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特許6994990リチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、正極及びリチウム二次電池
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  • 特許-リチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、正極及びリチウム二次電池 図1A
  • 特許-リチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、正極及びリチウム二次電池 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】リチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、正極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220106BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220106BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220106BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018045954
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019160572
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2018-08-16
【審判番号】
【審判請求日】2020-04-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】高森 健二
(72)【発明者】
【氏名】黒田 友也
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】境 周一
【審判官】粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-123255(JP,A)
【文献】特開2011-82150(JP,A)
【文献】特開2015-26455(JP,A)
【文献】特開2000-306577(JP,A)
【文献】国際公開第15/182665(WO,A1)
【文献】特開平10-208728(JP,A)
【文献】特開平04-56064(JP,A)
【文献】特開2017-228516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次粒子と該一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、から構成されたリチウム金属複合酸化物粉末を含有する、リチウム二次電池用正極活物質であって、
下記組成式(1)で表され、下記(A)、(B)及び(C)の要件を全て満たし、
リチウム以外のアルカリ金属含有量が0.001質量%以上0.03質量%以下であるリチウム金属複合酸化物粉末を含有する、リチウム二次電池用正極活物質
Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]O (1)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属元素であり、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、を満たし、y+z+wは0.5未満である。)
(A)BET比表面積が2m/g未満である。
(B)前記一次粒子の平均粒子径が1.0μm以上5.0μm以下である。
(C)前記リチウム金属複合酸化物粉末を構成する二次粒子の粒界に少なくとも硫酸根を含み、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比が0.1以上17.1以下である。
【請求項2】
中和滴定により測定される前記リチウム金属複合酸化物粉末の残存アルカリに含まれる炭酸リチウムの含有量が、0.7質量%以下であり、かつ、中和滴定により測定される前記リチウム金属複合酸化物粉末の残存アルカリに含まれる水酸化リチウムの含有量が0.7質量%以下である請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質
【請求項3】
粒度分布測定値から求めた10%累積径(D10)、50%累積径(D50)および90%累積径(D90)において、50%累積径(D50)が2μm以上15μm以下であり、さらに、下記式(D)の関係を満たす請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質
0.8≦(D90-D10)/D50≦3.5・・・(D)
【請求項4】
水分含有量(質量%)をBET比表面積(m/g)で除した値が0.005以上0.5以下である請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質
【請求項5】
粒度分布測定値から求めた50%累積径(D50)が、2μm以上5μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含有する正極。
【請求項7】
請求項に記載の正極を有するリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属複合酸化物粉末は、リチウム二次電池用正極活物質として用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話用途やノートパソコン用途などの小型電源だけでなく、自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型電源においても、実用化が進んでいる。
【0003】
リチウム金属複合酸化物粉末は、原料由来の不純物を含む。リチウム金属複合酸化物粉末を正極活物質として用いたリチウム二次電池において、この不純物は塗工性の低下や電池の膨れ等の不具合を引き起こす原因となりうる。
例えば特許文献1には、充放電反応に寄与しない不純物量を低減させ、熱安定性に優れた正極活物質が記載されている。具体的には、特許文献1では、硫酸根含有量が0.2質量%以下、かつ塩素含有量が0.1質量%以下の正極活物質が記載されている。
特許文献2には、一次粒子の表層部に存在している残存アルカリ量が少なく、かつ、サイクル特性に優れるリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-122269号公報
【文献】特開2011-124086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム二次電池の応用分野の拡大が進む中、リチウム二次電池の正極活物質には、さらなる電池特性の向上に加え、リチウム二次電池の生産性を高めるための易加工性が求められる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、原料由来の不純物が一定の比率で含有されたリチウム金属複合酸化物粉末、これを用いた、リチウム二次電池用正極活物質、正極及びリチウム二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]~[8]の発明を包含する。
[1]一次粒子のみ、もしくは該一次粒子と該一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、から構成されたリチウム金属複合酸化物粉末であって、下記組成式(1)で表され、下記(A)、(B)及び(C)の要件を全て満たすことを特徴とするリチウム金属複合酸化物粉末。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]O (1)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVからなる群より選択される1種以上の金属元素であり、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1を満たす。)
(A)BET比表面積が2m/g未満である。
(B)前記一次粒子の平均粒子径が1μm以上である。
(C)硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比が0.1以上50未満である。
[2]中和滴定により測定される前記リチウム金属複合酸化物粉末の残存アルカリに含まれる炭酸リチウムの含有量が、0.7質量%以下であり、かつ、中和滴定により測定される前記リチウム金属複合酸化物粉末の残存アルカリに含まれる水酸化リチウムの含有量が0.7質量%以下である[1]に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。
[3]リチウム以外のアルカリ金属含有量が0.001質量%以上0.05質量%以下である、[1]又は[2]に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。
[4]粒度分布測定値から求めた10%累積径(D10)、50%累積径(D50)および90%累積径(D90)において、50%累積径(D50)が2μm以上15μm以下であり、さらに、下記式(D)の関係を満たす[1]~[3]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物粉末。
0.8≦(D90-D10)/D50≦3.5・・・(D)
[5]水分含有量(質量%)をBET比表面積(m/g)で除した値が0.005以上0.5以下である[1]~[4]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物粉末。
[6][1]~[5]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物粉末を含有する、リチウム二次電池用正極活物質。
[7][6]に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含有する正極。
[8][7]に記載の正極を有するリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、原料由来の不純物が少ないリチウム金属複合酸化物粉末、これを用いた、リチウム二次電池用正極活物質、正極及びリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】リチウムイオン二次電池の一例を示す概略構成図である。
図1B】リチウムイオン二次電池の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<リチウム金属複合酸化物粉末>
本実施形態は、一次粒子のみ、もしくは該一次粒子と該一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、から構成されたリチウム金属複合酸化物粉末である。本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、下記組成式(I)で表され、下記(A)、(B)及び(C)の要件を全て満たす。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]O ・・・(1)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVからなる群より選択される1種以上の金属元素であり、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1を満たす。)
(A)BET比表面積が2m/g未満である。
(B)前記一次粒子の平均粒子径が1μm以上である。
(C)硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比が0.1以上50未満である。
【0010】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、一次粒子のみから構成されていてもよく、一次粒子と、該一次粒子が凝集して形成された二次粒子とから構成されていてもよい。
【0011】
≪組成式(1)≫
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、下記組成式(I)で表される。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)CoMn1-x]O ・・・(1)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVからなる群より選択される1種以上の金属元素であり、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1を満たす。)
【0012】
サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるxは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるxは0.1以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.06以下であることがさらに好ましい。
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0013】
また、電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるyは0を超えることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、0.05以上であることが特に好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるyは0.35以下であることがより好ましく、0.33以下であることがさらに好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0014】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるzは0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるzは0.4以下であることが好ましく、0.38以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0015】
また、電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるwは0を超えることが好ましく、0.0005以上であることがより好ましく、0.001以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートにおいて放電容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるwは0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0016】
前記組成式(I)におけるy+z+wは0.5未満が好ましく、0.3以下がより好ましい。
【0017】
前記組成式(I)におけるMはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。
【0018】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるMは、Ti、Mg、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の金属であることが好ましく、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、Ti、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の金属であることが好ましい。
【0019】
・要件(A)
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、BET比表面積が2m/g未満であり、1.8m/g以下が好ましく、1.6m/g以下がより好ましく、1.4m/g以下が特に好ましい。
【0020】
・要件(B)
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、一次粒子の平均粒子径が1μm以上であり、1.1μm以上が好ましく、1.2μm以上がより好ましい。
また、一次粒子径の上限値は特に限定されない。一例を挙げると、一次粒子の平均粒子径は5.0μm以下であってもよく、4.0μm以下であってもよく、3.0μm以下であってもよい。
【0021】
・・一次粒子の平均粒子径
まず、リチウム金属複合酸化物粉末を、サンプルステージ上に貼った導電性シート上に載せ、日本電子株式会社製JSM-5510を用いて、加速電圧が20kVの電子線を照射してSEM観察を行う。SEM観察により得られた画像(SEM写真)から任意に50個の一次粒子を抽出し、それぞれの一次粒子について、一次粒子の投影像を一定方向から引いた平行線ではさんだ平行線間の距離(定方向径)を一次粒子の粒子径として測定する。得られた一次粒子の粒子径の算術平均値が、リチウム金属複合酸化物粉末の平均一次粒子径である。
【0022】
上記要件(A)および(B)を満たすような本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、粒界が少なく、正極材の成型時の加圧操作で粒子の割れが生じにくいという優れた効果を奏する。また、要件(C)にて説明する硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比を所定の範囲に調整しやすいという効果も有する。
【0023】
・要件(C)
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比が0.1以上50未満であり、0.5以上40以下が好ましく、0.7以上30以下がより好ましい。
本明細書において、「硫酸根」とは、焼成工程後のリチウム金属複合酸化物粉末に含まれるSO 2-を意味する。
【0024】
要件(C)を満たす本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末に含有される、リチウム以外のアルカリ金属と硫酸根と比が一定の範囲内である。本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、前述の要件(A)および(B)のため、一次粒子が一定以上大きく、硫酸根を洗浄により調整しやすい。一方、一次粒子が一定以下の粒径を有する場合、該一次粒子により構成される二次粒子には粒界が多く、洗浄により硫酸根の含有量を調整することは難しく、硫酸根が多く残留しやすい。
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、二次粒子の粒界が少ないため、粒子表面の硫酸根の存在量が少ないと推察される。
【0025】
硫酸根は吸湿性が高い。また、SO 2-が多く、カウンターイオン(アルカリ金属)が少ないと、SO 2-が不安定となり、吸湿性が高くなりやすい。そのため硫酸根が多く残留するリチウム金属複合酸化物粉末を正極活物質として用いると、水分を吸収してしまう。この水分は、正極材中のアルカリ成分と反応し、pHが増大して、正極材が有するバインダー成分が変化し、ゲル化する原因となる。
【0026】
一方、SO 2-が少なく、カウンターイオン(アルカリ金属)が多すぎると、リチウム金属複合酸化物粉末の結晶構造において、本来リチウムイオンが存在するサイトにリチウム以外のアルカリ金属が存在する割合が高まり、電池の内部抵抗が高くなる。
【0027】
本実施形態において、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比は下記の方法により測定できる。
リチウム金属複合酸化物粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄原子量およびリチウム以外のアルカリ金属の原子量を測定する。次いで、測定した硫黄原子量を硫酸根に換算する。測定したリチウム以外のアルカリ金属の原子量および硫酸根量からリチウム金属複合酸化物粉末に含有されたリチウム以外のアルカリ金属の含有量(質量%)および硫酸根含有量(質量%)を算出し、リチウム以外のアルカリ金属の含有量(質量%)の値を、硫酸根含有量(質量%)の値で除し、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比を算出する。
【0028】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、粒度分布測定値から求めた10%累積径(D10)、50%累積径(D50)および90%累積径(D90)において、50%累積径(D50)が2μm以上15μm以下であり、さらに、下記式(D)の関係を満たすことが好ましい。
0.8≦(D90-D10)/D50≦3.5・・・(D)
【0029】
前記50%累積径(D50)の下限値は、2.2μm以上が好ましく、2.5μm以上がより好ましく、3.0μm以上がさらに好ましい。
前記50%累積径(D50)の上限値は、10μm以下が好ましく、8.0μm以下がより好ましく、5.0μm以下がさらに好ましい。
50%累積径(D50)の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態においては、2.2μm以上10μm以下が好ましく、2.5μm以上8.0μm以下がより好ましく、3.0μm以上5.0μm以下がさらに好ましい。
【0030】
式(D)で表される関係の下限値は、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上が特に好ましい。
式(D)で表される関係の上限値は、3.4以下が好ましく、3.2以下がより好ましく、3.0以下が特に好ましい。
式(D)で表される関係の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態においては、1.0以上3.4以下が好ましく、1.5以上3.2以下がより好ましく、2.0以上3.0以下が特に好ましい。
【0031】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、電極作成時の塗工性を高める観点から水分含有量(質量%)をBET比表面積(m/g)で除した値が0.005以上0.3以下であることが好ましく、0.008以上0.2以下がより好ましく、0.010以上0.05以下がさらに好ましい。
【0032】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、中和滴定により測定される前記リチウム金属複合酸化物粉末の残存アルカリに含まれる炭酸リチウムの含有量が、0.7質量%以下であり、かつ、中和滴定により測定される前記リチウム金属複合酸化物粉末の残存アルカリに含まれる水酸化リチウムの含有量が0.7質量%以下であることが好ましい。
炭酸リチウムの含有量は、0.69質量%以下がより好ましく、0.68以下がさらに好ましい。
水酸化リチウムの含有量が、0.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましい。
【0033】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、放電容量が高く、内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、リチウム以外のアルカリ金属含有量が0.001質量%以上0.05質量%以下が好ましく、0.0012質量%以上0.03質量%以下がより好ましく、0.0014質量%以上0.01質量%以下がさらに好ましく、0.0016以上、0,005以下が特に好ましい。
【0034】
<リチウム金属複合酸化物粉末の製造方法>
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末を製造するにあたって、まず、リチウム以外の金属、すなわち、Ni、Co及びMnから構成される必須金属、並びに、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVのうちいずれか1種以上の任意金属を含む金属複合化合物を調製し、当該金属複合化合物を適当なリチウム塩と、不活性溶融剤と焼成することが好ましい。金属複合化合物としては、金属複合水酸化物又は金属複合酸化物が好ましい。以下に、リチウム金属複合酸化物粉末の製造方法の一例を、金属複合化合物の製造工程と、リチウム金属複合酸化物の製造工程とに分けて説明する。
【0035】
(金属複合化合物の製造工程)
金属複合化合物は、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む金属複合水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
【0036】
まず共沈殿法、特に特開2002-201028号公報に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、NiCoMn(OH)(式中、a+b+c=1)で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0037】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、及び酢酸マンガンのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。以上の金属塩は、上記NiCoMn(OH)の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
【0038】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル、コバルト、及びマンガンのイオンと錯体を形成可能なものであり、例えばアンモニウムイオン供給体(水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0039】
沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要ならばアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。
【0040】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給させると、ニッケル、コバルト、及びマンガンが反応し、NiCoMn(OH)が製造される。反応に際しては、反応槽の温度が例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30~70℃の範囲内で制御され、反応槽内のpH値は例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御され、反応槽内の物質が適宜撹拌される。反応槽は、形成された反応沈殿物を分離のためオーバーフローさせるタイプのものである。
【0041】
反応槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、下記工程で最終的に得られるリチウム金属複合酸化物の二次粒子径、細孔半径等の各種物性を制御することが出来る。上記の条件の制御に加えて、各種気体、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の酸化性ガス、あるいはそれらの混合ガスを反応槽内に供給してもよい。気体以外に酸化状態を促すものとして、過酸化水素などの坂酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン、オゾンなどを使用することができる。気体以外に還元状態を促すものとして、シュウ酸、ギ酸などの有機酸、亜硫酸塩、ヒドラジンなどを使用する事ができる。
【0042】
例えば、反応槽内の反応pHを高くすると、二次粒子径が小さい金属複合化合物が得られやすい。一方、反応pHを低くすると、二次粒子径が大きい金属複合化合物が得られやすい。また、反応槽内の酸化状態を高くすると、空隙を多く有する金属複合化合物が得られやすい。一方、酸化状態を低くすると、緻密な金属複合化合物が得られやすい。反応条件については、使用する反応槽のサイズ等にも依存することから、最終的に得られるリチウム複合酸化物の各種物性をモニタリングしつつ、反応条件を最適化すれば良い。
【0043】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄した後、乾燥し、ニッケルコバルトマンガン複合化合物としてのニッケルコバルトマンガン水酸化物を単離する。また、必要に応じて弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄しても良い。
なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
【0044】
(リチウム金属複合酸化物の製造工程)
上記金属複合酸化物又は金属複合水酸化物を乾燥した後、リチウム塩と混合する。また、本実施形態において、この混合と同時に不活性溶融剤を混合することが好ましい。
金属複合酸化物若しくは金属複合水酸化物、リチウム塩及び不活性溶融剤を含む、不活性溶融剤含有混合物を焼成することにより、不活性溶融剤の存在下で、混合物を焼成することになる。不活性溶融剤の存在下で焼成することにより、一次粒子同士が焼結して二次粒子が生成することを抑制できる。また、結晶性の高い一次粒子を得ることができる。
【0045】
本実施形態において、乾燥条件は特に制限されないが、例えば、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化・還元されない条件(酸化物が酸化物のまま維持される、水酸化物が水酸化物のまま維持される)、金属複合水酸化物が酸化される条件(水酸化物が酸化物に酸化される)、金属複合酸化物が還元される条件(酸化物が水酸化物に還元される)のいずれの条件でもよい。酸化・還元がされない条件のためには、窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガスを使用すればよく、水酸化物が酸化される条件では、酸素又は空気を使用すればよい。また、金属複合酸化物が還元される条件としては、不活性ガス雰囲気下、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用すればよい。リチウム塩としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウムのうち何れか一つ、または、二つ以上を混合して使用することができる。
【0046】
金属複合酸化物又は金属複合水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。以上のリチウム塩と金属複合水酸化物とは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を用いる場合、リチウム塩と当該金属複合水酸化物は、LiNiCoMn(式中、a+b+c=1)の組成比に対応する割合で用いられる。ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物及びリチウム塩の混合物を焼成することによって、リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
【0047】
本実施形態においては、不活性溶融剤の存在下で混合物の焼成を行うことで、混合物の反応を促進させることができる。不活性溶融剤は、焼成後のリチウム金属複合酸化物粉末に残留していてもよいし、焼成後に水などで洗浄すること等により除去されていてもよい。本実施形態においては、要件(C)に制御するため、焼成後のリチウム複合金属酸化物は水などを用いて洗浄することが好ましく、洗浄に用いる水の量を調整することが好ましいい。また、洗浄に用いる水にあらかじめ硫酸根、もしくはリチウム以外のアルカリ金属を含有させた洗浄液を調整し、前記洗浄液を用いた洗浄を行う方法も好ましく用いられる。
【0048】
焼成における保持温度を調整することにより、得られるリチウム金属複合酸化物の一次粒子の粒子径、二次粒子の粒子径を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
通常、保持温度が高くなればなるほど、一次粒子の粒子径および二次粒子の粒子径は大きくなり、BET比表面積は小さくなる傾向にある。焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
本実施形態においては、保持温度の設定は、後述する不活性溶融剤の融点を考慮すればよく、不活性溶融剤の融点マイナス200℃以上不活性溶融剤の融点プラス200℃以下の範囲で行うことが好ましい。
保持温度として、具体的には、200℃以上1150℃以下の範囲を挙げることができ、300℃以上1050℃以下が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましい。
【0049】
また、前記保持温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガスを用いることができる。
保持温度、保持温度で保持する時間および焼成の雰囲気を適切に設定することで、要件(A)、(B)およびリチウム金属複合酸化物粉末の残存アルカリに含まれる炭酸リチウムの含有量、水酸化リチウムの含有量を好適な範囲に調整することが可能となる。
【0050】
焼成によって得たリチウム金属複合酸化物は、粉砕後に適宜分級され、リチウム二次電池に適用可能な正極活物質とされる。
【0051】
本実施形態に使用することができる不活性溶融剤は、焼成の際に混合物と反応し難いものであれば特に限定されない。本実施形態においては、Na、K、RbおよびCsからなる群より選ばれる1種以上の元素(以下、「A」と称する。)のフッ化物、Aの塩化物、Aの炭酸塩、Aの硫酸塩、Aの硝酸塩、Aのリン酸塩、Aの水酸化物、Aのモリブデン酸塩およびAのタングステン酸塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0052】
Aのフッ化物としては、NaF(融点:993℃)、KF(融点:858℃)、RbF(融点:795℃)およびCsF(融点:682℃)を挙げることができる。
【0053】
Aの塩化物としては、NaCl(融点:801℃)、KCl(融点:770℃)、RbCl(融点:718℃)およびCsCl(融点:645℃)を挙げることができる。
【0054】
Aの炭酸塩としては、NaCO(融点:854℃)、KCO(融点:899℃)、RbCO(融点:837℃)およびCsCO(融点:793℃)を挙げることができる。
【0055】
Aの硫酸塩としては、NaSO(融点:884℃)、KSO(融点:1069℃)、RbSO(融点:1066℃)およびCsSO(融点:1005℃)を挙げることができる。
【0056】
Aの硝酸塩としては、NaNO(融点:310℃)、KNO(融点:337℃)、RbNO(融点:316℃)およびCsNO(融点:417℃)を挙げることができる。
【0057】
Aのリン酸塩としては、NaPO、KPO(融点:1340℃)、RbPOおよびCsPOを挙げることができる。
【0058】
Aの水酸化物としては、NaOH(融点:318℃)、KOH(融点:360℃)、RbOH(融点:301℃)およびCsOH(融点:272℃)を挙げることができる。
【0059】
Aのモリブデン酸塩としては、NaMoO(融点:698℃)、KMoO(融点:919℃)、RbMoO(融点:958℃)およびCsMoO(融点:956℃)を挙げることができる。
【0060】
Aのタングステン酸塩としては、NaWO(融点:687℃)、KWO、RbWOおよびCsWOを挙げることができる。
【0061】
本実施形態においては、これらの不活性溶融剤を2種以上用いることもできる。2種以上用いる場合は、融点が下がることもある。また、これらの不活性溶融剤の中でも、より結晶性が高いリチウム金属複合酸化物粉末を得るための不活性溶融剤としては、Aの炭酸塩およびAの塩化物のいずれか一方又は両方であることが好ましい。また、Aとしては、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)のいずれか一方又は両方であることが好ましい。すなわち、上記の中で、とりわけ好ましい不活性溶融剤は、NaCl、KCl、NaCOおよびKCOからなる群より選ばれる1種以上である。
これらの不活性溶融剤を用いることにより、得られるリチウム金属複合酸化物について、要件(A)及び要件(B)を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
【0062】
本実施形態において、不活性溶融剤として、硫酸カリウムおよび硫酸ナトリウムのいずれか一方又は両方を用いた場合には、得られるリチウム金属複合酸化物の一次粒子と二次粒子の平均粒子径を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
【0063】
本実施形態において、焼成時の不活性溶融剤の存在量は適宜選択すればよい。得られるリチウム金属複合酸化物の要件(B)の範囲とするためには、不活性溶融剤の存在量はリチウム化合物100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、必要に応じて、上記に挙げた不活性溶融剤以外の不活性溶融剤を併せて用いてもよい。該溶融剤としては、NHCl、NHFなどのアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0064】
<リチウム二次電池用正極活物質>
本実施形態は、前記本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末を含有するリチウム二次電池用正極活物質である。
【0065】
<リチウム二次電池>
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法により製造されたリチウム二次電池用正極活物質を用いた正極、およびこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0066】
本実施形態のリチウム二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0067】
図1A図1Bは、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0068】
まず、図1Aに示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、および一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0069】
次いで、図1Bに示すように、電池缶5に電極群4および不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7および封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0070】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0071】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0072】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0073】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極は、まず正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0074】
(導電材)
本実施形態の正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、および正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0075】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0076】
(バインダー)
本実施形態の正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0077】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力および正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0078】
(正極集電体)
本実施形態の正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0079】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0080】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0081】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。
【0082】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
本実施形態のリチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0083】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0084】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0085】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO、SiOなど式SiO(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO、TiOなど式TiO(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V、VOなど式VO(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe、Fe、FeOなど式FeO(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO、SnOなど式SnO(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO、WOなど一般式WO(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;LiTi12、LiVOなどのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0086】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti、TiS、TiSなど式TiS(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V、VS2、VSなど式VS(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe、FeS、FeSなど式FeS(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo、MoSなど式MoS(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnS(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WSなど式WS(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sbなど式SbS(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se、SeS、SeSなど式SeS(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0087】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、LiN、Li3-xN(ここで、AはNiおよびCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0088】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0089】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
【0090】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li-Al、Li-Ni、Li-Si、Li-Sn、Li-Sn-Niなどのリチウム合金;Si-Znなどのシリコン合金;Sn-Mn、Sn-Co、Sn-Ni、Sn-Cu、Sn-Laなどのスズ合金;CuSb、LaNiSnなどの合金;を挙げることもできる。
【0091】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0092】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0093】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0094】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0095】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0096】
(セパレータ)
本実施形態のリチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0097】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0098】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0099】
(電解液)
本実施形態のリチウム二次電池が有する電解液は、電解質および有機溶媒を含有する。
【0100】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(COCF)、Li(CSO)、LiC(SOCF、Li10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlClなどのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCFおよびLiC(SOCFからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0101】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0102】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0103】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPFなどのフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0104】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLiS-SiS、LiS-GeS、LiS-P、LiS-B、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiSO、LiS-GeS-Pなどの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
【0105】
また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0106】
以上のような構成の正極活物質は、上述した本実施形態のリチウム含有複合金属酸化物を用いているため、正極活物質を用いたリチウム二次電池を、電池内部で生じる副反応を抑制することができる。
【0107】
また、以上のような構成の正極は、上述した本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を有するため、リチウム二次電池を、電池内部で生じる副反応を抑制することができる。
【0108】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、従来よりも電池内部で生じる副反応を抑制したリチウム二次電池となる。
【実施例
【0109】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0110】
本実施例においては、リチウム金属複合酸化物粉末の評価を下記の方法により実施した。
【0111】
<組成分析>
後述の方法で製造されるリチウム金属複合酸化物粉末の組成分析は、得られたリチウム複合金属化合物の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0112】
<BET比表面積測定>
リチウム金属複合酸化物粉末1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、マウンテック社製Macsorb(登録商標)を用いて測定した(単位:m/g)。
【0113】
<平均一次粒子径の測定>
リチウム金属複合酸化物粉末を、サンプルステージ上に貼った導電性シート上に載せ、日本電子株式会社製JSM-5510を用いて、加速電圧が20kVの電子線を照射してSEM観察を行った。SEM観察により得られた画像(SEM写真)から任意に50個の一次粒子を抽出し、それぞれの一次粒子について、一次粒子の投影像を一定方向から引いた平行線ではさんだ平行線間の距離(定方向径)を一次粒子の粒子径として測定した。得られた一次粒子の粒子径の算術平均値が、リチウム金属複合酸化物粉末の平均一次粒子径とした。
【0114】
<硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比の測定>
硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比は下記の方法により測定した。
リチウム金属複合酸化物粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄原子量およびリチウム以外のアルカリ金属の原子量を測定した。次いで、測定した硫黄原子量を硫酸根に換算した。測定したリチウム以外のアルカリ金属の原子量および硫酸根量からリチウム金属複合酸化物粉末に含有されたリチウム以外のアルカリ金属の含有量(質量%)および硫酸根含有量(質量%)を算出し、リチウム以外のアルカリ金属の含有量(質量%)の値を、硫酸根含有量(質量%)の値で除し、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比を算出した。
【0115】
<リチウム金属複合酸化物粉末に含まれる残留リチウム定量(中和滴定)>
リチウム金属複合酸化物粉末20gと純水100gを500mlビーカーに入れ、5分間撹拌した。撹拌後、リチウム金属複合酸化物を濾過し、残った濾液の60gに0.1mol/L塩酸を滴下し、pHメーターにて濾液のpHを測定した。pH=8.3±0.1時の塩酸の滴定量をAml、pH=4.5±0.1時の塩酸の滴定量をBmlとして、下記の計算式より、リチウム金属複合酸化物中に残存する炭酸リチウム及び水酸化リチウム濃度を算出した。下記の式中、炭酸リチウム及び水酸化リチウムの分子量は、各原子量を、H;1.000、Li;6.941、C;12、O;16、として算出した。
炭酸リチウム濃度(%)=
0.1×(B-A)/1000×73.882/(20×60/100)×100
水酸化リチウム濃度(%)=
0.1×(2A-B)/1000×23.941/(20×60/100)×100
【0116】
<リチウム金属複合酸化物粉末の粒度分布測定>
測定するリチウム金属複合酸化物の粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、該粉末を分散させた分散液を得た。得られた分散液についてマルバーン社製マスターサイザー2000(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。得られた累積粒度分布曲線において、50%累積時の体積粒度をリチウム金属複合酸化物粉末の50%累積体積粒度D50とした。さらに、得られた累積粒度分布曲線において、10%累積時の体積粒度をリチウム金属複合酸化物粉末の10%累積体積粒度D10とした。さらに、得られた累積粒度分布曲線において、90%累積時の体積粒度をリチウム金属複合酸化物粉末の90%累積体積粒度D90とした。
【0117】
<水分含有量>
測定するリチウム金属複合酸化物の粉末1gについて電量法カールフィッシャー水分計(831 Coulometer、Metrohm社製)を用い、リチウム金属複合酸化物の水分含有量を測定した。
【0118】
<電極塗工性試験>
後述の方法で製造されるリチウム金属複合酸化物粉末を正極活物質とし、該正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、リチウム二次電池用正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。なお、バインダー(PVdF)はN-メチル-2-ピロリドンを溶媒とし、バインダー濃度が5質量%となるように調整したものを用いた。
【0119】
得られたペースト状の正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に、オートアプリケーターを用いて塗布して60℃で5時間乾燥し、線圧120kN/mの圧力でプレスを行った。その後、150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cmとし、電極に塗布された正極合材量は10±1mg/cmとなるようにペースト状の正極合材の塗布厚みを調整した。
【0120】
得られた電極の膜厚を、マイクロメーターで5点測定した。なお、膜厚の測定点は同一電極面内で均一に分散するように測定点を選定した。得られた5点の電極膜厚から平均電極膜厚を算出し、該平均電極膜厚から±2μmを超える測定点がない場合に電極の塗工性が高く、±2μmを超える測定点がある場合には電極の塗工性が低いと判断した。
表1中においては、電極塗工性が高ければ「〇」とし、低ければ「×」とした。
【0121】
≪実施例1≫
1.正極活物質1の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0122】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.60:0.20:0.20となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0123】
次いで、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが11.7になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0124】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と炭酸リチウム粉末と硫酸カリウム粉末を、Li/(Ni+Co+Mn)=1.20、KSO/(LiCO+KSO)=0.10(mоl比)となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下900℃で8時間焼成して、リチウム金属複合酸化物粉末を得た。上記粉末と純水とを全体量に対して上記粉末重量の割合が0.3になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水、単離し、105℃で乾燥することにより正極活物質1を得た。
【0125】
正極活物質1の評価
得られた正極活物質1の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.03、y=0.20、z=0.20、w=0.00であった。
【0126】
正極活物質1のBET比表面積、平均一次粒子径(表1中、「一次粒子径」と記載する)、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比、炭酸リチウム含有量、水酸化リチウム含有量、リチウム以外のアルカリ金属含有量、D50、(D90-D10)/D50、水分含有量をBET比表面積で除した値、電極塗工性(表1中、「塗工性」と記載する)の結果を表1に記載する。
【0127】
≪実施例2≫
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と炭酸リチウム粉末と硫酸カリウム粉末を、Li/(Ni+Co+Mn)=1.20、KSO/(LiCO+KSO)=0.10(mоl比)となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下925℃で8時間焼成して、リチウム金属複合酸化物粉末を得た。上記粉末と純水とを全体量に対して上記粉末重量の割合が0.3になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水、単離し、105℃で乾燥することにより正極活物質2を得た。
【0128】
正極活物質2の評価
得られた正極活物質2の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.02、y=0.20、z=0.20、w=0.00であった。
【0129】
正極活物質2のBET比表面積、平均一次粒子径(表1中、「一次粒子径」と記載する)、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比、炭酸リチウム含有量、水酸化リチウム含有量、リチウム以外のアルカリ金属含有量、D50、(D90-D10)/D50、水分含有量をBET比表面積で除した値、電極塗工性(表1中、「塗工性」と記載する)の結果を表1に記載する。
【0130】
≪実施例3≫
1.正極活物質3の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0131】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸アルミニウム水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.90:0.07:0.03となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0132】
次いで、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが11.4になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物2を得た。
【0133】
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子2と水酸化リチウム一水和物粉末と硫酸カリウム粉末を、Li/(Ni+Co+Al)=1.20、KSO/(LiOH+KSO)=0.10(mоl比)となるように秤量して混合した後、酸素囲気下840℃で8時間焼成して、リチウム金属複合酸化物粉末を得た。上記粉末と純水とを全体量に対して上記粉末重量の割合が0.4になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水、単離し、105℃で乾燥することにより正極活物質3を得た。
【0134】
正極活物質3の評価
得られた正極活物質3の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.01、y=0.07、z=0.00、w=0.03であった。
【0135】
正極活物質3のBET比表面積、平均一次粒子径(表1中、「一次粒子径」と記載する)、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比、炭酸リチウム含有量、水酸化リチウム含有量、リチウム以外のアルカリ金属含有量、D50、(D90-D10)/D50、水分含有量をBET比表面積で除した値、電極塗工性(表1中、「塗工性」と記載する)の結果を表1に記載する。
【0136】
≪比較例1≫
1.正極活物質4の製造
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と炭酸リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.20となるように秤量して混合したとした以外は実施例1と同様の方法で正極活物質4を得た。
【0137】
2.正極活物質4の評価
正極活物質4の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.02、y=0.20、z=0.20、w=0であった。
【0138】
正極活物質4のBET比表面積、平均一次粒子径(表1中、「一次粒子径」と記載する)、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比、炭酸リチウム含有量、水酸化リチウム含有量、リチウム以外のアルカリ金属含有量、D50、(D90-D10)/D50、水分含有量をBET比表面積で除した値、電極塗工性(表1中、「塗工性」と記載する)の結果を表1に記載する。
【0139】
≪比較例2≫
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と炭酸リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.20となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下925℃で8時間焼成して、リチウム金属複合酸化物粉末を得た。上記粉末と純水とを全体量に対して上記粉末重量の割合が0.2になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水、単離し、105℃で乾燥することにより正極活物質5を得た。
【0140】
正極活物質5の評価
得られた正極活物質5の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.02、y=0.20、z=0.20、w=0.00であった。
【0141】
正極活物質5のBET比表面積、平均一次粒子径(表1中、「一次粒子径」と記載する)、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比、炭酸リチウム含有量、水酸化リチウム含有量、リチウム以外のアルカリ金属含有量、D50、(D90-D10)/D50、水分含有量をBET比表面積で除した値、電極塗工性(表1中、「塗工性」と記載する)の結果を表1に記載する。
【0142】
≪比較例3≫
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子1と水酸化リチウム一水和物粉末と硫酸カリウム粉末を、Li/(Ni+Co+Al)=1.20となるように秤量して混合した後、酸素囲気下840℃で8時間焼成して、リチウム金属複合酸化物粉末を得た。上記粉末と純水とを全体量に対して上記粉末重量の割合が0.5になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水、単離し、105℃で乾燥することにより正極活物質3を得た。
【0143】
正極活物質6の評価
得られた正極活物質6の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.12、y=0.07、z=0.00、w=0.03であった。
【0144】
正極活物質6のBET比表面積、平均一次粒子径(表1中、「一次粒子径」と記載する)、硫酸根含有量(質量%)に対するリチウム以外のアルカリ金属含有量(質量%)の比、炭酸リチウム含有量、水酸化リチウム含有量、リチウム以外のアルカリ金属含有量、D50、(D90-D10)/D50、水分含有量をBET比表面積で除した値、電極塗工性(表1中、「塗工性」と記載する)の結果を表1に記載する。
【0145】
【表1】
【0146】
表1に記載の結果の通り、本発明を適用した実施例1~3は、塗工性がすべて「〇」であった。
【符号の説明】
【0147】
1…セパレータ、2…正極、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード
図1A
図1B