(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ニッケル複合酸化物粒子、リチウムニッケル複合酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20220128BHJP
H01M 4/525 20100101ALN20220128BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2017250175
(22)【出願日】2017-12-26
【審査請求日】2020-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2016252083
(32)【優先日】2016-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017167795
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 康孝
(72)【発明者】
【氏名】川上 裕二
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 知倫
(72)【発明者】
【氏名】山口 直之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-088776(JP,A)
【文献】国際公開第2011/067937(WO,A1)
【文献】特開2006-236886(JP,A)
【文献】特開2009-038016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積Sm(m
2/g)と、(200)面に帰属されるピークの半価幅A(°)とが、
0.008×Sm ≦ A ≦ 0.008×Sm+0.6
の関係を満たすニッケル複合酸化物粒子。
【請求項2】
前記比表面積Smが20m
2/g以上110m
2/g以下である請求項1に記載のニッケル複合酸化物粒子。
【請求項3】
前記(200)面に帰属されるピークの半価幅Aが0.16°以上1.4°以下である請求項1または2に記載のニッケル複合酸化物粒子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のニッケル複合酸化物粒子と、リチウム化合物との混合物を調製する混合工程と、
前記混合物を焼成する焼成工程とを有するリチウムニッケル複合酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル複合酸化物粒子、リチウムニッケル複合酸化物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が要求されている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として、高出力の二次電池の開発も要求されている。このような要求を満たす非水系電解液二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0004】
リチウム複合酸化物、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として期待され、実用化が進んでいる。リチウムコバルト複合酸化物を用いた電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発がこれまで数多く行われてきており、すでにさまざまな成果が得られている。
【0005】
しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物は、原料に高価なコバルト化合物を用いるため、このリチウムコバルト複合酸化物を用いる電池の容量あたりの単価は、ニッケル水素電池より大幅に高くなり、適用可能な用途はかなり限定されている。
【0006】
このため、携帯機器用の小型二次電池や、電力貯蔵用や電気自動車用などの大型二次電池について、正極材料のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を可能とすることに対する期待は大きく、その実現は、工業的に大きな意義があるといえる。
【0007】
リチウムイオン二次電池用活物質の新たなる材料としては、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物を挙げることができる。このリチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物よりも低い電気化学ポテンシャルを示すため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待でき、コバルト系と同様に高い電池電圧を示すことから、開発が盛んに行われている。
【0008】
しかし、純粋にニッケルのみで合成したリチウムニッケル複合酸化物を正極材料としてリチウムイオン二次電池を作製した場合、コバルト系に比ベてサイクル特性が劣り、また高温環境下での使用や保存により、比較的電池性能を損ないやすいという欠点を有している。このため、ニッケルの一部をコバルトやアルミニウムで置換したリチウムニッケル複合酸化物が一般的に知られている。
【0009】
リチウムニッケル複合酸化物の製造方法として、例えば特許文献1には、Ni塩とM塩の混合水溶液にアルカリ溶液を加えて、NiとMの水酸化物を共沈させ、得られた沈殿物を濾過、水洗、乾燥して、ニッケル複合水酸化物:NixM1-x(OH)2を得る晶析工程と、
得られたニッケル複合水酸化物:NixM1-x(OH)2とリチウム化合物とを、NiとMとの合計に対するLiのモル比:Li/(Ni+M)が1.00~1.15となるように混合し、さらに該混合物を、700℃以上1000℃以下の温度で焼成して、前記リチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程と、
得られたリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理する水洗工程と、を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献1には、前記晶析工程の後、前記焼成工程の前に、該晶析工程で得られたニッケル複合水酸化物:NixM1-x(OH)2を、大気雰囲気中、800℃未満の温度で、1時間以上の焙焼を行って複合酸化物を得る酸化焙焼工程を有することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示された非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法によれば、ニッケル複合水酸化物、または該ニッケル複合水酸化物の焙焼物と、リチウム化合物との混合物を焼成等することでリチウムニッケル複合酸化物を製造している。
【0013】
しかしながら、ニッケル複合水酸化物等の、リチウム化合物との反応性が十分ではなく、ニッケル複合水酸化物等と、リチウム化合物との混合物の焼成時間が短い場合に、得られたリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた非水系電解液二次電池の電池特性が低下する場合があった。
【0014】
そして、工業的な量産過程においては、電池性能を損なうことなくできるだけ短時間で、正極活物質となるリチウムニッケル複合酸化物を製造できることが求められている。
【0015】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、リチウム化合物との反応性に優れたニッケル複合酸化物粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
比表面積Sm(m2/g)と、(200)面に帰属されるピークの半価幅A(°)とが、
0.008×Sm ≦ A ≦ 0.008×Sm+0.6
の関係を満たすニッケル複合酸化物粒子を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、リチウム化合物との反応性に優れたニッケル複合酸化物粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る実施例1において作製したコイン型電池の断面構成の説明図。
【
図2】インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[ニッケル複合酸化物粒子]
まず、本実施形態のニッケル複合酸化物粒子の一構成例について説明する。
【0020】
本実施形態のニッケル複合酸化物粒子は、比表面積Sm(m2/g)と、(200)面に帰属されるピークの半価幅A(°)とが、以下の式(1)の関係を充足することができる。
【0021】
0.008×Sm ≦ A ≦ 0.008×Sm+0.6・・・(1)
本発明の発明者らは、リチウム化合物との反応性に優れたニッケル複合酸化物について鋭意検討を進めた。その結果、比表面積と、(200)面に帰属されるピークの半価幅とが所定の関係を満たすニッケル複合酸化物粒子とすることで、リチウム化合物との反応性を高めることができることを見出した。
【0022】
具体的には、比表面積をSm、(200)面に帰属されるピークの半価幅をAとした場合に、上述の式(1)を充足することでリチウム化合物との反応性を高めることができる。
【0023】
上述の式(1)を満たすことでリチウム化合物との反応性が高くなる理由は明らかではないが、リチウム化合物との反応性を高めるためには、ニッケル複合酸化物粒子の比表面積を高くすることが考えられる。しかしながら、ニッケル複合酸化物粒子の比表面積を過度に高くすると、ニッケル複合酸化物粒子に含まれるニッケル複合酸化物の結晶性が低下して、反応性が低くなる恐れがある。このため、ニッケル複合酸化物粒子の比表面積と、結晶性の評価の指標として用いることができる、(200)面に帰属されるピークの半価幅とが上述の式(1)を満たすことで、リチウム化合物との反応性を高めることができると推定している。
【0024】
比表面積Smの範囲は特に限定されるものではないが、比表面積Smは、例えば20m2/g以上110m2/g以下であることが好ましく、20m2/g以上100m2/g以下であることがより好ましく、30m2/g以上80m2/g以下であることがさらに好ましい。
【0025】
これは、比表面積Smを20m2/g以上とすることで、リチウム化合物との混合物を焼成する際、リチウム化合物中のリチウムが、ニッケル複合酸化物へ拡散し易くなり、反応性を特に高めることができるからである。ただし、比表面積Smを110m2/gより大きくしようとすると、ニッケル複合酸化物粒子について、粉砕等の処理を行う必要が生じる場合があるため、110m2/g以下であることが好ましい。
【0026】
本実施形態のニッケル複合酸化物粒子の、(200)面に帰属されるピークの半価幅Aの範囲は特に限定されないが、例えば0.16°以上1.4°以下であることが好ましく、0.24°以上1.24°以下であることがより好ましい。
【0027】
本実施形態のニッケル複合酸化物粒子は、ニッケル複合酸化物を含有する粒子とすることができる。また、本実施形態のニッケル複合酸化物粒子はニッケル複合酸化物から構成される粒子とすることもできる。ただし、この場合でも、製造工程等で混入する不可避成分等を含有することを排除するものではない。
【0028】
上記ニッケル複合酸化物の具体的な組成は特に限定されるものではないが、例えば、一般式:Ni(1-y-z)CoyMzO1+α(式中、Mは、Al、Tiの中から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、y、zはそれぞれ、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.15、-0.2≦α≦0.2を満たす)で表されるニッケルコバルト複合酸化物が挙げられる。
【0029】
以上に、本実施形態のニッケル複合酸化物粒子の構成例について説明したが、本実施形態のニッケル複合酸化物粒子によれば、リチウム化合物等との反応性が高い。このため、ニッケル複合酸化物粒子と、リチウム化合物との混合物の焼成時間が短い場合でも、正極活物質として用いた際に、電池特性に優れた非水系電解液二次電池とすることができる、リチウムニッケル複合酸化物粒子の原料となるニッケル複合酸化物粒子とすることができる。
[ニッケル複合酸化物粒子の製造方法]
本実施形態のニッケル複合酸化物粒子の製造方法は特に限定されるものではないが、ニッケル複合水酸化物の粒子を焙焼する焙焼工程を有することができる。
【0030】
具体的には例えば、一般式:Ni(1-y-z)CoyMz(OH)2+β(式中、Mは、Al、Tiの中から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、y、zはそれぞれ、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.15、-0.2≦β≦0.2を満たす)で表されるニッケルコバルト複合水酸化物の粒子を焙焼する焙焼工程を有することができる。
【0031】
なお、ニッケル複合水酸化物粒子の製造方法は特に限定されず、含有する金属、例えばニッケルと、コバルトと、添加元素Mとを共沈させることにより製造することができる。
【0032】
ニッケル複合水酸化物の粒子を焙焼する際の条件については特に限定されるものではない。ただし、例えばニッケル複合水酸化物の組成や、焙焼時の温度、雰囲気等により得られるニッケル複合酸化物の比表面積や、(200)面に帰属されるピークの半価幅が変化するため、予め予備試験を実施しておくことが好ましい。そして、予備試験によりニッケル複合水酸化物の組成、及び焙焼条件と、得られるニッケル複合水酸化物粒子の比表面積、及び(200)面に帰属されるピークの半価幅との関係を確認し、ニッケル複合酸化物粒子を製造する際の条件を設定することが好ましい。
【0033】
ニッケル複合水酸化物の粒子を焙焼する際の雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気(大気)雰囲気下、もしくは空気気流中において行うことが好ましい。
【0034】
焙焼に用いる設備は、特に限定されるものではなく、ニッケル複合水酸化物粒子を非還元性雰囲気中、好ましくは空気雰囲気下、もしくは空気気流中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
[リチウムニッケル複合酸化物粒子]
次に、本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物粒子の一構成例について説明する。
【0035】
本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物粒子は、既述のニッケル複合酸化物粒子を用いて製造することができ、その組成は特に限定されるものではない。
【0036】
本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物粒子は、例えばリチウムニッケル複合酸化物を含む粒子とすることができる。また、本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物粒子は、リチウムニッケル複合酸化物からなる粒子とすることもできる。ただし、この場合でもリチウムニッケル複合水酸化物粒子が、製造工程で混入する不可避成分等を含有することを排除するものではない。
【0037】
上記リチウムニッケル複合酸化物は特に限定されないが、例えば一般式:LixNi(1-y-z)CoyMzO2+γ(式中、Mは、Al、Tiの中から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、x、y、zはそれぞれ、0.90≦x≦1.10、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.15、-0.2≦γ≦0.2を満たす)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物が挙げられる。
リチウムニッケル複合酸化物は、通常その粒子表面に余剰リチウムが存在している。余剰リチウムは電極作製時に使用する有機溶剤などの材料と反応してスラリーがゲル化して不具合を起こす場合がある。従来は、この余剰リチウムを水洗により除去していたが、水洗すると、余剰リチウムと同時にリチウムニッケル複合酸化物粒子からもリチウムが抜けてしまい、電池特性に影響を与えていた。本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物粒子では、原料の1つであるニッケル複合酸化物粒子を製造する際の焙焼条件を最適化することにより、水洗前のリチウムニッケル複合酸化物粒子の余剰リチウム量を減らし、水洗時間を低減可能とし、水洗による影響を抑制できるようにしている。このため、本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物粒子の水洗前の余剰リチウム量としては、0.2質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。また、本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物の水洗前の比表面積は0.2m2/g以上0.5m2/g以下、水洗後の比表面積は0.7m2/g以上1.7m2/g以下であることが好ましい。
本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物粒子を正極活物質として用い、後述の方法で電池を作製した時に、例えば初期放電容量を200mAh/g以上とすることができる。なお、初期放電容量は大きい方がいいため、上限値は特に限定されないが、例えば初期放電容量は230mAh/g以下とすることができる。
【0038】
本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物粒子は、既述のニッケル複合酸化物粒子から製造することができる。このため、該リチウムニッケル複合酸化物粒子を正極活物質として用いた非水系電解液二次電池とした場合に、優れた電池特性を有する非水系電解液二次電池とすることができる。
[リチウムニッケル複合酸化物粒子の製造方法]
本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物粒子の製造方法は、特に限定されるものではない。本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物粒子の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
【0039】
既述のニッケル複合酸化物粒子と、リチウム化合物との混合物を調製する混合工程。
上記混合物を焼成する焼成工程。
【0040】
以下、各工程について説明する。
(混合工程)
混合工程は、ニッケル複合酸化物粒子と、リチウム化合物とを混合して、混合物(混合粉)を得る工程である。
【0041】
ニッケル複合酸化物粒子と、リチウム化合物とは、混合物中のリチウム以外の金属の原子数(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.90以上1.10以下となるように混合することが好ましい。特に、上記混合物中のリチウムの原子数と、リチウム以外の金属の原子数との比(Li/Me)が1.00以上1.08以下となるように混合することがより好ましい。後述する焼成工程の前後でLi/Meはほとんど変化しないので、焼成工程に供する混合物中のLi/Meが、得られるリチウムニッケル複合酸化物粒子におけるLi/Meとほぼ同じになる。このため、混合工程で調製する混合物におけるLi/Meが、得ようとするリチウムニッケル複合酸化物粒子におけるLi/Meと同じになるように混合することが好ましい。
【0042】
混合工程に供するリチウム化合物としては特に限定されないが、例えば水酸化リチウム、炭酸リチウム等から選択された1種以上を好ましく用いることができる。
【0043】
混合工程において、ニッケル複合酸化物粒子とリチウム化合物とを混合する際の混合手段としては、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いればよい。
(焼成工程)
焼成工程は、上記混合工程で得られた混合物を焼成して、リチウムニッケル複合酸化物粒子とする工程である。焼成工程において混合物を焼成すると、ニッケル複合酸化物粒子に、リチウム化合物中のリチウムが拡散しリチウムニッケル複合酸化物粒子が形成される。
【0044】
焼成工程において、混合物を焼成する焼成温度は特に限定されないが、例えば600℃以上950℃で以下であることが好ましく、700℃以上900℃以下であることがより好ましい。
【0045】
焼成温度を600℃以上とすることで、ニッケル複合酸化物粒子中へのリチウムの拡散を十分に進行させることができ、得られるリチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の結晶構造を均一にすることができる。このため、生成物を正極活物質として用いた場合に電池特性を特に高めることができるため好ましいからである。また、反応を十分に進行させることができるため、余剰のリチウムの残留や、未反応の粒子が残留することを抑制できるからである。
【0046】
焼成温度を950℃以下とすることで、生成するリチウムニッケル複合酸化物粒子の粒子間で焼結が進行することを抑制することができる。また、異常粒成長の発生を抑制し、得られるリチウムニッケル複合酸化物粒子が粗大化することを抑制することができる。
【0047】
また、熱処理温度まで昇温する過程で、リチウム化合物の融点付近の温度にて1時間以上5時間以下程度保持することで、より反応を均一に行わせることができ、好ましい。
【0048】
焼成工程における焼成時間のうち、所定温度、すなわち上述の焼成温度での保持時間は特に限定されないが、2時間以上とすることが好ましく、より好ましくは3時間以上である。これは焼成温度での保持時間を2時間以上とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粒子の生成を十分に促進し、未反応物が残留することをより確実に防止することができるからである。
【0049】
焼成温度での保持時間の上限値は特に限定されないが、生産性等を考慮して24時間以下であることが好ましい。
【0050】
焼成時の雰囲気は特に限定されないが、酸化性雰囲気とすることが好ましい。酸化性雰囲気としては、酸素含有ガス雰囲気を好ましく用いることができ、例えば酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。
【0051】
これは焼成時の雰囲気中の酸素濃度を18容量%以上とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粒子の結晶性を特に高めることができるからである。
【0052】
酸素含有ガス雰囲気とする場合、該雰囲気を構成する気体としては、例えば大気や、酸素、酸素と不活性ガスとの混合気体等を用いることができる。
【0053】
なお、酸素含有ガス雰囲気を構成する気体として、例えば上述のように酸素と不活性ガスとの混合気体を用いる場合、該混合気体中の酸素濃度は上述の範囲を満たすことが好ましい。
【0054】
特に、焼成工程においては、酸素含有ガス気流中で実施することが好ましく、大気、または酸素気流中で行うことがより好ましい。特に電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことが好ましい。
【0055】
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、例えば大気ないしは酸素気流中で混合物を焼成できるものを用いることができる。焼成に用いられる炉は、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
【0056】
焼成工程によって得られたリチウムニッケル複合酸化物粒子は、凝集もしくは軽度の焼結が生じている場合がある。この場合には、解砕してもよい。
【0057】
ここで、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
【0058】
また、焼成工程の前に、仮焼成を実施することが好ましい。
【0059】
仮焼成を実施する場合、仮焼成温度は特に限定されないが、焼成工程における焼成温度より低い温度とすることができる。仮焼成温度は、例えば250℃以上600℃以下することが好ましく、350℃以上550℃以下とすることがより好ましい。
【0060】
仮焼成時間、すなわち上記仮焼成温度での保持時間は、例えば1時間以上10時間以下程度とすることが好ましく、3時間以上6時間以下とすることがより好ましい。
【0061】
仮焼成後は、一旦冷却した後焼成工程に供することもできるが、仮焼成温度から、焼成温度まで昇温して連続して焼成工程を実施することもできる。
【0062】
なお、仮焼成を実施する際の雰囲気は特に限定されないが、例えば焼成工程と同様の雰囲気とすることができる。
【0063】
仮焼成を実施することにより、ニッケル複合酸化物粒子へのリチウムの拡散が十分に行われ、特に均一なリチウムニッケル複合酸化物粒子を得ることができる。
[非水系電解液二次電池]
次に、本実施形態の非水系電解液二次電池の一構成例について説明する。
【0064】
本実施形態の非水系電解液二次電池は、既述のリチウムニッケル複合酸化物粒子を正極材料として用いた正極を有することができる。
【0065】
まず、本実施形態の非水系電解液二次電池の構造の構成例を説明する。
【0066】
本実施形態の非水系電解液二次電池は、正極材料に既述のリチウムニッケル複合酸化物粒子を用いたこと以外は、一般的な非水系電解液二次電池と実質的に同様の構造を備えることができる。
【0067】
具体的には、本実施形態の非水系電解液二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレータを備えた構造を有することができる。
【0068】
より具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させることができる。そして、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉した構造を有することができる。
【0069】
なお、本実施形態の非水系電解液二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、またその外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
【0070】
各部材の構成例について以下に説明する。
(正極)
まず正極について説明する。
【0071】
正極は、シート状の部材であり、例えば、既述のリチウムニッケル複合酸化物粒子を含有する正極合材ペーストを、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成できる。なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等を行うこともできる。
【0072】
上述の正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加して混練して形成することができる。そして、正極合材は、粉末状になっている既述のリチウムニッケル複合酸化物粒子と、導電材と、結着剤とを混合して形成できる。
【0073】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材の材料は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0074】
結着剤は、正極活物質であるリチウムニッケル複合酸化物粒子をつなぎ止める役割を果たすものである。係る正極合材に使用される結着剤は特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等から選択された1種以上を用いることができる。
【0075】
なお、正極合材には活性炭などを添加することもできる。正極合材に活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0076】
溶剤は、結着剤を溶解してリチウムニッケル複合酸化物粒子、導電材、および活性炭等を結着剤中に分散させる働きを有する。溶剤は特に限定されないが、例えばN-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0077】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は特に限定されるものではなく、例えば一般の非水系電解液二次電池の正極の場合と同様にすることができる。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、リチウムニッケル複合酸化物粒子の含有量を60質量部以上95質量部以下、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
なお、正極の製造方法は上記方法に限定されるものではなく、例えば正極合材や正極合材ペーストをプレス成型した後、真空雰囲気下で乾燥すること等で製造することもできる。
(負極)
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。
【0078】
負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材等は異なるものの、実質的に上述の正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に必要に応じて各種処理が行われる。
【0079】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にすることができる。
【0080】
負極活物質としては例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0081】
吸蔵物質は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体等から選択された1種以上を用いることができる。
【0082】
係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDF等の含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解液を保持する機能を有している。
【0083】
セパレータの材料としては、例えばポリエチレンや、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0084】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0085】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0086】
なお、非水系電解液は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
【0087】
本実施形態の非水系電解液二次電池は、既述のリチウムニッケル複合酸化物粒子を正極材料として用いた正極を備えている。このため、優れた電池特性を有する非水系電解液二次電池とすることができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(ニッケル複合酸化物粒子の製造)
以下の手順により、ニッケル複合酸化物粒子を製造した。
【0089】
ニッケル複合水酸化物粒子としてNi0.88Co0.09Al0.03(OH)2を用意し、係るニッケル複合水酸化物粒子を、大気雰囲気下(酸素:21容量%)、700℃で7.5時間、酸化焙焼を行った(焙焼工程)。
【0090】
このように、ニッケル複合水酸化物粒子を焙焼することで、ニッケル複合水酸化物粒子に含まれていた水分を除去し、Ni0.88Co0.09Al0.03Oで表されるニッケル複合酸化物粒子に転換して回収した。
なお、上記組成のニッケル複合水酸化物粒子について、酸化焙焼の条件、具体的には酸化焙焼温度、及び酸化焙焼時間と、得られるニッケル複合酸化物粒子の比表面積、(200)面に帰属されるピークの半価幅との関係を予備試験により予め求めておいた。そして、係る関係に基いて酸化焙焼条件を選択した。以下の他の実施例においても同様に、焙焼工程に供した組成のニッケル複合水酸化物粒子について、酸化焙焼の条件と得られるニッケル複合酸化物粒子の特性との関係を予備試験により求めておき、係る関係を基に酸化焙焼の条件を選択した。
【0091】
得られたニッケル複合酸化物粒子の比表面積を全自動比表面積測定装置(マウンテック社製 型式:Macsorb HM model-1220により評価したところ36.3m2/gであった。なお、以下、本実施例、及び他の実施例、比較例においても比表面積は同じ装置を用いて評価を行っている。
【0092】
また、得られたニッケル複合酸化物粒子について、粉末X線回折(リガク社製 型式:Ultima IV)により、測定条件(線源:CuKα線、管電圧:40kV、管電流:40mA、サンプリング幅:0.02度、スキャンスピード:2.0度/min、発散スリット:1度、散乱スリット:1度、受光スリット:0.3mm)において評価を行い、得られた粉末X線回折パターンから、(200)面に帰属されるピークの半価幅を算出したところ、0.51°であった。
(リチウムニッケル複合酸化物粒子の製造)
以下の手順により、リチウム化合物と、上述のニッケル複合酸化物粒子との混合物を調製した(混合工程)。
【0093】
リチウム化合物としては、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)を真空乾燥による無水化処理に供し、得られた無水水酸化リチウムを用いた。
【0094】
混合工程では、リチウム化合物と、ニッケル複合酸化物粒子とを、混合物中の原子数の比がLi/Meが1.030となるように秤量、混合して混合物を調製した。なお、ここでのMeはLi以外の金属の合計の原子数を意味しており、Ni、Co、Alの合計となる。
【0095】
混合工程で得られた混合物を内寸が280mm(L)×280mm(W)×90mm(H)の焼成容器に装入し、これを連続式の焼成炉であるローラーハースキルンを用いて、酸素濃度80容量%以上の雰囲気中で、450℃から650℃までを、一定速度で約80分かけて昇温し、その後765℃まで約160分かけて昇温し、熱処理温度である765℃で220分保持する温度パターンで焼成を行った(焼成工程)。また、混合物が焼成炉に入ってから出るまでに要した時間は、11.2時間であった。
【0096】
以下の水洗を実施する前に、得られた焼成物(水洗前のリチウムニッケル複合酸化物粒子)表面の余剰Li量を滴定により評価したところ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に付着した余剰Liの、該リチウムニッケル複合酸化物粒子に占める割合(表1中、「余剰Li」と記載する)が0.31質量%であることが確認できた。従って、リチウム化合物と、ニッケル複合酸化物粒子との反応が十分に進行していることから、余剰Liは少ないものとなっていることが確認できた。また、水洗前のリチウムニッケル複合酸化物粒子の比表面積は0.30m2/gであった。
なお、余剰Li量は具体的には以下の手順により算出した。まず、得られた焼成物である水洗前のリチウムニッケル複合酸化物粒子1gに純水10mlを加えて1分間撹拌後、ろ過してろ液を得た。そして、該ろ液のpHを測定しながら、ろ液に塩酸を加えていくことで出現する中和点から、溶出するリチウムの化合物状態を分析して評価した。
【0097】
さらに得られた焼成物を、質量比で水1に対し0.75となるように、純水に投入してスラリーとし、30分間の撹拌後、濾過、乾燥してリチウムニッケル複合酸化物粒子を得た。水洗後に得られたリチウムニッケル複合酸化物粒子の比表面積は1.11m2/gであった。
(非水系電解液二次電池の製造)
得られたリチウムニッケル複合酸化物粒子を正極活物質として用いて、2032型コイン型電池を作製し、評価した。
【0098】
図1を用いて、作製したコイン型電池の構成について説明する。
図1はコイン型電池の断面構成図を模式的に示している。
【0099】
図1に示す様に、このコイン型電池10は、ケース11と、このケース11内に収容された電極12とから構成されている。
【0100】
ケース11は、中空かつ一端が開口された正極缶111と、この正極缶111の開口部に配置される負極缶112とを有しており、負極缶112を正極缶111の開口部に配置すると、負極缶112と正極缶111との間に電極12を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0101】
電極12は、正極121、セパレータ122および負極123からなり、この順で並ぶように積層されており、正極121が正極缶111の内面に接触し、負極123が負極缶112の内面に接触するようにケース11に収容されている。
【0102】
なお、ケース11は、ガスケット113を備えており、このガスケット113によって、正極缶111と負極缶112との間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット113は、正極缶111と負極缶112との隙間を密封して、ケース11内と外部との間を気密、液密に遮断する機能も有している。
【0103】
このコイン型電池10を、以下のようにして作製した。まず、得られたリチウムニッケル複合酸化物粒子52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)7.5mgを溶剤であるN-メチル-2-ピロリドンと共に混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成型して、正極121を作製した。作製した正極121を、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥した。この正極121、負極123、セパレータ122および電解液を用いて、コイン型電池10を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0104】
なお、負極123には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた、平均粒径20μm程度の黒鉛粉末と、ポリフッ化ビニリデンとを溶剤であるN-メチル-2-ピロリドンと共に混合した負極合材ペーストを銅箔に塗布、乾燥した負極シートを用いた。また、セパレータ122には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0105】
[電池評価]
得られたコイン型電池について、0.01Cで充放電容量を測定した。その放電容量は、211.2mAh/gであった。
【0106】
また、作製したコイン型電池を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、
図2(a)に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき
図2(b)に示した等価回路を用いてフィッティング計算を行い、反応抵抗の値を算出した。反応抵抗については、実施例1の反応抵抗値を以下の実施例、比較例における基準値とし、反応抵抗比として表1に示している。
【0107】
評価結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
[実施例2~実施例4]
ニッケル複合酸化物粒子を製造する際、ニッケル複合水酸化物粒子の焙焼温度を表1に示すように変更した点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合酸化物粒子を作製し、その評価を行った。
【0109】
そして、得られたニッケル複合酸化物粒子を用いて、実施例1の場合と同様にして、リチウムニッケル複合酸化物粒子、及び非水系電解液二次電池の製造、評価を行った。
【0110】
結果を表1に示す。
[実施例5]
ニッケル複合酸化物粒子を製造する際、ニッケル複合水酸化物粒子の焙焼温度を表1に示すように変更した点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合酸化物粒子を作製し、その評価を行った。
そして、得られたニッケル複合酸化物粒子を用いて、実施例1の場合と同様にして、リチウムニッケル複合酸化物粒子、及び非水系電解液二次電池の製造、評価を行った。
[実施例6]
ニッケル複合水酸化物粒子としてNi0.82Co0.15Al0.03(OH)2を用いた点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合酸化物粒子を作製し、その評価を行った。
そして、得られたニッケル複合酸化物粒子を用いて、実施例1の場合と同様にして、リチウムニッケル複合酸化物粒子、及び非水系電解液二次電池の製造、評価を行った。
[実施例7]
ニッケル複合水酸化物粒子としてNi0.91Co0.045Al0.045(OH)2を用いた点、及びニッケル複合水酸化物粒子の焙焼温度を表1に示すように変更した点以外は、実施例1の場合と同様にして、ニッケル複合酸化物粒子を作製し、その評価を行った。
そして、得られたニッケル複合酸化物粒子を用いて、熱処理条件、及び水洗条件を以下のように変更した点以外は実施例1の場合と同様にして、リチウムニッケル複合酸化物粒子、及び非水系電解液二次電池の製造、評価を行った。
リチウムニッケル複合酸化物粒子を製造するため、上記ニッケル複合水酸化物粒子から得たニッケル複合酸化物粒子と、無水水酸化リチウムとの混合物を、ローラーハースキルンを用いて焼成する際の熱処理温度を実施例1の場合から変更した。
具体的には、上記混合物を熱処理する際に、450℃から650℃までを、一定速度で約80分かけて昇温し、その後745℃まで約160分かけて昇温し、熱処理温度である745℃で220分保持する温度パターンで焼成を行った。
なお、焼成工程において、混合物が焼成炉に入ってから出るまでに要した時間は、11.2時間であった。
さらに得られた焼成物を、質量比で水1に対し1.25となるように、純水に投入してスラリーとし、30分間の撹拌後、濾過、乾燥してリチウムニッケル複合酸化物粒子を得た。
[比較例1]
ニッケル複合酸化物粒子を製造する際、ニッケル複合水酸化物粒子の焙焼温度、焙焼時間を表1に示すように変更した点以外は実施例1と同様にしてニッケル複合酸化物粒子を作製し、その評価を行った。
【0111】
そして、得られたニッケル複合酸化物粒子を用いて、実施例1の場合と同様にして、リチウムニッケル複合酸化物粒子、及び非水系電解液二次電池の製造、評価を行った。
【0112】
結果を表1に示す。
[比較例2]
ニッケル複合酸化物粒子を製造する際、ニッケル複合水酸化物粒子の焙焼温度を表1に示すように変更した点以外は実施例7と同様にしてニッケル複合酸化物粒子を作製し、その評価を行った。
そして、得られたニッケル複合酸化物粒子を用いて、実施例7の場合と同様にして、リチウムニッケル複合酸化物粒子、及び非水系電解液二次電池の製造、評価を行った。
結果を表1に示す。
【0113】
得られたニッケル複合酸化物粒子について、比表面積Smと、(200)面に帰属されるピークの半価幅Aとが、0.008×Sm ≦ A ≦ 0.008×Sm+0.6の関係を満たす実施例1~実施例7では、組成の同じ比較例と比較して、水洗前のリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面の余剰Li、及び水洗前、水洗後のリチウムニッケル複合酸化物粒子比表面積が低くなることを確認できた。なお、組成の同じ比較例とは、実施例1~実施例5は比較例1が、実施例7は比較例2がそれぞれ相当する。
【0114】
これは実施例1~実施例7では、組成の同じ比較例と比較して、リチウム化合物とニッケル複合酸化物粒子との反応が進行し易くなるため、未反応の余剰Liの発生を抑制し、その結果、比表面積も低下したものと考えられる。
【0115】
また、実施例1~実施例7では、組成の同じ比較例と比較して、得られたリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質に用いた電池において、反応抵抗比が低くなっていることが確認できた。
【0116】
これは実施例1~実施例7では、組成の同じ比較例と比較して、リチウム化合物とニッケル複合酸化物粒子との反応が進行し易くなるため、得られたリチウムニッケル複合酸化物においてリチウムが適切な位置に配置され、リチウムイオンが移動しやすくなったためと考えられる。
【0117】
以上のように、比表面積Smと、(200)面に帰属されるピークの半価幅Aとが所定の関係を満たすニッケル複合酸化物粒子とすることで、リチウム化合物との反応性を高められることを確認できた。