IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ポリイミドフィルムの製造方法 図1
  • 特許-ポリイミドフィルムの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220106BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
B32B27/34
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2016191705
(22)【出願日】2016-09-29
(65)【公開番号】P2017066400
(43)【公開日】2017-04-06
【審査請求日】2019-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2015191703
(32)【優先日】2015-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】林 信行
(72)【発明者】
【氏名】平石 克文
(72)【発明者】
【氏名】王 宏遠
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-101710(JP,A)
【文献】特開2013-100379(JP,A)
【文献】特開2008-115378(JP,A)
【文献】特開2014-061685(JP,A)
【文献】特開2014-025059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02
C08J5/12-5/22
C08G73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板又は銅箔の塗工基材上に、ポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液をポリイミドフィルムの厚みが50μm以下になるように塗布し、加熱処理を完了させることで塗工基材上に気泡又は気泡痕による外観不良を有しないポリイミドフィルムを形成させる方法であって、ポリイミドフィルムが塗工基材から剥離可能であり、ポリイミドフィルムが単層又は複数のポリイミド層からなり、主たるポリイミド層を構成するポリイミドが、一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上有するものであり、ポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液が硬化促進剤を含有せず、前記加熱処理時間が10分間以内であり、180~220℃の予備加熱工程と220℃を超え最高温度が320℃以上の硬化工程を有し、予備加熱工程は保持時間が1分以上であり、硬化工程は保持時間が1分以上であることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【化1】
(式中、Ar1は芳香環を有する4価の有機基を表し、Ar2は下記一般式(2)又は(3)で表される2価の有機基である。)
【化2】
【化3】
(ここで、R1~R8は、互いに独立に水素原子、フッ素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、又は炭素数1~5のフッ素置換炭化水素基である。)
【請求項2】
樹脂溶液がポリイミド前駆体溶液であり、加熱処理が180~220℃での予備加熱工程と、220℃を超え最高温度が320℃以上の硬化工程からなることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
硬化工程における320℃以上の温度域での保持時間が少なくとも1分間であることを特徴とする請求項2記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
180~220℃の予備加熱工程での保持時間が0.5分間以上であり、予備加熱工程と硬化工程の合計が3分間以上である請求項2又は3記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
一般式(2)のR1~R4又は一般式(3)のR1~R8のうち、それぞれ少なくとも一つはフッ素原子又はフッ素置換炭化水素基であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
ガラス板又は銅箔の塗工基材上に、ポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液をポリイミドフィルムの厚みが50μm以下になるように塗布し、加熱処理を完了させることで塗工基材上に気泡又は気泡痕による外観不良を有しないポリイミドフィルムを形成させた後、ポリイミドフィルム上に機能層を形成して、機能層付きポリイミドフィルムを製造する方法であって、ポリイミドフィルムが塗工基材から剥離可能であり、ポリイミドフィルムが単層又は複数のポリイミド層からなり、主たるポリイミド層を構成するポリイミドが、一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上有するものであり、ポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液が硬化促進剤を含有せず、前記加熱処理時間が10分間以内であり、180~220℃の予備加熱工程と220℃を超え最高温度が320℃以上の硬化工程を有し、予備加熱工程は保持時間が1分以上であり、硬化工程は保持時間が1分以上であることを特徴とする機能層付きポリイミドフィルムの製造方法。
【化4】
(式中、Ar1は芳香環を有する4価の有機基を表し、Ar2は下記一般式(2)又は(3)で表される2価の有機基である。)
【化5】
【化6】
(ここで、R1~R8は、互いに独立に水素原子、フッ素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、又は炭素数1~5のフッ素置換炭化水素基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムの製造方法に関し、詳しくは液晶表示装置や有機EL表示装置及びタッチパネル等のフレキシブルデバイス用として好適に用いることができるポリイミドフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テレビのような大型ディスプレイや、携帯電話、パソコン、スマートフォンなどの小型ディスプレイをはじめ、各種のディスプレイ用途に使用される有機EL装置は、一般に支持基材であるガラス基板上に薄膜トランジスタ(以下、TFT) を形成し、更に電極、発光層、電極を順次形成し、最後に別途ガラス基板や多層薄膜等で気密封止して作られる。有機EL装置の構造には、支持基材であるガラス基板側から光を取り出すボ卜ムエミッション構造と、支持基材であるガラス基板と逆側から光を取り出すトップエミッション構造とが有り、用途により使い分けられている。また、構造上、外光がそのまま通過する構造も取れるため、TFTなどの電子素子が外部から透けて見える透明構造も提案されている。いずれも透明性のある電極や基板材料の選定により実現できる。
【0003】
加えて、このような有機EL装置の支持基材を従来のガラス基板から樹脂へと置き換えることにより、薄型・軽量・フレキシブル化でき、有機EL装置の用途を更に広げることができる。しかしながら、樹脂は一般にガラスと比較して寸法安定性、透明性、耐熱性、耐湿性、ガスバリア性等に劣るため、種々の検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、酸無水物とジアミンにフッ素化アルキル基を導入した含フッ素ポリイミド組成物が低誘電率、低吸水率、低熱膨張性であって、フリント板や光導波路用材料に適用可能であることを開示している。
【0005】
例えば、特許文献2は、フレキシブルディスプレイ用プラスチック基板として有用なポリイミド及びその前駆体に関し、シクロヘキシルフェニルテトラ力ルボン酸等のような脂環式構造を含んだテトラカルボン酸類を用いて、各種ジアミンと反応させたポリイミドが透明性に優れることを報告している。
【0006】
上記特許文献1及び特許文献2においては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから安定なポリイミド前駆体溶液を得たのち、ガラス等の基板上に塗布し熱処理することでポリイミドフィルムを得ている。しかしながら、完全にイミド化されたポリイミドフィルムを得るためには、徐々に昇温して複数回の加熱処理を数時間かけて実施する必要がある。加熱処理を短時間で済ませようとすると、ポリイミドフィルムに気泡が含まれたり、気泡痕が残り外観及び機械強度等の特性が劣るものとなる。
【0007】
また、特許文献3には、基材フィルムが、支持材状にポリアミド酸溶液を塗布してイミド化させたポリイミド層を備え、ポリイミド層側に機能層を形成した後、ポリイミド層と支持材との界面を利用して支持材を分離して取り除き、基材フィルムを薄肉化する積層部材の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献3においても、130℃で加熱乾燥した後、さらに160~360℃まで約4℃/分~20℃/分の昇温速度で熱処理することが必要である。
【0008】
上記以外にも支持基材にフレキシブルな樹脂を用いて、軽量化を図る試みがなされており、例えば、非特許文献1及び2では、透明性の高いポリイミドを支持基材に適用した有機EL装置が提案されている。しかしながら、これらに記載されているポリイミドフィルムにおいても、数時間の熱処理による硬化反応が必要であるとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平2-251564号公報
【文献】特開2008-231327号公報
【文献】特開2014-166722号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】S. An et al., "2.8-inch WQVGA Flexible AMOLED Using High Performance Low Temperature Polysilicon TFT on Plastic Substrates", SID 10 D1GEST, p706 (2010)
【文献】Oishi et al., "Transparent PI for flexible display", IDW '11 FLX2surasshuFMC4-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ポリイミドフィルムを得るための加熱処理工程の時間を大幅に短縮することは、生産性の向上及びコスト削減に大きく寄与するため、強く望まれている。しかし、溶剤を含むポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液を短時間で乾燥しようとすると、揮発成分の急激な蒸発による発泡が生じて、気泡や、気泡が壊れて生じる気泡痕が生じる問題があった。また、イミド化を行う場合は、イミド化工程の脱水反応で生じる水蒸気が、急激に発生して、同様に発泡や気泡痕が生じて外観不良となる恐れがあり、またイミド化による硬化反応が不十分となる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは、発泡や硬化工程が不十分になる理由として使用するポリイミド前駆体やポリイミドの種類、構造、さらには塗布される厚みや加熱処理時間に着目し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)塗工基材上に、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液をポリイミドフィルムの厚みが50μm以下になるように塗布し、加熱処理を完了させることで塗工基板上に気泡又は気泡痕による外観不良を有しないポリイミドフィルムを形成させる方法であって、ポリイミドフィルムが塗工基材から剥離可能であり、ポリイミドフィルムが単層又は複数のポリイミド層からなり、主たるポリイミド層を構成するポリイミドが、一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上有するものであり、前記加熱処理時間が10分以内であることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【化1】
〔式中、Ar1は芳香環を有する4価の有機基を表し、Ar2は下記一般式(2)又は(3)で表される2価の有機基である。
【化2】
【化3】
ここで、R1~R8は、互いに独立に水素原子、フッ素原子、炭素数1~5までのアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、又は炭素数1~5のフッ素置換炭化水素基である。〕
【0014】
(2)樹脂溶液がポリイミド前駆体溶液であり、加熱処理が180~220℃での予備加熱工程と、220℃を超え最高温度が320℃以上の硬化工程からなることを特徴とする上記(1)のポリイミドフィルムの製造方法。
【0015】
(3)硬化工程における320℃以上の温度域での保持時間が少なくとも1分間であることを特徴とする上記(2)のポリイミドフィルムの製造方法。
【0016】
(4)180~220℃の予備加熱工程での保持時間が0.5分間以上であり、予備加熱工程と硬化工程の合計が3分間以上である上記(1)又は(2)のポリイミドフィルムの製造方法。
【0017】
(5)一般式(2)のR1~R4又は一般式(3)のR1~R8のうち、それぞれ少なくとも一つはフッ素原子又はフッ素置換炭化水素基であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかのポリイミドフィルムの製造方法。
【0018】
(6)塗工基材上に、ポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液をポリイミドフィルムの厚みが50μm以下になるように塗布し、加熱処理を完了させることで塗工基材上に気泡又は気泡痕による外観不良を有しないポリイミドフィルムを形成させた後、ポリイミドフィルム上に機能層を形成して、機能層付きポリイミドフィルムを製造する方法であって、ポリイミドフィルムが塗工基材から剥離可能であり、ポリイミドフィルムが単層又は複数のポリイミド層からなり、主たるポリイミド層を構成するポリイミドが、上記一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上有するものであり、前記加熱処理時間が10分
間以内であることを特徴とする機能層付きポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリイミドフィルムを用いて液晶表示装置、有機EL表示装置及びタッチパネル等のフレキシブルデバイスの製造において、ポリイミドフィルムを得る際の加熱処理工程の時間を大幅に短縮できるため、生産性に優れるとともに製造コスト削減に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】塗工基材とポリイミド層からなる塗工基材付ポリイミドフィルム上に機能層を形成するための装置の模式図である。
図2】機能層を形成した後、機能層付きポリイミドフィルムから塗工基材を剥離除去する工程を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法では、塗工基材上に、ポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液をポリイミドフィルムの厚みが50μm以下になるように塗布し、加熱処理を完了させることで塗工基板上に気泡又は気泡痕による外観不良を有しないポリイミドフィルムを形成させる。
【0022】
本発明で用いられるポリイミド前駆体又はポリイミドは、その原料としてのモノマーであるジアミンと酸二無水物がそれぞれ単一種のからなってもよく、複数種のモノマーからなってもよい。
【0023】
本発明のポリイミドフィルムは、好適には、上記一般式(1)で表される構造単位を有するポリイミドからなるのがよい。あるいは一般式(1)で表される構造単位を有する複数種のモノマーを使用した共重合体であるのがよく、より好ましくは、一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上、好ましくは90~100モル%含有したポリイミド樹脂であるのがよい。
【0024】
ポリイミドフィルムが、複数のポリイミド層からなる場合は、主たるポリイミド層が上記を満足すればよいが、全ポリイミド層中に一般式(1)で表される構造単位を70モル%以上、好ましくは90~100モル%含有することがよい。ここで、主たるポリイミド層は、全ポリイミド層の厚みの50%以上を占める層であることがよい。
【0025】
一般式(1)において、Ar2は上記一般式(2)又は(3)で表される2価の有機基である。
一般式(2)又は一般式(3)において、R1~R8は、互いに独立に水素原子、フッ素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、又は炭素数1~5のフッ素置換炭化水素基である。炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基としては、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基が好ましく挙げられる。炭素数1~5のフッ素置換炭化水素基としては、炭素数1~5のフッ素置換アルキル基が好ましく挙げられる。
【0026】
一般式(1)中のAr1又はAr2のいずれか又は両者が、フッ素原子又はフッ素置換炭化水素基を有していると、得られるポリイミドフィルムの透明性が向上する。好ましい形態としては、上記一般式(2)において、R1~R4の少なくとも一つがフッ素原子又はフッ素置換炭化水素基であるのがよく、上記一般式(3)において、R1~R8の少なくとも一つがフッ素原子又はフッ素置換炭化水素基であるのがよい。
【0027】
一般式(2)又は一般式(3)におけるR1~R8の好適な具体例としては、-H、-CH 3、-OCH3、-F、-CF3などが挙げられ、より好適には、R1~R8の少なくとも一つが-F、又は-CF3の何れかであるのがよい。
【0028】
一般式(1)において、Ar1は芳香環を有する4価の有機基を表す。Ar1の具体例としては、例えば、以下のような4価の酸無水物残基が挙げられる。
【化4】
【0029】
また、Ar2の具体例としては、以下のようなジアミン残基が挙げられる。
【化5】
【0030】
特に好ましいAr2は、次式で表される。
【化6】
【0031】
本発明で使用されるポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液から、ポリイミドフィルムが得られるが、ポリイミドフィルムを構成するポリイミドは、上記樹脂溶液に含まれるポリイミド前駆体又はポリイミドによって定まるので、ポリイミドフィルムを構成するポリイミドを説明することにより、原料として使用されるポリイミド前駆体又はポリイミドが理解される。
【0032】
そこで、ポリイミドフィルムを構成するポリイミドを説明する。好ましいポリイミドは、下記式(4)と(5)の構成単位を含むポリイミドである。ここで、式(4)と(5)の比率は、モル比率で、(4):(5)=50:50~100:0であり、好ましくは(4):(5)=70:30~95:5、より好ましくは(4):(5)=85:15~95:5である。これらをポリイミド中に90~100モル%含有するものである。
【化7】
【化8】
【0033】
ここで、上記一般式(4)の構造単位は主に低熱膨張性と高耐熱性等の性質を向上させ、また、一般式(5)の構造単位は高透明性を向上させるのに有効である。このような好ましい態様のポリイミドは、一般式(4)及び(5)で表される構造単位(以下、各々、構造単位a、bともいう)以外の構造単位が含まれることを排除するものではない。但し、構造単位a及びb以外の構造単位はモル比率で10%未満の範囲で含まれるのが好適であり、最も好適には、構造単位a及びbのみからなるポリイミドフィルムであるのがよい。
【0034】
塗工基材上に形成されるポリイミドフィルムは、単層だけでなく、複数のポリイミド層からなるものであってもよく、例えば、塗工基材側のポリイミド層を塗工基材から剥がれ易い組成の層とし、反対側の面を機能層と馴染み易い組成の層とすることもできる。この場合、主たるポリイミド層は機能層側のポリイミド層とすることが好ましい。
【0035】
一般式(1)で表される構造単位を含むポリイミドは、それ以外の他の構造単位を含んでもよい。かかる構造単位は、全構造単位の30モル%未満であることがよい。一方、一般式(1)で表される構造単位を含まないその他のポリイミドが存在していてもよい。かかるポリイミドは、全構造単位に換算して上記他の構造単位が30モル%未満であることがよい。
【0036】
上記一般式(1)で表される構造単位を含まないその他のポリイミド樹脂については、一般的な酸無水物とジアミンから選択することができるが、熱膨張係数が15ppm/Kを超えないよう酸無水物及びジアミンを選択し、必要に応じて厚みを調整したり、多層化したりすることが望ましく、最大でも30モル%未満であり、好ましくは10モル%未満である。
【0037】
本発明において好ましく使用される酸無水物としては、ピロメリッ卜酸二無水物、3,3',4,4' -ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,2'-ビス(3,4-ジカルボキシフエ二ル)ヘキサフルオロプロパン二無水物等が挙げられる。
また、ジアミンとしては、4,4'-ジアミノジフェニルサルフォン、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4'-ジアミノシクロヘキシルメタン、2,2'-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-ヘキサフルオロプロパン、2,2'-ビス(卜リフルオロメチル) -4,4'-ジアミノビシクロヘキサン等が挙げられる。
一般式(1)で表される構造単位を含むポリイミドがそれ以外の他の構造単位を含む場合の、他の構造単位を与える酸無水物及びジアミンについても、上記と同様なものが好ましく挙げられる。
【0038】
本発明で使用されるポリイミド前駆体又はポリイミドは、原料のジアミンと酸無水物とを溶媒の存在下で重合し、ポリイミド前駆体樹脂とすることにより、又はその後、熱処理によりイミド化し、それを樹脂溶液とすることによって製造することができる。ポリイミド前駆体又はポリイミドの分子量は、原料のジアミンと酸無水物のモル比を変化させることで主に制御可能であるが、通常、そのモル比は等モル(1:1)である。
【0039】
上記ポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液の製造方法としては、例えば、ジアミンを有機溶媒に溶解させた後、その溶液に酸二無水物を加え、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を製造する。有機溶媒としては、ジメチルアセ卜アミド、ジメチルホルムアミド、n-メチルピ口リジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらを1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。更に、必要によりイミド化し、これを溶媒に溶解してポリイミドの樹脂溶液とする。イミド化の工程は、加熱脱水による熱イミド化を用いて行うことができる。
【0040】
ポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液は、塗工基材上に、ポリイミドフィルムの厚みが50μm以下になるように塗布する。塗布は、金属ロールなどの塗工基材上に、上記樹脂溶液を流延塗布し、塗工基材上で加熱乾燥することにより自己支持性を有するゲルフィルムとした後、塗工基材より剥離して、テンター等で保持しながら更に高温で加熱してポリイミドフィルムを得る方法が生産性に優れ、工業的に最も広く行なわれている。
【0041】
また、他の方法として、例えば、上記樹脂溶液をガラス板や銅箔などの任意の塗工基材上にアプリケーターを用いて流延塗布し、予備乾燥した後、更に、溶剤除去、イミド化のために熱処理し、その後、塗工基材を剥離又はエッチング等により除去する方法が好ましい。樹脂溶液を塗工基材に流延塗布する際、樹脂溶液の粘度は500~70000cpsの範囲とすることが好ましい。また、樹脂溶液の塗布面となる塗工基材の表面に対して適宜表面処理を施した後に、塗工を行ってもよい。ガラス板や銅箔などの塗工基材を使用する場合、その厚みについては、任意に設定することができる。塗工基材としての役割や巻き取り性等を考慮すると、例えば100~700μmの厚みを例示できるが、特に制限はない。但し、ポリイミド層の方が塗工基材よりも薄くなることが望ましい。なお、塗工基材としてポリイミドフィルムを使用することもできる。
【0042】
塗工基材へポリイミド前駆体等樹脂溶液を塗布する方法は、特に限定されず、所定の厚み精度が得られるのであれば、公知の方法、例えばスピンコーター、スプレーコーター、バーコーターや、スリッ卜状ノズルから押し出す方法が適用できる。一般的に、剛直な分子鎖を持つ配向性の高い樹脂の溶液を塗布する場合、塗布時に発生するせん断応力によりリタデーションが発生することが知られているが、驚くべきことに、本発明においては短時間の加熱処理に基づく均一な配向により塗布の方法はリタデーションに影響しない。このため、ポリイミドフィルムの厚み精度と生産性を両立する任意の塗布方法が選択できる。
【0043】
ポリイミドフィルムの膜厚は、当然ながら薄ければ薄いほど溶媒や水蒸気が抜けやすくなるので好ましく、ポリイミドフィルムとしての強度が保持される膜厚であればよい。本発明における短時間で加熱処理工程を終了させるためには50μm以下となる必要があるが、ポリイミドフィルムとしての最低限の強度を保持することを考慮すると5μm以上の膜厚であることが好ましい。より好ましくは10~30μmである。ポリイミドフィルムの加熱処理後の膜厚は、樹脂溶液の固形分濃度や硬化収縮による膜べり(膜厚減少)を考慮して塗工膜厚を調節することで任意に設定が可能である。
【0044】
塗工を行う際のフィルム膜厚を均一に制御する観点から、ポリイミドフィルムを形成するために使用するポリイミド前駆体及びポリイミドの重合度は、樹脂溶液の粘度範囲で表したとき、溶液粘度が500~200,000cPの範囲にあることが好ましく、1000~100,000cPの範囲がより好ましい。
【0045】
ポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液を塗工基材上に、塗布したのち、乾燥、熱処理をする。
乾燥の多くは180℃未満ですることがよく、熱処理は180℃以上でなされる。180℃以上の熱処理では、残存溶媒の除去とイミド化が起こるが、溶媒除去又はイミド化が一時に集中して生じると気泡の発生等があるので、180~220℃での予備加熱工程に付した後、ポリイミド前駆体のイミド化又はポリイミドの熱処理が優勢となる220℃を超える温度で主加熱工程に付すことがよい。主加熱工程を硬化工程ともいう。
【0046】
本発明において、ポリイミド前駆体樹脂溶液を加熱処理する場合、加熱乾燥、予備乾燥及び溶媒除去のための熱処理を予備加熱工程とし、イミド化のための高温での加熱処理を主加熱工程とする。本発明において、これら予備加熱工程及び主加熱工程を合わせて加熱処理工程とするが、これらの加熱処理工程の合計時間(以下、加熱処理時間ともいう)が、10分以内である。加熱処理時間を10分以内とすることで生産性の向上に寄与し、トータルコストを抑えることができる他、過剰にCTEが低下することを抑制することができる。また、極力発泡を抑えつつ、イミド化を完全に終了しようとする場合は、加熱処理時間が、2分以上であることが好ましく、3分間以上であることがより好ましい。予備加熱工程においては、180~220℃に0.5分間以上保持することで、発泡がなく溶媒がほぼ完全に除去できることが確認されており、主加熱工程においては、320℃以上の温度域において1分間保持すればイミド化が完了することが確認されている。なお、予備加熱工程について、180~220℃での加熱処理を行うことが発泡抑制のために好ましいが、その前に補助的に180℃未満の低い温度から昇温する工程を設けてもよい。また、予備加熱工程は、ポリイミドフィルムの生産性の観点からは、5分間以下であることが好ましい。
【0047】
なお、ポリイミド樹脂溶液を加熱処理する場合は、イミド化は必要無いものの、予備加熱だけでは溶媒が残存してしまうおそれがあり、本発明のポリイミドフィルムが適用されるフレキシブルデバイスにおいては、溶媒はppmオーダーまで低減されることが要求されることから、ポリイミド前駆体樹脂溶液を加熱処理する場合と同様に、高温加熱による主加熱工程が必要である。
【0048】
このような短時間で加熱処理が行える理由としては、必ずしも明確なメカニズムが解明されているわけではないが、ポリイミドが剛直で嵩高い構造と考えられる直鎖状のポリイミドであり、かつ、ある程度薄いフィルム状であることが、ごく短時間で溶媒の除去及びイミド化反応が完了することに寄与していると推測される。
【0049】
短時間で溶媒の除去やイミド化反応が完了するための物性的指標として、ポリイミドフィルムとしての水蒸気透過率が挙げられる。これは、溶媒の抜けやすさはイミド化反応で発生する水蒸気の抜けやすさの指標として有力であり、ある特定範囲であれば発泡が起こらないと予想される。現状、実験的に確認されている構造から推測される水蒸気透過率の範囲は、好ましくは1~100g/m/day、より好ましくは10~70g/m/day、特に20~60g/m/dayである。この範囲より小さいとイミド化の際に溶媒等の揮発成分がフィルム内から抜けきる前に固化し、発泡の原因となりやすく、この範囲より大きいとガスバリア性が低いため液晶表示装置や有機EL表示装置及びタッチパネル等のフレキシブルデバイス用として用いるためにはガスバリア膜が必須となるため、工程の追加による生産性の低下及びコストアップの懸念が生ずる。
【0050】
さらに、本発明は、塗工基材上にポリイミド前駆体又はポリイミドの樹脂溶液を塗布し、加熱処理が完了した後、ポリイミドフィルム上に表示装置用の素子やタッチパネル用の導電層などの機能層を形成して、機能層付きポリイミドフィルムを製造することもできる。そして、機能層付きポリイミドフィルムは、適宜、塗工基材をポリイミドフィルムから剥離することにより、各種フレキシブルデバイス用途に広く提供可能である。したがって、塗工基材とポリイミドフィルムは剥離が可能な接着強度にて形成する。一方、上記のように塗工基材上にポリイミドフィルムが存在する状態で表示素子や導電層などの機能層を形成する場合もあることから、製造工程中に剥離しない程度の接着強度であることが好ましい。この場合の塗工基材とポリイミドフィルムの接着強度としては0.1~100N/m、好ましくは1~50N/mの範囲である。
【0051】
塗工基材からポリイミドフィルムを剥離する方法としては、治具などを用いて物理的に剥離する方法を用いてもよいが、ポリイミドの300~400nmの吸収波長を利用したレーザーリフトオフ法を用いることもできる。この場合、用いるレーザーは公知のものを用いることができる。
【0052】
本発明によって製造されるポリイミドフィルムは、熱膨張係数が15ppm/K以下であり、ポリイミドフィルムが複数のポリイミド層から構成されるものであってもよい。また、上述した一般式(1 )で表される構造単位を有するポリイミドは、フレキシブルデバイス用として十分な自己支持性と強度を有することが望ましく、弾性率が5GPa~10GPa程度の比較的硬い性質を有するものが好ましい。
【0053】
本発明によって製造されるポリイミドフィルムは、気泡又は気泡痕による外観不良を有しないものである。ここで、外観不良は実施例に記載の外観検査に合格することをいう。
【0054】
本発明によって製造されるポリイミドフィルムは、タッチパネルやボトムエミッションタイプの有機EL表示素子のような透明性が要求される用途に用いる場合、その透過率は、実際に使用する厚さにおいて440nmから780nmの波長領域で80%以上であればよく、フィルムに製膜した場合に、440nmから780nmの波長領域で80%以上の透過率を与えるポリイミドによって形成されていることがよい。このようなポリイミドは、式(4)と式(5)とで表される構造単位を一定以上有するポリイミドである。
【0055】
本発明によって製造されるポリイミドフィルムを、上記のようなタッチパネルやボトムエミッションタイプの有機EL表示素子などに使用するためには、ポリイミドフィルム上に、以下に詳述する機能層を形成させることになる。以下、ポリイミドフィルム上に、更に機能層を形成する具体的な実施態様について詳細に説明する。
【0056】
(透明導電フィルムの製造)
図2に示すように、塗工基材1上にポリイミド層2を備えた長尺のロール状ポリイミドフィルムに透明導電層3を積層することで、透明導電フィルムを得ることができる。すなわち、この場合は透明導電層が機能層3に相当する。透明導電フィルムを得るにあたっては、例えば、十分な耐熱性を有するポリイミドからなるポリイミドフィルムを塗工基材1とし、その上に本発明の加熱処理によってポリイミド層(ポリイミドフィルム)2が形成されて、ロール状に巻き取られた長尺の塗工基材付ポリイミドフィルムを用意する。
【0057】
この塗工基材付ポリイミドフィルム10を、図1に示されたようなロール・ツー・ロール装置にセットする。図1に示したように、塗工基材付ポリイミドフィルム10は、送り出し側のロール巻機構14、送出機構12、巻取機構13、及び巻き取り側のロール巻機構15に保持され、長手方向に繰り出された塗工基材付ポリイミドフィルム10のポリイミド層2の表面に対して、プロセス処理部11で蒸着法等の手段によって透明導電層が積層される。その際、透明導電層の積層のために真空環境が必要な場合には、ロール・ツー・ロール装置全体を真空チャンバー内に設置してプロセス処理を行うようにすればよい。透明導電層を形成した後には、塗工基材とポリイミド層(ポリイミドフィルム)2との界面を利用して分離して薄肉化することができる。
【0058】
ところで、透明導電層としてITOを使用すると、塗工基材付ポリイミドフィルム10上に蒸着した時点ではアモルファス状態であって、その抵抗値は高い。例えば、透明導電フィルムをタッチパネルに適用する場合、低抵抗化が必要である。そのため、タッチパネル用の電極パターンにパターニング処理した後には200℃~300℃程度のアニール処理を施して抵抗値を下げるようにするが、本実施形態のようなポリイミドフィルムであれば、このようなアニール温度に対して十分な耐熱性を有しており、アニール処理により十分な低抵抗化を図ることができる。
【0059】
透明導電フィルムをタッチパネル等に供することを考慮すると、できるだけその厚みは薄い方が良い。しかしながら、厚み50μmのフィルムを単独でロール・ツー・ロール装置に適用すると、ハンドリングのし難さや搬送過程でのフィルムの伸びが問題になるので、本実施形態のように塗工基材とポリイミド層を分離することなく処理を行ることで、これらの問題を解決しながら、厚みがおよそ10μm以下の透明導電フィルム(透明導電層の厚みは100nm程度)を工業的に生産性良く製造することができる。
【0060】
(ガスバリアフィルムの製造)
例えば、有機EL装置の有機EL発光層に水分や酸素が侵入すると特性劣化を起こすため、水分や酸素の侵入防止するためのガスバリア層が不可欠である。そこで、プロセス処理部11において、例えばCVD法により、酸化珪素、酸化アルミニウム、炭化珪素、酸化炭化珪素、炭化窒化珪素、窒化珪素、窒化酸化珪素等の無機酸化物膜を成膜して機能層とし、それ以外は上記透明導電フィルムの場合と同様にして、薄肉化されたガスバリアフィルムを得ることができる。
【0061】
ところで、無機酸化物膜からなるガスバリア層の熱膨張係数(CTE)と、ポリイミド層2からなるポリイミドフィルムのCTEとの差が大きくなってしまうと、カールが発生してしまうほか、寸法安定性が悪化したり、場合によってはクラックが発生してしまうおそれがある。特に、大面積フィルムを製造した場合には、反りの問題はより顕著になる。そこで前述のように適切な酸無水物及びジアミンから選択されたポリイミド層2を形成すれば、CTEを15ppm/K以下にすることができ、一般に10ppm/K以下のCTEを有する無機酸化物膜との差を小さくすることができるため、これらのような不具合発生は解消される。なお、ガスバリア層は上記のような無機膜の1種類から形成されても良く、2種以上を含むようにして形成してもよい。
【0062】
(薄膜トランジスタの製造)
先ず、薄膜トランジスタ(TFT)は、アモルファスシリコンTFT(a-Si TFT)とポリシリコンTFTとに大別され、ポリシリコンTFTでは、プロセス温度の低温化が可能な低温ポリシリコンTFT(LTPS-TFT)が主流となっている。以下では、液晶表示装置のバックプレーン等に利用される薄膜トランジスタ(TFT)を得るにあたり、ボトムゲート構造のa-Si TFTを得る方法を説明する。
【0063】
予め、塗工基材付ポリイミドフィルム10には、外部からの酸素や水蒸気等の侵入を防止するために、上述したガスバリアフィルムの製造方法と同様の方法でガスバリア層を設けておく。次いで、ゲート電極及び配線を形成するための材料を成膜する。成膜材料としては主にAl系材料が用いられ、スパッタリング等の手段によって積層される。成膜後はホトリソ工程でゲート及び配線のパターンを転写し、エッチング処理によって所定の形状に成形(パターニング)される。
【0064】
次に、ゲート絶縁膜(SiN、SiO2等)、半導体層(a-Si)が同様にCVD等の方法で成膜され、所定の形状に成形される。以下、同様に成膜工程、ホトリソ工程、エッチング工程等の加工プロセスを繰り返して、ドレイン配線及びソース電極、層間絶縁膜等が形成され、a-SiTFTを得ることができる。なお、上記のようなa-SiTFTを得るには、各種プロセス処理のためのプロセス処理部11をそれぞれ横並びにして、連続して塗工基材付ポリイミドフィルム10を処理するようにしてもよく、或いは、一旦巻き取られたポリイミドフィルムを再度ロール・ツー・ロール方式により繰り出して、プロセス処理を
いくつかの工程に分けて行うようにしてもよい。
【0065】
(有機EL表示装置の製造)
例えば、ボトムエミッション構造を有する有機EL表示装置を得るには、先ず、塗工基材付ポリイミドフィルム10のポリイミド層2側に対して、上述した方法と同様にしてガスバリア層を設けて、水分や酸素の透湿を阻止する構造にする。次に、ガスバリア層の上面には、やはり上述した薄膜トランジスタ(TFT)を含む回路構成層を形成する。この場合、薄膜トランジスタとしてLTPS-TFTが主に選択される。この回路構成層3には、その上面にマトリックス状に配置された画素領域のそれぞれに対して、例えばITOの透明導電膜からなるアノード電極を形成して構成する。更に、アノード電極の上面には有機EL発光層を形成し、この発光層の上面にはカソード電極を形成する。このカソード電極は各画素領域に共通に形成される。そして、このカソード電極の面を被うようにして、再度ガスバリア層を形成し、更に最表面には、表面保護のため封止基板を設置する。この封止基板のカソード電極側の面にも水分や酸素の透湿を阻止するガスバリア層を積層しておくのが望ましい。
【0066】
このように、有機EL表示装置では、上記順序で塗工基材付ポリイミドフィルム10のポリイミド層2に対して、各種薄膜を成膜し、最後に封止基板で封止するのが一般的である。なお、有機EL発光層は、正孔注入層-正孔輸送層-発光層-電子輸送層等の多層膜(アノード電極-発光層-カソード電極)で形成されるが、特に、有機EL発光層は水分や酸素により劣化するため真空蒸着で形成され、電極形成も含めて真空中で連続形成されるのが一般的である。
【0067】
(有機EL照明装置の製造)
有機EL照明装置を得るにあたり、その機能層については、上述した有機EL表示装置におけるTFT層を除いたボトムエミッション構造が一般的である。ここで、アノード電極は一般にITO等の透明電極が用いられ、電極抵抗は高温処理をするほど低抵抗となる。上記でも述べたように、ITOの場合、200~300℃程度の熱処理が一般的である。なお、有機EL照明装置は大形化の方向にあり、ITO電極では抵抗値が不十分になりつつあり、様々な代替電極材料が探索されている。その場合、アニール処理の温度が200~300℃よりも更に高温になる可能性が高いが、本発明のポリイミドフィルムであれば十分な耐熱性を有するため、様々な代替電極材料にも対応することができる。
【0068】
(その他機能層の製造)
上記の例以外にも、例えば、電子ペーパーやタッチパネルのほか、蒸着マスク、ファンアウトウェハーレベルパッケージ(FOWLP)用基板等を得るために必要な各種機能層を塗工基材付ポリイミドフィルム10上に形成し、その後にポリイミド層2と塗工基材との界面を利用して塗工基材を分離して取り除き、薄肉化した積層部材とすれば、従来の物よりも薄型、軽量化を図ることができる。
【実施例
【0069】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0070】
ポリイミドを合成する際のモノマーや溶媒の略語、及び、実施例中の各種物性の測定方法とその条件について以下に示す。
TFMD:2, 2'-ビス(トリフルオロメチル)-4, 4'-ジアミノビフェ二ル
PMDA:ピロメリット酸二無水物
DMA c:N, N-ジメチルアセトアミド
6FDA:2, 2'-ビス(3, 4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物
BPDA:3, 3', 4, 4' -ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
【0071】
(熱膨張係数:CTE)
3mm×15mmのサイズのポリイミドフィルムを、熱機械分析(TMA)装置にて5. 0gの荷重を加えながら一定の昇温速度(20℃/min)で30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、温度に対するポリイミドフィルムの伸び量から熱膨張係数(ppm/K)を測定した。
【0072】
(引張強度)
東洋精機製作所社製ストログラフR-1を用いて、フィルムを幅20mmの短冊状に切断したサンプルを10mm/分で破断するまで引っ張りその最大点荷重を断面積で割って引っ張り強度を求めた。
【0073】
(引き裂き強度)
東洋精機製作所社製軽荷重引き裂き試験器を用いてサンプルサイズ63.5×50(mm)、切り込み長さ12.5mmで測定を行った。
【0074】
(イミド化率)
フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出した。
【0075】
(外観検査)
熱処理後のポリイミドフィルムを目視で観察し、発泡の有無を確認した。直径30μm以上の発泡が無いものを良好(合格)とした。
【0076】
(塗布)
熱処理後のポリイミドフィルムについて、その厚みの面内ばらつきが1μm以下となるように調整したアプリケーターを用いた。
【0077】
(熱処理)
送風ファンを備えた強制対流式の熱風オーブンを用い、所定の温度に到達してから1時間後に熱処理を開始した。塗工基板上にポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液を塗布したポリイミドフィルム用材料を、最も熱風が強く当たる熱風オーブンの中央に位置させ、熱風の循環を妨げないようにステンレスワイヤで作成した台の上に設置し、設定温度が異なる複数の加熱炉によって熱処理を行った。この場合、加熱炉を通過する時間が加熱処理時間となり、ポリイミドフィルム用材料の位置における温度ばらつきは2℃であった。
【0078】
実施例1
(ポリイミドA)
窒素気流下で、200mlのセパラブルフラスコの中で撹拌しながらTFMB12.55gを溶剤DMAcに溶解させた。次いで、この溶液に6FDA17.45gを加えた。その後、溶液を室温で5時間撹拌を続けて重合反応を行い、一昼夜保持した。粘稠なポリアミド酸溶液が得られ、高重合度のポリアミド酸Aが生成されていることが確認された。上記で得られたポリアミド酸溶液を、厚さ0.5mmガラス板上にアプリケーターを用いて加熱処理後の膜厚が約25μmとなるように塗布し、窒素オーブン(酸素濃度5%以下)を用いて、130℃及び160℃でそれぞれ2分半の補助的加熱を行ったのち、180℃で1分間、220℃で1分間、280℃で1分間、320℃で1分間、360℃で1分間保持してガラス基板とポリイミドフィルムの積層体を得た。この積層体のガラス基板とポリイミドフィルムの界面にカッターを挿入し、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離し、ポリイミドフィルムAを得た。得られたポリイミドフィルムAについて、各種評価を行った結果を表2に示す。
【0079】
(ポリイミドB)
窒素気流下で、200mlのセパラブルフラスコの中で撹拌しながらTFMB17.01gを溶剤DMAcに溶解させた。次いで、この溶液にPMDA10.06gと6FDA2.93gを加えた。その後、溶液を室温で5時間撹拌を続けて重合反応を行い、一昼夜保持した。粘稠なポリアミド酸溶液が得られ、高重合度のポリアミド酸Bが生成されていることが確認された。ポリアミック酸Aと同様にフィルム化し、ポリイミドフィルムBを得た。得られたポリイミドフィルムBについて、各種評価を行った結果を表2に示す。
【0080】
実施例2~7
実施例1で用いたポリアミド酸A溶液およびポリイミド酸B溶液を実施例1と同様に厚さ0.5mmガラス板上に塗布した後、表1に示す各種の加熱処理条件にてポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの各種評価結果を表2に示す。
【0081】
比較例1、2
実施例1で用いたポリアミド酸A溶液を実施例1と同様に厚さ0.5mmガラス板上に塗布した後、表1に示す加熱処理条件にてポリイミドフィルムを得た。
比較例1の加熱処理条件で得られたポリイミドフィルムには多数の気泡がみられ、溶媒等の揮発成分が発泡していた。また、比較例2の加熱処理条件で得られたポリイミドフィルムはガラス基板から実施例1の方法では剥離することができず、いずれも物性評価が不能であった。
【0082】
比較例3
ポリアミド酸B溶液を用いて実施例1と同様に厚さ0.5mmガラス板上に塗布した後、表1に示す加熱処理条件にてポリイミドフィルムを得た。
比較例3の加熱処理条件で得られたポリイミドフィルムには比較例1同様多数の気泡がみられ、溶媒等の揮発成分が発泡していた。
【0083】
参考例
実施例1で用いたポリアミド酸B溶液を実施例1と同様に厚さ0.5mmガラス板上に塗布した後、従来よく知られているように、130℃から徐々に昇温し、最終的に360℃にて加熱処理し(加熱処理時間35分)、ポリイミドフィルムを得た。参考までに、得られたポリイミドフィルムの各種評価結果を、同様に表2に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【符号の説明】
【0086】
1 塗工基材
2 ポリイミド層
3 機能層
10 塗工基材付ポリイミドフィルム
11 プロセス処理部
図1
図2