(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】電極用組成物、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用電極シート若しくは全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20220106BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220106BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220106BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220106BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220106BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20220106BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2020549208
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037252
(87)【国際公開番号】W WO2020067003
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2018184890
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100202898
【氏名又は名称】植松 拓己
(72)【発明者】
【氏名】磯島 広
(72)【発明者】
【氏名】小澤 信
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012380(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/131093(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、平均粒子径2μm以下の無機固体電解質と、粒子状ポリマーとを含む電極用組成物であって、
前記粒子状ポリマーの平均粒子径をdnm、前記電極用組成物の全固形成分中の当該粒子状ポリマーの含有量をx質量%とした場合に、当該平均粒子径d及び含有量xが下記式(i)~(iv)を満た
し、
d≦30x+140 式(i)
d≧30x-10 式(ii)
10≦d 式(iii)
0<x≦2 式(iv)
前記粒子状ポリマーが下記吸着基(X)から選ばれる基を少なくとも1種有し、
[吸着基(X)]
ヒドロキシ基、スルファニル基、カルボキシ基、リン酸基、アミノ基、シアノ基、イソシアナト基、酸無水物基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、アルコキシ基、2環以上の環構造を含む基、
前記粒子状ポリマーの前記活物質に対する吸着率が30~70%である、電極用組成物。
【請求項2】
前記粒子状ポリマーが、粒子状アクリルポリマー又は粒子状ポリウレタンである、請求項1に記載の電極用組成物。
【請求項3】
前記粒子状ポリマーが、重合性二重結合と炭素数6以上の直鎖炭化水素構造とを含むマクロモノマー由来の構成成分を有する、請求項1
又は2に記載の電極用組成物。
【請求項4】
前記粒子状ポリマーの全構成成分中、前記吸着基(X)から選ばれる基を有する構成成分の含有量が、10~80質量%である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の電極用組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の電極用組成物で構成した電極活物質層を有する全固体二次電池用電極シート。
【請求項6】
集電体を有し、当該集電体と前記電極活物質層との間にカーボンコート層を有する、請求項
5に記載の全固体二次電池用電極シート。
【請求項7】
正極活物質層と、負極活物質層と、当該正極活物質層及び当該負極活物質層の間の無機固体電解質層とを含む全固体二次電池であって、
前記正極活物質層及び前記負極活物質層の少なくとも一方が、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電極用組成物で構成した層である全固体二次電池。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の電極用組成物を塗布することを含む、全固体二次電池用電極シートの製造方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の製造方法により全固体二次電池用電極シートを得て、当該全固体二次電池用電極シートを用いて全固体二次電池を製造することを含む、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用組成物、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用電極シート若しくは全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極及び正極の間に挟まれた電解質とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充放電を可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には、従来、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし、有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電又は過放電により電池内部で短絡が生じ発火するおそれもあり、安全性と信頼性の更なる向上が求められている。
このような状況下、有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は負極、電解質及び正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の安全性及び信頼性を大きく改善することができる。
【0003】
このような全固体二次電池において、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層等の構成層を形成する材料として、無機固体電解質、活物質及びポリマー等を含有する材料が、提案されている。
例えば、特許文献1には、コアシェル構造を有し、このシェル部がエチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する、平均粒径30~300nmの粒子状ポリマーからなる結着剤と、無機固体電解質と、沸点が100~220℃の非極性溶媒とを含有する全固体二次電池用スラリーが記載されている。近年、このような、全固体二次電池の性能を向上させるための材料の検討と合わせて、実用化に向け、生産性を向上させるための検討が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体二次電池の性能及び生産性を向上させるためには、電極用組成物の分散安定性を向上させることが望まれる。しかし、本発明者らの追試によれば上記特許文献1記載の全固体二次電池用スラリーは、活物質を含有させた形態(電極用組成物)では十分な分散安定性が得られないことがある。また、このスラリーを電極活物質層の構成材料として用いた全固体二次電池は、電極活物質層中の固体粒子間等の十分な結着性が得られても、抵抗が大きくなるおそれがあることが分かった。
【0006】
本発明は、電極活物質層を形成する材料として用いることにより、電極活物質層中の固体粒子間等の結着性に優れ、抵抗が低い全固体二次電池を実現できる、分散安定性に優れた電極用組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、この電極用組成物で構成した電極活物質層を有する、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池を提供することを課題とする。また、本発明は、上記全固体二次電池用電極シート及び上記全固体二次電池の各製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、活物質と、平均粒子径2μm以下の無機固体電解質と、含有量及び平均粒子径が特定の範囲にあり、これらの含有量と平均粒子径とが特定の関係を満たす粒子状ポリマーとを組合わせて含有する電極用組成物が、分散安定性に優れること、この組成物を電極活物質層の構成材料として用いることにより得られる全固体二次電池の抵抗を抑えることができること、また、電極活物質層中の固体粒子間等の結着性を高めることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>
活物質と、平均粒子径2μm以下の無機固体電解質と、粒子状ポリマーとを含む電極用組成物であって、
上記粒子状ポリマーの平均粒子径をdnm、上記電極用組成物の全固形成分中の上記粒子状ポリマーの含有量をx質量%とした場合に、上記平均粒子径d及び上記含有量xが下記式(i)~(iv)を満たす、電極用組成物。
d≦30x+140 式(i)
d≧30x-10 式(ii)
10≦d 式(iii)
0<x≦2 式(iv)
<2>
上記粒子状ポリマーが、粒子状アクリルポリマー又は粒子状ポリウレタンである、<1>に記載の電極用組成物。
<3>
上記粒子状ポリマーが下記吸着基(X)から選ばれる基を少なくとも1種有する、<1>又は<2>に記載の電極用組成物。
[吸着基(X)]
ヒドロキシ基、スルファニル基、カルボキシ基、リン酸基、アミノ基、シアノ基、イソシアナト基、酸無水物基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、アルコキシ基、2環以上の環構造を含む基
<4>
上記粒子状ポリマーが、重合性二重結合と炭素数6以上の直鎖炭化水素構造とを含むマクロモノマー由来の構成成分を有する、<1>~<3>のいずれか1つに記載の電極用組成物。
<5>
上記粒子状ポリマーの全構成成分中、上記吸着基(X)から選ばれる基を有する構成成分の含有量が、10~80質量%である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の電極用組成物。
<6>
上記粒子状ポリマーの上記活物質に対する吸着率が20~70%である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の電極用組成物。
<7>
<1>~<6>のいずれか1つに記載の電極用組成物で構成した電極活物質層を有する全固体二次電池用電極シート。
<8>
集電体を有し、この集電体と上記電極活物質層との間にカーボンコート層を有する、<7>に記載の全固体二次電池用電極シート。
<9>
正極活物質層と、負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間の無機固体電解質層とを含む全固体二次電池であって、
上記正極活物質層及び上記負極活物質層の少なくとも一方が、<1>~<6>のいずれか1つに記載の電極用組成物で構成した層である全固体二次電池。
<10>
<1>~<6>のいずれか1つに記載の電極用組成物を塗布することを含む、全固体二次電池用電極シートの製造方法。
<11>
<10>に記載の製造方法により全固体二次電池用電極シートを得て、この全固体二次電池用電極シートを用いて全固体二次電池を製造することを含む、全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極用組成物は、優れた分散安定性を示し、電極活物質層を形成する材料として用いることにより、電極活物質層中の固体粒子間等の結着性に優れ、抵抗が低い全固体二次電池を実現できる。また、本発明の全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池は、電極活物質層中の固体粒子間等の結着性に優れ、抵抗も低い。更に、本発明の全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池の各製造方法によれば、電極活物質層中の固体粒子間等の結着性に優れ、抵抗も低い全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
【
図2】式(1)~(4)で表される領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本明細書において置換又は無置換を明記していない置換基、連結基等(以下、置換基等という。)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。よって、本明細書において、単に、YYY基と記載されている場合であっても、このYYY基は、置換基を有しない態様に加えて、更に置換基を有する態様も包含する。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、下記置換基Zが挙げられる。
本明細書において、特定の符号で示された置換基等が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
【0012】
[電極用組成物]
本発明の電極用組成物は、活物質と、平均粒子径(平均粒径)2μm以下の無機固体電解質と、粒子状ポリマーとを含有する。この電極用組成物において、上記粒子状ポリマーは、上記粒子状ポリマーの平均粒子径をdnm、上記電極用組成物に含有される全固形成分中の粒子状ポリマーの含有量をx質量%とした場合、d及びxが下記式(i)~(iv)を満たしている。
d≦30x+140 式(i)
d≧30x-10 式(ii)
10≦d 式(iii)
0<x≦2 式(iv)
【0013】
本発明の電極用組成物は、好ましくは分散媒を含有する。この場合、無機固体電解質、活物質、粒子状ポリマー及び分散媒の混合態様は、特に制限されないが、分散媒中に無機固体電解質と活物質と粒子状ポリマーとが分散したスラリーであることが好ましい。
【0014】
本発明の電極用組成物は、全固体二次電池用電極シート又は全固体二次電池の活物質層の成形材料として好ましく用いることができる。
【0015】
本発明の電極用組成物は、特に制限されないが、含水率(水分含有量ともいう。)が、500ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。電極用組成物の含水率が少ないと、硫化物系無機固体電解質の劣化を抑制することができる。含水量は、電極用組成物中に含有している水の量(電極用組成物中の質量割合)を示し、具体的には、0.02μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定を用いて測定された値とする。
【0016】
以下、本発明の電極用組成物が含有する成分及び含有しうる成分について説明する。
【0017】
<無機固体電解質>
本発明の電極用組成物は、平均粒子径2μm以下の無機固体電解質(以下、単に「無機固体電解質」とも記載する。)を含有する。
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンに解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば、特に限定されず、電子伝導性を有さないものが一般的である。本発明の全固体二次電池がリチウムイオン電池の場合、無機固体電解質は、リチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
上記無機固体電解質は、全固体二次電池に通常使用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質は(i)硫化物系無機固体電解質と(ii)酸化物系無機固体電解質が代表例として挙げられる。本発明において、活物質と無機固体電解質との間により良好な界面を形成することができる観点から、硫化物系無機固体電解質が好ましく用いられる。
【0018】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0019】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
La1Mb1Pc1Sd1Ae1 式(1)
式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0020】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0021】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P2S5))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS2、SnS、GeS2)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0022】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、Li2SとP2S5との比率は、Li2S:P2S5のモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。Li2SとP2S5との比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0023】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-H2S、Li2S-P2S5-H2S-LiCl、Li2S-LiI-P2S5、Li2S-LiI-Li2O-P2S5、Li2S-LiBr-P2S5、Li2S-Li2O-P2S5、Li2S-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-P2O5、Li2S-P2S5-SiS2、Li2S-P2S5-SiS2-LiCl、Li2S-P2S5-SnS、Li2S-P2S5-Al2S3、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-ZnS、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li10GeP2S12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0024】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0025】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO3〔xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。〕(LLT); LixbLaybZrzbMbb
mbOnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。); LixcBycMcc
zcOnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xcは0<xc≦5を満たし、ycは0<yc≦1を満たし、zcは0<zc≦1を満たし、ncは0<nc≦6を満たす。); Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadPmdOnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。); Li(3-2xe)Mee
xeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。); LixfSiyfOzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。); LixgSygOzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。); Li3BO3; Li3BO3-Li2SO4; Li2O-B2O3-P2O5; Li2O-SiO2; Li6BaLa2Ta2O12; Li3PO(4-3/2w)Nw(wはw<1); LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4; ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3; NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12; Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyhP3-yhO12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。); ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)等が挙げられる。
またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(Li3PO4); リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON; LiPOD1(D1は、好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。
更に、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる1種以上の元素である。)等も好ましく用いることができる。
【0026】
無機固体電解質の平均粒子径(体積平均粒子径)は2μm以下であり、1.6μm以下であることがより好ましく、1.0μmであることがより好ましく、0.8μmであることがさらに好ましい。下限は0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることがさらに好ましい。無機固体電解質の体積平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0027】
無機固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
電極活物質層の単位面積(cm2)当たりの活物質と無機固体電解質との合計の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0028】
無機固体電解質の、電極用組成物中の含有量は、特に制限されないが、分散性、界面抵抗の低減及び結着性の点で、固形分100質量%において、無機固体電解質と後述の活物質との合計含有量が、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
本発明において、固形分(固形成分)とは、電極用組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下150℃で6時間乾燥処理を行ったときに、揮発若しくは蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0029】
<活物質>
本発明の電極用組成物には、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質を含有する。活物質としては、以下に説明するが、正極活物質及び負極活物質が挙げられ、正極活物質である遷移金属酸化物(好ましくは遷移金属酸化物)、又は、負極活物質である金属酸化物若しくはSn、Si、Al及びIn等のリチウムと合金形成可能な金属が好ましい。
【0030】
(正極活物質)
正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入若しくは放出できるもの又は挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物、又は、硫黄などのLiと複合化できる元素などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素Ma(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素Mb(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P及びBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Maの量(100mol%)に対して0~30mol%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0031】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO2(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi2O2(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])、LiNi0.5Mn0.5O2(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn2O4(LMO)、LiCoMnO4、Li2FeMn3O8、Li2CuMn3O8、Li2CrMn3O8及びLi2NiMn3O8が挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4及びLi3Fe2(PO4)3等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP2O7等のピロリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類並びにLi3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、Li2FePO4F等のフッ化リン酸鉄塩、Li2MnPO4F等のフッ化リン酸マンガン塩及びLi2CoPO4F等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、Li2CoSiO4等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0032】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は特に制限されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機を用いればよい。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。正極活物質粒子の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて測定することができる。
【0033】
正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(負極活物質)
負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入若しくは放出できるもの又は挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫等の金属酸化物、酸化ケイ素、金属複合酸化物、リチウム単体又はリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、並びに、Sn、Si、Al、In等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、炭素質材料又はリチウム複合酸化物が信頼性の点から好ましく用いられる。また、金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵、放出可能であることが好ましい。その材料は、特には制限されないが、構成成分としてチタン及びリチウムの少なくともいずれかを含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0035】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維、活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー、平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0036】
これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62-22066号公報、特開平2-6856号公報、同3-45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料である必要はなく、特開平5-90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6-4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
【0037】
負極活物質として適用される金属酸化物及び金属複合酸化物としては、特に非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイドも好ましく用いられる。ここでいう非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。2θ値で40°以上70°以下に見られる結晶性の回折線の内最も強い強度が、2θ値で20°以上40°以下に見られるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましく、結晶性の回折線を有さないことが特に好ましい。
【0038】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及びカルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBiの1種単独あるいはそれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物、並びにカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga2O3、SiO、GeO、SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb2O4、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O8Bi2O3、Sb2O8Si2O3、Sb2O5、Bi2O3、Bi2O4、SnSiO3、GeS、SnS、SnS2、PbS、PbS2、Sb2S3、Sb2S5及びSnSiS3が好ましく挙げられる。また、これらは、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、Li2SnO2であってもよい。
【0039】
負極活物質はチタン原子を含有することも好ましい。より具体的にはLi4Ti5O12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0040】
本発明においては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。本発明において、上記炭素質材料は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本発明においては、Si系の負極を適用することもまた好ましい。一般的にSi負極は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位重量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
【0042】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0043】
Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物負極活物質に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵若しくは放出又は吸蔵及び放出できる炭素材料、リチウム、リチウム合金、リチウムと合金可能な金属が好適に挙げられる。
【0044】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の平均粒子径は、0.1~60μmが好ましい。所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩などが好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては、特に制限はなく、篩、風力分級機などを必要に応じて用いることができる。分級は乾式、湿式ともに用いることができる。負極活物質粒子の平均粒子径は、前述の正極活物質の体積平均粒子径の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0045】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
(活物質の被覆)
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、LiTaO3、LiNbO3、LiAlO2、Li2ZrO3、Li2WO4、Li2TiO3、Li2B4O7、Li3PO4、Li2MoO4、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、Li2SiO3、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、B2O3等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0047】
<粒子状ポリマー>
本発明に用いられる粒子状ポリマーは、電極用組成物において、下記式(i)~(iv)を満たす。
d≦30x+140 式(i)
d≧30x-10 式(ii)
10≦d 式(iii)
0<x≦2 式(iv)
【0048】
図2の点A~点E(点A(0,140)、点B(0,10)、点C(0.67,10)、点D(2,50)、点E(2,200))で示される領域が式(i)~(iv)で表される領域である。
点A、点B、及び点A及び点Bを結ぶ線上は上記領域に含まれない。それ以外の点及び線は領域に含まれる。
【0049】
上記式(i)は以下のようにして導出された。
平均粒子径2μm以下の無機固体電解質を用いた場合に、粒子状ポリマーの含有量x(質量%)が多すぎず全固体二次電池の抵抗を効果的に低減でき、かつ組成物の分散安定性を確保できる範囲(式(iv)で表される範囲)において、粒子状ポリマーの平均粒子径d(nm)を変化させた際に、固体粒子間の結着性を向上できる領域があることを見出し導出された。具体的には、d=30x+140は、後記実施例の条件9、13及び23の3点から得られる線形近似直線(r2=0.987)である。
【0050】
上記式(ii)は以下のようにして導出された。
平均粒子径2μm以下の無機固体電解質を用いた場合に、上記式(iv)で表される範囲であり、かつ、粒子状ポリマーの平均粒子径が小さすぎず全固体二次電池の抵抗を効果的に低減できる範囲(上記式(iii)で表される範囲)において、xが0.67を越え、粒子状ポリマーの平均粒子径d(nm)を変化させた際に、全固体二次電池の抵抗が高いレベルで低減される領域があることを見出し導出された。具体的には、d=30x-10は、後記実施例の条件12、15及び22の3点から得られる線形近似直線(r2=1.000)である。
【0051】
本発明の電極用組成物は、分散安定性に優れ、全固体二次電池の電極活物質層の構成材料とすることにより、粒子状ポリマーの含有量が少量であっても、電極活物質層中の固体粒子間等の結着性を向上させることができ、また、抵抗の低い全固体二次電池を実現することができる。その理由の詳細はまだ明らかではないが、次のように考えられる。活物質と無機固体電解質間のイオン伝導性を向上させるためには、無機固体電解質の平均粒子径を小さくし、活物質を隙間なく被覆することが好ましい。しかし、電極用組成物中の無機固体電解質の平均粒子径が小さいと、無機固体電解質が凝集又は沈降することで分散安定性が低下して、この組成物を電極活物質層の構成材料として用いた全固体二次電池の性能を低下させてしまうおそれがある。そのため、電極用組成物には、通常、一定程度の大きさの無機固体電解質が用いられる。本発明の電極用組成物は、上記式(i)~(iv)を満たすことで上記の作用効果が相俟って、平均粒子径が非常に小さい(平均粒子径2μm以下の)無機固体電解質を用いても、固体粒子の凝集及び沈降を抑制し、分散媒の存在下であっても電極用組成物の分散安定性を向上させることができると考えられる。さらに、本発明の電極用組成物が含有する無機固体電解質は平均粒子径が2μm以下であることも含めて、この組成物を用いて作製された全固体二次電池の電極活物質層中、活物質と無機固体電解質間のイオン伝導性に優れ、全固体二次電池の抵抗を小さくすることができると考えられる。
【0052】
式(i)は下記式(i-1)であることが好ましい。この式は、後記実施例の条件9、13及び49から得られる線形近似直線(r2=1.0)である。
【0053】
d≦40x+120 式(i-1)
【0054】
式(iii)は、結着性と分散安定性の両立の点で、下記式(iii-1)であることが好ましく、下記式(iii-2)であることがより好ましく、下記式(iii-3)であることがより好ましく、下記式(iii-4)であることより好ましく、下記式(iii-5)であることがより好ましく、下記式(iii-6)であることがさらに好ましい。
【0055】
10≦d≦200 式(iii-1)
10≦d≦150 式(iii-2)
10≦d≦110 式(iii-3)
10≦d≦90 式(iii-4)
10≦d≦70 式(iii-5)
10≦d≦50 式(iii-6)
【0056】
式(iv)は、結着性と分散安定性の両立の観点で、下記式(iv-1)であることが好ましく、下記式(iv-2)であることがより好ましい。
【0057】
0<x<2 式(iv-1)
0.1≦x≦0.6 式(iv-2)
【0058】
さらに、本発明に用いられる粒子状ポリマーは、下記式(v)を満たすことが好ましい。この式は、後記実施例の条件24、49及び50から得られる線形近似直線(r2=0.702)である。
【0059】
d≦-180x+150 式(v)
【0060】
本発明に用いられる粒子状ポリマーのd及びxが上記領域にあることで、本発明の電極用組成物の分散安定性をより向上させ、全固体二次電池の抵抗をより小さくすることができ、結着性をより向上させることができる。
【0061】
本発明に用いられる粒子状ポリマーの種類は特に制限されない。本発明に用いられる粒子状ポリマーの具体例として、粒子状アクリルポリマー、粒子状ポリエステル、粒子状ポリエーテル、粒子状ポリウレア、粒子状ポリウレタン、粒子状ポリスチレン、粒子状ポリプロピレン、及び粒子状ビニルアルコールが挙げられ、粒子状アクリルポリマー及び粒子状ポリウレタンが好ましい。
【0062】
本発明に用いられる粒子状ポリマーは、下記吸着基(X)から選ばれる基を少なくとも1種有することが好ましい。
[吸着基(X)]
ヒドロキシ基、スルファニル基、カルボキシ基、リン酸基、アミノ基、シアノ基、イソシアナト基、酸無水物基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、アルコキシ基、2環以上の環構造を含む基
【0063】
粒子状ポリマーが有する吸着基(X) から選ばれる基は、電極用組成物中の無機固体電解質及び活物質の表面と化学的又は物理的な相互作用をする。電極用組成物が導電助剤等を含有する場合、これらの表面とも化学的又は物理的な相互作用をすることができる。この相互作用は、特に限定されないが、例えば、水素結合によるもの、酸-塩基によるイオン結合によるもの、共有結合によるもの、芳香環によるπ-π相互作用によるもの、又は、疎水-疎水相互作用によるもの等が挙げられる。官能基(X)が相互作用する場合、官能基の化学構造は変化しても変化しなくてもよい。例えば、上記π-π相互作用等においては、通常、官能基(X)は変化せず、そのままの構造を維持する。一方、共有結合等による相互作用においては、通常、カルボキシ基等の活性水素が離脱したアニオンとなって(官能基が変化して)無機固体電解質等と結合する。この相互作用により、固体粒子間の結着性の向上に寄与する。上記官能基は集電体の表面とも相互作用する。
【0064】
アミノ基は炭素数0~12が好ましく、0~6がより好ましく、0~2が特に好ましい。
リン酸基はそのエステルや塩でもよい。エステルの場合、炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい。
なお、上記官能基は、置換基として存在しても、連結基として存在していてもよい。例えば、アミノ基は2価のイミノ基又は3価の窒素原子として存在してもよい。
2環以上の環構造を含む基は、後述の粒子状ポリマーBが有する2環以上の環構造を含む基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
アルコキシ基は炭素数1~20が好ましい。
【0065】
上記粒子状ポリマーは、重合性二重結合と炭素数6以上の直鎖炭化水素構造S(好ましくは炭素数6以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数8以上24以下のアルキレン基である。これらのアルキレン基を構成するメチレンの一部は置換基を有してもよく、またこれらのアルキレン基を構成するメチレンの一部が他の構造(酸素原子、硫黄原子、イミノ基、カルボニル基等)に置き換わっていてもよい。)を含むマクロモノマー由来の構成成分を有することが好ましい。この構成成分を有することで、より良好に分散媒中に均一に分散でき無機固体電解質と混合した際に安定したスラリーにすることができる。
【0066】
上記粒子状ポリマーは、電極用組成物の分散安定性及び電極活物質層中の固体粒子間等の結着性をさらに向上させ、全固体二次電池の抵抗をさらに小さくするため、その全構成成分中、上記吸着基(X)から選ばれる基を有する構成成分の含有量が、10~80質量%であることが好ましく、10~75質量%であることがより好ましく、10~65質量%であることがさらに好ましく、10~55質量%であることが特に好ましい。
【0067】
上記粒子状ポリマーは、エチレングリコール由来の構成成分を含んでもよいが、その含有量は、全構成成分中、0.1質量%以下が好ましく、含まないことが好ましい。
【0068】
上記粒子状ポリマーの活物質に対する吸着率が20~70%であることが好ましく、30~70%であることがより好ましく、40~70%であることがさらに好ましい。吸着率がこの範囲にあることで、粒子状ポリマーが高い均一性で分布して活物質に吸着し、すなわち、活物質に吸着する粒子状ポリマーの間隔が適度であり、電極用組成物の分散安定性及び電極活物質層中の固体粒子間等の結着性をさらに向上させ、全固体二次電池の抵抗をさらに小さくすることができる。
上記吸着率は、後述の実施例に記載の方法で算出することができる。
【0069】
上記吸着率は、粒子状ポリマーの原料種及び使用量等により調整することができ、例えば、上記吸着基(X)から選ばれる基を有する構成成分を導入するためのモノマーの使用量を増やすことで吸着率を大きくすることができる。
【0070】
粒子状ポリマーの平均粒子径は体積平均粒子径を意味し、以下の方法で算出する。
粒子状ポリマーを任意の分散媒(電極用組成物の調製に用いる分散媒。例えば、ヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、得られた体積平均粒子径を粒径とする。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製して測定し、その平均値を採用する。
【0071】
上記粒子状ポリマーとして下記粒子状ポリマーA又はBを好ましく用いることができ、粒子状ポリマーAが好ましい。
【0072】
(i)粒子状ポリマーA
粒子状ポリマーAは、数平均分子量1000以上のマクロモノマーAに由来する構成成分が組み込まれ、グラフト部分を有する。上記粒子状ポリマーA中、マクロモノマーA由来のグラフト部分は、主鎖に対し側鎖を構成する。主鎖は特に限定されない。
【0073】
・モノマー(a)
粒子状ポリマーAのマクロモノマーA由来の構成成分以外の構成成分は特に限定されず、通常のポリマー成分を適用することができる。マクロモノマーA由来の構成成分以外の構成成分を導入するためのモノマー(以下、このモノマーを「モノマー(a)」とも称する。)としては、重合性不飽和結合を有するモノマーであることが好ましく、例えば各種のビニル系モノマー及び/又はアクリル系モノマーを適用することができる。本発明においては、中でも、アクリル系モノマーを用いることが好ましい。さらに好ましくは、(メタ)アクリル酸モノマー、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び(メタ)アクリロニトリルから選ばれるモノマーを用いることが好ましい。重合性基の数は特に限定されないが、1~4個であることが好ましい。
粒子状ポリマーAは、上記吸着基(X)から選ばれる基を少なくとも1種を有していることが好ましい。この吸着基(X)から選ばれる基は、主鎖に含まれていても、マクロモノマーA由来の側鎖に含まれていてもよいが、主鎖に含まれることが好ましい。
【0074】
上記のポリマーをなすビニル系モノマーとしては、下記式(b-1)で表されるものが好ましい。
【0075】
【0076】
式中、R1は水素原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が特に好ましい)、又はアリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましい)を表す。中でも水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0077】
R2は、水素原子、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましい)、アラルキル基(炭素数7~23が好ましく、7~15がより好ましい)、シアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、酸素原子を含有する脂肪族複素環基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましい)、又はアミノ基(NRN
2:RNは後記の定義に従い、好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基)である。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シアノ基、エテニル基、フェニル基、カルボキシ基、スルファニル基、スルホン酸基等が好ましい。
R2はさらに後記置換基Tを有していてもよい。なかでも、カルボキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子等)、ヒドロキシ基、アルキル基などが置換していてもよい。
カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基は例えば炭素数1~6のアルキル基を伴ってエステル化されていてもよい。
酸素原子を含有する脂肪族複素環基は、エポキシ基含有基、オキセタン基含有基、テトラヒドロフリル基含有基などが好ましい。
【0078】
L1は、任意の連結基であり、後記連結基Lの例が挙げられる。具体的には、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキレン基、炭素数2~6(好ましくは2~3)のアルケニレン基、炭素数6~24(好ましくは6~10)のアリーレン基、酸素原子、硫黄原子、イミノ基(NRN)、カルボニル基、リン酸連結基(-O-P(OH)(O)-O-)、ホスホン酸連結基(-P(OH)(O)-O-)、又はそれらの組合せに係る基等が挙げられる。上記連結基は任意の置換基を有していてもよい。連結原子数、連結原子の数の好ましい範囲も後記と同様である。任意の置換基としては、置換基Tが挙げられ、例えば、アルキル基又はハロゲン原子などが挙げられる。
【0079】
nは0又は1である。
【0080】
上記のポリマーをなすアクリル系モノマーとしては、上記(b-1)のほか、下記式(b-2)~(b-6)のいずれかで表されるものが好ましい。
【0081】
【0082】
R1、nは、上記式(b-1)と同義である。
R3は、R2と同義である。ただし、その好ましいものとしては、水素原子、アルキル基、アリール基、カルボキシ基、スルファニル(チオール)基、リン酸基、ホスホン酸基、酸素原子を含有する脂肪族複素環基、アミノ基(NRN
2)などが挙げられる。
L2は、任意の連結基であり、L1の例が好ましく、酸素原子、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキレン基、炭素数2~6(好ましくは2~3)のアルケニレン基、カルボニル基、イミノ基(NRN)、又はそれらの組合せに係る基等がより好ましい。
L3は連結基であり、L2の例が好ましく、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキレン基がより好ましい。
L4は、L1と同義である。
R4は、水素原子、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数0~6(好ましくは0~3)のヒドロキシ基含有基、炭素数0~6(好ましくは0~3)のカルボキシ基含有基、又は(メタ)アクリロイルオキシ基である。なお、R4は上記L1の連結基になって、この部分で2量体を構成していてもよい。
mは1~200の整数を表し、1~100の整数であることが好ましく、1~50の整数であることがより好ましい。
【0083】
上記式(b-1)~(b-6)において、アルキル基やアリール基、アルキレン基やアリーレン基など置換基を取ることがある基については、本発明の効果を維持する限りにおいて任意の置換基を有していてもよい。任意の置換基としては、例えば、置換基Tが挙げられ、具体的には、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリーロイル基、アリーロイルオキシ基、アミノ基等の任意の置換基を有していてもよい。
【0084】
以下にモノマー(a)の例を挙げるが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。下記式中のlは1~1,000,000を表す。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
・マクロモノマーA
マクロモノマーAは、数平均分子量が1,000以上であり、2,000以上であることがより好ましく、3,000以上であることが特に好ましい。上限としては、500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることが特に好ましい。上記粒子状ポリマーAが上記の範囲の分子量をもつマクロモノマーA由来の側鎖を有することで、より良好に有機溶剤(分散媒)中に均一に分散でき固体電解質粒子と混合して塗布できるようになる。
【0089】
ここで本発明の電極用組成物の作用について触れると、粒子状ポリマーAにおける上記マクロモノマーA由来の側鎖は溶剤への分散性を良化する働きを有するものと解される。これにより、粒子状ポリマーAが良好に分散されるので、無機固体電解質を局部的あるいは全面的に被覆することなく結着させることができる。その結果、無機固体電解質粒子等の固体粒子間の電気的なつながりを遮断せずに密着させることができるため、固体粒子間の界面抵抗の上昇を抑えられると考えられる。さらに、粒子状ポリマーAが上記側鎖を有することで粒子状ポリマーAが無機固体電解質粒子に付着するだけでなく、その側鎖が絡みつく効果も期待できる。これにより無機固体電解質に係る界面抵抗の抑制と結着性の良化との両立が図られるものと考えられる。さらに、粒子状ポリマーAは、その分散性の良さから、水中乳化重合などと比較して有機溶剤中に転層させる工程を省略でき、また、沸点が低い溶剤を分散媒として用いることができるようにもなる。なお、マクロモノマーA由来の構成成分の分子量は、粒子状ポリマーAを合成するときに組み込む重合性化合物(マクロモノマーA)の分子量を測定することで同定することができる。
【0090】
-分子量の測定-
本発明において粒子状ポリマーA及びマクロモノマーAの分子量については、特に断らない限り、数平均分子量をいい、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の数平均分子量を計測する。測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法により測定した値とする。ただし、ポリマー種によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-H(商品名、東ソー社製)を2本つなげる。
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000(いずれも商品名、東ソー社製)をつないだカラムを用いる。
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0091】
マクロモノマーAのSP値は10以下であることが好ましく、9.5以下であることがより好ましい。下限値は特にないが、5以上であることが実際的である。
【0092】
-SP値の定義-
本明細書においてSP値は、特に断らない限り、Hoy法によって求める(H.L.Hoy Journal of Painting,1970,Vol.42,76-118)。また、SP値については単位を省略して示しているが、その単位はcal1/2cm-3/2である。なお、側鎖のSP値は、上記側鎖をなす原料モノマーのSP値とほぼ変わらず、それにより評価してもよい。
【0093】
SP値は有機溶剤に分散する特性を示す指標となる。ここで、側鎖成分を特定の分子量以上とし、好ましくは上記SP値以上とすることで、無機固体電解質との結着性を向上させ、かつ、これにより溶媒との親和性を高め、安定に分散させることができ好ましい。
【0094】
上記のマクロモノマーAの主鎖は特に限定されず、通常のポリマー成分を適用することができる。マクロモノマーAは、重合性不飽和結合を有することが好ましく、例えば各種のビニル基や(メタ)アクリロイル基を有することができる。本発明においては、中でも、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。
なお、本明細書において、「アクリル」ないし「アクリロイル」と称するときには、アクリロイル基のみならずその誘導構造を含むものを広く指し、アクリロイル基のα位に特定の置換基を有する構造を含むものとする。ただし、狭義には、α位が水素原子の場合をアクリルないしアクリロイルと称することがある。α位にメチル基を有するものをメタクリルと呼び、アクリル(α位が水素原子)とメタクリル(α位がメチル基)のいずれかのものを意味して(メタ)クリルなどと称することがある。
【0095】
上記マクロモノマーAは、(メタ)アクリル酸モノマー、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び(メタ)アクリロニトリルから選ばれるモノマーに由来する繰り返し単位を含むことが好ましい。また、上記マクロモノマーAは、重合性二重結合と炭素数6以上の直鎖炭化水素構造Sを含むことが好ましい。
【0096】
上記のマクロモノマーAは、下記式(b-11)で表される部位を有することが好ましい。
【0097】
【0098】
R11はR1と同義である。*は結合部である。
【0099】
上記のマクロモノマーAとしては、下記式(b-12a)~(b-12c)のいずれかで表される部位を有することが好ましい。これらの部位を「特定重合性部位」と呼ぶこともある。
【0100】
【0101】
Rb2はR1と同義である。*は結合部である。RNは後記置換基Tで示す定義と同義である。式(b-12c)、後述の(b-13c)及び(b-14c)のベンゼン環には任意の置換基Tが置換していてもよい。
*の結合部の先に存在する構造部としては、マクロモノマーAとしての分子量を満たせば特に限定されないが、炭素原子、酸素原子、水素原子から構成される構造部位であることが好ましい。このとき、置換基Tを有していてもよく、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子)などを有していてもよい。
【0102】
上記のマクロモノマーAは、下記式(b-13a)~(b-13c)のいずれかで表される化合物又は(b-14a)~(b-14c)のいずれかで表される繰り返し単位を有する化合物であることが好ましい。
【0103】
【0104】
Rb2、Rb3は、R1と同義である。
【0105】
naは特に限定されないが、好ましくは1~6の整数であり、より好ましくは1又は2である。
【0106】
Raはnaが1のときは置換基(好ましくは有機基)、naが2以上のときは連結基を表す。
Rbは2価の連結基である。
Ra及びRbが連結基であるとき、その連結基としては、下記連結基Lが挙げられる。具体的には、炭素数1~30のアルカン連結基(2価の場合アルキレン基)、炭素数3~12のシクロアルカン連結基(2価の場合シクロアルキレン基)、炭素数6~24のアリール連結基(2価の場合アリーレン基)、炭素数3~12のヘテロアリール連結基(2価の場合ヘテロアリーレン基)、エーテル基(-O-)、スルフィド基(-S-)、ホスフィニデン基(-PR-:Rは水素原子もしくは炭素数1~6のアルキル基)、シリレン基(-SiRR’-:R、R’は水素原子もしくは炭素数1~6のアルキル基)カルボニル基、イミノ基(-NRN-:RNは後記の定義に従い、ここでは、水素原子もしくは炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基)、又はその組み合わせであることが好ましい。なかでも、炭素数1~30のアルカン連結基(2価の場合アルキレン基)、炭素数6~24のアリール連結基(2価の場合アリーレン基)、エーテル基、カルボニル基、又はその組み合わせであることが好ましい。また、Ra及びRbが連結基であるとき、その連結基として、下記連結基Lが採用されてもよい。
Ra及びRbを構成する連結基は、炭素原子、酸素原子、水素原子から構成される連結構造であることが好ましい。あるいは、Ra及びRbを構成する連結基が、後記繰り返し単位(b-15)を有する構造部であることも好ましい。Ra及びRbが連結基であるときの連結基を構成する原子の数や連結原子数は後記連結基Lと同義である。
【0107】
Raが1価の置換基であるときには、後記置換基Tの例が挙げられ、なかでもアルキル基、アルケニル基、アリール基であることが好ましい。このとき、連結基Lが介在して置換していても、置換基内に連結基Lが介在していてもよい。
あるいは、Raが1価の置換基であるときは、-Rb-Rcの構造や、後記繰り返し単位(b-15)を有する構造部であることも好ましい。ここでRcは、後記置換基Tの例が挙げられ、なかでもアルキル基、アルケニル基、アリール基であることが好ましい。
【0108】
このとき、Ra及びRbは、それぞれ、少なくとも、炭素数1~30の直鎖炭化水素構造単位(好ましくはアルキレン基)を含有することがより好ましく、上記直鎖炭化水素構造Sを含むことがより好ましい。また、上記Ra~Rcは、それぞれ、連結基又は置換基を有していてもよく、その例としては後記連結基Lや置換基Tが挙げられる。
【0109】
上記のマクロモノマーAはさらに下記式(b-15)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【化9】
式中、R
b4は、水素原子又は後記置換基Tである。好ましくは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基である。R
b4がアルキル基、アルケニル基、アリール基であるとき、さらに後記置換基Tを有していてもよく、例えば、ハロゲン原子やヒドロキシ基などを有していても良い。
Xは連結基であり、連結基Lの例が挙げられる。好ましくは、エーテル基、カルボニル基、イミノ基、アルキレン基、アリーレン基、又はその組合せである。組合せに係る連結基としては、具体的には、カルボニルオキシ基、アミド基、酸素原子、炭素原子、及び水素原子で構成された連結基が挙げられる。R
b4及びXが炭素を含むときその好ましい炭素数は、後記置換基T及び連結基Lと同義である。連結基の好ましい構成原子数や連結原子数も同義である。
その他、マクロモノマーAには、上述した重合性基を有する繰り返し単位のほか、上記式(b-15)のような(メタ)アクリレート構成単位、ハロゲン原子(例えばフッ素原子)を有していてもよいアルキレン鎖(例えばエチレン鎖)が挙げられる。このとき、アルキレン鎖には、エーテル基(O)等が介在していてもよい。
【0110】
置換基としては、上記の連結基の末端に任意の置換基が配置された構造が挙げられる、末端置換基の例としては、後記置換基Tが挙げられ、上記R1の例が好ましい。
【0111】
本明細書において置換又は無置換を明記していない置換基(連結基についても同様)については、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、下記置換基Tが挙げられる。
【0112】
置換基Tとしては、下記のものが挙げられる。
アルキル基(好ましくは炭素数1~20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、ペンチル、ヘプチル、1-エチルペンチル、ベンジル、2-エトキシエチル、1-カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素数6~26のアリール基、例えば、フェニル、1-ナフチル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2~20のヘテロ環基、好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5又は6員環のヘテロ環基が好ましく、例えば、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、2-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、3-メチルフェノキシ、4-メトキシフェノキシ等)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2-エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1-ナフチルオキシカルボニル、3-メチルフェノキシカルボニル、4-メトキシフェノキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素数0~20のアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基を含み、例えば、アミノ、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N-エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0~20のスルファモイル基、例えば、N,N-ジメチルスルファモイル、N-フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、アリーロイルオキシ基(好ましくは炭素数7~23のアリーロイルオキシ基、例えば、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1~20のカルバモイル基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイル、N-フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1~20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1~20のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6~26のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1-ナフチルチオ、3-メチルフェニルチオ、4-メトキシフェニルチオ等)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6~22のアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、ホスホリル基(好ましくは炭素数0~20のリン酸基、例えば、-OP(=O)(RP)2)、ホスホニル基(好ましくは炭素数0~20のホスホニル基、例えば、-P(=O)(RP)2)、ホスフィニル基(好ましくは炭素数0~20のホスフィニル基、例えば、-P(RP)2)、スルホ基(スルホン酸基)、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。
また、これらの置換基Tで挙げた各基は、上記の置換基Tがさらに置換していてもよい。
【0113】
化合物、置換基及び連結基等がアルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基及び/又はアルキニレン基等を含むとき、これらは環状でも鎖状でもよく、また直鎖でも分岐していてもよく、上記のように置換されていても無置換でもよい。
【0114】
本明細書で規定される各置換基は、本発明の効果を奏する範囲で下記の連結基Lを介在して置換されていても、その構造中に連結基Lが介在していてもよい。たとえば、アルキル基、アルキレン基、アルケニル基及びアルケニレン基等はさらに構造中に下記のヘテロ連結基を介在していてもよい。
【0115】
連結基Lとしては、炭化水素連結基〔炭素数1~10のアルキレン基(より好ましくは炭素数1~6、さらに好ましくは1~3)、炭素数2~10のアルケニレン基(より好ましくは炭素数2~6、さらに好ましくは2~4)、炭素数2~10のアルキニレン基(より好ましくは炭素数2~6、さらに好ましくは2~4)、炭素数6~22のアリーレン基(より好ましくは炭素数6~10)〕、ヘテロ連結基〔カルボニル基(-CO-)、チオカルボニル基(-CS-)、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、イミノ基(-NRN-)、イミン連結基(RN-N=C<,-N=C(RN)-)、スルホニル基(-SO2-)、スルフィニル基(-SO-)、リン酸連結基(-O-P(OH)(O)-O-)、ホスホン酸連結基(-P(OH)(O)-O-)、2価のヘテロ環基〕、又はこれらを組み合せた連結基が好ましい。なお、縮合して環を形成する場合には、上記炭化水素連結基が、二重結合や三重結合を適宜形成して連結していてもよい。形成される環として好ましくは、5員環又は6員環が好ましい。5員環としては含窒素の5員環が好ましく、その環をなす化合物として例示すれば、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、インダゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、インドリン、カルバゾール、又はこれらの誘導体などが挙げられる。6員環としては、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン、又はこれらの誘導体などが挙げられる。またアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、同様に置換されていても無置換でもよい。
【0116】
RNは水素原子又は置換基を表し、置換基は上記置換基Tで示す定義と同義である。置換基としては、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~3が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~3が特に好ましい)、アラルキル基(炭素数7~22が好ましく、7~14がより好ましく、7~10が特に好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい)が好ましい。
【0117】
RPは水素原子、ヒドロキシ基、又は置換基である。置換基としては、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~3が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~3が特に好ましい)、アラルキル基(炭素数7~22が好ましく、7~14がより好ましく、7~10が特に好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい)、アルコキシ基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい)、アルケニルオキシ基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~3が特に好ましい)、アルキニルオキシ基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~3が特に好ましい)、アラルキルオキシ基(炭素数7~22が好ましく、7~14がより好ましく、7~10が特に好ましい)、アリールオキシ基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい)、が好ましい。
【0118】
本明細書において、連結基を構成する原子の数は、1~36であることが好ましく、1~24であることがより好ましく、1~12であることがさらに好ましく、1~6であることが特に好ましい。連結基の連結原子数は10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。下限としては、1以上である。上記連結原子数とは所定の構造部間を結ぶ経路に位置し連結に関与する最少の原子数を言う。たとえば、-CH2-C(=O)-O-の場合、連結基を構成する原子の数は6となるが、連結原子数は3となる。
【0119】
具体的な連結基の組合せとしては、以下のものが挙げられる。オキシカルボニル基(-OCO-)、カーボネート基(-OCOO-)、アミド基(-CONH-)、ウレタン基(-NHCOO-)、ウレア基(-NHCONH-)、(ポリ)アルキレンオキシ基(-(Lr-O)s-)、カルボニル(ポリ)オキシアルキレン基(-CO-(O-Lr)s-、カルボニル(ポリ)アルキレンオキシ基(-CO-(Lr-O)s-)、カルボニルオキシ(ポリ)アルキレンオキシ基(-COO-(Lr-O)s-)、(ポリ)アルキレンイミノ基(-(Lr-NRN)s-)、アルキレン(ポリ)イミノアルキレン基(-Lr-(NRN-Lr)s-)、カルボニル(ポリ)イミノアルキレン基(-CO-(NRN-Lr)s-)、カルボニル(ポリ)アルキレンイミノ基(-CO-(Lr-NRN)s-)、(ポリ)エステル基(-(CO-O-Lr)s-、-(O-CO-Lr)s-、-(O-Lr-CO)s-、-(Lr-CO-O)s-、-(Lr-O-CO)s-)、(ポリ)アミド基(-(CO-NRN-Lr)s-、-(NRN-CO-Lr)s-、-(NRN-Lr-CO)s-、-(Lr-CO-NRN)s-、-(Lr-NRN-CO)s-)などである。sは1以上の整数であり、1~500が好ましく、1~100がより好ましい。
【0120】
Lrはアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が好ましい。Lrの炭素数は、1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。複数のLrやRN、RP、s等は同じである必要はない。連結基の向きは上記の記載により限定されず、適宜所定の化学式に合わせた向きで理解すればよい。
【0121】
上記マクロモノマーAとして、末端にエチレン性不飽和結合を有するマクロモノマーを用いてもよい。ここで、マクロモノマーAは、ポリマー鎖部分とその末端のエチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基の部分からなる。
【0122】
マクロモノマーAに由来する構成成分の共重合比は特に限定されないが、粒子状ポリマーA中、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0123】
・粒子状ポリマーA等の諸元
粒子状ポリマーAの数平均分子量は5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることが特に好ましい。上限としては、1,000,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましい。
【0124】
本発明において粒子状ポリマーAは非晶質であることが好ましい。本発明においてポリマーが「非晶質」であるとは、典型的には、特開2015-088486号公報の段落[0143]に記載のガラス転移温度(Tg)の測定法で測定したときに結晶融解に起因する吸熱ピークが見られないポリマーのことを言う。上記ポリマーのTgは、50℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることがさらに好ましく、0℃以下であることが特に好ましい。下限値としては、-80℃以上であることが好ましく、-70℃以上であることがより好ましく、-60℃以上であることが特に好ましい。本発明において粒子状ポリマーAをなすポリマーのガラス転移温度は、特に断らない限り、上記測定法により得られる値とする。
なお、作製された全固体二次電池からの測定は、例えば、電池を分解し電極を水に入れてその材料を分散させた後、ろ過を行い、残った固体を収集し、上記Tgの測定法でガラス転移温度を測定することにより行うことができる。
【0125】
(ii)粒子状ポリマーB
粒子状ポリマーBは、質量平均分子量1,000以上1,000,000未満のマクロモノマーB由来の構成成分を含み、かつ、2環以上の環構造を含む基を有する。
粒子状ポリマーBとして、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレア、ポリウレタン又はアクリル樹脂が好ましい。
【0126】
・粒子状ポリマーBの合成に用いられるモノマー
粒子状ポリマーBの合成に用いられるマクロモノマーB以外のモノマーは特に限定されない。このようなモノマーとしては、重合性不飽和結合を有するモノマーであることが好ましく、例えば各種のビニル系モノマー及び/又はアクリル系モノマーを適用することができる。具体的には、上述の粒子状ポリマーAで記載したモノマー(a)を採用することができる。
【0127】
粒子状ポリマーBの合成原料として用いうるモノマーとして、上記「A-数字」で示す例示化合物を挙げることができる。ただし、本発明がこれらにより限定して解釈されるものではない。
【0128】
・マクロモノマーB由来の構成成分
本発明に用いられる粒子状ポリマーBは、質量平均分子量1000以上のマクロモノマーB由来の構成成分が組み込まれている。上記粒子状ポリマーBにおいて、マクロモノマーB由来の構成成分は主鎖に対し側鎖を構成する。
マクロモノマーBの質量平均分子量は、2,000以上であることが好ましく、3,000以上であることがより好ましい。上限は、1,000,000未満であり、500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることが特に好ましい。上記粒子状ポリマーBが上記の範囲の分子量をもつ側鎖を有することで、より良好に有機溶剤中に均一に分散でき固体電解質粒子と混合して塗布できるようになる。
なお、マクロモノマーBの質量平均分子量は、マクロモノマーAの数平均分子量の測定方法と同様にして測定することができる。
【0129】
このようなマクロモノマーB由来の構成成分を含有する粒子状ポリマーBは、粒子状ポリマーAと同様の作用を奏する。
【0130】
マクロモノマーBのSP値は10以下であることが好ましく、9.5以下であることがより好ましい。下限値は特にないが、5以上であることが実際的である。
【0131】
粒子状ポリマーBにおいて、上記のマクロモノマーB由来のグラフト部分を側鎖、それ以外を主鎖とした場合、この主鎖構造は特に限定されない。マクロモノマーBは、重合性不飽和結合を有することが好ましく、例えば各種のビニル基や(メタ)アクリロイル基を有することができる。本発明においては、中でも、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。
【0132】
上記のマクロモノマーB由来の構成成分は、グラフト鎖中に(メタ)アクリル酸成分、(メタ)アクリル酸エステル成分及び(メタ)アクリロニトリル成分から選ばれる構成成分(繰り返し単位)を含むことが好ましい。また、上記マクロモノマーBは、重合性二重結合と炭素数6以上の直鎖炭化水素構造Sを含むことが好ましい。
【0133】
上記のマクロモノマーBは、上記式(b-1)で表される部位を有することが好ましい。
【0134】
マクロモノマーBとして、炭化水素系溶媒に対して溶媒和されている構造部分(溶媒和部分)と溶媒和されない構造部分(非溶媒和部分)とを有しているポリウレア又はポリウレタンも好ましい。ポリウレア又はポリウレタンとしては、炭素数6以上の長鎖アルキル基を有する粒子が好ましい。このような粒子は、例えば、非水媒体中で、炭素数6以上の長鎖アルキル基を有するジオール化合物(いわゆる親油性ジオール)と、イソシアネート化合物と、ポリアミン(ポリウレタンの場合はポリオール)化合物と、を反応させることで得られる。つまり、炭素数6以上の長鎖アルキル基等の、炭化水素系溶媒と溶媒和した構造部分を粒子に付与することができる。なお、親油性ジオール及びイソシアネート化合物に代えて、これらの化合物からなる末端NCOプレポリマーを反応させてもよい。
親油性ジオールは、官能基が2以下のポリオールであって、好ましい分子量は700以上5000未満である。但し、親油性ジオールは、これに限定されない。親油性ジオールの具体例としては、各種の油脂を低級アルコール及び/又はグリコールを用いてアルコリシス化する方法、油脂を部分鹸化する方法、水酸基含有脂肪酸をグリコールによりエステル化する方法等によって、油脂に約2個以下の水酸基を含有させたもの、あるいはJ.H.SAUNDERS,K.C.FRISCH著のPOLYURETHANES,CHEMISTRY AND TECHNOLOGY PART1,Chemistry(pp.48~53、1962年発行)等に記載の、油脂変性ポリオール、末端アルコール変性したアクリル樹脂及び末端アルコール変性したポリエステル等が挙げられる。
上記のうち、水酸基含有脂肪酸としては、例えば、リシノレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ヒマシ油脂肪酸及び水添ヒマシ油脂肪酸等が挙げられる。
末端アルコール変性したアクリル樹脂としては、例えば、チオグリセロールを連鎖移動剤として用いた長鎖アルキル(メタ)アクリレートの重合物などが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートの重合物としては、炭素数6以上30未満のアルキル(メタ)アクリレートの1種又は2種以上が好適に用いられる。さらに好ましくは、炭素数8以上25未満(特に好ましくは炭素数10以上20未満)のアルキル(メタ)アクリレートである。
イソシアネート化合物としては、通常のイソシアネート化合物を全て適用でき、特に好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添加トルエンジイソシアネート(水添加TDI)、水添加ジフェニルメタンジイソシアネート(水添加MDI)及びイソホロジイソシアネート等の脂肪族又は脂環族系ジイソシアネート化合物である。
アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、ビス-アミノプロピルピペラジン、ポリオキシプロピレンジアミン、4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、チオ尿素及びメチルイミノビスプロピルアミン等が挙げられる。アミン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合した混合物として用いてもよい。
上記マクロモノマーBとして、末端にエチレン性不飽和結合を有するマクロモノマーを用いてもよい。ここで、マクロモノマーBは、ポリマー鎖部分とその末端のエチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基の部分からなる。
【0135】
マクロモノマーBに由来する構成成分の共重合比は特に限定されないが、粒子状ポリマーB中、3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。なお、共重合比は、粒子状ポリマーBの合成に用いられるモノマーの仕込み量(使用量)から算出することができる。ただし、2環以上の環構造を含む基を有するモノマーの仕込み量(使用量)は含まれない。
【0136】
-2環以上の環構造を含む基-
本発明に用いられる2環以上の環構造を含む基は、2環以上の環(好ましくは縮環)構造を有する化合物の少なくとも1つの水素原子を結合手に置き換えた基であればよく、下記一般式(D)で表される化合物の少なくとも1つの水素原子を結合手に置き換えた基であることが好ましく、1つ又は2つの水素原子を結合手に置き換えた基であることがより好ましく、1つの水素原子を結合手に置き換えた基であることが特に好ましい。
下記一般式(D)で表される化合物から形成される基は、炭素質材料との親和性に優れるため、粒子状ポリマーBを含有する電極用組成物の分散安定性を向上させることができ、本発明の全固体二次電池用電極シートの結着性を向上させることができる。分散安定性の向上、結着性の向上に伴い、本発明の全固体二次電池用電極シートを用いて作製した全固体二次電池はサイクル特性に優れる。2環以上の環構造を含む基は、サイクル特性向上の観点から、3環以上の環構造を含む基であることが好ましく、4環以上の環構造を含む基であることがさらに好ましい。上限に特に制限はないが、18環以下が好ましく、16環以下がより好ましく、12環以下がさらに好ましく、8環以下がさらに好ましく、6環以下がさらに好ましい。
【0137】
【0138】
一般式(D)中、環αは2環以上の環を表し、RD1は環αの構成原子と結合している置換基を表し、d1は1以上の整数を表す。d1が2以上の場合、複数のRD1は同一でも異なっていてもよい。隣接する原子に置換するRD1が互いに結合して、環を形成してもよい。環αは、2環以上が好ましく、3環以上がより好ましく、4環以上がさらに好ましい。また、環αは、18環以下が好ましく、16環以下がより好ましく、12環以下がさらに好ましく、8環以下がさらに好ましく、6環以下がさらに好ましい。環αは3員環以上の環構造を含有することが好ましく、4員環以上の環構造を含有することがより好ましく、5員環以上の環構造を含有することがさらに好ましく、6員環構造を含有することが特に好ましい。また環αは24員環以下の環構造を含有することが好ましく、12員環以下の環構造を含有することがより好ましく、8員環以下の環構造を含有することがさらに好ましく、6員環の環構造を含有することが特に好ましい。
【0139】
環αは脂肪族炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族環、ヘテロ環のいずれか又はその組み合わせの構造を含有することが好ましい。脂肪族炭化水素環の具体的な構造としてはシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、デカリンなどが挙げられる。
【0140】
不飽和炭化水素環の具体的な構造としては上記脂肪族炭化水素環の一部が二重結合に置き換わった環構造が挙げられる。例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロオクテン、シクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0141】
芳香族環の具体的な構造としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピセン、ペンタヘン、ペリレン、ヘリセン、コロネンなどが挙げられる。
ヘテロ環の具体的な構造としては、エチレンイミン、エチレンオキシド、エチレンスルフィド、アセチレンオキシド、アザシクロブタン、1,3-プロピレンオキシド、トリメチレンスルフィド、ピロリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ピリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘキサメチレンオキシド、ヘキサメチレンスルフィド、アザロトピリデン、オキサシクロヘプタトリエン、チオトロピリデン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン、イソクロメン、アクリジン、キサンテン、アクリジン、ベンゾキノリン、カルバゾール、ベンゾ-O-シンノリン、ポルフィリン、クロリン、コリンなどが挙げられる。
【0142】
環αは中でも、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロオクテン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、テトラセン、フェナントレン、トリフェニレン、ピロリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、ピリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘキサメチレンオキシド、ヘキサメチレンスルフィド、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、キノリン、ベンゾキノリン、キサンテン、カルバゾール、ポルフィリンを含有する構造が好ましく、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、トリフェニレン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、ピリジン、イミダゾール、オキサゾール、インドールを含有していることがさらに好ましく、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、ピレンを含有する構造が特に好ましい。
【0143】
RD1で表される置換基としては、上述の置換基Tが好ましく挙げられる。
また、RD1で表される置換基として、=Oも好ましい。このような=Oを有する環αの例として、アントラキノンを含む構造が挙げられる。
【0144】
後述のように、上記2環以上の環構造を含む基を、本発明に用いられる粒子状ポリマーBの側鎖及び/又はマクロモノマーB成分の側鎖に含ませるため、RD1が上記式(b-1)で表される部位及び/又は上記連結基Lを有すること、RD1が後述のP1であることも好ましい。
【0145】
本発明に用いられる粒子状ポリマーBは、上記2環以上の環構造を含む基をポリマー主鎖、側鎖及び末端のいずれに有していてもよい。
以下、上記2環以上の環構造を有する化合物が、一般式(D)で表される化合物である場合を例に挙げて説明する。
ポリマーの主鎖に有するとは、一般式(D)で表される化合物が、一般式(D)で表される化合物の少なくとも2つの水素原子を結合手に置き換えた構造でポリマーに組込まれ、ポリマーの繰り返し構造となる主鎖そのものとなるものである。一方、ポリマーの側鎖に有するとは、一般式(D)で表される化合物の1つの水素原子を結合手に置き換えた構造でポリマーに組込まれることを意味する。また、ポリマー末端に有するとは、一般式(D)で表される化合物の1つ水素原子を結合手に置き換えた構造でポリマーに組込まれ、ポリマー鎖長となるものである。ここで、ポリマーの主鎖、側鎖及びポリマー末端の複数に含まれていても構わない。
本発明では、粒子状ポリマーBが、上記2環以上の環構造を含む基を、主鎖又は側鎖に有することが好ましく、側鎖に有することがより好ましく、マクロモノマーB由来の構成成分の側鎖(マクロモノマーB由来の構成成分が有するグラフト鎖)中に有することが特に好ましい。マクロモノマーB成分の側鎖に有するとは、一般式(D)で表される化合物の1つの水素原子を結合手に置き換えた構造を側鎖として有する繰り返し単位が、マクロモノマーB成分を構成する繰り返し単位の1つとして、マクロモノマーB成分に組み込まれていることを意味する。
【0146】
上記2環以上の環構造を含む基が、本発明に用いられる粒子状ポリマーBの側鎖に組み込まれていることにより、上記2環以上の環構造を含む基の運動性が向上することで吸着性が向上する。そうすることで、全固体二次電池における固体粒子間等の結着性をより向上させることができる。上記2環以上の環構造を含む基が、本発明に用いられる粒子状ポリマーBのマクロモノマーB成分の側鎖に含まれていることにより、粒子状ポリマーB表面に存在する上記2環以上の環構造を含む基の割合が多くなり、全固体二次電池における固体粒子間等の結着性をより向上させることができる。
【0147】
本発明においては、上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量が、粒子状ポリマーB100質量%中10質量%以上85質量%以下であることが好ましく、15質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、18質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量が上記範囲内にあることにより、吸着性と粒子状ポリマーBの分散安定性が両立することができ好ましい。
なお、上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量は、粒子状ポリマーBの合成に用いられるモノマーの仕込み量(使用量)から算出することができる。国際公開第2017/131093号公報記載の表1において、M1~M4及びMMで表される成分のうち、2環以上の環構造を含む基を有する成分の合計が、上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量である。例えば、表1のBP-5では、M4(B-5)とMM(MM-2)が2環以上の環構造を含む基を有しており、2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量は40質量%である。
【0148】
また、本発明において、上記一般式(D)で表される化合物は、下記一般式(1)で表される化合物及び後述の一般式(2)で表される脂肪族炭化水素のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される脂肪族炭化水素は、負極活物質である炭素質材料との親和性に優れる。そのため、これらの化合物を含有する電極用組成物の分散安定性をより向上させるとともに本発明の全固体二次電池用電極シートの結着性を向上させることができる。また、分散安定性の向上、結着性の向上に伴い、この電極用組成物を用いて作製した全固体二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0149】
【0150】
一般式(1)において、CHCはベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環を表す。n1は0~8の整数を表す。R11~R16は各々独立に、水素原子又は置換基を表す。CHCがベンゼン環以外の場合は環構造にR11~R16以外に水素原子を有していてもよい。X1及びX2は各々独立に、水素原子又は置換基を表す。ここで、R11~R16、X1及びX2において、互いに隣接する基が結合して、5又は6員環を形成してもよい。ただし、n1が0の場合、R11~R16のいずれか1つの置換基は、-(CHC1)m1-Rxであるか、又はR11~R16のいずれか2つが互いに結合して、-(CHC1)m1-を形成する。ここで、CHC1はフェニレン基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基を表し、m1は2以上の整数を表し、Rxは水素原子又は置換基を表す。また、n1が1の場合、R11~R16、X1及びX2において、互いに隣接する少なくとも2つが結合して、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環又はシクロヘキサジエン環を形成する。
【0151】
R11~R16が表す置換基として、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基もしくはその塩、スルホ基もしくはその塩、アミノ基、メルカプト基(スルファニル基)、アミド基、ホルミル基、シアノ基、ハロゲン原子、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、エポキシ基、オキセタニル基等が挙げられる。
【0152】
なお、以下ではホルミル基をアシル基に含めて説明する。
【0153】
アルキル基の炭素数は、1~30が好ましく、1~25がより好ましく、1~20が特に好ましい。具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、オクチル、ドデシル、ステアリル、ベンジル、ナフチルメチル、ピレニルメチル及びピレニルブチルが挙げられる。アルキル基としては内部に二重結合又は三重結合の不飽和炭素結合を含有することがさらに好ましい。
【0154】
アリール基の炭素数は、6~30が好ましく、6~26がより好ましく、6~15が特に好ましい。具体的には、フェニル、ナフチル、アントラセン、ターフェニル、トリル、キシリル、メトキシフェニル、シアノフェニル及びニトロフェニルが挙げられる。
【0155】
ヘテロアリール基の炭素数は、6~30が好ましく、6~26がより好ましく、6~15が特に好ましい。具体的には、フラン、ピリジン、チオフェン、ピロール、トリアジン、イミダゾール、テトラゾール、ピラゾール、チアゾール及びオキサゾールが挙げられる。
【0156】
アルケニル基の炭素数は、2~30が好ましく、2~25がより好ましく、2~20が特に好ましい。具体的には、ビニル及びプロペニルが挙げられる。
【0157】
アルキニル基の炭素数は、2~30が好ましく、2~25がより好ましく、2~20が特に好ましい。具体的には、エチニル、プロピニル及びフェニルエチニルが挙げられる。
【0158】
・アルコキシ基:アルコキシ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
【0159】
・アリールオキシ基:アリールオキシ基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
【0160】
・ヘテロアリールオキシ基:ヘテロアリールオキシ基中のヘテロアリール基は、上記ヘテロアリール基と同じである。
【0161】
・アルキルチオ基:アルキルチオ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
【0162】
・アリールチオ基:アリールチオ基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
【0163】
・ヘテロアリールチオ基:ヘテロアリールチオ基中のヘテロアリール基は、上記ヘテロアリール基と同じである。
【0164】
・アシル基:炭素数は、1~30が好ましく、1~25がより好ましく、1~20がさらに好ましい。アシル基はホルミル基、脂肪族カルボニル基、芳香族カルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含む。例えば、以下の基が挙げられる。
ホルミル、アセチル(メチルカルボニル)、ベンゾイル(フェニルカルボニル)、エチルカルボニル、アクリロイル、メタクリロイル、オクチルカルボニル、ドデシルカルボニル(ステアリン酸残基)、リノール酸残基、リノレン酸残基
【0165】
・アシルオキシ基:アシルオキシ基中のアシル基は、上記アシル基と同じである。
【0166】
・アルコキシカルボニル基:アルコキシカルボニル基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
【0167】
・アリールオキシカルボニル基:アリールオキシカルボニル基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
【0168】
・アルキルカルボニルオキシ基:アルキルカルボニルオキシ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
【0169】
・アリールカルボニルオキシ基:アリールカルボニルオキシ基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
【0170】
これら置換基は一般的に、一般式(1)で示される芳香族炭化水素の求電子置換反応、求核置換反応、ハロゲン化、スルホン化、ジアゾ化、又はそれらの組み合わせによって導入することが可能である。例えばフリーデルクラフト反応によるアルキル化、フリーデルクラフト反応によるアシル化、ビルスマイヤー反応、遷移金属触媒カップリング反応などが挙げられる。
【0171】
n1は、0~6の整数がより好ましく、1~4の整数が特に好ましい。
【0172】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1-1)又は(1-2)で表される化合物が好ましい。
【0173】
【0174】
一般式(1-1)において、Arはベンゼン環である。R11~R16、X1及びX2は、一般式(1)におけるR11~R16、X1及びX2と同義であり、好ましい範囲も同じである。n3は1以上の整数を表す。ただし、n3が1の場合、R11~R16、X1及びX2において、互いに隣接する少なくとも2つが結合して、ベンゼン環を形成する。
一般式(1-2)において、Rxは一般式(1)におけるRxと同義であり、好ましい範囲も同じである。R10は置換基を表し、nxは0~4の整数を表す。m3は3以上の整数を表す。Ryは、水素原子又は置換基を表す。ここで、RxとRyが結合してもかまわない。
【0175】
n3は、1~6の整数が好ましく、1~3の整数がより好ましく、1~2の整数が特に好ましい。
m3は、3~10の整数が好ましく、3~8の整数がより好ましく、3~5の整数が特に好ましい。
【0176】
一般式(1)で表される化合物の具定例として、ナフタレン、アントラセン、フェナントラセン、ピレン、テトラセン、テトラフェン、クリセン、トリフェニレン、ペンタセン、ペンタフェン、ペリレン、ピレン、ベンゾ[a]ピレン、コロネン、アンタントレン、コランヌレン、オバレン、グラフェン、シクロパラフェニレン、ポリパラフェニレン又はシクロフェンの構造を含む化合物が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0177】
【0178】
一般式(2)において、Y1及びY2は各々独立に水素原子、メチル基又はホルミル基を表す。R21、R22、R23及びR24は各々独立に、置換基を表し、a、b、c及びdは0~4の整数を表す。
ここで、A環は、飽和環、二重結合を1もしくは2個有する不飽和環又は芳香環であってもよく、B環及びC環は、二重結合を1もしくは2個有する不飽和環であってもよい。なお、a、b、c又はdの各々において、2~4の整数の場合、互いに隣接する置換基が結合して環を形成してもよい。
【0179】
一般式(2)で表される脂肪族炭化水素は、ステロイド骨格を有する化合物である。
ここで、ステロイド骨格の炭素番号は、下記の通りである。
【0180】
【0181】
最初に、一般式(2)で表される脂肪族炭化水素を説明する。
【0182】
R21、R22、R23及びR24における置換基は、どのような置換基でも構わないが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシ基又はその塩、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、エポキシ基、オキセタニル基が好ましく、また、同一炭素原子に2つ置換した置換基が共同して形成された、=O基が好ましい。
アルキル基は、炭素数1~12のアルキル基が好ましく、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、どのような置換基でも構わないが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基が挙げられる。アルキル基としては内部に二重結合又は三重結合の不飽和炭素結合を含有することがさらに好ましい。
アルケニル基は、炭素数1~12のアルケニル基が好ましく、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、どのような置換基でも構わないが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基が挙げられる。
R21は、炭素番号3に置換するのが好ましく、R22は、炭素番号6又は7に置換するのが好ましく、R23は炭素番号11又は12に置換するのが好ましく、R24は、炭素番号17に置換するのが好ましい。
【0183】
Y1、Y2は水素原子又はメチル基が好ましい。
【0184】
a、b、c、dは0~2の整数が好ましい。
【0185】
A環が不飽和環である場合、二重結合は炭素番号4と5の結合が好ましく、B環が不飽和環である場合、二重結合は炭素番号5と6又は6と7の結合が好ましく、C環が不飽和環である場合、二重結合は炭素番号8と9の結合が好ましい。
【0186】
なお、一般式(2)で表される化合物は、立体異性体のいずれをも包含するものである。置換基の結合方向が紙面下方向をα、紙面上方向をβで表すと、α、βのいずれであってもよく、これらの混合であってもよい。また、A/B環の配置、B/C環の配置、C/D環の配置は、トランス配置であっても、シス配置のいずれであってもよく、これらの混合配置であっても構わない。
【0187】
本発明では、a~dの総和が1以上であって、かつR21、R22、R23及びR24のいずれかが、ヒドロキシ基又は置換基を有するアルキル基が好ましい。
【0188】
ステロイド骨格を有する化合物としては下記に示されるようなステロイドが好ましい。
下記では、ステロイド環に有する置換基は、立体的に制御されているものである。
左からコレスタン類、コラン類、プレグナン類、アンドロスタン類、エストラン類である。
【0189】
【0190】
一般式(2)で表される脂肪族炭化水素の具体例として、コレステロール、エルゴステロール、テストステロン、エストラジオール、エルドステロール、アルドステロン、ヒドロコルチゾン、スチグマステロール、チモステロール、ラノステロール、7-デヒドロデスモステロール、7-デヒドロコレステロール、コラン酸、コール酸、リトコール酸、デオキシコール酸、デオキシコール酸ナトリウム、デオキシコール酸リチウム、ヒオデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、デヒドロコール酸、ホケコール酸又はヒオコール酸の構造を含む化合物が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0191】
一般式(2)で表される脂肪族炭化水素は、市販品を用いることができる。
【0192】
一般式(D)で表される化合物は、RD1の少なくとも1つがL1a-P1であること、又はRD1の少なくとも2つが各々独立にL2a-P2又はL3a-P2であることが好ましく、前者であることがより好ましい。一般式(1)においては、R11~R16、X1及びX2の少なくとも1つがL1a-P1であること、又はR11~R16、X1及びX2の少なくとも2つが各々独立にL2a-P2又はL3a-P2であることが好ましく、前者であることがより好ましい。一般式(2)においては、R21、R22、R23及びR24の少なくとも1つがL1a-P1であること、又はRD1の少なくとも2つが各々独立にL2a-P2又はL3a-P2であることが好ましく、前者であることがより好ましい。
なお、L1a-P1はL1aで環に結合する。また、L2a-P2及びL3a-P2はL2a及びL3aでそれぞれ環に結合する。
【0193】
L1aは、単結合又は連結基を表す。連結基としては、炭化水素連結基〔炭素数1~10のアルキレン基(より好ましくは炭素数1~6、さらに好ましくは1~3)、炭素数2~10のアルケニレン基(より好ましくは炭素数2~6、さらに好ましくは2~4)、炭素数2~10のアルキニレン基(より好ましくは炭素数2~6、さらに好ましくは2~4)、炭素数6~22のアリーレン基(より好ましくは炭素数6~10)、又はこれらの組み合わせ〕、ヘテロ連結基〔カルボニル基(-CO-)、チオカルボニル基(-CS-)、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、イミノ基(-NRNa-)、アンモニウム連結基(-NRNa
2
+-)、ポリスルフィド基(Sの数が1~8個)、イミン連結基(RNa-N=C<,-N=C(RNa)-)、スルホニル基(-SO2-)、スルフィニル基(-SO-)、リン酸連結基(-O-P(OH)(O)-O-)、ホスホン酸連結基(-P(OH)(O)-O-)、又はこれらの組み合わせ〕、又は、これらを組み合わせた連結基が好ましい。L1aにおけるRNaは水素原子又は炭素数1~12のアルキル基(好ましくは炭素数1~4、さらに好ましくは炭素数1~2)を表す。
【0194】
なお、置換基や連結基が縮合して環を形成する場合には、上記炭化水素連結基が、二重結合や三重結合を適宜形成して連結していてもよい。形成される環としては、5員環又は6員環が好ましい。5員環としては含窒素5員環が好ましく、その環をなす化合物として例示すれば、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、インダゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、インドリン、カルバゾール、又はこれらの誘導体などが挙げられる。6員環としては、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン、又はこれらの誘導体などが挙げられる。またアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、同様に置換されていても無置換でもよい。
【0195】
L1aが組み合わせからなる連結基である場合、組み合わせる数は、特に限定されず、例えば、2~30が好ましく、2~20がより好ましく、2~10がさらに好ましく、2~4が特に好ましい。組み合わせからなる連結基としては、例えば、炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキレン基、炭素数6~24(好ましくは6~10)のアリーレン基、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、イミノ基(NRNa)、カルボニル基、(ポリ)アルキレンオキシ基、(ポリ)エステル基、(ポリ)アミド基又はそれらの組み合わせに係る基が挙げられる。中でも、炭素数1~4のアルキレン基、エーテル基(-O-)、イミノ基(NRNa)、カルボニル基、(ポリ)アルキレンオキシ基、(ポリ)エステル基又はそれらの組み合わせに係る基がより好ましい。他にも後述する例示モノマーが有する連結基が挙げられる。
【0196】
L1aが置換基を採りうる基であるとき、さらに置換基を有していてもよい。置換基としては上記置換基Tが挙げられ、中でも、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子、塩素原子)、アルキル基、アシル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基が好ましい。
L1aは一定以上の長さを有することが好ましい。具体的には環α(環α、一般式(1)又は(2)における環構造を構成する原子のうちL1aが結合する原子)とP1とを連結する最短原子数は、2原子以上が好ましく、4原子以上がより好ましく、6原子以上がさらに好ましく、8原子以上が特に好ましい。上限は1000原子以下であることが好ましく、500原子以下であることがより好ましく、100原子以下であることがさらに好ましく、20原子以下であることが特に好ましい。
【0197】
L2a、L3aはL1aと同義でありそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0198】
P1は重合性部位である。重合性部位とは、重合反応で重合することができる基であり、エチレン性不飽和基、エポキシ基やオキセタニル基のような、連鎖重合する基が挙げられる。またヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナート基等を2つ以上有する基、及び、縮合重合する基として、ジカルボン酸無水物構造を1つ以上有する基などが挙げられる。
なお、エチレン性不飽和基は、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基(アリル基を含む)が挙げられる。
【0199】
P1は、エチレン性不飽和基、エポキシ基、オキセタニル基又はジカルボン酸無水物を1つ以上、又はヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基、2つ以上含有する部分構造が好ましく、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基又はビニル基を1つ以上、又はヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基を2つ以上含有する部分構造がより好ましく、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を含有する部分構造が好ましい。
【0200】
P2はヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナート基、ジカルボン酸無水物など縮合重合する基が挙げられる。なかでもヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基、ジカルボン酸無水物が好ましく、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基が特に好ましい。
【0201】
L1a-P1は、下記一般式(F-1)で表される基であることが好ましい。
【0202】
【0203】
一般式(D)で表される化合物は、d1が1~4で、RD1が一般式(F-1)で表される基であることが好ましく、d1が1で、RD1が一般式(F-1)で表される基であることがより好ましい。一般式(1)においては、R11~R16、X1及びX2の少なくとも4つが一般式(F-1)で表される基であることが好ましく、少なくとも1つが一般式(F-1)で表される基であることがより好ましい。一般式(2)においては、R21、R22、R23及びR24の少なくとも4つが一般式(F-1)で表される基であることが好ましく、少なくとも1つが一般式(F-1)で表される基であることがより好ましい。
【0204】
X31は、-O-又は>NHを表す。
【0205】
式中、R31は、水素原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基を表す。
R31として採りうるアルキル基としては、特に限定されないが、炭素数1~24のアルキル基が好ましく、1~12のアルキル基がより好ましく、1~6のアルキル基が特に好ましい。
R31として採りうるアルケニル基としては、特に限定されないが、炭素数2~24のアルケニル基が好ましく、2~12のアルケニル基がより好ましく、2~6のアルケニル基が特に好ましい。
R31として採りうるアルキニル基としては、特に限定されないが、炭素数2~24のアルキニル基が好ましく、2~12のアルキニル基がより好ましく、2~6のアルキニル基が特に好ましい。
R31として採りうるアリール基としては、特に限定されないが、炭素数6~22のアリール基が好ましく、6~14のアリール基がより好ましい。
R31として採りうるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
R31は、中でも、水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子又はメチルがより好ましい。
R31が置換基を採りうる基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基)であるとき、R31はさらに置換基を有していてもよい。置換基としては後述する置換基Zが挙げられ、中でも、ハロゲン原子(フッ素原子等)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エステル基、アミド基が好ましい。
【0206】
L31は、L1aと同義である。中でも、アルキレン基(好ましくは炭素数1~12、さらに好ましくは1~6)、カルボニル基、エーテル基、イミノ基、又はこれらを組み合わせた連結基がより好ましい。炭素数1~4のアルキレン基、カルボニル基、エーテル基、イミノ基又はこれらを組み合わせた連結基が特に好ましい。
L31が置換基を採りうる基であるとき、さらに置換基を有していてもよい。置換基としては上記置換基Tが挙げられ、中でも、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子、塩素原子)、アルキル基、アシル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基が好ましい。
L31は一定以上の長さを有することが好ましい。環α(環α、一般式(1)又は(2)における環構造を構成する原子のうちL1aが結合する原子)とX31とを連結する最短原子数は、環αとP1とを連結する最短原子数と同じである。
【0207】
以下に、上記2環以上の環構造を有する化合物の例を挙げるが、本発明がこれらにより限定して解釈されるものではない。なお、下記例示化合物において、m4は、1~100000を表し、n4は、1~100000を表す。
【0208】
【0209】
2環以上の環構造を有する化合物は、例えば、2環以上の環構造と反応点(例えば、ヒドロキシ基やカルボキシ基など)を有する化合物に重合性基(例えば、(メタ)アクリロイル基など)を含有する化合物を反応させて合成することにより得ることができる。
【0210】
粒子状ポリマーBの質量平均分子量は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。上限としては、1,000,000以下が実質的であるが、架橋された態様も好ましい。
なお、粒子状ポリマーBの質量平均分子量は、粒子状ポリマーAの数平均分子量の測定方法と同様にして測定することができる。
【0211】
加熱や電圧の印加によってポリマーの架橋が進行した場合には、上記分子量より大きな分子量となっていてもよい。好ましくは、全固体二次電池の使用開始時に、粒子状ポリマーBが上記範囲の質量平均分子量であることである。
【0212】
本発明に用いられる粒子状ポリマーの水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。
また、本発明に用いられる粒子状ポリマーは、晶析させて乾燥させてもよく、ポリマー溶液をそのまま用いてもよい。金属系触媒(ウレタン化、ポリエステル化触媒=スズ、チタン、ビスマス)は少ない方が好ましい。重合時に少なくするか、晶析で触媒を除くことで、共重合体中の金属濃度を、100ppm(質量基準)以下とすることが好ましい。
【0213】
本発明の電極用組成物において、粒子状ポリマーは1種を単独で用いても、複数の種類のものを組み合わせて用いてもよい。また、他の粒子と組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明に用いられる粒子状ポリマーは、常法により調製することができる。
また、粒子化する方法としては、例えば、重合反応時に粒子状ポリマーを形成する方法、ポリマー溶液を沈殿させて粒子化する方法等が挙げられる。
【0214】
<分散媒>
本発明の電極用組成物は、分散媒(分散媒体)を含有してもよい。
分散媒は、電極用組成物に含まれる各成分を分散させるものであればよく、例えば、各種の有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等の各溶媒が挙げられ、その分散媒の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0215】
アルコール化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0216】
エーテル化合物としては、アルキレングリコールアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)等)が挙げられる。
【0217】
アミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、2-ピロリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
【0218】
アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトンなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
脂肪族化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどが挙げられる。
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピロニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸ブチル、ペンタン酸ブチルなどが挙げられる。
非水系分散媒としては、上記芳香族化合物、脂肪族化合物等が挙げられる。
【0219】
本発明においては、中でも、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、エステル化合物が好ましく、ケトン化合物、脂肪族化合物、エステル化合物が更に好ましい。
【0220】
分散媒は常圧(1気圧)での沸点が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。上限は250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることが更に好ましい。
上記分散媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0221】
本発明において、電極用組成物中の、分散媒の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができる。例えば、電極用組成物中、20~99質量%が好ましく、25~70質量%がより好ましく、30~60質量%が特に好ましい。
【0222】
<導電助剤>
本発明の電極用組成物は、活物質の電子導電性を向上させる等のために用いられる導電助剤を適宜必要に応じて含有してもよい。導電助剤としては、一般的な導電助剤を用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子を用いてもよい。またこれらの内1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
本発明の電極用組成物が導電助剤を含む場合、電極用組成物中の導電助剤の含有量は、0~10質量%が好ましい。
本発明において、負極活物質と導電助剤とを併用する場合、上記の導電助剤のうち、電池を充放電した際にLiの挿入と放出が起きず、負極活物質として機能しないものを導電助剤とする。電池を充放電した際に負極活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、負極活物質との組み合わせにより決定される。
【0223】
<リチウム塩>
本発明の電極用組成物は、リチウム塩(支持電解質)を含有することも好ましい。
リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486の段落0082~0085記載のリチウム塩が好ましい。
本発明の電極用組成物がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、無機固体電解質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0224】
<他の添加剤>
本発明の電極用組成物は、上記各成分以外の他の成分として、所望により、イオン液体、増粘剤、架橋剤、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等を含有することができる。
イオン液体は、イオン伝導度をより向上させるため含有されるものであり、公知のものを特に制限されることなく用いることができる。
【0225】
(電極用組成物の調製)
本発明の電極用組成物は、無機固体電解質、活物質、粒子状ポリマー、好ましくは分散媒、更に必要により他の成分を、例えば通常用いる各種の混合機で混合することにより、好ましくはスラリーとして、調製することができる。
混合方法は特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。混合する環境は特に制限されないが、乾燥空気下又は不活性ガス下等が挙げられる。
【0226】
[全固体二次電池用電極シート]
本発明の全固体二次電池用電極シート(単に「本発明の電極シート」ともいう。)は、活物質層を有する電極シートであればよく、活物質層が基材(集電体)上に形成されているシートでも、基材を有さず、活物質層から形成されているシートであってもよい。この電極シートは、通常、集電体及び活物質層を有するシートであるが、集電体、活物質層及び固体電解質層をこの順に有する態様、並びに、集電体、活物質層、固体電解質層及び活物質層をこの順に有する態様も含まれる。本発明の電極シートは保護層及び導電体層(例えばカーボンコート層)等の他の層を有してもよい。本発明の電極シートを構成する各層の層厚は、後述する全固体二次電池において説明する各層の層厚と同じである。
【0227】
本発明の全固体二次電池電極用シートは、集電体と電極活物質層との間に導電体層を有することが好ましく、導電体層としてはカーボンコート層が好ましい。本発明の全固体二次電池用電極シートは、カーボンコート層を有することで集電体と電極活物質層との結着性をより向上させることができる。
カーボンコート層とは、カーボン粒子を含む層であり、カーボンコート層を構成する全固形成分中、導電性粒子の含有量は特に制限されないが、30質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
カーボン粒子は1種単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
カーボン粒子として具体的に、デンカブラック、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、及びグラファイト等が挙げられる。
カーボン粒子の平均子粒径は、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.2μm以上15μm以下がより好ましく、0.5μm以上10μm以下が特に好ましい。
カーボン粒子の平均子粒径は、粒子状ポリマーの平均粒子径と同様にして測定することができる。
【0228】
本発明の全固体二次電池用電極シートは、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層が本発明の電極用組成物で形成され、この層における活物質と粒子状ポリマーが強固に結着している。また、全固体二次電池用電極シートにおいて本発明の電極用組成物で形成された活物質層は、集電体とも強固に結着している。本発明においては、固体粒子間の界面抵抗の上昇を効果的に抑えることもできる。したがって、本発明の全固体二次電池用電極シートは、全固体二次電池の電極活物質層を形成しうるシートとして好適に用いられる。
例えば、全固体二次電池用電極シートを長尺状でライン製造する場合(搬送中に巻き取っても)、また、捲回型電池として用いる場合において、活物質層における活物質と粒子状ポリマーとの強固な結着性を維持できる。このような全固体二次電池用電極シートを用いて全固体二次電池を製造すると、優れた電池性能を示し、更には高い生産性及び歩留まり(再現性)を実現できる。
【0229】
[全固体二次電池用電極シートの製造方法]
本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法は、特に制限されず、本発明の電極用組成物を用いて、電極活物質層を形成することにより、製造できる。例えば、必要により集電体上(他の層を介していてもよい。)に、製膜(塗布乾燥)して電極用組成物からなる層(塗布乾燥層)を形成する方法が挙げられる。これにより、必要により集電体と、塗布乾燥層とを有する全固体二次電池用電極シートを作製することができる。ここで、塗布乾燥層とは、本発明の電極用組成物を塗布し、分散媒を乾燥させることにより形成される層(すなわち、本発明の電極用組成物を用いてなり、本発明の電極用組成物から分散媒を除去した組成からなる層)をいう。
また、本発明の好ましい形態では、集電体上にカーボンコート層形成用組成物を成膜してカーボンコート層を形成して、このカーボンコート層上に電極用組成物からなる層を形成することができる。
【0230】
カーボンコート層を形成するための組成物(カーボンコート層形成用組成物)は、例えば、以下のようにして調製することができる。
カーボンコート層形成用組成物は、カーボン粒子を分散媒中で撹拌し、スラリー化することで調製される。
スラリー化は、各種の混合機を用いてカーボン粒子と分散媒とを混合することにより行うことができる。混合装置としては、特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサー、ブレードミキサー、ロールミル、ニーダー及びディスクミルが挙げられる。混合条件は特に制限されないが、例えば、ボールミルを用いた場合、150~700rpm(rotation per minute)で5分~24時間混合することが好ましい。混合後、必要に応じてろ過してもよい。
カーボン粒子の他に、粒子状ポリマー等の成分を含有するカーボンコート層形成用組成物を調製する場合には、上記のカーボン粒子の分散工程と同時に添加及び混合してもよく、別途添加及び混合してもよい。
本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法において、塗布、乾燥等の各工程については、下記全固体二次電池の製造方法において説明する。
【0231】
本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法においては、上記のようにして得られた塗布乾燥層を加圧することもできる。加圧条件等については、後述する、全固体二次電池の製造方法において説明する。
また、本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法においては、集電体、保護層(特に剥離シート)等を剥離することもできる。
【0232】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、正極活物質層と、この正極活物質層に対向する負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間に配置された固体電解質層とを有する。正極活物質層は、必要により正極集電体上に形成され、正極を構成する。負極活物質層は、必要により負極集電体上に形成され、負極を構成する。
負極活物質層及び正極活物質層の少なくとも1つの層は、本発明の電極用組成物で形成され、負極活物質層及び正極活物質層が本発明の電極用組成物で形成されることが好ましい。本発明の電極用組成物で形成された活物質層は、好ましくは、含有する成分種及びその含有量比について、本発明の電極用組成物の固形分におけるものと同じである。なお、本発明の電極活物質層で形成されない活物質層及び固体電解質層については、公知の材料を用いることができる。
本発明の全固体二次電池は、正極集電体と正極活物質層との間及び負極集電体と負極活物質層との間の少なくともいずれか一方にカーボンコート層を有することが好ましく、両方にカーボンコート層を有することがより好ましい。
負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の厚さは、それぞれ、特に制限されない。各層の厚さは、一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、それぞれ、10~1,000μmが好ましく、15μm以上500μm未満がより好ましい。本発明の全固体二次電池においては、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層の厚さが、50μm以上500μm未満であることが更に好ましい。また、カーボンコート層の厚さは、0.1~20μmが好ましく、0.5~10μmがより好ましい。
正極活物質層及び負極活物質層は、それぞれ、固体電解質層とは反対側に集電体を備えていてもよい。
【0233】
〔筐体〕
本発明の全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金又は、ステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0234】
以下に、
図1を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0235】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、隣接した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e
-)が供給され、そこにリチウムイオン(Li
+)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li
+)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球をモデル的に採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0236】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)
全固体二次電池10においては、正極活物質層及び負極活物質層のいずれも本発明の電極用組成物で形成されている。この全固体二次電池10は優れた電池性能を示す。正極活物質層4及び負極活物質層2が含有する無機固体電解質及び粒子状ポリマーは、それぞれ、互いに同種であっても異種であってもよい。
本発明において、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、活物質層又は電極活物質層と称することがある。また、正極活物質及び負極活物質のいずれか、又は両方を合わせて、単に、活物質又は電極活物質と称することがある。
【0237】
本発明において、上記粒子状ポリマーを無機固体電解質及び活物質等の固体粒子と組み合わせて用いると、固体粒子間の界面抵抗の上昇、固体粒子と集電体の界面抵抗の上昇を抑えることもできると考えられる。そのため、本発明の全固体二次電池は優れた電池特性を示す。
【0238】
全固体二次電池10においては、負極活物質層をリチウム金属層とすることができる。リチウム金属層としては、リチウム金属の粉末を堆積又は成形してなる層、リチウム箔及びリチウム蒸着膜等が挙げられる。リチウム金属層の厚さは、上記負極活物質層の上記厚さにかかわらず、例えば、1~500μmとすることができる。
【0239】
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0240】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に制限されないが、1~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0241】
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層、部材等を適宜介在若しくは配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0242】
[全固体二次電池の製造]
全固体二次電池は、常法によって、製造できる。具体的には、全固体二次電池は、本発明の電極用組成物等を用いて、電極活物質層を形成することにより、製造できる。これにより、小さな電気抵抗を示す全固体二次電池を製造できる。以下、詳述する。
【0243】
本発明の全固体二次電池は、必要により集電体となる金属箔上にカーボンコート層形成用組成物を塗布してカーボンコート層を形成し、このカーボンコート層上に、本発明の電極用組成物を塗布し、塗膜を形成する(製膜する)工程を含む(介する)方法(本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法)を介して、製造できる。
例えば、正極集電体である金属箔上に、カーボンコート層形成用組成物を塗布してカーボンコート層を形成し、このカーボンコート層上に、正極活物質を含有する電極用組成物(正極用組成物)を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を塗布して、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、負極活物質を含有する電極用組成物(負極用組成物)を塗布して、負極活物質層を形成する。負極活物質層の上に、カーボンコート層形成用組成物を塗布してカーボンコート層を形成し、このカーボンコート層上に、負極集電体(金属箔)を重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層の間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。必要によりこれを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることができる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。
【0244】
別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シートを作製する。また、負極集電体である金属箔上に、カーボンコート層形成用組成物を塗布してカーボンコート層を形成し、このカーボンコート層上に、負極用組成物を塗布して負極活物質層を形成し、全固体二次電池用負極シートを作製する。次いで、これらシートのいずれか一方の活物質層の上に、上記のようにして、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートの他方を、固体電解質層と活物質層とが接するように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
また別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートを作製する。また、これとは別に、固体電解質組成物を基材上に塗布して、固体電解質層からなる全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。更に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートで、基材から剥がした固体電解質層を挟むように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
【0245】
上記の製造方法においては、正極用組成物及び負極用組成物のいずれか1つに本発明の電極用組成物を用いればよく、いずれも、本発明の電極用組成物を用いることが好ましい。
【0246】
<各層の形成(成膜)>
各組成物の塗布方法は特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布が挙げられる。
このとき、各組成物は、それぞれ塗布した後に乾燥処理を施してもよいし、重層塗布した後に乾燥処理をしてもよい。乾燥温度は特に制限されない。下限は30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。このような温度範囲で加熱することで、分散媒を除去し、固体状態(塗布乾燥層)にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。これにより、全固体二次電池において、優れた総合性能を示し、かつ良好な結着性と、非加圧でも良好なイオン伝導度を得ることができる。
【0247】
上記のようにして、本発明の電極用組成物を塗布乾燥すると、固体粒子が強固に結着し、更に好ましい態様では固体粒子間の界面抵抗が小さな、塗布乾燥層を形成することができる。
【0248】
塗布した組成物、又は、全固体二次電池を作製した後に、各層又は全固体二次電池を加圧することが好ましい。また、各層を積層した状態で加圧することも好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては特に制限されず、一般的には50~1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては特に制限されず、一般的には30~300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。また、粒子状ポリマーのガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。ただし、一般的には粒子状ポリマーの融点を越えない温度である。
加圧は塗布溶媒又は分散媒を予め乾燥させた状態で行ってもよいし、溶媒又は分散媒が残存している状態で行ってもよい。
なお、各組成物は同時に塗布してもよいし、塗布乾燥プレスを同時に行ってもよく逐次行ってもよい。別々の基材に塗布した後に、転写により積層してもよい。
【0249】
加圧中の雰囲気としては特に制限されず、大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)、不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池用電極シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積又は膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0250】
<初期化>
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は特に制限されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を開放することにより、行うことができる。
【0251】
[全固体二次電池の用途]
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源などが挙げられる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例】
【0252】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「%」は、特に断らない限り質量基準である。本発明において「室温」とは25℃を意味する。
【0253】
<粒子状ポリマーの合成>
以下のようにして、粒子状ポリマーを合成した。
【0254】
(粒子状ポリマー(1)の合成)
還流冷却管、ガス導入コックを付した2L三口フラスコに、下記マクロモノマーM-1の40質量%ヘプタン溶液[モノマー1a溶液]を7.2g、アクリル酸メチル(富士フイルム和光純薬社製)[モノマー2a]を12.4g、アクリル酸(富士フイルム和光純薬社製)[モノマー3a]を6.7g、ヘプタン(富士フイルム和光純薬社製)を207g、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)[開始剤1a]1.4gを添加し、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に、100℃に昇温した。別容器にて調製した液(マクロモノマーM-1の40質量%ヘプタン溶液[モノマー1b溶液]を93.1g、アクリル酸メチル[モノマー2b]を222.8g、アクリル酸[モノマー3b]を120.0g、ヘプタン300.0g、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)[開始剤1b]2.1gを混合した液)を4時間かけて滴下した。滴下完了後、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)[開始剤1c]0.5gを添加した。その後100℃で2時間攪拌した後、室温まで冷却し、ろ過することで粒子状ポリマー(1)の分散液を得た。固形成分濃度は39.2%であった。
【0255】
(マクロモノマーM-1の合成例)
12-ヒドロキシステアリン酸(富士フイルム和光純薬社製)の自己縮合体(GPCポリスチレンスタンダード数平均分子量:2,000)にグリシジルメタクリレート(東京化成工業社製)を反応させマクロモノマーとしてそれをメタクリル酸メチルとグリシジルメタクリレート(東京化成工業社製)と1:0.99:0.01(モル比)の割合で重合したポリマーにアクリル酸(富士フイルム和光純薬社製)を反応させたマクロモノマーM-1を得た。このマクロモノマーM-1のSP値は9.3、数平均分子量は11000であった。
下記に、粒子状ポリマー(1)及びマクロモノマーM-1の推定構造式を示す。
【0256】
【0257】
【0258】
(粒子状ポリマー(2)~(18)及び(20)の合成)
粒子状ポリマー(1)の合成において、原料の使用量を下記表Aのように変えたこと以外は、粒子状ポリマー(1)と同様にして粒子状ポリマー(2)~(18)及び(20)を合成した。
【0259】
【0260】
<表の注>
原料の使用量の単位は「g」である。
【0261】
(粒子状ポリマー(19)の合成)
粒子状ポリマー(4)の合成において、アクリル酸に代えてアクリロニトリルを30.6g用いたこと以外は、粒子状ポリマー(4)と同様にして粒子状ポリマー(19)の分散液を得た。
【0262】
<硫化物系無機固体電解質の合成>
以下のようにして硫化物系無機固体電解質を合成した。
【0263】
(硫化物系無機固体電解質(平均粒子径1.5μm)の合成)
硫化物系無機固体電解質として、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.HamGa,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235およびA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして、Li-P-S系ガラスを合成した。
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(Li2S、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g、五硫化二リン(P2S5、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、乳鉢に投入した。Li2S及びP2S5はモル比でLi2S:P2S5=75:25とした。メノウ製乳鉢上において、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)に容器をセットし、25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス、LPS)6.20gを得た。平均粒子径は1.5μmであった。
【0264】
(硫化物系無機固体電解質(平均粒子径5.0μm、0.5μm、0.1μm)の合成)
平均粒子径1.5μmの上記硫化物系無機固体電解質の合成において、メカニカルミリングの時間を変更することにより、平均粒子径を調整したこと以外は、平均粒子径1.5μmの上記硫化物系無機固体電解質と同様にして平均粒子径5.0μmの硫化物系無機固体電解質、平均粒子径0.5μmの硫化物系無機固体電解質及び平均粒子径0.1μmの硫化物系無機固体電解質を合成した。
【0265】
<正極シート(条件3)の作製>
(工程1)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを160個投入し、平均粒子径1.5μmの硫化物系無機固体電解質4.0g、粒子状ポリマー(1)の分散液を粒子状ポリマー(1)が0.24gとなる量、ヘプタン12.3gを添加した後に、フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器をセットし、室温、回転数150rpmで60分湿式分散を行い、固体電解質組成物を得た。
(工程2)
固体電解質組成物に、コバルト酸リチウム(平均粒子径3μm)18.8gと、アセチレンブラック0.47gを追加し、フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器をセットし、室温、回転数150rpmで10分湿式分散を行い、正極用組成物のスラリーを得た。
また、平均粒径2.1μmのカーボンブラック5gとブタジエンゴム3g(バインダ、商品番号182907、アルドリッチ社製)をキシレン100gに加え、プラネタリーミキサーを用いて室温(25℃)で1時間分散し、カーボンコート層形成用組成物を得た。
(工程3)
厚さ20μmのアルミ箔上に、カーボンコート層形成用組成物をアプリケーター(商品名:SA-201ベーカー式アプリケーター、テスター産業社製)により塗布し、100℃4時間加熱乾燥することでカーボンコート層を形成した。カーボンコート層上に、正極用組成物のスラリーを、アプリケーターにより塗布し、100℃で1時間加熱乾燥することで条件3の正極シートを得た。正極活物質層の厚さは、100μmであった。
【0266】
<正極シート(条件1、2、4~45、49及び50)の作製>
条件3の正極シートの作製において、後記表1の組成となるように変更したこと以外は、条件3の正極シートと同様にして条件1、2、4~45、49及び50の正極シートを作製した。
【0267】
<負極シート(条件47)の作製>
(工程1)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを160個投入し、平均粒子径0.5μmの硫化物系無機固体電解質1.93g、粒子状ポリマー(11)の分散液を粒子状ポリマー(11)が0.07gとなる量、及びヘプタン12.3gを投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)に容器をセットし、温度25℃、回転数150rpmで60分間湿式分散を行い、固体電解質組成物を得た。
(工程2)
固体電解質組成物に負極活物質として黒鉛(CGB20(商品名、メジアン径:20μm、日本黒鉛社製))5.0gと、アセチレンブラック0.15gを追加し、遊星ボールミルP-7に容器を再度セットし、温度25℃、回転数200rpmで15分間混合を続けて、負極用組成物を調製した(固形分濃度50質量%)。
(工程3)
厚さ20μmのステンレス鋼(SUS)箔(負極集電体)上に、正極シート(条件3)の作製と同様にしてカーボンコート層を作製し、アプリケーターにより、このカーボンコート層上に、15mg/cm2の目付量となるように負極用組成物を塗布し、100℃で1時間加熱乾燥して、負極集電体上にカーボンコート層及び負極活物質層を有する負極シートを作製した。負極活物質層の厚さは80μmであった。
【0268】
<負極シート(条件46及び48)の作製>
条件47の負極シートの作製において、後記表1の組成となるように変更したこと以外は、条件47の負極シートと同様にして条件46及び48の負極シートを作製した。
【0269】
<全固体二次電池の作製>
作製した正極シートを用いて、以下のように全固体二次電池を作製した。
正極シートを直径10mmφの円盤状に打ち抜き、10mmφのポリエチレンテレフタレート(PET)製の円筒に入れた。円筒内の正極活物質層の表面上に上記合成した硫化物系無機固体電解質Li-P-S系ガラス(平均粒子径1.5μm)を30mg入れて、円筒の両端開口部から10mmφのSUS製の棒を挿入した。正極シートの正極集電体側と硫化物系無機固体電解質を、SUS製棒により350MPaの圧力で加圧形成して固体電解質層を形成した。その後、固体電解質層側に配置したSUS製棒を一旦外し、9mmφの円盤状のインジウム(In)シート(厚さ20μm)と、9mmφの円盤状のリチウム(Li)シート(厚さ20μm)とを、この順で、円筒内の固体電解質層の上に挿入した。外していたSUS製棒を円筒内に再度挿入し、50MPaの圧力をかけた状態で固定した。このようにしてアルミ箔(厚さ20μm)-カーボンコート層(厚さ5μm)-正極活物質層(厚さ100μm)-硫化物系無機固体電解質層(厚さ200μm)-負極活物質層(In/Liシート、厚さ30μm)の構成を有する全固体二次電池を得た。
【0270】
作製した負極シートを用いて、以下のように全固体二次電池を作製した。
負極シートを直径10mmφの円盤状に打ち抜き、10mmφのPET製の円筒に入れた。円筒内の負極活物質層の表面上に上記合成した硫化物系無機固体電解質Li-P-S系ガラス(平均粒子径1.5μm)を30mg入れて、円筒の両端開口部から10mmφのSUS製の棒を挿入した。負極シートの負極集電体側と硫化物系無機固体電解質を、SUS製棒により350MPaの圧力で加圧形成して固体電解質層を形成した。その後、固体電解質層側に配置したSUS製棒を一旦外し、9mmφの円盤状のインジウム(In)シート(厚さ20μm)と、9mmφの円盤状のリチウム(Li)シート(厚さ20μm)とを、この順で、円筒内の固体電解質層の上に挿入した。外したSUS製棒を円筒内に再度挿入し、50MPaの圧力をかけた状態で固定した。こうして、SUS箔(厚さ20μm)-カーボンコート層(厚さ5μm)-負極活物質層(厚さ50μm)-硫化物系無機固体電解質層(厚さ200μm)-正極活物質層(In/Liシート、厚さ30μm)の構成を有する全固体二次電池を得た。
【0271】
<算出方法>
粒子状ポリマーの活物質に対する吸着率を以下のようにして算出した。また、粒子状ポリマーの全構成成分中の吸着基(X)から選ばれる基を有する構成成分の含有量を以下のようにして算出した。
【0272】
[吸着率]
電極用組成物に用いた活物質1.6gと粒子状ポリマー0.08gを15mLのバイアル瓶に入れ、ミックスローターで撹拌しながら、ヘプタンを8g添加し、さらに室温、80rpmで30分撹拌した。撹拌後の溶液を孔径1μm(上記活物質は通過しない)のフィルターでろ過し、ろ液のうち2gを乾燥し、乾固した粒子状ポリマーの質量(活物質に吸着しなかったポリマーの質量)を得て、以下の式から吸着率を算出した。
【0273】
{(0.08g-活物質に吸着しなかった粒子状ポリマーの質量×8/2)/0.08g}×100(%)
【0274】
[吸着基(X)の含有量]
吸着基(X)の含有量は、粒子状ポリマーの合成に使用した原料全質量のうち、吸着基(X)を有するポリマー合成原料(モノマー:アクリル酸又はアクリロニトリル)の質量の占める割合を算出することにより得た。
【0275】
<試験>
以下のように、上記調製した正極用組成物のスラリー及び負極用組成物のスラリーを用いて分散安定性試験を行った。また、上記作製した正極シート及び負極シートを用いて結着性試験を行った。また、上記作製した全固体二次電池の抵抗を評価した。
【0276】
(分散安定性試験)
調製した正極用組成物及び負極用組成物について、固体粒子(無機固体電解質、活物質、粒子状ポリマー等)の分散性(分散安定性)を評価した。
各組成物を、内径5mmの沈降管に入れて、25℃で60分静置した後に、組成物(スラリー)と分離した清澄(上澄み)の量を基準にして分散安定性を評価した。具体的には、沈降管の底面から清澄層の表面(投入した組成物の表面)までの距離を100とした場合に、沈降管の底面から清澄層の底面(界面)までの距離を百分率で算出し、下記評価基準のいずれに含まれるかで評価した。結果を表1に示す。「E」以上が合格である。
【0277】
-評価基準-
AA:95%以上100%
A:90%以上95%未満
B:85%以上90%未満
C:80%以上85%未満
D:75%以上80%未満
E:70%以上75%未満
F:65%以上70%未満
【0278】
(結着性試験)
上記作製した電極シート(正極シート及び負極シート)について、結着性を評価した。
電極シートを、直径の異なる棒に巻きつけ、電極活物質層の導電体層又は集電体からの剥がれの有無を確認した。剥がれが発生することなく巻きつけられた棒の最小径が下記評価基準のいずれに含まれるかにより、結着性を評価した。なお、上記最小径の棒で巻きつけた後、解いた後も、電極活物質層と導電体層又は集電体との間に剥がれがないことも確認した。
本試験において、棒の最小径が小さいほど、結着性が強固であることを示し、「E」以上が合格である。
【0279】
-結着性の評価基準-
AA: 最小径<2mm
A: 2mm≦最小径<4mm
B: 4mm≦最小径<6mm
C: 6mm≦最小径<10mm
D: 10mm≦最小径<14mm
E: 14mm≦最小径<20mm
F: 20mm≦最小径
【0280】
(抵抗評価試験)
作製した全固体二次電池の充放電特性を、東洋システム社製の充放電評価装置(TOSCAT-3000)により測定した。充電は、0.5mA/cm2の電流密度で、充電電圧が3.6Vに達するまで行い、3.6Vに到達後は、電流密度が0.05mA/cm2未満になるまで定電圧充電を実施した。放電は、電流密度0.5mA/cm2で、1.9Vに達するまで行い、これを繰り返し3サイクル目の放電容量を比較した。
【0281】
条件3の正極シートを有する全固体二次電池の放電容量を1(Ahを規格化するので無次元)とした場合の相対値として以下を下記評価基準にあてはめて評価した。「C」以上が本試験の合格である。
【0282】
-評価基準-
A:1.5<放電容量の相対値
B:1.0<放電容量の相対値≦1.5
C:0.5<放電容量の相対値≦1.0
D: 放電容量の相対値≦0.5
放電容量の相対値が大きい程、内部抵抗による電圧効果が小さいため、全固体二次電池の抵抗が低いことを示す。
【0283】
【0284】
【0285】
<表の注>
LCO:コバルト酸リチウム
CGB20:黒鉛(商品名、メジアン径:20μm、日本黒鉛社製)
LLZ:Li7La3Zr2O12
AB:アセチレンブラック
C/Al及びC/SUS:集電体上にカーボンコート層を有することを意味する。
○:式(i)(式(ii))を満たすことを意味する。
×:式(i)(式(ii))を満たさないことを意味する。
含有量1):電極用組成物の全固形成分中の活物質の含有量を示す。
含有量2):電極用組成物の全固形成分中の無機固体電解質の含有量を示す。
含有量3):電極用組成物の全固形成分中の粒子状ポリマーの含有量xを示す。
含有量4):粒子状ポリマーの全構成成分中の吸着基(X)を有する構成成分の含有量を示す。
含有量5):電極用組成物の全固形成分中の導電助剤の含有量を示す。
含有量6):電極用組成物中の分散媒の含有量を示す。
-:該当する成分を含有しないこと等を意味する。
【0286】
条件1及び2(比較例)では無機固体電解質の平均粒子径が2μmを越えており、粒子状ポリマーの平均粒子径が本発明の規定を満たしても結着性及び分散安定性が不合格であった。
条件7(比較例)では電極用組成物の全固形成分中の粒子状ポリマー(平均粒子径150nm)の含有量が2質量%を越えており、結着性、抵抗及び分散安定性がいずれも不合格であった。
条件8(比較例)では電極用組成物の全固形成分中の粒子状ポリマー(平均粒子径80nm)の含有量が2質量%を越えており、抵抗が増大した。
式(ii)を満たさない粒子状ポリマーを用いた条件16(比較例)では、抵抗が増大した。
平均粒子径が200nmを越え、式(i)を満たさない粒子状ポリマーを用いた条件17(比較例)では、結着性、抵抗及び分散安定性がいずれも不合格であった。
式(i)を満たさない粒子状ポリマーを用いた条件18(比較例)では、結着性、抵抗及び分散安定性がいずれも不合格であった。
式(i)を満たさない粒子状ポリマーを用いた条件27(比較例)では、結着性及び分散安定性がいずれも不合格であった。
粒子状ポリマーを用いなかった条件31(比較例)では、結着性及び分散安定性がいずれも不合格であった。
式(ii)を満たさない粒子状ポリマーを用いた条件40(比較例)では、抵抗及び分散安定性がいずれも不合格であった。
条件43及び46(比較例)では無機固体電解質の平均粒子径が2μmを越えており、結着性、抵抗及び分散安定性がいずれも不合格であった。
これに対して、条件3~6、9~15、19~26、28~30、32~39、41、42、44、45及び47~50(実施例)は結着性、抵抗及び分散安定性がいずれも合格であった。
【0287】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0288】
本願は、2018年9月28日に日本国で特許出願された特願2018-184890に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0289】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池