(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】非鉄金属の電解精錬方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20220214BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20220214BHJP
C25C 1/08 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
C25C7/02 302K
C25C1/12
C25C7/02 302F
C25C7/02 302B
C25C1/08
(21)【出願番号】P 2017244781
(22)【出願日】2017-12-21
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2017142053
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 大地
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
(72)【発明者】
【氏名】栗本 広大
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-048141(JP,A)
【文献】特開平01-319695(JP,A)
【文献】米国特許第04186074(US,A)
【文献】特開2001-152400(JP,A)
【文献】特開平10-265990(JP,A)
【文献】特開2000-345380(JP,A)
【文献】中国実用新案第204151427(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00-7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカソードビームを研磨して、該複数のカソードビームの表面を平滑化する研磨工程
と、
前記研磨工程後に、前記複数のカソードビームの一部または全部を選んで、その電気的接続部の表面粗さ(Ra)を測定し、前記複数のカソードビームを、前記表面粗さ(Ra)が大きいロットと小さいロットに選別して、該表面粗さ(Ra)の小さいロットに属する前記複数のカソードビームを電解槽に設置して通電する工程とを備え、
前記研磨工程において、前記複数のカソードビームのそれぞれを長軸方向に研磨する処理と、前記複数のカソードビームのそれぞれを短軸方向に研磨する処理とを行う
ことを特徴とする、非鉄金属の電解精錬方法。
【請求項2】
前記表面粗さ(Ra)の小さいロットとして、前記表面粗さ(Ra)が5.0μm以下であるカソードビームを選別する、請求項
1に記載の非鉄金属の電解精錬方法。
【請求項3】
前記表面粗さ(Ra)が5.0μmを超えるカソードビームを、前記研磨工程に再度供する、請求項
1または2に記載の非鉄金属の電解精錬方法。
【請求項4】
複数のカソードビームを研磨して、該複数のカソードビームの表面を平滑化する研磨工程
と、
前記研磨工程後に、前記複数のカソードビームの一部または全部を選んで、その電気的接続部の表面粗さ(Ra)を測定し、前記複数のカソードビームが属するロットを、前記表面粗さ(Ra)の標準偏差が大きいロットと小さいロットに選別して、該表面粗さ(Ra)の標準偏差が小さいロットに属する前記複数のカソードビームを電解槽に設置して通電する工程とを備え、
前記研磨工程において、前記複数のカソードビームのそれぞれを長軸方向に研磨する処理と、前記複数のカソードビームのそれぞれを短軸方向に研磨する処理とを行う
ことを特徴とする、非鉄金属の電解精錬方法。
【請求項5】
前記表面粗さ(Ra)の標準偏差が小さいロットとして、前記表面粗さ(Ra)の標準偏差が2.5μm以下であるロットを選別する、請求項
4に記載の非鉄金属の電解精錬方法。
【請求項6】
前記表面粗さ(Ra)の標準偏差が2.5μmを超えるロットに属する前記複数のカソードビームを、前記研磨工程に再度供する、請求項
4または5に記載の非鉄金属の電解精錬方法。
【請求項7】
複数のカソードビームを研磨して、該複数のカソードビームの表面を平滑化する研磨工程と、
該複数のカソードビームのそれぞれの重量により層別して、該重量により層別されたロットごとに、前記複数のカソードビームを電解槽に設置して通電する工程とを備え
、
前記研磨工程において、前記複数のカソードビームのそれぞれを長軸方向に研磨する処理と、前記複数のカソードビームのそれぞれを短軸方向に研磨する処理とを行い、
前記重量による層別を、前記重量により層別されたロットに属する前記複数のカソードビームの平均単重(Ave)と単重標準偏差(σ)の関係が、σ/Ave=0.1未満となるように行うことを特徴とする、非鉄金属の電解精錬方法。
【請求項8】
前記複数のカソードビームとして、鉄芯と、該鉄芯の表面に設けられた銅被覆層とからなるカソードビームを用いる、請求項1~
7のいずれかに記載の銅電解精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅やニッケルなどの非鉄金属の電解精錬方法、特に、電解液に浸漬させたアノードとカソードとの間に通電して、電解液に溶解している銅やニッケルなどの目的金属をカソード表面上に電着させる、非鉄金属の電解精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅(Cu)やニッケル(Ni)などの非鉄金属の製錬方法として、非鉄金属の電解精錬が広く知られている。非鉄金属の電解精錬では、電解液に浸漬させたアノード(陽極板)とカソード(陰極板)との間に通電して、電解液に溶解している銅やニッケルなどの目的金属(製錬の対象となる金属)をカソード表面上に電着させることにより、高純度の目的金属を得ることが可能である。
【0003】
非鉄金属の電解精錬方法は、電解液中の目的金属をアノードから供給する電解精製方法と、電解液に目的金属を別途溶解させる電解採取方法とに分類される。これらのうち、目的金属をアノードから供給する電解精製方法では、アノードに精製前の目的金属からなる目的金属アノードが用いられるが、電解採取方法では、アノードに不溶性電極からなる不溶性アノードが用いられる。
【0004】
また、非鉄金属の電解精錬方法は、電着を終えた目的金属をカソードから剥ぎ取るパーマネントカソード法と、電着したカソードのまま製品とする種板電解法とに分類される。パーマネントカソード法では、電着前のカソードにはチタンやステンレスなどの母板が使用されるが、種板電解法では、パーマネントカソード法などで剥ぎ取った目的金属を矩形板状に加工した種板が使用される。
【0005】
たとえば、種板電解法を用いた銅の電解精製方法では、一般的に、粗銅製のアノードと、純銅製のカソードとを電解槽中に交互に吊り下げ、電解浴中で通電することにより行われる。
【0006】
カソードに使用する種板は、粗銅製のアノードと、ステンレスなどの母板であるカソードとを電解槽中に交互に吊り下げ、電解浴中で通電を行い、母板に目的金属(銅など)が薄く電着したところで、この電着物を母板から剥ぎ取って、矩形板状に加工したものである。この種板を電解精製用のカソードとするには、同様にして得た別の種板を裁断してループ状に形成したリボンを得て、このリボンを吊り手として種板の上部に取り付け、種板をカソードビーム(導電棹)に、リボンを介して吊り下げる。こうして製作したカソードは、電解槽の対向する両側壁上部にカソードビームを架け渡すことにより、カソードを構成する種板の矩形板状部分の下側大部分を電解槽内の電解液に浸漬させる。
【0007】
一方、アノードは、矩形板状の上側の両隅部にそれぞれ水平方向に突出する形状の耳部(支持部)を設けたもので、鋳造などにより製作される。耳部を電解槽の対向する両側壁上部により支持することで、アノードを構成する矩形板状部分の下側大部分を電解槽内の電解液に浸漬させる。
【0008】
パーマネントカソード法では、種板のかわりにチタンやステンレスなどの母板を用いてカソードを製作し、母板はリボンを介することなくカソードビームに溶接等により固定できる。カソードの浸漬方法、アノードの形状、アノードの浸漬方法などは種板電解法と同様である。
【0009】
ところで、一度に数多くのアノードおよびカソードに通電して、効率よく電解精錬を行うためには、一列に並べた複数の電解槽のそれぞれに複数の不溶性アノードあるいは目的金属アノードと、複数の母板あるいは種板とを交互に、かつ、互いに平行となるように配置して、同時に通電することが行われている。たとえば、銅の電解精製方法では、一列に並べた複数の電解槽のそれぞれに、並列接続された30枚のアノードと、並列接続された29枚のカソードとを、交互に、かつ、互いに平行に浸漬させて、さらに隣接する2つの電解槽間において、これら複数のアノードと複数のカソードとを直列に接続している。なお、カソードおよびアノードの具体的な設置数は、目的金属の電着量および電解槽の大きさなどに応じて任意に設定される。
【0010】
上述したような複数のカソードおよび複数のアノードの電気的接続を実現するために、電解槽上に導電体からなるブスバーが設置される。ブスバーは、通常、電解槽を構成する壁部のうち、互いに隣接する電解槽の間に位置する隔壁もしくは仕切り板の上端面に載置され、電解槽に沿ってその一端部から他端部にまで延在する長尺の導電性部材により構成される。
【0011】
たとえば、特開平10-245690号公報に記載されているように、電解槽の一方の側部に、この一方の側部側に位置する一方の電解槽内に装入されている、複数の第1電極板の支持部(たとえば、カソードを支持するカソードビームの端部)を電気的に接続させるとともに、電解槽の他方の側部に、この他方の側部側に位置する他方の電解槽内に装入されている、第1電極板とは反対極である、複数の第2電極板の支持部(たとえば、アノードの耳部)を電気的に接続させ、かつ、2つの電解槽の間に位置する隔壁上のブスバーを介して、一方の電解槽内の複数の第2電極板の支持部と他方の電解槽内の複数の第1の電極板の支持部とを電気的に接続させている。
【0012】
このような構成により、複数のカソードおよび複数のアノードに対して、一度に効率よく通電を行うことが可能になる。この通電により、複数のカソードの表面上に所定の厚さまで目的金属を電着させた後、電解槽内の電解液からカソードを引き上げて、電着した目的金属を回収し、再度電着前のカソードを電解槽に浸漬させて、通電することが繰り返される。
【0013】
たとえば、種板電解法では、電解液に浸漬されたアノードと種板のカソードとの間に通電して電解精錬を行った後、電着されたカソードを電解液から引き上げ、カソードビームを抜き取って、リボンの付いたままの状態で製品として出荷し、新たなリボンつき種板をカソードビームに吊り下げてカソードとして電解液内に浸漬させ、電解液を介してカソードとアノードとの間で通電する工程が繰り返される。
【0014】
一方、パーマネントカソード法では、電解液に浸漬されたアノードと種板のカソードとの間に通電して電解精錬を行った後、電着されたカソードを電解液から引き上げ、母板から目的金属である電着物を剥離して出荷し、母板をカソードビームで電解槽に支持することにより、電解液内に浸漬させ、電解液を介してカソードとアノードとの間で通電する工程が繰り返される。
【0015】
特開2000-345380号公報には、種板電解法やパーマネントカソード法を含む電解精錬で使用される、カソードビームとして、純銅の直方体型クロスバーにより構成されたカソードビームが記載されている。また、特開平01-319695号公報には鉄製の芯棒と、この芯棒の表面を覆う銅からなる被覆層により構成されたカソードビームが記載されている。このような芯棒と銅の被覆層とからなるカソードビームは、純銅のカソードビームに比べて、高い強度を確保でき、かつ、費用を低く抑えることができる。
【0016】
ところで、ブスバーを用いてカソードとアノードを電気的に接続させる構成では、ブスバーとアノードの耳部の電気的接続部(接点部)の接続状態、ブスバーとカソードビームとの電気的接続部(接点部)の接続状態が、電解精錬の効率に大きく影響する。しかしながら、電解精錬では、電解液に対して、カソードの引き上げと装入とが繰り返されるため、カソードには電解液が飛び散りやすく、このため、カソードビームの電気的接続部に、電気抵抗の大きな酸化物、硫酸塩、塩化物などの皮膜が形成されて、電力消費が大きくなる。
【0017】
さらに、皮膜の形成されるカソードビーム上の位置や皮膜の厚みは様々であり、皮膜が形成された電気的接続部では電流が減少するのに対して、皮膜が形成されていない電気的接続部では電流が増加し、各カソードとアノードとの間に流れる電流にばらつきが生ずることがある。
【0018】
このような電流のばらつきにより、局部的な電流集中が起こるので、電着物が樹枝状の形態となり、短絡が発生して、電流が空費される。また、電流が集中したカソードを挟む形で装入されているアノードの過度の損耗を招き、損耗したアノードのうちの、電解液面よりも下に位置して、電解液に浸漬している部分が、電解槽内に脱落したり、あるいは、損耗によりアノード中央部分から折損し、電解槽内に脱落したりする。アノードの一部の脱落は、脱落したアノードの一部が電解槽の底を突き破って電解液を流出させたり、周囲のカソードを押し動かして他のアノードに接触させることで短絡が発生したりする可能性があり、脱落有無の監視や脱落したアノードの一部を除去する手間がかかる。
【0019】
また、利用できるアノードの面積が槽内への落下により減少し、電流密度が上昇しているため、そのまま通電を継続すると、電圧の上昇が発生して、粒状電着など製品外観の悪化を招く可能性がある。
【0020】
このように、電解操業における限界電流量は、複数あるアノードのうち、電流分布によって電流が最も多く流れ、損耗の激しいアノード1枚によって決定されることになる。このことから、電流分布の不均一化によって、電流量が制限され、使用済みアノードが多く残ることになる。残ったアノードはアノードスクラップとして製錬工程(鋳造炉など)に繰り返されるので、輸送費や燃料費が増加してしまう。
【0021】
さらに、電気的接続部で電流が増加することによって、カソードビームが過熱されて変形することがある。カソードビームが変形することでも、その交換作業が必要になって、電解精錬の生産効率が低下することになる。
【0022】
このような皮膜形成に起因する問題を防ぐため、特開2000-345380号公報、および、特開2013-019018号公報では、カソードビームの表面を研磨する再生作業を行うことが提案されている。
【0023】
また、特開2009-019018号公報では、カソードビームの被覆層の厚みを狭い範囲で層別して、1つの電解槽へ装入することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】特開平10-245690号
【文献】特開平01-319695号公報
【文献】特開2000-345380号公報
【文献】特開2013-019018号公報
【文献】特開2009-019018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、特開2000-345380号公報、および、特開2013-019018号公報に開示された方法や装置では、皮膜の除去に要する研磨量が不明であり、研磨の過不足が生じる。その結果、カソードビームごとに電気抵抗が大きくばらつき、局部的な電流集中が生じてしまう。局部的な電流集中を防ぐには、電気抵抗の大きなカソードビームを特定する必要があり、特定したカソードビームについて皮膜の残留やカソードビームの減肉など相反する要因のいずれによって電気抵抗が高まっているのか判定する必要がある。
【0026】
また、特開2009-019018号公報に開示された方法では、研磨などに起因して、繰り返し使用されて減肉し、厚みに不均一化が生じたカソードビームのいずれの部分の厚みを測定することが望ましいかについて不明である。したがって、カソードビームの厚みを基準として選別を行おうとすると、カソードビームの数カ所の厚みを測定する必要が生じ、作業負荷が増大するという問題がある。
【0027】
本発明は、このような従来技術の有する問題に鑑みてなされたものであり、銅やニッケルの電解精錬方法に使用するカソードビームを処理して、カソードビームの接点部の電気抵抗の増大に起因する、電解槽内における電流分布の不均一化を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、カソードビームをさまざまな観点から調査し、電気抵抗のばらつきは、ブスバーとの電気的接続部の表面粗さの影響を大きく受けることを見出した。
【0029】
そして、カソードビームと研磨具との位置関係についても検討を行い、表面粗さを低減でき、かつ、電気抵抗とそのばらつきを低減できる研磨手段を見出した。
【0030】
また、カソードビームを層別するに際して、カソードビームの被覆層の厚さではなく、カソードビームの重量により層別することにより、より正確かつ簡易に、カソードビームを層別可能とし、もって、カソード電流分布の均一化を図ることができることを見出した。
【0031】
本発明は、これらの知見に基づいて、完成するに至ったものである。
【0032】
すなわち、本発明の一態様の非鉄金属の電解精錬方法は、繰り返し使用される複数のカソードビームを研磨して、該複数のカソードビームの表面を平滑化する研磨工程を備える。特に、本発明の非鉄金属の電解精錬方法は、前記研磨工程が、前記複数のカソードビームのそれぞれを長軸方向に研磨する処理と、前記複数のカソードビームのそれぞれを短軸方向に研磨する処理とを備えることを特徴としている。
【0033】
また、本発明の一態様の非鉄金属の電解精錬方法は、前記研磨工程後に、前記複数のカソードビームの一部または全部を選んで、その電気的接続部の表面粗さ(Ra)を測定し、前記複数のカソードビームを、前記表面粗さ(Ra)あるいは該表面粗さ(Ra)の平均値が大きいロットと小さいロットに選別して、該表面粗さ(Ra)あるいは該表面粗さ(Ra)の平均値の小さいロットに属する前記複数のカソードビームを電解槽に設置して通電する工程を備えることができる。
【0034】
この場合、前記表面粗さ(Ra)の小さいロットとして、前記複数のカソードビームのうち、前記表面粗さ(Ra)が5.0μm以下であるカソードビームを選別する、あるいは、前記表面粗さ(Ra)の平均値が5.0μm以下である前記複数のカードビームからなるロットを選別することが好ましい。
【0035】
一方、前記複数のカソードビームのうち、前記表面粗さ(Ra)が5.0μmを超えるカソードビーム、あるいは、前記表面粗さ(Ra)の平均値が5.0μmを超える前記複数のカソードビームからなるロットは、前記研磨工程に再度供されることが好ましい。
【0036】
代替的に、本発明の一態様の非鉄金属の電解精錬方法は、前記研磨工程後に、前記複数のカソードビームの一部または全部を選んで、その電気的接続部の表面粗さ(Ra)を測定し、前記複数のカソードビームが属するロットを、前記表面粗さ(Ra)の標準偏差が大きいロットと小さいロットに選別して、該表面粗さ(Ra)の標準偏差が小さいロットに属する前記複数のカソードビームを電解槽に設置して通電する工程を備えることができる。
【0037】
この場合、前記表面粗さ(Ra)の標準偏差が小さいロットとして、前記表面粗さ(Ra)の標準偏差が2.5μm以下であるロットを選別することが好ましい。
【0038】
一方、前記表面粗さ(Ra)の標準偏差が2.5μmを超えるロットに属する前記複数のカソードビームは、前記研磨工程に再度供されることが好ましい。
【0039】
本発明の別態様の非鉄金属の電解精錬方法は、繰り返し使用される複数のカソードビームを、該複数のカソードビームのそれぞれの重量により層別して、該重量により層別されたロットごとに、前記複数のカソードビームを電解槽に設置して通電する工程を備えることを特徴とする。
【0040】
前記重量による層別を、前記重量により層別されたロットに属する前記複数のカソードビームの平均単重(Ave)と単重標準偏差(σ)の関係が、σ/Ave=0.1未満となるように行うことが好ましい。
【0041】
なお、カソードビームの単重は、カソードビーム1本当たりの重量をいう。
【0042】
また、前記重量による層別を、本発明の一態様における前記研磨工程後に行うことが好ましい。
【0043】
本発明の何れの態様も、公知のカソードビームに広く適用可能であるが、鉄芯と、該鉄芯の表面に設けられた銅被覆層とからなるカソードビームを用いる銅電解精錬方法に好適に適用可能である。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、銅やニッケルなどの非鉄金属の電解精錬方法に使用されるカソードビームが適切に処理されて、同一槽に配置された電解精錬に用いる複数のカソードビームに分配される電流値の均一化が図られる。これにより、それぞれのカソードへの電着量およびそれぞれのカソードを挟むように配置されたアノードの重量変動の均一化が図られ、アノードスクラップを減少させることが可能となる。
【0045】
このように、本発明により、通電電流を適切に上昇させることが可能となり、非鉄金属の電解精錬方法における生産性の向上が顕著に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による、電解精錬プロセスを示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、種板電解法で使用されるカソードの模式図である。
【
図3】
図3は、パーマネントカソード法で使用されるカソードの模式図である。
【
図4】
図4は、カソードビームの研磨方向を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明者らは、カソードに流れる電流値と電解槽内のそれぞれのカソードに流れる電流を決定するそれぞれの抵抗値に関して、十分に検討した結果、それぞれのカソードビームの電気抵抗のばらつきが、電解槽内での電流分布の不均一化の主要因であるとの知見を得た。
【0048】
また、特に、カソードビームのブスバーとの接触抵抗のばらつきが、電解槽内における電流分布のばらつきに直結しており、かつ、この接触抵抗のばらつきは、それぞれのカソードビームのブスバーとの電気的接触部の表面粗さに影響されるとの知見を得た。
【0049】
本発明は、これらの知見に基づいて、完成したものである。
【0050】
本発明は、
図2または
図3に示す構造のカソードおよびカソードビームに好適に適用可能である。カソードは、たとえば、
図2に示すように、目的金属製の種板1に目的金属製のリボン2を介してカソードビーム3に着脱可能に取り付けることにより、あるいは、
図3に示すように、ステンレス製などの母板1を恒久的にカソードビーム3に取り付けることにより構成される。
【0051】
本発明の一態様は、繰り返し使用される複数のカソードビームを研磨して、該複数のカソードビームの表面を平滑化する研磨工程を備える、非鉄金属の電解精錬方法に関する。特に、本発明の第一の態様の非鉄金属の電解精錬方法は、前記研磨工程が、前記複数のカソードビームのそれぞれを長軸方向に研磨する処理と、前記複数のカソードビームのそれぞれを短軸方向に研磨する処理とを備えることを特徴としている。
【0052】
カソードビームを長軸方向に研磨する処理と、カソードビームを短軸方向に研磨する処理との両方を実施して、カソードビームの表面を角度の異なる方向から研磨することにより、研磨工具の形状による研磨漏れをなくすことができ、溝が少なく緻密な研磨面を形成することができる。カソードビームの研磨面に溝が形成された場合でも、カソードビームとブスバーとは、溝を挟む2畝で接触するだけでなく、溝を4方から囲む4畝以上で接触することになり、電気抵抗を低減することができる。なお、長軸方向と短軸方向のどちらを先に研磨しても差し支えない。
【0053】
本発明における研磨工程に用いられる研磨工具は、カソードビームの電気的接触部の表面粗さのばらつきを低減できる限り、制限されることはなく、任意の公知の研磨工具を用いることが可能である。一例として、スリーエムジャパン株式会社製、スコッチブライト(商標)工業用パット7440を挙げることができる。
【0054】
図1に示すように、必要かつ十分な程度にカソードビームの表面を研磨するために、研磨工程後のカソードビームの一部または全部を選んで、その電気的接続部の表面粗さを測定し、測定結果に基づいて電解槽での使用の可否を判断することが望ましい。電解槽での使用が望ましくないカソードビームは、再度研磨工程に供するか、あるいは、廃棄する。このようなカソードビームの選別により、電解槽内の電流分布の不均一化に影響する、抵抗値の高いカソードビームを効率的に除外することが可能となり、より均一で効率的な通電を図ることが可能となる。
【0055】
なお、表面粗さとしてはJIS B0031:2003に基づくRa値を用いることができ、粗さ測定器など公知の手段で測定することが可能である。
【0056】
より具体的には、表面粗さ(Ra)が5.0μm以下であるカソードビームが、表面粗さ(Ra)の小さいロットに選別のうえ電解槽で使用されることが好ましい。
【0057】
すなわち、同一の研磨方法で研磨したカソードビームは、表面粗さ(Ra)がほぼ同じとなり、表面粗さ(Ra)が同程度のカソードビームは、同一条件で用いると、同程度の電気抵抗値を示すためである。したがって、カソードビームを、表面粗さ(Ra)を基準に選別することで、選別後のそれぞれのロットに属するカソードビームの電気抵抗値をほぼ同じにすることができる。ロット分けされたカソードビームは、電解槽に設置した状態で、そのロットにおける複数のカソードビーム間において、抵抗値のばらつきが小さくなり、局部的な電流集中を避けることが可能となる。特に、表面粗さ(Ra)が小さいカソードビームは、電解槽に設置状態で抵抗値が小さいことから、消費電力も抑えることができる。このため、表面粗さ(Ra)が小さいカソードビームの属するロットを選んで、電解槽に設置し通電を行うことが好ましい。
【0058】
具体的には、過剰な研磨をせずに、電気抵抗を低く揃えるには、表面粗さ(Ra)が小さいロットには、表面粗さ(Ra)が5.0μm以下であるカソードビームを選別することが好ましい。なお、この場合の表面粗さ(Ra)は、好ましくは、4.5μm以下である。表面粗さ(Ra)の下限値は限定されることはないが、カソードビームの研磨に用いられる従来の研磨手段では、その下限値は3.0μm程度となる。
【0059】
なお、このカソードビームの表面粗さ(Ra)は、カソードビームごとに評価して、評価結果を用いて、特定のロットに振り分けるカソードビーム、再研磨するカソードビーム、廃棄するカソードビームなどを選別することが可能である。すなわち、全部のカソードビームの表面粗さ(Ra)を測定する場合には、表面粗さ(Ra)が5.0μm以下であるカソードビームを選別し、このようにして選別した複数のカソードビームにより、表面粗さ(Ra)が小さいロットを構成することができる。あるいは、ロットごとに評価して、評価結果を用いて、再研磨するロット、廃棄するロットなどを選別することも可能である。すなわち、たとえば、一部または全部のカソードビームを取り出して表面粗さ(Ra)を測定する場合には、表面粗さ(Ra)が5.0μm以下であるカソードビームが属するロットを、表面粗さ(Ra)の小さいロットとする。
【0060】
ロットごとに評価する場合には、測定したカソードビームの表面粗さ(Ra)の平均値を評価に用いることも可能である。この場合、表面粗さ(Ra)の小さいロットとして、表面粗さ(Ra)の平均値が5.0μm以下である複数のカードビームからなるロットを選別する。一方、表面粗さ(Ra)の平均値が5.0μmを超える複数のカソードビームからなるロットは、研磨工程に再度供されるか、表面粗さ(Ra)の程度によっては、廃棄される。
【0061】
表面粗さ(Ra)の平均値で評価する代わりに、あるいは表面粗さ(Ra)で評価するのに加えて、前記表面粗さ(Ra)の標準偏差(σ)を用いることができる。具体的には、表面粗さ(Ra)の標準偏差(σ)が小さいカソードビームが、表面粗さ(Ra)の標準偏差(σ)の小さいロットに選別のうえ電解槽で使用されることが好ましい。表面粗さ(Ra)の標準偏差(σ)が小さいカソードビーム群は、ほぼ同じ表面粗さ(Ra)を有するため、電解槽に設置して通電すると、ほぼ同じ電気抵抗値を示し、局部的な電流集中を避けることができる。このため、表面粗さ(Ra)の標準偏差(σ)が小さいカソードビームの属するロットを選んで、電解槽に設置し通電を行うことができる。
【0062】
具体的には、過剰な研磨をせずに電気抵抗のばらつきを抑えるには、表面粗さ(Ra)の標準偏差(σ)が小さいロットには、表面粗さ(Ra)の標準偏差(σ)が2.5μm以下であるロットを選別することが好ましい。なお、この場合の表面粗さ(Ra)の標準偏差(σ)は、好ましくは、1.5μm以下である。表面粗さ(Ra)の標準偏差(σ)の下限値は限定されることはないが、カソードビームの研磨に用いられる従来の研磨手段では、その下限値は0.5μm程度となる。
【0063】
なお、同様に、表面粗さ(Ra)の標準偏差(σ)が2.5μmを超えるロットに属する複数のカソードビームは、表面粗さ(Ra)に応じてロット分けし、表面粗さ(Ra)が特に大きなカソードビームは前記研磨工程に再度供されるか、その程度によっては、廃棄される。
【0064】
表面粗さ(Ra)の測定対象となるカソードビームは、複数のカソードビームの全部である必要はなく、その一部とすることができる。ただし、表面粗さ(Ra)を測定するカソードビームの本数は、統計的に母集団を代表していると考えられる程度にすることが推奨される。電解工程で局部的な電流集中を防ぐには、電気的に互いに並列な関係で使用するカソードビームは、電気抵抗が似通っていることが求められる。このため、1つの槽内で使用するカソードビームの本数では、電気抵抗の傾向が推定できる程度のサンプルを抜き出して測定するのが実用的であり、そのために必要なサンプルの個数をあらかじめ決めて測定することが望ましい。
【0065】
具体的には、5本以上、1つの槽内で使用するカソードビームの本数の半分以下をサンプルとすることが好ましい。なお、表面粗さ(Ra)の平均値や標準偏差(σ)を求める場合は、もとより複数本のサンプルが必要となるが、この場合も、1つのロット当たり、5本以上、1つのロット内のカソードビームの本数の半分以下をサンプルとすることが好ましい。
【0066】
本発明の非鉄金属の電解精錬方法の一態様は、カソードビームの構造により限定されることはない。通常、電解操業に用いられるカソードビーム、すなわち、本発明における研磨の対象となるカソードビームは、角形の横断面形状を有する。
【0067】
カソードビームとしては、従来と同様に、鉄芯と銅被覆層とにより構成された構造のカソードビームが好適に用いられるが、全体が銅製のカソードビームも用いることができる。なお、鉄芯と銅被覆層とにより構成された構造のカソードビームでは、鉄芯の横断面形状は、角形であっても円形であってもよい。
【0068】
本発明の銅電解精錬方法に用いるカソードビームとして、たとえば、外径が22.0mmφの鉄芯と、厚さが1mm以上10mm以下の銅被膜層とにより構成され、横断面の幅24.0mm、高さ42.0mmの長方形のカソードビームが好適に用いられる。なお、カソードビームの長さは、電解槽の構造により適宜決定される。また、横断面の幅および高さが26.0mmである鉄芯と、厚さ3.0mmの銅被覆層とにより構成され、32.0mmのカソードビームも好適に使用可能である。その他、任意の横断面が角型のカソードビームに対して、本発明は適用可能である。
【0069】
本発明の別態様の非鉄金属の電解精錬方法は、公知のカソードビームに広く適用されるが、特に、鉄芯と、該鉄芯の表面に設けられた銅被覆層とからなるカソードビームに好適に適用される。
【0070】
特に、本発明の別態様の非鉄金属の電解精錬方法では、同様に
図1に示すように、繰り返し使用される複数のカソードビームを、該複数のカソードビームのそれぞれの重量により層別して、該重量により層別されたロットごとに、前記複数のカソードビームを電解槽に設置して通電する工程を備えることを特徴とする。
【0071】
カソードビームは、電解操業中において、繰り返し使用される。この際、カソードビームの導電層である銅被膜層が徐々に摩耗し、銅被膜層の厚みが減少することになる。カソードビームの研磨は、基本的には、カソードビームに付着した皮膜を除去するために行われるため、直接的には銅被膜層の厚さに影響を与えることはないが、複数回(たとえば繰り返し使用されるごと)の研磨がなされると、当該研磨が銅被覆層の厚みに影響する場合もあり得る。
【0072】
いずれにせよ、このような銅被覆層の厚みの減少速度は、研磨工程によって、皮膜が除去された状態であっても、カソードビームごとによって異なってくる。このため、カソードビームごとに電気抵抗が異なることになり、このような電気抵抗のばらつきが大きい複数のカソードビームからなるロットを使用すると、1つの電解槽内の電流分布にばらつき、すなわち不均一化が生ずる。
【0073】
このような電流分布の不均一化を防止するためには、1つの電解槽に用いられるロットごとに、電気抵抗がなるべく同じ範囲にあるカソードビームを用いる必要がある。
【0074】
したがって、カソードビーム1本当たりの重量である単重を、それぞれのカソードビームについて測定し、カソードビームの重量による層別を行うことが好ましい。特に、それぞれのロットごとに、当該ロットに属する複数のカソードビームの平均単重(Ave)と単重標準偏差(σ)の関係が、σ/Ave=0.1未満となるように行うことが好ましい。
【0075】
このように単重を狭い範囲で層別したロットを、同一の電解槽にカソードビームとして装入することにより、電解槽内の電流分布を効果的に均一化することが可能となる。すなわち、このようなカソードビームの層別により、電解槽内の電流分布の不均一化に影響する、抵抗値の高いカソードビームを効率的に除外することが可能となる。副次効果として、電圧が低下して消費電力も抑えることもできる。
【0076】
1つのロットに属する複数のカソードビームの平均単重(Ave)と単重標準偏差(σ)の関係が、σ/Ave=0.1以上であると、電解槽内の電流分布を均一化する効果が十分に得られない。
【0077】
1つのロットのカソードビームの重量の範囲は、好ましくは、σ/Ave=0.02~0.05の範囲であり、より好ましくは、σ/Ave=0.02~0.03の範囲である。
【0078】
本発明の別態様における、カソードビームの層別は、基本的には、カソードビームの銅被膜層の厚さの減肉の影響を評価するものであり、この態様における重量によるカソードビームの層別を、本発明の一態様における前記研磨工程後に行うことが好ましい。
【0079】
本発明の2つの態様の非鉄金属の電解精錬方法は、このように、相互に齟齬がない限り、組み合わせて適用することが可能であり、1つのロットへのカソードビームの層別およびロットごとのカソードビームの評価を、上記に開示された複数の手段により行うことが可能であり、かつ、好ましい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により、本発明をさらに説明する。なお、実施例1、参考例1および2、並びに、比較例1はパーマネントカソード法を用いた銅電解精錬方法の一例に関し、実施例2および比較例2は種板電解法を用いた銅電解精錬方法の一例に関する。ただし、本発明は、この実施例に限定されることはなく、カソードビームを用いたさまざまなタイプの非鉄金属の電解精錬方法に適用可能である。
【0081】
(実施例1)
図3に示すように、パーマネントカソード(PC)法において用いられる陰極(カソード板)として、幅1100mm、高さ1100mm、厚さ3mmのステンレス板1を準備した。このステンレス板1の上部に、運搬用の切り欠きを設けた後、カソードビーム3に溶接した。
【0082】
カソードビーム3として、横断面が幅30mm×高さ20mmで厚み3mmのステンレス製角管(両端を封止したもの)と、この角管の外表面に厚さ2mmの銅被覆層(純銅:99.9%以上)を備えたものを用いた。
【0083】
ブスバーとしては、100mmピッチで、厚さ6mmの銅製のブスバー(長さ6000mm)を用いた。
【0084】
これらのカソード110枚について、銅の電解精製の電解操業を繰り返し行った。具体的には、カソードビーム110本を1ロットとして、カソードを110枚組み、電解槽2槽に装入し、電流40kAで6日間のカソードライフで通電し、電解操業を行った。一回の電解操業が終了すると、別のロットのカソードを電解槽に装入し、同様の電解操業を行った。それぞれのロットは、5回の電解操業に用いた。
【0085】
その後、カソードビームにおけるブスバーとの電気的接触部について、以下の道具で研磨を行い、表面粗さの均一を図った。
【0086】
メーカー:スリーエムジャパン株式会社
品名:スコッチブライト工業用パット7440
研磨方法は、
図4に示すように、カソードビームの長軸方向、および、短軸方向の両方に関して、順次行った。
【0087】
カソードビームを研磨後のカソード110枚を用いて、銅の電解精製に用いた。通電4日目におけるカソードに流れる電流、および、ブスバーとの接点部の電圧降下を測定した。
【0088】
(参考例1)
研磨工程において、カソードビームの長軸方向にのみ研磨したこと以外は、実施例1と同様に電解精製を行った。
【0089】
(参考例2)
研磨工程において、カソードビームの短軸方向にのみ研磨したこと以外は、実施例1と同様に電解精製を行った。
【0090】
(比較例1)
研磨工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に電解精製を行った。
【0091】
表1に、実施例1、参考例1および2、並びに、比較例1のカソードビームにおける電気的接触部の表面粗さ(Ra)の平均値と標準偏差(σ)を示す。なお、それぞれのサンプル数は20本で、表面粗さ(Ra)の測定はカソードビーム1本につき1箇所(電気的接触部の中央部)とした。
【0092】
【0093】
研磨を実施することで、表面粗さ(Ra)の平均値が減少した。また、標準偏差(σ)が低下し、表面粗さ(Ra)のばらつきが減少したということができる。実施例1は、参考例1および2よりも、標準偏差が十分に小さく、かつ、表面粗さの均一化に効果的であった。
【0094】
また、表2に、実施例1による、研磨したカソードビームを有するカソードと、比較例1による、未研磨のカソードとを、それぞれ電解精製に用いた場合の、カソードビームのブスバーとの接点部の電圧降下、接触抵抗の平均値と標準偏差を示す。なお、それぞれの測定基準は、カソードビーム110本である。
【0095】
【0096】
実施例1の方法で研磨することで、未研磨の比較例1との比較において、電圧降下および接触抵抗のいずれも、その平均値は十分に低減した。また、実施例1では、これらの標準偏差も比較例1に対して約70%減少した。
【0097】
さらに、カソードに流れる電流値の標準偏差の比較について、表3に示す。なお、それぞれの測定基準は、カソードビーム110本である。
【0098】
【0099】
実施例1における、上述したカソードビームとブスバーの接点部の接触抵抗のばらつきの減少に伴って、実施例1における電流値の標準偏差も、未研磨の比較例1に対して約30%減少したことが理解できる。
【0100】
以上の結果より、本発明による研磨を実施することで、電解精製方法における電解槽内の電流分布の均一化ができることが理解される。また、この電流分布の均一化は、本発明による研磨を実施することで、カソードビームのブスバーとの電気的接触部の表面粗さおよびその標準偏差の両方が減少することにより、この電気的接触部の接触抵抗の標準偏差が減少したためであることが理解される。
【0101】
(実施例2)
図2に示すように、種板電解法において用いられる陰極(カソード)として、幅1070mm、高さ1050mm、厚さ1mmの銅板1を準備し、この銅板1を挟み込むように銅製のループ状のリボン2(幅100mm、長さ300mm、厚さ1mm)を2枚取り付け、2枚のリボンそれぞれにカソードビーム3を通し、カソードを得た。
【0102】
カソードビーム3は、横断面幅26mm、高さ26mmの鉄芯と、この鉄芯の表面に形成された、厚さ3mmの銅被覆層(純銅:99.9%以上)とにより構成され、横断面積幅32mm、高さ32mmのものを用いた。
【0103】
ブスバーとしては、100mmピッチで、厚さ6mmの銅製のブスバー(長さ5000mm)を用いた。
【0104】
ブスバーにはカソードビーム50本を載置して、カソード50枚について、銅の電解精製の電解操業を繰り返し行った。具体的には、カソードビーム50本を1ロットとして、カソードを50枚組み、電解槽に装入し、電流35kAで10日間のカソードライフで通電し、電解操業を行った。一回(10日間)の電解操業が終了するたび、カソードビームを研磨すると同時に、研磨しておいた別のロットのカソードビームでカソードを組んで電解槽に装入し、同様の電解操業を繰り返した。
【0105】
その後、カソードビームを、その重量により層別した。層別の基準としては、カソードビームの単重が、選別されたロットに属する複数のカソードビームの平均単重(Ave)と単重標準偏差(σ)の関係が、σ/Ave=0.05以下となるように行った。
【0106】
その結果、当該ロットのカソードビーム50本の平均単重(Ave)は、10.1kg、単重標準偏差(σ)が0.3kg、σ/Ave=0.03であった。これらのカソードビームで組んだカソードを電解槽に装入しカソード電流を測定した。
【0107】
なお、電流測定には、キーサイト・テクノロジー社製のKeysightU1213Aクランプメータを用いた。具体的には、この測定器のクランプ部の輪の中にカソードビームが入るように挟み込んでカソード電流の測定を行った。カソードビームの挟み込んだ部位は、ブスバーとの接点部と、ブスバーに最も近いリボンとの中間地点である。
【0108】
(比較例2)
実施例2で選別から外れたカソードビーム50本でロットを構成した。当該ロットのカソードビーム50本の平均単重(Ave)は、10.3kg、単重標準偏差(σ)が1.0kg、σ/Ave=0.1であった。これらのカソードビームで組んだカソードを電解槽に装入しカソード電流を測定した。
【0109】
実施例2および比較例2についてのカソードビーム単重(kg)およびカソード電流(A)の標準偏差(σ)の比較を表4に示す。なお、それぞれの測定基準は、カソードビーム50本である。
【0110】
【0111】
カソードビーム単重の標準偏差(σ)の低減に伴い、カソード電流の標準偏差も約44%低減していた。以上の結果より、実施例では、カソードビーム単重の標準偏差が小さいカソードビームのロットを使用することで、カソード電流分布の均一化が図れたことが理解される。
【0112】
また、この選別手段により、繰り返し使用により減肉が進み、抵抗値が上昇したカソードビームを効率的に払い出すことが可能になり、より効率的に電圧を低減できることも理解される。
【符号の説明】
【0113】
1 カソード板(種板あるいは母板)
2 リボン
3 カソードビーム