(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ルテニウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20220106BHJP
C22B 3/46 20060101ALI20220106BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/46
C22B7/00 G
C22B7/00 H
(21)【出願番号】P 2018033742
(22)【出願日】2018-02-27
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 学
(72)【発明者】
【氏名】野呂 正
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-190058(JP,A)
【文献】特開2007-270255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウムと、ヒ素又はアンチモンの少なくとも一つを含む塩酸酸性液に金属銅を接触させてルテニウムを析出させるルテニウムの回収方法であって、前記塩酸酸性液に液温50~85℃の状態で前記金属銅を接触させ
てから、前記塩酸酸性液に液温60℃以上の状態で酸化剤を供給することを特徴とするルテニウムの回収方法。
【請求項2】
前記塩酸酸性液に酸化剤を供給するにあたり、酸化剤として空気を吹き込みながら、前記塩酸酸性液を65℃以上に制御することを特徴とする請求項
1に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項3】
前記塩酸酸性液に酸化剤を供給するにあたり、酸化剤としてFe(III)を添加し、前記塩酸酸性液を60℃~75℃に制御することを特徴とする請求項
1又は
2に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項4】
前記塩酸酸性液が銅電解澱物の溶解液であり、塩酸濃度が2mol/L以上であることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。
【請求項5】
前記金属銅は平均粒径1mm以下の銅粉として前記塩酸酸性液に添加し、前記金属銅の添加量はルテニウムの10重量倍以上であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載のルテニウム
の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はルテニウムと、ヒ素又はアンチモンの少なくとも一つを含む塩酸酸性溶液から、ルテニウムを回収する方法に関する。特に銅製錬の電解精製工程で発生するスライム処理工程に適用する場合に効果が高い。
【背景技術】
【0002】
銅乾式製錬では銅精鉱を熔解し、転炉、精製炉で99%以上の粗銅とした後に電解精製工程において例えば純度99.99%以上の電気銅を生産する。近年では転炉においてリサイクル原料として電子部品由来の貴金属を含む金属屑が投入されており、銅以外の有価物は電解精製時にスライムとして沈殿する。
【0003】
このスライムには貴金族類、希少金属、銅精鉱に含まれているセレンやテルルも同時に濃縮される。銅製錬副産物としてこれらの元素は個別に分離・回収される。
【0004】
このスライムの処理には湿式製錬法が適用される場合が多い。例えば特許文献1においてはスライムを塩酸-過酸化水素により銀を回収し、溶解した金は溶媒抽出により回収した後に、その他の有価物を二酸化硫黄で順次還元回収する方法が開示されている。特許文献2には同様の方法で金銀を回収した後、二酸化硫黄で有価物を還元して沈殿せしめ、セレンのみを蒸留して除去して貴金属類を濃縮する方法が開示されている。
【0005】
貴金属を回収した後の溶液には希少金属イオン、テルル、セレンが含まれておりさらにこれら有価物を回収することが必要である。回収方法としては還元剤により生じた沈殿を回収する方法、溶液ごと銅精鉱に混合しドライヤーで乾燥させて製錬炉に繰り返す方法が知られる。
【0006】
とりわけ特許文献1に示されている、二酸化硫黄により生じた沈殿を回収する方法はコストや製造規模の面で利点が多い。加えて各元素が順次沈殿することから分離精製にも効果がある。
【0007】
二酸化硫黄を用いて有価物を回収する方法では溶解後に順次有価物を還元して回収することができる。初めに白金、パラジウムが沈殿する。次にセレンが還元を受ける。イリジウム、ルテニウム、ロジウムは酸化還元電位が比較的低く還元を受け難く、最後まで溶液に残留する。溶液中のルテニウムは臭素酸等の強力な酸化剤により酸化後に蒸留して二酸化ルテニウムとして回収する方法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-316735号公報
【文献】特開2004-190134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ルテニウムを蒸留する時に使用する酸化剤として、例えば臭素酸が考えられるが、その価格は高い。また、製錬澱物工程由来の溶液に含まれるルテニウムは通常100~300mg/L程度であり、他の共存物質と反応してしまうことで酸化効率は低い。
【0010】
また、蒸留される酸化ルテニウムは有毒な化合物であることが知られる。毒物を高濃度で扱うこととなり安全上問題があるので多段蒸留は好ましくない。さらに、蒸留時に不純物が混入すると再度精製操作が必要となるが蒸留は共沸留分が混入しやすい。そのため、蒸留に供するには粗ルテニウムの純度を高めておく必要がある。
【0011】
粗ルテニウムの純度を高めるには一度ルテニウム類を無害な形で粗分離し濃縮することが必要になる。濃縮において溶液を還元して沈殿物としてルテニウムとその他元素を回収する。その他元素としてはセレン、テルル、ロジウムが一般的である。
【0012】
そして、粗分離時に二酸化硫黄を還元剤として沈殿させる場合、ルテニウムの最終的な回収率は30~50%である。未回収のルテニウムはヒドラジン等の強力な還元剤で沈殿させて銅澱物処理工程に繰り返すことが可能である。あるいは、排水処理工程でスラッジ中に分配して廃棄される。これらの方法は、歩留まりは決して良好であるとは言えない。
【0013】
未沈殿ルテニウムを銅澱物処理工程に繰り返すと徐々にルテニウム濃度は上昇していく。また、ルテニウム濃度の上昇により白金、パラジウム回収工程、又はセレン回収工程において不純物として混入するルテニウムが増加するという問題が生じる。
【0014】
上記のように、ルテニウムの回収では一度各種元素の混合物として濃縮される。この濃縮物の中からカルコゲン分を溶出後の残渣がルテニウム原料となり、ルテニウム精製工程に投入される。しかしながら、塩酸酸性溶液からルテニウムを効率的に沈殿させて濃縮・回収する現実的な方法は知られていない。
【0015】
イリジウム溶液の不純物としてのルテニウムを銅によりセメンテーションする方法として、例えば特開2004-190058号公報に記載がある。しかしながら、ルテニウムの銅によるセメンテーションは理論上可能であるとされているのみであり、対象液に亜セレン酸や亜テルル酸が含まれる場合、セメンテーション時の被覆効果や反応性によりルテニウムの回収は定かではない。実際、ルテニウムは複数の酸化状態を取ることが知られ、価数により配位形態や酸化還元電位が異なりセメンテーションが進行する保証はない。
【0016】
例えば、標準酸化還元電位を各種形態で比較すると、
[Ru(NH3)6]3++e → [Ru(NH3)6]2+ 0.20V
Ru3++e →Ru2+ 0.29V
Ru2++2e →Ru 0.46V
RuCl3+3e →Ru 0.68V
Ru4++e →Ru3+ 0.87V
[Ru(NH3)6]3++3e →Ru 0.89V (改訂3化学便覧 基礎編II 日本化学会編より引用)
であり、配位子の数や種類でも大きく酸化還元電位が変化することがわかる。また、電位は反応速度を決定するものではなく、実際に工業プロセスとしてのセメンテーションが可能か否かは条件によって異なる。
【0017】
さらには、原料によっては不純物としてヒ素やアンチモンの有害物を含む場合もある。特に非鉄金属の電解澱物を浸出した液を対象とする時は各種の有毒物質を含むので単純に卑金属を投入する、又は電解採取するなどの手法では猛毒のアルシンガスやアンチモン化水素等の発生が懸念される。加えてルテニウム溶解液は強酸性である。卑金属が鉱酸により水素が発生する条件では爆発のおそれがあり好ましくない。
【0018】
また、ヒ素やアンチモンはルテニウムの精製工程に混入させることは好ましくない。これらの元素は価数の変化によりその化学的挙動が異なり、その分離は煩雑である。これらの元素は溶液に残したままルテニウムのみを沈殿させることが好ましい。
【0019】
本発明はこのような従来の事情を鑑み、ヒ素又はアンチモンの少なくとも一つを含む塩酸酸性液からルテニウムを選択的に回収する方法を提供する。特に銅製錬における電解精製工程で発生する電解澱物を溶解した液は好対象である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒ素又はアンチモンの少なくとも一つを含む塩酸酸性溶液を金属銅でセメンテーションしてルテニウムを回収できることを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0021】
すなわち本発明は以下の発明を包含する。
(1)ルテニウムと、ヒ素又はアンチモンの少なくとも一つを含む塩酸酸性液に金属銅を接触させてルテニウムを析出させるルテニウムの回収方法であって、前記塩酸酸性液に液温50~85℃の状態で前記金属銅を接触させることを特徴とするルテニウムの回収方法。
(2)前記塩酸酸性液に液温50~85℃の状態で前記金属銅を接触させてから、前記塩酸酸性液に液温60℃以上の状態で酸化剤を供給することを特徴とする(1)に記載のルテニウムの回収方法。
(3)前記塩酸酸性液に酸化剤を供給するにあたり、酸化剤として空気を吹き込みながら、前記塩酸酸性液を65℃以上に制御することを特徴とする(2)に記載のルテニウムの回収方法。
(4)前記塩酸酸性液に酸化剤を供給するにあたり、酸化剤としてFe(III)を添加し、前記塩酸酸性液を60℃~75℃に制御することを特徴とする(2)又は(3)に記載のルテニウムの回収方法。
(5)前記塩酸酸性液が銅電解澱物の溶解液であり、塩酸濃度が2mol/L以上であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。
(6)前記金属銅は平均粒径1mm以下の銅粉として前記塩酸酸性液に添加し、前記金属銅の添加量はルテニウムの10重量倍以上であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載のルテニウム回収方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ヒ素又はアンチモンの少なくとも一つを含む塩酸酸性液からルテニウムを選択的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図4】各液温におけるセメンテーション施行時のルテニウム濃度の経時変化を示す図である。
【
図5】各液温におけるセメンテーション施行時のヒ素濃度の経時変化を示す図である。
【
図6】各液温におけるセメンテーション施行時のアンチモン濃度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
非鉄金属製錬、とりわけ銅製錬の電解精製工程で生じる電解澱物は白金族元素と重金属、有毒元素が濃縮される。白金族元素ならびに有毒元素は単独で製錬されることはなく、他金属の副産物として回収されるか廃触媒等のリサイクル原料から分離される。したがって、本方法は廃棄物からのリサイクルにも適用できる。
【0025】
塩酸と過酸化水素を添加して電解澱物を溶解することができるが、銀は溶解直後に塩化物イオンと不溶性の塩化銀沈殿を形成する。酸化剤と塩素を含む溶液、例えば王水や塩素水であれば貴金属類は溶解して銀を塩化銀として分離できる。塩化物浴であるため浸出貴液(PLS)には白金族元素、希少金属元素、セレン、テルルが分配する。
【0026】
浸出貴液(PLS)は一度冷却され、鉛やアンチモンといった卑金属類の塩化物を沈殿分離する。その後に溶媒抽出により金を有機相に分離する。金の抽出剤はジブチルカルビトール(DBC)が広く使用されている。
【0027】
金を抽出した後のPLSを還元すれば有価物は沈殿・回収できるが、元素により酸化還元電位が異なるために自ずと沈殿の順序が決まっている。初めに金、白金、パラジウム、次にセレンやテルルといったカルコゲン、さらにルテニウムやイリジウムといった不活性貴金属類が沈殿する。
【0028】
還元剤は還元性硫黄が価格と効率の面から利用され、なかでも二酸化硫黄は転炉ガスや硫化鉱の焙焼により大量にしかも安価に供給できるため最適である。不活性貴金属類は二酸化硫黄や亜硫酸塩では還元速度が極めて遅い。そもそも含有量も多くはなく、例えば銅電解澱物溶解液中のルテニウムは150~300mg/L程度である。現状の二酸化硫黄によるルテニウム回収率は6~8時間の反応時間で30~50%程度であるが、完全に沈殿せしめるならば10時間以上必要であると予想される。これはあまりに長く現実的な反応時間ではない。
【0029】
そこで、ルテニウムをより効率的に回収するには金属によるセメンテーションが最も効率が良い。ルテニウムは亜鉛、マグネシウム、アルミニウムなど酸で水素を発生する金属により金属ルテニウムまで還元されることは知られている。
【0030】
前述のように、二価のルテニウムイオンの標準電極電位は0.46Vである。二価の銅イオンは0.34Vであり理論的にはもちろん金属銅によりルテニウムの還元は生じる。しかしながら塩酸酸性条件下ではルテニウムは代表的な還元剤である亜硫酸(標準電極電位0.17V)やギ酸(標準電極電位-0.20V)による還元を受けない、又は極めて反応速度が遅い。特に、塩酸濃度が2mol/L以上である場合この問題が顕著である。
【0031】
同様にイリジウムの塩化物錯体の6塩化物錯体は標準電極電位が0.86Vとはるかに高位であるにもかかわらず銅によるセメンテーションは受けない。すなわち、遷移金属元素は酸化還元電位のみでセメンテーションの可否が決まるわけではない。
【0032】
この理由は不明であるが、ルテニウムが錯イオンになった時、配位子へのバックドネーションにより強固な配位結合を生じることが考えられる。このため内圏機構での電子移動が困難となり、金属から直接電子が移動する外圏機構で還元する反応経路の方が有効に作用するのであろう。
【0033】
銅より卑な金属でもセメンテーションによりルテニウムを析出せしめることは可能である。しかしながら塩酸酸性であるため水素を発生させる反応が並行して生じ、セメンテーションに利用する金属使用量が増えたり、爆発の危険がある水素が発生する。銅ならば塩酸とは反応して水素を生じることはない。
【0034】
そこで、塩酸酸性液に金属銅を接触させるにあたり、塩酸酸性液の液温を50~85℃に調整する。前述のように、塩酸酸性条件下ではルテニウムが金属銅に接触しても還元を受けない、又は極めて反応速度が遅いが、塩酸酸性液の液温を50℃以上とすれば反応速度が増加する。一方、塩酸酸性液の液温が85℃を超えると溶存酸素により金属銅の溶解反応が生じる。塩酸酸性液の液温は、60~85℃が好ましく、70~80℃がさらに好ましい。
【0035】
なお、硫酸イオンが存在する場合、塩酸酸性でも硫酸と同様に銅の溶解が懸念されるが、希硫酸であれば酸と銅の反応は遅い。温度を調製すれば金属銅の消費量は抑制することが可能である。
【0036】
また、特に銅電解澱物はヒ素又はアンチモンを含む場合、それを塩酸と酸化剤で溶解した液塩酸酸性液もヒ素又はアンチモンを含む。溶解後の液は冷却によりアンチモンを回収するが一部は残ってしまう。酸溶解したヒ素とアンチモンはアルミニウムや鉄、亜鉛でセメンテーションするとそれぞれ有毒なアルシンガスとアンチモン化水素が発生する危険がある。金属銅ならばこの心配がない。
【0037】
回収されるルテニウムは金属ルテニウムであり既存のルテニウム精製工程で処理できる。一般にセメンテーションでは過剰に置換金属を添加するが、未反応の銅は塩酸酸性条件下では酸化剤を添加して加熱すれば溶解する。
【0038】
単体の金属銅を使用する場合、塩化浴ではヒ素やアンチモンが銅と反応してヒ化銅やアンチモン化銅が生じる。ルテニウム析出物中のルテニウムをさらに濃縮する観点から、ヒ化銅やアンチモン化銅を酸化処理により除くことが好ましい。
【0039】
酸化処理はセメンテーション後すぐに固液分離せずに、しばらく一定以上の温度を維持して析出物を再溶解させることで行うことができる。温度は60℃以上であれば再溶解する。この時エアレーション(空気を吹き込むこと)や鉄(III)塩添加を行うことができる。ヒ化銅やアンチモン化銅を固液分離後に除くのであれば再度酸性溶液中でエアレーション又は適当な酸化剤を添加してしばらく一定以上の温度を維持すればよい。エアレーションは、酸化剤として空気を吹き込みながら、塩酸酸性液を65℃以上に制御することで行う。エアレーションに代えて、又はエアレーションに加えて、酸化剤としてFe(III)を添加し、塩酸酸性液を60℃~75℃に制御することも可能である。Fe(III)添加量はヒ素とアンチモンの物質量の合計の5モル倍以下であることが好ましく、3モル倍以下であることがさらに好ましい。
【0040】
銅によるセメンテーションに際しては予め還元剤により銅と反応する金属類やセレンやテルルを除いておくと銅使用量が抑制できる。還元剤としては安価な二酸化硫黄が好ましい。
【0041】
セメンテーションで投入する金属銅の形状は、板状、棒状、ショットや銅粉でもよい。タンク式反応槽ではなく、充填塔や循環槽に銅を装入して処理対象液を通液させてもよい。接触方式は回収物中銅含有量の許容量や反応効率、設備上の制約により決定される。セメンテーションに使用される金属銅の品位は高い方が好ましいが鉄や亜鉛との合金は避けるべきである。廃電線等の比較的純度の高い銅、外観不良電気銅、銅アノードの鋳返し等が利用される。もちろん銅粉等の比表面積の大きい銅がより好ましい。
【0042】
タンク式反応槽に銅を投入する場合は銅粉を投入することが好ましい。銅粉とは一般的に平均粒径1mm以下の銅粒子を指す。投入量はルテニウムに対して10重量倍以上投入することが好ましい。溶液中にカルコゲン類が共存する場合はさらに多くの銅粉を投入することが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実験例1)
銅製錬の銅電解精製工程から回収された電解澱物を硫酸により銅を除いた。濃塩酸と60%過酸化水素水を添加して溶解し、固液分離してPLS(浸出貴液)を得た。PLSを6℃まで冷却して卑金属分を沈殿除去した。酸濃度を2N以上に調整しDBC(ジブチルカルビトール)とPLSを混合して金を抽出した。金抽出後のPLSを70℃に加温し、二酸化硫黄と空気の混合ガス(二酸化硫黄濃度5~20%)を吹き込んで貴金属とセレンを還元し固液分離した。
セレン分離後液を300ml量り取り、80~85℃に加温して空気と二酸化硫黄の混合ガス吹き込みながら撹拌した。15分後に、空気と二酸化硫黄の混合ガス供給を停止した。銅粉(和光純薬工業社製、1級)を1.5g添加してエアレーションしながら撹拌した。120分間で反応を終了した。
比較としてエアレーションしない系(銅粉のみ)、エアレーションせず60分後に塩化鉄(III)6水和物を6g添加した系(塩化鉄)、銅粉を添加しないで空気と二酸化硫黄の混合ガスを吹き込む系(SO
2ガスのみ)を試験した。
試験サンプルは20分毎に採取した。サンプル溶液2mlを分取して50mlに規正した。ICP-OES(セイコーインスツル社製SPS3100)により溶液中のルテニウム、ヒ素及びアンチモンそれぞれの濃度を定量した。減った水分量は純水で補充した。液量の低下を補正するトレーサーを付さなかった。すなわち現実の溶液濃度でありサンプリングで減った分必然的に濃度は下がっていく。結果を
図1~
図3に示す。
【0045】
銅粉を添加すれば効率よく溶液中のルテニウムが減少することがわかる。同時にヒ素とアンチモンの濃度も低下したことは明らかである。しかしながら時間の経過と共にヒ素とアンチモンの濃度は上昇に転じ、再溶解していることがわかる。
【0046】
エアレーションするとヒ素とアンチモンの再溶解が促進される。さらにFe(III)も添加されると迅速に再溶解が生じる。しかしながらいずれの酸化剤でもRuの一部が再溶解されている。特にFe(III)を添加した場合、ある時点を超えると急激にRuの液中の濃度が上昇しており、添加量はヒ素とアンチモンの量により決定して過剰に添加することには注意を要する。あるいは、溶液の温度を60℃~75℃に調整することで反応速度を制御する。
【0047】
(実験例2)
実験例1と同じセレン分離後液を二酸化硫黄と空気の混合ガスを15分吹き込んでテルルの濃度を200mg/L以下に調整した。300ml量りとり各溶液を50~55℃、65~70℃、80~85℃に加熱した。次いで、銅粉1.5gを添加し撹拌した。80~85℃に加熱した系は2水準実施し、一方はエアレーションを実施した。
試験サンプルは20分毎に採取した。サンプル溶液2mlを分取して50mlに規正した。ICP-OES(セイコーインスツル社製SPS3100)によりルテニウムとヒ素の濃度を定量した。減った水分量は純水で補充した。トレーサーを用いた補正は行わなかった。0分は二酸化硫黄の吹き込みを開始した時とした。結果を
図4~
図6に示す。
【0048】
ルテニウムの銅によるセメンテーションは50℃以上で可能であった。温度が高い方が反応は効率的であり、65℃以上では迅速に反応し、ルテニウム濃度は最終的に20mg/L以下まで低下した。
【0049】
ヒ素は銅粉1.5g添加した後、65℃以上で大きく濃度を下げた。ヒ化銅を形成したことが原因と推定される。50~55℃加熱の系ではほとんどヒ化銅を形成しない(濃度の低下はサンプリングの影響)と考えられる。
【0050】
反応を継続するとヒ化銅が徐々に溶解してヒ素濃度が再度上昇した。ルテニウム析出後も70℃以上で加温を続けるとルテニウムへのヒ化銅の混入は抑制できる。空気を吹き込むと尚効率的である。
【0051】
アンチモンもヒ素と同様な挙動を示す。アンチモン化銅が生じた場合も65℃以上で加熱を続ければセメンテーションして沈殿したルテニウムへの混入を抑制できる。