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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
G01N23/223
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017170813
(22)【出願日】2017-09-06
(65)【公開番号】P2019045402
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】深井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】的場 吉毅
(72)【発明者】
【氏名】大柿 真毅
【審査官】佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-292728(JP,A)
【文献】特開昭60-078310(JP,A)
【文献】特開2007-225469(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0278303(US,A1)
【文献】特開2007-315927(JP,A)
【文献】国際公開第2006/049051(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC
G01N 23/00-G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収納可能な試料容器と、
前記試料に対して一次X線を照射するX線源と、
前記一次X線を照射された前記試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、
前記試料容器内の前記試料に対して前記一次X線を照射する範囲を変更可能な照射範囲変更機構とを備え、
前記照射範囲変更機構が、少なくとも前記検出器に対向する前記試料容器の壁面寄りの前記試料に前記一次X線を照射する部分照射と、
前記部分照射よりも広い領域で前記試料容器内の前記試料に前記一次X線を照射する広範囲照射とに変更可能であり、
前記試料容器が、前記一次X線が透過可能な第1の壁面と前記蛍光X線が透過可能な第2の壁面とを有し、
前記X線源が、前記第1の壁面に隣接配置されていると共に、前記検出器が、前記第2の壁面に隣接配置され、
前記照射範囲変更機構が、前記部分照射の際に、前記第2の壁面の内面近傍に前記一次X線を照射することを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
試料を収納可能な試料容器と、
前記試料に対して一次X線を照射するX線源と、
前記一次X線を照射された前記試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、
前記試料容器内の前記試料に対して前記一次X線を照射する範囲を変更可能な照射範囲変更機構とを備え、
前記照射範囲変更機構が、少なくとも前記検出器に対向する前記試料容器の壁面寄りの前記試料に前記一次X線を照射する部分照射と、
前記部分照射よりも広い領域で前記試料容器内の前記試料に前記一次X線を照射する広範囲照射とに変更可能であり、
前記試料が、軽元素を主成分とし、
前記照射範囲変更機構が、前記試料中の元素のうちCd,Sn,Sb,Baの少なくとも一つを検出する際に前記広範囲照射に切り替え、前記試料中の元素のうちAs,Pb,Hg,Brの少なくとも一つを検出する際に前記部分照射に切り替え可能であることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置において、
前記照射範囲変更機構が、前記X線源と前記試料容器との間に配され前記一次X線を透過可能な複数の透過窓を有するコリメータと、
複数の前記透過窓のうち任意の一つに前記一次X線を透過可能に前記コリメータを前記X線源に対して相対的に移動可能なコリメータ移動機構とを備え、
前記コリメータが、前記透過窓として、前記部分照射の際に前記検出器に近い領域に前記一次X線を照射可能な部分用透過窓と、
前記広範囲照射の際に前記部分照射よりも広い領域で前記試料容器内の前記試料に前記一次X線を照射可能な広範囲用透過窓とを有していることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置において、
前記照射範囲変更機構が、前記X線源と前記試料容器との間に配され前記一次X線を透過可能な透過窓を有するコリメータと、
前記一次X線を透過可能に前記コリメータを前記X線源に対して相対的に移動可能なコリメータ移動機構とを備え、
前記コリメータ移動機構が、前記広範囲照射の際に前記部分照射よりも広い領域で前記試料容器内の前記試料に前記一次X線を照射可能な位置に前記透過窓を移動可能であると共に、
前記部分照射の際に前記検出器に近い前記試料容器内の前記試料に前記広範囲照射よりも狭い範囲で前記一次X線を照射可能な位置に前記透過窓を移動可能であることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の蛍光X線分析装置において、
前記照射範囲変更機構が、前記蛍光X線のうち着目する元素の分析深さに応じて前記広範囲照射と前記部分照射との前記一次X線の照射領域を調整可能であることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の蛍光X線分析装置において、
前記試料が、米粒,米粉,又は流動性の固体若しくは液体であることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項7】
試料容器内の試料に対してX線源から一次X線を照射し前記試料から発生する蛍光X線を検出器で検出する蛍光X線分析方法であって、
少なくとも前記検出器に対向する前記試料容器の壁面寄りの前記試料に前記一次X線を照射する部分照射工程と、
前記部分照射工程よりも広い領域で前記試料容器内の前記試料に前記一次X線を照射する広範囲照射工程とを有し
前記試料容器が、前記一次X線が透過可能な第1の壁面と前記蛍光X線が透過可能な第2の壁面とを有し、
前記X線源を、前記第1の壁面に隣接配置すると共に、前記検出器を、前記第2の壁面に隣接配置し、
前記部分照射工程で、前記第2の壁面の内面近傍に前記一次X線を照射することを特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項8】
試料容器内の試料に対してX線源から一次X線を照射し前記試料から発生する蛍光X線を検出器で検出する蛍光X線分析方法であって、
少なくとも前記検出器に対向する前記試料容器の壁面寄りの前記試料に前記一次X線を照射する部分照射工程と、
前記部分照射工程よりも広い領域で前記試料容器内の前記試料に前記一次X線を照射する広範囲照射工程とを有し
前記試料が、軽元素を主成分とし、
前記試料中の元素のうちCd,Sn,Sb,Baの少なくとも一つを検出する際に前記広範囲照射工程に切り替え、
前記試料中の元素のうちAs,Pb,Hg,Brの少なくとも一つを検出する際に前記部分照射工程に切り替えることを特徴とする蛍光X線分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や医療品等の試料中に含まれる金属元素等の検出が可能な蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、X線源から出射されたX線を試料に照射し、試料から放出される元素固有のエネルギーを持つ蛍光X線をX線検出器で検出することで、そのエネルギーからスペクトルを取得し、試料の定性分析若しくは定量分析を行うものである。この蛍光X線分析は、試料を非破壊で迅速に分析可能なため、工程・品質管理などで広く用いられている。近年では、食品中のカドミウム(Cd)等の検出や定量などにも蛍光X線分析を用いることが検討されている。
【0003】
米粒や米粉等の軽元素を主成分とする試料では、微量に含有されるカドミウム等の重金属を検出する場合、従来、ICP(誘導プラズマ発光分析)等が行われていたが、試料を溶液化する前処理が必要であり、測定するまでに手間と時間とがかかる上に、分析者によって分析結果にばらつきが生じてしまう問題があった。しかしながら、蛍光X線分析は、前処理せずとも測定が可能であり、分析結果もICPに比べて分析者によるばらつきが小さいという利点がある。このような蛍光X線分析でも、食品中のカドミウム含有量が規制値(例えば、米の場合は0.4mg/kg以下)に対して、蛍光X線分析の検出限界は1mg/kg程度であり、十分な検出限界が得られていない。
【0004】
そこで、従来、食品等の軽元素を主成分とする試料の測定で、特にカドミウム等の比較的高エネルギーの蛍光X線を発生させる元素の規制値となる0.1mg/kgオーダーの検出限界を実現するために、試料容器に対してX線源及びX線検出器を対向するように配置させた蛍光X線分析装置が開発されている(特許文献1参照)。
この蛍光X線分析装置は、X線源及びX線検出器を試料容器により近づけることで取得するX線の感度を増加させ、さらに試料自体がX線を吸収しづらい軽元素を主成分としているため、試料容器の中でも最も感度良く測定できるX線検出器前面の領域にも十分な励起X線を照射すると共に試料容器全体も照射することで、比較的分析深さが深いカドミウム等の高エネルギーの蛍光X線を試料容器の奥側にある試料からも検出し、感度及び検出限界の向上を実現している。ここで、分析深さとは試料中の着目元素の蛍光X線が検出される深さであり、着目元素(定量しようとする元素)の蛍光X線エネルギーと試料中の主成分となるマトリックス(共存元素)とに密接に関係しており、一般的に、着目元素の蛍光X線エネルギーが高いほど、また試料中のマトリックスの平均原子番号が低いほど、分析深さが深くなる。例えば、米粒や米粉が主成分としたときの分析深さは、カドミウムで数10 mm、ヒ素で1mm程度となる。
【0005】
また、カドミウム等よりも比較的低エネルギーの蛍光X線を発生させるヒ素(As)等の元素を測定する場合、試料容器の奥側の試料で発生した蛍光X線は試料容器内で吸収されて感度向上に寄与しない上、その蛍光X線より高エネルギーの散乱X線は吸収されずにX線検出器に入射してバックグラウンド強度を増加させてしまうノイズとなることから、試料容器及び配置を変更することで、カドミウム等よりも比較的低エネルギーの蛍光X線を発生させる元素を感度良く測定する蛍光X線分析装置が開発されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4874118号公報
【文献】特許第4854005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、上記従来の蛍光X線分析装置では、例えば分析深さの異なる元素(例えば、カドミウムとヒ素)をどちらも感度良く測定しようとすると、互いに形状の異なるカドミウム用の試料容器とヒ素用の試料容器とを別々用意して、これら異なる試料容器に試料を充填して別々に測定する必要があった。そのため、必要となる試料量が多くなると共に、試料作製や測定試料の交換等の準備時間もかかってしまうという不都合があった。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、同一の試料容器で配置の変更無く分析深さの異なる元素を測定可能な蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る蛍光X線分析装置は、試料を収納可能な試料容器と、前記試料に対して一次X線を照射するX線源と、前記一次X線を照射された前記試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、前記試料容器内の前記試料に対して前記一次X線を照射する範囲を変更可能な照射範囲変更機構とを備え、前記照射範囲変更機構が、少なくとも前記検出器に対向する前記試料容器の壁面寄りの前記試料に前記一次X線を照射する部分照射と、前記部分照射よりも広い領域で前記試料容器内の前記試料に前記一次X線を照射する広範囲照射とに変更可能であることを特徴とする。
【0010】
この蛍光X線分析装置では、照射範囲変更機構が、少なくとも検出器に対向する試料容器の壁面寄りの試料に一次X線を照射する部分照射と、部分照射よりも広い領域で試料容器内の試料に一次X線を照射する広範囲照射とに変更可能であるので、着目元素の分析深さに応じて照射領域を広範囲照射と部分照射とに調整可能である。すなわち、蛍光X線エネルギーが高い着目元素を測定するときは、その分析深さに合わせた広範囲照射で行い、高エネルギーの蛍光X線を試料容器の奥側にある試料からも検出し、蛍光X線エネルギーが低い着目元素を測定するときは、分析深さが浅くなるので、それに合わせて試料容器の検出器寄りの試料に部分照射を行うことで、低エネルギーの蛍光X線を検出器に近い試料から検出し、試料容器の奥側にある試料からのノイズ成分となる散乱X線を抑制し、着目元素の蛍光X線を効率よく検出することができる。
【0011】
第2の発明に係る蛍光X線分析装置は、第1の発明において、前記照射範囲変更機構が、前記X線源と前記試料容器との間に配され前記一次X線を透過可能な複数の透過窓を有するコリメータと、複数の前記透過窓のうち任意の一つに前記一次X線を透過可能に前記コリメータを前記X線源に対して相対的に移動可能なコリメータ移動機構とを備え、前記コリメータが、前記透過窓として、前記部分照射の際に前記検出器に近い領域に前記一次X線を照射可能な部分用透過窓と、前記広範囲照射の際に前記部分照射よりも広い領域で前記試料容器内の前記試料に前記一次X線を照射可能な広範囲用透過窓とを有していることを特徴とする。
すなわち、この蛍光X線分析装置では、コリメータが、部分照射の際に検出器に近い領域に一次X線を照射可能な部分用透過窓と、広範囲照射の際に部分照射よりも広い領域で試料容器内の試料に一次X線を照射可能な広範囲用透過窓とを有しているので、コリメータ移動機構でコリメータを移動させ、一次X線を通す透過窓として広範囲用透過窓又は部分用透過窓を選択することで、広範囲照射と部分照射とを容易に切り替えることができる。
【0012】
第3の発明に係る蛍光X線分析装置は、第1の発明において、前記照射範囲変更機構が、前記X線源と前記試料容器との間に配され前記一次X線を透過可能な透過窓を有するコリメータと、前記一次X線を透過可能に前記コリメータを前記X線源に対して相対的に移動可能なコリメータ移動機構とを備え、前記コリメータ移動機構が、前記広範囲照射の際に前記部分照射よりも広い領域で前記試料容器内の前記試料に前記一次X線を照射可能な位置に前記透過窓を移動可能であると共に、前記部分照射の際に前記検出器に近い前記試料容器内の前記試料に前記広範囲照射よりも狭い範囲で前記一次X線を照射可能な位置に前記透過窓を移動可能であることを特徴とする。
すなわち、この蛍光X線分析装置では、コリメータ移動機構が、広範囲照射の際に部分照射よりも広い領域で一次X線を照射可能な位置に透過窓を移動可能であると共に、部分照射の際に検出器に近く広範囲照射よりも狭い範囲で一次X線を照射可能な位置に透過窓を移動可能であるので、透過窓の位置を調整するだけで、広範囲照射と部分照射とを容易に行うことが容易にできる。
【0013】
第4の発明に係る蛍光X線分析装置は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記照射範囲変更機構が、前記蛍光X線のうち着目する元素の分析深さに応じて前記広範囲照射と前記部分照射との前記一次X線の照射領域を調整可能であることを特徴とする。
すなわち、この蛍光X線分析装置では、照射範囲変更機構が、蛍光X線のうち着目する元素の分析深さに応じて広範囲照射と部分照射との一次X線の照射領域を調整可能であるので、着目元素に適した照射範囲により、広範囲照射と部分照射とで高精度な分析が可能になる。
【0014】
第5の発明に係る蛍光X線分析装置は、第1から第4の発明のいずれかにおいて、前記試料容器が、前記一次X線が透過可能な第1の壁面と前記蛍光X線が透過可能な第2の壁面とを有し、前記X線源が、前記第1の壁面に隣接配置されていると共に、前記検出器が、前記第2の壁面に隣接配置され、前記照射範囲変更機構が、前記部分照射の際に、前記第2の壁面の内面近傍に前記一次X線を照射することを特徴とする。
すなわち、この蛍光X線分析装置では、検出器が、第2の壁面に隣接配置され、照射範囲変更機構が、部分照射の際に、第2の壁面の内面近傍に一次X線を照射するので、試料容器の奥側の試料から散乱X線を発生させずに、第2の壁面の内面近傍にある試料から放射状に発生する蛍光X線のみを検出器が効率的に測定することができる。
【0015】
第6の発明に係る蛍光X線分析装置は、第1から第5の発明のいずれかにおいて、前記試料が、軽元素を主成分とし、前記照射範囲変更機構が、前記試料中の元素のうちCd,Sn,Sb,Baの少なくとも一つを検出する際に前記広範囲照射に切り替え、前記試料中の元素のうちAs,Pb,Hg,Brの少なくとも一つを検出する際に前記部分照射に切り替え可能であることを特徴とする。
すなわち、この蛍光X線分析装置では、照射範囲変更機構が、試料中の元素のうち比較的高エネルギーのCd,Sn,Sb,Baの少なくとも一つを検出する際に広範囲照射に切り替え、試料中の元素のうち前記Cd,Sn,Sb,Baよりも低エネルギーであるAs,Pb,Hg,Brの少なくとも一つを検出する際に部分照射に切り替え可能であるので、Cd,Sn,Sb,Baの少なくとも一つと、As,Pb,Hg,Brの少なくとも一つとを同一の試料容器で配置を変更することなく、感度良く測定することができる。
【0016】
第7の発明に係る蛍光X線分析装置は、第1から第6の発明のいずれかにおいて、前記試料が、米粒,米粉,又は流動性の固体若しくは液体であることを特徴とする。
すなわち、この蛍光X線分析装置では、試料が、米粒,米粉,又は流動性の固体若しくは液体(例えば、お粥)である場合、米粒,米粉,又は流動性の固体若しくは液体に含まれる重金属のうち分析深さの異なる複数の元素を試料容器及び配置を変更することなく、感度良く測定することができる。
【0017】
第8の発明に係る蛍光X線分析方法は、試料容器内の試料に対してX線源から一次X線を照射し前記試料から発生する蛍光X線を検出器で検出する蛍光X線分析方法であって、少なくとも前記検出器に対向する前記試料容器の壁面寄りの前記試料に前記一次X線を照射する部分照射工程と、前記部分照射よりも広い領域で前記試料容器内の前記試料に前記一次X線を照射する広範囲照射工程とを有していることを特徴とする。
すなわち、この蛍光X線分析方法では、少なくとも検出器に対向する試料容器の壁面寄りの試料に一次X線を照射する部分照射工程と、部分照射よりも広い領域で試料容器内の試料に一次X線を照射する広範囲照射工程とを有しているので、同一の試料容器のまま、広範囲照射工程で分析深さの深い元素を感度良く測定することができると共に、部分照射工程で分析深さの浅い元素を感度良く測定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法によれば、少なくとも検出器に対向する試料容器の壁面寄りの試料に一次X線を照射する部分照射と、部分照射よりも広い領域で試料容器内の試料に一次X線を照射する広範囲照射とに変更可能であるので、分析深さの深い元素を測定するときは広範囲照射を行うことで、高エネルギーの蛍光X線を試料容器の奥側にある試料からも検出し、分析深さの浅い元素を測定するときは部分照射を行うことで、低エネルギーの蛍光X線を検出器に最も近い試料から検出し、試料容器の奥側からの高エネルギーの散乱X線の発生によるノイズを抑制して効率的に低エネルギーの蛍光X線を検出することができる。
したがって、本発明の蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法では、試料容器及び配置の変更なく、分析深さの異なる複数の元素の測定が良好な感度で可能になり、必要となる試料量や測定の準備時間等を約半分に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法の第1実施形態において、広範囲照射工程(a)及び部分照射工程(b)を示すX線光学系の模式図である。
図2】第1実施形態において、コリメータを示す斜視図である。
図3】本発明に係る蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法の第2実施形態において、広範囲照射工程(a)及び部分照射工程(b)を示すX線光学系の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法の第1実施形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0021】
本実施形態の蛍光X線分析装置1は、図1に示すように、粒体状又は粉体状の試料Sを収納可能な試料容器4と、試料Sに対して一次X線X1を照射するX線源2と、一次X線X1を照射された試料Sから発生する蛍光X線X2を検出する検出器3と、試料容器4内の試料Sに対して一次X線X1を照射する範囲を変更可能な照射範囲変更機構5とを備えている。
【0022】
上記照射範囲変更機構5は、図1の(b)に示すように、少なくとも検出器3に対向する試料容器4の第2の壁面4b寄りの試料Sに一次X線X1を照射する部分照射と、図1の(a)に示すように、部分照射よりも広い領域A1で試料容器4内の試料Sに一次X線X1を照射する広範囲照射とに変更可能である。
なお、上記部分照射の際は、試料容器4内の試料Sのうち検出器3に近い領域A2に一次X線X1を照射する。
【0023】
すなわち、照射範囲変更機構5は、図1及び図2に示すように、X線源2と試料容器4との間に配され一次X線X1を透過可能な複数の透過窓6a~6cを有するコリメータ6と、複数の透過窓6a~6cのうち任意の一つに一次X線X1を透過可能にコリメータ6をX線源2に対して相対的に移動可能なコリメータ移動機構7とを備えている。
【0024】
上記コリメータ6は、一次X線X1が透過しないような元素や厚さの金属板で形成され、透過窓として、部分照射の際に検出器3に近い領域A2に一次X線X1を照射可能な部分用透過窓6bと、広範囲照射の際に部分照射よりも広い領域A1で試料容器4内の試料Sに一次X線X1を照射可能な広範囲用透過窓6aとを有している。なお、本実施形態では、部分照射よりも広い領域A1が試料容器2内の試料S全体に設定されている。
【0025】
上記広範囲用透過窓6aは、X線源2からの一次X線X1が大きな立体角で試料容器4内の試料S全体に照射されるように開口径が設定され、上記部分用透過窓6bは、試料容器4内の試料Sに小さな立体角で部分的に一次X線X1が照射されるように広範囲用透過窓6aに比べて開口径が小さく設定されている。
広範囲用透過窓6aは、コリメータ6の軸線Cに中心軸が一致しているが、部分用透過窓6bは、中心軸を軸線Cからずらして形成されている。なお、コリメータ6の軸線Cは、一次X線X1の光軸と一致するように設定されている。また、コリメータ6の軸線Cは、図1の紙面上に対して垂直方向に広範囲用透過窓6aが奥側になるように設定されている。
【0026】
また、コリメータ6は、広範囲用透過窓6a及び部分用透過窓6bの他に、軸線Cからずれた位置に開口した透過窓6cが形成されている。
上記透過窓6a~6cは、いずれも一次X線X1の照射領域や照射方向に対応して開口形状及び開口径や配置を設定した貫通孔である。
なお、これら透過窓6a~6cに、バックグランド強度を低下させるためにバックグランドとなるエネルギー帯域の一次X線を吸収するMoやZr等の一次フィルタを設置しても構わない。
【0027】
上記コリメータ6は、試料容器4とX線源2との間で移動可能に設置されている。
上記コリメータ移動機構7は、モータ等で構成され、コリメータ6を軸線C方向に移動可能であると共に、コリメータ6とX線源2との距離を調整可能である。すなわち、コリメータ移動機構7は、コリメータ6を移動させて透過窓6a~6cのいずれかをX線源2に対向配置することができる。
【0028】
上記試料容器4は、一次X線X1が透過可能な第1の壁面4aと蛍光X線X2が透過可能な第2の壁面4bとを有している。これら第1の壁面4aと第2の壁面4bとは、試料容器4のV字状の底面を構成している。
試料容器4は、比較的X線が透過し易いプラスチック等の有機材料やアルミニウム,シリコン,マグネシウム等の材質で形成されている。
なお、試料容器4は、図示しない試料台によって支持されている。例えば、試料台に開けられた設置孔に、試料容器4を上から挿入し、試料容器4の上部が設置孔に当接することで、第1の壁面4a及び第2の壁面4bが下方に露出した状態で試料容器4が設置される。
【0029】
上記X線源2は、第1の壁面4aに対向で隣接配置されていると共に、検出器3が、第2の壁面4bに隣接配置されている。すなわち、X線源2は、第1の壁面4aの外面に近接して対向配置されていると共に、検出器3は、第2の壁面4bの外面に近接して対向配置され、それぞれ試料容器4の下方に配置されている。
このように第2の壁面4bに対向で検出器3が隣接配置されているので、照射範囲変更機構5は、部分照射の際に、第2の壁面4bの内面近傍に一次X線X1を照射するように設定されている。特に、第1の壁面4aと第2の壁面4bとがV字状底面を構成しているので、X線源2と検出器3とが干渉しないので、試料容器4の各壁面に近接して配置することができる。さらに、部分照射の際に、第1の壁面4a側から第2の壁面4bの内面近傍に向けて一次X線X1を部分的に照射し易い。
【0030】
本実施形態では、試料Sが、C,O,H,N等の軽元素を主成分としたものであり、例えば米粒又は米粉,小麦粉等の穀物や豆類等の食品,医療品,化学工業製品等である。
なお、軽元素は、一次X線X1が透過しやすい元素であり、原子番号が小さい元素ほどX線の透過率が高く、C,O,H,N又はAl,Mg等の元素や、有機材料も含むものである。
【0031】
上記照射範囲変更機構5は、特に、試料S中の元素のうち蛍光X線のエネルギーが比較的高い、例えば、20~30 KeVあたりのエネルギーを発生させるCd,Sn,Sb,Ba等の元素の微量重金属を検出する際に広範囲に照射し、試料S中の元素のうち前記Cd等より低エネルギーである、例えば、10 KeVあたりのエネルギーを発生させるAs,Pb,Hg,Br等の元素の微量重金属を検出する際に検出器3寄りに狭めて部分照射することが可能である。
これらの検出対象である着目元素は、少なくとも主成分とする元素よりも大きなエネルギーの蛍光X線を発生する元素である。
【0032】
上記X線源2は、一次X線X1を照射可能なX線管球2aを備え、管球2a内のフィラメント(陰極)から発生した熱電子がフィラメント(陰極)とターゲット(陽極)との間に印加された電圧により加速されターゲットのW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)などに衝突して発生したX線を一次X線X1としてベリリウム箔などの出射窓(図示略)から出射するものである。
【0033】
上記検出器3は、X線入射窓(図示略)を介して半導体検出素子(例えば、pin構造ダイオードであるSi(シリコン)素子)(図示略)を備え、蛍光X線X2が半導体検出素子にX線光子1個が入射すると、このX線光子1個に対応する電流パルスが発生するものである。この電流パルスの瞬間的な電流値が、入射した特性X線のエネルギーに比例している。また、検出器3は、半導体検出素子で発生した電流パルスを電圧パルスに変換、増幅し、信号として出力するように設定されている。
なお、試料容器4と検出器3との間には、X線源2からの一次X線X1が直接検出器3に入射しないようにシールド板8を備えている。
【0034】
また、本実施形態の蛍光X線分析装置1は、他に分析器(図示略)と制御部(図示略)とをさらに備えている。
上記分析器は、上記信号から電圧パルスの波高を得てエネルギースペクトルを生成する波高分析器(マルチチャンネルアナライザー)である。
上記制御部は、CPU等で構成されたコンピュータであり、ディスプレイ等にも接続され、分析結果をディスプレイに表示する機能を有している。
【0035】
次に、本実施形態の蛍光X線分析装置1を用いた蛍光X線分析方法について、以下に説明する。
【0036】
まず、上記試料容器4内に粒体状又は粉体状の試料S(例えば、米粒又は米粉)を適量充填し、試料Sが充填された試料容器4を試料台にセットする。
本実施形態の蛍光X線分析方法では、試料容器4内の試料Sのうち検出器3に最も近い領域A2に一次X線X1を照射する部分照射工程と、部分照射よりも広い領域A1で試料容器4内の試料Sに一次X線X1を照射する広範囲照射工程とを有し、部分照射工程と広範囲照射工程とを切り替えて分析を行う。
【0037】
試料S中の元素のうち分析深さの深い元素、例えば、Cd,Sn,Sb,Ba等を着目元素として検出する際には、図1の(a)に示すように、広範囲照射工程により測定を行う。
すなわち、広範囲照射工程では、照射範囲変更機構5によりX線源2に広範囲用透過窓6aが対向し、出射窓を通して出射される一次X線X1の光軸XCが広範囲用透過窓6aの中心軸と同軸になるようにコリメータ6を移動させる。なお、検出器3の中心軸は、一次X線X1の光軸XCと直角に交差するように設定されている。
【0038】
この状態で、X線源2から一次X線X1が出射されると、一次X線X1が広範囲用透過窓6aを通して第1の壁面4a全体に広い立体角を持って放射され、試料容器4内の試料S全体に照射される。特に、米粒などの軽元素を主成分とする試料Sでは、一次X線X1が内部深くまで透過され試料Sの内部全体に着目元素を含めて励起させて、蛍光X線X2を発生させる。そのため、試料容器4内の試料S全体から発生した蛍光X線X2が第2の壁面4bに隣接した検出器3に入射可能である。このとき、検出器3は、高エネルギーの蛍光X線X2を試料容器4の奥側にある試料Sからも検出することができる。
【0039】
次に、試料S中の元素のうち分析深さの浅い元素、特にAs,Pb,Hg,Brの少なくとも一つを着目元素として検出する際には、図1の(b)に示すように、部分照射工程により測定を行う。
すなわち、部分照射工程では、照射範囲変更機構5によりX線源2に部分用透過窓6bが対向し、一次X線X1の光軸XCに対して部分用透過窓6bの中心軸がずれるようにコリメータ6を移動させる。このとき、コリメータ6とX線源2との位置関係は、広範囲照射工程と同じであるが、試料容器4に対して一次X線X1の照射方向と照射の立体角とが変わり、一次X線X1の照射方向は、部分用透過窓6bによって第2の壁面4bの内面近傍に向けられると共に、照射径は広範囲照射工程よりも絞られる。
【0040】
この状態で、X線源2から一次X線X1が出射窓を通して出射されると、一次X線X1が部分用透過窓6bを通して第1の壁面4aの第2の壁面4b寄りに狭い立体角を持って出射され、試料容器4内の第2の壁面4bから着目元素の分析深さに応じた領域A2にある試料Sに照射される。そのため、第2の壁面4bの内面近傍(領域A2)にある試料Sから発生した蛍光X線X2が、第2の壁面4bに隣接した検出器3に入射される。このとき、検出器3は、低エネルギーの蛍光X線X2を検出器3に近い試料Sから検出することができる。また、第2の壁面4bから離れた試料容器4の奥側には一次X線X1が照射されないので、その領域からの蛍光X線が発生せず、ノイズとなる高エネルギーの散乱X線を抑制することができる。
【0041】
このように本実施形態の蛍光X線分析装置1では、照射範囲変更機構5が、少なくとも検出器3に対向する試料容器4の第2の壁面4b寄りの試料Sに一次X線X1を照射する部分照射と、部分照射よりも広い領域A1で試料容器4内の試料Sに一次X線X1を照射する広範囲照射とに変更可能であるので、着目元素の分析深さに応じて照射領域を広範囲照射と部分照射とに調整可能である。
【0042】
すなわち、蛍光X線エネルギーが高い着目元素を測定するときは、その分析深さに合わせた広範囲照射で行い、高エネルギーの蛍光X線を試料容器4の奥側にある試料Sからも検出し、蛍光X線エネルギーが低い着目元素を測定するときは、分析深さが浅くなるので、それに合わせて試料容器4の検出器3寄りの試料Sに部分照射を行うことで、低エネルギーの蛍光X線X2を検出器3に近い試料Sから検出し、試料容器4の奥側にある試料Sからのノイズ成分となる散乱X線を抑制し、着目元素の蛍光X線X2を効率よく検出することができる。
このように、測定する元素の分析深さに合わせて照射領域を切り替えて一次X線X1のビームを照射することで、効率よく着目元素の蛍光X線X2を検出器3で効率的に検出することができる。
【0043】
特に、照射範囲変更機構5が、試料S中の元素のうちCd,Sn,Sb,Ba等を検出する際に広範囲照射に切り替え、試料S中の元素のうちAs,Pb,Hg,Br等を検出する際に部分照射に切り替え可能であるので、Cd,Sn,Sb,Ba等と、As,Pb,Hg,Br等を同一の試料容器4で配置を変更することなく、感度良く測定することができる。
【0044】
このように照射範囲変更機構5が、蛍光X線X2のうち着目する元素の分析深さに応じて広範囲照射と部分照射との一次X線X1の照射領域を調整可能であるので、着目元素に適した照射範囲により、広範囲照射と部分照射とで高精度な分析が可能になる。
また、試料Sが、米粒,米粉,又は流動性の固体若しくは液体(例えば、お粥)である場合、米粒,米粉,又は流動性の固体若しくは液体に含まれる重金属のうち分析深さの異なる上記複数の元素を試料容器4及び配置を変更することなく、感度良く測定することができる。
【0045】
また、コリメータ6が、部分照射の際に検出器3に最も近い領域A2に一次X線X1を照射可能な部分用透過窓6bと、広範囲照射の際に部分照射よりも広い領域で試料容器4内の試料Sに一次X線X1を照射可能な広範囲用透過窓6aとを有しているので、コリメータ移動機構7でコリメータ6を移動させ、一次X線X1を通す透過窓として広範囲用透過窓6a又は部分用透過窓6bを選択することで、広範囲照射と部分照射とを容易に切り替えることができる。
【0046】
また、検出器3が、第2の壁面4bに隣接配置され、照射範囲変更機構5が、部分照射の際に、第2の壁面4bの内面近傍に一次X線X1を照射するので、第2の壁面4bの内面近傍にある試料Sから放射状に発生する蛍光X線X2を検出器3が効率的に測定することができる。
このように本実施形態の蛍光X線分析方法では、試料容器4内の試料Sのうち検出器3に最も近い領域A2に一次X線X1を照射する部分照射工程と、部分照射よりも広い領域で試料容器4内の試料Sに一次X線X1を照射する広範囲照射工程とを有し、部分照射工程と広範囲照射工程とを切り替えて分析を行うので、同一の試料容器4のまま、広範囲照射工程で分析深さの深い元素を感度良く測定することができると共に、部分照射工程で分析深さの浅い元素を感度良く測定することができる。
【0047】
次に、本発明に係る蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法の第2実施形態について、図3を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0048】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、着目元素の分析深さに合わせた複数の透過窓6a~6cを切り替える構成であるのに対し、第2実施形態の蛍光X線分析装置21では、図3に示すように、コリメータ26が透過窓として一つの広範囲用透過窓6aだけを有し、コリメータ移動機構25が、広範囲用透過窓6aの位置を変更して広範囲照射と部分照射との変更を行っている点である。
【0049】
すなわち、第2実施形態では、コリメータ移動機構25が、広範囲照射の際に部分照射よりも広い領域で試料容器4内の試料Sに一次X線X1を照射可能な位置に透過窓6aを移動可能であると共に、部分照射の際に検出器3に近い試料容器4内の試料Sに広範囲照射よりも狭い範囲で一次X線X1を照射可能な位置に透過窓6aを移動可能である。
【0050】
分析深さの深い元素を着目元素として広範囲照射を行う場合は、コリメータ移動機構25が、図3の(a)に示すように、広範囲用透過窓6aの中心軸がX線源2の光軸XCに一致するようにコリメータ26を移動させる。また、分析深さの浅い元素を着目元素として部分照射を行う場合は、コリメータ移動機構25が、図3の(b)に示すように、広範囲用透過窓6aの中心軸がX線源2の光軸XCからずれるように、図中の矢印Y方向にコリメータ26を移動させる。このとき、位置がずれた広範囲用透過窓6aによって一次X線X1の一部が遮断され、第2の壁面4bから離れた試料容器4の奥側にある試料Sには一次X線X1が照射されない。
【0051】
なお、この際、X線源2からの一次X線X1が試料容器4を通過しないで直接検出器3に入射しないように、X線源2と検出器3の間に障害板(図示略)を設けてもよい。
また、第2実施形態では、透過窓として一つの広範囲用透過窓6aだけを有したコリメータ26を用いているが、第1実施形態のように、複数の透過窓を有したコリメータを用い、複数の透過窓のうち広範囲用透過窓6aの位置を変更して広範囲照射だけでなく部分照射も行えるように設定しても構わない。
【0052】
このように第2実施形態の蛍光X線分析装置21では、コリメータ移動機構25が、広範囲照射の際に部分照射よりも広い領域で一次X線X1を照射可能な位置に透過窓(広範囲用透過窓6a)を移動可能であると共に、部分照射の際に検出器3に近く広範囲照射よりも狭い範囲で一次X線X1を照射可能な位置に透過窓(広範囲用透過窓6a)を移動可能であるので、透過窓の位置を調整するだけで、広範囲照射と部分照射とを容易に行うことが容易にできる。
【0053】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0054】
例えば、上記各実施形態では、照射範囲変更機構として透過窓を有するコリメータを用いたが、照射範囲の異なるキャピラリを用いて照射範囲を変更可能にした照射範囲変更機構を採用しても構わない。例えば、着目元素が分析深さの深い元素の場合は、出射側で一次X線が平行になるような平行型ポリキャピラリを用い、分析深さの浅い元素の場合は、出射側で一次X線が試料容器の検出器に対向する壁面に向けて集束する集束型ポリキャピラリを用いてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、波高分析器でX線のエネルギーと強度とを測定するエネルギー分散方式の蛍光X線分析装置に適用したが、蛍光X線を分光結晶により分光し、X線の波長と強度を測定する波長分散方式の蛍光X線分析装置に適用しても構わない。
【符号の説明】
【0056】
1,21…蛍光X線分析装置、2…X線源、3…検出器、4…試料容器、4a…第1の壁面、4b…第2の壁面、5,25…照射範囲変更機構、6,26…コリメータ、6a…広範囲用透過窓、6b…部分用透過窓、7…コリメータ移動機構、S…試料、X1…一次X線、X2…蛍光X線
図1
図2
図3