Advanced Functional Materials,2016年,26(13),2150-2162
【文献】Science,2009年,324,71-74
【文献】Journal of Physical Chemistry C,2015年,119 (1),775-783
【文献】Chemical Communications,2014年,50 (32),4172-4174
【文献】Nature Communications,2014年,3189
【文献】Nature,2010年,466 (22),470-473
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を含む構成単位を有することを特徴とする含窒素多環式化合物。
【化1】
(式中、X
1及びX
2は、それぞれ
、ハロゲン原子、OTf基、OTs基、又は、該構成単位中の一般式(1)で表される構造以外の別の構造若しくは他の構成単位との結合部位を表し、Tfは、トリフルオロメチルスルホニル基を表し、Tsは、トシル基を表す。Y
1、Y
2、Y
7、及び、Y
8は、それぞれ、水素原子と結合した炭素原子、又は、該構成単位中の一般式(1)で表される構造以外の別の構造若しくは他の構成単位と結合した炭素原子を表す。Y
3及びY
4、Y
5及びY
6は、それぞれ、一方が窒素原子を表し、他方が水素原子と結合した炭素原子を表す。点線は、結合が形成されていてもよく、形成されていなくてもよいことを表す。)
【請求項2】
請求項
1に記載の含窒素多環式化合物の焼成体。
【請求項3】
請求項
1に記載の含窒素多環式化合物、又は、請求項
2に記載の焼成体を含んで構成されることを特徴とする酸素還元触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含窒素多環式化合物に関する。より詳しくは、酸素還元触媒として好適に用いることができる含窒素多環式化合物、その焼成体、及び、含窒素多環式化合物又は焼成体を含んで構成される酸素還元触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンナノリボン(GNR)は、sp2結合で結合した炭素原子が平面上に並んだグラフェン様の構造をもつが、2次元的な平面状ではなく、リボンのような直線型やアームチェア型等の形状を有する。GNRは、その特異な構造や物性のために数多くの研究がなされ、種々の用途に用いられることが期待されている。例えばGNRには、平面状のグラフェンと異なり、短軸方向が有限であるため、バンドギャップが存在することから、半導体として用いることが期待されている。
【0003】
このようなGNRの合成方法は大きく分けて2つある。1つ目がカーボンナノチューブを軸方向に開く方法であり、例えばカーボンナノチューブを酸化剤により開環する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。2つ目が有機合成の手法を用いる方法である。有機合成の手法を用いる方法にも、前駆体までは有機合成の手法を用いて得、前駆体のGNR化は熱的(物理的)作用を利用するものと、GNRまで全て有機合成の手法を用いて得るものとがある。前者としては、例えば、前駆体となるブロモ体までは有機合成の手法を用いて合成し、ポリマー化及びGNR化は基板上での加熱で行って直線型GNR及びアームチェア型GNRを得、走査型トンネル顕微鏡を用いて同定したものが開示されている(例えば、非特許文献2参照)。後者としては、例えば、アームチェア型含窒素GNRを有機合成の手法により得たものが開示されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
ところで、含窒素ナノカーボン材料と鉄等の金属とを混ぜて、酸素還元触媒として利用する例が開示されている(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Dmitry V. Kosynkin, 他6名, Nature 458, 872-876 (2009)
【文献】Jinming Cai, 他11名, Nature 466, 470-473 (2010)
【文献】Timothy H. Vo, 他6名, Chem. Commun., 2014, 50, 4172-4174
【文献】Zimmermann G, 他2名, Top Curr. Chem., 1976, 61, 133-181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、GNRを種々の用途に用いることが検討されているが、GNRは幅の長さが異なるもの、直線型のものやアームチェア型のもの、他の元素をドープしたもの等、種々の構造のものが考えられ、まだ充分に検討が進んでいるとはいえず、更なるGNRを開発する余地がある。新たな構造のGNRを開発することは、今後の様々な用途への展開を検討するうえでも好ましい。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、新規なGNRを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、新規なGNRについて種々検討し、含窒素GNRであって、窒素の位置が特定された含窒素多環式化合物を合成した。本発明者らは、この含窒素多環式化合物を焼成・金属担持させたものが酸素還元反応活性に優れ、酸素還元触媒の原料として有用であることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される構造を含む構成単位を有することを特徴とする含窒素多環式化合物である。
【0010】
【0011】
(式中、X1及びX2は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、OTf基、OTs基、又は、該構成単位中の一般式(1)で表される構造以外の別の構造若しくは他の構成単位との結合部位を表し、Tfは、トリフルオロメチルスルホニル基を表し、Tsは、トシル基を表す。Y1、Y2、Y7、及び、Y8は、それぞれ、水素原子と結合した炭素原子、又は、該構成単位中の一般式(1)で表される構造以外の別の構造若しくは他の構成単位と結合した炭素原子を表す。Y3及びY4、Y5及びY6は、それぞれ、一方が窒素原子を表し、他方が水素原子と結合した炭素原子を表す。点線は、結合が形成されていてもよく、形成されていなくてもよいことを表す。)
以下に本発明を詳述する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の含窒素多環式化合物は、上述の構成よりなり、本発明の含窒素多環式化合物を用いた高活性の酸素還元触媒を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の含窒素多環式化合物についてMALDI-TOFMSを測定した結果を示す。
【
図2】本発明の含窒素多環式化合物及び焼成体についてICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)及び元素分析を測定した結果を示す。
【
図3】本発明の含窒素多環式化合物について熱重量測定を行った結果を示す。
【
図4】本発明の含窒素多環式化合物についてX線光電子分光法を行った結果を示す。
【
図5】本発明の焼成体についてX線光電子分光法を行った結果を示す。
【
図6】本発明の焼成体についてX線吸収微細構造を解析した結果を示す。
【
図7】本発明の焼成体についてX線吸収微細構造を解析した結果を示す。
【
図8】本発明の焼成体についての酸素還元反応活性を示す。
【
図9】本発明の焼成体及び比較例の焼成体についての酸素還元反応活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0015】
<含窒素多環式化合物>
本発明の含窒素多環式化合物は、上記一般式(1)で表される構造を含む構成単位を有する。本発明の含窒素多環式化合物が上記一般式(1)で表される構造を含む構成単位を有するとは、上記構成単位が、上記一般式(1)で表される構造であってもよく、上記一般式(1)で表される構造に、一般式(1)で表される構造以外の別の構造が付加したものであってもよい。
上記一般式(1)で表される構造以外の別の構造は、上記一般式(1)で表される構造に結合している原子又は原子団であって、上記一般式(1)で表される構造とともに上記構成単位を構成する。上記一般式(1)で表される構造に結合している原子又は原子団としては、平面上に並んだ構造を構成するsp2結合で結合した炭素原子が好ましいが、窒素、酸素、硫黄、ケイ素、リン等の異種元素がドープされていても構わない。
【0016】
本発明の含窒素多環式化合物が有する上記構成単位の数は、1個であってもよく、2個以上が連結したものであってもよい。すなわち、本発明の含窒素多環式化合物は、含窒素GNRであってもよく、含窒素GNRの原料であるモノマー又はポリマーであってもよい。
本発明の含窒素多環式化合物は、GNR化により共役系を自在に伸ばすことができ、これにより、導電経路を広げることができ、酸素還元反応活性をより優れたものとすることができると考えられる。また、GNRやその原料であるモノマー又はポリマーは、そのエッジが基本的にいわゆるアームチェアエッジから構成されており、酸素に対して安定である。
【0017】
上記一般式(1)中、Y3及びY4、Y5及びY6は、それぞれ、一方が窒素原子を表し、他方が水素原子と結合した炭素原子を表す。なお、言い換えると、Y3及びY4の一方が窒素原子を表し、他方が水素原子と結合した炭素原子を表すとともに、Y5及びY6の一方が窒素原子を表し、他方が水素原子と結合した炭素原子を表す。
中でも、Y3及びY6がそれぞれ水素原子と結合した炭素原子を表し、Y4及びY5がそれぞれ窒素原子を表すことが好ましい。これにより、金属元素をキレート化することが可能となり、酸素還元触媒において酸素還元反応活性がより優れたものとなる。
なお、上記一般式(1)中の少なくとも上側3つの点線に結合を形成して本発明の含窒素多環式化合物を得た場合、構成単位間でY3及びY4、Y5及びY6が逆転したモノマーの混合物やポリマー等が得られるときがある。このような形態も、構成単位の一部が、Y3及びY6がそれぞれ水素原子と結合した炭素原子を表し、Y4及びY5がそれぞれ窒素原子を表す構成単位であるため、本発明における好ましい形態の1つである。
【0018】
上記一般式(1)中、X1及びX2が表すハロゲン原子は、塩素原子又は臭素原子であることが好ましく、臭素原子であることがより好ましい。
【0019】
上記一般式(1)中、X1及びX2は、それぞれ、上記構成単位中の一般式(1)で表される構造以外の別の構造若しくは他の構成単位との結合部位を表し、Y1、Y2、Y7、及び、Y8は、それぞれ、上記構成単位中の一般式(1)で表される構造以外の別の構造若しくは他の構成単位と結合した炭素原子を表すことが本発明における好ましい形態の1つである。これにより、含窒素多環式化合物はアームチェア型の含窒素GNRとなる。
【0020】
本発明の含窒素多環式化合物が含窒素GNRの原料であるモノマーである場合、該モノマーとしては、例えば、下記一般式(2)で表されるものが好適なものとして挙げられる。
【0021】
【0022】
上記一般式(2)中、X1及びX2は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、OTf基、OTs基、アルキル基、又は、アリール基を表し、Tfは、トリフルオロメチルスルホニル基を表し、Tsは、トシル基を表す。Y3及びY4、Y5及びY6は、それぞれ、一方が窒素原子を表し、他方が水素原子と結合した炭素原子を表す。点線は、結合が形成されていてもよく、形成されていなくてもよいことを表す。
【0023】
X1及びX2がハロゲン原子、OTf基、又は、OTs基等の脱離基である場合、これらに対し、鈴木カップリング、根岸カップリング、スティルカップリング等の反応でアルキル基やアリール基を導入することも可能である。これらの形態もまた、本発明の好適な形態である。
【0024】
本発明の含窒素多環式化合物が含窒素GNRの原料であるポリマーである場合、該ポリマーとしては、例えば、下記一般式(3)で表されるものが好適なものとして挙げられる。
【0025】
【0026】
上記一般式(3)中、X1及びX2は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、OTf基、OTs基、アルキル基、又は、アリール基を表し、Tfは、トリフルオロメチルスルホニル基を表し、Tsは、トシル基を表す。Y3及びY4、Y5及びY6は、それぞれ、一方が窒素原子を表し、他方が水素原子と結合した炭素原子を表す。点線は、結合が形成されていてもよく、形成されていなくてもよいことを表す。nは、1以上の数であり、通常は1000以下である。
【0027】
X1及びX2がハロゲン原子、OTf基、又は、OTs基等の脱離基である場合、これらに対し、鈴木カップリング、根岸カップリング、スティルカップリング等の反応でアルキル基やアリール基を導入することも可能である。これらの官能基を導入することで、末端官能基の物性への影響を小さくすることができる。これらの形態もまた、本発明の好適な形態である。
【0028】
本発明の含窒素多環式化合物が含窒素GNRである場合、含窒素GNRは、アームチェア型であることが好ましく、例えば、下記一般式(4)で表される骨格を有する含窒素GNRであることが好ましい。
【0029】
【0030】
上記一般式(4)中、Y3及びY4、Y5及びY6は、それぞれ、式(3)において上述したものと同様である。nは、1以上の数であり、通常は1000以下である。
なお、本明細書中、上記一般式(4)で表される骨格を有する含窒素GNRを、下記一般式(5)で簡略化して表すことがある。
【0031】
【0032】
上記一般式(5)中、nは、1以上の数であり、通常は1000以下である。
なお、上述した含窒素GNRやその原料モノマー、原料ポリマーは、例えば、下記反応式で表される反応を用いて得ることができる。
【0033】
【0034】
上記反応式中、Xは、水素原子又はハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、例えば臭素原子であることが好ましい。得られた生成物は、含窒素GNRの原料モノマーであり、そのうちXが水素原子を表すものは、本明細書中、PPyTP(1,4-diPhenyl-2,3-diPyridylTriPhenylene)とも言う。
【0035】
【0036】
上記反応式中、Xは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、例えば臭素原子であることが好ましい。Y3及びY4の一方が窒素原子を表し、他方が水素原子と結合した炭素原子を表す。Y5及びY6の一方が窒素原子を表し、他方が水素原子と結合した炭素原子を表す。n及びpは、それぞれ、1以上の数であり、通常は1000以下である。[PPyTP]nは、含窒素GNRの原料ポリマーであり、BPy-GNRは、含窒素GNRである。
上記反応式で表される反応において、反応温度、反応時間は、適宜設定することができる。
【0037】
本発明の含窒素多環式化合物は、更に、上記構成単位に担持された、周期表の第7~11族に属する金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有することが好ましい。なお、このように金属元素が担持された含窒素多環式化合物を金属複合体と言うこともできる。これにより、酸素還元触媒としての酸素還元反応活性をより優れたものとすることができる。該元素は、原子の状態であってもよく、カチオンであってもよい。また、クラスターや粒子の形態であっても構わない。
周期表の第7~11族に属する金属元素の中でも、第8~11族に属する金属元素が好ましく、Fe、Co、Ni、Cuがより好ましい。
また上述した一般式(1)で表される構造中の窒素原子に金属元素が配位していることが好ましく、中でも、式(1)中のY4及びY5がそれぞれ窒素原子を表し、該窒素原子に金属元素が配位していることがより好ましい。これにより、金属元素がキレートされて安定化するとともに、本発明の効果がより顕著なものとなる。
窒素原子に金属元素が配位していることは、X線光電子分光法、広域X線吸収微細構造解析法(EXAFS法)を用いる実施例の方法で測定することができる。
【0038】
金属元素の含有量は、本発明の含窒素多環式化合物100質量%中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましい。また、該含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。
金属元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES法)により実施例の方法で測定することができる。
【0039】
上述した含窒素GNRやその原料モノマー、原料ポリマーと、金属元素を有する化合物とを混合し、加熱等することで、上記構成単位に担持された、上記金属元素を有する本発明の含窒素多環式化合物を得ることができる。金属担持における加熱の温度・時間等の好ましい条件は、後述する焼成における好ましい条件と同様である。また、後述するように、金属担持と焼成とを同時に行っても構わない。
混合に用いる金属元素を有する化合物としては、例えば、金属元素のハロゲン化物等が好ましい。
【0040】
(焼成体)
本発明は、本発明の含窒素多環式化合物の焼成体でもある。
本発明の焼成体は、本発明の含窒素多環式化合物である、含窒素GNR、その原料モノマー若しくは原料ポリマー、又は、これらの金属担持体(金属複合体)を焼成して得られるものであり、中でも、炭素材料とともに焼成して得られるものであることが好ましい。本明細書中、本発明の含窒素多環式化合物を炭素材料とともに焼成することを炭素化とも言う。
なお、金属元素を担持させ、かつ炭素化した本発明の焼成体を得るうえで、金属元素を担持させることと炭素化とは同時であってもよく、同時でなくてもよい。金属元素を担持させることと炭素化とが同時でない場合、その前後は特に限定されず、金属元素を担持させた後に炭素化を行ってもよく、炭素化の後に金属元素を担持させてもよい。
中でも、簡便性の観点から、金属元素を担持させることと炭素化とは同時であることが特に好ましい。すなわち、上述した含窒素GNR、又は、その原料モノマー若しくは原料ポリマーを、炭素材料及び金属元素を有する化合物とともに焼成することが特に好ましい。
本発明の含窒素多環式化合物、焼成体は、上記金属元素を担持させることにより、酸素還元触媒としての活性がより優れたものとなる。
【0041】
炭素材料としては、特に限定されないが、活性炭、カーボンブラック等を用いることができ、例えばVulcan XC-72R(キャボット社製)等の導電性カーボンブラックを好適に用いることができる。
炭素材料の使用量は、例えば、本発明の含窒素多環式化合物100質量%に対し、1~1000質量%であることが好ましく、5~500質量%であることがより好ましく、10~300質量%であることが更に好ましく、30~200質量%であることが特に好ましい。
【0042】
焼成温度としては、例えば200~3000℃が好ましく、350~2500℃がより好ましく、500~2000℃が更に好ましい。
焼成時間としては、例えば10分~24時間が好ましく、30分~18時間がより好ましく、2~12時間が更に好ましい。
焼成は、例えば空気中、又は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行うことができる。また、焼成における圧力条件は特に限定されず、加圧条件下、常圧条件下、減圧条件下で行うことができる。
なお、焼成前に、焼成温度以下の温度で適宜予備焼成を行ってもよい。焼成後は、酸洗や水洗、乾燥等を適宜行うことができる。
【0043】
(酸素還元触媒)
本発明は、本発明の含窒素多環式化合物、又は、本発明の焼成体を含んで構成される酸素還元触媒でもある。
【0044】
本発明の酸素還元触媒は、本発明の含窒素多環式化合物、又は、本発明の焼成体以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の含有割合は、本発明の酸素還元触媒100質量%中、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。また、その他の成分を実質的に含有しないことが特に好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
なお、CODは、1,5-シクロオクタジエンを意味する。
【0046】
下記実施例及び比較例においては、次のようにして分析し、評価を行った。
<MALDI-TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法)による測定方法>
サンプルとマトリックス(ジスラノール)をそれぞれTHF(テトラヒドロフラン)に溶解し、混合した。混合溶液をプレートに滴下し乾燥させ、Bruker autoflex III(Bruker社製)を用いて測定を行った。
【0047】
<誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES法)>
サンプル(約0.5mg)を、濃硝酸(1ml)中に分散し、105℃で3時間加熱した。加熱終了後、40℃まで放冷した後、過酸化水素を2滴加えた。超純水(2ml)を加えたのち、濾過により炭素材料を除去、金属を含む測定試料溶液を得た。S試料溶液を25mLにメスアップし、SHIMADZU ICPS-8100(株式会社島津製作所製)を用いて、検量線法により鉄の含有量を評価した。測定は各試料に対して3回行い、平均値を鉄の質量濃度として示した。
【0048】
<元素分析法>
vario EL cube CHNS(elementer社製)を用いてCHNの質量濃度を測定した。
<熱重量測定>
ThermoPlusEVOII(株式会社リガク製)を用いて窒素気流下、昇温速度10℃/minの条件で行った。
<X線光電子分光法>
SHIMADZU KRAROSAXIS-165x(株式会社島津製作所製)を用いてX線源Mg-Kα、パスエネルギー40kVの条件下で行った。
【0049】
<X線吸収端近傍構造解析法(XANES法)>
金属含有量は1-5wt%程度、また、金属成分以外は全てCHNOの軽元素であるため全て厚み計算したペレットを作製し、室温大気下の通常の透過法で測定した。測定データは、Fe-K吸収端付近のXFSデータ(pre-edgeピーク強度、吸収端の位置、White Line強度、EXAFS振動,測定範囲:6800~8200eV。SAGA-LS BL12にて測定を実施した。
【0050】
<広域X線吸収微細構造解析法(EXAFS法)>
金属含有量は1-5wt%程度、また、金属成分以外は全てCHNOの軽元素であるため全て厚み計算したペレットを作製し、室温大気下の通常の透過法で測定した。測定データは、Fe-K吸収端付近のXFSデータ(EXAFS振動,測定範囲:6800~8200eV。SAGA-LS BL12にて測定を実施した。
【0051】
<酸素還元反応活性の測定>
カーボン触媒(4mg)と5wt%Nafion(登録商標)溶液(100μl)を撹拌混合した後に、30分間、氷浴下でソニケーションを行い、カーボン触媒分散液を得た。回転リングディスク電極には、グラッシーカーボン(直径5.0mm)及び白金リングホルダー(Pt純度99.99%、ID6.5mm、OD7.5mm)を使用した。研磨したディスク電極上にカーボン触媒分散液(10μl)をゆっくりと滴下し、Nafion溶液を入れた容器とあわせて、ガラス容器を被せて静置し、乾燥させた。作用極に上述で調製した触媒担持電極、対極に白金メッシュ、参照電極に銀塩化銀電極(+0.199V vsNHE)を用いた。回転リングディスク電極(RRDE)を用い、酸素飽和HClO4溶液(pH1)、25℃、電極回転速度2000rpm、回収効率26%、リング電極の電位Ering=1.2Vの条件下で測定した。測定は酸素飽和の電解液中、ディスク電極の電位を1.0~0.0V(vs RHE)の電位範囲で負から正方向に5mV/sの速度で掃引した。窒素飽和条件における測定結果バックグラウンドとした。
【0052】
(製造例1~3)
下記反応式により、実施例1の含窒素多環式化合物(モノマー)であるPPyTP(X=H)、実施例2の含窒素多環式化合物(ポリマー)である[PPyTP]n、実施例3の含窒素多環式化合物(含窒素GNR)であるBPy-GNRを合成した。
【0053】
【0054】
実施例2の含窒素多環式化合物(ポリマー)である[PPyTP]nを得る反応について、以下に詳しく説明する。
【0055】
【0056】
2ツ口フラスコに、Ni(COD)2(304mg、0.90mmol)、2,2’-ビピリジル(140mg、0.90mmol)、COD(160μL、0.9mmol)、脱気DMF(5mL)を加え、55℃で30分間撹拌して反応を行った。
この反応液を、シュレンクフラスコ内の本発明の含窒素多環式化合物のブロモ体(160mg、0.23mmol)及び脱気トルエン(5mL)の混合液に滴下し、2日間80℃で加熱して撹拌した。
メタノール中で沈殿させ、ろ過し、メタノール、濃塩酸、水、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(0.5M)、メタノール、アセトンで洗浄し、黄色粉末([PPyTP]n、110mg)を得た。
【0057】
実施例3の含窒素多環式化合物(含窒素GNR)であるアームチェア型のBPy-GNR(以下、単にBPy-GNRとも言う。)を以下の反応式で表される反応により得た。
【0058】
【0059】
シュレンクフラスコ内に、[PPyTP]n(500mg)、ジクロロメタン(250mL)、ニトロメタン中のFeCl3(2.5g)を滴下し、窒素バブリングしながら24時間撹拌した。反応液をろ過し、メタノール、濃塩酸、水、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(0.5M)、メタノール、アセトンで洗浄し、茶色粉末(BPy-GNR、400mg)を得た。
【0060】
(焼成)
酢酸エチル中、PPyTP、[PPyTP]n、BPy-GNR(それぞれ0.1mmol)と、メタノール中のFeCl2・4H2O(0.1mmol)と、炭素材料であるVulcan XC-72R(キャボット社製、33.3mg)とを、窒素気流下の電気炉中で、1時間で300℃まで昇温後、2時間300℃で保持、さらに、1時間で1000℃まで昇温後、2時間1000℃で焼成した。その後、80℃で3時間、0.5M硫酸を用いて洗浄し、脱イオン水で洗浄し、乾燥した。得られた焼成体をそれぞれFe/PPyTP@VC(実施例4)、Fe/[PPyTP]n@VC(実施例5)、Fe/BPy-GNR@VC(実施例6)とも表記する。
【0061】
(同定)
図1は、[PPyTP]
n、BPy-GNRについてMALDI-TOFMSを測定した結果を示す。
図2は、[PPyTP]
n、BPy-GNR、Fe/PPyTP@VC、Fe/[PPyTP]
n@VC、Fe/BPy-GNR@VCそれぞれについて誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)及び元素分析を測定した結果を示す。
図3は、PPyTP、[PPyTP]
n、BPy-GNRについて熱重量測定を行った結果を示す。この他、
1H-NMR、
13C-NMRにより各化合物の合成を確認した。
【0062】
(ピリジン型窒素と鉄とのFe-N結合の確認)
図4は、BPy-GNRとBPy-GNRに鉄イオンを添加したものについてX線光電子分光法を行った結果を示す。鉄イオンを添加したものでは、結合エネルギー400.2eVにピリジン型窒素と鉄とのFe-N結合由来のピークを確認した。
図5は、Fe/PPyTP@VC、Fe/[PPyTP]
n@VC、Fe/BPy-GNR@VCについてX線光電子分光法を行った結果を示す。結合エネルギー400.2eVにおけるFe-N結合由来のピークが、それぞれ11.8%、35.7%、40.7%確認され、ピリジン型窒素に鉄が配位していることが確認された。
【0063】
図6及び
図7は、Fe/PPyTP@VC、Fe/[PPyTP]
n@VC、Fe/BPy-GNR@VCについてX線吸収微細構造を解析した結果を示す。これら焼成体について、Fe-N結合由来のピークが観察できた。なお、
図6中、FeTPPは、Fe-N結合を有するポルフィリン鉄錯体を表す。
【0064】
(酸素還元反応活性)
図8は、Fe/PPyTP@VC、Fe/[PPyTP]
n@VC、Fe/BPy-GNR@VCについての酸素還元反応活性を示す。それぞれのE
onsetは0.87V、0.88V、0.86Vと高い値を示した。このような焼成体は、酸素還元に必要な活性化エネルギーを充分に下げることができると考えられる。なお、
図8中、n=4.0は、還元電子数が4個であることを表す。
【0065】
図9は、実施例4のFe/PPyTP@VCと、比較例であるFe/1@VC(比較例1)、Fe/2@VC(比較例2)、Fe/3@VC(比較例3)についての酸素還元反応活性を示す。Fe/1@VC、Fe/2@VC、Fe/3@VCは、それぞれ、
図9に示す化合物を、本実施例と同じ方法で鉄を担持させ、焼成したものである。実施例の焼成体は、原料であるグラフェンナノリボンを構成する構成単位中の窒素原子の位置及び数が特定されていることにより、非常に優れた酸素還元反応活性を示すことが分かった。