(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 71/02 20060101AFI20220106BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220106BHJP
C09D 183/00 20060101ALI20220106BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20220106BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20220106BHJP
C08G 77/08 20060101ALI20220106BHJP
C08G 77/46 20060101ALI20220106BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C08L71/02
C09D7/61
C09D183/00
C08K3/10
C08K5/5415
C08G77/08
C08G77/46
C09D5/16
(21)【出願番号】P 2018028136
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2017031513
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友宏
(72)【発明者】
【氏名】上原 みちる
(72)【発明者】
【氏名】宮本 知典
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/076245(WO,A1)
【文献】特開2016-020407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/00-71/14
C09D 7/61
C09D 183/00
C08K 3/10
C08K 5/5415
C08G 77/08
C08G 77/46
C09D 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基と、加水分解性基とがケイ素原子に結合している第1の有機ケイ素化合物(A)と、
ケイ素原子に結合する加水分解性基を有し、パーフルオロポリエーテル構造を有さない第2の有機ケイ素化合物(B)と、
周期表第13族の金属元素を有する化合物
の混合組成物
であって、
前記第1の有機ケイ素化合物(A)が下記式(a3)または(a4)で表される化合物である混合組成物。
【化1】
上記式(a3)中、R
30
は炭素数が2~6のパーフルオロアルキル基であり、R
31
及びR
32
はそれぞれ独立していずれも炭素数が2~6のパーフルオロアルキレン基であり、R
33
は炭素数が2~6の3価の飽和炭化水素基であり、R
34
は炭素数が1~3のアルキル基であり、h1は5~70であり、h2は1~5であり、h3は1~10である。
【化2】
上記式(a4)中、R
40
は炭素数が2~5のパーフルオロアルキル基であり、R
41
は炭素数が2~5のパーフルオロアルキレン基であり、R
42
は炭素数2~5のアルキレン基の水素原子の一部がフッ素に置換されたフルオロアルキレン基であり、R
43
、R
44
はそれぞれ独立に炭素数が2~5のアルキレン基であり、R
45
はメチル基又はエチル基であり、k1、k2、k3はそれぞれ独立に1~5の整数である。
【請求項2】
周期表第13族の金属元素を有する化合物が、周期表第13族の金属元素を有する錯体である請求項1に記載の
混合組成物。
【請求項3】
前記第2の有機ケイ素化合物(B)が、下記式(b1)で表される化合物を含む請求項1
または2に記載の
混合組成物。
【化3】
上記式(b1)中、
Rf
b10は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、
R
b11、R
b12、R
b13、R
b14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基であり、R
b11が複数存在する場合は複数のR
b11がそれぞれ異なっていてもよく、R
b12が複数存在する場合は複数のR
b12がそれぞれ異なっていてもよく、R
b13が複数存在する場合は複数のR
b13がそれぞれ異なっていてもよく、R
b14が複数存在する場合は複数のR
b14がそれぞれ異なっていてもよく、
Rf
b11、Rf
b12、Rf
b13、Rf
b14は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rf
b11が複数存在する場合は複数のRf
b11がそれぞれ異なっていてもよく、Rf
b12が複数存在する場合は複数のRf
b12がそれぞれ異なっていてもよく、Rf
b13が複数存在する場合は複数のRf
b13がそれぞれ異なっていてもよく、Rf
b14が複数存在する場合は複数のRf
b14がそれぞれ異なっていてもよく、
R
b15は、炭素数が1~20のアルキル基であり、R
b15が複数存在する場合は複数のR
b15がそれぞれ異なっていてもよく、
A
1は、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-であり、前記Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基であり、A
1が複数存在する場合は複数のA
1がそれぞれ異なっていてもよく、
A
2は、加水分解性基であり、A
2が複数存在する場合は複数のA
2がそれぞれ異なっていてもよく、
b11、b12、b13、b14、b15は、それぞれ独立して0以上100以下の整数であり、
cは1以上3以下の整数であり、
Rf
b10-、-Si(A
2)
c(R
b15)
3-c、b11個の-{C(R
b11)(R
b12)}-、b12個の-{C(Rf
b11)(Rf
b12)}-、b13個の-{Si(R
b13)(R
b14)}-、b14個の-{Si(Rf
b13)(Rf
b14)}-、b15個の-A
1-は、Rf
b10-、-Si(A
2)
c(R
b15)
3-cが末端となり、ポリシロキサン構造を形成せず、パーフルオロポリエーテル構造を形成せず、かつ-O-が-O-乃至-Fと連結しない限り、任意の順で並んで結合する。
【請求項4】
前記金属の化合物がAl化合物である請求項1~
3のいずれかに記載の
混合組成物。
【請求項5】
前記金属の化合物が、Al錯体である請求項
4に記載の
混合組成物。
【請求項6】
前記第1の有機ケイ素化合物(A)及び第2の有機ケイ素化合物(B)の合計に対する前記金属の化合物の比が0.6~5.0モル%である請求項1~
5のいずれかに記載の
混合組成物。
【請求項7】
前記第1の有機ケイ素化合物(A)及び第2の有機ケイ素化合物(B)の合計に対する前記金属の化合物の比が0.1~2.0質量%である請求項1~
6のいずれかに記載の
混合組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の
混合組成物を硬化してなる膜を備える被覆体。
【請求項9】
前記
混合組成物を常温で硬化させることを特徴とする、請求項
8に記載の被覆体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含む組成物は、防汚コーティング剤、接着剤、撥水撥油性コーティング剤などとして用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、樹脂からなる基材表面に光硬化性ハードコート剤組成物を塗布して硬化した後、防汚コーティング剤で処理して防汚基材を製造する方法が記載され、防汚コーティング剤としてはパーフルオロポリエーテル変性シランが開示されている。また特許文献2には、1分子中に2個以上のアルケニル基を有し、且つ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状ポリフルオロ化合物を含む接着剤組成物が開示されている。更に特許文献3には、パーフルオロポリエーテル残基を含む含フッ素ケイ素化合物を含むコーティング剤組成物が開示されており、このコーティング剤組成物から得られる皮膜は、水性及び油性汚れがつきにくいことが記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-93964号公報
【文献】特開2011-168768号公報
【文献】特開2009-30039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含む組成物を、上記のような用途に用いるに際しては、得られる皮膜が長期に亘って性能を発揮できるよう、基材と皮膜との密着性が良好であることが求められる。また撥水撥油性が要求される用途で皮膜が用いられる場合には、皮膜上の水滴等の滑落性が良好なことも重要である。
【0006】
そこで本発明は、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含む組成物であって、この組成物から得られる皮膜と基材との密着性に優れ、かつ水滴等の滑落性が良好な皮膜を形成可能な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基と、加水分解性基とがケイ素原子に結合している第1の有機ケイ素化合物(A)と、ケイ素原子に結合する加水分解性基を有し、パーフルオロポリエーテル構造を有さない第2の有機ケイ素化合物(B)と、周期表第13族の金属元素を有する化合物とを含む組成物である。
【0008】
周期表第13族の金属元素を有する化合物が、周期表第13族の金属元素を有する錯体であることが好ましい。
【0009】
前記第1の有機ケイ素化合物(A)は、下記式(a1)で表されることが好ましい。
【0010】
【0011】
上記式(a1)中、
Rfa1は、両端が酸素原子である2価のパーフルオロポリエーテル構造であり、
R11、R12、及びR13は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基であり、R11が複数存在する場合は複数のR11がそれぞれ異なっていてもよく、R12が複数存在する場合は複数のR12がそれぞれ異なっていてもよく、R13が複数存在する場合は複数のR13がそれぞれ異なっていてもよく、
E1、E2、E3、E4、及びE5は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、E1が複数存在する場合は複数のE1がそれぞれ異なっていてもよく、E2が複数存在する場合は複数のE2がそれぞれ異なっていてもよく、E3が複数存在する場合は複数のE3がそれぞれ異なっていてもよく、E4が複数存在する場合は複数のE4がそれぞれ異なっていてもよく、
G1及びG2は、それぞれ独立して、シロキサン結合を有する2~10価のオルガノシロキサン基であり、
J1、J2、及びJ3は、それぞれ独立して、加水分解性基又は-(CH2)e6-Si(OR14)3であり、e6は1~5であり、R14はメチル基又はエチル基であり、J1が複数存在する場合は複数のJ1がそれぞれ異なっていてもよく、J2が複数存在する場合は複数のJ2がそれぞれ異なっていてもよく、J3が複数存在する場合は複数のJ3がそれぞれ異なっていてもよく、
L1及びL2は、それぞれ独立して、酸素原子、窒素原子、フッ素原子を含んでいてもよい炭素数1~12の2価の連結基であり、L1が複数存在する場合は複数のL1がそれぞれ異なっていてもよく、L2が複数存在する場合は複数のL2がそれぞれ異なっていてもよく、
d11は、1~9であり、
d12は、0~9であり、
a10及びa14は、それぞれ独立して0~10であり、
a11及びa15は、それぞれ独立して0又は1であり、
a12及びa16は、それぞれ独立して0~9であり、
a13は、0又は1であり、
a21、a22、及びa23は、それぞれ独立して0~2であり、
e1、e2、及びe3は、それぞれ独立して1~3である。
【0012】
また、前記第2の有機ケイ素化合物(B)が、下記式(b1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0013】
【0014】
上記式(b1)中、
Rfb10は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、
Rb11、Rb12、Rb13、Rb14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基であり、Rb11が複数存在する場合は複数のRb11がそれぞれ異なっていてもよく、Rb12が複数存在する場合は複数のRb12がそれぞれ異なっていてもよく、Rb13が複数存在する場合は複数のRb13がそれぞれ異なっていてもよく、Rb14が複数存在する場合は複数のRb14がそれぞれ異なっていてもよく、
Rfb11、Rfb12、Rfb13、Rfb14は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rfb11が複数存在する場合は複数のRfb11がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb12が複数存在する場合は複数のRfb12がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb13が複数存在する場合は複数のRfb13がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb14が複数存在する場合は複数のRfb14がそれぞれ異なっていてもよく、
Rb15は、炭素数が1~20のアルキル基であり、Rb15が複数存在する場合は複数のRb15がそれぞれ異なっていてもよく、
A1は、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-であり、前記Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基であり、A1が複数存在する場合は複数のA1がそれぞれ異なっていてもよく、
A2は、加水分解性基であり、A2が複数存在する場合は複数のA2がそれぞれ異なっていてもよく、
b11、b12、b13、b14、b15は、それぞれ独立して0以上100以下の整数であり、
cは1以上3以下の整数であり、
Rfb10-、-Si(A2)c(Rb15)3-c、b11個の-{C(Rb11)(Rb12)}-、b12個の-{C(Rfb11)(Rfb12)}-、b13個の-{Si(Rb13)(Rb14)}-、b14個の-{Si(Rfb13)(Rfb14)}-、b15個の-A1-は、Rfb10-、-Si(A2)c(Rb15)3-cが末端となり、ポリシロキサン構造を形成せず、パーフルオロポリエーテル構造を形成せず、かつ-O-が-O-乃至-Fと連結しない限り、任意の順で並んで結合する。
【0015】
前記金属の化合物は、Al化合物であることが好ましく、Al錯体であることがより好ましい。
【0016】
前記第1の有機ケイ素化合物(A)及び第2の有機ケイ素化合物(B)の合計に対する前記金属の化合物の比は、モル比で表すと0.6~5.0モル%であることが好ましく、また質量比で表すと0.1~2.0質量%であることが好ましい。
【0017】
本発明は、上記した本発明の組成物を硬化してなる膜を備える被覆体も包含する。また、組成物を常温で硬化させることを特徴とする前記被覆体の製造方法も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の組成物は、パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基と、加水分解性基とがケイ素原子に結合している第1の有機ケイ素化合物(A)と共に、ケイ素原子に結合する加水分解性基を有し、パーフルオロポリエーテル構造を有さない第2の有機ケイ素化合物(B)と、周期表第13族の金属元素を有する化合物を含んでいるため、得られる皮膜が基材(特に鉄系基材)との密着性に優れると共に、滑落性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の組成物は、特定の有機ケイ素化合物(A)、(B)と特定の金属を有する化合物(以下、「金属化合物」と呼ぶ場合がある)を含んでいる。金属化合物は、縮合反応の反応速度を促進する触媒として知られているものがあるが、本発明者らは、特定の有機ケイ素化合物(A)及び(B)と共に周期表第13族の金属元素を有する化合物を含む組成物を用いれば、この組成物から得られる皮膜と基材との密着性が向上することを明らかにした。また、組成物が有機ケイ素化合物(A)と共に有機ケイ素化合物(B)を含むことによって、得られる皮膜の滑落性が良好になる。以下、本発明における有機ケイ素化合物(A)、(B)及び金属化合物について順に説明する。
【0020】
1.第1の有機ケイ素化合物(A)
第1の有機ケイ素化合物(A)(以下、単に「化合物(A)」と呼ぶ場合がある)は、フッ素を含有すると共に、化合物(A)同士又は他の単量体と共に重合反応(特に重縮合反応)を通じて結合することによって皮膜のマトリックスとなり得る化合物であり、具体的にはパーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基と、加水分解性基とがケイ素原子に結合している化合物である。
【0021】
前記パーフルオロポリエーテル構造とは、ポリオキシアルキレン基の全部の水素原子がフッ素原子に置き換わった構造であり、パーフルオロポリオキシアルキレン基とも言える。パーフルオロポリエーテル構造は、得られる皮膜に撥水性を付与することができる。パーフルオロポリエーテル構造の最も長い直鎖部分に含まれる炭素数は、例えば5以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、更に好ましくは20以上である。前記炭素数の上限は特に限定されず、例えば200程度であってもよい。
【0022】
化合物(A)では、上記パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基がケイ素原子と結合している。パーフルオロポリエーテル構造がケイ素原子と結合する側には、適当な連結基が存在していてもよく、当該連結基なしで上記パーフルオロポリエーテル構造が直接ケイ素原子に結合してもよい。連結基としては、例えば、アルキレン基、芳香族炭化水素基などの炭化水素基、(ポリ)アルキレングリコール基、及びこれらの水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換された基、並びにこれらが適当に連結した基などが挙げられる。連結基の炭素数は、例えば1以上、20以下であり、好ましくは2以上、15以下であり、より好ましくは2以上、10以下である。
【0023】
なお、一つの連結基には複数のケイ素原子が結合してもよく、一つの連結基に複数のパーフルオロポリエーテル構造が結合してもよい。ケイ素原子に結合する上記パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基の数は、1つ以上であればよく、2または3であってもよいが、1または2であるのが好ましく、1であるのが特に好ましい。
【0024】
また、化合物(A)では、ケイ素原子に加水分解性基が結合しており、該加水分解性基は、加水分解・脱水縮合反応を通じて、化合物(A)同士を、又は化合物(A)と基材表面のヒドロキシ基などに由来する活性水素とを結合する作用を有する。こうした加水分解性基としては、例えばアルコキシ基(特に炭素数1~4のアルコキシ基)、アセトキシ基、ハロゲン原子(特に塩素原子)などが挙げられる。好ましい加水分解性基は、アルコキシ基及びハロゲン原子であり、特にメトキシ基、エトキシ基、塩素原子が好ましい。
【0025】
ケイ素原子に結合する加水分解性基の数は、1つ以上であればよく、2または3であってもよいが、2または3であるのが好ましく、3であるのが特に好ましい。2つ以上の加水分解性基がケイ素原子に結合している場合、異なる加水分解性基がケイ素原子に結合していてもよいが、同じ加水分解性基がケイ素原子に結合しているのが好ましい。ケイ素原子に結合する、パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基と加水分解性基との合計数は、通常4であるが、2または3(特に3)であってもよい。3以下の場合、残りの結合手には、例えば、アルキル基(特に炭素数が1~4のアルキル基)、水素原子、イソシアネート基などが結合できる。
【0026】
化合物(A)のパーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基は、直鎖状であってもよいし、側鎖を有していてもよい。また、パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基が更にケイ素原子とこのケイ素原子に結合する加水分解性基を有していてもよい。
【0027】
化合物(A)の数平均分子量は特に限定されないが、例えば2,000以上、50,000以下が好ましい。化合物(A)の数平均分子量の下限は、好ましくは4,000以上、より好ましくは6,000以上、更に好ましくは7,000以上であり、上限は好ましくは40,000以下、より好ましくは20,000以下、更に好ましくは15,000以下である。
【0028】
化合物(A)は、例えば下記式(a1)で表すことができる。
【0029】
【0030】
上記式(a1)中、
Rfa1は、両端が酸素原子である2価のパーフルオロポリエーテル構造であり、
R11、R12、及びR13は、それぞれ独立して(すなわち、R11とR12とR13は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよく)炭素数1~20のアルキル基であり、R11が複数存在する場合は複数のR11がそれぞれ異なっていてもよく、R12が複数存在する場合は複数のR12がそれぞれ異なっていてもよく、R13が複数存在する場合は複数のR13がそれぞれ異なっていてもよく、
E1、E2、E3、E4、及びE5は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、
E1が複数存在する場合は複数のE1がそれぞれ異なっていてもよく、E2が複数存在する場合は複数のE2がそれぞれ異なっていてもよく、E3が複数存在する場合は複数のE3がそれぞれ異なっていてもよく、E4が複数存在する場合は複数のE4がそれぞれ異なっていてもよく、
G1及びG2は、それぞれ独立して、シロキサン結合を有する2~10価のオルガノシロキサン基であり、
J1、J2、及びJ3は、それぞれ独立して、加水分解性基又は-(CH2)e6-Si(OR14)3であり、e6は1~5であり、R14はメチル基又はエチル基であり、J1が複数存在する場合は複数のJ1がそれぞれ異なっていてもよく、J2が複数存在する場合は複数のJ2がそれぞれ異なっていてもよく、J3が複数存在する場合は複数のJ3がそれぞれ異なっていてもよく、
L1及びL2は、それぞれ独立して、酸素原子、窒素原子、フッ素原子を含んでいてもよい炭素数1~12の2価の連結基であり、L1が複数存在する場合は複数のL1がそれぞれ異なっていてもよく、L2が複数存在する場合は複数のL2がそれぞれ異なっていてもよく、
d11は、1~9であり、
d12は、0~9であり、
a10及びa14は、それぞれ独立して0~10であり、
a11及びa15は、それぞれ独立して0又は1であり、
a12及びa16は、それぞれ独立して0~9であり、
a13は、0又は1であり、
a21、a22、及びa23は、それぞれ独立して0~2であり、
e1、e2、及びe3は、それぞれ独立して1~3である。
【0031】
上記式(a1)において、
Rfa1は、-O-(CF2CF2O)e4-、又は-O-(CF2CF2CF2O)e5-が好ましく(e4は1~85であることが好ましく、e5は25~70であることが好ましく、より好ましくは35~50である。)、
R11、R12、及びR13は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、
L1及びL2は、それぞれ独立して、フッ素原子を含んだ炭素数1~5の2価の連結基が好ましく、
G1及びG2は、それぞれ独立して、シロキサン結合を有する2~5価のオルガノシロキサン基が好ましく、
J1、J2、及びJ3は、それぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基又は-(CH2)e6-Si(OR14)3が好ましく、
a10は0~5が好ましく(より好ましくは0~3)、a11は0が好ましく、a12は0~7が好ましく(より好ましくは0~5)、a14は1~6が好ましく(より好ましくは1~3)、a15は0が好ましく、a16は0~6が好ましく、a21~a23はいずれも0又は1が好ましく(より好ましくはいずれも0)、d11は1~5が好ましく(より好ましくは1~3)、d12は0~3が好ましく(より好ましくは0又は1)、e1~e3はいずれも3が好ましい。
【0032】
化合物(A)としては、上記式(a1)のRfa1が-O-(CF2CF2CF2O)e5-であり、e5が35~50であり、L1及びL2がいずれも炭素数1~3のパーフルオロアルキレン基であり、E1、E2、E3がいずれも水素原子であり、E4、E5が水素原子又はフッ素原子であり、J1、J2、J3がいずれもメトキシ基又はエトキシ基(特にメトキシ基)であり、a10が1~3であり、a11が0であり、a12が0~5であり、a13が1であり、a14が2~5であり、a15が0であり、a16が0~6であり、a21~a23が、それぞれ独立して、0又は1であり(より好ましくはa21~a23が全て0)、d11が1であり、d12が0又は1であり、e1~e3がいずれも3である化合物を用いることが好ましい。
【0033】
なお、後記する実施例で化合物(A)として用いる化合物aを、上記式(a1)で表すと、Rfa1が-O-(CF2CF2CF2O)43-であり、L1及びL2がいずれも-(CF2)-であり、E1、E2、E3がいずれも水素原子であり、E5がフッ素原子であり、J1、J2がいずれもメトキシ基であり、a10が2、a11が0、a12が0~5、a13が1、a14が3、a15が0、a16が0、a21、a22がいずれも0、d11が1であり、d12が0、e1、e2がいずれも3である。
【0034】
化合物(A)としては、上記式(a1)のRfa1が-O-(CF2CF2CF2O)e5-であり、e5が25~40であり、L1がフッ素原子及び酸素原子を含む炭素数3~6の2価の連結基であり、L2が炭素数1~3のパーフルオロアルキレン基であり、E2、E3がいずれも水素原子であり、E5がフッ素原子であり、J2が-(CH2)e6-Si(OCH3)3であり、e6が2~4であり、a10が1~3であり、a11が0であり、a12が0であり、a13が0であり、a14が2~5であり、a15が0であり、a16が0であり、a21~a23が、それぞれ独立して、0又は1であり(より好ましくはa21~a23が全て0)、d11が1であり、d12が0であり、e2が3である化合物を用いることも好ましい。
【0035】
また、化合物(A)は下記式(a2-1)で表すこともできる。
【0036】
【0037】
上記式(a2-1)中、
Rfa21は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
Rfa22、Rfa23、Rfa24、Rfa25は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、Rfa22が複数存在する場合は複数のRfa22がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa23が複数存在する場合は複数のRfa23がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa24が複数存在する場合は複数のRfa24がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa25が複数存在する場合は複数のRfa25がそれぞれ異なっていてもよく、
R20、R21、R22、R23は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、R20が複数存在する場合は複数のR20がそれぞれ異なっていてもよく、R21が複数存在する場合は複数のR21がそれぞれ異なっていてもよく、R22が複数存在する場合は複数のR22がそれぞれ異なっていてもよく、R23が複数存在する場合は複数のR23がそれぞれ異なっていてもよく、
R24は、炭素数1~20のアルキル基であり、R24が複数存在する場合は複数のR24がそれぞれ異なっていてもよく、
M1は、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、M1が複数存在する場合は複数のM1がそれぞれ異なっていてもよく、
M2は、水素原子またはハロゲン原子であり、
M3は、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-(Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基)であり、M3が複数存在する場合は複数のM3がそれぞれ異なっていてもよく、
M4は、加水分解性基であり、M4が複数存在する場合は複数のM4がそれぞれ異なっていてもよく、
f11、f12、f13、f14、f15はそれぞれ独立して0以上600以下の整数であり、f11、f12、f13、f14、f15の合計値は13以上であり、
f16は、1以上20以下の整数であり、
f17は、0以上2以下の整数であり、
g1は、1以上3以下の整数であり、
Rfa21-、M2-、f11個の-{C(R20)(R21)}-、f12個の-{C(Rfa22)(Rfa23)}-、f13個の-{Si(R22)(R23)}-、f14個の-{Si(Rfa24)(Rfa25)}-、f15個の-M3-、f16個の-[CH2C(M1){(CH2)f17-Si(M4)g1(R24)3-g1}]-は、Rfa21-、M2-が末端となり、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並び、かつ-O-が-O-乃至-Fと連結しない限り、任意の順で並んで結合する。すなわち、式(a2-1)は、必ずしもf11個の-{C(R20)(R21)}-が連続し、f12個の-{C(Rfa22)(Rfa23)}-が連続し、f13個の-{Si(R22)(R23)}-が連続し、f14個の-{Si(Rfa24)(Rfa25)}-が連続し、f15個の-M3-が連続し、f16個の-[CH2C(M1){(CH2)f17-Si(M4)g1(R24)3-g1}]-が連続して、この順で並ぶという意味ではなく、-C(R20)(R21)-Si(Rfa24)(Rfa25)-CH2C(M1){(CH2)f17-Si(M4)g1(R24)3-g1}-C(Rfa22)(Rfa23)-M3-Si(R22)(R23)-C(Rfa22)(Rfa23)-などのように、それぞれが任意の順番で並ぶことが可能である。
【0038】
Rfa21は、好ましくは1個以上のフッ素原子で置換された炭素数1~10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基である。
【0039】
Rfa22、Rfa23、Rfa24、Rfa25は、好ましくはそれぞれ独立して、フッ素原子、または1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~2のアルキル基であり、より好ましくはすべてフッ素原子である。
【0040】
R20、R21、R22、R23は、好ましくはそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1~2のアルキル基であり、より好ましくはすべて水素原子である。
【0041】
R24は、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
【0042】
M1は、好ましくはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~2のアルキル基であり、より好ましくはすべて水素原子である。
【0043】
M2は、好ましくは水素原子である。
【0044】
M3は、好ましくは、-C(=O)-O-、-O-、-O-C(=O)-であり、より好ましくはすべて-O-である。
【0045】
M4は、アルコキシ基、ハロゲン原子が好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基、塩素原子が好ましい。
【0046】
好ましくはf11、f13、f14はそれぞれf12の1/2以下であり、より好ましくは1/4以下であり、さらに好ましくはf13またはf14は0であり、特に好ましくはf13およびf14は0である。
【0047】
f15は、好ましくはf11、f12、f13、f14の合計値の1/5以上であり、f11、f12、f13、f14の合計値以下である。
【0048】
f12は、20以上、600以下が好ましく、より好ましくは20以上、200以下であり、更に好ましくは50以上、200以下である(一層好ましくは30~150、特に50~150、最も好ましくは80~140)。f15は4以上、600以下が好ましく、より好ましくは4以上、200以下であり、更に好ましくは10以上、200以下である(一層好ましくは30~60)。f11、f12、f13、f14、f15の合計値は、20以上、600以下が好ましく、20以上、200以下がより好ましく、50以上、200以下が更に好ましい。
【0049】
f16は、好ましくは1以上、18以下である。より好ましくは、1以上、15以下である,更に好ましくは1以上、10以下である。
【0050】
f17は、好ましくは0以上、1以下である。
【0051】
g1は、2以上3以下が好ましく、3がより好ましい。
【0052】
f11個の-{C(R20)(R21)}-、f12個の-{C(Rfa22)(Rfa23)}-、f13個の-{Si(R22)(R23)}-、f14個の-{Si(Rfa24)(Rfa25)}-、f15個の-M3-の順序は、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並ぶ限り、式中において任意であるが、好ましくは最も固定端側(ケイ素原子と結合する側)のf12を付して括弧でくくられた繰り返し単位(すなわち、-{C(Rfa22)(Rfa23)}-)は、最も自由端側のf11を付して括弧でくくられた繰り返し単位(すなわち、-{C(R20)(R21)}-)よりも自由端側に位置し、より好ましくは最も固定端側のf12及びf14を付して括弧でくくられた繰り返し単位(すなわち、-{C(Rfa22)(Rfa23)}-、及び-{Si(Rfa24)(Rfa25)}-)は、最も自由端側のf11及びf13を付して括弧でくくられた繰り返し単位(すなわち、-{C(R20)(R21)}-、及び-{Si(R22)(R23)}-)よりも自由端側に位置する。
【0053】
上記式(a2-1)において、Rfa21が炭素数1~5のパーフルオロアルキル基であり、Rfa22、Rfa23、Rfa24、Rfa25が全てフッ素原子であり、M3が全て-O-であり、M4が全てメトキシ基、エトキシ基又は塩素原子(特にメトキシ基又はエトキシ基)であり、M1、M2がいずれも水素原子であり、f11が0、f12が30~150(より好ましくは80~140)、f15が30~60、f13及びf14が0、f17が0以上1以下(特に0)、g1が3、f16が1~10であることが好ましい。
【0054】
なお、後記する実施例で化合物(A)として用いる化合物aは、上記式(a2-1)で表すと、Rfa1がC3F7-であり、Rfa22及びRfa23がいずれもフッ素原子であり、f11=f13=f14=0であり、f12が131、f15が44、f16が1~6、f17が0、M1及びM2が水素原子、M3が-O-であり、M4がメトキシ基、g1が3である。
【0055】
また、化合物(A)は下記式(a2-2)で表すこともできる。
【0056】
【0057】
上記式(a2-2)中、
Rfa26、Rfa27、Rfa28、Rfa29は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、Rfa26が複数存在する場合は複数のRfa26がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa27が複数存在する場合は複数のRfa27がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa28が複数存在する場合は複数のRfa28がそれぞれ異なっていてもよく、Rfa29が複数存在する場合は複数のRfa29がそれぞれ異なっていてもよく、
R25、R26、R27、R28は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、R25が複数存在する場合は複数のR25がそれぞれ異なっていてもよく、R26が複数存在する場合は複数のR26がそれぞれ異なっていてもよく、R27が複数存在する場合は複数のR27がそれぞれ異なっていてもよく、R28が複数存在する場合は複数のR28がそれぞれ異なっていてもよく、
R29、R30は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基であり、R29が複数存在する場合は複数のR29がそれぞれ異なっていてもよく、R30が複数存在する場合は複数のR30がそれぞれ異なっていてもよく、
M7は、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-であり、前記Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基であり、M7が複数存在する場合は複数のM7がそれぞれ異なっていてもよく、
M5、M9は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、M5が複数存在する場合は複数のM5がそれぞれ異なっていてもよく、M9が複数存在する場合は複数のM9がそれぞれ異なっていてもよく、
M6、M10は、それぞれ独立して水素原子またはハロゲン原子であり、
M8、M11は、それぞれ独立して、加水分解性基であり、M8が複数存在する場合は複数のM8がそれぞれ異なっていてもよく、M11が複数存在する場合は複数のM11がそれぞれ異なっていてもよく、
f21、f22、f23、f24、f25はそれぞれ独立して0以上600以下の整数であり、f21、f22、f23、f24、f25の合計値は13以上であり、
f26、f28は、それぞれ独立して、1以上20以下の整数であり、
f27、f29は、それぞれ独立して、0以上2以下の整数であり、
g2、g3は、それぞれ独立して、1以上3以下の整数であり、
M10-、M6-、f21個の-{C(R25)(R26)}-、f22個の-{C(Rfa26)(Rfa27)}-、f23個の-{Si(R27)(R28)}-、f24個の-{Si(Rfa28)(Rfa29)}-、f25個の-M7-、f26個の-[CH2C(M5){(CH2)f27-Si(M8)g2(R29)3-g2}]、f28個の-[CH2C(M9){(CH2)f29-Si(M11)g3(R30)3-g3}]は、M10-、M6-が末端となり、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並び、-O-が-O-と連続しない限り、任意の順で並んで結合する。任意の順で並んで結合することについては、上記式(a2-1)にて説明したのと同様であり、各繰り返し単位が連続して上記式(a2-2)に記載の通りの順に並ぶ意味に限定されない。
【0058】
上記式(a2-2)において、Rfa26、Rfa27、Rfa28、Rfa29が全てフッ素原子であり、M7が全て-O-であり、M8及びM11が全てメトキシ基、エトキシ基又は塩素原子(特にメトキシ基又はエトキシ基)であり、M5、M6、M9、M10がいずれも水素原子であり、f21が0、f22が30~150(より好ましくは80~140)、f25が30~60、f23及びf24が0、f27及びf29が0以上1以下(特に0)、g2及びg3が3、f26及びf28が1~10であることが好ましい。
【0059】
化合物(A)として、より具体的には下記式(a3)の化合物が挙げられる。
【0060】
【0061】
上記式(a3)中、R30は炭素数が2~6のパーフルオロアルキル基であり、R31及びR32はそれぞれ独立していずれも炭素数が2~6のパーフルオロアルキレン基であり、R33は炭素数が2~6の3価の飽和炭化水素基であり、R34は炭素数が1~3のアルキル基である。R30、R31、R32、R33の炭素数は、それぞれ独立に2~4が好ましく、2~3がより好ましい。h1は5~70であり、h2は1~5であり、h3は1~10である。h1は10~60が好ましく、20~50がより好ましく、h2は1~4が好ましく、1~3がより好ましく、h3は1~8が好ましく、1~6がより好ましい。
【0062】
化合物(A)としては、下記式(a4)で表される化合物も挙げることができる。
【0063】
【0064】
上記式(a4)中、R40は炭素数が2~5のパーフルオロアルキル基であり、R41は炭素数が2~5のパーフルオロアルキレン基であり、R42は炭素数2~5のアルキレン基の水素原子の一部がフッ素に置換されたフルオロアルキレン基であり、R43、R44はそれぞれ独立に炭素数が2~5のアルキレン基であり、R45はメチル基又はエチル基である。k1、k2、k3はそれぞれ独立に1~5の整数である。
【0065】
2.第2の有機ケイ素化合物(B)
第2の有機ケイ素化合物(B)は、ケイ素原子に結合する加水分解性基を有し、パーフルオロポリエーテル構造を有さない化合物である。第2の有機ケイ素化合物は加水分解性基を有しているため、第1の有機ケイ素化合物(A)の加水分解性基と、又は基材表面の水酸基などの活性水素と縮合反応できる。加水分解性基としてはアルコキシ基(特に炭素数が1~4のアルコキシ基)、又はハロゲン原子が挙げられる。また第2の有機ケイ素化合物(B)は、ポリエーテル構造を有さないことが好ましい。
【0066】
化合物(B)としては、例えば下記式(b1)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
【0068】
上記式(b1)中、
Rfb10は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、
Rb11、Rb12、Rb13、Rb14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基であり、Rb11が複数存在する場合は複数のRb11がそれぞれ異なっていてもよく、Rb12が複数存在する場合は複数のRb12がそれぞれ異なっていてもよく、Rb13が複数存在する場合は複数のRb13がそれぞれ異なっていてもよく、Rb14が複数存在する場合は複数のRb14がそれぞれ異なっていてもよく、
Rfb11、Rfb12、Rfb13、Rfb14は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基又はフッ素原子であり、Rfb11が複数存在する場合は複数のRfb11がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb12が複数存在する場合は複数のRfb12がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb13が複数存在する場合は複数のRfb13がそれぞれ異なっていてもよく、Rfb14が複数存在する場合は複数のRfb14がそれぞれ異なっていてもよく、
Rb15は、炭素数が1~20のアルキル基であり、Rb15が複数存在する場合は複数のRb15がそれぞれ異なっていてもよく、
A1は、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-であり、前記Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基であり、A1が複数存在する場合は複数のA1がそれぞれ異なっていてもよく、
A2は、加水分解性基であり、A2が複数存在する場合は複数のA2がそれぞれ異なっていてもよく、
b11、b12、b13、b14、b15は、それぞれ独立して0以上100以下の整数であり、
cは1以上3以下の整数であり、
Rfb10-、-Si(A2)c(Rb15)3-c、b11個の-{C(Rb11)(Rb12)}-、b12個の-{C(Rfb11)(Rfb12)}-、b13個の-{Si(Rb13)(Rb14)}-、b14個の-{Si(Rfb13)(Rfb14)}-、b15個の-A1-は、Rfb10-、-Si(A2)c(Rb15)3-cが末端となり、ポリシロキサン構造を形成せず、パーフルオロポリエーテル構造を形成せず、かつ-O-が-O-乃至-Fと連結しない限り、任意の順で並んで結合する。
【0069】
Rfb10は、それぞれ独立して、フッ素原子又は炭素数1~10(より好ましくは炭素数1~5)のパーフルオロアルキル基が好ましい。
Rb11、Rb12、Rb13、Rb14は、水素原子が好ましい。
Rb15は、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
A1は、-O-、-C(=O)-O-、又は-O-C(=O)-が好ましい。
A2は、炭素数1~4のアルコキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基、塩素原子である。
b11は1~30が好ましく、1~25がより好ましく、1~10が更に好ましく、1~5が特に好ましく、最も好ましくは1~2である。
b12は、0~15が好ましく、より好ましくは0~10である。
b13は、0~5が好ましく、より好ましくは0~2である。
b14は、0~4が好ましく、より好ましくは0~2である。
b15は、0~4が好ましく、より好ましくは0~2である。
cは、2~3が好ましく、より好ましくは3である。
b11、b12、b13、b14、b15の合計値は、3以上が好ましく、5以上が好ましく、また80以下が好ましく、より好ましくは50以下であり、更に好ましくは20以下である。
【0070】
特に、Rfb10がフッ素原子または炭素数1~5のパーフルオロアルキル基であり、Rb11、Rb12がいずれも水素原子であり、A2がメトキシ基またはエトキシ基であると共に、b11が1~5、b12が0~5であり、b13、b14、b15が全て0であり、cが3であることが好ましく、このときRfb11及びRfb12がいずれもフッ素原子であることがより好ましい。
【0071】
なお、後記する実施例にて、化合物(B)として用いるFAS13Eを上記式(b1)で表すと、Rb11、Rb12がいずれも水素原子、b11が2、b13、b14、b15が全て0、cが3、A2がエトキシ基であり、Rfb10-{C(Rfb11)(Rfb12)}b12-が末端となり、C6F13-となるように定められる(すなわちRfb11及びRfb12がいずれもフッ素原子)。
【0072】
上記式(b1)で表される化合物としては、具体的に、CF3-Si-(OCH3)3、CjF2j+1-Si-(OC2H5)3(jは1~12の整数)が挙げられ、この中で特にC4F9-Si-(OC2H5)3、C6F13-Si-(OC2H5)3、C7F15-Si-(OC2H5)3、C8F17-Si-(OC2H5)3が好ましい。また、CF3CH2O(CH2)kSiCl3、CF3CH2O(CH2)kSi(OCH3)3、CF3CH2O(CH2)kSi(OC2H5)3、CF3(CH2)2Si(CH3)2(CH2)kSiCl3、CF3(CH2)2Si(CH3)2(CH2)kSi(OCH3)3、CF3(CH2)2Si(CH3)2(CH2)kSi(OC2H5)3、CF3(CH2)6Si(CH3)2(CH2)kSiCl3、CF3(CH2)6Si(CH3)2(CH2)kSi(OCH3)3、CF3(CH2)6Si(CH3)2(CH2)kSi(OC2H5)3、CF3COO(CH2)kSiCl3、CF3COO(CH2)kSi(OCH3)3、CF3COO(CH2)kSi(OC2H5)3が挙げられる(kはいずれも5~20であり、好ましくは8~15である)。また、CF3(CF2)m-(CH2)nSiCl3、CF3(CF2)m-(CH2)nSi(OCH3)3、CF3(CF2)m-(CH2)nSi(OC2H5)3を挙げることもできる(mはいずれも1~10であり、好ましくは3~7であり、nはいずれも1~5であり、好ましくは2~4である)。CF3(CF2)p-(CH2)q-Si-(CH2CH=CH2)3を挙げることもできる(pはいずれも2~10であり、好ましくは2~8であり、qはいずれも1~5であり、好ましくは2~4である)。更に、CF3(CF2)p-(CH2)qSiCH3Cl2、CF3(CF2)p-(CH2)qSiCH3(OCH3)2、CF3(CF2)p-(CH2)qSiCH3(OC2H5)2が挙げられる(pはいずれも2~10であり、好ましくは3~7でありqはいずれも1~5であり、好ましくは2~4である)。
【0073】
上記式(b1)で表される化合物の中で、下記式(b1-2)で表される化合物が好ましい。
【0074】
【0075】
上記式(b1-2)中、R60は炭素数3~8のパーフルオロアルキル基であり、R61は炭素数1~5のアルキレン基であり、R62は炭素数1~3のアルキル基である。上記式(b1-2)で表される化合物としては、沸点が100℃以上(好ましくは300℃以下)のものを用いることも好ましい。
【0076】
また、化合物(B)としては、下記式(b2)で表される化合物も挙げられる。
【0077】
【0078】
上記式(b2)中、X1、X2、X3、X4は、それぞれ独立して加水分解性基、炭素数が1~4のアルキル基、または1個以上の水素原子がフッ素に置換されている炭素数が1~4のアルキル基であり、3個のX1はそれぞれ異なっていてもよく、3個のX2はそれぞれ異なっていてもよく、X3が複数存在するときはそれぞれ異なっていてもよく、X4が複数存在するときはそれぞれ異なっていてもよく、
X1、X2、X3、X4のうち少なくとも1つは加水分解性基であり、
b21は0以上100以下の整数である。
【0079】
X1、X2、X3、X4の加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基が挙げられる。X1、X2、X3、X4の全てがアルコキシ基であることが好ましく、またはX1、X2、X3、X4の少なくとも1つが1個以上の水素原子がフッ素に置換されている炭素数が1~4のアルキル基であることも好ましい。
【0080】
上記式(b2)で表される化合物としては、例えば、(H5C2O)3-Si-(OSi(OC2H5)2)4OC2H5、(H3CO)2Si(CH2CH2CF3)-(OSiOCH3(CH2CH2CF3))4-OCH3などが挙げられる。
【0081】
3.金属化合物
金属化合物としては、周期表第13族に属する金属元素の化合物を用いる。周期表第13族に属する金属元素としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等が挙げられ、アルミニウムであることが好ましい。金属化合物は、周期表第13族に属する金属元素の錯体であることが好ましく、キレート配位子を有する金属錯体を用いることがより好ましい。周期表第13族に属する金属の化合物としては、Al化合物が好ましく、Al錯体がより好ましい。
【0082】
Al化合物としては、
水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等のアルミニウム無機化合物;
アルミニウムセカンダリーブトキシド等のアルミニウムアルコレート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムジイソプロピレートモノセカンダリーブチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムエチレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムアルキルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレートなどのAl錯体が挙げられ、中でもアルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)が最も好ましい。
【0083】
ガリウム化合物としては、水酸化ガリウム、酸化ガリウム等のガリウム無機化合物;トリス(2,4-ペンタンジオナト)ガリウム(III)等のGa錯体が挙げられる。
【0084】
インジウム化合物としては、酸化インジウムスズ等のインジウム無機化合物;トリス(2,4-ペンタンジオナト)インジウム(III)等のIn錯体が挙げられる。
【0085】
本発明の組成物は、第1の有機ケイ素化合物(A)、第2の有機ケイ素化合物(B)及び周期表第13族の金属の化合物を含むと共に、フッ素系溶剤(C)を含むことが好ましい。フッ素系溶剤(C)としては、例えばフッ素化エーテル系溶剤、フッ素化アミン系溶剤、フッ素化炭化水素系溶剤(特にフッ素化芳香族溶剤)等を用いることができ、特に沸点が100℃以上であることが好ましい。フッ素化エーテル系溶剤としては、フルオロアルキル(特に炭素数2~6のパーフルオロアルキル基)-アルキル(特にメチル基又はエチル基)エーテルなどのハイドロフルオロエーテルが好ましく、例えばエチルノナフルオロブチルエーテル又はエチルノナフルオロイソブチルエーテルが挙げられる。エチルノナフルオロブチルエーテル又はエチルノナフルオロイソブチルエーテルとしては、例えばNovec(登録商標)7200(3M社製、分子量約264、沸点76℃)が挙げられる。フッ素化アミン系溶剤としては、アンモニアの水素原子の少なくとも1つがフルオロアルキル基で置換されたアミンが好ましく、アンモニアの全ての水素原子がフルオロアルキル基(特にパーフルオロアルキル基)で置換された第三級アミンが好ましく、具体的にはトリス(ヘプタフルオロプロピル)アミンが挙げられ、フロリナート(登録商標)FC-3283(分子量約521、沸点128℃)がこれに該当する。フッ素化炭化水素系溶剤としては、1,3-ビス(トリフルオロメチルベンゼン)(沸点:約116℃)が挙げられる。
【0086】
フッ素系溶剤(C)としては、上記の他、アサヒクリン(登録商標)AK225(旭ガラス社製)などのハイドロクロロフルオロカーボン、アサヒクリン(登録商標)AC2000(旭ガラス社製)などのハイドロフルオロカーボンなどを用いることができる。
【0087】
フッ素系溶剤(C)の分子量は、好ましくは900以下であり、より好ましくは800以下であり、下限は特に限定されないが、例えば300程度である。
【0088】
本発明の組成物100質量%中の第1の有機ケイ素化合物(A)及び第2の有機ケイ素化合物(B)の合計含有量は、0.05質量%以上が好ましく、より好ましくは0.08質量%以上であり、更に好ましくは0.10質量%以上であり、また10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。本発明の組成物中の第2の有機ケイ素化合物(B)に対する第1の有機ケイ素化合物(A)の質量比は、0.5以上が好ましく、より好ましくは1.0以上であり、また4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。
【0089】
本発明の金属化合物の割合は、化合物(A)と化合物(B)との合計に対する割合で0.3モル%以上が好ましく、より好ましくは0.5モル%以上であり、更に好ましくは0.6モル%以上であり、特に好ましくは1.0モル%以上であり、最も好ましくは1.5モル%以上であり、また6.0モル%以下が好ましく、より好ましくは5.0モル%以下であり、更に好ましくは4.5モル%以下であり、一層好ましくは3.5モル%以下であり、特に3.0モル%以下が好ましく、2.5モル%以下が最も好ましい。なお、上記の金属化合物の割合は、金属化合物、化合物(A)及び化合物(B)のそれぞれの物質量から、式「金属化合物の割合(モル%)=金属化合物/(化合物(A)+化合物(B))×100」により算出することができる。
【0090】
また、金属化合物の割合を質量割合で表すと、化合物(A)と化合物(B)との合計に対する割合で0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.4質量%以上であり、特に0.5質量%以上が好ましく、また2.0質量%以下が好ましく、より好ましくは1.7質量%以下であり、更に好ましくは1.3質量%以下であり、特に1.2質量%以下であり、0.9質量%以下が最も好ましい。なお、上記の金属化合物の質量割合は、金属化合物、化合物(A)及び化合物(B)のそれぞれの質量から、式「金属化合物の質量割合(質量%)=金属化合物/(化合物(A)+化合物(B))×100」により算出することができる。
【0091】
金属化合物がAl錯体であって、化合物(A)及び化合物(B)の合計に対する金属錯体の割合が0.6~5.0モル%(質量割合では0.2~1.8質量%が好ましい)であることが好ましく、特に前記割合が1.4モル%~2.5モル%(つまり0.5~0.9質量%)であることが好ましい。
【0092】
本発明の組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、シラノール縮合触媒、酸化防止剤、防錆剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防カビ剤、抗菌剤、生物付着防止剤、消臭剤、顔料、難燃剤、帯電防止剤等、各種の添加剤を含有していてもよい。
【0093】
本発明の組成物を塗布する基材は特に限定されず、有機系材料、無機系材料のいずれでもよいが、表面が金属又は合金であることが好ましい。より好ましくは、鉄、シリコン、銅、亜鉛、アルミニウム等の金属又はこれら金属を含む合金が挙げられ、特に鉄または鉄合金である基材(特にJIS規格にて「SUS」と表されるステンレス鋼などのクロム含有鋼が好ましい)である場合に、本発明の組成物と基材との密着性が優れるという効果を最大限に発揮できる。従って、鉄または鉄合金の表面に、本発明の組成物を硬化してなる膜を備える被覆体も本発明に含まれる。
【0094】
本発明の組成物を基材に塗布するに際しては、基材をアルカリ性の洗浄液で洗浄することが好ましい。前記アルカリ性の洗浄液としては、水酸化ナトリウム水溶液を用いてもよいし、例えばエスクリーン W-3000L(佐々木化学薬品株式会社製)やエスクリーン AL-13(佐々木化学薬品株式会社製)などの市販の洗浄剤や、チオグリコール酸を含有する液を用いてもよい。
【0095】
基材には易接着処理を施しておいても良く、易接着処理は、前期洗浄の後に施しても良い。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等の親水化処理が挙げられる。また、樹脂、シランカップリング剤、テトラアルコキシシラン等によるプライマー処理を施しても良いし、ポリシラザンなどのガラス皮膜を基材に予め塗布しておいても良い。
【0096】
好ましくは基材を洗浄した後、本発明の組成物を塗布し、乾燥することで基材上に皮膜を形成できる。本発明の組成物を塗布する方法としては、例えばディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ダイコート法、グラビアコート法、手塗り(布に液を染み込ませ、対象物に塗りこむ方法)、かけ流し(液をスポイトなどを用いて対象物にそのままかけ、塗布する方法)、霧吹き(霧吹きを用いて対象物に塗布する方法)などが挙げられる。特に、作業性の観点から、手塗、かけ流し、霧吹き、スプレーコート法が好ましい。
【0097】
本発明の組成物を基材に塗布した後の条件は、特に限定されず、常温、大気中で、例えば1時間以上静置すればよい。本発明において常温とは、5℃以上60℃以下である。本発明の被覆体の製造は、特に15~40℃の温度範囲で実施可能である。その後、さらに50~300℃、好ましくは100~200℃の温度にて、10~60分程度加温乾燥してもよい。
【0098】
本発明の組成物から得られる皮膜の厚さは例えば1nm~100nm程度とできる。好ましくは5nm以上100nm以下である。また、本発明の組成物から得られる皮膜は撥水性を有しており、液滴法(解析方法:θ/2法)で液量:3μLにて測定される接触角が例えば110~125°程度である。滑落法(解析方法:接触法)で液量6.0μL、滑落判定距離:0.25mmにより測定した滑落角は、50°以下とすることができ、好ましくは48°以下(下限は限定されないが、30°程度)である。
【実施例】
【0099】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0100】
基材の洗浄
皮膜形成用の組成物を調製するに先立ち、組成物を塗布するSUS基材(ステンレス製基材)を以下の要領で洗浄した。まず、アルカリ系洗浄剤を布に染み込ませ、SUS基材の表面を拭くことで改質させ、その後、アルカリ系洗浄剤で基材表面が湿っている状態で30分間静置した。続いて、流水で表面のアルカリ系洗浄剤を洗い流し、エアーで乾燥させた。
【0101】
実施例1
第1の有機ケイ素化合物(A)として、下記式(1)で表される化合物(以下、化合物a)、第2の有機ケイ素化合物(B)としてFAS13E(C6F13-C2H4-Si(OC2H5)3、沸点220℃、東京化成工業株式会社製)、溶剤としてFC-3283(C9F21N、フロリナート、3M社製)を混合し、室温で所定の時間撹拌した後、Al錯体であるALCH-TR-20(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート))を化合物(A)及び(B)の合計量に対して0.6mol%となるように滴下し、10秒撹拌した後に15分間静置させ、皮膜形成用溶液を得た。該溶液中、化合物(A)の割合は0.08質量%、化合物(B)の割合は0.05質量%であり、Al錯体の割合は化合物(A)と(B)の合計に対して0.2質量%である。得られた溶液を、前記した基材洗浄方法で処理した白井松器械株式会社製のSUS304の上に、株式会社アピロス製スプレーコーターを用いて塗布した。その後、常温で3時間静置し、SUS基材上に透明皮膜を得た。
【0102】
【0103】
上記式(1)で示される化合物aは、特開2014-15609号公報の合成例1、2に記載の方法により合成したものであり、rは43、sは1~6の整数であり、数平均分子量は約8000である。
【0104】
実施例2
添加したAl錯体の割合を1.4mol%(つまり、化合物(A)と(B)の合計に対するAl錯体の質量割合は0.5質量%)としたこと以外は実施例1と同様にして、SUS基材上に透明皮膜を得た。
【0105】
実施例3
添加したAl錯体の割合を2.5mol%(つまり、化合物(A)と(B)の合計に対するAl錯体の質量割合は0.9質量%)としたこと以外は実施例1と同様にして、SUS基材上に透明皮膜を得た。
【0106】
実施例4
添加したAl錯体の割合を4.2mol%(つまり、化合物(A)と(B)の合計に対するAl錯体の質量割合は1.4質量%)としたこと以外は実施例1と同様にして、SUS基材上に透明皮膜を得た。
【0107】
実施例5
添加したAl錯体の割合を5.0mol%(つまり、化合物(A)と(B)の合計に対するAl錯体の質量割合は1.8質量%)としたこと以外は実施例1と同様にして、SUS基材上に透明皮膜を得た。
【0108】
比較例1
金属錯体を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、SUS基材上に透明皮膜を得た。
【0109】
比較例2
化合物(B)を用いず、添加したAl錯体の割合を化合物(A)に対して2.5モル%(つまり、化合物(A)に対して0.9質量%)にしたこと以外は実施例1と同様にして、SUS基材上に透明皮膜を得た。
【0110】
上記実施例及び比較例で得られた皮膜について、下記の測定を行った。
【0111】
(1)水接触角の測定
接触角測定装置(協和界面科学社製 DM700)を用い、液滴法(解析方法:θ/2法)で液量:3μLにて、水の接触角を測定した。
【0112】
(2)皮膜と基材の密着性評価
三菱鉛筆社製消しゴム付きHB鉛筆を具備したスクラッチ装置を用い、消しゴムが皮膜に接した状態で荷重500gをかけ、40r/minでサンプルを動かすことによって密着性評価試験を行った。消しゴムが皮膜を10回往復するごとに接触角を測定し、試験後の接触角が100°を下回ったときの回数を測定した。
【0113】
(3)滑落角の測定
協和界面科学社製DM700を使用し、滑落法(解析方法:接触法、水滴量:6.0μm、傾斜方法:連続傾斜、滑落検出:滑落後、移動判定:前進角、滑落判定距離:0.25mm)により、皮膜の滑落角を測定した。
【0114】
結果を表1に示す。
【0115】
【0116】
表1より、周期表第13族の金属の化合物(錯体)を含まない組成物を用いて得られた比較例1の皮膜では、密着性試験の回数が10回未満であり、また化合物(B)を含まない組成物を用いて得られた比較例2の皮膜では、滑落角が大きかった。これに対して、化合物(A)と共に化合物(B)を含み、更にAl錯体を含んだ実施例1~5では、密着性試験の回数が10回以上であり、皮膜と基材との密着性に優れると共に、滑落角も小さく滑落性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の組成物は、金属部材、プラスチック部材、セラミック部材、ガラス部材など様々な部材に適用可能であり、特に自動車、調理器具、棚、作業台、工具などに用いられる表面が金属である部材に高い密着力で撥水性皮膜を形成することができ、産業上有用である。