(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】車両の進路制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/095 20120101AFI20220106BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20220106BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20220106BHJP
B60W 30/165 20200101ALI20220106BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20220106BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B60W30/095
B60W30/09
B60W30/10
B60W30/165
B62D6/00
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2018138100
(22)【出願日】2018-07-24
【審査請求日】2020-03-10
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515213711
【氏名又は名称】先進モビリティ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】須田 義大
(72)【発明者】
【氏名】安藤 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】江尻 賢治
(72)【発明者】
【氏名】釘宮 航
(72)【発明者】
【氏名】籾山 冨士男
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】佐々木 正章
【審判官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-77829(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014012(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/095 30/09 30/10 30/165
B62D 6/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
決められた経路の一部を部分経路に変更することで障害物を回避する自動運転における進路制御方法であって、この進路制御方法は、予定外の進路変更に共通して使用する部分経路変更曲線式を制御装置内に記憶し、前記部分経路変更曲線式は進路変更巾(D)と進路変更長(L)を変数とし、
進路変更巾(D)、車速(v)及び進路変更の所要時間(T)を式(2)(ただし、L=vT)に代入して部分経路の進路角(Φpart)を算出し、この部分経路の進路角(Φpart)と前記決められた経路の進路角(Φroute)との和を式(1)に代入して、進路変更巾(D)だけ進路を変更する際に生じる横加速度(vΦ)を算出し、この横加速度(vΦ)が許容横加速度に収まる進路変更巾(D)と進路変更長(L)の部分経路に変更することを特徴とする車両の進路制御方法。
【数1】
【数2】
【請求項2】
請求項1に記載の車両の進路制御方法において、前記車両の速度を算出する制御要素は自重及び道路勾配を検出して計画車速に修正を加えて現実の交通流速に適合する要求加速度又は要求減速度であることを特徴とする車両の進路制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバス等の決められた経路に沿って自動運転制御で走行する車両の進路制御方法に関し、特に決められた経路に障害物(イベント)を発見した場合の経路の変更方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古くは、進路変更について近藤による考察(非特許文献1)がある。
国立研究開発法人新エネルギー産業技術開発機構(NEDO:New Energy Industrial Technology)のエネルギーITSプロジェクトが2008年から2013年まで推進された。その間に進路変更や障害物回避の制御目標生成の報告(非特許文献2)、車両の前後運動の数学モデルの報告(非特許文献3)及び車線維持の数学モデルの報告(非特許文献4)がされている。
【0003】
その実用化に向けて、内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において、次世代公共交通システムの実用化の開発が推進され、車両の停車方法(特許文献1)、車両操舵装置(特許文献2)などの成果が出ている。
一方で、市販車両の自動化が進展してきており、障害物の回避経路を決定する方法(特許文献3)がある。
【0004】
前記非特許文献1は、人の運転による車線乗り移り距離と最大進路角、最大横加速度を調べて、それを近似する三角関数表現の経路曲線を示している。
【0005】
前記非特許文献2は、人間の運転動作を基本とした危険感を考慮して目標生成アルゴリズムを提案している。
【0006】
前記非特許文献3は、アクセル%、ブレーキ%に対する前後運動モデルを提案して実車との整合を報告している。
【0007】
前記非特許文献4は、開通前の高速道路で大型トラックを走らせて、道路構造と車両運動を対応づける実験をし、道路の曲率とカントと車速によって変化するハンドル中心変動を報告して、道路の曲率とカントに対応する必要舵角の算出式を示している。
【0008】
前記特許文献1は、最短距離でバス停に横づけする後軸路側車輪の軌跡の採り方とその軌跡を辿るためのハンドル角の出し方を示している。
【0009】
前記特許文献2は、自重や道路の曲率などの状態変化および2軸車・3軸車・4軸車の車種違いに適応する車両操舵装置において目標コースを描きそれを辿る車両操舵装置を提供している。
【0010】
前記特許文献3は、車両の経路に障害物があるときに回避経路が決定され、この回避経路にさらに別の障害物があるときに前記回避経路を決定するための手順がもう一度適用される。無衝突の回避経路を見つけることが出来ないときには、残存制動距離と障害物からの残存距離との差の一番短い前記経路が選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5981010号公報
【文献】特許第6202700号公報
【文献】特表2004-504216号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】近藤政市著:基礎自動車工学(後期偏),養賢堂, 1967.4.p.151-158
【文献】「車両周辺環境の変化に対応した危険感ポテンシャルと車両運動性能を考慮した自律走行のための制御目標生成」金子哲也ほか,自動車技術論文集,Vol.44, No.2, March 2013, No.20134252, p.759-764.
【文献】「大型トラックの前後運動の同定とそのモデル化手法」籾山 冨士男ほか,自動車技術論文集,Vol.43,No.2,March 2012,No.20124209,p.211-216.
【文献】「自度運転トラックのカント路車線維持解析とモデリング」籾山冨士男ほか,自動車技術論文集,Vol.45,No.6,November 20144800,p.1027-1034.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、自動運転システムにおいて本流相当の経路(バス路線などの決められた経路)と予定ないし予定外事象(イベント)とを円滑に結合させる課題の解決に関する。
【0014】
交通流を川の流れに例えると、本流があり、川筋変化があり、合流があり、分流がある。流れの中での流線変化、淀み、滞留を伴う流速変化がある。上記川筋変化は道路曲率の変化であり、流線変化は車線変更、合流は車線への侵入、分流は車線脱出になる。淀み・滞留は一時停止やバス停になる。
【0015】
目的地までの旅程が決まれば、経路と曲率と勾配は決まる。決まった経路と曲率と勾配のどこかにバス停への進入・停止・脱出などの予定された事象があり、また障害物による車線変更などの予定外の事象が生じる。
【0016】
自動運転車両の速度調整は前後運動モデルによって制御され、方向制御は横運動モデルによって制御されるので速度と方向の両方のモデルの同期を取る必要がある(課題1)。
【0017】
同期がとれないと狙いの場所を狙いの速度で通過する、或いは狙いの場所に止まることが出来ない。また途中に傷害物(イベント)がある場合には他の経路へ乗り移らねばならない場合が生じるが、旅程の経路が直線であれ曲線であれ、そこに障害物を回避するような適切な部分経路を嵌め込まれなければならない(課題2)。
【0018】
経路の過程で生じるイベントは前後と横の移動距離変化と速度変化は一様にはいけないので、それに柔軟に適応する部分経路でなければならない。(課題3)
【0019】
例えば、幅寄せしてバス停に正確に停止する、或いは、荷役デッキに横付けする、或いは、交差点に進入して右左折レーンに入り停止線で停車する、或いは、隊列の巡航速度に合わせて隊列に参入する、或いは、速度調整しながら障害物を回避するなどの、速度調整をしながら経路を変更して狙った位置を決める(停止する)自動運転制御システムにおいて、希望の経路と速度と位置を同期させて制御することが要求される。
【0020】
しかしながら、非特許文献1は、人の操作を近似する経路曲線を三角関数で記述することは有用なるも、道路線形にはめ込む方法や経路速度変化に適応する必要までは言及していない。
【0021】
非特許文献2は、危険感ポテンシャルマップを作成し前方注視モデルと車両モデルの3要素を用いて経路生成するものであり、言い換えると、前方認識の仕方、前方注視モデルの使い方、車両モデルの3条件付で提供される経路を提供するものであるので、その3条件に拘束され実用上の自由度が制約される。
【0022】
非特許文献3は、アクセル%とブレーキ%に対して生じる加速度を示すに留まり、目標速度、目標加速度に対応するアクセル%、ブレーキ%を求める方法までは言及していない。
【0023】
非特許文献4に示される「道路の曲率とカントに対応する必要舵角の算出式」は有用なるも、操舵系のヒステリシスのために変動するギヤレシオの変動への対処に問題がある。
【0024】
特許文献1はバス停への停車制御目的に限られており本発明が必要とする車線変更などへの適用を自在にする目的までは考慮されていない。
【0025】
特許文献2は操舵角を制御して目標コースを辿るもので、前後運動と関係づける方法や経路変更へ適応する方法までは言及していない。
【0026】
特許文献3は、操舵速度を変数とするクロソイド曲線を使用しているので、本発明が課題とする「目標経路のための操舵角」、換言すれば、決められた経路上に障害物が発見された場合の迅速な処理の解決にはならない。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記の課題を解決するため、本発明は、決められた経路に沿って自動運転制御で走行する車両の障害物を回避する進路制御方法であって、この進路制御方法は前記決められた経路の一部に部分経路を嵌め込むことで障害物を回避し、前記部分経路は基準となる部分経路が制御装置内に記憶され、車両の進路上に認識した障害物に合わせて前記基準となる部分経路の進路に沿った距離(L)と進路と直交する幅(D)を変更し、この変更された部分経路を前記決められた経路の一部に嵌め込むことを要旨とする。
【0028】
前記部分経路の進路に沿った距離(L)と進路と直交する幅(D)の変更は、車両の前後運動をつかさどる制御要素と横運動をつかさどる制御要素から決定する。
【0029】
前記前後運動をつかさどる制御要素は、例えば自重及び道路勾配を検出して計画車速に修正を加えて現実の交通流速に適合する要求加速度、要求減速度を算出し、この算出した速度に基づいて前記横運動をつかさどる制御要素が障害回避のための進路変更巾(D)によって生じる横加速度を算出し、その横加速度が許容横加速度に収まるように進路変更長さ(L)を算出する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、予定の経路を運行する車両の進路制御方法において、交通流に適応し、且つ経路途上で生じる経路の部分変更の必要に適応して走行することができる。
【0031】
前記経路の部分変更は予め部分経路を作成しておき、この部分経路の進路に沿った距離(L)と進路と直交する幅(D)を障害物に合わせて変更し、変更した部分経路を既定の決定経路に嵌め込むため、障害物に対する対応を迅速且つ安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】経路イベントに適応する進路制御システム構造の説明図
【
図3】双曲線定数を指標とする加速性能曲線の説明図
【
図4】自重(車両総重量)を推定しアクセル開度を求める計算図表の説明図
【
図5】混合交通流の中での仮想先行車の考え方の説明図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を
図1~10に基づいて説明する。
図1は、経路イベントに適応する進路制御システム構造の説明図である。上段に車速制御部、中断にGPSないし電子地図データによる経路をフィードフォワード項とする慣性航行部、下段にカメラ又はレーザーによって目標を捕らえ追跡する慣性航行部を示す。前後運動と横運動の位置と速度をIDで同期させるシステムである。
【0034】
上段部分について以下に記す。
図1の(1)の部分で、積載による自重変化、道路の勾配とカントによって前後横方向への車両の運動が変わるので、それをオフラインないしオンラインで解析可能にしている。車輪速と前後加速度によって道路勾配を推定(
図2)し、道路勾配とアクセル%によって自重を推定(
図3及び
図4)する。
【0035】
図1の(2)の部分で、計画速度IDに従って速度制御するも仮想先行車を見立てて、単独走行の場合には自車の前を行く一般車両を“先行車”と捕らえ、及び隊列走行の場合には、隊列編成車両を“先行車”と捕らえる(
図5)。
【0036】
図1の(3)の部分で、速度変化を加速度変数でアクセル%(
図4)、ブレーキ%(
図6)を計算し、それに坂路抵抗を加算し、実車に入力して速度を得る。但し、仮想先行車がありそれに追随する場合は仮想先行車の速度になる。この速度が横運動に入力される。
【0037】
図1の中段部分について以下に記す。(4)の部分で、予め経路の全行程のGPS座標を収集して進路曲線式y=F(t)を作成する。その式を曲率式ρに変換してフィードフォワード項とする。
【0038】
図1の(5)の部分に、障害物回避や追い越しなどのための車線変更式を経路イベントモジュール(
図7)として用意する。本来の経路の曲率ρ
_routsに部分変更部の曲率ρ
_part をIDで同期させて両曲率の微分(即ち経路角)の和ρ
_plusをとることによって、直線部でも曲線部でも自在に連続する進路変更が可能になる。
【0039】
図1の(6)の部分で、この曲率ρ
_plusと車速によって生じる横加速度と、道路横断勾配(カントξ)をρ
_plusと共にハンドル角の式(7)(
図8)に代入してハンドル角を算出する。それに(8)ブロックによるハンドル中立位置補正(
図9)を加え実車操舵モータへ入力する。
【0040】
図1の(9)で実車が走り前後加速度Gx、横加速度Gy、ヨーレイトγが生じる。(10)にてGx,Gyを積分して前後速度Vx、横速度Vyを得て、VyをVxで除して、横すべり角β (11)、速度V(12)を得る。
【0041】
尚、
図1の(12)のVはGPSによる(V)でも良い。そのGPSで求められる速度(V)を車輪速から求められる車速(Vx)を用いて、β=cos
-1 Vx/V から求めても良い。或いは、横加速度(Gy)とヨーレイト(γ)から、β=∫(Gy/V-γ)の関係から求めても良い。
【0042】
横すべり角βとヨー角Φの和の余弦と正弦に車速を乗じて
図1の(13)に示す慣性航法による座標Xpos,Yposを得る。この座標は、GPSデータから取得しても良い。目標軌跡の曲率に横加速度を乗じると目標軌跡の線形から生じるヨーレイト(14)になる。この軌跡のヨーレイトと車両のヨーレイトの差を積分すると軌跡角と車両姿勢角の角度偏差e3(15)が求まる。このe3はGPS目標軌跡と現在地点GPSデータから得られる車両姿勢角との差から求めても良い。慣性航法によるYposとGPSによるYと画像又はレーザーによるYposとの横偏差e2(16)が求まる。
【0043】
このe2(16)はGPS目標軌跡座標とGPSデータから得られる現在地座標との差から求めても良い。横偏差e2、角度偏差e3を、修正舵角式の式(17)に代入して制御定数を乗じて(18)のハンドル角を調整する。
【0044】
下段部分について以下に記す。前方Xposの目標点の横偏差Ypos、角度偏差Φxyをカメラ又はレーザーセンサによって得る。このXpos,Ypos,Φxy から曲率ρを求め、このρをフィードフォワード項として中断の(6)・・・(17)の工程を辿る。中段部分におけるGPS軌跡による曲率ρから下段部分におけるXpos,Ypos,Φxyから曲率ρへ、或いはその逆への切替は
図10による
【0045】
図2は、車輪速と前後加速度によって道路勾配を推定する方法の説明図である。静止時の加速度計よみ値は、重力加速度(9.81)に坂道勾配の正弦を乗じた値になり、式(1)のように記述される。
【0046】
【0047】
走行時の加速度計よみ値は、車輪加速度成分が重畳した値になり、式(2)のように記述される。
【0048】
【0049】
式(2)から坂道勾配は式(3)になる。
【0050】
【0051】
図2の下段に示すブロック図のように、加速度センサから前後加速度を取込みプロペラシャフトの回転速度ないし車輪回転速度を取り込み、リアルタイムでの道路勾配検出が可能である。
【0052】
図3は、加速性能曲線の説明図であり、
図4は、自重を推定する方法の説明図である。
図3により加速性能実験を実施して、
図4に示す計算図表を作成して自重推定に供する。
【0053】
図3は、日本工業規格JIS D 1014(自動車加速試験方法)および JIS D 1015(自動車惰行試験方法)に準じて実施している。図の左側に空積載での惰行実験結果とアクセル100%での加速実験結果を示し、図の右側に定積載での惰行実験結果とアクセル100%での加速実験結果を示す。横軸が車速、縦軸が加速度である。加速実験結果はプラス側、惰行実験結果はマイナス側に出る。マイナス側に出る惰行実験結果の符合をプラスに変えて加速実験結果に重ねると双曲線Y=aXになる。”a”は双曲線定数である。車速”X”に、双曲線定数”a”を乗ずると加速度”Y”を求めることができる。この実験を、アクセル%と積載量をパラメータにして実施して、車両総重量(x)とアクセル開度(y)と双曲線定数(z)として、xyz軸で構成する計算図表にすると
図4になる。
【0054】
この計算図表から、下の式(4)にアクセル%の値(y)を代入することにより自重、即ち車両総重量(xL)求めることができる。
【0055】
【0056】
図5は混合交通流の中での仮想先行車の考え方の説明図である。アクセルの赴くままに走るならアクセル%に対して生じるエンジントルクと車両質量と走行抵抗の関係で生じる加速度で走るのであるが、混合交通流の中では先行する他車があり信号などによって自由が制限され加速度変化を余儀なくされる。その変化の全体を仮想先行車と見做す。隊列走行の場合の仮想先行車は、現実先行車に置き換わる。
【0057】
自車の前を行く車両と自車との車間距離は、カメラ・レーザー等によって検出できる。その変化を捉えれば、車間加速度が分かり、それに自車加速度を加えれば、先行車加速度が分かるので、先行車との加速度差異の補償の加速度(A)と目標車間との差異を補償する加速度(B)および遅れ補償(C)の和の加速度を制御量とする車間距離制御ができる。この制御量を要求加速度としてそれに応えるアクセル%を下の式(5)によって求める。
【0058】
【0059】
式(5)において、アクセル開度(%)yは、xlに予め求めた車両総重量(自重)を代入し、Zxyに“車速(m/s^2)×加速度(m/s^2)”を代入して求められる。
アクセル開度100%におけるAxから現在のアクセル開度Y%におけるZxyを差し引いた値“Ax-Zxy”が余剰牽引力に相当する余剰加速度になる。尚、この加速度は”実測値+惰行減速度+勾配抵抗“相当の加速度である。
【0060】
図6は、必要ブレーキ%の求め方の説明図である。4軸大型トラックの実測例である。発生する減速度の大きさはトランスミッションギヤ位置に依存するので、ここではトランスミッションギヤが11速の場合について、リターダブレーキを相乗させる効果を示している。この図から要求減速度の実験式を用意し、これに坂路勾配抵抗を加算して制御に供する。
【0061】
図7は、経路イベントモジュールの説明図である。図の右上にモジュール曲線を示す。距離Lm走行する間に横へDm移動する“進路変更の要素曲線”である。横移動に伴う経路進路角を式(6)とする。
【0062】
【0063】
ここにTは進路変更の所要時間である。車速v、時間Tで前後Lm、横Dmの移動する単位要素即ちモジュールである。予定された“或る経路”を走行中に障害を回避する必要などのイベントが生じる。或る経路の経路角をΦrouteとしモジュールの経路角をΦpartとすると回避経路の進路角は「Φroute+Φpart」になる。その経路計算の方法を図の中央に示す。このように障害回避などのイベントに対応する経路の経路角は「Φroute+Φpart」になり、この経路を通過する際の横加速度は、式(7)になるので、横加速度を許容する車速で走行する制御が自在になる。
【0064】
【0065】
図8はハンドル角とハンドル遊びの説明図である。この図は、前軸の左右輪をそれぞれターンテーブルに乗せて操舵した場合の操舵角に対する操舵トルク変化の実車計測値である。操舵角±100°の場合を太線で示し、前輪タイヤ切れ角を左右に最大切れ角まで操舵する“ロックツーロック操舵”の場合を細線で示す。
ロックツーロックのヒステリシスループの中に、±100°操舵のヒステリシスループが収まっている。ヒステリシスの巾がロックツーロックの場合で±16°、±100°操舵の場合で±8°ある。操舵角に対する実舵角変化の勾配がギヤ比になるが、ロックツーロックでのギヤ比は24、±100°操舵でのギヤ比は28と読み取れ、ギヤ比は操舵角に反比例して変化することが読み取れる。この関係を右図の模式図にしてヒステリシスの対角線をギヤ比にとると操舵角に反比例するギヤ比の近似ができる。これを“対角線ギヤ比”と称し数式(8)で定義して、制御に用いる。
【0066】
【0067】
ここに、RD:対角線ギヤ比、RG:ギヤ比(ヒステリシスがない場合のギヤ比)、B:ヒステリシスの巾、δH:操舵角である。
【0068】
図9はハンドル中立補正の方法の説明図である。目標経路を辿るためのハンドル角は、経路の曲率によって生じる横加速度と道路のカントによって生じる横加速度がつり合う実舵角にギヤ比を乗じて得られるハンドル角に、ハンドル遊び分を加えての操舵が必要になる。横加速度とヨーレイトと車速から、その場所の曲率とカントを分離して把握することができる。曲率分を除去した位置が直進位置になる。
【0069】
車載する加速度計によって検出する横加速度(
図9の(1))と車載するジャイロから検出されるヨーレイトに車速を乗じて算出される横加速度(
図9の(2))との差分が道路のカント相当の横加速度(
図9の(3))になる。このカント相当の横加速度を車速の二乗で除算するとカント相当曲率(
図9の(4))になり、そのカント相当曲率からカント相当実舵角(
図9の(5))を求める。これにギヤ比を乗じた角度が「直進ハンドル角」になる。この「直進ハンドル角」は、カント相当あて舵角に他ならない。
【0070】
一方、ヨーレイトを車速で除算して得られる道路の曲(
図9の(6))から曲率相当の実舵角(
図9の(7))になる。(5)のカント相当実舵角と(7)の曲率相当実舵角の差分にギヤ比を乗じたハンドル角、即ち、カントと曲率の両方を合算した“曲線ハンドル角”になる。この“直進ハンドル角”及び“曲線ハンドル角”に“ハンドル遊び”が影響する。それを
図9の(8)に示す。カント路でのハンドル遊びはカント登り側に寄っているので登り側には影響せず下り側の速目の操舵に影響する。それをSwitchコマンドで切替える。参考までに、遊び巾はトラックの実験データでは16°(0.28rad:
図8のB値)ある。この値(B)が曲線でのあて舵に加算され、直進ハンドル角には、その1/2が加算される。
【0071】
図10はセンサ切替の仕方の説明図である。前出の
図1の中段部分にて、(4)に予め経路の全行程のGPS座標を収集して経路曲率をフィードフォワード項とするとし、下段部分にカメラ、レーザー等による前方を注視との切替について述べた。
図10はその切替の仕方に関する。
【0072】
車体の前部の(1)にカメラ・レーザー等、或いは、その両方のセンサが装備されているとする。そのセンサによって前方の目標(2)へ向かおうとする。(1)の位置から見る(2)の位置は、角度Φsの方向に、距離Ltsになる。これを、車両重心位置基準で捉え慣性航法で走行する。
【0073】
カメラ、ライダなどのセンサ位置からの方位と距離を常に車両重心位置基準に換算して捉えることによって、カメラ、レーザー、GPSなどによる多重制御、或は、走行環境に応じてのセンサ切替の必要に円滑適応する。車両重心の前方LGにセンサが装備されているから、車両重心位置からの目標(2)の位置は、角度ΦG式(12)、距離LTG式(13)の位置になる。 車両重心が目標(2)に至る軌跡は式(14)、(15)になり、この軌跡の曲率ρは式(16)になり、この曲率を辿る前輪実舵角δは、前出の式(10)になる。尚、式(14)、(15)に含まれる車体横すべり角(β,β0)は、式(17)、(18)で与えられ、車両状態方程式(参照:論文No.20144800)による計算、或いは、同式の同定実験により得る。
【0074】
以上述べた様に、本発明は、前後方向の車両運動と横方向の車両運動が同期するように制御する自動運転方法である。
道路の曲率と勾配とカントを地図データとして取得ないし自車によって予備走行或いはリアルタイムに検出して、アクセル、ブレーキ、及びハンドルを制御して予定の経路を計画経路と計画速度を対応づけて辿る。先行する他車のために計画速度が成立しない場合は、先行車を仮想先行車として捕らえて車間距離を制御して交通流速度で走行する。経路途上における分進、幅寄せ、バス停・路肩などへの接舷などの“予定された進路変更”と障害物回避などの“予定外の進路変更”に共通して使用する進路変更巾と進路変更長を変数とする“部分経路変更曲線式”を備えて、計画経路と部分変更経路との“経路角の和”をとり、その和の曲率を車両制御モデル式に代入してハンドル角を算出して実車の操舵モータに入力することによって実車は部分変更経路を含む計画経路を辿る進路の制御方法である。
【0075】
GPS軌跡とその軌跡に沿っての車両運動物理量をフィードフォワード項として走行する慣性航法にカメラ・レーザーによって目標を捕らえ追跡、或いは回避走行する慣性航法を“重畳させ或いは切替えて”走行する進路制御装置である。
【0076】
慣性航法はジャイロと横加速度計によって、車体横すべり角とヨーレイトを検出して軌跡を算出して、目標経路との差異を修正して目標経路を辿るものである。