(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】乳化組成物及び飲食品
(51)【国際特許分類】
A23D 7/005 20060101AFI20220106BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20220106BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20220106BHJP
【FI】
A23D7/005
A23D7/00 504
A23L33/115
(21)【出願番号】P 2020198885
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2021-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591112371
【氏名又は名称】キユーピー醸造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】小林 英明
(72)【発明者】
【氏名】飛彈 真由美
(72)【発明者】
【氏名】三上 晃史
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/094753(WO,A1)
【文献】特開2020-089270(JP,A)
【文献】特開2008-148692(JP,A)
【文献】特開2016-073269(JP,A)
【文献】特開2017-143753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D,A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品に油脂を添加するための乳化組成物であって、
前記乳化組成物が、油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有し、
前記油脂の含有量が、前記乳化組成物の全量に対して、5質量%以上
60質量%以下であり、
前記イオン性界面活性剤の含有量が、前記乳化組成物の全量に対して、0.3質量%以上6.0質量%以下であり、
前記イオン性界面活性剤が、少なくともレシチン及び/又はリゾレシチンを含み、
20℃での比重が1.0以上であり、
20℃での粘度が
30,000mPa・s以下であり、
20℃での下記方法により算出したL2値-L1値が正であることを特徴とする、乳化組成物。
L1値:乳化組成物の明度の値
L2値:乳化組成物に100質量倍の清水を添加して得られた乳化組成物の明度の値
【請求項2】
前記イオン性界面活性剤の含有量が、前記油脂の含有量1質量部に対して0.15質量部以下であることを特徴とする、
請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
前記多価アルコールが糖アルコールを含むことを特徴とする、
請求項1または2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
前記糖アルコールの平均分子量が、100以上2000以下であることを特徴とする、
請求項3に記載の乳化組成物。
【請求項5】
前記多価アルコールの含有量が、前記乳化組成物の全量に対して、固形分換算で20質量%以上であることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の乳化組成物。
【請求項6】
水分含有量が、前記乳化組成物の全量に対して、5質量%以上であることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載の乳化組成物。
【請求項7】
前記L2値-L1値が10.0以上であることを特徴とする、
請求項1~6のいずれか一項に記載の乳化組成物。
【請求項8】
前記飲食品が、飲料、汁物、流動状栄養食品、並びに、咀嚼及び/または嚥下困難者用飲食品からなる群から選択されることを特徴とする、
請求項1~7のいずれか一項に記載の乳化組成物。
【請求項9】
前記飲食品が、流動状栄養食品、または、咀嚼及び/または嚥下困難者用飲食品
であることを特徴とする、
請求項1~8のいずれか一項に記載の乳化組成物
。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の乳化組成物が添加された飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化組成物に関する。特に、本発明は、油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有する乳化組成物に関する。また、本発明は、当該乳化組成物が添加された飲食品にも関する。
【背景技術】
【0002】
脂質は、三大栄養素のひとつとして挙げられるほど、人体にとって重要な栄養素である。一方で、肥満の原因として、暫くの間、積極的に摂取することは避けられてきた。しかし、近年の研究結果より、肥満の原因栄養素としては、脂質より糖質が注目されてきている。さらに、オメガ3油脂(DHA、EPAやαリノレン酸)等の機能性油脂についての認知も広まってきており、積極的に油脂を摂取する需要が高まってきた。
また、高齢化が進む我が国においては、低栄養が重要な社会課題となっている。低栄養の予防、改善にはエネルギー、タンパク質の欠乏状態を解消する必要がある。エネルギーを作る栄養素としては、糖質と脂質とたんぱく質の3つがあり、糖質1gは4kcal、脂質1gは9kcal、たんぱく質1gは4kcalのエネルギーに相当する。つまり、最も効率よくエネルギーを摂取するには、食生活に油脂をとり入れることである。さらにいえば、咀嚼や嚥下が困難となり固形のものを摂取しづらく、嚥下調整食を常食している人は、肉や魚から油脂を摂取することが難しいため、食生活に油脂をとり入れることは極めて重要な課題のひとつである。
【0003】
しかし、通常、油脂は水と容易に混合されないため、例えば飲料に添加する場合には分離してしまい、普段の食生活に取り入れるためには工夫が必要であった。分離した状態の油脂を多く摂取すると、下痢を引き起こしやすくなることなどもあり注意が必要である。このような現状に鑑み、油脂を乳化させた上で粉末化し、液体に容易に溶かし、乳化状態にする技術が開示されている。しかしながら、この方法では、粉末化のための設備が必要であり、製造工程が煩雑であった。そこで、高油分でありながら水に希釈後に微細な油滴となる乳化組成物として、多価アルコール、60質量%以上90質量%未満の油溶性物質(乳化剤を除く)、及び構成脂肪酸の51質量%以上が炭素数10以上でありHLB値が10より大かつヨウ素価が10未満の乳化剤(A)を含有し、HLB値が10より大かつヨウ素価が10以上の乳化剤(B)の含量が5質量%未満であり、HLB値が10以下の油溶性乳化剤(C)の含量が前記乳化剤(A)と前記乳化剤(B)の合計含量の1/20未満であるO/D型乳化組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されるような乳化組成物は、油脂含有量が多いため高粘度、低比重であり、飲食品への油脂添加の作業性に劣る。そのため、依然として、飲食品に油脂を添加した際に、最低限の撹拌で油脂の分散性を向上できる技術が望まれている。特に、工業的に食品を製造する工程の一部として油脂の添加作業を行う場合には、少なからず全体をかき混ぜる程度の撹拌機能を有する設備で行うことが一般的である。この点では、ある一定の分散容易性があれば十分であるが、その一方で、家庭や、施設・事業所等で消費者が喫食する直前に、飲食物に油脂を添加する場合は、それこそ最低限の撹拌で分散することが可能になることで、使いやすさは格段に向上する。
【0006】
したがって、本発明の目的は、飲食品に添加することで、飲食品中に油脂を容易に均一分散させることができる乳化組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して誠意検討した結果、乳化組成物において、粘度を調節し、かつ、乳化組成物の明度および乳化組成物の希釈物の明度の差を調節することにより、上記の課題を解決できることを知見した。本発明者らは、このような知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様によれば、
飲食品に油脂を添加するための乳化組成物であって、
前記乳化組成物が、油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有し、
前記油脂の含有量が、前記乳化組成物の全量に対して、5質量%以上65質量%以下であり、
前記イオン性界面活性剤の含有量が、前記乳化組成物の全量に対して、0.3質量%以上6.0質量%以下であり、
前記イオン性界面活性剤が、少なくともレシチン及び/又はリゾレシチンを含み、
20℃での比重が1.0以上であり、
20℃での粘度が60,000mPa・s以下であり、
20℃での下記方法により算出したL2値-L1値が正であることを特徴とする、乳化組成物が提供される。
L1値:乳化組成物の明度の値
L2値:乳化組成物に100質量倍の清水を添加して得られた乳化組成物の明度の値
【0009】
本発明の態様においては、前記イオン性界面活性剤の含有量が、前記油脂の含有量1質量部に対して0.15質量部以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の態様においては、前記多価アルコールが糖アルコールを含むことが好ましい。
【0011】
本発明の態様においては、前記糖アルコールの平均分子量が、100以上2000以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の態様においては、前記多価アルコールの含有量が、前記乳化組成物の全量に対して、固形分換算で20質量%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の態様においては、水分含有量が、前記乳化組成物の全量に対して、5質量%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の態様においては、前記L2値-L1値が10.0以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の態様においては、前記飲食品が、飲料、汁物、流動状栄養食品、並びに、咀嚼及び/または嚥下困難者用飲食品からなる群から選択されることが好ましい。
【0016】
本発明の別の態様によれば、
流動状栄養食品、または、咀嚼及び/または嚥下困難者用飲食品に油脂を添加するための乳化組成物であって、
20℃での粘度が60,000mPa・s以下であり、
20℃での下記方法により算出したL2値-L1値が正であることを特徴とする、乳化組成物が提供される。
L1値:乳化組成物の明度の値
L2値:乳化組成物に100質量倍の清水を添加して得られた乳化組成物の明度の値
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、
上記の乳化組成物が添加された飲食品が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、飲食品に添加することで、飲食品中に油脂を容易に均一分散させることができる乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<乳化組成物>
本発明の乳化組成物は、通常、油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有するものであり、飲食品に油脂を容易に添加するためのものである。本発明の乳化組成物を飲食品に添加することで、飲食品中に容易に油脂を均一分散させることができる。
【0020】
(飲食品)
本発明において、飲食品は、特に限定されず、従来公知の飲食品であってよい。飲食品としては、例えば、飲料、汁物(スープやカレー、シチュー等)、流動状栄養食品、咀嚼及び/または嚥下困難者用飲食品(例えばムース食、ピューレ食など)、ヨーグルト、調味料等を挙げることができる。飲食品は流動性のあるものが好ましい。特に、栄養を補給する目的において、摂取直前に油脂を必要量に応じて容易に混合することに特に有用性があるという点で、流動状栄養食品や咀嚼及び/または嚥下困難者用飲食品に添加することが好適である。流動性がないものでも、製造工程上流動性を有する時点で添加したり、流動性のある他の原料に予め添加したりすることができる。
【0021】
(L値)
乳化組成物は、20℃での測色色差計を用いた色の明度を表すL値の測定において、乳化組成物の明度L1値と、乳化組成物に100質量倍の清水を添加して得られた場合の明度L2値との差(L2値-L1値)が正となる性質を有するものである。
【0022】
L値は色の明度を表す数値であり、値が大きいほど明るい色であることを示す。乳化組成物の場合、乳化粒子が微細化するほど散乱光量が増加して白っぽくなるため、L値が大きくなる。本発明におけるL値の変化は、乳化組成物が水の添加によって相転移し、油脂が微細粒子化した乳化組成物となって白濁して透明度が低下するために起こるものである。なお、本発明において、L値は測色色差計(商品名「Color Meter ZE-2000」:日本電色工業社製)を用いて測定することができる。
【0023】
油脂に水を添加することによって容易に油脂が微粒子化した乳化状態(O/W乳化)となる性質を「自己乳化性」という。本発明の乳化組成物は、水の添加により自己乳化してO/W乳化組成物となる前の状態が維持されたものである。自己乳化性は、液晶、界面活性剤が無限に会合した両連続マイクロエマルション(BCME;bicontinuous microemulsion)等、分子が無限に会合した無限会合体が形成された系に見られる特徴であり、系の安定性と自己乳化性の高さは比例関係にある。本発明の乳化組成物の構造の詳細は明らかではないが、水の添加によって自己乳化性を示すことから、無限会合体が形成された系又はそれに類する状態を有する系であると推測される。本発明の乳化組成物には、添加直後に容易に乳化させることができるため、家庭や、施設・事業所等で使用する際の作業性を向上させることができる。また、本発明の乳化組成物は、事前に乳化させる必要が無いため、油脂の酸化劣化を防止することもできる。
【0024】
本発明の乳化組成物の自己乳化性が高いと多量の水を添加した場合に得られるO/W乳化組成物中の油脂粒子の大きさも小さくなり、その結果、L2値は大きくなる。自己乳化性の高さは上述のとおり乳化組成物の安定性と比例関係にあることから、L2値は乳化組成物の安定性を表すこととなる。したがって、乳化組成物(水添加前の状態)のL1値と、乳化組成物に100質量倍の水を添加して得られた乳化組成物のL2値との差(L2値-L1値)が大きいほど、乳化組成物はその構造を安定に維持しており、容易に乳化させることができる。
【0025】
本発明においては、乳化組成物のL2値-L1値は正であり、好ましくは10以上であり、より好ましくは15以上である。乳化組成物のL2値-L1値が正であれば、乳化組成物を容易に乳化させることができ、作業性を向上させることができる。
【0026】
(乳化組成物の比重)
乳化組成物の比重は、通常1.0以上であり、好ましくは1.03以上であり、より好ましくは1.05以上であり、さらに好ましくは1.10以上であり、また、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.4以下であり、さらに好ましくは1.3以下である。乳化組成物の比重が1.0未満であると、飲食品へ添加した際に乳化組成物自体が液面に浮遊しやすく、効率的に分散させることが難しい。一方、乳化組成物の比重が1.0以上であれば、飲食品へ添加した際に、飲食品へと沈降しやすく、容易に油脂を分散させることができる。
なお、乳化組成物の比重は、下記の比重測定方法にて測定することができる。
比重測定方法:目盛り付き遠沈管に乳化組成物5.00gを精秤し、遠心分離(2,000rpm、5分間)にて気泡を除去する。この乳化組成物の容量を、試料温度20.0℃において目盛りから計測する。対照としてイオン交換水について同様に計測したところ容量は5.00mLであった。これらの計測結果に基づき、下記の式により乳化組成物の比重を算出する。
比重=5.00mL/(各乳化組成物の容量mL)
【0027】
(乳化組成物の粘度)
乳化組成物の粘度は、20℃において、60,000mPa・s以下であり、好ましくは40,000mPa・s以下であり、より好ましくは30,000mPa・s以下であり、さらに好ましくは15,000mPa・s以下であり、さらにより好ましくは10,000mPa・s以下であり、最も好ましくは6,000mPa・s以下であり、また、好ましくは100mPa・s以上であり、より好ましくは500mPa・s以上であり、さらに好ましくは1,000mPa・s以上である。乳化組成物の粘度が上記範囲内であれば、飲食品への添加時の作業性を向上させることができる。
なお、乳化組成物の粘度は、BL形粘度計を使用し、品温20℃、回転数6rpmの条件で、粘度が3000mPa・s未満のとき:ローターNo.2、3000mPa・s以上5000mPa・s未満以上のとき:ローターNo.3、5000mPa・s以上のとき:ローターNo.4を使用し、測定開始後3分後の示度により算出した値である。
【0028】
(油脂)
乳化組成物に配合する油脂としては、特に限定されず従来公知の食用油脂を用いることができる。具体的には、食用油脂として、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、パーム油、綿実油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル等の植物油脂、魚油、DHA含有藻類油、牛脂、豚脂、鶏脂、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂等を用いることができる。また、これら天然油脂にファイトケミカル類(ビタミンK、ビタミンD、トコフェロール、トコトリエノール、γオリザノール、ポリフェノールなど)が含有されていると健康面からもより好ましい。これらの中でも植物油脂を用いることが好ましく、菜種油、大豆油、コーン油、又はこれらの混合油を用いることがより好ましい。
【0029】
油脂の含有量は、乳化組成物の全量に対して、通常5質量%以上65質量%以下であり、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以下であり、また、好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上であり、さらにより好ましくは20質量%以上である。油脂の含有量が65質量%を超えると比重が低くなり、飲食品に添加した際に油脂が浮遊して、分散性が悪化する恐れがある。そのため、油脂の含有量を65質量%以下に調節して、比重を所望の範囲に調節した乳化組成物を飲食品に添加することで、飲食品中に油脂を容易に均一分散することができる。
【0030】
(イオン性界面活性剤)
乳化組成物に配合するイオン性界面活性剤は、水に溶解した際に電離してイオンを生成するものである。特に両性イオン性界面活性剤を使用することで、界面活性剤の含有量が少量でも乳化組成物の乳化状態を安定に維持することができ、粘度や風味の調整が容易となる。一方、非イオン性界面活性剤を用いて乳化状態を安定に維持するためには、多量の界面活性剤の配合が必要となり、物性や風味、コストの面でも好ましくない。本発明においては、乳化組成物の乳化状態を形成し易いことから、イオン性界面活性剤の中でも、レシチン(リン脂質)を用いるとよい。リン脂質は、リン酸エステル及びホスホン酸エステルを有する脂質であり、親水性基と疎水性基の両方を持つ両親媒性物質である。リン脂質には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール等のグリセロールを骨格とするグリセロリン脂質、スフィンゴエミリン等のスフィンゴシンを骨格とするスフィンゴリン脂質がある。リン脂質の中でもホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールを用いるのがよく、これらリン脂質を含有する混合物を用いるのがよい。
【0031】
レシチンとしては、大豆レシチン、菜種レシチン、及びヒマワリレシチン等の植物レシチン、並びに卵黄レシチン等が挙げられ、植物レシチンを用いることが植物由来のため好ましい。レシチンを用いることで、水分含有量が多い場合であっても、乳化状態を維持し易くなる。なお、リン脂質を含有する混合物を用いる場合は、含まれているリン脂質部分が本発明のイオン性界面活性剤に相当する。例えば、卵黄レシチン(PL-30、LPL-20S:キユーピー(株)製、等)を用いる場合、混合物に含まれているリン脂質が本発明のイオン性界面活性剤に相当し、卵黄油の部分は本発明の油脂に相当する。
【0032】
(リゾリン脂質)
本発明においては、上述のレシチン(リン脂質)をリゾ化したリゾレシチン(リゾリン脂質)を用いてもよい。リゾリン脂質を用いると、乳化組成物の乳化状態をさらに安定に維持することができ、粘度や風味の調整がより容易となる。リゾリゾレシチンとしては、例えば、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルイノシトールを用いることが好ましい。
【0033】
イオン性界面活性剤の含有量は、乳化組成物の全量に対して、通常0.3質量%以上6.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上5.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.6質量%以上5.0質量%以下である。また、イオン性界面活性剤の含有量は、油脂の含有量1質量部に対して、好ましくは0.15質量部以下であり、より好ましくは0.10質量部以下であり、さらに好ましくは0.09質量部以下である。イオン性界面活性剤の含有量が上記範囲内であれば、乳化組成物の粘度を低く保って、乳化組成物を飲食品に添加することで、飲食品中に油脂を容易に均一分散することができる。
【0034】
(多価アルコール)
乳化組成物に配合する多価アルコールとは、分子内に2つ以上のヒドロキシ基を有するアルコールの総称であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はこれらの重合体、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール等のアルカンジオール、マルチトール、ラクチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、還元パラチノース、還元水あめ等の糖アルコール等が挙げられる。これらの中でもグリセリン、糖アルコールが好ましく、糖アルコールがより好ましい。さらに、糖アルコールの平均分子量は、100以上2000以下が好ましく、150以上1000以下がより好ましい。糖アルコールの平均分子量が上記範囲内であれば、飲食品に添加した際に、飲食品の風味に影響を及ぼさずに、飲食品中に油脂を容易に均一分散させることができる。
【0035】
多価アルコールの含有量は、乳化組成物の全量に対して、前記乳化組成物全量に対して、固形分換算で、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、さらにより好ましくは35質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上である。多価アルコールの含有量が上記数値範囲内であれば、乳化組成物を飲食品に添加することで、飲食品中に油脂を容易に均一分散させることができる。
【0036】
(水分)
乳化組成物は、乳化や粘度の調節のために水分を含んでもよい。水分の調節には、清水を配合してもよく、水分を含有する配合原料、例えば多価アルコールとして含水した液糖等を配合してもよい。
【0037】
水分含有量は、乳化組成物の全量に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは13質量%以上であり、さらよりに好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは22質量%以下である。水分含有量を上記数値範囲内に調節することで、乳化組成物を飲食品に添加した際に、飲食品中での油脂の分散性を良好にすることができる。
【0038】
(他の原料)
乳化組成物は、上述した原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で乳化組成物に通常用いられている各種原料を適宜選択して配合することができる。他の原料としては、例えば、酢酸、クエン酸、アミノ酸、食塩、甘味料、増粘剤、着色料、香料、保存料等が挙げられる。
【0039】
(乳化組成物の調製方法)
乳化組成物の調製方法は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。例えば、撹拌タンクに、イオン性界面活性剤、多価アルコール、及び必要に応じて清水、食塩や甘味料等の他の原料を投入し、ミキサーを用いて撹拌混合して均一な状態とした後、撹拌しながら食用油脂を徐々に添加して、乳化組成物を調製することができる。
【0040】
(製造装置)
本発明の乳化組成物の調製には、通常の食品製造に使われる装置を用いることができる。このような装置としては、例えば、一般的な撹拌機、スティックミキサー、スタンドミキサー、ホモミキサー、ホモディスパー等が挙げられる。撹拌機の撹拌羽形状としては、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、アンカー翼等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0042】
[実施例1~8、比較例1~4]
<乳化組成物の調製>
表1に記載の配合割合に準じて、乳化組成物を調製した。具体的には、ガラス製のビーカーに多価アルコール(糖アルコール(平均分子量150以上1000以下のもの)又はグリセリン)と、イオン性界面活性剤としてリゾリン脂質(卵黄レシチンのリゾ化物)と、必要に応じて水とを添加して、アンカーを付けたプロペラ撹拌機で撹拌混合して均一な状態とした。その後、撹拌を続けたまま食用油脂(菜種油等)を徐々に添加して、乳化組成物を調製した。
【0043】
<乳化組成物の評価>
(L値の測定)
上記で調製した乳化組成物を用い、20℃において下記の方法で水希釈前後の各試料のL値を3回測定してその平均値を算出し、L2値-L1値の値を算出した。
[測定装置]
測色色差系(Color Meter ZE-2000、日本電色工業社製)
[測定条件]
L1値:乳化組成物の明度の値
円形セルに水希釈前の乳化組成物1.5gを入れて測定に供した。
L2値:乳化組成物に清水で100質量倍を添加して得られた乳化組成物の明度の値
ビーカーに希釈前の乳化組成物0.2gを採取し、清水20.0g添加して撹拌した。得られた水希釈後の試料1.5gを円形セルに入れ、測定に供した。
【0044】
(比重測定)
上記で調製した乳化組成物について、下記の比重測定方法にて比重を測定し、測定結果を表1に示した。
比重測定方法:目盛り付き遠沈管に乳化組成物 5.00g を精秤し、遠心分離(2,000rpm、5分間)にて気泡を除去した。この乳化組成物の容量を、試料温度20.0℃において目盛りから計測した。対照としてイオン交換水について同様に計測したところ容量は5.00mLであった。これらの計測結果に基づき、下記の式により乳化組成物の比重を算出した。
比重=5.00mL/(各乳化組成物の容量mL)
なお、乳化組成物が製造直後に分離したために測定できなかった比較例1及び2については、表1において未測定(「-」)と示した。
【0045】
(粘度測定)
上記で調製した乳化組成物について、BL形粘度計を使用し、品温20℃、回転数6rpmの条件で、粘度が3000mPa・s未満のとき:ローターNo.2、3000mPa・s以上5000mPa・s未満以上のとき:ローターNo.3、5000mPa・s以上のとき:ローターNo.4を使用し、測定開始後3分後の示度により、粘度(mPa・s)を算出した。各乳化組成物について、粘度測定を3回行って平均値を採用し、測定結果を表1に示した。なお、乳化組成物が製造直後に分離したために測定できなかった比較例1及び2については、表1において未測定(「-」)と示した。
【0046】
(油脂の添加容易性1)
<飲料水への添加試験>
飲料水に上記で調製した実施例1~8及び比較例1~4の乳化組成物を添加した際の油脂の添加容易性について、下記の基準で評価を行った。評価結果を表1に示した。下記の評価は、評価が2点以上であれば、良好な結果であると言える。なお、乳化組成物が製造直後に分離したために測定できなかった比較例1及び2については、表1において未測定(「-」)と示した。
[乳化組成物の添加容易性の評価基準]
5:薬さじで簡単に撹拌しただけですぐに乳化し、塊状のものは残らなかった。
4:薬さじで簡単に撹拌したところ乳化し、塊状のものは残らなかった。
3:薬さじで簡単に撹拌してしばらく混ぜると乳化したが、塊状のものが少し残った。
2:薬さじで強く撹拌してしばらく混ぜると乳化したが、塊状のものが少し残った。
1:薬さじで強く撹拌してしばらく混ぜてもあまり乳化せず、塊状のものが多く残った。
【0047】
(油脂の添加容易性2)
<流動状栄養食品への添加試験>
メイバランスMiniカップ(株式会社明治製)に上記で調製した実施例1~8及び比較例1~4の乳化組成物を添加した際の油脂の添加容易性について、上記と同様の基準で評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0048】
【0049】
表1の結果から明らかなように、実施例1~4の乳化組成物はいずれも、飲料及び流動状栄養食品に添加した際に薬さじで簡単に撹拌しただけですぐに乳化し、塊状のものは残らなかった。但し、実施例1の乳化組成物は、油脂の含有量が少ないため、飲食品に油脂を添加する目的では不十分であった。
実施例5の乳化組成物は、飲料及び流動状栄養食品に添加した際に薬さじで簡単に撹拌したところ乳化し、塊状のものは残らなかった。
実施例6及び8の乳化組成物はいずれも、飲料及び流動状栄養食品に添加した際に薬さじで簡単に撹拌してしばらく混ぜると乳化したが、塊状のものが少し残った。
実施例7の乳化組成物は、飲料及び流動状栄養食品に添加した際に薬さじで強く撹拌してしばらく混ぜると乳化したが、塊状のものが少し残った。
比較例3及び4の乳化組成物はいずれも、飲料及び流動状栄養食品に添加した際に薬さじで強く撹拌ししばらく混ぜてもあまり乳化せず、塊状のものが多く残った。
【0050】
(油脂の添加容易性3)
<野菜スープへの添加試験>
国産6種野菜のスープ(エム・シーシー食品株式会社製)に上記で調製した実施例1~4の乳化組成物を添加した際の油脂の添加容易性について、上記と同様の基準で評価を行った。
その結果、実施例1~4の乳化組成物はいずれも、野菜スープに添加した際に薬さじで簡単に撹拌しただけですぐに乳化し、塊状のものは残らなかった。
【0051】
(油脂の添加容易性4)
<嚥下困難者用食品への添加試験>
嚥下困難者用食品(やさしい献立 なめらか野菜 にんじん:キユーピー株式会社製)に上記で調製した実施例1~4の乳化組成物を添加した際の油脂の添加容易性について、上記と同様の基準で評価を行った。
その結果、実施例1~4の乳化組成物はいずれも、嚥下困難者用食品に添加した際に薬さじで簡単に撹拌しただけですぐに乳化し、塊状のものは残らなかった。
【要約】
【課題】飲食品に添加することで、飲食品中に油脂を容易に均一分散させることができる乳化組成物の提供。
【解決手段】本発明は、飲食品に油脂を添加するための乳化組成物であって、
前記乳化組成物が、油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有し、
前記油脂の含有量が、前記乳化組成物の全量に対して、5質量%以上65質量%以下であり、
前記イオン性界面活性剤の含有量が、前記乳化組成物の全量に対して、0.3質量%以上6.0質量%以下であり、
前記イオン性界面活性剤が、少なくともレシチン及び/又はリゾレシチンを含み、
20℃での比重が1.0以上であり、
20℃での粘度が60,000mPa・s以下であり、
20℃での下記方法により算出したL2値-L1値が正であることを特徴とする、乳化組成物。
L1値:乳化組成物の明度の値
L2値:乳化組成物に100質量倍の清水を添加して得られた乳化組成物の明度の値
【選択図】なし