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特許6994184発電デバイス、発電方法及び濃度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】発電デバイス、発電方法及び濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20220106BHJP
   H01M 8/04186 20160101ALI20220106BHJP
   H01M 8/0444 20160101ALI20220106BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20220106BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M8/04186
H01M8/0444
G01N27/416 338
G01N27/327 353Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018542876
(86)(22)【出願日】2017-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2017035317
(87)【国際公開番号】W WO2018062419
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2016195054
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人科学技術振興機構、「研究成果最適展開支援プログラムA-STEPステージI戦略テーマ重点タイプ」(技術テーマ「IoT,ウェアラブル・デバイスのための環境発電の実現化技術の創成」)産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】四反田 功
(72)【発明者】
【氏名】辻村 清也
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/022868(WO,A1)
【文献】特開2006-024555(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065508(WO,A1)
【文献】特開2013-045647(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0253293(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/16
G01N 27/327
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
前記燃料は前記アノードと前記カソードの間に配置され、
下記(1)~(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である
【請求項2】
燃料と、アノードと、カソードと、基材とを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
前記基材の同じ面上に前記アノードと前記カソードがそれぞれ前記基材に接するように配置され、
下記(1)~(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である
【請求項3】
燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素と、前記発電デバイスに供給される液体中の物質の酸化を促進する酵素とを含み、
下記(1)~(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である
【請求項14】
燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である発電デバイスに液体を供給する工程と、前記液体中に含まれる物質の濃度を測定する工程と、を含む、濃度測定方法。
【請求項15】
前記燃料は前記基材に含まれる、請求項2に記載の発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電デバイス、発電方法及び濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素を電極触媒として利用し、糖類、アルコールその他のバイオマス資源を燃料として発電するバイオ燃料電池の研究及び開発がなされている。
バイオ燃料電池は一般に、燃料を含む溶液中に浸漬された電極を備え、電極のうちアノードには燃料の酸化を促進する酵素が含まれている。
アノードにおける燃料の酸化(例えば、グルコースからグルコノラクトンへの変化)によって取り出された電子はカソード側に移動し、これを用いて酸素が還元されて水(HO)が生じる。以上の過程で生じる電子の移動が発電に利用される。
【0003】
バイオ燃料電池に関しては、電池の構造をシンプルにできる、室温での作動が可能である、環境及び生体への親和性が高い、材料を入手しやすい等の性質に着目し、ウェアラブルデバイス、使い捨てデバイス等の従来の電池には適さない分野における発電デバイスとしての検討がなされている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、グルコースの酸化を促進する酵素を含む電極材料を紙に印刷して作製した電極を備え、グルコースを含む液体が紙に吸収されてアノードに達するとグルコースの酸化が生じて発電が起きる発電デバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】I.Shitanda et al. Chem. Comm. 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載された発電デバイスは、使用前には乾燥した状態であるためウェアラブルデバイス、使い捨てデバイス等としての使用に適しているが、供給される液体中の燃料の濃度によっては出力の安定性が充分確保されないという課題があった。本発明は上記課題に鑑み、出力の安定性に優れる発電デバイス、並びにこれを用いた発電方法及び濃度測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい、発電デバイス。
<2>燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
液体の供給により発電する、発電デバイス。
<3>燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である、発電デバイス。
<4>前記燃料は、溶媒を含まないか、溶媒の含有率が50質量%以下である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の発電デバイス。
<5>前記カソードは酸素の還元を促進する触媒を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の発電デバイス。
<6>前記アノードは前記発電デバイスに供給される液体中の物質の酸化を促進する酵素をさらに含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載の発電デバイス。
<7>前記アノード及び前記カソードからなる少なくとも一方が形成された基材と、前記燃料を含む基材とを含む積層物である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の発電デバイス。
<8>複数の発電デバイスが連結した状態で基材上に形成されたシート状物又はそのロール状物である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の発電デバイス。
<9>所望の大きさにカットして用いることができる、<8>に記載の発電デバイス。
<10><1>~<9>のいずれか1項に記載の発電デバイスに液体を供給する工程を含む、発電方法。
<11>前記液体が水を含む、<10>に記載の発電方法。
<12>前記液体の供給量が、前記液体と前記燃料とが混合したときの前記燃料の濃度が、使用温度において0.01mol/dm~10mol/dmの範囲となる量である、<10>又は<11>に記載の発電方法。
<13><1>~<9>のいずれか1項に記載の発電デバイスに液体を供給する工程と、前記液体中に含まれる物質の濃度を測定する工程と、を含む、濃度測定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、出力の安定性に優れる発電デバイス、並びにこれを用いた発電方法及び濃度測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の発電デバイスの構成の一例を示す概略断面図である。
図2】複数の発電デバイスが連結した状態で基材上に形成されたシート状物が巻き回されてロール状になった状態を概略的に示す図である。
図3】実施例で作製した発電デバイスの電極パターンの平面図である。
図4】実施例で作製した発電デバイスの出力の評価結果を示すグラフである。
図5】実施例で作製した発電デバイスの出力の評価結果を示すグラフである。
図6】実施例で作製した発電デバイスの出力の評価結果を示すグラフである。
図7】発電デバイスの応用例であるウェアラブルデバイスの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
【0011】
<発電デバイス>
本発明の発電デバイスの第1実施形態は、燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい、発電デバイスである。
【0012】
本発明の発電デバイスの第2実施形態は、燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
液体の供給により発電する、発電デバイスである。
【0013】
本発明の発電デバイスの第3実施形態は、燃料と、アノードと、カソードとを含み、前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計(リード部、基材、スペーサ等を用いる場合はこれらも含む)の10質量%以下である、発電デバイスである。
【0014】
本発明の発電デバイスは、発電のための燃料があらかじめ発電デバイス中に含まれている。発電デバイスが水等の液体を吸収すると、燃料が液体と混合してアノードに含まれる酵素によって酸化可能な状態になり、発電が起きる。このため、使用の際に供給される液体に含まれる燃料の濃度による発電への影響が抑えられ、出力の安定性に優れている。また、供給される液体は燃料を含んでいても含んでいなくてもよいため、発電デバイスの適用範囲の拡大が期待できる。
【0015】
さらに、本発明の発電デバイスは、(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい、(2)液体の供給により発電する、(3)水分含有率が燃料、アノード及びカソードの合計の10質量%以下である、のうち少なくともいずれかの条件を満たす。このため、使用前の状態では燃料の酸化が生じず、発電が抑制されている。
使用前の燃料の酸化をより確実に抑制する観点からは、発電デバイスの水分含有率は燃料、アノード及びカソードの合計の7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、燃料、アノード及びカソードのそれぞれの水分含有率が10質量%以下であることが好ましい。
上記水分含有率は、発電デバイスに液体を供給する前の状態でのものをいう。
【0016】
(燃料)
発電デバイスにおける燃料は、酵素によって酸化が促進される物質であればその種類は特に制限されない。例えば、糖類、アルコール類、アルデヒド類、アミノ酸類、アミン類、乳酸、尿酸等が挙げられる。発電デバイスに含まれる燃料は、1種のみでも2種以上であってもよい。燃料は、そのままの状態でアノードに含まれる酵素によって酸化可能なものであっても、加水分解等により酸化可能な状態になるもの(例えば、加水分解によりグルコースになるデンプン)であってもよい。
【0017】
発電デバイスをウェアラブルデバイス、使い捨てデバイス等として使用する場合の安全性、生体親和性、出力の安定性及び取り扱い性の観点からは、燃料は糖を含むことが好ましい。糖の種類は特に制限されず、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、糖アルコール類等が挙げられる。
【0018】
後述するように、発電デバイスに供給される液体中の物質(測定対象物質)の濃度の測定に発電デバイスを用いる場合は、発電デバイスに含まれる燃料は測定対象物質と異なる物質であることが好ましい。
【0019】
燃料は、水、有機溶剤等の溶媒を含んでも含んでいなくてもよいが、溶媒を含んでいないことが好ましい。燃料が溶媒を含む場合は、溶媒の含有率が燃料全体の50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
燃料は、高分子材料、フィラー、油脂等の添加材を含んでいてもよい。添加材を含むことで、供給された液体の量を調節し、また燃料の溶解が促進される等の効果が期待できる。高分子材料としては、吸水性ポリマー、吸水パウダー、水溶性食物繊維等が挙げられる。フィラーとしてはパルプ、MFC(ミクロフィブリルセルロース)、BC(バイオセルロース)等が挙げられる。
【0021】
発電デバイスに含まれる燃料の含有量は特に制限されず、発電デバイスの用途等に応じて選択できる。安定した出力を得る観点からは、発電デバイスに含まれる燃料の含有量は、供給される液体と混合したときの燃料の濃度が、使用温度において0.01mol/dm~10mol/dmの範囲となる含有量とすることが好ましく、0.1mol/dm~3mol/dmの範囲となる含有量とすることがより好ましい。
【0022】
発電デバイスにおける燃料が配置される位置は特に制限されない。例えば、発電デバイスに供給される液体を吸収可能な基材に燃料を含有させたものをアノードに接する位置に配置しても、アノードの内部(例えば、細孔を有するアノードの細孔内)に燃料を配置してもよい。
【0023】
燃料を基材に含有させる場合、その方法は特に制限されない。例えば、基材の内部に浸透させても、基材の表面に付着させてもよい。また、製造工程であらかじめ基材原料に燃料を混合し、一つのシート状に形成されていてもよい。
基材の材質は特に制限されず、天然材料であっても合成材料であってもよい。環境及び生体への親和性の観点からは、天然若しくは生分解性材料を用いた紙、不織布、布等が好ましい。基材の厚みは特に制限されず、発電デバイスの形状等にあわせて選択できる。
【0024】
(アノード及びカソード)
発電デバイスにおけるアノード及びカソード(以下、あわせて「電極」ともいう)の材質は、導電性の材料を含むものであれば特に制限されない。導電性の材料としては、炭素材料、金属等が挙げられ、使い捨て性や生体親和性の観点からは、炭素材料が好ましい。炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック等)、MgO鋳型炭素等の鋳型法により作製されるメソポーラスカーボン(好ましくはメソ/マクロ孔径が10nm~150nm、粒子径が0.5μm~10μmの多孔質炭素)、カーボンナノ材料等が挙げられる。炭素材料は1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
電極は、バインダをさらに含んでもよい。バインダの種類は特に制限されず、樹脂等が挙げられる。樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。バインダは1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
燃料の酸化を促進する酵素の種類は特に制限されず、酸化の対象となる燃料の種類に応じて選択できる。アノードに含まれる酵素は1種のみでも2種以上であってもよい。また、燃料を加水分解等により酸化可能な状態にする酵素等の触媒と、酸化を促進する酵素との組み合わせであってもよい。
【0027】
燃料が糖である場合の酵素として具体的には、燃料がグルコースである場合の酵素としてはグルコースオキシダーゼ及びグルコースデヒドロゲナーゼが、燃料がフルクトースである場合の酵素としてはフルクトースオキシダーゼ及びフルクトースデヒドロゲナーゼが、燃料がスクロースである場合の酵素としてはインベルターゼとグルコースデヒドロゲナーゼの組み合わせが、燃料がデンプンである場合の酵素としてはアミラーゼとグルコースデヒドロゲナーゼの組み合わせが挙げられる。
燃料が糖以外の物質である場合、例えば乳酸の場合の酵素としては乳酸オキシダーゼが挙げられる。
【0028】
発電デバイスを供給される液体中の物質(測定対象物質)の濃度の測定に用いる場合は、アノードは、燃料の酸化を促進する酵素に加えて測定対象物質の酸化を促進する酵素をさらに含んでもよい。測定対象物質は、酵素により酸化が促進されうるものであれば特に制限されない。例えば、測定対象物質が体液中の成分である場合は、グルコース、乳酸、尿酸等が挙げられる。
【0029】
アノードが測定対象物質の酸化を促進する酵素をさらに含む場合の発電デバイスの構成には、(1)同じ発電デバイスのアノード中に燃料の酸化を促進する酵素と測定対象物質の酸化を促進する酵素とが含まれる構成と、(2)発電デバイスが有線又は無線で接続された複数の発電デバイスからなり、燃料の酸化を促進する酵素を含むアノードを有する発電デバイスと、測定対象物質の酸化を促進する酵素を含むアノードを有する発電デバイスとが異なる構成のいずれも含まれる。燃料に起因する発電量と、測定対象物質に起因する発電量とを判別しやすくする観点からは、(2)の構成であることが好ましい。
【0030】
カソードは、酸素の還元を促進する触媒を含むことが好ましい。触媒の種類は特に制限されず、有機物であっても無機物であってもよい。使い捨て性や生体親和性の観点からは、有機物が好ましい。有機物としては、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ等の酸素の還元を促進する酵素が挙げられる。無機物としては、白金等の金属触媒が挙げられる。カソードに含まれる触媒は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0031】
電極における酵素又は触媒が配置される位置は、特に制限されない。酵素又は触媒による酸化又は還元の促進作用を効率的に得る観点からは、電極が燃料又は酸素と接触する面に配置されることが好ましい。電極が燃料又は酸素と接触する面を増大させて発電効率を向上する方法としては、細孔を有する電極を形成して細孔の内部に酵素又は触媒を配置する方法が挙げられる。細孔を有する電極を形成する観点からは、導電性の材料として粒子状の材料を用いることが好ましく、細孔を有する粒子状の材料を用いることがより好ましい。細孔を有する粒子状の材料としては、例えば、MgO鋳型炭素等の鋳型法により作製されるメソポーラスカーボンが挙げられる。
【0032】
発電デバイスにおける電極が配置される位置は、特に制限されない。発電デバイスを薄型化する観点からは、基材の上に電極の材料をスクリーン印刷等により付与して形成したものであることが好ましい。この場合、アノードとカソードが同じ基材の上に形成されていても、アノードとカソードがそれぞれ異なる基材上に形成されてもよい。
【0033】
基材上には、電極間を電気的に接続するためのリード部を形成してもよい。リード部の形成は、一般に用いられる導電材料を用いて行うことができる。リード部は、カソードへの酸素の供給量を増やすために、カソードに接する部分に貫通孔を有していてもよい。
【0034】
電極が形成される基材の材質は特に制限されず、天然材料であっても合成材料であってもよい。環境及び生体への親和性の観点からは、天然材料を用いた紙、布等が好ましい。発電デバイスに供給される液体によってアノードとカソードの短絡が生じるのを防ぐ観点からは、撥水加工された基材を用いたり、液体を吸収しない材料からなる基材を用いたりしてもよい。また、アノードとカソードの間に短絡を防ぐためのスペーサを設けてもよい。
【0035】
発電デバイスにおける電極の形状は、特に制限されない。発電効率を向上させる観点からは、複数のアノード又はカソードが連結した状態のパターン状であってもよい。
【0036】
(その他の部材)
発電デバイスは、必要に応じて燃料及び電極以外のその他の部材を有していてもよい。例えば、発電デバイスを被着体に固定するための粘着材、発電デバイスを外気から保護するための保護材、ハイドロゲル等が挙げられる。なお、発電デバイスの水分含有率の算出の基準となる「燃料、アノード及びカソードの合計」は、燃料、アノード及びカソード(必要に応じてリード部、基材、スペーサ等を含む)の合計を意味し、上述したその他の部材は含まれないものとする。
【0037】
発電デバイスは、発電により生じた電力を使用して供給された液体中の物質の濃度を測定する手段、測定により得られたデータの無線伝送手段等をさらに有していてもよい。本発明の発電デバイスは、あらかじめ燃料が含まれているため、発電により生じた電力をこれらの手段を作動させるのに安定的に利用することができる。
【0038】
本発明の発電デバイスが皮膚に貼り付けて使用するシート状である場合の構成の一例と、汗の吸収による発電のメカニズムについて、図1を示して説明する。ただし、本発明は以下の構成に制限されない。
【0039】
図1に示す発電デバイスでは、基材である撥水加工紙の皮膚に向かう側にアノードとカソードがリードを介して形成されている。さらに、燃料としてグルコースを含有する基材(グルコース含有紙)がアノードとカソードに接し、かつ皮膚に接するように配置されている。撥水加工紙のアノードとカソードが形成された側と逆側には、発電デバイスを皮膚に固定するためのサージカルテープが配置されている。リードのカソードに相当する部分には、酸素(O)を供給するための貫通孔が形成されている。
【0040】
図1に示す発電デバイスを皮膚に貼り付けると、皮膚から分泌された汗がグルコース含有紙に吸収され、汗と混合したグルコースが酸化可能な状態になり、アノードにおいてグルコースの酸化が生じる。グルコースの酸化により発生した電子がアノードからカソードに移動し、カソードに移動した電子により外気から供給された酸素の還元が生じる。以上の過程を通じて発電が起きる。
【0041】
発電デバイスは、使用時の大きさに個片化されていても、複数の発電デバイスが連結した状態であって、使用の際に所望の大きさに個片化して使用するものであってもよい。例えば、使用前には複数の発電デバイスが連結した状態で基材上に形成されたシート状物(所望により、巻き回されてロール状物になっていてもよい)、図2に示すように使用の際にシートを所望の出力に応じた大きさにカットして用いるものであってもよい。さらに、複数の発電デバイスが上下に重なり合った状態で用いるものであってもよい。
【0042】
発電デバイスがシート状である場合の厚みは特に制限されず、発電デバイスの用途等に応じて選択できる。例えば、0.1mm~5mmの範囲(ただし、上述したその他の部材の厚みを除く)から選択することができる。発電デバイスがシート状である場合の構成としては、アノード及びカソードの少なくとも一方が形成された基材と、燃料を含む基材とを含む積層物が挙げられる。
【0043】
本発明の発電デバイスは、使用時に液体を供給すると発電するデバイスとして種々の用途に好適に用いることができる。
例えば、発電デバイスを皮膚、衣服、おむつ等の被着体に貼り付けて、被着体から供給される汗、尿、涙、血液等の体液中の物質を簡便な方法で測定できるため、健康管理や体力トレーニング管理用のデバイスとして有用である。
【0044】
<発電方法>
本発明の発電方法は、本発明の発電デバイスに液体を供給する工程を含む。
供給される液体は、発電デバイスに含まれる燃料の酸化が生じて発電が生じるものであれば特に制限されない。例えば、水及び水を含む混合液(体液等)が挙げられる。
供給される液体の量は、発電デバイスの発電が生じうる量であれば特に制限されない。例えば、供給される液体と発電デバイスに含まれる燃料とが混合したときの燃料の濃度が、使用温度において0.01mol/dm~10mol/dmの範囲となる量であることが好ましく、0.1mol/dm~3mol/dmの範囲となる量であることがより好ましい。
【0045】
<濃度測定方法>
本発明の濃度測定方法は、本発明の発電デバイスに液体を供給する工程と、前記液体中に含まれる物質(測定対象物質)の濃度を測定する工程と、を含む。
本発明の濃度測定方法は、燃料の酸化を促進する酵素に加えて測定対象物質の酸化を促進する酵素をさらに含むアノードを有する発電デバイスを用いることで行うことができる。この場合の発電デバイスの詳細については、上述したとおりである。濃度の測定は、発電デバイスの出力の大きさや出力の変動を利用して行うことができ、その方法は特に制限されない。
【実施例
【0046】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(1)電極パターンの形成
基材として、和紙(画仙紙「出雲」、有限会社キーノートプランニング)に撥水加工を施したものに、スクリーン印刷によりカーボンペースト(JELCON CH-10、十条ケミカル株式会社)を付与し、120℃で30分乾燥してリード部を形成した。
次いで、MgO鋳型炭素(東洋炭素株式会社)440mg、ポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ)110mg、及びイソホロン(和光純薬工業株式会社)3mLを混合してスラリー状の電極材料を調製し、これをスクリーン印刷によりリード部の上に3層重ねて付与し、45℃で30分乾燥して、16個のアノード(1個の大きさ:20mm×5mm)が直列に4個、並列に4個連結した電極パターンを形成した。
次いで、アノードを作製した基材上に、アノードと同じ電極材料をスクリーン印刷によりリード部の上に3層重ねて付与し、45℃で30分乾燥して、16個のカソード(1個の大きさ:20mm×5mm)が直列に4個、並列に4個連結した電極パターンを形成した。形成したアノードとカソードの電極パターンの平面図を図3に示す。
【0048】
(2)酵素の付与
形成した電極パターンに対してUV-O処理を15分行い、アノードに相当する部分にはさらにメディエータとしてテトラチアフルバレン(Sigma-Aldrich)飽和メタノール溶液を滴下した。
次いで、アノードに相当する部分には、グルコースオキシダーゼ(GOD、和光純薬工業株式会社)をpH7.0の1Mリン酸塩緩衝液中に分散させた液体(10unit/μL)を滴下した(アノード1個あたり20μL)。
カソードに相当する部分には、ビリルビンオキシダーゼ(BOD、天野エンザイム株式会社)を、0.01%Triton-X(Roche Diagnostics GmbH)を含むpH7.0の1Mリン酸塩緩衝液中に分散させた液体(10unit/μL)を滴下した(カソード1個あたり20μL)。
その後、減圧下で1時間乾燥して、グルコースの酸化を促進する酵素としてGODを含むアノードと、酸素の還元を促進する酵素としてBODを含むカソードを作製した。
【0049】
(3)発電デバイスの作製
基材として、和紙(画仙紙「出雲」、有限会社キーノートプランニング)に、グルコースを含むpH7.0の1Mリン酸塩緩衝液(グルコース濃度:0.1mol/dm)を滴下(1ml/cm)し、100℃で30分乾燥させて、グルコースを含有する基材を作製した。これを作製したアノード及びカソードの上に配置して、評価用の発電デバイスを作製した。
【0050】
(4)出力の評価
リニアスイープボルタンメトリーにより、作製した発電デバイスの出力評価を行った。測定は二電極法で行い、測定条件は走査電位開回路電圧0V、走査速度1mV/sとした。液体の供給は、pH7.0の1Mリン酸塩緩衝液を滴下(1ml/cm)することで行った。得られた電流-電圧曲線を図4に示す。
【0051】
参考例として、グルコースを含有する基材の代わりに、グルコースを含有させない基材をアノード及びカソードの上に配置した以外は実施例1と同様にして、評価用の発電デバイスを作製した。
次いで、液体の供給を、グルコースを含むpH7.0の1Mリン酸塩緩衝液(グルコース濃度:0.1mol/dm)を滴下(1ml/cm)することで行った以外は実施例と同様にして、出力の評価を行った。得られた電流-電圧曲線を図4に示す。
【0052】
図4に示すように、実施例1で作製した発電デバイスの開回路電圧は2.13Vであり、最大出力は0.84mWであり、参考例で作製した発電デバイスの最大出力(0.94mW)の約89%の出力が得られた。
【0053】
以上の結果から、本発明の発電デバイスによれば、燃料を含む液体を供給するタイプの参考例の発電デバイスに比べても遜色ない出力が得られることがわかった。また、本発明の発電デバイスによれば、供給される液体が燃料を含むか否か、又は液体中の燃料の濃度に関わらず、安定した出力を得られることが示唆された。
【0054】
<実施例2>
(1)電極パターンの形成
基材として、和紙(画仙紙「出雲」、有限会社キーノートプランニング)に撥水加工を施したものに、スクリーン印刷によりカーボンペースト(JELCON CH-10、十条ケミカル株式会社)を付与し、120℃で30分乾燥してリード部を形成した。
次いで、MgO鋳型炭素(東洋炭素株式会社)1g、ポリフッ化ビニリデン溶液(株式会社クレハ)5mL、n-メチルピロリドン2.5mLを混合してスラリー状の電極材料を調製し、これをスクリーン印刷によりリード部の上に3層重ねて付与し、60℃で30分乾燥して、実施例1と同様のアノード(1個あたり面積:20mm×5mm)とカソードの電極パターンを形成した。
【0055】
(2)酵素の付与
形成した電極パターンに対してUV-O処理を15分行い、アノードに相当する部分にはさらにメディエータとして1,2-ナフトキノン飽和溶液を滴下した。
次いで、アノードに相当する部分には、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH、和光純薬工業株式会社)をpH7.0の1Mリン酸塩緩衝液中に分散させた液体(400Ucm-2)を滴下した。
カソードに相当する部分には、ビリルビンオキシダーゼ(BOD、天野エンザイム株式会社)を、0.01%Triton-X(Roche Diagnostics GmbH)を含むpH7.0の1Mリン酸塩緩衝液中に分散させた液体(40Ucm-2)を滴下した。
その後、減圧下で1時間乾燥して、グルコースの酸化を促進する酵素としてGDHを含むアノードと、酸素の還元を促進する酵素としてBODを含むカソードを作製した。
【0056】
(3)発電デバイスの作製
基材として、和紙(画仙紙「出雲」、有限会社キーノートプランニング)に、グルコースを含むpH7.0の1Mリン酸塩緩衝液を滴下(1mL/cm)し、100℃で1時間乾燥させて、グルコースを含有する基材を作製した。これを作製したアノード及びカソードの上に配置して、評価用の発電デバイスを作製した。発電デバイスは、リン酸塩緩衝液のグルコース濃度を0.005mol/dm(a)、0.01mol/dm(b)、0.015mol/dm(c)、0.02mol/dm(d)としたものをそれぞれ作製した。
【0057】
(4)出力の評価
リニアスイープボルタンメトリーにより、作製した発電デバイスの出力評価を行った。測定は二電極法で行い、測定条件は走査電位開回路電圧0V、走査速度1mV/sとした。液体の供給は、超純水を滴下(1mL/cm)することで行った。得られた電流-電圧曲線を図5に示す。
【0058】
図5に示すように、実施例2で作製した発電デバイスの開回路電圧は0.57Vであり、最大出力はグルコース濃度が0.02mol/dm(20mM)のときに0.116mW-2であった。以上から、燃料としてグルコースを含む発電デバイスに水を供給することで発電できること、及び出力にグルコース濃度依存性があることが確認できた。
【0059】
<実施例3>
GDHの代わりに乳酸オキシダーゼ(開発品、LOx、40Ucm-2)を用いてアノードを作製したことと、グルコースの代わりに乳酸を含むpH7.0の1Mリン酸塩緩衝液を用いたこと以外は実施例2と同様にして、発電デバイスを作製した。発電デバイスは、リン酸塩緩衝液の乳酸濃度を0mol/dm(a)、0.01mol/dm(b)、0.1mol/dm(c)としたものをそれぞれ作製した。得られた電流-電圧曲線を図6に示す。
【0060】
図6に示すように,実施例3で作製した発電デバイスの開回路電圧は0.50Vであり、最大出力は乳酸濃度が0.1mol/dm(100mM)のときに0.065mW-2であった。以上から、燃料として乳酸を含む発電デバイスに水を供給することで発電できること、及び出力に乳酸濃度依存性があることが確認できた。
【0061】
<発電デバイスの応用例>
実施例の結果から、本発明の発電デバイスは、燃料をグルコース以外のものに変更しても、その酸化を促進する酵素を適切に組み合わせることで充分な出力が得られることがわかった。この機能を利用することで、例えば、図7に示すような構成のウェアラブルデバイスの作製が可能になると考えられる。図7に示すウェアラブルデバイスは、グルコースの酸化を促進する酵素(GOD又はGDH)を含むアノードと、乳酸の酸化を促進する酵素(LOx)を含むアノードの両方を備えている。これにグルコースを仕込んだ基材を組み合わせると、例えば、ウェアラブルデバイスが接触している皮膚から供給される汗によってグルコースが溶け出し、これを駆動力として(無線伝送可能な)電流計を駆動させて、汗に含まれる乳酸の量を電流値からモニタリングすることができるように構成されている。これにより、例えば、乳酸の量にもとづいた着用者の疲労度などの評価が可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7