(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板の製造方法および窒化物半導体基板
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20220106BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20220106BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20220106BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/20
C23C16/34
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2017040144
(22)【出願日】2017-03-03
【審査請求日】2019-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 丈洋
(72)【発明者】
【氏名】堀切 文正
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/056714(WO,A1)
【文献】特開2016-092083(JP,A)
【文献】特開2009-126722(JP,A)
【文献】特開2011-162407(JP,A)
【文献】特開2011-037704(JP,A)
【文献】特開2013-084783(JP,A)
【文献】特開2011-3652(JP,A)
【文献】HIRONORI OKUMURA,Growth diagram of N-face GaN(000-1) grown at high rate by plasma-assisted molecular beam epitaxy,APPLIED PHYSICS LETTERS,2014年,104(1),p.012111/1-012111/5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/20
C23C 16/34
H01L 21/205
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体結晶からなる種結晶基板の+C面上に窒化物半導体結晶をc軸方向に沿って成長させて、窒化物半導体結晶中のn型不純物濃度が相対的に低いn
-型の第一窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第一窒化物半導体層の+C面上に前記第一窒化物半導体層を構成する窒化物半導体結晶と同組成の窒化物半導体結晶をc軸方向に沿って成長させて、窒化物半導体結晶中のn型不純物濃度が相対的に高いn
+型の第二窒化物半導体層を形成する工程と、
前記種結晶基板を除去して前記第一窒化物半導体層の-C面を露出させ、前記-C面を主面とする前記第一窒化物半導体層と前記第二窒化物半導体層との積層体を窒化物半導体基板として得る工程と、
前記窒化物半導体基板の主面である前記-C面に対してp型不純物をイオン注入する工程と、
イオン注入後の前記窒化物半導体基板に対してアニール処理を行う工程と、
を含む窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記第一窒化物半導体層は、窒化物半導体結晶中のn型不純物濃度が1×10
17at/cm
3未満である
請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
少なくとも前記第一窒化物半導体層および前記第二窒化物半導体層のそれぞれをハイド
ライド気相成長法により形成する
請求項1または2に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記アニール処理を1200℃以上の高温域で行う
請求項
1から3のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記第一窒化物半導体層の形成と前記第二窒化物半導体層の形成とを繰り返し行い、前記第一窒化物半導体層と前記第二窒化物半導体層とが交互に積み重なる積層構造を得るとともに、前記積層構造から複数の前記窒化物半導体基板を得る
請求項1から
4のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記第一窒化物半導体層は、電気抵抗率が20℃以上200℃以下の温度条件下において50Ωcm以下であり、
前記第二窒化物半導体層は、電気抵抗率が20℃以上200℃以下の温度条件下において2×10
-2Ωcm以下である
請求項1から
5のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
同組成の窒化物半導体結晶からなる第一窒化物半導体層および第二窒化物半導体層が積層されて構成された窒化物半導体基板であって、
前記第一窒化物半導体層は、-C面を露出面として有し、窒化物半導体結晶中のn型不純物濃度が相対的に低いn
-型のものであり、窒化物半導体結晶中のn型不純物濃度が1×10
17at/cm
3未満であり、
前記第二窒化物半導体層は、窒化物半導体結晶中のn型不純物濃度が相対的に高いn
+型のものであ
り、
前記第一窒化物半導体層における前記-C面は、p型不純物の被注入部分を有する
窒化物半導体基板。
【請求項8】
前記第一窒化物半導体層における前記-C面が鏡面研磨面である
請求項
7項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項9】
前記第一窒化物半導体層は、電気抵抗率が20℃以上200℃以下の温度条件下におい
て50Ωcm以下であり、
前記第二窒化物半導体層は、電気抵抗率が20℃以上200℃以下の温度条件下におい
て2×10
-2Ωcm以下である
請求項
7または8に記載の窒化物半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体基板の製造方法および窒化物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子や高速トランジスタ等の半導体デバイスは、例えば窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物の結晶からなる窒化物半導体基板を用いて構成されることがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、半導体デバイスの構成に用いて好適な窒化物半導体基板の製造方法および窒化物半導体基板に関する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
窒化物半導体結晶からなる種結晶基板の+C面上に窒化物半導体結晶をc軸方向に沿って成長させてn-型の第一窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第一窒化物半導体層の+C面上に窒化物半導体結晶をc軸方向に沿って成長させて第二窒化物半導体層を形成する工程と、
前記種結晶基板を除去して前記第一窒化物半導体層の-C面を露出させ、前記-C面を主面とする前記第一窒化物半導体層と前記第二窒化物半導体層との積層体を窒化物半導体基板として得る工程と、
を含む窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
【0006】
また、本発明の他の態様によれば、
窒化物半導体結晶からなる第一窒化物半導体層および第二窒化物半導体層が積層されて構成された窒化物半導体基板であって、
前記第一窒化物半導体層は、-C面を露出面として有するn-型のものであり、窒化物半導体結晶中のn型不純物濃度が1×1017at/cm3未満である
窒化物半導体基板が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、半導体デバイスの構成に用いて好適な窒化物半導体基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法で用いる気相成長装置の一具体例の概略構成図である。
【
図2】本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法の手順の一具体例の説明図(その1)である。
【
図3】本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法の手順の一具体例の説明図(その2)である。
【
図4】本発明に係る窒化物半導体基板を用いて構成された半導体デバイス(半導体装置)の一具体例の概略構成図である。
【
図5】本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法の他の具体例の説明図である。
【
図6】本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法のさらに他の具体例の説明図(その1)である。
【
図7】本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法のさらに他の具体例の説明図(その2)である。
【
図8】本発明に係る窒化物半導体基板を用いて構成された半導体デバイス(半導体装置)の製造方法の一具体例の説明図(その1)である。
【
図9】本発明に係る窒化物半導体基板を用いて構成された半導体デバイス(半導体装置)の製造方法の一具体例の説明図(その2)である。
【
図10】本発明に係る窒化物半導体基板を用いて構成された半導体デバイス(半導体装置)の製造方法の一具体例の説明図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<発明者の得た知見>
発光素子や高速トランジスタ等の半導体デバイスを構成する窒化物半導体基板として、GaNの単結晶からなる基板(以下、「GaN基板」ともいう。)が着目されている。GaN基板を用いて半導体デバイスを構成する場合には、例えば、GaN基板にマグネシウム(Mg)等のp型不純物をイオン注入によって打ち込んで、GaN基板内にp型領域を形成する、といった手法が用いられることがある。その場合において、GaN基板へのイオン注入は注入後に1200℃を超える高温域でのアニール処理を必要とするためGaN結晶の熱分解が問題となり得るが、ガリウム(Ga)極性面よりも熱的に安定な窒素(N)極性面に対してイオン注入を行えば、GaN結晶の熱分解の問題が解消し、良好な整流性を示すpn接合ダイオードを形成することが可能になると考えられる。
【0010】
このようなイオン注入が行われるGaN結晶は、そのGaN結晶中におけるシリコン(Si)や酸素(O)等の不純物の濃度が極めて低いことが好ましい。GaN結晶中の不純物濃度が極めて低ければ、Mgの注入量を少なく抑えたとしても、GaN結晶に所望の導電性(p型半導体特性)を付与することが可能となるからである。つまり、SiやO等の不純物を多く含む場合に比べると、イオン注入が行われるGaN結晶の不純物濃度を抑えることで、Mgの注入による結晶品質の低下を極力抑制しつつ、所望の半導体特性を付与できるようになる。また、キャリア散乱の要因となる不純物の濃度が極めて低ければ、キャリアの移動度低下を回避することが可能となるという点でも、不純物を多く含む場合よりも有利である。
【0011】
しかしながら、GaN結晶は、Ga極性面(すなわち+C面)の方向に成長させる場合に比べると、N極性面(すなわち-C面)の方向に成長させることが非常に困難である。しかも、N極性面の方向に成長させた場合には、その成長過程でO等の不純物の取り込みが激しく、不純物濃度を極めて低く抑えることができない。つまり、GaN結晶をN極性面の方向に成長させたのでは、イオン注入が可能なN極性面(-C面)を露出面として有し、かつ、イオン注入が行われるGaN結晶の不純物濃度が極めて低くなるように構成されたGaN基板を得ることができない。
【0012】
この点につき、本発明者は鋭意検討を重ね、基板製造の手順等を工夫することで、イオン注入が可能なN極性面(-C面)を露出面として有し、かつ、イオン注入が行われるGaN結晶の不純物濃度が極めて低いGaN基板を構成できる、という新たな知見を得るに至った。
本発明は、本発明者が見出した上述の新たな知見に基づくものである。
【0013】
<本発明の第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
(1)窒化物半導体基板の製造方法
先ず、本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法の一例を説明する。
【0015】
窒化物半導体基板は、窒化物半導体結晶からなる平板状(例えば円板状)の基板(以下、「ウエハ」ともいう。)である。
窒化物半導体基板を構成する窒化物半導体結晶は、III族元素とV族元素を用いたIII-V族化合物半導体においてV族元素としてNを用いた半導体の結晶であり、InxAlyGa1-x-yNの組成式(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される結晶である。
以下、本実施形態では、窒化物半導体結晶がGaNの単結晶であり、窒化物半導体基板としてGaN結晶からなるGaN基板を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0016】
GaN基板を構成するGaN結晶は、六方晶構造(ウルツ鉱型結晶構造)を有している。このような六方晶構造のGaN結晶において、極性を有する面(極性面)としては、Ga極性面に相当する{0001}面およびN極性面に相当する{000-1}面が挙げられる。本明細書においては、極性面を「C面」と称し、特に{0001}面を「+C面」、{000-1}面を「-C面」と称する場合がある。なお、本明細書において「C面」等の特定の指数面を称する場合には、±0.01°以内の精度で計測される各結晶軸から10°以内のオフ角を有する範囲内の面、好ましくはオフ角が5°以内、より好ましくは3°以内である面を含むものとする。ここで、オフ角とは、面の法線方向とGaN結晶の軸方向とのなす角をいう。
【0017】
(HVPE装置)
本実施形態では、GaN結晶からなるGaN基板の製造を、ハイドライド気相成長装置(HVPE装置)を利用して行う。ここで、GaN基板の製造に利用するHVPE装置の構成について、
図1を参照しながら説明する。
【0018】
HVPE装置200は、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、インナーカバー204が設けられているとともに、そのインナーカバー204に囲われる位置に、種結晶基板20が配置される基台としてのサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、その回転機構216の駆動に合わせて回転可能に構成されている。
【0019】
気密容器203の一端には、ガス生成器233a内へ塩化水素(HCl)ガスを供給するガス供給管232a、インナーカバー204内へアンモニア(NH3)ガスを供給するガス供給管232b、インナーカバー204内へ後述するドーピングガスを供給するガス供給管232c、インナーカバー204内へパージガスとして窒素(N2)ガスおよび水素(H2)ガスの混合ガス(N2/H2ガス)を供給するガス供給管232d、および、成膜室201内へパージガスとしてのN2ガスを供給するガス供給管232eが接続されている。ガス供給管232a~232eには、上流側から順に、流量制御器241a~241e、バルブ243a~243eがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成された塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に配置された種結晶基板20等に向けて供給するノズル249aが設けられている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に配置された種結晶基板20等に向けて供給するノズル249b,249cがそれぞれ接続されている。ノズル249a~249cは、サセプタ208の表面に対して交差する方向にガスを流すよう配置されている。ノズル249cから供給されるドーピングガスは、ドーピング原料ガスとN2/H2ガス等のキャリアガスとの混合ガスである。ドーピングガスについては、ドーピング原料のハロゲン化物ガスの熱分解を抑える目的でHClガスを一緒に流してもよい。ドーピングガスを構成するドーピング原料ガスとしては、例えば、シリコン(Si)ドープの場合であればSiH2Cl2ガス、ゲルマニウム(Ge)ドープの場合であればGeCl4ガス、炭素(C)ドープの場合であればCH2Cl2ガス、鉄(Fe)ドープの場合であればFeCl2ガスを、それぞれ用いることが考えられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0020】
気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230には、ポンプ(あるいはブロワ)231が設けられている。気密容器203の外周には、ガス生成器233a内やサセプタ208上の種結晶基板20等を領域別に所望の温度に加熱するゾーンヒータ207a,207bが設けられている。また、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ(ただし不図示)が設けられている。
【0021】
上述したHVPE装置200の構成部材、特に各種ガスの流れを形成するための各部材については、後述するような低不純物濃度の結晶成長を行うことを可能にすべく、例えば、以下に述べるように構成されている。
具体的には、
図1中においてハッチング種類により識別可能に示しているように、高温に加熱するゾーンヒータ207a,207bの輻射を受けるような領域に配置される部材は、全て炭化ケイ素(SiC)コートグラファイトで構成されることが好ましい。その一方で、比較的低温部では、高純度石英を用いて部材を構成することが好ましい。つまり、比較的高温(例えば1000℃以上)になるような場所でHClガスと触れ合う箇所では、高純度石英を用いず、SiCコートグラファイトを用いて各部材を構成する。詳しくは、インナーカバー204、サセプタ208、回転軸215、ガス生成器233a、各ノズル249a~249c等を、SiCコートグラファイトで構成する。なお、気密容器203を構成する炉心管は石英とするしかないので、成膜室201内には、サセプタ208やガス生成器233a等を囲うインナーカバー204が設けられているのである。気密容器203の両端の壁部や排気管230等については、ステンレス等の金属材料を用いて構成すればよい。
例えば、「Polyakov et al. J. Appl. Phys. 115, 183706 (2014)」によれば、950℃で成長することにより、低不純物濃度のGaN結晶の成長が実現可能なことが開示されている。ところが、このような低温成長では、得られる結晶品質の低下を招き、熱物性、電気特性等において良好なものが得られない。この点、上述した構成のHVPE装置200によれば、例えば、1050℃以上というGaN結晶の成長に適した温度域においても、Si、O、C、Fe、Cr、Ni等の不純物の結晶成長部への供給を遮断することができ、高純度で、かつ、熱物性および電気特性においても良好な特性を示すGaN結晶を成長させることが実現可能である。
【0022】
なお、HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0023】
(GaN基板の製造手順の概要)
続いて、上述のHVPE装置200を用い、種結晶基板20上にGaN単結晶をエピタキシャル成長させて、GaN基板を製造する場合の手順の一例について、詳しく説明する。以下の説明において、HVPE装置200を構成する各部の動作はコントローラ280により制御される。
【0024】
GaN基板の製造にあたっては、搬入ステップの後、結晶成長ステップを実施し、さらに搬出ステップおよびスライスステップを経る。また、結晶成長ステップでは、少なくとも第一層形成ステップおよび第二層形成ステップを実施する。
【0025】
(搬入ステップ)
具体的には、先ず、反応容器203の炉口を開放し、サセプタ208上に種結晶基板20を載置する。サセプタ208上に載置する種結晶基板20は、後述するGaN基板10を製造するための基(種)となるもので、窒化物半導体の一例であるGaNの単結晶からなる板状のものである。そして、互いに対向する二つの主面のうち、一方の主面がGa極性面に相当する{0001}面(すなわち+C面)となっており、他方の主面がN極性面に相当する{000-1}面(すなわち-C面)となっている。
【0026】
サセプタ208上への種結晶基板20の載置にあたっては、サセプタ208上に載置された状態の種結晶基板20の表面、すなわちノズル249a~249cに対向する側の主面(結晶成長面、下地面)が、GaN結晶の{0001}面、すなわち+C面(Ga極性面)となるようにする。
【0027】
サセプタ208上に載置する種結晶基板20としては、例えば、Siに代表されるn型不純物のGaN結晶中における濃度が1×1018~1×1019at/cm3程度のもの、すなわちn型不純物濃度が相対的に高いn+型のものを用いることが考えられる。ただし、必ずしもn+型のものに限定されることはなく、後述するように第一GaN層21を成長させることが可能なものであれば、n型不純物濃度が1×1015~1×1016at/cm3程度ドープされたものであっても構わない。
【0028】
なお、種結晶基板20の平面形状および大きさについては、特に限定されるものではなく、製造しようとするGaN基板10の形状やサイズ等に応じて適宜決定すればよい。また、種結晶基板20の厚さについても、特に限定されるものではないが、サセプタ208上に載置する際の取り扱いの容易さを考慮して、自立可能な厚さである300~400μm程度とすることが考えられる。
【0029】
(結晶成長ステップ)
反応室201内への種結晶基板20の搬入が完了したら、続いて、結晶成長ステップを実施する。結晶成長ステップでは、少なくとも第一層形成ステップおよび第二層形成ステップを、それぞれ順に実施する。
【0030】
(第一層形成ステップ)
第一層形成ステップでは、
図2(a)に示すように、種結晶基板20の+C面上にGaN結晶をエピタキシャル成長させて、第一GaN層21を形成する。
【0031】
具体的には、本ステップでは、反応室201内への種結晶基板20の搬入が完了した後に、炉口を閉じ、反応室201内の加熱および排気を実施しながら、反応室201内へのH2ガス、或いは、H2ガスおよびN2ガスの供給を開始する。そして、反応室201内が所望の処理温度、処理圧力に到達し、反応室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからのHClガス、NH3ガスの供給を開始し、種結晶基板20の表面に対してGaClガスおよびNH3ガスをそれぞれ供給する。これにより、種結晶基板20の表面上には、+C面(極性面)と垂直な軸方向(以下、「c軸方向」ともいう。)に沿って、すなわちGa極性面(すなわち+C面)の方向に向けて、GaN結晶がエピタキシャル成長し、第一GaN層21が形成される。このような+C面の方向への結晶成長は、N極性面(すなわち-C面)の方向に向けた場合に比べると、結晶を適切に成長させるという観点では好ましい。
【0032】
なお、本ステップでは、種結晶基板20を構成するGaN結晶の熱分解を防止するため、種結晶基板20の温度が500℃に到達した時点、或いはそれ以前から、反応室201内へのNH3ガスの供給を開始するのが好ましい。また、第一GaN層21の面内膜厚均一性等を向上させるため、本ステップは、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
【0033】
本ステップでは、ゾーンヒータ207a,207bの温度は、ガス生成器233aを含む反応室201内の上流側の部分を加熱するヒータ207aでは例えば700~900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む反応室201内の下流側の部分を加熱するヒータ207bでは例えば1000~1200℃の温度に設定するのが好ましい。これにより、サセプタ208は1000~1200℃の所定の温度に調整される。本ステップでは、内部ヒータ(ただし不図示)はオフの状態で使用してもよいが、サセプタ208の温度が上述の1000~1200℃の範囲である限りにおいては、内部ヒータを用いた温度制御を実施しても構わない。
【0034】
本ステップのその他の処理条件としては、以下が例示される。
処理圧力:0.5~2気圧
GaClガスの分圧:0.1~20kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:1~100
H2ガスの分圧/GaClガスの分圧:0~100
【0035】
また、種結晶基板20の表面に対してGaClガスおよびNH3ガスを供給する際は、ガス供給管232a~232bのそれぞれから、キャリアガスとしてのN2ガスを添加してもよい。N2ガスを添加してノズル249a~249bから供給されるガスの吹き出し流速を調整することで、種結晶基板20の表面における原料ガスの供給量等の分布を適切に制御し、面内全域にわたり均一な成長速度分布を実現することができる。なお、N2ガスの代わりにArガスやHeガス等の希ガスを添加するようにしてもよい。
【0036】
以上の条件で形成される第一GaN層21は、Siに代表されるn型不純物のGaN結晶中における濃度が相対的に低いn-型のもの、具体的にはGaN結晶中のn型不純物濃度が1×1017at/cm3未満のものとなる。なお、n-型の第一GaN層21におけるn型不純物の具体的な濃度値については、詳細を後述する。
【0037】
このような第一GaN層21は、例えば、15~30μm程度の厚さで形成することが考えられる。
【0038】
(第二層形成ステップ)
種結晶基板20の+C面上に第一GaN層21を形成したら、次いで、第二層形成ステップを実施する。本ステップでは、
図2(a)に示すように、第一GaN層21の+C面上にGaN結晶をエピタキシャル成長させて、第二GaN層22を形成する。
【0039】
具体的には、本ステップでは、上述した第一層形成ステップの場合とは異なり、ガス供給管232cからドーパントガスとして、例えば、SiH4ガスやSiH2Cl2等のSi含有ガスを供給する。反応容器203内におけるSi含有ガスのIII族原料ガスに対する分圧比率(Si含有ガスの分圧/GaClガスの合計分圧)は、例えば1/1×108~1/1000の大きさとすることができる。他の条件は、上述した第一層形成ステップの場合と同様である。これにより、第一GaN層21の表面上には、c軸方向に沿って、、すなわちGa極性面(すなわち+C面)の方向に向けて、GaN結晶がエピタキシャル成長し、第二GaN層22が形成される。このような+C面の方向への結晶成長は、N極性面(すなわち-C面)の方向に向けた場合に比べると、結晶を適切に成長させるという観点では好ましい。
【0040】
以上の条件で形成される第二GaN層22は、Siに代表されるn型不純物のGaN結晶中における濃度が相対的に高いn+型のもの、具体的にはGaN結晶中のSi濃度が1×1018~1×1019at/cm3程度のものとなる。
【0041】
このような第二GaN層22は、例えば、自立可能な厚さである300~400μm程度の厚さで形成することが考えられる。
【0042】
なお、第二GaN層22を形成する本ステップは、上述した第一層形成ステップの場合とは供給するガス種が異なるだけなので、第一層形成ステップから連続的に行うことが可能である。
【0043】
(搬出ステップ)
種結晶基板20上に第一GaN層21および第二GaN層22を形成したら、反応室201内へNH3ガス、N2ガスを供給しつつ、また、反応室201内を排気した状態で、ガス生成器233aへのHClガスの供給、反応室201内へH2ガスの供給、ゾーンヒータ207a、207bによる加熱をそれぞれ停止する。そして、反応室201内の温度が500℃以下に降温したらNH3ガスの供給を停止し、反応室201内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させる。そして、反応室201内を、例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内からのGaNの結晶インゴット(表面に第一GaN層21および第二GaN層22が形成された種結晶基板20)の搬出が可能となる温度へと降温させる。その後、結晶インゴットを反応室201内から外部へ搬出する。
【0044】
(スライスステップ)
結晶インゴットを搬出したら、その結晶インゴットについて、
図2(b)に示すように、種結晶基板20と第一GaN層21との界面近傍を成長面と平行にスライスし(図中A-A参照)、これにより種結晶基板20を除去して第一GaN層21の-C面を露出させる。このスライス加工は、例えばワイヤソーや放電加工機等を用いて行うことが可能である。ただし、これに限定されることはなく、第一GaN層21の-C面を露出できれば、種結晶基板20に対するエッチング加工等を利用しても構わない。
【0045】
種結晶基板20を除去したら、第一GaN層21の露出面(-C面)に所定の研磨加工を施すことで、この面をエピレディなミラー面とする。研磨加工は、例えば化学的機械研磨(CMP)によって行うことが可能であるが、これに限定されることはなく、エピレディなミラー面とすることができれば、他の手法を利用しても構わない。
なお、-C面と対向する第二GaN層22の露出面(+C面)の側については、後述する。
【0046】
そして、種結晶基板20を除去して露出面に対する研磨加工を行った後に、
図2(c)に示すように、上下方向(天地方向)を反転させれば、-C面を主面とする第一GaN層21と第二GaN層22との積層体からなるGaN基板10が得られる。
【0047】
(GaN基板の+C面側)
-C面と対向する第二GaN層22の露出面(+C面)の側については、GaN基板10が後述するイオン注入ステップ等を行うことを考慮すると、
図2(d)に示すように、+C面の全面を覆う保護膜23が形成されていることが好ましい。
【0048】
保護膜23は、後述するイオン注入ステップにおけるアニール処理等の際に+C面を保護し得るものであればよく、例えば30~50nmの厚さで形成したものを用いる。具体的には、保護膜23としては、例えば、ホウ酸カリウムや水酸化カリウム等を含むエッチング液で除去可能な窒化アルミニウム(AlN)膜を用いることが好ましいが、フッ酸等を含むエッチング液で除去可能な窒化ケイ素(SiN)膜を用いても構わない。
【0049】
保護膜23の形成は、例えば、スライスステップで種結晶基板20を除去した後に、第二GaN層22の+C面を研磨した上で、その研磨面上に対して行うことが好ましい。ただし、必ずしもこれに限定されることはなく、例えば、結晶成長ステップにおいて第二層形成ステップに続けて保護膜23の形成を行い、その後にスライスステップを行うようにしても構わない。
【0050】
また、保護膜23の形成は、例えば、スパッタリング法を利用して行えばよい。具体的には、保護膜23としてAlN膜を用いる場合であれば、RFマグネトロンスパッタリソグ装置により、Ar-N2混合ガス中でAlをスパッタすることで、薄膜状のAlN膜を作成する。ただし、必ずしもこれに限定されることはなく、例えば、化学気相成長(CVD)等といった他の成膜手法を用いて保護膜23を形成しても構わない。
【0051】
なお、保護膜23の形成は必須ではなく、第二GaN層22が露出した状態の面としても構わない。その場合に、第二GaN層22の露出面である+C面は、ミラー面とすることが好ましいが、ラップ面であってもよい。
【0052】
(2)窒化物半導体基板の構成
次に、上述した手順の製造方法によって得られるGaN基板10、すなわち本発明に係る窒化物半導体基板の一具体例について、その構成を説明する。
【0053】
GaN基板10は、
図2(c)に示すように、GaN結晶からなる第一GaN層21および第二GaN層22が積層されて構成されている。
【0054】
(第一GaN層)
GaN基板10を構成する第一GaN層21は、-C面を露出面として有するn-型のものであり、窒化物半導体結晶中のn型不純物濃度が少なくとも1×1017at/cm3未満、より好適には後述するような不純物濃度を有したものとなっている。
【0055】
詳しくは、第一GaN層21は、制御されたn-型のものであり、n型不純物濃度が少なくとも1×1017at/cm3未満、より好適には1×1015at/cm3未満となっている。さらに具体的には、結晶に含まれるSi、ボロン(B)およびFeの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満となっており、また、酸素(O)および炭素(C)の各濃度がいずれも5×1015at/cm3未満となっている。なお、これらの不純物濃度は、いずれも、現在利用可能なSIMS等の合理的な分析手段の計測限界(検出下限値)を下回るものであり、現時点では、結晶中に含まれる各種不純物の濃度を具体的に提示することが困難なほどである。
【0056】
第一GaN層21は、n型不純物(特に、Si)を上述した濃度で含むものであるが、半絶縁性を有することは好ましくなく、電気抵抗率が例えば20℃以上200℃以下の温度条件下において50Ωcm以下となっていることが好ましい。
【0057】
(第二GaN層)
GaN基板10を構成する第二GaN層22は、第一GaN層21を支持するために自立可能な厚さで形成されたものであり、導電性を担保するn+型のものである。
【0058】
詳しくは、第二GaN層22は、結晶中のBおよびFeの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満であり、OおよびCの各濃度がいずれも5×1015at/cm3未満である点は第一GaN層21と同様であるが、Si濃度が1×1018~1×1019at/cm3程度となっている点が第一GaN層21と異なる。第二GaN層22は、Siをこのような濃度で含むことにより、20℃以上200℃以下の温度条件下での電気抵抗率が2×10-2Ωcm以下という導電性を有し、いわゆるn型半導体結晶として機能する。
【0059】
第二GaN層22おいては、結晶中のSi濃度とn型のキャリア濃度は、ほぼ等しい値であった。このことは、Si以外のキャリアの起源となる不純物(n型キャリアを補償するFeやC、あるいは、ドナーとなるO等)の実際の濃度が極めて低く、これらの不純物はSi濃度と比較して無視できる程度にしかGaN結晶中に含まれていないということを示している。すなわち、SIMS測定によっては、B、Fe、CおよびO濃度は1015at/cm3台未満、それ以外の不純物に関しても検出下限値未満の濃度であるとしか示せないものの、結晶中のSi濃度とn型のキャリア濃度とは、ほぼ等しい値であったという結果は、これらの不純物の実際の濃度は1014at/cm3台かそれ未満であるということを示している。
【0060】
このような第二GaN層22を構成するGaN結晶は、結晶中のB、Fe、OおよびCの各濃度が、第一GaN層21のGaN結晶と同様に極めて低いことから、これらの不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べ、良好な品質を有することになる。また、GaN結晶中におけるFe等の不純物濃度が上述のように低いことから、Siの添加量を少なく抑えたとしても、GaN結晶に所望の導電性(n型半導体特性)を付与することが可能となる。すなわち、第二GaN層22のGaN結晶は、Siの添加による結晶品質の低下を極力抑制しつつ、所望の半導体特性を付与できる点で、FeやC等の不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。また、第二GaN層22のGaN結晶は、キャリア散乱の要因となる不純物の濃度が極めて低いことから、キャリアの移動度低下を回避することが可能となるという点で、不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。
【0061】
(全体構成)
以上のような第一GaN層21および第二GaN層22の積層体からなるGaN基板10は、-C面(N極性面)を露出面として有し、かつ、その露出面を有する第一GaN層21のGaN結晶の不純物濃度が極めて低くなるように構成されたものである。さらに詳しくは、GaN基板10は、-C面を露出面として有するn-型の第一GaN層21と+C面を露出面として有するn+型の第二GaN層22とが積層された二層構造を有しており、少なくとも第一GaN層21の露出面である-C面が鏡面研磨面(エピレディなミラー面)に仕上げられている。
【0062】
また、二層構造のGaN基板10は、その二層構造を構成する第一GaN層21および第二GaN層22のそれぞれに角部に対して、チッピング(欠け)等を防止するためのべべリング(面取り加工)が施されたものであってもよい。さらに、二層構造のGaN基板10は、基板方位を明確化するためのオリエンテーションフラットと呼ばれる直線部またはノッチと呼ばれる切欠き部が、基板周上に設けられたものであってもよい。
【0063】
また、二層構造のGaN基板10は、例えば、レーザダイオード、LED、高速トランジスタ等の半導体デバイスを作製する際に好適に用いられるが、直径Dが25mm未満となると半導体デバイスの生産性が低下しやすくなることから、それ以上の直径とするのが好ましい。また、厚さTが250μm未満となるとGaN基板10の機械的強度が低下し、この基板を用いたデバイス構造の結晶成長時や、その後のデバイスプロセス中に割れやすくなる等、自立状態の維持が困難となることから、それ以上の厚さとするのが好ましい。ただし、ここに示した寸法はあくまで一例であり、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0064】
(3)p型不純物のイオン注入
次に、上述した構成のGaN基板10に対して、p型不純物をイオン注入によって打ち込む場合について、具体的に説明する。
例えば、GaN基板10にMg等のp型不純物をイオン注入によって打ち込んで、GaN基板10内にp型領域を形成する場合には、イオン注入ステップおよびアニール処理ステップを実施する。
【0065】
(イオン注入ステップ)
本ステップでは、先ず、
図3(a)に示すように、GaN基板10の主面である第一GaN層21の-C面(N極性面)の上に、例えば、保護膜として機能する窒化シリコン(SiNx)膜24を、30~50nmの厚さで形成する。SiNx膜24の形成は、その手法が特に限定されることはなく、例えば反応性スパッタリング法といった公知の手法を用いればよい。
【0066】
SiNx膜24を形成したら、さらに、
図3(b)に示すように、そのSiNx膜24に重ねて、所望のパターニングがされたレジストパターン25を形成する。レジストパターン25を構成するレジスト材料、その形成手法およびパターニング手法等についても、特に限定されることはなく、公知技術を利用したものであればよい。
【0067】
そして、レジストパターン25を形成したら、GaN基板10の主面である第一GaN層21の-C面(N極性面)に対して、p型不純物をイオン注入する。つまり、GaN基板10を構成する第一GaN層21の-C面は、p型不純物がイオン注入される面として用いられ、その面上にp型不純物の被注入部分を有する。このイオン注入は、イオン注入装置を用いた公知の手法により行うことができる。
【0068】
このイオン注入によって、第一GaN層21内には、p型領域26が形成される。その後は、
図3(c)に示すように、フッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)を含むエッチング液でSiNx膜24およびレジストパターン25を除去する。さらには、GaN基板10の-C面と対向する第二GaN層22の露出面(+C面)に、例えば、AlN膜からなる保護膜23を、スパッタリング法を利用して、30~50nmの厚さで形成する。
【0069】
(アニール処理ステップ)
本ステップでは、イオン注入ステップを経たGaN結晶の結晶格子を整えるためにアニール処理を行う。アニール処理は、例えば、1200℃以上の高温域、具体的には1250℃程度の温度にて、3分程度の時間で行う。
【0070】
ただし、そのような高温域でアニール処理を行っても、イオン注入がされた-C面は熱的に安定なため、GaN結晶の熱分解が問題になってしまうのを回避することができる。さらには、-C面と対向する+C面については、保護膜23が形成されているので、高温域でのアニール処理を行った場合であっても、面が荒れてしまう等の熱による悪影響の問題を回避することができる。
【0071】
アニール処理の後は、
図3(d)に示すように、例えば、ホウ酸カリウム溶液であるAZ400K現像液を用いてエッチング処理を行うことで、保護膜23を除去する。
【0072】
以上のような本ステップを経ることで、第一GaN層21内にp型領域26が形成されたGaN基板10が得られる。p型領域26は、Mg等の不純物濃度が3×1018at/cm3以上となっている。このような濃度でp型不純物を含むことにより、p型領域26は、20℃以上200℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×102Ωcm未満という導電性を有し、いわゆるp型半導体結晶として機能する。なお、Mg濃度としては、例えば3×1018at/cm3以上5×1020at/cm3以下の大きさとすることができる。この場合、20℃以上200℃以下の温度条件下でのp型のキャリア濃度は例えば2×1017個/cm3以上5×1018個/cm3以下となり、同温度条件下での電気抵抗率は例えば0.5Ωcm以上100Ωcm以下となる。
【0073】
本ステップでイオン注入が行われる第一GaN層21のGaN結晶は、結晶中のSi、B、Fe、OおよびCの各濃度が極めて低いことから、これらの不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べ、良好な品質を有することになる。また、GaN結晶中のSiやO等の不純物の濃度が極めて低いことから、本ステップでは、Mg等のp型不純物の注入量を少なく抑えたとしても、GaN結晶に所望の導電性(p型半導体特性)を付与することが可能となる。つまり、Mg等の不純物注入による結晶品質の低下を極力抑制しつつ、所望の半導体特性を付与できる点で、SiやO等の不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。さらには、キャリア散乱の要因となる不純物の濃度が極めて低ければ、キャリアの移動度低下を回避することが可能となるという点でも、不純物を多く含む場合よりも有利である。
【0074】
(4)半導体デバイスの構成
上述のイオン注入ステップでp型領域26が形成されたGaN基板10は、半導体デバイス(半導体装置)を構成するために用いて好適なものである。
【0075】
具体的には、
図4に示すように、GaN基板10における第一GaN層21の-C面へのp型不純物のイオン注入によって第一GaN層21内にp型領域26を形成し、そのp型領域26を用いてpn接合を構成した上で、さらに上部電極31および下部電極32を形成することで、この積層構造をpn接合ダイオードとして機能させることができる。また、上述のp型領域およびn型領域のうちいずれかと金属からなる金属層との接合面(ショットキー接合面)を含む積層構造を作製することにより、この積層構造をショットキーバリアダイオード(JBS)として機能させることもできる。また、その他にも、例えば、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、ゲートインジェクショントランジスタ(GIT)、-C面高電子移動度トランジスタ(HEMT)等として機能させることも実現可能である。
【0076】
(5)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0077】
(a)本実施形態では、種結晶基板20の+C面上にGaN結晶を成長させてn-型の第一GaN層21を形成し、さらに第一GaN層21の+C面上にGaN結晶を成長させて第二GaN層22を形成した後に、種結晶基板20を除去して第一GaN層21の-C面を露出させ、その-C面を主面とする第一GaN層21と第二GaN層22との積層体をGaN基板10として得る。したがって、第一GaN層21および第二GaN層22のいずれについても、Ga極性面(すなわち+C面)の方向に向けてGaN結晶を成長させることになるので、N極性面(すなわち-C面)の方向に向けた場合に比べると、結晶を適切に成長させるという観点では好ましい。しかも、N極性面(すなわち-C面)の方向に向けた場合とは異なり、その成長過程でO等の不純物の取り込みが激しくなってしまうこともないので、不純物濃度を極めて低く抑えることができる。つまり、本実施形態によれば、従来の一般的な製造手法とは異なり、イオン注入が可能なN極性面(-C面)を露出面として有し、かつ、イオン注入が行われるGaN結晶の不純物濃度が極めて低くなるように構成されたGaN基板10を、適切に得ることができる。
【0078】
(b)本実施形態では、-C面を露出面として有する第一GaN層21におけるGaN結晶中のn型不純物濃度が1×1017at/cm3未満である。このように、第一GaN層21におけるGaN結晶は、不純物濃度が低く高純度であることから、例えばイオン注入によるMgイオンの打込みによりこの結晶をp型半導体とする場合に、イオンの打込み量を少なく抑えることが可能となる。すなわち、第一GaN層21におけるGaN結晶は、イオンの打込みによる結晶品質の低下を極力抑制しつつ、所望の半導体特性を付与することが可能となる点で、Fe等の不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。また、第一GaN層21におけるGaN結晶は、キャリア散乱の要因となる不純物の濃度が極めて低いことから、キャリアの移動度低下を回避することが可能となるという点でも、不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。
【0079】
(c)特に、本実施形態で得られるGaN結晶中のSi、BおよびFeの各濃度は、いずれも、1×1015at/cm3未満という極めて小さな値となり、また、OおよびCの各濃度は、いずれも、5×1015at/cm3未満という極めて小さな値となる。これらの不純物濃度は、実際の各不純物の濃度の測定値ではなく、代表的な不純物分析技術であるSIMS測定における、現在の検出下限値を示したものである。すなわち、各不純物の実際の濃度を、現在の技術では検出することができないほど低くすることができたということである。
このように、本実施形態で得られるGaN結晶は、これらの不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べ、欠陥密度、転位密度、内部応力が大幅に小さくなる等、極めて良好な結晶品質を有することになる。また、このようなGaN結晶を有して構成されたGaN基板10を用いて半導体デバイスを作製する場合、不純物をより多く含む上述のGaN結晶からなる基板を用いる場合に比べ、不純物の拡散が抑制される効果により、デバイスの特性を向上させたり、寿命を延ばしたりすることが可能となる。
【0080】
(d)本実施形態では、GaN基板10を構成する第一GaN層21および第二GaN層22のそれぞれをHVPE法により形成する。したがって、本実施形態によれば、GaN基板10が第一GaN層21と第二GaN層22との積層体からなる場合であっても、第一GaN層21および第二GaN層22の形成を連続的に行うことが可能であり、GaN基板10の製造の生産性を向上させる上で非常に好適なものとなる。さらには、HVPE法を用いることで、第二GaN層22を自立可能な厚さに形成する上でも非常に好適なものとなる。
【0081】
(e)本実施形態では、GaN基板10の主面である第一GaN層21の-C面(N極性面)に対してp型不純物をイオン注入し、第一GaN層21内にp型半導体結晶として機能するp型領域26を形成する。このように、熱的に安定な第一GaN層21の-C面(N極性面)に対してイオン注入を行えば、イオン注入後にGaN結晶の結晶格子を整えるために1200℃以上の高温域でのアニール処理を必要とする場合であっても、GaN結晶の熱分解が問題になってしまうのを回避することができる。しかも、イオン注入が行われる第一GaN層21のGaN結晶中のSiやO等の不純物の濃度が極めて低いことから、Mg等のp型不純物の注入量を少なく抑えたとしても、GaN結晶に所望の導電性(p型半導体特性)を付与することが可能となる。つまり、Mg等の不純物注入による結晶品質の低下を極力抑制しつつ、所望の半導体特性を付与できる点で、SiやO等の不純物をより多く含む従来のGaN結晶に比べて有利である。さらには、キャリア散乱の要因となる不純物の濃度が極めて低ければ、キャリアの移動度低下を回避することが可能となるという点でも、不純物を多く含む場合よりも有利である。
【0082】
<本発明の第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について図面を参照しながら説明する。ここでは、主として上述した第一実施形態との相違点について説明し、第一実施形態と同様の内容については説明を省略する。
【0083】
本実施形態では、結晶成長ステップが上述した第一実施形態の場合とは異なる。本実施形態における結晶成長ステップでは、HVPE装置200のサセプタ208上に種結晶基板20を載置した後、第一GaN層21を形成する第一層形成ステップと、第二GaN層22を形成する第二層形成ステップとを、それぞれ複数回にわたって繰り返し行う。このとき、第一層形成ステップでは、第一実施形態の場合と同様に、第一GaN層21を例えば15~30μm程度の厚さで形成する。一方、第二層形成ステップでは、第一実施形態の場合とは異なり、後述するスライスステップでの加工代を考慮して、第二GaN層22を例えば600~750μm程度の厚さで形成する。
【0084】
これにより、
図5に示すように、種結晶基板20上に第一GaN層21と第二GaN層22とが交互に積み重なる積層構造を有する結晶インゴットが得られる。
【0085】
その後、結晶インゴットを反応室201内から搬出したら、その結晶インゴットについてスライスステップを実施して、積層構造を分割するようにスライスする(図中A-A参照)。このときのスライス加工位置は、第一GaN層21の厚さ変動を回避するために、第二GaN層22の形成部分とする。さらに詳しくは、スライス加工後に第一GaN層21の-C面を露出させるための研磨加工を第二GaN層22の一方の残存部分に対して施すことになるが、例えば、その残存部分が研磨加工の際の研磨代に相当する30~50μm程度の厚さとなるように、第二GaN層22に対するスライス加工位置を設定する。このようにスライス加工位置を設定すれば、第二GaN層22の厚さが600~750μm程度なので、例えば、上述した第二GaN層22の一方の残存部分を30~50μm程度、ワイヤソーや放電加工等による加工代を200~250μm程度、第二GaN層22の他の残存部分の露出面(+C面)に対する研磨代を30~50μm程度と想定すると、第二GaN層22の他の残存部分が自立可能な厚さである300~400μm程度の厚さとなる。
【0086】
なお、スライス加工は、例えばマルチワイヤソーにより複数箇所について同時並行的に行うことができるが、これに限定されることはなく、それぞれの加工箇所に対して個別に行うようにしても構わない。
【0087】
以上のようなスライスステップを実施することで、第一GaN層21と第二GaN層22との積層構造を有する結晶インゴットから複数枚のGaN基板10が得られる。このようにして得られる各GaN基板10は、それぞれが上述した第一実施形態の場合と同様の構成を有する。
【0088】
なお、各GaN基板10の+C面を保護する保護膜23を形成する場合は、スライスステップを実施して得られた各GaN基板10に対して個別に保護膜23の形成を行うか、または第一層形成ステップと第二層形成ステップとを繰り返す度に保護膜23の形成ステップを介在させることで対応すればよい。
【0089】
本実施形態によれば、第一実施形態で説明した効果に加えて、以下に示す効果が得られる。
すなわち、本実施形態によれば、第一GaN層21と第二GaN層22との積層構造から複数のGaN基板10を得るので、GaN基板10の製造を効率的に行うことができ、GaN基板10を量産化する上で非常に好適なものとなる。
【0090】
<本発明の第三実施形態>
次に、本発明の第三実施形態について図面を参照しながら説明する。ここでは、主として上述した第一実施形態および第二実施形態との相違点について説明する。
【0091】
(結晶成長ステップ)
本実施形態では、結晶成長ステップが上述した第一実施形態および第二実施形態とは異なる。なお、本実施形態においても、結晶成長ステップがHVPE装置200を用いて行う第一層形成ステップと第二層形成ステップとを含む点は、第一実施形態および第二実施形態の場合と同様である。
【0092】
(第一層形成ステップ)
第一層形成ステップでは、
図6に示すように、HVPE装置200のサセプタ208上に載置した種結晶基板(GaN基板)20の+C面上に対して、先ず、n
-型の第一窒化物半導体層の一例である高純度HVPE-GaN層(以下、単に「GaN層」という。)31を形成する。このGaN層31は、第一実施形態または第二実施形態で説明した第一GaN層21と同様のものであり、GaN結晶中のn型不純物濃度が1×10
17at/cm
3未満のものである。
【0093】
ただし、本実施形態におけるGaN層31は、第一実施形態等における第一GaN層21とは異なり、例えば、600~750μm、好ましくは500μm程度の厚さで形成することが考えられる。
【0094】
また、本実施形態におけるGaN層31は、後述するように例えばHEMTを構成した際にバッファ層として用いられるので、第一実施形態等における第一GaN層21とは異なり、比較的高い絶縁性、すなわち、比較的大きな電気抵抗率を有する半絶縁性層として構成されている。GaN層31を構成するGaN結晶の電気抵抗率は、例えば20℃以上200℃以下の温度条件下において、1×106Ωcm以上の大きさを維持するようになっており、また、200℃を超え400℃以下の温度条件下において、1×105Ωcm以上の大きさを維持するようになっている。GaN結晶の電気抵抗率の上限については特に制限はないが、1×109Ωcm程度の大きさが例示される。本実施形態のGaN結晶がこのような大きな電気抵抗率を有するのは、結晶中に含まれる各種不純物の濃度が極めて低いことによる。
【0095】
このように、GaN層31におけるGaN結晶は、20℃以上200℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×106Ωcm以上という高い絶縁性を有している。なお、GaN結晶がSiやOといったドナー不純物を多く含む場合、この結晶の絶縁性を高めるには、例えば特表2007-534580号公報に開示されているような、結晶中にMn、Fe、コバルト(Co)、Ni、銅(Cu)等のドナー補償用の不純物(以下、補償用不純物と称する)を添加する手法が知られている。ただし、この手法では、補償用不純物の添加によりGaN結晶の品質が劣化しやすくなるという課題がある。例えば、GaN結晶中に補償用不純物を添加すると、この結晶をスライスすることで得られる基板に割れが発生しやすくなる。また、基板上に形成された積層構造中に補償用不純物が拡散することで、この基板を用いて作製された半導体デバイスの特性が低下しやすくなる。これに対し、本実施形態のGaN結晶では、補償用不純物を添加することなく高い絶縁性を得られることから、従来手法では問題となりやすい結晶性劣化の課題を回避することが可能となる。
【0096】
また、GaN層31におけるGaN結晶の絶縁性は、結晶中への補償用不純物の添加によって得られる絶縁性に比べ、温度依存性が低く、安定したものとなる。というのも、SiやOを例えば1×1017at/cm3以上の濃度で含むGaN結晶に対し、それらの濃度を上回る濃度でFeを添加すれば、本実施形態のGaN結晶に近い絶縁性を付与することは一見可能とも考えられる。しかしながら、補償用不純物として用いられるFeの準位は0.6eV程度と比較的浅いことから、Feの添加により得られた絶縁性は、本実施形態のGaN結晶が有する絶縁性に比べ、温度上昇等に伴って低下しやすいという特性がある。これに対し、本実施形態によれば、補償用不純物の添加を行うことなく絶縁性を実現できることから、従来手法で問題となりやすい温度依存性増加の課題を回避することが可能となる。
【0097】
(第二層形成ステップ)
GaN基板20の+C面上にGaN層31を形成したら、次いで、第二層形成ステップを実施する。本ステップでは、GaN層31の+C面上に対して、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)結晶をエピタキシャル成長させて、第二窒化物半導体層の一例であるAlGaN層32を形成する。
【0098】
AlGaN層32の形成は、HVPE装置200を用いる場合であれば、以下のように行うことができる。具体的には、HClガスとGa融液との反応により生成されたGaClガスを供給するGa原料供給系に加えて、原料としての固体のアルミニウム(Al)とHClガスとの反応により生成された塩化アルミニウム(AlCl3)ガスを供給するAl原料供給系を、HVPE装置200に用意しておく。そして、GaN層31の+C面上に対して、成膜ガスとしてGaClガス、AlCl3ガスおよびNH3ガスを供給する。これらの成膜ガスは、H2ガス、N2ガスまたはこれらの混合ガスから成るキャリアガスと混合して供給してもよい。これにより、GaN層31の+C面上には、AlGaN結晶が気相成長によりエピタキシャル成長されてAlGaN層32が形成される。
【0099】
本ステップの処理条件としては、以下が例示される。
AlCl3ガスの分圧:0.01~1kPa
NH3ガスの分圧/AlCl3ガスの分圧:1~100
H2ガスの分圧/AlCl3ガスの分圧:0~100
他の条件は、上述した第一実施形態の場合と同様である。
【0100】
本実施形態におけるAlGaN層32は、例えば、50~100nm、好ましくは20nm程度の厚さで形成することが考えられる。
【0101】
(各ステップの繰り返し)
その後は、GaN層31を形成する第一層形成ステップと、AlGaN層32を形成する第二層形成ステップとを、それぞれ複数回にわたって繰り返し行う。これにより、GaN基板20上にGaN層31とAlGaN層32とが交互に積み重なる積層構造を有する結晶インゴットが得られる。なお、図中における破線の部分は、後述するように半導体デバイスを構成した際に、GaN層31内において二次元電子ガス(2DEG)が分布することになる領域を示している。
【0102】
(スライスステップ)
その後は、GaN層31とAlGaN層32との積層構造を有する結晶インゴットについてスライスステップを実施して、積層構造を分割するようにスライスする(図中A-A参照)。このときのスライス加工位置は、GaN層31の形成部分で、例えば、スライス加工後に2DEG分布領域を含む側のGaN層31の残存部分が50~100μm程度の厚さとなるように設定する。
【0103】
これにより、スライス加工後は、
図7(a)に示すように、2DEG分布領域を含み50μm程度の厚さであるGaN層31の残存部分と、AlGaN層32と、GaN層31の他方の残存部分とが、順に積層されてなる積層基板が、結晶インゴットから複数枚得られる。
【0104】
そして、このようにして得られる積層基板について、
図7(b)に示すように、その上下方向(天地方向)を反転させれば、-C面を主面とするGaN層31とAlGaN層32との積層体からなる積層基板(窒化物半導体基板)であって、GaN層31中のn型不純物濃度が1×10
17at/cm
3未満となるように構成されたものが得られる。なお、GaN層31の露出面である-C面は、後述するように、鏡面研磨面とされて用いられる。
【0105】
(半導体デバイスの構成)
続いて、本実施形態で得られるGaN層31とAlGaN層32との積層基板を用いて構成される半導体デバイス(半導体装置)について説明する。ここでは、半導体デバイスの具体例として、HEMTを構成する場合を例に挙げる。
【0106】
HEMTを構成するにあたっては、先ず、
図8(a)に示すように、スライスステップ(予備的な研磨処理を含む)を経て、2DEG分布領域を含むように50~100μm程度の厚さとされたGaN層31の残存部分と、AlGaN層32と、GaN層31の他方の残存部分とが、順に積層されてなる積層基板を用意する。
【0107】
積層基板を用意したら、50~100μm程度の厚さとされたGaN層31の残存部分について、
図8(b)に示すように、その露出面である-C面の側から電気化学エッチング(ECV)測定を行って膜厚測定を行う。ECV測定を利用した膜厚測定は、例えば、自動キャリア濃度測定装置(ナノメトリクス・ジャパン株式会社製)により、S=0.1cm
2程度の面積に電界液を接触させ電気化学的接合(Mottショットキー接合)を用いてC-V測定を行い、深さ方向のキャリア濃度分布プロファイルを得ることで、行うことができる。そして、このような測定を、
図8(c)に示すように、-C面の面内の任意の何点かについて行う。このとき、GaN層31には、膜厚モニタ用のトレンチを設けてもよい。
【0108】
膜厚測定後は、
図8(d)に示すように、GaN層31の残存部分に対して、その膜厚を薄くする研磨処理を行う。このとき研磨処理は、膜厚測定の結果に基づいて、研磨処理後の残存膜厚が例えば5μm程度となるように、研磨レートや研磨時間等をコントロールしつつ行う。研磨処理は、研磨レートや研磨時間等のコントロールが容易なCMPによって行うことが可能であるが、これに限定されることはなく、残存膜厚が制御できれば他の手法を利用しても構わない。
【0109】
研磨処理を行って-C面の側のGaN層31の残存部分の膜厚を例えば5μm程度とした後は、
図8(e)に示すように、上下方向(天地方向)を反転させる。そして、-C面の面内全域に、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)原料を用いたプラズマCVDを用いて、SiO
2膜33を成膜する。
【0110】
その後は、
図9(a)に示すように、公知のフォトリソグラフィ技術を利用して、SiO
2膜33上にレジストパターン34を形成した上で、そのレジストパターン34をマスクとして用いたBHFエッチング処理を行う。そして、BHFエッチング処理の後にレジストパターン34を除去すれば、
図9(b)に示すように、レジストパターン34に対応するパターニングがされたSiO
2膜33が得られる。ここでパターニングされた除去部分は、後述するソース、ゲート、ドレインの各部分に相当する。
【0111】
SiO
2膜33をパターニングしたら、その後は、
図9(c)に示すように、-C面の側から電解液35を供給して電気化学的にエッチング処理(ECVエッチング)を行う。これにより、
図9(d)に示すように、GaN層31の一部分(具体的には、SiO
2膜33で覆われていない部分)が除去される。ただし、AlGaN層32については、除去されずに、エッチングストッパとして機能する。
【0112】
この際、ソース、ゲート、ドレインの各部分に相当するGaN層31の部分は、例えば、20~30nm程度、好ましくは10nm程度、ECVプロファイルをモニタしながら残すようにエッチングを行う(
図9(d)では省略)。
【0113】
そして、SiO
2膜33をBHFエッチング処理によって完全に除去すれば、
図10(a)に示すように、-C面を露出面とし、2DEG分布領域を含む残存部分の厚さが例えば5μm程度に形成され、しかも後述するソース、ゲート、ドレインの各部分に対応するパターニングがされたGaN層31が得られる。
【0114】
その後は、パターニングがされたGaN層31の上に、
図10(b)に示すように、例えば、チタン(Ti)/アルミニウム(Al)膜からなるソース電極41と、同じくTi/Al膜からなるドレイン電極42を形成する。その後、オーミック接合を得るために、例えばN
2ガス雰囲気中にて10分間550℃で熱処理を行う。そして、
図10(c)に示すように、例えば、ニッケル(Ni)/金(Au)膜からなるゲート電極43を形成し、さらにSiNx膜からなる絶縁膜44を介して、Ti/Al膜からなるフィールドプレート45を形成する。
【0115】
これにより、耐圧に優れたフィールドプレート(FP)構造のHEMTを構成することができる。
【0116】
(本実施形態における効果)
以上のような本実施形態においても、第一実施形態または第二実施形態で説明した1つまたは複数の効果が得られる。
【0117】
<本発明の他の実施形態>
以上に、本発明の第一実施形態、第二実施形態および第三実施形態を具体的に説明した。ただし、本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0118】
(a)上述の各実施形態では、主として、窒化物半導体結晶がGaN結晶である場合を例に挙げて説明した。ただし、本発明は、GaNに限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物結晶、すなわち、InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される窒化物半導体結晶を成長させる際においても、好適に適用可能である。
【0119】
(b)本発明の結晶成長ステップは、上述の各実施形態で示した手法に限らず、結晶中の不純物濃度をより確実に低減させることが可能であれば、他の手法を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0120】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0121】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
窒化物半導体結晶からなる種結晶基板の+C面上に窒化物半導体結晶をc軸方向に沿って成長させてn-型の第一窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第一窒化物半導体層の+C面上に窒化物半導体結晶をc軸方向に沿って成長させて第二窒化物半導体層を形成する工程と、
前記種結晶基板を除去して前記第一窒化物半導体層の-C面を露出させ、前記-C面を主面とする前記第一窒化物半導体層と前記第二窒化物半導体層との積層体を窒化物半導体基板として得る工程と、
を含む窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
【0122】
(付記2)
付記1に記載の方法であって、好ましくは、
前記第一窒化物半導体層は、窒化物半導体結晶中のn型不純物濃度が1×1017at/cm3未満である。
【0123】
(付記3)
付記2に記載の方法であって、好ましくは、
前記第一窒化物半導体層は、窒化物半導体結晶中のSi、BおよびFeの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満であり、OおよびCの各濃度がいずれも5×1015at/cm3未満である。
【0124】
(付記4)
付記1から3のいずれか1つに記載の方法であって、好ましくは、
少なくとも前記第一窒化物半導体層および前記第二窒化物半導体層のそれぞれをハイドライド気相成長法により形成する。
【0125】
(付記5)
付記1から4のいずれか1つに記載の方法であって、好ましくは、
前記窒化物半導体基板の主面である前記-C面に対してp型不純物をイオン注入する工程と、
イオン注入後の前記窒化物半導体基板に対してアニール処理を行う工程と、
を含む。
【0126】
(付記6)
付記5に記載の方法であって、好ましくは、
前記アニール処理を1200℃以上の高温域で行う。
【0127】
(付記7)
付記1から6のいずれか1つに記載の方法であって、好ましくは、
前記第一窒化物半導体層の形成と前記第二窒化物半導体層の形成とを繰り返し行い、前記第一窒化物半導体層と前記第二窒化物半導体層とが交互に積み重なる積層構造を得るとともに、前記積層構造から複数の前記窒化物半導体基板を得る。
【0128】
(付記8)
本発明の他の態様によれば、
窒化物半導体結晶からなる第一窒化物半導体層および第二窒化物半導体層が積層されて構成された窒化物半導体基板であって、
前記第一窒化物半導体層は、-C面を露出面として有するn-型のものであり、窒化物半導体結晶中のn型不純物濃度が1×1017at/cm3未満である
窒化物半導体基板が提供される。
【0129】
(付記9)
付記8に記載の基板であって、好ましくは、
前記第一窒化物半導体層は、窒化物半導体結晶中のSi、BおよびFeの各濃度がいずれも1×1015at/cm3未満であり、OおよびCの各濃度がいずれも5×1015at/cm3未満である。
【0130】
(付記10)
付記8または9に記載の基板であって、好ましくは、
前記第一窒化物半導体層は、20℃以上200℃以下の温度条件下でのn型のキャリア濃度が1×1016個/cm3未満である。
【0131】
(付記11)
付記8から10のいずれか1つに記載の基板であって、好ましくは、
前記第一窒化物半導体層は、20℃以上200℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×106Ωcm以上である。
より好ましくは、200℃を超え400℃以下の温度条件下での電気抵抗率が1×105Ωcm以上である。
【0132】
(付記12)
付記8から11のいずれか1つに記載の基板であって、好ましくは、
前記第一窒化物半導体層における前記-C面が鏡面研磨面である。
【0133】
(付記13)
付記8から12のいずれか1つに記載の基板であって、好ましくは、
前記第一窒化物半導体層における前記-C面は、p型不純物の被注入部分を有する。
【0134】
(付記14)
本発明の他の態様によれば、
付記8から13のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板を用いて構成された半導体装置であって、
前記第一窒化物半導体層の前記-C面へのp型不純物のイオン注入によって前記第一窒化物半導体層内にp型領域が形成されており、
前記p型領域を用いてpn接合が構成された半導体装置が提供される。
【符号の説明】
【0135】
10…GaN基板(窒化物半導体基板)、20…種結晶基板、21…第一GaN層(第一窒化物半導体層)、22…第二GaN層(第二窒化物半導体層)、26…p型領域