(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】線幅の変動に対するリソグラフィマスクの構造非依存寄与を決定する方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/84 20120101AFI20220106BHJP
G01B 11/04 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
G03F1/84
G01B11/04 G
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019029050
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2019-06-20
(31)【優先権主張番号】10 2018 202 639.4
(32)【優先日】2018-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100196612
【氏名又は名称】鎌田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】マルクス コッホ
(72)【発明者】
【氏名】ディルク ヘルヴェク
(72)【発明者】
【氏名】レンツォ カペッリ
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ディーツェル
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-531042(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118543(WO,A1)
【文献】特開2011-203245(JP,A)
【文献】特開2019-164339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
H01L 21/64-21/66
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リソグラフィマスク(5)の面粗度の構造非依存寄与を決定するための方法であって、
1.1.リソグラフィマスク(5)を結像するための結像光学ユニット(8)を有する光学系(2)を与える段階と、
1.2.結像される構造が不在の少なくとも1つの測定領域を有するリソグラフィマスク(5)を与える段階と、
1.3.前記少なくとも1つの測定領域を照明放射線(1)で照明する段階と、
1.4.前記リソグラフィマスク(5)の前記少なくとも1つの測定領域のフォーカススタックを記録する段階と、
1.5.前記記録されたフォーカススタックの2D強度分布(15
zi)を空間分解方式で評価する段階と、
を含み、
1.6.前記2D強度分布(15
zi)を評価する段階は、
1.6.1.前記2D強度分布(15
zi)のスペクトル
を該2D強度分布(15
zi)のフーリエ変換によって決定する段階と、
1.6.2.フォーカス位置zの関数として前記フォーカススタックの前記2D強度分布(15
zi)のスペクトル
の標準偏差を計算することによりスペックルコントラスト(ΔI)を決定する段階と、
1.6.3.前記スペクトル
のスペクトル成分S(ν
xi,ν
yi)の回帰直線の勾配から前記リソグラフィマスク(5)の光学面粗度を表すための関数のフーリエ変換
を決定する段階と、
を含
み、
1.7.前記方法は、前記決定されたスペックルコントラスト(ΔI)に基づいてリソグラフィマスク(5)の面粗度の構造非依存寄与を決定する段階を含む、
方法。
【請求項2】
前記2D強度分布(15
zi)を評価する段階は、専らフーリエ変換及び線形代数を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2D強度分布(15
zi)を評価する段階は、強度変動を確認する段階を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記2D強度分布(15
zi)を評価する段階は、前記決定されたスペックルコントラスト(ΔI)に基づいて、スペックルパターンの相関性を示すスペックル相関係数(w)を決定する段階を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記スペックル相関係数(w)は、既知のデフォーカス収差関数から導出されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
鏡面対称照明設定が、前記測定領域を照明するために使用されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも部分的にコヒーレントな照明放射線(1)が、前記測定領域を照明するために使用されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
コヒーレントな照明放射線(1)が、前記測定領域を照明するために使用されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
EUV範囲内の波長を有する照明放射線(1)が、前記測定領域を照明するために使用されることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法を実行するための計測系(2)であって、
11.1.前記測定領域を照明放射線(1)で照明するための照明光学ユニット(7)、
11.2.前記測定領域を空間分解検出デバイス(9)の上に結像するための結像光学ユニット(8)、及び
11.3.空間分解検出デバイス(9)、
を含む、計測系(2)。
【請求項11】
前記記録されたフォーカススタックの2D強度分布(15
zi)を評価するために、コンピュータデバイス(10)が、前記空間分解検出デバイス(9)にデータ転送方式で接続されることを特徴とする請求項10に記載の計測系(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、引用によって本明細書にその内容が組み込まれているドイツ特許出願DE 10 2018 202 639.4の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、線幅の変動(fluctuation of the linewidth)に対するリソグラフィマスクの構造非依存寄与(structure-independent contribution)を決定する方法に関する。本発明は、これに加えてそのような方法を実行するための計測系に関する。
【背景技術】
【0003】
リソグラフィマスクの品質を特徴付けるための重要なパラメータの1つは、線幅の変動(LWR、線幅粗度(linewidth roughness))である。このパラメータは、当該マスクを用いて生成可能な最も小さい特徴部サイズに対して直接的な影響を有する。本発明により、リソグラフィマスク内に常に存在する不均質性が線幅の変動に構造非依存寄与を加えることが認められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO 2016/012426 A1
【文献】US 2013/0063716 A1
【文献】DE 102 20 815 A1
【文献】DE 102 20 816 A1
【文献】US 2013/0083321 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の1つの目的は、線幅の変動に対するリソグラフィマスクの構造非依存寄与を決定する方法を指定することである。本発明の更に別の目的は、そのような方法を実行するための計測系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの目的は、独立請求項の特徴を用いて達成される。
【0007】
本発明の核心は、結像される構造(structures to be imaged)が不在の測定領域のフォーカススタック(focus stack)を記録すること、及び記録されたフォーカススタックの2D強度分布を空間分解方式(spatially resolved manner)で評価することにある。特に、リソグラフィマスクの空中像内のいわゆるスペックルに帰することができる強度変化を評価するための規定が為される。
【0008】
リソグラフィマスクは、結像される構造を有する完成リソグラフィマスクとすることができる。このリソグラフィマスクは、そのようなリソグラフィマスクを作製するためのブランクとすることもできる。そのようなブランクをマスクブランクとも呼ぶ。リソグラフィマスクは、マスクブランクからのリソグラフィマスクの作製中に発生する中間製品とすることもできる。以下では簡略化の目的で、マスク、ブランク、及び中間製品を等しくリソグラフィマスクと呼ぶ。
【0009】
測定領域には、結像される構造が不在である。マスクブランクの場合に、マスク全体が、結像される構造が不在であり、すなわち構造化されていない。
【0010】
マスク、特に測定領域は、特に純粋に反射性又は純粋に吸収性のものである。
【0011】
本発明による方法は、特に、所与のマスクを用いて達成可能である線幅の最小変動に対する下限値を決定するための役割を果たす。この情報は、特にリソグラフィマスクを作製するための工程をモニタして作製されるマスクを改善するために用いることができる。それに加えて、本方法は、作製工程における早期のステージで特定の事前定義された品質判断基準を満たさないマスクブランクを仕分けるために用いることができる。
【0012】
本発明により、通常、リソグラフィマスク測定中にいずれにせよ実行される3D空中像測定の状況下で、スペックルパターンへのマスク構造寄与から結像収差寄与をスペックルパターン測定によって分離することができることが認められた。この場合、結像収差寄与を表すことができ、その結果、この寄与から結像光学ユニットの品質評価を実行することができ、特に、例えば計測系の結像光学ユニットの再調節によってこの結像収差寄与を低減することができる限度に関する結論を引き出すことができる。分離は、それぞれのスペクトル成分の実数部のフォーカス依存性プロファイルと虚数部のフォーカス依存性プロファイルとの交点のz位置を決定することによって実行することができる。この方法は、特に、偶数関数を用いて表すことができる収差を決定するために用いることができる。
【0013】
結像光学ユニットは、特に、リソグラフィマスク及びまだ構造化されていないマスク基板、いわゆるマスクブランクの品質評価に向けた計測系の一部とすることができる。上記の決定法を用いて、マスクブランクの品質評価、すなわち、まだ構造化されていないマスクの品質の評価を実行することもできる。
【0014】
測定対象のリソグラフィマスクの照明中の既知の照明角度分布(照明設定)及び同じく結像光学ユニットの既知の伝達関数からデフォーカス収差を計算することができる。伝達関数は、瞳伝達関数とすることができる。瞳伝達関数は、バイナリ関数とすることができ、結像光学ユニットの開口数の範囲内の空間周波数に対して値1、及びこの開口数の範囲側の空間周波数に対して0を有することができる。
【0015】
本発明により、特に、スペックル構造がウェーハ上の構造の線幅の変動に対して直接的な影響を有することが認められた。この影響は、マスク上の構造の特性に依存しない。特に、この影響はマスク構造の測定によって決定することができない。本発明により、この影響は、マスクの化学線測定を用いて、すなわち、マスク構造を結像するために使用される照明放射線の波長に精確に対応する波長を有する照明放射線を用いたマスクの測定によって最適に確認することができることが認められた。
【0016】
特に、空中像内の線幅の変動は、一方でいわゆるマスク誤差増大係数(MEEF)によって計測されるマスクの物理的線幅の変動の独立成分と、以下でマスクの光学面粗度(optical surface roughness)又は簡略化の目的でマスクの面粗度とも呼ぶ構造非依存寄与とで構成されることが認められた。これまで、これらの異なる寄与を分離する方法は存在しなかった。
【0017】
本発明は、特にマスクの光学面粗度を決定するための役割を果たす。
【0018】
本発明の一態様により、2D強度分布を評価する段階は、検出された2D強度分布の標準偏差のデフォーカス依存性(defocus dependence)を確認する段階を含む。
【0019】
マスクの光学面粗度は、上記のデフォーカス依存性から、特に、デフォーカスが増大するにつれて線形に増大するコントラスト勾配から確認することができることが判明した。
【0020】
本発明の更に別の態様により、2D強度分布を評価する段階は、2D強度分布のスペクトル
を2D強度分布のフーリエ変換によって決定する段階と、スペクトル
の複数のスペクトル成分S(ν
xi,ν
yi)のデフォーカス依存性を決定する段階と、スペクトル成分の決定されたデフォーカス依存性からリソグラフィマスクの光学面粗度を表すための関数のフーリエ変換を確認する段階とを含む。
【0021】
特に、周波数ドメインでのスペクトル
の複数のスペクトル成分S(ν
xi,ν
yi)の実数部RS(z)及び虚数部IS(z)のフォーカス依存性を決定するための規定が為される。物体粗度
のフーリエ変換
は、スペクトル成分の線形回帰線からデフォーカスの関数として今や確認することができる。
【0022】
好ましくは、2D強度分布を評価する段階は、専らフーリエ変換及び線形代数を含む。したがって、この評価段階は、特に簡単な方式で実施可能である。それに加えて、この段階は非常にロバストである。
【0023】
本発明の更に別の態様により、2D強度分布を評価する段階は、強度変動を確認する段階を含む。強度変動は、特に記録された空中像から直接確認することができる。
【0024】
本発明の一態様により、2D強度分布を評価する段階は、スペックルコントラストを確認する段階を含む。スペックルコントラストは、特に、構造不在測定領域の空中像から確認される。
【0025】
スペックルコントラストは、マスクの面粗度を評価するために使用されるものと特に同じ結像条件下で、特に同じ照明設定の下で実行される。
【0026】
本発明の更に別の態様により、2D強度分布を評価する段階は、スペックル相関係数wを確認する段階を含む。スペックル相関係数は無次元係数である。スペックル相関係数は、特に、互いに臨界寸法だけ離間した空間領域内のスペックルの相関性を表す。
【0027】
本発明の更に別の態様により、スペックル相関係数は、既知のデフォーカス収差関数(defocus aberration function)から導出される。マスクが平坦な粗度スペクトルを有する場合に、この相関係数は、デフォーカス収差関数から直接導出することができる。
【0028】
本発明の更に別の態様により、測定領域を照明するために、鏡面対称照明設定が使用される。使用照明設定は、特に、マスク構造をウェーハ上に結像するためのその後のリソグラフィ方法に向けて設けられる事前定義された照明設定に精確に対応する。
【0029】
本発明の更に別の態様により、測定領域を照明するために、少なくとも部分的にコヒーレントな照明放射線、特にコヒーレントな照明放射線が使用される。このことは、ウェーハ上へのマスク構造のその後の結像中に与えられる条件に対応する。
【0030】
本発明の更に別の態様により、測定領域を照明するために、EUV範囲、特に5nmから30nmまでの波長範囲内の波長を有する照明放射線、特に13.5nm又は7nmの波長を有する照明放射線が使用される。したがって化学線法が含まれる。
【0031】
上記で説明した方法を実行するための計測系は、測定領域を照明放射線で照明するための照明光学ユニットと、測定領域を空間分解検出デバイス上に結像するための結像光学ユニットと、このタイプの空間分解検出デバイスとを含む。
【0032】
本発明の更に別の態様により、記録されたフォーカススタックの2D強度分布を評価するためのコンピュータデバイスが検出デバイスにデータ転送方式で接続される。
【0033】
本発明の更に別の詳細及び利点は、図を参照した例示的実施形態の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】各々を極めて概略的に例示した照明光学ユニット及び結像光学ユニットと一緒にEUV照明光及びEUV結像光を用いたリソグラフィマスクの形態にある物体の検査に向けた計測系を入射平面に対して垂直な方向に見た平面図に非常に概略的に示す図である。
【
図2】照明瞳と結像光学ユニットの像平面の領域内の空中像との間の照明結像光の伝播を略示し、更にスペックルパターンのスペクトルへの空中像の変換も例示する図である。
【
図3】計測系によって測定することができる3D空中像を表す像平面の領域内の様々なフォーカス測定平面内の2D強度分布のシーケンス(フォーカススタック)を示す図である。
【
図4】
図3に記載の2D強度分布のフーリエ変換によって決定された3D空中像のスペックルパターンスペクトルのシーケンスを
図3に記載のシーケンスに割り当てた方式で示す図である。
【
図5】
図4に記載のスペックルパターンスペクトルの代表的なスペクトル成分の実数部及び虚数部の略プロファイルをフォーカス位置(像平面に対して垂直なz方向)の関数として示す図である。
【
図6】
図5に記載のスペクトル成分の方式でのスペクトル成分のフォーカス依存性の特定の値からの分離の結果として生じ、周波数依存性収差関数として表された計測系の結像光学ユニットの確認された結像収差を例示する図である。
【
図7】ゼルニケ多項式に関する展開の形式での
図6に記載の結像収差寄与の表現を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
位置関係の提示を容易にするために、以下では直交xyz座標系を用いる。
図1では、x軸は、作図面に対して垂直にその中に入り込むように延びる。y軸は
図1の右に向かって延びる。z軸は
図1の下方に延びる。
【0036】
図1は、物体平面4内の物体視野3内に配置され、レチクル、リソグラフィマスク、又はマスクブランクの形態にある物体5のEUV照明光1を用いた検査に向けた計測系2内のEUV照明光及びEUV結像光1のビーム経路を子午断面図に対応する図に示している。計測系2は、3次元(3D)空中像を解析するために使用され(空中像計測系)、投影露光中に半導体構成要素を作製するために次に使用されるレチクルとして公知のリソグラフィマスクの特性の投影露光装置内にある投影光学ユニットによる光学結像に対する効果をシミュレーション及び解析するための役割を果たす。そのような系は、WO 2016/012426 A1(当文献中の
図1を参照されたい)、US 2013/0063716 A1(当文献中の
図3を参照されたい)、DE 102 20 815 A1(当文献中の
図9を参照されたい)、DE 102 20 816 A1(当文献中の
図2を参照されたい)、及びUS 2013/0083321 A1から公知である。
【0037】
照明光1は、物体5によって反射される。照明光1の入射平面は、yz平面に対して平行に延びる。
【0038】
EUV照明光1はEUV光源6によって生成される。光源6は、レーザープラズマ光源(LPP、レーザー生成プラズマ)又は放電光源(DPP、放電生成プラズマ)とすることができる。原理的には、シンクロトロンベースの光源、例えば自由電子レーザー(FEL)を用いることもできる。EUV光源の使用波長は、5nmと30nmの間の範囲内にあるものとすることができる。原理的には、計測系2の変形の場合に、光源6の代わりに別の使用光波長に向けた光源、例えば193nmの使用波長に向けた光源を用いることもできる。
【0039】
計測系2の実施形態に依存して、計測系2は、反射性物体5又は他に透過性物体5に対して用いることができる。透過性物体の一例は位相マスクである。
【0040】
光源6と物体5の間には計測系2の照明光学ユニット7が配置される。照明光学ユニット7は、物体視野3にわたる所定の照明強度分布を用い、それと同時に物体視野3の視野点を照明する際の所定の照明角度分布を用いた検査すべき物体5の照明に向けての役割を果たす。
【0041】
計測系2の照明結像光1の開口数は、レチクル側で0.0825である。物体平面4内の物体視野3は、x方向に8μmの広がりを有し、y方向に8μmの広がりを有し、すなわち、正方形である。
【0042】
物体5での反射の後に、照明結像光1は、
図1に同様に略示している計測系2の結像光学ユニット又は投影光学ユニット8に入射する。結像光学ユニット8は、物体5を計測系2の空間分解検出デバイス9に向けて結像する。検出デバイス9は、例えばCCD検出器又はCMOS検出器として設計される。
【0043】
検出デバイス9は、画像処理デバイス10の形態にあるデジタルコンピュータデバイスに信号接続される。
【0044】
物体5は、物体ホルダ(例示していない)によって担持される。そのような物体ホルダは、変位ドライブによって一方ではxy平面に対して平行に、他方ではこの平面に対して垂直に、すなわちz方向に変位させることができる。変位ドライブ、及び同じく計測系2の作動全体は、制御すべき構成要素にそれ程具体的に詳しくは例示してない方式で信号接続された中央制御デバイス11によって制御される。
【0045】
一例として、
図1は、ミラーとすることができる又はEUV波長よりも長い照明光波長の使用の場合にレンズ要素とすることができる結像光学ユニット8の結像構成要素12を例示している。結像構成要素12は、変位アクチュエータ13に作動的に接続され、更に変位アクチュエータ13は制御デバイス11に信号接続される。結像構成要素12の精確な位置合わせを求めて、変位アクチュエータ13を用いて結像構成要素12をx方向、y方向、及び/又はz方向に互いに独立して変位させることができる。この変位の空間分解能は、10μmよりも高いものとすることができ、特に第2μmよりも高いものとすることができる。
【0046】
結像光学ユニット8に関する拡大倍率は、500よりも大きく、
図1に記載の例示的実施形態では850である。物体5の3D空中像が生じる像平面14の領域内に結果として生じる像側開口数は、1・10
-4の領域内にある。
【0047】
図1には、検出デバイス9の下に測定平面(例えばz=0)内の2D強度分布15の平面図を例示している。レチクル5上の構造16は、x方向に延びる強度極大値17として表される。
【0048】
図2は、照明光学ユニット7の瞳平面18から像平面14の領域内に真っ直ぐに入る照明結像光1の伝播を略示している。それぞれ関連する変数又は構成要素は、xyz座標系内で斜視的に示している。照明光1の瞳強度分布19が瞳平面18内に存在し、この分布を照明設定と呼ぶ。一例として、リング形又は環状の瞳強度分布19を示している。瞳強度分布19は、数学的にはσ(κ)として表される。
【0049】
この場合、σは照明強度であり、κは、当該照明強度が存在する場所を瞳座標で表す。
【0050】
照明光1は、瞳平面18から物体平面4内へと伝播し、物体平面4において、照明光1は、
図2に誇張して例示している粗度を有する物体5上に入射する。これは、波面:
及び次式のように書くことができる照明光1の視野分布をもたらす。
【0051】
上式中の記号は以下の意味を有する。
λ:照明光の波長
h:物体粗度(z方向のサジタル高さ)
【0052】
物体5で反射した又はそれを通り抜けた後に、照明光1は、
図2で21の場所に示している結像構成要素を有する結像光学ユニット8の入射瞳20を通り、その後、射出瞳22を通って伝播する。その後、物体5は、像平面14の領域内で空中像23へと結像される。x方向とy方向のそれぞれの2D強度分布、すなわち「スライス」の中空像23のフーリエ変換は、スペックルスペクトル24、すなわち、空中像23のスペックルパターンのスペクトル
を生じる。このスペックルスペクトルに対して次式が成り立つ。
【0053】
上式では以下が当てはまる。
ν:周波数座標ν
x,ν
yを有する周波数比例波数1/λである。
H:粗度スペクトル、すなわち、物体粗度hのフーリエ変換である。
【0054】
上式では以下が当てはまる。
σ:瞳平面内の照明設定の強度分布である。
P:光学ユニットの瞳伝達関数、すなわち、例えば開口及び/又は掩蔽絞りによる瞳制限効果である。
φe:光学ユニットの偶数波面収差、すなわち、偶数関数によって表すことができる収差寄与である。
【0055】
下記では、
図3及びそれ以降の図を参照しながら結像光学ユニット8の結像収差寄与を決定する方法を説明する。
図3、
図4、及び
図6に示すグレースケール値は、各場合にそれぞれ検討する場所に存在する光強度の尺度である。
【0056】
最初に実行することは、物体5の結像の像平面14(z3=0)に対して平行な領域内における様々な測定平面z1からz7内の2D強度分布15
z1から15
z7までのシーケンスとしての結像光学ユニット8の3D空中像23のフォーカス依存測定である。この場合、
図1に記載の例図とは対照的に、結像されるのは構造化された物体ではなく、(まだ)構造化されていないマスク、すなわちマスクブランク又はマスクの非構造化領域である。2D強度分布15
ziのシーケンスにわたって記録された空中像は、まずマスク(残留)構造寄与、更に結像光学ユニット8の結像収差寄与の結果と理解することができるスペックルの空間分布を示す。
【0057】
次に、先行段階で2D強度分布15
ziのフーリエ変換を用いて検出された3D空中像の上記のスペックルパターンのスペクトル
を決定する段階が続く。それによって、周波数座標ν
x及びν
yの関数としての2Dスペックルスペクトル24
z1から24
z7までのシーケンスが生じる。
【0058】
2D強度分布15z1から15z7までのシーケンスをフォーカススタックとも呼ぶ。
【0059】
その後、周波数ドメインでの複数のスペクトル成分S(ν
xi,ν
yi)に関して、当該スペックルスペクトル成分S(ν
xi,ν
yi)の実数部RS(z)及び虚数部IS(z)のフォーカス依存性が決定される。このフォーカス依存性は、1つのスペクトル成分S(ν
xi,ν
yi)に関して
図4に選択点によって強調表示されている。このスペクトル成分Sに関して、
図5は、このスペックルスペクトル成分S(ν
xi,ν
yi)の実数部RS(z)の線形近似プロファイル25とこのスペックルスペクトル成分S(ν
xi,ν
yi)の虚数部IS(z)の同様の線形近似プロファイル26とをz座標の関数として、すなわち、フォーカス位置の関数として略示している。
【0060】
スペックルスペクトル成分のこれらのz依存性に関して次式が成り立つ。
【0061】
上式では以下が当てはまる。
H:物体粗度の寄与である。
Θd:結像光学ユニットのデフォーカス収差である。
Θopt:結像光学ユニットの他の結像収差寄与である。
【0062】
結像光学ユニット8のデフォーカス収差Θdは、既知の照明設定及び既知の伝達関数から計算することができる。上式に基づいて、実数部RS及び虚数部ISのプロファイル25及び26に基づいて粗度寄与Hから結像収差寄与Θを分離することができ、続いてデフォーカス収差の独立した決定の後に結像光学ユニット8の他の結像収差寄与Θoptが生じる。
【0063】
実数部RS及び虚数部ISのプロファイル25、26の間の交点の特にz位置をこの分離に用いることができる。
【0064】
結像収差寄与Θ
optは、展開係数znを有するゼルニケ収差関数Θnに関する展開として周波数依存方式で書くことができる。
【0065】
【0066】
図6は、分離された結像収差寄与
を例示している。選ばれた照明設定に対して、この結像収差寄与は、ゼルニケ関数Z5との高い類似性を有する。
【0067】
図7は、ゼルニケ関数Z4からZ18に関する上記の展開式の係数z
iのシーケンスを示している。予測されるように、主な寄与は、ゼルニケ関数Z5に対する係数z
5において出現する。
【0068】
したがって、全体として、通常はいずれにせよ計測において必要とされるマスクの構造化の場所の測定に基づいて結像光学ユニット8の結像収差寄与を測定することができる。続いて結像光学ユニット8の光学構成要素を再調節することによってこの結像収差寄与を補正することができる。この目的のために、制御デバイス11は、結像構成要素12の対応する変位に向けた変位アクチュエータ13を駆動することができる。そのような再調節は、計測系2の作動の一時停止中、又は他に計測系2の作動中に実行することができる。再調節は、開ループ制御によって又は他に閉ループ制御によるそれぞれの結像収差寄与の設定点と実際値の間の比較によって実行することができる。
【0069】
ゼルニケ関数Ziによる結像収差寄与の上記の展開は、1組の直交関数の線形結合にわたる結像収差寄与の展開の一例を構成する。
【0070】
計測系2の光学設定は、半導体構成要素の投影リソグラフィによる作製中の物体5の投影露光工程における照明及び結像の可能な最も正確なエミュレーションに向けた役割を果たす。
【0071】
2D空中像23のフォーカス依存測定に関する詳細については、WO 2016/012426 A1を参照されたい。フーリエ変換に関連する詳細に関しても、WO 2016/012426 A1及びこの文献に言及されている参考文献を参照されたい。
【0072】
下記では、線幅の変動(LWR、線幅粗度)へのリソグラフィマスクの構造非依存寄与を決定する方法における上記で説明した方法の適用を説明する。
【0073】
本発明により、EUVマスク、特にマスクブランクの面粗度、並びにこれらの多層構造の不均質性がマスクから反射された照明放射線の位相変化を引き起こすことが認められた。これらの位相変化は、スペックルとも呼ぶ空中像の強度変化を引き起こす。そのようなスペックルは、線幅の及びしたがってウェーハ上に依然として生成可能な最小構造の達成可能な最小の変動に対して直接的な影響を有する。
【0074】
特にリソグラフィ方法のモニタ及び最適化に向けて、マスクブランクによって引き起こされる位相変化、特に、線幅の変動に対するマスクの構造非依存寄与が確認される場合に有利である。この寄与は、実際に結像されることになるマスク構造の幅の変動には依存しない。空中像内又はウェーハ上の線幅の変動に対する構造非依存寄与から構造依存寄与を分離する方法はこれまで公知ではなかった。
【0075】
第1の代替により、マスクによって直接空中像内に引き起こされる位相変化が化学線法を用いて測定されるという規定が為される。この目的のために、フォーカススタック、すなわち、異なるフォーカス位置ziでの異なる2D強度分布15ziのシーケンスが記録される。特に、純粋に反射性又は純粋に吸収性の領域が測定領域としての役割を果たす。測定領域には、特に、結像される構造が不在である。マスクブランクの場合に、マスク全体が、結像される構造が不在である可能性がある。
【0076】
下記でより一層詳細に説明する2D強度分布15ziの評価の結果は、マスク構造が存在する場合にその線粗度の別個の測定値と組み合わせることができる。この組み合わせは、リソグラフィマスク、特にマスクブランク、及びしたがってリソグラフィ工程自体、特に、リソグラフィ方法を用いて作製されるマイクロ又はナノ構造化構成要素を改善するために用いることができる。
【0077】
第1の代替は、フォーカススタックの2D強度分布15ziの標準偏差をフォーカス位置ziの関数として確認する段階を含む。この標準偏差をスペックルコントラストとも呼ぶ。
【0078】
確認されたスペクトル
からスペックルコントラストΔI、すなわち、空中像強度、すなわち記録された2D強度分布15
ziの標準偏差を直接計算することができる。
【0079】
光学面粗度の平坦スペクトルを仮定すると、スペックルコントラストは、デフォーカスが増大するにつれて線形に増大する。マスクの光学面粗度の二乗平均平方根(RMS)は、スペックルコントラストの勾配からフォーカス位置の関数として直接に計算することができる。
【0080】
しかし、この計算は、評価された領域全体にわたって平均された二乗平均平方根を生じる。その場合、面粗度についての空間情報及びスペクトル情報が失われる。そのような詳細は、上記で説明したスペックルパターンスペクトルへのマスク構造と結像光学ユニットとの異なる寄与を決定する方法を用いて決定することができる。上記で既に説明したように、記録された空中像、特にスペックルスペクトルのフーリエ変換は、フォーカス位置の関数として、特にマスクの面粗度、デフォーカス収差関数Θd、及び結像光学ユニット9の実収差関数Θoptのフーリエ変換関数として表すことができる。
【0081】
粗度スペクトル
は、スペックルスペクトルS(ν,z)のスペクトル成分S(ν
xi,ν
yi)の回帰線の勾配から決定することができる。
【0082】
したがって、面粗度
の複素スペクトル
は、結像光学ユニット8の開口数及び照明光学ユニット7の開口数の関数である結像光学ユニット8の光学分解能の範囲内で確認することが可能である。更に、面粗度hの空間特性及びスペクトル特性からマスク5の面粗度の原因に関する情報を確認することができる。
【0083】
それに加えて、線幅の変動に対するマスクの面粗度の寄与は、2D強度分布15
ziにおける強度変動の直接測定から確認することもできる。2D強度分布15
ziの実測強度変化の関数としてのマスクの面粗度LWR
Blankの構造非依存寄与は、次式で表すことができることが認められた。
上式中のΔIは、結像される構造が不在の測定領域内のスペックルコントラストを表す。
【0084】
I0は、臨界寸法CDが確認される際の限界強度を表す。I′0は、確認されることを意図する粗度を有する構造の空中像強度プロファイルの勾配を示す。粗度は、線構造の追加の空中像測定又は空中像シミュレーションのどちらかから決定することができる。
【0085】
wは、臨界寸法だけ離間した領域内のスペックルパターンの相関性を示す。この相関性をスペックル相関係数wとも呼ぶ。y軸に対して平行な垂直線に関して、wは、次式として定義される。
【0086】
この場合、ブランクの又は結像される構造がない領域の空中像からΔI(x,y)=IBlank(x,y)-1が確認される。この確認は、線幅の変動が確認される際のものと同じ結像条件(デフォーカス及び照明設定)の下で実行される。ΔIは、対応するスペックルコントラストである。
【0087】
平坦粗度スペクトルを有するマスクの場合に、スペックル相関係数wは、既知のデフォーカス収差関数Θ
dから次式のように決定することができる。
0≦w≦2が成り立つ。