(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】熱変形可能なポリマー/繊維複合材
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20220107BHJP
C08F 2/22 20060101ALI20220107BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20220107BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20220107BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20220107BHJP
B29C 70/12 20060101ALI20220107BHJP
B29C 70/40 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08F2/22
C08F265/06
B29C43/18
B29C43/34
B29C70/12
B29C70/40
(21)【出願番号】P 2018543127
(86)(22)【出願日】2017-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2017052488
(87)【国際公開番号】W WO2017140520
(87)【国際公開日】2017-08-24
【審査請求日】2020-02-06
(32)【優先日】2016-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル カルベ
(72)【発明者】
【氏名】カトリン ミヒル
(72)【発明者】
【氏名】ユーディト ブロイアー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー シャイトハウアー
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-511520(JP,A)
【文献】特表2010-518210(JP,A)
【文献】特表2009-521341(JP,A)
【文献】米国特許第06716922(US,B1)
【文献】韓国登録特許第10-0747905(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
C08F 2/00 - 2/60
C08F 251/00 - 283/00
C08F 283/02 - 289/00
C08F 291/00 - 297/08
B29C 39/00 - 39/24
B29C 39/38 - 39/44
B29C 43/00 - 43/34
B29C 43/44 - 43/48
B29C 43/52 - 43/58
B29C 41/00 - 41/36
B29C 41/46 - 41/52
B29C 70/00 - 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状基材およびポリマーPを使用して熱変形可能なポリマー/繊維複合材を製造するための方法であって、
・前記繊維状基材をガス流に導入し、次に
・ガス流中の前記繊維状基材をガラス転移温度T
gを有するポリマーPの水性分散液と接触させ、次に
・前記ポリマーPの水性分散液と接触させたガス流中の前記繊維状基材を乾燥し、続いて分離し、次に
・得られた分離させた前記繊維状基材を繊維ウェブにし、次に
・得られた前記繊維ウェブをT
g以上の温度で圧縮して熱変形可能なポリマー/繊維複合材を得る方法において、
前記ポリマーPの水性分散液を、ポリマーAの存在下に水性媒体中でエチレン性不飽和モノマーP[モノマーP]の混合物のラジカル開始乳化重合によって製造し、ここで、前記ポリマーAは、
a)80質量%~100質量%の少なくとも1種のエチレン性不飽和モノカルボン酸および/またはジカルボン酸[モノマーA1]と、
b)0質量%~20質量%の少なくとも1種の、
エチレン、ビニル芳香族モノマー、ビニルハロゲン化物、ビニルアルコールと1個~18個の炭素原子を有するモノカルボン酸からのエステル、α,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とアルカノールからのエステル、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のニトリルおよびC
4
~C
8
-共役ジエンからなる群から選択される、モノマーA1とは異なる別のエチレン性不飽和モノマー[モノマーA2]から
重合導入された形態で構成されるものであり、
かつここで、前記モノマーPは、種類および量に関して、得られるポリマーPが、DIN EN ISO 11357-2(2013-09)に準拠して測定して20℃以上のガラス転移温度T
gを有するように選択され
、かつ前記モノマーPは、90質量%以上がビニル芳香族モノマー、3個~6個の炭素原子を有するα,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸と1個~12個の炭素原子を有するアルカノールからのエステルを含む群から選択されるものであり、10質量%以下が3個~6個の炭素原子を有するα,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸、および少なくとも1つのエポキシ基またはヒドロキシ基を有するモノエチレン性不飽和化合物、および少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含む群から選択されることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
ポリマーPのポリマーAに対する質量比の値は、1以上10以下であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーAは、2000g/mol以上20000g/mol以下の数平均分子量を有することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーAは、95質量%以上がモノマーA1から構成されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
モノマーA1として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸および/または無水マレイン酸を使用することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーPの製造のために、
90質量%以上99.9質量%以下のスチレンおよび/またはメチルメタクリレートと、
0質量%以上9.9質量%以下のn-ブチルアクリレートおよび/または2-エチルヘキシルアクリレートと、
0.1質量%以上10.0質量%以下のアクリル酸、メタクリル酸、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレート
、1,4-ブチレングリコールジアクリレートおよび1,4-ブチレングリコールジメタクリレート
、アリルアクリレートおよび/またはアリルメタクリレートと
を使用し、ここで、これらの量は合計100質量%であることを特徴とする、請求項1から
5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーPの製造のために、
90質量%以上99.9質量%以下のスチレンおよび/またはメチルメタクリレートと、
0質量%以上9.9質量%以下のn-ブチルアクリレートおよび/または2-エチルヘキシルアクリレートと、
0.1質量%以上2.0質量%以下の1,4-ブチレングリコールジアクリレートおよび1,4-ブチレングリコールジメタクリレート
、アリルアクリレートおよび/またはアリルメタクリレートと
を使用し、ここで、これらの量は合計100質量%であることを特徴とする、請求項1から
6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーPの製造のために、
90質量%以上99.7質量%以下のスチレンおよび/またはメチルメタクリレートと、
0質量%以上9.9質量%以下のn-ブチルアクリレートおよび/または2-エチルヘキシルアクリレートと、
0.1質量%以上5.0質量%以下のアクリル酸、メタクリル酸、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよび/または2-ヒドロキシエチルメタクリレー
トと、
0.1質量%以上2.0質量%以下の1,4-ブチレングリコールジアクリレートおよび1,4-ブチレングリコールジメタクリレート
、アリルアクリレートおよび/またはアリルメタクリレートと、
0.1質量%以上3.0質量%以下のグリシジルアクリレートおよび/またはグリシジルメタクリレートと
を使用し、ここで、これらの量は合計100質量%であることを特徴とする、請求項1から
6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
繊維状基材として、天然繊維を使用することを特徴とする、請求項1から
8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
得られる熱変形可能なポリマー/繊維複合材は、1000g/m
2以上30000g/m
2以下の基本重量を有することを特徴とする、請求項1から
9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
得られる熱変形可能なポリマー/繊維複合材は、平面状であることを特徴とする、請求項1から
10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項1から
11までのいずれか1項記載の方法により得られる熱変形可能なポリマー/繊維複合材。
【請求項13】
請求項
12に記載の熱変形可能なポリマー/繊維複合材の、使用される熱変形可能なポリマー/繊維複合材とは形態が異なるポリマー/繊維成形部材の製造のための使用。
【請求項14】
請求項
12に記載の熱変形可能なポリマー/繊維複合材をT
g以上の温度に加熱し、このようにして得られたポリマー/繊維複合材をT
g以上の温度で所望の形態のポリマー/繊維成形部材にして、次に、得られたポリマー/繊維成形部材をその形態を維持しながらT
gを下回る温度に冷却することを特徴とする、ポリマー/繊維成形部材を製造するための方法。
【請求項15】
加熱工程の前またはその後に、平面状の装飾材料を前記ポリマー/繊維複合材に施与することを特徴とする、請求項
14記載の方法。
【請求項16】
請求項
14または
15記載の方法により得られるポリマー/繊維成形部材。
【請求項17】
請求項
16記載のポリマー/繊維成形部材の家具成形部材または壁装飾部材としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明の対象は、繊維状基材およびポリマーPを使用して熱変形可能なポリマー/繊維複合材を製造するための方法であって、
・繊維状基材をガス流に導入し、次に
・ガス流中の繊維状基材をガラス転移温度Tgを有するポリマーPの水性分散液と接触させ、次に
・ポリマーPの水性分散液と接触させたガス流中の繊維状基材を乾燥し、続いて分離し、次に
・得られた分離させた繊維状基材を繊維ウェブにして、次に
・得られた繊維ウェブを、Tg以上の温度で圧縮して熱変形可能なポリマー/繊維複合材を得る方法において、
ポリマーPの水性分散液を、ポリマーAの存在下に水性媒体中でエチレン性不飽和モノマーP[モノマーP]の混合物のラジカル開始乳化重合によって製造し、ここで、ポリマーAは、
a)80質量%~100質量%の少なくとも1種のエチレン性不飽和モノカルボン酸および/またはジカルボン酸[モノマーA1]と
b)0質量%~20質量%の少なくとも1種の、モノマーA1とは異なる別のエチレン性不飽和モノマー[モノマーA2]から
重合導入された形態で構成されるものであり、
かつここで、モノマーPは、種類および量に関して、得られたポリマーPが、DIN EN ISO 11357-2(2013-09)に準拠して測定して20℃以上のガラス転移温度Tgを有するように選択されることを特徴とする方法である。
【0002】
さらに、本発明の対象は、本発明による方法によって得られるポリマー/繊維複合材それ自体、およびポリマー/繊維成形部材、例えば家具成形部材または壁装飾部材または扉可動部の製造のためのその使用である。
【0003】
木質繊維板は、実質的に丸材から製造されるが、木材チップまたはいわゆる背板からも製造される。丸材は、皮を剥がしてから、背板と同じくドラムチッパーで細かく砕いて木材チップにする。木材チップは、不純物、例えば砂または石を取り去ってから、まず予備蒸気処理槽において100℃で水蒸気を用いる熱水前処理に供する。その後、予備蒸気処理された木材チップをいわゆるボイラーに移し、ここで、木材チップは、2~5分にわたって水中で140℃~180℃の温度および4bar(ゲージ圧)~8bar(ゲージ圧)の圧力にさらされる。その後、柔らかくなった木材チップをいわゆるリファイナに移し、ここで、木材チップは、同じく4bar(ゲージ圧)~8bar(ゲージ圧)の圧力で、約3mm~0.1mmの間隔で互いに向かい合った2つの回転する溝付き磨砕板の間で磨砕されて、繊維状にされる。その後、得られた水性木質繊維ペースト状物をいわゆるブローラインである管に移し、この管が明らかに比較的低い圧力を有するため、水は気化して、ブローラインを通る木質繊維のための気体状の移送手段として利用される(油気圧式運搬(hydropneumatische Foerderung))。加熱乾燥された空気をブローラインにさらに送り込むことによって、木質繊維は乾燥して、空気圧によりさらに移送される。木質繊維板の製造に必要とされる、硬化して熱硬化性樹脂になる水性バインダー、例えばとりわけホルムアルデヒド樹脂、例えば尿素/ホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、メラミン/尿素/ホルムアルデヒド樹脂またはメラミン/フェノール/ホルムアルデヒド樹脂またはイソシアネート、例えばメチレンジイソシアネートもしくはトルイデンジイソシアネートの繊維への可能な限り均一な塗布を保証するために、硬化して熱硬化性樹脂になるこの水性バインダーを、加熱乾燥された空気が送り込まれる前に、1つまたは複数の箇所でブローラインに噴霧する。乾燥後に生じる「接着された」繊維を分離して繊維ウェブ(繊維マット)にする。この繊維マットを、場合によって「冷間」予備圧縮を用いて圧縮し、続いて圧力および高温(150℃~230℃)下に圧縮成形して、250kg/m3~1000kg/m3の密度を有する板状の木質材料が得られる。しかし、硬化して熱硬化性樹脂になるバインダーの使用によって、そのようにして得られた木質繊維板は、もはや熱変形できない。
【0004】
熱変形可能な成形体、とりわけ木質繊維板の製造に関して、国際公開第2007/73218号(WO2007/73218)は、ごく一般的に液状または粒子状形態の熱可塑性バインダーの使用を開示している。この関連では、とりわけ水性バインダー分散液も挙げられている。しかし、熱可塑性バインダーとしてごく一般的に好適なポリマーが開示されており、ここで、具体的ではないが、複数のまったく異なるポリマーが挙げられており、例えばアクリレートポリマー、ウレタンポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステルであるが、デンプンおよびその誘導体、セルロース誘導体、タンパク質、ポリ酸、ポリイソシアネートならびに反応性樹脂系、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ウレタン/イソシアネート樹脂または多種多様のホルムアルデヒド樹脂の予縮合物などでもある。実施例では、ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンのペレット、繊維、粉末またはフレーク、ポリ乳酸繊維、ポリビニルアルコール、ポリオレフィンコポリマー分散液、例えばエチレン/アクリル酸コポリマー分散液またはエチレン/無水マレイン酸コポリマー分散液が使用されているが、さらに詳しく述べられていない。
【0005】
しかし、独自調査によって、繊維状基材と熱可塑性ポリマーの水性分散液との混合をガス流中で(とりわけブローラインで混合されるように)行う場合、熱可塑性ポリマーの水性分散液のすべてが、熱変形可能な成形体を製造するためのバインダーに適しているわけではないことが証明されている。ここで、とりわけ、熱可塑性バインダーが木質繊維に付着しないため、木質繊維と熱可塑性バインダーは乾燥時もしくは乾燥後に部分的に再び分離し、それによって木質繊維上での均一かつ再現可能なバインダー分布、ひいてはその結果得られる成形体の均一かつ再現可能な特性が保証できないことが問題である。さらに、熱可塑性ポリマーの水性分散液を用いて製造された成形体には、温度影響下で不所望の後発的変形に関して問題がある。
【0006】
したがって、本発明の課題は、繊維状基材および効果的に付着するポリマーの水性分散液から、使用時に比較的高い耐温度性を有し、それゆえ使用強度を有する熱変形可能な成形体を製造するための方法を提供することであった。
【0007】
本課題は、驚くべきことに、冒頭に記載した方法によって解決された。
【0008】
本発明による方法の特徴を示す事項は、繊維状基材がガス流に導入されることである。本発明によれば、あらゆる繊維状基材を使用することができる。ここで、繊維状基材とは、粒子であって、その最長の拡がりのその最短の拡がりに対する比率が少なくとも5以上、有利には10以上、とりわけ有利には50以上であり、かつその最短の拡がりが2mm以下、有利には0.001mm以上0.5mm以下、とりわけ有利には0.001mm以上0.1mm以下である粒子であると理解される。粒子の最短の拡がりが、最長の拡がりの2点を結ぶ線に対して90℃の角度で定められることが重要である。
【0009】
繊維状基材は、天然繊維、例えば植物繊維、動物繊維および無機繊維であるか、または天然ポリマーもしくは合成ポリマーから人工的に製造された化学繊維であってよい。植物繊維の例は、木綿繊維、亜麻繊維、大麻繊維、洋麻繊維、黄麻繊維、木質繊維またはサイザル繊維であり、動物繊維の例は、羊毛またはその他の獣毛であり、無機繊維の一例は、岩石繊維であり、天然由来の化学繊維の一例は、ビスコース繊維であり、合成ポリマーをベースとする化学繊維の例は、ポリエステル繊維、例えばポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維またはポリブチレンテレフタレート繊維および様々なポリカーボネート繊維、ポリオレフィン繊維、例えばとりわけポリエチレン繊維またはポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、例えばポリカプロラクタム繊維(ポリアミド6)、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸からなるポリアミド繊維(ポリアミド6,6)、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミド繊維(ポリアミド6T)、パラフェニレンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミド繊維(アラミド)であり、無機繊維、例えばガラス繊維、炭素繊維またはバサルト繊維である。しかし、本発明によれば、天然繊維、とりわけ植物由来の天然繊維が使用されることが有利であり、とりわけリファイナから得られる木質繊維が使用されることがとりわけ有利である。
【0010】
ガス流とは、本発明の範囲では、ガス状物質の、例えば容器または管における圧力勾配に沿った方向性のある移送であると理解される。根本的に、移送条件(とりわけ圧力および温度)下にガス状であるあらゆる物質を使用することができる。例えば、有機および/または有機溶媒蒸気、例えばとりわけ有利には水蒸気または窒素含有混合ガス、例えばとりわけ空気が使用される。本発明によれば、広い混合比の水蒸気/空気混合物が使用されることが有利である。
【0011】
本発明によれば、ガス流中の繊維状基材をガラス転移温度Tgを有するポリマーPの水性分散液と接触させる。この接触を、ブローラインにおいて有利には1つまたは複数の噴射ノズルによって行う場合、このブローラインにおける接触が、加熱乾燥した空気が木質繊維の乾燥のために吹き込まれる前に、気流方向で1つまたは複数の箇所で行われることに留意すべきである。
【0012】
その後、ポリマーPの水性分散液と接触させたガス流中の繊維状基材を乾燥し、続いて分離する。得られた繊維状基材の乾燥は、例えば水蒸気の分離および凝縮によって行うか、またはブローラインにおいて、結果的に生じる混合ガス中の相対空気湿分が10%以下または5%以下に下がるように多くの加熱乾燥した空気を導入することによって行う。これらの措置により、繊維状基材とポリマーPからなる混合物の乾燥が行われる。乾燥とは、本願の範囲では、基材/ポリマー混合物の残留湿分が15質量%以下、有利には10質量%以下に減少する場合であると理解される。残留湿分とは、本願の範囲では、1gの基材/ポリマー混合物を乾燥棚で120℃にて1時間乾燥する場合に得られる、使用される基材/ポリマー混合物を基準とする百分率の質量差であると理解される。基材/ポリマー混合物の分離は、混合ガスからの固形物分離のための通常の手法に従って行われ、例えばふるい分けによって行われるか、またはサイクロン型分離装置による遠心力の利用によって行われる。
【0013】
その後、得られた分離させた基材/ポリマー混合物は、本発明によれば、例えば分離させた基材/ポリマー混合物を平面に、または連続的に稼働させてコンベヤベルトに相応して散布することによって繊維ウェブにする。この繊維ウェブは、本発明によれば、場合によって機械的な予備圧縮後にガラス転移温度Tgを明らかに下回る温度で、1cm以上50cm以下、有利には1cm以上30cm以下、とりわけ有利には1cm以上15cm以下の厚さ、および20g/l以上700g/l以下、しばしば50g/l以上500g/l以下、頻繁に100g/l以上350g/l以下の密度を有してよい。
【0014】
その後、そのようにして得られた繊維ウェブをTg以上の温度で圧縮して、熱変形可能なポリマー/繊維複合材が得られる。ここで、圧縮とは、繊維ウェブをTg以上の温度で圧力下に圧縮成形して熱変形可能なポリマー/繊維複合材にする場合であると理解される。ここで、ポリマー/繊維複合材の密度は、相応する繊維ウェブと比べて、使用される繊維状基材に依存して3倍以上、有利には6倍以上高くなる。相応して、ポリマー/繊維複合材の厚さも相応する繊維ウェブと比べて減少する。この関連では、本発明によるポリマー/繊維複合材が、有利には平面状の平坦な形態を有することが重要である。しかし、当然、本発明によるポリマー/繊維複合材は、(選択される圧縮形態に依存して)任意の平坦ではない三次元形態を有していてもよい。
【0015】
ポリマーPの水性分散液が、ポリマーAの存在下に水性媒体中でエチレン性不飽和モノマーP[モノマーP]のラジカル開始乳化重合により製造されたものであり、ここで、ポリマーAは、
80質量%~100質量%の少なくとも1種のエチレン性不飽和モノカルボン酸および/またはジカルボン酸[モノマーA1]と
0質量%~20質量%の少なくとも1種の、モノマーA1とは異なる別のエチレン性不飽和モノマー[モノマーA2]から
重合導入された形態で構成されるものであることが本方法に必須である。
【0016】
モノマーA1としては、とりわけ3個~6個の炭素原子を有するα,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸、それらの考えられる無水物およびそれらの水溶性塩、とりわけそれらのアルカリ金属塩、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、またはそれらの無水物、例えば無水マレイン酸、および上述の酸のナトリウム塩またはカリウム塩が考慮される。特に好ましいのは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸および/または無水マレイン酸であり、ここで、アクリル酸がとりわけ好ましい。
【0017】
本発明により使用されるポリマーAの製造のために、少なくとも1種のモノマーA2としては、とりわけ簡単に言えばモノマーA1とラジカル共重合可能なエチレン性不飽和化合物が考慮され、例えばエチレン、ビニル芳香族モノマー、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-クロロスチレンまたはビニルトルエン、ビニルハロゲン化物、例えば塩化ビニルまたは塩化ビニリデン、ビニルアルコールと1個~18個の炭素原子を有するモノカルボン酸からのエステル、例えばビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニル-n-ブチレート、ビニルラウレートおよびビニルステアレート、好ましくは3~6個の炭素原子を有するα,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸、例えばとりわけアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸およびイタコン酸と、一般的に1個~12個、好ましくは1個~8個、とりわけ1個~4個の炭素原子を有するアルカノールからのエステル、例えば特にアクリル酸メチルエステル、メタクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、メタクリル酸エチルエステル、アクリル酸n-ブチルエステル、メタクリル酸n-ブチルエステル、アクリル酸イソブチルエステル、メタクリル酸イソブチルエステル、アクリル酸ペンチルエステル、メタクリル酸ペンチルエステル、アクリル酸ヘキシルエステル、メタクリル酸ヘキシルエステル、アクリル酸ヘプチルエステル、メタクリル酸ヘプチルエステル、アクリル酸オクチルエステル、メタクリル酸オクチルエステル、アクリル酸ノニルエステル、メタクリル酸ノニルエステル、アクリル酸デシルエステル、メタクリル酸デシルエステル、およびアクリル酸-2-エチルヘキシルエステルおよびメタクリル酸-2-エチルヘキシルエステル、フマル酸ジメチルエステルおよびマレイン酸ジメチルエステルまたはフマル酸ジ-n-ブチルエステルおよびマレイン酸ジ-n-ブチルエステル、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のニトリル、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマル酸ジニトリル、マレイン酸ジニトリルおよびC4~C8-共役ジエン、例えば1,3-ブタジエン(ブタジエン)およびイソプレンである。上述のモノマーは、通常、モノマーA2の全量を基準として50質量%以上、好ましくは80質量%以上、とりわけ好ましくは90質量%以上の割合を占めるか、またはモノマー2の全量をなす主モノマーを形成する。通常、これらのモノマーは、水に対して、標準条件[20℃、1atm(絶対圧)]で中度ないし低度の溶解度しか示さない。
【0018】
上述の条件下に高い溶解度を示すモノマーA2は、少なくとも1つのスルホン酸基および/もしくはその相応のアニオン、または少なくとも1つのアミノ基、アミド基、ウレイド基もしくはN-複素環式基および/もしくはその窒素プロトン化もしくはアルキル化されたアンモニウム誘導体を含むものである。例として、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、さらにビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸およびその水溶性塩およびN-ビニルピロリドン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-ビニルイミダゾール、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(N-tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、N-(3-N’,N’-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミドおよび2-(1-イミダゾリン-2-オニル)エチルメタクリレートが挙げられる。通常の場合、上述の水溶性モノマーA2は、変性モノマーとしてモノマーA2の全量を基準として10質量%以下、好ましくは5質量%以下、とりわけ好ましくは3質量%以下の量でしか含まれていない。
【0019】
一般にポリマーマトリックスの被膜化(Verfilmung)の内部強度を高めるモノマーA2は、通常、少なくとも1つのエポキシ基、ヒドロキシ基、N-メチロール基またはカルボニル基、または少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する。その例は、2つのビニル基を有するモノマー、2つのビニリデン基を有するモノマーおよび2つのアルケニル基を有するモノマーである。ここで、特に有利には、二価アルコールとα,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸とのジエステルであり、そのモノカルボン酸のうち、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有するそのようなモノマーの例は、アルキレングリコールジアクリレートおよびアルキレングリコールジメタクリレート、例えばエチレングリコールジアクリレート、1,2-プロピレングリコールジアクリレート、1,3-プロピレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレートおよびエチレングリコールジメタクリレート、1,2-プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレートおよびジビニルベンゼン、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、メチレンビスアクリルアミド、シクロペンタジエニルアクリレート、トリアリルシアヌレートまたはトリアリルイソシアヌレートである。この関連で特に重要なのは、メタクリル酸-C1~C8-ヒドロキシアルキルエステルおよびアクリル酸-C1~C8-ヒドロキシアルキルエステル、例えばn-ヒドロキシエチルアクリレートおよびn-ヒドロキシエチルメタクリレート、n-ヒドロキシプロピルアクリレートおよびn-ヒドロキシプロピルメタクリレートまたはn-ヒドロキシブチルアクリレートおよびn-ヒドロキシブチルメタアクリレート、および化合物、例えばジアセトンアクリルアミドおよびアセチルアセトキシエチルアクリレートまたはアセチルアセトキシエチルメタクリレートでもある。頻繁に、上述の架橋性モノマーA2は、それぞれモノマーA2の全量を基準として10質量%以下の量で使用されるが、好ましくは5質量%以下の量で使用される。しかし、このような架橋性モノマーA2が、ポリマーAの製造に全く使用されないことがとりわけ好ましい。
【0020】
ポリマーAの製造のために、モノマーA2として、
90質量%~100質量%がアクリル酸および/もしくはメタクリル酸と1個~12個の炭素原子を有するアルカノールからのエステルを含むか、または
90質量%~100質量%がスチレンおよび/もしくはブタジエンを含むか、または
90質量%~100質量%が塩化ビニルおよび/もしくは塩化ビニリデンを含むか、または
90質量%~100質量%がビニルアセテート、ビニルプロピオネートおよび/もしくはエチレンを含む
モノマー混合物のみを使用することが有利である。
【0021】
本発明によれば、ポリマーA中の重合導入されたモノマーA2の割合は、0質量%~20質量%、有利には0.1質量%以上10質量%以下または5質量%以下である。別の有利な実施形態では、ポリマーAは、モノマーA2を重合導入して含まない。したがって、ポリマーAは、80質量%以上、有利には90質量%以上または95質量%以上、および別の実施形態では100質量%が、重合導入された形態のモノマーA1から構成されており、ここで、モノマーA1として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸および/または無水マレイン酸が特に好ましい。
【0022】
本発明により使用されるポリマーAは、通常、水性媒体中でのモノマーAのラジカル開始重合により製造される。少なくとも1種のラジカル連鎖調節剤の存在下に行われることが有利であり、ここで、20℃および1atmで脱イオン水に対して水100gあたり5g以上の溶解度を示す硫黄、窒素および/またはリンを含むラジカル連鎖調節剤が特に好ましい。
【0023】
ポリマーAの根本的な製造については、当業者に公知である(例えばA. Echte, Handbuch der Technischen Polymerchemie, Kapitel 6, VCH, Weinheim, 1993またはB. Vollmert, Grundriss der Makromolekularen Chemie, Band 1, E. Vollmert Verlag, Karlsruhe, 1988参照)。
【0024】
硫黄を含むラジカル連鎖調節剤としては、例えばメルカプトアルカノール、例えば2-メルカプトエタノール、2-メルカプトプロパノールまたは3-メルカプトプロパノール、アルカリ金属亜硫酸水素塩、例えば亜硫酸水素ナトリウムもしくは亜硫酸水素カリウム、およびチオ硫酸およびそのアルカリ金属塩または3-メルカプト-2-アミノプロパン酸(システイン)が使用され、窒素を含むラジカル連鎖調節剤としては、例えばヒドロキシルアミン(アンモニウム)化合物、例えば硫酸ヒドロキシルアンモニウムが使用され、リンを含むラジカル連鎖調節剤としては、例えば亜リン酸、次亜リン酸、メタ亜リン酸、オルトリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸およびそれらのアルカリ金属塩、とりわけそのナトリウム塩またはカリウム塩、有利には次亜リン酸ナトリウムまたはリン酸二水素ナトリウムが使用される。
【0025】
次亜リン酸およびそのアルカリ金属塩、とりわけ次亜リン酸ナトリウム、アルカリ金属亜硫酸水素塩、とりわけ亜硫酸水素ナトリウム、硫酸ヒドロキシルアンモニウムおよび/または2-メルカプトエタノールから選択されるラジカル連鎖調節剤がとりわけ有利である。
【0026】
ポリマーAの製造では、ポリマーAの数平均分子量が1000g/mol以上30000g/mol以下、有利には2000g/mol以上20000g/mol以下、とりわけ有利には3000g/mol以上20000g/mol以下になるようにラジカル連鎖調節剤の量が選択される場合が有利である。当業者は、ラジカル連鎖調節剤の所要量および相応の重合条件を知っているか、またはそれらを簡単なルーティン実験で求めることができる。
【0027】
ポリマーAの質量平均分子量は、DIN55672-1に準拠する当業者に公知の方法でゲル浸透クロマトグラフィーにより(例えば線形カラム:PSS社のSupremea M、溶離液:0.08mol/l トリス緩衝液pH7.0、脱イオン水、液体流:0.8ml/min、検出器:ERC社の示差屈折率検出器ERC 7510、内部標準/較正物質:ポリアクリル酸ナトリウム塩)測定される。
【0028】
本発明により使用されるポリマーPの製造では、場合によって、ポリマーAの部分量または全量を水性重合媒体に装入することが可能である。しかし、ポリマーAの全量または場合によって残りの残量を、重合反応中にモノマーPと共に供給することも可能である。ここで、ポリマーAの全量または場合によって残りの残量を1回または複数回で不連続的に供給してもよいし、流量を一定にするか、または変化させて連続的に供給してもよい。ポリマーAの全量をモノマーPの重合反応の開始前に水性重合媒体に装入することが有利である。別の有利な実施形態では、ポリマーAをモノマーPの重合のための重合溶媒中で「in-situ」で製造する。
【0029】
水性重合媒体が、ポリマーPの製造において、ポリマーA以外にさらに分散助剤を含んでよいことが重要であり、この分散助剤は、モノマー液滴も、モノマーPのラジカル開始重合により得られたポリマーPの分散粒子も水相中に分散分布して保持し、その結果生成された水性重合組成物の安定性を保証する。そのようなものとして、ラジカル水性乳化重合の実施に通常使用される保護コロイドや乳化剤も考慮される。
【0030】
好適な保護コロイドは、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体またはビニルピロリドンを含む共重合体である。さらなる好適な保護コロイドの詳細な説明は、Houben-Weyl, Methoden der organischen Chemie, Band XIV/1, Makromolekulare Stoffe,411~420ページ, Georg-Thieme-Verlag, Stuttgart, 1961に記載されている。本発明により使用されるポリマーAが保護コロイドとしても作用できるため、本発明によれば、さらなる保護コロイドを使用しないことが有利である。
【0031】
当然、乳化剤および/または保護コロイドの混合物を使用することもできる。頻繁に、分散助剤として、相対分子量が保護コロイドと比べて通常1000g/molを下回る乳化剤のみが使用される。これらの乳化剤は、アニオン性、カチオン性または非イオン性であってよい。当然、界面活性物質の混合物を使用する場合、個々の成分は相互に相溶性を有するべきであり、これに関して疑わしい場合は、少数の予備試験によって確認することができる。一般的に、アニオン性乳化剤は、アニオン性乳化剤同士および非イオン性乳化剤と相溶性がある。同じことがカチオン性乳化剤にも当てはまる一方、アニオン性乳化剤とカチオン性乳化剤は、ほとんどの場合相互に相溶性を有していない。
【0032】
慣用の乳化剤は、例えばエトキシ化モノアルキルフェノール、エトキシ化ジアルキルフェノールおよびエトキシ化トリアルキルフェノール(EO度:3~50、アルキル基:C4~C12)、エトキシ化脂肪アルコール(EO度:3~50;アルキル基:C8~C36)ならびにアルキル硫酸(アルキル基:C8~C12)のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、エトキシ化アルカノール(EO度:3~30、アルキル基:C12~C18)およびエトキシ化アルキルフェノール(EO度:3~50、アルキル基:C4~C12)の硫酸半エステルのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、アルキルスルホン酸(アルキル基:C12~C18)のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、ならびにアルキルアリールスルホン酸(アルキル基:C9~C18)のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩である。さらなる好適な乳化剤は、Houben-Weyl, Methoden der organischen Chemie, Band XIV/1, Makromolekulare Stoffe,192~208ページ, Georg-Thieme-Verlag, Stuttgart, 1961に記載されている。
【0033】
さらに、一般式I
【化1】
の化合物が界面活性物質であることが判明しており、式中、R
1およびR
2は、C
4~C
24-アルキルを意味し、基R
1またはR
2の1つは、水素を意味してもよく、かつAおよびBは、アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオンであってよい。一般式I中では、R
1およびR
2は、好ましくは6個~18個の炭素原子、とりわけ6個、12個および16個の炭素原子または水素原子を有する直鎖状または分岐鎖状アルキル基を意味し、ここで、R
1およびR
2は、両方が同時に水素原子ではない。AおよびBは、好ましくはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはアンモニウムイオンであり、ここで、ナトリウムイオンが特に好ましい。AおよびBがナトリウムイオンであり、R
1が12個の炭素原子を有する分岐鎖状アルキル基であり、R
2が水素原子またはR
1である化合物Iが特に有利である。頻繁に、50質量%~90質量%の割合のモノアルキル化生成物を有する工業的混合物、例えばDowfax(登録商標)2A1(Dow Chemical Campanyの商標)が使用される。化合物Iは、一般的に、例えば米国特許第4269749号明細書(US-A4269749)から公知であり、市販されている。
【0034】
ポリマーPの水性分散液の製造で分散助剤を併用する場合、使用される分散助剤、とりわけ乳化剤の全量は、それぞれモノマーPの全量(全モノマー量P)を基準として0.1質量%~5質量%、好ましくは1質量%~3質量%である。有利な実施形態では、乳化剤を唯一の分散助剤として使用する。
【0035】
ポリマーPの水性分散液の製造で分散助剤を併用する場合、場合によって、分散助剤の部分量または全量を、ポリマーAを含む水性媒体の構成成分として装入することが可能である。しかし、分散助剤の全量または場合によって残りの残量を、重合反応中にモノマーPと共に供給することも可能である。ここで、分散助剤の全量または場合によって残りの残量を、水性重合媒体に1回または複数回で不連続的に供給してもよいし、流量を一定にするか、または変化させて連続的に供給してもよい。
【0036】
モノマーPのラジカル開始水性乳化重合において、これらのモノマーPは、種類および量に関して、得られたポリマーPが、DIN EN ISO 11357-2(2013-09)に準拠して測定して20℃以上、有利には60℃以上、とりわけ有利には90℃以上のガラス転移温度Tgを有するように選択されたことが本発明に必須である。
【0037】
水性媒体中でのエチレン性不飽和化合物(モノマー)のラジカル開始乳化重合の実施は、すでに広く記載されているため、当業者には充分公知である[これに関しては、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering内のEmulsionspolymerisation, Vol. 8,659ページ以降(1987); D.C. Blackley,High Polymer Latices内, Vol. 1,35ページ以降(1966); H. Warson, The Applications of Synthetic Resin Emulsions,第5章,246ページ以降(1972); D. Diederich, Chemie in unserer Zeit 24,135~142ページ(1990); Emulsion Polymerisation, Interscience Publishers, New York (1965);独国特許出願公開第4003422号明細書(DE-A4003422)およびDispersionen synthetischer Hochpolymerer, F. Hoelscher, Springer-Verlag, Berlin (1969)を参照]。ラジカル開始水性乳化重合は、通常、一般的に分散助剤、例えば乳化剤および/または保護コロイドを併用して、モノマーを水性媒体中に分散分布させ、少なくとも1種の水溶性ラジカル重合開始剤を用いて重合することによって行われる。頻繁に、得られた水性重合体分散液においては、未反応のモノマーの残留含有率は、当業者に同じく公知の化学的および/または物理的な手法[例えば欧州特許出願公開第771328号明細書(EP-A771328)、独国特許出願公開第19624299号明細書(DE-A19624299)、独国特許出願公開第19621027号明細書(DE-A19621027)、独国特許出願公開第19741184(DE-A19741184)、独国特許出願公開第19741187号明細書(DE-A19741187)、独国特許出願公開第19805122号明細書(DE-A19805122)、独国特許出願公開第19828183号明細書(DE-A19828183)、独国特許出願公開第19839199号明細書(DE-A19839199)、独国特許出願公開第19840586(DE-A19840586)および独国特許出願公開第19847115号明細書(DE-A19847115)参照]によって下げられ、重合体固形物含有率は、希釈もしくは濃縮によって所望の値に調節されるか、または水性重合体分散液にさらなる一般の添加剤、例えば泡改質性もしくは粘度改質性の添加剤が添加される。この一般的な方法と、本発明により使用されるポリマーPの水性分散液の製造とは、モノマーPが少なくとも1種のポリマーAの存在下に重合され、ここで、種類および量に関して、形成されたポリマーPがDIN EN ISO 11357-2(2013-09)に準拠して測定して20℃以上のガラス転移温度Tgを有するように選択されることのみが異なる。ここで、本明細書の範囲のポリマーPの製造には、当業者に公知のシード方式、段階方式および勾配方式も含まれることは自明である。段階ポリマーを使用する場合、少なくとも、1つの段階のポリマーは、20℃以上のガラス転移温度Tgを有する。有利には、段階ポリマーの少なくとも50質量%、特に有利には少なくとも90質量%は、20℃以上、有利には60℃以上、とりわけ有利には90℃以上のガラス転移温度Tgを有するポリマーPを有する。しかし、本発明によれば、20℃以上、有利には60℃以上、とりわけ有利には90℃以上のガラス転移温度Tgを有する一段階ポリマーがポリマーPとして使用されることが有利である。
【0038】
モノマーPとして、とりわけ簡単に言えばラジカル重合性モノマーが考慮され、例えばエチレン、ビニル芳香族モノマー、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-クロロスチレンまたはビニルトルエン、ビニルハロゲン化物、例えば塩化ビニルまたは塩化ビニリデン、ビニルアルコールと1個~18個の炭素原子を有するモノカルボン酸からのエステル、例えばビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニル-n-ブチレート、ビニルラウレートおよびビニルステアレート、好ましくは3個~6個の炭素原子を有するα,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸、とりわけアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸およびイタコン酸と、一般的に1個~12個、好ましくは1個~8個、とりわけ1個~4個の炭素原子を有するアルカノールからのエステル、例えば特にアクリル酸メチルエステルおよびメタクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステルおよびメタクリル酸エチルエステル、アクリル酸n-ブチルエステルおよびメタクリル酸n-ブチルエステル、アクリル酸イソブチルエステルおよびメタクリル酸イソブチルエステル、アクリル酸ペンチルエステルおよびメタクリル酸ペンチルエステル、アクリル酸ヘキシルエステルおよびメタクリル酸ヘキシルエステル、アクリル酸ヘプチルエステルおよびメタクリル酸ヘプチルエステル、アクリル酸オクチルエステルおよびメタクリル酸オクチルエステル、アクリル酸ノニルエステルおよびメタクリル酸ノニルエステル、アクリル酸デシルエステルおよびメタクリル酸デシルエステル、およびアクリル酸-2-エチルヘキシルエステルおよびメタクリル酸-2-エチルヘキシルエステル、フマル酸ジメチルエステルおよびマレイン酸ジメチルエステルまたはフマル酸-ジ-n-ブチルエステルおよびマレイン酸-ジ-n-ブチルエステル、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のニトリル、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマル酸ジニトリル、マレイン酸ジニトリルおよびC4~C8-共役ジエン、例えば1,3-ブタジエンおよびイソプレンである。上述のモノマーは、一般的にポリマーPの製造に使用されるすべてのモノマーPの量(全モノマー量P)を基準として80質量%以上、好ましくは90質量%以上の割合をなす主モノマーを形成する。一般的に、これらのモノマーは、水に対して標準条件[20℃、1atm(=1.013bar(絶対圧))]で中度ないし低度の溶解度しか示さない。
【0039】
上述の条件下に高い溶解度を示すモノマーPは、少なくとも1つの酸基および/もしくはその相応のアニオン、または少なくとも1つのアミノ基、アミド基、ウレイド基もしくはN-複素環式基および/もしくはその窒素プロトン化もしくはアルキル化されたアンモニウム誘導体を含むものである。例として、α,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸およびそれらのアミド、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、さらにビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸およびその水溶性塩およびN-ビニルピロリドン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-ビニルイミダゾール、2-アミノエチルアクリレート、2-アミノエチルメタクリレート、2-アミノプロピルアクリレート、2-アミノプロピルメタクリレート、3-アミノプロピルアクリレート、3-アミノプロピルメタクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(N-tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、N-(3-N’,N’-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミドおよび2-(1-イミダゾリン-2-オニル)エチルメタクリレートが挙げられる。通常の場合、上述のモノマーPは、変性モノマーとして全モノマー量Pを基準として10質量%以下、好ましくは5質量%以下の量でしか含まれていない。
【0040】
一般的にポリマーマトリックスの被膜化の内部強度を高めるモノマーPは、通常、少なくとも1つのエポキシ基、ヒドロキシ基、N-メチルロール基またはカルボニル基、または少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する。その例は、2つのビニル基を有するモノマー、2つのビニリデン基を有するモノマーおよび2つのアルケニル基を有するモノマーである。ここで、特に有利には、二価アルコールとα,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸とのジエステルであり、そのモノカルボン酸のうち、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。そのような2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーの例は、アルキレングリコールジアクリレートおよびアルキレングリコールジメタクリレート、例えばエチレングリコールジアクリレート、1,2-プロピレングリコールジアクリレート、1,3-プロピレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレートおよびエチレングリコールジメタクリレート、1,2-プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレートおよび1,2-ジビニルベンゼン、1,3-ジビニルベンゼンまたは1,4-ジビニルベンゼン、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、メチレンビスアクリルアミド、シクロペンタジエニルアクリレート、トリアリルシアヌレートまたはトリアリルイソシアヌレートである。この関連では、メタクリル酸-C1~C8-ヒドロキシアルキルエステルおよびアクリル酸-C1~C8-ヒドロキシアルキルエステル、例えば2-ヒドロキシエチルアクリレートおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレートおよび2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシアクリレートおよび3-ヒドロキシメタクリレートまたは4-ヒドロキシブチルアクリレートおよび4-ヒドロキシブチルメタクリレートおよび化合物、例えばジアセトンアクリルアミドおよびアセチルアセトキシエチルアクリレートまたはアセチルアセトキシエチルメタクリレートが特に重要である。頻繁に、上述のモノマーは、それぞれ全モノマー量Pを基準として10質量%以下の量で使用されるが、好ましくは5質量%以下の量で使用される。
【0041】
好ましい実施形態では、ポリマーPの製造におけるモノマーPは、90質量%以上がオレフィン、ビニル芳香族モノマー、ビニルハロゲン化物、ビニルアルコールと1個~18個の炭素原子を有するモノカルボン酸からのエステル、3個~6個の炭素原子を有するα,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸と1個~12個の炭素原子を有するアルカノールからのエステル、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のニトリルおよびC4~C8-共役ジエンを含む群から選択され、10質量%以下が3個~6個の炭素原子を有するα,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸およびそれらのアミド、および少なくとも1つのアミノ基、エポキシ基、ヒドロキシ基、N-メチロール基またはカルボニル基を有するモノエチレン性不飽和化合物、および少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含む群から選択される。
【0042】
別の好ましい実施形態では、ポリマーPの製造のために、
90質量%以上99.9質量%以下のスチレンおよび/またはメチルメタクリレートと、
0質量%以上9.9質量%以下のn-ブチルアクリレートおよび/または2-エチルヘキシルアクリレートと、
0.1質量%以上10.0質量%以下のアクリル酸、メタクリル酸、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレートおよび2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、および3-ヒドロキシプロピルアクリレートおよび3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-アミノエチルアクリレートおよび2-アミノエチルメタクリレート、2-アミノプロピルアクリレートおよび2-アミノプロピルメタクリレート、および3-アミノプロピルアクリレートおよび3-アミノプロピルメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレートおよび1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,2-ジビニルベンゼン、1,3-ジビニルベンゼンおよび1,4-ジビニルベンゼン、アリルアクリレートおよび/またはアリルメタクリレートと
を使用し、ここで、これらの量は合計100質量%になる。
【0043】
別の好ましい実施形態では、ポリマーPの製造のために、
90質量%以上99.9質量%以下のスチレンおよび/またはメチルメタクリレートと、
0質量%以上9.9質量%以下のn-ブチルアクリレートおよび/または2-エチルヘキシルアクリレートと、
0.1質量%以上2.0質量%以下の1,4-ブチレングリコールジアクリレートおよび1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,2-ジビニルベンゼン、1,3-ジビニルベンゼンおよび1,4-ジビニルベンゼン、アリルアクリレートおよび/またはアリルメタクリレートと
を使用し、ここで、これらの量は合計100質量%になる。
【0044】
特に好ましい実施形態では、ポリマーPの製造のために、
90質量%以上99.7質量%以下のスチレンおよび/またはメチルメタクリレートと、
0質量%以上9.9質量%以下のn-ブチルアクリレートおよび/または2-エチルヘキシルアクリレートと、
0.1質量%以上5.0質量%以下のアクリル酸、メタクリル酸、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよび/または2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレートおよび/または2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレートおよび/または3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-アミノエチルアクリレートおよび/または2-アミノエチルメタクリレート、2-アミノプロピルアクリレートおよび/または2-アミノプロピルメタクリレート、および3-アミノプロピルアクリレートおよび/または3-アミノプロピルメタクリレートと、
0.1質量%以上2.0質量%以下の1,4-ブチレングリコールジアクリレートおよび1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,2-ジビニルベンゼン、1,3-ジビニルベンゼンおよび1,4-ジビニルベンゼン、アリルアクリレートおよび/またはアリルメタクリレートと、
0.1質量%以上3.0質量%以下のグリシジルアクリレートおよび/またはグリシジルメタクリレートと
を使用し、ここで、これらの量は合計100質量%になる。
【0045】
ポリマーPの製造のためのラジカル開始水性乳化重合は、概して、それぞれ全モノマー量Pを基準として0.1質量%~5質量%、好ましくは0.1質量%~4質量%、とりわけ0.1質量%~3質量%のラジカル重合開始剤(ラジカル開始剤)の存在下に実施する。ラジカル開始剤としては、ラジカル水性乳化重合を開始することができるあらゆるものが考慮される。ここで、ラジカル開始剤は、根本的に過酸化物でもアゾ化合物でもよい。当然、レドックス開始剤系も考慮される。過酸化物としては、根本的に無機過酸化物、例えば過酸化水素もしくはペルオキソ二硫酸塩、例えばペルオキソ二硫酸のモノアルカリ金属塩もしくはジアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、例えばそのモノナトリウム塩およびジナトリウム塩、モノカリウム塩およびジカリウム塩もしくはアンモニウム塩、または無機過酸化物、例えばアルキルヒドロペルオキシド、例えばtert-ブチルペルオキシド、p-メンチルペルオキシドもしくはクミルヒドロペルオキシド、およびジアルキルペルオキシドもしくはジアリールペルオキシド、例えばジ-tert-ブチルペルオキシドもしくはジクミルペルオキシドを使用することができる。アゾ化合物としては、実質的に2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)および2,2’-アゾビス(アミジノプロピル)ジヒドロクロリド(AIBA、Wako ChemicalsのV-50に相当)が使用される。当然、いわゆるレドックス開始剤系をラジカル開始剤として使用することもできる。レドックス開始剤系のための酸化剤としては、実質的に上述の過酸化物が考慮される。相応の還元剤としては、低酸化状態の硫黄化合物、例えばアルカリ金属亜硫酸塩、例えば亜硫酸カリウムおよび/または亜硫酸ナトリウム、アルカリ金属亜硫酸水素塩、例えば亜硫酸水素カリウムおよび/または亜硫酸水素ナトリウム、アルカリ金属メタ重亜硫酸塩、例えばメタ重亜硫酸カリウムおよび/またはメタ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸塩、例えばホルムアルデヒドスルホキシル酸カリウムおよび/またはホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、アルカリ金属塩、特にカリウム塩および/またはナトリウム塩、脂肪族スルフィン酸およびアルカリ金属硫化水素、例えば硫化水素カリウムおよび/または硫化水素ナトリウム、多価金属の塩、例えば硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(II)、リン酸鉄(II)、エンジオール、例えばジヒドロキシマレイン酸、ベンゾインおよび/またはアスコルビン酸および還元糖類、例えばソルボース、グルコース、フルクトースおよび/またはジヒドロキシアセトンを使用することができる。
【0046】
シードフリー製造法以外に、ポリマー粒度を調節するためには、ポリマーPの製造のための乳化重合をシードラテックス方法によって行うか、またはinsituで製造されたシードラテックスの存在下に行うことができる。そのための方法は当業者に公知であり、先行技術から引用することができる(例えば欧州特許第40419号明細書(EP-B40419)、欧州特許出願公開第567812号明細書(EP-A567812)、欧州特許出願公開第614922号明細書(EP-A614922)および“Encyclopedia of Polymer Science and Technology”, Vol. 5,847ページ, John Wiley & Sons Inc., New York, 1966参照)。例えば、先行技術では、半連続的な供給法において、定義された微細粒のシードポリマー分散液を水性重合媒体に装入し、次にモノマーPをシードラテックスの存在下に重合させることが推奨されている。ここで、シードポリマー粒子は「重合核」として作用し、ポリマー粒子形成とポリマー粒子成長は関連しない。乳化重合の間、根本的にさらなるシードラテックスを直接、水性重合媒体に添加することができる。それによって、ポリマー粒子の幅広い粒度分布が達成され、この幅広い粒度分布は、とりわけ固形物含有率が高いポリマー分散液の場合にしばしば望ましい(これに関しては、例えば独国特許出願公開第4213965号明細書(DE-A4213965)を参照)。定義されたシードラテックスを添加する代わりに、このシードラテックスをinsituで製造することもできる。そのためには、例えば重合に使用されるモノマーPおよびラジカル開始剤の部分量を、ポリマーAおよび場合によってさらなる分散助剤の部分量または全量と共に装入して、反応温度に加熱し、ここで、比較的微細粒のポリマーシードが生じる。続いて、同じ水性重合媒体中で本来の重合を供給法により実施する(独国特許出願公開第4213965号明細書(DE-A4213965)も参照)。
【0047】
ポリマーPの製造は、ラジカル開始水性乳化重合によって0℃~170℃の範囲の反応温度で行うことが有利であるが、ここで、70℃~120℃、とりわけ80℃~100℃の温度が特に好ましい。ラジカル水性乳化重合は、1atm(絶対圧)未満、1atm(絶対圧)または1atm(絶対圧)超の圧力で実施することができる。易揮発性モノマー、例えばエチレン、ブタジエンまたは塩化ビニルは、高圧下に重合されることが好ましい。ここで、1.2bar(ゲージ圧)、1.5bar(ゲージ圧)、2bar(ゲージ圧)、5bar(ゲージ圧)、10bar(ゲージ圧)、15bar(ゲージ圧)またはさらに高い値にすることができる。乳化重合を低圧で実施する場合、圧力を950mbar(絶対圧)、頻繁に900mbar(絶対圧)、しばしば850mbar(絶対圧)に調節する。モノマーのラジカル水性乳化重合を、1atm(=大気圧=1.013bar(絶対圧))または不活性雰囲気下に、例えば窒素もしくはアルゴン下に高圧下に実施することが有利である。
【0048】
ラジカル開始水性乳化重合において、水性重合媒体は、根本的に水溶性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、さらにアセトンなどをわずかな量(5質量%より小)で含んでもよい。しかし、ラジカル開始水性乳化重合は、そのような溶媒の非存在下に行われることが好ましい。
【0049】
本発明により使用されるポリマーPは、DIN EN ISO 11357-2(2013-09)に準拠して測定して20℃以上のガラス転移温度Tgを有する。有利には、ポリマーPのガラス転移温度は、60℃以上の範囲、とりわけ60℃以上150℃以下の範囲、特に有利には90℃以上の範囲、とりわけ90℃以上120℃以下の範囲にある。
【0050】
さらに、Foxによれば(T.G.Fox, Bull.Am.Phys.Soc.1956[Ser.II]1,123ページおよびUllmann’s Encyclopaedie der technischen Chemie,Bd.19,18ページ,4.Auflage,Verlag Chemie,Weinheim,1980に記載)、弱い程度にしか架橋されていない混合重合体のガラス転移温度は、以下の式
1/Tg=x1/Tg
1+x2/Tg
2+・・・xn/Tg
n
の良好な近似値で見積もることができ、式中、x1、x2、・・・xnは、モノマー1、2、・・・nの質量分率を意味し、Tg
1、Tg
2、・・・Tg
nは、それぞれ、モノマー1、2、・・・nの1つのみから構成されるホモ重合体のケルビン度でのガラス転移温度を意味する。たいていのエチレン性不飽和モノマーのこれらのホモ重合体のガラス転移温度は、公知であり(または自体公知の簡単な方法で実験によって求めることができ)、例えばJ.Brandrup,E.H.Immergut,Polymer Handbook,1st Ed.J.Wiley,New York 1966,2nd Ed.J.Wiley,New York 1975および3rd Ed.J.Wiley,New York 1989、およびUllmann’s Ecyclopedia of Industrial Chemistry,169ページ,Verlag Chemie,Weinheim,1992に記載されている。
【0051】
乳化重合によって得られるポリマーPの水性分散液は、通常、それぞれ水性重合体分散液を基準として10質量%以上70質量%以下、頻繁に20質量%以上65質量%以下、しばしば25質量%以上60質量%以下の固形物含有率を有する。
【0052】
ポリマーPは、準弾性光散乱法(ISO規格13321;キュムラントz平均)により測定して10nm以上1000nm以下、有利には30nm以上600nm以下、特に有利には100nm以上500nm以下の平均粒径を有する粒子の形状で存在していることが特に有利である。
【0053】
本発明によれば、ポリマーP(モノマーPの全量として計算)のポリマーAに対する質量比の値は、1以上10以下の範囲、有利には1.5以上8以下の範囲、とりわけ2以上6以下の範囲にある。
【0054】
ポリマー/繊維複合材の製造においては、100gの繊維状基材を基準として、有利には1g以上50g以下、特に有利には5g以上25g以下のポリマーP(ポリマーAおよび全量のモノマーPの合計として計算)が使用される。
【0055】
本発明による方法によれば、1000g/m2以上30000g/m2以下、とりわけ有利には1000g/m2以上20000g/m2以下、有利には1000g/m2以上10000g/m2以下の基本重量を有する、とりわけ熱変形可能なポリマー/繊維複合材が得られる。ここで、本発明による方法により得られる熱変形可能なポリマー/繊維複合材は、好ましい実施形態では平面状である一方、別の好ましい実施形態では非平面状の三次元構造を有する。
【0056】
本発明によれば、本発明による方法により得られる熱変形可能なポリマー/繊維複合材も含まれる。
【0057】
相応して、本発明によれば、本発明による熱変形可能なポリマー/繊維複合材の、ポリマー/繊維成形部材を製造するための使用も含まれ、その成形部材の形態は、使用される熱変形可能なポリマー/繊維複合材とは異なる。
【0058】
したがって、本発明によれば、本発明による熱変形可能なポリマー/繊維複合材をTg以上の温度に加熱し、このようにして得られたポリマー/繊維複合材をTg以上の温度で所望の形態のポリマー/繊維成形部材にして、次に、得られたポリマー/繊維成形部材をその形態を維持しながらTgを下回る温度に冷却することを特徴とする、ポリマー/繊維成形部材の製造のための方法も含まれる。
【0059】
本発明によれば、ポリマー/繊維複合材は、少なくともポリマーPのガラス転移温度Tgに相当する温度に加熱する。有利には、ポリマー/繊維複合材を、Tgよりも10℃以上高い温度、特に有利にはTgよりも30℃以上高い温度に加熱する。
【0060】
さらに、ポリマー/繊維成形部材の製造は、一実施形態では、加熱された圧縮成形機を用いて行われ、この圧縮成形機の接触面は、Tg以上の温度を有し、その形態は、ポリマー/繊維成形部材の凹型に相当し、この接触面は、圧縮成形機の外側で冷却される。この実施形態では、加熱工程および変形工程は、加熱された圧縮成形機内で行われる。本発明によれば、ポリマー/繊維複合材を圧縮成形機の外側でTg以上の温度に加熱し、その後、圧縮成形機内でさらに加熱せずに変形させてポリマー/繊維成形部材を得ることも当然可能である。この実施形態では、加熱工程と変形工程は別個に行われる。
【0061】
有利な実施形態では、本発明による方法は、加熱工程の前またはその後に、ただし変形工程の前に、さらに1つの方法中間工程を実施して行われ、この方法中間工程では、ポリマー/繊維複合材の1つの表面および/またはもう1つの表面上に、平面状の装飾材料を10mm以下の厚さで施与する。
【0062】
本発明により使用可能な装飾材料は、天然繊維または合成繊維からの織物、例えば不織布、織布または経編物、プラスチックシート、例えば熱可塑性ポリ塩化ビニルシート、ポリオレフィンシートまたはポリエステルシート、発泡平面状構造体、例えばポリオレフィンフォームもしくはポリウレタンフォームからの平面状構造体、発泡平面状構造体であって、それ自体、加熱されたポリマー/繊維複合材と接触しない表面上で織物、プラスチックシートもしくは別の発泡平面状構造体で被覆(積層)されている発泡平面状構造体、または木質化粧板であることが有利である。
【0063】
平面状の装飾材料は、概して10mm以下の厚さを有する。平面状の装飾材料が織物またはプラスチックシートである場合、その厚さは、概して3mm以下、頻繁に有利には2mm以下、頻繁にとりわけ有利には1mm以下である。しかし、平面状の装飾材料が発泡平面状構造体または被覆(積層)された発泡平面状構造体である場合、その厚さは、頻繁に8mm以下、しばしば5mm以下、特にしばしば3mm以下である。しかし、平面状の装飾材料が木質化粧板である場合、その厚さは、概して3mm以下、頻繁に有利には2mm以下、頻繁にとりわけ有利には1mm以下である。
【0064】
したがって、本発明によれば、上述の方法により得られるポリマー/繊維成形部材も含まれる。
【0065】
さらに、本発明によれば、熱変形可能なポリマー/繊維複合材の製造のための方法も、ポリマー/繊維成形部材の製造のための方法も、連続的または不連続的に行えることが重要である。
【0066】
本発明により得られるポリマー/繊維成形部材は、良好な熱寸法安定性を有するため、有利には、車両製造における構成部品として、例えばドアインサート、ドア装飾エレメント(Tuerdekortraeger)、ニーボルスター、グローブボックス、パーセルシェルフ、サンバイザー、センターコンソール、トランクルーム内張りまたは背もたれ内張りとして、建築物において、例えば間仕切り、仕切壁、天井板または壁面装飾部材として、および家具において、家具成形部材として、例えば座面または背もたれ面として好適であり、ここで、壁面装飾部材または家具成形部材としての使用が特に好ましい。
【0067】
本発明を以下の非限定的な実施例によって説明する。
【0068】
実施例
ポリマーAの存在下での水性ポリマーP1分散液(分散液1)の製造
撹拌器、還流冷却器および供給装置が備えられた500lのパイロット反応器に、20~25℃(室温)で窒素雰囲気下に36.5kgの脱イオン水を装入し、大気圧(1.013bar(絶対圧))で撹拌しながら95℃に加熱した。この温度に達してから10分以内に、14.0kgの7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液を撹拌しながら連続的に供給した。続いて、それぞれ同時に開始して、61.6kgのアクリル酸、3.2kgのメチルメタクリレートおよび40.5kgの脱イオン水の混合物を70分以内に、14.0kgの40質量%の亜硫酸水素ナトリウム水溶液および1.4kgの脱イオン水の混合物を同じく70分以内に、32.5kgの7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液を75分以内に一定の流量で撹拌しながら、かつ前述の温度を維持しながら反応容器に連続的に供給した。続いて、重合混合物をさらに5分撹拌し、その後、93℃に冷却した。次に、撹拌しながら10分以内に13.9kgの25質量%の苛性ソーダ液を供給してpH値を3.3に調節し、次いでさらに5分撹拌した。続いて、供給1を170分以内に供給し、ここで、まず供給1の48質量%を20分以内に、その後供給1の52質量%を150分以内にそれぞれ一定流量で連続的に添加した。供給1は、21.8kgの7質量%過硫酸ナトリウム水溶液からなるものであった。供給1の開始から5分後に、供給2を150分以内に一定流量で、前述の重合温度を維持しながら連続的に供給した。供給2は、28.4kgの脱イオン水、3.86kgの28質量%のラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液(Disponil(登録商標)FES 27;BASF SE社の製品)、2.88kgの15質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液(Disponil(登録商標)SDS 15;BASF SE社の製品)、4.54kgのグリシジルメタクリレート、1.06kgの1,4-ブタンジオールジアクリレート、57.00gのメチルメタクリレート、86.48kgのスチレンおよび2.12kgのアクリル酸から製造される均一なエマルションからなるものであった。供給1を添加し終わってから、さらに10分撹拌し続けた。続いて、108gの消泡剤(TEGO(登録商標)Foamex 822;Evonik Resource Efficiency GmbH社の製品)を添加した。次に、重合混合物を90℃に冷却して、供給3および4を同時に開始して一定流量で30分以内に連続的に添加した。供給3は、650gの10質量%のtert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液からなるものであり、供給4は、820gの13.1質量%のアセトン重亜硫酸塩水溶液(モル比1:1のアセトンと亜硫酸水素ナトリウムからの付加生成物)からなるものであった。次に、得られた重合混合物を室温に冷却して、125μmのフィルターでろ過した。得られた水性重合体分散液は、53.5質量%の固形物含有率を示した。数平均粒度を測定したところ、347nmであり、ガラス転移温度を測定したところ、103℃であった。
【0069】
固形物含有率は、概してMettler Toledo社の湿分測定器を用いて、0.5g~1gの得られた重合体分散液または重合体溶液を140℃で恒量になるまで乾燥することによって測定した。
【0070】
ガラス転移温度は、概してTA Instruments社の示差熱量計Q2000を用いて測定した。昇温速度は、1分あたり10Kであった。
【0071】
分散粒子の数平均粒度は、概して23℃でMalvern Instruments社(イギリス)のオートサイザーIICを用いて0.005質量%~0.01質量%の水性分散液について動的光散乱法により求めた。測定された自己相関関数(ISO規格13321)のキュムラント解析の平均直径(キュムラントz平均)が示される。
【0072】
pH値は、概してSchott社のpH電極を用いて室温で試料を測定することによって求めた。
【0073】
ポリマーA水溶液(比較溶液)の製造
撹拌器、還流冷却器および供給装置が備えられた200lのパイロット反応器に、室温で窒素雰囲気下に36.5kgの脱イオン水を装入して、大気圧で撹拌しながら95℃に加熱した。この温度に達してから10分以内に、14.0kgの7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液を撹拌しながら連続的に供給した。続いて、同時に開始して、61.6kgのアクリル酸、3.2kgのメチルメタクリレートおよび40.5kgの脱イオン水の混合物を70分以内に、14.0kgの40質量%の亜硫酸水素ナトリウム水溶液および1.4kgの脱イオン水の混合物を同じく70分以内に、32.5kgの7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液を75分以内に一定流量で撹拌しながら、かつ前述の重合温度を維持しながら反応容器に連続的に供給した。続いて、重合混合物をさらに5分撹拌して、室温に冷却した。得られたポリマー溶液は、pH値が1.3であり、固形物含有率が36.6質量%であった。粘度を測定したところ、20mPasであった。得られたポリカルボン酸の数平均分子量Mnは、2560g/molであり、質量平均分子量Mwは、6150g/molであった。
【0074】
粘度は、ブルックフィールド法(ISO 2555、1989)に従って23℃で測定した。
【0075】
分子量測定は、2つの直列に接続されたTosoh社のTSKgel G 3000 PWXLカラムを使用して、35℃の温度、溶離剤(0.01mol/lのpH値7.4のリン酸塩緩衝液および0.01mol/lのNaN3を含む脱イオン水)、1分あたり0.5mlの流速、100μlの注入量、1mlあたり1mg~2mgの注入溶液の濃度およびAgilent Technologies GmbHのDRI検出器で行った。
【0076】
ポリマーAの非存在下での水性ポリマーP分散液(比較分散液)の製造
撹拌器、還流冷却器および供給装置が備えられた500lのパイロット反応器に、室温で窒素雰囲気下に70.0kgの脱イオン水および1.21kgの水性ポリスチレンシードラテックス(固形物含有率33質量%、平均粒径30nm)からなる混合物を装入し、大気圧で撹拌しながら93℃に加熱した。続いて、5質量%の供給1を装入物に供給した。5分後、同時に開始して、供給1の残分および供給2の全量を一定量で連続的に供給し、ここで、供給1の残分は195分以内に供給し、供給2の全量は180分以内に供給した。供給1は、21.6kgの7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液からなるものであった。供給2は、65.9kgの脱イオン水、4.00kgの28質量%のラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液、3.20kgの15質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液、4.80kgのグリシジルメタクリレート、1.12kgの1,4-ブタジオールジアクリレート、60.32kgのメチルメタクリレート、91.52kgのスチレンおよび2.24kgのアクリル酸から製造される均一なエマルションからなるものであった。供給1を添加し終わってから、さらに15分撹拌し続けた。続いて、110gの消泡剤TEGO(登録商標)Foamex 822を添加した。次に、得られた水性重合体分散液を90℃に冷却して、供給3および4を同時に開始して30分以内に一定流量で連続的に添加した。供給3は、800gの10質量%のtert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液からなるものであり、供給4は、860gの13.1質量%のアセトン重亜硫酸塩水溶液からなるものであった。次に、得られた水性重合体分散液を室温に冷却して、125μmのフィルターでろ過した。得られた水性重合体分酸液は、固形物含有率が50質量%であった。数平均粒度を測定したところ、353nmであり、ガラス転移温度を測定したところ、107℃であった。
【0077】
ポリマーAの存在下での水性ポリマーP2分散液(分散液2)の製造
分散液2の製造は、分散液1の製造と全く同じに行ったが、供給2において、グリシジルメタクリレートの代わりに4.54kgのグリシジルアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレートの代わりに1.06kgのアリルメタクリレート、アクリル酸の代わりに2.12kgの2-ヒドロキシエチルアクリレートを使用したことが異なる。
【0078】
得られた水性重合体分散液は、固形物含有率が52.7質量%であった。数平均粒度を測定したところ、321nmであり、ガラス転移温度を測定したところ、104℃であった。
【0079】
適用技術試験
試験は、Antriz社の12インチリファイナおよびそれと連結したブローラインで実施した。ここで、リファイナは、160℃~170℃および5bar(ゲージ圧)~6bar(ゲージ圧)の内圧で稼働させた。2つの磨砕板の間隔は0.3mmであり、ここで、磨砕板の1つは、1分あたり3000回転で稼働させた。フランジによってリファイナと連結されたブローライン(鋼管)は、内径が3cmであり、管の長さが30mであった。リファイナ出口/ブローライン入口の間隔が50cmでブローライン壁にはめ込まれた0.2mmのノズルを通して、水性バインダーを2bar(ゲージ圧)でブローラインに注入した。ブローラインの端部にはサイクロン型分離装置があり、このサイクロン型分離装置によって被覆された木質繊維は、さらに乾燥され、約80℃の温度に冷却されて、蓋のない容器に分離した。
【0080】
この試験の場合、160℃~170℃の熱水/水蒸気を使用して5bar(ゲージ圧)~6bar(ゲージ圧)で、コッヘルで前処理されたトウヒチップを使用し、ここで、木材チップのリファイナへの(または木質繊維のブローラインへの)質量流量は、1時間あたり30kgに調節した。
【0081】
バインダーとして、分散液1、分散液2、比較溶液および比較分散液を使用した。ここで、バインダーを軸偏心ネジポンプを用いて2bar(ゲージ圧)の圧力で0.2mmのノズルを通してブローラインに注入し、ここで、質量流量は、それぞれ1時間あたり4.8kgのバインダー(固形物として計算)に調整した。いずれのバインダーの場合も、試験を連続定常状態で2時間にわたって行い、ここで、この時間の間、それぞれのバインダーが噴霧された木質繊維を蓋のない容器で回収した。
【0082】
連続定常稼働で約1時間後に、サイクロン型分離装置から蓋のない容器に落下する木質繊維から、黒い紙を挿入して木質繊維を取り出した。ここで、繊維に結合していないバインダーに関して最初の視覚的評価を肉眼で行い、繊維に結合していないバインダーは、白い細塵として黒い紙の上で識別できた。さらに、得られた繊維を60倍拡大にて顕微鏡評価を行った。ここで異なるバインダーで得られた結果を以下の第1表にまとめる。
【0083】
【0084】
機械的特性の試験
前述の試験実施に従ってブローラインから得られた繊維を用いて、厚さ2mm、51cm×51cmの、0.95g/cm3の密度を有する繊維板を製造した。そのために、494gの得られた繊維を、内寸が51cm×51cm×30cm(L/W/H)の水平に置かれた木枠に均一に散布した。その後、木枠内に存在する繊維ウェブに51cm×51cmの木板を水平に置き、ラム(Stempel)を中心においてこの繊維ウェブを5cmの高さになるまで予備圧縮した。続いて、このようにして得られた繊維ケーキを木枠から取り出して、2つの正方形の面を剥離紙で覆い、2つの、厚さ10mmの水平分離板の間で200℃にて1ミリメートルあたり10秒の圧縮速度の圧力で厚さ2mmになるまで圧縮し、ここで、いずれの場合も繊維ケーキの下面を下側の水平分離板に置いた。その後、得られた繊維板を圧縮機の外側で室温に冷却した。
【0085】
このようにして得られた繊維板を、使用されたバインダーに応じてFPD1(分散液D1を用いた繊維板)、FPD2(分散液D2を用いた繊維板)、FPVL(比較溶液を用いた繊維板)およびFPVD(比較分散液を用いた繊維板)と呼ぶ。
【0086】
得られた繊維板を用いて以下の試験を実施した:沈降挙動の視覚的評価および弾性率の測定
ここで、沈降挙動に関する試験は、それぞれの板の上面および下面を視覚的に評価して行った。沈降がない場合(バインダーの繊維への良好な付着挙動と同義である)、得られた板の上面および下面の外観は同じであった。バインダーの繊維への付着挙動が不充分である場合、ブローラインから得られた繊維を上述の木箱に散布する際に、繊維ケーキの下面に細塵が多く沈降した。圧縮工程の後、得られた板は、上面では粗い繊維構造と繊維同士の不充分な接着性を示す一方、下面では、繊維はバインダー中に埋め込まれており、ここで、平滑な表面が形成された。ここでそれぞれの板を用いて得られた結果を第2表にまとめる。
【0087】
弾性率は、ISO規格14125W4に相応して測定した。ここで種々のバインダーを使用して製造された板を用いて得られた結果(それぞれ3回の測定の平均値)を同じく第2表にまとめる。
【0088】
【0089】
試験片の変形
前述の繊維板FPD1、FPD2、FPVLおよびFPVDから、室温で10cm×15cmの試験片をそれぞれ3つ切り出した。次に、これらの試験片を1分間、200℃に加熱した加熱キャビネットに置いた。その後、加熱された試験片を即座に、1つの側に12.5mmの半径の半円筒形態のふくらみがあり、もう1つの側に、14.5mmの半径の半円筒形態のくぼみがある冷間金型に挿入し、試験片の型付けを試みた。2分後、試験片を室温に冷却したところ、型から取り出すことができた。続いて、得られた試験片を視覚的に評価した。ここで、繊維板FPD1およびFPD2から得られた試験片は、金型の半円形に容易に適合でき、外側および内側の表面に亀裂がない半円形の試験片が得られることが分かった。すでに平面プレス時に粗い繊維構造および不充分な接着性を示した繊維板FPVDから得られた試験片も、半円形の冷間金型の表面に適合できたが、冷却後に得られた半円形の試験片は、外側表面上に明らかな亀裂形成が見られた。繊維板FPVLから得られた試験片は、硬く、加工しにくいものであった。相応の試験片をプレスして型付けする試験では、これらの試験片はいずれも半円の半径の頂点で破断した。