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特許6996439ワイヤハーネスの電線長補正装置、ワイヤハーネスの製造装置、ワイヤハーネスの電線長補正方法、及びワイヤハーネスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ワイヤハーネスの電線長補正装置、ワイヤハーネスの製造装置、ワイヤハーネスの電線長補正方法、及びワイヤハーネスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/012 20060101AFI20220107BHJP
   H01B 7/36 20060101ALI20220107BHJP
   H01B 13/34 20060101ALI20220107BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220107BHJP
   H02G 1/06 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
H01B13/012 Z
H01B7/36 A
H01B13/34 A
H01B13/00 D
H02G1/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018132513
(22)【出願日】2018-07-12
(65)【公開番号】P2020009721
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 賢司
(72)【発明者】
【氏名】山本 来布
(72)【発明者】
【氏名】青木 克樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓実
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-011778(JP,A)
【文献】特開2018-055974(JP,A)
【文献】特開2015-074526(JP,A)
【文献】米国特許第06330746(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/012
H01B 7/36
H01B 13/34
H01B 13/00
H02G 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスに含まれる電線の電線長の設計値を補正する装置であって、
前記電線の端部に付された識別票を含み、前記ワイヤハーネスを布設対象に布設する際に切除され、前記電線から切り離された切れ端がどの電線から切り離されたものかを前記識別票を用いて特定する電線特定手段と、
前記切れ端の長さを測定する測定手段と、
前記電線特定手段により特定した電線に対し、前記測定手段により測定した前記切れ端の長さを基に、当該電線の電線長の設計値を補正する補正手段と、を備えた、
ワイヤハーネスの電線長補正装置。
【請求項2】
前記識別票は、前記電線の端部であって、前記切れ端にあたる部分に付される、
請求項1に記載のワイヤハーネスの電線長補正装置。
【請求項3】
前記識別票がバーコード、あるいは二次元コードを有し、
前記電線特定手段は、前記バーコード、あるいは前記二次元コードを読み込むコードリーダを含む、
請求項1または2に記載のワイヤハーネスの電線長補正装置。
【請求項4】
前記測定手段は、
前記切れ端の質量を測定する質量計と、
前記質量計により測定した質量を基に、前記切れ端の長さを演算する切れ端長さ演算部と、を含む、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のワイヤハーネスの電線長補正装置。
【請求項5】
前記電線特定手段は、前記識別票を用いて、前記電線の種類を特定するように構成されており、
前記測定手段は、
前記電線の種類毎に、「電線の質量と長さの関係」が予め記憶された記憶部を含み、
前記切れ端長さ演算部は、
前記質量計により測定した前記切れ端の質量と、
前記電線特定手段により特定した前記電線の種類と、
前記記憶部により予め記憶された「電線の質量と長さの関係」と、
を基に、前記切れ端の長さを演算する、
請求項4に記載のワイヤハーネスの電線長補正装置。
【請求項6】
ワイヤハーネスに含まれる電線の電線長の設計値を含む作業レシピ情報を記憶する記憶部と、
前記電線を前記電線長の設計値にて設定された長さに切断する電線切断機と、を備えたワイヤハーネスの製造装置であって、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のワイヤハーネスの電線長補正装置を備え、
前記補正手段は、前記作業レシピ情報の前記電線長の設計値を補正する、
ワイヤハーネスの製造装置。
【請求項7】
ワイヤハーネスに含まれる電線の電線長の設計値を補正する方法であって、
前記電線の端部に識別票を付しておき、前記ワイヤハーネスを布設対象に布設する際に切除され、前記電線から切り離された切れ端がどの電線から切り離されたものかを前記識別票を用いて特定すると共に、
前記電線の切れ端の長さを測定し、
前記特定した電線に対し、前記測定した切れ端の長さを基に、当該電線の電線長の設計値を補正する、
ワイヤハーネスの電線長補正方法。
【請求項8】
ワイヤハーネスに含まれる電線の電線長の設計値を含む作業レシピ情報を記憶しておき、
前記電線を前記電線長の設計値にて設定された長さに切断するワイヤハーネスの製造方法であって、
請求項7に記載のワイヤハーネスの電線長補正方法により、前記作業レシピ情報の前記電線長の設計値を補正する、
ワイヤハーネスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスの電線長補正装置、ワイヤハーネスの製造装置、ワイヤハーネスの電線長補正方法、及びワイヤハーネスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電車等に用いられるワイヤハーネスは、複数の電線を束ねて構成されている。ワイヤハーネスを製造する際には、予め設定した電線長となるように各電線を切断し、各電線を原寸図、あるいは画像に沿って布線し、布線した電線や電線束の所定位置に付属部品を取り付けてワイヤハーネスの製造を行う(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0064121A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ワイヤハーネスの設計時には、各電線の電線長の設計値は長めに設定されること(各電線の余長部分が長めに設定されること)が多い。これは、例えば、後に設計変更等(例えば、ワイヤハーネスを接続する機器の位置変更等)の布設状況に変化があった際に、電線長が不足してしまうことを抑制するためである。しかし、通常、電線の余長部分は、切除され廃棄されるものであり、上述したような布設状況の変化がない場合には、長めに設定された電線の余長部分は無駄となってしまう。このように、従来のワイヤハーネスは無駄が多く、それによりコストの上昇を招いていた。
【0005】
そこで、本発明は、電線を適切な電線長に補正可能なワイヤハーネスの電線長補正装置、ワイヤハーネスの製造装置、ワイヤハーネスの電線長補正方法、及びワイヤハーネスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、ワイヤハーネスに含まれる電線の電線長の設計値を補正する装置であって、前記電線の端部に付された識別票を含み、前記ワイヤハーネスを布設対象に布設する際に切除され、前記電線から切り離された切れ端がどの電線から切り離されたものかを前記識別票を用いて特定する電線特定手段と、前記切れ端の長さを測定する測定手段と、前記電線特定手段により特定した電線に対し、前記測定手段により測定した前記切れ端の長さを基に、当該電線の電線長の設計値を補正する補正手段と、を備えた、ワイヤハーネスの電線長補正装置を提供する。
【0007】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、ワイヤハーネスに含まれる電線の電線長の設計値を含む作業レシピ情報を記憶する設計情報記憶部と、前記電線を前記電線長の設計値にて設定された長さに切断する電線切断機と、を備えたワイヤハーネスの製造装置であって、前記ワイヤハーネスの電線長補正装置を備え、前記補正手段は、前記設計情報記憶部に前記作業レシピ情報として記憶された前記電線長の設計値を補正する、ワイヤハーネスの製造装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、ワイヤハーネスに含まれる電線の電線長の設計値を補正する方法であって、前記電線の端部に識別票を付しておき、前記ワイヤハーネスを布設対象に布設する際に切除され、前記電線から切り離された切れ端がどの電線から切り離されたものかを前記識別票を用いて特定すると共に、前記電線の切れ端の長さを測定し、前記特定した電線に対し、前記測定した切れ端の長さを基に、当該電線の電線長の設計値を補正する、ワイヤハーネスの電線長補正方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、ワイヤハーネスに含まれる電線の電線長の設計値を含む作業レシピ情報を記憶しておき、前記電線を前記電線長の設計値にて設定された長さに切断するワイヤハーネスの製造方法であって、前記ワイヤハーネスの電線長補正方法により、前記作業レシピ情報の前記電線長の設計値を補正する、ワイヤハーネスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電線を適切な電線長に補正可能なワイヤハーネスの電線長補正装置、ワイヤハーネスの製造装置、ワイヤハーネスの電線長補正方法、及びワイヤハーネスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係るワイヤハーネスの製造装置を示す概略構成図である。
図2】制御装置の入出力を示すブロック図である。
図3】作業レシピ情報の一例を示す図である。
図4】リングマークとマークテープを付した電線の端部を示す図である。
図5】電線の質量と重さの関係の一例を示す図である。
図6】ワイヤハーネスの電線長補正装置の制御フローを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
(ワイヤハーネスの製造装置)
図1は、本実施の形態に係るワイヤハーネスの製造装置を示す概略構成図である。本実施の形態で製造するワイヤハーネスは、例えば、電車の機器間配線に用いられるものである。図2は、制御装置の入出力を示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、ワイヤハーネスの製造装置10は、電線供給装置12と、電線供給装置12から供給された電線11を切断する電線切断機13と、実寸大の布線画像を表示する表示器14を有する作業台15と、電線供給装置12や電線切断機13の制御、及び表示器14の表示制御等を行う制御装置16と、を備えている。
【0015】
電線供給装置12は、電線11が巻き付けられたリール121と、リール121を回転可能に支持する支持部材122と、リール121から供給された電線11の先端部を保持してレール124上を走行し電線11を搬送する(引き出す)搬送ロボット125と、を有している。レール124は、長手方向に沿って、かつ、作業台15の上方に設けられており、支持板126を介して作業台15に固定されている。電線切断機13は、内蔵された切断刃(不図示)を用い、搬送ロボット125により引き出された電線11を切断する。
【0016】
作業台15は、電線11の布線作業を行い、ワイヤハーネスを製造するための台であり、その上面に、実寸大の布線画像を表示する液晶ディスプレイ等の表示器14が設けられている。なお、例えば、数10mと長いワイヤハーネスを製造する場合には、複数の表示器14を並べて配置してもよい。また、表示器14を保護するために、表示器14上にアクリル等の透明な部材からなる保護用板を載置してもよい。電線切断機13で切断された電線11を、順次、表示器14に表示された布線画像に沿わせるように配置(布線)し、テープ巻き、保護材の装着等を行うことで、ワイヤハーネスの製造が行われる。
【0017】
制御装置16は、電線供給装置12や電線切断機13の制御、表示器14の表示制御等を行うものであり、演算素子、メモリ、インターフェイス、ハードディスク、ソフトウェア等を適宜組み合わせて実現されている。本実施の形態では、制御装置16は、パーソナルコンピュータを用いて構成されている。
【0018】
制御装置16は、布線画像データ171、作業レシピ情報172等を記憶する記憶部17を有している。布線画像データ171は、表示器14に表示する布線画像の画像データである。作業レシピ情報172は、電線11の布線順序を時系列で並べたデータベースである。
【0019】
図3に示すように、作業レシピ情報172では、例えば、各電線11の両端部それぞれについて(From及びTo)、接続先を示すエリアラベル(Area label)、端部の位置を示すサイド(Side)、後述するポップアップバーコードの表示位置を示す座標情報(X及びY)、後述するリングマークの番号(Ring mark)等が設定されている。また、作業レシピ情報172では、各電線11の電線長の設計値(length)、電線11の種類(Cable Part No.)が設定されている。なお、作業レシピ情報172の具体的な内容については、これに限定されるものではなく、適宜設定可能である。
【0020】
図2に示されるように、制御装置16は、作業台15の表示器14の表示制御を行う表示制御部161と、電線11の切断制御を行う電線切断制御部162と、電線11の端部に取り付ける識別票の印刷制御を行う印刷制御部163と、を有している。制御装置16には、作業台15の表示器14、布線作業用コードリーダ19、搬送ロボット125、電線切断機13、及びプリンタ18が接続されている。
【0021】
表示制御部161は、記憶部17に記憶された布線画像データ171を基に、表示器14に、ワイヤハーネスを構成する各電線の原寸大の布線画像を表示する。本実施の形態では、表示制御部161は、ポップアップコード表示部161aを有している。ポップアップコード表示部161aは、作業レシピ情報172を基に、現在、布線を行っている電線11を特定可能なバーコード(ポップアップバーコード)を生成し、生成したバーコードを、表示器14における作業レシピ情報172の座標情報で指定された座標に表示する。電線11には端部が2つ存在するため、本実施の形態では、表示器14における電線11の両端部の付近にそれぞれバーコードを表示するようにしている。なお、作業レシピ情報172に予めバーコードの画像情報を記憶させておき、その画像情報を取得して指定座標にバーコードを表示するようポップアップコード表示部161aを構成してもよい。また、ポップアップコード表示部161aは、バーコード以外の二次元コードを表示してもよい。
【0022】
電線切断制御部162は、電線供給装置12及び電線切断機13を用いて、電線11を指定の長さに切断する切断制御を行う。電線切断制御部162は、作業レシピ情報172から、電線11の種類、電線長の設計値を取得し、取得した種類の電線11を搬送ロボット125よって所定長さ引き出し、電線切断機13により引き出した電線11を切断することで、電線長の設計値で指定された長さの電線11を得る。なお、電線11は、線状の導体の外周に絶縁体を被覆したものであるが、電線11は、例えば、LANケーブルのように、複数本の線状の導体の外周にそれぞれ絶縁体を被覆し、それらを外部シースで一括被覆し一体化したものであってもよい。ここで、絶縁体は、絶縁性の樹脂からなり、1層もしくは複数層であってもよい。外部シースは、絶縁体の間を埋めるように充実式押出しにより形成されてもよいし、チューブ状であってもよい。
【0023】
印刷制御部163は、電線11の端部に取り付ける識別票の印刷制御を行い、接続されるプリンタ18で識別票を印刷する。本実施の形態では、電線11の両端に識別票を取り付けるため、作業台15の両端にそれぞれプリンタ18を配置している(図1参照)。また、本実施の形態では、プリンタ18を用いて、識別票としてのリングマーク、及び、電線11を特定可能な二次元コード(QRコード(登録商標))が付されたマークテープを印刷する。
【0024】
図4に示すように、プリンタ18で印刷されたリングマーク181及びマークテープ182は、各電線11の両端部にそれぞれ付される。本実施の形態では、マークテープ182に二次元コード182aを印刷しているが、マークテープ182にバーコードを印刷してもよい。リングマーク181及びマークテープ182は、ワイヤハーネスの製造(布線作業)の際における電線11の照会や、電車等への布設(ぎ装)の際における電線11の特定のために用いられる。さらに、マークテープ182は、本発明の電線特定手段の一部を構成するものであり、ぎ装時に切断された切れ端がどの電線11であるか特定するためにも用いられる。
【0025】
なお、本実施の形態では、識別票としてリングマーク181及びマークテープ182を用いたが、例えばリングマーク181を省略してマークテープ182のみとしてもよい。また、識別票として、ICタグ、RFIDタグ等を用いることも当然に可能である。
【0026】
表示制御部161は、ワイヤハーネスの製造を開始する際において、例えば、布線作業用コードリーダ19により作業者が有する作業者特定用コードが読み取られると、表示器14に布線画像を表示する。このとき、ポップアップコード表示部161aは、作業レシピ情報172を参照して、最初に布線する電線11のバーコードを表示器14の指定座標に表示する。また、電線切断制御部162は、作業レシピ情報172を参照し、最初に布線する電線11を指定の電線長に切断する。さらに、印刷制御部163は、作業レシピ情報172を参照して、布線する電線11のリングマーク181及びマークテープ182をプリンタ18で印刷する。作業者は、表示器14に表示された布線画像に沿って電線11を布線し、電線11の両端部それぞれにリングマーク181及びマークテープ182を取り付ける。
【0027】
最初の電線11の布線後、作業者は、布線作業用コードリーダ19によりマークテープ182に付された二次元コード182aを読み取ると共に、表示器14に表示されたバーコードを読み取る。表示制御部161は、布線作業用コードリーダ19によりマークテープ182に付された二次元コード182a、及び表示器14に表示されたバーコードが読み取られると、当該電線11の布線が完了したと判断して、次の電線11のバーコードを表示器14に表示する。このとき、電線切断制御部162は、作業レシピ情報172を参照し、次に布線する電線11を指定の電線長に切断する。また、印刷制御部163は、作業レシピ情報172を参照して、次に布線する電線11のリングマーク181及びマークテープ182をプリンタ18で印刷する。以上の作業を繰り返すことにより、ワイヤハーネスの製造(布線作業)が行われる。布線作業の完了後、テープ巻きや保護材の取り付け工程を経て、ワイヤハーネスが製造される。
【0028】
(ワイヤハーネスの電線長補正装置)
ワイヤハーネスの製造装置10は、本実施の形態に係るワイヤハーネスの電線長補正装置1を備えている。ワイヤハーネスの電線長補正装置1は、ワイヤハーネスに含まれる複数の電線11それぞれについて、ワイヤハーネスの製造する際に用いる電線長の設計値を補正する装置である。
【0029】
ワイヤハーネスでは、後の設計変更等に対応するために、各電線11の電線長の設計値は長めに設定されている。そのため、ワイヤハーネスを実際に電車等の布設対象に予め定められた布設経路に沿って布設する作業を行う際には、電線11の端部を切断して適切な長さに調整し、機器への接続等の作業を行うことになる。本実施の形態に係るワイヤハーネスの電線長補正装置1では、ワイヤハーネスを実際に布設する際に生じる電線11の切れ端を利用して、次回、製造するワイヤハーネスにおける各電線11の電線長を適切な長さに補正するものである。
【0030】
ワイヤハーネスの電線長補正装置1は、電線特定手段2と、測定手段3と、補正手段4と、を備えている。
【0031】
電線特定手段2は、複数の電線11の端部にそれぞれ付された識別票(ここではマークテープ182)を含み、ワイヤハーネスを布設対象に布設する際に切除され、電線11から切り離された切れ端がどの電線から切り離されたものかを識別票(マークテープ182)を用いて特定するものである。マークテープ182は、本来、ワイヤハーネスの製造(布線作業)における電線11の照会、及び、電車等への布設時における電線11の特定に用いられるものであるが、本実施の形態に係るワイヤハーネスの電線長補正装置1では、このマークテープ182を利用して、切れ端がどの電線11であるかを特定している。
【0032】
電線特定手段2は、マークテープ182に付された二次元コード182aを読み取るコードリーダ21と、コードリーダ21で読み取った二次元コード182aのコード情報を基に、電線11を特定する電線特定部22と、を有している。コードリーダ21は、制御装置16に接続されており、電線特定部22は、制御装置16に搭載されている。なお、コードリーダ21と布線作業用コードリーダ19とを共通のコードリーダで構成してもよい。
【0033】
本実施の形態では、二次元コード182aのコード情報に、電線11を特定する情報(リングマーク181の番号等)及び電線11の種類等の情報が含まれており、電線特定部22は、コード情報から電線11を特定する情報、及び電線11の種類の情報を抽出することにより、電線11の特定、及び電線11の種類の特定を行うように構成されている。ただし、これに限らず、二次元コードに含まれた情報(電線11の種類を特定する情報)を基に、作業レシピ情報172を参照して、電線11の種類等の情報を得るように電線特定部22を構成してもよい。また、二次元コード182aには、電線11のどちらの端部であるかという情報が含まれてもよく、電線特定部22は、切れ端が電線11のどちらの端部であるかを特定するように構成されてもよい。
【0034】
測定手段3は、電線11の切れ端の長さを測定するものである。本実施の形態では、測定手段3は、電線11の切れ端の質量(重さ)を測定する質量計31と、質量計31により測定した質量を基に、切れ端の長さを演算する切れ端長さ演算部32と、を有している。質量計31としては、測定した質量に対応する信号を出力可能な電子式のものを用いることが望ましい。本実施の形態では、質量計31は制御装置16に接続されており、質量計31で測定した質量に対応する信号が制御装置16に入力されるようになっている。切れ端長さ演算部32は、制御装置16に搭載されている。
【0035】
本実施の形態では、電線11の種類毎に、「電線の質量と長さの関係」173を予め記憶部17に記憶しておく。「電線の質量と長さの関係」173は、関係式で表されるものであってもよいし、マップ形式で表されるものであってもよい。「電線の質量と長さの関係」173の一例を図5に示す。図5に示すように、電線11の質量と長さとは、ほぼ比例関係となっている。図5では、製造上の外径ばらつきを考慮し、最小外径時と最大外径時の「電線の質量と長さの関係」173を表している。切れ端の長さを実際よりも長く評価してしまうと、電線11の長さが足りなくなるおそれがあるため、製造公差を考慮した最大外径時の「電線の質量と長さの関係」173を用いて、電線11の切れ端の長さを求めることがより望ましいといえる。
【0036】
切れ端長さ演算部32は、質量計31により測定した切れ端の質量と、電線特定手段2により特定した電線11の種類と、記憶部17により予め記憶された「電線の質量と長さの関係」173と、を基に、切れ端の長さを演算する。ここでは、切れ端長さ演算部32は、コードリーダ21で二次元コード182aの読み込みが行われた際の質量計31の出力値、すなわち電線11の切れ端の質量と、電線特定手段2が特定した電線11の種類に対応した「電線の質量と長さの関係」173と、を基に切れ端の長さを演算する。本実施の形態では、作業の手間を省くために、コードリーダ21による二次元コード182aの読込をトリガとして質量の測定を行っている。作業者は、電線11の切れ端を質量計31に載せて、コードリーダ21で二次元コード182aの読み込みを行う作業を、全ての電線11の切れ端について繰り返し行う。なお、例えば、質量の測定のトリガとなるボタンを質量計31に設けたり、制御装置16で行う特定の操作をトリガとして質量の測定を行ったりしてもよい。
【0037】
また、本実施の形態では、電線11の切れ端の質量を測定し、測定した質量を長さに換算することで電線11の切れ端の長さを得るように測定手段3を構成したが、測定手段3において電線11の切れ端の長さを得る方法は、これに限定されない。例えば、カメラで電線11の切れ端を撮像し、撮像した画像を適宜画像処理することで電線11の切れ端の長さを得るように測定手段3を構成してもよい。また、電子式のゲージを用いる等して、電線11の長さを直接測定するようにしてもよい。ただし、システム構成が簡単で安価であり、かつ素早く測定できるという観点から、本実施の形態のように、電線11の切れ端の質量を測定し、質量を長さに換算する方式とすることが、より望ましいといえる。
【0038】
補正手段4としての補正部41は、制御装置16に搭載されており、測定手段3で得た電線11の切れ端の長さを基に、当該電線11の電線長の設計値を補正する。本実施の形態では、補正部41は、作業レシピ情報172の電線長の設計値(図3におけるlength)を補正する。より具体的には、補正部41は、現在の電線長の設計値から、切れ端の長さを減じた値を、補正後の電線長の設計値として作業レシピ情報172に記憶する。
【0039】
なお、補正部41による補正の方法はこれに限定されるものではない。例えば、切れ端の長さに1以下の所定の係数を掛け合わせた値を、現在の電線長の設計値から減じるように補正部41を構成してもよい。これにより、電線11が短くなりすぎることを抑制できる。
【0040】
また、補正部41は、電線11の両端部において補正を行った長さ(補正長さという)をそれぞれ作業レシピ情報172に記憶するようにしてもよい。分岐部分を有するワイヤハーネスでは、各電線11の全体の長さだけでなく、分岐部分からの長さが所望の値となることが望まれるが、電線11の両端部の補正長さを作業レシピ情報172に記憶しておくことで、電線11の分岐部分からの長さを適切な長さに調整することが可能になる。例えば、電線11の布線作業時に、表示器14に表示された布線画像上に、両端部の補正長さを表示する(例えば、-10cm等の表示を行う)ように表示制御部161を構成すれば、布線画像を修正せずとも、電線11の両端部を適切な位置に設定することが可能になる。
【0041】
本実施の形態では、電線特定部22、切れ端長さ演算部32、及び補正部41を、ワイヤハーネスの製造装置10の制御装置16に搭載する場合について説明したが、これに限らず、制御装置16とは別体の専用の装置に、電線特定部22、切れ端長さ演算部32、及び補正部41の全部、または一部を搭載してもよい。この場合、制御装置16と専用の装置とをインターネットやイントラネット等のネットワークを介して接続し、制御装置16と専用の装置とがネットワークを介して情報をやりとりすることで、電線長の設計値の補正を行ってもよい。
【0042】
(ワイヤハーネスの電線長補正装置1の制御フロー)
図6は、ワイヤハーネスの電線長補正装置1の制御フローを示すフロー図である。ワイヤハーネスの電線長補正装置1では、布設(ぎ装)の作業後に得られた電線11の切れ端全てに対して、図6のフローを繰り返し行うことで、電線長の設計値の補正を行う。
【0043】
図6に示すように、まず、ステップS1にて、電線特定部22が、コードリーダ21によりマークテープ182の二次元コードが読み込まれたかを判定する。ステップS1でNoと判定されたら、ステップS1に戻る。ステップS1でYesと判定されたら、ステップS2に進む。
【0044】
ステップS2では、電線特定部22が、二次元コードのコード情報を取得する。また、切れ端長さ演算部32が、質量計31から質量の情報を取得する。その後、ステップS3にて、電線特定部22が、ステップS2で得たコード情報から、切れ端がいずれの電線11であるかを特定すると共に、電線11の種類を特定する。
【0045】
その後、ステップS4にて、切れ端長さ演算部32が、ステップS3で特定した電線11の種類に対応する「電線の質量と長さの関係」173を抽出する。その後、ステップS5にて、切れ端長さ演算部32が、ステップS2で得た質量の情報と、ステップS4で得た「電線の質量と長さの関係」173とを基に、切れ端の長さを演算する。
【0046】
その後、ステップS6にて、補正部41が、ステップS3で特定した電線11の作業レシピ情報172を抽出すると共に、当該作業レシピ情報の電線長の設計値から、ステップS5で得た切れ端の長さを減じて補正後の電線長の設計値を演算し、補正後の電線長の設計値を作業レシピ情報172に記憶する。その後、処理を終了し、次の電線11の切れ端の処理を開始する。
【0047】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るワイヤハーネスの電線長補正装置1では、複数の電線11の端部にそれぞれ付された識別票(ここではマークテープ182)を含み、ワイヤハーネスを布設対象に布設する際に切除され、電線11から切り離された切れ端がどの電線11から切り離されたものかを識別票(マークテープ182)を用いて特定する電線特定手段2と、切れ端の長さを測定する測定手段3と、電線特定手段2により特定した電線に対し、測定手段3により測定した切れ端の長さを基に、当該電線11の電線長の設計値を補正する補正手段4と、を備えている。
【0048】
これにより、無駄となる電線11の切れ端の長さを設計値にフィードバックして、電線11の電線長を適正な長さに補正することが可能となる。その結果、電線屑の低減、及び電線屑の処理費用を低減することでワイヤハーネスの低コスト化を実現できる。例えば電車においては、1万本以上の電線11が使用されていることもあり、電線11の無駄を無くすことの効果は非常に大きいといえる。また、各電線11の電線長を適切な長さに補正することにより、ワイヤハーネスを電車等の布設対象に布設する際に、電線11の端部を切除する作業を省略することも可能となり、ワイヤハーネスの布設作業の作業性も向上させることができる。
【0049】
さらに、ワイヤハーネスの電線長補正装置1を備えたワイヤハーネスの製造装置10を用いることで、最初の電線11の電線長の設計値をある程度長めに設定しておき、実際の布設(ぎ装)後に適正な電線長に調整するといった方式をとることが可能になる。そのため、例えば、適用する電車の車体の設計が完全ではなく、機器の位置が明確に定まっていない段階においても、ワイヤハーネスを設計・製造することが可能となり、タイトな製造スケジュールにも対応し易くなる。
【0050】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0051】
[1]ワイヤハーネスに含まれる電線(11)の電線長の設計値を補正する装置であって、前記電線(11)の端部に付された識別票(182)を含み、前記ワイヤハーネスを布設対象に布設する際に切除され、前記電線(11)から切り離された切れ端がどの電線(11)から切り離されたものかを前記識別票(182)を用いて特定する電線特定手段(2)と、前記切れ端の長さを測定する測定手段(3)と、前記電線特定手段(2)により特定した電線(11)に対し、前記測定手段(3)により測定した前記切れ端の長さを基に、当該電線(11)の電線長の設計値を補正する補正手段(4)と、を備えた、ワイヤハーネスの電線長補正装置(1)。
【0052】
[2]前記識別票(182)は、前記電線(11)の端部であって、前記切れ端にあたる部分に付される、[1]に記載のワイヤハーネスの電線長補正装置(1)。
【0053】
[3]前記識別票(182)がバーコード、あるいは二次元コード(182a)を有し、前記電線特定手段(4)は、前記バーコード、あるいは前記二次元コード(182a)を読み込むコードリーダ(21)を含む、[1]または[2]に記載のワイヤハーネスの電線長補正装置(1)。
【0054】
[4]前記測定手段(3)は、前記切れ端の質量を測定する質量計(31)と、前記質量計(31)により測定した質量を基に、前記切れ端の長さを演算する切れ端長さ演算部(32)と、を含む、[1]乃至[3]の何れか1項に記載のワイヤハーネスの電線長補正装置(1)。
【0055】
[5]前記電線特定手段(2)は、前記識別票(182)を用いて、前記電線(11)の種類を特定するように構成されており、前記測定手段(3)は、前記電線の種類毎に、「電線の質量と長さの関係」(173)が予め記憶された記憶部(17)を含み、前記切れ端長さ演算部(32)は、前記質量計(31)により測定した前記切れ端の質量と、前記電線部特定手段(2)により特定した前記電線(11)の種類と、前記記憶部により予め記憶された「電線の質量と長さの関係」(173)と、を基に、前記切れ端の長さを演算する、[4]に記載のワイヤハーネスの電線長補正装置(1)。
【0056】
[6]ワイヤハーネスに含まれる電線(11)の電線長の設計値を含む作業レシピ情報(172)を記憶する記憶部(17)と、前記電線(11)を前記電線長の設計値にて設定された長さに切断する電線切断機(13)と、を備えたワイヤハーネスの製造装置(10)であって、[1]乃至[5]の何れか1項に記載のワイヤハーネスの電線長補正装置(1)を備え、前記補正手段(4)は、前記作業レシピ情報(172)の前記電線長の設計値を補正する、ワイヤハーネスの製造装置(10)。
【0057】
[7]ワイヤハーネスに含まれる電線(11)の前記ワイヤハーネスの製造時に用いる電線長の設計値を補正する方法であって、前記電線(11)の端部に識別票(182)を付しておき、前記ワイヤハーネスを布設対象に布設する際に切除され、前記電線(11)から切り離された切れ端がどの電線(11)から切り離されたものかを前記識別票(182)を用いて特定すると共に、前記電線(11)の切れ端の長さを測定し、前記特定した電線(11)に対し、前記測定した切れ端の長さを基に、当該電線(11)の電線長の設計値を補正する、ワイヤハーネスの電線長補正方法。
【0058】
[8]ワイヤハーネスに含まれる電線(11)の電線長の設計値を含む作業レシピ情報(172)を記憶しておき、前記電線(11)を前記電線長の設計値にて設定された長さに切断するワイヤハーネスの製造方法であって、[7]に記載のワイヤハーネスの電線長補正方法により、前記作業レシピ情報(172)の前記電線長の設計値を補正する、ワイヤハーネスの製造方法。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0060】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、コードリーダ21及び質量計31を制御装置16に接続し、制御装置16で直接コード情報の読み取りや質量の測定を行ったが、コード情報の読み取りや質量の測定は、制御装置16と異なる装置で行ってもよい。例えば、タブレットやノートパソコン等のモバイル端末に、コードリーダ21と質量計31とを接続して、コードリーダ21で読み込んだ情報と、質量計31で読み込んだ質量の情報を基にモバイル端末上でデータベースを作成するようにしてもよい。この場合、電線特定部22は、データベース中のコード情報から各電線11の特定を行うとよく、切れ端長さ演算部32は、データベース中の質量の情報を基に、切れ端の長さを演算するとよい。
【0061】
また、例えば、上記実施の形態では、ワイヤハーネスを布設対象に布設する際に切除され、電線11から切り離された切れ端の方に、識別票(マークテープ182)を付しているが、逆に、当該切れ端が切り離された後の電線11の端部に、識別票(マークテープ182)を付してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…ワイヤハーネスの電線長補正装置
2…電線特定手段
21…コードリーダ
22…電線特定部
3…測定手段
31…質量計
32…演算部
4…補正手段
41…補正部
10…ワイヤハーネスの製造装置
11…電線
12…電線供給装置
13…電線切断機
14…表示器
15…作業台
16…制御装置
17…記憶部
172…作業レシピ情報
173…電線の質量と長さの関係
182…マークテープ(識別票)
182a…二次元コード
図1
図2
図3
図4
図5
図6