(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】鋼溶接部材の残留応力低減方法及び溶接構造の残留応力低減方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/50 20060101AFI20220107BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C21D9/50 101Z
E01D19/12
(21)【出願番号】P 2020180492
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2020086321
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 土木学会論文集A1(構造・地震工学) Vol.76、No.1、第29~40頁、公益社団法人土木学会 開催日 令和2年1月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506122246
【氏名又は名称】エム・エムブリッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣畑 幹人
(72)【発明者】
【氏名】阿二 一慶
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊光
(72)【発明者】
【氏名】小西 英明
【審査官】橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-028529(JP,A)
【文献】特開平08-112688(JP,A)
【文献】特開2016-142034(JP,A)
【文献】特開2004-017065(JP,A)
【文献】特開平01-240622(JP,A)
【文献】特公昭29-004258(JP,B1)
【文献】特公昭30-003804(JP,B1)
【文献】特公昭52-023989(JP,B1)
【文献】May Phyo Aung et al.,Fatigue-performance improvement of patch-plate welding via PWHT with induction heating,Journal of Constructional Steel Research,2019年,vol. 160,p. 280-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/50
C21D 1/30
B23K 31/00
E01D 1/00-24/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の複数の金属部材同士が溶接部により溶接され前記溶接部が一の前記金属部材の少なくとも交差する2辺に跨って形成された鋼溶接部材において、一の前記金属部材とは異なる他の前記金属部材のうち一の前記金属部材の交差する2辺の一方の辺側に形成される前記溶接部の止端部に沿った
加熱対象領域に対して、当該
加熱対象領域に圧縮荷重が作用し、前記
加熱対象領域から前記一方の辺に沿った方向に離れるにつれて引張荷重が強くなるような応力分布を形成するように高周波誘導加熱を行うことと、
前記高周波誘導加熱により前記
加熱対象領域の温度が所定温度に到達した場合に、前記高周波誘導加熱を停止することと、
前記高周波誘導加熱を停止した後、前記
加熱対象領域を冷却することと
を含
み、
前記加熱対象領域に前記高周波誘導加熱を行った後、他の前記金属部材のうち一の前記金属部材の交差する2辺の他方側に形成される前記溶接部の前記止端部に沿った側方加熱対象領域に対して前記高周波誘導加熱を行う
鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項2】
複数の前記金属部材は、前記鋼溶接部材の下部に配置される下フランジと、前記下フランジの下面に配置されたソールプレートと、前記下フランジの上面に配置されて上方に延びる主桁ウェブと、前記主桁ウェブの上部に配置されて床版を支持する上フランジと、前記下フランジの前記上面、前記上フランジの下面及び前記主桁ウェブの側面に接合された補剛部材と、を含む
請求項
1に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項3】
前記溶接部は、前記下フランジの前記下面において前記ソールプレートの外周に沿って形成された第1溶接部を有し、
前記
加熱対象領域は、前記下フランジ及び前記ソールプレートの少なくとも一方に前記第1溶接部の止端部に沿って設定される
請求項
2に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項4】
前記溶接部は、前記下フランジの前記上面において前記主桁ウェブの外周に沿って形成された第2溶接部を有し、
前記
加熱対象領域は、前記下フランジ及び前記主桁ウェブの少なくとも一方に前記第2溶接部の止端部に沿って設定される
請求項
2又は請求項
3に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項5】
前記溶接部は、前記下フランジの前記上面において前記補剛部材の外周に沿って形成された第3溶接部を有し、
前記
加熱対象領域は、前記下フランジ及び前記補剛部材の少なくとも一方に前記第3溶接部の止端部に沿って設定される
請求項
2から請求項
4のいずれか一項に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項6】
前記溶接部は、前記主桁ウェブの前記側面において前記補剛部材の外周に沿って形成された第4溶接部を有し、
前記
加熱対象領域は、前記主桁ウェブ及び前記補剛部材の少なくとも一方に前記第4溶接部の止端部に沿って設定される
請求項
2から請求項
5のいずれか一項に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項7】
前記溶接部は、前記上フランジの前記下面において前記主桁ウェブに沿って形成された第5溶接部を有し、
前記
加熱対象領域は、前記上フランジ及び前記主桁ウェブの少なくとも一方に前記第5溶接部の止端部に沿って形成される
請求項
2から請求項
6のいずれか一項に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項8】
前記溶接部は、前記上フランジの前記下面において前記補剛部材の外周に沿って形成された第6溶接部を有し、
前記
加熱対象領域は、前記上フランジ及び前記補剛部材の少なくとも一方に前記第6溶接部の止端部に沿って設定される
請求項
2から請求項
7のいずれか一項に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項9】
前記
加熱対象領域は、前記止端部から0mm以上100mm以下の距離を空けた位置に設定される
請求項1から請求項
8のいずれか一項に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項10】
前記所定温度は、250℃以上600℃以下の温度である
請求項1から請求項
9のいずれか一項に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項11】
前記高周波誘導加熱は、15秒以上120秒以下の加熱時間で前記所定温度に到達するように行う
請求項1から請求項1
0のいずれか一項に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項12】
前記冷却は、自然冷却を含む
請求項1から請求項1
1のいずれか一項に記載の鋼溶接部材の残留応力低減方法。
【請求項13】
板状の第1金属部材の対象面に板状の第2金属部材が突出した状態で前記第2金属部材の外周に沿って溶接部が形成される溶接構造において、前記第1金属部材のうち、前記第1金属部材及び前記第2金属部材の接合部分の延びる接合方向について前記溶接部の端部の止端部に沿った第1
加熱対象領域に対して高周波誘導加熱を行う第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後、前記第1金属部材のうち、前記溶接部の前記端部から前記第2金属部材の表面及び裏面の一方の面側に延びる部分に沿った第2
加熱対象領域に対して高周波誘導加熱を行う第2加熱工程と、
前記第2加熱工程の後、前記第1金属部材のうち、前記溶接部の前記端部から前記第2金属部材の表面及び裏面の他方の面側に延びる部分に沿った第3
加熱対象領域に対して高周波誘導加熱を行う第3加熱工程と
を含み、
前記第1加熱工程、前記第2加熱工程及び前記第3加熱工程では、前記第1
加熱対象領域に圧縮荷重が作用し、前記第1
加熱対象領域から前記溶接部の端部の前記止端部に沿った方向に離れるにつれて引張荷重が強くなるような応力分布を形成するように前記高周波誘導加熱を行い、前記高周波誘導加熱により前記第1
加熱対象領域、前記第2
加熱対象領域及び前記第3
加熱対象領域の温度が所定温度に到達した場合に前記高周波誘導加熱を停止し、前記高周波誘導加熱を停止した後、前記第1
加熱対象領域、前記第2
加熱対象領域及び前記第3
加熱対象領域を冷却する
溶接構造の残留応力低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼溶接部材の残留応力低減方法及び溶接構造の残留応力低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼橋等の橋梁において、例えば主桁等の鋼部材は、鋼溶接部材によって構成される。鋼溶接部材は、複数の金属部材を溶接により接合して形成される。橋梁を使用することにより、鋼溶接部材を構成する金属部材の一部に応力が集中し、残留応力が発生した状態となる。残留応力を低減させる手法として、例えば特許文献1に記載の手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の手法では、対象となる領域を加熱することで圧縮応力を発生させ、その後、水冷等により急速に冷却するものである。しかしながら、加熱後に急速に冷却すると、加熱部分の圧縮応力が低減されてしまい、残留応力低減の効果が薄れてしまう可能性がある。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、残留応力を確実に低減することが可能な鋼溶接部材の残留応力低減方法及び溶接構造の残留応力低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る鋼溶接部材の残留応力低減方法は、板状の複数の金属部材同士が溶接部により溶接された鋼溶接部材において、前記金属部材のうち前記溶接部の止端部に沿った対象領域に対して高周波誘導加熱を行うことと、前記高周波誘導加熱により前記対象領域の温度が所定温度に到達した場合に、前記高周波誘導加熱を停止することと、前記高周波誘導加熱を停止した後、前記対象領域を冷却することとを含む。
【0007】
本開示に係る溶接構造の残留応力低減方法は、板状の第1金属部材の対象面に板状の第2金属部材が突出した状態で前記第2金属部材の外周に沿って溶接部が形成される溶接構造において、前記第1金属部材のうち、前記第1金属部材及び前記第2金属部材の接合部分の延びる接合方向について前記溶接部の端部の止端部に沿った第1対象領域に対して高周波誘導加熱を行う第1加熱工程と、前記第1加熱工程の後、前記第1金属部材のうち、前記溶接部の前記端部から前記第2金属部材の表面及び裏面の一方の面側に延びる部分に沿った第2対象領域に対して高周波誘導加熱を行う第2加熱工程と、前記第2加熱工程の後、前記第1金属部材のうち、前記溶接部の前記端部から前記第2金属部材の表面及び裏面の他方の面側に延びる部分に沿った第3対象領域に対して高周波誘導加熱を行う第3加熱工程とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、残留応力を確実に低減することが可能な鋼溶接部材の残留応力低減方法及び溶接構造の残留応力低減方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る鋼溶接部材の一例を説明する斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る鋼溶接部材の残留応力低減方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、下フランジを下側から見た状態を示す図である。
【
図4】
図4は、
図3におけるA-A断面に沿った構成を示す図である。
【
図5】
図5は、下フランジを上側から見た状態を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、上フランジを下側から見た状態を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、高周波誘導加熱を行う場合の対象領域の温度変化の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る溶接構造に対して高周波誘導加熱を行う場合の応力の変化の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係る鋼溶接部材の残留応力低減方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る鋼溶接部材の残留応力低減方法及び溶接構造の残留応力低減方法の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0011】
図1は、本実施形態に係る鋼溶接部材の一例を説明する斜視図である。本実施形態では、鋼溶接部材として、鋼橋等の橋梁において床版Sを支持する主桁を例に挙げて説明する。
図1に示すように、主桁100は、下フランジ10と、ソールプレート20と、主桁ウェブ30と、上フランジ40と、補剛部材50とを備える。下フランジ10、ソールプレート20、主桁ウェブ30、上フランジ40及び補剛部材50は、それぞれ板状の金属部材である。主桁100は、下フランジ10と、ソールプレート20と、主桁ウェブ30と、上フランジ40と、補剛部材50とが、溶接部60により溶接された状態で構成される。
図1において、左右方向が橋梁の幅方向D1であり、紙面奥に延びる方向が橋軸方向D2であり、幅方向D1及び橋軸方向D2に直交する方向が上下方向D3であるとする。主桁100は、橋梁において、例えば幅方向D1に複数配置することができる。
【0012】
図2は、本実施形態に係る鋼溶接部材の残留応力低減方法の一例を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態に係る鋼溶接部材の残留応力低減方法は、まず、下フランジ10、ソールプレート20、主桁ウェブ30、上フランジ40及び補剛部材50の金属部材のうち溶接部60の止端部に沿った対象領域に対して高周波誘導加熱を行う(ステップS10)。
【0013】
次に、対象領域の温度が所定温度に到達するか否かを判定する(ステップS20)。ステップS20では、例えば、対象領域の温度を測定し、測定結果に基づいて判定する。ステップS20において、所定温度に到達しないと判定される場合には(ステップS20のNo)、高周波誘導加熱を継続する。
【0014】
一方、ステップS20において、所定温度に到達したと判定される場合には(ステップS20のYes)、高周波誘導加熱を停止し(ステップS30)、高周波誘導加熱を停止した後、対象領域を冷却する(ステップS40)。
【0015】
図3は、下フランジ10を下側から見た状態を示す図である。
図3に示すように、下フランジ10の下面10aには、第1溶接部61を介してソールプレート20が接合される。ソールプレート20は、矩形状である。ソールプレート20は、下面10aの幅方向D1の中央部に配置される。第1溶接部61は、ソールプレート20の周囲を囲うように矩形状に形成される。第1溶接部61は、下フランジ10側(外周側)の止端部61aと、ソールプレート20側(内周側)の止端部61bとを有する。
【0016】
この構成において、高周波誘導加熱を行う対象領域70は、下フランジ10及びソールプレート20のうち、第1溶接部61の止端部61a、61bに沿った部分に設定される。対象領域70は、例えば、第1溶接部61のうち下フランジ10側の止端部61aに沿った領域71a、71bと、第1溶接部61のうちソールプレート20側の止端部61bに沿った領域71c、71dと、を含む。
【0017】
領域71a、71bは、下フランジ10の下面10aに設定される。領域71aは、第1溶接部61の4辺のうち橋軸方向D2の一方(例えば、右側)の辺61Rの外側に設定される。領域71bは、第1溶接部61の4辺のうち橋軸方向D2の他方(例えば、左側)の辺61Lの外側に設定される。領域71a、71bは、幅方向D1について止端部61aの全体又はほぼ全体に亘る部分に対応して設定される。領域71a、71bは、幅方向D1について第1溶接部61よりも広い範囲に設定されてもよい。主桁100が橋梁の幅方向D1に複数設けられる場合、幅方向D1の両端に配置される主桁100については、例えば領域71a、71bのうち、幅方向D1の内側に対応する領域のみを設定してもよい。
【0018】
領域71c、71dは、ソールプレート20の下面20aに設定される。領域71cは、第1溶接部61の4辺のうち上記の辺61Rの内側に設定される。領域71dは、第1溶接部61の4辺のうち上記の辺61Lの内側に設定される。領域71c、71dは、幅方向D1について止端部61bの全体又はほぼ全体に亘る部分に対応して設定される。
【0019】
上記構成において、領域71a及び領域71cは、第1溶接部61の4辺のうち上記の辺61Rを橋軸方向D2に挟む位置に配置される。また、領域71b及び領域71dは第1溶接部61の4辺のうち上記の辺61Lを橋軸方向D2に挟む位置に配置される。
【0020】
また、対象領域70は、例えば、第1溶接部61の4つの角部に対して幅方向D1の外側に沿った領域71e、71f、71g、71hを含む。
【0021】
領域71eは、例えば第1溶接部61の一の角部(例えば、図中右上の角部)に対して幅方向D1の外側(上側)に設定される。領域71eは、第1溶接部61の当該角部から第1溶接部61の辺(上辺)に沿って橋軸方向D2に延びた状態で設けられる。領域71fは、例えば第1溶接部61の一の角部(例えば、図中右下の角部)に対して幅方向D1の外側(下側)に設定される。領域71fは、第1溶接部61の当該角部から第1溶接部61の辺(下辺)に沿って橋軸方向D2に延びた状態で設けられる。
【0022】
領域71gは、例えば第1溶接部61の一の角部(例えば、図中左上の角部)に対して幅方向D1の外側(上側)に設定される。領域71gは、第1溶接部61の当該角部から第1溶接部61の辺(上辺)に沿って橋軸方向D2に延びた状態で設けられる。領域71hは、例えば第1溶接部61の一の角部(例えば、図中左下の角部)に対して幅方向D1の外側(下側)に設定される。領域71hは、第1溶接部61の当該角部から第1溶接部61の辺(下辺)に沿って橋軸方向D2に延びた状態で設けられる。
【0023】
上記の対象領域70(領域71aから71h)は、対応する止端部61a、61bとの距離dが、例えば0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となる範囲で設定することができる。
【0024】
図4は、
図3におけるA-A断面に沿った構成を示す図である。
図4に示すように、対象領域70を加熱する場合、対象領域70に高周波誘導加熱装置のコイルCLを取り付けて行う。コイルCLについては、例えば対象領域70の寸法に対応する大きさを有するコイルCLを適宜準備することができる。
【0025】
図5は、下フランジ10を上側から見た状態を示す斜視図である。
図5に示すように、下フランジ10の上面10bには、第2溶接部62を介して主桁ウェブ30が接合される。下フランジ10の上面10b及び主桁ウェブ30の側面30bには、それぞれ第3溶接部63及び第4溶接部64を介して補剛部材50が接合される。第3溶接部63は、下フランジ10側の止端部63aと、補剛部材50側の止端部63bとを有する。
【0026】
この構成において、高周波誘導加熱を行う対象領域70は、下フランジ10及び補剛部材50のうち、第3溶接部63の止端部63a、63bに沿った部分に設定することができる。対象領域70は、例えば、第3溶接部63のうち下フランジ10側の止端部63aに沿った領域72a、72bと、第3溶接部63のうち補剛部材50の止端部63bに沿った領域72c、72dと、を含む。第3溶接部63は、下フランジ10の上面10bにおいて、補剛部材50の外周に沿って形成される。第3溶接部63は、補剛部材50の側面50a側の辺、側面50b側の辺、及び側面50d側の辺の3辺を有する。側面50bは、側面50aの裏側の面である。側面50cは、側面50a及び側面50bに交差し、当該側面50a及び50bに接続される。
【0027】
領域72a、72bは、例えば矩形状であり、下フランジ10の上面10bに設定される。領域72aは、第3溶接部63の3辺のうち側面50a側の辺に沿ってされる。領域72bは、第3溶接部63の3辺のうち側面50b側の辺に沿って設定される。領域72a、72bは、幅方向D1について止端部63aの全体又はほぼ全体に亘る部分に対応して設定される。
【0028】
領域72cは、例えば矩形状であり、補剛部材50の側面50aに設定される。領域72cは、第3溶接部63の3辺のうち当該側面50a側の辺の上方に設定される。領域72dは、例えば矩形状であり、補剛部材50の側面50bに設定される。領域72dは、第3溶接部63の3辺のうち当該側面50b側の辺の上方に設定される。なお、領域72c及び領域72dは、いずれか一方のみが設定されてもよい。
【0029】
また、対象領域70は、例えば、下フランジ10の上面10bに設定される領域72eを含む。領域72eは、例えば矩形状である。領域72eは、第3溶接部63の3辺のうち側面50c側の辺に沿ってされる。
【0030】
なお、高周波誘導加熱を行う対象領域70は、下フランジ10及び主桁ウェブ30のうち、第2溶接部62の止端部62a、62bに沿った部分に設定してもよい。この場合、例えば、対象領域70は、第2溶接部62のうち主桁ウェブ30側の止端部62bに沿った領域72a、72bを含む。また、第2溶接部62のうち下フランジ10側の止端部62aに沿った領域に対象領域70が設定されてもよい。
【0031】
図6は、
図5における一部の構成を示す断面図である。
図6は、下フランジ10の上面10bに平行な平面で主桁ウェブ30及び補剛部材50を切断した状態を上方から見た構成を示している。
図6に示すように、上記の対象領域70(領域72aから72e)は、対応する止端部63a、63bとの距離dが、例えば0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となる範囲で設定することができる。なお、
図6には、領域72c、72dが直接的には示されていないが、領域72c、72dについても同様に、対応する止端部63a、63bとの距離が、例えば0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となる範囲で設定することができる。また、対象領域70を加熱する場合、対象領域70に
図4で示すコイルCLと同様のコイルを取り付けて行うことができる。
【0032】
図7は、上フランジ40を下側から見た状態を示す斜視図である。
図7に示すように、主桁ウェブ30の側面30aには、第4溶接部64を介して補剛部材50が接合される。上フランジ40の下面40aには、第5溶接部65を介して主桁ウェブ30が接合される。第4溶接部64は、主桁ウェブ30側の止端部64aと、補剛部材50側の止端部64bとを有する。第5溶接部65は、主桁ウェブ30側の止端部65aと、上フランジ40側の止端部65bとを有する。上フランジ40の下面40aには、第6溶接部66を介して補剛部材50が接合される。第6溶接部66は、上フランジ40側の止端部66aと、補剛部材50側の止端部66bとを有する。
【0033】
この構成において、高周波誘導加熱を行う対象領域70は、例えば主桁ウェブ30及び補剛部材50のうち、第4溶接部64の止端部64a、64bに沿った部分に設定することができる。対象領域70は、例えば、第4溶接部64のうち主桁ウェブ30側の止端部64aに沿った領域74a、74bと、第4溶接部64のうち補剛部材50の止端部64bに沿った領域74c、74dと、を含む。第4溶接部64は、主桁ウェブ30の側面30aにおいて、補剛部材50の外周に沿って形成される。第4溶接部64は、補剛部材50の側面50a側の辺、側面50b側の辺、及び切り欠き部50e側の辺の3辺を有する。補剛部材50は、切り欠き部50eを有する。切り欠き部50eは、補剛部材50のうち、主桁ウェブ30と上フランジ40との接合部分に対応する角部に設けられる。切り欠き部50eは、例えば局面状に湾曲された状態で形成されるが、これに限定されない。
【0034】
領域74a、74bは、例えば矩形状であり、主桁ウェブ30の側面30aに設定される。領域74aは、第4溶接部64の3辺のうち側面50a側の辺に沿ってされる。領域74bは、第4溶接部64の3辺のうち側面50b側の辺に沿って設定される。
【0035】
領域74cは、例えば矩形状であり、補剛部材50の側面50aに設定される。領域74cは、第4溶接部64の3辺のうち当該側面50a側の辺に沿って設定される。領域74dは、例えば矩形状であり、補剛部材50の側面50bに設定される。領域74dは、第4溶接部64の3辺のうち当該側面50b側の辺に沿って設定される。なお、領域74c及び領域74dは、いずれか一方のみが設定されてもよい。
【0036】
また、対象領域70は、例えば主桁ウェブ30及び上フランジ40のうち、第5溶接部65の止端部65a、65bに沿った部分に設定することができる。対象領域70は、例えば、第5溶接部65のうち主桁ウェブ30側の止端部65aに沿った領域75aと、第5溶接部65のうち上フランジ40側の止端部65bに沿った領域75bと、を含む。領域75aは、例えば矩形状であり、主桁ウェブ30の側面30aに設定される。領域75bは、上フランジ40の下面40aに設定される。領域75a、75bは、補剛部材50の切り欠き部50eによって切り欠かれたスペースに設定される。
【0037】
また、対象領域70は、例えば上フランジ40及び補剛部材50のうち、第6溶接部66の止端部66a、66bに沿った部分に設定することができる。対象領域70は、例えば、第6溶接部66のうち上フランジ40側の止端部66aに沿った領域76a、76bと、第6溶接部66のうち補剛部材50の止端部66bに沿った領域76c、76dと、を含む。第6溶接部66は、上フランジ40の下面40aにおいて、補剛部材50の外周に沿って形成される。第6溶接部66は、補剛部材50の側面50a側の辺、側面50b側の辺、及び切り欠き部50e側の辺の3辺を有する。
【0038】
領域76a、76bは、例えば矩形状であり、上フランジ40の下面40aに設定される。領域76aは、第6溶接部66の3辺のうち側面50a側の辺に沿ってされる。領域76bは、第6溶接部66の3辺のうち側面50b側の辺に沿って設定される。
【0039】
領域76cは、例えば矩形状であり、補剛部材50の側面50aに設定される。領域76cは、第6溶接部66の3辺のうち当該側面50a側の辺に沿って設定される。領域76dは、例えば矩形状であり、補剛部材50の側面50bに設定される。領域76dは、第6溶接部66の3辺のうち当該側面50b側の辺に沿って設定される。なお、領域76c及び領域76dは、いずれか一方のみが設定されてもよい。
【0040】
図8は、
図7における一部の構成を示す断面図である。
図8は、主桁ウェブ30の側面30aに平行な平面で上フランジ40及び補剛部材50を切断した状態を側方から見た構成を示している。
図8に示すように、上記の対象領域70(領域74aから74d、領域75a、75b)は、対応する止端部64a、64b、止端部65a、65bとの距離dが、例えば0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となる範囲で設定することができる。なお、
図8には、領域74c、74d、75bが直接的には示されていないが、領域74c、74d、75bについても同様に、対応する止端部64a、64b、65bとの距離が、例えば0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となる範囲で設定することができる。なお、領域75aと、第4溶接部64のうち切り欠き部50e側の辺における止端部64aとの距離dについても、上記同様に、0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となる範囲で設定することができる。この領域75aについては、第4溶接部64の止端部64aとの距離と、第5溶接部65の止端部65aとの距離とが、それぞれ0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となるように、領域自体の範囲を設定してもよい。
【0041】
また、図示を省略するが、上フランジ40の下面40aに平行な平面で主桁ウェブ30及び補剛部材50を切断した状態を下方から見た構成においても同様の説明が可能である。つまり、上記の対象領域70(領域76aから76d)は、対応する止端部66a、66bとの距離dが、例えば0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となる範囲で設定することができる。また、領域75bと、第6溶接部66のうち切り欠き部50e側の辺における止端部66aとの距離dについても、上記同様に、0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となる範囲で設定することができる。この領域75bについては、第5溶接部65の止端部65aとの距離と、第6溶接部66の止端部66aとの距離とが、それぞれ0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となるように、領域自体の範囲を設定してもよい。
【0042】
図9は、高周波誘導加熱を行う場合の対象領域の温度変化の一例を示す図である。
図9の横軸は、加熱開始時点からの経過時間を示す。
図9の縦軸は、対象領域の温度を示す。
図9に示すように、対象領域70を加熱する場合、加熱時間tを設定する。この加熱時間は、例えば15秒以上120秒以下、より好ましくは15秒以上60秒以下、さらに好ましくは15秒以上45秒以下に設定することができる。また、対象領域70を加熱する場合、目標温度T2を設定する。目標温度T2は、例えば250℃以上600℃以下、より好ましくは250℃以上450℃以下、さらに好ましくは250℃以上350℃以下に設定することができる。
【0043】
図10は、本実施形態に係る溶接構造に対して高周波誘導加熱を行う場合の応力の変化の一例を示す図である。
図10に示す溶接構造80は、第1金属部材81と、第2金属部材82と、溶接部83とを備える。第1金属部材81は、板状であり、平面状の対象面81aを有する。第2金属部材82は、板状であり、端面82aと、第1面82bと、第2面82cとを有する。端面82aは、第1金属部材81及び第2金属部材82の接合部分の延びる接合方向について端部に配置される面である。第1面82b及び第2面82cは、互いに表裏に配置され、端面82aに直交する。溶接部83は、第1金属部材81と第2金属部材82とを接合する。溶接部83は、第1金属部材81の対象面81aにおいて第2金属部材82の外周に沿って形成される。つまり、溶接部83は、第2金属部材82の第1面82bに沿った部分と、第2面82cに沿った部分と、当該第1面82bに沿った部分及び第2面82cに沿った部分から端面82aを回り込む部分とを有する。以下、端面82aに回り込む部分を第1部分83pと表記し、第1面82bに沿った部分を第2部分83qと表記し、第2面82cに沿った部分を第3部分83rと表記する。溶接部83は、第1金属部材81側の止端部83aと、第2金属部材82側の止端部83bとを有する。
【0044】
当該溶接構造80は、第1金属部材81の対象面81aに第2金属部材82が突出した状態で溶接部83によって接合された、いわゆる面外ガセット溶接接手構造である。
【0045】
図11は、本実施形態に係る鋼溶接部材の残留応力低減方法の一例を示すフローチャートである。このような溶接構造80における残留応力を低減する場合、本実施形態では、まず、溶接部83の止端部83aのうち第1部分83pに対応する部分に沿った第1対象領域AR1に対して高周波誘導加熱を行う(第1加熱工程:ステップS110)。第1加熱工程の後、溶接部83の止端部83aのうち第2部分83qに対応する部分に沿った第2対象領域AR2に対して高周波誘導加熱を行う(第2加熱工程:ステップS120)。第2加熱工程の後、溶接部83の止端部83aのうち第3部分83rに対応する部分に沿った第3対象領域AR3に対して高周波誘導加熱を行う(第3加熱工程:ステップS130)。
【0046】
上記の第1加熱工程、第2加熱工程及び第3加熱工程では、それぞれ、
図2に示すステップS10からステップS40の手順と同様の手順で第1対象領域AR1を高周波誘導加熱し、冷却する。加熱時間、目標温度等の加熱条件については、上記同様である。つまり、加熱時間は、例えば15秒以上120秒以下、より好ましくは15秒以上60秒以下、さらに好ましくは15秒以上45秒以下に設定することができる。また、目標温度は、例えば250℃以上600℃以下、より好ましくは250℃以上450℃以下、さらに好ましくは250℃以上350℃以下に設定することができる。また、第1対象領域AR1と止端部83aとの距離daについては、上記同様、例えば0mm以上100mm以下、より好ましくは0mm以上50mm以下、さらに好ましくは0mm以上25mm以下となる範囲で設定することができる。また、第2対象領域AR2と止端部83aとの距離db、及び第3対象領域AR3と止端部83aとの距離dcについては、例えば25mm以上100mm以下、より好ましくは25mm以上50mm以下、さらに好ましくは25mm以上35mm以下となる範囲で設定することができる。
【0047】
図10には、第1加熱工程を行う前に溶接構造80に生じている残留応力分布F0と、第1加熱工程により第1対象領域AR1が膨張することで生じる荷重分布F1と、第2加熱工程により第2対象領域AR2が膨張することで生じる荷重分布F2と、第3加熱工程により第3対象領域AR3が膨張することで生じる荷重分布F3と、残留応力分布F0と、荷重分布F1、F2、F3との総和である応力分布F4とを示している。各荷重を示すグラフにおいて、縦軸は溶接構造80の図中の縦方向の位置と対応している。また、縦軸に対して左側(矢印a1で示す側)は引張方向の荷重の強さ、縦軸に対して右側(矢印a2で示す側)は圧縮方向の荷重の強さを示している。
【0048】
図10に示すように、第1加熱工程を行う前、溶接構造80は、第1金属部材81と第2金属部材82との接合部分において、引張荷重による残留応力が生じた状態である。これに対して、第1加熱工程を行うことにより、溶接構造80に対して、第1対象領域AR1に圧縮荷重が作用し、第1対象領域AR1から第2対象領域AR2側及び第3対象領域AR3側に離れるほど強い引張荷重が作用するような荷重を発生させることができる。また、第2加熱工程を行うことにより、溶接構造80に対して、第2対象領域AR2に引張荷重が作用し、第1対象領域AR1に圧縮荷重が作用するような荷重を発生させることができる。第3加熱工程を行うことにより、溶接構造80に対して、第3対象領域AR3に引張荷重が作用し、第1対象領域AR1に圧縮荷重が作用するような荷重を発生させることができる。このような第1加熱工程、第2加熱工程及び第3加熱工程を行うことにより、図中の上下方向の中央部分に圧縮荷重が作用し、中央部分から上下方向に離れるにつれて引張荷重が強くなるような応力分布F4を形成することができる。これにより、溶接構造80に対する引張残留応力が低減される。
【0049】
なお、例えば
図5に示す下フランジ10と、補剛部材50とが溶接部63により接合された構成は、溶接構造80のような面外ガセット溶接接手構造であると考えることができる。したがって、対象領域70である領域73a、73b、73eを加熱する場合、領域73eに対して高周波誘導加熱を行った後、領域73a、73bに対して高周波誘導加熱を行うことで、応力分布F4と同様の応力分布を形成することができる。
【0050】
また、
図7に示す主桁ウェブ30と、補剛部材50とが溶接部64により接合された構成は、溶接構造80のような面外ガセット溶接接手構造であると考えることができる。したがって、対象領域70である領域74a、74b、75aを加熱する場合、領域75aに対して高周波誘導加熱を行った後、領域74a、74bに対して高周波誘導加熱を行うことで、応力分布F4と同様の応力分布を形成することができる。
【0051】
また、
図7に示す上フランジ40と、補剛部材50とが溶接部66により接合された構成は、溶接構造80のような面外ガセット溶接接手構造であると考えることができる。したがって、対象領域70である領域76c、76d、75bを加熱する場合、領域75bに対して高周波誘導加熱を行った後、領域76c、76dに対して高周波誘導加熱を行うことで、応力分布F4と同様の応力分布を形成することができる。
【0052】
主桁100に用いられる金属部材は、例えば橋梁の使用等により、例えば対象領域70として上記に挙げた領域に、曲げによる荷重及び引張荷重等が作用し、当該荷重により残留応力が生じる場合がある。また、面外ガセット溶接接手構造等の溶接構造80は、第1対象領域AR1、第2対象領域AR2及び第3対象領域AR3に、引張荷重等が作用し、当該荷重により残留応力が生じる場合がある。
【0053】
この状態で対象領域70、第1対象領域AR1、第2対象領域AR2、第3対象領域AR3に対して高周波誘導加熱を行う場合、各対象領域70、AR1、AR2、AR3の温度が上昇する。対象領域70、AR1、AR2、AR3の温度が上昇すると、対象領域70、AR1、AR2、AR3を含む部分が膨張する。また、対象領域70、AR1、AR2、AR3の温度が上昇すると、当該対象領域70、AR1、AR2、AR3の周囲の領域との間に温度差が形成される。つまり、高周波誘導加熱により対象領域70、AR1、AR2、AR3の温度が上昇すると、対象領域70、AR1、AR2、AR3を含む部分が膨張することで当該対象領域70、AR1、AR2、AR3に圧縮荷重が作用する。このため、対象領域70、AR1、AR2、AR3における残留応力が低減する。高周波誘導加熱により加熱を行うことで、短時間で効率的に残留応力を低減させることができる。
【0054】
対象領域70、AR1、AR2、AR3の温度が所定温度に到達した場合、高周波誘導加熱を停止して、対象領域70、AR1、AR2、AR3を含む金属部材を冷却する。この場合、冷却は、例えば自然冷却及びブロー等による急冷を含む。これらの冷却により、対象領域70、AR1、AR2、AR3に生じた圧縮荷重を維持しつつ対象領域70、AR1、AR2、AR3を冷却することができる。このため、疲労強度に優れた主桁100及び溶接構造80が得られる。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法は、板状の複数の金属部材同士が溶接部により溶接された主桁100において、金属部材のうち溶接部の止端部に沿った対象領域70に対して高周波誘導加熱を行うことと、高周波誘導加熱により対象領域70の温度が所定温度に到達した場合に、高周波誘導加熱を停止することと、高周波誘導加熱を停止した後、対象領域70を冷却することとを含む。
【0056】
したがって、主桁100を構成する金属部材の対象領域70を高周波誘導加熱により所定温度に加熱した後、対象領域を冷却するため、対象領域70に生じた圧縮荷重を維持しつつ対象領域70を冷却することができる。これにより、残留応力を確実に低減させることができる。
【0057】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、複数の金属部材は、主桁100の下部に配置される下フランジ10と、下フランジ10の下面に配置されたソールプレート20と、下フランジ10の上面に配置されて上方に延びる主桁ウェブ30と、主桁ウェブ30の上部に配置されて床版を支持する上フランジ40と、下フランジ10の上面、上フランジ40の下面及び主桁ウェブ30の側面に接合された補剛部材50と、を含む。したがって、主桁100を構成する下フランジ10、ソールプレート20、主桁ウェブ30と、上フランジ40及び補剛部材50の各金属部材の残留応力を確実に低減させることができる。
【0058】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、溶接部は、下フランジ10の下面においてソールプレート20の外周に沿って形成された第1溶接部61を有し、対象領域70は、下フランジ10及びソールプレート20の少なくとも一方に第1溶接部61の止端部61a、61bに沿って設定される。したがって、下フランジ10及びソールプレート20の少なくとも一方の残留応力を確実に低減させることができる。
【0059】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、溶接部は、下フランジ10の上面において主桁ウェブ30の外周に沿って形成された第2溶接部62を有し、対象領域70は、下フランジ10及び主桁ウェブ30の少なくとも一方に第2溶接部62の止端部62a、62bに沿って設定される。したがって、下フランジ10及び主桁ウェブ30の少なくとも一方の残留応力を確実に低減させることができる。
【0060】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、溶接部は、下フランジ10の上面において補剛部材50の外周に沿って形成された第3溶接部63を有し、対象領域70は、下フランジ10及び補剛部材50の少なくとも一方に第3溶接部の止端部63a、63bに沿って設定される。したがって、下フランジ10及び補剛部材50の少なくとも一方の残留応力を確実に低減させることができる。
【0061】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、溶接部は、主桁ウェブ30の側面において補剛部材50の外周に沿って形成された第4溶接部64を有し、対象領域70は、主桁ウェブ30及び補剛部材50の少なくとも一方に第4溶接部の止端部64a、64bに沿って設定される。したがって、主桁ウェブ30及び補剛部材50の少なくとも一方の残留応力を確実に低減させることができる。
【0062】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、溶接部は、上フランジ40の下面において主桁ウェブ30に沿って形成された第5溶接部65を有し、対象領域70は、上フランジ40及び主桁ウェブ30の少なくとも一方に第5溶接部の止端部65a、65bに沿って形成される。したがって、上フランジ40及び主桁ウェブ30の少なくとも一方の残留応力を確実に低減させることができる。
【0063】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、溶接部は、上フランジ40の下面において補剛部材50の外周に沿って形成された第6溶接部66を有し、対象領域70は、上フランジ40及び補剛部材50の少なくとも一方に第6溶接部の止端部66a、66bに沿って設定される。したがって、上フランジ40及び補剛部材50の少なくとも一方の残留応力を確実に低減させることができる。
【0064】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、対象領域70は、止端部から20mm以上100mm以下の距離を空けた位置に設定される。したがって、残留応力を効果的に低減することができる。
【0065】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、所定温度は、250℃以上600℃以下の温度である。したがって、残留応力を効果的に低減することができる。
【0066】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、高周波誘導加熱は、15秒以上120秒以下の加熱時間で所定温度に到達するように行う。したがって、残留応力を効果的に低減することができる。
【0067】
本実施形態に係る主桁100の残留応力低減方法において、冷却は、自然冷却を含む。したがって、圧縮荷重をより確実に維持しつつ対象領域70を冷却することができる。
【0068】
本実施形態に係る溶接構造80の残留応力低減方法は、板状の第1金属部材81の対象面に板状の第2金属部材82が突出した状態で第2金属部材82の外周に沿って溶接部83が形成される溶接構造80において、第1金属部材81のうち、第1金属部材81及び第2金属部材82の接合部分の延びる接合方向について溶接部83の端部である第1部分83pの止端部83aに沿った第1対象領域AR1に対して高周波誘導加熱を行う第1加熱工程と、第1加熱工程の後、第1金属部材81のうち、溶接部83の第1部分83pから第2金属部材82の表面及び裏面の一方の面側に延びる第2部分83qに沿った第2対象領域AR2に対して高周波誘導加熱を行う第2加熱工程と、第2加熱工程の後、第1金属部材81のうち、溶接部の端部から第2金属部材82の表面及び裏面の他方の面側に延びる第3部分83rに沿った第3対象領域AR3に対して高周波誘導加熱を行う第3加熱工程とを含み、第1加熱工程、第2加熱工程及び第3加熱工程では、高周波誘導加熱により第1対象領域AR1、第2対象領域AR2及び第3対象領域AR3の温度が所定温度に到達した場合に高周波誘導加熱を停止し、高周波誘導加熱を停止した後、第1対象領域AR1、第2対象領域AR2及び第3対象領域AR3を冷却する。
【0069】
したがって、溶接構造80を構成する第1金属部材81の第1対象領域AR1、第2対象領域AR2及び第3対象領域AR3を高周波誘導加熱により所定温度に加熱した後、当該第1対象領域AR1、第2対象領域AR2及び第3対象領域AR3を冷却するため、第1対象領域AR1、第2対象領域AR2及び第3対象領域AR3に生じた圧縮荷重を維持しつつ冷却することができる。これにより、残留応力を確実に低減させることができる。
【0070】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、上記実施形態では、鋼溶接部材として主桁を例に挙げて説明したが、これに限定されない。主桁以外の鋼溶接部材においても、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
10 下フランジ
10a,20a,40a 下面
10b 上面
20 ソールプレート
30 主桁ウェブ
30a,30b,50a,50b,50c,50d 側面
40 上フランジ
50 補剛部材
50e 切り欠き部
60,63,64,66,83 溶接部
61 第1溶接部
61a,61b,62a,62b,63a,63b,64a,64b,65a,65b,66a,66b,83a,83b 止端部
62 第2溶接部
63 第3溶接部
64 第4溶接部
65 第5溶接部
66 第6溶接部
71a,71b,71c,71d,71e,71f,71g,71h,72a,72b,72e,73a,73b,73c,73d,73e,74a,74b,74c,74d,75a,75b,76a,76b,76c,76d 領域
80 溶接構造
81 第1金属部材
81a 対象面
82 第2金属部材
82a 端面
82b 第1面
82c 第2面
83p 第1部分
83q 第2部分
83r 第3部分
100 主桁(鋼溶接部材)
AR1 第1対象領域
AR2 第2対象領域
AR3 第3対象領域
CL コイル
D1 幅方向
D2 橋軸方向
D3 上下方向
S 床版