(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】フラビウイルス感染に対する抗ウイルス治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4178 20060101AFI20220127BHJP
A61K 31/4025 20060101ALI20220127BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20220127BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220127BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220127BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220127BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220127BHJP
C12Q 1/18 20060101ALI20220127BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61K31/4025 ZNA
A61K31/4439
A61P31/14
A61P43/00 111
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/18
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2020522183
(86)(22)【出願日】2019-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2019020916
(87)【国際公開番号】W WO2019230654
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2018101399
(32)【優先日】2018-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】宮本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】岡 正啓
(72)【発明者】
【氏名】米田 悦啓
(72)【発明者】
【氏名】岡本 徹
(72)【発明者】
【氏名】松浦 善治
(72)【発明者】
【氏名】徳永 詢
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/017426(WO,A1)
【文献】J. Gen. Virol., 2008 Vol.89, Pt.5, p.1254-1264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00-31/80
A61P 31/14
C12Q 1/18
G01N 33/50
G01N 33/15
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDK阻害活性を有する物質を有効成分として含む抗フラビウイルス医薬組成物であって、CDK阻害活性を有する物質が、2-シアノエチルアルステロパウロン、5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド、および(4-(2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イル)-(3-ニトロフェニル)アミンの中から選ばれる、医薬組成物。
【請求項2】
抗フラビウイルス活性について、フラビウイルスが日本脳炎ウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、ウエストナイルウイルス、黄熱ウイルスの中から選ばれる抗フラビウイルス活性である、請求項
1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記フラビウイルスが、デングウイルスである、請求項
2記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗フラビウイルス医薬組成物の製造におけるCDK阻害活性を有する物質の使用であって、CDK阻害活性を有する物質が、2-シアノエチルアルステロパウロン、5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド、および(4-(2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イル)-(3-ニトロフェニル)アミンの中から選ばれる、使用。
【請求項5】
抗フラビウイルス医薬組成物の抗フラビウイルス活性について、フラビウイルスが、日本脳炎ウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、ウエストナイルウイルス、黄熱ウイルスの中から選ばれるフラビウイルスに対する抗フラビウイルス活性である、請求項4記載の使用。
【請求項6】
前記フラビウイルスが、デングウイルスである、請求項5記載の使用。
【請求項7】
以下の工程を含む、抗フラビウイルス活性を有する物質をスクリーニングする方法:
(a)生物学的細胞を、抗フラビウイルス活性を有する物質の候補化合物とインビトロで接触させ、
(b)前記候補化合物が、前記生物学的細胞における核小体の形態に対し、影響を与えるか調べ、
(c)前記候補化合物が、影響を与えていれば、抗フラビウイルス活性を有する物質として同定する、方法。
【請求項8】
工程(c)において、前記候補化合物による影響が、生物学的細胞において核小体の形態異常である、請求項
7記載の方法。
【請求項9】
生物学的細胞における核小体の形態異常を、核小体に局在するタンパク質または核酸の形成および/または局在の変化によって判別する、請求項
7または
8記載の方法。
【請求項10】
核小体に局在するタンパク質の形成および/または局在の変化が、核小体に局在するタンパク質における対照化合物の影響と比較する変化である、前記候補化合物が核小体の形態に対し、影響を与えると判断する、請求項
9記載の方法。
【請求項11】
生物学的細胞において核小体に局在するタンパク質が、ネクロフォスミン、ヌクレオリン、フィブリラリン、RNAポリメラーゼIおよびフラビウイルスのコアタンパク質、のなかから選ばれる一つまたはそれ以上のタンパク質である、請求項
7から
10のいずれか記載の方法。
【請求項12】
生物学的細胞が、肝臓由来のHuh7細胞などヒトを含む真核生物由来の培養細胞株、初代培養細胞、サル腎由来Vero細胞など霊長類由来の細胞株、C6/36細胞など蚊より樹立された細胞である、請求項
7から
11のいずれか記載の方法。
【請求項13】
抗フラビウイルス医薬組成物の製造方法であって、
(a)請求項
7から
12のいずれか記載の方法によってCDK阻害活性を有する物質、rRNA転写阻害活性を有する物質、DNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質、またはGSK-3阻害活性を有する物質についてスクリーニングすることで抗フラビウイルス活性を有する物質を同定し、
(b)前記物質の有効量と、薬学的に許容され得る担体または賦形剤とを混合する、
製造方法。
【請求項14】
(a)の工程において、CDK阻害活性を有する物質についてスクリーニングする、請求項
13記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、哺乳動物、特にヒトにおける、フラビウイルス感染およびフラビウイルス関連疾患に対する治療に関する。本発明は詳細には、フラビウイルスにより起こされる感染および疾患の処置および/または予防のための新規治療プロトコールの標的として、ならびに、新たな抗フラビウイルス活性を有する物質の同定および開発のために使用できるスクリーニング方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
フラビウイルス科(Flaviviridae)フラビウイルス(Flavivirus)属は、日本脳炎、デング熱、デング出血熱、ジカ熱など、全世界で公衆衛生学的問題となっている感染症を引き起こす日本脳炎ウイルス(JEV)、デングウイルス(DENV)、ジカウイルス(ZIKV)などの病原体を多く含む。
フラビウイルス属ウイルスは、主に節足動物ウイルスであり、しばしば哺乳動物および鳥類において有意な罹患率および死亡率を引き起こす(非特許文献1)。JEVはアジアの南および東南地方に分布し、ブタまたは鳥類と蚊との間で人畜共通感染している(非特許文献1、2)。
【0003】
フラビウイルス科フラビウイルス属は、70種以上のウイルスが存在し,その殆どが吸血性節足動物により媒介される。蚊媒介性フラビウイルスとしては、日本脳炎ウイルス(JEV)、デングウイルス(DENV)、ジカウイルス(ZIKV)、ウエストナイルウイルス(WNV)、黄熱ウイルス(YFV)などがあり,ダニ媒介性フラビウイルスとしては,ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)などが挙げられる(非特許文献3)。この他に媒介動物不明のフラビウイルスが14種報告されている。
【0004】
フラビウイルスは全長約11kbの+鎖RNAをゲノムとするエンベロープウイルスで構成され、5’端にはキャップ構造を有し、3’端はポリA構造を有していない(非特許文献4)。このゲノム上には単一の読み取り枠があり、ゲノムから翻訳されたポリタンパク質は宿主およびウイルスプロテアーゼによって翻訳と同時および翻訳後に切断され、コア、前駆膜(prM)およびエンベロープ(E)タンパク質の3つの構造タンパク質、ならびにNS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4BおよびNS5の7つの非構造タンパク質を生じる(非特許文献5)。
【0005】
フラビウイルス感染症に対する特異的な治療薬は,現在までのところ認可されていない。しかし,近年フラビウイルスタンパクの機能や構造が明らかになるにつれ,多くの特異的阻害薬の開発が進められている。NS3はプロテアーゼ活性およびヘリカーゼ活性を有し、どちらもウイルス複製に必須であることから、プロテアーゼ活性阻害物質(非特許文献6、7)およびヘリカーゼ活性阻害物質(非特許文献8、9)が開発されている。同様に、NS5のメチルトラスフェラーゼ活性に対する阻害物質(非特許文献10、11)、NS5のRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害物質(非特許文献12、13)についても効果が認められている。さらに最近、構造タンパクの1つであるEタンパクにおいて、抗ウイルス薬のターゲットになり得る構造上のポケットが発見され(非特許文献14)、感染時のEタンパクの構造変化を阻害する薬物が探索されている(非特許文献15、16)。
【0006】
上記のような特異的抗ウイルス薬の他に、一般に広く用いられる抗ウイルス薬についても検討がなされている。IFNは米国FDAにおいて認可された抗ウイルス薬であるため、フラビウイルス感染症に対する効果についても検討がなされている。ヒトあるいはサルを用いた臨床試験において、セントルイス脳炎ウイルス感染症に対しては一定の効果が認められたが(非特許文献17)、デングウイルス(DENV)および日本脳炎ウイルス(JEV)感染症に対しては有意な効果はこれまでのところ認められていない(非特許文献18、19)。プリンヌクレオシドアナログであるリバビリンも広く抗ウイルス活性を有し、様々なウイルスについて検討されている(非特許文献20)。フラビウイルスについてもin vitro の検討では、イノシン一リン酸脱水素酵素阻害によるGTP枯渇により(非特許文献21)、ウイルス複製を抑制する効果が観察されている(非特許文献22)。しかし、ヒトにおけるJEV感染症に対する臨床試験では、有意な効果は認められなかった(非特許文献23)。最近、リバビリンと同様のヌクレオシドアナログETARがDENVなどのフラビウイルス複製を抑制することが報告され(非特許文献24)、今後の検討が期待される。
【0007】
また、標的RNAを分解させるRNAi(非特許文献25、26)、翻訳を阻害するモルフォリノオリゴ(PMO)(非特許文献27、28)といった新しい技術を用いた抗ウイルス薬も研究がなされており、動物モデルで一定の抗ウイルス作用が認められている。さらに、JEVに対するsiRNAを狂犬病ウイルス由来ペプチドと結合させ(非特許文献29)、またDENVに対するsiRNAを樹状細胞上リガンドと特異的に結合するペプチドと結合させることで(非特許文献30)、それぞれ中枢神経系および樹状細胞へ特異的に取り込ませることに成功している。これらの技術により、標的ウイルスが感染増殖している特定の臓器・細胞でのみ作用させることが可能となり、副反応も低減できると考えられるため、応用が期待される。
このように、期待される治療成績が得られているものの、フラビウイルス感染症対策として、決定的な治療薬が無いのが、現状である。
【0008】
フラビウイルスの一種であるジカウイルス感染に対する抑制効果を有する化合物として、例えば汎カスパーゼ阻害物質、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害物質、カテゴリーB駆虫薬またはプロテアソーム阻害物質が網羅的に記載されている(特許文献1、非特許文献31)。ここでは、ジカウイルスの増殖を抑制する現象を確認しているのみであり、それがウイルスの感染、複製、パッケージングまたは出芽のいずれに作用しているのは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Burke, D. S., and T. P. Monath. 2001. Flaviviruses, p. 1043-1125
【文献】Solomon, T., et al. J. Virol. 77:3091-3098
【文献】Gubler DJ, et al. Flaviviruses. In: Fields virology (Fifth edition). Knipe DM, Howley PM (Ed), Lippincott-Raven, Philadelphia, PA, 1153-252, 2007
【文献】Wengler G, et al. Virology. 89:423-37, 1978
【文献】Lindenbach BD, et al., The Viruses and Their Replication. In: Fields virology (Fifth edition). Knipe DM, Howley PM (Ed), Lippincott-Raven, Philadelphia, PA, 1102-53, 2007
【文献】Stoermer MJ, et al. J. Med. Chem. 51:5714-21, 2008
【文献】Yang CC, et al. Antimicrob. Agents. Chemother. 55:229-38, 2011
【文献】Zhang N, et al. J. Med. Chem. 46:4149-64, 2003
【文献】Borowski P, et al. Eur. J. Biochem. 270:1645-53, 2003
【文献】Luzhkov VB, et al. Med. Chem. 15:7795-802, 2007
【文献】Lim SP, et al. J. Biol. Chem. 286:6233-40, 2011
【文献】Yin Z, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 106:20435-9, 2009
【文献】Niyomrattanakit P, et al. J. Virol. 84:5678-86, 2010
【文献】Modis Y, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 100:6986-91, 2003
【文献】Wang QY, et al. Antimicrob. Agents. Chemother. 53:1823-31, 2009
【文献】Zhou Z, et al. ACS. Chem. Biol. 3:765-75, 2008
【文献】Rahal JJ, et al. J. Infect. Dis. 190:1084-7, 2004
【文献】Ajariyakhajorn C, et al. Antimicrob. Agents. Chemother. 49:4508-14, 2005
【文献】Solomon T, et al. Lancet. 361:821-6, 2003
【文献】De Clercq E. Med. Res. Rev. 29:611-45, 2009
【文献】Graci JD, et al. Rev. Med. Virol. 16:37-48, 2006
【文献】Crance JM, et al. Antiviral. Res. 58:73-9, 2003
【文献】Kumar R, et al. India. Clin. Infect. Dis. 48:400-6, 2009
【文献】McDowell M, et al. Antiviral. Res. 87:78-80, 2010
【文献】Pacca CC, et al. Virus. Genes. 38:224-31, 2009
【文献】Kumar P, et al. PLoS. Med. 3:e96, 2006
【文献】Deas TS, et al. Antimicrob. Agents. Chemother. 51:2470-82, 2007
【文献】Stein DA, et al. J. Antimicrob. Chemother. 62:555-65, 2008
【文献】Kumar P, et al. Nature. 448:39-43, 2007
【文献】Subramanya S, et al. J. Virol. 84:2490-501, 2010
【文献】Xu M, et al. Nat. Med. 1101-1107, Vol. 22, Num. 10, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
フラビウイルス科フラビウイルス属はヒト以外の哺乳動物や鳥類が保有宿主・増幅動物となり、蚊またはダニにより媒介される。ヒトの生活において、感染蚊あるいは感染ダニとの接触を完全に絶つことは困難であるため、フラビウイルス感染を完全に排除することは不可能である。そこで、本発明者らは、フラビウイルス感染に対する抗ウイルス治療を求め、鋭意検討し、ウイルス複製を阻害する意外な知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ある種の薬理活性化合物が、生物学的細胞における核小体の形態に影響を与えることを偶然にも見出し、それが何らかの作用によりウイルスの複製を阻害することを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
<抗ウイルス医薬組成物>
[1]
生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質を含む抗フラビウイルス医薬組成物。
[2]
生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質を、抗フラビウイルス活性を有する有効成分として含む、[1]記載の抗フラビウイルス医薬組成物。
[3]
生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質が、核小体の形態異常を引き起こす物質である、[1]または[2]記載の医薬組成物。
[4]
生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質が、ウイルスのコアタンパク質の生物学的細胞における局在変化をも伴う、[1]から[3]のいずれか記載の医薬組成物。
[5]
生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質が、ウイルス複製阻害を引き起こす、[1]から[4]のいずれか記載の医薬組成物。
【0014】
[6]
抗フラビウイルス活性について、フラビウイルスが日本脳炎ウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、ウエストナイルウイルス、黄熱ウイルスの中から選ばれる抗フラビウイルス活性である、[1]から[5]のいずれか記載の医薬組成物。
[7]
生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質が、CDK阻害活性を有する物質、rRNA転写阻害活性を有する物質、DNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質、またはGSK-3阻害活性を有する物質である、[1]から[6]のいずれか記載の医薬組成物。
[8]
CDK阻害活性を有する物質が、2-シアノエチルアルステロパウロン、5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド、(4-(2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イル)-(3-ニトロフェニル)アミン、P276-00、A-674563、SU9516、SNS-032 (BMS-387032)、ディナシクリブ、フラボピリドール、AT7519、フラボピリドール塩酸、AT7519 HCl、AZD5438、R547、およびケンパウローンの中から選ばれる、[7]記載の医薬組成物。
[9]
CDK阻害活性を有する物質が、2-シアノエチルアルステロパウロン、5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド、および(4-(2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イル)-(3-ニトロフェニル)アミンの中から選ばれる、[8]記載の医薬組成物。
【0015】
[10]
rRNA転写阻害活性を有する物質がアクチノマイシンD、ドキソルビシン、およびアクラルビシンの中から選ばれる、[7]記載の医薬組成物。
[11]
DNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質が、ドキソルビシン、アクラルビシン、エリプチシン、イダルビシン、イダルビシン塩酸塩、エピルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩、およびダウノルビシン塩酸塩の中から選ばれる、[6]記載の医薬組成物。
[12]
DNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質が、ドキソルビシン、アクラルビシン、およびエリプチシンの中から選ばれる、[11]記載の医薬組成物。
[13]
GSK-3阻害活性を有する物質が、1-アザケンパウロンである、[7]記載の医薬組成物。
【0016】
<スクリーニング方法>
[14]
以下の工程を含む、抗フラビウイルス活性を有する物質をスクリーニングする方法:
(a)生物学的細胞を、抗フラビウイルス活性を有する物質の候補化合物とインビトロで接触させ、
(b)前記候補化合物が、前記生物学的細胞における核小体の形態に対し、影響を与えるか調べ、
(c)前記候補化合物が、影響を与えていれば、抗フラビウイルス活性を有する物質として同定する、方法。
[15]
工程(c)において、前記候補化合物による影響が、生物学的細胞において核小体の形態異常である、[14]記載の方法。
[16]
生物学的細胞における核小体の形態異常を、核小体に局在するタンパク質または核酸の形成および/または局在の変化によって判別する、[14]または[15]記載の方法。
【0017】
[17]
核小体に局在するタンパク質の形成および/または局在の変化が、核小体に局在するタンパク質における対照化合物の影響と比較する変化である、前記候補化合物が核小体の形態に対し、影響を与えると判断する、[16]記載の方法。
[18]
生物学的細胞において核小体に局在するタンパク質が、ネクロフォスミン、ヌクレオリン、フィブリラリン、RNAポリメラーゼIおよびフラビウイルスのコアタンパク質、のなかから選ばれる一つまたはそれ以上のタンパク質である、[14]から[17]のいずれか記載の方法。
[19]
生物学的細胞が、肝臓由来のHuh7細胞などヒトを含む真核生物由来の培養細胞株、初代培養細胞、サル腎由来Vero細胞など霊長類由来の細胞株、C6/36細胞など蚊より樹立された細胞である、[14]から[18]のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、フラビウイルス感染症の予防、処置に有効な化合物を開示するとともに、さらに、新たな作用機序、感染予防、阻害効力および標的に関する医薬としての有用性を与えるスクリーニング方法を提供する。
特に、JEV、YFV、TBEV感染症に対するヒト用の認可ワクチンは存在するが、それぞれ年間数千~数万例以上の患者が現在でも世界で報告されている。フラビウイルスはヒト以外の動物が保有・増幅宿主となること、感染蚊あるいは感染ダニとの接触を完全に絶つことは困難であるため、特異的治療法やワクチンの開発は重要課題である。
本発明によれば、新たな抗フラビウイルス治療薬を作成することができ、新たな治療物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】フラビウイルスのコアタンパク質(別名、Cタンパク質またはカプシドタンパク質)の生物学的細胞における局在を示す、写真に代わる図面である。
図1(A)は、日本脳炎ウイルスコアタンパク質:JEV core、 デングウイルスコアタンパク質:DENV core:、ジカウイルスコアタンパク質:ZIKV core、ウエストナイルウイルスコアタンパク質:WNV coreを一過性に発現させた細胞における局在を示す。
図1(B)は、各種フラビウイルスコアタンパク質を細胞の細胞質にマイクロインジェクションした際の細胞内局在を示す。
図1(C)は、日本脳炎ウイルスコアタンパク質を細胞の細胞質にマイクロインジェクションした際の、細胞質、細胞核(ゲノムDNA)および核小体における局在を示す。
【
図2】日本脳炎ウイルスコアタンパク質の細胞内局在変化を指標とする、抗フラビウイルス活性を有する物質のスクリーニング方法の結果を示すグラフおよび細胞内局在を示す図面に代わる写真である。
図2(A)は、細胞核内に存在するコアタンパク質の量を測定し、グラフ化したものである。
図2(B)は、DMSO(対照)と3つのCDK阻害物質を処理した際の日本脳炎ウイルスコア蛋白質の核内局在を示している。
【0020】
【
図3】Cdk1/2 阻害物質III(5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド)が細胞における核小体の形態を変化させる様子を示す、図面に代わる写真である。
図3(A)は、DMSO処理と比較し、Cdk1/2 阻害物質III処理が核小体形態異常を引き起こしていることを示している。
図3(B)は、2-シアノエチルアルステロパウロン処理した細胞の細胞質に日本脳炎ウイルスコアタンパク質をマイクロインジェクションした際の、細胞質、細胞核(ゲノムDNA)および核小体における局在を示す。
【
図4】特定されたCDK阻害物質が特定濃度において、日本脳炎ウイルスの複製を抑制するが、生物学的細胞は死滅させないことを示すグラフである。
【
図5】rRNA転写阻害活性を有する物質による核小体の形態変化を示す、図面に代わる写真である。DMSO(対照)と3つのrRNA転写阻害物質を処理した際の蛍光像を示している。
【
図6】
図6(A)は、GSK-3阻害活性を有する物質1-アザケンパウロンによる核小体の形態変化を示す、図面に代わる写真である。
図6(B)は、1-アザケンパウロンによる日本脳炎ウイルス、デングイウルス、ジカウイルスの増殖抑制を示すグラフである。
【
図7】DNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質:エリプチシン、イダルビシン、イダルビシン塩酸塩、エピルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩およびダウノルビシン塩酸塩による核小体の形態変化を示す、図面に代わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<スクリーニング方法>
本発明は一つの態様として、以下の工程を含む、抗フラビウイルス活性を有する物質をスクリーニングする方法:
(a)生物学的細胞を、抗フラビウイルス活性を有する物質の候補化合物とインビトロで接触させ、
(b)前記候補化合物が、前記生物学的細胞における核小体の形態に対し、影響を与えるか調べ、
(c)前記候補化合物が、影響を与えていれば、抗フラビウイルス活性を有する物質として同定する、方法を提供する。以下、具体的に説明する。
【0022】
本明細書において使用する「抗フラビウイルス活性を有する物質」および「その候補化合物」について説明する。
「フラビウイルス」という用語は、プラス鎖RNAをゲノムとするエンベロープウイルスで構成されるフラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスを意味し、現在知られている70種以上のウイルスを包含する。例えば、蚊媒介性フラビウイルスとしては、日本脳炎ウイルス(JEV)、デングウイルス(DENV)、ジカウイルス(ZIKV)、ウエストナイルウイルス(WNV)、黄熱ウイルス(YFV)、セントルイス脳炎ウイルス(SLEV)、クンジンウイルス(KUN)、マレーバレー脳炎(MVEV)などがあり、ダニ媒介性フラビウイルスとしては、ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)などが挙げられる(Gubler DJ, Kuno G, Markoff L: Flaviviruses. In: Fields virology (Fifth edition). Knipe DM, Howley PM (Ed), Lippincott-Raven, Philadelphia, PA, 1153-252, 20071)。この他、媒介動物不明のフラビウイルスが14種報告されている。
【0023】
「フラビウイルス」は、典型的には日本脳炎ウイルス(JEV)、デングウイルス(DENV)、ジカウイルス(ZIKV)、ウエストナイルウイルス(WNV)、より典型的には日本脳炎ウイルス(JEV)デングウイルス(DENV)、ジカウイルス(ZIKV)である。
JEVは、JEVが感染した蚊が刺咬することによりヒトを含む行き止まり宿主に広がり、死亡率の高い中枢神経系の感染を引き起こす(Burke, D. S., and T. P. Monath. 2001. Flaviviruses, p. 1043-1125. In D. M. Knipe, P. M. Howley, D. E. Griffin, R. A. Lamb, M. A. Martin, B. Roizman, and S. E. Straus (ed.), Fields virology, 4th ed., vol. 1. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, Pa)。JEVは、約11kbの長さの一本鎖プラス鎖RNAゲノムを有し、これは5’末端でキャップされるが、ポリアデニル化によって3’末端の修飾を欠いている(Lindenbach, B. D., and C. M. Rice. 2001. Flaviviridae: The viruses and their replication, p. 991-1041. In D. M. Knipe, P. M. Howley, D. E. Griffin, R. A. Lamb, M. A. Martin, B. Roizman, and S. E. Straus (ed.). Fields virology, 4th ed., vol. 1. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, Pa.)。ゲノムRNAは単一の大きなオープンリーディングフレームをコードし、ゲノムから翻訳されたポリタンパク質は宿主およびウイルスプロテアーゼによって翻訳と同時および翻訳後に切断され、コア、前駆膜(prM)およびエンベロープ(E)タンパク質の3つの構造タンパク質、ならびにNS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4BおよびNS5の7つの非構造タンパク質を生じる(Sumiyoshi, H., et al. Virology 161:497-510)。JEVのコアタンパク質(別名、Cタンパク質またはカプシドタンパク質)は他のフラビウイルスとのアミノ酸相同性は殆どなく、例えばダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)とは僅か25%の相同性しかなく、一方で、疎水性プロファイル、塩基性アミノ酸残基の数や二次構造は非常によく類似している(Dokland, T., et al. Structure 12:1157-1163.;Jones, C. T., et al. J. Virol. 77:7143-7149.;Ma, L., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:3414-3419)。フラビウイルスのコアタンパク質は共通して、中央およびカルボキシル末端に2つの疎水性配列を含み、カルボキシル末端疎水性領域はprMのシグナル配列として働く。シグナルアンカー配列は、ウイルスプロテアーゼNS2B-3によって切断され、この切断は、宿主シグナルペプチダーゼによるprMアミノ末端のその後の遊離のために必要である(Lobigs, M., and E. Lee. 2004. J. Virol. 78: 178-186;Stocks, C. E., and M. Lobigs. 1998. J. Virol. 72:2141-2149;Yamshchikov, V. F., and R. W. Compans. 1994. J. Virol. 68:5765-5771)。小胞体(ER)膜から放出された成熟コアタンパク質は、アミノ末端およびカルボキシル末端の塩基性アミノ酸クラスターを介してゲノムRNAに結合し、ヌクレオキャプシドを形成すると考えられる(Khromykh, A. A., and E. G. Westaway. 1996. Kunjin. Arch. Virol. 141:685-699)。コアタンパク質の中央の疎水性領域はER膜と関連している可能性があり、この相互作用はヌクレオキャプシドと2つの膜タンパク質prMおよびEとのアッセンブリーを促し、ビリオンとしてER内腔に出芽すると考えられる(Markoff, L., B. Falgout, and A. Chang. 1997. Virology 233:105-117)。TBEVコアタンパク質の中央疎水性領域が除去すると、(pr)MおよびEタンパク質からなるが、コアタンパク質およびゲノムRNAを欠くサブウイルス粒子の産生が増大する(Kofler, R. M., F. X. Heinz, and C. W. Mandl. 2002. J. Virol. 76:3534-3543.;Kofler, R. M., et al. 2003. J. Virol. 77:443-451.)。
【0024】
本発明における「抗フラビウイルス」または「抗フラビウイルス活性」なる用語は、フラビウイルスの複製、細胞への侵入および/または細胞のフラビウイルス感染を低下、阻害、遮断または予防する、結果的にフラビウイルスの生活環を抑制、阻害し、ウイルス活性を消滅、低減させるあらゆる効果を意味する。
【0025】
本発明における「抗フラビウイルス活性を有する物質」または「抗フラビウイルス活性を有する有効成分」とは、フラビウイルスを消滅、低減することによりフラビウイルスに罹患または感染した被験者を処置または予防できる物質を意味する。「フラビウイルスに羅患する」または「フラビウイルスに感染した」という用語は、被験者に関連して使用され、フラビウイルスにより感染されフラビウイルス関連疾患を有することを意味する。「フラビウイルス関連疾患」とは、フラビウイルスと関連するおよび/または直接的もしくは間接的に引き起こされることが知られている、または疑われる任意の疾患または障害を意味する。フラビウイルス関連疾患には、発熱や頭痛、筋肉痛、関節痛が主な症状であり、特に深刻なデングウイルスによる出血熱、ジカウイルスや日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルスによる脳炎、ジカウイルスによる小頭症を含むが、これらに限定されない。
【0026】
本発明における「候補化合物」という用語は、任意の天然または非天然の分子、例えば核酸、ポリペプチドまたはタンパク質などの生物学的高分子、有機または無機分子、あるいは目的の活性についてテストするために生物学的材料、例えば細菌、真菌、植物または動物(特に哺乳動物、ヒトを含む)の細胞または組織などから調製される抽出物などを意味する。本発明のスクリーニング方法では、候補化合物については、所定の抗フラビウイルス活性を有する能力について評価される。限定はされないが、大学、企業等が有する天然、非天然化合物ライブラリー、薬用植物抽出液、ペプチド、抗体、核酸乱舞ラリーなどを指す。
【0027】
本発明のスクリーニング方法に使用する「生物学的細胞」とは、実質的に同種の細胞集団を指し、好ましくは集団における細胞の少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約100%が同じ細胞型である。細胞型の例は、限定はされないが、血小板、リンパ球、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、内皮細胞、腫瘍細胞、上皮細胞、顆粒球、単球、肥満細胞、神経細胞などである。好ましくは、ヒト肝臓由来のHuh7細胞やサル腎由来Vero細胞など、哺乳類動物を含む真核生物由来の培養細胞株および初代培養細胞、ならびにC6/36細胞などの蚊より樹立された細胞が挙げられ、核小体を観察できる細胞であれば、すべて対象となり得る。後述するが、本発明のスクリーニング方法はひとつの態様として、核小体の形態異常を確認する第一段階と、ウイルスの複製を確認する第二段階を含む。第一段階に使用する「生物学的細胞」は、核小体を観察できる細胞であれば、すべて対象となり、第二段階に使用する「生物学的細胞」は好ましくはウイルス感受性細胞、より好ましくはフラビウイルス感受性細胞である。
【0028】
「ウイルス感受性細胞」とは、ウイルスに感染され得る任意の細胞を指し、それは限定されないが、脳細胞、初代細胞、樹状細胞、胎盤細胞、子宮内膜細胞、リンパ節細胞、リンパ球様細胞(BおよびT細胞)、末梢血単核球、皮膚の細胞、ランゲルハンス細胞、および単球/マクロファージを含む。
【0029】
本発明のスクリーニング方法に使用される細胞は、当技術分野において周知の技術により調製、例えば細胞を患者または健常者からの採血によりまたは生検により得てもよく、または免疫および微生物供給業者、例えばAmerican Type Culture Collection, Manassas, VAから購入してもよい。
【0030】
本発明において使用される細胞は、標準的な細胞培養技術に従って培養できる。例えば、細胞を、適した容器中で、加湿95%空気-5%CO2を含むインキュベータに入れて37℃の無菌環境において増殖させる。容器は撹拌または静置培地を含み得る。種々の細胞培養液を使用してもよく、不明確の生体液(例えばウシ胎児血清など)を含む培地ならびに完全に確定されている培地、例えば293 SFM無血清培地(Invitrogen Corp., Carlsbad, CA)を含む。細胞培養技術は、当技術分野において周知であり、確立されたプロトコールを多様な細胞タイプの培養のために利用可能である(例えば、R.I. Freshney, "Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique", 2nd Edition, 1987, Alan R. Liss, Inc.を参照のこと)。
【0031】
特定の態様では、本発明のスクリーニング方法は、マルチウエルアッセイプレートの複数のウエルに含まれる細胞を使用して実施する。そのようなアッセイプレートは、例えば、Strategene Corp.(La Jolla, CA)およびCorning Inc.(Acton, MA)の市販品があり、例えば、48ウエル、96ウエル、384ウエル、および1536ウエルプレートを含む。
【0032】
「インビトロで接触」とは、例えば、マルチウエルアッセイプレートの複数のウエルに含まれる細胞に、所定の濃度に調整した抗フラビウイルス活性を有する物質の候補化合物を加えることを意味する。次いで、候補化合物について、所定の「抗フラビウイルス活性」を調べる。
【0033】
「所定の抗フラビウイルス活性」は、
(b)前記候補化合物が、前記生物学的細胞における核小体の形態に対し、影響を与えるか調べ、
(c)前記候補化合物が、影響を与えていれば、抗フラビウイルス活性を有する物質として同定する。具体的には、工程(c)において、前記候補化合物による影響が、生物学的細胞における核小体の形態異常である。
【0034】
候補化合物における上記所定の抗フラビウイルス活性の判定方法は、以下の本発明者らによる初めての知見に基づく。本発明者らは、フラビウイルス感染に対する抗ウイルス治療を求め、鋭意検討し、当初は別ターゲットを求めていたところ、ウイルス複製を阻害する事象はそのターゲットが本質でなく、生物学的細胞における核小体が関連することを偶然にも発見した。
【0035】
生物学的細胞の核に存在する核小体は光学顕微鏡で明瞭に観察することができる真核生物特有の構造体であり、主としてリボソームの生合成を担う。主な成分は、リボソームDNA(rDNA)、リボソームRNA(rRNA)、リボソームタンパク質などで、プロテオミクスの手法を用いた構成タンパク質のプロテオーム解析が進んでいる(Anderson et al., Nature volume 433:77-83)。電子顕微鏡による観察から、核小体の構造は電子密度の違いにより3つの領域に分けられる。中心には最も電子密度の低い線維中心(fibrillar center、FC)が存在し、その周辺を電子密度が高い高密度線維性要素(dense fibrillar component、DFC)が取り囲む。さらに、FCやDFCの周辺に電子密度が2番目に高い顆粒性要素(granular component、GC)が存在する。核小体は間期においては明瞭な核内構造体として存在するが、分裂期ではその構造は崩壊し、リボソーム生合成の活性が回復するG1期初期に再形成するなど、細胞周期に依存してその構造を変化させる。また、核小体は核内に1-6個存在するが、細胞が間期に進入後に核小体同士が融合するのでその数は明確に規定されていない。
【0036】
すなわち、本発明者らは、ある種の薬理活性化合物が、生物学的細胞における核小体の形態に影響を与えることを偶然にも見出し、それが何らかの作用によりウイルスの複製を阻害することを見出した。
フラビウイルスはウイルス複製機能の一端として、構成タンパク質のひとつであるコアタンパク質が宿主細胞の核小体機能を活用しており、それがウイルス複製に必須であると考えられる。本発明においては、特定の理論に囚われるものでないが、核小体の形態異常がコアタンパク質の機能発揮に悪影響を与えていることが考えられる。核小体はリボソームRNA(rRNA)の転写やリボソームの合成場所であり、正常状態であれば、コアタンパク質が核小体に局在することにより宿主のタンパク質合成に関わっている。たとえば、正常な核小体は、ウイルス由来のタンパク質の合成促進または宿主細胞のタンパクの合成抑制によって、相対的にウイルスタンパク質の翻訳を亢進させていることが想定される。本発明において見出された、ある種の物質における核小体の形態への影響は、この正常な核小体機能を低減あるいは破壊する作用に由来すると考えられる。
【0037】
具体的には、本発明のスクリーニング方法において、所定の抗フラビウイルス活性、すなわち、生物学的細胞における核小体の形態異常は、核小体に局在するタンパク質または核酸の存在および/または局在の変化によって判別される。
核小体に局在するタンパク質または核酸の存在および/または局在の変化とは、対照化合物の影響と比較して見出される、核小体そのものの形成状態における変化を代替するものである。核小体に局在するタンパク質または核酸の存在および/または局在の変化は、核小体が大きな塊から、多くの小さな油滴状に変化する、あるいは極小の粒が分散し見えなくなる、あるいは逆に核小体の塊がさらに大きな塊になる等によって判別される。核小体に局在するタンパク質における対照化合物の影響と比較して、このような変化があれば、候補化合物が核小体の形態に対し、影響を与えると判断する。
【0038】
ここに、「生物学的細胞において核小体に局在するタンパク質」とは、核小体に内在するタンパク質、または核小体に特異的に結合するタンパク質を意味する。核小体に内在するタンパク質としては、ヌクレオフォスミン(Nucleophosmin, 別名:NPM, NPM1, B23, NO38, Numatrin)、ヌクレオリン(Nucleolin、別名:C23、NCL)、フィブリラリン(fibrillarin, 別名:FBL)およびRNAポリメラーゼI型(RNA polymerase 1, 別名:Pol1)が挙げられ、核小体に特異的に結合するするタンパク質としては、日本脳炎ウイルス等やC型肝炎ウイルス等のフラビウイルス、コロナウイルスのコアタンパク質、別名キャプシドタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない(Rawlinson and Moseley, 2015. Cellular Microbiology; Salvetti and Greco, 2014. Biochemica et Biophysica Acta)。
ネクロフォスミンとは、核小体構造の最も外側に位置している顆粒性要素(GC)領域に存在するリボ核酸(RNA)に結合するタンパク質である。ヌクレオリンとは、主に核小体の高密度線維性要素(DFC)に局在し、リボソームデオキシリボ核酸(rDNA)の転写などに関わるタンパク質である。フィブリラリンとは、核小体の線維性要素(FC)、高密度線維性要素(DFC)に局在し、RNAと結合して,rRNA前駆体のプロセッシングや修飾に機能するタンパク質である。RNAポリメラーゼIとは、DNAの鋳型鎖(一本鎖)の塩基配列を読み取って相補的なRNAを合成する反応(転写)を触媒する酵素(RNAポリメラーゼ)のひとつである。RNAポリメラーゼIは核小体に存在してrRNA前駆体を合成する。
【0039】
これら核小体に特異的に結合するタンパク質の存在および/または局在の変化は、例えば、抗ネクロフォスミン抗体(抗NPM1抗体)(ab10530, Abcam, UK)、抗ヌクレオリン抗体(抗NCL抗体)(A300-710A, Bethyl Laboratories, TX)、抗フィブリラリン抗体(GTX24566, GeneTex, CA)、抗RNAポリメラーゼI抗体(抗POLI抗体)(13635-1-AP, Proteintech, IL)を用いた免疫蛍光抗体法によって観察できる。また、これらのタンパク質は、それらタンパク質をコードする核酸と緑色蛍光タンパク質(GFP)など蛍光物質をコードする核酸とを結合し、結合核酸を細胞に遺伝子導入すること、もしくは内在タンパク質および蛍光物質を融合させた組み換えタンパク質を細胞内にマイクロインジェクションすることによる蛍光イメージング法によって、観察できる。
【0040】
「生物学的細胞において核小体に局在する核酸」とは、核小体に内在する核酸、または核小体に特異的に結合するする核酸を意味する。核小体に内在する核酸としては、リボソームデオキシリボ核酸(別名:リボゾームDNAまたはrDNA)が挙げられる。rDNAとは、43 kb(コーディング領域13.7 kb、非コーディング領域29.3 kb)を1ユニットとする繰り返し配列で、ヒトでは第13染色体、第14染色体、第15染色体、第21染色体、第22染色体の短腕型染色体の核短腕部に存在するDNAのことである。
これらrDNAの存在および/または局在の変化はFISH(Fluonecsence In Situ Hybridization)法で観察できる。FISH法とは、たとえばrDNAの特定の遺伝子配列を蛍光物質などで標識したオリゴヌクレオチドプローブを用い、目的の遺伝子とハイブリダイゼーションさせ蛍光顕微鏡で検出する手法である。
【0041】
フラビウイルスのコアタンパク質は生物学的細胞の核小体の局在を視覚化することで核小体の形態を表すことができることは知られていた(Tsuda et al., 2006 Microbiol. Immunol., 50, 225-234)。本発明において核小体の形態への影響の判別にフラビウイルスのコアタンパク質を利用することは、この知見に基づく。
フラビウイルスのコアタンパク質は、リポフェクトアミン(ThermoFisher)など遺伝子導入試薬により細胞内で発現させる、もしくは大腸菌や昆虫細胞から精製した組み換えタンパク質をガラス針を用いてマイクロインジェクションすることによって生物学的細胞の細胞質に注入し、その局在を観察する。フラビウイルスのコアタンパク質は、コアタンパク質をコードするDNAを組み込んだプラスミドを大腸菌やバキュロウイルスに遺伝子導入し、大腸菌の場合はその菌体内で、バキュロウイルスの場合はsf9昆虫細胞に感染し昆虫細胞中で発現させ、菌体、昆虫細胞を破砕して発現したタンパク質と特異的な抗体やグルタチオン-S-トランスフェラーゼといったタグタンパク質をそれに対する特異的な結合タンパク質を架橋したセファローズビーズで吸着、精製して製造することができる。
フラビウイルスのコアタンパク質の局在の変化は、例えば、抗フラビウイルス抗体やFlagタグなどを融合したコアタンパク質に対する抗Flag抗体などを用いた免疫蛍光抗体法、GFPなどの蛍光タンパク質を融合した融合タンパク質を発現、もしくは導入した細胞を蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡、超解像顕微鏡、電子顕微鏡などによって、観察できる。
【0042】
このように、本発明のスクリーニング方法では、生物学的細胞において核小体に局在するタンパク質が、ネクロフォスミン、ヌクレオリン、フィブリラリン、RNAポリメラーゼIおよびフラビウイルスのコアタンパク質、のなかから選ばれる一つまたはそれ以上のタンパク質である、本発明の方法が包含される。核小体に局在するタンパク質を2つまたはそれ以上用いることは、候補化合物の確実性の点から、好ましい。
【0043】
本発明の方法は特定の態様において、
(1)生物学的細胞を、抗フラビウイルス活性を有する物質の候補化合物とインビトロで接触させ、前記候補化合物が前記生物学的細胞における核小体の形態に影響を与えるのに十分な条件下および時間にわたりインキュベートし、
(2)前記候補化合物が、前記生物学的細胞における核小体の形態に対し、影響を与えるか調べ、
(3)影響を与えている前記候補化合物を、抗フラビウイルス活性を有する物質として同定する。前記生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える候補化合物が、潜在的な抗フラビウイルス薬物として同定される。
【0044】
本発明はまた、好ましい態様において、
(1)生物学的細胞を、抗フラビウイルス活性を有する物質の候補化合物とインビトロで接触させ、前記候補化合物が前記生物学的細胞における核小体の形態に影響を与えるのに十分な条件下および時間にわたりインキュベートし、
(2)前記候補化合物が、前記生物学的細胞における核小体の形態に対し、影響を与えるか調べ、
(3)影響を与えている前記候補化合物を選別し、さらに
(4)選別された前記候補化合物について、ウイルスのコアタンパク質の生物学的細胞における局在変化を調べ、
(5)核小体の形態への影響とともに、コアタンパク質の局在も変化していれば、抗フラビウイルス活性を有する物質として同定する。
【0045】
本発明におけるスクリーニング方法は、生物学的細胞における核小体の形態に影響を与えることにより効果を発揮する抗フラビウイルス薬物の発見および開発につながる。これらの薬物は、フラビウイルス感染および/またはフラビウイルス関連疾患および症状の処置および/または予防において潜在的に有用であり得る。本発明は、本発明のスクリーニング方法により抗フラビウイルス活性を有する物質として同定された化合物のいずれかを包含する。
【0046】
本発明者らにより見出された生物学的細胞における核小体の形態への影響は、新たな抗フラビウイルス薬物の同定、設計および開発のための標的として使用ができる。抗フラビウイルス薬物として有用な生物学的細胞における核小体の形態に影響する物質は、多種多様な分子のファミリーに属し、限定はされないが、有機化合物(例、小分子、サッカライド、ステロイドなど)、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体(例、フラビウイルスのコアタンパク質の核移行に結合する抗体)、ペプチド、ポリペプチド、核酸分子(例、アンチセンス化合物、リボザイム、三重らせん分子、SELEX RNAなど)を含む。
【0047】
本発明の方法に従ったライブラリーのスクリーニングは、通常「ヒット」または「リード」化合物と称される、所望の、しかし最適化までは為されていない生物学的活性を有する化合物を提供する。有用な薬物候補を開発する次の段階は、通常、ヒット化合物の化学構造とその生物学的または薬理学的活性の間での関係の分析を含む。分子構造および生物学的活性は、所定の生物学的指標についての全体的な構造修飾の結果を観察することによって関連付けることができる。最初のスクリーニングから利用可能な構造-活性相関の情報を次に使用し、小さな化合物ライブラリーを生成でき、それは、次いで、より高い親和性を有する化合物についてスクリーニングされる。臨床的有用性のために要求される立体電子的、物理化学的、薬物動態学的および毒物学的要因を満たすために生物学的に活性な化合物の合成修飾を実施するプロセスは、リード最適化と呼ばれ、本発明のスクリーニング方法により同定される候補化合物は同様に、リード最適化の初期に応用できる。リード最適化により化学的に修飾され、改善された薬物候補は、適切な範囲において本発明に包含され得る。適切な範囲とは、本発明における生物学的細胞の核小体の形態に影響する薬物候補化合物が一定の範囲の化学構造を有し同様の活性を示すと当業者が理解できる範囲である。
【0048】
本明細書に記載するスクリーニング方法は、キットにすることができる。例えば、本明細書で開示する生物学的細胞を、バイアル、チューブ、マイクロタイターウエルプレート、ボトルなどの種々の容器にパッケージングし、他の試薬を別の容器に含め、キットすることができる。ここには、ポジティブコントロール試料または化合物、ネガティブコントロール試料または化合物や、緩衝液、細胞培養液、特異的検出プローブなどを含め、それを総じてキットとすることができる。
【0049】
<抗フラビウイルス医薬組成物>
本発明は、別の態様として、生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質を含む抗フラビウイルス医薬組成物、好ましくは生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質を、抗フラビウイルス活性を有する有効成分として含む、抗フラビウイルス医薬組成物、具体的には核小体の形態異常を引き起す物質を含む抗フラビウイルス医薬組成物、好ましくは核小体の形態異常を引き起す物質を、抗フラビウイルス活性を有する有効成分として含む、抗フラビウイルス医薬組成物を提供する。以下、具体的に説明する。
「フラビウイルス」という用語は前述の意義を有し、「抗フラビウイルス」または「抗フラビウイルス活性」なる用語は互換可能に使用され、フラビウイルスの複製、細胞への侵入および/または細胞のフラビウイルス感染を低下、阻害、遮断または予防する、結果的にフラビウイルスの生活環を抑制、阻害し、ウイルス活性を消滅、低減させるあらゆる効果を意味する。
【0050】
従って、「抗フラビウイルス医薬組成物」とは、フラビウイルスを消滅、低減することによりフラビウイルスに罹患または感染した被験者を処置または予防できる、医薬組成物を意味する。「フラビウイルスに羅患する」または「フラビウイルスに感染した」という用語は、被験者に関連して使用され、フラビウイルスにより感染されフラビウイルス関連疾患を有することを意味する。「フラビウイルス感染」という用語は、標的細胞中へのフラビウイルス遺伝情報の導入(例えば標的細胞膜とフラビウイルスまたはフラビウイルスエンベロープ糖タンパク質陽性細胞との融合などによる)を指すことができる。「フラビウイルス関連疾患」とは、フラビウイルスと関連するおよび/または直接的もしくは間接的に引き起こされることが知られる、または疑われる任意の疾患または障害を指す。フラビウイルス関連疾患は、発熱や頭痛、筋肉痛、関節痛が主な症状であり、特に深刻なデングウイルスによる出血熱、ジカウイルスや日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルスによる脳炎、ジカウイルスによる小頭症を含むが、これらに限定されない。抗フラビウイルス活性について、具体的にはフラビウイルスが日本脳炎ウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、ウエストナイルウイルス、黄熱ウイルスの中から選ばれる抗フラビウイルス活性である。
【0051】
「処置」とは本明細書において、(1)疾患または状態(例、フラビウイルス感染またはフラビウイルス関連疾患)の発症を遅延または予防する;(2)疾患または状態の症状の進行、増悪、または悪化を減速または停止させる;(3)疾患または状態の症状の寛解をもたらす;あるいは(4)疾患または状態を治癒させることを目的とする方法またはプロセスを意味する。処置は、予防的措置として疾患または状態の発症前に施してもよいし、あるいはまた、処置は、疾患の開始後に施してもよい。
【0052】
「フラビウイルス感染を予防、阻害または遮断する」という用語は、抗フラビウイルス活性を有する物質を使用される場合、感受性細胞または感受性細胞集団中に導入されたフラビウイルス遺伝情報の量を、薬物の非存在において導入されるであろう量と比較し、低下させることを意味する。
【0053】
「医薬組成物」は本明細書において、有効量の少なくとも1つの抗フラビウイルス活性を有する物質、および少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体または賦形剤を含む。本明細書で使用する「有効量」という用語は、その意図する目的、例えば、細胞、組織、系、または被験者における所望の生物学的または薬理応答を満たすために十分である化合物または組成物の任意の量を意味する。例えば、本発明の特定の実施態様において、目的は、抗フラビウイルス活性を有すること、フラビウイルス感染を予防すること、フラビウイルス関連疾患の発症を予防すること、フラビウイルス関連疾患の症状の進行、増悪または悪化を減速、軽減または停止させること、疾患の症状の寛解をもたらすこと、および/またはフラビウイルス関連疾患を治癒することを意味する。
【0054】
「薬学的に許容され得る担体または賦形剤」は、活性成分の生物学的活性の有効性に干渉せず、それが投与される濃度で宿主に対して過度の毒性がない担体媒質を指す。この用語は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、ならびに吸着遅延剤などを含む。薬学的活性物質のためのそのような媒質および薬物の使用は、当技術分野において周知である。
【0055】
本発明において「生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質」とは、本発明における生物学的細胞において、リボソームRNA(rRNA)の転写やリボソームの合成場所である核小体に影響し、その形態を変化させる物質を意味し、具体的には核小体の形態異常を引き起す物質である。生物学的細胞における核小体の形態異常は上記のとおり、本発明における核小体に局在するタンパク質の形成および/または局在の変化によって判別される。好ましくは、これらの物質は、本発明のスクリーニング方法によって選別される。
【0056】
本発明において、生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質は一つの態様として、ウイルス複製阻害により抗フラビウイルス活性を発揮する。本発明において、好ましくは、ウイルス複製阻害がウイルスのコアタンパク質の生物学的細胞における局在変化を伴う医薬組成物である。最終的に抗フラビウイルス活性を示す、ウイルス複製阻害は、フラビウイルスのコアタンパク質の局在を伴うからである。
【0057】
具体的な「生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質」は、サイクリン依存性キナーゼ(Cyclin-dependent kinase, CDK)阻害活性を有する物質、rRNA転写阻害活性を有する物質、DNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質、またはグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3(GSK-3)阻害活性を有する物質の中から選ばれる。
【0058】
CDK阻害活性を有する物質における「CDK」とは、細胞周期を司るキナーゼ群のなかでサイクリンと結合してはじめて活性をもつリン酸化酵素を意味し、CDK1(ないしcdc2)、CDK2、CDK4、CDK6などがあり、それぞれは細胞周期の異なった時点で活性化される。サイクリン(Cyclin)とは真核生物の細胞において細胞周期を移行させるタンパク質であり、細胞周期の回転にはサイクリンA、B、D、Eが関与している。サイクリンAは主にCDK1、CDK2と結合して複合体を形成しDNA合成期の終了を制御する。サイクリンBは主にCDK2と結合して複合体を形成し分裂期への進行を制御する。サイクリンDは主にCDK4とCDK6と結合して複合体を形成し、DNA合成準備期/DNA合成期の移行を制御する。サイクリンEは主にCDK2と結合として複合体を形成しDNA合成期への移行を制御する。CDK阻害活性を有する物質は通常は、CDK活性を阻害して細胞増殖を抑制する作用を示し、その作用を利用して抗がん剤として開発されているものが多く、その中にはCDK4/6阻害剤イブランス(一般名:パルボシクリブ、ファイザー株式会社)がある。本発明においては、CDK1、CDK2、CDK9を阻害する物質が好ましい。
【0059】
さらに具体的には、CDK阻害活性を有する物質は、2-シアノエチルアルステロパウロン、5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド、(4-(2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イル)-(3-ニトロフェニル)アミン、P276-00、A-674563、SU9516、SNS-032 (BMS-387032)、ディナシクリブ(Dinaciclib、SCH727965)、フラボピリドール(Flavopiridol、アルボシディブ(Alvocidib))、AT7519、フラボピリドール塩酸(Flavopiridol HCl)、P276-00、AT7519 HCl、AZD5438、R547、およびケンパウローン(Kenpaullone)の中から選ばれる。好ましいCDK阻害活性を有する物質は、2-シアノエチルアルステロパウロン、5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド、(4-(2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イル)-(3-ニトロフェニル)アミン、P276-00、A-674563、およびSU9516の中から選ばれる。さらに好ましいCDK阻害活性を有する物質は、2-シアノエチルアルステロパウロン、5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド、および(4-(2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イル)-(3-ニトロフェニル)アミンの中から選ばれる。
【0060】
詳細には、2-シアノエチルアルステロパウロン:3-(6-オキソ-9-ニトロ-5,6,7,12-テトラヒドロインドロ[3,2-d][1]ベンズアゼピン-2-イル)プロピオンニトリル(Kunick, C., et al. 2005. ChemBioChem. 6, 541-549.)
【化1】
【0061】
5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド(Lin, R., et al. 2005.J. Med. Chem. 48, 4208-4211.)
【化2】
【0062】
(4-(2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イル)-(3-ニトロフェニル)アミン(Kontopidis, G., et al. 2006. Chem. Biol. 13, 201.)
【化3】
【0063】
SNS-032 (BMS-387032): Chen R, et al. 2009. Blood, 113(19), 4637-45; Ali MA, et al., 2007. Neoplasia, 9(5), 370-81; Conroy A, et al. 2009, Cancer Chemother Pharmacol, 64(4), 723-32; Walsby E, et al. 2011. Leukemia, 25(3), 411-9.
【化4】
【0064】
ディナシクリブ(Parry D, et al. 2010. Mol Cancer Ther. 9(8), 2344-2453; Guzi TJ, et al., 2011. Mol Cancer Ther., 10(4), 591-602; Abdullah C, et al. 2011. Cell Cycle., 10(6), 977-988; Fu W, et al., 2011. Mol Cancer Ther., 10(6), 1018-1027)
【化5】
【0065】
フラボピリドール(アルボシディブ)(Kim KS, et al. 2000. J Med Chem, 43(22), 4126-4134; Lu H, et al. 2005. J Med Chem, 48(3), 737-743; Montagnoli A, et al. 2008. Nat Chem Biol, 4(6), 357-365; Carlson BA, et al. 1996. Cancer Res, 56(13), 2973-2978)
【化6】
【0066】
AT7519: (Squires MS, et al. 2009. Mol Cancer Ther, 8(2), 324-332; Santo L, et al. 2010.Oncogene, 29(16), 2325-2336)
【化7】
【0067】
フラボピリドール塩酸(Senderowicz AM, 2002. Oncologist, 7 Suppl 3:12-9; Carlson BA, et al, 1996. Cancer Res, 56(13), 2973-2978; Parker BW, et al, 1998. Blood, 91(2), 458-465; Drees M, et al, 1997. Clin Cancer Res, 3(2), 273-279)
【化8】
【0068】
P276-00: (Joshi KS, et al. 2007. Mol Cancer Ther, 6(3), 918-925; Joshi KS, et al. 2007. Mol Cancer Ther, 6(3), 926-934)
【化9】
【0069】
AT7519 HCl: (Squires MS, et al. 2009. Mol Cancer Ther, 8(2), 324-332; Santo L, et al. 2010. Oncogene, 29(16), 2325-2336)
【化10】
【0070】
AZD5438:(Byth KF, et al. 2009. Mol Cancer Ther. 8(7), 1856-1866)
【化11】
【0071】
A-674563:(Luo Y, et al, 2005. Mol Cancer Ther, 4(6), 977-986; Zhu QS, et al, 2008. Cancer Res, 68(8), 2895-2903; Tatsuya Okuzumi, et al, 2010. Mol Biosyst, 6(8), 1389)
【化12】
【0072】
R547:(Rodriguez A , et al. 2006. Mol Cancer Ther, 5(11), 2644-2658; Chu XJ, et al. 2006. J Med Chem, 49(22), 6549-6560; Berkofsky-Fessler W, et al. 2009. Mol Cancer Ther, 8(9), 2517-25)
【化13】
【0073】
ケンパウローン(Zaharevitz et al. 1999. Cancer Res. 59(11):2566-2569; Adam COLE, et al. 2004. Biochem. J. 377(1):249-255; Leclerc S, et al. 2001. J Biol Chem. 276(1):251-260)
【化14】
【0074】
SU9516:(Lane ME, et al. 2001. Cancer Res. 61(16), 6170-6177; Gao N, et al. 2006. Mol Pharmacol. 70(2), 645-655; Uchiyama H, et al. 2010.Cancer Sci. 101(3), 728-734; Leontovich AA, et al. 2013. Oncol Rep. 29(5), 1785-1788)
【化15】
【0075】
rRNA転写とは、リボゾームRNA(rRNA)をコードするrDNAのプロモーター上にRNAポリメラーゼIを含む転写開始複合体が形成され、rRNAが合成される反応を意味する。rRNA転写阻害活性を有する物質は通常は、RNAポリメラーゼIなどrRNAの転写を抑制または阻害し、結果としてrRNA合成を阻害する作用を示す。rRNA転写阻害活性を有する物質は典型的には、以下に詳細を示すアクチノマイシンD(Actinomycin D)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、およびアクラルビシン(Aclarubicin)の中から選ばれる。アクチノマイシンD処理により、核小体の崩壊を誘導することは知られている(Scheer et al., 1975. 65:163-179)。
【0076】
アクチノマイシンD:アクチノマイシンDによりrRNA転写活性を阻害すると、DFCやGCが核小体周辺にキャップ様構造を形成する核小体分離(nucleolar segregation)が生じる(Scheer et al., 1975. 65:163-179)。(Waksman S.A. et al., 1940. Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 45, 609-614; Goldberg I. H. et al., 1962. Science. 136, 315-316; Sobell H. M. et al., 1985.Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 5328-5331)
【化16】
【0077】
ドキソルビシン(Arcamone F., et al, 1969.Tetrahedron Lett. 13, 1007-1010; Taatjes D. J., et al, 1996. J. Med. Chem. 39, 4135-4138; Zeman S. M., et al, 1998. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 95, 11561-11565)
【化17】
【0078】
アクラルビシン(Isoe T., et al., 1992. Biochim. Biophys. Acta. 1117, 131-135; Figueiredo-Pereira M. E., et al., 1996. J. Biol. Chem. 271, 16455-16459; Natale R. B., et al., 1993. Cancer Chemother. Pharmacol. 31, 485-488,)
【化18】
【0079】
DNAトポイソメラーゼは、二本鎖DNAの一方または両方を一時的に切断し、再び切断点を結合する酵素である。大きく2つの型(I型およびII型)に分類され、I型はDNAの二本鎖のうち一本鎖だけを切断した後、切断したDNAを再結合させる。II型は二本鎖を切断し、再結合させる。これにより、DNAトポイソメラーゼは複製時にDNAが持つらせん構造のねじれやひずみを解消させる。DNAトポイソメラーゼの活性を阻害する物質は通常、DNAを切断してつなぎ直す働きを阻害するとともに、DNA間で架橋を形成してDNA複製を阻害する。DNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質は典型的には、以下に詳細を示すドキソルビシン(Doxorubicin)、およびアクラルビシン(Aclarubicin)、エリプチシン(Ellipticine)、イダルビシン(Idarubicin)、イダルビシン塩酸塩(Idarubicin HCl)、エピルビシン塩酸塩(Epirubicin HCl)、ミトキサントロン塩酸塩(Mitoxantrone HCl)、ダウノルビシン塩酸塩(Daunorubicin HCl)の中から選ばれる。好ましいDNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質は、エリプチシンである。
【0080】
ドキソルビシン(同上);
アクラルビシン(同上);
【0081】
エリプチシン(Stiborova M, et al. Biomed Pap Med Fac Univ Palacky Olomouc Czech Repub. 2006 Jul;150(1):13-23.)
【化19】
【0082】
【0083】
イダルビシン塩酸塩(Orlandi P, et al. J Chemother. 2005, 17(6), 663-667.)
【化21】
【0084】
エピルビシン塩酸塩(Ozkan A, et al. Pol J Pharmacol, 2004, 56(4), 435-444.)
【化22】
【0085】
ミトキサントロン塩酸塩(Nieciecka D., et al. Electrochimica Acta, 2015, 165, 430-442])
【化23】
【0086】
ダウノルビシン塩酸塩(Fu Y, et al. Thromb Haemost, 2010, 104(6), 1235-1241.)
【化24】
【0087】
GSK-3は、グリコーゲン合成酵素をリン酸化して、不活化するセリン・スレオニンタンパク質リン酸化酵素として同定された。ヒトではαとβの二つのアイソフォームに分類され、グリコーゲン代謝のみならず、多くの細胞機能制御に関与することが分かっている。GSK-3の活性を阻害する物質は典型的には、1-アザケンパウロン(1-Azakenpaullone)である。
【0088】
1-アザケンパウロン(Kunick C, et al. Bioorg Med Chem Lett. 2004, 14(2), 413-416.)
【化25】
【0089】
上記のとおり、本発明における「生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える物質」は、CDK阻害、rRNA転写阻害、DNAトポイソメラーゼ阻害、およびGSK-3阻害等、種々の既知の生物学的活性を有し、かつ上記のとおり、種々の化学構造を有している。種々の既知の活性および種々の化学構造を有する化合物がすべて、「生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える」という共通する作用を有し、それによりフラビウイルスの複製を阻害することが証明されている。これはすなわち、「生物学的細胞における核小体の形態に影響を与える」という共通作用を有する化合物であれば、すべてがフラビウイルスのウイルス複製を阻害し、抗フラビウイルス活性を有していることの証拠である。特定の理論に囚われるものでないが、フラビウイルスはウイルス複製機能の一端としてコアタンパク質が宿主細胞の核小体機能を活用しており、本発明において初めて見出された核小体における形態異常は、コアタンパク質の機能発揮に悪影響を与え、ウイルス由来のタンパク質の合成促進等を担う正常な核小体機能を低減あるいは破壊する作用をもたらしていると考えられる。
【0090】
一般に、本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質または組成物を、有効量、即ち、意図する目的を満たすに十分な量で投与する。投与される抗フラビウイルス活性を有する物質または医薬組成物の正確な量は、被験者間で、処置される被験者の年齢、性別、体重および全体的な健康状態、所望の生物学的または医学的応答(例、フラビウイルス感染の予防またはフラビウイルス関連脳疾患の処置)などに応じて変動する。多くの実施態様において、有効量は、生物学的細胞における核小体の形態に影響する量であり、フラビウイルスが被験者の感受性細胞において複製することを阻害または予防し、それによりフラビウイルス感染を処置または予防する量である。
【0091】
本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質および組成物を、種々の治療的または予防的方法に使用してもよい。特に、本発明は、フラビウイルス関連の疾患または病状を被験者において処置または予防するための方法を提供し、それは被験者に、本発明の生物学的細胞の核小体の形態に影響する有効量の本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質またはその組成物を投与することを含み、それはフラビウイルスが被験者の細胞に侵入または感染することを阻害し、それにより脳疾患または病状を被験者において、寛解、予防または処置をもたらし得る。
【0092】
本発明は特定の態様において、本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質または組成物を単独で投与する。他の態様では、本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質または組成物は、少なくとも1つの追加の治療用薬物と組み合わせて投与される。本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質または組成物は、治療用薬物の投与前、治療用薬物と同時に、および/または治療用薬物の投与後に投与できる。
【0093】
本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質または組成物との組み合わせで投与され得る治療用薬物は、フラビウイルス感染、またはフラビウイルス関連疾患もしくは状態の処置、管理または予防において有益な効果を有することが当技術分野において公知である多種多様な生物学的に活性な化合物の中から選択され得る。そのような薬物は、特に、抗ウイルス薬物を含み、インターフェロン(例、インターフェロンアルファ、ペグ化インターフェロンアルファ)、抗フラビウイルス(モノクローナルまたはポリクローナル)抗体、RNAポリメラーゼ阻害物質、プロテアーゼ阻害物質、IRES阻害物質、ヘリカーゼ阻害物質、アンチセンス化合物、リボザイム、およびその任意の組み合わせを含む。
【0094】
本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質は、場合により1つまたはそれ以上の適切な薬学的に許容され得る担体または賦形剤と製剤化され、所望の投与量でそれを必要とする被験者に任意の適した経路により投与することができる。種々の送達システムが公知であり、本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質を投与するために使用することができ、例えば、錠剤、カプセル剤、注射剤、リポソーム中のカプセル化剤、粉末剤、マイクロカプセル剤などを含む。投与の方法には経皮、皮内、筋肉内、腹腔内、病巣内、静脈内、皮下、鼻腔内、肺、硬膜外、眼内および経口経路を含む。投与は全身的または局所的であり得る。
【0095】
本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質または組成物の投与は、送達される量が意図される目的のために効果的であるような投与量であり得る。投与経路、製剤化、および投与量は、所望の治療効果、処置されるフラビウイルス感染またはフラビウイルス関連状態の重症度(既に存在する場合)、任意の他の感染の存在、患者の年齢、性別、体重、および全体的な健康状態ならびに使用される抗フラビウイルス活性を有する物質または組成物の効力、バイオアベイラビリティおよびインビボでの半減期、併用治療の使用(または未使用)および他の臨床因子に依存し得る。これらの因子は、治療の経過において主治医により容易に決定可能である。本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質を使用して試験が行われるにつれ、適切な投与量レベルおよび処置時間に関してさらなる情報得られるであろう。
【0096】
本発明の処置は、単回用量または複数回用量からなり得る。このように、本発明の抗フラビウイルス活性を有する物質、またはその組成物の投与は、特定の期間にわたり一定、または定期的、および特定の間隔、例えば数時間1回、1日1回、週1回、月1回(例、時間放出形態)であり得る。あるいは、送達は、一定期間にわたる持続的送達、例えば静脈内送達であり得る。
【0097】
一般に、投与される抗フラビウイルス活性を有する物質の量は、好ましくは、被験者の体重の約1ng/kg~約100mg/kg、例えば、被験者の体重の約100ng/kg~約50mg/kg;または被験者の体重の約1μg/kg~約10mg/kgの範囲であり得る。
【0098】
以下、本発明を参考例および実施例により、より詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものでなく、単なる例示であることに留意すべきである。
【実施例】
【0099】
参考例1:フラビウイルスコアタンパク質の核小体局在
フラビウイルスコアタンパク質を細胞に発現させ、その局在を調べた。
参考例1-1:一過性培養細胞発現プラスミドの構築
日本脳炎ウイルス(JEV)、デングウイルス(DENV)、ジカウイルス(ZIKV)のコア(core)タンパク質cDNAは、国立感染症研究所より分与を受けた。ウエストナイルウイルス(WNV)のcoreタンパク質cDNAは、Integrated DNA Technologies(IDT, Inc., Illinois)で受託合成した。それぞれのcoreタンパク質cDNAを、下記プライマーを用いてPCR反応により増幅し、増幅した各cDNAを、Flag-tagを含むpCAGGSベクター(Miyazaki et al., (1989)Gene. 79: 269-77)のEcoRI部位にIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara Bio Inc. Japan)を用いて組み込みこみ、pCAGGS/flag-JEVcore、pCAGGS/flag-DENVcore、pCAGGS/flag-ZIKAcoreおよびpCAGGS/flag-WNVcoreを構築した。
【0100】
JEV core:
Fw GCTGTACAAGCTCGAGATGACTAAAAAACCAGGAGG(配列番号:1)
Rv ACAGGTTTTCCTCGAGTCTTTTGTTTTGCTTTCTGC(配列番号:2)
DENV core:
Fw GCTGTACAAGCTCGAGATGAATAACCAACGGAAAAA(配列番号:3)
Rv ACAGGTTTTCCTCGAGTCTGCGTCTCCTATTCAAGA(配列番号:4)
ZIKV core:
Fw GCTGTACAAGCTCGAGATGAAAAACCCAAAGAAGAA(配列番号:5)
Rv ACAGGTTTTCCTCGAGACGTCTCTTCCTCTCTTTCC(配列番号:6)
WNV core:
Fw GCTGTACAAGCTCGAGATGTCTAAGAAACCAGGAGG(配列番号:7)
Rv ACAGGTTTTCCTCGAGTCTTTTCTTTTGTTTTGAGC(配列番号:8)
【0101】
参考例1-2:一過性培養細胞発現
肝細胞がんHuh7細胞(国立感染症研究所より分与)は、ダルベッコ改変イーグル培地(含10% 牛胎児血清、100 μg/mLペニシリン、100 μg/mL ストレプトマイシン)中で、37 ℃、5% CO2下で培養した。1 x 10
5個のHuh7細胞を15 mm丸形マイクロカバーガラス(Matsunami, Japan)を入れた35 mm dish(IWAKI, Japan)に播種し24時間培養後、pCAGGS/flag-JEVcore, pCAGGS/flag-DENVcore, pCAGGS/flag-ZIKAcore, pCAGGS/flag-WNVcoreそれぞれをTransIT-LT1 Transfection Reagent(Mirus Bio LLC, WI)を用いて導入した。24時間後、細胞を4% パラホルムアルデヒドで固定した後、0.5% Triton-X100 で5 分間処理した。1000倍希釈した抗Flag-tag抗体(SIGMA)で 60分インキュベートした後、PBSで洗浄後、2000倍希釈した抗マウス二次抗体(invitrogen)を加え 60分インキュベートした。PBSで洗浄した後、蛍光顕微鏡(olympus)により観察した。得られた結果を
図1(A)に示す。細胞核はDAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩、DOJINDO, Japan、終濃度0.2 μg/mL)で染色した。Flag(上段)は、検討したコアタンパク質(JEV core, DENV core, ZIKV core, WNV core)の細胞内局在を示す。どのタンパク質も細胞質と核内(核小体)に局在することがわかる。DAPI(下段)はゲノムDNA(細胞核)を示す。
【0102】
参考例1-3:バキュロウイルス由来のコアタンパク質の細胞内局在
参考例1-1と同様、JEV、DENV、ZIKVおよびWNVそれぞれのコアタンパク質cDNAをPCRにより増幅し、N末端にAcGFP(Clontech)を、C末端にFLAG-One-STrEP(FOS)tag(Kouwaki T, et al.(2016) Journal of virology 90: 3530-3542)を融合した形でバキュロウイルス発現ベクターpFastBac1(Thermo Fisher Scientific Inc, MA)のEcoRI部位にIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara Bio Inc., Japan)を用いて組み込み、pFastBac1/AcGFP-JEVcore-FOS、pFastBac1/AcGFP-DENVcore-FOS、pFastBac1/AcGFP-ZIKAcore-FOSおよびpFastBac1/AcGFP-WNVcore-FOSを構築した。
【0103】
形質転換受容性大腸菌(DH10 Bac(Thermo Fisher Scientific Inc))を、バキュロウイルス発現用プラスミドpFastBac1/AcGFP-JEVcore-FOS、pFastBac1/AcGFP-DENVcore-FOS、pFastBac1/AcGFP-ZIKAcore-FOSおよびpFastBac1/AcGFP-WNVcore-FOSを用いて形質転換した。カナマイシン、ゲンタマイシン、テトラサイクリンを加えた2×YT寒天培地に0.1 M イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)と25 mg/mL 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル β-D-ガラクトピラノシド(X-Gal)を100ulずつ塗り、上記バキュロウイルス発現用プラスミドで形質転換したDH10 Bacをまいて37 ℃、3日間培養した。コロニーを培養した後、プラスミドDNAを抽出し、X-treme GENE 9 DNA トランスフェクション試薬(Roche Applied Science, Germany)を用いて、Sf9昆虫細胞(Thermo Fisher Scientific Inc)に遺伝子導入した。27 ℃、4日間培養後、10 cm ペトリディシュ 24枚よりSf9昆虫細胞を回収し、12 mL 細胞溶解緩衝液(20 mM Tris-HCl(pH7.4), 135 mM NaCl, 1% TritonX-100, 10% グリセリン)に懸濁した。細胞懸濁液を遠心後、上清に300 uL Strep-Tactin セファロースを加えて4 ℃ 12時間インキュベートした。Strep-Tactin セファロースを緩衝液 W(100 mM Tris-HCl (pH8.0), 150 mM NaCl, 1 mM EDTA)で洗浄した後、2.4 mL 緩衝液 E (100 mM Tris-HCl (pH 8.0), 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 2.5 mMデスチオビオチン)でタンパク質を溶出した。
【0104】
バキュロウイルスより精製したAcGFP融合コアタンパク質それぞれをインジェクションマーカーであるマウスIgG(Santa Cruz Biotechnology, Texas, USA)とともにHuh7細胞の細胞質にマイクロインジェクションし、30分インキュベートした。マウスIgGはAlexa Fluor594抗マウス二次抗体(Thermo Fisher Scientific Inc.)で検出した。得られた結果を
図1(B)に示す。Injection marker(下段)は、マウスIgGの細胞内局在を示す。細胞質にインジェクションしたマウスIgGは核内へ移行できないため、細胞質にとどまっている。このことからサンプルを正確に細胞質に打ち込んでいること、マイクロインジェクションによる核膜の物理的な破壊はおこっていないことがわかる。GFP(上段)は、マウスIgGと細胞質にマイクロインジェクションしたコアタンパク質(GFP-JEV core, GFP-DENV core, GFP-ZIKV core, GFP-WNV core)が核内(核小体)に局在する活性があることを示している。
【0105】
参考例1-4:バキュロウイルスより精製したJEVコアタンパク質の核内移行活性と核小体局在活性の証明
AcGFP-JEVコアとインジェクションマーカーである抗マウス2次抗体(Alexa Fluor Plus 555, Thermo Fisher Scientific Inc.)を混和し、Huh7細胞の細胞質にマイクロインジェクションした。30分間インキュベーション後、細胞を固定し、抗ネクロフォスミン抗体(抗NPM1抗体)(ab10530, Abcam, UK)を用いた免疫蛍光抗体法を行った。二次抗体は抗マウス2次抗体(Alexa Fluor 645, Thermo Fisher Scientific Inc.)を使用し、ゲノムDNA(細胞核)はDAPIで染色した。
得られた結果を
図1(C)に示す。図中、Injection markerは、インジェクションマーカーであるAlexa Fluor Plus 555マウスIgGの蛍光が細胞質に存在することを表している。これは、インジェクションマーカーが打ち込まれた細胞質に留まっており、核には移行しないことを示している。JEV coreは、Alexa Fluor Plus 555マウスIgGとともに細胞質にマイクロインジェクションされたJEVコアタンパク質が核小体マーカーであるNPM1と共局在することを表している。これは、JEVコアタンパク質が核に移行し、核小体に局在する活性があることを示している。NPM1およびDAPIはそれぞれ、核小体とゲノムDNA(細胞核)の存在を示している。
【0106】
実施例1
JEV coreの細胞内局在変化を指標とする、抗フラビウイルス活性を有する物質のスクリーニング
JEV coreの細胞内局在変化を示す細胞核内に存在するGFP蛍光(緑色)面積を指標に、抗フラビウイルス活性を有する物質のスクリーニングを行った。
実施例1-1:JEVコアタンパク質の安定発現細胞株の作製
参考例1-1と同様に、PCR反応により増幅したJEVcore遺伝子cDNAを、スーパーフォルダーGFP-11(sfGFP11)を含むレンチウイルスベクターpLV-CAG(Okada Y, et al.(2007)Nat. Biotechnol 25: 233-237)のEcoRI部位にIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara Bio Inc.)を用いて組み込み、安定発現細胞株作成用プラスミドpLV-CAG/sfGFP-JEVcoreを構築した。sfGFP1-10-SV40NLS遺伝子cDNAはIntegrated DNA Technologies(IDT, Inc., Illinois)で受託合成し、IRES(mRNA内部のリボソーム進入部位)配列下にネオマイシン耐性遺伝子とともにレンチウイルスベクターpFUGW(Addgene, plasmid #14883)の EcoRI部位にIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara Bio Inc.)を用いて組み込み、プラスミドpFUGW/sfGFP1-10-SV40NLSを構築した。
【0107】
次いで、pLV-CAG/sfGFP-JEVcore cDNAおよびpFUGW/sfGFP1-10-SV40NLS cDNAを、TransIT-LT1 トランスフェクション試薬(Mirus Bio LLC)を用いてHuh7細胞に導入し、1 mg/mL G418溶液(nacalai tesque)を添加することにより導入細胞を選択的に取得した。G418耐性Huh7はコロニーを形跡するため、低細胞密度にて播種し、GFP蛍光をもつシングルコロニーを蛍光顕微鏡下で回収し、JEVコアタンパク質の安定発現細胞株を作製した。
【0108】
実施例1-2:抗フラビウイルス活性を有する物質のスクリーニング
実施例1-1にて作製したsfGFP-JEVcore安定発現Huh7細胞1 x 104個を96-well マイクロプレート(Greiner bio-one)に播種し、37 ℃、5% CO2インキュベータで24時間培養した後、標準阻害剤キット3 ver1.5(表1:キナーゼ阻害剤キット, 文部科学省新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」化学療法基盤支援活動(https://scads.jfcr.or.jp/kit/kit.html))の低分子化合物をそれぞれ終濃度1 μMとなるよう培地に加え、さらに24時間培養した。
培養後、細胞をPBSで洗浄した後、3.7%ホルマリン溶液で15分インキュベートして細胞を固定し、ゲノムDNA(細胞核)を(DOJINDO, Japan、終濃度0.2 μg/mL)で染色した。プレートをハイスループット細胞機能探索システム CV7000S(横河電機株式会社)にかけ、1つのウエルにつき3点の蛍光写真を撮影してGFPの蛍光強度、細胞内局在を解析した。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
得られた結果を
図2(A)に示す。
図2(A)は、DAPI染色を指標に細胞核内に存在するGFP蛍光(緑色)面積を測定し、1細胞あたり(核あたり)のドット(緑の蛍光)の平均面積をグラフ化したものである。横軸はウエル、縦軸はGFP蛍光の平均面積を示す。矢印は3種のCDK阻害物質(2-シアノエチルアルステロパウロン(Alsterpaullone, 2-cyanoethl)、Cdk1/2 阻害物質III(5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド)、Cdk2/9阻害物質((4-(2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イル)-(3-ニトロフェニル)アミン))を投与したウエルを示しており、実際に蛍光面積が小さくなることを示している。
【0113】
図2(B)は、DMSO(対照)と上記3つのCDK阻害物質を処理した際の蛍光像を示している。DMSO処理時、sfGFP-JEVcoreは核内に明確に存在する核小体に局在していることが分かる。一方、CDK阻害剤処理細胞においては、sfGFP-JEV coreの蛍光が小さな点(ドット状)に見えている。またCDK阻害剤ごとにドットの数、蛍光輝度が異なることも分かる。
【0114】
以下、3種のCDK阻害物質の詳細を示す。
・2-シアノエチルアルステロパウロン:3-(6-オキソ-9-ニトロ-5,6,7,12-テトラヒドロインドロ[3,2-d][1]ベンズアゼピン-2-イル)プロピオンニトリル(Kunick, C., et al. 2005. ChemBioChem. 6, 541-549.)
・Cdk1/2 阻害物質III:5-アミノ-3-((4-(アミノスルフォニル)フェニル)アミノ)-N-(2,6-ジフルオロフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボチオアミド(Lin, R., et al. 2005. J. Med. Chem. 48, 4208-4211.)
・Cdk2/9阻害物質:(4-(2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-イル)ピリミジン-2-イル)-(3-ニトロフェニル)アミン(Kontopidis, G., et al. 2006. Chem. Biol. 13, 201.)
【0115】
実施例1-3:JEVコアタンパク質の核小体局在を変化させるCDK阻害物質のスクリーニング
実施例1-1にて作製したsfGFP-JEVcore安定発現Huh7細胞1 x 105個を15 mm丸形マイクロカバーガラス(Matsunami, Japan)を入れた35 mm dish(IWAKI, Japan)を24時間培養したのち、終濃度1 μMとなるよう、CDK阻害物質(Selleck Customized Library of 30 compounds: Cherry Pick Library (96-well)-L2000-Z237098-100uL(Selleck.co.jp, Japan、表2))を加え、さらに24時間培養した。
【0116】
培養後、細胞を4% パラホルムアルデヒドで固定し、蛍光顕微鏡(olympus)により観察した。sfGFP-JEVcoreの核小体局在が変化したCDK阻害物質を表2に示す。
1 x 105個のHuh7細胞を15 mm丸形マイクロカバーガラス(Matsunami, Japan)を入れた35 mm dish(IWAKI, Japan)を24時間培養後、参考例1-1で作製したpCAGGS/flag-JEVcore をTransIT-LT1 Transfection Reagent(Mirus Bio LLC, WI)を用いて導入しさらに24時間後、終濃度1 μMとなるよう、CDK阻害剤(Selleck Customized Library of 30 compounds(Selleck.co.jp, Japan、表2参照))を加えさらに24時間培養した。培養後、参考例1-2にて行った免疫抗体法により細胞を固定、染色した。JEVcore(Flag-core)の核小体局在が変化したCDK阻害剤を表2に示す。
【0117】
【表2】
表2中、「+」は阻害物質における各CDKに対する特異性を表し、「+」の数が多いほど、特異性と効果が高いことを意味する。表2から分かるとおり、調べたCDK阻害物質は複数のCDKに対して効果を有している。
【0118】
実施例2
Cdk1/2 阻害物質IIIによる核小体の形態変化
実施例1において、3種のCDK阻害物質、2-シアノエチルアルステロパウロン、Cdk1/2 阻害物質IIIおよびCdk2/9阻害物質が実際に蛍光面積を小さくすることを示した。
使用している細胞は、コアタンパク質がすでに核内(核小体)に存在しているsfGFP-JEVcore安定発現細胞株であり、ここでは、この細胞株に、後からCDK阻害物質を加えている。コアタンパク質の局在がどのような作用で変化しているかを調べるため、以下の実験を行った。
実施例2-1:Cdk1/2 阻害物質III処理による核小体形態異常
Huh7細胞を終濃度1 μMのCdk1/2 阻害物質III存在下で24時間培養後、抗NPM1抗体による免疫蛍光抗体を行った。二次抗体は抗マウス2次抗体(Alexa Fluor 645)を使用し、ゲノムDNA(細胞核)はDAPIで染色した。得られた結果を
図3(A)に示す。
DMSO処理(上段左から1枚目
図NPM1染色(x40対物レンズ使用)および同上段左から2枚目
図NPM1染色(強拡大図)、対照)とCdk1/2 阻害物質III処理(上段左から3枚目
図NPM1染色(x40対物レンズ使用)および同上段左から4枚目
図NPM1染色(強拡大図)、阻害物質処理)とを比較すると、NPM1の局在が対照では核内の大きくて明確な核小体に局在するのに対し、阻害物質処理では、核質全体と小さな構造体に存在していることが分かる。核質の判別はDAPIによるゲノムDNA染色から分かる(下段
図4枚、上段のNPM1染色と同じ細胞を示している)。NPM1は核小体特異的なマーカータンパク質であることから、核内の小さな構造体は核小体であるといえる。以上のことから、Cdk1/2 阻害物質III処理により、核小体の形態異常が生じていることが判明した。
【0119】
実施例2-2:2-シアノエチルアルステロパウロン処理による核小体形態異常
2 x 104個のHuh7細胞を15 mm丸形マイクロカバーガラス(Matsunami)を入れた12ウエルプレートに播種し、37 ℃の5% CO2インキュベータ中で24時間培養した。培養後、終濃度1 μMとなるよう2-シアノエチルアルステロパウロ(標準阻害剤キット3 ver1.5(キナーゼ阻害剤キット))を培地に加え24時間培養した。バキュロウイルスより精製したAcGFP-JEV core組換えタンパク質 (終濃度100 ug/mL)をインジェクションマーカーであるヤギ抗-マウスIgG (H+L) high cross-adsorbed 2次抗体Alexa Fluor Plus 555(Thermo Fisher Scientific Inc, 終濃度100 ug/mL)と混和し、ガラス針を用いてHuh7の細胞質にマイクロインジェクションした。37 ℃の5% CO2インキュベータ中で30分培養した後、3.7%ホルマリン溶液で15分インキュベートして細胞を固定した。細胞をPBSで洗浄した後、DAPI溶液(終濃度0.2 ug/mL))を加えて室温で20分間インキュベートしてゲノムDNA(細胞核)を染色した。細胞の観察は共焦点顕微鏡TCS SP8(Leica)を用いて行った。
【0120】
得られた結果を
図3(B)に示す。図中、Injection markerは、インジェクションマーカーであるAlexa Fluor Plus 555マウスIgGの蛍光が細胞質に存在することを表している。これはインジェクションマーカーが打ち込まれた細胞質に留まっていることを示している。JEV coreは、AcGFP-JEVcore が核内に存在し、通常の核小体とは異なる小さな構造体に局在していることを表している。これは、JEVコアタンパク質はAlexa Fluor Plus 555マウスIgGとともに細胞質にマイクロインジェクションしているため、2-シアノエチルアルステロパウロン処理によりAcGFP-JEVcoreの核移行が阻害されないことを示している。一方、核内に存在するJEVコアタンパク質は通常と異なる小さな核小体に局在していることが分かる。このことは、2-シアノエチルアルステロパウロン処理により核小体の形態異常が引き起こされていること、JEVコアタンパク質は核移行して異常な形態を示す核小体に局在することを示している。DAPIはゲノムDNA(細胞核)を染色している。mergeはInjection marker、JEV core、DAPIの画像を合わせたものである。
【0121】
実施例3
特定されたCDK阻害物質によるJEVの複製抑制
3 x 104個のHuh7細胞を24ウエルプレートに播種し、37 ℃の5% CO2インキュベータ中で24時間培養した。その後、JEV(AT31株)を細胞に感染多重度(multiplicity of infection;Moi)=1で2時間感染させた。JEV感染Huh7細胞をPBSで洗浄し、3種のCDK阻害物質Cdk1/2阻害物質III、Cdk2/9 阻害物質および2-シアノエチルアルステロパウロンを含む培地で24時間培養した。感染力価と細胞生存率は、それぞれフォーカスフォーミングアッセイと、CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay kit(Promega Corporation, WI)により解析した。
【0122】
フォーカスフォーミングアッセイは、以下の方法で行った。まず、JEV感染Huh7細胞の培養上清を回収し、PBSで10倍段階希釈した。アッセイ前日に24ウエルプレートに5 x 104個のVero細胞 (Mori Y., et al.(2005)Journal of virology 79: 3448-3458)を播種しておき、10倍希釈した培養上清サンプルを100 μl/ウエル量加えた後2時間培養した。細胞をPBSで洗浄し1% メチルセルロースを含むダルベッコ改変イーグル培地(含10% 牛胎児血清、100 μg/mLペニシリン、100 μg/mL ストレプトマイシン)を加え、さらに2日間培養後、4% パラホルムアルデヒドで固定した。固定細胞を0.5% Triton-X100 で5 分間処理し、2000倍希釈した抗NS3 マウス抗体(Mori Y., et al.(2005)Journal of virology 79: 3448-3458)で30分インキュベートした。PBSで洗浄後、500倍希釈したビオチン架橋抗マウス二次抗体(Vector Laboratories, USA)を加え、30分インキュベートした。PBSで洗浄した後、Strept ABC Peroxidase Kit(nacalai tesque, Japan)を加えて30分、引き続きVector VIP Peroxidase Substrate(Vector Laboratories, CA)を加えて10分インキュベートし、最後に細胞を洗浄、乾燥し、フォーカス数を計測した。
【0123】
得られた結果を
図4に示す。JEV感染Huh7細胞に、
図4(A)に示す(a)および(b)のタイミングでCDK阻害物質を加えて24時間インキュベートした。感染後48時間後の細胞生存率を(B)、感染力価を(C)に示す。CDK阻害物質で処理すると、細胞の生存には影響しないが、ウイルスの複製が抑制されていることが分かる。
【0124】
実施例4
rRNA転写阻害活性を有する物質による核小体の形態変化
rRNA転写阻害剤を処理することにより、生物学的細胞における日本脳炎ウイルスコアタンパク質の核小体局在が変化しているかを調べるため、以下の実験を行った。
使用している細胞は、実施例1-1にて作製したsfGFP-JEVcore安定発現Huh7細胞株であり、1 x 104個を96-well マイクロプレート(Greiner bio-one)に播種し、37 ℃、5% CO2インキュベータで24時間培養した後、終濃度1 μMとなるようrRNA転写阻害物質アクチノマイシンD、ドキソルビシンおよびアクラルビシンを加えさらに24時間培養した。
培養後、細胞をPBSで洗浄した後、3.7%ホルマリン溶液で15分インキュベートして細胞を固定し、ゲノムDNA(細胞核)を(DOJINDO, Japan、終濃度0.2 μg/mL)で染色した。プレートをハイスループット細胞機能探索システム CV7000S(横河電機株式会社)にかけ、1つのウエルにつき3点の蛍光写真を撮影してGFPの蛍光強度、細胞内局在を解析した。
【0125】
得られた結果を
図5に示す。DMSO(対照)と上記3つのrRNA転写阻害物質を処理した際の蛍光像を示している。DMSO処理時、sfGFP-JEVcoreは核内に明確に存在する核小体に局在していることが分かる。一方、rRNA転写阻害物質アクチノマイシンD、ドキソルビシンおよびアクラルビシンはいずれも、sfGFP-JEV coreの蛍光が小さな点(ドット状)に見える。
【0126】
実施例5
GSK-3阻害活性を有する物質によるフラビウイルス増殖抑制
GSK-3阻害剤ライブラリー(https://www.selleck.co.jp/GSK-3.html)から入手される低分子化合物を、抗フラビウイルス活性を有する候補物質として使用する以外は、実質的に実施例1の手法に従い、スクリーニングを行った。
得られた結果を
図6(A)に示す。これにより1-アザケンパウロンが、GFP蛍光強度を抑制することが判明した。
【0127】
次に、特定された1-アザケンパウロンによる日本脳炎ウイルス、デングイウルス、ジカウイルスの増殖抑制を調べた。
3 x 104個のHuh7細胞を24ウエルプレートに播種し、37 ℃の5% CO2インキュベータ中で24時間培養した。その後、日本脳炎ウイルス(JEV, AT31株)、デングウイルス(DENV, H241株) 、ジカウイルス(ZIKV, MR766株)を細胞に感染多重度(multiplicity of infection;Moi)=1で2時間感染させた。感染Huh7細胞をPBSで洗浄し、1-アザケンパウロン(終濃度1μM)を含む培地で24時間培養した。感染力価は、フォーカスフォーミングアッセイ(実施例3参照)により解析した。
【0128】
得られた結果を
図6(B)に示す。ウイルス感染Huh7細胞に、1-アザケンパウロンを加えて24時間インキュベートした。感染後24時間後の感染力価を示す。1-アザケンパウロンで処理すると、ウイルスの増殖が抑制されていることが分かる。
実施例6
抗フラビウイルス活性を有する物質のさらなるスクリーニング
LOPAC1280 (京都大学大学院薬学研究科から分与)およびFDA-approved Drug Library(大阪大学薬学研究科から分与)から入手される低分子化合物を、抗フラビウイルス活性を有する候補物質として使用する以外は、実質的に実施例1の手法に従い、スクリーニングを行った。
これにより、DNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質:エリプチシン、イダルビシン、イダルビシン塩酸塩、エピルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩およびダウノルビシン塩酸塩が、GFP蛍光強度を抑制することが判明した。
【0129】
次いで、特定されたDNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質による核小体の形態変化、詳細には生物学的細胞における日本脳炎ウイルスコアタンパク質の核小体局在が変化しているかを調べた。
使用している細胞は、実施例1-1にて作製したsfGFP-JEVcore安定発現Huh7細胞株であり、1 x 104個を96-well マイクロプレート(Greiner bio-one)に播種し、37 ℃、5% CO2インキュベータで24時間培養した後、終濃度1 μMとなるようDNAトポイソメラーゼ阻害活性を有する物質エリプチシン、イダルビシン、イダルビシン塩酸塩、エピルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩およびダウノルビシン塩酸塩を加え、さらに24時間培養した。
培養後、細胞をPBSで洗浄した後、3.7%ホルマリン溶液で15分インキュベートして細胞を固定し、ゲノムDNA(細胞核)を(DOJINDO, Japan、終濃度0.2 μg/mL)で染色した。プレートをハイスループット細胞機能探索システム CV7000S(横河電機株式会社)にかけ、1つのウエルにつき3点の蛍光写真を撮影してGFPの蛍光強度、細胞内局在を解析した。
【0130】
得られた結果を
図7に示す。DMSO(対照)と上記DNAトポイソメラーゼ阻害物質を処理した際の蛍光像を示している。DMSO処理時、sfGFP-JEVcoreは核内に明確に存在する核小体に局在していることが分かる。一方エリプチシン、イダルビシン、イダルビシン塩酸塩、エピルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸塩はいずれも、sfGFP-JEV coreの蛍光が小さな点(ドット状)もしくは蛍光が消失して核質に分散局在している。
【産業上の利用可能性】
【0131】
温暖化や移動手段の発達により媒介蚊の生息域が変わり、今後、フラビウイルスの分布が変化する可能性がある。ウエストナイルウイルスが1999年に初めてアメリカに侵入した際に多くの感染者が出たように、ウイルスが新しい地域に侵攻すると、多数の犠牲者が出る可能性が高い。そのため、フラビウイルスに対する治療手段は、我が国だけでなく世界各国において、さらなる進展が望まれる。日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス感染症に対するヒト用認可ワクチンは存在するが、それぞれ年間数千~数万例以上の患者が現在でも世界で報告されている。本発明のスクリーニング方法は、複製機構や免疫応答・回避機構の新たな知見を与え、新たな抗ウイルス薬の開発につながるものである。
【配列表】