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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/02 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
C08L71/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017151823
(22)【出願日】2017-08-04
(65)【公開番号】P2018031000
(43)【公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2016161470
(32)【優先日】2016-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 彩香
(72)【発明者】
【氏名】宮本 知典
(72)【発明者】
【氏名】上原 みちる
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-132719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L71
C08G65
C09D171
C09K3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基と、(a2)加水分解性基及びヒドロキシ基の少なくともいずれか一方とが、ケイ素原子に結合している化合物(A)及び、
オキシアルキレン単位と、2個のヒドロキシ基を有し、オキシアルキレン単位の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されており、数平均分子量が10000未満である化合物(B)を含み、
前記化合物(A)は、下記式(1a)または(2a)で表され、
前記化合物(B)は、下記式(1b)で表されることを特徴とする組成物。
【化1】
式(1a)中、
Rf 1 は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
Rf 2 は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
1 は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
2 は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基であり、
Dは、-O-であり、
Eは、それぞれ独立して、加水分解性基またはヒドロキシ基であり、
a1、b1、c1、d1及びe1はそれぞれ独立して0以上600以下の整数であって、a1、b1、c1、d1及びe1の合計値は9以上であり、
nは、1以上3以下の整数であり、
a1、b1、c1、d1及びe1を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並ぶ限り、それぞれ任意の順に並んでいればよい。
【化2】
式(2a)中、
Rf 3 は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
Rf 4 は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
3 は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
4 は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基であり、
Mは-O-であり、
Gは、それぞれ独立して、加水分解性基またはヒドロキシ基であり、
Yは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
Zは、水素原子またはハロゲン原子であり、
a2、b2、c2、d2及びe2はそれぞれ独立して0以上600以下の整数であり、
a2、b2、c2、d2及びe2の合計値は9以上であり、
f2は、1以上20以下の整数であり、
g2は、0以上2以下の整数であり、
pは、1以上3以下の整数であり、
a2、b2、c2、d2及びe2を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並ぶ限り、それぞれ任意の順に並んでいればよい。
【化3】
上記式(1b)中、Xはそれぞれ独立して水素原子またはフッ素原子であり、Rf 5 はそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、又は-CF 3 であり、Jは-O-であり、a3は2、b3は20以上200以下、c3は5以上200以下であり、a3~c3を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも一部でオキシアルキレン単位を形成する順で並ぶ限り、それぞれ任意の順に並んでいればよく、該オキシアルキレン単位の少なくとも一部の水素原子はフッ素原子に置換されている。
【請求項2】
前記化合物(A)は、上記式(1a)のa1、b1、c1、d1及びe1の合計値が13以上の化合物であるか、又は上記式(2a)のa2、b2、c2、d2及びe2の合計値が13以上の化合物である請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記化合物(B)は、ヒドロキシ基中の水素原子以外の水素原子数と、フッ素原子数との合計に対するフッ素原子数の割合が40%以上である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記化合物(B)に対する前記化合物(A)の質量比が1以上である請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロオキシアルキレン基含有化合物を含む組成物から形成される皮膜は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、離形性等を有する。その性質を利用して、特許文献1には、(A)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、該(A)成分の平均分子量以下の平均分子量を有する(B)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを含む含フッ素コーティング剤が開示されている。特許文献1の(B)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーは、無官能のフルオロオキシアルキレン基を含有する旨が記載されている。
【0003】
また、特許文献2では、(A)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、該(A)成分より重量平均分子量が大きな(B)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーとを含み、(A)成分と(B)成分との混合質量比が6:4~9:1である蒸着用フッ素系表面処理剤が開示されている。特許文献2の(B)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーも、特許文献1と同様、無官能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-199915号公報
【文献】特開2013-136833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、無官能のフルオロオキシアルキレン基を含有するポリマーは耐摩耗性に優れる旨が記載され、また特許文献2ではフッ素系表面処理剤を真空蒸着法で基板に蒸着すると耐久性に優れた被膜になることが記載されている。しかし、耐摩耗性の向上には未だ改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、良好な耐摩耗性を有する皮膜を形成することができる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(a1)パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基と、(a2)加水分解性基及びヒドロキシ基の少なくともいずれか一方とが、ケイ素原子に結合している化合物(A)及び、ヒドロキシ基とオキシアルキレン単位とを有し、オキシアルキレン単位の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されており、数平均分子量が10000未満である化合物(B)を含む組成物である。
【0008】
前記化合物(A)は、下記式(1a)または(2a)で表される化合物であることが好ましい。
【0009】
【化1】
【0010】
式(1a)中、
Rf1は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
Rf2は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
1は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
2は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基であり、
Dは、それぞれ独立して、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-(Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基)であり、
Eは、それぞれ独立して、加水分解性基またはヒドロキシ基であり、
a1、b1、c1、d1及びe1はそれぞれ独立して0以上600以下の整数であって、a1、b1、c1、d1及びe1の合計値は9以上であり、
nは、1以上3以下の整数であり、
a1、b1、c1、d1及びe1を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並ぶ限り、それぞれ任意の順に並んでいればよい。
【0011】
【化2】
【0012】
式(2a)中、
Rf3は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
Rf4は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
4は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基であり、
Mは、それぞれ独立して、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-(Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基)であり、
Gは、それぞれ独立して、加水分解性基またはヒドロキシ基であり、
Yは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
Zは、水素原子またはハロゲン原子であり、
a2、b2、c2、d2及びe2はそれぞれ独立して0以上600以下の整数であり、a2、b2、c2、d2及びe2の合計値は9以上であり、
f2は、1以上20以下の整数であり、
g2は、0以上2以下の整数であり、
pは、1以上3以下の整数であり、
a2、b2、c2、d2及びe2を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並ぶ限り、それぞれ任意の順に並んでいればよい。
【0013】
前記化合物(A)は、上記式(1a)のa1、b1、c1、d1及びe1の合計値が13以上の化合物であるか、又は上記式(2a)のa2、b2、c2、d2及びe2の合計値が13以上の化合物であることが好ましい。
【0014】
前記化合物(B)は、下記式(1b)で表される化合物であることが好ましい。
【0015】
【化3】
【0016】
上記式(1b)中、Xはそれぞれ独立して水素原子またはフッ素原子であり、Rf5はそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、又は-CF3であり、Jは-O-、-C(=O)-O-、又は-O-C(=O)-O-であり、a3は1以上5以下、b3は20以上200以下、c3は5以上200以下であり、a3~c3を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも一部でオキシアルキレン単位を形成する順で並ぶ限り、それぞれ任意の順に並んでいればよく、該オキシアルキレン単位の少なくとも一部の水素原子はフッ素原子に置換されている。
【0017】
前記化合物(B)に含まれるヒドロキシ基の数は1~2個であることが好ましい。また、前記化合物(B)は、ヒドロキシ基中の水素原子以外の水素原子数と、フッ素原子数との合計に対するフッ素原子数の割合が40%以上であることも好ましい。
【0018】
前記化合物(B)に対する前記化合物(A)の質量比が1以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の組成物によれば、パーフルオロポリエーテル構造を特徴とする化合物(A)と共に、ヒドロキシ基とオキシアルキレン単位とを有し、オキシアルキレン単位の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されている化合物(B)を用いているため、耐摩耗性に優れた撥水性の皮膜を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の組成物は、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物(A)、及びヒドロキシ基とオキシアルキレン単位とを有する化合物(B)を含んでいる。化合物(A)が有するパーフルオロポリエーテル構造と、化合物(B)が有する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されているオキシアルキレン単位により、皮膜は良好な撥水性を発揮できる。また、化合物(B)がヒドロキシ基を有していることによって、皮膜の耐摩耗性を確保できる。
【0021】
化合物(A)は、フッ素を含有すると共に、化合物(A)同士又は他の単量体と共に重合反応(特に重縮合反応)を通じて結合することによって皮膜のマトリックスとなり得る化合物であればよい。化合物(A)は、好ましくは含フッ素基と、加水分解性基及びヒドロキシ基の少なくとも一方とを含有する化合物が好ましく、中でも本発明では、化合物(A)として、(a1)パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基と、(a2)加水分解性基及びヒドロキシ基の少なくともいずれか一方とが、ケイ素原子に結合している化合物を用いる。
【0022】
前記パーフルオロポリエーテル構造とは、ポリアルキレンエーテル基またはポリアルキレングリコールジアルキルエーテル残基の全部の水素原子がフッ素原子に置き換わった構造であり、パーフルオロポリアルキレンエーテル基、またはパーフルオロポリアルキレングリコールジアルキルエーテル残基という事もできる。またパーフルオロポリエーテル構造は、パーフルオロオキシアルキレン基とも言える。パーフルオロポリエーテル構造は、得られる皮膜に撥水性を付与する。パーフルオロポリエーテル構造の最も長い直鎖部分に含まれる炭素数は、例えば5以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、更に好ましくは20以上である。前記炭素数の上限は特に限定されず、例えば200程度であってもよい。
【0023】
化合物(A)では、上記パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基がケイ素原子と結合している。パーフルオロポリエーテル構造がケイ素原子と結合する側には、適当な連結基が存在していてもよく、当該連結基なしで上記パーフルオロポリエーテル構造が直接ケイ素原子に結合してもよい。連結基としては、例えば、アルキレン基、芳香族炭化水素基などの炭化水素基、(ポリ)アルキレングリコール基、及びこれらの水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換された基、並びにこれらが適当に連結した基などが挙げられる。連結基の炭素数は、例えば1以上、20以下であり、好ましくは2以上、10以下である。
【0024】
なお、一つの連結基には複数のケイ素原子が結合してもよく、一つの連結基に複数のパーフルオロポリエーテル構造が結合してもよい。ケイ素原子に結合する上記パーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基の数は、1つ以上であればよく、2または3であってもよいが、1または2であるのが好ましく、1であるのが特に好ましい。
【0025】
また、化合物(A)では、ケイ素原子に加水分解性基及びヒドロキシ基の少なくともいずれか一方が結合しており、該加水分解性基及びヒドロキシ基は、それぞれ加水分解及び/又は脱水縮合反応を通じて、化合物(A)同士を、又は化合物(A)と基材表面のヒドロキシ基などに由来する活性水素とを結合する作用を有する。こうした加水分解性基としては、例えばアルコキシ基(特に炭素数1~4のアルコキシ基)、アセトキシ基、ハロゲン原子(特に塩素原子)などが挙げられる。好ましい加水分解性基は、アルコキシ基及びハロゲン原子であり、特にメトキシ基、エトキシ基、塩素原子が好ましい。
【0026】
ケイ素原子に結合する加水分解性基の数は、1つ以上であればよく、2または3であってもよいが、2または3であるのが好ましく、3であるのが特に好ましい。2つ以上の加水分解性基がケイ素原子に結合している場合、異なる加水分解性基がケイ素原子に結合していてもよいが、同じ加水分解性基がケイ素原子に結合しているのが好ましい。ケイ素原子に結合する含フッ素基と加水分解性基との合計数は、通常4であるが、2または3(特に3)であってもよい。3以下の場合、残りの結合手には、例えば、アルキル基(特に炭素数が1~4のアルキル基)、水素原子、イソシアネート基などが結合できる。
【0027】
化合物(A)のパーフルオロポリエーテル構造を有する1価の基は、直鎖状であってもよいし、側鎖を有していてもよい。
【0028】
化合物(A)の数平均分子量は特に限定されないが、例えば6000以上(好ましくは7000以上)、15000以下(好ましくは12000以下)である。
【0029】
化合物(A)としては、例えば下記式(1a)の化合物が挙げられる。
【0030】
【化4】
【0031】
式(1a)中、
Rf1は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
Rf2は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
1は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
2は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基であり、
Dは、それぞれ独立して、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-(Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基)であり、
Eは、それぞれ独立して、加水分解性基またはヒドロキシ基であり、
a1、b1、c1、d1及びe1はそれぞれ独立して0以上600以下の整数であって、a1、b1、c1、d1及びe1の合計値は9以上、好ましくは13以上であり、
nは、1以上3以下の整数であり、
a1、b1、c1、d1及びe1を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並ぶ限り、それぞれ任意の順に並んでいればよい。また、各繰り返し単位は分子内に複数あってもよい。本明細書において、繰り返し単位が分子内に複数ある場合とは、繰り返し単位が不連続に存在する場合、例えば、ある繰り返し単位が分子内に2つ存在し、それぞれが異なる2つの繰り返し単位に挟まれている場合も含む。
【0032】
Rf1は、好ましくは1個以上のフッ素原子で置換された炭素数1~10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基である。
Rf2は、好ましくはそれぞれ独立して、フッ素原子、または炭素数1~2の含フッ素アルキル基であり、より好ましくはすべてフッ素原子である。
1は、それぞれ独立して、好ましくは水素原子、または炭素数1もしくは2のアルキル基であり、より好ましくはすべて水素原子である。
2は、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
Dは、好ましくはそれぞれ独立して、-C(=O)-O-、-O-、-O-C(=O)-であり、より好ましくはすべて-O-である。
Eは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子が好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基、塩素原子が好ましい。
a1、b1、c1、d1及びe1を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の順序について、好ましくは最も固定端側(ケイ素原子と結合する側)のb1を付して括弧でくくられた繰り返し単位は、最も自由端側のa1を付して括弧でくくられた繰り返し単位よりも自由端側に位置し、より好ましくは最も固定端側のb1及びd1を付して括弧でくくられた繰り返し単位は、最も自由端側のa1及びc1を付して括弧でくくられた繰り返し単位よりも自由端側に位置する。e1を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも2つ存在することが好ましい。
nは2以上3以下が好ましく、より好ましくは3である。
【0033】
上記式(1a)において、特にRf1が炭素数1~5のパーフルオロアルキル基であり、Rf2が全てフッ素原子であり、R1が全て水素原子であり、Dは全て-O-であり、Eはメトキシ基又はエトキシ基であり、a1が1~3の整数であり、c1=d1=0であり、b1及びe1は式(1a)の化合物が常圧で液体を維持できるように設定される値であり、n=3であることが好ましい。b1及びe1の合計値は8以上とすることができる。
【0034】
上記式(1a)で表される化合物としては、例えば下記式(1a-1)の化合物が挙げられる。
【0035】
【化5】
【0036】
上記式(1a-1)において、R10は炭素数が1~5のパーフルオロアルキル基であり、R11は炭素数が1~5のパーフルオロアルキレン基であり、R12は炭素数が1~3のパーフルオロアルキレン基であり、R13は炭素数が1~3のアルキレン基であり、R14は炭素数が1~3のアルキル基であり、z2及びz3はいずれも1~3の整数であり、z1は上記式(1a-1)で表される化合物が常圧で液体を維持できるように設定される値であり、例えば3以上とすることができる。
【0037】
また化合物(A)としては、上記式(1a)の化合物の他、下記式(2a)の化合物が例示でき、好ましくは下記式(2a)の化合物である。
【0038】
【化6】
【0039】
上記式(2a)中、
Rf3は、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
Rf4は、それぞれ独立して、1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1~20のアルキル基またはフッ素原子であり、
3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
4は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基であり、
Mは、それぞれ独立して、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、又は-C(=O)NR-(Rは水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4の含フッ素アルキル基)であり、
Gは、それぞれ独立して、加水分解性基またはヒドロキシ基であり、
Yは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
Zは、水素原子またはハロゲン原子であり、
a2、b2、c2、d2及びe2はそれぞれ独立して0以上600以下の整数であり、a2、b2、c2、d2及びe2の合計値は9以上、好ましくは13以上であり、
f2は、1以上20以下の整数であり、
g2は、0以上2以下の整数であり、
pは、1以上3以下の整数であり、
a2、b2、c2、d2及びe2を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも一部でパーフルオロポリエーテル構造を形成する順で並ぶ限り、それぞれ任意の順に並んでいればよい。また、各繰り返し単位は分子内に複数あってもよい。
【0040】
Rf3は、好ましくは1個以上のフッ素原子で置換された炭素数1~10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基である。
Rf4は、好ましくはそれぞれ独立して、フッ素原子、または炭素数1~2の含フッ素アルキル基であり、より好ましくはすべてフッ素原子である。
3は、好ましくはそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1もしくは2のアルキル基であり、より好ましくはすべて水素原子である。
4は、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
Mは、好ましくはそれぞれ独立して、-C(=O)-O-、-O-、-O-C(=O)-であり、より好ましくはすべて-O-である。
Gは、それぞれ独立して、アルコキシ基、ハロゲン原子が好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基、塩素原子が好ましい。
Yは、好ましくはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1もしくは2のアルキル基であり、より好ましくはすべて水素原子である。
Zは、好ましくは水素原子である。
好ましくはa2、c2及びd2はそれぞれb2の1/2以下であり、より好ましくは1/4以下であり、さらに好ましくはc2又はd2は0であり、特に好ましくはc2及びd2は0である。
e2は、好ましくはa2、b2、c2及びd2の合計値の1/5以上であり、a2、b2、c2及びd2の合計値以下である。
b2は、20以上、600以下が好ましく、より好ましくは20以上、200以下であり、更に好ましくは50以上、200以下である。e2は4以上、600以下が好ましく、より好ましくは4以上、200以下であり、更に好ましくは10以上、200以下である。a2、b2、c2、d2及びe2の合計値は、20以上、600以下が好ましく、20以上、200以下がより好ましく、50以上、200以下が更に好ましい。
f2は、好ましくは1以上、18以下である。更に好ましくは、1以上、15以下である。
g2は、好ましくは0以上、1以下である。
pは、2以上3以下が好ましく、3がより好ましい。
a2、b2、c2、d2及びe2を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の順序について、好ましくは最も固定端側(ケイ素原子と結合する側)のb2を付して括弧でくくられた繰り返し単位は、最も自由端側のa2を付して括弧でくくられた繰り返し単位よりも自由端側に位置し、より好ましくは最も固定端側のb2及びd2を付して括弧でくくられた繰り返し単位は、最も自由端側のa2及びc2を付して括弧でくくられた繰り返し単位よりも自由端側に位置する。また、e2を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも2つ存在することが好ましい。
【0041】
式(2a)において、特にRf3が炭素数1~5のパーフルオロアルキル基、Rf4が全てフッ素原子、Mが全て-O-、Gがメトキシ基、エトキシ基、又は塩素原子(特にメトキシ基又はエトキシ基)、Y及びZがいずれも水素原子、a2が0、b2が30~150(より好ましくは80~140)、e2が30~60、c2及びd2が0、g2が0以上1以下(特に0)、pが3、f2が1~10であることが好ましい。
【0042】
上記式(2a)で表される化合物としては、例えば下記式(2a-1)の化合物が挙げられる。
【0043】
【化7】
【0044】
上記式(2a-1)中、R20は炭素数が2~6のパーフルオロアルキル基であり、R21及びR22はいずれも炭素数が2~6のパーフルオロアルキレン基であり、R23は炭素数が2~6の3価の飽和炭化水素基であり、R24は炭素数が1~3のアルキル基である。R20、R21、R22及びR23の炭素数は、それぞれ独立に2~4が好ましく、2~3がより好ましい。x1は5~70であり、x2は1~5であり、x3は1~10である。x1は10~60が好ましく、20~50がより好ましく、x2は1~4が好ましく、1~3がより好ましく、x3は1~8が好ましく、1~6がより好ましい。
【0045】
化合物(B)は、ヒドロキシ基とオキシアルキレン単位とを有し、オキシアルキレン単位の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されており、数平均分子量が10000未満である。化合物(B)のヒドロキシ基が、ガラスなどの基材または化合物(A)と相互作用を形成して、はがれ難くなるため、化合物(B)の代わりにヒドロキシ基を有さない類似構造の化合物を用いる場合と比べて、皮膜の耐摩耗性が向上するものと考えられる。
【0046】
また、化合物(B)の数平均分子量は、真空蒸着によって得られる皮膜に化合物(B)に由来する成分を十分確保する観点から10000未満であることが重要であり、下限は例えば1000程度であることが好ましい。化合物(B)の数平均分子量は好ましくは8000以下、より好ましくは6000以下である。
【0047】
化合物(B)中のヒドロキシ基は少なくとも1つあればよく、好ましくは5以下であり、より好ましくは2以下である。また、化合物(B)は、ヒドロキシ基中の水素原子以外の水素原子数と、フッ素原子数との合計に対するフッ素原子数の割合は40%以上であることが好ましく、このようにすることで良好な撥水性を発揮できる。前記したフッ素原子数の割合は、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは55%以上であり、上限は特に限定されず100%であってもよく、例えば80%程度であってもよい。
【0048】
化合物(B)としては、例えば下記式(1b)で表される化合物を挙げることができる。
【0049】
【化8】
【0050】
式(1b)中、Xはそれぞれ独立して水素原子またはフッ素原子であり、Rf5はそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、又は-CF3であり、Jは-O-、-C(=O)-O-、又は-O-C(=O)-O-であり、a3は1以上5以下、b3は20以上200以下、c3は5以上200以下であり、a3~c3を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は、少なくとも一部でオキシアルキレン単位を形成する順で並ぶ限り、それぞれ任意の順に並んでいればよく、該オキシアルキレン単位の少なくとも一部の水素原子はフッ素原子に置換されている。また、a3~c3を付して括弧でくくられた各繰り返し単位は分子内に複数あってもよい。
【0051】
Rf5はそれぞれ独立して水素原子又はフッ素原子が好ましく、Xは水素原子であることが好ましく、Jは-O-であることが好ましく、a3は1以上3以下が好ましく、1又は2がより好ましく(最も好ましくは2)である。b3は30以上100以下が好ましく、c3は10以上80以下が好ましい。b3、c3は、上記式(1b)で表される化合物の数平均分子量が2000~4500、より好ましくは2500~4500となるように定められることも好ましい。最も好ましくは、Rf5がそれぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、Xが水素原子であり、Jが-O-であり、a3が1又は2であり、b3、c3が、上記式(1b)で表される化合物の数平均分子量が2000~4500(より好ましくは2500~4500)となるように定められる値であることが好ましい。
【0052】
化合物(B)としては、例えば、両末端がOH基であるポリアルキレングリコールの一方のOH基の水素原子が置換されていてもよいポリアルキレングリコールであって、アルキレン基の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されているポリアルキレングリコールを挙げることができる。化合物(B)としては、特にアルキレン基の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されているポリアルキレングリコールが好ましく、このようなポリアルキレングリコールは例えば下記式(1b-1)及び(1b-2)で表すことができる。
【0053】
【化9】
【0054】
式(1b-1)中、R30、R31、R32、R34及びR35は、それぞれ独立して炭素数2~6のアルキレン基であり、R33は炭素数1~5のアルキレン基であり、R30~R35の全てのアルキレン基のうち、少なくとも1つのアルキレン基において、水素原子の少なくとも1つがフッ素原子に置換されている。y1は2~10、y2は1~4、y3~y5は式(1b-1)で表される化合物の数平均分子量が2000~2400となるように定められる値であり、y6は1~4、y7は2~10である。
【0055】
30、R31、R32、R34及びR35は、それぞれ独立して炭素数2~4のアルキレン基であることが好ましく、より好ましくは炭素数2~3のアルキレン基である。またR33は炭素数1~3のアルキレン基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1~2のアルキレン基である。y1は3~9が好ましく、より好ましくは4~8であり、y2は1~3が好ましく、より好ましくは1~2であり、y6は1~3が好ましく、より好ましくは1~2であり、y7は3~9が好ましく、より好ましくは4~8である。
【0056】
【化10】
【0057】
式(1b-2)中、R40及びR43は、それぞれ独立して炭素数1~3のアルキレン基であり、R41は水素原子の少なくとも1つがフッ素原子に置換されている炭素数1~5のアルキレン基であって、R42は水素原子の少なくとも1つがフッ素原子に置換されている炭素数1~3のアルキレン基であり、w1及びw4はそれぞれ独立して1~3であり、w2及びw3は、式(1b-2)で表される化合物の数平均分子量が3800~4200となるように定められる値である。
【0058】
40及びR43は、それぞれ独立して炭素数1~2のアルキレン基であることが好ましく、R41は水素原子の少なくとも1つがフッ素原子に置換されている炭素数1~3のアルキレン基であることが好ましく、R42は水素原子の少なくとも1つがフッ素原子に置換されている炭素数1~2のアルキレン基であることが好ましく、w1及びw4はそれぞれ独立して1~2であることが好ましく、これらの要件を同時に満たすことがより好ましい。
【0059】
組成物中の化合物(B)に対する化合物(A)の質量比は1以上であることが好ましい。このようにすることで、得られる皮膜の撥水性と耐摩耗性のバランスを向上できる。組成物中の化合物(B)に対する化合物(A)の質量比は、2.0以上がより好ましく、3.5以上が更に好ましく、5以上(特に7以上)が一層好ましい。また、得られる皮膜の撥水性と耐摩耗性のバランスを考慮すると、該質量比の上限は13以下が好ましく、より好ましくは11以下である。
【0060】
組成物中の化合物(A)及び化合物(B)の合計の質量割合は、組成物の全質量に対して10質量%以上が好ましく、より好ましくは12質量%以上であり、更に好ましくは14質量%以上であり、上限は特に限定されないが、例えば30質量%以下であり、27質量%以下であってもよく、25質量%以下であることも好ましい。
【0061】
本発明の組成物は、上記した化合物(A)及び(B)と共に、フッ素系溶剤(C)を含むことが好ましい。フッ素系溶剤(C)は、例えばフッ素化エーテル系溶剤、フッ素化アミン系溶剤、フッ素化炭化水素系溶剤(特にフッ素化芳香族溶剤)等を用いることができ、特に沸点が100℃以上であることが好ましい。フッ素化エーテル系溶剤としては、フルオロアルキル(特に炭素数2~6のパーフルオロアルキル基)-アルキル(特にメチル基又はエチル基)エーテルなどのハイドロフルオロエーテルが好ましく、例えばエチルノナフルオロブチルエーテル又はエチルノナフルオロイソブチルエーテルが挙げられる。エチルノナフルオロブチルエーテル又はエチルノナフルオロイソブチルエーテルとしては、例えばNovec(登録商標)7200(3M社製、分子量約264、沸点76℃)が挙げられる。フッ素化アミン系溶剤としては、アンモニアの水素原子の少なくとも1つがフルオロアルキル基で置換されたアミンが好ましく、アンモニアの全ての水素原子がフルオロアルキル基(特にパーフルオロアルキル基)で置換された第三級アミンが好ましく、具体的にはトリス(ヘプタフルオロプロピル)アミンが挙げられ、フロリナート(登録商標)FC-3283(分子量約471、沸点128℃)がこれに該当する。フッ素化炭化水素系溶剤としては、1,3-ビス(トリフルオロメチルベンゼン)(沸点:約116℃)が挙げられる。
【0062】
フッ素系溶剤(C)としては、上記の他、アサヒクリン(登録商標)AK225(旭ガラス社製)などのハイドロクロロフルオロカーボン、アサヒクリン(登録商標)AC2000(旭ガラス社製)などのハイドロフルオロカーボンなどを用いることができる。
【0063】
フッ素系溶剤(C)の分子量は、好ましくは900以下であり、より好ましくは800以下であり、下限は特に限定されないが、例えば300程度である。
【0064】
本発明の組成物中におけるフッ素系溶剤(C)の含有量は、組成物の全質量に対して例えば20質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上であり、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは88質量%以下であり、更に好ましくは86質量%以下である。
【0065】
本発明の組成物は、さらにシラノール縮合触媒を含んでいてもよい。シラノール縮合触媒としては、塩酸、硝酸などの無機酸、酢酸などの有機酸、チタン錯体(たとえば、松本ファインケミカル製、オルガチクスTC-750など)や錫錯体などの金属錯体や金属アルコキシドなどがあげられる。シラノール縮合触媒の量は、組成物の全質量に対して、例えば、0.00001~0.1質量%、好ましくは、0.00002~0.01質量%、さらに好ましくは0.0005~0.001質量%である。
【0066】
本発明の組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、酸化防止剤、防錆剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防カビ剤、抗菌剤、生物付着防止剤、消臭剤、顔料、難燃剤、帯電防止剤等、各種の添加剤を含有していてもよい。
【0067】
本発明の組成物が各種の添加剤を含む場合、各種の添加剤の含有量としては、例えば、本発明の組成物のポリマー成分に対して、0.01~70質量%、好ましくは0.05~50質量%、より好ましくは0.1~30質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%である。
【0068】
本発明の組成物は、真空蒸着によって基材に皮膜を形成するのに好適に用いられる。真空蒸着の条件としては、公知の条件を採用することができる。真空度は、例えば10-2Pa以下程度である。また蒸着処理時の加熱方法としては、抵抗加熱方式、電子ビーム加熱方式のいずれを用いてもよく、加熱温度は、例えば100~400℃である。成膜時間は例えば1~60秒程度である。
【0069】
真空蒸着の後は、空気中で、室温で静置するか又は加温(例えば50~150℃で5~30分)することで、空気中の水分を取り込んで、化合物(A)のケイ素原子に結合した加水分解性基が加水分解され、シロキサン結合が形成され、硬化した皮膜を得ることができる。得られる皮膜の膜厚は、例えば2~10nmとできる。
【0070】
本発明の組成物を蒸着する基材の材料は特に限定されず、有機系材料、無機系材料のいずれでもよく、基材の形状は平面、曲面のいずれであってもよいし、多数の面が組み合わさった三次元的構造でもよい。前記有機系材料としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン共重合樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。前記無機系材料としては、鉄、シリコン、銅、亜鉛、アルミニウム等の金属、これら金属を含む合金、セラミックス、ガラスなどが挙げられる。この中でも特にガラス、金属、セラミックス等の無機材料の基材に、本発明の組成物を蒸着して皮膜を形成することが好ましい。
【0071】
基材に皮膜を形成した後は、蒸着したままでもよいし、所定の後処理を行ってもよく、後処理をすることによって皮膜の耐摩耗性をより向上できる。後処理としては、加熱保持すること、加湿雰囲気に静置すること、超音波洗浄すること、溶媒で表面を拭くことなどが挙げられ、これらの後処理は単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。この中でも特に加熱保持すること、超音波洗浄することが好ましく、加熱保持は、例えば100~200℃で10~60分保持すればよく、また超音波洗浄は、例えば水、フッ素系溶媒、又アルコールなどを洗浄液として、1~5分程度行えばよい。耐摩耗性をより高める観点からは、超音波洗浄が好ましい。本発明の組成物は、ヒドロキシ基を有する化合物(B)を含むので、組成物が従来のヒドロキシ基を有さない化合物を含む場合に比べ、後処理を行うことにより、化合物(B)と基材(例えばガラス)または化合物(A)との相互作用がより高い耐久力をもつ状態に変化することが期待される。
【0072】
基材には予め易接着処理を施しておいてもよい。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等の親水化処理が挙げられる。また、樹脂、シランカップリング剤、テトラアルコキシシラン等によるプライマー処理を用いてもよい。また、蒸着で二酸化けい素層を製膜しても良い。
【0073】
プライマー層としては、下記式(p1)で表される化合物及び/又はその部分加水分解縮合物からなる(E)成分を含むプライマー層形成用組成物を用いて形成された層が好ましい。
【0074】
Si(X24 ・・・(p1)
(ただし、式(p1)中、複数あるX2はそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルコキシ基またはイソシアネート基を示す。)
【0075】
上記式(p1)中、X2はそれぞれ独立して、塩素原子、炭素原子数1~4のアルコキシ基またはイソシアネート基であることが好ましく、さらに4個のX2が同一であることが好ましい。
【0076】
このような式(p1)で示される化合物として、具体的には、Si(NCO)4、Si(OCH34、Si(OC254等が好ましく用いられる。(E)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
プライマー層形成用組成物に含まれる(E)成分は、上記式(p1)で表される化合物の部分加水分解縮合物であってもよい。上記式(p1)で表される化合物の部分加水分解縮合物は、酸や塩基触媒を用いた一般的な加水分解縮合方法を適用することで得ることができる。ただし、部分加水分解縮合物の縮合度(多量化度)は、生成物が溶媒に溶解する程度である必要がある。(E)成分としては、上記式(p1)で表される化合物であっても、上記式(p1)で表される化合物の部分加水分解縮合物であってもよく、上記式(p1)で表される化合物とその部分加水分解縮合物との混合物、例えば、未反応の上記式(p1)で表される化合物が含まれる該化合物の部分加水分解縮合物であってもよい。なお、上記式(p1)で表される化合物やその部分加水分解縮合物としては市販品があり、本発明にはこのような市販品を用いることが可能である。
【0078】
また、プライマー層形成用組成物は、上記(E)成分と、下記式(p2)で表わされる化合物(化合物(p2)という場合がある)及び/又はその部分加水分解縮合物からなる(F)成分とを含む、もしくは、上記(E)成分と上記(F)成分の部分加水分解縮合物(ただし、上記(E)成分及び/又は上記化合物(p2)を含んでもよい)を含む組成物であってもよい。
【0079】
(X33Si-(CH2p-Si(X33 ・・・(p2)
(ただし、式(p2)中、複数あるX3はそれぞれ独立して加水分解性基または水酸基を示し、pは1~8の整数である。)
【0080】
式(p2)で表される化合物は、2価有機基を挟んで両末端に加水分解性シリル基またはシラノール基を有する化合物である。
【0081】
式(p2)中、X3で示される加水分解性基としては、上記X2と同様の基または原子が挙げられる。上記式(p2)で表される化合物の安定性と加水分解のし易さとのバランスの点から、X3としては、アルコキシ基及びイソシアネート基が好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。アルコキシ基としては、炭素原子数1~4のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。これらは、製造上の目的、用途等に応じて適宜選択され用いられる。式(p2)中に複数個存在するX3は同じ基でも異なる基でもよく、同じ基であることが入手しやすさの点で好ましい。
【0082】
式(p2)で表される化合物として、具体的には、(CH3O)3SiCH2CH2Si(OCH33、(OCN)3SiCH2CH2Si(NCO)3、Cl3SiCH2CH2SiCl3、(C25O)3SiCH2CH2Si(OC253、(CH3O)3SiCH2CH2CH2CH2CH2CH2Si(OCH33等が挙げられる。(F)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
プライマー層形成用組成物に含まれる成分は、式(p2)で表される化合物の部分加水分解縮合物であってもよい。式(p2)で表される化合物の部分加水分解縮合物は、式(p1)で表される化合物の部分加水分解縮合物の製造において説明したのと同様の方法で得ることができる。部分加水分解縮合物の縮合度(多量化度)は、生成物が溶媒に溶解する程度である必要がある。(F)成分としては、式(p2)で表される化合物であっても、式(p2)で表される化合物の部分加水分解縮合物であってもよく、式(p2)で表される化合物とその部分加水分解縮合物との混合物、例えば、未反応の式(p2)で表される化合物が含まれる該化合物の部分加水分解縮合物であってもよい。なお、上記式(p2)で示される化合物やその部分加水分解縮合物としては市販品があり、本発明にはこのような市販品を用いることが可能である。
【0084】
また、プライマー層には、上記式(p1)と同様のケイ素を主成分とする酸化膜を得ることができる、各種ポリシラザンを用いてもよい。
【0085】
プライマー層形成用組成物は、通常、層構成成分となる固形分の他に、経済性、作業性、得られるプライマー層の厚さ制御のしやすさ等を考慮して、有機溶剤を含む。有機溶剤は、プライマー層形成用組成物が含有する固形分を溶解するものであれば特に制限されない。有機溶剤としては、本発明の組成物に用いられる溶剤と同様の化合物が挙げられる。有機溶剤は1種に限定されず、極性、蒸発速度等の異なる2種以上の溶剤を混合して使用してもよい。プライマー層形成用組成物が、部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を含有する場合、これらを製造するために使用した溶媒を含んでもよい。
【0086】
さらに、プライマー層形成用組成物においては、部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を含まないものであっても、加水分解共縮合反応を促進させるために、部分加水分解縮合の反応において一般的に使用されるのと同様の酸触媒等の触媒を配合しておくことも好ましい。部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を含む場合であっても、それらの製造に使用した触媒が組成物中に残存していない場合は、触媒を配合することが好ましい。プライマー層形成用組成物は、上記含有成分が加水分解縮合反応や加水分解共縮合反応するための水を含んでいてもよい。
【0087】
プライマー層形成用組成物を用いてプライマー層を形成する方法としては、オルガノシラン化合物系の表面処理剤における公知の方法を用いることが可能である。例えば、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、手塗り等の方法でプライマー層形成用組成物を基体の表面に塗布し、大気中または窒素雰囲気中において、必要に応じて乾燥した後、硬化させることで、プライマー層を形成できる。硬化の条件は、用いる組成物の種類、濃度等により適宜制御される。なお、プライマー層形成用組成物の硬化は、撥水膜形成用組成物の硬化と同時に行ってもよい。
【0088】
プライマー層の厚さは、その上に形成される透明皮膜に耐湿性を付与できる他、基材との密着性を付与でき、また基材からのアルカリ等をバリアできる厚さであれば特に限定されない。
【0089】
本発明の組成物から得られる皮膜は、静的撥水特性及び動的撥水特性に優れる。静的撥水特性は、例えば液滴法でθ/2法により解析される初期接触角で評価でき、また動的撥水特性は、滑落法で測定される接触角ヒステリシス又は滑落角によって評価できる。例えば、水滴量3μLで測定した初期接触角は、例えば110°以上とすることができ、好ましくは113°以上であり、より好ましくは115°以上であり、上限は特に限定されないが、例えば125°程度である。また、水滴量6.0μLで測定した接触角ヒステリシスは、例えば12°以下とすることができ、好ましくは10°以下であり、より好ましくは9°以下であり、下限は特に限定されないが、例えば3°程度である。更に、水滴量6μLで測定した滑落角は、例えば30°以下であり、好ましくは25°以下であり、より好ましくは23°以下であり、下限は特に限定されないが、例えば5°程度である。
【実施例
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0091】
本発明の実施例及び比較例で得られた皮膜は、下記の方法により測定した。
【0092】
(1)膜厚の測定
測定には、リガク社製X線反射率測定装置(SmartLab)を用いた。X線源として45kWのX線発生装置、CuターゲットによるCuKα線の波長λ=0.15418nmまたはCuKα1線の波長λ=0.15406nmを使用し、また、モノクロメータは、用いない。設定条件として、サンプリング幅は0.01°、走査範囲0.0~2.5°に設定した。そして、上記設定条件により測定し、反射率測定値を得た。得られた測定値を、同社解析ソフト(GlobalFit)を用いて解析した。
【0093】
(2)初期接触角の測定
接触角測定装置(協和界面科学社製 DM700)を用い、液滴法(解析方法:θ/2法)で液量:3μLにて、皮膜表面の水の接触角を測定した。
【0094】
(3)接触角ヒステリシス及び滑落角の測定
協和界面科学社製DM700を使用し、滑落法(解析方法:接触法、水滴量:6.0μL、傾斜方法:連続傾斜、滑落検出:滑落後、移動判定:前進角、滑落判定距離:0.125mm)により、皮膜表面の動的撥水特性(接触角ヒステリシス、滑落角)を測定した。
【0095】
(4)耐摩耗性の評価
三菱鉛筆社製消しゴム付きHB鉛筆を具備したスクラッチ装置を用い、消しゴムがサンプルに接した状態で、荷重500gをかけ、40r/minでサンプルを動かすことによって摩耗試験を行った。摩耗回数1000回ごとに接触角を測定し、初期接触角から-15度以下となるまでの回数を測定した。
【0096】
実施例1
特開2014-15609号公報の合成例1、2に記載の方法により、下記式(a)で表される化合物(数平均分子量約8000)を合成した。
【0097】
【化11】
【0098】
上記式(a)において、nは43であり、mは1~6の整数である。
【0099】
化合物(A)として、上記式(a)で表される化合物(a)、化合物(B)として、下記式(b1)で表される化合物(b1)(数平均分子量約2240)を用いた。
【0100】
【化12】
【0101】
上記式(b1)において、r及びsは前記平均分子量になる範囲の整数である。また、上記式(b1)において、ヒドロキシ基中の水素原子以外の水素原子数と、フッ素原子数との合計に対するフッ素原子数の割合は40%以上である。
【0102】
フッ素系溶剤(C)としてNovec7200(登録商標)を用い、質量比が化合物(A):化合物(B):フッ素系溶剤(C)=89:11:400の割合の組成物を調製した。これを蒸着用のTaボートに1mL滴下した後、溶媒を蒸発させて蒸着に用いるサンプルを調製した。アルバック機工株式会社製VPC-410Aを用いて、真空蒸着法(抵抗加熱法、圧力8×10-3Pa、印加電流20A、蒸着処理時間15秒)により、前述のサンプルを無アルカリガラスEAGLE-XG(登録商標、コーニング社製)上に成膜し、膜性能評価用サンプルとした。
【0103】
得られた皮膜の耐摩耗性の評価結果を表1に示す。なお、実施例1における初期接触角は115.8°、滑落角は27.7°、接触角ヒステリシスは10.6°であった。
【0104】
実施例2
成膜した後に、さらに150℃で30分間加熱処理することを行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、膜性能の評価用サンプルとした。
【0105】
得られた皮膜の耐摩耗性の評価結果を表1に示す。なお、実施例2における初期接触角は115.8°、滑落角は17.3°、接触角ヒステリシスは7.1°であった。
【0106】
実施例3
成膜した後に、さらに水中で3分の超音波洗浄処理を行った以外は実施例1と同様の操作を行い、膜性能の評価用サンプルとした。
【0107】
得られた皮膜の耐摩耗性の評価結果を表1に示す。なお、実施例3における初期接触角は117.9°、滑落角は22.3°、接触角ヒステリシスは8.3°であった。
【0108】
実施例4
化合物(b1)に代えて、下記式(b2)で示すFluorolink(登録商標)D4000(数平均分子量約4000)を用いた以外は実施例2と同様の操作を行い、膜性能の評価用サンプルとした。Fluorolink(登録商標)D4000は、末端にヒドロキシ基を有するとともに、オキシアルキレン単位を有し、オキシアルキレン単位の水素原子の一部がフッ素原子に置換されていた。また、FluorolinkD4000において、ヒドロキシ基中の水素原子以外の水素原子数と、フッ素原子数との合計に対するフッ素原子数の割合は40%以上である。
【0109】
【化13】
【0110】
得られた皮膜の耐摩耗性の評価結果を表1に示す。なお、実施例4における初期接触角は111.1°、滑落角は7.3°、接触角ヒステリシスは4.8°であった。
【0111】
実施例5
組成物の質量比を、化合物(A):化合物(B):フッ素系溶剤(C)=80:20:400の割合に変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、膜性能評価用サンプルとした。
【0112】
得られた皮膜の耐摩耗性の評価結果を表1に示す。なお、実施例5における初期接触角は114.9°、滑落角は26.3°、接触角ヒステリシスは14.5°であった。
【0113】
実施例6
組成物の質量比を、化合物(A):化合物(B):フッ素系溶剤(C)=80:20:400の割合に変更した以外は、実施例4と同様の操作を行い、膜性能評価用サンプルとした。
【0114】
得られた皮膜の耐摩耗性の評価結果を表1に示す。なお、実施例6における初期接触角は117.1°、滑落角は26.7°、接触角ヒステリシスは16.3°であった。
【0115】
実施例7
組成物の質量比を、化合物(A):化合物(B):フッ素系溶剤(C)=67:33:400の割合に変更した以外は、実施例4と同様の操作を行い、膜性能評価用サンプルとした。
【0116】
得られた皮膜の耐摩耗性の評価結果を表1に示す。なお、実施例7における初期接触角は115.6°、滑落角は22.7°、接触角ヒステリシスは9.5°であった。
【0117】
比較例1
化合物(b1)に代えて、下記式(c)で表されるFomblin(登録商標)M03(数平均分子量約4000)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、膜性能の評価用サンプルとした。Fomblin(登録商標)M03は、オキシアルキレン単位を有し、オキシアルキレン単位の水素原子の全部がフッ素原子に置換されていたが、その分子内にヒドロキシ基を有さなかった。
【0118】
【化14】
【0119】
得られた皮膜の耐摩耗性の評価結果を表1に示す。なお、比較例1における初期接触角は115.7°、滑落角は50°より大きく、50°まで基材を傾けても水滴は滑落しなかった。
【0120】
比較例2
化合物(b1)に代えてFomblin(登録商標)M03を用いた以外は実施例2と同様の操作を行い、膜性能の評価用サンプルとした。
【0121】
得られた皮膜の耐摩耗性の評価結果を表1に示す。なお、比較例2における初期接触角は116.5°、滑落角は13.7°、接触角ヒステリシス4.2°であった。
【0122】
比較例3
化合物(b1)に代えてFomblin(登録商標)M03を用いた以外は実施例3と同様の操作を行い、膜性能の評価用サンプルとした。
【0123】
得られた皮膜の耐摩耗性の評価結果を表1に示す。なお、比較例3における初期接触角は118.3°、滑落角は13.3°、接触角ヒステリシス6.5°であった。
【0124】
【表1】
【0125】
表1より、ヒドロキシ基を有する化合物(B)を用いた実施例1~7は、比較例1~3に比べて耐摩耗性が向上していることが分かる。また、本発明の組成物を用いて得られた皮膜では、皮膜形成後に後処理を行うことによって更に耐摩耗性を向上することができ、特に後処理条件以外の条件は全て同じであった実施例1~3で比較すると、超音波洗浄を行った実施例3で耐摩耗性が最も良好となった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の組成物は、タッチパネルディスプレイ等の表示装置、光学素子、半導体素子、建築材料、ナノインプリント技術、太陽電池、自動車や建物の窓ガラス、調理器具などの金属製品、食器などのセラミック製品、プラスチック製の自動車部品等に好適に成膜することができ、産業上有用である。また、台所、風呂場、洗面台、鏡、トイレ周りの各部材の物品、ゴーグル、眼鏡などにも好ましく用いられる。