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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】マイクロニードルアレイの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
A61M37/00 505
A61M37/00 512
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018094789
(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公開番号】P2019198479
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】坂▲崎▼ 良樹
(72)【発明者】
【氏名】高野 行央
(72)【発明者】
【氏名】若松 哲史
(72)【発明者】
【氏名】岡野 圭央
(72)【発明者】
【氏名】玉木 健一郎
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-153866(JP,A)
【文献】特開2008-124306(JP,A)
【文献】特開2004-106399(JP,A)
【文献】特開2016-112169(JP,A)
【文献】特開2016-170164(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105498082(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の針状凸部を有する1投与分のパッチを成形するための、表面に複数の針状凹部を有するモールドの前記針状凹部に液体を充填するマイクロニードルアレイの製造方法であって、
前記モールドの質量を計測する充填前計測工程と、
前記質量を計測したモールドの前記針状凹部に液体を充填する充填工程と、
前記液体を充填したモールドの質量を計測する充填後計測工程と、
前記液体の充填前後のモールドの質量の差分から前記液体の充填量を判定する充填量判定工程と、
前記液体を充填したモールドの前記液体の充填状態を判定する充填状態判定工程と、
前記液体の充填量及び前記液体の充填状態が正常と判定された前記モールドを裏面から吸引する吸引工程と、
前記吸引したモールドの前記液体の溶媒を蒸発乾燥させる蒸発乾燥工程と、
を備えるマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項2】
前記充填量判定工程は、前記差分が一定範囲内の場合に前記充填量が正常と判定する請求項1に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項3】
前記液体は薬剤を含む薬剤液であり、
前記充填工程は、前記モールドと薬剤液吐出ノズルとの位置を合わせて前記薬剤液吐出ノズルから前記薬剤液を吐出して前記針状凹部に前記薬剤液を着弾させる請求項1又は2に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項4】
前記充填工程は、
前記モールドの複数の位置を撮影する工程と、
前記撮影した複数の位置に基づいて前記針状凹部の位置を算出する工程と、
を備える請求項3に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項5】
前記充填状態判定工程は、前記液体を充填したモールドの撮影画像を解析し、前記モールドの全ての針状凹部に前記薬剤液が着弾している場合に前記薬剤液の充填状態が正常と判定する請求項3又は4に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項6】
前記液体は基材液であり、
前記充填工程は、前記モールドと基材液点着ノズルとの位置を合わせて点着により前記薬剤液が充填されて蒸発乾燥した針状凹部に前記基材液を充填する請求項3から5のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項7】
前記モールドは、周縁部に厚みが大きい土手部を有し、
前記充填状態判定工程は、前記基材液の充填後のモールドの撮影画像を解析し、前記土手部に囲まれた領域にのみ前記基材液が存在する場合に前記基材液の充填状態が正常と判定する請求項6に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項8】
前記充填後計測工程は、前記充填状態判定工程より前に行う請求項1から7のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項9】
前記モールドは、搬送治具に載置されており、
前記充填前計測工程及び前記充填後計測工程は、前記搬送治具及び前記モールドの質量を計測する請求項1から8のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項10】
前記搬送治具は、前記モールドを載置する座面に吸着孔が設けられている請求項9に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項11】
前記モールドは気体透過性を有する請求項1から10のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルアレイの製造方法に係り、特に、モールドの針状凹部に充填した液体を乾燥させて針状凸部を形成するマイクロニードルアレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤を含有する針状凸部(微小針又はマイクロニードルとも称する)の形成されたマイクロニードルアレイ(経皮吸収シート)が、薬剤を皮膚内に送達するために用いられている。一般的には、マイクロニードルアレイを皮膚に押し付けて、針状凸部を皮膚内に挿入することにより、針状凸部の薬剤が皮膚内に送達される。
【0003】
マイクロニードルアレイを製造する方法としては、針状凸部の反転形状である針状凹部(針穴部とも称する)が形成されたモールドを用い、針状凹部に薬剤を含む溶液(薬剤液とも称する)を充填し、乾燥させた後、針(ニードルとも称する)原料を含む溶液を塗布し、乾燥させることにより、マイクロニードルを形成する方法が知られている。
【0004】
マイクロニードルアレイは、効率的に患者に薬剤を投与するために、針状凸部の先端に薬剤の有効成分が集中していることが望ましい。特許文献1には、薬剤の濃度を針状凸部の先端から根元に向かって連続的に減少させる技術が開示されている。
【0005】
また、マイクロニードルアレイの薬剤の有効成分の含有量は、厳密に管理される必要がある。このため、マイクロニードルアレイの製造工程では、マイクロニードルアレイに含まれる薬剤液の量の定量化を図る必要がある。特許文献1には、マイクロニードルアレイを水に溶解させてマイクロニードルアレイの薬剤含有量を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-224332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、破壊測定を行う必要があるため、出荷するマイクロニードルアレイの有効成分の含有量を保証することができなかった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、有効成分の含有量を保証しつつ、有効成分が先端に集中しているマイクロニードルアレイの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためにマイクロニードルアレイの製造方法の一の態様は、表面に複数の針状凸部を有する1投与分のパッチを成形するための、表面に複数の針状凹部を有するモールドの針状凹部に液体を充填するマイクロニードルアレイの製造方法であって、モールドの質量を計測する充填前計測工程と、質量を計測したモールドの針状凹部に液体を充填する充填工程と、液体を充填したモールドの質量を計測する充填後計測工程と、液体の充填前後のモールドの質量の差分から液体の充填量を判定する充填量判定工程と、液体を充填したモールドの液体の充填状態を判定する充填状態判定工程と、液体の充填量及び液体の充填状態が正常と判定されたモールドを裏面から吸引する吸引工程と、吸引したモールドの液体の溶媒を蒸発乾燥させる蒸発乾燥工程と、を備えるマイクロニードルアレイの製造方法である。
【0010】
本態様によれば、モールドの液体の充填量を保証することができるので、マイクロニードルアレイの有効成分の含有量を保証することができる。また、モールドの針状凹部の先端に液体を充填することができるので、マイクロニードルアレイの針状凸部の先端に有効成分を集中させることができる。
【0011】
充填量判定工程は、差分が一定範囲内の場合に充填量が正常と判定することが好ましい。これにより、液体の充填量が正常であるか否かを適切に判定することができる。
【0012】
液体は薬剤を含む薬剤液であり、充填工程は、モールドと薬剤液吐出ノズルとの位置を合わせて薬剤液吐出ノズルから薬剤液を吐出して針状凹部に薬剤液を着弾させることが好ましい。これにより、針状凹部に薬剤液を適切に充填し、有効成分を先端に集中させることができる。
【0013】
充填工程は、モールドの複数の位置を撮影する工程と、撮影した複数の位置に基づいて針状凹部の位置を算出する工程と、を備えることが好ましい。これにより、モールドと薬剤液吐出ノズルとの位置を適切に合わせることができる。
【0014】
充填状態判定工程は、液体を充填したモールドの撮影画像を解析し、モールドの全ての針状凹部に薬剤液が着弾している場合に薬剤液の充填状態が正常と判定することが好ましい。これにより、薬剤液の充填状態を適切に判定することができる。
【0015】
液体は基材液であり、充填工程は、モールドと基材液点着ノズルとの位置を合わせて点着により薬剤液が充填されて蒸発乾燥した針状凹部に基材液を充填することが好ましい。これにより、針状凹部に基材液を適切に充填することができる。
【0016】
モールドは、周縁部に厚みが大きい土手部を有し、充填状態判定工程は、基材液の充填後のモールドの撮影画像を解析し、土手部に囲まれた領域にのみ基材液が存在する場合に基材液の充填状態が正常と判定することが好ましい。これにより、基材液の充填状態を適切に判定することができる。
【0017】
充填後計測工程は、充填状態判定工程より前に行うことが好ましい。これにより、液体の蒸発の影響を低減して液体の充填量を適切に判定することができる。
【0018】
モールドは、搬送治具に載置されており、充填前計測工程及び充填後計測工程は、搬送治具及びモールドの質量を計測することが好ましい。これにより、各工程のハンドリングが容易となり、充填前計測工程及び充填後計測工程において適切に質量を計測することができる。
【0019】
搬送治具は、モールドを載置する座面に吸着孔が設けられていることが好ましい。これにより、搬送治具に載置されたモールドを吸引工程において適切に吸引することができる。
【0020】
モールドは気体透過性を有することが好ましい。これにより、吸引工程において適切に吸引することができる。
【発明の効果】
【0021】
本態様によれば、有効成分の含有量を保証しつつ、有効成分を先端に集中させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】経皮吸収シートの一例を示す斜視図である。
図2】モールドの一例を示す斜視図である。
図3図2の3-3断面の一部拡大図である。
図4】搬送治具の斜視図である。
図5】モールドを搬送治具に搭載した状態を示す斜視図である。
図6】経皮吸収シートの製造方法の各工程を示すフローチャートである。
図7】薬剤液充填前計測工程及び薬剤液充填後計測工程を示す概略図である。
図8】薬剤液充填工程を示す概略図である。
図9】薬剤液充填工程の詳細を示すフローチャートである。
図10】薬剤液充填状態判定工程を示す概略図である。
図11】第1吸引工程を示す概略図である。
図12】薬剤液蒸発乾燥工程を示す概略図である。
図13】基材液充填前計測工程及び基材液充填後計測工程を示す概略図である。
図14】基材液充填工程を示す概略図である。
図15】基材液充填状態判定工程を示す概略図である。
図16】第2吸引工程を示す概略図である。
図17】基材液蒸発乾燥工程を示す概略図である。
図18】離型工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面にしたがって本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施形態により説明される。本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施形態以外の他の実施形態を利用することができる。したがって、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0024】
ここで、図中、同一の記号で示される部分は、同様の機能を有する同様の要素である。また、本明細書中で、数値範囲を“ ~ ”を用いて表す場合は、“ ~ ”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。
【0025】
<経皮吸収シートの構成>
まず、本実施形態のマイクロニードルアレイの製造方法により製造されるマイクロニードルアレイ(経皮吸収シート)の一例について説明する。
【0026】
図1は、経皮吸収シート100の一例を示す斜視図である。本実施形態の経皮吸収シート100は、1投与分のパッチに相当する。経皮吸収シート100は、おもて面(表面)100A及び裏面100Bを有し、シート状のシート部102及び凸状パターン110から構成される。
【0027】
シート状とは、面積の広い2つの対向するおもて面100A及び裏面100Bに対して厚みの薄い、全体として平たい形状を意味し、おもて面100A及び裏面100Bが完全に平坦である必要はない。また、図1に示すシート部102は平面視で円形であるが、矩形、多角形、楕円形等でもよい。円形にDカット、もしくは切り欠きがあってもよい。
【0028】
凸状パターン110は、複数の針状凸部112を有している。針状凸部112は、おもて面100Aに設けられている。針状凸部112は、ニードル部114と、ニードル部114とシート部102とを接続する錐台部116と、から構成される。
【0029】
経皮吸収シート100のおもて面100Aには、複数個の錐台部116が配置される。錐台部116は、2つの底面を有し、錐体面で囲まれた立体構造を有している。錐台部116の2つの底面のうち面積の広い底面(下底面)がシート部102と接続される。錐台部116の2つの底面のうち面積の狭い底面(上底面)がニードル部114と接続される。つまり、錐台部116の2つの底面のうち、シート部102と離れる方向にある底面の面積が小さくなっている。
【0030】
ニードル部114は、面積の広い底面と、底面から離れた先端が最も狭い面積となる形状を有している。ニードル部114の面積の広い底面が、錐台部116の上底面と接続されているので、ニードル部114は錐台部116と離れる方向に先細り形状となる。したがって、ニードル部114と錐台部116とで構成される針状凸部112は、全体としてシート部102から先端に向けて先細り形状を有している。シート部102の上には4~2500本の複数の針状凸部112が設けられる。但し、この本数に限定されない。
【0031】
図1において、錐台部116は円錐台の形状を有し、ニードル部114は円錐の形状を有している。ニードル部114の皮膚への挿入の程度に応じて、ニードル部114の先端の形状を、0.01μm以上50μm以下の曲率半径の曲面、又は平坦面等に適宜変更することができる。
【0032】
<モールドの構成>
図2は、経皮吸収シート100を製造(成形)するためのモールド120の一例を示す斜視図である。また、図3は、図2の3-3断面の一部拡大図である。モールド120は、おもて面(表面)120A及び裏面120Bを有し、平坦部122、土手部124、及び凹状パターン130から構成されている。
【0033】
平坦部122は、経皮吸収シート100のシート部102に対応する平坦な形状を有している。土手部124は、おもて面120Aの周縁部に立設され、平坦部122を囲んでいる。裏面120Bは平坦であるため、モールド120は、平坦部122の厚みよりも土手部124の厚みの方が大きい。
【0034】
凹状パターン130は、平坦部122に設けられた複数の針状凹部132から構成される。針状凹部132は、経皮吸収シート100の針状凸部112に対応する形状を有しており、ニードル部114に対応する先端凹部134と、錐台部116に対応するカップ部136とから構成される。
【0035】
先端凹部134は、モールド120の深さ方向(厚み方向)に先細り形状を有している。先端凹部134は、径を10μm~150μm、高さを150μm~2000μmとすることができる。また、カップ部136は、モールド120のおもて面120Aに開口が設けられ、モールド120の深さ方向に狭くなる形状を有し、最も狭い部分で先端凹部134と接続されている。カップ部136は、径を500μm~1000μm、高さを100μm~500μmとすることができる。
【0036】
なお、針状凹部132の形状はこの例に限定されない。先端凹部134とカップ部136との間に、円柱、四角柱、多角柱等の深さ方向に幅が一定の中間凹部を設けた形状としてもよい。また、先細り形状の先端に、裏面120Bに到達してモールド120を貫通する貫通孔を形成してもよい。針状凹部132の配列、ピッチ、数等は、経皮吸収シート100に必要な針状凸部112の配列、ピッチ、数等によって決定すればよい。
【0037】
モールド120に用いる材料としては、弾性のある素材、金属製の素材を用いることができる。中でも弾性のある素材であることが好ましく、気体透過性の高い素材であることがさらに好ましい。
【0038】
気体透過性の代表である酸素透過性は、1×10-12(mL/s・m・Pa)より大きいことが好ましく、1×10-10(mL/s・m・Pa)より大きいことがさらに好ましい。モールド120を気体透過性の高い素材で製作することにより、モールド120の裏面120Bから吸引することで針状凹部132に充填した液体を吸引でき、針状凹部132の内部への充填を促進させることができる。また、針状凹部132に存在する空気を裏面120B側から取り除くことができる。これにより、欠陥の少ない経皮吸収シート100を製造することができる。
【0039】
このような材料として、具体的には、シリコーン樹脂(例えば、ダウコーニング社製のシルガード184(登録商標)、信越化学工業社製の1310ST)、紫外線硬化樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、等の一般的なエンジニアリングプラスチックを溶融、又は溶剤に溶解させたものなどを挙げることができる。
【0040】
これらの中でもシリコーンゴム系の素材は繰り返し加圧による転写に耐久性があり、且つ、素材との剥離性がよいため、好適に用いることができる。
【0041】
<経皮吸収シートの製造方法>
図4は、経皮吸収シート100をハンドリングするための搬送治具150の斜視図である。搬送治具150は、経皮吸収シート100を載置する座面152を有している。座面152は、モールド120の少なくとも凹状パターン130に対応する位置にメッシュ状の通気部154(吸着孔の一例)が構成されている。搬送治具150は、ポリプロピレン等のプラスチックで構成される。また、無機材料の金属、又はセラミックで構成してもよい。金属の場合は、耐食性を考慮してSUS316Lを用いることが好ましい。
【0042】
図5は、モールド120を搬送治具150に搭載した状態を示す斜視図である。モールド120は、おもて面120Aが鉛直方向であるZ方向の上方に向けられて搬送治具150の座面152に載置される。搬送治具150は、モールド120のシート部102を水平面であるXY平面と平行にした状態でモールド120を支持する。この状態において、複数の針状凹部132のそれぞれの直下の位置に、座面152の通気部154の孔が配置されることが好ましい。
【0043】
図6は、経皮吸収シート100の製造方法の各工程を示すフローチャートである。経皮吸収シート100の製造方法は、薬剤液充填工程前のモールド120の質量を計測する薬剤液充填前計測工程(ステップS1)と、モールド120の針状凹部132に薬剤液(液体の一例)を充填する薬剤液充填工程(ステップS2)と、薬剤液を充填したモールド120の質量を計測する薬剤液充填後計測工程(ステップS3)と、薬剤液の充填前後のモールド120の質量の差分から薬剤液の充填量を判定する薬剤液充填量判定工程(ステップS4)と、薬剤液を充填したモールド120の薬剤液の充填状態を判定する薬剤液充填状態判定工程(ステップS5)と、薬剤液の充填量及び薬剤液の充填状態が正常と判定されたモールド120を裏面120Bから吸引する第1吸引工程(ステップS6)と、裏面120Bから吸引したモールド120の薬剤液の溶媒を蒸発乾燥させる薬剤液蒸発乾燥工程(ステップS7)と、を含む。
【0044】
また、経皮吸収シート100の製造方法は、基材液充填工程前のモールド120の質量を計測する基材液充填前計測工程(ステップS8)と、モールド120の針状凹部132に基材液を充填する基材液充填工程(ステップS9)と、基材液を充填したモールド120の質量を計測する基材液充填後計測工程(ステップS10)と、基材液の充填前後のモールド120の質量の差分から基材液の充填量を判定する基材液充填量判定工程(ステップS11)と、基材液を充填したモールド120の基材液の充填状態を判定する基材液充填状態判定工程(ステップS12)と、基材液の充填量及び基材液の充填状態が正常と判定されたモールド120を裏面120Bから吸引する第2吸引工程(ステップS13)と、裏面120Bから吸引したモールド120の基材液の溶媒を蒸発乾燥させる基材液蒸発乾燥工程(ステップS14)と、基材液蒸発乾燥工程を経て形成された経皮吸収シート100をモールド120から離型する離型工程(ステップS15)と、を含む。
【0045】
〔薬剤液充填前計測工程(ステップS1)〕
薬剤液充填前計測工程では、薬剤液充填工程前のモールド120の質量を計測する。図7は、薬剤液充填前計測工程及び薬剤液充填後計測工程を示す概略図である。図7に示すように、薬剤液充填前計測工程及び薬剤液充填後計測工程では、電子天秤10が使用される。電子天秤10は、例えば電磁式、又はロードセル式の電子天秤である。
【0046】
図7のF7Aに示すように、薬剤液充填前計測工程では、モールド120を搬送治具150に搭載した状態で、搬送治具150の質量を含めたモールド120の質量W1Bを計測する。なお、モールド120の質量を計測する計測器は、電子天秤に限定されず、測定可能範囲と分解能とが両立できる計測器であればよい。
【0047】
〔薬剤液充填工程(ステップS2)〕
薬剤液充填工程は、モールド120の針状凹部132に位置調整しながら薬剤液を充填する。薬剤液は、薬剤(有効成分)として薬剤原液、糖類、添加剤等を含んでいる。また、薬剤液は、溶媒として水、又はエタノール等を含んでいる。
【0048】
図8は、薬剤液充填工程を示す概略図である。薬剤液充填工程では、XYステージ20、カメラ22、及び薬剤液吐出ヘッド26等が使用される。
【0049】
XYステージ20は、XY平面に平行な載置面20Aを有している。XYステージ20は、不図示のモータにより、XY平面に平行な2方向であって、X方向及びX方向に直交するY方向を移動自在に設けられている。XYステージ20に、その面に垂直な方向に軸を持つ回転機構θ軸があってもよいし、XYステージに代えてRθステージを用いてもよい。モールド120の針状凹部132が渦巻き状に配置されている場合等、針状凹部132の配置によっては、X方向及びY方向の加減速時間を省いて、θ軸を回転させた方が充填時間を短くすることができる可能性がある。
【0050】
XYステージ20の載置面20Aには、搬送治具150が載置される。搬送治具150には、座面152にモールド120が搭載される。これにより、モールド120は、XYステージ20のX方向及びY方向の移動に伴って各方向に移動する。
【0051】
カメラ22は、撮影レンズ24の他、不図示の撮像素子、アナログデジタル変換部、及び画像処理回路を備えている。
【0052】
撮影レンズ24は、ズームレンズ及びフォーカスレンズ等を備えたレンズ群であり、被写体からの入射光を撮像素子に入射させる。
【0053】
撮像素子は、不図示の撮像面に多数の受光素子が2次元配列されたCCD(Charge Coupled Device)型の撮像素子又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型の撮像素子である。撮像素子は、撮影レンズ24の入射光の光路の後段に配置される。
【0054】
撮影レンズ24は、入射光を撮像素子の撮像面に結像させる。撮像素子は、受光量に応じたアナログの撮影信号を出力する。この撮影信号は、アナログデジタル変換部においてデジタル信号に変換された後、画像処理回路によって画像信号に生成される。
【0055】
カメラ22は、XYステージ20のZ方向の上方に配置されており、撮影レンズ24はZ方向の下方に向けられている。これにより、カメラ22は、XYステージ20に載置されたモールド120を撮影することができる。
【0056】
薬剤液吐出ヘッド26は、XYステージ20のZ方向の上方であって、カメラ22からX方向の距離d、Y方向の距離dからなるXY平面における距離dだけ離れた位置に配置されている。薬剤液吐出ヘッド26は、薬剤液の液滴を吐出するノズル28(薬剤液吐出ノズルの一例)を備えている。ここでは、ノズル28はZ方向下方に向けられている。図8に示す薬剤液吐出ヘッド26は、1つのノズル28を備えているが、複数のノズル28を備えていてもよい。
【0057】
薬剤液吐出ヘッド26は、例えばソレノイド型インクジェットヘッド、又はピエゾ型インクジェットヘッド等のインクジェットヘッドを用いることができる。ノズル28から吐出する1つの液滴量は、1~150nL程度である。
【0058】
ノズル28から吐出される薬剤液は、Z方向下方に飛翔し、モールド120に着弾する。したがって、ノズル28のXY平面の位置と薬剤液の着弾するモールド120のXY平面の位置とは等しい。
【0059】
〈薬剤液充填工程の詳細〉
図9は、薬剤液充填工程の詳細を示すフローチャートである。薬剤液充填工程は、位置決め調整工程(ステップS21)、移動工程(ステップS22)、薬剤液吐出工程(ステップS23)、吐出終了判定工程(ステップS24)を含んでいる。
【0060】
〔位置決め調整工程(ステップS21)〕
位置決め調整工程では、XYステージ20に載置されたモールド120の針状凹部132のXY平面内の位置と薬剤液吐出ヘッド26のノズル28のXY平面内の位置とが一致するように、位置決め調整する。なお、針状凹部132の位置とノズル28の位置とが一致するとは、ノズル28から針状凹部132に向けて吐出した薬剤液が針状凹部132に着弾する程度に一致すればよく、厳密に両者の位置が一致している必要はない。ここでは、撮影画像から針状凹部132の位置を検出することで、針状凹部132とノズル28とを仮想的に位置決めする。
【0061】
最初に、XYステージ20の載置面20Aに、モールド120が搭載された搬送治具150を載置する。
【0062】
次に、XYステージ20により、カメラ22の撮影画像の画角内にモールド120を移動させる。続いて、カメラ22により、モールド120の画像を撮影させる。さらに、カメラ22によって撮影されたモールド120の画像を解析し、各針状凹部132の位置を算出する。
【0063】
例えば、XYステージ20によりモールド120の針状凹部132をカメラ22の撮影画像の画角内の中心に移動させ、その際のXYステージ20のXY平面座標(X,Y)を検出する。これを全ての針状凹部132について行うことで、全ての針状凹部132の位置を検出することができる。
【0064】
なお、カメラ22によって撮影されたモールド120の画像は、平坦部122は輝度が相対的に明るく、針状凹部132は輝度が相対的に暗い。このコントラストを用いることで、針状凹部132をカメラ22の撮影画像の画角内の中心に移動させることができる。
【0065】
全ての針状凹部132についてカメラ22の撮影画像の画角内の中心に移動させるのではなく、3~5個の針状凹部132のXY平面座標(X,Y)のみを検出し、この座標からモールド120のXY平面内の向き(回転)、モールド120のXY平面内のズレ、及び伸縮を解析することで、その他の針状凹部132の位置を検出してもよい。
【0066】
また、モールド120に複数のアライメント用マークを設け、アライメント用マークを読み取ることで各針状凹部132のXY平面座標(X,Y)を検出してもよい。
【0067】
このように、XYステージ20のXY平面座標(X,Y)による針状凹部132の位置を検出することで、針状凹部132とノズル28とを仮想的に位置決めする。
【0068】
なお、位置決め調整は機械的に行ってもよい。例えば、搬送治具150の底面をDカット形状とし、XYステージ20に搬送治具150のDカット形状に勘合する部材を設けてもよい。また、搬送治具150の底面を矩形状又は多角形状に構成し、XYステージ20に搬送治具150の角部に勘合する部材を設けてもよい。搬送治具150と搬送治具150に搭載されたモールド120との向きについても、一意に決まるように構成すればよい。
【0069】
〔移動工程(ステップS22)〕
移動工程では、位置決め調整の結果に基づいてXYステージ20を制御して、モールド120をX方向及びY方向に移動させて、薬剤液吐出ヘッド26とモールド120との位置調整を行い、薬剤液吐出ヘッド26のノズル28のXY平面の位置と針状凹部132のXY平面の位置とを一致させる。即ち、ノズル28の薬剤液の吐出方向と平行な方向(Z方向)からの平面視において、ノズル28の位置と針状凹部132の位置とを一致させる。
【0070】
位置決め調整工程で算出した針状凹部132の座標(X,Y)に、カメラ22と薬剤液吐出ヘッド26のノズル28とのX方向の距離d、及びY方向の距離dを加算した座標(X+d,Y+d)が、ノズル28の座標である。この座標にXYステージ20を移動させることで、ノズル28の位置と針状凹部132の位置とを一致させることができる。
【0071】
なお、ノズル28とモールド120との距離は、0.1mm~10mmに調整されており、1mm~4mmに調整されていることがより好ましい。
【0072】
ここでは、XYステージ20を移動させているが、薬剤液吐出ヘッド26を移動させてもよい。なお、薬剤液吐出ヘッド26を移動させると、ノズル28のメニスカスが変動し、薬剤液の吐出に悪影響を及ぼす可能性があるため、XYステージ20を移動させる方が好ましい。
【0073】
〔薬剤液吐出工程(ステップS23)〕
薬剤液吐出工程では、薬剤液吐出ヘッド26のノズル28から薬剤液を吐出させる。吐出された薬剤液は、針状凹部132に着弾する。ここでは、1つの針状凹部132に対してノズル28から1滴の薬剤液を吐出して、針状凹部132に着弾させる。なお、1つの針状凹部132に対して複数滴の薬剤液を着弾させてもよい。
【0074】
ここでは、XYステージ20によってモールド120を移動させた後にノズル28から薬剤液を吐出しているが、移動工程と薬剤液吐出工程とを同時進行で行い、XYステージ20によってモールド120を移動させながらノズル28から薬剤液を吐出してもよい。
【0075】
〔吐出終了判定工程(ステップS24)〕
吐出終了判定工程では、モールド120の全ての針状凹部132に薬剤液を吐出して着弾させたか否かを判定する。ここでは、薬剤液吐出工程において薬剤液を吐出した吐出数と位置決め調整工程において位置を検出した針状凹部132の数とを比較して判定する。
【0076】
薬剤液を着弾させていない針状凹部132が存在すると判断した場合は、ステップS22に戻り、同様の処理を行う。即ち、薬剤液を吐出していない針状凹部132のXY平面の位置とノズル28のXY平面の位置とを一致させ(ステップS22)、ノズル28から薬剤液を吐出して針状凹部132に着弾させる(ステップS23)。針状凹部132に薬剤液を吐出する順序については特に限定されないが、XYステージ20の総移動距離を短くする観点から、モールド120の端に配置された針状凹部132から、順次隣接する針状凹部132に吐出することが好ましい。
【0077】
なお、針状凹部132の配置の全体のモデルを検出し、検出したモデルに応じて、予め用意した吐出配置パターンで吐出する方法を用いてもよい。これにより、吐出終了判定工程が不要になる。
【0078】
全ての針状凹部132に薬剤液を着弾させたと判断した場合は、薬剤液充填工程を終了する。
【0079】
ここでは、距離d、距離dを既知の値として扱ったが、未知の場合は以下のようにして求めることができる。
【0080】
針状凹部132の設けられていないダミーのモールドを搬送治具150に搭載し、XYステージ20の載置面20Aに載置する。このダミーのモールドに対してノズル28から薬剤液を吐出し、ダミーのモールドに着弾させる。
【0081】
次に、着弾した薬剤液がカメラ22の撮影画像の画角の中心に来るように、XYステージ20をX方向及びY方向に移動させる。ここでのXYステージ20のX方向移動量が距離d、Y方向移動量が距離dとなる。
【0082】
なお、薬剤液の充填は、インクジェットヘッドによる滴下に限定されず、スキージを用いたスリット充填を用いてもよいし、極小ディスペンサによる滴下でもよい。
【0083】
また、XYステージ20を吸着ステージとして構成し、搬送治具150をXYステージ20に吸着保持させてもよい。これにより、モールド120の平面性を保持させることができるので、針状凹部132に適切に薬剤液を着弾させることができる。
【0084】
〔薬剤液充填後計測工程(ステップS3)〕
薬剤液充填後計測工程では、薬剤液充填工程後のモールド120の質量を計測する。図7のF7Bに示すように、ここでは、モールド120を搬送治具150に搭載した状態で、搬送治具150の質量を含めたモールド120の質量W1Aを電子天秤10により計測する。
【0085】
なお、モールド120の質量を計測しながら薬剤液を充填してもよい。これにより、薬剤液充填前計測工程及び薬剤液充填後計測工程の時間を短縮することができる。
【0086】
〔薬剤液充填量判定工程(ステップS4)〕
薬剤液充填量判定工程では、薬剤液充填工程前のモールド120の質量W1Bと薬剤液充填工程後のモールド120の質量W1Aとの差分(W1A-W1B)から、モールド120への薬剤液の充填量を判定する。
【0087】
ここでは、W1MIN≦(W1A-W1B)≦W1MAXである場合(一定範囲内の一例)を充填量が正常と判定する。なお、W1MINは、1投与分の経皮吸収シート100に必要な薬剤の最小量から決まる値であり、W1MAXは、1投与分の経皮吸収シート100に必要な薬剤の最大量から決まる値である。
【0088】
充填量を正常と判定した場合は、ステップS5へ移行する。一方、W1MIN>(W1A-W1B)、又は(W1A-W1B)>W1MAXである場合は、充填量が異常と判定し、そのモールド120を経皮吸収シートの製造工程から排除する。
【0089】
〔薬剤液充填状態判定工程(ステップS5)〕
薬剤液充填状態判定工程では、薬剤液充填工程後のモールド120の薬剤液の充填状態を判定する。
【0090】
針状凹部132に着弾した薬剤液は、針状凹部132を閉塞、即ち針状凹部132の壁部の円周の全体に渡って接触している必要がある。着弾した薬剤液が針状凹部132を閉塞していない場合には、後述する薬剤液吸引工程において、着弾した薬剤液を先端凹部134の先細り形状の先端に充填することができない。したがって、薬剤液の充填状態を確認することが必要である。
【0091】
図10は、薬剤液充填状態判定工程を示す概略図である。薬剤液充填状態判定工程では、光源30、及びカメラ32等が使用される。光源30は、例えばハロゲンランプ、又はLED(Light Emitting Diode)によって構成される。光源30は、モールド120のおもて面120Aに可視光を照射する。
【0092】
カメラ32は撮影レンズ34を備える。カメラ32及び撮影レンズ34の構成は、カメラ22及び撮影レンズ24と同様である。カメラ32は、モールド120を撮影し、モールド120の撮影画像を取得する。
【0093】
本実施形態では、カメラ32によって撮影したモールド120の撮影画像を解析し、針状凹部132に着弾せずに、針状凹部132以外の位置に着弾している薬剤液の液滴を撮影画像から検出することで、薬剤液の充填状態を判定する。
【0094】
図10に示す液滴DPは、針状凹部132に着弾している液滴の一例である。一方、液滴DPは、針状凹部132の外側に着弾している液滴の一例である。液滴DPと液滴DPとでは、光源30から照射される光による陰影が異なる。この陰影の差異を撮影画像から検出することで、針状凹部132以外の位置に着弾している薬剤液の液滴を検出する。
【0095】
ここでは、針状凹部132以外の位置に着弾している薬剤液の液滴の有無により、全ての針状凹部132に薬剤液の液滴が着弾しているか否かを確認する。針状凹部132以外の位置に着弾している薬剤液の液滴が存在しない場合は、全ての針状凹部132に薬剤液の液滴が着弾しており、薬剤液の充填状態は正常と判定し、ステップS6へ移行する。一方、針状凹部132以外の位置に着弾している薬剤液の液滴が存在する場合は、薬剤液の液滴が着弾していない針状凹部132が存在しており、薬剤液の充填状態は異常と判定し、そのモールド120を経皮吸収シートの製造工程から排除する。
【0096】
なお、薬剤液が吐出されなかったために針状凹部132以外の位置に着弾している薬剤液の液滴が存在しない場合もあるが、この場合は、W1MIN>(W1A-W1B)となり、薬剤液充填量判定工程において異常と判定される。
【0097】
薬剤液充填量判定工程と薬剤液充填状態判定工程の順番は逆でもよい。なお、薬剤液充填工程において充填された薬剤液は、溶媒の蒸発(乾燥)が促進する。この蒸発による質量への影響を低減するため、充填後の薬剤液の質量計測はできるだけ早期に行った方がよい。このため、薬剤液充填後計測工程は、薬剤液充填状態判定工程より前に行うことが好ましい。
【0098】
〔第1吸引工程(ステップS6)〕
第1吸引工程では、薬剤液充填量判定工程及び薬剤液充填状態判定工程において正常と判定されたモールド120を裏面120Bから吸引する。図11は、第1吸引工程を示す概略図である。第1吸引工程では、吸着板40等が使用される。
【0099】
まず、図11のF11Aに示すように、搬送治具150に搭載されたモールド120を吸着板40に載置する。吸着板40は、例えば、多孔質部材で構成される。多孔質部材として、例えば、金属焼結体、樹脂、及びセラミック等を挙げることができる。
【0100】
吸着板40は、不図示の真空ポンプと接続されている。真空ポンプを駆動することにより、吸着板40の表面から空気を吸引することができる。これにより、搬送治具150の座面152の通気部154を介して、モールド120を裏面120Bから吸引する。
【0101】
この吸引により、モールド120の針状凹部132に着弾した薬剤液は、図11のF11Bに示すように、針状凹部132の先細り形状の先端に流れ込む。したがって、薬剤液の有効成分を、経皮吸収シート100のニードル部114の先端に集中させることができる。
【0102】
〔薬剤液蒸発乾燥工程(ステップS7)〕
薬剤液蒸発乾燥工程では、第1吸引工程後に薬剤液の溶媒を蒸発乾燥させる。図12は、薬剤液蒸発乾燥工程を示す概略図である。薬剤液蒸発乾燥工程では、送風ファン50等が使用される。
【0103】
送風ファン50は、モールド120のおもて面120Aに風を吹き付けることで、針状凹部132に充填された薬剤液を送風乾燥させる。なお、加熱乾燥、又は減圧乾燥を行ってもよい。
【0104】
〔基材液充填前計測工程(ステップS8)〕
基材液充填前計測工程では、基材液充填工程前のモールド120の質量を計測する。図13は、基材液充填前計測工程及び基材液充填後計測工程を示す概略図である。図13に示すように、基材液充填前計測工程及び基材液充填後計測工程では、薬剤液充填前計測工程及び薬剤液充填後計測工程と同様に、電子天秤10が使用される。
【0105】
図13のF13Aに示すように、基材液充填前計測工程では、モールド120を搬送治具150に搭載した状態で、搬送治具150の質量を含めたモールド120の質量W2Bを計測する。
【0106】
〔基材液充填工程(ステップS9)〕
基材液充填工程では、モールド120の針状凹部132に基材液を充填する。基材液は、薬剤非含有のポリマー溶液であり、ポリマー溶液を形成する水溶性の高分子物質としてはコンドロイチン硫酸、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン等の水溶性ポリマー物質を用いることが好ましい。
【0107】
図14は、基材液充填工程を示す概略図である。基材液充填工程では、XYステージ20、及び基材液点着ヘッド60等が使用される。基材液点着ヘッド60は、基材液を流出するノズル62(基材液点着ノズルの一例)を有している。
【0108】
まず、薬剤液充填工程と同様に、XYステージ20に載置されたモールド120の針状凹部132のXY平面内の位置と基材液点着ヘッド60のノズル62のXY平面内の位置とを位置決め調整する。続いて、位置決め調整の結果に基づいて、XYステージ20を制御してモールド120をX方向及びY方向に移動させて、基材液点着ヘッド60とモールド120との位置調整を行う。
【0109】
その後、基材液点着ヘッド60のノズル62から一定量の基材液を流出させた状態で保持し、保持した基材液をモールド120の土手部124に囲まれた平坦部122に接触させることで、保持した基材液を点着して充填する。
【0110】
なお、基材液の充填は、点着ヘッドによる点着に限定されず、ディスペンサによる滴下でもよい。
【0111】
〔基材液充填後計測工程(ステップS10)〕
基材液充填後計測工程では、基材液充填工程後のモールド120の質量を計測する。図13のF13Bに示すように、基材液充填後計測工程では、モールド120を搬送治具150に搭載した状態で、搬送治具150の質量を含めたモールド120の質量W2Aを計測する。
【0112】
なお、モールド120の質量を計測しながら基材液を充填してもよい。これにより、基材液充填前計測工程及び基材液充填後計測工程の時間を短縮することができる。
【0113】
〔基材液充填量判定工程(ステップS11)〕
基材液充填量判定工程では、基材液充填工程前のモールド120の質量W2Bと基材液充填工程後のモールド120の質量W2Aとの差分(W2A-W2B)から、モールド120への基材液の充填量を判定する。
【0114】
ここでは、W2MIN≦(W2A-W2B)≦W2MAXである場合(一定範囲内の一例)を充填量が正常と判定する。なお、W2MINは、1投与分の経皮吸収シート100に必要な基材液の最小量から決まる値であり、W2MAXは、1投与分の経皮吸収シート100に必要な基材液の最大量から決まる値である。
【0115】
充填量を正常と判定した場合は、ステップS12へ移行する。一方、W2MIN>(W2A-W2B)、又は(W2A-W2B)>W2MAXである場合は、充填量が異常と判定し、そのモールド120を経皮吸収シートの製造工程から排除する。
【0116】
〔基材液充填状態判定工程(ステップS12)〕
基材液充填状態判定工程では、基材液充填工程後のモールド120の基材液の充填状態を判定する。図15は、基材液充填状態判定工程を示す概略図である。基材液充填状態判定工程では、薬剤液充填状態判定工程と同様に、光源30、及びカメラ32等が使用される。
【0117】
基材液は、モールド120の平坦部122(土手部に囲まれた領域の一例)にのみ供給される必要がある。本実施形態では、カメラ32によって撮影したモールド120の撮影画像を解析し、土手部124にはみ出した基材液を撮影画像から検出することで、基材液の充填状態を判定する。
【0118】
基材液が平坦部122にのみ存在する場合は、基材液の充填状態が正常と判定し、ステップS13へ移行する。一方、基材液が土手部124に存在している場合は、基材液の充填状態が異常であると判定し、そのモールド120を経皮吸収シートの製造工程から排除する。
【0119】
図15に示す基材液Lは、土手部124にはみ出している基材液の一例である。
【0120】
〔第2吸引工程(ステップS13)〕
第2吸引工程では、基材液充填量判定工程及び基材液充填状態判定工程において正常と判定されたモールド120を裏面120Bから吸引する。図16は、第2吸引工程を示す概略図である。第2吸引工程では、第1吸引工程と同様に吸着板40等が使用される。
【0121】
まず、図16のF16Aに示すように、搬送治具150に搭載されたモールド120を吸着板40に載置する。そして、吸着板40と接続された不図示の真空ポンプを駆動することにより、吸着板40の表面から空気を吸引する。これにより、搬送治具150の座面152の通気部154を介して、モールド120を裏面120Bから吸引する。
【0122】
この吸引により、図16のF16Bに示すように、モールド120の平坦部122に充填された基材液が、針状凹部132の内部に流れ込む。
【0123】
〔基材液蒸発乾燥工程(ステップS14)〕
基材液蒸発乾燥工程では、第2吸引工程後に基材液の溶媒を蒸発乾燥させる。図17は、基材液蒸発乾燥工程を示す概略図である。基材液蒸発乾燥工程では、薬剤液蒸発乾燥工程と同様に、送風ファン50等が使用される。
【0124】
送風ファン50は、モールド120のおもて面120Aに風を吹き付けることで、平坦部122に充填された基材液を送風乾燥させる。なお、加熱乾燥、又は減圧乾燥を行ってもよい。
【0125】
〔離型工程(ステップS15)〕
離型工程では、基材液蒸発乾燥工程を経て形成されたシート(経皮吸収シート100)をモールド120から離型する。図18は、離型工程を示す概略図である。
【0126】
以上のように、1投与分の経皮吸収シート100を製造するためのモールド120の針状凹部132に液体を充填する前後のモールド120の質量を計測し、液体の充填前後のモールド120の質量の差分から液体の充填量を判定することで、モールドの液体の充填量を保証することができる。これにより、経皮吸収シート100の有効成分の含有量を保証することができる。
【0127】
また、液体の充填後のモールド120の液体の充填状態を判定し、充填状態が良好なモールド120を裏面から吸引することで、針状凹部132の先端に液体の有効成分を集中させることができる。これにより、経皮吸収シート100の針状凸部112の先端に有効成分を集中させることができる。
【符号の説明】
【0128】
10…電子天秤
20…XYステージ
20A…載置面
22…カメラ
24…撮影レンズ
26…薬剤液吐出ヘッド
28…ノズル
30…光源
32…カメラ
34…撮影レンズ
40…吸着板
50…送風ファン
60…基材液点着ヘッド
62…ノズル
100…経皮吸収シート
100A…おもて面
100B…裏面
102…シート部
110…凸状パターン
112…針状凸部
114…ニードル部
116…錐台部
120…モールド
120A…おもて面
120B…裏面
122…平坦部
124…土手部
130…凹状パターン
132…針状凹部
134…先端凹部
136…カップ部
150…搬送治具
152…座面
154…通気部
DP…液滴
DP…液滴
L…基材液
S1~S15…経皮吸収シートの製造方法の各工程
S21~S24…薬剤液充填工程の各工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18