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特許6996495塩化アルカリ電解用イオン交換膜、その製造方法、及び塩化アルカリ電解装置
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  • 特許-塩化アルカリ電解用イオン交換膜、その製造方法、及び塩化アルカリ電解装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】塩化アルカリ電解用イオン交換膜、その製造方法、及び塩化アルカリ電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/08 20060101AFI20220107BHJP
   C25B 1/46 20060101ALI20220107BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220107BHJP
   C25B 1/26 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C25B13/08 303
C25B1/46
C25B9/00 E
C25B1/26 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018512074
(86)(22)【出願日】2017-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2017015158
(87)【国際公開番号】W WO2017179664
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2016080157
(32)【優先日】2016-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山木 泰
(72)【発明者】
【氏名】金子 隆之
(72)【発明者】
【氏名】草野 博光
(72)【発明者】
【氏名】西尾 拓久央
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027862(WO,A1)
【文献】特開2014-58707(JP,A)
【文献】特開平6-33281(JP,A)
【文献】特開昭61-166991(JP,A)
【文献】特開昭54-11098(JP,A)
【文献】須藤雅夫ほか,イオン交換膜の膜伝導度測定法の比較,日本海水学会誌,1995年,第49巻 第6号,341-346ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/00
C25B 1/00
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化アルカリ電解用イオン交換膜であって、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)と、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)と、を有し、前記層(S)の中に補強糸を含む補強材が配置されており、
下記方法により測定される、前記層(S)の交流抵抗値Aと前記層(C)の交流抵抗値Bとが下記式を同時に満足することを特徴とする塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
1(Ω・cm)≦A≦10(Ω・cm
170(Ω・cm)≦B≦550(Ω・cm
(交流抵抗値の測定方法)
前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜を32質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、90℃で16時間加温保持した後、25℃の32質量%の水酸化ナトリウム水溶液に3時間浸漬後、有効通電面積1.77cmである交流抵抗測定セルに入れ、セル内に32質量%の水酸化ナトリウム水溶液を充填し、1000Hzの交流抵抗を用いて測定した液抵抗込みの抵抗値R(Ω)、および、セルから前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜を抜き取り、1000Hzの交流抵抗を用いて測定した液抵抗込みR(Ω)より、膜全体の交流抵抗RC+S(Ω・cm)を、
C+S=(R-R)×1.77
により求め、前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜から層(C)を剥がし、層(S)のみの状態とした後、上記と同様に測定した液抵抗込みの抵抗値RMS(Ω)および液抵抗RES(Ω)より、層(S)の交流抵抗値A(Ω・cm)を、
A=(RMS-RES)×1.77
により求め、層(C)の交流抵抗値B(Ω・cm)を、
B=RC+S-A
により求める。
【請求項2】
前記交流抵抗値Aと前記交流抵抗値Bとの比(A/B)が下記式を満足する、請求項1に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
A/B≦0.03
【請求項3】
前記層(C)の乾燥時の厚さが1~50μmであり、かつ前記層(S)の乾燥時の厚さが30~200μmである、請求項1又は2に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【請求項4】
層(S)を構成するスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの少なくとも一部が、下式(U1)で表される構成単位を有するポリマーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【化1】
[式中、Qはエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基であり、Qは単結合、又はエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基であり、Rf1はエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子、又は炭素原子であり、Xが酸素原子の場合、aは0であり、Xが窒素原子の場合、aは1であり、Xが炭素原子の場合、aは2であり、Yはフッ素原子、又は1価のパーフルオロ有機基であり、rは0又は1であり、Mは水素原子、アルカリ金属又は第4級アンモニウム塩基である。]
【請求項5】
式(U1)で表される構成単位が、式(m1)で表される構成単位である、請求項4に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【化2】
[式中、RF11は、単結合、またはエーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1~6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基であり、RF12は、炭素数1~6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基である。]
【請求項6】
少なくとも一方の最表面において、無機物粒子及びバインダーを含む無機物粒子層を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法であって、
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層(C’)と、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層(S’)と、該前駆体層(S’)中に配置された補強糸を含む補強材と、を有する強化前駆体膜を得る工程と、
前記強化前駆体膜とアルカリ水溶液とを接触させて、前記前駆体層(C’)中の前記カルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸型官能基に変換して前記層(C)を形成し、かつ、前記前駆体層(S’)中の前記スルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に変換して前記層(S)を形成して、前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜を得る工程と、を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜を得る工程において、
前記アルカリ水溶液として、第1アルカリ水溶液と、該第1アルカリ水溶液とは組成及び温度のうちの少なくとも一方が異なる第2アルカリ水溶液と、を準備して、
前記前駆体層(C’)を前記第1アルカリ水溶液に接触させ、前記前駆体層(S’)を前記第2アルカリ水溶液に接触させる、請求項7に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項9】
前記第1アルカリ水溶液がアルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤及び水を含有し、かつ、前記第1アルカリ水溶液(100質量%)中、前記アルカリ金属水酸化物の濃度が、1~60質量%であり、前記水溶性有機溶剤の濃度が1~60質量%であり、前記第2アルカリ水溶液がアルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤及び水を含有し、かつ、前記第2アルカリ水溶液(100質量%)中、前記アルカリ金属水酸化物の濃度が、1~60質量%であり、前記水溶性有機溶剤の濃度が、1~60質量%である、請求項8に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項10】
前記第1アルカリ水溶液の温度が30~95℃であり、前記第2アルカリ水溶液の温度が30~95℃である、請求項8又は9に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、請求項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項12】
前記水溶性有機溶剤が、非プロトン性有機溶剤、アルコール類及びアミノアルコール類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項13】
陰極と、陽極と、を備える電解槽と、請求項1~6のいずれか1項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜と、を有し、前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜が、前記陰極と前記陽極とを区切るように前記電解槽内に配置されており、
前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜の前記層(C)が前記陰極側に配置され、かつ、前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜の前記層(S)が前記陽極側に配置されている、塩化アルカリ電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化アルカリ電解用イオン交換膜、その製造方法、及び塩化アルカリ電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塩水等の塩化アルカリ水溶液を電解し、水酸化アルカリと塩素とを製造する塩化アルカリ電解法に用いられるイオン交換膜としては、イオン交換基(カルボン酸基又はカルボン酸塩基、スルホン酸基又はスルホン酸塩基など)を有する含フッ素ポリマーからなる電解質膜が知られている。
このようなイオン交換膜として、例えば、特許文献1には、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)、及び補強材を含み、層(S)に含まれる層(Sa)と層(Sb)のそれぞれのイオン交換容量が所定関係にある塩化アルカリ電解用イオン交換膜が開示されている(請求項1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/072506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記イオン交換膜は、陰極及び陽極を備えた電解槽を有する塩化アルカリ電解装置に用いられている。近年、上記塩化アルカリ電解装置の稼働にあたって、生産効率の一層の向上が求められている。
ここで、生産効率を表す指標として電力原単位が知られており、電力原単位が小さいほど生産効率に優れる。電力原単位は、電力使用量を生産量等で割った値から算出される。そのため、生産量当たりの電力使用量を低減できれば、電力原単位が小さくなって、生産効率が向上するといえる。また、電力原単位は、電解電圧を電流効率で割った値と相関関係にあるので、塩化アルカリの電解の際に電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くできれば、生産効率の向上につながる。
このような観点から、本発明者らは、特許文献1に記載のイオン交換膜を有する塩化アルカリ電解装置の検討を行ったところ、塩化アルカリの電解の際における電解電圧及び電流効率の少なくとも一方の点で、改善の余地があることを知見した。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、塩化アルカリの電解の際に、電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くできる塩化アルカリ電解用イオン交換膜、これの製造方法及びこれを用いた塩化アルカリ電解装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)と、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)と、を有する塩化アルカリ電解用イオン交換膜において、所定条件下における層(S)の交流抵抗値Aと層(C)の交流抵抗値Bとが所定範囲内にあることで、所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者は、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
[1]塩化アルカリ電解用イオン交換膜であって、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)と、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)と、を有し、前記層(S)の中に補強糸を含む補強材が配置されており、
前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜を32質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、90℃で16時間加温保持した後、25℃の32質量%水酸化ナトリウム水溶液に3時間浸漬後に測定される、前記層(S)の交流抵抗値Aと前記層(C)の交流抵抗値Bとが、下記式を同時に満足することを特徴とする塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
1(Ω・cm)≦A≦10(Ω・cm
170(Ω・cm)≦B≦550(Ω・cm
[2]前記交流抵抗値Aと前記交流抵抗値Bとの比(A/B)が下記式を満足する、[1]に記載のイオン交換膜。
A/B≦0.03
[3]前記層(C)の乾燥時の厚さが1~50μmであり、かつ、前記層(S)の乾燥時の厚さが30~200μmである、[1]又は[2]に記載のイオン交換膜。
[4]層(S)を構成するスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの少なくとも一部が、下式(U1)で表される構成単位を有するポリマーである、[1]~[3]のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
【0008】
【化1】
[式中、Qはエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基であり、Qは単結合、又はエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基であり、Rf1はエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子、又は炭素原子であり、Xが酸素原子の場合、aは0であり、Xが窒素原子の場合、aは1であり、Xが炭素原子の場合、aは2であり、Yはフッ素原子、又は1価のパーフルオロ有機基であり、rは0又は1であり、Mは水素原子、アルカリ金属又は第4級アンモニウム塩基である。]
[5]式(U1)で表される構成単位が、式(m1)で表されるモノマーに基づく構成単位である、[4]に記載のイオン交換膜。
【0009】
【化2】
[式中、RF11は、単結合、またはエーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1~6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基であり、RF12は、炭素数1~6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基である。]
[6]少なくとも一方の最表面において、無機物粒子及びバインダーを含む無機物粒子層をさらに有する、[1]~[5]のいずれか1つに記載のイオン交換膜。
[7][1]~[6]のいずれか1つに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法であって、
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層(C’)と、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層(S’)と、該前駆体層(S’)中に配置された補強糸を含む補強材と、を有する強化前駆体膜を得る工程と、
前記強化前駆体膜とアルカリ水溶液とを接触させて、前記前駆体層(C’)中の前記カルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸型官能基に変換して前記層(C)を形成し、かつ、前記前駆体層(S’)中の前記スルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に変換して前記層(S)を形成して、前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜を得る工程と、を含むことを特徴とする製造方法。
【0010】
[8]前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜を得る工程において、
前記アルカリ水溶液として、第1アルカリ水溶液と、該第1アルカリ水溶液とは組成及び温度のうちの少なくとも一方が異なる第2アルカリ水溶液と、を準備して、
前記前駆体層(C’)を前記第1アルカリ水溶液に接触させ、前記前駆体層(S’)を前記第2アルカリ水溶液に接触させる、[7]に記載の製造方法。
[9]前記第1アルカリ水溶液がアルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤及び水を含有し、かつ、前記第1アルカリ水溶液(100質量%)中、前記アルカリ金属水酸化物の濃度が、1~60質量%であり、前記水溶性有機溶剤の濃度が1~60質量%であり、前記第2アルカリ水溶液がアルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤及び水を含有し、かつ、前記第2アルカリ水溶液(100質量%)中、前記アルカリ金属水酸化物の濃度が、1~60質量%であり、前記水溶性有機溶剤の濃度が、1~60質量%である、[7]又は[8]に記載の製造方法。
[10]前記第1アルカリ水溶液の温度が30~95℃であり、前記第2アルカリ水溶液の温度が30~95℃である、[7]~[9]のいずれか1項に記載の製造方法。
[11]前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、[7]~[10]のいずれか1項に記載の製造方法。
[12]前記水溶性有機溶剤が、非プロトン性有機溶剤、アルコール類及びアミノアルコール類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[7]~[11]のいずれか1項に記載の製造方法。
[13]陰極と、陽極と、を備える電解槽と、[1]~[6]のいずれか1つに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜と、を有し、前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜が、前記陰極と前記陽極とを区切るように前記電解槽内に配置されており、
前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜の前記層(C)が前記陰極側に配置され、かつ、前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜の前記層(S)が前記陽極側に配置されている、塩化アルカリ電解装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塩化アルカリの電解の際に、電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くできる塩化アルカリ電解用イオン交換膜、これの製造方法及びこれを用いた塩化アルカリ電解装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の一例の模式断面図である。
図2】本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の一例の模式断面図である。
図3】本発明の塩化アルカリ電解装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の用語の定義は、特に断りのない限り、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「イオン交換基」とは、この基に含まれるイオンの少なくとも一部を、他のイオンに交換しうる基であり、下記のカルボン酸型官能基、スルホン酸型官能基等が挙げられる。
「カルボン酸型官能基」とは、カルボン酸基(-COOH)又はカルボン酸塩基(-COOM。Mはアルカリ金属又は第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「スルホン酸型官能基」とは、スルホン酸基(-SOH)又はスルホン酸塩基(-SO。但し、Mはアルカリ金属又は第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「前駆体層」とは、イオン交換基に変換できる基を有するポリマーを含む層(膜)である。
「イオン交換基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、イオン交換基に変換できる基を意味する。
「カルボン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
イオン交換容量の単位である「ミリ当量/グラム乾燥樹脂」は、「meq/g」と簡略化して記載される場合がある。
【0014】
「パーフルオロカーボンポリマー」とは、ポリマー中の炭素原子に結合している水素原子の全部がフッ素原子に置換されたポリマーを意味する。パーフルオロカーボンポリマー中のフッ素原子の一部は塩素原子及び臭素原子の一方又は両方で置換されていてもよい。
「パーフルオロモノマー」とは、モノマー中の炭素原子に結合している水素原子の全部がフッ素原子に置換されたモノマーを意味する。
「構成単位」とは、ポリマー中に存在してポリマーを構成する、モノマーに由来する重合単位を意味する。例えば、構成単位が炭素-炭素不飽和二重結合を有するモノマーの付加重合により生じる場合、このモノマーに由来する構成単位は、この不飽和二重結合が開裂して生じた2価の構成単位である。また、構成単位は、ある構成単位の構造を有するポリマーを形成した後に、この構成単位を化学的に変換、例えば加水分解処理して得られた構成単位であってもよい。なお、場合により、個々のモノマーに由来する構成単位を、そのモノマー名に「単位」を付した名称で記載することがある。
【0015】
「補強材」とは、イオン交換膜の強度を向上させるために用いられる材料を意味する。補強材は、補強布に由来する材料である。
「補強布」とは、イオン交換膜の強度を向上させるための補強材の原料として用いられる布を意味する。
「補強糸」とは、補強布を構成する糸であり、補強布をアルカリ性水溶液(例えば、濃度が32質量%の水酸化ナトリウム水溶液)に浸漬しても溶出することのない材料からなる糸である。
「犠牲糸」とは、補強布を構成する糸であり、補強布をアルカリ性水溶液に浸漬したときに、アルカリ性水溶液に溶出する材料からなる糸である。
「溶出孔」とは、犠牲糸がアルカリ性水溶液に溶出した結果、生成する孔を意味する。
「強化前駆体膜」とは、前駆体層中に補強布が配置された膜を意味する。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
[イオン交換膜]
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜(以下、イオン交換膜ともいう。)は、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー(以下、含フッ素ポリマー(C)ともいう。)を含む層(C)と、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー(以下、含フッ素ポリマー(S)ともいう。)を含む層(S)と、を有し、上記層(S)の中に補強糸を含む補強材が配置されており、上記塩化アルカリ電解用イオン交換膜を32質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、90℃で16時間加温した後、25℃の32質量%水酸化ナトリウム水溶液に3時間浸漬後に測定される、上記層(S)の交流抵抗値Aと上記層(C)の交流抵抗値Bとが、下記式を同時に満足する。
1(Ω・cm)≦A≦10(Ω・cm
170(Ω・cm)≦B≦550(Ω・cm
【0017】
ここで、塩化アルカリ電解装置において、イオン交換膜が配置される位置によって要求される性質が異なる。そのため、陽極側には、イオン交換容量の高いスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層が配置され、陰極側には、イオン交換容量の低いカルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層が配置される。
しかし、後述する実施例にも示すように、各層のイオン交換容量を所定の値に設定しただけでは、低電解電圧及び高電流効率を達成できない場合があることを、本発明者らは知見している。
そこで、本発明者らが各層の物性について検討を重ねたところ、イオン交換膜を構成する交流抵抗値が低電解電圧及び高電流効率の達成に密接に関連することを見出した。すなわち、本発明者らは、この交流抵抗値は、イオン交換膜を構成する各層の上述のイオン交換容量の他に、各層の厚さ、各層の含水量、イオン交換膜の製造時に使用するアルカリ水溶液の組成、及びアルカリ水溶液による処理温度などの複数の要素によって変化することを知見し、このような複数の要素を調整することで、本発明の効果を奏することができる層(S)の交流抵抗値Aと層(C)の交流抵抗値Bを設定するに至った。
【0018】
以下、本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜を図1及び図2に基づいて説明するが、本発明は図1及び図2の内容に限定されるものではない。
図1に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜1(以下、イオン交換膜1とも記す。)は、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーからなる電解質膜10が、補強材20で補強されたものである。
【0019】
〔電解質膜〕
電解質膜10は、層(C)12と、層(S)14とからなる積層体である。層(S)14の中に補強糸を含む補強材20が配置されている。
<層(C)>
層(C)12は、含フッ素ポリマー(C)を含む層であればよいが、電解性能の点から、含フッ素ポリマー(C)以外の材料を含まない含フッ素ポリマー(C)のみからなる層が好ましい。つまり、層(C)12は、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーからなる層であることが好ましい。
図1では、層12は単層として示されているが、複数の層から形成される層であってもよい。層12が複数の層から形成される場合、各層において、含フッ素ポリマー(C)を構成する構成単位の種類やカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合を異なる構成としてもよい。
【0020】
乾燥時の層12の厚さ(層12が複数の層から形成されている場合はその合計)は、1~50μmが好ましく、5~50μmがより好ましく、8~35μmがさらに好ましく、9~22μmが特に好ましい。
層12の厚さはイオン交換容量とともに、電解によって得られる水酸化アルカリ水溶液の苛性品質への影響が大きい。よって、その厚さが薄い場合は、塩化物イオンがイオン交換膜を透過しやすくなり、得られる水酸化アルカリ水溶液中の塩素濃度が上昇する。すなわち、その厚さが上記下限値以上であることが、高い苛性品質を保つ上で重要である。
一方、層12は電解電圧への影響も大きく、その厚さが厚いと電解電圧が大きく上昇してしまう。すなわち、その厚さが上記上限値以下であることが、イオン交換膜1の電気抵抗を低く抑えることができ、電解電圧の上昇を抑制する上で重要である。
また、層12の厚さは、交流抵抗値Bとの関連性が高く、その厚さが厚いと交流抵抗値Bが高くなり、その厚さが薄いと交流抵抗値Bが低くなる。したがって、その厚さが上記範囲内にあれば、交流抵抗値Bを所定範囲内に制御しやすくなる。
【0021】
層12を構成する含フッ素ポリマー(C)のイオン交換容量は、0.5~2.0meq/gが好ましく、0.8~2.0meq/gがより好ましく、0.85~1.10meq/gがさらに好ましく、0.95~1.10meq/gが最も好ましい。
なお、層12が複数の層から形成されている場合は、これを構成するすべての含フッ素ポリマー(C)のイオン交換容量が上記の範囲であることが好ましい。
含フッ素ポリマー(C)のイオン交換容量が上記下限値以上であれば、塩化アルカリ水溶液を電解する際のイオン交換膜の電気抵抗が低くなり、電解電圧が低いイオン交換膜が得られる。そのイオン交換容量が上記上限値以下であれば、分子量の高いポリマーの合成が容易であり、また、ポリマーの過度の膨潤が抑制でき、電流効率が低下しにくいイオン交換膜が得られる。また、そのイオン交換容量は、交流抵抗値Bとの関連性が高く、イオン交換容量を上記上限値以下にすると、交流抵抗値Bを所定範囲内に制御しやすくなる。
【0022】
含フッ素ポリマー(C)は、後述する塩化アルカリ電解用イオン交換膜を得る工程にて、後述する含フッ素ポリマーのカルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸型官能基に変換することによって得るのが好ましい。
含フッ素ポリマー(C)としては、例えば、カルボン酸型官能基に変換できる基及びフッ素原子を有するモノマー(以下、含フッ素モノマー(C’)とも言う。)と、含フッ素オレフィンと、の共重合体(以下、含フッ素ポリマー(C’)とも言う。)を加水分解処理して、カルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸型官能基に変換した含フッ素ポリマーが挙げられる。
【0023】
含フッ素モノマー(C’)としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつカルボン酸型官能基に変換できる基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来公知の化合物を用いることができる。
含フッ素モノマー(C’)としては、製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、下式(1)で表されるモノマーが好ましい。
【0024】
CF=CF-(O)-(CF-(CFCFX)-(O)-(CF-(CFCFX’)-A ・・・(1)
【0025】
式(1)における記号は以下を意味する。
X及びX’は、それぞれ独立して、フッ素原子又はトリフルオロメチル基である。
は、カルボン酸型官能基に変換できる基である。具体的には、-CN、-COF、-COOR(Rは炭素数1~10のアルキル基である。)、-COONR(R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である。)が挙げられる。
pは、0又は1である。qは、0~12である。rは、0~3である。sは、0又は1である。tは、0~12である。uは、0~3である。但し、1≦p+sであり、1≦r+uである。
【0026】
式(1)で表されるモノマーの具体例としては、下記のものが挙げられ、製造が容易である点から、p=1、q=0、r=1、s=0~1、t=0~3、u=0~1である化合物が好ましい。
CF=CF-O-CFCF-COOCH
CF=CF-O-CFCFCF-COOCH
CF=CF-O-CFCFCFCF-COOCH
CF=CF-O-CFCF-O-CFCF-COOCH
CF=CF-O-CFCF-O-CFCFCF-COOCH
CF=CF-O-CFCF-O-CFCFCFCF-COOCH
CF=CF-O-CFCFCF-O-CFCF-COOCH
CF=CF-O-CFCF(CF)-O-CFCF-COOCH
CF=CF-O-CFCF(CF)-O-CFCFCF-COOCH
含フッ素モノマー(C’)は、1種でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
含フッ素オレフィンとしては、例えば、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素数が2又は3のフルオロオレフィンが挙げられる。具体例としては、テトラフルオロエチレン(CF=CF)(以下、TFEと記す。)、クロロトリフルオロエチレン(CF=CFCl)、フッ化ビニリデン(CF=CH)、フッ化ビニル(CH=CHF)、ヘキサフルオロプロピレン(CF=CFCF)等が挙げられる。なかでも、製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。含フッ素オレフィンは、1種でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
含フッ素ポリマー(C’)の製造には、含フッ素モノマー(C’)及び含フッ素オレフィンに加えて、さらに他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、CF=CFR(但し、Rは炭素数2~10のパーフルオロアルキル基である。)、CF=CF-ORf1(但し、Rf1は炭素数1~10のパーフルオロアルキル基である。)、CF=CFO(CFCF=CF(但し、vは1~3の整数である。)等が挙げられる。他のモノマーを共重合させることによって、イオン交換膜の可撓性や機械的強度を上げることができる。
【0029】
含フッ素ポリマー(C)のイオン交換容量は、含フッ素ポリマー(C’)中の含フッ素モノマー(C’)に由来する構成単位の含有量を変化させることにより調整できる。含フッ素ポリマー(C)中のカルボン酸型官能基の含有量は、含フッ素ポリマー(C’)中のカルボン酸官能基に変換できる基の含有量と同一であることが好ましい。
【0030】
含フッ素ポリマー(C)のTQ値の範囲は、イオン交換膜としての機械的強度及び製膜性の点から、150~350℃が好ましく、170~300℃がより好ましく、200~250℃がさらに好ましい。TQ値は、ポリマーの分子量に関係する値であって、その測定法は後述されるが、TQ値が高いほど、高分子量であることを示す。
【0031】
<層(S)>
層(S)14としては、含フッ素ポリマー(S)を含む層であればよいが、電解性能の点から、含フッ素ポリマー(S)以外の材料を含まない含フッ素ポリマー(S)のみからなる層が好ましい。つまり、層14は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーからなる層であることが好ましい。
図1に示すように、層14中には、イオン交換膜1の機械的強度を高めるため、補強材20(後述)が配置されている。層14のうち、補強材20より層12側(電解装置中においては陰極側)に位置する層(すなわち、層12と接する面を含む層)が層(Sa)14Aであり、補強材20より層12側とは反対側(電解装置中においては陽極側)に位置する層(すなわち、層12と接する面とは反対側の面を含む層)が層(Sb)14Bである。
図1では、層14A及び層14Bはそれぞれ単層として示されているが、それぞれ複数の層から形成される層であってもよい。層14A及び層14Bの一方又は両方が複数の層から形成される場合、それぞれの各層において、含フッ素ポリマー(S)を構成する構成単位の種類やスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合を異なる構成としてもよい。
【0032】
乾燥時の層(S)14の厚さ(層14が複数の層から形成されている場合はその合計)は、30~200μmが好ましく、55~200μmがより好ましく、70~120μmがさらに好ましい。その厚さが上記下限値以上であれば、イオン交換膜1の機械的強度が十分に高くなる。その厚さが上記上限値以下であれば、イオン交換膜1の電気抵抗を低く抑えることができる。
また、層14の厚さは、交流抵抗値Aとの関連性が高く、その厚さが厚いと交流抵抗値Aが高くなり、その厚さが薄いと交流抵抗値Aが低くなる。したがって、層14の厚さが上記範囲内にあれば、交流抵抗値Aを所定範囲内に制御しやすくなる。
【0033】
乾燥時の層(Sa)14Aの厚さ(層14Aが複数の層から形成されている場合はその合計)は、30~140μmが好ましく、40~140μmがより好ましく、40~90μmがさらに好ましい。その厚さが上記下限値以上であれば、イオン交換膜1の機械的強度が十分に高くなる。その厚さが上記上限値以下であれば、イオン交換膜1の電気抵抗を低く抑えることができる。
機械的強度と電解電圧を両立させるためには、層14Aの厚さが上記範囲内にあることが非常に重要である。
また、層14Aの厚さは、交流抵抗値Aとの関連性が高く、その厚さが厚いと交流抵抗値Aが高くなり、乾燥時の層(Sa)14Aの厚さが薄いと交流抵抗値Aが低くなる。したがって、その厚さが上記範囲内にあれば、交流抵抗値Aを所定範囲内に制御しやすくなる。
【0034】
層(Sa)14Aを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、0.6~2.5ミリ当量/グラムが好ましく、0.9~1.2ミリmeq/gがより好ましい。層14Aが複数の層から形成されている場合は、それを構成するすべての含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記の範囲であることが好ましい。また、層14Aは複数の層からなることが好ましく、2層からなることがより好ましい。別の態様として、層14Aは単層であることが好ましい。
層14Aを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記下限値以上であれば、イオン交換膜の電気抵抗が低くなり、塩化アルカリ水溶液を電解する際の電解電圧を低くできる。また、上記イオン交換容量が上記上限値以下の含フッ素ポリマー(S)は、重合時に含フッ素ポリマー(S)の分子量をより高くすることが容易であり、より分子量の高い含フッ素ポリマー(S)を層(Sa)に使用することにより、層(Sa)の強度をより高くできる。
【0035】
乾燥時の層(Sb)14Bの厚さ(層4Bが複数の層から形成されている場合はその合計)は、5~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましく、10~40μmがさらに好ましい。その厚さが薄すぎると、層(Sb)14B直下にある補強材がイオン交換膜の表面に極めて近い場所に位置することとなり、剥離耐性や機械的強度への影響が大きくなる。よって、その厚さを上記下限値以上とすることにより、補強材20が電解質膜10の表面から適度な深さ位置に配置され、補強材20の剥離耐性が向上する。また、電解質膜10の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。イオン交換膜1の厚さが厚いと電気抵抗も高くなるため、層14Bの厚さが上記上限値以下であれば、イオン交換膜1の電気抵抗を低く抑えることができ、電解電圧の上昇を抑制できる。
また、乾燥時の層14Bの厚さは、交流抵抗値Aとの関連性が高く、その厚さが厚いと交流抵抗値Aが高くなり、その厚さが薄いと交流抵抗値Aが低くなる。したがって、層14Bの厚さが上記範囲内にあれば、交流抵抗値Aを所定範囲内に制御しやすくなる。
【0036】
層(Sb)14Bを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、0.5~2.5meq/gが好ましく、0.6~2.5meq/gがより好ましく、0.9~2.0meq/gがさらに好ましく、1.05~2.00meq/gが特に好ましい。
層14Bが複数の層から形成されている場合は、少なくとも最も陽極側に位置する層を構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記範囲であることが好ましく、層14Bを構成するすべての含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記の範囲であることがより好ましい。また、別の態様としては、層14Bが単層からなり、この層を構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記の範囲であることが好ましい。
【0037】
層14Bを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記下限値以上であれば、イオン交換膜の電気抵抗が低くなり、電解する際の電解電圧を低くできる。一方、このイオン交換容量が上記上限値以下であれば、分子量が高く機械的強度の高い含フッ素ポリマー(S)を使用することにより膜強度を維持でき、電解運転時あるいは膜装着時の膜破れを抑制できる。
また、含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、交流抵抗値との関連性が高く、層14Bを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量を上記上限値以下にすると、交流抵抗値Aを所定範囲内に制御しやすくなる。
【0038】
層14Bを構成するスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの少なくとも一部は、スルホン酸型官能基を2個以上、好ましくは2個有するモノマーに基づく構成単位を有するポリマーであることが好ましい。このようにすることにより、同じモノマー濃度において単位重量当たりのイオン交換基濃度を高めることが可能となるため、スルホン酸型官能基を1個のみ有する構成単位を有するポリマーに比べて、少ないモノマー量でもより高いイオン交換能力を有する層(Sb)とすることができる。
【0039】
スルホン酸型官能基を2個以上有するモノマーに基づく構成単位としては、下式(U1)で示されるものが好ましい。
【0040】
【化3】
【0041】
式(U1)中、Qはエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基であり、Qは単結合又はエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基であり、Rf1はエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子又は炭素原子であり、Xが酸素原子の場合、aは0であり、Xが窒素原子の場合、aは1であり、Xが炭素原子の場合、aは2であり、Yはフッ素原子、又は1価のパーフルオロ有機基であり、rは0又は1であり、Mは水素原子、アルカリ金属又は第4級アンモニウム塩基である。Xは酸素原子であることが好ましく、Yはフッ素原子であることが好ましい。
【0042】
含フッ素ポリマー(S)は、後述する塩化アルカリ電解用イオン交換膜を得る工程にて、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーのスルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に変換することによって得るのが好ましい。
含フッ素ポリマー(S)としては、例えば、スルホン酸型官能基に変換できる基及びフッ素原子を有するモノマー(以下、含フッ素モノマー(S’)とも言う。)と、含フッ素オレフィンと、の共重合体(以下、含フッ素ポリマー(S’)とも言う。)を加水分解処理して、スルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に変換した含フッ素ポリマーが挙げられる。
【0043】
含フッ素モノマー(S’)としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつスルホン酸型官能基に変換できる基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。
含フッ素モノマー(S’)としては、製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、下式(2)又は下式(3)で表されるものが好ましい。
【0044】
CF=CF-O-Rf2-A ・・・(2)
CF=CF-Rf2-A ・・・(3)
式(2)及び式(3)中、Rf2は、炭素数1~20のパーフルオロアルキル基であり、エーテル性の酸素原子を含んでいてもよく、直鎖状又は分岐状のいずれでもよい。Aは、スルホン酸型官能基に変換できる基である。具体的には、-SOF、-SOCl、-SOBr等が挙げられる。
【0045】
式(2)で表される化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。式中、wは、1~8の整数であり、xは、1~5の整数である。
CF=CF-O-(CF-SO
CF=CF-O-CFCF(CF)-O-(CF-SO
CF=CF-[O-CFCF(CF)]-SO
【0046】
式(3)で表される化合物の具体例としては、CF=CF-(CF-SOF、CF=CF-CF-O-(CF-SOFが挙げられる。式中、wは、1~8の整数である。
【0047】
含フッ素モノマー(S’)としては、工業的な合成が容易である点から、下記のものが好ましい。
CF=CF-O-CFCF-SO
CF=CF-O-CFCFCF-SO
CF=CF-O-CFCFCFCF-SO
CF=CF-O-CFCF(CF)-O-CFCF-SO
CF=CF-O-CFCF(CF)-O-CFCFCF-SO
CF=CF-O-CFCF(CF)-SO
CF=CF-CFCF-SO
CF=CF-CFCFCF-SO
CF=CF-CF-O-CFCF-SO
含フッ素モノマー(S’)は、1種でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
層(Sb)14Bがスルホン酸型官能基を2個以上有するモノマーに基づく構成単位を有するポリマーを含む場合には、含フッ素モノマー(S’)として、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつスルホン酸型官能基に変換できる基を2個以上有するモノマーを使用できる。このようなモノマーとしては、前述の式(U1)の構成単位が得られるモノマーが好ましい。式(U1)の構成単位が得られるモノマーとしては、下式(m1)で表されるものが好ましく、下式(m11)、下式(m12)、及び下式(m13)で表されるものがより好ましい。
【0049】
【化4】
【0050】
式(m1)中、rは0又は1であり、RF11は単結合、又はエーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1~6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基であり、RF12は炭素数1~6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基である。
なお、式(m1)で表されるモノマーを由来とする構成単位は、式(U1)におけるQがOCFF12(エーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基)であり、QがRF11(単結合、又はエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基)であり、SO(SOf1MがSOFもしくはSOFを化学的に変換、例えば加水分解処理して得られるスルホン酸型官能基(Xが酸素原子であり、aが0であり、Mが水素、アルカリ金属又は第4級アンモニウム塩基である。)であり、Yがフッ素原子である構成単位である。
【0051】
スルホン酸型官能基を2個以上有するモノマーを使用することにより、同じモノマー濃度において単位重量当たりのイオン交換基濃度を高めることが可能となるため、ポリマー分子量を低下させずに層(Sb)14Bを構成するポリマーのイオン交換容量を高くすることが容易となる。その結果、苛性品質を維持したまま、より透水量が高く、電解電圧が低い膜が得られる。
【0052】
含フッ素オレフィンとしては、先に例示したものが挙げられ、製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。含フッ素オレフィンは、1種でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
含フッ素ポリマー(S’)の製造には、含フッ素モノマー(S’)及び含フッ素オレフィンに加えて、さらに他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、先に例示したものが挙げられる。他のモノマーを共重合させることによって、イオン交換膜の可撓性や機械的強度を上げることができる。他のモノマーの割合は、イオン交換性能の維持の点から、含フッ素ポリマー(S’)中の全構成単位(100モル%)のうち30モル%以下が好ましい。
【0054】
含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、含フッ素ポリマー(S’)中の含フッ素モノマー(S’)に由来する構成単位の含有量を変化させることにより調整できる。含フッ素ポリマー(S)中のスルホン酸型官能基の含有量は、含フッ素ポリマー(S’)中のスルホン酸型官能基に変換できる基の含有量と同一であることが好ましい。
【0055】
含フッ素ポリマー(S’)のTQ値は、イオン交換膜としての機械的強度及び製膜性の点から、150~350℃が好ましく、170~300℃がより好ましく、200~250℃がさらに好ましい。
【0056】
層(Sa)14Aが複数の層、例えば2層からなる場合は、図2に示すように、層(C)12と接する層が層(Sa-1)14Aaであり、層(Sb)14Bと接する層が層(Sa-2)14Abである。この場合、層14Aaは、層12との接着性の観点から、層14Aaを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、層14Abを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量よりも好ましくは0.01~0.5meq/g、より好ましくは0.03~0.3meq/g低いことが好ましい。
層14Aaのイオン交換容量は、0.5~2.5meq/gが好ましく、0.6~2.5meq/gがより好ましく、0.9~1.2meq/gがさらに好ましく、0.9~1.05meq/gが特に好ましい。また、層14Aaの厚さは、接着性に寄与する程度の適度な厚さがあればよく、1~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましい。
【0057】
<各層の交流抵抗値>
本発明では、イオン交換膜を32質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、90℃で16時間加温した後、25℃の32質量%水酸化ナトリウム水溶液に3時間浸漬後に測定される、層(S)14の交流抵抗値Aと層(C)12の交流抵抗値Bとが、下記式を同時に満足する。これにより、上述した効果(低電解電圧及び高電流効率)が発揮される。
1(Ω・cm)≦A≦10(Ω・cm
170(Ω・cm)≦B≦550(Ω・cm
【0058】
上記交流抵抗値Aは、1~10(Ω・cm)であり、1~9(Ω・cm)が好ましく、1~8(Ω・cm)がより好ましく、3~7(Ω・cm)が更に好ましい。交流抵抗値Aが10(Ω・cm)を超えると、電解電圧が高くなる。また、交流抵抗値Aが1(Ω・cm)未満であると、膜強度が低下する。
上記交流抵抗値Bは、170~550(Ω・cm)であり、180~550(Ω・cm)が好ましく、190~510(Ω・cm)がより好ましく、200~510(Ω・cm)が更に好ましい。該交流抵抗値Bが550(Ω・cm)を超えると、電解電圧が高くなる。また、該交流抵抗値Bが170(Ω・cm)未満であると、電流効率が低下する。
【0059】
また、交流抵抗値Bに対する、交流抵抗値Aの比率(A/B)は、0.03以下が好ましく、0.023以下がより好ましく、0.021以下がさらに好ましく、0.015以下が特に好ましい。比率A/Bが上記以下にあることで、生成する水酸化アルカリに対し必要とする電力の原単位(kWh/t)が低くなり、低コストで生産することが可能になる。
【0060】
上述した層(S)14の交流抵抗値A及び層(C)12の交流抵抗値Bは、イオン交換膜を32質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、90℃で16時間加温した後、25℃の32質量%水酸化ナトリウム水溶液に3時間浸漬後に、デジタルマルチメータZM2353(NF回路設計ブロック社製)を用いて測定される値に基づき算出され、詳細は後述する実施例に記載のとおりである。
各層の交流抵抗値の調整は、これに限定されないが、例えば、イオン交換膜を構成する各層のイオン交換容量、各層の厚さ、各層の含水量、イオン交換膜の製造時に使用するアルカリ水溶液の組成(特に、有機溶剤及びアルカリ金属水酸化物の濃度)及びアルカリ水溶液による処理温度などによって行うことができる。
【0061】
〔補強材〕
補強材20は、層(S)14中に配置されている。補強材20は、電解質膜10を補強する材料であり、補強布に由来する。補強布は、経糸と緯糸とからなり、経糸と緯糸が直交していることが好ましい。図1に示すように、補強布は、補強糸22と犠牲糸24とからなることが好ましい。
【0062】
補強糸22は、強化前駆体膜(後述)をアルカリ性水溶液に浸漬しても溶出することのない材料からなる糸である。強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に浸漬して、補強布から犠牲糸24が溶出した後も、補強材20を構成する糸として溶解せずに残存し、イオン交換膜1の機械的強度や寸法安定性の維持に寄与する。
補強糸22としては、パーフルオロカーボンポリマーを含む糸が好ましく、PTFEを含む糸がより好ましく、PTFEのみからなる糸がさらに好ましい。
【0063】
犠牲糸24は、強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に浸漬することにより、その少なくとも一部が溶出する糸である。犠牲糸24は、モノフィラメントであっても、マルチフィラメントであってもよい。
犠牲糸24としては、PETのみからなるPET糸、PET及びポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと記す。)の混合物からなるPET/PBT糸、PBTのみからなるPBT糸、又はポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと記す。)のみからなるPTT糸が好ましく、PET糸がより好ましい。
【0064】
イオン交換膜1においては、図1に示すように、犠牲糸24の一部が残存し、犠牲糸24のフィラメント26の溶解残りの周りに溶出孔28が形成されている。これにより、製造後から塩化アルカリ電解のコンディショニング運転の前までのイオン交換膜1の取り扱いや、コンディショニング運転の際の電解槽への設置時において、イオン交換膜1にクラック等の破損が発生しにくくなる。
【0065】
電解槽にイオン交換膜1を配置する前に、犠牲糸24の一部が残存しても、電解槽にイオン交換膜1を配置した後、塩化アルカリ電解のコンディショニング運転の際に残存する犠牲糸24がアルカリ性水溶液に溶出し、その大部分、好ましくは全部が除去される。そのため、イオン交換膜1を用いた塩化アルカリ電解の本運転の時点では、電気抵抗に影響を及ぼさない。電解槽にイオン交換膜1を配置した後は、イオン交換膜1に外部から大きな力が作用することはないため、犠牲糸24が完全にアルカリ性水溶液に溶出し、除去されても、イオン交換膜1にクラック等の破損は発生しにくい。
なお、図1では、犠牲糸24の一部が残存している態様を示したが、犠牲糸24の全てが溶出していてもよい。
【0066】
〔無機物粒子層〕
イオン交換膜1は、少なくとも一方の最表面において、無機物粒子と、バインダーとを含む無機物粒子層(図示せず)をさらに有することが好ましい。無機物粒子層は、イオン交換膜1の最表面の少なくとも一方の面に設けられることが好ましく、両面に設けられることがより好ましい。
塩化アルカリ電解により生じるガスがイオン交換膜1の表面に付着すると、電解の際に電解電圧が高くなる。無機物粒子層は、電解により生じるガスのイオン交換膜1の表面への付着を抑制し、電解電圧の上昇を抑制するために設けられる。
【0067】
無機物粒子としては、塩化アルカリ水溶液に対する耐食性に優れ、親水性を有するものが好ましい。具体的には、第4族元素又は第14族元素の酸化物、窒化物及び炭化物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、SiO、SiC、ZrO、又はZrCがより好ましく、ZrOが特に好ましい。
無機物粒子の平均粒子径は、0.01~10μmが好ましく、0.01~1.5μmがより好ましく、0.5~1.5μmがさらに好ましい。平均粒子径が上記下限値以上であれば、高いガス付着抑制効果が得られる。平均粒子径が上記上限値以下であれば、無機物粒子の脱落耐性に優れる。なお、無機物粒子の平均粒径とは、無機物粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、そのSEM観察像における最小粒子30個について画像寸法測定計測ソフト(イノテック社製 Pixs2000 PRO)を用いて粒子径を測定し、それらの平均値を示す。
【0068】
バインダーとしては、塩化アルカリ又は水酸化アルカリ水溶液に対する耐食性に優れ、親水性を有するものが好ましく、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する含フッ素ポリマーが好ましく、スルホン酸基を有する含フッ素ポリマーがより好ましい。含フッ素ポリマーは、カルボン酸基又はスルホン酸基を有するモノマーのホモポリマーであってもよく、カルボン酸基又はスルホン酸基を有するモノマーと、このモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0069】
無機物粒子層における無機物粒子及びバインダーの合計質量に対する、バインダーの質量比(バインダー比)は、0.1~0.5が好ましい。バインダー比が上記下限値以上であれば、無機物粒子の脱落耐性に優れる。バインダー比が上記上限値以下であれば、高いガス付着抑制効果が得られる。
【0070】
[イオン交換膜の製造方法]
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法は、好ましくは、以下の工程(i)及び工程(ii)を含む。
【0071】
〔工程(i)〕
工程(i)は、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層(C’)と、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層(S’)と、上記前駆体層(S’)中に配置された補強糸を含む補強材と、を有する強化前駆体膜を得る工程である。
強化前駆体膜は、各前駆体層を積層して製造する際に、補強布を積層して配置することにより製造することが好ましい。前駆体層は、イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの単層からなる膜であってもよく、複数の層からなる膜であってもよい。
【0072】
ここで、後述する工程(ii)によって、前駆体層(C’)は図1における層(C)12に変換され、前駆体層(S’)は図1における層(S)14に変換される。
以下において、前駆体層(S’)が、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる前駆体層(S’a)及びスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる前駆体層(S’b)を有する場合を例にして、工程(i)の一例を説明する。なお、後述する工程(ii)によって、前駆体層(S’a)は図1における層(Sa)14Aに変換され、前駆体層(S’b)は図1における層(Sb)14Bに変換される。
【0073】
強化前駆体膜の製造方法としては、例えば、まず、共押し出し法によって前駆体層(C’)と、前駆体層(S’a)とを有する積層膜を得る方法が挙げられる。また、別途、単層押し出し法によって前駆体層(S’b)からなる膜を得る。
次いで、前駆体層(S’b)からなる膜、補強材、及び上記積層膜を、この順に配置し、積層ロール又は真空積層装置を用いてこれらを積層する方法が挙げられる。この際、上記積層膜は、前駆体層(S’a)側が補強材に接するように配置する。このようにして得られた強化前駆体膜は、前駆体層(S’b)、補強材、前駆体層(S’a)、前駆体層(C’)の順に積層されている。
【0074】
なお、層(Sa)を2層以上とする場合には、別途スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる層からなる膜を得て、補強材と上記積層膜の間に層(Sa)が複数の層からなるように積層してもよい。
【0075】
〔工程(ii)〕
工程(ii)は、上記のようにして得られた強化前駆体膜とアルカリ水溶液とを接触させて、上記前駆体層(C’)中の上記カルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸型官能基に変換して上記層(C)を形成し、かつ、上記前駆体層(S’)中の上記スルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に変換して上記層(S)を形成して、上記塩化アルカリ電解用イオン交換膜を得る工程である。また、本工程によって、強化前駆体膜に含まれる犠牲糸の少なくとも一部が、アルカリ水溶液の作用により溶出する。
【0076】
工程(ii)によって、前駆体層(C’)は図1に示す層(C)12に、前駆体層(S’)は図1に示す層(S)14に、それぞれ変換される。なお、上述したように、前駆体層(S’)が前駆体層(S’a)及び前駆体層(S’b)を有する場合には、前駆体層(S’a)は図1における層(Sa)14Aに、前駆体層(S’b)は図1における層(Sb)14Bに、それぞれ変換される。
なお、層(Sa)14Aが複数の層、例えば2層からなる場合は、図2に示すように、層(Sa-1)14Aa及び層(Sa-2)14Abが層(Sa)14Aを構成し、層(Sb)14Bと共に層(S)14を構成する。
【0077】
強化前駆体膜とアルカリ水溶液とを接触させる方法としては、強化前駆体膜をアルカリ水溶液中に浸漬する方法、強化前駆体膜の表面にアルカリ水溶液をスプレー塗布する方法などが挙げられる。
アルカリ水溶液の温度は、30~100℃が好ましく、40~100℃がより好ましく、45~100℃がさらに好ましい。これにより、各層の交流抵抗値が上記範囲内に調整しやすくなる。
特に、工程(ii)において、層毎にアルカリ水溶液の温度を変えると、層(S)の抵抗値を下げやすく、層(C)の抵抗値を上げやすく、結果として、各層の交流抵抗値が上記範囲内により調整しやすくなる。具体的には、前駆体層(C’)とアルカリ水溶液とを接触させる場合において、アルカリ水溶液の温度は、30~95℃が好ましく、30~80℃がより好ましい。また、前駆体層(S’)とアルカリ水溶液とを接触させる場合において、アルカリ水溶液の温度は、上記前駆体層(C’)の場合よりも好ましくは10~50℃高いのが好ましく、このため、40~100℃が好ましく、60~100℃がより好ましい。
【0078】
強化前駆体膜とアルカリ水溶液との接触時間は、3~100分が好ましく、5~50分がより好ましい。これにより、各層の交流抵抗値が上記範囲内に調整しやすくなる。
工程(ii)では、強化前駆体膜とアルカリ水溶液との接触後に、アルカリ水溶液を除去する処理を行ってもよい。アルカリ水溶液を除去する方法としては、例えば、アルカリ水溶液で接触させた強化前駆体膜を水洗する方法が挙げられる。
【0079】
上述したように、カルボン酸型官能基に変換できる基及びスルホン酸型官能基に変換できる基の変換、及び、犠牲糸の溶出は、アルカリ水溶液によって行われる。アルカリ水溶液は、各層の交流抵抗値を上記範囲内に調整しやすくなる観点から、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤及び水を含有することが好ましい。
【0080】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。アルカリ金属水酸化物の濃度は、アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%が好ましく、3~55質量%がより好ましく、5~50質量%がさらに好ましい。濃度が上記下限値以上であれば、層(C)の交流抵抗値Bを上記範囲内に調整しやすい。また、該濃度が上記上限値以下であれば、層(S)の交流抵抗値Aを上記範囲内に調整しやすい。
【0081】
本発明において、水溶性有機溶剤とは水に容易に溶解する有機溶剤のことをいい、具体的には、水1000ml(20℃)に対する溶解性が、0.1g以上の有機溶剤が好ましく、0.5g以上の有機溶剤がより好ましい。
水溶性有機溶剤は、層(S)の交流抵抗値A及び層(C)の交流抵抗値Bを上述した範囲内に調整しやすくなる観点から、非プロトン性有機溶剤、アルコール類及びアミノアルコール類が挙からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、非プロトン性有機溶剤を含むことがより好ましい。水溶性有機溶剤は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0082】
非プロトン性有機溶剤としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びN-エチル-2-ピロリドン等が挙げられ、これらの中でもジメチルスルホキシドが好ましい。
アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエトキシエタノール、ブトキシエタノール、ブチルカルビトール、ヘキシルオキシエタノール、オクタノール、1-メトキシ-2-プロパノール及びエチレングリコール等が挙げられる。
アミノアルコール類としては、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、1-アミノ-3-プロパノール、2-アミノエトキシエタノール、2-アミノチオエトキシエタノール、及び、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等が挙げられる。
【0083】
水溶性有機溶剤の濃度は、アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%が好ましく、3~55質量%がより好ましく、4~50質量%がさらに好ましい。水溶性有機溶剤の濃度が上記下限値以上であれば、層(S)の交流抵抗値Aを上記範囲内に調整しやすい。また、水溶性有機溶剤の濃度が上記上限値以下であれば、層(C)の交流抵抗値Bを上記範囲内に調整しやすい。
水の濃度は、アルカリ水溶液(100質量%)中、39~80質量%が好ましい。
【0084】
各層の交流抵抗値を上記範囲内に調整する好適な方法としては、工程(ii)におけるアルカリ水溶液の組成を層毎に変える方法が挙げられる。
具体的には、上記工程(ii)において、上記アルカリ水溶液として、第1アルカリ水溶液及び第2アルカリ水溶液の2種類のアルカリ水溶液を準備して、前駆体層(C’)を第1アルカリ水溶液に接触させて、前駆体層(S’)を第2アルカリ水溶液に接触させる方法が挙げられる。ここで、第1アルカリ水溶液と第2アルカリ水溶液とは、互いに組成及び温度のうちの少なくとも一方が異なる。
【0085】
前駆体層(C’)を第1アルカリ水溶液に接触させる処理、及び、前駆体層(S’)を第2アルカリ水溶液に接触させる処理は、同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。また、各層をアルカリ水溶液に接触させた後に、上述したように、各層からアルカリ水溶液を除去してもよく、アルカリ水溶液の除去についても、同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。
アルカリ水溶液による処理を別々に行う方法としては、例えば、前駆体層(S’)を第2アルカリ水溶液に接触させた後、前駆体層(S’)から第2アルカリ水溶液を除去し、その後、前駆体層(C’)を第1アルカリ水溶液に接触させた後、前駆体層(C’)から第1アルカリ水溶液を除去する方法が挙げられる。なお、前駆体層(S’)、前駆体層(C’)の順にアルカリ水溶液による処理を行う例を示したが、前駆体層(C’)、前駆体層(S’)の順にアルカリ水溶液による処理を行ってもよい。
【0086】
前駆体層(C’)の処理に使用される第1アルカリ水溶液は、上記アルカリ水溶液の一態様であり、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤及び水を含有することが好ましい。各成分の好ましい具体例は、アルカリ金属水酸化物の濃度は、第1アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%が好ましく、5~60質量%がより好ましく、10~60質量%がさらに好ましい。アルカリ金属水酸化物の濃度が上記範囲内であれば、層(C)の交流抵抗値を下げやすく、交流抵抗値Bを上記範囲内により調整しやすい。
水溶性有機溶剤の濃度は、第1アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%が好ましく、1~40質量%がより好ましく、1~30質量%がさらに好ましい。水溶性有機溶剤の濃度が上記範囲内であれば、層(C)の交流抵抗値を下げやすく、交流抵抗値Bを上記範囲内により調整しやすい。水の濃度は、第1アルカリ水溶液(100質量%)中、39~80質量%が好ましい。
【0087】
前駆体層(S’)の処理に使用される第2アルカリ水溶液は、上記アルカリ水溶液の一態様であり、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤及び水を含有することが好ましい。各成分の好ましい具体例は、アルカリ金属水酸化物の濃度は、第2アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%が好ましく、3~50質量%がより好ましい。アルカリ金属水酸化物の濃度が上記範囲内であれば、層(S)の交流抵抗値を上げやすく、交流抵抗値Aを上記範囲内により調整しやすい。
水溶性有機溶剤の濃度は、第2アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%が好ましく、4~50質量%がより好ましい。水溶性有機溶剤の濃度が上記範囲内であれば、層(S)の交流抵抗値を上げやすく、交流抵抗値Aを上記範囲内により調整しやすい。水の濃度は、第2アルカリ水溶液(100質量%)中、39~80質量%が好ましい。
【0088】
なお、工程(ii)においては、カルボン酸型官能基に変換できる基及びスルホン酸型官能基に変換できる基をそれぞれ、カルボン酸型官能基及びスルホン酸型官能基(以下、イオン交換基ともいう。)に変換した後に、必要に応じて、イオン交換基の対カチオンを交換する塩交換を行ってもよい。塩交換では、例えば、イオン交換基の対カチオンを、カリウムからナトリウムに交換する。塩交換は、公知の方法を採用できる。
【0089】
[電解装置]
本発明の塩化アルカリ電解装置は、陰極と陽極とを備える電解槽と、上記塩化アルカリ電解用イオン交換膜と、を有し、上記塩化アルカリ電解用イオン交換膜が、上記陰極と上記陽極とを区切るように上記電解槽内に配置されており、上記塩化アルカリ電解用イオン交換膜の上記層(C)が上記陰極側に配置され、かつ、上記塩化アルカリ電解用イオン交換膜の上記層(S)が上記陽極側に配置されている。
本発明の塩化アルカリ電解装置によれば、上述した塩化アルカリ電解用イオン交換膜を有するので、塩化アルカリの電解の際に、電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くできる。
【0090】
本発明の塩化アルカリ電解装置の一態様について、その模式図3を例にして説明する。 本実施形態の塩化アルカリ電解装置100は、陰極112及び陽極114を備える電解槽110と、電解槽110内を陰極112側の陰極室116と、陽極114側の陽極室118とに区切るように電解槽110内に装着されるイオン交換膜1とを有する。
図1に示すように、イオン交換膜1は、層(C)12及び層(S)14からなる電解質膜10と、層(S)中に配置された補強材20と、を有する。イオン交換膜1は、層(C)12が陰極112側、層(S)14が陽極114側となるように電解槽110内に装着する。陰極112は、イオン交換膜1に接触させて配置してもよく、イオン交換膜1との間に間隔をあけて配置してもよい。
【0091】
陰極室116を構成する材料としては、水酸化アルカリ及び水素に耐性がある材料が好ましい。このような材料としては、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。陽極室118を構成する材料としては、塩化アルカリ及び塩素に耐性がある材料が好ましい。このような材料としては、チタン等が挙げられる。
【0092】
陰極の基材としては、水酸化アルカリ及び水素に対する耐性や、加工性等の点から、ステンレスやニッケル等が好ましい。陽極の基材としては、塩化アルカリ及び塩素に対する耐性や、加工性等の点から、チタン等が好ましい。
陽極基材の表面は、例えば、酸化ルテニウム、酸化イリジウム等でコーティングされることが好ましい。陰極基材の表面は、例えば、ラネーニッケル等でコーティングされることが好ましい。
【0093】
[水酸化アルカリの製造方法]
本発明の水酸化アルカリの製造方法は、本発明の塩化アルカリ電解装置によって、塩化アルカリ水溶液を電解することにより行われる。本発明の塩化アルカリ電解装置によって行われる以外は、公知の態様を採用できる。
例えば、塩化ナトリウム水溶液を電解して水酸化ナトリウム水溶液を製造する場合は、塩化アルカリ電解装置100の陽極室118に塩化ナトリウム水溶液を供給し、陰極室116に水酸化ナトリウム水溶液を供給し、陰極室116から排出される水酸化ナトリウム水溶液の濃度を所定の濃度(例えば32質量%)に保ちながら、塩化ナトリウム水溶液を電解する。
【実施例
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。但し本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0095】
[TQ値の測定]
TQ値は、容量流速:100mm/秒を示す温度として求めた。容量流速は、島津フローテスターCFD-100D(島津製作所社製)を用い、対象ポリマーを3MPa(ゲージ圧)の加圧下に一定温度のオリフィス(径:1mm、長さ:1mm)から溶融、流出させたときの流出するポリマーの量(単位:mm/秒)とした。
【0096】
[イオン交換容量の算出]
イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの約0.5mgを、そのTQ値より約10℃高い温度にて平板プレスしてフィルム状にし、得られたフィルム状のサンプルを透過型赤外分光分析装置によって分析した。得られたスペクトルのCFピーク、CHピーク、OHピーク、CFピーク、SOFピークの各ピーク高さを用いて、カルボン酸型官能基に変換できる基又はスルホン酸型官能基に変換できる基を有する構成単位の割合を算出し、これを加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマーにおけるカルボン酸型官能基又はスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合とし、イオン交換容量が既知のサンプルを検量線として用いてイオン交換容量を求めた。
なお、末端基が酸型又はカリウム型もしくはナトリウム型であるイオン交換基を有するフィルムに関しても、同様に測定が可能である。
【0097】
[層の厚さ]
イオン交換膜又は強化前駆体膜における乾燥時の各層の厚さは、イオン交換膜を90℃で2時間乾燥させたのち、イオン交換膜断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフト(イノテック社製 Pixs2000 PRO)を用いて、補強材を構成する補強糸及び犠牲糸が存在しない位置における各層の厚さを10か所測定し、その平均値を求めた。
【0098】
[交流抵抗値の算出]
層(S)及び層(C)の交流抵抗値は、以下のようにして算出した。
まず、層(S)及び層(C)で構成されているイオン交換膜の最表面に無機物粒子層を含む場合は、無機物粒子層をふき取って除去したのち、32質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、90℃で16時間加温保持したのち、32質量%の水酸化ナトリウム水溶液を25℃へ戻し、この水酸化ナトリウム水溶液中に3時間静置させた。
その後、速やかにイオン交換膜を、有効通電面積1.77cmである交流抵抗測定セルに入れ、2つの白金黒電極の間に組み込み、セル内に32質量%の水酸化ナトリウム水溶液を充填させた。次いで、電極に接続されている白金端子に、デジタルマルチメータZM2353(NF回路設計ブロック社製)を接続し、1000Hzの交流抵抗を流し、液抵抗込みの抵抗値R(Ω)を測定した。その後、セルからイオン交換膜を抜き取り、液抵抗込みR(Ω)を測定した。上記2つの抵抗値より、膜全体の交流抵抗RC+S(Ω・cm)を下式より求めた。
C+S=(R-R)×1.77
続いて、イオン交換膜から層(C)を剥がし、層(S)のみの状態としたのち、上記と同様に液抵抗込みの抵抗値RMS(Ω)及び液抵抗RES(Ω)を測定し、層(S)の交流抵抗値A(Ω・cm)を下式より求めた。
A=(RMS-RES)×1.77
また、層(C)の交流抵抗値B(Ω・cm)を下式より求めた。
B=RC+S-A
さらに、層(C)の交流抵抗値Bに対する層(S)の交流抵抗値Aの比率(A/B)を求めた。
【0099】
[電解電圧、電流効率の測定]
イオン交換膜を、層(C)が陰極に面するように、有効通電面積が1.5dm(電解面:縦150mm×横100mmの長方形)の試験用電解槽内に配置し、陽極として、チタンのパンチドメタル(開口:短径4mm、長径8mm)に酸化ルテニウムと酸化イリジウムと酸化チタンの固溶体を被覆したものを用い、陰極として、SUS304製パンチドメタル(開口:短径5mm、長径10mm)にルテニウム入りラネーニッケルを電着したものを用い、両電極とイオン交換膜が直接接し、ギャップが生じないように設置した。
陰極室から排出される水酸化ナトリウム濃度を32質量%に、陽極室に供給する塩化ナトリウム濃度を200g/Lとなるように調整しながら、温度90℃、電流密度:6kA/mの条件で、塩化ナトリウム水溶液の電解を行い、運転開始から3~10日後の電解電圧(V)及び電流効率(%)を測定した。
【0100】
[電力原単位の算出]
電力原単位は、1tのカセイソーダを製造するのに必要な電力量として表され、上記電解電圧及び電流効率から下式を用いて算出した。
電力原単位(kWh/t-NaOH)=(670×電解電圧(V))/(電流効率(%)/100)
【0101】
[実施例1]
TFEと、下式(X)で表される含フッ素モノマーとを共重合して、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.08meq/g)(ポリマーC)を合成した。
CF=CF-O-CFCFCF-COOCH ・・・(X)
【0102】
TFEと、下式(Y)で表される含フッ素モノマーとを共重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.10meq/g)(ポリマーS1)を合成した。
CF=CF-O-CFCF(CF)-O-CFCF-SOF ・・・(Y)
【0103】
TFEと、式(Y)で表される含フッ素モノマーとを共重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.10meq/g)(ポリマーS2)を合成した。
【0104】
ポリマーCとポリマーS1とを共押し出し法により成形し、ポリマーCからなる前駆体層(C’)(厚さ:12μm)及びポリマーS1からなる前駆体層(S’a)(厚さ:68μm)の二層構成のフィルムAを得た。
【0105】
ポリマーS2を溶融押し出し法により成形し、ポリマーS2からなる前駆体層(S’b)(厚さ:30μm)のフィルムBを得た。
【0106】
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントに2000回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸とした。5デニールのPETフィラメントを6本引き揃えた30デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を犠牲糸とした。補強糸1本と犠牲糸2本とが交互に配列されるように平織りし、補強布(補強糸の密度:27本/インチ、犠牲糸の密度:108本/インチ)を得た。
【0107】
上記で得た、フィルムA、フィルムB及び補強布を用いて、図1の態様に対応するイオン交換膜1を、以下のように製造した。
【0108】
フィルムB、補強布、フィルムA、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつ、フィルムAの前駆体層(C’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。強化前駆体膜における各層の厚さは、前駆体層(C’)が12μm、前駆体層(S’a)が68μm、前駆体層(S’b)が30μmであった。なお、前駆体層(S’a)及び前駆体層(S’b)が前駆体層(S’)を構成する。
【0109】
酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%及び水の63.6質量%からなるペーストを、強化前駆体膜の前駆体層(S’)の上層側(すなわち、前駆体層(S’b))にロールプレスにより転写し、無機物粒子層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、20g/mとした。
【0110】
片面に無機物粒子層を形成した強化前駆体膜を、膜の外周がPTFEパッキンでシールされた状態で前駆体層(S’)側のみ95℃に加温した40質量%のジメチルスルホキシド及び10質量%の水酸化カリウムの第1アルカリ水溶液に接触させ、10分間処理を行った。
第1アルカリ水溶液を水洗により除去した後、続いて前駆体層(C’)側のみを55℃に加温した5質量%のジメチルスルホキシド及び30質量%の水酸化カリウムの第2アルカリ水溶液に接触させ、120分間処理を行い、第2アルカリ水溶液を水洗により除去した。これにより、ポリマーCの-COOCH、並びにポリマーS1及びポリマーS2の-SOFを加水分解してイオン交換基に変換し、前駆体層(C’)を層(C)に、前駆体層(S’a)を層(Sa)に、層(S’b)を層(Sb)とした膜を得た。
【0111】
ポリマーS1の酸型ポリマーを2.5質量%含むエタノール溶液に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)を13質量%の濃度で分散させた分散液を調製した。この分散液を、上記膜の層(C)側に噴霧し、無機物粒子層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、3g/mとした。
また、得られたイオン交換膜の層(S)及び層(C)の乾燥厚みを測定した。測定結果を表1に示す。
【0112】
[実施例2]
ポリマーS2として、TFEと、式(Z)で表される含フッ素モノマーとを共重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.7meq/g)を用いた以外は実施例1と同様にして、強化前駆体膜を得た。
【0113】
【化5】
【0114】
酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%及び水の63.6質量%からなるペーストを、強化前駆体膜の前駆体層(S’)の上層側(すなわち、前駆体層(S’b))にロールプレスにより転写し、無機物粒子層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、20g/mとした。
【0115】
片面に無機物粒子層を形成した強化前駆体膜を、5質量%のジメチルスルホキシド及び30質量%の水酸化カリウムのアルカリ水溶液に95℃で8分間浸漬した。これにより、ポリマーCの-COOCH、並びにポリマーS1及びポリマーS2の-SOFを加水分解してイオン交換基に転換し、前駆体層(C’)を層(C)に、前駆体層(S’a)を層(Sa)に、前駆体層(S’b)を層(Sb)とした膜を得た。
【0116】
ポリマーS1の酸型ポリマーを2.5質量%含むエタノール溶液に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)を13質量%の濃度で分散させた分散液を調製した。この分散液を、上記膜の層(C)側に噴霧し、無機物粒子層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、3g/mとした。
【0117】
[実施例3]
ポリマーS2として、TFEと、式(Z)で表される含フッ素モノマーとを共重合して得られた、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.5meq/g)を用いた以外は、実施例2と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0118】
[実施例4]
実施例2と同様に実施して得られた、片面に無機物粒子層を形成した強化前駆体膜を、膜の外周がPTFEパッキンでシールされた状態で前駆体層(S’)側のみ95℃に加温した40質量%のジメチルスルホキシド及び10質量%の水酸化カリウムの第1アルカリ水溶液に接触させ、10分間処理を行った。
第1アルカリ水溶液を水洗により除去した後、続いて前駆体層(C’)側のみを95℃に加温した5質量%のジメチルスルホキシド及び30質量%の水酸化カリウムの第2アルカリ水溶液に接触させ、8分間処理を行い、第2アルカリ水溶液を水洗により除去した。これにより、ポリマーCの-COOCH、並びにポリマーS1及びポリマーS2の-SOFを加水分解してイオン交換基に変換し、前駆体層(C’)を層(C)に、前駆体層(S’a)を層(Sa)に、層(S’b)を層(Sb)とした膜を得た。
【0119】
ポリマーS1の酸型ポリマーを2.5質量%含むエタノール溶液に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)を13質量%の濃度で分散させた分散液を調製した。この分散液を、上記膜の層(C)側に噴霧し、無機物粒子層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、3g/mとした。
また、得られたイオン交換膜の層(S)及び層(C)の乾燥厚みを測定した。測定結果を表1に示す。
【0120】
[実施例5]
ポリマーS2として、TFEと、式(Z)で表される含フッ素モノマーとを共重合して得られた、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.7meq/g)を用いた以外は、実施例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0121】
[実施例6]
ポリマーCとして、TFEと、下式(X)で表される含フッ素モノマーとを共重合して、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.06meq/g)を用い、ポリマーS2として、TFEと、式(Y)で表される含フッ素モノマーとを共重合して得られた、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.0meq/g)を用いた以外は、実施例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0122】
[実施例7]
ポリマーS2として、TFEと、式(Y)で表される含フッ素モノマーとを共重合して得られた、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.1meq/g)を用いた以外は、実施例4と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0123】
[実施例8]
ポリマーCとして、TFEと、下式(X)で表される含フッ素モノマーとを共重合して、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.06meq/g)を用い、ポリマーS2として、TFEと、式(Y)で表される含フッ素モノマーとを共重合して得られた、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.0meq/g)を用いた以外は、実施例4と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0124】
[比較例1]
まず、実施例1と同様にして得られた強化前駆体膜を準備した。
次に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%及び水の63.6質量%からなるペーストを、強化前駆体膜の前駆体層(S’)の上層側(すなわち、前駆体層(S’b))にロールプレスにより転写し、無機物粒子層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、20g/mとした。
【0125】
片面に無機物粒子層を形成した強化前駆体膜を、40質量%のジメチルスルホキシド及び10質量%の水酸化カリウムのアルカリ水溶液に95℃で10分間浸漬した。これにより、ポリマーCの-COOCH、並びにポリマーS1及びポリマーS2の-SOFを加水分解してイオン交換基に転換し、前駆体層(C’)を層(C)に、前駆体層(S’a)を層(Sa)に、前駆体層(S’b)を層(Sb)とした膜を得た。
【0126】
ポリマーS1の酸型ポリマーを2.5質量%含むエタノール溶液に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)を13質量%の濃度で分散させた分散液を調製した。この分散液を、上記膜の層(C)側に噴霧し、無機物粒子層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、3g/mとした。
【0127】
[比較例2]
ポリマーS2として、TFEと、式(Y)で表される含フッ素モノマーとを共重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.1meq/g)を用い、アルカリ水溶液への浸漬条件を55℃で120分間に変更した以外は、実施例2と同様にして、イオン交換膜を得た。
【0128】
[比較例3]
ポリマーS2として、TFEと、式(Y)で表される含フッ素モノマーとを共重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.1meq/g)を用いた以外は実施例2と同様にして、イオン交換膜を得た。
【0129】
実施例及び比較例における、イオン交換膜の電流効率、電解電圧、電力原単位、イオン交換膜の各層の交流抵抗値、交流抵抗値の比率(上述したA/B)を、表1に示す。表中、ARはイオン交換容量を示し、また、強化前駆体膜とアルカリ水溶液とを接触させる処理を「加水分解処理」と略記した。また、表中、S’は前駆体層(S’)、C’は前駆体層(C’)、両面とは前駆体層(S’)及び前駆体層(C’)の両方を意味する。
【0130】
【表1】
【0131】
層(S)の交流抵抗値A及び層(C)の交流抵抗値Bが本発明の範囲内にある、イオン交換膜を用いると、塩化アルカリの電解の際に、電解電圧を低くでき、かつ、電流効率を高くでき、電力原単位を小さくできることが示された。一方、層(S)の交流抵抗値A及び層(C)の交流抵抗値Bが本発明の範囲外であるイオン交換膜を用いると、電解電圧及び電流効率の少なくとも一方が劣る結果となり、電力原単位も高くなることが示された。
なお、2016年4月13日に出願された日本特許出願2016-080157号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0132】
1:塩化アルカリ電解用イオン交換膜、10:電解質膜、12:層(C)、14:層(S)、14A:層(Sa)、14Aa:層(Sa-1)、14Ab:層(Sa-2)、14B:層(Sb)、20:補強材、22:補強糸、24:犠牲糸、26:フィラメント、28:溶出孔、100:塩化アルカリ電解装置、110:電解槽、112:陰極、114:陽極、116:陰極室、118:陽極室
図1
図2
図3