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特許6996328脱亜鉛処理方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】脱亜鉛処理方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20220128BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20220128BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/08
C22B3/44 101A
C22B3/44 101B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018024228
(22)【出願日】2018-02-14
(65)【公開番号】P2019137903
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】天野 道
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-037626(JP,A)
【文献】特開2013-185178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、コバルト、及び亜鉛を含む溶液を始液とし、該始液に対して硫化剤を添加して硫化処理を施すことによって、亜鉛硫化物を含む残渣と、ニッケル及びコバルトを含む溶液とを得る脱亜鉛処理方法において、
前記硫化処理後の溶液を濾過装置に通液させて前記亜鉛硫化物を含む残渣を回収するとともに、回収した残渣の一部を、前記始液を収容した反応容器に繰り返し添加し、
その際、前記残渣量が、前記反応容器に供給される前記始液1mに対して1g以上10g以下の範囲となるように前記反応容器に繰り返す、
脱亜鉛処理方法。
【請求項2】
前記始液には、3価の鉄が含まれており、前記硫化処理により水酸化鉄(III)として前記残渣に含有される、
請求項1に記載の脱亜鉛処理方法。
【請求項3】
ニッケル酸化鉱石のスラリーを酸浸出してニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る浸出工程と、得られた浸出液に対して中和処理を施し不純物を除去する中和工程と、中和処理後の中和終液を脱亜鉛始液として硫化剤を添加して硫化処理を施すことで該中和終液に含まれる亜鉛の硫化物を生成して分離する脱亜鉛工程と、脱亜鉛終液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトの混合硫化物を生成して回収するニッケル回収工程と、を有するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
前記脱亜鉛工程では、前記脱亜鉛始液を収容した反応容器に硫化剤を添加して硫化処理を施し、濾過装置に通液させて回収される亜鉛硫化物を含む残渣の一部を該反応容器に繰り返し添加し、
その際、前記残渣量が、前記反応容器に供給される前記脱亜鉛始液量1mに対して1g以上10g以下の範囲となるように前記反応容器に繰り返す、
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱亜鉛処理方法に関するものであり、より詳しくは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における、ニッケル、コバルト、及び亜鉛を含有する中和終液から亜鉛を分離してニッケル回収用母液を生成する脱亜鉛工程における処理方法、及びそのニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法として、硫酸を用いた高圧酸浸出法(HPAL法)がある。この方法では、従来の一般的なニッケル酸化鉱の製錬方法である乾式製錬法と異なり、還元及び乾燥工程を含まず一貫した湿式工程からなるため、エネルギー的及びコスト的に有利である。また、ニッケル品位を50質量%~60質量%程度にまで高純度化したニッケルとコバルトを含む硫化物(以下、「ニッケルコバルト混合硫化物」ともいう)を得ることができるという利点を有している。
【0003】
高圧酸浸出法によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、例えば下記工程を含む。(a)ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出する浸出工程
(b)得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら、浸出残渣を分離して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程
(c)浸出液のpHを調整して中和処理を施し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトを含む中和終液を得る中和工程
(d)中和終液に硫化水素ガスを添加することにより、亜鉛及び銅を含む硫化物(以下、「亜鉛硫化物」ともいう)を生成させ、その亜鉛硫化物を分離して脱亜鉛終液(ニッケル回収用母液)を得る脱亜鉛工程
(e)脱亜鉛終液に硫化水素ガスを添加することにより、ニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を形成し、その混合硫化物を分離回収するニッケル回収工程
【0004】
ここで、上述した湿式製錬プロセスにおける脱亜鉛工程では、中和終液を硫化反応槽内に導入し、硫化水素ガスや水硫化ソーダ等の硫化剤を添加することによって、その中和終液中に含有される亜鉛や銅等を硫化し、その後フィルタプレス等の固液分離装置で固液分離して、亜鉛硫化物と、ニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液とを得る。
【0005】
ところで、湿式製錬プロセスにより得られた混合硫化物は、さらに電気ニッケルや電気コバルトまで精製する原料として用いられる。そのため、ニッケル回収用母液を生成する脱亜鉛工程では、脱亜鉛終液中の亜鉛濃度を0.001g/L以下にまで低下させることが要求されている。
【0006】
また、脱亜鉛工程においては、中和終液中に、生成された亜鉛硫化物の一部を繰り返して添加している(例えば、特許文献1参照)。すなわち、繰り返して添加する亜鉛硫化物は、すでに濾過装置にてろ過され、種晶として適切な数μm~十数μm程度の粒子であるため、脱亜鉛工程における処理にて生成する亜鉛硫化物の粒径をさらに成長させることになり、濾過性向上の効果がより安定して得られる。さらに、従来は、系外に排出されていた亜鉛硫化物に含まれるニッケルを工程内に繰り返すことにより、ロスしていたニッケルを回収することができ、プロセスとしてのニッケル回収ロスを低減することができる。
【0007】
脱亜鉛工程においては、濾過装置に通液する際に、液中の亜鉛が脱亜鉛工程にて生成する沈殿物(脱亜鉛残渣)に含まれる硫化鉄(II)とのセメンテーション反応により硫化亜鉛として沈殿する。そのため、通常、濾過装置に通液した後の溶液は、亜鉛濃度が低下している。なお、以下では、濾過装置への通液前後で溶液中の亜鉛濃度が低下する割合を「亜鉛除去率」とする。
【0008】
しかしながら、脱亜鉛残渣中に含まれる水酸化鉄(III)量が増加した場合には、硫化亜鉛がその水酸化鉄(III)との反応によって亜鉛イオンとして液中に溶解し、亜鉛除去率が急激に低下することがある。そしてこれにより、脱亜鉛工程を経て得られる脱亜鉛終液中の亜鉛濃度が上昇し、それに伴って、ニッケル回収工程を経て回収されるニッケルコバルト混合硫化物(製品)中の亜鉛濃度が上昇することが問題となっている。
【0009】
また、亜鉛除去率が低下すると、製品であるニッケルコバルト混合硫化物中の亜鉛濃度を顧客の求める水準以下(例えば250ppm以下)とするためには、濾過装置への通液前の段階で亜鉛濃度を通常時よりも低下させておくことが必要となり、そのためには、脱亜鉛工程における処理において硫化水素ガス等の硫化剤の添加量を増加することを要する。ところが、硫化水素ガス等の硫化剤の添加量の増加は、薬剤コストの増加のみならず、脱亜鉛残渣へのニッケルの共沈によるニッケル回収ロス量の増大を招くため、経済的な操業を妨げる原因となる。
【0010】
以上のような実情から、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、脱亜鉛工程における処理での亜鉛除去率をより高く維持することができる方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2010-37626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、例えばニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの脱亜鉛工程に適用できる脱亜鉛処理において、濾過装置への通液前後での亜鉛除去率を向上させ、またその高い除去率を維持することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、脱亜鉛処理において、硫化反応後に濾過装置に通液して回収される脱亜鉛残渣の一部を、硫化反応を行う反応槽に繰り返し添加し、その際、反応容器に繰り返す脱亜鉛残渣を含むスラリー流量中の固体量が、反応容器に供給される始液1mに対して特定の範囲となるようにすることで、亜鉛除去率を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル、コバルト、及び亜鉛を含む溶液を始液とし、該始液に対して硫化剤を添加して硫化処理を施すことによって、亜鉛硫化物を含む残渣と、ニッケル及びコバルトを含む溶液とを得る脱亜鉛処理方法において、前記硫化処理後の溶液を濾過装置に通液させて前記亜鉛を含む残渣を回収するとともに、回収した残渣の一部を、前記始液を収容した反応容器に繰り返し添加し、その際、前記反応容器に繰り返す前記残渣を含むスラリー流量中の固体量が、前記反応容器に供給される前記始液1mに対して1g以上10g以下の範囲となるようにする、脱亜鉛処理方法である。
【0015】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記始液には、3価の鉄が含まれており、前記硫化処理により水酸化鉄(III)として前記残渣に含有される、脱亜鉛処理方法である。
【0016】
(3)本発明の第3の発明は、ニッケル酸化鉱石のスラリーを酸浸出してニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る浸出工程と、得られた浸出液に対して中和処理を施し不純物を除去する中和工程と、中和処理後の中和終液を始液として硫化剤を添加して硫化処理を施すことで該中和終液に含まれる亜鉛の硫化物を生成して分離する脱亜鉛工程と、脱亜鉛終液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトの混合硫化物を生成して回収するニッケル回収工程と、を有するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記脱亜鉛工程では、前記脱亜鉛始液を収容した反応容器に硫化剤を添加して硫化処理を施し、濾過装置に通液させて回収される亜鉛硫化物を含む残渣の一部を該反応容器に繰り返し添加し、その際、前記反応容器に繰り返す前記残渣を含むスラリー流量中の固体量が、前記反応容器に供給される前記脱亜鉛始液量1mに対して1g以上10g以下の範囲となるようにする、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ニッケル、コバルト、及び亜鉛を含む溶液に対して硫化処理を施して亜鉛を除去する脱亜鉛処理において、硫化処理後に濾過装置へ通液する前後での亜鉛除去率を向上させ、またその高い除去率を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。
図2】脱亜鉛処理が行われる処理設備の構成を示すブロック図である。
図3】実施例、比較例における、残渣系内繰り返し量(g/m)に対する亜鉛除去率(%)の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0020】
≪1.概要≫
本実施の形態に係る脱亜鉛処理方法は、ニッケル、コバルト、及び亜鉛を含む溶液を始液とし、その始液に対して硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことによって、亜鉛を含む残渣(以下、「脱亜鉛残渣」ともいう)と、ニッケル及びコバルトを含む溶液とを得る脱亜鉛の処理方法である。
【0021】
この脱亜鉛処理方法は、詳しくは後述するが、例えばニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの脱亜鉛工程における処理に適用することができる。
【0022】
具体的に、本実施の形態に係る脱亜鉛処理方法においては、硫化処理後の溶液を濾過装置に通液させて亜鉛を含む脱亜鉛残渣を回収するとともに、回収した脱亜鉛残渣の一部を、始液を収容した反応容器(硫化反応槽)に繰り返し供給する。そして、そのとき、反応容器に繰り返す脱亜鉛残渣を含むスラリー流量中の固体量が、反応容器に供給される始液1mに対して1g以上10g以下の範囲となるようにする、ことを特徴としている。なお、反応容器に繰り返し供給する残渣スラリー中の固体分とは、亜鉛硫化物を含む脱亜鉛残渣をいう。
【0023】
このような方法によれば、濾過装置への通液前後での亜鉛除去率を向上させ、またその高い除去率を維持して安定的に処理を行うことができる。ここで、亜鉛除去率とは、濾過装置への通液前後における溶液中の亜鉛濃度が低下する割合をいう。
【0024】
例えば、この脱亜鉛処理方法をニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける脱亜鉛工程に適用した場合、亜鉛除去率を有効に向上させ、安定的に処理することができるため、次工程のニッケル回収工程に供するニッケル回収用母液中の亜鉛濃度を低下させることができる。これにより、そのニッケル回収工程にて得られるニッケルコバルト混合硫化物中の亜鉛濃度を効果的に低減させることができ、高品質を維持することができる。
【0025】
以下では、この脱亜鉛処理方法をニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける脱亜鉛工程に適用した場合を例に挙げてより具体的に説明する。
【0026】
≪2.ニッケル酸化鉱石の室式製錬プロセス≫
まず、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスについて説明する。図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。なお、ニッケル酸化鉱石のスラリーを高温高圧下で硫酸により浸出する高圧酸浸出法(HPAL法)を用いたプロセスについて例示する。
【0027】
図1に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、原料のニッケル酸化鉱石のスラリー(鉱石スラリー)に硫酸を添加して高温加圧下で浸出処理を施し浸出スラリーを得る浸出工程S1と、浸出スラリーから浸出残渣を分離してニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る固液分離工程S2と、浸出液のpHを調整して不純物元素を中和澱物スラリーとして分離する中和工程S3と、中和終液を始液として硫化剤を添加することで亜鉛の硫化物を生成させて分離除去し、ニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程S4と、ニッケル回収用母液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトの混合硫化物を得るニッケル回収工程S5と、を有する。
【0028】
[浸出工程]
浸出工程S1では、原料のニッケル酸化鉱石を解砕分級して得られた鉱石スラリーに高温加圧下で硫酸を添加し、鉱石中のニッケル等の有価金属を浸出させる。具体的に、浸出工程S1では、オートクレーブを用い、鉱石スラリーに硫酸を添加して、温度220℃~280℃程度、圧力3MPa~5MPa程度の条件下で撹拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる。
【0029】
原料のニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8重量%~2.5重量%であり、水酸化物又はケイ酸マグネシウム鉱物として含有される。また、鉄の含有量は10重量%~50重量%であり、主として3価の水酸化物の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。
【0030】
浸出工程S1における浸出処理では、浸出反応と高温加水分解反応とが生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。
【0031】
[固液分離工程]
固液分離工程S2では、浸出工程S1で生成した浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケルやコバルト等の有価金属を含む浸出液と浸出残渣とを分離する。
【0032】
固液分離工程S2では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、浸出スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈度合に応じて減少させることができる。また、このようにシックナーを多段に連結して用いて多段洗浄しながら固液分離することにより、洗浄液、すなわち浸出液へのニッケル及びコバルトの回収率の向上を図ることができる。
【0033】
固液分離処理における多段洗浄方法として、ニッケルを含まない洗浄液で向流に接触させる連続向流洗浄法(CCD法)を用いる。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を高めることができる。なお、洗浄液としては、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることができる。その中でも、pHが1~3の水溶液を用いることが好ましい。
【0034】
[中和工程]
中和工程S3では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0~3.5、より好ましくは3.1~3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加し、ニッケル回収用の母液の元となる中和終液と、不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを生成させる。
【0035】
なお、中和工程S3における処理では、中和処理対象である浸出液に、固液分離工程S2にて分離された浸出残渣の一部を添加してもよい。これにより、浸出されずに浸出残渣中に移行したニッケルやコバルトの回収ロスを抑制することができる。
【0036】
中和工程S3では、このように浸出液に対し中和処理(浄液処理)を施すことで、溶液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物を中和澱物として分離除去する。水酸化鉄等を含む中和澱物の分離においは、シックナー等の沈降分離装置を用いて行うことができ、沈降速度の促進の観点から、凝集剤や凝結剤を添加することができる。
【0037】
中和終液は、硫酸による浸出処理(浸出工程S1)を施して得られた浸出液に基づく溶液であって、ニッケル及びコバルトを含む硫酸酸性溶液である。この中和終液は、後述する脱亜鉛工程S4、ニッケル回収工程S5における硫化反応の反応始液となるものであり、ニッケル濃度及びコバルト濃度の合計濃度としては、例えば2g/L~6g/Lの範囲である。また、この中和終液には、除去されずに残存した3価の鉄イオンに由来する水酸化鉄(III)が含まれていることがある。
【0038】
[脱亜鉛工程]
脱亜鉛工程S4では、中和工程S3を経て得られた中和終液を始液(脱亜鉛始液)として、硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで硫化処理を施し、その溶液中に含まれる亜鉛を硫化物の形態として分離除去する。以下、この処理を「脱亜鉛処理」ともいう。
【0039】
中和工程S3を経て得られた中和終液には、上述のように、回収対象であるニッケル及びコバルトを含むとともに、不純物成分として亜鉛が含まれている。脱亜鉛工程S4では、中和終液からニッケル及びコバルトを回収するに先立ち、所定の条件で硫化反応を生じさせることで亜鉛の硫化物を生成させ、それを分離除去することによって、ニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る。
【0040】
具体的に、脱亜鉛工程S4では、例えば、加圧された反応容器(硫化反応槽)内にニッケル、コバルト、及び亜鉛を含む中和終液を供給し、反応容器の気相中へ硫化水素ガス等を吹き込むことによって、亜鉛をニッケル及びコバルトに対して選択的に硫化し、亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを生成させる。そして、硫化反応後に得られたスラリーを固液分離することにより、亜鉛を分離したニッケル回収用母液を得る。
【0041】
なお、次工程のニッケル回収工程S5においても、硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化反応を生じさせることによってニッケル及びコバルトの混合硫化物を生成させるが、そのニッケル等の硫化処理に先立って行う脱亜鉛工程S4における処理では、硫化反応の条件として、ニッケルに対する硫化反応条件よりも緩和させた条件で行う。
【0042】
ここで、脱亜鉛工程S4における脱亜鉛処理では、硫化反応により生じた亜鉛硫化物を含む残渣(脱亜鉛残渣)を分離回収したのち、その残渣の一部を反応容器に繰り返し添加するようにしている。これにより、亜鉛硫化物の生成効率を高めるとともに、濾過して残渣とニッケル回収用母液とを分離する際に濾過性を向上させることができる。
【0043】
このとき、本実施の形態では、系内において脱亜鉛残渣を繰り返す量を特定の範囲に制御することを特徴としている。これにより、得られるニッケル回収用母液中に移行する亜鉛を低減させることができ、次工程のニッケル回収工程S5にて得られるニッケルコバルト混合硫化物中の亜鉛濃度を安定的に低減させることができる。詳しくは後述する。
【0044】
[ニッケル回収工程]
ニッケル回収工程S5では、脱亜鉛工程S4を経て得られたニッケル回収用母液を始液として、その始液に対して硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込むことにより硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの硫化物(ニッケルコバルト混合硫化物)と、ニッケルやコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液(硫化終液)とを生成させる。なお、ニッケル回収用母液は、ニッケル及びコバルトを含む硫酸水溶液である。
【0045】
ニッケル回収工程S5における硫化処理は、脱亜鉛工程S4における処理のように硫化反応槽等を用いて行うことができ、所定の圧力に調整された硫化反応槽内の始液に対して、その反応槽内の気相部分に硫化水素ガス等を吹き込み、溶液中にその硫化水素ガスを溶解させることで硫化反応を生じさせる。この硫化処理により、始液中に含まれるニッケル及びコバルトを硫化物として固定化して回収する。
【0046】
なお、硫化反応の終了後においては、得られたニッケルコバルト混合硫化物を含むスラリーをシックナー等の沈降分離装置に装入して沈降分離処理を施し、その硫化物のみをシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分は、シックナーの上部からオーバーフローさせて貧液として回収する。
【0047】
≪3.脱亜鉛工程における処理(脱亜鉛処理)について≫
上述したように、脱亜鉛工程では、中和工程S3を経て得られた中和終液を始液(脱亜鉛始液)として、その脱亜鉛始液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことによって、亜鉛を含む残渣(脱亜鉛残渣)と、ニッケル及びコバルトを含む溶液(ニッケル回収用母液)とを得る。より具体的には、例えば、加圧された反応容器(硫化反応槽)内に、ニッケル、コバルト、及び亜鉛を少なくとも含む中和終液を供給し、その反応容器の気相中に硫化水素ガスを吹き込むことによって、亜鉛をニッケルやコバルトに対して選択的に硫化し、亜鉛硫化物を含む残渣とニッケル回収用母液とを生成する。
【0048】
図2は、脱亜鉛工程における脱亜鉛処理が行われる処理設備の構成を示すブロック図である。脱亜鉛処理設備1においては、中和工程S3を経て移送された中和終液(脱亜鉛始液)が硫化反応槽11に供給されたのち、その反応槽11の気相部に硫化水素ガスが吹き込まれることによって硫化反応が生じ、溶液中に含まれていた亜鉛硫化物が生成する。続いて、亜鉛硫化物を含むスラリー(硫化反応スラリー)が中継層12に移送され一時的に貯留され、その後、そのスラリーがフィルタプレス等の濾過装置13に供給され、濾過処理が行われる。濾過装置13において、スラリー中に含まれていた亜鉛硫化物を含む残渣(脱亜鉛残渣)とニッケル回収用母液とが分離される。
【0049】
ここで、上述のように、分離回収された亜鉛硫化物を含む脱亜鉛残渣の一部は、硫化反応槽11に繰り返して添加される。硫化反応槽11に繰り返された脱亜鉛残渣中の亜鉛硫化物は、その硫化反応槽11内にて生じる硫化反応の種晶として働き、始液中の亜鉛の硫化物化の効率を高める。また、種晶を添加して反応させることで、生成する亜鉛硫化物の粒径を制御することもでき、濾過装置13における濾過性を向上させることができる。
【0050】
なお、図2に示す設備構成において、「符号14」は系内回収槽を示し、分離回収した脱亜鉛残渣のうちの系内に繰り返し添加する脱亜鉛残渣を回収し貯留するための槽である。また、「符号15」は系外排出槽を示し、分離回収した脱亜鉛残渣のうちの系外に排出する脱亜鉛残渣を回収し貯留するための槽であり、この系外排出槽15の貯留された脱亜鉛残渣は、排水処理工程を実行する処理設備に移送され排水処理に供される。
【0051】
さて、脱亜鉛処理設備1における濾過装置13にて回収される脱亜鉛残渣には、主に、Fe(OH)及びZnSやFeSが含まれている。Fe(OH)は、脱亜鉛工程S4の前工程である中和工程S3からの持ち込みであり、ZnS及びFeSは、脱亜鉛処理での硫化水素ガス添加による硫化反応に基づく沈殿に由来するものである。したがって、濾過装置13への通液時には、通液されるスラリー中のZn2+及びZnSと、濾過装置13を構成する濾布上の残渣に含まれるFe(OH)及びFeSとの間で、以下の2つの反応が生じている。
2Fe(OH)+ZnS+6H=2Fe2++Zn2++S+6H
・・・[式1]
Zn2++FeS=Fe2++ZnS ・・・[式2]
【0052】
還元雰囲気となる脱亜鉛処理においては、上記[式1]の反応の方が[式2]の反応よりも速く進むと考えられる。ところが、通常は、水酸化鉄(III)が前工程(中和工程)から持ち込まれる量や脱亜鉛残渣として濾過装置13で回収される量は少量であるため、反応量としては上記[式2]の反応が[式1]の反応を上回り、濾過装置13に対する通液前後で亜鉛濃度は低下すると推測される。
【0053】
しかしながら、回収した脱亜鉛残渣の硫化反応槽11への繰り返し量が増加すると、水酸化鉄(III)の硫化反応槽11内への持ち込み量及び濾過装置13にて回収される量が増加するため、濾過装置13への通液時の上記[式1]の反応量が増加することとなり、濾過装置通液前後の亜鉛除去率は低下する。
【0054】
そこで、本発明者は、鋭意検討を重ね、硫化反応槽11に供給される脱亜鉛始液量1mに対する濾過装置13にて回収された脱亜鉛残渣の系内繰り返し量(残渣系内繰り返し量)を特定の範囲とすることによって、濾過装置通液後の亜鉛除去率を安定して高く維持できることを見出した。具体的には、残渣系内繰り返し量を1g/m以上10g/m以下の範囲に調整し維持する。
【0055】
亜鉛除去率とは、濾過装置13への通液前後における溶液中の亜鉛濃度が低下する割合をいう。また、残渣系内繰り返し量とは、以下の式により表されるものである。
残渣系内繰り返し量(g/m)=[系内繰り返しスラリー流量中固体量(g/hr)]/[脱亜鉛始液流量(m/hr)]
【0056】
このような残渣系内繰り返し量を調整することによって、濾過装置13への通液前後の亜鉛除去率が増加し、濾液、すなわちニッケル回収用母液に含まれる亜鉛濃度が上昇することを抑制することができる。これにより、ニッケル回収用母液に対して硫化処理を施すことによって得られるニッケルコバルト混合硫化物(製品)の亜鉛濃度が上昇するリスクを低減することができる。また、亜鉛除去率が高く維持されることにより、ニッケルコバルト混合硫化物中の亜鉛濃度の上昇を抑えるために、硫化剤である硫化水素ガス等の使用量の増加を防ぐことができ、またそれに伴って脱亜鉛残渣に分配されてしまうニッケルの増加(ニッケルロスの増加)を防ぐことができ、効率性の高い操業を行うことができる。
【0057】
上述のように、残渣系内繰り返し量は、1g/m以上10g/m以下の範囲に調整する。残渣系内繰り返し量が1g/m未満であると、硫化反応槽11に供給された脱亜鉛始液に添加される亜鉛硫化物の量が少なすぎるため、すなわち種晶が存在しない状態となることから、濾過装置13にてスラリーを濾過する際の濾過性が悪化してしまう。一方で、残渣系内繰り返し量が10g/mを超えると、亜鉛除去率が低下してしまう(後述する実施例にて説明する図3を参照)。
【0058】
以上のように、本実施の形態に係る脱亜鉛処理方法においては、硫化処理により得られた脱亜鉛残渣の一部を、脱亜鉛始液を収容した反応容器に繰り返し供給するに際し、その残渣系内繰り返し量、すなわち硫化反応槽11に繰り返す脱亜鉛残渣を含むスラリー流量中の固体量が、その硫化反応槽11に供給される脱亜鉛始液1mに対して1g以上10g以下の範囲となるように調整している。
【0059】
このような方法によれば、大きな設備投資をすることなく、濾過装置13への通液前後での亜鉛除去率を向上させ、またその高い除去率を維持して安定的に処理を行うことができ、脱亜鉛終液やニッケル回収工程S5を経て得られるニッケルコバルト混合硫化物中の亜鉛濃度の低減し、かつ管理を容易にすることができる。この方法は、経済的な操業に大きく寄与するものであり、その工業的価値はきわめて高い。
【実施例
【0060】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
[実施例]
図1に示すフロー図によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスを実行した。そして、脱亜鉛工程では、中和工程を経て得られた中和終液を始液(脱亜鉛始液)として硫化反応容器(反応槽)に供給し、その容器内圧を0.02MPaに保持するように硫化剤としての硫化水素ガスを気相部に吹き込み、亜鉛硫化物を含む残渣(脱亜鉛残渣)を生成させた。なお、硫化反応容器には、中和終液を連続的に供給し、液温度を55℃に保持しながら撹拌しつつ反応させた。
【0062】
次に、得られた脱亜鉛残渣を含む溶液を濾過装置であるフィルタプレスに移送し、その脱亜鉛残渣を分離した。分離した亜鉛硫化物を含む脱亜鉛残渣において、一部はスラリーの形態で硫化反応容器に繰り返し、残りは回収した。
【0063】
このとき、脱亜鉛残渣を含むスラリーを硫化反応容器に繰り返し添加するに際して、そのスラリー流量中の固体量が、硫化反応容器に供給される脱亜鉛始液1mに対して1g以上10g以下の範囲となるように調整し、24時間の操業を行った。なお、この脱亜鉛始液1mに対する脱亜鉛残渣の繰り返し量を「残渣系内繰り返し量」とした。
残渣系内繰り返し量(g/m)=[系内繰り返しスラリー流量中固体量(g/hr)]/[脱亜鉛始液流量(m/hr)]
【0064】
下記表1に、上述した実施例の条件で24時間操業を行った結果を示す。また、図3に、残渣系内繰り返し量を1g/m以上10g/m以下の範囲の数点の操業例の結果を示すグラフ図である。ここで、表1における残渣系内繰り返し量の値は、図3のグラフ図に示す1g/m以上10g/m以下の範囲の操業例の平均値である。
【0065】
また、表1中の「亜鉛除去率(%)」とは、濾過装置への通液前後で溶液中の亜鉛濃度が低下する割合をいい、濾過装置通液前の溶液中の亜鉛量に対する濾過装置にて除去された亜鉛量の百分率である。
【0066】
また、表1中の「ニッケル沈澱率(%)」とは、脱亜鉛処理により分離された脱亜鉛残渣中に含まれるニッケル含有量をいい、以下の式により表される。
ニッケル沈殿率(%)=100-ニッケル回収用母液中のニッケル濃度/中和終液中のニッケル濃度×100
【0067】
また、表1中の「製品亜鉛濃度(ppm)」とは、脱亜鉛処理により得られた脱亜鉛終液(濾過装置通液後に得られた溶液)に基づいて次工程のニッケル回収工程を経て回収されたニッケルコバルト混合硫化物(製品)中の亜鉛濃度である。
【0068】
なお、ニッケル沈澱率、製品亜鉛濃度のそれぞれの結果は、図3に示す残渣系内繰り返し量が1g/m以上10g/m以下の範囲の複数の操業例の結果の平均の値を示している。亜鉛除去率は、その複数の操業例の平均、最大、及び最小を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
[比較例1]
比較例では、脱亜鉛工程において、残系内繰り返し量を脱亜鉛始液1mに対して11g以上96g以下の範囲となるようにして繰り返し、24時間の操業を行った。なお、このこと以外は、実施例1と同様に操業した。
【0071】
下記表2に、その比較例の条件で24時間操業を行った結果を示す。また、図3のグラフ図には、残渣系内繰り返し量を11g/m以上96g/m以下の範囲の数点の操業例の結果を併せて示す。なお、表2中の各項目の定義は、表1と同様である。
【0072】
【表2】
【0073】
[結果]
表1に示されるように、脱亜鉛処理における残渣系内繰り返し量を1g/m~10g/mの範囲に調整して操業を行った実施例では、濾過装置での濾過前後の亜鉛除去率が76%~91%の高い割合で推移し、平均でも81%となり有効に亜鉛を除去することができた。また、脱亜鉛残渣中のニッケル沈澱率も平均で1.03%と低く、当該期間内に産出した製品の亜鉛濃度も平均で109ppmとなり規格濃度(250ppm)を上回ることは無く、品質の高い製品を産出することができた。
【0074】
一方で、表2に示されるように、脱亜鉛処理における残渣系内繰り返し量を11g/m~96g/mの範囲に調整して操業を行った比較例では、濾過前後の亜鉛除去率が-41%~71%という低い割合で推移し、平均では39%となり極めて低かった。また、脱亜鉛残渣中のニッケル沈澱率は平均で1.42%であり、実施例に比べて多くのニッケルが亜鉛と共に残渣中に分配されてしまいロスとなった。
【0075】
また、比較例では、当該期間内に産出した製品の亜鉛濃度は平均で173ppmとなり規格濃度(250ppm)を上回る製品が生じてしまった。そのため、製品品質を向上させるべく、硫化反応を生じさせるための硫化水素ガスの添加量を高めた。その結果、比較例の操業中における硫化水素添加当量は平均で4.02となり、実施例の操業中の硫化水素添加当量の平均3.54よりも増加した。このように、比較例では硫化水素ガスの使用量が増加したため、操業コストが増えてしまった。
【0076】
なお、硫化水素添加当量は、以下のように定義される。
硫化水素添加当量=[硫化水素吹き込み量(m/h)]/〔[流入亜鉛量(kg/h)]/[亜鉛原子量(g/mol)×22.4(L/mol)〕
【符号の説明】
【0077】
1 脱亜鉛処理設備
11 硫化反応槽(反応槽)
12 中継槽
13 濾過装置
14 系内回収槽
15 系外排出槽
図1
図2
図3