IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-ホログラム複製方法及び装置 図1
  • 特許-ホログラム複製方法及び装置 図2a
  • 特許-ホログラム複製方法及び装置 図2b
  • 特許-ホログラム複製方法及び装置 図3
  • 特許-ホログラム複製方法及び装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ホログラム複製方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G03H 1/20 20060101AFI20220107BHJP
   G02B 5/32 20060101ALI20220107BHJP
   G11B 7/0065 20060101ALI20220107BHJP
   G11B 7/24009 20130101ALI20220107BHJP
   G11B 7/26 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G03H1/20
G02B5/32
G11B7/0065
G11B7/24009
G11B7/26
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019524342
(86)(22)【出願日】2017-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 KR2017013660
(87)【国際公開番号】W WO2018101698
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2019-05-30
(31)【優先権主張番号】10-2016-0162150
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジェ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ソ、デ ハン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ミン スー
(72)【発明者】
【氏名】ハン、サン チョル
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-125475(JP,A)
【文献】特表2011-521274(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0214804(US,A1)
【文献】特開2010-131878(JP,A)
【文献】米国特許第04946258(US,A)
【文献】特表平09-509763(JP,A)
【文献】特開平04-153686(JP,A)
【文献】特開2010-117581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折光学素子であるマスターが表面に形成されたレーザー透過性のマスターロールを回転させ、そして感光材料をメインロールの表面に付着した状態で移送しながら実行される透過型ホログラフィック光学素子の複製方法であって、
前記複製方法は、マスターロールに向けてレーザーラインビームを照射するステップを含み、
前記照射されたレーザーラインビームがマスターロールの内部を経てマスターロールの表面のマスターを透過した後にメインロールに付着した感光材料に照射されるように実行される、透過型ホログラフィック光学素子の複製方法。
【請求項2】
前記レーザーラインビームがマスターを透過しながら発生した回折ビームと透過ビームとの干渉によりマスターの回折パターンが感光材料に複製され、前記複製は、マスターと感光材料が互いに対向する状態で行われるように実行される、請求項1に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製方法。
【請求項3】
前記マスターと前記感光材料が互いに接触する状態で複製が行われるように実行される、請求項2に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製方法。
【請求項4】
前記マスターは、前記マスターロールの周りの一部または全部に形成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製方法。
【請求項5】
光経路を変更することが可能であるチルト手段により、マスターに照射されるレーザーラインビームの入射角を調節することができる、請求項1から4のいずれか一項に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製方法。
【請求項6】
2以上のレーザーラインビームをマスターロールの表面に形成された2以上のマスターに各々照射する、請求項5に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製方法。
【請求項7】
ラミネーションロールを用いて感光材料をメインロールの表面に付着するステップをさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製方法。
【請求項8】
前記レーザーラインビームの線幅が2.5mm以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製方法。
【請求項9】
内部のある軸を中心として回転することができ、その表面に付着した感光材料を移送することができるメインロールと、
内部のある軸を中心として回転することができ、その表面に形成された回折光学素子であるマスターを移送することができるレーザー透過性のマスターロールと、
レーザーラインビームを照射することができる光学部と、を含み、
前記光学部は、レーザーラインビームがマスターロールの内部を経てマスターロールの表面のマスターを透過した後にメインロールに付着した感光材料に照射されるように、前記レーザーラインビームをマスターロールに向けて照射する、透過型ホログラフィック光学素子の複製装置。
【請求項10】
前記レーザーラインビームがマスターを透過しながら発生された回折ビームと透過ビームとの干渉によりマスターの回折パターンが感光材料に複製されるように、前記メインロールと前記マスターロールが配置及び回転される、請求項9に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製装置。
【請求項11】
前記マスターと前記感光材料が互いに接触する状態で複製が行われるように設けられる、請求項9または10に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製装置。
【請求項12】
マスターに照射されるレーザーラインビームの入射角を調節することができるチルト手段をさらに含む、請求項9から11のいずれか一項に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製装置。
【請求項13】
前記光学部は、2以上の光学部を含み、前記2以上の光学部は、マスターロールの表面に形成された2以上のマスターにレーザーラインビームをそれぞれ照射する、請求項12に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製装置。
【請求項14】
感光材料をメインロールの表面に付着するように設けられたラミネーションロールをさらに含む、請求項9から13のいずれか一項に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製装置。
【請求項15】
前記光学部は、線幅が2.5mm以下であるレーザーラインビームを照射する、請求項9から14のいずれか一項に記載の透過型ホログラフィック光学素子の複製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は、2016年11月30日に出願された大韓民国特許出願第10-2016-0162150号に基づく優先権の利益を主張し、該当大韓民国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
技術分野
本出願は、ホログラム光学素子を複製する方法及び前記複製方法に用いられる装置に関する。
【背景技術】
【0003】
ホログラフィック光学素子は、物体から反射または回折された光である物体波(object wave)を、その光と干渉性のある他の波である基準波(reference wave)と干渉させて感光材料に干渉パターンを記録した光学素子を指称する。干渉パターンが記録された感光材料は、反射や屈折の代わりに回折を用いて映像情報を再生するため、このような感光材料は回折光学素子(diffraction optical elements、DOEs)の一種類に分類されることもある。
【0004】
ホログラフィック光学素子は、上述したように物体波と基準波をそれぞれの感光材料に照射して製造してもよいが、通常はマスター(master)を製作し、これを複製する方式で製造している。例えば、図1のように、マスター11に所定の特性の光13を照射すると、回折せずにマスター11を透過した光13'とマスターを透過しながら回折された光14とが感光材料12に照射されてホログラフィック光学素子を複製する方式を用いることができる。しかし、このような方法は、一枚ずつ複製するため、大量生産に適合ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願の一つの目的は、透過型ホログラフィック光学素子を複製する方法及びそれに用いられる装置を提供することである。
【0006】
本出願の他の目的は、複製生産性に優れた透過型ホログラフィック光学素子の複製方法及びそれに用いられる装置を提供することである。
【0007】
本出願の上記目的及びその他の目的は、下記に詳しく説明する本出願によって全て達成できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本出願の一例による方法及び装置を添付の図面を参照して詳しく説明する。説明の便宜のために、図示された各構成のサイズや形状は誇張されるか縮小できる。また、添付の図面に表示された光路は、例示的なものに過ぎず、本出願の保護範囲を制限しない。
【0009】
本出願に関する一つの例示で、本出願は、回折光学素子の一種であるホログラフィック光学素子(HOE:holographic optical elements)を複製する方法に関する。
【0010】
本出願において、複製対象であるホログラフィック光学素子は、マスターとも呼ばれる。前記マスターは、図1に示したように、入射光の一部をそのまま透過させ、その入射光の残り一部は特定の角度で回折させることができるように、所定の回折または干渉パターン、すなわち、ホログラム記録を有する素子11である。すなわち、所定のレーザーがマスターに入射される場合、マスターをそのまま透過したレーザーと回折されたレーザーとを生成できる。このとき、回折せずに透過された光は、透過ビームと呼ばれ、回折された光は、回折ビームとそれぞれ呼ばれることがある。
【0011】
上記の機能を実行することが可能であれば、マスター、すなわち、複製対象である回折光学素子の種類は、特に制限されない。例えば、前記回折光学素子は、透過型ホログラフィック光学素子であってもよく、より具体的には、ボリュームホログラムグレーティング(VHG:volume holographic grating)であってもよい。
【0012】
透過型ホログラム複製の場合、図1に示したように、感光材料よりもマスターに先にレーザーが照射された後、透過ビームと回折ビームが感光シートの同一の一面上に照射されなければならない。したがって、ロールツーロール(roll-to-roll)のような大量生産工程に適用するためには、ロールツーロールに用いられる複数のロール、マスター及び感光シートの工程上の位置関係と光経路に対する調節が必須である。このような点を考慮して、本出願の発明者らは、下記に説明される本出願の複製方法及び装置を発明するに至った。
【0013】
本出願の一例によると、マスターが表面に付着したマスターロール、前記マスターロールとは別に感光材料が表面に付着したメインロール、及び前記マスターロールに向けて照射されるレーザーラインビームを用いて、ホログラフィック光学素子が連続工程であるロールツーロール(roll-to-roll)方式により複製されることができる。下記に説明するように、本出願の場合、2個のロール、すなわち、被複製物と複製物がそれぞれその表面に形成されたマスターロールとメインロールを用い、2個のロールの間の接触領域(露光領域)が線形であるという点を考慮して、線形のレーザーラインビームを複製に使用する。
【0014】
本出願に関する例示において、本出願の方法を実行するために用いられる各部材は、下記のような構成または特性を有することができる。
【0015】
一つの例示において、マスターロールは、メインロールと接触または離隔された状態でロールツーロール工程に用いられるロール構成であって、その表面に形成されたマスターを通じてホログラム複製に必要なレーザーラインビームがメインロールに付着した感光材料に照射されるように配置される構成であってもよい。一つの例示において、前記マスターロールは、ある内部の軸を中心として回転可能である円柱状のシリンダーロールであってもよい。
【0016】
前記マスターロールは、レーザー透過性を有してもよい。本出願で用語「レーザー透過性」とは、例えば、380nm~800nmの範囲の波長のレーザーに対する透過率が、約55%以上、約65%以上、約75%以上、約85%以上、約95%以上であり、その上限は、約100%として100%未満である場合を意味することができる。前記透過率を満たす場合であれば、マスターロールを形成するための材料は、特に制限されない。一つの例示において、前記マスターロールは、BK7、石英(quartz)、透明ガラスまたは透明プラスチック材料を含んでもよい。
【0017】
前記透過性を有するマスターロールは、透過型ホログラム素子を複製することができる光経路を提供する。具体的に、マスターロールのある領域または表面に対して照射されるレーザーラインビームは、前記透過性マスターロールの内部を通過してマスターロール表面のマスターを透過し、互いに干渉可能な二つのレーザーに分離された後、感光材料に照射されることができ、それによって、透過型ホログラム素子が複製されることができる。
【0018】
前記マスターロールの表面には、その周りの一部または周りの全部にわたって回折または干渉パターンを有するマスターが形成されていてもよい。これと関連して、周りの全部にわたってマスターが形成されているとは、例えば、円(circle)のように、所定の長さのマスターがマスターロールの表面(円柱の周面)上で一端と他端が触れ合って閉曲線を形成する場合を意味することができる。これとは異なり、マスターロールの周りの一部にわたってマスターが形成されているとは、所定の長さのマスターがマスターロールの表面上で閉曲線を形成せず、一部にのみ存在することを意味することができる。前記マスターは、マスターロール表面で複数個が存在することができる。マスターのサイズやマスターが有するパターンの形状または形態は、感光材料に複製したいパターンのサイズや形状などによって適切に調節できるもので、特に制限されない。
【0019】
一つの例示において、前記マスターの屈折率は、1超過~2以下の値を有してもよいが、特に制限されるものではない。
【0020】
一つの例示において、前記メインロールは、円柱状のシリンダーであってもよく、その表面(円柱の周面)に付着した感光材料がラインビームに露光されるように内部のある軸を中心として回転しながら感光材料を移送する構成であってもよい。工程上の便宜のため、前記感光材料は、フィルムまたはシート状であってもよい。このとき、前記メインロールは、感光材料との付着のために滑らかな表面を有してもよい。
【0021】
前記メインロールは、感光材料を通過したレーザーがメインロールで反射されて更に感光材料に露光されることを防止するために、反射率の低い黒色系列の色相を有してもよい。すなわち、メインロールは、光吸収性を有していてもよい。例えば、前記メインロールは、照射される光に対する反射率が10%以下である構成であってもよい。反射率の下限は、約0%であってもよい。黒色系列の色相を具現することが可能であれば、前記メインロールを形成する材料、より具体的には、感光材料と接するメインロールの表面を形成する材料の種類は、特に制限されない。一つの例示において、前記メインロールは、テフロン(登録商標)材質を含んでもよい。
【0022】
メインロールに付着する感光材料は、上述したように、マスターを透過した2個のビームに露光されながら光学的な情報が記録されることができる材料である。ホログラムに関する分野においては、透過型ホログラフィック光学素子の複製に用いられる多様な種類の感光材料は公知であり、このような材料を制限することなく本出願でも用いることができる。例えば、前記感光材料としては、フォトポリマー(photopolymer)、フォトレジスト(photoresist)、ハロゲン化銀乳剤(silver halide emulsion)、重クロム酸ゼラチン(dichromated gelatin)、写真乳剤(photographic emulsion)、フォトサーモプラスチック(photothermoplastic)または光回折(photorefractive)材料などが用いられる。一つの例示において、感光材料としては、フォトポリマーが用いられてもよい。より具体的に、感光材料は、フォトポリマーのみで構成されたフィルムであってもよく、またはフォトポリマーで構成された感光層(photopolymer layer)及び前記層に対する基材(substrate)を共に含む重層構造を有してもよい。このような感光材料は、フィルム形状を有し、メインロールの表面に付着した状態で本出願の複製方法に提供されてもよい。この場合、フォトポリマーと共に用いられる基材は、光学的に透明であると共に異方性のないフィルムであってもよく、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)またはポリエチレンテレフタレート(PET)などを含む基材であってもよいが、特に制限されない。場合によっては、感光層のフォトポリマーを保護するため、保護フィルムがさらに積層されてもよい。一つの例示において、感光材料に用いられる感光層の厚さは、3~30μmの範囲であってもよく、前記基材の厚さは、20~200μmの範囲であってもよいが、特に制限されるものではない。
【0023】
一つの例示において、前記感光材料の屈折率は、1超過~2以下の値を有してもよいが、特に制限されるものではない。
【0024】
透過型ホログラム素子の製造時、マスターに先に光が照射されなければならないので、従来技術では、一つの光透過性(透明)シリンダーの表面にマスターと感光材料を順に付着し、マスターと感光材料の付着面の反対側から光を照射する方式を考慮することもあった。シリンダーの曲率が大きい場合、マスターから感光材料に伝達する光の角度を調節しにくい問題がある。したがって、このような方法を用いる場合には、透明シリンダーの曲率を減らすため、製造コストの高い透明シリンダーを大きく製作する必要があった。しかし、本出願では、透過性であるマスターロールの外にも一つのロールをさらに用いるので、透過性であるマスターロールを大きく製造する必要なく、共に用いられるメインロールのサイズを増加させることで感光材料の曲率による問題を経済的に解決することができる。特に制限されないが、本出願では、前記マスターロールのサイズ(円の直径)がメインロールのサイズ(円の直径)よりも小さく形成されてもよい。
【0025】
前記レーザーラインビームは、感光材料を露光してマスターを複製するために用いられる。本出願において「ラインビーム」とは、ある平面にレーザーを照射するときに照射される領域が線形である場合、すなわち、入射平面上に線形の形態で照射されるレーザーを意味することができる。これと関連して、本出願において、レーザーラインビームを平面上に照射したときに線形である照射領域の長さ、すなわち、レーザーラインビームが有する線形の長さは線幅と呼ばれる。一つの例示において、図2の(a)に示したように、前記レーザーラインビームは、その線幅が、回転するメインロールやマスターロールの回転軸と平行になるように照射されてもよい。具体的に、所定の線幅を有する前記レーザーラインビームが照射される露光領域は、マスターロールとメインロール、またはマスターと感光材料との接触領域であってもよい。
【0026】
一般に、ホログラム記録工程には高価のレーザー装備が必要であり、露光中には微細な外部振動さえないように統制しなければならないので、大量生産が困難である。さらに、ホログラムを記録する感光材料の全面積に光を拡大して照射しようとする場合には、照射面積に相応する大面積の光学素子が必要であり、高出力レーザー装置がさらに必要な場合もあるので、コストが増加する問題がある。また、感光材料の全面積に光を照射できると言っても、現実的に限定されたレーザーパワーのため光の強度(intensity))が弱くなり、露光時間が増加してノイズの発生可能性が高くなると共に生産性も低下する問題がある。すなわち、通常のレーザーを使用する方式は、感光材料が移動しながら行われるロールツーロール工程には不適合である。しかし、マスターと感光材料をそれぞれマスターロールとメインロールの表面に付着し、回転するマスターロールとメインロールを通じてスキャニングするようにラインビームを照射する本出願によると、上記のような問題点を解決すると共にロールツーロール連続工程による大量複製が可能である。また、ホログラムが複製される時間の間には、複製に用いられる光がマスターに同一または均一な条件で照射されることが好ましいが、一般的なレーザーではマスターの全面積に均一な光を提供しにくい。特に、レーザーの露光が行われる間フィルムの移動が多いロールツーロール工程では、ホログラムの複製が一層容易ではない。しかし、ロールツーロール工程でラインビームを用いる場合には、マスターに入射するビームの条件が均一に維持されるので、感光材料が移動する間連続工程でホログラム複製が行われることができる。
【0027】
一つの例示において、前記ラインビームの線幅は、2.5mm以下であってもよい。例えば、前記線幅の下限は、200μm以上、400μm以上、600μm以上または800μm以上であってもよく、その上限は、2.0mm以下、1.8mm以下、1.5mm以下、1.2mm以下または1.0mm以下であってもよい。レーザーラインビームの線幅を上記範囲に調節することで、感光材料の移送過程で発生する平均アウト(average out)やそれによるホログラムの記録低下を予防することができる。
【0028】
前記ラインビームがマスターに入射する入射角は、マスターにホログラムを記録するために用いられた物体波及び基準波を考慮して決定できる。例えば、透過型ホログラフィックの回折光学素子をマスターで用いる場合、前記マスターにホログラムを記録するために用いられた物体波または基準波のうちいずれか一つと同一の角度(方向)にラインビームがマスターに入射されることができる。関連の技術分野における通常の知識を有した者であれば、マスターに対するラインビームの入射角を調節するためには、マスターロールの屈折率などを考慮して前記入射角を適切に調節する必要があると理解すべきである。
【0029】
前記レーザーの波長は、特に制限されず、複製されるホログラフィック光学素子の用途を考慮して選択することができる。例えば、前記レーザーラインビームは、ある一つの波長の単一レーザー、あるいは二つ以上の互いに異なる波長のレーザーを用いることができる。特に、フルカラー(full color)ホログラムの具現のためには、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)領域に該当する三つの波長のレーザーを組み合わせて用いることができる。ホログラフィック光学素子の製造分野において上記のようなレーザーの波長選択に関する事項は公知である。
【0030】
一つの例示において、前記レーザーは、連続波(CW:continuous wave)レーザーであってもよい。連続波レーザーは、パルスレーザー(pulse laser)に比べて安定した出力を有するので、感光材料の露光領域に光学特性が均一である干渉パターンを記録することができる。
【0031】
また一つの例示において、レーザーは、単一縦モード(single longitudinal mode)レーザーであってもよい。多重モードレーザーを用いる場合、マスターを通過した光と回折した光の干渉性(coherency)が落ちることがあるためである。
【0032】
上記構成のマスターロール、メインロール及びラインビームを用いて実行される本出願の複製方法は、図2の(b)に示したように、パターンを有する(ホログラムが記録された)マスターが表面に形成されたレーザー透過性のマスターロールを回転させ、そして感光材料をメインロールの表面に付着した状態で移送すると共に、マスターロールに向けてレーザーラインビームを照射して実行することができる。このとき、前記レーザーラインビームは、透過性であるマスターロールの内部を経てマスターロール表面のマスターを透過した後に感光材料に照射されることができる。
【0033】
本出願の複製方法は、照射されたレーザーラインビームがマスターロールのある周面、マスターロールの内部、マスター及び感光材料を順に透過するように実行される。このためには、前記マスターロールの表面に存在するマスターと前記メインロールに付着した感光材料とが互いに対向する必要があるので、本出願の方法では、レーザーラインビームが上記のような経路を有するように前記マスターロールとメインロールが配置及び駆動(回転)されることができる。例えば、マスターと感光材料のサイズなどを考慮してマスターロールとメインロールとの離隔距離を調節してもよく、その他諸般事情を考慮して各ロールの回転速度を調節してもよい。それによって、前記レーザーラインビームがマスターを透過しながら発生した回折ビームと透過ビームとの干渉によりマスターの回折パターンが感光材料に複製されることができる。
【0034】
具体的に、互いに異なるロールで回転または移送されるマスターと感光材料とが互いに対向し、ラインビームが上記のような経路を有することができる場合、マスターと感光材料のいずれか一部の領域では、図1に示したような方式でマスターに記録されたホログラムが感光材料に複製されることができる。上述したように、マスターに照射される光は、前記マスターに既に記録されたホログラムを記録するために用いられた物体波または基準波のうちいずれか一つの光であってもよく、前記照射された光がマスターを透過しながら同一のホログラムを感光材料に記録することができる。例えば、図1に示したように、透過型ホログラフィック光学素子であるマスター11を用いて感光材料にホログラム記録を複製する場合、マスター11にホログラムを記録するために用いられた基準波と同一の波長及び入射角を有するレーザーを前記回折光学素子に照射することができる。このような場合、マスター11は、照射されたレーザーの一部を回折して、回折されたレーザー14(回折ビーム)を生成する。この場合、前記回折されたレーザー14は、前記ホログラフィック光学素子11を記録するために用いられた物体波と同一の波長及び入射角を有することができる。また、前記照射されたレーザー13の一部13'は、前記透過型ホログラフィック光学素子をそのまま透過する。このような方式で感光材料12にホログラムを記録、すなわち、マスターを複製することができる。複製された感光材料は、マスターと同様に回折光学素子であり、一つの光から物体波と基準波を出射することができる一種のビームスプリッター(beam splitter)として機能することができる。
【0035】
本出願の一例によると、前記方法は、マスターと感光材料が物理的に互いに接触する状態で前記複製が行われるように実行することができる。マスターと感光材料を接触させた状態で複製が行われる場合、マスターまたは感光材料と空気との界面から所望しない反射が起きて複製された製品の回折効率が低下することを防止することができる。
【0036】
本出願の方法は、ラミネーションロールを用いて前記感光材料をメインロールに付着するステップをさらに含んでもよい。前記ステップは、例えば、ラミネーションロールをメインロールと所定間隔で離隔して配置するが、他の経路を通じてメインロール上に供給される感光材料を、ラミネーションロールがメインロール側に加圧しながら行われることができる。この場合、メインロールと接する感光材料の一面は、粘着剤などを通じて粘着性を有してもよい。
【0037】
一つの例示において、前記ラミネーションロールは、感光材料がメインロールに容易に付着するように加温することができる。感光材料の変形が発生しないと共に露光後に感光材料がメインロールから容易に剥離できる温度であれば、ラミネーションロールに対する加温範囲は、特に制限されず、感光材料の種類によって適切に調節することができる。例えば、35℃~100℃であってもよい。
【0038】
一つの例示において、本出願の方法は、メインロールの回転方向、すなわち、進行方向(MD:Machine Direction)や、それに対する垂直方向(TD:Transverse Direction)にレーザーラインビームをチルト(tiliting)しながらレーザーラインビームを照射し、これによって、マスターに照射されるレーザーラインビームの入射角を調節することができる。前記入射角は、例えば、マスター入射面の法線を基準として測定される角度であってもよい。上記のように入射角を調節する場合、異なる光学機能を実行する多様な透過型ホログラム素子を複製することができる。レーザーラインビームをチルトする手段(図示せず)としては、例えば、角度調節が可能である反射鏡などを用いてもよい。
【0039】
一つの例示において、本出願の方法は、2以上のラインビームと2以上のマスターを用いて実行することができる。例えば、図3に示したように、マスターロールの回転軸方向でマスターロールの表面に2個のマスター23'、23''を付着し、2個のレーザーラインビーム26'、26''をそれぞれのマスターに照射することで、一工程で同時に2個のホログラムを記録することができる。この場合、各ラインビームがマスターに照射される角度は、同一であるかまたは異なっていてもよく、感光材料は、前記2以上のマスターが存在する位置に所定の露光領域を確保するように一つまたは2以上の個数でメインロール上に存在してもよい。各ラインビームが照射される角度は、反射鏡のようなチルト手段により調節することができる。角度の調節時にマスターロールの屈折率も考慮することが可能であることは、当業者において自明である。用いられるマスターと、前記マスターに照射されるレーザーラインビームの角度によって光学特性の異なる2個以上のホログラムが複製できる。
【0040】
また一つの例示において、前記ラインビームは、円柱状マスターロールの円形部に向けて照射されることができる。この場合、マスター入射面の法線に対するレーザーラインビームの入射角を非常に大きく調節することができる。例えば、図3に示したように、シリンダー型マスターロールの周面21''を通じて入射された第1レーザーラインビーム26''がマスターロールの界面で屈折された後、マスター23''に入射される角度θは大きくない一方、シリンダー型マスターロールの円形部21'側を通じて入射されてマスターの周面に付着したマスター23'に進行する第2レーザーラインビーム26'は、相対的に非常に大きい角度θで入射されることができる。すなわち、シリンダーの屈折率が1超過~1.5以下である場合、マスターロールの周面を通じて入射するレーザーラインビームは、その入射角度θが42°以上である場合のように大きい入射角を有することができず、マスターロールの円形部を通じて入射するレーザーラインビームは、その角度θが42°以上である場合のように大きい入射角を有することができる。言い換えると、マスターロールの円形部にレーザーラインビームを照射する場合には、マスターに対して大きい入射角の角度でラインビームが照射される必要がある所定の製品を製造するために用いることができる。例えば、外部から入射面の法線に対して0゜の角度で、すなわち、入射面に垂直で入射する光を隣接する空気層または低屈折物質との界面で常に全反射する光で回折させることができる屈折率1.5程度の素子を複製するためには、全反射が可能である大きい角度の入射角でマスターに入射させる必要があるが、上述の方法をこのような素子複製に用いることができる。
【0041】
本出願に関する他の一例において、本出願は、前記複製方法を実行するための複製装置に関する。図2に示したように、本出願の複製装置は、マスターロール21、メインロール22、レーザーラインビーム26を照射することができる光学部(図示せず)を含んでもよい。複製装置に用いられるマスターロール、メインロール及びラインビームの構成や特性に関する説明は、上述の内容と同一である。
【0042】
上述のように、メインロール22の表面には、感光材料24が付着してもよい。そして、上述のように、レーザー透過性のマスターロール21の表面には、マスター23が形成されてもよい。回転するメインロールは、感光材料がマスターと対向し、マスターを透過したレーザーが感光材料に照射されるように感光材料を移送することができる。一つの例示において、上述のように、感光材料とマスターが互いに接触する状態で、マスターを透過したレーザーが感光材料に照射されてもよい。
【0043】
上述した方法を実行することが可能であれば、前記マスターロールとメインロールのサイズ、すなわち、それぞれのロールが有する円の直径は、特に制限されない。例えば、透過性マスターロールの直径の上限は、20cm以下であってもよい。特に、上述のように、本出願では、2個のロールを用い、ロールの使用による曲率の問題は、メインロールのサイズを相対的に大きく増加させることで解決することができるので、生産コストが高い透過性ロールのサイズは相対的に減らすことができる。具体的に、前記マスターロールの直径は、15cm以下、10cm以下、9cm以下、8cm以下、7cm以下、6cm以下または5cm以下であってもよい。下限の場合には、特に制限されず、マスターのサイズなどを考慮して、例えば、1cm以上または2cm以上であってもよい。メインロールの場合、上記直径を有するマスターロールよりも大きく製作され、マスターロールよりも小さい曲率を有してもよい。例えば、メインロールは、10cm以上、20cm以上または30cm以上の直径を有してもよい。
【0044】
本出願で、前記ロールの駆動速度は、特に制限されず、光学素子の複製生産性や複製過程でのノイズの発生可能性などを考慮して調節することができる。一つの例示において、前記ロールの駆動(回転)速度は、メインロールの表面に付着した感光材料が0.1m/分~5m/分の速度範囲で移送するように調節することができる。前記速度調節時に、各ロールの直径も共に考慮できる。
【0045】
光学部は、上述のレーザーラインビームを提供する構成である。例えば、前記光学部は、円形のビームを、例えば、ラインビーム生成レンズ(アレイ)のような所定の装置(optics)を用いてライン形態のビームで提供する構成であってもよい。前記レンズアレイは、THORLABS社製のPL0130、PL0145、PL0160またはPL0175のような、いわゆるレーザーラインジェネレーターレンズ(laser line generator lense)を含んでもよい。前記レーザーアレイを通過しながら形成されたラインビームは、ラインビームが照射される領域でほとんど同一である均一な強度(intensity)有しながら照射されてもよい。一つの例示において、前記光学部は、複製しようとするHOEのサイズに合わせて前記ラインビームの線幅(長さ)を所定の範囲内に調節するように設けられてもよい。
【0046】
一つの例示において、前記光学部は、マスターに照射されるレーザーラインビームの入射角度を調節することができるチルト(tiliting)手段を備えてもよい。前記チルト手段としては、例えば、反射鏡を用いることができる。
【0047】
一つの例示において、前記光学部は、複数のレーザーラインビームを照射することができる。具体的に、前記光学部は、複数の下位光学部、例えば、第1光学部、第2光学部または第3光学部などを含んでもよい。前記光学部は、入射角が互いに同一であるかまたは異なる2以上のレーザーラインビームを複数のマスターにそれぞれ提供することができる。このような構成により、上述のように、2個以上のホログラムを一つの工程で同時に複製することが可能になる。
【0048】
一つの例示において、本出願の装置は、メインロールに感光材料を付着するためにラミネーションロールをさらに含んでもよい。ラミネーションロールを本出願の装置と共に使用する方法は、上述した内容と同一であり、当業者によって適切に実行可能である。
【発明の効果】
【0049】
本出願によると、波長選択性に優れたホログラフィックフィルムを大量生産することが可能である透過型ホログラフィック光学素子の複製方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】透過型ホログラムの複製過程を概略的に示した図である。
図2】本出願の一例による透過型ホログラムの複製方法及びそれに用いられる装置を概略的に示した図である。
図3】本出願の一例によるレーザーラインビームの照射方式を概略的に示した図である。
図4】本出願の実施例における、ラインビームの線幅を異ならせる場合に観察される回折効果の差を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、実施例を通じて本出願を詳しく説明する。しかし、本出願の保護範囲が下記に説明される実施例によって制限されるものではない。
【0052】
ホログラフィック素子の複製
<実験例1>
図2に示したように、表面に所定の光学特性を有する回折光学素子であるマスター23が形成されており、レーザー透過性のマスターロール21と、感光材料24を表面に付着した状態で移送する黒色系列のメインロール22を用いて透過型ホログラフィック光学素子を製造した。
【0053】
具体的に、約50℃に加熱されたラミネーションロール(図示せず)により感光材料24をメインロール22の表面に付着した後、マスターロール21に形成されたマスター23と対向するように感光材料を移送した。このとき、感光材料24は、メインロール22により約1.5m/minの速度で移送された。一方、マスター23は、直径が10cmであるマスターロール21の表面上に形成した。マスターと感光材料が対向しながら接触する状態でレーザーラインビーム26を照射し、前記ラインビームがマスターロール21とマスター23を順に透過して感光材料24とマスター23とが接触した露光領域25に照射されるようにした。照射されたレーザーラインビームは、連続光レーザーであり、単一縦モードであり、その波長は532nmであり、線幅は約1mmである。
【0054】
<実験例2>
用いたレーザーラインビームの線幅が3mmであること以外は、実験例1と同一の方法で本出願の方法を実行した。
【0055】
複製されたホログラフィック光学素子の評価
各実施例で製造した透過型ホログラムの回折効率を図4に示した。図4の横軸は、ホログラムが記録された感光材料に入射された入射光の入射角度(degree、゜)であり、縦軸は、入射された光に対する回折された光の回折効率(%)を示す。回折効率は、下記式によって計算した。
【0056】
[式]
回折効率=回折光の強度/(回折光の強度+透過光の強度)
【0057】
図4に示したように、線幅が1mmであるラインビームを用いた実験例1の場合、実験例2よりも回折効率が一層大きく、よりシャープなピークを示した。
【符号の説明】
【0058】
11:マスター
12:感光材料
13:マスターに照射されたレーザー
13':マスターを通過したレーザー(透過ビーム)
14:回折されたレーザー(回折ビーム)
21、21'、21'':マスターロール
22:メインロール
23、23'、23'':マスター
24:感光材料
25:露光領域
26、26'、26'':レーザーラインビーム
図1
図2a
図2b
図3
図4